説明

平面アンテナ装置

【課題】アンテナ給電部からラジアル導波路を介して電磁波の送受信を行う構成を有し、簡単な機構で精度良くビームの角度を制御できる平面アンテナ装置を提供する。
【解決手段】平行に配置された一対の導体円板を有し、一対の導体円板の外周縁間を導体で封止してラジアル導波路が形成され、一対の導体円板の一方は電磁波を送受信するためのアンテナ面を構成し、その裏面の他方の導体板にラジアル導波路に対する給電口2bが配置された平面アンテナ2と、平面アンテナを支持するためのアンテナ装着部3aを有するとともに、平面アンテナの給電口に対して給電するための給電ポート10aが配置されたベース3を備えた平面アンテナ装置。アンテナ面の中心が給電ポートの中心に対してオフセットを有する状態でアンテナ装着部に平面アンテナを保持することにより、ビームの放射指向性を調整可能なように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板面に電磁波の放射面が構成された平面アンテナを備えた平面アンテナ装置、特に、アンテナの裏面の中心に給電部を持ち、簡単な機構で二次元的にビームの放射指向性を調整可能とした平面アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会を背景に無線を利用した通信システムが汎用されており、とりわけ情報量の多いマイクロ波やミリ波領域を使用した通信システムの発展が著しい。このような通信システムにおいて、平面アンテナは短波長無線システムの入出力装置として好適であり、例えば、無線LANや自動車における衝突防止用レーダのように、複数の分野での応用が期待されている。
【0003】
従来のこの種の平面アンテナ装置において所望のビーム角度を得るためには、例えば特許文献1に開示されているアレーアンテナのように、各放射素子毎に可変移相器を取り付け、各移相器のシフト量を適度に調整する構成とすることが一般的である。
【0004】
また、特許文献2には、同心状に素子を配置したアレーアンテナにおいて、中心からの給電線路上に回転する誘電体板を具備し、誘電体板が給電線路を覆う長さを可変とすることにより、移相器を構成して所望のビーム角度を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−236389号公報
【特許文献2】特許4118010号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された構成の平面アンテナ装置は、各放射素子毎に位相シフトの量を個別に調整するため、複雑な制御を必要とする。すなわち、ビームの角度を調整するために、可変移相器を備えた複雑な平面回路を必要とする。
【0007】
また、特許文献2に記載された構成の平面アンテナ装置の場合は、特定パターンを有する電極を形成した誘電体を回転させる必要がある。そのため、特殊な移相用の部品を必要とし、高精度でかつ安価な平面アンテナを供給することは困難であった。
【0008】
一方、平面アンテナ装置の一例として、平面アンテナを構成する基板の一方の面に電磁波の放射面が形成され、その放射面による電磁波の送受信がアンテナ給電部からラジアル導波路を介して行われる構造が知られている。例えば、放射電磁波の中心ビームを放射面に対して垂直に放射させる場合には、アンテナ給電部は、放射面の裏面における平面アンテナの中心に配置される。
【0009】
本発明は、上述の課題を解決し、アンテナ給電部からラジアル導波路を介して電磁波の送受信を行う構成を有し、簡単な機構で精度良くビームの角度を制御できる平面アンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の平面アンテナ装置は、平行に配置された一対の導体円板を有し、前記一対の導体円板の外周縁間を導体で封止してラジアル導波路が形成され、前記一対の導体円板の一方は電磁波を送受信するためのアンテナ面を構成し、その裏面の他方の導体板に前記ラジアル導波路に対する給電口が配置された平面アンテナと、前記平面アンテナを支持するためのアンテナ装着部を有するとともに、前記平面アンテナの給電口に対して給電するための給電ポートが配置されたベースを備える。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の平面アンテナ装置は、前記アンテナ面の中心が前記給電ポートの中心に対してオフセットを有する状態で前記アンテナ装着部に前記平面アンテナを保持することにより、ビームの放射指向性を調整可能なように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成によれば、ラジアル導波路を用いた平面アンテナと、ラジアル導波路に給電する給電ポートを機械的に分離して、平面アンテナの中心からずらした箇所からラジアル導波路に給電することにより、精度よくビームの放射方向を制御することができる。これにより、位相制御に移相回路を必要とせず、また特別な移相制御用専用の部品を使用せずに、二次元的に平面アンテナの放射指向性の向きを制御できる簡素な調整機構を持たせることができる
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】本発明の一実施の形態における平面アンテナ装置の構造を示す平面図
【図1B】同平面アンテナ装置の構造を示す正面断面図
【図2】同平面アンテナ装置の一部を拡大して示す断面図
【図3】同平面アンテナ装置を構成する平面アンテナを示す斜視図
【図4】同平面アンテナの断面図
【図5】同平面アンテナ装置を構成するベース及び給電プレートを示す斜視図
【図6】同平面アンテナ装置の構造を電磁波の伝播路として説明する図
【図7】同平面アンテナ装置について、給電ポート及びアンテナ面の中心を一致させた状態で放射指向性を測定した結果を示す図
【図8A】同平面アンテナ装置において、給電ポートの中心に対してアンテナ面の中心をオフセットさせた状態の一例を示す平面図
【図8B】同平面アンテナ装置の図8Aの例について、放射指向性を測定した結果を示す図
【図9A】同平面アンテナ装置において、給電ポートの中心に対してアンテナ面の中心をオフセットさせた状態の他の例を示す平面図
【図9B】同平面アンテナ装置の図9Aの例について、放射指向性を測定した結果を示す図
【図10】給電ポートの中心に対するアンテナ面中心のオフセット量と、平面アンテナから放射されるビームの傾きの角度の関係の一例を示す図
【図11A】給電ポートの中心に対するアンテナ面中心のオフセット量を調整するため調整機構の例を示す平面図
【図11B】同調整機構の分解斜視図
【図12A】給電ポートの中心に対するアンテナ面中心のオフセット量を調整するため調整機構の他の例を示す平面図
【図12B】同調整機構の分解斜視図
【図13A】平面アンテナ装置の他の構成例を示す平面図
【図13B】同平面アンテナ装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の平面アンテナ装置は、上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0015】
すなわち、前記平面アンテナにおける前記給電ポートに対向する側の面の前記導体円板に、前記給電ポートより大きな開口が設けられた構成とする。それにより、給電ポートの位置を移動させる調整が可能となる。
【0016】
また、前記ベースにおける前記給電ポートが配置された面が導体で被覆されている構成とすることができる。
【0017】
また、前記ベースにおける前記アンテナ装着部の表面と前記平面アンテナの裏面が接している構成とすることが好ましい。両面の間に隙間があると、電磁波の漏洩により効率が低下するからである。もし、両者に隙間を設ける場合は、(1)電気的に同電位を維持し、(2)隙間へ電磁波が漏えいしない構造をとることが必要となる。(1)、(2)を満たすと共に、周波数に応じて、隙間の構造、すなわち形状、隙間の幅、隙間の奥行き(深さ)に厳密な寸法設定が必要となる。
【0018】
また、前記給電ポートと前記平面アンテナの導体円板を同電位に維持しつつ、前記給電ポートに対して前記平面アンテナを二次元的に移動させることが可能なオフセット調整機構を備えることが好ましい。
【0019】
また、前記平面アンテナが導体膜で被覆された誘電体円板により構成されて、前記導体円板は前記誘電体円板の両面に被覆された前記導体膜により形成され、前記アンテナ面は、前記誘電体円板の前記導体膜で被覆された面の一部に前記導体膜で覆われない複数の所定のパターンにより形成され、前記平面アンテナにおける前記給電ポートに対向する位置に設けられた、前記導体膜で覆われない円形の開口により前記給電口が形成されている構成とすることができる。
【0020】
また、前記ベースには導電性の内壁面を有する導波管構造の一部が形成され、前記導波管構造の一部と組合せて導波管構造を形成するための給電プレートを備え、前記給電プレートの一端部に前記給電ポートが設けられた構成とすることができる。
【0021】
平面アンテナの基本的な構成としては、一対の導体円板の厚みは、使用周波数領域の表皮効果厚より充分に厚いことが望ましい。かつ、使用導体の導電率は高いほど望ましく、Cu,Ag,Au,Al等を用いることが望ましい。
【0022】
平面アンテナに電磁波を給電するベースは、標準導波管からEベンドと呼ばれる一種の導波管を介して平面アンテナに給電する構造をとる。平面アンテナと接するベースの表面は導電膜でおおわれており、その導体厚は、平面アンテナの導体円板と同様、使用周波数領域の表皮効果厚より充分に厚いことが望ましい。かつ、表面の導電膜の導電率は高いほど望ましく、Cu,Ag,Au,Al等を用いることが望ましい。
【0023】
平面アンテナとベースが電気的に同電位となるように、また、平面アンテナとベース表面が平行となるように、平面アンテナをベースに取り付ける。
【0024】
平面アンテナを構成するラジアル導波路に給電するための給電ポートは、Eベンド終端付近かつ平面アンテナの中心に当たる位置に配置される。給電ポートから平面アンテナに給電された電磁波はラジアル導波路中を放射状に伝搬して、平面アンテナの放射面から放射される。平面アンテナの放射面と対向する面には、ベースに配置された給電ポートから電磁波を給電するための開口部が設けられる。この開口部は導体で被覆されていない。
【0025】
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
(実施の形態)
図1Aは、本発明の一実施の形態における平面アンテナ装置1を示す平面図である。この平面アンテナ装置1の正面断面図を図1Bに示す。平面アンテナ装置1は、円盤形状の平面アンテナ2が、ベース3に形成された円盤状凹部であるアンテナ装着部3a内に装着された構造を有する。なお、アンテナ装着部3aの直径は平面アンテナ2の直径よりも若干大きく設定され、アンテナ装着部3a内で平面アンテナ2を径方向に移動させて、ベース3に対する相対位置を調整することが可能である。
【0027】
ベース3のアンテナ装着部3aの底面部には、底面を更に窪ませた溝状の導波管溝部4aが形成され、Eベンド4の一部を構成している。ベース3は、例えば金属基板により形成されて、その金属基板を切削して導波管溝部4aを設けた構造とすることができる。あるいは、アンテナ装着部3a及び導波管溝部4aを設けた構造を樹脂で成形した後に、導体メッキ等により樹脂表面を導電体で覆った構造としてもよい。
【0028】
導波管溝部4aは、導波管の一面が除去されて開放面となった形状を有し、平面アンテナ2の円盤形状の中心から周縁に向かって径方向に延在している。導波管溝部4aの開放された上部は、導電性を有する給電プレート10により封鎖されている。従って、Eベンド4の密閉された導波管構造が、導波管溝部4aと給電プレート10の組合せにより形成される。なお、導波管溝部及び給電プレートは、導波管構造の形態に基づいて構成される。
【0029】
平面アンテナ2の円盤形状の周縁側における、Eベンド4の端部から少し離れた位置に、Eベンド給電口5が配置されている。Eベンド給電口5は、Eベンド4の底面からベース3の下面へ貫通するように形成されている。また、平面アンテナ2の裏面側であって、その円盤形状の中央側おけるEベンド4の端部から一定距離を置いて、アンテナ給電部6が配置されている。給電プレート10には平面アンテナ2を駆動するための所定のパターンを有する給電ポート10aが設けられて、アンテナ給電部6の一部を形成している。なお、図1Bの断面図は、図1AのEベンド給電口5とアンテナ給電部6の中心を通る線に沿った断面を示したものである。
【0030】
図2は、図1Bの断面図におけるEベンド給電口5の近傍を拡大した断面図である。平面アンテナ2は、中央部のみが断面で示されている。平面アンテナ2はアンテナ装着部3aに嵌め込まれることにより、その放射面がベース3の表面と概ね同一平面上に位置する状態に格納されている。平面アンテナ2とベース3が一体となり、平面アンテナ装置1として機能する。
【0031】
ベース3の下面には、導波管接続部7が結合している。導波管接続部7の下部には、標準仕様導波管8が結合している。導波管接続部7には、標準仕様導波管8の中空部9と連通させて貫通孔7aが形成されている。導波管接続部7の貫通孔7aはベース3のEベンド給電口5に対応している。導波管接続部7は、ベース3と同様の材質により作成することができる。
【0032】
図3は、平面アンテナ2の電磁波の放射面の外観を概略的に示す斜視図である。また、平面アンテナ2の断面構造を図4に示す。なお、図3、図4においては、平面アンテナ2の構造を判り易く示すために、各部の形状はその大きさが誇張され、かつ一部省略して描かれており、図1A、1Bに示された寸法とは対応しない。図4に示すように、平面アンテナ2の内部は比誘電率2.3の誘電体基板11からなりラジアル導波路を構成し、表、裏、側面が約2μmのCuからなる導電層12で被覆された形態を有する。
【0033】
導電層12で覆われた上面には、導電層12を欠如させて誘電体基板11を露出させた放射スロツト2aのパターンが設けられ、電磁波を放射するための放射面を形成する。放射面の裏面には、アンテナ給電部6の一部を構成する平面アンテナ給電口2bが、誘電体基板11を露出させたパターンにより形成されている。
【0034】
図3に示すように放射スロツト2aは、ハの字型に配置された一対をスロットペアとして、複数組のスロットペアが、円盤の中心部から同心円状に配列されている。そして、アンテナ中心から円偏波を給電する構造である。この平面アンテナはRLSA(Radial Line Slot Antenna)と呼ばれている。この構造においては、裏面中心部から導波管モードで放射状に電磁波が伝播する。その伝播途中の放射スロット2aから、電磁波を放射あるいは入射させるように構成されている。放射スロット2aは伝播波長間隔で設けられており、位相合成により放射面内で同一位相が保たれるように設計される。アンテナとして機能するのは放射面であり、側面は導体層12で覆われている。
【0035】
アンテナに給電する方法として、平面アンテナではその接続性の良さからマイクロストリツプラインを用いることも多いが、線路が開放型であり、導体損失に加え意図しない放射による損失も多い。特に、それらの損失はより高周波になるにつれ顕著となる。従って、ミリ波領域では導波管給電が、放射損失の点で有利である。そのため、本実施の形態の平面アンテナ装置1は、導波管モードで伝播して放射スロット2aを励振するスロットアンテナとして構成される。なお、本質的にアンテナは送受通信に用いられる双方向デバイスであるため、以降の説明では送信の場合について述べるが、受信の場合も同様に機能する。
【0036】
図2に示したように、本実施の形態においてアンテナ給電部6は、給電プレート10の給電ポート10aと、平面アンテナ2の平面アンテナ給電口2bにより構成される。給電ポート10aは、給電に必要な機能的な構造、すなわち、給電部において共振するスロツトアンテナを設けた構造、あるいはインピーダンス整合するための構造を有する。平面アンテナ給電口2bは、単なる給電窓口として設けられ、共振や整合部を持たない、例えば円形窓として形成される。図1Aに示したアンテナ給電部6は、給電構造を示さずに、平面アンテナ給電口2bに対応する形状のみを示したものである。
【0037】
アンテナ給電部6は、放射スロット2aの同心円状の配列中心(アンテナ中心C;図2)に対応させて配置される。平面アンテナ給電口2bの給電窓口は、スロット形状あるいは導電部材で覆われない開口部として設けられる。給電プレート10の給電ポート10aの位置をアンテナ中心Cに位置させた場合は、中心ビームが放射面に対して垂直方向に形成される。
【0038】
導波管であるEベンド4を通して放射電磁波を導くことにより、アンテナとの整合を採ってアンテナ給電部6への給電を行なうことができる。Eベンド4は、一般的な構造として導体で覆われ、内部は空気等の誘電体で満たされたている。Eベンド4とその端部に配置された標準仕様導波管8とは、両者を接続するEベンド給電口5に当接するように設けられるが、導波管8の幅とEベンド給電口5の幅とは必ずしも一致しない。また、Eベンド給電口5は、Eベンド4の周縁側端面4bから一定距離d1だけ離れた位置に設けられる。Eベンド4の一部を構成する給電プレート10の給電ポート10aも、中心側端面4cから一定距離d2だけ離れたEベンド4の中間に設けられる。これらの配置により平面アンテナ2への給電整合状態は異なってくる。最適に整合できるようにその配置位置は設定される。
【0039】
図5は、ベース3に給電プレート10が実装された状態を示す斜視図である。導波管溝部4aの周縁領域のアンテナ装着部3aの底面には、図2に断面形状を示すように、段差部を形成する給電プレート嵌合部3bが形成されている。給電プレート嵌合部3bは、給電プレート10を導波管溝部4aに対して位置決めするように構成される。アンテナ装着部3aの底面と給電プレート10の上面とは互いに平坦になる。それにより、Eベンド4の密閉された導波管構造が形成されるとともに、給電プレート10に設けられた給電ポート10aが精度良く位置決めされる。給電プレート10の上面に平面アンテナ2が設置される。
【0040】
給電プレート10は、その厚さが表皮効果の厚さ以上、100μm以下であることが望ましい。また、機械強度の優れた非磁性ステンレスや、リン青銅で構成し、その両面を導電率の高い導体で被覆してもよい。その厚みは使用周波数領域の表皮効果厚より充分に厚いことが望ましい。
【0041】
給電ポート10aは、平面アンテナ2の中心側に対応するEベンドの終端近傍の位置に設けられ、平面アンテナ2に円偏波を給電するための十字状の給電スロット(以降クロススロットと呼ぶ)の形態を有する。このクロススロットは、ラジアル導波路に円偏波を供給するための移相器の機能を兼ね備えている。
【0042】
以上のように、平面アンテナ2をベース3に収納した状態で、ベース3に設けられたEベンド4を介して放射電磁波が給電される。平面アンテナ給電口2bと放射スロット2aを除く平面アンテナ2の表面とベース3は共に、導体層に覆われている。これにより、ベース3と平面アンテナ2の導体層は同電位となり一体のアンテナ装置として機能する。
【0043】
ただし、平面アンテナ2のベース3に接する面は、必ずしも導電層12を設ける必要はない。本発明においては、平面アンテナ2と接するベース3表面と、Eベンド部4の平面アンテナ2に接する部分、すなわち給電プレート10が、給電機能を有する給電ポート10aを除いて全て導体層で覆われている。従って平面アンテナ2の給電面側も導体層で覆われているのと等価となりラジアル導波路を形成するので、平面アンテナ2の給電面側には導電層12を必要とはしない。平面アンテナ2表面とベース3は電気的に接続している必要はある。勿論、図2に示したように、平面アンテナ2の給電面に対して、平面アンテナ給電口2bを有する状態で導電層12を設けた構造とすることもできる。
【0044】
なお、上述のとおり、アンテナ装着部3aは、平面アンテナ2の側面との間に平面アンテナ2を可動とするための隙間を有する。これにより、給電ポート10aをアンテナ中心から意図する量だけずらして設置することが可能である。給電ポート10aの中心に対してアンテナ中心の位置をずらすことで、後述するように、平面アンテナ装置の放射指向性を意図的に操作することができる。
【0045】
図6に、アンテナ駆動を最適化するように設定するための電磁界解析モデルを示す。アンテナ給電部6としては、平面アンテナ2を駆動するためスロツト部が形成されるが、各部寸法の最適条件を求めることで、導波管8から平面アンテナに、放射電力を損失無く供給することが可能になる。
【0046】
次に、本実施の形態の特徴である、給電ポート10aに対する平面アンテナ2の径方向の位置を調整して、給電ポート10aの中心に対してアンテナ面の中心Cをオフセットさせることにより、ビームの放射指向性を調整する構成について説明する。まず、アンテナ面の中心Cをオフセットさせることによって得られる、ビームの放射指向性の変化を測定した結果について説明する。
【0047】
(1)平面アンテナ2の中心Cと、給電ポート10aのクロススロットの中心位置を一致させておいて、放射指向性の測定を行った。ここで使用した平面アンテナ2は、直径60mm、厚さ1.2tである。そして中心周波数60.0GHzで動作するアンテナであり、その放射利得は28.5dBiを得た。図7に、その放射指向性を測定した結果を示す。
【0048】
(2)クロススロットの中心に対して平面アンテナ2の中心Cをずらしてオフセットを持たせて、放射指向性の測定を行った。第1例では、図8Aに示すように、オフセットを0.1mmとした。この場合の放射指向性の測定結果を図8Bに示す。第2例では、図9Aに示すように、オフセットを0.5mmとした。この場合の放射指向性の測定結果を図9Bに示す。第1、第2例について、各々約1度および約5度、電磁波放射方向が、平面アンテナ2をずらした方向へ傾いた。
【0049】
本来、クロススロットと平面アンテナ2の放射スロット2aの中心が一致している場合、同一半径上の複数のスロット列からは同一位相で電磁波が放射される。一方、クロススロット中心を平面アンテナ2の中心からずらすと、クロススロットが近づいた側は、位相が進み、クロススロットが遠ざかった側は遅れることとなる。そのため、同一半径上の複数のスロット列から放射される電磁波の等位相面は、平面アンテナ2の表面から傾くことになる。
【0050】
クロススロットと平面アンテナ2の放射スロットの中心とのオフセット量と、平面アンテナ2から放射される電磁波の等位相面、すなわち電磁波放射方向の平面アンテナ2の表面からの傾き(ビーム角度)との関係を図10に示す。
【0051】
このように、給電ポート10aの中心に対するアンテナ面の中心Cのオフセットを調整してビームの放射指向性を調整した場合の欠点として、平面アンテナ2の最外周部分での終端条件が満たされなくなるため、平面アンテナ2からの反射が増えることになる。また、各ハの字形スロットペアから出射される円偏波の偏波位相がずれて、円偏波が乱れることになる。しかし、図8Aの例の場合で、放射利得の低下は約0.4dBであり、実用上の不都合が発生しない範囲であった。
【0052】
以上説明したように、クロススロット中心を原点として、平面アンテナ2と平行にXY平面を規定した時、平面アンテナ2をX、Yどの方向に動かしても、動かした方向に原点からの距離と比例して電磁波の放射方向を変化させることができる。
【0053】
次に、給電ポート(クロススロット)10aの中心に対する、アンテナ面の中心Cのオフセットを調整するための調整機構の例について、図11A、11Bを参照して説明する。図11Aは調整機構の一例を示す平面図、図11Bは、その分解斜視図である。この調整機構はベース3に設けられた規制枠13と、規制枠13内に配置されたアンテナ保持部材14により構成される。規制枠13は、アンテナ装着部3aを包囲するように設けられ、枠内にアンテナ保持部材14が配置される。
【0054】
アンテナ保持部材14は、その外縁寸法が規制枠13の内縁寸法に対して隙間を生じる大きさに設定されている。従って、図11Aの状態において、アンテナ保持部材14は規制枠13内で移動可能である。また、アンテナ保持部材14は平面アンテナ2が装着される円形孔14aを有する。
【0055】
規制枠13とアンテナ保持部材14が対向する4辺のうち隣接する2辺には、調整ねじ15が装着され、他の2辺には、規制枠13とアンテナ保持部材14の間に附勢力を作用させるスプリング16が装着されている。調整ねじ15を前進あるいは後退させることにより、スプリング16の作用に抗してアンテナ保持部材14が移動し、あるいはスプリング16の作用によってアンテナ保持部材14が移動する。
【0056】
2辺に装着された調整ねじ15により各々、アンテナ保持部材14のX方向及びY方向の位置を調整することができる。それにより、アンテナ保持部材14に保持される平面アンテナ2の中心位置を、給電ポート(クロススロット)10aの中心に対して位置調整することができる。調整が完了した後、固定ねじ17によりアンテナ保持部材14をベース3に固定すれば、平面アンテナ2は、給電ポート10aの中心に対して調整された位置関係に保持される。
【0057】
図12Aは、調整機構の他の例を示す平面図、図12Bは、その分解斜視図である。この調整機構はベース3上に設けられた標準的な2次元ステージの構成を有する。ベース3上に配置されたステージ18は、X方向の側縁が張り出したXステージ19a、及びY方向の側縁が張り出したYステージ19bからなる。Xステージ19aは、図示しないが、Yステージ19bに対して、X方向にのみ相対移動可能なように結合されている。Xステージ19aには、平面アンテナ2が装着される円形孔20が設けられている。ステージ18の上に更に、ガイド部材21が配置されている。
【0058】
ベース3上のY方向側縁にY方向ガイド22が設けられ、ガイド部材21のX方向側縁にX方向ガイド23が設けられている。Xステージ19aは、X方向ガイド22により案内されてX方向に移動可能であり、Yステージ19bは、Y方向ガイド22により案内されてY方向に移動可能である。ガイド部材21はYステージ19bに結合しており、Yステージ19bの移動に伴いY方向に移動する。
【0059】
ステージ18を操作することにより、Xステージ19aのX方向及びY方向の位置を調整することができる。それにより、Xステージ19aに保持される平面アンテナ2の中心位置を、給電ポート(クロススロット)10aの中心に対して位置調整することができる。
【0060】
なお、上述の実施の形態に示したようなスロットアンテナに限らず、平面アンテナが、図13A、13Bに示したようなパッチアンテナ24の場合でも、本実施の形態と同様な方法で電磁波の放射方向を制御できる。このパッチアンテナ24は、円盤形状の基板に多数のアンテナ素子25が2次元状の配置され、平面アンテナの中心の給電部26から給電し、平面アンテナ内の電磁波の伝搬にラジアル導波路27を用いて、アンテナ素子25に給電する構成となっている。従って、アンテナ素子25の配列の中心を給電部26に対してオフセットさせることにより、ビームの放射指向性を調整可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の平面アンテナは、簡単な機構で精度良くビームの角度を制御可能であり、短波長無線システムの入出力装置、例えば、無線LANや自動車における衝突防止用レーダ等に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 平面アンテナ
2 平面アンテナ
2a 放射スロツト
2b 平面アンテナ給電口
3 ベース
3a アンテナ装着部
3b 給電プレート嵌合部
4 Eベンド
4a 導波管溝部
4b 周縁側端面
4c 中心側端面
5 Eベンド給電口
6 アンテナ給電部
7 導波管接続部
8 標準仕様導波管
9 中空部
10 給電プレート
10a 給電ポート
11 誘電体基板
12 導電層
13 規制枠
14 アンテナ保持部材
15 調整ねじ
16 スプリング
17 固定ねじ
18 ステージ
19a Xステージ
19b Yステージ
20 円形孔
21 ガイド部材
22 Y方向ガイド
23 X方向ガイド23
24 パッチアンテナ
25 アンテナ素子
26 給電部
27 ラジアル導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置された一対の導体円板を有し、前記一対の導体円板の外周縁間を導体で封止してラジアル導波路が形成され、前記一対の導体円板の一方は電磁波を送受信するためのアンテナ面を構成し、その裏面の他方の導体板に前記ラジアル導波路に対する給電口が配置された平面アンテナと、
前記平面アンテナを支持するためのアンテナ装着部を有するとともに、前記平面アンテナの給電口に対して給電するための給電ポートが配置されたベースを備えた平面アンテナ装置において、
前記アンテナ面の中心が前記給電ポートの中心に対してオフセットを有する状態で前記アンテナ装着部に前記平面アンテナを保持することにより、ビームの放射指向性を調整可能なように構成されたことを特徴とする平面アンテナ装置。
【請求項2】
前記平面アンテナにおける前記給電ポートに対向する側の面の前記導体円板に、前記給電ポートより大きな開口が設けられた請求項1に記載の平面アンテナ装置。
【請求項3】
前記ベースにおける前記給電ポートが配置された面が導体で被覆されている請求項1に記載の平面アンテナ装置。
【請求項4】
前記ベースにおける前記アンテナ装着部の表面と前記平面アンテナの裏面が接している請求項1に記載の平面アンテナ装置。
【請求項5】
前記給電ポートと前記平面アンテナの導体円板を同電位に維持しつつ、前記給電ポートに対して前記平面アンテナを二次元的に移動させることが可能なオフセット調整機構を備えた請求項1に記載の平面アンテナ装置。
【請求項6】
前記平面アンテナが導体膜で被覆された誘電体円板により構成されて、
前記導体円板は前記誘電体円板の両面に被覆された前記導体膜により形成され、
前記アンテナ面は、前記誘電体円板の前記導体膜で被覆された面の一部に前記導体膜で覆われない複数の所定のパターンにより形成され、
前記平面アンテナにおける前記給電ポートに対向する位置に設けられた、前記導体膜で覆われない円形の開口により前記給電口が形成されている請求項1に記載の平面アンテナ装置。
【請求項7】
前記ベースには導電性の内壁面を有する導波管構造の一部が形成され、
前記導波管構造の一部と組合せて導波管構造を形成するための給電プレートを備え、
前記給電プレートの一端部に前記給電ポートが設けられた請求項1〜6のいずれか1項に記載の平面アンテナ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【公開番号】特開2012−34017(P2012−34017A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169438(P2010−169438)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】