説明

床構造、床構造に用いる粘弾性体及び床構造の施工方法

【課題】床躯体の位置決めに際して、粘弾性体に対して剪断変形を残さ無い様にし、粘弾性体の振動絶縁能力等が十分に生かされる床構造を得る事である。
【解決】床構造1を提供する。床構造1は、1対の梁2(対向する梁は図1の右側方向にある)と、梁2間に横架される床躯体3と、梁2と床躯体3との間で圧縮固定される振動絶縁性の粘弾性体4と、梁2を床躯体3と固定する固定部材5とを備える。粘弾性体4は、粘弾性体本体4Aを備え、梁2との当接部分に、固定部材5による梁2への床躯体3の未固定状態で、床躯体3が載置された状態での粘弾性体4の、梁2の当接面に対する水平方向の移動を可能とする、低摩擦抵抗層4Bを有する。或は又、それに代えてか追加して、粘弾性体4は、床躯体3との当接部分に、固定部材5による梁2への床躯体3の未固定状態で、床躯体3の、粘弾性体4の当接面に対する水平方向の移動を可能とする低摩擦抵抗層を有する事が出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁と粘弾性体と床躯体とからなる床構造に関し、特に、振動絶縁性、低摩擦抵抗性及び粘接着性の三機能を発揮出来る粘弾性体に関し、更に詳しくは、かかる粘弾性体をその性能が十分に発揮する状態で圧縮固定に供用し、床躯体に受けた振動を梁に伝達させ難くする技術に関する。
【0002】
従来、梁と床構造との取り合いには、ALC床版の様な版材に対しては、床版短辺を梁長辺に対して線状でゴムの帯状物が用いられ、その帯状物の長辺方向に対し直交方向の断面で見た時、山谷を設けたゴムで山の高さの異なるゴムが用いられていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005-016103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、本発明者が検討したところ、床版を設置する時、梁長辺に平行方向での位置調整は容易であるが、梁長辺に直交方向には動き難く、剪断変形を受けているので、元の位置に復元し易く、復元し無い場合には、剪断変形を受けたままで供用され、本来の振動絶縁能力を発揮出来無いという不具合が見出された。
【0004】
一方、根太を有する床パネル等の床構造では、数10倍に発泡したポリエチレン等の発泡シートが用いられた時期もあったが、すぐに床荷重で発泡セルが潰れ、防振効果が発揮出来る状況では無かった。
【0005】
近年床衝撃音にも十分配慮され、梁に床構造の振動を伝え無い工夫が要求され、本発明者等は、柔軟で且つ低反撥ゴムが床衝撃音の低減に有効であるという知見を得ている。更に、従来の様な梁上に線状で用いるよりも点状で設けた方が、衝撃緩和変形のレスポンスが十分にとれる為、床衝撃音の低減に効果が高いという知見を得ている。
【0006】
そこで、本発明の課題は、床躯体の位置決めに際して、粘弾性体に対して剪断変形を残さ無い様にし、粘弾性体の振動絶縁能力等が十分に生かされる床構造を得る事である。
更に、本発明が解決しようとする課題には、以下の様なものも包含される。
(1)床躯体の載置固定により、少なくとも床躯体の自重を支持する粘弾性体には、分担荷重以上の荷重が作用し、その結果、粘弾性体は圧縮固定される事となり、これに床衝撃が掛かったとき、緩衝変形が速やかに行え、衝撃反力の作用を十分に制止する為には、柔軟且つ低反撥弾性を示す粘弾性体を得ることが課題の1つである。
(2)粘弾性体が、床構造の下部の粘接着固定部に切削油や防錆油等の油類の付着があっても、簡単な拭き取りだけでも粘接着可能な、油付着面接着性を有する様にする事が課題の1つである。
(3)梁上で床躯体の位置の微調整を容易にし、且つ粘弾性体の剪断変形が生じ難く、それに伴い、微調整前の位置への復元も生じ無い様に、粘弾性体の梁当接面の摩擦抵抗を小さくする事が課題の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、対をなす梁と、梁間に横架される床躯体と、梁を床躯体と固定する固定部材と、梁と床躯体との間で圧縮固定される振動絶縁性の粘弾性体とを備える床構造であって、粘弾性体が、梁及び床躯体の一方又は双方との当接部分に、固定部材による前記梁への前記床躯体の未固定状態で、前記床躯体が載置された状態での前記粘弾性体の、前記梁の当接面に対する水平方向の移動又は前記床躯体の、前記粘弾性体の当接面に対する水平方向の移動を可能とする低摩擦抵抗層を有する床構造、かかる床構造に用いる粘弾性体に係るものである。
又、本発明は、対をなす梁と、梁間に横架される床躯体と、梁を床躯体と固定する固定部材と、梁と床躯体との間で圧縮固定される振動絶縁性の粘弾性体とを備える床構造を施工するにあたって、(a)粘弾性体を提供する工程であって、前記粘弾性体が、梁及び床躯体の一方又は双方との当接部分に、前記床躯体が載置された状態での前記粘弾性体の、前記梁の当接面に対する水平方向の移動又は前記床躯体の、前記粘弾性体の当接面に対する水平方向の移動を可能とする低摩擦抵抗層を有する工程、(b)粘弾性体及び前記粘弾性体上の床躯体を梁上で位置決めする工程、及び(c)固定部材により梁を床躯体と固定する工程を含む床構造の施工方法に係るものである。
【0008】
本発明は、床躯体の位置決めに際し、床躯体を、梁との間の粘弾性体に対して、比較的自由に、粘弾性体に余計な応力を掛け無いで、微調整出来る様にすることで、床構造の施工性、粘弾性体の振動絶縁能力等が向上するという知見に基づく。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、床躯体が、粘弾性体に対して変形応力を掛け無い様にして移動出来る様になり、床構造施工の作業性が改善され、粘弾性体の振動絶縁能力等が十分に生かされる床構造を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、粘弾性体の振動絶縁能力等の性能を十分に生かすという目的を、粘弾性体の梁及び床躯体の少なくとも1方との当接部分に、床躯体の位置決めに際して床躯体の粘弾性体に対する水平方向の移動を可能とする低摩擦抵抗層を設ける事で、床構造の施工性を損なわず、むしろ向上させて実現する。
【0011】
(a)(低摩擦抵抗層)
粘弾性体が、梁や床躯体と当接する部分に有する層である。低摩擦抵抗層は、粘弾性体が梁と床躯体との間で圧縮固定される前に、床躯体を、粘弾性体上に載置し、位置決めするに際して、粘弾性体に過剰な変形応力等が掛から無いで、それが粘弾性体中に残留し無い様に、床躯体の水平方向の移動を可能とする。低摩擦抵抗層は、梁上で床躯体の位置の微調整を容易にし、且つ微調整時に粘弾性体に剪断変形の残留が殆ど無い様にして、微調整前の位置への復元を防止する事が出来る。これには、摩擦抵抗の小さな層を用いる事が出来る。摩擦抵抗の小さな層は、摩擦係数の低い表面を持つ層であり、以下では、特に示す場合を除き、これらのものを含めて、低摩擦抵抗層という。低摩擦抵抗層は、粘弾性体が、梁に当接する部分及び床躯体に当接する部分の一方又は双方に設ける事が出来る。
【0012】
低摩擦抵抗層は、粘弾性体と一体的に形成しても良いが、粘弾性体の梁との当接面に、別の形態で設ける様にしても良い。かかる低摩擦係数の層は、クラフトテープや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル等の少なくとも1種から形成されるもの、特に、プラスチックテープ等が良く、これらを貼り付けて形成する事が出来る。又、場合によっては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)等のシートやフィルム、それ等素材の低発泡の発泡体を低摩擦抵抗層(スペーサ)として粘弾性体の表面に積層して設けても良い。スペーサは、粘弾性体の全体の厚みを調整するもので、低摩擦抵抗層と別個に設けても良いが、上述の材質等の表面を持つスペーサは、低摩擦抵抗層としても働く。しかし乍ら、この様にして低発泡の発泡体を用いる場合、必要に応じて、所定の安全率を見据えた荷重を掛けて圧縮し、低反撥の発泡体自体の変形が無い事を確認する必要がある。
【0013】
摩擦抵抗の小さい度合いを簡単に判別するには、JIS-G-4305に規定するSUS 304鋼板で鏡面仕上げのステンレス板を用いる事が出来る。これに、粘弾性体を低摩擦抵抗層が当接する様にして載せ、ステンレス板を徐々にゆっくりと傾斜させていき、滑落の開始する角度を調べれば良い。この方法では、現場作業時における床躯体位置の微調整のし易さ、粘弾性体の剪断変形の残留の無さや、それに伴う床躯体の元の位置への復元の無さとの関係は、このときの滑落開始傾斜角が45°以下の範囲であれば、前記問題点が解消される範囲である事が経験上、非常に高い精度で相関性がある。このとき、傾斜角が45°を超えると、床躯体が徐々に動かし難くなり、粘弾性体が剪断変形を受け易くなり、床躯体も微調整前の元の位置に復元し易くなり、次第に、粘弾性体が剪断変形を受けた状態で固定される場合も生じて来る。傾斜角が5°未満では、滑り過ぎて、却って、位置修正が困難となったり、指を床躯体に挟む等の危険性が増したりするので好ましくない。
【0014】
(b)(粘弾性体の材質)
種々の材質の粘弾性体を用いる事が出来る。好ましくは、粘弾性体は低反撥性である。粘弾性体の反撥弾性を低減する事は、多くのゴムやエラストマーを単独又は併用し、その他ゴム工業や塗料工業で使用される材料を組み合わせる事で可能であるが、特に、低反撥弾性とするには、ブチルゴムをポリマーの80wt(重量)%以上とした系が優れている。それは、ブチルゴムは、架橋構造となる二重結合の数が少なく、必然的に架橋密度が低くなる為に、低反撥弾性の物を得易いという本来の特徴からである。このブチルゴムを更に低反撥性にする手段としては、ポリイソブチレン、部分架橋ゴム、再生ゴムをポリマー分として併用する方法や、粘着付与樹脂、アスファルト、粉末ゴムを添加する方法がある。
【0015】
前記手段により、反撥弾性率が15%(20℃に於ける)以下の粘弾性体(ゴム)を得る事が出来る。本発明で用いる粘弾性体は、床躯体と梁の間で用いられ、床躯体荷重を大抵は複数の粘弾性体で支持するので、粘弾性体1個当りの分担荷重は比較的大きく、場合によっては床躯体と梁を固定治具で締結による圧縮固定を行う事もあり、この場合は、予め圧縮固定される事になり、反撥弾性率は10%以下が望ましくなる。0%が理想的である。反撥弾性率はISO-4662に準じて測定する事が出来る。
【0016】
(c)(粘弾性体の形状等)
種々の形状等の粘弾性体を用いる事が出来る。粘弾性体は、前述の様な圧縮固定時も、床衝撃時には更なる衝撃変形を素早く行う必要が生じる。この素早い衝撃変形に対応するには、従来の帯状物や線状物では変形抵抗が大き過ぎる為、好ましくは、粘弾性体を梁上に点状で配置する。このとき、驚くべき事には、点状配置にすると、500Hz以上の高周波音の発生量が非常に少なくなり、聴感上非常に良好となるという知見が得られた。
【0017】
粘弾性体は、好ましくは、反撥弾性率を小さくし、その一方では、圧縮永久歪を少なくする事に注意を払わなければならないが、このとき、温度は生活可能な範囲で考えれば良い。
【0018】
(d)(粘接着層)
粘弾性体は、梁や床躯体との間に介在させる事が出来る。この場合、粘弾性体は、梁や床躯体に固定したり、接着させたりする事が出来る。又、予め、粘弾性体を、梁や床躯体に接着しておく事も出来る。好適例では、粘弾性体には、通常の粘接着層を用いる事が出来、更に、油付着面に対して接着性を有する粘接着性層(以下、油付着面に対して接着性を有する粘接着層を、特に、「粘接着性層」ということがある。)を用いる事が出来る。粘接着性層は、油を粘接着性層内に吸収拡散し易い特性を有する物が良く、ブチルゴム系粘接着性層、アクリル系粘接着性層、SIS系粘接着性層、SBS系粘接着性層等が適している。
【0019】
梁や床躯体、特に、床躯体下部の粘弾性体の取付け部は、床躯体の剛性確保の為、鋼材が用いられる場合があり、この場合は、切削油や防錆油が塗られたままの状態であるケースが多く、粘接着の観点からは、油分は粘接着の最大の阻害要因となり、被着体の鋼材は、ウエスの新しい面で何回拭いても、通常の粘接着剤では充分な粘接着性能を得る事は出来ず、溶剤系、その他、アルカリ系洗浄脱脂剤に頼らざるを得ない。ところが、近年、溶剤等は、人体への安全性、火災危険性等の観点から、特別な設備の下での作業が必要となり、一般的に使用出来るものではない。そこで、この様なケースでは、油付着面への粘接着性を有する粘接着性層が非常に有効となる。
【0020】
油付着面への粘接着が可能とは言え、自ずと油付着の程度があり、防錆油を全面に吹付処理した場合には、油分が多過ぎ、新しいウエスで2回以上拭き取る必要がある。つまり、1回の拭き取りでは、油膜は、薄くなって被着面全面に拡がるだけである。次に新しいウエスで拭き取れば、被着体表面の油膜の大半は除去出来ているが、油分が完全に除去された状態ではない。したがって、本発明にかかる粘接着性層は、油付着面用のもので、この程度で充分に粘接着が可能となるもので、その点が通常の粘接着層との差となる。
本発明にかかる油付着面への接着性を有する粘接着層は、JIS-Z-0237に準じて、油付着面に対して貼り付けを行い、貼り付け直後の180°剥離接着力が0.3kgf(約2.9N、以下では、1kgf=9.80665Nとして換算)/25mm以上を示すものを言う。好ましくは、油付着面への接着性の程度は、防錆油ダフニースーパーコートTW0.5〜3g/m2(5g/m2を塗布し新しいウエスで2回拭き取った程度の状態の油の量)を塗布し均一に延ばしたもので測定し、上記0.3kgf(約2.9N)/25mm以上のものである。
【0021】
粘接着性層は、油分が粘接着性層中に吸収拡散されるので、前記の様に前処理で油をある程度除去しておかないと、粘接着層が柔らかくなり過ぎ、夏場等ではクリープ現象が生じるおそれがある。一方では、粘接着性層は、油の吸収拡散性が高い為に、粘接着性を発揮する様になるもので、貼付経時による粘接着力は、貼付直後には低く、数時間で1日後程度の接着強度が得られるので、貼付直後は粘弾性体を数時間圧着させるか、又は粘弾性体の自重が掛かる様にした方が良く接着する。油付着は無い方が良いが、鉄等は錆防止等の為に油が塗られて出荷される事が多く、油種も様々であり、必要に応じ、新しいウエスで2回程度拭き取って油付着面接着性を有する粘接着性層を用いた処理等を施すのが良い。粘接着性層にとって好ましい油付着程度は、上記の様な剥離接着力で0.3kgf(約2.9N)/25mm以上を示すものである。
【0022】
本発明を以下、構成材について順次述べる。
(1)(床躯体)
床躯体は、合い対向する梁上に横架される床構成材である。床躯体は、ALC床版、PC床版、板材等で良く、これらを複数の根太に支持固定したものであっても良い。根太は、木製、鋼製等、種々の材質のもので良く、代表的なものは角材である。剛性の根太には、鋼材を用いる事が出来、この場合、角パイプが、剛性を得易い割に軽量であるので好ましい。
【0023】
床躯体自体は、大抵は複数用いられ、床全体で個々独立している場合が多いが、梁間に横架固定された後に、床躯体間の長辺及び短辺の継目を跨る様に、床躯体の上側又は下側に板材を積層し、ビス等で固定すれば、複数の床躯体は連結一体化床となって、床躯体が広く重い床となり、床振動を起こす為には大きな振動エネルギーを要する様になって、耐衝撃性等にとっては有利となる。このとき、積層される板材は、床躯体の長辺に対し板材の長辺を直交させる方が、床躯体自体の振動し難さを増す事が出来る。又、板材は、種々の異なる種類のものを複数枚用いる事が出来る。複数の板材では、各々交互に板材長辺同士を直交させる方が、剛性を増すので好ましいが、石膏ボードやアスファルトに高比重充填剤を混合し、成型された遮音マットの様な板材は、必ずしも、長辺を直交させる必要は無い。床躯体は、対向する梁間に横架され、床躯体が移動落下する事を防止する為、梁に移動止めを設けたり、床躯体と梁を固定治具で固定したりしても良い。
【0024】
床躯体下部には、粘弾性体を予め設けておく事が出来る。この場合、床躯体に、粘弾性体を所々に点状に分散させ、粘弾性体を粘接着性層で固定し、粘弾性体の梁側には、粘弾性体の低摩擦抵抗層を設ける事が出来る。かかる床躯体は、粘弾性体の低摩擦抵抗層が梁に当接する様にして横架され、床躯体の位置の微調整を行った後、供用する事が出来る。その後、更に固定治具で床躯体と梁を固定治具で締結固定しても良い。固定治具で締結固定する場合は、床荷重の分担荷重以上の荷重を分担するので、圧縮固定から素早い緩衝変位が被衝撃時に可能な事が必要である。
【0025】
(2)(粘弾性体)
粘弾性体の圧縮の目安は、予め粘弾性体の圧縮荷重と変位の関係と使用個数により分担荷重を求めて決める事が出来る。圧縮固定からの緩衝変位を考慮すると、予め圧縮しておく量は、粘弾性体の厚みの5〜35%が、より一層好ましくは、15〜25%が、素早い緩衝変位をさせる上で好ましい。このときの圧縮比は、スペーサ等の厚さは含まず、粘弾性体単体で考える必要がある。粘弾性体の硬度はJIS-A型硬度計で30〜60程度の柔らかなものが適している。
【0026】
粘弾性体は、線状や帯状でなく、点状で用いる事が出来るので、この場合、床衝撃に対し、粘弾性体が変位し易く、振動絶縁し易くなる。その結果、この様に点状で用いた場合の特徴は、特に、500Hz以上の高周波音が大きく低減し、聴感上非常に静かになった感じがする。この粘弾性体は、特に、反撥弾性の低い粘弾性体にする事により、単に振動絶縁性が良いだけではなく、床衝撃を受けた時、衝撃反力が小さくなる長所がある。この様な柔軟な反撥弾性の低い粘弾性体は、ポリマー成分の80wt%以上をブチルゴムにした場合、特に振動絶縁性が良くなる。100%のブチルゴムの割合が理想的である。
【0027】
粘弾性体では、梁と当接する面は、床構造、特に床躯体の位置の微調整が容易となり、且つ粘弾性体の剪断変形が生じ無い様に、摩擦抵抗の低い層を設ける必要がある。床躯体下部に粘弾性体を点状で設ける場合、粘弾性体1個当りで受ける応力が大きくなる為、容易に位置ずれを直す工夫が必要である。粘弾性体に設ける摩擦抵抗の低い層は、シリコン焼付クラフト紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、EVA、塩ビ等のフィルムやシートがあり、前記ポリマーを低発泡した発泡体でも良い。又、黒鉛、タルク、雲母の様な鱗片状に層間剥離し易い粉体、又は他の粉体等を塗布した層であっても良い。
【0028】
(3)(粘弾性体付き床躯体)
床躯体に予め粘弾性体を接着させたもの、典型的には、床躯体と粘弾性体との組合せ、例えば、粘弾性体付き床躯体を用いる事が出来る。
【0029】
粘弾性体の床躯体下部への取付けは、粘接着層、特に、油付着面に対して十分な接着性を有する粘接着性層で行えば良く、床躯体として、ALC床版の様な表面がポーラスなもの(多孔質のもの)を用いる場合は、その中に入り込むだけの量の粘接着層の厚みを予め予定して、粘接着層を厚くする方が良い。ALC床版の場合、その厚くする分の目安は0.5mm〜2.0mm位が適切である。
【0030】
床躯体の下部の粘弾性体取付け部に鋼材が用いられる場合は、加工時に切削油や防錆油が塗布され、比較的多量の油が付着している場合が多く、目視で油膜が取れた様に見えても、新しいウエスで3〜4回拭き取っても、通常の粘接着は不可能であり、通常は脱脂工程を経て粘接着されなくてはならない。ところが、脱脂剤は溶剤を多量に含むか、アルカリや界面活性剤を多量に含み、何れの系でも、火災の危険性や人体への安全性を回避する為、専用設備を必要とし、一般的でない。そこで、かかる場合には、脱脂の為の専用設備の無い場合でも対応し得る様に、油膜が残らない様にウエスの新しい面で拭いた状態なら充分接着可能な油付着面への接着性を有する粘接着性層を設ける事が出来る。
【0031】
油付着面への接着性は、粘接着剤が油を層内に吸収拡散して得られるので、貼付後の経時が長い方が粘接着に有利であり、温度が高い方が有利であるので、貼付後は数時間、粘弾性体の自重でも良いので静置した方が良い。
【0032】
(4)(梁)
梁は床躯体を横架支持し、且つ粘弾性体が圧縮固定されれば、構造、材質共に何等制約は無い。対を成す梁には、対向する梁が包含される。粘弾性体は、予め梁に粘接着され、粘弾性体の低摩擦抵抗層が床躯体に当接し、床躯体の位置決めの際に粘弾性体に変形応力が残ら無い様にする事も出来る。
【実施例】
【0033】
図面を参照して、本発明をより一層詳細に説明する。
図1は1例の床構造の側面図である。図2は図1の床構造の平面図である。図3は1例の粘弾性体の断面図である。図4は他の例の粘弾性体の断面図である。図5は他の例の床構造の側面図である。図6は図5の床構造の平面図である。
【0034】
図1は1例の床構造1の側面図である。床構造1は、1対の梁2(対向する梁は図1の右側方向にある)と、梁2間に横架される床躯体3と、梁2と床躯体3との間で圧縮固定される振動絶縁性の粘弾性体4と、梁2を床躯体3と固定する固定部材5とを備える。粘弾性体4は、粘弾性体本体4Aを備え、梁2との当接部分に、固定部材5による梁2への床躯体3の未固定状態で、床躯体3が載置された状態での粘弾性体4の、梁2の当接面に対する水平方向の移動を可能とする、低摩擦抵抗層4Bを有する。或は又、それに代えてか追加して、粘弾性体4は、床躯体3との当接部分に、固定部材5による梁2への床躯体3の未固定状態で、床躯体3の、粘弾性体4の当接面に対する水平方向の移動を可能とする低摩擦抵抗層を有する事が出来る。
【0035】
粘弾性体4は、梁2に当接する側に低摩擦抵抗層4Bを有する。低摩擦抵抗層4Bは摩擦抵抗係数の小さい層である。図1では、粘弾性体4は、更に粘接着層4Cを有する。粘弾性体4は、粘弾性体本体4Aによる振動絶縁性等の性能、低摩擦抵抗層4Bによる梁2と床躯体3との間、特に、梁2と粘弾性体4との間の容易な移動性、粘接着層4Cによる粘弾性体4の床躯体3への固定性の三機能を発揮する。
【0036】
床躯体3を位置決めする際には、粘弾性体4は、その粘接着層4Cによって、予め床躯体3に貼付けられ、床躯体3と共に吊り上げられ、梁2上に載置される。粘弾性体4は梁2と床躯体3との間に介在する。多くの場合、床躯体3を正確に位置決めする為に、概略位置決めした床躯体3の位置を微調整する必要があり、その場合には、粘弾性体4の低摩擦抵抗層4Bが床躯体3の水平方向のスムースな移動を許容し、粘弾性体本体4Aに無用な、しかも振動絶縁性等に悪影響を及ぼす応力が残らない様にする事が出来る。
【0037】
粘弾性体4は、梁2と床躯体3との間に介在させて所期の振動絶縁性等の性能を発揮出来れば、固定治具5等で梁2と床躯体3との間で圧縮固定しても良い。床構造1では、床躯体3上に板材を積層し、隣接する床躯体3を連結一体化する事が出来るが、特に図示してはいない。他の例の粘弾性体では、三機能を有する点で共通させ、サイズ(寸法)を相違させる事が出来る。
【0038】
図2は図1の床構造1の平面図である。梁2は床躯体3の両側にあるが、図2では片側を省略している。床躯体3は、四隅に三機能を有する粘弾性体4を設け、図2では判明しないが、粘接着層4Cを床躯体3の下面に貼着する。床躯体3は、座ぐり穴3Aに納まり、床躯体3上に突出する事が無い固定治具5を用いて、梁2と固定する事が出来る。他の例の床構造では、三機能を有する粘弾性体を用いる点は共通させるが、粘弾性体の位置を各々100mm等の距離内側にして相違させ、粘弾性体の寸法、低摩擦抵抗層の寸法を相違させる事が出来る。
【0039】
図3は、図1及び2等で用いる事が出来る1例の三機能を有する粘弾性体4の断面図である。粘弾性体4は、振動絶縁性を有する粘弾性体本体4Aを備え、その一方の面に低摩擦抵抗層4Bが設けられ、残る一方の面には粘接着層4Cが設けられ、更に粘接着層4Cには、保護離型紙4Dが設けられる。保護離型紙4Dは、梁や床躯体に接着する際に除去される。
【0040】
図4は図3のものとは異なる例の粘弾性体14の断面図であるが、図3のものと同様に三機能を有する。粘弾性体14は、振動絶縁性を有する粘弾性体本体14Aを備え、その一方の面には低摩擦抵抗層14Bが、図3のものよりは厚く図3の寸法通りでは無いが、ある程度の厚みを持ってスペーサとして設けられている。これは、梁上から仕上げ面までの高さを調節する手段としては、既知の粘弾性体の圧縮変位/圧縮応力の関係を新たに実験する事なく利用出来る。図3のものと同様に、残る一方の面には粘接着層14Cが設けられ、更に粘接着層14Cには、保護離型紙14Dが設けられる。粘接着層は、粘接着性層を用いる事が出来、粘接着性層は、油付着面に対しても十分な接着性を有する。
【0041】
図5は他の例の床構造21の側面図である。床構造21では、根太26と板材27とからなる床躯体23を用いる。粘弾性体24は、粘弾性体本体24Aを備え、その梁22側には、低摩擦抵抗層24Bが設けられ、梁22に当接し、床躯体23側には、粘接着性層24Cが設けられ、それが床躯体23の下面に貼着される。粘弾性体24は固定治具25により圧縮固定される。この例では、床躯体23上に板材を積層し、隣接した床躯体23を連結一体化する事が出来るが、図示は省略した。
【0042】
図6は図5の床構造21の平面図である。図6では、板材27を3本の根太26で支持した床躯体23が、1本の梁22上で、三機能を有する3個の粘弾性体24を介し、固定治具25によって固定されている所を示す。
【0043】
以下、実施例に基づいて、本発明をより一層詳細に説明する。
(実施例1)
図1及び2に示す様な床構造を、図3及び4に示す様な粘弾性体を用いて施工する。
実験室2階の床開口部の四隅に、角パイプ状のボルト締結用穴を設けたジョイント部を設置する。ジョイント部には、I型鋼梁をボルト固定する。I型鋼梁は、両端と中央にジョイント部のボルト穴に合わせた穴を有する鉄板を、溶接したものである。I型鋼梁は実験室床躯体から浮かせる。I型鋼梁は、長辺2本と短辺1本を大梁とし、残る短辺は小梁とし、長辺中央に控梁を大梁と面一にして床梁組を作る。
【0044】
短辺梁3本で床躯体を支持させる為、床躯体のALC床版(100mm厚×606mm幅×1820mm長さ)の幅方向四隅に、1個ずつ三機能を有する粘弾性体を粘接着層で固定し、梁に低摩擦抵抗層を当接させ、梁上でALC床版の位置の微調整を行って、動き易さ、粘弾性体の剪断変形残り、位置微調整後の復元等をチェックする。床躯体の位置調整による粘弾性体の状況についての結果を、表1に示す。
【0045】
実験の詳細を以下に示す。
粘弾性体は配合処方例A(表2)であり、粘接着層は1mm厚のブチルゴム粘着層(圧縮固定で使用する為、厚みは無視する)である。低摩擦抵抗層はクラフトテープを使用する。粘弾性体本体のサイズは、6.5mm総厚×40mm幅×40mm長さである。
【0046】
床躯体は、梁上に粘弾性体の低摩擦抵抗層を当接させて載置し、その後、予め設けた座ぐり穴と貫通穴に固定治具を入れ、梁と床躯体との間で粘弾性体を圧縮固定する。圧縮では、粘弾性体の厚み6.5mmが5mmになる様に、1.5mm圧縮する。ALC床版は、梁長辺とALC床版長辺を平行に6枚設置する。
【0047】
ここで、I型鋼大梁は、200mm高さ×100mm幅×4mm厚(高さ方向の厚み)×5mm厚(幅方向の厚み)の断面で、長辺方向は3.45m長さである。短辺方向は1.72mである。I型鋼小梁は、200mm高さ×100mm幅×3mm厚(高さ方向の厚み)×4.5mm厚(幅方向の厚み)で1.72m長さである。I型鋼控え梁は、190mm高さ×100mm幅×3.2mm厚(高さ方向の厚み)×3.5mm厚(幅方向の厚み)で1.72m長さである。
【0048】
次に、下層のALC床版の長辺と、上層のパーチクルボード(15mm厚×910mm幅×1820長さ)の長辺とが直交し、ALC床版の継目とパーチクルボードの継目とが重ならない様に、下層のALC床版の短辺継目を中心に、その上にパーチクルボードの幅中央を設置し、DACビスにてALC床版に縦横303ピッチでパーチクルボードを固定する。その両隣に、パーチクルボードをDACビスで同様に固定した後、両端にパーチクルボード(15mm厚×455mm幅×1820長さ)を同様に固定して、連結一体化床とする。
【0049】
実験室の直下の受音室は、独立天井12.5mm厚石膏ボード2枚貼りとし、天井内にグラスウール16Kを100mm厚で敷く。次に、床衝撃音の測定を行い、結果を上述の床躯体の位置調整による粘弾性体の状況と併せて表1に示す。
又、粘弾性体は、ステンレス板(SUS 304鋼板で鏡面仕上げ)上に、低摩擦抵抗層を下側にして載置し、ステンレス板を傾斜させていき、滑落開始角度を測定し、結果を表1に示す。
粘弾性体の粘弾性体単体は、予め12.5mm厚×29mm径の円柱状のものを3個用意し、ISO-4662に準じて反発弾性率を測定し、結果を表1に示す。又、この試験体について、JIS-K-6253に準じ、A型硬度計により硬度を測定し、結果を表1に示す。
粘弾性体の粘接着層は、厚みを測り、結果を表1に示す。次に、JIS-Z-0237に準じて、180°剥離試験を行う。その際、ステンレス板(SUS 304鋼板で鏡面仕上げ)上に防錆油ダフニースーパーコートTW[出光興産(株)製]を5g/m2塗布し、布ウエスの新しい面で2回拭き取った後、そこに粘接着層を貼り合わせ、貼付直後と5時間後の接着性を測定する。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2)
図1及び2に示す様な床構造を、図3及び4に示す様な粘弾性体を用いて施工する。
実施例1の梁組を変えず、粘接着層付き粘弾性体を8.5mm厚×40mm幅×50mm長さとし、低摩擦抵抗層として3mm厚×40mm幅×40mm長さの1.6倍発泡ポリエチレンを両面テープで貼り付けて、計11.5mm厚として、ALC床版(100mm厚×606mm幅×1820mm長さ)の606幅の各々端部から100mm内側に貼って、梁上に載せ、位置微調整をして、固定治具で10mm厚になる様に圧縮固定する。粘弾性体は、配合処方例B(表3)のものであり、粘接着層は実施例1と同じ1mm厚ブチルゴム粘接着層で、圧縮固定する為、厚みは無視する。位置調整時に動き易さ、粘弾性体の剪断変形残り、元の位置への復元の有無をチェックし、結果を表1に示す。
【0051】
実施例1と同様にして、ALC床板上に、パーチクルボード(15mm厚×910mm幅×1820mm長さ)を、ALC長辺とパーチクルボード長辺が直交し、且つ継目がずれる様にして、DACビスにて縦横303ピッチで床版を連結一体化する。各試験項目は実施例1と同様にして試験し、結果を表1に示す。
【0052】
(実施例3)
図1、2、5及び6に示す様な床構造を、図3及び4に示す様な粘弾性体を用いて施工する。
実施例1の梁組を用い、床躯体は、パーチクルボード(20mm厚×910mm幅×1820mm長さ)の中心と、その中心から各々303mm離れた位置に、角パイプ(板厚2.3mm×45mm幅×75mm高さ×1820mm長さ)3本をビス固定したものを用いる。角パイプは、予め固定治具の締結用の穴を設け、そこに雌ネジを溶接する。角パイプ両端の粘弾性体取付け部の油膜を布ウエスの新しい面で2回拭き取る。粘弾性体は、配合処方例A(表2)のもの(6.5mm厚×40mm幅×40mm長さ)で、その片面にクラフトテープを貼り、残る片面に油付着面粘接着性を有する0.3mm厚のブチルゴム粘接着性層を貼る。予め油膜を拭き取った角パイプの貼付面に、粘接着性層の粘接着面を貼り付けて、梁にクラフトテープ面を当接させ、位置微調整をした後、床躯体と梁とを固定治具で粘弾性体が5mmになる様に締結固定する。
【0053】
次に、床躯体上に、パーチクルボード(15mm厚×910mm幅×1820mm長さを床躯体のパーチクルボードの長辺と長辺を直交させ、且つ継目が一致しない様に積層し、ビス固定する。ビスピッチは縦横303mmである。床衝撃音測定をし、結果を表1に示す。その他の試験項目も実施例1と同様にして測定し、結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
図1、2、5及び6に示す様な床構造を、図3及び4に示す様な粘弾性体を用いて施工する。
実施例1の梁組を用い、床躯体は実施例3と同様にし、粘弾性体を、配合処方例B(表3)で作製し、サイズを8.5mm厚×40mm幅×40mm長さとし、粘接着性層以外は、実施例2の粘弾性体と低発泡ポリエチレンを用いる。実施例3と同様にして、片面に粘接着性層として0.3mm厚ブチルゴム粘接着性層を貼る。残る片面に1.6倍発泡ポリエチレン(3mm厚×40mm幅×40mm長さを貼って、粘弾性体を作製し、床躯体下面の角パイプに貼り、梁上に設置し、位置微調整を行い、動き易さ、剪断変形、復元性をチェックし、結果を表1に示す。又、固定治具で粘弾性体の厚みを10mmになる様に圧縮固定し、実施例3と同様に、床躯体上にパーチクルボード(15mm厚×910mm幅×1820mm長さ)を積層固定し、床衝撃音測定を行い、結果を表1に示す。その他の項目も実施例1と同様に試験し、結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
実施例1の梁組を用い、帯状粘弾性体で、梁短辺方向に40mm幅を持ち、三山が平行に長辺方向にあり、中央の山が高さ6mmで、その両側の山が高さ7.5mmである配合処方例C(表4)の粘弾性体を、低摩擦抵抗層を用いずに使用する。なお、実施例の粘弾性体(配合処方例A、B)を低摩擦抵抗層無しで用いると、明らかに作業性に劣って、せん断変形が残るので、せん断変形が残り難い粘弾性体を用いる。三山あるものは、実施例に比べてせん断変形が残り易いが、現在使用されているもので、良好な振動絶縁性を示すものの例として用いる。
粘弾性体は、裏面に設けた両面テープ(粘接着層)の保護離型紙を取って、梁に貼る。梁組中央の梁では、長辺方向に帯状にして2列貼り、両側の短辺梁では、開口部側の梁長辺に沿って、各々1列貼って、その上にALC床版を載せ、位置の微調整を行い、帯状粘弾性体の剪断変形、動き易さ、ALC床版の復元をチェックする。結果を表1に示す。ALC床版と梁とは、固定治具で帯状粘弾性体の山の高さが6.5mmになる様に圧縮し、固定する。
ALC床板上に、実施例1と同様にして、パーチクルボード(15mm厚×910mm幅×1820mm長さ)を積層し、DACビス固定して、床衝撃音測定を行う。結果を表1に示す。その他の試験項目も実施例1と同様にして測定し、その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
以下、表1〜4を参照し、実施例及び比較例の実験結果に基づいて、本発明をより一層詳細に説明する。
実施例1は、低摩擦抵抗層としてクラフトテープを用い、反撥弾性率の低い粘弾性体を用い、振動絶縁性を発揮させ、床躯体面に粘接着層で固定する例である。柔らかい(硬度45)粘弾性体は6.5mm厚を5mm迄に、即ち1.5mm圧縮して梁に固定する。ステンレス板上での滑落開始角度も18°で摩擦抵抗が小さく、床躯体の位置微調整は容易であり、且つ粘弾性体に剪断変形残りや床躯体位置の復元傾向は見られ無い。粘弾性体は硬度45、反撥弾性率8で、振動絶縁性が高く、その結果、床衝撃音も十分低減出来ており、特に、500Hz以上の高周波域での低減は大きく、耳障りな周波数帯で改善効果が特に大きい点で聴感上の好感度が得えられる事が判る。
【0061】
実施例2は、低摩擦抵抗層を低発泡ポリエチレンとした例であり、反撥弾性率の低い粘弾性体を用いて振動絶縁性を発揮させ、床躯体面に粘接着層で固定する例である。柔らかい(硬度40)粘弾性体は、11.5mm厚を10mm迄に、即ち1.5mm圧縮して梁に固定する。ステンレス板上での滑落開始角度も15°で摩擦抵抗が小さく、床躯体の位置微調整は容易であり、且つ粘弾性体に剪断変形残りや床躯体の位置の復元傾向は見られ無い。粘弾性体は、硬度40、反撥弾性率6で、振動絶縁性が高く、その結果、床衝撃音も十分低減出来ており、特に、500Hz以上の高周波域での低減は大きく、耳障りな周波数帯で改善効果が特に大きい点で、聴感上の好感度が得えられる事が判る。
【0062】
実施例3は、低摩擦抵抗層としてクラフトテープを用い、反撥弾性率の低い粘弾性体を用いて振動絶縁性を発揮させ、油面接着性を有する粘接着性層で床躯体下面に固定する例である。粘接着性層は、貼付直後から経時的に、より一層接着性が増加する。粘弾性体自体は実施例1に用いたものと同じであり、床躯体の位置調整による粘弾性体の剪断変形残りは無く、位置復元の傾向も無い。床衝撃音も十分低減し、特に、500Hz以上の高周波域での低減は、比較例1と比べても大きい事が判る。
【0063】
実施例4は、粘弾性体と、低摩擦抵抗層として実施例2と同じ低発泡ポリエチレンを用い、粘接着層のみ油面接着性の粘接着性層に変える。床躯体の位置調整による粘弾性体の剪断変形残りは無く、位置復元の傾向も見られ無い。床衝撃音も十分低減出来ており、特に、500Hz以上の高周波音の改善効果が高い。
【0064】
比較例1は、梁長辺に帯状で3山が平行に長辺方向にあり、中央の山が両側の山より低い粘弾性体を用い、低摩擦抵抗層は用いない例である。粘弾性体は、梁に直接接着され、床躯体には固定され無いタイプである。したがって、この例では、床躯体の位置合せ時には、粘弾性体上で、床躯体が、粘弾性体に応力を働かせながら移動する状況となる。粘弾性体は、ステンレス板上での滑落開始角度も57°と大きく、摩擦抵抗が大きい事が判る。その結果、床躯体の位置調整によって、粘弾性体は、山に剪断変形が残ったままとなり、床躯体の位置の復元傾向が見られる。この粘弾性体は、反撥弾性率も48と大きく、その結果、床衝撃音の改善も少ない。特に、実施例1〜4と比べ、同様に粘弾性体を介在させるにも拘らず、500Hz以上の発音量が大きい事が判る。これは、聴感上は、実際のデータ以上に「うるさい」と感じるものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上の様に、本発明によれば、床躯体の位置調整が容易で、粘弾性体に剪断変形残りが無いので、本来の粘弾性体の振動絶縁効果を発揮出来、反撥弾性も低く、振動絶縁性が妨げられる事が無い。又、本発明の床構造は、床構造の施工性に優れ、床衝撃音の低減効果も高く、特に、高周波音の低減に効果が高い。又、本発明においては、粘弾性体に油面接着性の粘接着性層を設ける事で、床躯体に対する粘弾性体の接着面が油面であっても、貼付直後から接着し、経時により充分な接着力を得られ、粘弾性体付き床躯体を予め接着して、床躯体を施工現場に搬入等して載置すれば、床構造の施工性を著しく改善する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】1例の床構造の側面図である。
【図2】図1の床構造の平面図である。
【図3】1例の粘弾性体の断面図である。
【図4】他の例の粘弾性体の断面図である。
【図5】他の例の床構造の側面図である。
【図6】図5の床構造の平面図である。
【図7】比較例にかかる床の側面図である。
【図8】図7の床の平面図である。
【符号の説明】
【0067】
1、21 床構造
2、22 梁
3、23 床躯体
3A 座ぐり穴
4、14、24 粘弾性体
4A、14A、24A 粘弾性体本体
4B、14B、24B 低摩擦抵抗層
4C、14C、24C 粘接着(性)層
4D、14D 保護離型紙
5、25 固定治具
26 根太
27 板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対をなす梁と、梁間に横架される床躯体と、梁を床躯体と固定する固定部材と、梁と床躯体との間で圧縮固定される振動絶縁性の粘弾性体とを備える床構造であって、
粘弾性体が、梁及び床躯体の一方又は双方との当接部分に、固定部材による前記梁への前記床躯体の未固定状態で、前記床躯体が載置された状態での前記粘弾性体の、前記梁の当接面に対する水平方向の移動又は前記床躯体の、前記粘弾性体の当接面に対する水平方向の移動を可能とする低摩擦抵抗層を有することを特徴とする、床構造。
【請求項2】
粘弾性体が床躯体との当接部分に粘接着性層を有する、請求項1記載の床構造。
【請求項3】
床躯体が、複数の根太で固定支持した板状体からなる、請求項1又は2記載の床構造。
【請求項4】
梁と床躯体との間に配置され、梁と床躯体とを固定する固定部材によって圧縮固定される振動絶縁性の粘弾性体であって、梁及び床躯体の一方又は双方との当接部分に、固定部材による前記梁への前記床躯体の未固定状態で、前記床躯体が載置された状態での前記粘弾性体の、前記梁の当接面に対する水平方向の移動又は前記床躯体の、前記粘弾性体の当接面に対する水平方向の移動を可能とする低摩擦抵抗層を有することを特徴とする、粘弾性体。
【請求項5】
粘弾性体が床躯体との当接部分に粘接着性層を有する、請求項4記載の粘弾性体。
【請求項6】
粘弾性体が15%以下の反撥弾性率を有する、請求項4又は5記載の粘弾性体。
【請求項7】
粘弾性体の低摩擦抵抗層の面をステンレス板に接触させ、前記ステンレス板を傾けたとき、前記粘弾性体が45°以下の傾斜角度で滑落を開始する、請求項4〜6のいずれか一項記載の粘弾性体。
【請求項8】
粘接着性層が油付着面に対する接着性を有する、請求項5〜7のいずれか一項記載の粘弾性体。
【請求項9】
対をなす梁と、梁間に横架される床躯体と、梁を床躯体と固定する固定部材と、梁と床躯体との間で圧縮固定される振動絶縁性の粘弾性体とを備える床構造を施工するにあたって、
(a)粘弾性体を提供する工程であって、前記粘弾性体が、梁及び床躯体の一方又は双方との当接部分に、前記床躯体が載置された状態での前記粘弾性体の、前記梁の当接面に対する水平方向の移動又は前記床躯体の、前記粘弾性体の当接面に対する水平方向の移動を可能とする低摩擦抵抗層を有する工程、
(b)粘弾性体及び前記粘弾性体上の床躯体を梁上で位置決めする工程、及び
(c)固定部材により梁を床躯体と固定する工程
を含むことを特徴とする、床構造の施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−254959(P2007−254959A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76981(P2006−76981)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【Fターム(参考)】