説明

幹細胞培養培地および該培地の使用方法および幹細胞

【課題】 本発明は、増殖性細胞の単離に関係する方法および組成物に関する。
【解決手段】 特に、本発明は、幹細胞と非幹細胞の混合物からの幹細胞の単離に関するもので、非幹細胞が分化した細胞となることができる。本発明は、液体培地において懸濁された細胞を連続的に継代培養することによって、分化した細胞の接着性とは反対の、幹細胞の非接着性を利用するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、少なくとも、細胞生物学、分子生物学および医学の分野に関係する。より具体的には、本発明は、細胞培養培地に関係する新規な方法および組成物、ならびに細胞のための適用に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞の作製および適用は、基礎研究、臨床研究において有用であり、また、細胞に基づく治療のために、例えば、分化した細胞および/または組織を生じさせるためなどに有用である。今日、提供された臓器および組織は、多くの場合、病んでいる組織または破壊された組織を置き換えるために使用されるが、移植可能な組織および臓器の必要性は利用可能な提供をはるかに上回っている。特定の細胞タイプに分化するように誘導される幹細胞は、例えば、パーキンソン病およびアルツハイマー病をはじめとする様々な疾患、脊髄傷害、発作、火傷、心臓疾患、糖尿病、変形性関節症、リウマチ様関節炎、筋萎縮性側索硬化症などを処置するための代替用の細胞および組織の再生可能な供給源を提供する。
【0003】
様々な幹細胞が身体の種々の組織において知られており、多くの実施形態では、幹細胞の組織供給源は、幹細胞が適用される目標となる適用範囲を制限しない。しかしながら、他の実施形態では、幹細胞が、一致した組織目的のために用いられる。例えば、成体骨髄は、骨髄系系譜およびリンパ系系譜の細胞を生じさせることによって造血系を大きい代謝回転率で補充する幹細胞を含有する。骨髄細胞は利用しやすく、また、容易に得ることができるので、骨髄が造血系以外の組織のための幹細胞の供給源になり得るという仮説が生じていた。この理論的根拠の結果は、いくつかの研究室が、骨髄細胞を脳細胞置換治療のために使用するための方法を開発しようとしていることである。そのような研究室では、骨髄からの選択されていない部分集団(Brazelton他、2000;Mezey他、2000;Makar他、2002;Hess他、2002)または骨髄からの選択された部分集団(Bonilla他、2002;Caastro他、2002)または骨髄から培養された細胞(Azizi他、1998;Kpen他、1999;Woodbury他、2000;Kabos他、2002)のいずれかであって、エクスビボ骨髄細胞が使用されている。レシピエント動物に注入されたとき、骨髄細胞は、脳において、ほとんどの場合、神経マーカーを発現していることが見出された。以前には、神経のミエリン塩基性タンパク質(MBP)遺伝子がインビボで骨髄において発現することが見出されていた(Marty他、2002)。このことは、一部のインビボ骨髄細胞が他の神経遺伝子を発現するという可能性をもたらしていた。
【0004】
特許文献1は、フィーダー細胞層の非存在下で培養される多分化能の神経幹細胞に関係する。具体的な実施形態において、液体培養培地が用いされる。しかしながら、特定の実施形態では、細胞が、基質を胎芽の神経管と接触させ、その後、細胞を、自己再生および分化を可能にする第2の培養培地と接触させることによって培養される。
【0005】
特許文献2は、神経細胞を血清含有基礎培地において容器内で培養することによって前乏突起膠細胞幹細胞を作製する方法に関係する。この方法では、容器における表面が神経細胞の付着を可能にする。具体的な実施形態において、容器の表面が多塩基性アミノ酸または細胞外マトリックス分子により被覆される。
【0006】
特許文献3は、CD34+/CD38であるヒト始原体細胞、ならびに、骨髄移植および遺伝子治療におけるその使用に関連する。そのような細胞の単離が、モノクローナル抗体を使用することなどを伴って、フローサイトメトリーまたは磁気ビーズ細胞分離によって達成される。
【特許文献1】国際公開第94/02593号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5830651号公報
【特許文献3】欧州特許第455482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、例えば、一意的に得られる細胞の細胞置換治療における適用など、幹細胞を培養することのこの分野での要求を、それに関連した方法および組成物を含めて満足させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、幹細胞、細胞培養培地、および、それらから得られる細胞についての適用に関するシステムおよび方法に関する。
【0009】
具体的には、本発明は、分化した細胞とは反対に非分化細胞について細胞を濃縮するために、懸濁された細胞を液体培地において継代培養することを用いる。本明細書中で使用される用語「濃縮する」は、非分化細胞の量を増大させることを示し、特定の実施形態では、非分化細胞対分化細胞の比率を増大させることを示す。このことは、幹細胞を所望されない分化した細胞から連続して単離することとしてさらに記載することができる。このことは、段々と純粋な幹細胞培養物をそれぞれの連続した継代培養によって生じさせることとしてさらに定義することさえできる。
【0010】
本明細書中で使用される用語「懸濁された」は、液体培地を収容する容器に接着していない液体培地中のそのような細胞を示す。懸濁された細胞は、その大部分として継続して分裂する細胞を有すると見なすことができる。本発明者らは、分化した細胞の接着性を利用することによって、幹細胞と、非幹細胞(これは、分化した細胞と呼ぶことができる)との間での識別するための成長特性を利用している。すなわち、分化した細胞は本来、他の細胞および/または基質に接着するのに対して、幹細胞は一般には他の細胞および/または基質に接着しない。従って、本発明は、1つまたは複数の幹細胞を含む最初の細胞混合物を提供すること、および、懸濁された細胞を継続して継代培養し、接着性細胞を排除すること、例えば、培養容器に接着している細胞を捨てることなどによってこの性質を活用している。具体的には、依然として懸濁状態にある分化した細胞、例えば、容器または基質に接着しない分化途中の細胞などが存在する場合、これらの細胞は、本来の性質として、分裂を停止し、継代培養のときに希釈されてなくなる。このようなタイプの例示的な細胞には、赤芽球および白血球が含まれる。
【0011】
最初の細胞混合物は、多数の細胞を含む細胞群または組織断片であり得る。だが、組織断片ではなく単一細胞を有することが有益である。懸濁された細胞の継続した継代培養では、接着性細胞の大部分を少なくとも排除することを容易にする限り、任意の好適な方法(例えば、ピペッティング、分注、または、細胞培養のための自動化された液体移送デバイスなど)を用いることができる。具体的な実施形態において、懸濁された細胞は、新鮮な培地、馴化培地、またはその混合物を含むその後の培養容器への送達の前に遠心分離することができる。そのような遠心分離は、1回の継代培養を行った時、1回より多く継代培養を行った時、または、毎回の継代培養の時に行うことができ、しかし、具体的な実施形態では、少なくとも最初の継代培養では行われない。
【0012】
本明細書中で使用される用語「継代培養(すること)」は、液体培地を有する第1の容器における少なくとも一部の細胞を、液体培地を有する第2の容器に移送することを示す。移送は、第1の容器からの少なくとも一部の培地を含むことができる。継代培養は、継続した増殖を容易にし、かつ、十分な栄養分を細胞に提供し、その結果、許容され得る密度閾値が所与の容器において超えないようにしなければならない。
【0013】
懸濁された細胞は1回または1回より多く継代培養することができる。細胞を継代培養する時期は、懸濁された細胞が依然として健全な状態(例えば、細胞が増殖能力を維持する状態など)にあるように任意の好適な時間で生じ得る。具体的には、継代培養の時期は細胞の密度に依存して生じ得る。例えば、具体的な実施形態では、細胞は、密度が約8×10細胞/ml培地〜約2×10細胞/ml培地に達したときに継代培養される。特定の実施形態では、懸濁された細胞は、最初の細胞混合物に対する幹細胞の割合が約8×10でない限り、継代培養されない。具体的な実施形態において、培地における細胞の密度がより低いならば、継代培養系列におけるより早期の培養物は、より後期の培養物よりも少ない頻度で継代培養される。さらなる具体的な実施形態において、培養物は、1週間に1回より少なく、1週間に約1回、または1週間に1回より多い頻度で継代培養される。具体的な実施形態において、細胞は、少なくとも10細胞/ml培地で継代培養後に再懸濁される。具体的な実施形態において、細胞が特定の密度を超えて維持されないならば、細胞はその分裂速度を低下させ、培養物は死滅する。
【0014】
培養容器は、相互および/または基質に接着する細胞が、相互または基質に接着しない細胞から識別されるように任意の好適な形状または材料であり得る。特定の実施形態において、基質は容器である。具体的な実施形態において、容器の形状は、例えば、円錐状、矩形状、球状または半円形のフラスコまたは組織培養ペトリディッシュである。他の実施形態において、容器の材料はガラスまたはプラスチックである。特定の実施形態では、容器の材料は、非増殖性細胞の接着を容易にするために非処理であり、また、その表面に置かれた特異的な薬剤を含まない。さらなる具体的な実施形態において、容器の材料は生物学的に不活性である。
【0015】
具体的な実施形態において、1つの容器からの培養培地が、懸濁された細胞に加えて、その後の容器に移送される。具体的な実施形態において、前回の容器からの培地は、1つまたは複数の有益な成分、例えば、増殖因子、サイトカイン、オートクリン分子、パラクリン分子、またはその混合物などを含む。このような培地は「馴化」培地と呼ばれる。その後のフラスコにおける新鮮な培地に対する移送された培地(「馴化」培地)の比率は、懸濁培地の幹細胞の継続した生存および増殖が存在するように任意の好適な量であり得る。
【0016】
特定の実施形態において、培養培地は抗生物質を含まない。だが、代わりの実施形態において、培養培地は、例えば、ペニシリンまたはストレプトマイシンなどの抗生物質を含む。抗生物質が培地に用いられる実施形態において、抗生物質は、病原体の除去後、(例えば、培地を抗生物質非含有培地で置き換えることによって)除くことができる。培地は、例えば、ウシ血清(ウシ胎児血清を含む)またはウマ血清などの血清を含むことができる。血清が培地に用いられる実施形態において、その量は、例えば、血清が約5%から約15%までであり得る。当業者は、培地における多すぎる量の血清は少なくとも一部の細胞にとっては毒性であることを認識している。他の実施形態において、当業者は、培地がマトリックスまたはフィーダー細胞を含有しないことを認識している。
【0017】
幹細胞は、幹細胞を有する任意の組織に由来し得るが、特定の実施形態では、例えば、骨髄、胎芽、間充織、神経組織、膵臓組織、筋組織(例えば、心筋など)、肝臓、皮膚、腸、鼻腔上皮、骨、膵臓または生殖細胞に由来する。当業者は、培養培地が、幹細胞が最初に由来する細胞/組織に対して適切であるか、あるいは、幹細胞が分化する細胞/組織に対して適切である、培養または拡大培養を容易にするための増殖因子により補充され得ることを認識している。例えば、胎芽幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、下記の1つまたは複数が含まれ得る:FGF−β、Wnt−3a、コラーゲン、フィブロネクチンおよびラミニン。例えば、間様性幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、下記の1つまたは複数が含まれ得る:FGF−β、EGF、PDGFおよびフィブロネクチン。例えば、造血幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、IL−3、IL−6、幹細胞因子(SCF)、β−メルカプトエタノール、Flt−3/Flk−2、Tpo、Shh、Wnt−3aおよびKirreの1つまたは複数が含まれ得る。神経幹細胞について、エクスビボ拡大培養因子には、FGF−β、EGF、フィブロネクチンおよびシスタチンCの1つまたは複数が含まれ得る。肝臓幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、白血病阻害因子、LIF、IL−3、SCFおよびFlt−3リガンドの1つまたは複数が含まれ得る。心筋幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、フィブロネクチンが含まれ得る。腸幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、マクロファージコロニー刺激因子および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子が含まれ得る。膵臓幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、FGFが含まれ得る。当業者は、類似する好適な試薬が幹細胞の任意の特定のタイプのために適用され得ることを認識している。
【0018】
細胞培養方法を、造血系、中枢神経系(CNS)、インスリン産生のための膵臓小島系、ならびに、細胞置換が疾患および変性の回復のために要求されるすべての系における細胞置換治療のためのモデルとしてのマウスにおいて非常に多数の骨髄(造血)幹細胞の実質的に純粋な集団を作製するために使用することができる。ヒトでは、細胞培養方法を、造血系、CNS、インスリンを産生する膵臓小島系、および、細胞置換が要求される他の組織における治療的細胞置換のために患者由来の骨髄幹細胞の純粋な集団を作製するために用いることができる。
【0019】
特定の実施形態において、細胞培養系は、少なくとも10ヶ月間にわたって継続した培養で成長している非常に多数の骨髄幹細胞(例えば、CD34+細胞またはCD34細胞など)の純粋な集団をもたらし、また、数マイクロリットルの細胞から数千リットルの細胞まで拡大培養することができる。細胞は、ヒト胎芽幹細胞およびマウス胎芽幹細胞のための成長要件とは異なり、血清、マトリックスまたはフィーダー細胞の非存在下で成長し、しかしながら、代わりの実施形態では、細胞は血清の存在下で成長する。胎芽幹細胞の培養では存在するような、サルのフィーダー細胞から幹細胞への病原体移行の可能性が全くない。このような培養系では、成体(または任意の年齢)の患者が自身の幹細胞(例えば、骨髄幹細胞など)を治療的細胞置換のために使用することが可能になる。本発明者らは、例えば、この培養方法によって得られた造血幹細胞が、それらの正常なリンパ系産物および骨髄系産物とは異なる成熟した細胞に発達する能力を有することを明らかにしている。この培養方法によって得られた造血幹細胞は、成体の脳に移植されたとき、ニューロン、星状膠細胞および乏突起膠細胞になることができる。この方法は、移植された細胞の免疫拒絶の問題、ドナーから宿主への病原体移行(例えば、肝炎、HIV)、胎芽幹細胞および胎児幹細胞の限られた入手性、ならびに、ヒトの胎芽幹細胞および胎児幹細胞の倫理的問題を解決する。
【0020】
本発明の1つの実施形態において、多数の細胞において増殖性細胞を濃縮する方法が提供され、この場合、この方法は、増殖性細胞および非増殖性細胞を含む液体細胞培養培地を有する容器を提供する工程、および、懸濁された細胞を液体培地において継代培養し、それにより、非増殖性細胞の多数を除く工程を含む。
【0021】
本発明の別の実施形態において、多数の細胞において幹細胞を濃縮する方法であり、幹細胞が第1の培地において懸濁状態にあり、かつ、非増殖性細胞が基質に接着する条件のもとで、細胞のサンプルを第1の液体細胞培養培地に加える工程、および、懸濁された細胞を第2の液体細胞培養培地に継代培養する工程を含む。幹細胞は、多能性幹細胞としてさらに定義することができる。具体的な実施形態において、懸濁された細胞は1回より多く継代培養される。懸濁された細胞の継代培養は、連続した容器において細胞を液体培地で連続して継代培養することとしてさらに定義することができる。細胞の継代培養は任意の好適な頻度で行うことができる。だが、具体的な実施形態では、細胞の継代培養は、1週間に約1回、1週間に1回より少なく、または1週間に1回より多い頻度で行われる。さらなる具体的な実施形態では、懸濁された細胞の継代培養では、それにより、非増殖性細胞の大部分が少なくとも除かれる。
【0022】
本発明のさらなる実施形態において、多数の非増殖性細胞が基質(例えば、液体細胞培養培地を収容する容器など)に接着する。特定の実施形態において、懸濁された細胞の継代培養は、培地の少なくとも一部を以前の容器から後の容器に移すことを含む。移された培地は、増殖因子、サイトカイン、またはその混合物を含むことができる。1つの具体的な実施形態において、細胞培養培地は血清を含む。だが、代わりの実施形態では、細胞培養培地は血清を含まない。具体的な実施形態において、培養培地は、フィーダー細胞、マトリックス、またはその両者を有しない。
【0023】
特定の実施形態において、多数の細胞は、骨髄細胞、肝臓細胞、神経細胞、膵臓小島細胞、胎芽細胞、間葉系細胞および/または筋細胞を含む。多数の細胞が骨髄細胞を含む実施形態では、培地は、インターロイキン−3、インターロイキン−6、幹細胞因子、Flt−3/Flk−2、Tpo、Shh、Wnt−3a、Kirre、またはその混合物を含む。多数の細胞が神経細胞を含む他の実施形態では、培地は、FGF−β、EGF、フィブロネクチン、シスタチンC、またはその混合物を含む。多数の細胞が胎芽細胞を含むさらなる他の実施形態では、培地は、FGF−β、Wnt−3a、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、またはその混合物を含む。多数の細胞が間葉系幹細胞を含むさらなる実施形態では、培地は、FGF−β、EGF、PDGF、フィブロネクチン、またはその混合物を含む。
【0024】
本発明の別の実施形態において、これらの方法は、さらに、1つまたは複数の幹細胞を個体に送達する工程を含む。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、治療をその必要性のある個体に提供する方法であり、この方法は、請求項1の方法によって作製されるような1つまたは複数の幹細胞を得る工程、および、前記1つまたは複数の幹細胞を個体に送達する工程を含む。幹細胞は、例えば、骨髄細胞、神経細胞、膵臓細胞、皮膚細胞、毛包細胞、骨細胞、腸細胞または心筋細胞に分化することが可能であり得る。幹細胞は注射または移植によって送達することができる。具体的な実施形態において、個体は、多発性硬化症、糖尿病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ダウン症候群、アルツハイマー病、心臓疾患、ハンチングトン病、発作、脊髄傷害、白血病、形成不全症を有しており、皮膚置換を必要とするか、または、毛包置換を必要とする。
【0026】
一部の実施形態において、この方法は、1つまたは複数の治療因子を含む細胞としてさらに定義される。治療因子は、治療因子をコード化する核酸を含む発現ベクターを含むことができる。具体的な実施形態において、治療因子は神経保護因子(例えば、インターフェロン−βまたは脳由来増殖因子など)である。
【0027】
本発明の1つの実施形態において、多数の細胞において幹細胞を濃縮する方法が提供され、この方法は、幹細胞が実質的に懸濁状態にあり、かつ、非増殖性細胞が実質的に基質に接着する条件のもとで、細胞のサンプルを第1の液体細胞培養培地に加える工程、および、懸濁された細胞を第1の培地から第2の液体細胞培養培地に継代培養し、それにより、幹細胞を濃縮する工程を含む。具体的な実施形態において、幹細胞は多能性幹細胞としてさらに定義される。
【0028】
本明細書中で使用される用語「実質的に懸濁状態(にある)」は、多数の幹細胞が液体培養において懸濁状態にあることを示す。具体的な実施形態において、少量の幹細胞が基質に接着することがあるが、特定の実施形態では、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、99%または100%の幹細胞が液体培養において懸濁状態にある。さらなる実施形態において、「実質的に懸濁状態(にある)」は、大多数の幹細胞が液体培養において懸濁状態にあることを示す。本明細書中で使用される用語「実質的に基質に接着する」は、多数の非幹細胞が基質に接着することを示す。具体的な実施形態において、少量の非幹細胞が液体培養において懸濁状態にあるが、特定の実施形態では、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、99%または100%の非幹細胞が基質に接着する。さらなる実施形態において、「実質的に基質に接着する」は、大多数の幹細胞が基質に接着することを示す。具体的な実施形態において、基質は、第1の液体細胞培養培地を収容する容器である。
【0029】
本発明の特定の実施形態において、懸濁された細胞は1回より多く継代培養される。懸濁された細胞の継代培養は、細胞を連続した容器において液体培地で継続して継代培養することとしてさらに定義することができる。特定の実施形態において、継代培養は、1週間に約1回、1週間に1回より少なく、または1週間に1回より多い頻度で行われる。具体的な実施形態において、第1の細胞培養培地、第2の細胞培養培地、または、両方の培養培地は血清を含まない。特に、培養培地はフィーダー細胞、マトリックス、または、その両方を有しない。
【0030】
具体的な実施形態において、多数の細胞は、骨髄細胞、肝臓細胞、神経細胞、膵臓小島細胞、胎芽細胞、間葉系細胞、筋細胞、皮膚細胞、毛包細胞、腸細胞、心臓細胞または骨細胞を含むとしてさらに定義される。具体的な実施形態において、多数の細胞が骨髄細胞を含むとき、培地は、インターロイキン−3、インターロイキン−6、幹細胞因子、Flt−3/Flk−2、Tpo、Shh、Wnt−3a、Kirre、またはその混合物を含む。具体的な実施形態において、多数の細胞が神経細胞を含むとき、培地は、FGF−β、EGF、フィブロネクチン、シスタチンC、またはその混合物を含む。別の具体的な実施形態において、多数の細胞が胎芽細胞を含むとき、培地は、FGF−β、Wnt−3a、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、またはその混合物を含む。さらなる具体的な実施形態において、多数の細胞が間葉系幹細胞を含むとき、培地は、FGF−β、EGF、PDGF、フィブロネクチン、またはその混合物を含む。
【0031】
本発明の別の実施形態において、医学的状態について個体を処置する方法であり、幹細胞が実質的に懸濁状態にあり、かつ、非増殖性細胞が実質的に基質に接着する条件のもとで、幹細胞を含む細胞サンプルを第1の液体細胞培養培地に加える工程、第1の培地からの懸濁された細胞を第2の液体細胞培養培地に継代培養する工程、および、1つまたは複数の幹細胞を個体に送達する工程を含む。具体的な実施形態において、医学的状態は、多発性硬化症、パーキンソン病、糖尿病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、ダウン症候群、心臓疾患、ハンチングトン病、発作、脊髄傷害、白血病、形成不全症、皮膚置換または毛包置換である。
【0032】
特定の実施形態において、懸濁された細胞の継代培養は、細胞を連続した容器において液体培地で継続して継代培養することとしてさらに定義される。他の実施形態において、1つまたは複数の細胞を個体に送達する工程は、注射または移植を含む。具体的な実施形態において、本明細書中に記載される方法はさらに、1つまたは複数の細胞の個体への送達に先立ち、1つまたは複数の治療因子を幹細胞に送達する工程を含む。治療因子は、処置されている医学的状態のための任意の好適な治療因子であり得る。具体的な実施形態において、そのような因子は、核酸、ペプチド、ポリペプチド、小分子、またはその混合物を含む。本発明の具体的な実施形態において、個体は多発性硬化症を有しており、治療因子は、BDNF、GDNVまたはIFN−βを含む。他の具体的な実施形態では、個体はパーキンソン病を有しており、治療因子はBDNFまたはGDNFを含む。別の具体的な実施形態では、個体は糖尿病を有しており、治療因子はインスリンを含む。
【0033】
本発明の別の実施形態において、1個または複数の哺乳動物幹細胞を単離する方法であり、1個また複数の幹細胞を含む多数の細胞を提供する工程、多数の細胞を、液体培養培地を含む容器での培養工程に提供すること、つまり、懸濁された細胞と容器に接着した細胞とを産生する培養の工程、多数の懸濁された細胞を、液体細胞培地を含む別の容器に移送する工程、ならびに、前記提供および移送を少なくとも1回繰り返す工程を含む。
【0034】
本発明の特定の実施形態において、培養工程における懸濁細胞対接着細胞の比率は、前回の培養工程における懸濁細胞対接着細胞の比率よりも大きい。具体的な実施形態において、哺乳動物幹細胞は多能性細胞としてさらに定義される。他の具体的な実施形態では、接着細胞は、分化した細胞としてさらに定義される。特定の実施形態において、移送する工程はさらは、培地の少なくとも一部を移送することを含む。培地は、血清、フィーダー細胞、マトリックス、またはその組合せを有しない場合がある。
【0035】
本発明のさらなる実施形態において、幹細胞が第1の培地において実質的に懸濁状態にあり、かつ、非増殖性細胞が実質的に基質に接着する条件のもとで、細胞サンプルを第1の液体細胞培養培地に加える工程、および、懸濁された細胞を第2の液体細胞培養培地に継代培養する工程によってもたらされた1つまたは複数の単離された幹細胞が提供される。
【0036】
本発明の別の実施形態において、医学的状態について個体を処置する方法であり、幹細胞が実質的に懸濁状態にあり、かつ、非増殖性細胞が実質的に基質に接着する条件のもとで、幹細胞を含む細胞サンプルを第1の液体細胞培養培地に加える工程、第1の培地からの、1個また複数個の幹細胞を含む懸濁された細胞を、少なくとも第2の液体細胞培養培地に継代培養する工程、1つまたは複数の治療因子を幹細胞の1つまたは複数に送達する工程(この場合、治療因子はその状態について好適である)、および、治療因子を含む1つまたは複数の幹細胞を個体に送達する工程を含む。特定の実施形態において、治療因子は治療ポリヌクレオチドを含む。
【0037】
前記は、下記の本発明の詳細な記述がより良く理解されるために、本発明の特徴および技術的利点をかなり広く概説している。本発明のさらなる特徴および利点が本明細書中下記に記載され、これらは本発明の請求項の主題を形成している。開示された概念および具体的な実施形態は、本発明の同じ目的を改変するための基礎として、または、本発明の同じ目的を行うための他の構成を設計するための基礎として容易に利用され得ることが当業者によって理解されなければならない。そのような等価な構築は、添付された請求項に示されるような本発明の精神および範囲から逸脱しないこともまた当業者によって認識されなければならない。さらなる目的および利点と一緒に、その作用構成および作用方法の両方に関して本発明の特徴であると考えられる新規な特徴は、添付されている図と一緒に検討されるとき、下記の記載からより良く理解される。しかしながら、図のそれぞれは例示および説明のためだけに提供されており、本発明の範囲を限定するものとして意図されないことを特に理解しなければならない。
【0038】
本発明をより完全に理解するために、次に、添付されている図面と一緒に理解される下記の記載が参照される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本明細書において使用される用語「a」または用語「an」は1つまたは複数を意味することがある。この場合、請求項において使用されるように、用語「含む(comprising)」と一緒に使用されるとき、語句「a」または語句「an」は1または1より多いことを意味することがある。本明細書中で使用される「別の」は少なくとも第2のものまたはそれ以降のものを意味することがある。
【0040】
I.本発明
本発明は、非増殖性細胞を除いて増殖性細胞を濃縮、単離または培養することに関係する。より具体的な用語では、本発明は、非幹細胞を除いて幹細胞(これは多能性細胞としてさらに定義することができる)を濃縮、単離または培養することに関係する。本発明では、基質および/または別の細胞に接着する非常に分化した細胞の性質が利用される。特定の実施形態では、幹細胞が骨髄細胞から得られる。だが、幹細胞を含む任意の好適な組織が、幹細胞が単離される最初の多数の細胞を提供することができる。
【0041】
ヒト幹細胞を治療的細胞置換のために得るための既存の方法は、例えば、細胞をフローサイトメトリーによって細胞を精製すること、および、血清を含有する生育培地で細胞を成長させるか、または霊長類細胞のフィーダー層において細胞を成長させることによって細胞を精製することを含む。具体的な既存の方法において、該既存の方法は、CD34+細胞を骨髄または末梢の循環血液からフローサイトメトリーによって精製し、また、ヒト胎芽幹細胞を、霊長類細胞のフィーダー層の表面において、ウシ胎児血清を含有する生育培地で成長させる。幹細胞が非ヒト細胞および外来血清の存在下で成長させられるので、そのような幹細胞は患者への再移植には適さない。そのうえ、フローサイトメトリーによってCD34+細胞を二重に分取することは効率的ではなく、低い量の収量をもたらし、無菌性の問題を提起する。本発明の培養方法はこれらの問題を解決し、それにより、ドナーに再移植することができる幹細胞を提供する。
【0042】
幹細胞の純粋な培養物、例えば例示的な造血幹細胞などが、メチルセルロース、マトリゲル、凝血塊または他のマトリックスの非存在での液体培養培地における継続した成長によって得られる。懸濁細胞のみが、懸濁された細胞および馴化培地を、培養フラスコの壁に付着する間質細胞、マクロファージ、内皮細胞および他の細胞から除くことによって継代培養される。懸濁細胞は、新鮮な培養培地を含有する新鮮な培養フラスコに細胞馴化培地とともに継代培養される。あるいは、例示的な造血幹細胞は、規定された血清非含有培地において成長する。
【0043】
本発明は、他の方法を上回る多くの利点を細胞培養および細胞適用のために提供する。患者は、治療的細胞置換のために幹細胞を生じさせるために患者自身の骨髄を使用することができる。患者の骨髄を、造血幹細胞の純粋な集団を提供するために拡大培養することができ、また、クローン幹細胞を得ることができる。患者の幹細胞を細胞置換治療のために本発明の条件で培養することにより、ウシ胎児血清または霊長類フィーダー細胞にさらされることからの免疫拒絶、HIV、肝炎または他の病原体の移行および他の動物ウイルス汚染が回避される。また、例示的な造血幹細胞を本発明の方法で産生させることにより、非常に少量のCD34+細胞がフローサイトメトリーによって骨髄または末梢血から精製されることが回避される。今日まで、フローサイトメトリーは、CD34+幹細胞の純粋な集団を得るための唯一の技術であり、その収率は低く、これに対して、本発明は大量の(10個の)幹細胞をもたらす。フローサイトメトリーは効率的ではなく、時間を要し、費用がかかり、また、細胞は容易に汚染される。最後に、(例えば)純粋なCD34+幹細胞の十分な集団をマウスから得ることにより、ニューロン、神経膠細胞、乏突起膠細胞、インスリンを産生する膵臓小島細胞などへの造血幹細胞の分化を研究するための齧歯類モデルが提供される。加えて、これらの細胞は、治療的細胞置換のための細胞移植を調べるためにマウスモデルにおいて使用することができる。
【0044】
CD34+造血幹細胞を用いた治療的細胞置換のための例示的な適用には、免疫疾患、例えば、関節炎、狼瘡、I型糖尿病など;ガン、例えば、白血病など;多発性硬化症;パーキンソン病;アルツハイマー病;他の変性性の神経学的疾患;脊髄傷害;膵臓小島置換などが含まれる。
【0045】
骨髄、または骨髄から選択される細胞は、最近、神経誘導因子によるインビトロ処理の後で、または、脳内への送達の後で神経の表現型を有する細胞を生じさせることが報告された。しかしながら、本発明者らは、以前には、非処理の骨髄細胞が神経のミエリン塩基性タンパク質遺伝子の産物を発現することを示していたし、また、本明細書中において、エクスビボ骨髄細胞のサブセットが、神経性の転写因子(Pa×−6)、ならびに、ニューロン遺伝子(神経フィラメントH、NeuN、HuC/HuDおよびGAD65)および乏突起膠細胞遺伝子(CNPase)を発現することを明らかにしている。対照的に、星状膠細胞のGFAPは検出されなかった。これらの細胞はまた、CD34+(造血幹細胞のマーカー)であった。成体マウス骨髄に由来するこれらの非常に増殖性のCD34+細胞の培養物は、造血系の始原体細胞の表現型(CD45+、CD34+、Sca−1+、AA4.1+、cKit+、GATA−2およびLMO−2+)と適合し得る表現型を一様に示した。エクスビボ骨髄において発現したニューロン遺伝子および乏突起膠細胞遺伝子はまた、すべての培養されたCD34+細胞において発現され、また、再度ではあるが、GFAPは認められなかった。CD34+細胞を成体の脳に移植した後、ニューロンまたは乏突起膠細胞のマーカーが、異なった重複しない細胞集団に分離し、一方、星状膠細胞のGFAPが、移植された細胞の別個の組において、他の神経マーカーの非存在下で現れた。従って、ニューロンおよび乏突起膠細胞の遺伝子産物が骨髄細胞のサブセットに存在し、これらの遺伝子の発現が脳内で調節され得る。これらのCD34+細胞がまた、初期の発達において見出される転写因子(Re×−1およびOct−4)を発現するという事実は、具体的な実施形態において、これらの細胞が多能性の胎芽様の幹細胞であることを示している。
【0046】
加えて、骨髄は、CD34+幹細胞、ならびに、特定の子孫に分化することが決定されているCD34+非幹細胞の両方を含む。従って、骨髄幹細胞を、分化した細胞に対して幹細胞のマーカーに対する一連の抗体を用いた繰り返される分取によるフローサイトメトリーによって得ることができる。それにもかかわらず、フローサイトメトリーによって分取された幹細胞は、混入する細胞との混合集団であることが知られている。本発明は、幹細胞の実質的に純粋な培養物を提供することによって非幹細胞の混入を回避する。このことは、混入する細胞を全く含まない幹細胞/始原体細胞の100%均一な集団を有するとして定義することができる。だが、代わりの実施形態では、微量の非幹細胞が存在する。
【0047】
II.幹細胞
幹細胞は、その組織におけるそれらの系譜の少なくともすべての分化した細胞タイプになる能力を有する細胞である。幹細胞は、幹細胞を他のタイプの細胞から区別する2つの重要な特徴を有する。第1は、幹細胞は、細胞分裂を介して長期間にわたって自身を更新する専門化していない細胞である。第2に、好適な条件のもとでは、幹細胞は、特別な機能を有する細胞(これは、分化したと見なすことができる)になるために誘導することができる。
【0048】
幹細胞は、自己更新性である細胞としてさらに定義され、自己更新するかまたは多種類の分化した子孫に分化するために、対称的なおよび非対称的な分裂を受けることができる(Lin他、1997;Morrison他、1997;BurnsおよびZon、2002)。
【0049】
本発明の具体的な局面において、幹細胞は、最後まで分化せず、結果として、他のタイプの細胞をもたらすことができる細胞である。本発明の特定の局面では、幹細胞は、例えば、特定の組織を修復するために、または、器官を新規に成長させるために使用される。全能性、多能性および多分化能の少なくとも3つのタイプの幹細胞が存在する。1個の全能性幹細胞は完全な生物に成長することができる。多能性肝細胞は完全な生物に成長することができないが、特定の胚葉、例えば、外胚葉、中胚葉または内胚葉などの任意の他の細胞になることができる。多分化能(これはまた単分化能とも呼ばれる)の幹細胞は、胚葉の1つに由来する所与の組織のすべての細胞になることができる。しかしながら、多分化能は、代わりの実施形態では、2つだけの分化した細胞タイプになる潜在的能力を有する幹細胞を示す。
【0050】
幹細胞は様々な組織において同定されている。幹細胞は様々な手段で区別することができ、例えば、幹細胞が得られた組織、分化能力におけるその偏り、幹細胞が存在する発達段階、および、その遺伝子発現プロフィルなどによって区別することができる。具体的には、幹細胞は、外胚葉(表皮、神経、神経冠および毛包)幹細胞、中胚葉(心筋、骨格筋、臍帯血、間葉系、造血系、臍帯マトリックス、および多分化能の成体前駆体)幹細胞、内胚葉(膵臓小島および肝円形細胞)幹細胞、および生殖(原始生殖)幹細胞に由来し得る。1つより多い幹細胞が特定の組織に存在する場合がある。例えば、造血系では単独で、卵黄嚢、胎児臍帯血、肝臓および成体骨髄に由来する幹細胞が存在する。
【0051】
III.培養培地
当業者は、幹細胞が増殖し得るように、好ましくは、幹細胞が非幹細胞(例えば、分化した細胞など)から区別され得るように、好適な培養培地が本発明では使用されることを認識している。例えば、多くの好適な培地が市販されており、例えば、Invitrogen―GIBCO BRL(Carlsbad、California)またはSigma(St.Louis、MO)などから市販されている。利用される培地は血清非含有または血清含有であり得る。だが、当業者は、細胞が1つまたは複数の病原体にさらされないように血清非含有培地を使用することが好都合であり得ることを認識している。
【0052】
具体的な実施形態において、培養培地は、幹細胞を培養するために利用され、この場合、培地は、幹細胞の子孫を培養するために通常的に使用される。だが、代替では、培養培地は、幹細胞の子孫を培養するために通常的に使用されない培地である。さらなる具体的な実施形態において、骨髄幹細胞の子孫を培養するために好適であると見なされる培地が用いられる(例えば、ハイブリドーマ血清非含有培地など)。特定の実施形態において、ハイブリドーマ血清非含有培地は少量のタンパク質(例えば、約20μg/ml以下のタンパク質、例えば、例示的なインスリン、トランスフェリンおよび/またはアルブミンなど)を含むことができる。本発明の培地(例えば、血清非含有のハイブリドーマ培地など)は、例えば、L−グルタミン、抗生物質、抗真菌剤およびフェノールレッドを有しない場合がある。
【0053】
造血幹細胞の拡大培養または臍帯血幹細胞の拡大培養に関する実施形態については、例えば、StemlineTM Hematopoietic Stem Cell E×pansion Medium(Sigma;St.Louis、MO)を用いることができる。他の実施形態では、Hybridoma Medium Animal Component−Free Medium(Sigma;St.Louis、MO)が利用される。そのようなものとして、培地は、無機塩、必須アミノ酸および非必須アミノ酸、ビタミン、重炭酸ナトリウム、HEPES、微量元素、脂肪酸および他の有機物を含むことができる。組換えヒトインスリンを唯一のタンパク質源として存在させることができる。培地は、例えば、L−グルタミン、抗生物質、抗真菌剤およびフェノールレッドを有しない場合がある。
【0054】
より具体的には、例示的な培養培地は下記の1つまたは複数を含む:無機塩(これには、例えば、CaCl;Fe(NO・9HO;KCl;MgSO(無水);NaCl;NaHCO;NaHPO・HOが含まれる);アミノ酸(必須および/または非必須)(これには、例えば、L−アルギニン・HCl;L−シスチン;L−シスチン・2HCl;L−グルタミン;L−アラニル−L−グルタミン;グリシン;L−ヒスチジンHCl・HO;L−イソロイシン;L−ロイシン;L−リシン・HCl;L−メチオニン;L−フェニルアラニン;L−セリン;L−トレオニン;L−トリプトファン;L−チロシン;L−チロシン・2Na・2HO;L−バリンが含まれる);ビタミン(これには、例えば、D−パントテン酸Ca;塩化コリン;葉酸;i−イノシトール;ナイアシンアミド;リボフラビン;チアミンHCl;ピリドキシンHClが含まれる);微量元素(これには、例えば、メタバナジン酸アンモニウム;硫酸第二銅;塩化第一マンガン;亜セレン酸ナトリウムが含まれる);タンパク質(これには、例えば、AlbuMA×(登録商標)II(ウシ血清アルブミン、Life Technologies, Inc.;Gaithersburg、MD)、インスリン(好ましくは、組換え体)およびヒトトランスフェリン(ホロ)が含まれる);および他の成分(これには、例えば、D−グルコース;フェノールレッド;HEPES;およびピルビン酸ナトリウムが含まれる)。
【0055】
当業者は、培養培地が、培養または拡大培養を容易にするための増殖因子であって、幹細胞が最初に得られる組織に対して適切な増殖因子、または、幹細胞が分化する組織に対して適切な増殖因子により補充され得ることを認識している。例えば、胎芽幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、下記の1つまたは複数を含まれ得る:FGF−β、Wnt−3a、コラーゲン、フィブロネクチンおよびラミニン。例えば、間葉系幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、FGF−β、EGF、PDGFおよびフィブロネクチンの1つまたは複数を含まれ得る。例えば、造血幹細胞について、エクスビボでの拡大培養因子には、IL−3、IL−6、SCF、Flt−3/Flk−2、Tpo、Shh、Wnt−3aおよびKirreの1つまたは複数を含まれ得る。神経幹細胞について、エクスビボ拡大培養因子には、FGF−β、EGF、フィブロネクチンおよびシスタチンCが含まれ得る。
【0056】
一部の実施形態において、培地は、「馴化されている」と見なすことができる前回の培養培地から移された少なくとも一部の培地を含む。この場合、細胞は有用な因子(例えば、増殖因子およびサイトカインなど)を培地に以前に分泌している。培地における幹細胞の成長を促進させる任意の因子、および/または、懸濁された細胞を接着性細胞から区別する能力を強化する任意の因子が本発明において有用である。馴化因子の具体的な例は、最初の多数の細胞が幹細胞の単離のために得られた組織に依存し得る。例示的な増殖因子およびサイトカインには、ロイコトリエン類;セカンドメッセンジャー(例えば、cAMP、cGMP);増殖因子(EGF、FGF、PDGF、BMP、GDNP);または、培地によって提供されるIL−3およびIL−6とは異なるインターロイキン(例えば、IL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18、IL−19、IL−20、IL−21、IL−22、IL−23、IL−24、IL−25、IL−26、IL−27、IL−28、IL−29);およびビタミンが含まれる。代わりの実施形態において、これらの増殖因子およびサイトカインは馴化培地から得られず、外部から添加される。だが、これらの増殖因子およびサイトカインはまた、同じ因子または異なる因子を有する馴化培地を補充するために使用することができる。
【0057】
特定の実施形態において、インターロイキン3、インターロイキン6、幹細胞因子およびβ−メルカプトエタノールを含む規定された血清非含有培地(ハイブリドーマSFM培地、GIBCO BRL、Rockville、MD、米国)が用いられる。他の培地には、10%ウシ胎児血清、ならびに、インターロイキン3、インターロイキン6、幹細胞因子およびβ−メルカプトエタノールを含有するダルベッコ改変イーグル培地が含まれる。
【0058】
IV.細胞マーカー
細胞マーカーは、特定の所望される幹細胞のための有用な同定ツールである。本明細書中で使用される用語「細胞マーカー」は、目的とする幹細胞と一般に関連付けられる遺伝子または遺伝子産物を示す。遺伝子産物は細胞表面に発現される場合がある。
【0059】
細胞マーカーは、例えば、系譜マーカー、代謝マーカー、情報伝達マーカー、増殖因子、転写因子などであり得る。具体的な実施形態において、特異的な細胞マーカーが特定の所望される幹細胞に関連する。例えば、1つまたは複数の細胞マーカーにより、ある種類の幹細胞が示されることがあり、これに対して、他の1つまたは複数の細胞マーカーにより、別の種類の幹細胞が示される。代わりの実施形態において、2種類より多い幹細胞を示す1つまたは複数の細胞マーカーが存在する。1つより多い幹細胞についての細胞マーカーの例には、ALDH活性、Hoescht33342/SP、ABCG−2発現、ローダミン123排除、コネキシン発現、および/または、系譜マーカーの喪失(Lin)(Cai他、2004、これはその全体が参考として本明細書中に組み込まれる)が含まれ得る。
【0060】
1つまたは複数の細胞マーカーの同定は、存在するならば、そのマーカーが検出可能である限り、任意の好適な方法が可能である。特定の実施形態において、細胞マーカーは、免疫細胞化学、インシチュウハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応、タンパク質ポリアクリルアミドゲル電気泳動、ウエスタンブロット分析、またはこれらの組合せによって同定される。
【0061】
当業者は、上記の手法に基づく単離の前に、特定の好適な1つまたは複数の細胞マーカーをどのようにして明らかにするかを認識している。具体的な実施形態において、ヒト胎芽幹細胞について、好適な細胞マーカーには、例えば、Nanog、GTCM−1、コネキシン43(GJA1)、oct−4およびTDGF1(cripto)が含まれる(Bhattacharya他、2004)。他の実施形態では、当業者は、ある哺乳動物種に由来する1組の特定の組織細胞マーカーが別の哺乳動物種における同じ組織の細胞マーカーと同一でないことがあることを認識している。
【0062】
造血幹細胞のための例示的な細胞マーカーには、CD34+、Sca−1+、AA4.1+およびcKit+が含まれ、具体的な実施形態において、これらのマーカーはマウスの造血幹細胞を示す。代わりの実施形態において、ヒト造血幹細胞は、CD34+またはCD34、CD38+、CD38(−)、ckit+、Thy 110、ClfR、またはそれらの組合せであり得る。神経幹細胞についての例示的なマーカーには、例えば、表皮増殖因子、繊維芽細胞増殖因子などが含まれる。心臓幹細胞ついての例示的なマーカーには、例えば、幹細胞抗原−1、CD45(−)、CD34(−)、Sca−1+、またはそれらの組合せが含まれる。腸幹細胞のマーカーには、例えば、A33、cFMS+、c−myb+、CD45(−)、またはそれらの組合せが含まれる。皮膚幹細胞のマーカーには、例えば、ケラチン19が含まれる。
【0063】
V.本発明の細胞の適用
本発明は、研究のための、または、その必要のある動物のための治療的使用(例えば、細胞置換治療による治療的使用など)のための幹細胞およびその使用に関係する。細胞は、細胞が集められたとき、治療的であり得るか、または、その適用の前に操作され得る。そのような操作は、細胞が提供される個体についてその治療活性を高める任意の種類のものであり得る。特定の実施形態において、幹細胞はさらに、小分子、治療ポリペプチド、治療ポリペプチドをコード化する核酸、siRNA、アンチセンスRNA、RNAi、脂質(リン脂質、プロテオ脂質および糖脂質を含む)、またはそれらの混合物などの治療因子を含む。具体的な実施形態において、治療因子は医学的状態の少なくとも1つの症状の改善をもたらし、かつ/または、医学的状態の少なくとも1つの症状を防止する。本発明のこの局面で利用される特定の幹細胞は、その意図された目的のために好適である。例示的な適用(例えば、下記の適用など)が用いられ得る。だが、当業者は、他の好適な適用が利用され得ることを認識している。
【0064】
A.造血系
造血系に由来する幹細胞を様々な適用のために用いることができる。そのような幹細胞は、例えば、本発明の1つまたは複数の細胞を、ダウン症候群に罹患している個体(胎児を含む)に、または、ダウン症候群に罹患しやすい個体(例えば、胎児など)に適用することによって、ダウン症候群を防止および/または処置することにおいて利用することができる。他の実施形態において、造血系は、例えば、個体が血液障害(白血病を含む)に罹患している場合などにおいて、細胞置換治療から利益を受ける。
【0065】
実際、本明細書中において、本発明者らは、神経および乏突起膠細胞の遺伝子が、CD34陽性であるエクスビボ骨髄細胞のサブセットにおいて発現することを報告している。培養系が、CD34に加えて神経幹細胞マーカーおよび造血幹細胞マーカーの両方を発現する非常に増殖性の細胞の純粋な集団を成体骨髄から生じさせるために開発された。成体マウスの脳に移植されたとき、培養されたCD34+細胞は14ヶ月間(調べられた最も長い時間)にわたって生存し、また、形態学的には、ニューロン、星状膠細胞および乏突起膠細胞に類似し、かつ、これらの細胞タイプのそれぞれについて特異的な異なったマーカーを発現する細胞に分化している。しかしながら、代わりの実施形態では、細胞はCD34である。
【0066】
適用された幹細胞のモニタリングを任意の好適な手段によって行うことができ、例えば、特定の細胞マーカーをモニターし、かつ/または、形態学を特徴づけることなどによって行うことができる。例えば、細胞を、神経フィラメントH、神経フィラメントM、神経フィラメントL、MAP2、β−チュブリン、NeuN、チロシンヒドロキシラーゼ、アセチルコリントランスフェラーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、ドーパミン、β−ヒドロキシラーゼ、シナチン、シナプトブレビン、GFAP、CNPase、MOSP、ミエリン塩基性タンパク質、MOG、MAG、PLP、またはそれらの組合せについてモニターすることができる。
【0067】
B.中枢神経系(CNS)
本発明の幹細胞はまた、例えば、神経変性障害(例えば、パーキンソン病、多発性硬化症、アルツハイマー病および筋萎縮性側索硬化症(ALS)など)、発作、脊髄傷害、ハンチングトン病を有する個体をはじめとする、中枢神経系の障害に苦しんでいる個体に適用することができる。特定の実施形態において、個体自身の骨髄により、その患者の神経変性障害に対する治療的細胞置換のための幹細胞が提供される。
【0068】
特定の実施形態において、幹細胞は、脳の神経性領域(例えば、海馬など)または脳の非神経性領域(例えば、線条体など)に適用される。特定の実施形態において、細胞は、例えば、ニューロン、星状膠細胞、神経膠細胞および乏突起膠細胞、例えば、ミエリンを産生し、かつ、ミエリン鞘をCNS軸索の周りに形成するそのような細胞などに発達する。
【0069】
さらなる実施形態において、CNS適用のために用いられる幹細胞は、神経保護性であることが知られている治療因子としての核酸(例えば、インターフェロン−βまたは脳由来神経栄養因子をコード化する核酸など)を含む。あるいは、幹細胞は、例えば、治療ポリペプチドまたは小分子を有する。他の神経保護因子には、例えば、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、NGF、FGF、EGF、BMP、TNF−αが含まれ、これらはまた、例えば、ポリペプチドの形態で、または、ポリペプチドをコード化する核酸の形態で提供され得る。具体的な実施形態において、核酸は、RNAi、siRNAまたはアンチセンスRNAである。
【0070】
CNS適用前および/またはCNS適用後における適用された幹細胞のモニタリングを任意の好適な手段によって行うことができ、例えば、特定の細胞マーカーをモニターし、かつ/または、形態学を特徴づけることなどによって行うことができる。例えば、細胞を、チロシンヒドロキシラーゼ、HuC/HuD、神経フィラメントH、NeuN、M2ムスカリン様アセチルコリン受容体、Pa×6および/またはGAD65についてモニターすることができる。星状膠細胞を、例えば、GFAPについてモニターすることができる。乏突起膠細胞を、例えば、CNPase、MOSP、NG2、ガラクトセレブロシドまたはO4についてモニターすることができる。
【0071】
本発明のための特殊化されたCNS実施形態では、細胞を網膜症のために使用することが含まれる(下記参照)。
【0072】
C.膵臓小島系
さらなる実施形態において、本発明の幹細胞は、糖尿病のための細胞置換治療などのために膵臓小島系において用いられる。具体的には、そのような実施形態において利用される細胞は、当然のこととしてインスリン合成を調節する。だが、一部の実施形態では、インスリン合成が、膵臓小島β細胞へのインビボ分化の後までは検出されない。さらなる実施形態において、細胞は、例えば、インスリンの発現を調節するために遺伝子操作される。これは任意の好適な手段によって達成することができ、例えば、インスリンをコード化する核酸を有することなどによって達成することができる。
【0073】
膵臓適用前および/または膵臓適用後における適用された幹細胞のモニタリングを任意の好適な手段によって行うことができ、例えば、特定の細胞マーカーをモニターし、かつ/または、形態学を特徴づけることなどによって行うことができる。例えば、細胞をインスリンおよび/または膵臓小島β細胞のグルコース感知分子の産生についてモニターすることができる。
【0074】
D.網膜症
本明細書中において他のところで記載されるように、本発明の幹細胞および方法は、網膜症を有する個体に対する適用のために有用である。網膜症には、網膜(CNSの一部)の欠失が含まれ、また、特定のクラスの神経細胞が失われる場合がある:例えば、光受容器が、黄斑変性(例えば、加齢性の黄斑変性など);色素性網膜炎、レーバー先天性黒内症、桿体一色型色覚および×連鎖進行性錐体ジストロフィーでは欠陥である;神経節細胞が多発性硬化症およびメタノール中毒では欠陥である;Mクラス神経節細胞が、緑内障、アルツハイマー病および水頭症では欠陥である;また、ミュラー細胞が成人の網膜分離症では欠陥である。
【0075】
網膜症適用前および/または網膜症適用後における適用された幹細胞のモニタリングを任意の好適な手段によって行うことができ、例えば、特定の細胞マーカーをモニターし、かつ/または、形態学を特徴づけることなどによって行うことができる。例えば、細胞を、移植片の網膜層および細胞クラスの分子マーカー(例えば、オプシン、Thy1、グルタミンシンセターゼ、ならびに一連の神経伝達物質およびニューロペプチド)についてモニターすることができる。
【0076】
E.他の系
他の実施形態において、本発明によって包含される幹細胞は別の例示的な実施形態で利用される。例えば、筋肉のための幹細胞を、平滑筋または骨格筋であるとしても、好適な筋適用のために利用することができる。一例において、筋肉由来の幹細胞が、心臓適用に応用するために用いられ、例えば、心不全を含む心臓疾患の防止および/または処置などのために用いられる。細胞を、心臓病の診断のときに、または、心臓病の診断の後に、または、心臓疾患に罹りやすい個体に適用することができる。
【0077】
具体的な実施形態において、本発明の幹細胞は、心臓目的のためにその必要性のある個体に適用され、この場合、幹細胞は治療因子を含む。治療因子は、小分子、治療ポリペプチドをコード化する核酸、治療核酸(例えば、RNAi分子、siRNAまたはアンチセンスRNAなど)、または治療ポリペプチドを含むことができる。治療因子は、例えば、治療的利益を個体の内因性細胞に提供するなどのために、個体に適用されたとき、分泌され得る。心臓適用における幹細胞のための治療因子の例示的な実施形態では、VEGF+が含まれる。
【0078】
治療的放射線照射後の白血病、形成不全症、遺伝的血液疾患(一致したドナー幹細胞)、骨髄形成異常、皮膚置換(例えば、火傷などのための皮膚置換)、および骨置換(例えば、骨粗鬆症および他の骨喪失/変性状態などのための骨置換)における造血系は、本発明の幹細胞から利益を受ける他の系/疾患である。
VI.遺伝子治療の施与
【0079】
本発明の一部の実施形態において、幹細胞は自身が治療的であるとして利用される。だが、他の実施形態では、幹細胞は、治療因子を送達するための媒介物として用いられる。さらなる実施形態において、幹細胞は治療的であり、かつ、治療因子を提供する。
【0080】
具体的には、本発明の細胞治療法は、疾患の治療のための核酸配列またはアミノ酸配列のコピーを含む細胞を提供する。
【0081】
本発明の1つの実施形態において、本発明の細胞および方法は遺伝子治療のために利用される。遺伝子治療について、当業者は、細胞が、目的とする遺伝子がプロモータに対して機能的に限定されるベクターを含有すること、および、特定の実施形態において、そのようなプロモータは、分化したときに細胞が関連する組織について特異的であることを認識する。例えば、神経特異的な適用では、神経フィラメントのプロモータを利用することができる。星状膠細胞については、GFAPのプロモータを用いることができる。乏突起膠細胞については、MGF、MOGまたはMAGのプロモータを使用することができる。
【0082】
プロモータは、構成的、誘導的または組織特異的であり得る。当業者は、特定の場合には、他の配列(例えば、3’UTR調節配列など)が、目的とする遺伝子を発現させることにおいて有用であることを認識している。この分野で知られている手段を、組成物が標的の器官に到達するまで組成物の放出または吸収を妨げるために、あるいは、組成物の徐放性を保証するために利用することができる。治療核酸配列を含む十分な量のベクターが、遺伝子産物の薬理学的有効量を提供するために投与される。
【0083】
具体的な実施形態において、発現する構築物はさらに、核局在化シグナルを有する治療核酸を含み、かつ/または、治療遺伝子産物はタンパク質形質導入ドメインを含む。
【0084】
当業者は、種々の送達方法が、ベクターを本発明の細胞に投与するために利用され得ることを認識している。例には、下記が含まれる:(1)物理的手段を利用する方法、例えば、エレクトロポレーション(電気)、遺伝子銃(物理的力)、または大量の液体を当てること(圧力)など;および/または(2)前記ベクターを別の実体(例えば、リポソームまたは輸送因子分子など)に対して複合体形成させる方法。
【0085】
従って、本発明は、治療遺伝子を宿主に移行させる方法を提供し、この場合、この方法は、ベクターを本発明の細胞の内部に投与することを含む。本発明に従った宿主細胞へのベクターの効果的な遺伝子移行を、治療的効果(例えば、処置されている特定の医学的状態に関連する少なくとも1つの症状の緩和)に関してモニターすることができ、あるいは、さらには、移行した遺伝子の証拠、または、宿主体内における遺伝子の発現によって(例えば、宿主細胞において核酸を検出するために、ポリメラーゼ連鎖反応を、配列決定、ノーザンハイブリダイゼーションもしくはサザンハイブリダイゼーション、または転写検定と一緒に使用して、あるいは、免疫ブロット分析、抗体媒介による検出、mRNAもしくはタンパク質の半減期研究、または、移行した核酸によってコード化されるか、または、そのような移行に起因してレベルもしくは機能が影響されるタンパク質もしくはポリペプチドを検出するための個別化された検定、または、それらの組合せを使用して)モニターすることができる。他の実施形態では、特定の細胞マーカーの存在が、例えば、免疫細胞化学などによって検定される。
【0086】
本明細書中に記載されるこれらの方法は決して包括的はなく、特定の適用に適するさらなる方法が当業者には明らかである。そのうえ、組成物の効果的な量はさらに、例えば、所望する効果を発揮させるために知られている配合物との類推によって、かつ/または、経験的な観察結果に基づいて見積もることができる。
【0087】
さらに、実際の用量およびスケジュールは、細胞が他の医薬組成物との組合せで投与されるかどうかに依存して、または、薬物動態学、薬物の性質、および代謝における個体間の違いに依存して変化し得る。同様に、量は、利用される特定の細胞に依存して、インビトロ適用では変化し得る。さらに、細胞あたりの加えられるベクターの量は、ベクターに挿入されている治療遺伝子の長さおよび安定性により、そしてまた、同様に、配列の性質により変化することが考えられ、具体的には、経験的に決定する必要があるパラメーターであり、また、本発明の方法に固有的でない要因(例えば、合成に関連する費用)のために変化し得る。当業者は、個別の状況の要求に従って何らかの必要な調節を容易に行うことができる。
【0088】
具体的な実施形態において、治療のための核酸はDNAまたはRNAであり、任意の核酸を細胞内に治療目的のために含めることは本発明の範囲内である。具体的な例には、インターフェロン−βまたは脳由来増殖因子(例えば、神経学的適用のために)、ならびに、GDNF、NGF、FGFおよびBMPが含まれるが、これらに限定されない。ジストロフィンの核酸(例えば、筋ジストロフィーの処置のために)またはβ−グロビン遺伝子(例えば、鎌状赤血球貧血の処置のために)もまた用いることができる。
【0089】
具体的な実施形態において、治療のための核酸はp53であり、これはガンにおいて変異していることが多い。あるいは、Foster他(1999)(これは参考として本明細書中に組み込まれる)によって教示されるように、p53のDNA結合ドメインを活性な立体配座で安定化させるための化合物が、腫瘍細胞における変異p53が転写を活性化させ、腫瘍の成長を遅らせることを可能にするために、本発明の細胞または方法を介してさらに送達される。具体的な実施形態において、安定化のための化合物は、イオン性の基(例えば、アミンなど)にリンカーにより連結された少なくとも1つの環状基を含有する疎水性基を含む。
【0090】
従って、細胞置換治療に加えて、幹細胞の潜在的利点は、幹細胞が、有益なタンパク質を産生するようにインビトロで遺伝子操作され得るということである。本発明者らは、2つの神経保護遺伝子(インターフェロン−β(IFN−β)および脳由来神経栄養因子(BDNF))を、遺伝子操作された骨髄幹細胞とともにマウスの脳に送達している。BDNFはニューロトロフィンファミリーの多形質発現性サイトカインであり、ドーパミン作動性ニューロン、感覚ニューロン、小脳ニューロンおよび運動ニューロンをはじめとする様々なニューロン集団の生存および分化を調節することにおいて重要な役割を果たしている。BDNFは、膜貫通のチロシンキナーゼTrkB受容体に結合し、いくつかのシグナル伝達経路を活性化することによってその生物学的機能を発揮すると考えられている。ニューロンの生存、増殖、分化、および神経突起の成長を調節することに加えて、BDNFは、実験的な脊髄傷害において乏突起膠細胞の増殖および再生中の軸索のミエリン形成を調節する。BDNFノックアウトマウスの表現型には、前庭欠陥に関連するバランス問題、および摂食障害が含まれる。
【0091】
BDNFのこれらの有益な効果に基づいて、ニューロン傷害の様々な形態の後におけるニューロン細胞の死を防止することにおけるのその効力、および神経変性疾患の動物モデルにおけるその効力が明らかにされている(10、11)。しかしながら、BDNF治療の大きな制限はその短い血漿中半減期であり、また、血液脳関門によりCNSに到達できないことである。この問題を回避するために、遺伝子治療法は、標的組織に対する長期間の送達のための可能性を提供し得る。導入遺伝子から発現し、細胞外の環境に放出されたBDNFは局所的に拡散し、かつ、逆行性の軸索輸送のために付近の神経末端によって取り込まれ得る。
【0092】
さらに、神経保護遺伝子は、BDNF遺伝子産物の発現が特定の時間および場所で生じることを可能にする遺伝子プロモータの制御下にあるように操作することができる。本発明者らは、TET−Onプロモータの制御下に置き、その結果、遺伝子が、レシピエントマウスに、例えば、飲み水などでテトラサイクリンが与えられたときに、遺伝子を有する移植された幹細胞によって発現し、かつ、テトラサイクリンが除かれたとき、BDNFを産生することを停止するようにBDNF遺伝子を操作している。さらに、本発明者らは、3つの異なる細胞タイププロモータ(ニューロンのための神経フィラメント、星状膠細胞のためのGFAP、および、乏突起膠細胞のためのMBP)を有する別個のBDNF−TET−On構築物を有している。これは、移植された動物におけるBDNF産生時期の制御を可能にし、また、これらの細胞タイププロモータは、ニューロンまたは星状膠細胞または乏突起膠細胞になる幹細胞によってだけBDNFを発現させることができる。従って、このような幹細胞は、細胞置換治療のための細胞と、厳重に制御された遺伝子治療のための媒介物との2つの治療的ツールを提供する。
【0093】
他の実施形態において、操作された幹細胞は、遺伝子を神経変性の3つのマウスモデル(多発性硬化症の2つのモデル(EAEマウスおよびShivererマウス)、および、MPTP処置マウスの1つのパーキンソン病モデル)に送達するために用いられる。
【0094】
VII.本発明のキット
本発明の具体的な実施形態において、本発明の幹細胞を作製および/または使用するための1つまたは複数のキットが提供される。キットの構成成分は好適な容器に収容され、また、適する場合には無菌にすることができる。キットの収容には、例えば、箱、バイアルまたはボトルが含まれ得る。
【0095】
キットは好適な培地またはその成分を含むことができ、一部の実施形態では、培地は血清非含有であり、これに対して、他の実施形態では、培地は血清を含む。キットは、幹細胞を培養するための1つまたは複数の容器を含むことができ、また、懸濁された細胞を移すための移送手段(例えば、ピペットなど)をさらに含むことができる。他の実施形態において、幹細胞を個体に適用するための成分(例えば、シリンジなど)、細胞を濃縮するためのフィルター、細胞を懸濁するための水溶液、ニードル、シリンジなどが存在する。
【0096】
さらなる実施形態において、キットには、幹細胞を培養するために細胞を目的とする組織から取り出すための構成成分、例えば、骨髄を得るための装置などが存在する。例には、シリンジ、メス、ならびに、ヘパリンを含有するトロカール(市販品)を伴うニードルおよびシリンジの標準的な骨髄吸引キットが含まれる。ヘパリンが骨髄幹細胞のサブセットを殺すことが見出される実施形態では、ヘパリンなどを伴わずに、標準的な無菌シリンジ、吸引用ニードル、スタイレット、ルアーロックアダプターおよび洗矢などを伴うキットが提供され得る。
【実施例】
【0097】
下記の実施例は、本発明の好ましい実施形態を明らかにするために含まれる。下記の実施例において開示される技術は、本発明の実施において十分に機能することが本発明者らによって発見された技術を表わしており、従って、本発明の実施のための好ましい様式を構成すると見なされ得ることが、当業者によって理解されなければならない。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、多くの変更が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な実施形態においてなされ、かつ、依然として同様の結果または類似した結果をもたらし得ることを理解しなければならない。
【0098】
〔実施例1〕 例示的な材料および方法
<骨髄CD34+幹細胞培養物>
骨髄を、16匹のC57Bl/6J成体マウス、4匹のSJL/J成体マウス、4匹のC3H成体マウスおよび2匹の129FVB成体マウスの大腿骨から無菌的に採取した。1つの成体マウス大腿骨に由来する細胞を、10%のウシ胎児血清を含有する10mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(GIBCO)に、また、10mlのHybridoma Cell Defined Serun−Free Medium(GIBCO)に懸濁し、2つのT75細胞培養フラスコに分配した。両培地には、マウスインターロイキン3(IL−3)(R&D Systems)、マウスインターロイキン6(IL−6)(R&D Systems)、マウス幹細胞因子(SCF)(R&D Systems)およびβ−メルカプトエタノールが下記の最終濃度に補充された:5ng/mlのIL−3、10ng/mlのIL−6、10ng/mlのSCF、および、2.9mlのHOHにおける10μlのβ−メルカプトエタノールの1:1000希釈。マトリックス、基質またはフィーダー細胞はいずれも、組織培養フラスコ内の液体培地には添加されなかった。細胞を、加湿した10%CO/90%空気において37℃で成長させた。細胞を観察し、必要に応じて週に2回、細胞に養分を供給したか、または、細胞を継代培養した。細胞には、それぞれのフラスコに5mlの新鮮な培地を加えることによって養分を供給した。細胞培養物が、植継ぐために十分な密度になったとき、浮遊細胞のみを集め、培養フラスコに付着した細胞を残した。これらの付着した細胞は、骨髄間質細胞、内皮細胞、マクロファージなどである。浮遊細胞を、前回の培養物からの50%の馴化培地と、50%の新鮮な培地とにおいて、2×10細胞/10mlで植継ぎした。3週間後〜4週間後、培養物は、分裂している浮遊細胞のみを含有しており、そのような細胞は、フラスコに付着するマクロファージおよび他の細胞にもはや分化しない。
【0099】
<RT−PCR>
RNAを、成体マウスの骨髄から、6週間〜4ヶ月間培養されたCD34+細胞から、また、出生後2日目(P2)のマウスの脳から得て、RT−PCRを、下記のDNAプライマーを使用する標準的な方法によって行った:GATA−2の順方向プライマー5’ATGGAGGTGGCGCCTGAGCAGCCT3’(配列番号1)、逆方向プライマーCTGCCGCCTTCCATCTTCATGCTC3’(配列番号2);LMO−2の順方向プライマー5’ATGTCCTCGGCCATCGAAAGGAAG3’(配列番号3)、逆方向プライマー5’GATGATCCCATTGATCTTGGTCCA3’(配列番号4);Re×−1の順方向プライマー5’CACCATCCGGGATGAAAGTGAGAT3’(配列番号5)、逆方向プライマー5’ACCAGAAAATGTCGCTTTAGTTTC3’(配列番号6);Oct−4の順方向プライマー5’CCGTGAAGTTGGAGAAGGTG3’(配列番号7)、逆方向プライマー5’TGATTGGCGATGTGATGTAT3’(配列番号8);Flk−2の順方向プライマー5’CGTACCGAATGGTGCGAGGATCCC3’(配列番号9)、逆方向プライマー5’CATGGTTCACATGGATGGCCTTAC3’(配列番号10);TAL−1の順方向プライマー5’GATGACGGAGCGGCCGCCGAGCGAGGCG3’(配列番号11)、逆方向プライマー5’CGCACTACTTTGGTGTGAGGACCA3’(配列番号12);CD34の順方向プライマー5’CAGTATTTCCACTTCAGAGATGAC3’(配列番号13)、逆方向プライマー5’GTGTAATAAGGGTCTTCACCCAGC3’(配列番号14)、神経フィラメントHの順方向プライマー5’ATTGGCTTTGGTCCGAGTCC3’(配列番号15)、逆方向プライマー5’GGGGGTTCTTTGGCTTTTAC3’(配列番号16)、神経フィラメントMの順方向プライマー5’CTTTCCTGCGGCGATATCAC3’(配列番号17)、逆方向プライマー5’TCCTCAACCTTTCCCTCAAT3’(配列番号18)、および、神経フィラメントLのプライマー順方向5’GCAGAACGCCGAAGAGTGGT3’(配列番号19)、逆方向プライマー5’CGAGCAGACATCAAGTAGGA3’(配列番号20)。PCR産物を標準的なプロトコルによりゲルでの塩基対サイズによって分離した。
【0100】
<免疫細胞化学>
培養されていないエクスビボ成体マウス骨髄細胞、ならびに、6日間、21日間、28日間、48日間、56日間および110日間の培養物に由来するインビトロ骨髄細胞を、4%パラホルムアルデヒドにおいて4℃で15分間インキュベートし、ダルベッコリン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)で3回洗浄し、細胞遠心によって顕微鏡スライドガラスに塗布し、直ちに使用するか、または、使用まで−80℃で貯蔵した。その後、細胞を0.25%のTween−20により21℃で3分間処理し、PBSで3回洗浄し、下記の抗体を使用する標準的な免疫細胞化学の方法によって分析した:一次抗体CD34(PharMingen 553731)、Sca−1(PharMingen 557403)、AA4.1(PharMingen 559158)、cKit(Cymbus CBL1359)、H−2K(PharMingen 553567)、CD45(PharMingen 553076)、F4/80(Serotec MCAP497)、Pa×−6(Santa Cruz sc−11357)、Oct−4(Santa Cruz sc−9081)、HuC/HuD(Molecular Probes A−21275)、神経フィラメントH(Sternberger Monoclonals SMI 312、Chemicon AB1989)、NeuN(Chemicon MAB377)、GAD65(Chemicon AB5082)、M2ムスカリン様アセチルコリン受容体(Chemicon AB166−50UL)、GFAP(Chemicon MAB3402、AB5040、AB5804)、CNPase(Chemicon MAB326)、MOSP(Chemicon MAB328)、NG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(Chemicon AB5320)、ガラクトセレブロシド(Chemicon AB142)、乏突起膠細胞マーカーのO4(Chemicon MAB345)、MAG(Chemicon MAB1567)、PLP(Chemicon MAB388)。二次抗体は、FITC−F(ab’)ロバ抗ウサギ(JacksonImmuno 711−096−152)、TRITC−F(ab’)ロバ抗ラット(JacksonImmuno 712−026−150)、TRITC−F(ab’)ヤギ抗マウスIgG+IgM(JacksonImmuno 115−026−044)、TRITC−F(ab’)ウサギ抗マウス(JacksonImmuno 315−026−045)、FITC−ヤギ抗マウスIgGl Fcγフラグメント特異的(JacksonImmuno 115−095−008)、Cy5−F(ab’)ロバ抗ウサギ(JacksonImmuno 711−176−152)、西洋ワサビペルオキシダーゼ−ヤギF(ab’)抗ウサギIgG(H+L)(Caltag L4300−7)、Fabフラグメントヤギ抗マウスIgG(JacksonImmuno 115−007−003)。マウスモノクローナルIgG1抗体がエクスビボのマウス骨髄細胞に結合する場合、標準的なプロトコルを改変して、固定された透過処理されている細胞をPBSにおける5%の正常ヤギ血清に室温で1時間さらし、その後、PBSにより6回洗浄し、次いで、細胞を20μg/mlのAffinipure Fabフラグメントヤギ抗マウスIgG1(JacksonImmuno 115−007−003)に1時間さらし、その後、目的の抗原に対する一次マウスモノクローナル抗体IgG1に1時間さらし、PBSで6回洗浄し、最後に二次FITC−ヤギ抗マウスIgG1 Fcγフラグメント特異的に1時間さらし、PBSにより6回洗浄した。2つのコントロールを使用した。ともに、一次抗体は使用されず、一次マウスモノクローナルIgG1抗−GFAPが使用された。
【0101】
<ウエスタンブロット分析>
培養されたCD34+細胞から得られるタンパク質を、報告(Marty他、2002)のように、10%、12%、および4%〜20%勾配のポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、ニトロセルロースメンブランに転写し、上記の抗体を使用して特定のタンパク質について分析した。
【0102】
<CD34+細胞の生体染色色素標識>
CD34+細胞を蛍光性色素の5−(および6)−(((4−クロロメチル)ベンゾイル)アミノ)テトラメチルローダミン(Cell Tracker Orange CMTMF)(Molecular Probes)によって下記のように標識した。CD34+細胞(2×10)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)における10mM色素の400倍ストック液からの25μMのCell Tracker Orangeの最終濃度においてインキュベートした。細胞を5mlの色素含有DMEM10において37℃で15分間インキュベートし、遠心分離によってペレット化し、15mlのDMEM10で洗浄し、37℃で30分間インキュベートし、ペレット化し、15mlのDMEM10で37℃で15分間再び洗浄し、ペレット化し、DMEM10に10細胞/μlで再懸濁した。
【0103】
<成体マウスの脳へのCD34細胞の定位注入>
34匹の麻酔された成体C57Bl/6Jマウスに、1μlのDMEM10における104個のC57Bl/6JのCell Tracker Orange標識されたCD34+細胞をそれぞれの脳の海馬および線条体に定位注入した。注入された動物を1ヶ月〜14ヶ月間飼育し、その後、屠殺して、PBSで灌流し、その後、4%パラホルムアルデヒドで灌流した。脳を取り出し、30%スクロースにおいて平衡化し、凍結包埋配合物に包埋し、凍結し、厚さ30μmの断面に切断し、標準的な方法を使用して免疫組織化学のために調製し、25ng/mlの4’−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)により対比染色した。移植されたCD34+細胞を観察し、画像を、ローダミン、フルオレセイン、Cy5およびDAPIの光学を用いた通常の蛍光顕微鏡およびレーザー共焦点顕微鏡によって記録した。
【0104】
〔実施例2〕 神経抗原がエクスビボ骨髄細胞のサブセットに存在する
以前の研究では、異なる骨髄細胞調製物が、脳に移植された後、神経系の分子を発現し得ることが観測されていた。しかしながら、MBP遺伝子の生成物について以前に示されたように(Marty他、2002)、これらの神経系分子が移植の結果であるか、または、既に骨髄中に存在しているかどうかは明らかにされていない。従って、培養されていないエクスビボ骨髄における神経マーカーの発現を調べた(図1)。神経性転写因子のPa×−6、および、調べられた4つのニューロンタンパク質の神経フィラメントH、NeuN、Huc/HuD、GAD65が、成体骨髄細胞において小さい割合で存在していた。二重免疫細胞化学標識により、Pa×−6および神経フィラメントHが同じ細胞に存在することが明らかにされた。加えて、乏突起膠細胞タンパク質のCNPaseもまた一部の骨髄細胞において発見されたが、星状膠細胞のグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)に対する抗体により検出された標識はなかった。
【0105】
神経抗原を発現する骨髄細胞が造血幹細胞を表すかどうかを明らかにするために、二重免疫細胞化学を、様々な神経マーカーおよび骨髄幹細胞のマーカーであるCD34を用いて行った。神経フィラメントH、NeuN、GAD65、Huc/HuD、Pa×−6およびCNPaseに対する抗体による強い標識が、エクスビボCD34+細胞のサブセットのみに存在した(図1)。
【0106】
〔実施例3〕 非常に増殖性の造血始原細胞の作製
造血始原細胞に見出され得る抗原の1つであるCD34を産生する骨髄細胞のサブセットには、神経抗原が存在していたので、高い増殖性のCD34+細胞の培養物を作製するための方法が開発されていた。4系統のマウスの骨髄を26個の成体大腿骨から採取し、造血幹細胞増殖因子(インターロイキンIL3、インターロイキンIL6、幹細胞因子およびβ−メルカプトエタノール)を含有する液体培地で個々に培養した。非接着の浮遊細胞のみを上記のように4ヶ月を超えて継続して植え継いだ。培養の経過に伴い、接着性細胞の割合が3週間〜4週間までにゼロに減少した(図2)。30世代を超えて成長するこれらの浮遊細胞は高い増殖能力を示す。実際、4ヶ月の培養期間により、1014個の細胞が、1個のマウス大腿骨から得られた106個の骨髄細胞から生じた。骨髄細胞の3μlのペレットを、PCR(図4B)および免疫細胞化学(図5)によって明白に示されるように、純粋なCD34細胞の300リットルのペレットに拡大培養することができる。同様の増殖率が、血清含有培地または血清非含有培地のいずれかであっても、すべての培養物で認められた(図2)。
【0107】
細胞を培養中の様々な時点で造血マーカーについて検定した。4週間後〜5週間後、すべての細胞が非常にCD34+であり、そして同様に、すべての造血細胞の一般的マーカーであるCD45+であった。対照的に、マクロファージのF4/80、内皮細胞の第8因子、赤芽球のTER119、ならびに、Bリンパ球およびTリンパ球のマーカーのCD19、CD4およびCD8、ならびに、Bリンパ球およびTリンパ球の転写因子のTAL−1は検出されなかった(表1)。
【0108】
【表1】

分析された細胞のすべてが陽性であった。または、**分析された細胞がいずれも陽性でなかった。
【0109】
これらの結果は、CD34+細胞が造血分化マーカーを発現していなかったことを示しており、従って、これらの細胞は幹細胞に相当するかもしれないことを示唆していた。その後、細胞をさらなる造血幹細胞マーカーについて分析し、これらの細胞が、Sca1+、AA4.1+およびcKit+であることが見出された(表1および図3)。従って、これらの細胞は、造血幹細胞において見出される細胞表面表現型に匹敵する細胞表面表現型を有していた。さらに、これらの細胞は、造血始原細胞に存在することが知られている転写因子(GATA−2およびLMO−2)を発現していた(図4A)。
【0110】
〔実施例4〕 骨髄から培養された造血始原細胞における神経マーカー
様々な神経遺伝子が、CD34+骨髄細胞の主要でないサブセットで発現していることが見出された。従って、それらの存在を、造血始原細胞の非常に増殖性の培養物において、3週間目、および、すべての細胞がCD34+になったさらに後の時点で調べた。神経転写因子と、分化したニューロン、星状膠細胞および乏突起膠細胞のマーカーとの両方を調べた。すべての細胞がCD34+になったとき、すべての細胞はまた、神経性転写因子のPa×−6、およびニューロンのRNA結合タンパク質のHuC/HuDについて陽性であった。その後、CD34+細胞の純粋な集団を一般的なニューロンマーカーおよび神経伝達物質の発現について評価した(図5)。神経フィラメントH、神経フィラメントMおよび神経フィラメントLについてRT−PCRによって調べられた細胞は神経フィラメントHのみを発現し、神経フィラメントMおよび神経フィラメントLを発現していないことが見出され、これに対して、CD34細胞を調べるために使用された同じプライマーは、出生後2日目のマウスの脳において予想された産物をもたらした(示されず)。免疫細胞化学ではまた、すべての培養されたCD34+細胞が神経フィラメントHを発現するが、神経フィラメントMおよび神経フィラメントLを発現していないことが明らかにされた。さらに、ウエスタンブロット分析は神経フィラメントHを170kDaにおいて示したが、神経フィラメントMおよび神経フィラメントLについてはバンドを示さなかった。培養されたCD34+細胞の免疫細胞化学およびウエスタンブロット分析では、NeuNがすべての細胞に多量に存在し、66kDa、48kDaおよび46kDaの予想された分子量で発現されたことが示された。ニューロンの一般的マーカーがCD34+培養物に存在するので、ニューロンの機能マーカーもまた調べた。実際、GABA合成に関わる酵素であるグルタミンデカルボキシラーゼ(GAD65)が、調べられたすべての細胞で検出され、これに対して、チロシンヒドロキシラーゼおよびM2ムスカリン様アセチルコリン受容体は検出されなかった(表2)。
【0111】
【表2】

【0112】
次の段階は、神経膠細胞、すなわち、星状膠細胞および乏突起膠細胞のマーカーと考えられる分子の存在を明らかにすることであった。星状膠細胞の中間繊維であるグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)は、mRNAレベルまたはタンパク質レベルで、CD34+細胞の培養におけるどの段階でも検出されなかった(図4B)。対照的に、乏突起膠細胞マーカーのCNPase、MOSP(図5)、ガラクトセレブロシドおよびNG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカンが存在し(表2)、一方、O4は検出されなかった(示されず)。これらのデータは、初期の転写因子が、神経系の分化した細胞のマーカーと同様に、骨髄由来のCD34細胞の培養物に存在することを示している。
【0113】
〔実施例5〕 CD34+細胞培養物における初期の胎芽細胞マーカー
神経遺伝子を発現するCD34+細胞培養物の最も信頼できそうな起源は、エクスビボ骨髄に存在する低い割合のCD34+細胞を増幅することであり、これもまた神経遺伝子を発現する。これらのCD34+細胞は多能性の骨髄細胞に由来し、胎芽幹細胞にいくらか類似していることがある。従って、培養されたCD34細胞を、初期の一般的転写因子マーカーのRe×−1およびOct−4についてPCRによってスクリーニングし、培養されたCD34+細胞が陽性であることが見出された(Re×−1、図4;Oct−4、示されず)。免疫細胞化学では、培養されたCD34細胞の100%がそうであったように(示されず)、エクスビボ骨髄細胞の小さいサブセットがOct−4について陽性であったことが示された(図1)。このことは、実際、培養されたCD34細胞が単なる造血幹細胞よりも大きな潜在能力を有する幹細胞であり得ることを示唆している。
【0114】
〔実施例6〕 培養されたCD34+細胞の脳への移植
これらの細胞は、神経の表現型と適合し得る分子を発現するので、本発明者らは、さらなる処置を何ら行うことなく、これらの細胞を成体マウスの脳に移植することは妥当であると考えた。6週間〜3ヶ月間培養されたCD34+細胞をCell Tracker Orangeにより標識し、34匹の成体マウスの脳の線条体および海馬に定位注入した。移植後1ヶ月〜14ヶ月で、脳を免疫組織化学および蛍光顕微鏡観察のために処理した。移植されたCell Tracker Orange標識の細胞は、動物の行動に明らかな変化を伴うことなく、線条体および海馬の両方において、最も長い試験期間で14ヶ月間にわたって多数(注入された細胞の約40%)が生存していることが見出された。脳における移植された細胞のこの高い割合の生存は、亜致死量または致死量の放射線を照射したマウスの循環血液に、また、生まれたばかりのPU.1マウスの腹膜内に細胞を注入した他の研究室とは対照的である(Brazelton他、2000;Mezey他、2000;Makar他、2002)。加えて、脳に注入されたCD34+細胞は注入部位から線条体および海馬の全体に移動し、また、線条体および海馬を超えて移動していた。移植後1ヶ月〜2ヶ月で、一部は形状が球状のままのものもあったが、一部は短い突起を伸ばし、CD34を発現し続けた(図6、最上列);6ヶ月で、これらの細胞は、ニューロン、星状膠細胞および乏突起膠細胞を暗示する形態学特徴を示した。移植された脳の切片を、ニューロンのマーカーである神経フィラメントHおよびNeuN、星状膠細胞のマーカーであるGFAP、ならびに、乏突起膠細胞のマーカーであるCNPaseについて免疫標識した。顕著な発見は、脳内に注入されたとき、すべてのCD34y細胞が、神経フィラメントH、NeuNおよびCNPaseを発現する一方で、移植後6ヶ月および1年では、移植された細胞の40%のみが神経フィラメントHおよび/またはNeuNを発現し、30%がCNPaseを発現することであった(図6および表3)。
【0115】
【表3】

【0116】
加えて、培養物中のCD34yはどれもGFAPを発現しなかったが、脳に移植された後では、実にそれらの30%がGFAPを発現した。二重標識により、神経フィラメントHまたはNeuNを発現している細胞はCNPaseまたはGFAPを発現しないことが明らかにされた(図6)。同様に、GFAPが、CNPaseを発現する細胞では検出されなかった(示されず)。従って、神経フィラメント、NeuNおよびCNPaseの免疫活性が、移植されたCD34+細胞の60%〜70%において喪失し、これに対して、GFAPは、移植されたCD34+細胞の30%において出現した。従って、これらのデータは、本明細書中に報告されるCD34+細胞における神経マーカーの発現には2つの段階があることを示している。CD34+培養物におけるすべての細胞は、神経フィラメントH、NeuNおよびCNPaseをインビトロで発現する一方で、著しく対照的に、移植された細胞において、ニューロンマーカーおよび乏突起膠細胞マーカーが、移植後GFAP+になる細胞では、ニューロン遺伝子の発現または乏突起膠細胞遺伝子の発現のいずれか、あるいは、両方の発現を抑制することによって異なった集団に分離した。これらのデータは、GFAP、神経フィラメントおよびCNPaseの発現が脳の環境的制御のもとで調節されることを示している。ニューロンまたは神経膠細胞になる脳におけるこれらのCD34+細胞の可塑性は、神経膠細胞がインビボでニューロンになることができるという以前の報告を連想させる(Laywell他、2000;Fischer他、2001;Fischer他、2002;Malatesta他、2003)。
【0117】
エクスビボ骨髄細胞の主要でない集団が、造血幹細胞マーカーだけでなく、神経抗原を発現することが明らかにされたことにより、脳に移植された骨髄細胞における神経抗原の発現を報告した他の研究室からのデータの新しい解釈がもたらされる。実際、データは、神経抗原の獲得のために骨髄細胞の分化転換をもたらすのは脳の環境であることを示唆している(Brazelton他、2000、Mezey他、2000)。対照的に、脳に移植されたCD34陰性である選択された骨髄細胞は神経抗原を発現することができないと報告されている(Castro他、2002)。神経抗原を発現する細胞は骨髄の主要でない集団にすぎないので、これらの相違する発見は、異なる研究室が、神経抗原を発現する主要でない集団を含むことがあるか、または、含まないことがある骨髄細胞の異なった集団を移植しているかもしれないという事実によって説明することができる。
【0118】
従って、本実施例の実施形態は、造血幹細胞/始原細胞の表現型を有するエクスビボ骨髄細胞が、神経系に関連する分子をまさに発現することであり、このことは、古典的には中胚葉起源と考えられている成体の造血幹細胞が、外胚葉由来の細胞に対しては制限されるとみなされる神経遺伝子を発現することを示している。エクスビボCD34+骨髄細胞における神経転写因子および神経分化抗原の存在は、これらの細胞が脳の環境に置かれたとき、神経細胞に分化することを許容しているか、またはそのような傾向があることを示している。
【0119】
本研究はこれらのCD34+造血始原細胞の神経的局面に焦点を合わせているが、それにもかかわらず、具体的な実施形態では、Re×−1およびOct−4の存在が示すように、これらのCD34+造血始原細胞は神経系を超えた多分化能を有するか、または、実際には全能性を有する。骨髄由来の幹細胞は、血液中を循環し、かつ血液脳関門が損なわれない限り、脳を除く身体のすべての組織に到達する幹細胞の唯一の知られている供給源である。これらの細胞が多分化能を有する実施形態において、これらの細胞は身体の他の組織において幹細胞を供給するための供給源を提供する。
【0120】
〔実施例7〕 骨髄幹細胞の分取
例示的な骨髄幹細胞の分取を記載する。例えば、図7、図8および図9は、3つの増殖因子(IL−3、IL−6、SCF)および5つの増殖因子(IL−3、IL−6、SCF、flt3/fflk2、TPO)を含有する血清非含有(SF)培地、ならびに、10%のウシ胎児血清およびそのような増殖因子を含む培地における例示的な骨髄幹細胞の分取を例示している。3つのサンプルを利用した。細胞分画物は下記の通りであった:分取されていない成人骨髄全体;アルコールデヒドロゲナーゼ(ALDH+)Brightの分取された骨髄「幹細胞」画分;ALDH−Dimは、分取された「非幹細胞」画分を示す;ならびに、分取されていない細胞と、ALDH+Bright幹細胞との混合物。
【0121】
<ALDH+Bright細胞画分>
幹細胞は、高レベルのアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)を発現することが以前に示されていた。骨髄細胞がこの蛍光基質にさらされたとき、ALDHを含有するそのような細胞は明るい蛍光を発する。ALDHを含まないか、または低レベルのALDHを含む細胞は、かすかな蛍光を発する。従って、ALDH+Bright画分は造血幹細胞について濃縮されている。ALDH(−)Dim細胞は、幹細胞を枯渇させた残りの骨髄細胞である。第3の画分は、骨髄の幹細胞およびすべての他の細胞をともに含有する分取されていない骨髄細胞全体である。
【0122】
ALDH+Brightの分取された細胞および非分取細胞の両方の培養物を、培養物における幹細胞の継続した成長によって長期間、成長させ、数を拡大させる。ALDH(−)は、幹細胞を枯渇させた活気のない培養物であり、増殖および拡大せず、最終的には死滅する。
【0123】
特定の実施形態において、初期の培養物における幹細胞が、増殖を開始させるために骨髄培養物に存在する非幹細胞の支援を必要とするかどうかを明らかにした。従って、分取されてない幹細胞およびALDH+Brightの幹細胞を種々の比率で混合し、細胞の組み合わせの増殖速度を測定した。ALDH+Bright細胞の培養物および分取されていない骨髄細胞全体の培養物、ならびに、これら2つの画分の組み合わせは、類似した速度で成長した。従って、一部の実施形態では、ALDH(−)Dim細胞による支援は骨髄由来の幹細胞の成長には要求されなかった。しかしながら、幹細胞の濃縮された培養物を用いて開始するために骨髄全体から幹細胞を分取することは、骨髄全体に由来する幹細胞を増殖させることを上回る知られている利点を何ら提供していない。
【0124】
〔実施例8〕 マウス骨髄始原細胞
I.マウスの神経変性における細胞置換治療および遺伝子送達
A.実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)
インターフェロン−βを発現するCD34+細胞および脳由来神経栄養因子(BDNF)を発現するCD34+細胞は実験的アレルギー性脳脊髄炎の再発期を改善する。20匹のマウス(5匹/群)の予備研究において、マウスの神経保護的なインターフェロン−β(IFN−β)遺伝子により形質移入されたCD34+細胞を実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)マウスに移植した。IFN−βを発現するCD34+細胞を移植したマウスは、麻痺の5段階尺度によって測定されたとき、EAEの再発期の遅れた発症および低下した重篤を示す(図10)。具体的な実施形態において、この神経保護の神経解剖学的基礎が明らかにされる。しかしながら、少なくとも、これらの結果は、CD34+細胞が、神経保護遺伝子を成体マウスの脳に送達するための有用な媒介物であることを示している。
【0125】
B.Shivererマウス(ミエリン塩基性タンパク質欠損変異マウス)
20匹/群のマウスを用いた120匹のマウスでのより大規模な実験において、CD34細胞単独の保護効果、および、IFN−βを発現するCD34+細胞の保護効果、および、BDNFを発現するCD34+細胞の保護効果をEAEの症状に対して調べた。CD34+細胞単独、ならびに、IFN−βまたはBDNFを発現するCD34+細胞は少なくともEAEの初期において保護的であった(図10および図11)。BDNFが最も強い効果を示した;IFN−βは2番目であり、CD34+細胞単独では効果が最も小さかった。細胞の注入後の時間が短すぎて、細胞置換および細胞分化が保護の動因となることができないので、具体的な実施形態におけるCD34+細胞単独によるこの保護は細胞の有益なパラクリン効果である。
【0126】
さらに、CD34+細胞を、MSの別のモデルであるShivererマウスの脳に移植した。具体的には、正常の成体C3Hマウスの骨髄幹細胞を、ミエリン塩基性タンパク質を発現しない遺伝子変異マウスであるC3HのShivererマウスの脳に注入した。このマウスは移植後6週間で身震いをほとんど停止させた(10匹中10匹のマウス)。ビデオおよびスチール写真により、身震いの停止が詳細に記録される。マウスは、移植以降、時間とともに段々と身震いが少なくなっていた。一部の実施形態では、脳が免疫組織化学および顕微鏡観察による特徴づけのために取り出される。さらなるShivererマウスにおける研究が、例えば、マウス1匹につき1分あたりの身震いを数えることによって変化を経時的に定量化するために繰り返され、毎日モニターされる。大部分のShiverer体は3ヶ月から6ヶ月の間で死亡し、Shivererマウスは出願時点において約12週齢であるが、移植されたマウスは健康的であるようである。マウスは、生存期間がどのくらいであるかを見るために、また、身震いを再び始めるかどうかを見るために維持される。
【0127】
II.遺伝子組換え緑色蛍光タンパク質(GFP)マウスの骨髄細胞の培養物
C.移植されたGFP−CD34+細胞はチロシンヒドロキシラーゼ(TH)をマウスの脳で発現する
正常な成体マウス脳に移植されたCD34+細胞はチロシンヒドロキシラーゼを発現する。GFP遺伝子組換えマウスのC57B1/6−Tg(UBC−GFP)30Schaに由来する、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するCD34+細胞を培養する。これらの細胞は、MPTP処理されたC57Bl/6Jマウスの脳への移植のために使用される。細胞が正常なC57Bl/6Jの脳に移植され、例えば、8週間後、移植された細胞が突起を伸長させていることが見出されている。これらの移植された細胞のサブセットはまたチロシンヒドロキシラーゼを発現する(図12)。この発見の後、培養されたCD34+/GFP細胞を、ドーパミン作動性ニューロンに対する5つの抗体を用いてインビトロでのTH発現について検定し、それらは移植前は陰性であることが見出された。5つの抗体とは、TH(Chemicon AB151およびAB152、Sigma T2928)、TH転写因子PIT×3(Chemicon AB5722)およびドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(DiaSorin 22806)をいう。
【0128】
D.TH、PIT×3およびドーパミンb−ヒドロキシラーゼは培養されたCD34+細胞によって発現されない
正常な成体マウス脳に移植されたCD34+/GFP細胞の一部がニューロンの形態学的特徴を発現し、また、チロシンヒドロキシラーゼを発現することが見出されたので、これらと、BDNFを発現するように操作されたCD34+/GFP細胞とが、MPTP処理されたマウスの脳に移植される。MPTPは、パーキンソン病では喪失している黒質のTH発現ドーパミン作動性ニューロンを特異的に破壊する。MPTPマウスモデルは、特異的な病変部位が存在する神経変性における治療的細胞置換および神経保護的遺伝子治療のための骨髄由来幹細胞の効力を評価するために使用される。
【0129】
〔実施例9〕 ラット骨髄始原細胞
III.ラット骨髄幹細胞も培養物
A.成長曲線
成体Sprague Dawleyラットの大腿骨に由来する骨髄幹細胞は、ラットのIL−3、IL−6およびSCFを使用することを除いて、マウス骨髄幹細胞の培養物のために開発された培養方法を使用して成功していた。ラット細胞は、マウスおよびヒトの骨髄幹細胞が成長するように対数的に成長する(図13)。培養された骨髄幹細胞は、胎芽幹細胞、造血幹細胞および神経幹細胞、ならびに分化した神経細胞の遺伝子を発現した(表4)。
【0130】
B.CD34+細胞の遺伝子発現
CD34+細胞における遺伝子発現が、少なくとも部分的には、細胞の存在および/または分化をモニターするために特徴付けられる。1つまたは複数の特定の遺伝子の発現が、所望の分化に基づいて選ばれる。遺伝子発現を同定するための方法には、遺伝子発現の核酸生成物(例えば、mRNAなど)または産生された遺伝子産物(例えば、タンパク質など)をモニターする方法が含まれる。具体的な実施形態において、遺伝子発現は、免疫蛍光法による手段を含めて任意の適切な手段によって同定され、だが、特定の実施形態では、免疫細胞化学が用いられる。
【0131】
例示的な遺伝子発現が表4に示される。
【0132】
【表4】

【0133】
〔実施例10〕 ヒト骨髄始原細胞
IV.ALDH+分取細胞および非分取細胞の成長
成人エクスビボ骨髄は、造血幹細胞、胎芽幹細胞、神経幹細胞および分化した神経の遺伝子を発現する。エクスビボ成人骨髄を調べ、骨髄細胞の4%が、造血幹細胞のマーカーCD34を発現することが見出された(図13および表5)。二重標識により、これらのCD34+幹細胞のサブセットはまた、胎芽幹細胞の遺伝子、神経幹細胞の遺伝子、ならびに、分化したニューロン、星状膠細胞および乏突起膠細胞の遺伝子を発現することが明らかにされた。この遺伝子発現は、GFAPがマウス骨髄において検出されなかったことを除いて、成体マウス骨髄において見出された遺伝子発現と類似している。
【0134】
【表5】

【0135】
骨髄の有核細胞の4%が造血幹細胞マーカーCD34を発現する。二重標識により、これらのCD34+細胞のサブセットが胎芽幹細胞および神経幹細胞の遺伝子ならびに分化した神経の遺伝子を発現することが示された。
【0136】
成人骨髄細胞は、マウス骨髄細胞を成長させるために開発された方法によって培養で成長する。骨髄幹細胞を、ヒトのインターロイキン−3、インターロイキン−6および幹細胞因子が補充された血清非含有培地および血清含有培地を使用して2名の正常な成人から成長させた(図14および図15)。分取されていない骨髄全体、および、フローサイトメトリーにより分取されたアルデヒドデヒドロゲナーゼ陽性の幹細胞は類似した速度で増殖したが、しかし、両者とも、血清含有培地よりも血清非含有培地の方が幾分良好に成長した。幹細胞の集団は、培養で40日の間で数が3桁から4桁分拡大した。
【0137】
V.2組の増殖因子を含む培地における細胞の成長
ヒト骨髄細胞を4つの培地で培養した:ヒトのIL−3、IL−6およびSCFを含有する血清非含有培地(SFM)と、IL−3、IL−6、SCF、Flt3/Flk2およびトロンボポエチン(Tpo)を含有するSFMと、2組の増殖因子を含む血清含有培地。さらに、ヒト細胞を、1)ALDH+Bright分取細胞のみ、2)ALDH Dim分取細胞のみ、3)非分取細胞のみ、および4)非分取細胞と同時培養されたALDH+Bright細胞といった、細胞の様々な組み合わせで培養した。ALDH+Bright細胞を、第1のヒトサンプルに由来する非分取細胞と同時培養して、非分取細胞が、ALDH+Bright細胞を生存させ、かつ、成長させるために生育培地を馴化することを必要とするかを調べた。ALDH+Bright細胞が独力で良好に増殖することを考えると、これは必要ないことが明らかに示された。
【0138】
〔実施例11〕 網膜工学:植え付けられた神経細胞は適切な回路を確立する
本発明のこの局面の1つの実施形態において、有糸核分裂後の胎芽神経網膜細胞および胎芽網膜幹細胞が、成体の眼に移植されたとき、例えば、1)網膜に移植し;2)網膜層の正しい位置に移動し;3)適切なニューロンおよび神経膠細胞の形態学に分化し;かつ、4)適切な機能回路を確立することができるパラメーターを決定することは有益である。胎芽のヒヨコ網膜細胞が成体マウスの網膜に移植し得ることを本発明者らが見出したことを考えれば、本研究では、胎芽のマウス網膜細胞が、正常なC57Bl/6J成体マウスの眼、および、網膜欠損を有する1つのマウス系統、つまり色素性網膜炎のモデルマウスであるC57Bl/6J−Peb rd1 leに移植される。この研究は、特定のクラスの神経細胞が失われている網膜症における治療的細胞置換のために重要である。例えば、光受容器が、加齢性黄斑変性症、色素性網膜炎、レーバー先天性黒内症、桿体一色型色覚および×連鎖進行性錐体ジストロフィーでは失われる;神経節細胞が多発性硬化症およびメタノール毒性では失われる;Mクラスの神経節細胞が、緑内障、アルツハイマー病および水頭症では失われる;また、ミュラー細胞が成体の網膜分離症では失われる。さらに、CNSの一部である網膜は、例えば、パーキンソン病およびアルツハイマー病における神経障害の処置のための脳における細胞移植および治療的細胞置換のためのモデルとして使用することができる。
【0139】
本発明のこの実施形態の別の局面では、培養された成体マウスCD34+骨髄幹細胞が成体マウスの脳に移植し、かつ、治療的神経細胞置換のための神経細胞に分化することができるかどうかが明らかにされる。骨髄幹細胞は、正常な成体マウスの脳および2つの神経変性マウスモデルに移植される。培養されたCD34+細胞が、正常な成体マウスの脳の海馬および線条体、ならびに、MPTP処理されたパーキンソン症候群モデルの成体マウスの脳のそのような領域に定位注入される。
【0140】
本発明のこの実施形態のさらなる局面では、CD34+細胞が多発性硬化症の例示的なミエリン形成不全Shivererマウス脳モデルの海馬および小脳に注入される。骨髄細胞の移植および分化は、正常なマウスの脳と、ShivererおよびMPTP処置という2つの神経変性モデルとの間で比較される。
【0141】
本発明のこの実施形態の別の局面において、骨髄から培養された成人幹細胞が、ヌードマウスの脳に移植されたとき、神経細胞に分化する能力を有するかどうかが明らかにされる。
【0142】
<成体マウスの眼への網膜幹細胞移植>
神経細胞が、CNSに移植できるか、および移動して、神経障害後の細胞置換のための適切な回路を形成することができるかどうかを明らかにするために、1つの実施形態では、無傷の動物における成体CNS組織が、ヒト患者治療の模擬実験をすることが必要とされる。器官(organotypic)培養における細胞浸透、細胞移動、細胞組込みおよび細胞分化は、無傷の眼での網膜におけるこれらの過程を完全には繰り返さない。従って、15を超えるマウス系統が、色素性網膜炎および網膜変性に対するモデルである網膜ジストロフィーを有することから、マウスが使用される。本研究では、胎芽のマウス網膜細胞が、正常なC57Bl/6J成体マウスの眼および色素性網膜炎モデルのC57BL/6J−Pebrd1 leマウスの眼に移植される。
【0143】
例示的な方法では、約80匹のマウスが使用される。20匹の妊娠中のC57BL/6Jのメスは100個のE16の胎芽を提供する。これらの胎芽に由来する200個の網膜は、1つの眼に対して8×10個の細胞で120のレシピエントの眼に移植するために10個の健常な細胞をもたらす。3組のレシピエントマウスが使用される:正常な網膜を有する20匹のC57BL/6Jマウス、20匹のC57BL/6J−Pebrd1 le色素性網膜炎モデルマウスは網膜幹細胞が与えられ、20匹は造血幹細胞が与えられる。細胞の移植および分化の時間経過を明らかにするために、それぞれのマウス組を、それぞれが5匹の4群に分け、各マウス群を、移植後1週間、2週間、3週間および6週間で、網膜細胞移植片の顕微鏡解析のためにそれぞれ処理する。
【0144】
<時間経過の例示的な流れ図>
第1週:5匹のC57BL/6Jマウスの10個の眼に胎芽網膜細胞を注入する。1週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0145】
第2週:5匹のC57BL/6Jマウスの10個の眼に胎芽網膜細胞を注入する。2週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0146】
第3週:5匹のC57BL/6Jマウスの10個の眼に胎芽網膜細胞を注入する。3週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0147】
第4週:5匹のC57BL/6Jマウスの10個の眼に胎芽網膜細胞を注入する。6週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0148】
第10週:5匹のC57BL/6J−Pebrdl 1eマウスの10個の眼に胎芽網膜細胞を注入する。1週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0149】
第11週:5匹のC57BL/6J−Pebrdl leマウスの10個の眼に胎芽網膜細胞を注入する。2週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0150】
第12週:5匹のC57BL/6J−Pebrdl leマウスの10個の眼に胎芽網膜細胞を注入する。3週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0151】
第13週:5匹のC57BL/6J−Pebrdl leマウスの10個の眼に胎芽網膜細胞を注入する。6週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0152】
第20週:5匹のC57BL/6J−Pebrdl leマウスの10個の眼に造血幹細胞を注入する。1週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0153】
第21週:5匹のC57BL/6J−Pebrdl leマウスの10個の眼に造血幹細胞を注入する。2週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0154】
第22週:5匹のC57BL/6J−Pebrdl leマウスの10個の眼に造血幹細胞を注入する。3週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0155】
第23週:5匹のC57BL/6J−Pebrdl leマウスの10個の眼に造血幹細胞を注入する。6週間後、顕微鏡観察のために、マウスを屠殺し、眼を取り出し、網膜を調製する。
【0156】
E16の胎芽を有する妊娠中のC57BL/6Jマウスを、加圧COチャンバーからのCOを用いて安楽死させ、死を頚椎脱臼によって確認する。胎芽の眼を取り出し、網膜を解体し、移植のための網膜細胞を酵素的解離によって採取する。網膜細胞をCell Tracker Orange(標識された細胞に2ヶ月超にわたって含有され続ける蛍光性の生体染色用細胞質色素)によって標識する。その後、標識された胎芽網膜細胞を眼内注入によって成体マウスのレシピエント網膜に移植する。各組の注入において、5匹のマウスの両眼に注入される。成体マウスをAvertinにより麻酔する。2.5%Avertinの新鮮な作業用溶液を2週間毎に作製する。0.017ml/gマウスの用量、すなわち、0.34ml/20gマウスの用量を腹腔内に注入する。5分後、10ulのPBSにおける8×10個の標識された網膜細胞を、30Gaのニードルを用いたそれぞれの眼への単回注入によって注入する。眼内注入後、マウスは、鎮痛薬ブプレノルフィンが0.1ng/g体重で12時間毎に48時間にわたって皮下に与えられる。それぞれの移植期間(1週間、2週間、3週間および6週間)が終了したとき、蛍光顕微鏡観察のために、マウスを密閉チャンバーでCOにより屠殺し、眼をり出し、網膜を処理する。
【0157】
〔実施例12〕 成体哺乳動物のへの成体CD34+骨髄細胞の移植
I.正常なマウスおよびパーキンソン病のMPTP処理マウスモデル
成体造血幹細胞が、脳に移植できるか、移動できるか、およびニューロン、神経膠細胞および乏突起膠細胞に分化して、神経障害後の細胞置換のための適切な回路を形成することができるかどうかを明らかにするために、無傷の動物における成体CNS組織が、ヒト患者の治療の模擬実験をすることが必要とされる。器官培養における細胞浸透、細胞移動、細胞組込みおよび細胞分化は、無傷の脳におけるこれらの過程を完全には繰り返さない。数系統より多くのマウスが神経変性疾患のモデルであることから、マウスが使用される。本研究では、成体マウス骨髄幹細胞が、正常なC57Bl/6J成体マウスおよびMPTP処理されたC57Bl/6J成体マウスの海馬および線条体に移植される。細胞移植における違い、およびニューロン、神経膠細胞および乏突起膠細胞への分化比率の違いが、正常な脳およびMPTP処理された脳での海馬および線条体において、比較される。MPTP処理された脳において、MPTPにより影響を受けた黒質/線条体および影響を受けていない海馬におけるこれらの比率の違いが明らかにされる。C57Bl/6Jマウスが、MPTPに対して最も感受性の高い系統であることから、使用される。
【0158】
具体的な実施形態では、約40匹のマウスが使用される。20匹の正常な成体メスC57BL/6Jマウスに、CD34+骨髄幹細胞が海馬および線条体に定位注入される。20匹の成体メスC57BL/6Jマウスが、パーキンソン病のMPTPモデルとして使用される。細胞の移植および分化の時間経過、ならびに脳におけるこれらの細胞の寿命を明らかにするために、各マウスの組を、それぞれが5匹の4群に分け、各マウス群を、移植後6週間、3ヶ月、6ヶ月および1年で骨髄幹細胞移植片の顕微鏡分析のためにそれぞれ処理する。40匹のマウスは、5のうちの「n」がステューデントT検定における群間の有意差のために割り当てられる。
【0159】
<時間経過の流れ図>
第1週の12日前:上記のように、MPTPを20匹の成体のC57Bl/6Jマウスに5回、毎日注射する。
【0160】
第1週:上記のように、CD34+骨髄細胞を20匹の正常な成体C57Bl/6Jマウスおよび20匹のMPTP処理された成体C57Bl/6Jマウスに注入する。
【0161】
第6週:免疫組織化学のために、5匹の正常なマウスおよび5匹のMPTP処理されたマウスを屠殺し、脳を調製する。
【0162】
第12週:免疫組織化学のために、5匹の正常なマウスおよび5匹のMPTP処理されたマウスを屠殺し、脳を調製する。
【0163】
第26週:免疫組織化学のために、5匹の正常なマウスおよび5匹のMPTP処理されたマウスを屠殺し、脳を調製する。
【0164】
第52週:免疫組織化学のために、5匹の正常なマウスおよび5匹のMPTP処理されたマウスを屠殺し、脳を調製する。
【0165】
20匹の正常な成体メスC57BL/6Jマウスに、CD34+細胞が海馬および線条体に定位注入される。20匹の成体メスC57BL/6Jマウスが、治療的細胞置換の予備研究のための神経幹細胞および造血幹細胞の移植のためのパーキンソン病のMPTPモデルとして使用される。MPTP(1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)(Research Biochemicals、Natick、MA)を、0.1mlのPBSにおいて、30mg/kgの用量で、5回の投薬について24時間間隔で腹腔内に投与する。最後のMPTP注射の7日後、インビトロ培養物に由来するC57Bl/6JマウスのCD34+造血幹細胞を線条体および海馬に定位注入し、マウスを、幹細胞注入後6週間、12週間、26週間および52週間維持し、このプロトコルで上述されたように処理する。
【0166】
<マウスの行動に対するMPTPの影響>
「C57Bl/6マウス系統は、使用されている最も高感度かつ最も一般的なMPTP齧歯類モデルである。…マウスにおけるMPTP障害の行動上の影響は、非ヒト霊長類において認められる影響よりも顕著でない」(Tolwani他、1999、Lab. Animal Sci.、49:363−371)。MPTPの影響は摂食および水飲みについて全く見出されなかった。また、MPTP処理マウスと媒介物処理マウスとの間には「どの時点においても体重が著しく異なることはなかった」(Sundstrom他、1990、Brain Res. 528:181−188)。MPTP処理の「マウスは、過流涎、立毛および発作をはじめとする初期の短期間の毒性作用を発症し得る。マウスは、通常、すぐに回復し、24時間以内に正常な自発的行動を現す。運動低下および低下した活動を含むいくつかの短期間の行動的欠損が報告されている」(Tolwani他、1999、Lab. Animal Sci.、49:363−371)。「ポールテストおよび牽引試験によってスコア化される運動活性の低下および四肢運動の障害がMPTP投与中止後に明らかに認められる」(Arai他、Brain Res. 515:57−63)。
【0167】
<マウスのモニタリング>
MPTP処置の期間中、マウスを摂食行動および水飲み行動について毎日モニターし、処置後は、マウスを体重変化について週に2回モニターする。食物ペレットがMPTP処置の期間中はケージの床に置かれる。マウスが、水飲みの低下によって脱水状態になっていると思われる場合、マウスには、流体が静脈内または皮下に与えられる。MPTP処置の初日の期間中、マウスは、痙攣がある場合にはマウスの痙攣の重篤度を調べるために獣医および動物世話係によって注意深くモニターされる。
【0168】
<MPTPの取り扱い>
MPTPは研究者によって手袋およびマスクを使用して計量される。MPTPを化学ドラフトチャンバー内でダルベッコリン酸塩緩衝化生理的食塩水に溶解する。MPTPを、25Gaのニードルを用いてマウスに腹腔内注射する。
【0169】
<移植のための幹細胞供給源>
大腿骨に由来する最初のC57Bl/6Jマウス(Charles River)の骨髄細胞を、注入のためのCD34+造血幹細胞の純粋な集団を作製するために、4週間〜8週間にわたって懸濁細胞を継続して継代培養することによって、規定された血清非含有培地でインビトロ培養する。無菌的に培養された細胞(10)を、成体C57Bl/6Jマウス(Charles River)に、1μlのダルベッコリン酸塩緩衝化生理的食塩水で線条体に注入し、10細胞/1μlを、線条体への注入と同じ半球の海馬に注入する。細胞は、マウスを介して継代培養されていない。
【0170】
<幹細胞の定位注入>
成体マウスは、脳の線条体および海馬への幹細胞の定位注入を受ける。マウスの麻酔のために、Labconco Fume Adsorberの掃気用フードにおいて、100%イソフルランから空気中のイソフルランの吸入によってイソフルランを投与する。その後、マウスには、滅菌蒸留水で1:1に希釈された50mg/mlのペントバルビタール(ネンブタールのナトリウム溶液)を、20gmマウス体重あたり0.1mlで腹腔内に注射する。手術前に、マウスの頭をベタジンにより洗い、その後、70%エタノールにより洗浄する。その後、頭骨を覆っている皮膚を70%エタノール中に浸け、皮膚の切開を頭骨側面で行う。2つの2mmの穴を、携帯型愛好家用ドリルの滅菌されたドリルの錐を用いて、線条体および海馬の上方の頭骨に開ける。その後、細胞を、David Kopfの定位固定装置によって支えられた30Gaのニードルを用いて、下記の記載のように注入する。ニードルを除き、2回の注入の後、皮膚を糸で縫合する。リドカイン(4%リドカインクリーム)を、縫合後に1回、縫合部位に局所的に塗布し、マウスを、12時間毎に48時間、不快および再塗布についてモニターする。マウスをそのケージに戻して、回復させる。マウスは速やかにイソフルラン処置から目を覚ますので、麻酔から回復する期間中、加熱ランプは使用されない。すべての手術は無菌状態(USPHSの指針)のもとで行なわれる。感染率は以前の研究では1%未満である。
【0171】
II.多発性硬化症のShivererマウスモデル
30匹の正常な1ヶ月齢のメスC3Hマウスおよび30匹の1ヶ月齢のメスC3HのShivererマウスが研究のために利用される。初期の研究において、本発明者らは、培養されたCD34+骨髄幹細胞が、正常な成体マウス脳に移植されたとき、形態学的には乏突起膠細胞に分化し、乏突起膠細胞の分子マーカーを発現することを見出していた。本発明の1つの実施形態では、ミエリン鞘形成不全モデルマウスのShivererが、多発性硬化症における治療的細胞置換のためのモデルとして使用される。
【0172】
成体造血幹細胞が脳に移植できるか、移動できるか、およびニューロン、神経膠細胞および乏突起膠細胞(これらはミエリンを産生して、ミエリン鞘をCNS軸索の周りに形成する)に分化することができるかどうかを明らかにするために、無傷の動物におけるCNS組織が、ヒト患者の治療におけるミエリン鞘形成不全後の細胞置換の模擬実験をするために必要とされる。器官培養における細胞浸透、細胞移動、細胞組込みおよび細胞分化は、無傷の脳におけるこれらの過程を完全には繰り返さない。数系統より多くのマウスが、多発性硬化症のモデル(Shiverer、Jimpy、Quakey、Twitcherおよびmld)を含めて、神経変性疾患のモデルであることから、マウスが使用される。本研究では、成体マウス骨髄幹細胞が、正常なC3HマウスおよびC3HのShivererマウスの海馬および小脳に移植される。細胞移植における違い、ならびに、ニューロン、神経膠細胞および乏突起膠細胞への分化比率の違いが、正常な脳およびShivererの脳での海馬および小脳において比較される。Shivererの脳において、海馬および小脳におけるこれらの比率の違いがある。
【0173】
具体的な実施形態では、約45匹のマウスが使用される。15匹の1ヶ月齢の成体メスC3Hマウスおよび30匹のC3HのShivererマウスに、CD34+骨髄幹細胞が海馬および小脳に定位注入される。細胞の移植および分化の時間経過、ならびに脳におけるこれらの細胞の寿命を明らかにするために、各マウスの組を、それぞれが5匹の3群に分け、各マウス群を、移植後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後に骨髄幹細胞移植片の顕微鏡分析のためにそれぞれ処理する。Shivererマウスの平均余命は短いので、3ヶ月および6ヶ月の時点で5匹の生存マウスを有する可能性がよりよくなるように、若齢マウスに移植し、また、さらなるマウスに注入する。40匹のマウスは、5のうちの「n」がステューデントT検定における群間の有意差のために割り当てられる。
【0174】
<時間経過の流れ図>
第1週:15匹の正常なC3Hマウスおよび30匹のShivererマウスにCD34+骨髄細胞を注入する。
【0175】
第4週:5匹の正常なマウスおよび5匹のShivererマウスを免疫組織化学のために処理する。
【0176】
第12週:5匹の正常なマウスおよび10匹のShivererマウスを免疫組織化学のために処理する。
【0177】
第26週:5匹の正常なマウスおよび15匹のShivererマウスを免疫組織化学のために処理する。
【0178】
<例示的な一般的方法>
<骨髄細胞の採集>
骨髄細胞を、加圧COボンベからのCOにおいて窒息により最初にマウスを屠殺することによって成体マウスから無菌的に採集し、死を頸椎脱臼によって確認する。その後、マウスを70%エタノールに浸ける。皮膚を、滅菌されたピンセットおよびはさみを用いて大腿部から除く。その後、筋肉を、別の一組の滅菌器具を用いて大腿骨から除く。最後に、大腿骨の末端を、さらに別の一組の滅菌器具を用いて除き、骨髄を、大腿骨の一方の末端に20Gaのニードルから滅菌DPBSを注入することによって押し出す。
【0179】
<成体マウス骨髄の培養物>
純粋なCD34+造血幹細胞培養物を、本明細書中に記載されるような条件で血清非含有培地および血清含有培地で成長させる。簡単に記載すると、成体の大腿骨から得られた骨髄細胞を、IL−3、IL−6、SCFおよびβ−メルカプトエタノールの存在下での継続した培養で、10%COにおいて37℃で成長させる。CD34+細胞がC3Hマウスの骨髄から培養される。
【0180】
<CD34+細胞の標識>
CD34+細胞を蛍光性色素の5−(および6)−(((4−クロロメチル)ベンゾイル)アミノ)テトラメチルローダミン(Cell Tracker Orange CMTMR)(Molecular Probes)によって下記のように標識する。CD34+細胞(2×10)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)における10mM色素の400倍ストック液からの、DMEM10における25μMのCell Tracker Orangeの最終濃度においてインキュベートする。細胞を5mlの色素含有DMEM10において37℃で15分間インキュベートし、遠心分離によってペレット化し、15mlのDMEM10で洗浄し、37℃で30分間インキュベートし、ペレット化し、15mlのDMEM10で再び洗浄し、0.5mlのDMEM10にて再懸濁する。標識された細胞は、成体マウスの脳への定位注入のために10個/μl血清非含有培地で懸濁される。
【0181】
<色素標識されたCD34+細胞の脳への定位注入>
1ヶ月齢のC3HのShivererマウスには、1μlのPBSあたり1×10個の標識されたC3HのCD34+幹細胞が大脳および小脳に定位注入される。注入されたマウスは、動物が屠殺される前に1ヶ月間、2ヶ月間および3ヶ月間飼育され、そして免疫組織化学および蛍光共焦点顕微鏡観察のために、脳が取り出され、調製される。
【0182】
<移植された幹細胞の抗体による特徴づけ>
神経膠細胞マーカー:グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)(Chemicon、Sigma);乏突起膠細胞マーカー:2’3’−環状ヌクレオチド3’−ホスホヒドロラーゼ(CNPase)(Chemicon);ニューロンマーカー:神経フィラメント(Chemicon、Steinberger Monoclonal)、神経細胞接着分子(NCAM)(Chemicon)およびNeuN(Chemicon)。フルオレセイン標識された二次抗体(Kirkegaard & Perry)を、脳切片に対する一次抗体の結合を検出するために使用し、二次抗体だけがコントロールとして使用された。免疫組織化学がレーザー共焦点顕微鏡観察よって分析され、写真撮影された。
【0183】
<蛍光レーザー共焦点顕微鏡観察のための移植された脳の調製>
注入された脳を、COによる窒息の後、マウスから取り出す。その後、脳をDPBSにおける4%パラホルムアルデヒドにおいて4℃で24時間懸濁する。継いで、固定液が脳から移され、DPBSにおいて4℃で24時間交換される。その後、脳を30%ショ糖液において4℃で24時間平衡化させる。平衡化した脳を凍結し、脳の断面を切断するために向きを定めて、冷凍包埋配合物とともにクリオスタット標本台に載せる。厚さ30μmの連続した断面を、Micromのクリオスタットを用いて−39℃で切断する。脳の切片を顕微鏡スライドガラスに載せ、乾燥する。脳の切片を、標準的な方法によって免疫組織化学のための抗体で処置し、その後、25ng/mlの4’,−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)細胞核色素で染色し、顕微鏡のスライドカバーガラスで覆い、マニキュアで封じる。移植されたCD34細胞を、ローダミン、フルオレセインおよびDAPIの光学特性を用いて蛍光レーザー共焦点顕微鏡観察によって観察し、写真撮影する。移植されたCD34細胞を細胞の形態学および神経抗原の抗体検出についてスコア化し、写真撮影する。
【0184】
<例示的な具体的方法>
<移植のための幹細胞供給源>
大腿骨から得られた最初のC3Hマウス(Charles River)の骨髄細胞を、注入のためのCD34造血幹細胞の純粋な集団を作製するために、4週間〜8週間にわたって懸濁細胞を継続して継代培養することによって、規定された血清非含有培地でインビトロ培養する。無菌的に培養された細胞(10)を、1ヶ月齢のC3Hの正常マウスおよびShivererマウス(Charles River)に、1μlのダルベッコリン酸塩緩衝化生理的食塩水で小脳に注入し、10細胞/1μlを小脳への注入と同じ半球の海馬に注入する。細胞はマウスを介して継代培養されていない。Shivererマウスについての平均余命は短いので、30匹のマウスに注入し、マウスを3群で処理する。それぞれ、注入後1ヶ月後で5匹のうちの生存体、3ヵ月後で10匹のうちの生存体、および、6ヶ月後で15匹のうちの生存体である。
【0185】
<幹細胞の定位注入>
1ヶ月齢のマウスは、脳の小脳および海馬への幹細胞の定位注入を受ける。マウスの麻酔のために、Labconco Fume Adsorberの掃気用フードにおいて、100%イソフルランからの空気中のイソフルランの吸入によってイソフルランを投与する。その後、マウスには、滅菌蒸留水で1:1に希釈された50mg/mlのペントバルビタール(ネンブタールのナトリウム溶液)を20gmマウス体重あたり0.1mlで腹腔内に注射する。手術前に、マウスの頭をベタジンにより洗い、その後、70%エタノールにより洗浄する。その後、頭骨を覆う皮膚を70%エタノール中に浸け、皮膚の切開を頭骨側面で行う。2つの2mmの穴を、携帯型愛好家用ドリルの滅菌されたドリルの錐を用いて、線条体および海馬の上方の頭骨に開ける。その後、細胞を、David Kopfの定位固定装置によって支えられた30Gaのニードルを用いて、下記の記載のように注入する。ニードルを除き、2回の注入の後、皮膚を糸で縫合する。リドカイン(4%リドカインクリーム)を、縫合後に1回、縫合部位に局所的に塗布し、マウスを、12時間毎に48時間、不快および再塗布についてモニターする。マウスをそのケージに戻して、回復させる。マウスは速やかにイソフルラン処置から目を覚ますので、麻酔から回復する期間中、加熱ランプは使用されない。
【0186】
<免疫組織化学のための動物の調製>
免疫組織化学および蛍光顕微鏡観察のために、動物を上記のように処理し、脳を調製する。
【0187】
III.ヌードマウスの脳におけるヒト骨髄細胞の移植
ヌードマウスのモデルを、本発明の方法を用いて脳への成人骨髄幹細胞の移植のために利用した。特定の実施形態において、十分な数の均質な幹細胞が成人の骨髄から作製される。本明細書の他のところに記載されるように、成体マウスの骨髄から成長した幹細胞は、成体マウスの脳に移植されたとき、ニューロン、星状膠細胞および乏突起膠細胞のマーカーおよび形態学的特徴を発現する。ヒト細胞が、成体ヌードマウスの脳に移植されたとき、神経細胞を生じさせるその能力について特徴づけられる。本発明に基づいて、適用には、患者の神経変性障害(例えば、パーキンソン病、多発性硬化症、アルツハイマー病、ハンチングトン病、ALSなど)に対する治療的細胞置換のために個体の骨髄から幹細胞を成長させることが含まれる。
【0188】
1つの具体的な方法が本明細書中のモデルの使用について記載されるが、当業者は、特定のパラメーターが日常的に最適化され、かつ、依然として本発明を包含し得ることを認識する。具体的な実施形態では、約30匹の2ヶ月齢のメスヌードマウスが本研究で使用される。培養されたCD34マウス骨髄幹細胞が、正常な成体マウス脳に移植されたとき、ニューロン、星状膠細胞および乏突起膠細胞に形態学的には分化し、かつ適切な分子マーカーを発現することを本発明者らが明らかにしていたことを考慮して、ヌードマウスの脳におけるヒト骨髄幹細胞が、神経細胞への幹細胞分化および治療的細胞置換のためのモデルとして同様に利用される。
【0189】
このモデルは、成人造血幹細胞が脳に移植できるか、移動できるか、およびニューロン、神経膠細胞および乏突起膠細胞(これらはミエリンを産生して、ミエリン鞘をCNS軸索の周りに形成する)に分化することができることを明らかにするために利用される。器官培養における細胞浸透、細胞移動、細胞組込みおよび細胞分化は、無傷の脳におけるこれらの過程を完全には繰り返さない。ヌードマウスが、移植されたヒト細胞の免疫拒絶を回避するために使用される。具体的には、成人骨髄幹細胞が、マウス骨髄幹細胞を用いて行なわれたのと同様に、ヌードマウスの脳の神経性領域(海馬)および脳の非神経性領域(線条体)に移植される。細胞移植における違い、ならびに、ニューロン、神経膠細胞および乏突起膠細胞への分化比率の違いが、正常な脳での海馬および線条体において比較される。
【0190】
具体的には、30匹の2ヶ月齢の成体メスヌードマウスに、CD34骨髄幹細胞が海馬および線条体に定位注入される。細胞の移植および分化の時間経過および脳におけるこれらの細胞の寿命を明らかにするために、マウスを、それぞれが10匹の3群に分け、各マウス群を、移植後1ヶ月、3ヶ月および6ヶ月で骨髄幹細胞移植片の顕微鏡分析のためにそれぞれ処理する。30匹のマウスは、10のうちの「n」がステューデントT検定における群間の有意差のために割り当てられる。下記の例示的なプロトコルにより、神経細胞に分化するヒト骨髄幹細胞の能力の決定、および、細胞分化に対する移植部位の影響を例示する。
【0191】
<流れ図>
実験1(マウス(n=30))
【0192】
実験1(n=10) 実験2(n=10) 実験3(n=10)
【0193】
ヒト骨髄幹細胞を注入する ヒト骨髄幹細胞を注入する ヒト骨髄幹細胞を注入する
【0194】
1ヶ月間モニターする 3ヶ月間モニターする 6ヶ月間モニターする
【0195】
安楽死させ、脳を採取する 安楽死させ、脳を採取する 安楽死させ、脳を採取する
【0196】
組織学的研究 組織学的研究 組織学的研究
<時間経過の流れ図>
【0197】
第0週:30匹のヌードマウスにヒトCD34骨髄細胞を注入する。
【0198】
第4週:脳の免疫組織化学のために、10匹のマウスを処理する。
【0199】
第12週:脳の免疫組織化学のために、10匹のマウスを処理する。
【0200】
第24週:脳の免疫組織化学のために、10匹のマウスを処理する。
【0201】
<一般的な例示的方法>
<ヒト骨髄細胞の採集>
正常なヒト骨髄を、例えば、StemCo Biomedicalなどから商業的に得る。代わりの方法では、骨髄が商業的に得るのではなく、従来の方法によって、例えば、患者から採集などされる。
【0202】
<成人骨髄の培養物>
純粋なCD34造血幹細胞培養物を、本明細書中で記載されたような条件で、血清非含有培地および血清含有培地で成長させる。簡単に記載すると、骨髄細胞を、ヒトのIL−3、IL−6、SCFおよびβ−メルカプトエタノールの存在下での継続した培養で10%COにおいて37℃で成長させる。
【0203】
<CD34細胞の標識>
CD34細胞を蛍光性色素の5−(および6)−(((4−クロロメチル)ベンゾイル)アミノ)テトラメチルローダミン(Cell Tracker Orange CMTMR)(Molecular Probes)によって下記のように標識する。CD34細胞(2×10)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)における10mM色素400倍ストック液からの、DMEM10における25μMのCell Tracker Orangeの最終濃度においてインキュベートする。細胞を5mlの色素含有DMEM10において37℃で15分間インキュベートし、遠心分離によってペレット化し、15mlのDMEM10で洗浄し、37℃で30分間インキュベートし、ペレット化し、15mlのDMEM10で再び洗浄し、0.5mlのDMEM10に再懸濁する。標識された細胞を、成体マウス脳への定位注入のために10個/μl血清非含有培地で懸濁する。
【0204】
<色素標識されたCD34細胞の脳への定位注入>
2ヶ月齢のヌードマウスに、1μlのPBSあたり1×10個の標識されたC3HのCD34幹細胞/が海馬および線条体に定位注入される。注入されたマウスは、動物が屠殺される前に1ヶ月間、2ヶ月間および3ヶ月間飼育され、そして免疫組織化学および蛍光共焦点顕微鏡観察のために、脳が取り出され、調製される。
【0205】
<移植された幹細胞の抗体による特徴づけ>
神経膠細胞マーカー:グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)(Chemicon、Sigma);乏突起膠細胞マーカー:2’3’−環状ヌクレオチド3’−ホスホヒドロラーゼ(CNPase)(Chemicon);ニューロンマーカー:神経フィラメント(Chemicon、Steinberger Monoclonal)、神経細胞接着分子(NCAM)(Chemicon)およびNeuN(Chemicon)。フルオレセイン標識された二次抗体(Kirkegaard & Perry)を、脳切片に対する一次抗体の結合を検出するために使用し、二次抗体だけがコントロールとして使用された。免疫組織化学がレーザー共焦点顕微鏡観察よって分析され、そして写真撮影された。
【0206】
<蛍光レーザー共焦点顕微鏡観察のための移植された脳の調製>
注入された脳を、COによる窒息の後、マウスから取り出す。その後、脳をDPBSにおける4%パラホルムアルデヒドにおいて4℃で24時間懸濁する。続いて、固定液を脳から移され、DPBSにおいて4℃で24時間交換される。その後、脳を30%ショ糖液において4℃で24時間平衡化させる。平衡化した脳を凍結し、脳の断面を切断するために方向を定めて、冷凍包埋配合物とともにクリオスタット標本台の載せる。厚さ30μmの連続した断面を、Micromのクリオスタットを用いて−39℃で切断する。脳の切片を顕微鏡スライドグラスに載せ、乾燥する。脳の切片は、標準的な方法によって免疫組織化学のための抗体で処置し、その後、25ng/mlの4’,−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)細胞核色素で染色し、顕微鏡のスライドカバーガラスで覆い、マニキュアで封じる。移植されたCD34細胞を、ローダミン、フルオレセインおよびDAPIの光学特性を用いて蛍光レーザー共焦点顕微鏡観察によって観察し、写真撮影する。移植されたCD34細胞を細胞の形態学および神経抗原の抗体検出についてスコア化し、写真撮影する。
【0207】
<例示的な具体的方法>
<移植のための幹細胞供給源>
ヒト成体骨髄(これはStemCo Biomedicalから得られる)を、注入のためのCD34造血幹細胞の純粋な集団を作製するために、約4週間〜8週間にわたって懸濁細胞を継続して継代培養することによって、規定された血清非含有培地でインビトロ培養する。無菌的に培養された細胞(10)を、2ヶ月齢のヌードマウス(Jackson)に、1μlのダルベッコリン酸塩緩衝化生理的食塩水で海馬に注入し、10細胞/1μlを海馬への注入と同じ半球の線条体に注入する。細胞はマウスを介して継代培養されていない。ヌードマウスの平均余命は短いので、30匹のマウスに注入し、マウスを3群で処理する:注入後1ヶ月後で10匹のうちの生存体;3ヵ月後で10匹のうちの生存体;そして6ヶ月後で10匹のうちの生存体。
【0208】
<幹細胞の定位注入>
1ヶ月齢のマウスは脳の海馬および線条体への幹細胞の定位注入を受ける。麻酔のために、マウスに、滅菌蒸留水で1:1に希釈された50mg/mlのペントバルビタール(ネンブタールのナトリウム溶液)を20gmマウス体重あたり0.1mlで腹腔内に注射する。手術前に、マウスの頭をベタジンにより洗い、その後、70%エタノールにより洗浄する。その後、頭骨を覆う皮膚を70%エタノールに浸け、皮膚の切開を頭蓋側面で行う。2つの2mmの穴を、携帯型愛好家用ドリルの滅菌されたドリルの錐を用いて、海馬および線条体の上方の頭骨に開ける。その後、細胞を、David Kopfの定位固定装置によって支えられた30Gaのニードルを用いて、下記に記載されるように注入する。ニードルを除き、2回の注入の後、皮膚を糸で縫合する。リドカイン(4%リドカインクリーム)を、縫合後に1回、縫合部位に局所的に塗布し、マウスを、12時間毎に48時間、不快および再塗布についてモニターする。リドカインが痛みを抑制しない場合、他の鎮痛剤を、例えば、ブプレノルフィンを0.01mg/kg体重〜0.03mg/kg体重で投与することができる。マウスをそのケージに戻して、回復させる。マウスは速やかに処置から目を覚ますので、麻酔から回復する期間中、加熱ランプは使用されない。すべての手術は無菌状態のもとで行なわれ(USPHSの指針)、感染率は以前の研究では1%未満である。マウスを、術後毎日、行動の変化についてモニターし、動作、水飲みまたは摂食の問題が観察されるならば、そのマウスを免疫組織化学のために調製する。
【0209】
<免疫組織化学のための動物の調製>
免疫組織化学および蛍光顕微鏡観察のために、動物を上記のように処理し、脳を調製する。
【0210】
〔実施例13〕 本発明のいくつかの幹細胞の例示的な細胞マーカーおよび細胞特徴
下記の表6は、IL−3、IL−6およびSCF(3因子)、または、IL−3、IL−6、Flk−2およびTpo(5因子)を含有する血清非含有培地で成長させた、成体ヒト骨髄から得られるフローサイトメトリー分取のALDH+bright細胞に関する。培養された細胞を、培養での18日後、25日後および66日後に、造血幹細胞および神経幹細胞のマーカーについて免疫細胞化学によって検定した。幹細胞集団は、CD34、CD45、cKitおよびPa×−6の発現についてそれぞれの時点で均質であることが見出された。
【0211】
【表6】

【0212】
表7では、成人骨髄細胞全体を取り出し、固定して、骨髄におけるCD34細胞を免疫細胞化学によって有糸分裂(Ki67)およびアポトーシス(カスパーゼ3およびTUNEL)について検定した。CD34細胞は、骨髄において、93%が有糸分裂性であり、5%がアポトーシス性であることが見出された。
【0213】
【表7】

【0214】
〔実施例14〕 ダウン症候群のマウスモデルについての造血幹細胞におけるアポトーシス
ヒトのトリソミー21は、本質的には、神経系における重篤な異常によって特徴づけられる。加えて、造血細胞の欠乏がこれらの患者では非常に頻発しており、血液学的障害および免疫障害を発症する危険性が大幅に増大している。ヒトのトリソミー21のマウスモデルが、ヒトの第21染色体に対して最も相同的であるマウスの第16染色体を用いて作製されている。実際、トリソミー16のマウスでは、増大したアポトーシスが、胎児の発達期間中の神経系および胸腺における始原細胞において報告されている。本明細書中では、成体の分節性トリソミーマウスであるTs65Dnに由来する骨髄幹細胞/前駆細胞のCD34細胞は、その二倍体同腹子と比較して増殖能力が劇的に低下している。実際、トリソミーのCD34幹細胞/前駆細胞の大多数がエクスビボではアポトーシス性である。加えて、Ts65DnのCD34細胞のインビトロ増殖能力は大幅に低下していた。これは、低下した有糸分裂速度および高い割合のアポトーシス細胞の結果である。それにもかかわらず、調べられた表現型形質はトリソミー細胞および二倍体細胞において類似している。神経系、胸腺および造血系から得られたこれらの結果は、共通する機構がトリソミーマウスでは幹細胞/前駆細胞において働いており、細胞の増殖および生存に影響を及ぼしていることを示している。
【0215】
ヒトのトリソミー21、すなわち、ダウン症候群(DS)は、本質的には、精神遅滞をもたらす神経系における重篤な異常によって特徴づけられる。加えて、心臓、消化器、内分泌、皮膚科学の様々な問題および骨格奇形は、DSにおける生涯にわたる憂慮すべき事柄である。例えば、減少した数のB細胞およびT細胞などの造血系の欠乏(Cossarizza他、1990)は、形成不全の胸腺(LevinおよびCobian、1999)と同様に、これらの患者では非常に頻発しており、また、白血病だけでなく、骨髄増殖性疾患を発症するその危険性が大幅に増大している。実際、芽細胞が、ダウン症候群(DS)の新生児では10%までの血液において検出され得る(Hasle、2001)。DSにおける病原性機構を調べるために、マウスの第16染色体の遠位側1/3がヒトの第21染色体の遠位側末端に対してシンテニーであるので、様々なマウスモデルが作製されている。トリソミー16を有するマウス胎児は、造血系および免疫系における異常(例えば、形成不全の胸腺など)、ならびに、肝臓における減少した数の造血前駆細胞を示す(Epstein他、1985)。しかしながら、第16染色体の全体についてのトリソミーは出生後の生存と両立できない。従って、ヒトの第21染色体において保存されているマウスの第16染色体のセグメントのみについてトリソミーであるマウスが開発されている(Reeves他、1995)。このようなTs65Dnマウスは、成体になるまで生存し、胸腺における増大したアポトーシスを含めてDS患者の表現型異常に類似する表現型異常を示す(Paz-Miguel他、1999)。
【0216】
本発明者らは、近年、Ts65Dnマウスに対する親の系統を含めて様々なマウス系統から外植された成体骨髄幹細胞の長期間培養物を報告している(Goolsby他、2003)。数週間後、培養物は、造血始原細胞/幹細胞の表現型と矛盾しない表現型を発現するCD34細胞からのみ構成される。1016個のCD34骨髄細胞が、多くても10個のCD34細胞を含む10個の骨髄細胞全体から作製されたので、これらの細胞は少なくとも30世代にわたって非常に活発に成長する。
【0217】
本実施例において、本発明者らは、Ts65Dnマウスに由来する骨髄幹細胞のインビトロ増殖能力を、それらの二倍体同腹子の能力と比較して調べている。最も顕著な結果は、それらの二倍体コントロールと比較して、Ts65Dnマウスに由来するCD34骨髄細胞の累積数における劇的な減少である。Ts65Dn骨髄に由来するCD34細胞の大幅に低下した成長の主要な理由は、具体的な実施形態では、これらの培養物における(低下した有糸分裂速度および)アポトーシス細胞の高い割合である。このことは、Ts65Dnに由来するエクスビボ骨髄幹細胞の大多数がアポトーシス性であるという事実と一致している。例示的な方法が本明細書中の他のところで記載される。
【0218】
I.Ts65Dnマウスに由来する造血始原細胞の増殖能力は大幅に低下している
骨髄を成体のTs65Dnマウスおよびそれらの二倍体同腹子から採集し、以前に記載されたように(Goolsby他、2003)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−6(IL−6)、幹細胞因子(SCF)および2−メルカプトエタノールを含有する液体培地で培養した。浮遊細胞を継続して植え継ぎ、4週間後、すべての細胞が、両タイプのマウスから得られた培養物においてCD34であった。しかしながら、数日後でさえ、それらの成長速度における大きな違いが観察された(図17)。実際、Ts65Dnマウスに由来するCD34骨髄細胞の増殖能力は、二倍体同腹子の増殖能力と比較して、大幅に低下している。二倍体およびTs65Dnにおいて同じ数の骨髄細胞(2×10細胞)から出発する。培養物の細胞密度を、成長曲線の測定期間中、同程度のレベルで維持した。培養で80日後、Ts65Dn骨髄に由来するCD34細胞の累積数は約10個であり、一方、同じ時点において、二倍体同腹子に由来する細胞の数は1015個に達する。これらの条件のもとで、倍加時間は、二倍体については2.5日であり、Ts65Dnについては11日であった。培養で80日での世代数は、Ts65Dnでは8であり、二倍体については33世代である。これらのデータは、別個の同腹子に由来するマウスを用いて高い再現性を有していた(2つの同腹子に由来するそれぞれの遺伝子型についてn=8)。
【0219】
II.トリソミーの造血幹細胞における低下しした有糸分裂
2つの主要な、互いに排他的でない機構により、トリソミーのCD34細胞の非常に低い増加速度、つまり、低下した細胞成長速度またはアポトーシス細胞の高い割合を説明することができる。細胞の成長を、BrdUを5時間の暴露後に取り込む細胞の割合として、また、培養で6週間後、8週間後および10週間後におけるKi67タンパク質を発現する細胞の割合として測定した。異常な有糸分裂速度を確認するために、BrdU(チミジンアナログ)による5時間のパルス標識を調べた。純粋なTs65Dn CD34培養物は二倍体の1/7のBrdU標識を示した(図18)。図18aは、BrdUの取り込みが、二倍体については各時点で70%であったが、トリソミーについては6%〜10%であったにすぎないことを示している。Ts65と二倍体との間での有糸分裂速度の違いは各時点で同じであった。図18bでは、Ki67(細胞増殖についてのマーカー)に対して免疫陽性であるトリソミー細胞および二倍体細胞の割合が測定された。BrdU標識の場合と同様に、70%を超える二倍体が染色され、一方で、トリソミーの10%〜20%のみが、10週間にわたる培養で、Ki67に対して免疫陽性であった。
【0220】
III.トリソミーの造血幹細胞における増大したアポトーシス
同時に、アポトーシスの表現型を示すCD34細胞の割合を調べた。すべての時点で、二倍体の10%より少なく、しかし、トリソミーの65%〜90%が、アポトーシスのカスケードにおける切断されたカスパーゼ3に対する免疫蛍光に基づいてアポトーシス性であると診断された(図18a)。これは核の形態学およびTUNELと一致していた。加えて、ウエスタンブロットでは、トリソミーの培養物が、二倍体を上回る増大したカスパーゼ(切断型)発現を示すことが示された(ゲルについてはMikeを参照のこと)。10週齢の培養物のウエスタンブロットでは、トリソミーの培養物において、カスパーゼ3の切断された17kDaバンドが明らかにされた(図18b)。加えて、トリソミーにおける大部分の細胞がアポトーシス性の核の形態学を明らかにした(図18b)。TUNEL染色は、培養での6週間で、10%の二倍体、しかし、50%のトリソミー細胞を示した。従って、カスパーゼ3の発現は、アポトーシスを予測するものであり、これにより、2つの遺伝子型の死のパターンがさらに確認される。
【0221】
多数の機構がアポトーシスに関与していると提案されている。興味深い機構は、MMU16/HSA21のシンテニー領域に存在する遺伝子産物(Ets−2)を伴う機構である。Ets−2は、アポトーシスの過程でp53と結合することが知られており、p53のレベルの調節はアポトーシスのレベルと相関している(Wolvetang他、2003)。従って、正常な二倍体CD34細胞およびトリソミーのCD34細胞における発現をウエスタンブロットおよび免疫細胞化学によって調べた。p53は、培養された二倍体CD34細胞の免疫細胞化学またはウエスタンブロット分析のいずれによっても検出されなかったが、トリソミーのCD34細胞では発現していることが見出された(6週間で20%)。
【0222】
まとめると、これらのデータは、Ts65Dn骨髄に由来するCD34細胞の低い成長速度が、低下した有糸分裂速度および増大したアポトーシスの結果であることを示している。明確な解釈は、これらの実験で使用された増殖因子に対する受容体の欠如であると考えられる。従って、ウエスタンブロット実験を、Ts65Dn細胞が増殖因子受容体を発現しているかどうかを明らかにするために行った。図20に示されるように、二倍体およびトリソミーのCD34細胞はともに、IL3−R、IL6−Rおよびc−Kit(SCF受容体)を同程度のレベルで発現している。Ts65Dn培養物におけるこれらの結果は、同腹子と比較するとき、あるいは、二倍体動物の集団またはトリソミー動物の集団と比較するときのいずれでも認められる。
【0223】
IV.エクスビボTs65Dn骨髄細胞における有糸分裂マーカーおよびアポトーシスマーカー
しかしながら、トリソミーCD34細胞の低い有糸分裂速度および高いアポトーシス割合は、インビボで存在する内在性CD34細胞によって生存のために要求されると考えられる増殖因子が培地に存在していないことであると論ずることができる。従って、有糸分裂マーカーおよびアポトーシスマーカーを発現するトリソミーマウスおよび二倍体マウスに由来するエクスビボCD34細胞の割合を調べた。図21は、トリソミーの骨髄におけるCD34細胞の割合が5%であり、一方、二倍体の骨髄における割合が7%であることを示している。実に興味深いことに、Ts65Dnに由来するこれらのCD34細胞の大多数がアポトーシスマーカーを発現し、一方、少数のみが有糸分裂性のようである。対照的に、CD34の二倍体細胞では、細胞の大多数が有糸分裂性であり、少数がアポトーシス性のようである。これらの結果は、インビトロデータが培養の人為的影響ではなく、インビボの状況を増幅しているに過ぎないことを明確に示している。
【0224】
V.CD34細胞の表現型マーカー
しかしながら、トリソミーのマウスに由来するCD34細胞の遅く成長する集団が、それらの正常な同腹子のCD34細胞の表現型と同じ表現型を示すかどうか、または、これらの細胞がCD34細胞のサブセットに由来するかどうかを明らかにすることが重要であった。従って、トリソミーマウスに由来するCD34細胞を、それらのコントロールと比較して、培養において種々の時点で検定した。最も明確な結果は、トリソミーCD34細胞の表現型が二倍体同腹子の表現型と異ならないということである(表9)。
【0225】
【表9】


【0226】
従って、トリソミーのCD34細胞および二倍体のCD34細胞はともに、造血幹細胞マーカーおよび胎芽幹細胞マーカーを発現している。加えて、それらは、神経幹細胞についてのマーカー、ならびに、分化したニューロンおよび乏突起膠細胞についてのマーカーを発現しているが、系譜特異的な造血マーカーを発現していない。従って、トリソミーマウスに由来するゆっくり成長するCD34細胞は、正常なマウスのCD34細胞に匹敵する均質な集団のようである。
【0227】
VI.本実施例の重要性
ダウン症候群(DS)の発症の一般的な特徴は、インビボおよび培養の両方での、脳および胸腺におけるアポトーシスの存在である(Sawa他、1999;Levin他、1979)。実際、BusseglioおよびYankner(1995)は、DS胎児の脳に由来する培養された皮質ニューロンが、増大した速度のアポトーシスを示すること、また、ROSの細胞内レベルが3倍〜4倍上昇したことを示している。DSの胸腺において、Levin他は、胸腺の退化に類似するリンパ球の涸渇を伴って胸腺がより小さくなることを見出していた。加えて、DSの小児は、減少した数のT細胞ならびにこれらの細胞の機能的欠損をともに有する。また、DSの新生児は、CD34細胞の数が異常であり(Tamiolakis他、2001)、また、一過性の骨髄増殖性障害を有する(Hassle、2001)。
【0228】
同様に、DSの動物モデルでは、神経系(海馬および皮質ニューロン)、胸腺および生殖細胞においてアポトーシスが存在する(Bambrick他、2000;ドイツのグループ;Epstein他、1985;Paz-Miguel他、1999;Gjertson他、1999;Leffler他、1999)。細胞の低下した増殖能力および成熟前の死が存在する。実際、16トリソミーマウスの新皮質の発達期間中、コントロールと比較して、より少ない割合の始原細胞が細胞周期から抜け出し、細胞周期の持続期間がより長くなり、成長画分が縮小し、そして同様に、アポトーシスが増大する(Haydar他、2000)。
【0229】
従って、二倍体同腹子と比較して、成体のトリソミーマウスの骨髄における造血細胞のアポトーシスを調べることは重要であると考えられる。本研究の主要な発見は、Ts65Dnマウスに由来する骨髄造血幹細胞/始原細胞の大多数がエクスビボでアポトーシス性であることである。骨髄における上昇したアポトーシスは、CD34の幹細胞/始原細胞に限定される。この観察結果の機能的重要性を調べるために、本発明者らは骨髄幹細胞の培養物を確立した。培養における時間とともに、細胞は、増殖しているCD34細胞については均質になった(図16)。トリソミーのCD34細胞は、二倍体同腹子と比較して、劇的に低い成長速度を示した。同時に、低下した増殖(図17)、低下した有糸分裂(BrdUの取り込みおよびKi67免疫反応性)、および増大したアポトーシス(カスパーゼ3、TUNEL、DAPI、図18および図21)が認められた。これに関連して、トリソミーマウスに由来するCD34細胞の表現型が、それらの二倍体同腹子から培養されたCD34+細胞の表現型と区別ができないという発見は、これらの細胞がCD34細胞のサブセットの選択過程に起因していないこと、むしろ、これらの細胞はCD34細胞の集団全体の劇的に減少した成長速度の結果であることを示唆している。
【0230】
Ts65Dnマウスに存在し、かつ、ヒトの第21染色体に対してシンテニーである三重になった遺伝子の中で、多数の近年の報告では、ニューロンのアポトーシス、ならびに、造血系および免疫系に由来する細胞のアポトーシスの増大した割合に対する転写因子Ets−2についての大きな役割が提案されている(Wolfstand他、2003)。Ets−2タンパク質に対する考えられる標的はp53(前アポトーシスのガン抑制タンパク質)であり得る。これに関連して、二倍体のCD34細胞においてではなく、Ts65Dnマウスのゆっくり成長するアポトーシス性のCD34細胞培養物におけるp53タンパク質の存在は、非常に重要である。しかしながら、Ts65Dnにおいてトリソミーとして存在する他の遺伝子もまた、CD34の増大したアポトーシスに関与しているかもしれない。実際、近年の観察結果では、Run×遺伝子が造血細胞の分化において役割を果たし得ることが示唆されている。また、第16染色体に存在するDyrk1A遺伝子の発現が、細胞周期の調節に関与するタンパク質に関連づけられている。加えて、SOD1(マウスの第16染色体およびヒトの第21染色体上に存在する)の増大した発現を伴う変化した抗酸化バランスが、ダウン症候群の特定の局面を説明するために提案されている。
【0231】
神経系、胸腺および生殖細胞における上昇したアポトーシスのより初期の結果は、造血系からのこれらの結果と一緒に、共通する機構がトリソミーマウスの幹細胞/前駆細胞において働いており、細胞の増殖および生存に影響を与え得ることを示唆している。ダウン症候群は全般的な幹細胞の欠乏であり得る。
【0232】
〔実施例15〕 インスリンを発現するCD34幹細胞およびその使用
本発明者らは、CD34幹細胞が、インスリンに対する順方向プライマー5’−AACCCACCCAGGCTTTTGTC−3’(配列番号21)および逆方向プライマー5’−TCCACAATGCCACGCTTCTG−3’(配列番号22)を使用する逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によってインスリンに対するmRNAを発現することを明らかにしている。本発明者らはまた、放射性の35−イオウで標識された(35S)−システインにより細胞を代謝的に標識することによって、細胞がこのmRNAをインスリンタンパク質に翻訳することを示していた。インスリンはその51個のアミノ酸の中に6個のシステインを含む。35S−システインにより細胞を標識した後、細胞溶解物と、細胞が成長していた培養培地の両方を、細胞溶解物および培養培地に存在する可能性のある何らかのインスリンを免疫沈降させるために抗インスリン抗体カラムに通した。カラムからの溶出物をポリアクリルアミド電気泳動により分子量によって分離し、オートラジオグラフィーに感光させて、CD34細胞における代謝的に合成されたインスリンの存在を明らかにした。さらに、35Sのカウント値の95%が、細胞溶解物においてではなく、培地に存在したので、細胞は合成されたインスリンを分泌していた。この分泌は、この細胞が糖尿病患者における細胞置換治療で使用されることを考慮すれば重要である。CD34細胞が、インスリンを産生する正常な膵臓小島細胞が行なうように、培養培地中のグルコースの量の結果として、細胞が合成するインスリンの量を調節することができるかどうかが明らかにされる。CD34細胞を、高レベルのグルコースおよび低レベルのグルコースを含む培養培地で成長させる。CD34細胞がインスリン合成を調節する実施形態では、CD34細胞は、高グルコース培地で、低グルコース培地におけるよりも多くのインスリンを発現するはずである。細胞はインスリンのmRNAを発現しており、インスリンタンパク質を産生し、分泌する。一部の実施形態において、細胞がインスリン合成を調節しないならば、細胞は、膵臓小島β−細胞にインビボで分化した後でインスリン合成を調節すると考えられ、かつ/または、細胞は発現を調節するために遺伝子操作することができる。
【0233】
本発明およびその利点が詳細に記載されているが、様々な変更、置換および改造が、添付された請求項によって定義されるような本発明の精神および範囲から逸脱することなく本発明において行われ得ることを理解しなければならない。さらに、本出願の範囲は、本明細書に記載されるプロセス、装置、製造、組成物、手段、方法および工程の特定の実施形態に限定されることは意図されない。当業者が本発明の開示から容易に理解するように、本明細書中に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たすか、または、本明細書中に記載された対応する実施形態と実質的に同じ結果を達成するプロセス、装置、製造、組成物、手段、方法または工程(これらは現在存在するか、または後に開発されることなる)を本発明に従って利用することができる。従って、添付された請求項は、そのようなプロセス、装置、製造、組成物、手段、方法または工程をその範囲内に含むことが意図される。
【0234】
<参考文献>
本明細書において言及されるすべての特許および刊行物は、本発明が属する当業者のレベルを示している。すべての特許および出版物は、それぞれの個々の刊行物が参考として組み込まれることが具体的かつ個々に示されているかのようにそれと同程度に参考として本明細書中に組み込まれる。
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【図面の簡単な説明】
【0235】
【図1】成体マウスの完全なエクスビボ骨髄のサブセットにおける神経遺伝子の発現を示す。骨髄細胞の同じサブセットにおける神経フィラメントHおよびPa×−6の二重免疫細胞化学的検出。CD34骨髄細胞のサブセットにおける神経フィラメントH、NeuNおよびHuC/HuDの発現。GAD65(主要な神経伝達物質の合成に関わる酵素)もまた骨髄細胞のサブセットに存在した。乏突起膠細胞のCNPaseが骨髄細胞のサブセットで検出され、これに対して、星状膠細胞マーカーのGFAPはエクスビボ骨髄では検出されなかった。神経フィラメントHおよびOct−4がエクスビボ骨髄細胞の同じサブセットで検出された。DAPIにより、すべての細胞の核が染色される。
【図2】成体マウス骨髄に由来する、CD34、Sca−1+、AA4.1+、cKit+細胞の長期間培養を明らかにする。7日および25日における骨髄細胞の顕微鏡写真。血清含有培地および血清非含有培地における、C57Bl/6Jマウス、C3Hマウス、SJL/1マウスおよび129VBマウスの成体骨髄に由来する細胞の成長曲線。
【図3】成体C57Bl/6Jの骨髄の6週間の培養物におけるすべての細胞に対するCD34、cKitおよびSca−1の免疫細胞化学的検出を示す。
【図4】成体C57Bl/6Jの骨髄の6週間の培養物における細胞からの、GATA−2、LMO−2、Re×−1、Flk−2、TAL−1、CD34およびGFAPのmRNAのRT−PCR産物の検出を示す。
【図5】6週間〜10週間にわたって培養された成体マウス骨髄細胞における神経遺伝子発現の検出を明らかにする。3つのニューロン遺伝子が検出された:免疫細胞化学、ウエスタンブロット分析およびRT−PCRによって検出された神経フィラメントH;免疫細胞化学およびウエスタンブロットによって検出されたNeuN;免疫細胞化学によって検出されたGAD65。2つの乏突起膠細胞遺伝子が検出された:免疫細胞化学およびウエスタンブロットによって検出されたCNPase、および免疫細胞化学によって検出されたMOSP。
【図6】成体C57Bl/6Jマウスの脳の海馬および線条体に移植されたCell Tracker Orange(CTO)標識の培養されたCD34、Sca−1+、AA4.1+かつcKit+の成体C57Bl/6Jマウス骨髄細胞による遺伝子発現のレーザー共焦点顕微鏡による免疫組織化学的分析を示す。CD34が成体の脳への移植後の6週間でCTO標識の細胞において発現した(宿主の脳細胞はCD34を発現していない)。成体マウス脳への移植後の1年での、CTO標識された成体マウス骨髄細胞における乏突起膠細胞のCNPase(移植細胞、矢じり;宿主細胞、矢印)、星状膠細胞のGFAP(移植細胞、矢じり;宿主細胞、矢印)、ならびにニューロンの神経フィラメントHおよびNeuNの発現。最後の3列:移植後1年での成体マウス脳におけるCTO標識された成体CD34骨髄細胞におけるNeuNおよびGFAPについての二重標識による分析、ならびに、神経フィラメントHおよびGFAPについての二重標識による分析。
【図7】分取されていないヒト骨髄幹細胞(HuBMSC)を含むサンプルについての成長曲線を例示する。細胞を様々な条件のもとで培養した。下記の表記法を用いた:アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH+);ALDH+ Bright−分取された骨髄幹細胞;ALDH−Dim−分取された非幹細胞;SF−血清非含有;3−は、3つの例示的な増殖因子がインターロイキン−3、インターロイキン−6および幹細胞因子であることを示す;5−は、5つの例示的な増殖因子がインターロイキン−3、インターロイキン−6、幹細胞因子、flt3/fflk2およびTPOであることを示す;10%−10%のウシ胎児血清を含有する培地。
【図8】分取されていないヒト骨髄幹細胞(HuBMSC)を含む別のサンプルについての成長曲線を例示する。細胞を様々な条件のもとで培養した。下記の表記法を用いた:アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH+);ALDH+ Bright−分取された骨髄幹細胞;ALDH−Dim−分取された非幹細胞;SF−血清非含有;3−インターロイキン−3;5−インターロイキン−5;10%−10%のウシ胎児血清を含有する培地。
【図9】分取されていないヒト骨髄幹細胞(HuBMSC)を含むさらなるサンプルについての成長曲線を例示する。細胞を様々な条件のもとで培養した。下記の表記法を用いた:アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH+);ALDH+ Bright−分取された骨髄幹細胞;ALDH−Dim−分取された非幹細胞;SF−血清非含有;3−インターロイキン−3;5−インターロイキン−5;10%−10%のウシ胎児血清を含有する培地。
【図10】インターフェロン−βをEAEマウスにおいて発現させるために操作されたCD34細胞の臨床的効果を明らかにする。再発期の開始が遅れ、重篤度が軽減する(菱形)。各点は各群における5匹の動物の平均である:CD34/IFN−βおよびコントロール:CD34/neo、CD34のみ、および非処置。
【図11】実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)マウスに移植された、インターフェロン−βまたは脳由来神経栄養因子(BDNF)を発現させるために操作されたCD34細胞の臨床的効果を示す。この分野で認められている麻痺の5段階尺度によって測定されたとき、初期期の開始が遅れ、重篤度が軽減する(菱形)。各点は各群における20匹の動物の平均である:CD34/IFN−β、CD34/BDNFおよびコントロール:CD34/neo、CD34のみ。
【図12】正常な成体マウス脳に移植された、緑色蛍光タンパク質(GFP)をすべての細胞で発現する遺伝子組換えマウスに由来するいくつかのCD34細胞が、8週間で、ニューロンの形態学を発現し、同様にチロシンヒドロキシラーゼ(TH)(これは、THに対する抗体によって検出される)を発現することを明らかにする(マウス脳の20μm厚の切片)。脳切片は、すべての細胞核を標識するDAPIにより対比染色された。
【図13】10ng/mlのラットIL−3、10ng/mlのラットIL−6、10ng/mlのSCFおよびβ−メルカプトエタノールを含有するDMEM10における成体ラット骨髄幹細胞の成長を示す(1015個の細胞が10個の細胞から80日で成長した)。
【図14】成人エクスビボ骨髄における遺伝子発現の免疫細胞化学的分析を明らかにする。細胞の一部が、造血幹細胞、胎芽幹細胞および神経幹細胞の遺伝子、ならびに、分化したニューロン細胞および乏突起膠細胞の遺伝子を発現する。矢印は、造血幹細胞のCD34およびCD45について免疫陽性の細胞、胎芽幹細胞のOct−4について免疫陽性の細胞、神経幹細胞のPa×−6について免疫陽性の細胞、ニューロンの神経フィラメントHについて免疫陽性の細胞、乏突起膠細胞のCNPaseについて免疫陽性の細胞を示す。DAPIにより、視野内のすべての細胞核が示される。
【図15】成人骨髄幹細胞が血清非含有培地(SFM)および血清含有培地(DMEM10)において対数的に成長することを示す。フローサイトメトリーによって分取されたALDH+幹細胞、および、分取されていない骨髄全体からの幹細胞はともに、10%ウシ胎児血清を伴うDMEMよりも、SFMにおいて幾分良好に成長する。
【図16】5日、2週間、3週間および4週間の培養での成人骨髄幹細胞の位相差顕微鏡写真を示す。初期の培養物は、生育培地における懸濁状態にある細胞と、フラスコに付着した細胞との両方を含有する。
【図17】正常なマウス(△)およびTs65Dnマウス(●)からの成体造血骨髄に由来する細胞の成長曲線を示す。
【図18】図18aと図18bは、CD34インビトロ造血骨髄細胞の増殖を示す。グラフは、HSCの培養におけるBrdU免疫陽性細胞の割合(図18a)およびKi67免疫陽性細胞の割合(図18b)を表す。値は平均±SEMを表す。二倍体では、増殖性細胞の数がTs65Dnにおけるよりも6倍〜7倍大きい。図18cにおいて、画像は、HSCの二倍体および8トリソミーの8週齢培養物における抗BrdUおよび抗Ki67についての免疫染色を示した。
【図19】図19a−19cは、CD34インビトロ造血骨髄細胞におけるアポトーシスを示す。図19aにおいて、グラフは、二倍体マウスおよびTs65DnマウスからのHSCの培養における切断型カスパーゼ3細胞の割合を表す(平均±SEM)。Ts65Dnでは、アポトーシス細胞の数が二倍体よりも大きい。図19bにおいて、ウエスタンブロットは、Ts65Dnマウスにおけるp53タンパク質の存在、ならびに、6週間培養された二倍体HSCおよびトリソミーHSCにおける非切断カスパーゼ3タンパク質の存在を示した。TA、TC、TB1、TB2−個々のトリソミーマウス。DA、DE、DF−個々の二倍体マウス。図19cにおいて、カラー画像は、Dapi核染色、ならびに、抗カスパーゼ3および抗p53についての免疫染色を示す。
【図20】トリソミーマウスおよび二倍体マウスがともに、IL−3受容体、IL−6受容体およびcKit、SCF受容体を発現することを示すウエスタンブロット分析を例示する。
【図21】インビボでの二倍体およびTs65Dnの造血骨髄細胞における分裂マーカーおよびアポトーシスマーカーを示す。CD34およびTUNELについて二重標識したとき、切断されたカスパーゼ3は、トリソミーHSCの方が二倍体よりも高い死を示した。CD34およびKi67についての染色により、二倍体HSCでのより大きい増殖が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の細胞において幹細胞を濃縮する方法であって、
幹細胞が第1の培地において実質的に懸濁状態にあり、かつ非増殖性細胞が実質的に基質に接着する条件のもとで、細胞のサンプルを第1の液体細胞培養培地に加える工程、および、
懸濁された細胞を第2の液体細胞培養培地に継代培養する工程
を含むことを特徴とする幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項2】
前記幹細胞が、多能性幹細胞としてさらに定義することができることを特徴とする請求項1記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項3】
前記基質が、第1の液体細胞培養培地を収容する容器であることを特徴とする請求項1記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項4】
前記懸濁された細胞が、1回より多く継代培養されることを特徴とする請求項1記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項5】
前記懸濁された細胞の継代培養が、連続した容器において細胞を液体培地で連続して継代培養することとしてさらに定義することを特徴とする請求項1記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項6】
前記継代培養が、1週間に約1回、1週間に1回より少なく、または1週間に1回より多い頻度で行われることを特徴とする請求項4記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項7】
前記第1の細胞培養培地、第2の細胞培養培地、または、両方の培養培地が、血清を含まないことを特徴とする請求項1記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項8】
前記培養培地が、フィーダー細胞、マトリックス、または、その両方を有しないことを特徴とする請求項1記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項9】
前記多数の細胞が、骨髄細胞、肝臓細胞、神経細胞、膵臓小島細胞、胎芽細胞、間葉系細胞、筋細胞、皮膚細胞、毛包細胞、腸細胞、心臓細胞または骨細胞を含むとしてさらに定義されることを特徴とする請求項1記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項10】
前記多数の細胞が骨髄細胞を含むとき、前記培地が、インターロイキン−3、インターロイキン−6、幹細胞因子、Flt−3/Flk−2、Tpo、Shh、Wnt−3a、Kirre、またはその混合物を含むことを特徴とする請求項9記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項11】
前記多数の細胞が神経細胞を含むとき、前記培地が、繊維芽細胞成長因子−β(FGF−β)、表皮成長因子(EGF)、フィブロネクチン、シスタチンC、またはその混合物を含むことを特徴とする請求項9記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項12】
前記多数の細胞が胎芽細胞を含むとき、前記培地が、FGF−β、Wnt−3a、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、またはその混合物を含むことを特徴とする請求項9記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項13】
前記多数の細胞が間葉系幹細胞を含むとき、前記培地が、FGF−β、EGF、血小板由来増殖因子(PDGF)、フィブロネクチン、またはその混合物を含むことを特徴とする請求項9記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項14】
1つまたは複数の幹細胞を個体に送達する工程を、さらに含むことを特徴とする請求項1記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項15】
医学的状態について個体を処置する方法であって、
幹細胞が実質的に懸濁状態にあり、かつ、非増殖性細胞が実質的に基質に接着する条件のもとで、幹細胞を含む細胞サンプルを第1の液体細胞培養培地に加える工程、
第1の培地からの懸濁された細胞を第2の液体細胞培養培地に継代培養する工程、および、
1つまたは複数の幹細胞を個体に送達する工程
を含むことを特徴とする幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項16】
前記医学的状態が、多発性硬化症、パーキンソン病、糖尿病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、ダウン症候群、心臓疾患、ハンチングトン病、発作、脊髄傷害、白血病、形成不全症、皮膚置換または毛包置換であることを特徴とする請求項15記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項17】
前記懸濁された細胞の継代培養が、細胞を連続した容器において液体培地で継続して継代培養することとしてさらに定義されることを特徴とする請求項15記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項18】
前記1つまたは複数の細胞を固体に送達する工程が、注射または移植を含むことを特徴とする請求項15記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項19】
前記1つまたは複数の細胞の個体への送達に先立ち、1つまたは複数の治療因子を幹細胞に送達する工程を、さらに含むことを特徴とする請求項15記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項20】
前記治療因子が、核酸、ペプチド、ポリペプチド、小分子、またはその混合物を含むことを特徴とする請求項19記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項21】
前記個体が、多発性硬化症を有しており、前記治療因子が、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア由来神経栄養因子(GDNV)またはIFN−βを含むことを特徴とする請求項19記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項22】
前記個体が、パーキンソン病を有しており、治療因子が、BDNFまたはGDNFを含むことを特徴とする請求項19記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項23】
前記個体が、糖尿病を有しており、治療因子が、インスリンを含むことを特徴とする請求項19記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項24】
1個または複数の哺乳動物幹細胞を単離する方法であって、
1個また複数の幹細胞を含む多数の細胞を備える工程、
多数の細胞を、液体培養培地を含む容器での培養工程に提供すること、つまり、懸濁された細胞と容器に接着した細胞とを産生する培養の工程、
多数の懸濁された細胞を、液体細胞培地を含む別の容器に移送する工程、ならびに、
前記提供および移送を少なくとも1回繰り返す工程
を含むことを特徴とする幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項25】
前記培養工程における懸濁細胞対接着細胞の比率が、前回の培養工程における懸濁細胞対接着細胞の比率よりも大きいことを特徴とする請求項24記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項26】
前記哺乳動物幹細胞が、多能性細胞としてさらに定義されることを特徴とする請求項24記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項27】
前記接着細胞が、分化した細胞としてさらに定義されることを特徴とする請求項24記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項28】
前記移送する工程が、培地の少なくとも一部を移送することをさらに含むことを特徴とする請求項24記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項29】
前記培地が、血清を有しないことを特徴とする請求項24記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項30】
前記培地が、フィーダー細胞、マトリックス、またはその組合せを有しないことを特徴とする請求項24記載の幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項31】
1つまたは複数の単離された幹細胞であって、
幹細胞が第1の培地において実質的に懸濁状態にあり、かつ、非増殖性細胞が実質的に基質に接着する条件のもとで、細胞サンプルを第1の液体細胞培養培地に加える工程、および、
懸濁された細胞を第2の液体細胞培養培地に継代培養する工程
によって産生されることを特徴とする幹細胞。
【請求項32】
医学的状態について個体を処置する方法であって、
幹細胞が実質的に懸濁状態にあり、かつ、非増殖性細胞が実質的に基質に接着する条件のもとで、幹細胞を含む細胞サンプルを第1の液体細胞培養培地に加える工程、
懸濁された細胞、つまり1つまた複数の幹細胞を含む懸濁された細胞を、第1の培地から少なくとも1つの第2の液体細胞培養培地に継代培養する工程、
1つまたは複数の治療因子を、治療因子がその条件に適合する幹細胞の1つまたは複数に送達する工程、および、
治療因子を含む1つまたは複数の幹細胞を個体に送達する工程
を含むことを特徴とする幹細胞培養培地の使用方法。
【請求項33】
治療因子が、治療ポリヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項32記載の幹細胞培養培地の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2007−535302(P2007−535302A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539694(P2006−539694)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/037122
【国際公開番号】WO2005/046596
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(506154306)ユニバーシティー オブ メリーランド ボルティモア (2)
【出願人】(506155336)
【Fターム(参考)】