説明

希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法

【課題】希土類元素を高濃度で添加するのに適し、簡易かつ低コストである希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法を提供すること。
【解決手段】気相合成法により、アルミニウムを添加したシリカ系ガラス微粒子堆積体であって、径方向のかさ密度が中心部よりも表面の方が小さい多孔質母材を合成する合成工程と、前記合成した多孔質母材の表面からかさ密が所定値より低い低密度部分を所定量除去する除去工程と、前記低密度部分を除去した多孔質母材に溶液含浸法により希土類元素を添加する含浸工程と、前記希土類元素を添加した多孔質母材を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥した多孔質母材を脱水・焼結する脱水・焼結工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素を添加した光ファイバ母材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバレーザや光ファイバ増幅器に用いられる光増幅用の光ファイバとして、光増幅媒体である希土類元素が添加されたコアを有するものが使用されている。
【0003】
このような増幅用光ファイバの製造工程において、希土類元素を添加したコア母材の製造が増幅特性の鍵となる。この増幅用光ファイバ母材の製造方法としては、たとえば以下の方法がある(たとえば、特許文献1参照)。はじめに、気相合成法等を用いて、シリカ系ガラス微粒子堆積体である多孔質母材を合成する合成工程を行なう。つぎに、1200℃前後の加熱処理によって、多孔質母材のかさ密度をたとえば0.4g/cmから0.6g/cm程度まで高くする仮焼結工程を行う。つぎに、希土類元素を添加するために、希土類元素の塩化物を溶かしたアルコール溶液である含浸溶液に、仮焼結した多孔質母材を浸す含浸工程を行なう。以下、さらに、多孔質母材を乾燥させる乾燥工程、塩化物を酸化物へと変えることにより焼結時の希土類元素の揮発を抑制する酸化工程、脱水・焼結(ガラス化)工程を順次行い、コアロッドを製造する。その後、得られたコアロッドの外周に、周知の方法でクラッド形成することで希土類元素添加光ファイバ母材が完成する。
【0004】
ここで、特許文献1では、乾燥工程によって希土類元素の濃度が多孔質母材の表面付近で高くなるので、乾燥工程後、脱水・焼結工程の前に、多孔質母材の表面を研削し、高濃度の部分を除去する工程を行なっている。また、特許文献2では、多孔質母材の表面付近でのコバルトの高濃度化とそれに伴うクラックの発生の防止のために、同様の研削工程を行なっている。
【0005】
また、特許文献3では、希土類元素を添加した多孔質母材に乾燥工程において割れが発生し、脱水・焼結工程において破損してしまうことを防止するために、合成工程の後に多孔質母材に保護層を形成し、乾燥工程における割れを保護層に発生させ、乾燥工程後に保護層を除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3449876号公報
【特許文献2】特許第3300224号公報
【特許文献3】特開平9−142864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法は、含浸工程の前に多孔質母材のかさ密度を高くする仮焼結工程を行なうため、希土類元素を高濃度で添加するためには、その分含浸溶液に溶かす希土類塩化物の濃度を高くしなければならない。この場合、含浸溶液に溶かすことができる希土類塩化物の濃度には制限があるので、添加濃度も制限される上、材料コストが高くなる問題がある。また、特許文献3に記載の方法は、光ファイバ母材の形成に必要な合成工程とは別に保護層を形成する工程を行なうため、工程数が増加し、煩雑でありかつ製造コストが高くなる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、希土類元素を高濃度で添加するのに適し、簡易かつ低コストである希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法は、気相合成法により合成したシリカ系ガラス微粒子堆積体であって、径方向のかさ密度が中心部よりも表面の方が小さい多孔質母材を合成する合成工程と、前記合成した多孔質母材の表面からかさ密度が所定値より低い低密度部分を所定量除去する除去工程と、前記低密度部分を除去した多孔質母材に溶液含浸法により希土類元素を添加する含浸工程と、前記希土類元素を添加した多孔質母材を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥した多孔質母材を脱水・焼結する脱水・焼結工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法は、上記の発明において、前記除去工程において、かさ密度が0.2g/cm以下である部分の少なくとも一部を除去することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法は、上記の発明において、前記除去工程において、該除去工程後に残されるかさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さが前記多孔質母材の直径の25%以下となるように除去を行なうことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法は、上記の発明において、前記合成工程において、径方向の全域のかさ密度が0.3g/cm以下の多孔質母材を合成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法は、上記の発明において、前記除去工程と前記含浸工程との間に、不純物除去のために、前記多孔質母材の径方向の全域のかさ密度が0.3g/cm以下に維持されるように該多孔質母材を熱処理する熱処理工程を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法は、上記の発明において、前記シリカ系ガラス微粒子堆積体は、少なくともアルミニウムが添加されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法は、上記の発明において、前記含浸工程において、希土類元素として少なくともイッテルビウムを添加することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法は、上記の発明において、前記含浸工程において添加する希土類元素の濃度が0.5質量%から3質量%の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、希土類元素を高濃度で添加するのに適し、簡易かつ低コストである希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施の形態に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法のフロー図である。
【図2】図2は、合成工程について説明する模式図である。
【図3】図3は、除去工程について説明する模式図である。
【図4】図4は、本発明の実施例、比較例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法のフロー図であり、主にコアロッドの製造工程を示している。本実施の形態に係る製造方法では、図1に示すように、はじめに、多孔質母材を合成する合成工程を行い(ステップS101)、つぎに、合成した多孔質母材の表面からかさ密度が所定値より低い低密度部分を所定量除去する除去工程を行い(ステップS102)、つぎに、多孔質母材を熱処理する熱処理工程を行い(ステップS103)、つぎに、多孔質母材に溶液含浸法により塩化物の希土類元素を添加する含浸工程を行ない(ステップS104)、つぎに、多孔質母材を乾燥する乾燥工程を行い(ステップS105)、つぎに、添加した希土類元素塩化物を酸化物に変える酸化工程を行い(ステップS106)、つぎに、多孔質母材を脱水しガラス化するための脱水・焼結工程を行なう(ステップS107)。これによって、希土類元素を添加した光ファイバ用のコアロッドを製造する。つぎに、上述した工程によって製造したコアロッドの外周に、周知の方法でクラッドを形成することで、希土類元素添加光ファイバ母材が完成する。
なお、添加する希土類元素としては、エルビウム(Er)、ネオジウム(Nd)、ランタン(La)、イッテルビウム(Yb)、ツリウム(Tm)が挙げられ、高出力のファイバレーザや光増幅器用としてはイッテルビウムが特に好ましい。
【0021】
以下、各工程について具体的に説明する。図2は、ステップS101の合成工程について説明する模式図である。なお、本実施の形態の合成工程においては、気相合成法としてVAD(Vapor phase Axial Deposition)法を用いているが、OVD(Outside Vapor Deposition)法等を用いてもよい。
【0022】
図2に示すように、バーナ1に、原料ガスであるSiClとOガスとHガスとを供給し、この原料ガスを酸水素火炎1a中で加水分解させてシリカガラス微粒子を生成する。ここで、軸回りに回転しながら上昇するターゲット棒2の下端に、酸水素火炎1aを吹き付けることによって、生成したシリカガラス微粒子をターゲット棒2の下端に順次堆積させる。その結果、ターゲット棒2の下方にはシリカガラス微粒子の堆積体である多孔質母材3が形成される。なお、多孔質母材3には、アルミニウム(Al)が添加される。アルミニウムは、バーナ1に原料ガス、Oガス、HガスととともにたとえばAlClを供給することで、添加することができる。また、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)などの添加剤をさらに添加してもよい。なお、P(リン)を添加すると、後述する含浸工程でイッテルビウム(Yb)を共添加した場合にイッテルビウムの吸収帯域を広げる効果がある。また、ゲルマニウム(Ge)を添加すると比屈折率差(Δ)の調整が可能となる。
【0023】
つぎに、ステップS102の除去工程について説明する。図3は、除去工程について説明する模式図であり、除去工程前後での多孔質母材の径方向位置におけるかさ密度の分布を示している。図3左側に示すように、ステップS101の合成工程において合成した多孔質母材3は、そのかさ密度が、径方向の中心軸Oを含む中心部と比較して表面では小さくなっている。また、多孔質母材3のかさ密度の大きさは適宜設定されるが、本実施の形態では、希土類元素を高濃度に添加するために、径方向の全域のかさ密度を0.3g/cm以下とし、表面のかさ密度を0.2g/cm以下としている。
なお、多孔質母材3のかさ密度は、バーナ1に供給するガス量やターゲット棒2に対するバーナ1の位置等を調整することで適宜調整することができる。たとえば、かさ密度を小さくするためには、供給するHを減らすか、バーナ1を多孔質母材3の径方向の外側に移動させればよい。
また、バーナ1として多重管バーナを用い、多孔質母材を1本のバーナで合成することにより、多孔質母材のかさ密度の分布を、径方向の中心軸Oを含む中心部から表面に向かって減少する形状とすることができる。
【0024】
そして、この除去工程においては、多孔質母材3のうち、かさ密度が0.2g/cm以下である部分3aを除去する。その除去する量としては、図3右側に示すように、除去工程後の多孔質母材3bに残される、かさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さ、すなわち厚さ4aと厚さ4bとの合計が、除去工程後の多孔質母材3bの直径5の25%以下となるようにする。
【0025】
なお、この除去工程は、多孔質母材3のかさ密度が低いやわらかい状態で行なうので、特別な工具を使わずに、たとえば手等によっても簡単に行うことができる。
【0026】
つぎに、ステップS103の熱処理工程について説明する。この熱処理工程においては、加熱炉内にヘリウムガスおよび塩素ガスを流しながら、除去工程後の多孔質母材を熱処理し、遷移金属等の不純物を除去する。なお、この加熱工程は、特許文献1、特許文献2に記載の含浸工程の前に行われる加熱(仮焼結)よりも低温のたとえば1100℃で行い、多孔質母材の径方向の全域のかさ密度が0.3g/cm以下に維持されるようにする。また、この熱処理工程は、適宜省略してもよい。
【0027】
つぎに、ステップS104の含浸工程について説明する。この含浸工程においては、容器内に貯留させた含浸溶液に多孔質母材を浸漬する。この含浸溶液は、塩化希土類元素水和物を含むメタノール溶液である。含浸溶液における希土類元素の濃度は、最終的に製造するコアロッドに添加すべき希土類元素の濃度に応じて適宜選択する。なお、コアロッドに添加すべき希土類元素の濃度は、たとえば0.5質量%から3質量%の範囲である。そして、この浸漬を数日程度継続させることによって、多孔質母材に含浸溶液を十分に含浸させる。本実施の形態では、含浸工程の前に仮焼結工程を行なわず、かつ熱処理工程も低温で行なうので、多孔質母材のかさ密度は低く維持されている。したがって、含浸溶液における希土類元素の濃度が比較的低くても希土類元素を高濃度に添加でき、好ましい。
【0028】
つぎに、ステップS105の乾燥工程について説明する。この乾燥工程においては、含浸工程を行なった多孔質母材を、乾燥用の容器に収容し、容器内にNガスを流しながら、容器内を約60℃に昇温してたとえば数日間維持し、多孔質母材を乾燥させる。
【0029】
この乾燥工程において、含浸したメタノールは、毛細管現象によって、多孔質母材の中心部から表面に向かって移動し、表面から蒸発するため、これにともなって塩化希土類元素水和物も表面に移動し、その表層部において希土類元素が凝集する場合がある。しかしながら、本実施の形態では、除去工程によって、多孔質母材の表面からかさ密度が低い部分を除去しているので、表層部の希土類元素が凝集する厚さは薄くなるため、乾燥時に表層部と中心部との熱膨張差による歪に起因する表層部におけるクラックの発生が抑制される。
【0030】
つぎに、ステップS106の酸化工程について説明する。この酸化工程では、加熱炉内にヘリウムガスおよび酸素ガスを流しながら、乾燥工程後の多孔質母材を800℃程度で加熱し、添加した塩化希土類元素を酸化させる。
【0031】
つぎに、ステップS107の脱水・焼結工程について説明する。この脱水・焼結工程においては、焼結炉内にヘリウムガスと塩素ガスを流しながら、酸化工程後の多孔質母材を約1000℃で加熱して脱水し、さらにヘリウムガスを流しながら1250℃〜1400℃で加熱し焼結する。これによって、多孔質母材は透明ガラス化され、透明なコアロッドとなる。なお、コアロッドの表層部に希土類元素の結晶相やクラックが存在している場合は、適宜除去を行なう。ステップS102の除去工程においてかさ密度が低い部分を除去しているので、除去すべき希土類元素の結晶相の厚さは薄くなるので、表層部と中心部との熱膨張差による歪に起因する表層部におけるクラックの発生が抑制される。また、たとえクラックが発生しても小さいものであり、このクラックが径方向の中心部まで到達することがなくなるので、コアロッドの製造歩留まりが向上する。
また、除去される結晶相の厚さが薄いため希土類元素の浪費は抑制される。
【0032】
以上のように、本実施の形態に従って製造したコアロッドは、希土類元素が高濃度に添加され、かつ中心部へのクラックがないものとなる。また、その製造工程も簡易であるし、製造コスト、材料コストの両面で低コストとなる。
【0033】
なお、製造するコアロッドの屈折率をあまり高くしない場合には、合成工程においてGeを添加しない。Geを含まない多孔質母材は、Geを含むものと比べて粘性が低くなるので、乾燥工程においてクラックがより発生しやすい。また、合成工程においてGeを添加せずにAlを添加し、主にAlで屈折率を高める場合もあるが、AlはGeほど多孔質母材の粘性を高める効果がないので、この場合も乾燥工程においてクラックが発生しやすい。しかしながら、このような場合でも、上述したステップS102の除去工程を行なえば、クラックの発生の抑制および発生したクラックの中心部への到達の防止の効果が発揮される。
【0034】
なお、ファイバレーザ用途のダブルクラッド型の光ファイバ等の場合、励起光を効率よくコアに吸収させるにはコア径を大きくする必要があり、コア径を大きくした状態で信号光をシングルモード伝播させるには、コアロッドの屈折率があまり高く出来ない。
【0035】
ここで、ダブルクラッド型の光ファイバとは、特に、高出力のファイバレーザや光ファイバ増幅器に好適に用いられる光増幅用の光ファイバであり、このダブルクラッド型光ファイバは、希土類元素が添加されたコアと、このコアの周囲を覆う第1クラッドと、この第1クラッドを覆う第2クラッドから構成されている。なお、第2クラッドは、一般的には樹脂からなる。そして、第1クラッドに高出力のマルチモードの励起光を伝播させ、励起光をコアに交差させ、希土類元素を光励起することによって、希土類元素の誘導放出現象を発生させて、コアを伝播している信号光が増幅されるように構成されている。
【0036】
また、上述した方法によって製造した光ファイバ母材を、周知の方法で線引きすることにより、希土類元素添加光ファイバが得られる。
【0037】
(実施例、比較例)
つぎに、実施例、比較例により本発明をより詳細に説明する。なお、これによりこの発明が限定されるものではない。
【0038】
はじめに、実施例1として、上記実施の形態に従い希土類元素としてYbを添加したコアロッドを製造した。なお、本実施例1では、合成工程においては、VAD法により、バーナに流量170ml/分のSiClを供給するとともに、130℃以上で昇華させたAlClを供給して、ターゲット棒にアルミニウム添加シリカガラス微粒子を堆積させ、多孔質母材を合成した。なお、合成した多孔質母材のかさ密度を測定したところ、径方向のかさ密度は中心部が最も高く0.28g/cmであり、中心部から表面に向かって減少していた。つぎに、除去工程として、合成した多孔質母材のかさ密度が0.15g/cm以下の表層部を除去した。このとき、多孔質母材に残されるかさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さは、除去工程後の多孔質母材の直径の20.0%となった。つぎに、熱処理工程として、除去工程を行なった多孔質母材を、中心部のかさ密度を0.28g/cmに維持したまま、温度1100℃で熱処理した。つぎに、含浸工程として、2.2質量%の塩化イッテルビウム水和物を含むメタノール溶液に多孔質母材を浸漬した。その後、順次乾燥工程、酸化工程、脱水・焼結工程を行った。脱水・焼結工程によりガラス化した後のコアロッドの直径は17.5mmであった。またその表層部には結晶相が形成されており、この結晶相の径方向の厚さは片側(直径の両端の表層部に存在する結晶相のうちの片側)で1.5mmであった。つぎに、表層部の結晶相を除去し、直径が10.1mmのコアロッドを得た。このコアロッドを切断して切断面を確認したところ、クラックは発生していなかった。また、このコアロッドのYbの添加濃度を測定したところ、0.5質量%と高濃度に添加されていた。
【0039】
つぎに、実施例2として、上記実施の形態に従いYbを添加したコアロッドを製造した。なお、この実施例2において実施例1の場合と異なる点は以下の点である。すなわち、合成した多孔質母材のかさ密度を測定したところ、中心部のかさ密度は0.25g/cmであった。なお、かさ密度の分布形状は実施例1と同様である。また、除去工程において、合成した多孔質母材のかさ密度が0.16g/cm以下の表層部を除去した。このとき、多孔質母材に残されるかさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さは、多孔質母材の直径の23.3%となった。また、熱処理工程において、多孔質母材の中心部のかさ密度が0.28g/cmになるように熱処理を行った。また、含浸工程において、11.7質量%の塩化イッテルビウム水和物を含むメタノール溶液に多孔質母材を浸漬した。また、ガラス化した後のコアロッドの直径は19.5mmであり、その表層部の結晶相の径方向の厚さは片側で2mmであった。また、表層部の結晶相を除去し、直径が11.4mmのコアロッドを得た。このコアロッドを切断して切断面を確認したところ、クラックは発生していなかった。また、このコアロッドのYbの添加濃度を測定したところ、2.0質量%と高濃度に添加されていた。
【0040】
つぎに、実施例3として、実施例2と同様にコアロッドを製造した。なお、実施例2の場合と異なる点は、多孔質母材に残されるかさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さが、多孔質母材の直径の6.7%になるように除去工程を行なった点である。そして、表層部の結晶相を除去した後の実施例3のコアロッドを切断して切断面を確認したところ、クラックは発生していなかった。また、このコアロッドのYbの添加濃度を測定したところ、2.0質量%と高濃度に添加されていた。
【0041】
つぎに、実施例4として、実施例1と同様にコアロッドを製造した。なお、実施例1の場合と異なる点は、合成工程において、水素ガスの供給量を1.5倍程度増加させ、中心部のかさ密度が0.48g/cmの多孔質母材を合成した点と、また、多孔質母材に残されるかさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さが、多孔質母材の直径の17.5%になるように除去工程を行なった点である。なお、かさ密度の分布形状は実施例1と同様である。そして、表層部の結晶相を除去した後の実施例4のコアロッドを切断して切断面を確認したところ、クラックは発生していなかった。なお、このコアロッドのYbの添加濃度を測定したところ、0.2質量%であった。
【0042】
つぎに、実施例5として、実施例1と同様にコアロッドを製造した。なお、実施例1の場合と異なる点は、合成工程において、バーナとターゲット棒の先端部との距離を実施例1の場合よりも近づけ、中心部のかさ密度が0.51g/cmの多孔質母材を合成した。なお、かさ密度の分布形状は実施例1と同様である。また、多孔質母材に残されるかさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さが、多孔質母材の直径の11.3%になるように除去工程を行なった点である。そして、表層部の結晶相を除去した後の実施例5のコアロッドを切断して切断面を確認したところ、クラックは発生していなかった。なお、このコアロッドのYbの添加濃度を測定したところ、0.2質量%であった。
【0043】
つぎに、比較例1〜3として、上記実施例1と同様の合成工程により合成した多孔質母材に、除去工程を行なわずに、温度1200℃で熱処理を行った。熱処理後の多孔質母材の中心部のかさ密度の値は0.39(比較例1)、0.35(比較例2)、0.29(比較例3)(なお、単位はいずれも[g/cm])となった。なお、熱処理後の多孔質母材に残されるかさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さは、多孔質母材の直径の40.0%(比較例1)、56.7%(比較例2)、46.7%(比較例3)であった。つぎに、含浸工程として、6.5質量%の塩化イッテルビウム水和物を含むメタノール溶液に、各比較例の多孔質母材を浸漬した。その後、順次乾燥工程、酸化工程、脱水・焼結工程を行った。脱水・焼結工程によりガラス化した後のコアロッドの直径は各比較例とも26mmであり、その表層部の結晶相の径方向の厚さは各比較例とも片側で5mmと厚かった。つぎに、表層部の結晶相を除去し、直径が12mmになるまで研削を行なったが、いずれの比較例のコアロッドとも中心部に到るまでクラックが入っていたため、次工程には流せない状態であった。
【0044】
なお、図4は、上述した本発明の実施例、比較例を示す図である。図4において、横軸は、多孔質母材に残される、かさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さ(直径比)を示し、縦軸は、多孔質母材の中心部のかさ密度を示している。また、記号「●」は実施例1〜3、記号「◆」は実施例4〜5、記号「×」は比較例1〜3を示している。本実施例では、横軸に示される厚さが25%以下であればクラックが中心部まで到ることがなかった。また、縦軸に示されるかさ密度が0.3g/cm以下である実施例1〜3では、希土類元素の高濃度添加が可能であり、特に好適であった。
【0045】
なお、上記実施例では、希土類元素としてYbを添加しているが、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、プラセオジム(Pr)等の他の希土類元素を添加しても良い。また、添加する希土類元素は一種類に限らず、複数種を共添加してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 バーナ
1a 酸水素火炎
2 ターゲット棒
3、3b 多孔質母材
3a 部分
4a、4b 厚さ
5 直径
O 中心軸
S101〜S107 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相合成法により合成したシリカ系ガラス微粒子堆積体であって、径方向のかさ密度が中心部よりも表面の方が小さい多孔質母材を合成する合成工程と、
前記合成した多孔質母材の表面からかさ密度が所定値より低い低密度部分を所定量除去する除去工程と、
前記低密度部分を除去した多孔質母材に溶液含浸法により希土類元素を添加する含浸工程と、
前記希土類元素を添加した多孔質母材を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥した多孔質母材を脱水・焼結する脱水・焼結工程と、
を含むことを特徴とする希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記除去工程において、かさ密度が0.2g/cm以下である部分の少なくとも一部を除去することを特徴とする請求項1に記載の希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程において、該除去工程後に残されるかさ密度が0.2g/cm以下である部分の径方向の厚さが前記多孔質母材の直径の25%以下となるように除去を行なうことを特徴とする請求項2に記載の希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記合成工程において、径方向の全域のかさ密度が0.3g/cm以下の多孔質母材を合成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
前記除去工程と前記含浸工程との間に、不純物除去のために、前記多孔質母材の径方向の全域のかさ密度が0.3g/cm以下に維持されるように該多孔質母材を熱処理する熱処理工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法。
【請求項6】
前記シリカ系ガラス微粒子堆積体は、少なくともアルミニウムが添加されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法。
【請求項7】
前記含浸工程において、希土類元素として少なくともイッテルビウムを添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法。
【請求項8】
前記含浸工程において添加する希土類元素の濃度が0.5質量%から3質量%の範囲であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の希土類元素添加光ファイバ母材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−32137(P2011−32137A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181011(P2009−181011)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】