説明

建設機械におけるキャブ

【課題】建設機械に設けられるキャブにおいて、補強されて重量化した前部梁材の溶着作業が容易になるように構成する。
【解決手段】キャブ5の前部に設けられる左右一対の前部柱材9、10と左右一対の左、右部梁材13、14とをそれぞれ左右一対の連結体15、16を介して連結し、これら連結体15、16に、上下保持片15d、15e、16d、16eと後保持片15f、16fとを備えた保持凹部15h、16hを設けて、これら保持凹部15h、16hにより、前部梁材17の左右端部をそれぞれ保持した状態で溶着する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設作業を行う作業部が設けられた建設機械におけるキャブの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械のなかには、下部走行体の上部に、柱材および梁材を用いて枠組み形成されたキャブを備えた上部機体を設けたものあるが、建設機械は、傾斜地、荒れ地等、整地されていない現場での作業を強いられることがあり、このため、機体の転倒に対する対応を考慮しなければならず、その一つとしてキャブの強度を高めることが求められている。
そこで、特許文献1に示すもののように、キャブの左右一対の前部柱材と左右の梁材とにより構成される左右の連結部同士の間に設けられる前部梁材に、補強部材を別途取付けて、キャブの側方からの負荷に対して強度アップを図るようにしたものがあるが、このようにした場合、補強部材を設ける分、コストアップを余儀なくされるうえ、製造工程が面倒になるという問題が発生する。これに対し、特許文献2に示すもののように、前部梁材自体を、鍛造、または、鋳造により補強がなされた部材として形成するようにしたものが提唱されており、これによって、コスト低下、製造工程の簡略化が図れるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−279721号公報
【特許文献2】特開2007−083786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のものは、前部梁材を鍛造、または、鋳造により形成して補強がなされたものとしているため、その分重量化がなされている。そして、このものでは、前部梁材を前記連結部同士の対向間に連結する場合では、前部梁材を持ち上げて、前部梁材の左右端面を前記連結部の内側面に突き当てて、これらを面接触させた状態で溶接等の固定手段を行う構成となっている。このため、作業者は、重量化された前部梁材を溶接位置にまで持ち上げて保持した状態で固定作業をすることになり、作業負担が大きく作業性が低下するという問題がある。また、前部梁材の両端部を連結部に溶着する場合に、溶着部の強度を高めるには溶着面積を大きく確保する必要があり、前記従来のものでは、横部材の両端部に被固定部が形成されている。このため、前部梁材の形状が複雑になって一層重量化されるという問題があるばかりでなく、コスト高になるという問題もあり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、柱材および梁材を用いて枠組み形成されたキャブを備えてなる建設機械において、キャブの前部に設けられる左右一対の柱材と左右一対の梁材とにより構成される左右の連結部同士の間に、前部梁材を設けるにあたり、前記連結部には、前部梁材の端部を保持する保持部が設けられていることを特徴とする建設機械におけるキャブである。
請求項2野発明において、前部柱材と左右の梁材とは連結部材を介して連結するものとし、保持部は、前部梁材の端部の少なくとも二面に沿う保持片を有して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の建設機械におけるキャブである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、前部梁材の溶着作業の負担が軽減されて作業性が向上し、確実な溶着を容易に行うことができ、しかも、作業時間の短縮を図れる。
請求項2の発明とすることにより、前部梁材の溶着部の強度を高められるうえ、溶着部に作用する負荷を保持部により受け止めることができて、前部梁材の構成の簡略化が図れてコスト低下に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】油圧ショベルの全体側面図である。
【図2】キャブの基本骨格を説明する斜視図である。
【図3】図3(A)、(B)、(C)、(D)はそれぞれキャブの平面図、正面図、右側面図、背面図である。
【図4】図3(B)におけるX−X断面図である。
【図5】図5(A)、(B)はそれぞれ前部梁材の保持状態を説明するべくパターン化された斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図面において、1は建設機械としての油圧ショベルであって、該油圧ショベル1は、クローラ式の下部走行体2の上部に、上部旋回体(本発明の上部機体に相当する)3が旋回自在に設けられており、前記上部旋回体3のフロント部には、フロント作業機4が設けられている。前記フロント作業機4は、基端部が上部旋回体3に上下方向揺動自在に連結支持されるブーム4a、該ブーム4aの先端部に上下方向揺動自在に連結支持されるアーム4b、該アーム4bの先端部に揺動自在に連結支持されるバケット4cとを用いて構成されている。また、前記上部旋回体3には、オペレータが搭乗するシート5aが設けられたキャブ5と、該キャブ5の後方に配設される機械室6と、該機械室6の後方に配設されるカウンタウエイト7等が設けられている。
【0009】
前記キャブ5は、上部旋回体3を構成する旋回フレーム3a上に、図示しないマウント部材を介して設けられる前後方向長尺状の床材8を備えて構成されている。そして、前記床材8にキャブ5の基本骨格となる部材が一体的に枠組み形成されているが、床材8前方の左右両端部には、左右一対の前部柱材9、10の下端部がそれぞれ支持される一方、床部8後方の左右両端部には、左右一対の後部柱材11、12の下端部がそれぞれ支持されている。そして、これら各左右の前部柱材9、10の上端部と各左右の後部柱材11、12の上端部とは、それぞれ左右一対の左、右部梁材13、14により連結されている。ここで、左右の前部柱材10の上端部と左、右部梁材11の前端部とは、それぞれL字形に折曲された連結体(本発明の連結部材)15、16を介して連結されるように構成されている。
【0010】
そして、前記左右の連結体15、16同士の間には、前部梁材17が一体的に連結されており、左、右部梁材13、14の後端部と左右の後部柱材11、12の上端部との連結部同士は、図示しない後部梁材により一体的に連結されている。また、左右の前部柱材9、10の下端部同士は、床面に沿って配される前部フレーム材18により一体的に連結され、左右の後部柱材11、12の下端部同士は、床面に沿って配される後部フレーム材19により一体的に連結されている。
尚、20、21は、左右の前後部柱材9と11、10と12の下端部同士を連結する左、右部フレーム材である。、
そして、このように枠組みされた基本骨格に対し、窓部が設けられる左側片5b、開閉ドアが設けられる右側片5c、窓体により構成される前側片5d、窓部が設けられる後側片5e、天窓が設けられる上側片5fを、それぞれ適宜組込み手段を介して設けることにより、キャブ5が形成されている。
【0011】
ここで、前記前部柱材9、10、後部柱材11、12、前、後部フレーム材18、19はそれぞれ中空状の鋼管により構成されており、必要な強度が確保されているが、キャブ5には左右方向の負荷が作用することがあり、これに対処する一つの手段として、前部梁材17の強度アップが図られており、本実施の形態では、前部梁材17を中実状の四角形状の鋼材により構成することにより、高い強度を付与するようにしている。
【0012】
このように構成された前部梁材17は、前述したように、左右の連結体15、16に溶着されるが、前記連結体15、16は、それぞれ鋳物により一体形成されており、それぞれ左右勝手違いの形状でL字形に折曲形成されている。そして、各連結体15、16の一端部(前方端部)には左右の前部柱材9、10の上端部がそれぞれ溶着される前溶着部15a、16aが形成され、他端部(後端部)には、左、右部梁材13、14の前端部がそれぞれ溶着される後溶着部15b、16bが形成されている。そして、左右の連結体15、16の互いに対向する面であって、キャブ5への組込み状態においてキャブ5の室内側となる内側面15c、16cに、前部梁材17の左右の端部を支持するための保持部がそれぞれ一体的に形成されている。
前記保持部は、内側面15c、16cから内方に向けて突出する上下一対の上下保持片15d、15e、16d、16eと、これら上下保持片15d、15e、16d、16eの後端縁部を一体的に連結する後保持片15f、16fとにより、前方に開口部15g、16gが開設され、前部梁材17の左右端部がそれぞれ内嵌可能となる側面視コ字形状の保持凹部15h、16hにより構成されているが、該保持凹部15h、16h(保持部)は、連結体15、16に一体形成することにより、形成が容易になるように構成されている。
【0013】
これに対し、前記前部梁材17は、前記左右の連結体15、16の対向間に組込むことができる長さに設定されており、前部梁材17は、予め前部柱材9、10、後部柱材11、12、左、右部梁材13、14を、連結体15、16を用いて枠組みした後に組込まれる手順となっている。
そして、前部梁材17は、図5(A)のパターン図に示すように、左右の両端部を、各連結体15、16のコ字形状の保持凹部15h、16hの前方に開設された開口部15g、16gから保持凹部15h、16hに嵌め込むことにより、図5(B)のパターン図に示すように、各両端部が保持凹部15h、16hにより仮保持されて、左右の連結体15、16の支持を受けるように構成されている。そして、この状態において、前部梁材17の左右両端部の四周を保持凹部15h、16hに対して溶着することにより、前部梁材17が左右の連結体15、16に一体的に連結されるが、このとき、前部梁材17は保持凹部15h、16hからの支持を受けており、作業者が重量のある前部梁材17を持ち上げた状態での溶着作業を強いられることがなく、これによって、溶着作業が容易になって、作業者の負担を軽減することができて、作業性が改善されて作業時間の短縮が図れるように構成されている。
尚、左右の連結体15、16の保持凹部15h、16hは、前方に形成される開口部15g、16gが僅かに上方を向いて開口しており、保持凹部15h、16hが前側ほど上位となる傾斜状に形成されている。これによって、前部梁材17を保持凹部15h、16hに組込んだとき、前部梁材17を自重により保持凹部15h、16hの溝奥側に組込むことができて、保持凹部15h、16hによる前部梁材17の保持が一層確実、かつ、安定した状態となるように構成されている。
【0014】
さらに、このように溶着した場合に、前部梁材17と連結体15、16との一体化(連結)は、溶着による連結と、保持凹部15h、16hの各保持片15d、15e、15f、16d、16e、16fによる連結との両者によるものとなって、連結強度の向上が図れるように構成されている。さらに、前部梁材17の端部は、少なくとも二面であって、本実施の形態では、上下面、および後面が、これらに沿う上下保持片15d、15e、16d、16e、後保持片15f、16fにより囲繞される状態で保持凹部15h、16hに一体化されており、前部梁材17に作用する負荷の一部が、これら各保持片15d、15e、15f、16d、16e、16fにより受け止められることになって、前部梁材17の溶着部における溶着面積を格別大きく確保することなく、該部位の負荷に対する強度を高めることができ、前部梁材17の構成を簡略化できてコスト低下に寄与できるように構成されている。また、前部梁材17の左右方向の長さを、連結体15、16の対向間の長さに厳密に合わせる必要がなく、これらに寸法誤差が生じても、各連結体15、16の内側面15c、16cから突出する各保持片15d、15e、15f、16d、16e、16fにより誤差を吸収することができるという利点もある。
【0015】
叙述の如く構成された本形態において、必要な強度となるよう補強がなされた中実状の前部梁材17は、前部柱材9、10の各上端部と左、右部梁材13、14の各前端部との連結部であって、左右一対の連結体15、16に溶着されるが、これら連結体15、16の互いに対向する内側面15c、16cには、側面視コ字形状の保持凹部15h、16hが形成されていて、前部梁材17の両端部を左右の保持凹部15h、16hに嵌め込むことで、前部梁材17を保持凹部15h、16hに保持させることができる。これによって、補強するべく重量化された前部梁材17を連結体15、16に溶着する場合では、前部梁材17が連結体15、16により保持された状態で溶着作業をすることができて、作業負担が軽減されて作業性が向上し、確実な溶着を容易に行うことができ、しかも、作業時間の短縮を図ることが可能となる。
【0016】
このように、本発明が実施されたものにあっては、前部梁材17を溶着するにあたり、左右一対の前部柱材9と左、右部梁材11との連結部に保持凹部15h、16hを設けて、前部梁材17の溶着時に前部梁材17を保持できるようにしたものであるが、保持凹部15h、16hを鋳物で形成される連結体15、16に形成する構成としたので、保持凹部15h、16hの形成が容易になる。しかも、保持凹部15h、16hは、上下保持片15d、15e、16d、16e、後保持片15f、16fが設けられており、前部梁材17は、左右端部の上下面、および後面に沿う前記各保持片15d、15e、15f、16d、16e、16fによる支持を受ける状態で溶着されるので、連結体15、16との連結強度が高められるうえ、溶着部に作用する負荷を各保持片15d、15e、15f、16d、16e、16fが受け止めることにより負荷を分散することができ、前部梁材17の溶着部の面積を殊更大きくすることなく溶着部の強度を高めることができ、前部梁材17の構成の簡略化が図れてコスト低下に寄与できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、油圧ショベル等の建設作業を行う作業部が設けられた建設機械のキャブの組込み作業において利用することができる。
【符号の説明】
【0018】
1 油圧ショベル
5 キャブ
5d 前側片
8 床材
9 前部柱材
11 後部柱材
13 左部梁材
15 連結体
15c 内側面
15d 上保持片
15f 後保持片
15h 保持凹部
16 連結体
17 前部梁材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱材および梁材を用いて枠組み形成されたキャブを備えてなる建設機械において、キャブの前部に設けられる左右一対の柱材と左右一対の梁材とにより構成される左右の連結部同士の間に、前部梁材を設けるにあたり、前記連結部には、前部梁材の端部を保持する保持部が設けられていることを特徴とする建設機械におけるキャブ。
【請求項2】
前部柱材と左右の梁材とは連結部材を介して連結するものとし、保持部は、前部梁材の端部の少なくとも二面に沿う保持片を有して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の建設機械におけるキャブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−254086(P2010−254086A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105243(P2009−105243)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】