説明

布搬送装置

【課題】被縫製物のズレを回避しつつ円滑な縫製及び搬送を行う。
【解決手段】被縫製物Cを保持する保持機構310と、保持機構を介して被縫製物を搬送する移動機構330とを備え、複数のボタン穴かがり縫いを搬送方向に沿って行うために、ボタン穴かがりミシン200に対して被縫製物を搬送する布搬送装置300において、保持機構は、被縫製物を載置する載置板311と、載置板のミシン側端縁部からミシン側に延出されると共に上側に折り返してなる支持腕320と、支持腕によって支持されると共に載置板上の被縫製物を上方から押圧保持する複数の保持部材314とを備え、載置板のミシン側端縁部に対向する対向面352を有する被縫製物の位置決め部材351と、当該位置決め部材を移動機構による支持腕の移動範囲から退避移動させる退避手段354とを有する位置決め機構350を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボタン穴かがりミシンに対して被縫製物を搬送する布搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインデキサーと呼ばれる布搬送装置は、例えば身頃生地の端縁部に沿ってボタン穴かがり縫いを複数縫製するために、固定されたミシンに対して、生地の端縁部に沿ってボタン穴の間隔ごとに身頃生地を搬送するものである。
かかる布搬送装置は、生地の搬送方向の一端部を上下にクランプする前端クランプ機構と他端部をクランプする後端クランプ機構とを備え、各クランプ機構でクランプすることで被縫製物を搬送方向に張った状態で保持し、各クランプ機構を搬送方向に移動させる駆動手段により身頃生地の端縁部に沿って一カ所ずつボタン穴かがり縫いを行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−105975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の布搬送装置は、被縫製物の搬送方向の両端部しか保持しないため、被縫製物の伸縮などにより縫製時や搬送時に搬送方向についてズレを生じやすく、正確な位置に縫製を施すことができないという問題があった。
かかる問題を解決するには、被縫製物を上下に挟むクランプ機構を搬送方向の随所に設ければ良いが、そのようにするとまた新たな別の問題が生じるためにその実施が困難であった。
図10は身頃生地を被縫製物の一例として新たに生じる問題を説明するための説明図であり、矢印Fは縫製時の生地の搬送方向である。上記従来例のクランプ部材は、基端部を支持し、クランプを行う先端部を上下動可能とするいわゆる片持ち梁構造であることから、少なくともその基端部は身頃生地の外側に位置していなければクランプ部材の支持を行うことができない構造となっている。
このため、従来技術では図10に示すC1,C1の位置にクランプ部材を配置して、クランプ部材の基端部を生地の外側に配置している。しかし、かかる構造では、上述のように、生地を搬送方向の両端部でしか保持することができないので、クランプ部材を他の位置C2,C3のように配置することで、搬送方向における随所で生地を保持することが可能となる。しかし、位置C2のように身頃生地における縫製を行う端縁部とは逆側の端縁部側でクランプ部材の基端部を支持する配置すると、少なくともクランプ部材を身頃生地の横幅よりも遠方から支持しなければならなくなり、クランプ部材が大型化し、十分な保持圧を得られなくなるという問題がある。
一方、位置C3にように、身頃生地における縫製を行う端縁部側でクランプ部材の基端部を支持する配置すると、クランプ部材を保持位置の近くで支持することができ、クランプ部材の大型化は回避でき、保持圧も容易に得ることが可能となる。
しかし、身頃生地における縫製を行う端縁部側には、生地の位置決めのために端縁部に当てるガイドGが設けられていることが一般的であり、位置C3にクランプ部材を設けて生地の搬送を行うとクランプ部材とガイドGとの干渉が避けられず、搬送を行うことができないという問題があった。
【0005】
本発明は、被縫製物のズレを回避しつつ円滑な縫製及び搬送を行うことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、被縫製物を保持する保持機構と、前記保持機構を介して所定の搬送方向に被縫製物を移動させる移動機構とを備え、複数のボタン穴かがり縫いを前記搬送方向に沿って行うために、ボタン穴かがりミシンに対して前記被縫製物を前記搬送方向に沿って搬送する布搬送装置において、前記保持機構は、被縫製物を載置する載置板と、前記載置板のミシン側端縁部からミシン側に延出されると共に上側に折り返してなる支持腕と、前記支持腕によって支持されると共に前記載置板上の被縫製物を上方から押圧保持する複数の保持部材とを備え、前記載置板のミシン側端縁部に対向する対向面を有する被縫製物の位置決め部材と、当該位置決め部材を前記移動機構による支持腕の移動範囲から退避移動させる退避手段とを有する位置決め機構を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記支持腕を複数設け、前記保持機構は、前記搬送方向に沿って配設されると共に前記各支持腕の上部により支持された支持桿部材を備え、前記各支持腕は、前記支持桿部材を介して前記各保持部材を支持していることを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記位置決め部材は、前記被縫製物の位置決めを行うために、前記対向面が前記支持腕のミシン側端縁部より反ミシン側に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1、3記載の発明は、被縫製物を押圧保持する保持部材が、被縫製物を載置する載置板のミシン側端縁部側を通って被縫製物の下側から上側に回り込む支持腕により支持されているので(例えば、図10に示す位置C3と同じように)、位置C1のよう被縫製物の両端しか支持できないという問題も解消でき、位置C2のように被縫製物のミシンとは逆側の端縁部を通る場合と異なり、保持部材は被縫製物の端縁部に近い位置で支持されることになり、保持部材の小型化が可能となると共に十分な保持圧で被縫製物の保持を行うことが可能となる。
また、支持腕が被縫製物のミシン側端縁部側を回り込むように配置されているので、保持部材を搬送方向について任意に配置することができ、縫製時や搬送時に被縫製物の位置ズレを生じることなく保持することができ、より正確な位置にボタン穴かがり縫いを行うことが可能となる。
また、支持腕は被縫製物のミシン側端縁部側を回り込むように配置されているが、当該被縫製物の端縁部の位置決めを行う位置決め部材が、退避手段により支持腕の移動範囲から退避可能となっているので、支持腕と位置決め部材との干渉を回避することができ、円滑に被縫製物を搬送することが可能となる。
【0009】
請求項2記載の発明は、支持腕が搬送方向に沿って配設された支持桿部材を介して各保持部材を支持しているので、支持腕の個体数に限らずより多くの保持部材を保持することが可能となる。また、搬送方向に沿った支持桿部材を介して保持部材を支持するので、搬送方向に沿った随所で被縫製物を保持することができ、縫製時や搬送時の被縫製物の位置ズレをより効果的に抑制することができ、より正確な位置にボタン穴かがり縫いを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】発明の実施形態である縫製装置の斜視図である。
【図2】図1とは異なる方向から見た縫製装置の斜視図である。
【図3】布搬送装置の斜視図である。
【図4】搬送方向上流側から見た布搬送装置の側面図である。
【図5】縫製動作におけるボタン穴かがりミシンと保持機構との位置関係を平面視で示す説明図であり、図5(A)はセット位置を示し、図5(B)はボビン交換位置を示し、図5(C)はメンテナンス位置を示している。
【図6】保持機構がボビン交換位置にある時の縫製装置の斜視図である。
【図7】保持機構がメンテナンス位置にある時の縫製装置の斜視図である。
【図8】位置決め機構の他の例を示す斜視図であって被縫製物の位置決めを行う場合の動作説明図である。
【図9】位置決め機構の他の例を示す斜視図であって位置決め部材が退避した場合の動作説明図である。
【図10】被縫製物を保持する場合に生じる問題を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(縫製装置の概要)
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本実施の形態に係る縫製装置1000の全体を示す斜視図である。
縫製装置1000は、図1に示すように、ボタン穴かがり縫いの作業台となるテーブル100と、テーブル100上に設置されたボタン穴かがりミシン200と、テーブル100上において被縫製物の一例である生地Cをボタン穴かがりミシン200に搬送する布搬送装置300とを主に備えている。
以下の説明では、水平であって生地Cの搬送方向をY軸方向、水平であってY軸方向に直交する方向をX軸方向、鉛直方向をZ軸方向として説明することとする。
【0012】
(テーブル)
テーブル100は、ボタン穴かがりミシン200が設置されるミシン設置台110と、布搬送装置300により搬送される生地Cが載置される布載置台120とを備え、布載置台120は、ミシン設置台110に設置されたボタン穴かがりミシン200のミシンベッド部220の上面とほぼ同じ高さか、或いはミシンベッド部220よりも若干高く設定されている。また、ミシン設置台110と布載置台120とは、いずれもY軸方向に沿った長方形状に形成されている。
また、ミシン設置台110と布載置台120との間には隙間が形成され、布搬送装置300の主要な構成はミシン設置台110と布載置台120との隙間に配設されている。
【0013】
(ボタン穴かがりミシン)
ボタン穴かがりミシン200は、縫い針を上下動させると共に当該上下動に同期してX軸方向に沿って任意の移動量で針振りを行う針上下動機構と、生地Cを上方から下方に押圧保持する布押さえと、布押さえを介して生地CをY軸方向に沿って任意の移動量で送る布移動機構と、ボタン穴を形成するメス機構と、縫い針に通された上糸を下糸に絡めて結節を形成する釜機構と、これらを格納するミシンフレーム210とを備える一般的なボタン穴かがりミシンである。
上記ボタン穴かがりミシン200は、縫い針の上下動と釜の回転駆動についてはミシンモータを駆動源とし、針振りについては針振りモータを駆動源とし、布押さえの昇降は押さえ上げモータを駆動源とし、メスの上下動はメス駆動ソレノイドを駆動源とし、布移動はY軸送りモータを駆動源とする。
これらの構成により、ボタン穴かがりミシン200では、押さえ上げモータの駆動により布押さえを上方の待機位置と生地Cを下降押圧する保持位置とに切り換えることができる。
また、メス駆動ソレノイドの駆動によりボタン穴の形成を行い、針振りモータとY軸送りモータの協働により被縫製物に対して任意の針落ち位置で針落ちを行い、ボタン穴かがり縫い目の形成を行う。なお、個々のボタン穴形成位置への搬送は布搬送装置300により行われる。そして、ボタン穴形成時にY軸送りモータが駆動すると、それに同期して、後述する布搬送装置300の搬送モータ335が駆動するので、ボタン穴形成時に保持部材314は布を保持している。
【0014】
ミシンフレーム210は、Y軸方向に沿ってミシン設置台110上に設置されたミシンベッド部220と、ミシンベッド部220の一端部から上下に立設された縦胴部230と、縦胴部230の上端部からミシンベッド部220と同じ方向に延出されたミシンアーム部240とから構成されており、ミシンベッド部220は、さらに、底板221と底板221に上方から嵌合する本端部222とから構成されている。ミシンベッド部220の本体部222には、ミシンベッド部220内の主要構成のほとんどが格納保持されており、底板221に対してY軸方向に沿った回動軸を有するヒンジ部223で連結されている。そして、底板221に対して当該ヒンジ部223により本体部222を図示X軸方向に向けて、回動させてミシン200のほぼ全体を倒すことを可能としている。このように、ミシン全体を底板221に対して回倒可能とすることにより、本体部222の内部を露出させることができ、メンテナンス作業などを行うことを可能としている。
また、ミシンベッド部220の釜が配置されている端部側の端面は、広く開口した開口部224が形成されており、下糸補充のためのボビン交換をミシンの回倒を行うことなく開口部224から行うことを可能としている。
【0015】
その他のボタン穴かがりミシン200の各構成はいずれも周知の構造なので、より具体的な説明は省略することとする。
【0016】
(布搬送装置:全体)
図3は布搬送装置300の拡大斜視図、図4は布搬送方向から見た側面図である。
布搬送装置300は、被縫製物を保持する保持機構310と、保持機構310を介して所定の搬送方向に生地Cを移動させる移動機構330と、保持機構310に保持される生地Cのミシン側の端縁部の位置決めを行う位置決め機構350とを備えている。
【0017】
(布搬送装置:保持機構)
保持機構310は、生地Cを載置する載置板311と、載置板311のミシン側端縁部311aからミシン側に延出されると共に上方に折り返してなる二本の支持腕320と、各支持腕320の上部においてガイドアーム312により昇降可能に支持された支持桿部材313と、載置板311上の生地Cを上方から押圧保持する複数の保持部材314とを備えている。
【0018】
上記載置板311は、水平に配置された矩形の平板であって、その上面には生地Cが載置される(図4)。また、載置板311は、その長手方向が搬送方向であるY軸方向と平行に配設されている。そして、ミシン側の端縁部311aはミシンの針落ち位置の近傍まで延出され、ミシンとは逆側の端縁部311bは下方に折曲され、搬送方向両端部において移動機構330の二つの支え板333に保持されている。
【0019】
各支持腕320は、載置板311の下面又は上面に固着され且つX軸方向に沿うように延出された固着部321と、固着部321のミシン側に延出された端部から上方に湾曲した湾曲部322と、湾曲部322に連なると共に載置板311の上方で固着部321と平行に延出された折り返し部323と、折り返し部323のミシンと逆側の端部から上方に折曲されてなる立設部324とを備え、これらが一体を成している。
固着部321と折り返し部323との間には隙間が形成されており、当該隙間の内側に載置板311が配設されている。そして、載置板311と折り返し部323との隙間には生地Cの端縁部が介挿され、当該端縁部に対して端縁部に沿った複数箇所でボタン穴かがり縫いが行われる。
なお、各支持腕320のミシン側への延出端部となる湾曲部322は、ボタン穴かがりミシン200の針落ち位置を超える位置まで延出されている。しかしながら、折り返し部323の上面の高さは、縫い針の上停止位置における下端部、布押さえが生地を解放している待機位置における底面高さ、メス機構のメス停止時における下端部のいずれよりも低くなるように設定されている。従って、ボタン穴かがりミシン200の停止状態(ミシン上停止状態且つ布解放状態且つメス機構停止状態)にあっては、ミシンの縫い針、布押さえ、メスのいずれにも干渉を生じないようにこれらの位置を各支持腕320が通過することが可能となっている。なお、縫い針の停止位置は、通常の上停止位置ではなく上死点位置にしてもよい。
【0020】
各支持腕320の立設部324の上端部には、逆さL字状のガイドアーム312が取り付けられており、各ガイドアーム312は、支持桿部材313の、長手方向の底面側の両端部にそれぞれネジ318により固定されている。
支持桿部材313は、長手方向が布搬送方向(Y軸方向)に対して平行になるように配設されており、平滑な底面とミシンに対向する対向面とが形成されている。支持桿部材313の底面には前述したガイドアーム312が連結され、対向面には長手方向に沿って複数(ここでは5つ)の保持部材314が均一の間隔で取り付けられている。なお、支持桿部材313の底面及び対向面にはその長手方向に沿って取り付け溝313aが形成されている。また、当該取り付け溝313a内には、不図示のナットが配置されている。そして、いずれの位置に対してもガイドアーム312又は保持部材314を取り付けることが可能となっている。従って、ガイドアーム312の取り付け位置や各保持部材314の取り付け位置を長手方向に沿って調節可能となっている。また、保持部材314はその数を増減することも可能である。
【0021】
各保時部材314は、平板状であって垂直方向に沿った立設部と当該立設部の下端部でミシン側に向かって折曲された水平部とからなる略L字状に形成されている。そして、立設部の上端部で支持桿部材313にネジ止め固定され、載置板311のミシン側端縁部近傍まで延出された水平部の先端下部には、生地Cを押圧保持するための弾性体315が固着されている。
【0022】
また、前述したガイドアーム312は、上下方向に沿った長穴が形成されており、当該長穴に挿通される二つの支持ピン316によって支持腕320の立設部324に対して昇降可能に支持されている。また、支持腕320の立設部324の上端部には昇降用のエアシリンダ317が固定装備されており、昇降動作を行うエアシリンダ317のプランジャがガイドアーム312の下面に固定連結されている。
かかる構成により、各支持腕320のエアシリンダ317のプランジャを突出状態とすると、支持桿部材313を介して全ての保持部材314を上昇させることができ、生地Cを載置板311上から解放することができる。また、各支持腕320のエアシリンダ317のプランジャを後退状態とすると、支持桿部材313を介して全ての保持部材314を下降させて弾性体315を載置板311上の生地Cに押圧させることができ、生地Cを載置板311上に保持することができる。
【0023】
(布搬送装置:移動機構)
移動機構330は、図2及び図4に示すように、ミシン設置台110と布載置台120との間の位置でY軸方向に沿った状態で装置フレーム101に固定支持されたスライドレール331と、スライドレール331に沿って滑動可能な二つのスライドブロック332(一方は図示略)と、各スライドブロック332の上面に固定装備された支え板333と、各支え板333に保持されてY軸方向に沿って配設されたラック体334と、装置フレーム101に固定支持された駆動源となるステッピングモータである搬送モータ335と、搬送モータ335の出力軸に装備されると共にラック体334のラック歯に噛合するピニオン歯車336とを備えている。尚、装置フレーム101は、ミシン設置台110と布載置台120を支持している。
【0024】
上記スライドレール331は、Y軸方向について保持機構310に予定された全可動範囲を網羅するようにテーブル100のほぼ全長に渡って形成されている。
各支え板333は、いわゆるL字金具であり、その水平部分でスライドブロック332に対して止めネジにより固定連結されると共にスライドブロック332に隣接する位置でラック体334を保持している。また、各支え板333の垂直部分はその上端部で載置板311の長手方向のそれぞれの端部を支持している。載置板311は、その長手方向両端部をそれぞれの支え板333で支持されることにより、載置面の水平状態を維持している。
【0025】
ラック体334は、Y軸方向に長尺であって、ミシン200に対向する面とは逆側の面にその全長に渡ってラック歯が形成されている。一方、前述した搬送モータ335及びピニオン歯車336は、Y軸方向についてミシン200の縫い針の位置の近傍に配置されている。ラック体334は、各支え板333により保持機構310に連結され、搬送時には保持機構310と共にY軸方向に沿って移動を行うこととなる。そして、ラック体334の一端部から他端部までがピニオン歯車336に噛合可能な範囲が保持機構310の移動範囲となる。
ここで、Y軸方向に平行であって図2における左方を搬送方向上流端部とし、右方を搬送方向下流端部とする(以下、単に「上流端部」、「下流端部」というものとする)。
保持機構310の移動範囲は、保持機構310の下流端部が、ボタン穴かがりミシン200のミシンフレーム210の上流端部よりも搬送方向上流側に位置する状態から、保持機構310の上流端部がミシンフレーム210の上流端部(釜側端部)と同位置か或いはより搬送方向下流側に位置する状態までが要求される(その意義については後述する)。従って、ラック体334の上流端部は、保持機構310の上流端部とほぼ位置を揃えると共に、ラック体334の下流端部は、保持機構310の下流端部よりも幾分、搬送方向下流側に長く延出されている。これにより、保持機構310に要求される上述の移動範囲を実現できる。
【0026】
(位置決め機構)
位置決め機構350は、ボタン穴かがりミシン200よりも搬送方向上流側であって後述する保持機構310のセット位置(図5(A)の位置)に対応する位置、即ち、位置決め部材351は保持機構310の二つの支持腕320の間となる位置に配置されている。そして、位置決め機構350は、載置板311のミシン側端縁部に対向する対向面352を有する生地Cの端縁部の位置決め部材351と、搬送方向上流側と下流側のそれぞれの端部において位置決め部材351を昇降可能に支持する二つの支持板353と、各支持板353に設けられると共に、位置決め部材351を移動機構330による支持腕320の移動範囲から退避移動させる退避手段としてのエアシリンダ354と、ミシンに対する接離方向(X軸方向)について位置決め部材351の位置を調整する調整手段としての調整板355とを備えている。
なお、位置決め部材351の対向面352は、被縫製物の位置決めを行うために、支持腕320の湾曲部322端(ミシン側端縁部)より反ミシン側に配置されいる。そして、エアシリンダ354により対向面352が上昇して位置決め位置に移動すると、図4に示すように、搬送方向に沿って、位置決め部材351の対向面352は、支持腕320と重なるように配置される。
【0027】
位置決め部材351は、生地Cの端縁部を沿わせることで正しい位置に一列にボタン穴かがり縫いが順次行われるようにするために、搬送方向についてある程度の長さを有している(例えば、保持機構330の全長の半分程度)。そして、位置決め部材351は、載置板311の下側に位置し、水平に形成された水平部と、水平部から立設され、載置板311のミシン側端縁部に対向するY−Z平面に沿った立設部と、水平部から下方に垂下された垂下部とが、折曲により一体的に形成されており、立設部の対向面352に生地Cの端縁部を突き当てることにより生地のX軸方向(ミシンに対する接離方向)についての位置決めが行われるようになっている。
【0028】
また、位置決め部材351の垂下部には、搬送方向の両端部において、上下方向に沿った長穴356が貫通形成されており、当該長穴356を介して二つの支持板353により支持されている。
各支持板353は、その底部が調整板355の上面に固定され、立設部において、位置決め部材351の長穴356に挿通される二つの支持ピン357を介して位置決め部材351を支持している。つまり、位置決め部材351は、各支持ピン357に対して長穴356が許容する範囲で昇降が可能となっている。なお、位置決め部材351の昇降範囲は、その上限が位置決め部材351の上端部が載置板311の上面よりも上方に突出する位置であり、下限が位置決め部材351の上端部が支持腕320の固着部321の下面よりも下方となる位置である。
【0029】
また、各支持板353の立設部の上端部には、前述したエアシリンダ354が装備されている。このエアシリンダ354は、上下方向に進退可能なプランジャを備えており、プランジャの先端部は位置決め部材351の水平部の下面側に連結されている。そして、エアシリンダ354の駆動により、支持板353による上限位置と下限位置とに位置決め部材351を切り換えることが可能となっている。これにより、位置決め部材351は、上限位置において、載置板311に載置された生地Cの端部を突き当てて位置決めすることができ、下限位置において、搬送方向に沿って移動する支持腕320との干渉を回避することができる。
【0030】
調整板355は、その搬送方向両端部において、X軸方向に沿った長穴358を介してテーブル100のミシン設置台110にネジ止めされている。つまり、ネジを弛めることで、調整板355はX軸方向に沿って位置調整が可能となり、各支持板353を介して位置決め部材351の生地Cの端縁部の位置決め位置をX軸方向について調整することを可能としている。
【0031】
(縫製装置の動作説明)
縫製装置1000は、ボタン穴かがりミシン200及び布搬送装置300の動作制御を統括的に行う図示しない制御手段を備えており、後述する縫製装置1000の各種の動作は、特に断りがない限りいずれも制御手段の制御の下で行われるものとする。また、制御手段には、縫製装置1000の動作を行うための各種の設定を入力する入力手段と各種の動作の実行を指示入力する指示手段(例えば操作ペダル等)とが併設されている。さらに、生地Cに対して複数のボタン穴かがり縫いが実行される間隔、ボタン穴かがり縫いの種別、ボタン穴かがりの縫い目の各部の寸法を決定する各種の動作量の設定等は、前述した設定手段による設定作業によって作り出される縫製パターンデータに従って決定される。或いは、外部で作成された縫製パターンデータを用いることで決定される。
【0032】
図5は縫製動作におけるボタン穴かがりミシン200と保持機構310との位置関係を平面視で示す説明図である。
縫製動作の開始が指示手段により入力されると、縫製対象となる生地Cをセットするために、搬送モータ335の駆動により、保持機構310はセット位置に移動される。保持機構310のセット位置は、図5(A)に示すように、保持機構310の下流側の支持腕320がミシン200の布押さえ201のすぐ下流側で隣接する位置を示す。
なお、この時点で布押さえ201は布解放状態(上方に退避している状態)にあるので、支持腕320が布押さえ201の下側を通過して、保持機構310全体をより上流側へ移動させることは可能であり、そのように制御しても良い。但し、本実施形態たる縫製装置1000では、図示のセット位置で、生地Cをセットするために保持機構310は十分に上流側まで移動しているので、布押さえ201の下側を通過してまで上流側への移動は行われないものとする。
また、保持機構310のセット位置への移動時には位置決め機構350の位置決め部材351は下限位置で待機するようにエアシリンダ354が制御されており(図4の二点鎖線の状態)、保持機構310がセット位置に到達すると、エアシリンダ354の駆動により上限位置へと上昇する(図4の実線の状態)。
これにより、オペレータは、位置決め部材351の対向面352に生地Cのミシン側端縁部が沿うように載置板311の上面に載置することができる。
そして、指示手段により、生地Cのセットの完了が入力されると、エアシリンダ317が作動して全ての保持部材314を下降させる。これにより各保持部材314の弾性体が生地Cを押圧保持する。そして、位置決め機構350のエアシリンダ354が作動して位置決め部材351を下限位置に下降させ(図4の二点鎖線の状態)、ミシン200の布押さえ201が下降して布保持が行われると共に、ボタン穴の形成、ボタン穴かがり縫い等が実行される。そして、一つのボタン穴についてボタン穴かがり縫いが完了するたびに布押さえ201が解放され、移動機構330の搬送モータ335が駆動されて、次のボタン穴かがり縫い予定位置に搬送が行われる。
【0033】
次に、ボタン穴かがりミシン200のボビン交換の実行について説明する。かかるボビン交換の実行の際には、オペレータにより指示手段からボビン交換の実行指示が入力されると、位置決め機構350の位置決め部材351が上限位置にあるときにはエアシリンダ354の駆動により下限位置に切り換えて、移動機構330の搬送モータ335の駆動により、保持機構310はボビン交換位置(第二の停止位置)に移動される。保持機構310のボビン交換位置は、図5(B)に示すように、保持機構310の上流側の支持腕320がミシン200の布押さえ201のすぐ上流側で隣接する位置を示す。
ボビン交換位置(第二の停止位置)は、開口部224を介してボビン交換作業を可能とするために、保持機構310の支持腕320の少なくとも一部が、上下方向において、ミシンベッド部に重なる位置である。図5(B)に示すように、上流側の支持腕320の一部がミシンベッド部に重なる位置であり、上流側の支持腕320の一部がミシンベッド左端より突出していても、ボビン交換作業に支障をきたさなければ良い。
図6は保持機構310がボビン交換位置にある時の縫製装置1000の斜視図である。ボビン交換位置にあっては、ミシンベッド部220の開口部224と保持機構310の上流側端部とがY軸方向についてほぼ同一位置に並んだ状態となる。これにより、布載置台120側にいるオペレータから見て、ミシンベッド部220の開口部224は保持機構310に遮蔽されることがないので、容易且つ円滑に釜機構にアクセスでき、ボビン交換作業を実行することができる。
なお、ボビン交換位置及び前述したセット位置への保持機構310の位置決めは、移動機構330の搬送モータ335の回転量から判断して位置決めすることは可能だが、各位置ごとに保持機構310を検出するセンサを設け、センサ出力に基づいて位置決め制御を行っても良い。
【0034】
次に、ボタン穴かがりミシン200のミシンベッド部220内の機構のメンテナンスの実行について説明する。かかるメンテナンスの実行の際には、位置決め機構350の位置決め部材351が上限位置にあるときにはエアシリンダ354の駆動により下限位置に切り換えて、ボタン穴かがりミシン200は動作停止とされる。そして、縫い針は上停止状態となり、布押さえ201は上昇して布解放状態となる。
従って、保持機構310の各支持腕320は、布押さえ201の下側を通解させることが可能な状態となる。
そして、制御手段により、縫製装置1000の全アクチュエータは動作しない状態にあるので、オペレータの手動で保持機構310を上流側に移動させる。そして、最も上流側となるメンテナンス位置(第一の停止位置)で停止する。図7は保持機構がメンテナンス位置にあるときの縫製装置1000の斜視図である。保持機構310のメンテナンス位置は、図5(C)に示すように、保持機構310の下流側の端部がミシンベッド部220の上流側端部よりに上流側に位置し、搬送方向についてミシン200と保持機構310とが全く重合を生じない位置関係にある。
これにより、保持機構310が妨げとならず、ミシンベッド部220を底板221に対して当該ヒンジ部223により本体部222を回動させてミシン200のほぼ全体を回倒させることが可能となる。つまり、ミシンベッド部220の内部構成が本体部222の下側から露出し、これらに対してメンテナンス作業を行うことが可能となる。
なお、メンテナンス位置の移動も、ボビン交換時のように、指示手段により実行を入力すると、制御装置の制御によって、位置決め機構350の位置決め部材351が上限位置にあるときにはエアシリンダ354の駆動により下限位置に切り換えて、縫い針を上停止状態とし、メスを上昇させて停止状態とし、布押さえ201を上昇させて布解放状態とし、移動機構330の搬送モータ335の駆動により上述したメンテナンス位置まで保持機構310を搬送し、全ての駆動を制御しても良い。
さらに、メンテナンス位置への移動の際、主電源を切断して、全アクチュエータは動作しない状態にした後、オペレータの手動で保持機構310を移動させても良い。
【0035】
(実施の形態の効果)
縫製装置1000では、生地Cを押圧保持する各保持部材314が、載置板311からミシン側端縁部を通って生地Cの下から上に回り込む二つの支持腕320により支持されているので、(例えば、図10に示す位置C3と同じように)保持部材314は生地Cの端縁部に近い位置で支持されることになり、遠方で支持されるC2の場合と異なり、保持部材314の小型化が可能となると共に十分な保持圧で生地Cの保持を行うことが可能となる。
また、各支持腕320が生地Cのミシン側端縁部側を回り込むように配置されているので、複数の保持部材314を搬送方向について任意に配置することができ、縫製時や搬送時に被縫製物の位置ズレを生じることなく保持することができ、より正確な位置にボタン穴かがり縫いを行うことが可能となる。
また、支持腕320は生地Cのミシン側端縁部側を回り込むように配置されているが、当該生地Cの端縁部の位置決めを行う位置決め部材351が、エアシリンダ354により支持腕320の移動範囲から下方に退避可能となっているので、支持腕320と位置決め部材351との干渉を回避することができ、円滑に生地Cを搬送することが可能となる。
【0036】
さらに、支持腕320が搬送方向に沿って配設された支持桿部材313を介して各保持部材314を支持しているので、支持腕320の個体数に限らずより多くの保持部材314を保持することが可能となる。また、搬送方向に沿った支持桿部材313を介して保持部材314を支持するので、搬送方向に沿った随所で生地Cを保持することができ、縫製時や搬送時の被縫製物の位置ズレをより効果的に抑制することができ、より正確な位置にボタン穴かがり縫いを行うことが可能となる。
【0037】
また、支持腕320は生地Cのミシン側端縁部側を回り込むように配置されているが、支持腕320の折り返し部323は、ボタン穴かがりミシン200の布押さえ201の布解放位置よりも低くなるように形成されているので、支持腕320が布押さえ201と干渉することなく、保持機構310を、搬送方向について、ボタン穴かがりミシン200と重合しないメンテナンス位置まで移動させることができる。そのため、保持機構310がミシン200から離間する方向に倒れるような支持構造を設けることなく、ミシンフレーム210を倒すことが可能となり、メンテナンスなどの作業を容易に行うことが可能となる。また、保持機構310がミシン200から離間する方向に倒れるような支持構造を設ける必要がないので、保持機構310の小型軽量化により移動機構330の搬送モータ335の小型化を図ることが可能となる。同時に、縫製装置1000の構造の簡易化による生産性の向上及び生産コストの低減を図ることが可能となる。
【0038】
また、縫製装置1000は、移動機構330がボビン交換位置まで保持機構330を搬送するように制御されるので、ミシンフレーム210の開口部224と保持機構310の上流側端部とが横並びとなり、保持機構310が邪魔になることなく、開口部224からボビン交換作業を行うことが可能となる。
【0039】
(位置決め機構の他の例)
位置決め部材351では下降移動により保持機構310の干渉を回避する構成としたが、退避移動の方向はこれに限るものではない、例えば、図8及び図9に示す位置決め機構350Aのように、位置決め機構350と同じ配置で、載置板311のミシン側端縁部に対向する対向面を有する生地Cの端縁部の位置決め部材351Aと、位置決め部材351Aを載置板311のミシン側端縁部に対して接離可能に支持する支持台353Aと、搬送方向上流側と下流側のそれぞれの端部において位置決め部材351Aに接離方向に沿った進退移動を付与する退避手段としてのエアシリンダ354Aとを備えている。
位置決め部材351Aは、支持台353Aの上面に沿ってX軸方向に沿って滑動可能に支持された滑り板355Aと滑り板355Aの上面から垂直に立ち上がると共にY軸方向に沿った立板部材356Aとから構成され、立板部材356Aに対向面が形成されている。そして、この立板部材356Aは、その両端部がそれぞれエアシリンダ354Aのプランジャに連結され、位置決め部材351A全体がX軸方向に沿って進退移動を行うようになっている。
そして、生地Cの位置決めを行う際には、位置決め部材351Aは各エアシリンダ354Aにより載置板311側に向かって前進移動され、対向面が載置板311の端縁部に近接した状態とされ、保持機構310の移動の際には、位置決め部材351Aは各エアシリンダ354Aにより載置板311から離間する方向に移動される。このとき、位置決め部材351Aの立板部材356Aは、支持腕320の先端部よりもミシン側になる位置まで移動させる。
即ち、この位置決め機構350Aでは、位置決め部材351Aを上下でなく、載置板311の端部からの進退移動を行うことで、保持機構310の各支持腕320との干渉を回避している。
かかる構成の位置決め機構350Aも位置決め機構350と同様に機能することとなる。
【符号の説明】
【0040】
200 ボタン穴かがりミシン
201 布押さえ
210 ミシンフレーム
220 ミシンベッド部
224 開口部
300 布搬送装置
310 保持機構
311 載置板
313 支持桿部材
314 保持部材
320 支持腕
322 折り返し部
330 移動機構
350 位置決め機構
351,351A 位置決め部材
352 対向面
354 エアシリンダ(退避手段)
C 生地(被縫製物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被縫製物を保持する保持機構と、
前記保持機構を介して所定の搬送方向に被縫製物を移動させる移動機構とを備え、
複数のボタン穴かがり縫いを前記搬送方向に沿って行うために、ボタン穴かがりミシンに対して前記被縫製物を前記搬送方向に沿って搬送する布搬送装置において、
前記保持機構は、
被縫製物を載置する載置板と、
前記載置板のミシン側端縁部からミシン側に延出されると共に上側に折り返してなる支持腕と、
前記支持腕によって支持されると共に前記載置板上の被縫製物を上方から押圧保持する複数の保持部材とを備え、
前記載置板のミシン側端縁部に対向する対向面を有する位置決め部材と、
当該位置決め部材を前記移動機構による支持腕の移動範囲から退避移動させる退避手段とを有する位置決め機構を備えることを特徴とする布搬送装置。
【請求項2】
前記支持腕を複数設け、
前記保 持機構は、前記搬送方向に沿って配設されると共に前記各支持腕の上部により支持された支持桿部材を備え、
前記各支持腕は、前記支持桿部材を介して前記各保持部材を支持していることを特徴とする請求項1記載の布搬送装置。
【請求項3】
前記位置決め部材は、前記被縫製物の位置決めを行うために、前記対向面が前記支持腕のミシン側端縁部より反ミシン側に配置されていることを特徴とする請求項1記載の布搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−246836(P2010−246836A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102041(P2009−102041)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】