説明

平版印刷版

【課題】長期保存後の平版印刷版の版面の部位による感度差が少なく、保存性が良好で、印刷画質が良好な平版印刷版を提供する。
【解決手段】支持体上の一方の面に少なくとも下塗層、ハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層をこの順に有する平版印刷版であり、該ハロゲン化銀乳剤層を有する側の層の少なくとも1層に現像主薬を含有し、前記支持体の他方の面に裏塗り層を有する平版印刷版において、該裏塗り層が2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物を含有することを特徴とする平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀錯塩拡散転写法を応用した平版印刷版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀錯塩拡散転写法(DTR法)を用いた平版印刷版、特にハロゲン化銀乳剤層の上に物理現像核層を有する平版印刷版は、例えば、米国特許第3,728,114号明細書、米国特許第4,134,769号明細書、米国特許第4,160,670号明細書、米国特許第4,336,321号明細書、米国特許第4,501,811号明細書、米国特許第4,510,228号明細書、米国特許第4,621,041号明細書等に記載されており、露光されたハロゲン化銀結晶は、DTR現像により化学現像を生起し黒色の銀となり親水性の非画線部を形成し、一方、未露光のハロゲン化銀結晶は現像液中の銀塩錯化剤により銀塩錯体となって表面の物理現像核層まで拡散し、核の存在により物理現像を生起してインキ受容性の物理現像銀を主体とする画線部を形成する。
【0003】
DTR現像は処理液中に現像主薬を添加するディベロッパータイプと、平版印刷版のハロゲン化銀乳剤層を有する側の少なくとも1層に現像主薬が添加され、液中に現像主薬を含まないアクチベータータイプの2種類の現像方法に分けることができるが、保存性及びランニング処理適性が良好なことからアクチベータータイプが主として用いられている。例えば、特開平11−295898号公報等に記載されている。
【0004】
上記平版印刷版は、支持体として紙、プラスチックフィルム、及びそれらの複合材料が一般に用いられており、製版装置(露光機、プロセッサー)における搬送性、帯電防止性、及びカール性改良の目的で裏塗り層が設けられている。これらの裏塗り層は、ハロゲン化銀乳剤層を有する側の親水性コロイドバインダーとのカールバランスを保つために、ハロゲン化銀乳剤層面とほぼ同量のバインダーが用いられている。
【0005】
特に、紙やプラスティック樹脂フィルム等を支持体とする印刷版は、アルミニウム印刷版に比べ剛直度や耐版伸び性が劣るために、印刷機への版掛けには色々な問題が発生する。版掛け時の見当精度の向上のために特開平11−91256号公報、特開平11−105446号公報(特許文献1、2)には、裏塗り層に粒径の大きなマット剤を用いる平版印刷版や中心線粗さRaの大きい裏塗り層を用いる平版印刷版が提案されている。しかし、上記の様なマット剤の粒径やRaの大きい裏塗り層を用いた平版印刷版を用いると感光面側の現像主薬が裏塗り層に転移するために保存性が低下するという問題があった。
【0006】
特開2000−214589号公報(特許文献3)にはポリマーラテックスを含有する裏塗り層を用いた保存後の感度及び耐刷力の低下の小さいDTR平版印刷版が提案されている。しかし、上記の裏塗り層にポリマーラテックスを含有するDTR平版印刷版は、経時保存後の感度及び耐刷力の低下が抑えられるものの、経時により平版印刷版の版面の部位により感度差が発生するという問題があった。通常、紙やプラスティック樹脂フィルム等を支持体とするDTR平版印刷版は製版装置のサイズに合わせた巾に揃えられてロールに巻き取られた状態で出荷される。出荷当初はロールの巾方向、ロールの下巻部と上巻部での実用的に問題になる様な感度差を有していない。しかし、上記のポリマーラテックスを有する裏塗り層を用いた場合、長期保存、特に、高温や高湿度下で長時間保存したDTR平版印刷版は、ロールの巾方向の中央部と両端部とで、あるいはロールの上巻部と下巻部とで感度差が発生することが分った。このため、製版物の両端と中央部で均一な製版画像が得られなかったり、製版中に感度が変動したりする結果、細線画像やカラー印刷物のハイライト部の再現性が低下し印刷物の画質が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平11−91256号公報
【特許文献2】特開平11−105446号公報
【特許文献3】特開2000−214589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
長期保存後の平版印刷版の版面の部位による感度差が少なく、保存性が良好で、印刷画質が良好な平版印刷版を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は支持体上の一方の面に少なくとも下塗層、ハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層をこの順に有する平版印刷版であり、該ハロゲン化銀乳剤層を有する側の層の少なくとも1層に現像主薬を含有し、前記支持体の他方の面に裏塗り層を有する平版印刷版において、該裏塗り層が2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物を含有することを特徴とする平版印刷版により達成された。
【発明の効果】
【0009】
長期保存後も版面の部位による感度差が少なく、保存性が良好で、印刷画質が良好な平版印刷版が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は支持体上の一方の面に少なくとも下塗層、ハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層をこの順に有する平版印刷版であり、ハロゲン化銀乳剤層を有する側の層の少なくとも1層に現像主薬を含有し、前記支持体の他方の面に裏塗り層を有する平版印刷版において、該裏塗り層が2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物を裏塗り層に含有するハロゲン化銀拡散転写用平版印刷版である。上記裏塗り層はバインダー及びマット剤で構成されており、上記2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物はマット剤の一部又は全部として用いられる。
【0011】
銀錯塩拡散転写法を用いた平版印刷版の裏塗り層には従来からコロイダルシリカの様な無孔質の親水性金属酸化物微粒子や、該親水性金属酸化物微粒子(一次粒子)の凝集した微粒子集合体(二次粒子)であるシリカマット剤などの親水性金属酸化物微粒子が用いられてきた。しかしコロイダルシリカ粒子間の間隙やシリカマット剤の1次粒子間の間隙を水分のみならず、現像主薬が浸透、透過する結果、平版印刷版の経時保存時にハロゲン化銀乳剤層側から裏塗り層側への現像主薬の転移が生じ、現像に寄与する現像主薬量が低下する結果、感度や保存性が低下するという問題があった。前記特開2000−214589号公報(特許文献3)にはポリマーラテックスを含有する裏塗り層によりハロゲン化銀乳剤層側から隣接する裏面への現像主薬の転移が抑制される結果、保存性が改善することが記載されているが、前記した様に保存後の版面の部位による感度差が生じるという問題があった。従来の親水性金属酸化物微粒子間の間隙やシリカマット剤の一次粒子間の間隙への現像主薬の浸透、透過を抑制する為にポリマーラテックスが使用される。本発明者はポリマーラテックスは現像主薬の転移のみならず水分の浸透をも抑制する結果、ハロゲン化銀乳剤層側の親水性コロイド層中に水分が局所的に閉じ込められることにより版面の部位により感度差が発生したのではないかとの仮説に基づいて水分の浸透を抑制することなく現像主薬の転移を抑制する方法を模索し、本発明に至ったものである。
【0012】
従来から裏塗り層に用いられてきたコロイダルシリカは無孔質であり、表面は親水性であるものの、それ自体が水透過性を示すわけではなく、裏塗り層中の水分の浸透はコロイダルシリカ粒子間の間隙を通過するものであり、水分だけでなく現像主薬もその間隙を通過してしまう。また、一次粒子の凝集により形成されたシリカマット剤の細孔は一次粒子の間隙に由来するものであり、3〜50nmに幅広い細孔分布を有し、実質的に2nm未満の細孔を有していないため、シリカマット剤の細孔は水分だけでなく現像主薬も通過してしまう。ここで、実質的に2nm未満の細孔を有していないとは、後述するモレキュラー・プルーブ法を用いる細孔分布測定において2nm未満の細孔の存在が確認できないことを意味する。
【0013】
本発明の裏塗り層に含有される無機多孔質化合物は、該細孔を通して水分子は通過できるがハイドロキノンの様な現像主薬は透過できない2nm未満の細孔から成る3次元網目状の構造を有する多孔質化合物である。裏塗り層中に該多孔質化合物を用いることによって、ポリマーラテックスの使用によっても経時保存時にハロゲン化銀乳剤層側と裏塗り層側の水分の透過を抑制することなく、ハロゲン化銀乳剤層側から裏塗り層側への現像主薬の転移を抑制することができる。
【0014】
本発明の2nm未満の細孔を有する好ましい無機多孔質化合物としてはゼオライトやその類似化合物が挙げられる。ゼオライトは結晶性アルミノケイ酸塩の総称であり一般式M2/nO・Al23・xSiO2・yH2Oで表され、天然及び合成ゼオライトとして各種のものを用いることが出来る。ここで、nは陽イオンMの原子価、xは2以上の整数、yは0以上の整数を表す。ゼオライトは一般に四面体構造TO4(SiO4やAlO4-など)が頂点のO原子を共有して4、6、8または12個連結して、4員環、6員環、8員環、12員環や、これらの4、6、8、12員環が夫々2つ重なった4員2重環、6員2重環、8員2重環、12員2重環等からなる0.3〜1.3nmの細孔が三次元的に連続して繋がった三次元ネットワークの骨格構造を有し、その骨格構造を基本的に保ったまま交換可能な陽イオン(交換性陽イオン、骨格外陽イオン)と吸脱着可能な水分子が存在するという特徴を有する。AlO4-はマイナス電荷を持つため、陽イオンMにより電気的中性が保たれている。陽イオンとしては、プロトン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、銅、銀、コバルト、ニッケル、マンガンなどが好ましく用いられる。T原子のSiやAlの代わりに、PやGaなどのIIB〜VB族元素やAlPO4の様に交換性陽イオンを含まないゼオライト類似化合物を用いることもできる。各種ゼオライトやゼオライト類似化合物の細孔形状はX線回折法により詳しく調べられており、例えば、IZA(International Zeolite Association:国際ゼオライト連合)監修のATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES、ELSEVIER出版(2001年、AMSTERDAM)を参照し得る。
【0015】
本発明の2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物の代表例として、ユニオンカーバイト社のNa12(Al12Si1248)・27H2Oの組成で表されるゼオライトA、Na86(Al86Si106384)・264H2Oの組成で表されるゼオライトX、Na56(Al56Si136384)・250H2Oの組成で表されるゼオライトY、K9(Al9Si2772)・22H2Oの組成で表され0.71nmの細孔径を有するゼオライトL、モービル社のNan(AlnSi96-n192)・16H2O(ここで、n<27)の組成で表されるゼオライトZSM−5、Al181872・42H2Oの組成で表されるゼオライトVSI−5などの合成ゼオライト、K2Ca1.5Na(Al6Si1032)・12H2Oの組成で表されるフィリップサイト、K4Na4(Al8Si832)・10H2Oの組成で表されるアミサイト、Na22Mg0.5Ca2(Al9Si2772)・27H2Oの組成で表されるエリオナイト、Na16(Al16Si3296)・16H2Oの組成で表されるアナルサイム、KCa2(Al5Si1336)・15H2Oの組成で表されるオフレタイト、Li2(Al2Si412)・2H2Oの組成で表されるビキタイト、Na8(Al8Si4096)・24H2Oの組成で表されるモルデナイト、Na1.5Mg2(Al5.5Si30.572)・18H2Oの組成で表されるフェリエライトなどの天然ゼオライトが挙げられる。
【0016】
本発明において2nm未満の細孔径は、特開2007−216118号公報等に記載のモレキュラー・プローブ法(MP法)で測定された細孔径を指す。MP法は細孔径より分子サイズの大きい吸着分子は細孔内に進入し難いために吸着し難いことを利用して、分子サイズの異なる数種類の気体を用いて吸着等温線を測定し、分子径と細孔容積から細孔径分布を測定する方法であり、例えば、(株)島津製作所製比表面積・細孔分布測定装置アサップ2020シリーズ等を用いた測定により求めることができる。
【0017】
本発明の平版印刷版の裏塗り層に含有する2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物の粒径としては、10nm〜10μmの範囲のものを用いることが出来るが、好ましくは50nm〜5μmの範囲である。粒径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置、例えば堀場製作所製LA920等を用いて測定することが出来る。
【0018】
本発明の平版印刷版の裏塗り層が含有する2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物の好ましい含有量は、0.05〜3.0g/m2、好ましくは0.1〜1.5g/m2の範囲である。
【0019】
本発明の平版印刷版の裏塗り層には、バインダーとして親水性コロイド、例えばゼラチン、澱粉、デキストリン、アルブミン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体、特開2000−214589号公報に記載のポリマーラテックスなどを用いることが出来る。裏塗り層のバインダー添加量は、本発明の2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物1質量部に対して1/100〜100質量部の範囲で用いることが出来、好ましくは1/20〜20質量部の範囲である。更に裏塗り層には、硬膜剤を含有する。硬膜剤としては、例えばクロム明ばんの様な無機化合物、ホルマリン、グリオキザール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドの様なアルデヒド類、尿素やエチレン尿素等のN−メチロール化合物、ムコクロル酸、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサンの様なアルデヒド等価体、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩や、2,4−ジヒドロキシ−6−クロロ−トリアジン塩の様な活性ハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、ジビニルケトンやN,N,N−トリアクロイルヘキサヒドロトリアジン、活性な三員環であるエチレンイミノ基やエポキシ基を分子中に二個以上有する化合物類、高分子硬膜剤としてのジアルデヒド澱粉等の種々の化合物の一種もしくは二種以上を用いることができる。裏塗り層中のバインダー量は、感光層側の総バインダー量とほぼ同量のバインダー量であり、凡そ0.5〜8g/m2の範囲で用いられる。
【0020】
本発明に用いられる裏塗り層のマット剤としては、前記2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物そのものをマット剤として単独で用いることが出来る他、他のマット剤を併用して用いることが出来る。好ましいマット剤として、シリカ粒子、ポリスチレン等のポリマー粒子などが挙げられる。マット剤の形状として球状、無定形、平板状マット剤等がある。マット剤の平均粒径は0.1〜10μm程度で、好ましくは0.3〜7μm程度である。上記マット剤の添加量は、前記2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物100質量部に対して、0〜40質量部、好ましくは0〜20質量部の範囲である。
【0021】
本発明の平版印刷版は、支持体上にハレーション防止を兼ねた下塗り層、ハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層をこの順に有する。現像主薬は、ハロゲン化銀乳剤層を有する感光面側の構成層、即ち、ハロゲン化銀乳剤層、物理現像核層及び/または下塗り層に含有させる。感光面側に含有させる現像主薬の量は、現像主薬を実質的に含有しないアルカリ性活性化液(現像液)で現像するのに必要な量である。現像主薬の含有量は、平版印刷版のハロゲン化銀の組成や銀量、物理現像核の種類、現像液のpH、温度等の処理条件や現像主薬の種類等によって、最適な量は変わってくるので、適宜調整する必要がある。
【0022】
上記現像主薬としては、ハイドロキノン、カテコール、クロロハイドロキノン、ピロガロール、イソプロピルハイドロキノン、メチルハイドロキノン等のジヒドロキシベンゼン系現像主薬、1−フェニル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−4,4−ジメチル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−4,4−ジヒドロキシメチル−3−ピラゾリドン等のピラゾリドン類、パラアミノフェノール、メトール等のアミノフェノール類等が挙げられる。
【0023】
本発明において、物理現像核層に現像主薬としてハイドロキノンを含有させるのが好ましく、その含有量は0.4〜2g/m2の範囲が適当である。更に、前述のピラゾリドン類あるいはアミノフェノール類を併用するのが好ましい。また更に、ハロゲン化銀乳剤層及び/または下塗り層にも、前記ピラゾリドン類を含有するのが好ましい。感光面側の現像主薬の好ましい組み合わせは、ピラゾリドン類をハイドロキノン1質量部に対して1/20〜1/2質量部の範囲で組み合わせて用いることである。
【0024】
本発明に用いる下塗り層のバインダー量は0.5〜8g/m2とすることが好ましく、より好ましくは1〜5g/m2である。また、該下塗り層には耐印刷性向上のために平均粒径0.1〜10μmの固形粉末(例えばシリカ粒子)、更に現像主薬等の写真用添加物等も含むことが出来る。下塗り層は前記したように、ハレーション防止層を兼ねるので、カーボンブラックや着色染料、あるいはその他の着色顔料を含有する。
【0025】
ハロゲン化銀乳剤層は当分野で公知のものを全て用いることが出来るが、好ましくは高感度ハロゲン化銀感光材料、高温迅速処理用ハロゲン化銀感光材料に用いられる乳剤層等が挙げられる。
【0026】
ハロゲン化銀乳剤層が含有するハロゲン化銀結晶は、例えば、塩化銀、臭化銀、塩臭化銀、及びこれらに沃化銀を含む結晶からなる。また、ハロゲン化銀結晶はロジウム塩、イリジウム塩、パラジウム塩、ルテニウム塩、ニッケル塩、白金塩等の重金属塩を含んでいてもよく、ハロゲン化銀の結晶形態に特に制限はなく、立方体ないし14面体粒子、更にはコアシェル型、平板状粒子でもよい。ハロゲン化銀結晶は、単分散、多分散結晶のどちらであってもよく、その平均粒経は0.2〜0.8μmの範囲であることが好ましい。好ましい例の一つとしては、ロジウム塩もしくはイリジウム塩または両方を含む、塩化銀が70モル%以上の単分散もしくは多分散結晶が使用できる。
【0027】
ハロゲン化銀乳剤は、それが製造される時又は塗布される時に種々の方法で増感することが出来る。例えば、チオ硫酸ナトリウム、アルキルチオ尿素によって、又は金化合物、例えばロダン金、塩化金によって、又はこれらの両者の併用等当該技術分野においてよく知られた方法により化学的に増感することが好ましい。また、ハロゲン化銀乳剤は、例えばシアニン、メロシアニン等の色素によって増感され得る。
【0028】
ハロゲン化銀乳剤層の上部に存在する表面層には物理現像核を含む。物理現像核としては銀、アンチモン、ビスマス、カドミウム、コバルト、鉛、ニッケル、パラジウム、ロジウム、金、白金等の金属コロイド微粒子や、これらの金属の硫化物、多硫化物、セレン化物、又はそれらの混合物、混晶であってもよい。物理現像核の塗布量は1〜100mg/m2の範囲である。物理現像核には親水性バインダーを含んでいてもいなくてもよいが、ゼラチン、澱粉、ジアルデヒド澱粉、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ポリスチレンスルホン酸、ビニルイミダゾールとアクリルアミドの共重合体、ポリビニルアルコール等の親水性高分子又はそのオリゴマーを含むことが出来、その含有量は0.5g/m2未満であることが好ましい。更に物理現像核層には、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、カテコール等の現像主薬や、ホルマリン、ジクロロ−s−トリアジン等の公知の硬膜剤を含んでもよい。
【0029】
上記した下塗り層、ハロゲン化銀乳剤層、更には物理現像核層はゼラチン硬膜剤で硬化することが出来る。ゼラチン硬膜剤としては、例えばクロム明ばんの様な無機化合物、ホルマリン、グリオキザール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドの様なアルデヒド類、尿素やエチレン尿素等のN−メチロール化合物、ムコクロル酸、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサンの様なアルデヒド等価体、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩や2,4−ジヒドロキシ−6−クロロ−トリアジン塩の様な活性ハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、ジビニルケトンや1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、活性な三員環であるエチレンイミノ基やエポキシ基を分子中に二個以上有する化合物類、高分子硬膜剤としてのジアルデヒド澱粉等の種々の化合物の一種もしくは二種以上を用いることが出来る。
【0030】
硬膜剤はすべての層に添加することも出来、幾つか又は一層にのみ添加することも可能である。勿論、拡散性の硬膜剤は二層以上を同時塗布する場合には、何れか一層にのみ添加することが可能である。添加方法は乳剤製造時に添加したり、塗布時にインラインで添加することも出来る。
【0031】
本発明で使用する現像処理液は、現像主薬を実質的に含有しないアルカリ性活性化処理液であることが好ましい。該現像液のpHは12〜14の範囲が適当であり、アルカリ剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、第三リン酸ナトリウム等を含有する。他に、亜硫酸塩等の保恒剤、チオ硫酸塩、チオシアン酸塩、環状イミド、2−メルカプト安息香酸、アルカノールアミン、メソイオン、チオエーテル等のハロゲン化銀溶剤、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の粘稠剤、臭化カリウム、特開昭47−26201号公報に記載のカブリ防止剤、ポリオキシアルキレン化合物、オニウム化合物等の現像調整剤を含むことが出来る。さらに現像処理液には、米国特許第3,776,728号明細書に記載の如き表面銀層のインキ乗りを良くする化合物等を使用することが出来る。
【0032】
本発明の平版印刷版の現像後の表面銀層は、任意の公知の表面処理剤でインキ受容性に変換ないしは受容性を改善させることも出来る。印刷方法、あるいは使用する不感脂化液、吸湿液等は普通によく知られた方法により施すことも出来る。
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、無論この記述により本発明が制限されるものではない。
【実施例1】
【0034】
厚さ175μmの下引き済みポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、ゼラチン3g/m2、日本エーアンドエル株式会社製スチレン−ブタジエンラテックスPA9281(固形分48質量%)0.6g/m2、本発明の2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物または/およびマット剤、硬膜剤(2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジンナトリウム)及び界面活性剤を含有する裏塗り層を塗布した。表1に用いた2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物の種類、粒径、細孔径、細孔容積、添加量及び、マット剤の粒径、添加量を示した。粒径の測定は(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA920を用い、細孔径、細孔容積の測定はモレキュラー・プローブ法(MP法)を用いて(株)島津製作所製比表面積・細孔分布測定装置アサップ2020で行った。細孔容積の算出にはDA法(M.M.Dubinin,V.A.Astakhov,Adv.Chem.Series,102,69(1970))を用いた。
【0035】
【表1】

【0036】
なお、比較例1の裏塗り層に含有される無機多孔質化合物は特開2000−79756号公報の実施例3に記載の方法に準拠して以下の方法で合成したメソ孔シリカである。
【0037】
(比較例1のメソ孔シリカの合成)
エタノール8質量部にテンプレートとしてヘキサデシルアミン1質量部を加え溶解させ、ついでテトラエトキシシラン4質量部を撹拌しながら添加した。この混合物を20℃で24時間静置し反応させた。得られた複合体を濾過、水洗後48時間風乾し、シリカとテンプレートの複合体粉末を得た。得られた白色粉末1質量部に対して100質量部のエタノールに分散させ、60℃で30分撹拌した後、これを濾過し、上部から100質量部のエタノールを入れ洗浄した。この操作を2回くり返した後、70℃で24時間乾燥し、湿式ボールミルで粉砕し平均粒径2μmの粉体試料を得た。実施例1と同様に(株)島津製作所製比表面積・細孔分布測定装置アサップ2020を用いてモレキュラー・プローブ法(MP法)で細孔分布、細孔容積を求めたところ、細孔径は2.8nm、細孔容積は1.26g/m2であり2nm未満の細孔は検出されなかった。
【0038】
比較例2の裏塗り層にはシリカマット剤として富士シリシア化学製サイリシア310を用いた。これは数nmの一次粒子の凝集により形成された2nm未満の細孔を持たない平均粒径2μmの2次凝集シリカ粒子である。実施例1と同様に(株)島津製作所製比表面積・細孔分布測定装置アサップ2020を用いてモレキュラー・プローブ法(MP法)で細孔分布、細孔容積を求めたところ、2nm未満の細孔は検出されなかった。また、上記アサップ2020を用いて、窒素の吸脱着等温線を測定した後、BJH法(Barett−Joyner−Halenda法、J.Am.Chem.Soc.,73,373(1951))を用いて細孔分布、細孔容積を求めたところ、3〜50nmに幅広い分布を持ち(平均細孔径21nm)、3〜50nmの範囲の細孔容積は2.6g/m2であった。
【0039】
上述した裏塗り層を設けた支持体の反対面にカーボンブラック0.3g/m2、及び平均粒径3.5μmのシリカマット剤(富士シリシア化学製サイリシア445)0.9g/m2を含む下塗り層(ゼラチン3.5g/m2)と、その上に1−フェニル−3−ピラゾリドン0.1g/m2を有する長波長増感(600nm〜700nm)された高感度塩化銀乳剤(ゼラチン0.8g/m2含む)を硝酸銀として1.0g/m2になるように、二層同時塗布を行った。硬膜剤としては、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジンナトリウムを下塗り層に170mg/m2含有させ、乳剤層にはN−メチロールエチレン尿素を80mg/m2含有させた。乾燥後、40℃、5日加温後、特開平8−211614号公報実施例1(P−2のポリマーを使用)に記載の核塗布液を塗布、乾燥、裁断、仕上加工を施し、該平版印刷版を外径165mmのプラスチックコアの上に巻きつけて幅750mm×長さ31mのロール仕様の平版印刷版を作製した。
【0040】
上記平版印刷版を50℃60%RH(相対湿度)で2週間強制加温した。フレッシュ(未加温)の平版印刷版と上記強制加温した平版印刷版をそれぞれ三菱製紙株式会社製の赤色LD出力機FREDIA(露光波長:660nm、露光方式:内面ドラム)で製版を行った。露光は2540dpiで175lpiの網点画像の出力を行い、内蔵プロセッサーにより下記組成の銀錯塩拡散転写現像液で30℃20秒間現像処理後、下記組成の中和液で20秒間中和処理し、ドライヤーで乾燥し750mm(幅)×680mm(長さ)の版を45版製版した。
【0041】
<転写現像液>
水 700質量部
水酸化カリウム 20質量部
無水亜硫酸ナトリウム 50質量部
2−メルカプト安息香酸 1.5質量部
2−アミノエチルアミノエタノール 15質量部
水を加えて 1000質量部
とする。
【0042】
<中和液>
水 600質量部
クエン酸 10質量部
クエン酸ナトリウム 35質量部
コロイダルシリカ(20質量%液) 5質量部
エチレングリコール 5質量部
水を加えて 1000質量部
とする。
【0043】
<感度の評価>
前記のフレッシュ及び経時加温したロール状の各平版印刷版の上巻中央部、上巻端部、下巻中央部、下巻端部の4点の感度を求めた。感度は5%と95%の網点の大きさが同一になる時のレーザーパワー値の逆数(相対値)で表し、比較例2の平版印刷版の上巻中央部のフレッシュでの感度を100とした時の相対感度の平均値で表した。ここで、平版印刷版の上巻中央部、上巻端部、下巻中央部、下巻端部とはそれぞれ、以下の部分を表す。結果を表2に示す。
上巻中央部:1〜5版目の両端から375mm内側の部分
上巻端部:1〜5版目の両端から50mm内側の部分
下巻中央部:40〜45版目の両端から375mm内側の部分
下巻端部:40〜45版目の両端から50mm内側の部分
【0044】
<画像再現性の評価>
前記のロール状の各平版印刷版のフレッシュ及び経時加温夫々の上巻中央部で5%と95%の網点の大きさが同一になる時のレーザーパワー値で上巻部及び下巻部の版を製版した。ここで、上巻部および下巻部とはそれぞれ1〜5版目及び40〜45版目の版を指す。上記平版印刷版を小森コーポレーション社製オフセット印刷機リスロン26に装着し、下記の感脂化液を版面にくまなく与え、下記給湿液を用いて印刷を行った。インキは大日本インキ製造株式会社製のトランス−G−N(墨)を、印刷用紙は三菱製紙株式会社製パールコートAを用いた。
【0045】
<感脂化液>
水 600質量部
イソプロピルアルコール 400質量部
エチレングリコール 50質量部
3−メルカプト−4−アセトアミド−5−n−ヘプチル−1,2,4−トリアゾール
1質量部
【0046】
<給湿液>
o−リン酸 5質量部
硝酸ニッケル 2.5質量部
亜硝酸ナトリウム 2.5質量部
エチレングリコール 50質量部
コロイダルシリカ(20質量%液) 14質量部
水を加えて 1000質量部
とする。
【0047】
各平版印刷版の上巻中央部、上巻端部、下巻中央部、下巻端部の5%網点の印刷物物上での網点面積率をそれぞれ測定した。網点面積率の平均値を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2の結果から、2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物を裏塗り層に含有する本発明の平版印刷版は強制加温後の感度の変化や強制加温後の版面の部位による感度の差が少なく、版全面に亘って均質な網点再現性を示すことが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上の一方の面に少なくとも下塗層、ハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層をこの順に有する平版印刷版であり、該ハロゲン化銀乳剤層を有する側の層の少なくとも1層に現像主薬を含有し、前記支持体の他方の面に裏塗り層を有する平版印刷版において、該裏塗り層が2nm未満の細孔を有する無機多孔質化合物を含有することを特徴とする平版印刷版。

【公開番号】特開2009−175465(P2009−175465A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14369(P2008−14369)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】