説明

干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体

【課題】バリエーションに富んだ発色性を示し、また、従来の製造方法に比べて、容易な方法で得られ、色むらの発生による不良品の発生率が低い干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体を得ることを課題とする。
【解決手段】中心線平均粗さ(Ra)が1μm以下である平滑表面を有する樹脂成形体基材の前記平滑表面に厚み0.1〜0.4μmの透明性金属薄膜を形成することにより得られる干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用灯具や施設照明等の照明部品、自動車の内外装部品、携帯電話やモバイルパソコン等の筐体部品等に使用される金属調表面を備えた樹脂成形体として、樹脂成形体基材にアルミニウムやクロム等の金属薄膜を成膜し、前記金属薄膜表面に着色された表面保護膜(カラートップコート)を塗布することにより形成される着色された金属調表面を備えた樹脂成形体が知られている。
【0003】
前記カラートップコートを塗布することにより、着色された金属調表面を得る場合には、次のような問題があった。
【0004】
すなわち、カラートップコートを塗布する際の塗膜の膜厚を均一に制御することが難しく、前記膜厚が不均一になる場合には、着色された金属調表面が虹色のような色むら(メラメラ感とも呼ばれる、以下、単に色むらという)を有する発色になるという問題があった。
【0005】
また、カラートップコート中の顔料の分散性が不充分な場合や、淡色を発色させる場合には、特に良好な発色性を得ることが困難であった。このような場合には、塗料を何回も塗り重ねてカラートップコートを形成することにより発色性を高める方法があるが、塗料を塗り重ねることにより塗膜の膜厚がさらに不均一になり、色むらが生じやすいという問題があった。
【0006】
また、塗装工程においては、埃や塵などの異物が塗膜表面に付着して不良品が発生しやすいという問題もあった。
【0007】
以上のような理由から、金属薄膜の表面にカラートップコートを形成することにより、着色された金属調の表面を有する樹脂成形体を得る方法では、工業的に大量生産する場合に不良率が高くなるという問題があった。さらに、別の問題としては、塗料の溶媒が揮発することにより環境に悪影響を与えるという問題もあった。
【0008】
前記各種問題点を解決すべく、以下の特許文献1には、金属、樹脂などで形成された基材表面にアルミニウムを真空蒸着して金属薄膜からなる反射膜を形成し、形成された反射膜表面に透明性の薄膜を形成することにより着色された金属調の表面を形成する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によれば、透明性の薄膜が形成される下地はアルミニウム薄膜から形成される反射膜であるために、発色できる色のバリエーションは制限されていた。また、前記方法によれば、アルミニウム薄膜から形成される反射膜を形成させた後に、透明性金属薄膜を形成させる必要があり、工程が煩雑であった。
【特許文献1】特開2001−337212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、バリエーションに富んだ発色性を示し、また、従来の製造方法に比べて、容易な方法で得られ、色むらの発生による不良品の発生率が低い干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、平滑性に優れた樹脂成形体基材の表面に、特定の厚みで透明性金属薄膜を形成し、その透明性金属薄膜の膜厚及び種類を選択することにより、種々の色調の干渉色を発色しうることを見出した。また、このようにして得られる前記干渉色は色むらの発生が抑制されたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体は、中心線平均粗さ(Ra)が1μm以下である平滑表面を有する樹脂成形体基材の前記平滑表面に厚み0.1〜0.4μmの透明性金属薄膜を形成することにより得られうる。
【0013】
前記構成においては、平滑性に優れた樹脂成形体基材の表面に透明性金属薄膜を形成することにより、透明性金属薄膜表面における反射光と、樹脂成形体基材と透明性金属酸化物との界面における反射光が位相差により干渉し、特定の波長が干渉現象により強まる。そして、薄膜の種類及び膜厚を選択することにより種々の干渉色を得ることができるものである。
【0014】
なお、本発明においては、前記平滑性に優れた表面を有する樹脂成形体基材を用いることにより、前記表面上に形成させる薄膜の厚みを均一に維持しやすく、そのために、色むらの発生を抑制することができる。
【0015】
そして、このような平滑度が高い樹脂成形体基材表面に透明性金属薄膜を前記特定の厚みで直接形成することにより、優れた発色性を備え、色むらの発生が抑制された干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体を容易に得ることができる。
【0016】
また、前記平滑表面としては、特に、その平滑表面に0.1〜0.15μmの厚みのアルミニウム薄膜を形成させたときの拡散反射率が2%以下になるような平滑表面であることが好ましい。前記拡散反射率が2%以下のように平滑度の高い表面を有する樹脂成形体基材を用いる場合には、表面の平滑性が特に高いために色むらの発生をより抑制することができる。
【0017】
また、前記樹脂成形体基材が着色されたものである場合には、前記樹脂成形体基材の色調を調整することにより、干渉色の色と混ざり合い、バリエーションに富んだ発色性を示す干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体を容易に得ることができる。
【0018】
また、前記透明性金属薄膜が、アルミニウム、クロム、ニッケル、マグネシウム、スズ、ジルコニウム、鉄、チタン及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素の金属酸化物又は金属窒化物から形成される透明性金属薄膜である場合には、種々の金属質感の干渉色金属調表面を得ることができる。
【0019】
また、前記透明性金属薄膜が、蒸着、スパッタリング及びイオンプレーティングからなる群から選ばれる少なくとも一種の成膜方法により形成される場合には、均一な厚みの透明性金属薄膜を容易に形成することができる。
【0020】
また、前記平滑表面を有する樹脂成形体基材を鏡面研磨仕上げされたキャビティー表面を有する金型に平均等価面積円直径0.5μm以下の無機フィラー成分を含有し、且つ、平均等価面積円直径0.5μmを超える無機フィラー成分を含有しない熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより、平滑性の高い平滑面を備えた樹脂成形体基材を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、バリエーションに富んだ発色を示す干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体を容易な工程により得ることができる。そして、前記樹脂成形体の製造においては、色むらの発生による不良品が少ない。また、透明性金属薄膜が形成される樹脂成形体基材を所望の色に着色することにより、さらにバリエーションに富んだ発色を示す干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体を得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0023】
本発明の干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体は、中心線平均粗さ(Ra)が1μm以下である平滑表面を有する樹脂成形体基材の前記平滑表面に厚み0.1〜0.4μmの透明性金属薄膜を形成することにより得られる。
【0024】
前記中心線平均粗さ(Ra)とは、表面粗さ測定機能を備えたレーザー顕微鏡装置により測定することができ、前記装置により測定された粗さ曲線の中心線に対する絶対値偏差の平均値と定義される。
【0025】
前記平滑表面の中心線平均粗さ(Ra)は、1μm以下であり、好ましくは0.8μm以下である。また、その下限は、特に限定されないが、透明性金属薄膜の密着性を維持する観点からは0.005μm以上であることが好ましい。前記Raが1μmを超えた場合には色むらが生じやすくなる。
【0026】
また、前記平滑表面としては、その平滑表面に0.1〜0.15μmの厚みのアルミニウム薄膜を形成させたときの拡散反射率が2%以下、さらには、1.8%以下、特には、1.5%以下になるような平滑表面であることが好ましい。前記拡散反射率が2%以下の場合には、色むらの発生をさらに抑制した干渉色金属調表面を得ることができる。なお、前記拡散反射率はミラー反射率計を用いて測定しうる。
【0027】
上記のような樹脂成形体基材は、例えば、キャビティーに1μmのダイヤモンドペーストで鏡面研磨仕上げされたような平滑表面を有する金型に熱可塑性樹脂又は平均等価面積円直径が0.5μmを超えるような無機フィラー成分を実質的に含有しない熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより得られうる。
【0028】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアルキレンテレフタレートやポリアルキレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミドMXD、ポリアミド9T、ポリアミド12等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、芳香族ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、等、従来から公知の熱可塑性樹脂が用いられ得る。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、芳香族ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂が好ましい。
【0029】
なお、本発明における樹脂成形体基材を形成するための熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂組成物としては、得られる干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体が、自動車の内外装部品や車両用灯具、施設照明などの照明部品用途等の高温に晒されるような用途に用いられることを考慮すると、耐熱性に優れ、高温環境下でも平滑性を維持することができるものであることが好ましい。このような熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂組成物としては、前記樹脂成形体基材の平滑表面に0.1〜0.15μmの厚みのアルミニウム薄膜を形成させた後、160℃のオーブンで10時間処理した場合において、拡散反射率が3%以下、さらには、2.8%以下、特には、2.5%以下になるような平滑表面を維持しうる材料であることが好ましい。
【0030】
このような耐熱性の高い熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂組成物としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
【0031】
すなわち、前記耐熱性の高い熱可塑性樹脂としては熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂等の荷重たわみ温度(DTUL)が150℃以上の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0032】
また、熱可塑性樹脂の耐熱性が低い場合には、無機フィラーを配合して耐熱性を高めた熱可塑性樹脂組成物を用いてもよい。
【0033】
樹脂成形体においては、通常、ガラス繊維やタルク等の無機フィラーと複合化することにより耐熱性を改善することが行われている。しかしながら、汎用的な無機フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物は好ましくない。すなわち、汎用的な無機フィラーの粒子径や繊維長は、数10μmオーダーのサイズであり、このような無機フィラー成分を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体基材表面は、その表面に無機フィラーが浮き出て荒れてしまい、平滑な表面を得ることが困難である。従って、本発明において、無機フィラー成分を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いる場合には、平均等価面積円直径0.5μm以下の無機フィラーのように、微細な無機フィラー成分を含有する熱可塑性樹脂組成物が好ましい。ここで、前記等価面積円直径とは、電子顕微鏡で観察される観察像において、種々な形状で分散している微細な無機フィラーの面積と等しい面積を有する円の直径であると定義する。そして、前記数平均等価面積円直径とは、前記観察像中で観察される微細な無機フィラーを不作為に100個選択し、それぞれの等価面積円直径を算出し、数平均化したものである。これらの算出は、画像処理装置を備えた電子顕微鏡により算出することができる。
【0034】
前記微細な無機フィラーが配合された熱可塑性樹脂組成物は、例えば、以下のような方法により得られうる。
【0035】
第1の方法としては、層状無機フィラーと後述する表面処理剤とを剪断力を与えながら撹拌混合して得られる表面処理された無機フィラーや、層状無機フィラーを水や水を含有する極性溶媒等の分散媒中に添加し、さらに前記表面処理剤を添加して撹拌混合して得られる表面処理された無機フィラーを、熱可塑性樹脂と溶融混練する方法が挙げられる。
【0036】
前記層状無機フィラーの具体例としては、例えば、膨潤性雲母、非膨潤性雲母、スメクタイト、タルク、カオリン等のケイ酸塩、リン酸ジルコニウム等のリン酸塩、チタン酸カリウム等のチタン酸塩、タングステン酸ナトリウム等のタングステン酸塩、ウラン酸ナトリウム等のウラン酸塩、バナジン酸カリウム等のバナジン酸塩、モリブデン酸マグネシウム等のモリブデン酸塩、ニオブ酸カリウム等のニオブ酸塩、黒鉛層状化合物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、酸化ケイ素や酸化チタン、アルミナ等の酸化物、炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩化合物、硫酸カルシウムや硫酸バリウム等の硫酸塩化合物の他、硫化亜鉛、リン酸カルシウム等が挙げられる。これらの中では、膨潤性雲母、非膨潤性雲母、タルク、カオリン、スメクタイトなどの層状ケイ酸塩がへき開性が高い点から好ましく用いられる。
【0037】
また、前記表面処理剤としては、シラン系化合物、チタン系化合物、アルミナ系化合物、ポリエーテル系化合物、アミン系化合物などが用いられうる。入手の容易さ、取り扱い性、ポリエステル樹脂への熱劣化の影響の観点から、シラン系化合物、ポリエーテル系化合物が好ましい。
【0038】
前記攪拌の方法は特に限定されず、例えば、従来公知の湿式撹拌機を用いて行うことができる。前記湿式撹拌機としては、撹拌翼が高速回転して撹拌する高速撹拌機、高剪断速度がかかっているローターとステーター間の間隙で試料を湿式粉砕する湿式ミル類、硬質媒体を利用した機械的湿式粉砕機類、ジェットノズルなどで試料を高速度で衝突させる湿式衝突粉砕機類、超音波を用いる湿式超音波粉砕機などを挙げることができる。なお、このときに無機フィラーに与える剪断力を調整することにより、無機フィラーの粒子径を制御することができる。
【0039】
このようにして得られる表面処理された無機フィラーと前記各種熱可塑性樹脂とを溶融混練することにより数平均等価面積円直径0.5μm以下のような微細な無機フィラーが配合された熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0040】
なお、溶融混練は、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の従来から知られた溶融混練機が用いられうるが、剪断効率の高い点から二軸押出機を用いることが特に好ましい。
【0041】
一方、前記微細な無機フィラーが配合された熱可塑性樹脂組成物を得る第2の方法としては、層状無機フィラーを水や水を含有する極性溶媒等の分散媒中に添加し、この分散媒中で熱可塑性樹脂の重合性プレポリマーを混合する。そして、前記混合液中でプレポリマーの重合を進行させることにより、層状無機フィラーをへき開させて樹脂中に微分散させる方法が挙げられる。
【0042】
前記熱可塑性樹脂組成物中における微細な無機フィラーの含有割合は熱可塑性樹脂組成物全量に対して、1〜15質量%であることが好ましい。微細な無機フィラーの含有割合が前記範囲であれば、耐熱性を改善させる効果が得られ、また、成形収縮率を低下させる点からも好ましい。
【0043】
このようにして得られる熱可塑性樹脂組成物中の微細な無機フィラーの大きさとしては、数平均等価面積円直径が0.5μm以下、さらには、0.3μm以下であることが好ましい。このような数平均等価面積円直径の微細な無機フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物から形成される成形体は、表面状態の平滑性に優れており、また、成形収縮率も低い点から好ましい。
【0044】
また、本発明に用いられる熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物は着色されたものであってもよい。着色された熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物を用いて形成される樹脂成形体基材表面に透明性金属薄膜を形成し、干渉色を発色させることにより、樹脂成形体基材表面の地色と干渉色が混ざり合い、種々の色を発現させることができる。なお、着色材は、特に限定されず、熱可塑性樹脂の着色に用いられる一般的な顔料及び染料が用いられる。
【0045】
さらに、本発明に用いられる熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、難燃剤や難燃助剤、離型剤、熱安定剤、光安定剤等を含有させてもよい。
【0046】
本発明に用いられる前記平滑表面を有する樹脂成形体基材は、前記熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂組成物を前記のような鏡面研磨仕上げの平滑表面のキャビティー表面を有する金型に射出成形することにより得られる。
【0047】
前記射出成形の方法としては、通常の熱可塑性樹脂の射出成形法が用いられ、完充填しうる条件で、そり、引け、収縮等を抑制しうる条件を選択する通常の条件で成形すれば、とくにその条件は限定されない。
【0048】
そして、前記のようにして得られる中心線平均粗さ(Ra)が1μm以下である平滑表面を有する樹脂成形体基材に厚み0.1〜0.4μmの透明性金属薄膜を成膜することにより干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体が得られる。
【0049】
なお、前記透明性金属薄膜における透明性とは、模様が付された樹脂成形体基材表面に金属薄膜を形成しても、前記模様の視認性を殆ど妨げない程度の透明性を意味する。
【0050】
前記透明性金属薄膜としては、各種金属の金属酸化物や金属窒化物から形成される透明性金属薄膜、具体的には、例えば、アルミニウム、クロム、ニッケル、マグネシウム、スズ、ジルコニウム、鉄、チタン及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素の金属酸化物や金属窒化物等が用いられ得る。これらの中では、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化スズ、窒化チタンが発色性に優れている点から好ましい。
【0051】
前記透明性金属薄膜の形成方法の具体例としては、例えば、物理的気相蒸着法(PVD法)としては真空蒸着法、分子線エピタキシー法(MBE法)、スパッタリング法、イオン化蒸着法、レーザーアブレーション法、イオンクラスタービーム法等が挙げられ、化学的気相蒸着法(CVD法)としては熱CVD法、プラズマCVD法、有機金属CVD法(MOCVD法)、化学輸送法(CVT法)、基板反応法等が挙げられ、液相成長法としては液相エピタキシー法、トラベリングソルベント法、ソース電流制御法等が挙げられる。また、その他の方法として、ゾル−ゲル法、LB法、無電解めっき法等も用いることができる。これらの中では、膜厚及び膜質の制御性、汎用性、生産性等に優れている点から、真空蒸着法、スパッタリング法、イオン化蒸着法、プラズマCVD法、ゾル−ゲル法が好ましい。
【0052】
真空蒸着法は、電子ビームや抵抗加熱器で膜を形成するターゲットを加熱蒸発させて、基板に堆積成膜させる方法である。蒸着条件としては、蒸着時の初期真空度を1×10−2Pa以下、好ましくは1×10−3Pa以下にまで減圧した後、5×10−6〜1×10−2μm/秒で蒸着することが好ましい。
【0053】
スパッタリング法は、非熱平衡グロー放電プラズマ雰囲気やイオン源からのイオンビームによって供給されるアルゴンイオン等の高運動エネルギー粒子を膜に用いるターゲットに衝突させて、ターゲットの放出粒子を得、基板に堆積成膜する方法である。
【0054】
プラズマCVD法は、水素化アモルファスSi膜の形成方法として広く用いられている方法である。例えば、シラン(SiH4)ガスを高周波グロー放電によって分解して基板に堆積成膜する方法である。その条件の具体例としては、例えば、放電時の全圧が0.1〜1torr(13〜130Pa)、アルゴンまたは水素で希釈されている場合のガス濃度10%以上、ガス流量50〜200ml/min、投入パワー数十〜数百mW/cm2等の条件が選ばれる。
【0055】
なお、前記透明性金属薄膜は、アンダーコートのような下塗り処理せずに、樹脂成形体基材の表面に直接成膜することが必要である。アンダーコート層を形成することにより、成形体基材と透明性金属薄膜の屈折率の差で生じる干渉色が、アンダーコート層の屈折率の違いにより界面によって損なわれるためである。また、膜厚が不均一な場合には色むらが生じるためである。
【0056】
前記透明性金属薄膜は複数種重ねて形成することにより、干渉色の色調を調整することもできる。また、前記透明性金属薄膜を形成させる際には、予めプラズマ処理等により樹脂成形体基材表面を活性化させて透明性金属薄膜との密着性を高めることもできる。
【0057】
前記金属薄膜の膜厚は、0.1〜0.4μmである。前記膜厚が0.1μm未満の場合及び0.4μmを超える場合には干渉色が生じにくい。また、膜厚が厚すぎる場合には、金属薄膜が割れやすくなる傾向がある。
【0058】
本発明の干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体は上述したように、バリエーションに富んだ発色性を示す干渉色金属調表面を備えたものであり、自動車内装部材、電気製品のハウジング部材、各種化粧板はもとより、自動車や二輪車などの照明灯具や施設照明などの部品にカラーデザインに優れ、高級感のある外観を付与しうる樹脂成形体として好適に使用できる。また、製造時においては、カラートップコートやアンダーコート等の塗装工程を必要としないために、色むらが少なく、不良品の発生が少ないものである。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0060】
はじめに本実施例で用いた、表面処理された無機フィラーの製造及び熱可塑性樹脂組成物の製造について説明する。
【0061】
(製造例1)表面処理された無機フィラーの製造
湿式撹拌機を用い、純水100部(質量部、以下同様)に対し、膨潤性雲母(コープケミカル社製ソマシフME100)10部を撹拌混合した。ついで、主鎖にビスフェノールA単位を含有するポリエチレングリコール(東邦化学社製のビスオール)1.6部を添加して更に15〜30分間撹拌混合を続けることによって表面処理した。その後、乾燥して粉体化することにより表面処理された無機フィラーが得られた。
【0062】
(製造例2)熱可塑性樹脂組成物の製造
実施例5〜7,9,10、及び比較例3及び4において、樹脂成形体基材の成形に用いた樹脂組成物は以下のようにして得た。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(KOLON社製のKP210)、製造例1で得られた表面処理された無機フィラー、マイカ、着色材等を表1に記載の樹脂組成に従ってドライブレンドして配合物を得た。そして、前記配合物を二軸押出機により溶融混練し、ペレット化して熱可塑性樹脂組成物を得た。
なお、表1中の実施例5〜7で用いた熱可塑性樹脂組成物中の無機フィラーの数平均等価面積円直径を測定すると0.165μmであった。一方、表1中の比較例3及び4で用いた熱可塑性樹脂組成物中のマイカの数平均等価面積円直径を測定すると1.91μmであった。
【0063】
(実施例1)
[樹脂成形体基材の製造]
1μmのダイヤモンドペーストで鏡面研磨した中心線平均粗さ(Ra)が0.08μmの平滑表面を有する120×120×2(mm)の平板試験片の金型を用い、ポリブチレンテレフタレート樹脂(KOLON社製のKP210)を射出成形することにより白色の平板形状の樹脂成形体基材を得た。
【0064】
なお、このときの成形条件を以下に示す。
射出成形機:日精樹脂工業社製のFN1000
金型温度:設定温度60℃、
樹脂温度:設定温度220℃〜260℃
【0065】
そして、得られた樹脂成形体基材の表面状態をレーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−9510)で測定した結果、中心線平均粗さ(Ra)が0.06μmの平滑表面を有していた。
【0066】
次に、前記樹脂成形体基材の表面にスパッタリング装置(島津製作所製のHSM−421)により、アルミニウムターゲットを用い、バックグラウンド圧:約1×10−3〜9×10−3torr,アルゴン流量:約15ml/分,RF電源,印加電力:800W,スパッタ時間:600秒の条件で、厚み0.105μmのアルミニウムの金属薄膜を形成した。前記形成された0.105μmのアルミニウム薄膜表面の拡散反射率をミラー反射率計(東京電色(株)製、TR−1100AD)で測定したところ、拡散反射率は0.8%であった。
【0067】
[透明性金属薄膜の形成]
前記平滑表面を有する樹脂成形体基材の表面に前記スパッタリング装置を用い、アルミニウムターゲットの代わりに酸化チタンターゲットを用い、印加電力を1000Wにした以外は前記アルミニウム薄膜の形成条件と同様の条件で厚み0.12μmの酸化チタン薄膜を形成した。
【0068】
[評価]
〈外観〉
酸化チタン薄膜が形成された樹脂成形体の色調及び色むらの有無を目視により観察した。
〈良品率〉
酸化チタン薄膜が形成された樹脂成形体50個のうち、外観の色むらの発生した個数を数え、色むらの発生しなかった樹脂成形体の割合を算出した。
〈耐熱性〉
酸化チタン薄膜が形成された樹脂成形体50個を160℃で12時間熱処理した。そして、外観の色むらが発生した個数を数え、色むらの発生しなかった樹脂成形体の割合を算出した。
【0069】
(実施例2〜10及び比較例1〜4)
表1に記載の樹脂成形体基材を用い、表1に記載の透明性金属薄膜を形成した以外は実施例1と同様にして、透明性金属薄膜が形成された樹脂成形体を得、評価した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
本発明に係る実施例1〜10の樹脂成形体はいずれも、青色、ゴールド色、赤色、緑色等のバリエーション豊かな干渉色を示し、また、色むらも殆ど生じなかった。
【0072】
一方、透明性金属薄膜の厚みが、実施例の樹脂成形体に比べて厚い比較例1の樹脂成形体の表面、及び、実施例の樹脂成形体に比べて薄い比較例2の樹脂成形体の表面には干渉色は見られなかった。
【0073】
また、樹脂成形体基材の表面粗さが実施例の樹脂成形体に比べて高い比較例3及び比較例4の樹脂成形体の表面には、干渉色は見られたが、半数以上の成形品に色むら(メラメラ感)が生じた。
【0074】
(比較例5)
樹脂成形体基材の表面にアンダーコートを塗布した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン薄膜を形成し、評価した。外観には干渉色は見られたが、アンダーコートにより膜厚が不均一になり、色むらが生じた。
【0075】
(比較例6)
実施例1で用いたのと同様の樹脂成形体基材の表面に0.1μmのアルミニウム薄膜からなる反射膜を形成した後、前記反射膜表面に青色のカラークリアートップコートを塗布することにより、干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体を得た。青色の干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体が得られたが、良品は50個のうち26個であり、良品率は52%であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の樹脂成形体はバリエーションに富んだ発色を示す干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体であり、その製造においては、カラートップコート等のような塗装工程を用いて着色する必要がないために、色むらの発生による不良品の発生率が低い。従って、自動車内装部材、電気製品のハウジング部材、各種化粧板はもとより、自動車や二輪車などの照明灯具や施設照明などの外観部品に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線平均粗さ(Ra)が1μm以下である平滑表面を有する樹脂成形体基材の前記平滑表面に厚み0.1〜0.4μmの透明性金属薄膜を形成することにより得られる干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体。
【請求項2】
前記平滑表面を有する樹脂成形体基材が、その平滑表面に0.1〜0.15μmの厚みのアルミニウム薄膜を形成させたときの拡散反射率が2%以下になるような平滑表面を備える樹脂成形体基材である請求項1に記載の干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体。
【請求項3】
前記平滑表面を有する樹脂成形体基材が、着色された樹脂成形体基材である請求項1または請求項2に記載の干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体。
【請求項4】
前記透明性金属薄膜が、アルミニウム、クロム、ニッケル、マグネシウム、スズ、ジルコニウム、鉄、チタン及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素の金属酸化物又は金属窒化物から形成される透明性金属薄膜である請求項1〜3の何れか1項に記載の干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体。
【請求項5】
前記透明性金属薄膜が、蒸着、スパッタリング及びイオンプレーティングからなる群から選ばれる少なくとも一種の成膜方法により形成される透明性金属薄膜である請求項1〜4の何れか1項に記載の干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体。
【請求項6】
前記平滑表面を有する樹脂成形体基材が、鏡面研磨仕上げされたキャビティー表面を有する金型に、平均等価面積円直径0.5μm以下の無機フィラー成分を含有し、且つ、平均等価面積円直径0.5μmを超える無機フィラー成分を含有しない熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより形成されうるものである請求項1〜5の何れか1項に記載の干渉色金属調表面を備えた樹脂成形体。

【公開番号】特開2007−327108(P2007−327108A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159633(P2006−159633)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】