説明

広帯域増幅器

【課題】広帯域にわたって良好なインピーダンス整合を与えることができ、高調波処理を高い効率で可能とする広帯域増幅器を得る。
【解決手段】高周波信号を増幅するトランジスタ1と、トランジスタ1の出力端子に一端が直列接続された直列インダクタ6と、直列インダクタ6の他端に一端が並列接続されたショートスタブ2と、ショートスタブ2の他端を高周波短絡するためのキャパシタ3と、直列インダクタ6の他端に一端が並列接続されたオープンスタブ7と、ショートスタブ2の一端及びオープンスタブ7の一端の接続点に一端が接続されたインピーダンス変成器4とを備え、インピーダンス変成器4は、使用周波数の1/4波長の長さの線路であり、トランジスタ1の効率最適負荷インピーダンスは、50Ωより低く、容量性の領域にあり、前記接続点とインピーダンス変成器4の間のインピーダンスは、効率最適負荷インピーダンスと50Ωの間である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、使用周波数(fo)において広帯域に高い効率でインピーダンス整合を行いつつ、使用周波数の2倍波(以降は単に2倍波(2fo)とする)のインピーダンスに対して広帯域に高い効率で整合を実現するマイクロ波の広帯域増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の広帯域増幅器について図14から図17までを参照しながら説明する(例えば、特許文献1参照)。図14は、従来の広帯域増幅器の構成を示す回路図である。なお、以降では、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0003】
図14において、従来の広帯域増幅器は、トランジスタ(電界効果トランジスタ)1と、ショートスタブ2と、ショートスタブ2を高周波短絡するためのキャパシタ3と、使用周波数の1/4波長程度の長さの線路であるインピーダンス変成器4と、入力整合回路5と、入力端子21と、出力端子22とが設けられている。
【0004】
従来の広帯域増幅器では、トランジスタ1の出力側にショートスタブ2を設置する構成が用いられている。トランジスタ1の効率最適負荷インピーダンスは、容量性にあり、並列のショートスタブ2により中心周波数が実軸上になるよう変成された後にインピーダンス変成器4により50Ωへと変換される。
【0005】
図15は、従来の広帯域増幅器の使用周波数でのインピーダンスの計算結果を示すスミスチャートである。
【0006】
図15において、トランジスタ1の効率最適負荷インピーダンス(Zout1)と、ショートスタブ2により実軸に変換したインピーダンス(Zout3)と、インピーダンス変成器4によりZout3から50Ω負荷へとインピーダンス変成したインピーダンス(Zout4)と、インピーダンス変成器4により50Ωからインピーダンス変成された後のインピーダンス(ZoutA)のそれぞれの軌跡を示す。矢印の先端位置が高域端でのインピーダンスを示す。なお、図14には、ショートスタブ2によりZoutAから変換したインピーダンス(ZoutB)が示されている。
【0007】
図14の増幅器は、Zout3とZoutAが共役となるときに最も広帯域となる。ここで、ZoutAは50Ωからインピーダンス変成器4によりインピーダンス変成した後のインピーダンスであるため、高域端が誘導性、低域端は容量性のインピーダンスとなる。一方、Zout3はトランジスタ1の効率最適負荷インピーダンスに並列共振するように値を決定したショートスタブ2を付加したインピーダンスを示しているため、高域端が容量性、低域端は誘導性のインピーダンスとなる。以上からZoutA、Zout3のインピーダンスの虚数の符号が逆であるため、広帯域増幅器の出力整合回路は広帯域なインピーダンス整合を可能とする。
【0008】
図16は、従来の広帯域増幅器の効率最適負荷インピーダンスに対するインピーダンスの不整合量を示す図である。
【0009】
インピーダンスの不整合量の計算において、パラメータは、トランジスタ1の効率最適負荷インピーダンスの容量成分を1pF、抵抗成分を10Ω、ショートスタブ2の特性インピーダンスを40Ωかつ中心周波数での電気長が34度、インピーダンス変成器4として使用周波数の1/4波長程度の長さの線路を利用し、その特性インピーダンスを22.4Ωとした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2722054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。図14に示す従来の広帯域増幅器の出力整合回路においては、使用周波数での広帯域インピーダンス整合を可能にする。一方、トランジスタ1の出力端子におけるインピーダンスを偶数次高調波に対して短絡、奇数次高調波に対して開放とし、高調波をトランジスタ1へ反射することで増幅器をF級動作させる手法が知られているが、従来の広帯域増幅器の出力整合回路の構成はこの高調波の影響を考慮していない。特に、使用周波数の2倍の周波数(2倍波)に注目すると、従来の広帯域増幅器の出力整合回路では、図17に示すように、2倍波でのZoutB(ZoutB(2fo))は増幅器が高い効率となるショート点から大きく外れたインピーダンスとなり増幅器のドレイン効率が低い。
【0012】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、トランジスタの効率最適負荷インピーダンスの周波数特性を考慮して広帯域にわたって良好なインピーダンス整合を与えることができ、さらに高調波処理を行い高い効率で動作を可能とする広帯域増幅器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る広帯域増幅器は、高周波信号を増幅するトランジスタと、前記トランジスタの出力端子に一端が直列接続された直列インダクタと、前記直列インダクタの他端に一端が並列接続されたショートスタブと、前記ショートスタブの他端を高周波短絡するためのキャパシタと、前記直列インダクタの他端に一端が並列接続されたオープンスタブと、前記ショートスタブの一端及び前記オープンスタブの一端の接続点に一端が接続されたインピーダンス変成器とを備え、前記インピーダンス変成器は、使用周波数の1/4波長の長さの線路であり、前記トランジスタの効率最適負荷インピーダンスは、50Ωより低く、容量性の領域にあり、前記接続点と前記インピーダンス変成器の間のインピーダンスは、前記効率最適負荷インピーダンスと50Ωの間である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る広帯域増幅器によれば、トランジスタの効率最適負荷インピーダンスの周波数特性を考慮して広帯域にわたって良好なインピーダンス整合を与えることができ、さらに高調波処理を行い高い効率で動作を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器及び従来の広帯域増幅器の使用周波数の2倍波でのインピーダンスの計算結果を示すスミスチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器の使用周波数でのインピーダンスの計算結果を示すスミスチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器の効率最適負荷インピーダンスに対するインピーダンスの不整合量を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器のショートスタブの電気長と2倍波帯域内のショート点からの最大位相差の関係を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器及び従来の広帯域増幅器の規格化周波数とドレイン効率の関係を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【図9】この発明の実施の形態4に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【図10】この発明の実施の形態5に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【図11】この発明の実施の形態6に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【図12】この発明の実施の形態7に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【図13】この発明の実施の形態8に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【図14】従来の広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【図15】従来の広帯域増幅器の使用周波数でのインピーダンスの計算結果を示すスミスチャートである。
【図16】従来の広帯域増幅器の効率最適負荷インピーダンスに対するインピーダンスの不整合量を示す図である。
【図17】従来の広帯域増幅器の使用周波数の2倍波でのインピーダンスの計算結果を示すスミスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の広帯域増幅器の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0017】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器について図1から図6までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【0018】
図1において、この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器は、高周波トランジスタ(例えば、電界効果トランジスタ(FET)や、バイポーラトランジスタ(BJT)など)1と、ショートスタブ2と、ショートスタブ2を高周波短絡するためのキャパシタ3と、使用周波数の1/4波長程度の長さの線路であるインピーダンス変成器4と、入力整合回路5と、トランジスタ1の出力端子(ドレイン端子)に接続された直列インダクタ6と、高調波を処理するためのオープンスタブ7と、入力端子21と、出力端子22とが設けられている。
【0019】
つぎに、この実施の形態1に係る広帯域増幅器の動作について図面を参照しながら説明する。なお、使用周波数をfo、使用周波数の2倍波を2fo、使用周波数の波長をλと表す。
【0020】
まず、実施の形態1に係る広帯域増幅器の動作のうち、2倍波のインピーダンス整合について説明する。図2は、この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器及び従来の広帯域増幅器の使用周波数の2倍波でのインピーダンスの計算結果を示すスミスチャートである。
【0021】
この図2は、図14に示す従来の広帯域増幅器におけるZoutB(2fo)と、図1に示す実施の形態1に係る広帯域増幅器における2倍波でのZoutC(ZoutC(2fo)とする)を示したものである。なお、図2の計算に用いたトランジスタ1の効率最適負荷インピーダンス、ショートスタブ2のインピーダンスと電気長、インピーダンス変成器4のインピーダンスと電気長は、図16の計算に用いた値と同じである。
【0022】
また、この実施の形態1に係る広帯域増幅器の直列インダクタ6のインダクタンスは0.088nH、オープンスタブ7の特性インピーダンスは17.2Ωかつ電気長は中心周波数で40.3度、ショートスタブ2の特性インピーダンスは7.1Ωかつ電気長は中心周波数で70.6度、インピーダンス変成器4として使用周波数の1/4波長程度の長さの線路を利用し、その特性インピーダンスを20.9Ωとした。増幅器を高い効率にするためには、トランジスタ1のドレイン端子におけるインピーダンスを2倍波に対して短絡とし、高調波をトランジスタ1へ反射させて増幅器をF級動作させる。
【0023】
従来の広帯域増幅器において、ZoutB(2fo)はショート点から外れたインピーダンスとなるため、十分に高い効率とならない。
【0024】
一方、この実施の形態1に係る広帯域増幅器においては、オープンスタブ7及びショートスタブ2の接続点において2倍波でショート点を構成しているため、ZoutC(2fo)はショート点付近のインピーダンスとなる。その結果、従来の広帯域増幅器より、この実施の形態1に係る広帯域増幅器の方がトランジスタ1を高い効率で動作させることができる。
【0025】
つづいて、実施の形態1に係る広帯域増幅器の動作のうち、使用周波数でのインピーダンス整合について説明する。図3は、この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器の使用周波数でのインピーダンスの計算結果を示すスミスチャートである。
【0026】
図3において、トランジスタ1の効率最適負荷インピーダンス(Zout1)と、直列インダクタ6により使用周波数の中心周波数において実軸に変換されたインピーダンス(Zout5)と、オープンスタブ7及びショートスタブ2により使用周波数の中心周波数において並列共振を形成したあとのインピーダンス(Zout6)と、インピーダンス変成器4により50Ω負荷へとインピーダンス変成された後のインピーダンス(Zout7)と、50Ω負荷よりインピーダンス変成器4によってインピーダンス変成された後のインピーダンス(ZoutA)の軌跡を示したものである。なお、矢印の先端位置が高域端でのインピーダンスを示す。
【0027】
Zout5の周波数特性は、高域端で誘導性、低域で容量性の領域となっており、ZoutAの共役インピーダンスに対して逆の周波数特性となっている。そこで、2倍波の整合に用いたオープンスタブ7とショートスタブ2に注目する。Zout5に対して、高域側でオープンスタブ7によるキャパシタンス成分を見せ、低域側でショートスタブ2によるインダクタンス成分を見せることで、Zout6とZoutAを共役の関係にすることができる。その結果、使用周波数において従来の広帯域増幅器と同じ程度に広帯域なインピーダンス整合を実現できる。
【0028】
図4は、この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器の効率最適負荷インピーダンスに対するインピーダンスの不整合量を示す図である。
【0029】
図4より、この実施の形態1に係る広帯域増幅器は、従来の広帯域増幅器と同程度の広帯域なインピーダンス整合を実現している。したがって、この実施の形態1に係る広帯域増幅器のインピーダンス変成器4は、使用周波数に対して広帯域に50Ωへの整合を実現し、さらに広帯域に高調波処理を実現できるため、広帯域に渡って高い効率の増幅器を実現できる。
【0030】
ここで、この実施の形態1に係る広帯域増幅器における広帯域に2倍波のインピーダンス整合を行うショートスタブ2とオープンスタブ7の適切な電気長について説明する。
【0031】
増幅器を高い効率で動作させるために、オープンスタブ7のみを用いてZoutC(2fo)をショートとする場合、オープンスタブ7の電気長はλ/8である必要がある。一方、オープンスタブ7は次の式(1)のように周波数特性を持つため、オープンスタブ7のみでは使用周波数全ての2倍波に対してショートとすることはできない。
【0032】
【数1】

【0033】
そこで、この実施の形態1に係る広帯域増幅器では、オープンスタブ7の電気長を使用周波数の高域においてλ/8、ショートスタブ2の電気長を使用周波数の低域においてλ/8より長い線路とする。オープンスタブ7とショートスタブ2を並列に接続した接続点におけるアドミタンスを次の式(2)に示す。この式(2)の第1項がオープンスタブ7のアドミタンス、第2項がショートスタブ2のアドミタンス、fが低域の周波数、fが高域の周波数をそれぞれ示す。
【0034】
【数2】

【0035】
式(2)において、オープンスタブ7のサセプタンスを示す第1項は2倍波において正であるため、ショートスタブ2のサセプタンスを示す第2項が2倍波において正であれば、2倍波でのサセプタンスは無限大、すなわちショートに近づき増幅器は高い効率となる。ショートスタブ2のサセプタンスを示す第2項を正とするためには第2項の正接が負であればよいのでショートスタブ2の電気長をλ/8より長い線路とする。このようにオープンスタブ7、ショートスタブ2の電気長を決定することで広帯域にショートを構成することができ、広帯域に高い効率の増幅器を実現できる。
【0036】
図5は、この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器のショートスタブの電気長と2倍波帯域内のショート点からの最大位相差の関係を示す図である。
【0037】
この図5は、ショートスタブ2の電気長を変数として、この実施の形態1に係る広帯域増幅器の出力整合回路におけるZoutC(2fo)が最もショート点から遠くなった周波数でのショート点との位相差を示す。なお、図5で用いたトランジスタ1の効率最適負荷インピーダンス、オープンスタブ7のインピーダンスと電気長、ショートスタブ2のインピーダンス、インピーダンス変成器4の値は図2の検討で用いた値と同じである。図5より、ショートスタブ2のサセプタンスが正となるショートスタブ2の電気長の範囲であれば、ZoutC(2fo)はZoutB(2fo)と比較して明らかにショート点に近づけることができる。
【0038】
使用周波数における広帯域増幅器の出力整合回路の広帯域化について説明する。ZoutAとZout6の周波数特性が使用周波数において共役の関係となるときに、増幅器は最も広帯域となる。そこで、オープンスタブ7の持つキャパシタンス成分とショートスタブ2の持つインダクタンス成分が使用周波数で並列共振するように、それぞれのインピーダンスを決定する。この並列共振器によりZout6は、Zout5においてサセプタンスが負であった高域端を正に、サセプタンスが正であった低域端を負にすることができる。Zout6とZoutAが共役整合となるため、使用周波数における出力整合回路を広帯域とすることができ、広帯域に高い効率の増幅器を実現できる。
【0039】
ここで、この実施の形態1に係る広帯域増幅器における広帯域に基本波のインピーダンス整合が可能なトランジスタ1の最適負荷アドミタンスについて説明する。トランジスタ1に直列インダクタ6,オープンスタブ7及びショートスタブ2を接続したあとのインピーダンス(Zout6)について,トランジスタ1の最適負荷インピーダンスによらず低域端が誘導性の領域,高域端が容量性の領域となる。一方で、50Ω負荷よりインピーダンス変成器4によってインピーダンス変成された後のインピーダンス(ZoutA)の使用周波数の中心周波数でのZoutAの実部を、Zout6の使用周波数の中心周波数でのZoutAの実部と等しくなるように決定した場合、トランジスタ1の中心周波数付近での最適負荷インピーダンスの実部が50Ω以上の場合はZoutAの高域端が容量性の領域、低域端が誘導性の領域となり、トランジスタ1の最適負荷インピーダンスの実部が50Ω未満の場合はZoutAの高域端が誘導性の領域、低域端が容量性の領域となる。ZoutAとZout6が共役整合であるときに増幅器が広帯域かつ高効率となるため、トランジスタ1の最適負荷インピーダンスの実部は50Ω未満が必要である。
【0040】
図6は、この発明の実施の形態1に係る広帯域増幅器及び従来の広帯域増幅器の規格化周波数とドレイン効率の関係を示す図である。
【0041】
この図6は、実施の形態1に係る広帯域増幅器(実施の形態1の回路)におけるドレイン効率と従来の広帯域増幅器(従来の回路)のドレイン効率の周波数特性をそれぞれ示す。
【0042】
このとき、この実施の形態1に係る広帯域増幅器及び従来の広帯域増幅器に用いている素子の値は、図2の検討の値と同じとした。図6より、この実施の形態1に係る広帯域増幅器を用いることで、従来の広帯域増幅器より最大8%程度ドレイン効率を改善できる。
【0043】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る広帯域増幅器について図7を参照しながら説明する。図7は、この発明の実施の形態2に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【0044】
図7において、この発明の実施の形態2に係る広帯域増幅器は、高周波トランジスタ(電界効果トランジスタ:FET)1と、ショートスタブ2と、ショートスタブ2を高周波短絡するためのキャパシタ3と、使用周波数の1/4波長程度の長さの線路であるインピーダンス変成器4と、入力整合回路5と、高調波を処理するためのオープンスタブ7と、トランジスタ1に対して中心周波数で並列共振するように設定されたショートスタブ8と、ショートスタブ8を高周波短絡するためのキャパシタ9と、入力端子21と、出力端子22とが設けられている。
【0045】
図1の実施の形態1に係る広帯域増幅器と比較して、ZoutC(2fo)については変わらないが、使用周波数において、トランジスタ1のインピーダンスを実軸に変換する素子として、直列インダクタ6ではなく、ショートスタブ8を用いている点が異なる。ショートスタブ8を利用することで、Zout8における使用周波数の高域端におけるサセプタンスが正、低域端におけるサセプタンスが負となる。ZoutAの周波数特性として高域端におけるサセプタンスが負、低域端におけるサセプタンスが正であるので、オープンスタブ7、ショートスタブ2が無くても、共役整合に近くなる。
【0046】
しかし、インピーダンス変成器4が作る周波数特性がZout8の周波数特性より大きいため、実施の形態1に係る広帯域増幅器と同様に、オープンスタブ7、ショートスタブ2のインピーダンスを決定することで、Zout8に対してZout9の低域端のサセプタンスをより大きく、高域端のサセプタンスをより小さくできる。そのため、Zout9とZoutAを共役整合にでき、使用周波数における出力整合回路を広帯域とすることができる。
【0047】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3に係る広帯域増幅器について図8を参照しながら説明する。図8は、この発明の実施の形態3に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【0048】
図8において、この発明の実施の形態3に係る広帯域増幅器は、高周波トランジスタ(電界効果トランジスタ:FET)1と、ショートスタブ2と、ショートスタブ2を高周波短絡するためのキャパシタ3と、使用周波数の1/4波長程度の長さの線路であるインピーダンス変成器4と、入力整合回路5と、高調波を処理するためのオープンスタブ7と、トランジスタ1のドレイン端子に直列に接続された直列インダクタ10と、トランジスタ1と直列インダクタ10を足し合わせたインピーダンスを使用周波数の中心周波数で並列共振するように設定されたショートスタブ8と、このショートスタブ8を高周波短絡するためのキャパシタ9と、入力端子21と、出力端子22とが設けられている。
【0049】
図7の実施の形態2に係る広帯域増幅器と比較して、ZoutC(2fo)については変わらないが、使用周波数において、トランジスタ1のインピーダンスを実軸に変換する素子としてショートスタブ8だけではなく直列インダクタ10も用いている点が異なる。直列インダクタ10を併用することで、図7の広帯域増幅器と比較して、ショートスタブ8を小さくすることができ、広帯域増幅器の小型化が可能となる。また、Zout11における使用周波数の高域端におけるサセプタンスが正、低域端におけるサセプタンスが負となる。ZoutAの周波数特性として高域端におけるサセプタンスが負、低域端におけるサセプタンスが正であるので、オープンスタブ7、ショートスタブ2が無くても、共役整合に近くなる。
【0050】
しかし、インピーダンス変成器4が作る周波数特性がZout11の周波数特性より大きいいため、図1の広帯域増幅器と同様に、オープンスタブ7、ショートスタブ2のインピーダンスを決定することで、Zout11に対してZout12の低域端のサセプタンスをより大きく、高域端のサセプタンスをより小さくできる。そのため、Zout12とZoutAを共役整合とでき、使用周波数における出力整合回路を広帯域とすることができる。
【0051】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4に係る広帯域増幅器について図9を参照しながら説明する。図9は、この発明の実施の形態4に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【0052】
図9において、この発明の実施の形態4に係る広帯域増幅器は、高周波トランジスタ(電界効果トランジスタ:FET)1、1'と、使用周波数の1/4波長程度の長さの線路であるインピーダンス変成器4、4'と、入力整合回路5、5'と、トランジスタ1、1'のドレイン端子に接続された直列インダクタ6、6'と、高調波を処理するためのオープンスタブ7、7'と、伝送線路13と、信号の位相を180度回転させる2つの電力合成回路14と、入力端子21と、出力端子22とが設けられている。なお、トランジスタ1'、 インピーダンス変成器4'〜オープンスタブ7'はそれぞれトランジスタ1、インピーダンス変成器4〜オープンスタブ7と同じものである。
【0053】
伝送線路13は、図1の広帯域増幅器と同じ決め方で長さと電気長を与えたショートスタブ2と特性インピーダンスが等しく電気長を2倍にした線路である。位相が反転した線路の間を結ぶ1つの伝送線路13は、2つのショートスタブ2と同じ働きをするため、図1に示した実施の形態1に係る広帯域増幅器と同様の効果を有する上に、高周波短絡用のキャパシタ3を削減できる利点がある。
【0054】
実施の形態5.
この発明の実施の形態5に係る広帯域増幅器について図10を参照しながら説明する。図10は、この発明の実施の形態5に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【0055】
図10において、この発明の実施の形態5に係る広帯域増幅器は、高周波トランジスタ(電界効果トランジスタ:FET)1と、ショートスタブ2と、高周波短絡用のキャパシタ3と、使用周波数の1/4波長程度の長さの線路であるインピーダンス変成器4と、入力整合回路5と、トランジスタ1のドレインに接続された直列インダクタ6と、高調波を処理するためのオープンスタブ7と、バイアスを印加するドレイン電源15と、入力端子21と、出力端子22とが設けられている。
【0056】
ドレイン電源15は、ショートスタブ2とキャパシタ3の間に接続されている。キャパシタ3について高周波は短絡するが直流は遮断する作用を持っている。そのため、図10のように、ドレイン電源15を接続してもドレイン電源15は主線路のインピーダンスへと影響を与えないため、増幅器の外部にバイアスを供給するための回路を削減できる利点がある。また、増幅器の外部にバイアスを供給するための回路が不要となるため、増幅器の損失を小さくできる利点がある。なお、この実施の形態5は、上記の実施の形態1−3及び6に適用できるだけでなく、ドレイン電源15を並列インダクタ17とキャパシタ3の間に接続することにより同様の効果を奏し、後述する実施の形態7−8にも適用できる。
【0057】
実施の形態6.
この発明の実施の形態6に係る広帯域増幅器について図11を参照しながら説明する。図11は、この発明の実施の形態6に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【0058】
図11において、この発明の実施の形態6に係る広帯域増幅器は、高周波トランジスタ(電界効果トランジスタ:FET)1と、ショートスタブ2と、高周波短絡用のキャパシタ3と、使用周波数の1/4波長程度の長さの線路であるインピーダンス変成器4と、入力整合回路5と、トランジスタ1のドレイン端子に接続された直列線路16と、高調波を処理するためのオープンスタブ7と、入力端子21と、出力端子22とが設けられている。
【0059】
直列線路16は、上記の各実施の形態の直列インダクタ6に相当する部分で、インダクタンスとして、直列インダクタ6の代わりに、直列線路16を用いる。この直列線路16は、直列インダクタ6とほぼ同じ特性を示すので、図1に示した実施の形態1に係る広帯域増幅器と同様の効果を有する。直列インダクタ6の代わりに、この直列線路16を用いることで、ワイヤを使わないので製造再現性に優れるという利点がある。なお、この実施の形態6は、上記の実施の形態1だけでなく、トランジスタ1のドレイン端子に直列インダクタが接続された実施の形態に適用できる。
【0060】
実施の形態7.
この発明の実施の形態7に係る広帯域増幅器について図12を参照しながら説明する。図12は、この発明の実施の形態7に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【0061】
図12において、この発明の実施の形態7に係る広帯域増幅器は、高周波トランジスタ(電界効果トランジスタ:FET)1と、並列インダクタ17と、高周波短絡用のキャパシタ3と、使用周波数の1/4波長程度の長さの線路であるインピーダンス変成器4と、入力整合回路5と、トランジスタ1のドレインに接続された直列線路16と、高調波を処理するためのオープンスタブ7と、入力端子21と、出力端子22とが設けられている。
【0062】
並列インダクタ17は、上記の各実施の形態のショートスタブ2に相当する部分で、インダクタンスとして、ショートスタブ2の代わりに、用いるものである。図12の並列インダクタ17は、ショートスタブ2とほぼ同じ特性を示すので、図1の実施の形態1に係る広帯域増幅器と同様の効果を有する。これにより、基板上のパターンではなくワイヤを使うため基板サイズを小さくできる利点がある。なお、後述する実施の形態8にも適応できる。
【0063】
実施の形態8.
この発明の実施の形態8に係る広帯域増幅器について図13を参照しながら説明する。図13は、この発明の実施の形態8に係る広帯域増幅器の構成を示す回路図である。
【0064】
図13において、この発明の実施の形態8に係る広帯域増幅器は、高周波トランジスタ(電界効果トランジスタ:FET)1と、並列インダクタ17と、高周波短絡用のキャパシタ3と、使用周波数の1/4波長程度の長さの線路であるインピーダンス変成器4と、入力整合回路5と、トランジスタ1のドレインに接続された直列線路16と、高調波を処理するための並列キャパシタ18と、入力端子21と、出力端子22とが設けられている。
【0065】
並列キャパシタ18は、上記の各実施の形態のオープンスタブ7に相当する部分で、キャパシタンスとして、オープンスタブ7の代わりに、用いられる。図13の並列キャパシタ18は、オープンスタブ7とほぼ同じ特性を示すので、図1の実施の形態1に係る広帯域増幅器と同様の効果を有する。これにより、基板上のパターンではなくコンデンサ(キャパシタ)を使うため基板サイズを小さくできる利点がある。
【符号の説明】
【0066】
1 トランジスタ、2 ショートスタブ、3 キャパシタ、4 インピーダンス変成器、5 入力整合回路、6 直列インダクタ、7 オープンスタブ、8 ショートスタブ、9 キャパシタ、10 直列インダクタ、13 伝送線路、14 電力合成回路、15 ドレイン電源、16 直列線路、17 並列インダクタ、18 並列キャパシタ、21 入力端子、22 出力端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を増幅するトランジスタと、
前記トランジスタの出力端子に一端が直列接続された直列インダクタと、
前記直列インダクタの他端に一端が並列接続されたショートスタブと、
前記ショートスタブの他端を高周波短絡するためのキャパシタと、
前記直列インダクタの他端に一端が並列接続されたオープンスタブと、
前記ショートスタブの一端及び前記オープンスタブの一端の接続点に一端が接続されたインピーダンス変成器とを備え、
前記インピーダンス変成器は、使用周波数の1/4波長の長さの線路であり、
前記トランジスタの効率最適負荷インピーダンスは、50Ωより低く、容量性の領域にあり、
前記接続点と前記インピーダンス変成器の間のインピーダンスは、前記効率最適負荷インピーダンスと50Ωの間である
ことを特徴とする広帯域増幅器。
【請求項2】
前記オープンスタブの電気長が、使用周波数の高域において使用周波数の波長の1/8であり、かつ
前記ショートスタブの電気長が、使用周波数の低域において使用周波数の波長の1/8より長く、
前記接続点と前記インピーダンス変成器の間から前記接続点側及び前記インピーダンス変成器側をみたときのそれぞれのインピーダンスが、使用周波数において前記オープンスタブと前記ショートスタブが並列共振する値である
ことを特徴とする請求項1記載の広帯域増幅器。
【請求項3】
前記直列インダクタの代わりに、
前記トランジスタの出力端子に一端が並列接続された第2のショートスタブと、
前記第2のショートスタブの他端を高周波短絡するための第2のキャパシタとを備えた
ことを特徴とする請求項1又は2記載の広帯域増幅器。
【請求項4】
前記直列インダクタの他端に一端が並列接続された第2のショートスタブと、
前記第2のショートスタブの他端を高周波短絡するための第2のキャパシタとをさらに備えた
ことを特徴とする請求項1又は2記載の広帯域増幅器。
【請求項5】
前記直列インダクタの代わりに、直列線路を備えた
ことを特徴とする請求項1、2又は4記載の広帯域増幅器。
【請求項6】
前記ショートスタブの代わりに、並列インダクタを備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の広帯域増幅器。
【請求項7】
前記オープンスタブの代わりに、並列キャパシタを備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載の広帯域増幅器。
【請求項8】
前記ショートスタブあるいは前記並列インダクタと前記キャパシタの接続点に接続され、バイアスを印加する電源をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の広帯域増幅器。
【請求項9】
高周波信号を増幅する第1及び第2のトランジスタと、
前記第1のトランジスタの出力端子に一端が直列接続された第1の直列インダクタと、
前記第2のトランジスタの出力端子に一端が直列接続された第2の直列インダクタと、
前記第1の直列インダクタの他端に一端が並列接続された第1のオープンスタブと、
前記第2の直列インダクタの他端に一端が並列接続された第2のオープンスタブと、
前記第1のオープンスタブの一端に一端が接続された第1のインピーダンス変成器と、
前記第2のオープンスタブの一端に一端が接続された第2のインピーダンス変成器と、
前記第1及び第2のトランジスタの入力端子間に接続され、信号の位相を180度回転させる第1の電力合成回路と、
前記第1及び第2のインピーダンス変成器の他端間に接続され、信号の位相を180度回転させる第2の電力合成回路と、
前記第1の直列インダクタの他端に一端が並列接続され、かつ前記第2の直列インダクタの他端に他端が並列接続された伝送線路とを備え、
前記第1及び第2のインピーダンス変成器は、使用周波数の1/4波長の長さの線路であり、
前記第1及び第2のトランジスタの効率最適負荷インピーダンスは、50Ωより低く、容量性の領域にあり、
前記第1のオープンスタブの一端及び前記伝送線路の一端の接続点と前記第1のインピーダンス変成器の間のインピーダンスは、前記効率最適負荷インピーダンスと50/2Ωの間であり、
前記第2のオープンスタブの一端及び前記伝送線路の他端の接続点と前記第2のインピーダンス変成器の間のインピーダンスは、前記効率最適負荷インピーダンスと50/2Ωの間である
ことを特徴とする広帯域増幅器。
【請求項10】
前記第1及び第2の直列インダクタの代わりに、第1及び第2の直列線路を備えた
ことを特徴とする請求項9記載の広帯域増幅器。
【請求項11】
前記第1及び第2のオープンスタブの代わりに、第1及び第2の並列キャパシタを備えた
ことを特徴とする請求項9又は10記載の広帯域増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−35761(P2011−35761A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181426(P2009−181426)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】