説明

建設機械の騒音制御装置

【課題】作業の周囲環境に合わせて車体騒音を設定した場合にも、その設定の範囲内で最大限の作業を可能にする建設機械の騒音制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン1と、エンジン1によって回転され、アクチュエータ7の駆動油圧源となる可変容量型のメイン油圧ポンプ2と、作動油の温度を検出する油温センサ26と、エンジンの冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ27と、圧縮空気の温度を検出する圧縮空気温度センサ28と、エンジンの回転数を検出する回転数センサ29と、外気温度を検出する外気温センサ31と、騒音値を設定する騒音値指示ダイヤル32と、設定される騒音値と、各センサからの検出値とに基づいて、騒音値設定の範囲内で最大限の作業を可能にするエンジン回転数等を演算し、エンジンの回転数及びメイン油圧ポンプの吐出容量を制御するコントローラ40とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の騒音制御装置に係り、更に詳しくは、作業の周囲環境に合わせて車体騒音を設定した場合にも、その設定の範囲内で最大限の作業を可能にする建設機械の騒音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械、例えば油圧ショベルでは、掘削などの作業を行う関係より常時高いエンジン回転数で使用されることから、エンジンの作動により発生する騒音が騒音源となっている。このため、特に、住宅地、商店街などの人口の密集する都市部にて、建設機械を使用する際、エンジンの騒音が周囲に影響を与えてしまうという問題がある。
【0003】
また、近年では、騒音低減のための規制が厳しくなってきているので、エンジンの騒音を下げることが重要となっている。このため、建設機械が周囲環境に与える騒音を低減するために、騒音検知器で検知したエンジンの騒音値が、所定の騒音レベルよりも大となるときに、エンジンの最大回転数を下げるように制御するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】実開昭57−12471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
建設機械の例えば大型油圧ショベルにおいて、通常の運転時における機械全体から発生する全騒音は、エンジンから発生する騒音より冷却ファンから発生する騒音のほうが大きい場合が多い。例えば、大型油圧ショベルが運転時に発生する騒音を、発生部位毎の騒音の総和とした場合、大略、エンジン部からの騒音が30%、冷却ファン部からの騒音が60%、油圧系統等その他の部位からの騒音が10%の例が計測されている。
【0006】
したがって、このような建設機械に、従来例の騒音防止装置を適用した場合には、エンジン以外の部位から発生する騒音値も下げる必要があるため、エンジンの最大回転数を大きく下げないと、周囲環境に与える建設機械の騒音を低減することができない。
【0007】
この結果、建設機械のエンジン回転数の低下に伴い、その作業能力が著しく低下してしまい、遵守すべき騒音レベルによっては、長時間にわたる建設機械の作業が必要となり、全体の作業工程を延長させてしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的とするところは、作業の周囲環境に合わせて車体騒音を設定した場合にも、その設定の範囲内で最大限の作業を可能にする建設機械の騒音制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、建設機械の騒音を制御する建設機械の騒音制御装置であって、エンジンと、前記エンジンによって回転され、前記建設機械におけるアクチュエータの駆動油圧源となる可変容量型のメイン油圧ポンプと、前記メイン油圧ポンプの作動油の温度を検出する油温センサと、前記エンジンの冷却系に供給される冷却水の温度を検出する冷却水温度センサと、前記エンジンの吸気系に供給される圧縮空気の温度を検出する圧縮空気温度センサと、前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと、前記建設機械の外気温度を検出する外気温センサと、騒音値を設定する騒音値指示ダイヤルと、前記騒音値指示ダイヤルによって設定される騒音値と、前記各センサからの検出値とに基づいて、騒音値設定の範囲内で最大限の作業を可能にするエンジン回転数、及びメイン油圧ポンプの負荷を演算し、この演算値によって、エンジンの回転数、及びメイン油圧ポンプの吐出容量を制御するコントローラとを備えたものとする。
【0010】
(2)上記目的を達成するために、本発明は、建設機械の騒音を制御する建設機械の騒音制御装置であって、エンジンと、前記エンジンによって回転され、前記建設機械におけるアクチュエータの駆動油圧源となる可変容量型のメイン油圧ポンプと、前記エンジンによって回転され、前記建設機械における作動油、冷却水、圧縮空気を冷却する冷却ファンを駆動するファン回転用油圧モータの駆動油圧源となる可変容量型のファン制御用油圧ポンプと、前記メイン油圧ポンプの作動油の温度を検出する油温センサと、前記エンジンの冷却系に供給される冷却水の温度を検出する冷却水温度センサと、前記エンジンの吸気系に供給される圧縮空気の温度を検出する圧縮空気温度センサと、前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと、前記冷却ファンの回転数を検出する回転数センサと、前記建設機械の外気温度を検出する外気温センサと、騒音値を設定する騒音値指示ダイヤルと、前記騒音値指示ダイヤルによって設定される騒音値と、前記各センサからの検出値とに基づいて、騒音値設定の範囲内で最大限の作業を可能にするエンジン回転数、冷却ファン回転数及びメイン油圧ポンプの負荷を演算し、この演算値によって、エンジンの回転数、ファン制御用油圧ポンプの吐出容量、及びメイン油圧ポンプの吐出容量を制御するコントローラとを備えたものとする。
【0011】
(3)上記(1)または(2)において、好ましくは、前記コントローラは、建設機械全体から発生する騒音値を基準にした、外気温度に対応するエンジン回転数と冷却ファン回転数との組み合わせデータ、及び、前記メイン油圧ポンプの作動油と前記エンジンの冷却系に供給される冷却水と前記エンジンの吸気系に供給される圧縮空気とからなる冷却流体の各管理温度値を記憶した記憶部と、前記騒音値指示ダイヤルから入力された騒音設定値と、前記外気温度センサが検出した外気温度とを条件として、前記記憶部に記憶されたエンジン回転数と、冷却ファン回転数との組み合わせデータから、必要となるエンジン及び冷却ファンの回転数を算出する第1の手順と、前記各冷却流体の温度が、前記記憶部に記憶した各冷却流体の管理温度値よりも低いか否かを比較する第2の手順と、前記第2の手順により前記各冷却流体の温度検出値が前記各冷却流体の管理温度値より低いと判断した場合に、前記第1の手順で算出されたエンジン回転数と冷却ファン回転数を制限信号として、それぞれエンジン、メイン油圧ポンプ及びファン制御用油圧ポンプを制御する第3の手順と、前記第2の手順により前記各冷却流体の温度検出値が前記各冷却流体の管理温度値より高いと判断した場合に、前記第1の手順で算出されたエンジン回転数と冷却ファン回転数に補正値を加算して制限信号として、それぞれエンジン、メイン油圧ポンプ及びファン制御用油圧ポンプを制御する第4の手順とを実行する演算部とを備えたものとする。
【0012】
(4)上記(3)において、好ましくは、前記コントローラの記憶部は、前記管理温度値を超えた前記冷却流体の種類ごとに異なる補正値をさらに記憶し、前記演算部は、前記第4の手順において、前記各冷却流体の温度検出値が前記各冷却流体の管理温度値より高いと判断した場合に、前記管理温度値を超えた前記冷却流体の種類ごとに異なる補正値を前記記憶部から読み出し、前記第1の手順で算出されたエンジン回転数と冷却ファン回転数にこの補正値を加算して制限信号として、それぞれエンジン、メイン油圧ポンプ及びファン制御用油圧ポンプを制御するものとする。
【0013】
(5)上記(3)または(4)において、好ましくは、前記コントローラの記憶部は、前記各冷却流体の警報温度値をさらに記憶し、前記演算部は、前記第2の手順において、さらに前記各冷却流体の温度が、前記記憶部に記憶した各冷却流体の警報温度値よりも低いか否かを比較し、高いと判断した場合に、警報を出力するものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の建設機械の騒音制御装置によれば、目標の値に設定された車体騒音値と、外気温度センサで検出した外気温度とを入力し、外気温度と車体騒音値とに対応させて設定したエンジン回転数及び冷却ファン回転数を算出し、この値を制限値として制御するようにしたので、設定した車体騒音値の範囲内で、建設機械を最大限に運転することができる。この結果、建設機械は制限された騒音の範囲内で最大の作業量を出すことができ、作業効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の建設機械の騒音制御装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の建設機械の騒音制御装置の一実施の形態を示す構成図である。この図1において、1はエンジンである。エンジン1には、建設機械におけるアクチュエータの駆動油圧源となる可変容量型のメイン油圧ポンプ2と、冷却ファンの回転数を制御する可変容量型のファン制御用油圧ポンプ3とが連結されている。
【0016】
メイン油圧ポンプ2は、作動油タンク4内の作動油を加圧し、作動油を管路5によってコントロールバルブ6に供給する。コントロールバルブ6は、メイン油圧ポンプ2からの作動油を、建設機械におけるアクチュエータである油圧シリンダ7、及び油圧モータ8に供給する。コントロールバルブ6からの戻り油は、管路9、オイルクーラ10、管路11を通して、作動油タンク4に戻される。
【0017】
ファン制御用油圧ポンプ3は、作動油タンク4内の作動油を加圧し、吐出作動油を管路12によってファン回転用油圧モータ13に供給する。ファン回転用油圧モータ13からの流出する作動油は、管路14によって管路9に連結されている。ファン回転用油圧モータ13の出力軸には、冷却用ファン15が取り付けられている。
【0018】
冷却用ファン15に対向する箇所には、オイルクーラ10、エンジン1の冷却媒体であるクーラント(冷却水)の放熱器としてのラジエータ16、エンジン1に供給される空気の放熱器としてのインタークーラ17、及びエアコン18のコンデンサ19が配置されている。
【0019】
ラジエータ16は、管路20,21によって、エンジン1の冷却系に連結されている。インタークーラ17は、その入口側が管路22によってターボチャージャ23に、その出口側が管路24によってエンジン1の吸気系に連結されている。エアコン18のコンデンサ19は、エンジン1によって回転されるコンプレッサ25を介してエアコン18に連結されている。
【0020】
上述したオイルクーラ10の作動油の温度T2、エンジン1の冷却系に供給される冷却水の温度T3、エンジン1の吸気系に供給される圧縮空気の温度T4、エンジン1の回転数、冷却用ファン15の回転数、及び外気温度T1をそれぞれ検出するために、オイルクーラ10の戻り側の管路11には、作動油の温度T2を検出する油温センサ26が取り付けられている。ラジエータ16の管路21には、エンジン1の冷却系に供給される冷却水の温度T3を検出する冷却水温度センサ27が取り付けられている。インタークーラ17の管路24には、エンジン1の吸気系に供給される圧縮空気の温度T4を検出する圧縮空気温度センサ28が取り付けられている。また、エンジン1及び冷却ファン15には、それぞれの回転数を検出する回転数センサ29及び30が取り付けられている。更に、建設機械の本体(図示せず)には、外気温度T1を検出する外気温センサ31が取り付けられている。
【0021】
コントローラ40は、予め各種設定値を記憶する記憶部(メモリ)41と、各種手順を実行する演算部(CPU)42と、入力部43と、出力部44とを備えるコントローラユニットで構成されている。
【0022】
コントローラ40の入力部43には、油温センサ26、冷却水温度センサ27、圧縮空気温度センサ28、回転数センサ29及び30、外気温センサ31が接続されていて、各センサからの検出信号が入力される。また、コントローラ40の入力部43には、騒音値指示ダイヤル32が接続されていて、騒音値指示ダイヤル32によって設定される騒音設定値が入力される。
【0023】
コントローラ40の出力部44は、例えば図示しないエンジンコントローラにエンジン回転数指令及びエンジントルク指令等を出力する。エンジンコントローラは、この指令値から必要な燃料噴射量を演算し、図示しない燃料噴射制御装置を制御することによって、所定のエンジン回転数を保持することができる。また、例えば斜板式ピストンポンプで構成されるメイン油圧ポンプ2とファン制御用油圧ポンプ3の場合、コントローラ40の出力部44は、それぞれの斜板の傾きを駆動制御する図示しない比例制御弁の電磁ソレノイドに電流信号を出力する。電流信号を受けた電磁ソレノイドは、比例制御弁の弁位置を変化させて、これら油圧ポンプの斜板を駆動制御することによって、吐出油流量を変化させる。この結果、メイン油圧ポンプ2及びファン制御用油圧ポンプ3のポンプ負荷がそれぞれ制御され、ファン回転用油圧モータ13の回転数すなわち冷却用ファン15の回転数も制御される。
【0024】
ところで、コントローラ40の記憶部41には、建設機械全体から発生する各部騒音の総和である全騒音値を基準にした、外気温度T1に対応する最大エンジン回転数と冷却ファン回転数との組み合わせデータが、予め入力されて設定されている。つまり、外気温度T1の状態において、この回転数の組合せでエンジン1及び冷却ファン15が運転されれば、建設機械の全騒音値は、所定の騒音値以下であって、オーバーヒート等の問題なく稼働させることができる。また、記憶部41には、建設機械を適正に稼働するための、各種冷却流体の管理温度値が記憶されている。各種冷却流体の温度としては、例えば、オイルクーラ10の作動油の温度T2、エンジン1の冷却系に供給される冷却水の温度T3、エンジン1の吸気系に供給される圧縮空気の温度T4等があり、これらの検出温度のいずれかが、所定の管理温度値を超えた場合には、建設機械の負荷を軽減するなどの処置が必要となる。
【0025】
また、コントローラ40の演算部42は、騒音値指示ダイヤル32から入力された騒音設定値と、外気温センサ31から入力された外気温度T1とを条件として、記憶部41から、目標騒音になるエンジン回転数と冷却ファン回転数とを演算して算出する手順と、この演算されたエンジン回転数と冷却ファン回転数を制限信号として、それぞれエンジン1、メイン油圧ポンプ2、及びファン制御用油圧ポンプ3を制御する手順とを含んでいる。
【0026】
上述した建設機械全体から発生する全騒音値と外気温度T1とに基づいて設定される最大エンジン回転数と、冷却ファン回転数の設定の一例を、図2を用いて説明する。
図2は、本発明の建設機械の騒音制御装置の一実施の形態のコントローラに記憶される全騒音値と外気温度とに基づくエンジン/冷却ファン回転数の一例を示す説明図である。図2において、上側の表は、全騒音が115dB以下の場合を示し、下側の表は、全騒音が110dB以下の場合を示す。コントローラ40の記憶部41には、このような記憶テーブルの形式でデータが記憶されていて、例えば0.1dBごと記憶テーブルが設定される場合には、記憶されていないデータ(例えば0.05dB差の騒音値)は補間演算処理により算出される。また、記憶テーブルにおける外気温度についても、同様に処理される。
【0027】
図2の上側の表において、例えば、外気温度15度の場合は、ファン回転数は600回転、エンジン回転数は、1700回転で運転すべきことを示す。つまり、外気温度15度の下、全騒音を115dB以下として建設機械を運転する場合には、ファン回転数を600回転に制御すると共に、エンジンの最大回転数を1700回転に制限する制御が行われれば、機械の全騒音を115dB以下に制限し継続して稼働させることができる。一方、外気温度が30度の場合には、冷却能力を確保する必要があるため、ファン回転数を800回転に上昇させると共に、エンジン回転数を1500回転に制限する必要が生じる。このような状態で運転することにより、建設機械がオーバーヒート等することなく継続して稼働させることができる。これらのデータは、建設機械の試作機での実験や、各構成部品の解析結果から作成することができる。図2の下側の表は、全騒音を100dB以下として建設機械を運転する場合のエンジン/ファン回転数を示している。
【0028】
次に、上述した本発明の建設機械の騒音制御装置の一実施の形態の動作を、図1乃至図3を用いて説明する。図3は、本発明の建設機械の騒音制御装置の一実施の形態による制限制御の演算を示すフローチャート図である。
【0029】
まず、図3のステップ(S100)では、キースイッチONにより、コントローラ40に制御電源が供給され制御プログラムがスタートし、例えば初期化処理などが行われる。その後、設定された目標騒音値を騒音値指示ダイヤル32が検出し、演算部42における演算の制御条件としてコントローラ40の入力部43に入力される(S102)。
【0030】
次のステップ(S104)では、建設機械の本体に取り付けられている外気温センサ31が外気温度T1を検出し、演算部42における演算の制御条件としてコントローラ40の入力部43に入力される。
【0031】
次のステップ(S106)では、設定された目標騒音値の範囲内で、外気温度T1の下で、建設機械がオーバーヒートすることなく運転継続できるエンジン1及び冷却ファン15の回転数を、コントローラ40の演算部42が算出する。具体的には、上記ステップ(S102)とステップ(S104)とで入力された目標騒音値と外気温度T1を基準として、記憶部41に記憶された最大エンジン回転数と、冷却ファン回転数との組み合わせデータから、必要となるエンジン1及び冷却ファン15の回転数を算出する。算出されたこれらの回転数は、記憶部42に一時的に記憶される。
【0032】
次のステップ(S108)では、オイルクーラ10の戻り側の管路11に取り付けられている油温センサ26が作動油の温度T2を検出し、ラジエータ16の管路21に取り付けられている冷却水温度センサ27がエンジン1の冷却系に供給される冷却水の温度T3を検出し、インタークーラ17の管路24に取り付けられている圧縮空気温度センサ28がエンジン1の吸気系に供給される圧縮空気の温度T4を検出し、演算部42における演算の制御条件としてコントローラ40の入力部43にそれぞれ入力される。
【0033】
次のステップ(S110)では、演算部42が制御モードの選択を行う。具体的には、上記ステップ(S108)で入力された各冷却流体の温度T2〜T4と、予め記憶部41に記憶された各冷却流体の管理温度値との比較演算を行う。この比較演算の結果、一つも管理温度値を超えるものがない場合には、YESと判断され通常制御モードが選択され、ステップ(S112)に移る。
【0034】
ステップ(S112)では、演算部42が、上述したステップ(S106)で算出された一時記憶されたエンジン1及び冷却ファン15の回転数を読み出し、このエンジン回転数と冷却ファン回転数を制限信号として、それぞれエンジン1、メイン油圧ポンプ2、及びファン制御用油圧ポンプ3を制御する。このような制限信号を設定した後、先のステップ(S102)に戻る。
【0035】
上述したステップ(S110)において、NOと判断された場合は、いずれかの冷却流体の温度が管理温度値を超えている場合であるから、所定の全騒音値の範囲内において、建設機械の負荷制限を図ると共に、冷却能力は増加する必要がある。このため、補正制御モードが選択され、ステップ(S114)に移る。
【0036】
ステップ(S114)では、演算部42が、上述したステップ(S106)で算出された一時記憶されたエンジン1及び冷却ファン15の回転数を読み出すとともに、これらの回転数に所定の補正値を加算して制限信号を算出する。例えば、エンジン1の回転数については、読み出し値からさらに−20回転を加算し、冷却ファン15の回転数には+10回転を加算して制限信号を算出する。この算出されたエンジン回転数と冷却ファン回転数を制限信号として、それぞれエンジン1、メイン油圧ポンプ2、及びファン制御用油圧ポンプ3を制御する。このような制限信号を設定した後、先のステップ(S102)に戻る。なお、例えば、管理温度値を超えた各冷却流体T2〜T4の系統毎に、異なった補正信号を予め記憶部41に記憶させて、補正信号の値を増減させることも可能である。つまり、油温度T2が管理温度値を超えた場合には、エンジン回転数を−10回転加算し、冷却水温度T3が管理温度値を超えた場合には、−20回転加算とする等が考えられる。また、管理温度値を超えた検出値のその過剰分に比例して補正信号を増減させることも可能である。さらに、検出値が管理温度値を超えない場合であっても、検出値と管理温度値の差異が小さい場合には、警報を出力させるように構成しても良い。
【0037】
上述した本発明の建設機械の騒音制御装置の一実施の形態によれば、目標の値に設定された車体騒音値と、外気温度センサ31で検出した外気温度T1とを入力し、外気温度T1と車体騒音値とに対応させて設定したエンジン1の回転数及び冷却ファン15の回転数を算出し、この値を制限値として制御するようにしたので、設定した車体騒音値の範囲内で、建設機械を最大限に運転することができる。この結果、建設機械は制限された騒音の範囲内で最大の作業量を出すことができ、作業効率を向上することができる。
【0038】
また、建設機械の各冷却流体の温度(作動油の温度T2、エンジン1の冷却系に供給される冷却水の温度T3、エンジン1の吸気系に供給される圧縮空気の温度T4等)を検出し、管理温度値を超えた場合には、さらに負荷制限すると共に冷却効果を上昇させているので、設定した車体騒音値の範囲内でオーバーヒートすることなく長時間稼働させることができる。この結果、オペレータの負担が軽減され、安全な作業が容易になり作業効率の向上が図れる。
【0039】
なお、本発明の実施の形態においては、冷却用ファン15をファン回転用油圧モータ13で駆動し、このファン回転用油圧モータ13の駆動油圧源としてのファン制御用油圧ポンプ3が単独で設けられている場合を例に説明したが、これに限られるものではなく、冷却用ファンの回転数が制御できる形態であれば、本発明は適用することができる。
【0040】
なお、本発明の実施の形態においては、建設機械として大型油圧ショベルを例に説明したが、これに限られるものではなく、例えば油圧クレーン等の他の建設機械にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の建設機械の騒音制御装置の一実施の形態を示す構成図である。
【図2】本発明の建設機械の騒音制御装置の一実施の形態のコントローラに記憶される全騒音値と外気温度とに基づくエンジン/冷却ファン回転数のデータの一例を示す説明図である。
【図3】本発明の建設機械の騒音制御装置の一実施の形態による制限制御の演算を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0042】
1 エンジン
2 メイン油圧ポンプ
3 ファン制御用油圧ポンプ
4 作動油タンク
7 油圧シリンダ
10 オイルクーラ
13 ファン回転用油圧モータ
15 冷却用ファン
16 ラジエータ
17 インタークーラ
18 エアコン
19 コンデンサ
23 ターボチャージャ
25 コンプレッサ
26 油温センサ
27 冷却水温度センサ
28 圧縮空気温度センサ
29 エンジン回転数センサ
30 冷却用ファン回転数センサ
31 外気温センサ
32 騒音値指示ダイヤル
40 コントローラ
41 記憶部
42 演算部
43 入力部
44 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の騒音を制御する建設機械の騒音制御装置であって、
エンジンと、
前記エンジンによって回転され、前記建設機械におけるアクチュエータの駆動油圧源となる可変容量型のメイン油圧ポンプと、
前記メイン油圧ポンプの作動油の温度を検出する油温センサと、
前記エンジンの冷却系に供給される冷却水の温度を検出する冷却水温度センサと、
前記エンジンの吸気系に供給される圧縮空気の温度を検出する圧縮空気温度センサと、
前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと、
前記建設機械の外気温度を検出する外気温センサと、
騒音値を設定する騒音値指示ダイヤルと、
前記騒音値指示ダイヤルによって設定される騒音値と、前記各センサからの検出値とに基づいて、騒音値設定の範囲内で最大限の作業を可能にするエンジン回転数、及びメイン油圧ポンプの負荷を演算し、この演算値によって、エンジンの回転数、及びメイン油圧ポンプの吐出容量を制御するコントローラとを備えたことを特徴とする建設機械の騒音制御装置。
【請求項2】
建設機械の騒音を制御する建設機械の騒音制御装置であって、
エンジンと、
前記エンジンによって回転され、前記建設機械におけるアクチュエータの駆動油圧源となる可変容量型のメイン油圧ポンプと、
前記エンジンによって回転され、前記建設機械における作動油、冷却水、圧縮空気を冷却する冷却ファンを駆動するファン回転用油圧モータの駆動油圧源となる可変容量型のファン制御用油圧ポンプと、
前記メイン油圧ポンプの作動油の温度を検出する油温センサと、
前記エンジンの冷却系に供給される冷却水の温度を検出する冷却水温度センサと、
前記エンジンの吸気系に供給される圧縮空気の温度を検出する圧縮空気温度センサと、
前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと、
前記冷却ファンの回転数を検出する回転数センサと、
前記建設機械の外気温度を検出する外気温センサと、
騒音値を設定する騒音値指示ダイヤルと、
前記騒音値指示ダイヤルによって設定される騒音値と、前記各センサからの検出値とに基づいて、騒音値設定の範囲内で最大限の作業を可能にするエンジン回転数、冷却ファン回転数及びメイン油圧ポンプの負荷を演算し、この演算値によって、エンジンの回転数、ファン制御用油圧ポンプの吐出容量、及びメイン油圧ポンプの吐出容量を制御するコントローラとを備えたことを特徴とする建設機械の騒音制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建設機械の騒音制御装置において、
前記コントローラは、建設機械全体から発生する騒音値を基準にした、外気温度に対応するエンジン回転数と冷却ファン回転数との組み合わせデータ、及び、前記メイン油圧ポンプの作動油と前記エンジンの冷却系に供給される冷却水と前記エンジンの吸気系に供給される圧縮空気とからなる冷却流体の各管理温度値を記憶した記憶部と、
前記騒音値指示ダイヤルから入力された騒音設定値と、前記外気温度センサが検出した外気温度とを条件として、前記記憶部に記憶されたエンジン回転数と、冷却ファン回転数との組み合わせデータから、必要となるエンジン及び冷却ファンの回転数を算出する第1の手順と、
前記各冷却流体の温度が、前記記憶部に記憶した各冷却流体の管理温度値よりも低いか否かを比較する第2の手順と、
前記第2の手順により前記各冷却流体の温度検出値が前記各冷却流体の管理温度値より低いと判断した場合に、前記第1の手順で算出されたエンジン回転数と冷却ファン回転数を制限信号として、それぞれエンジン、メイン油圧ポンプ及びファン制御用油圧ポンプを制御する第3の手順と、
前記第2の手順により前記各冷却流体の温度検出値が前記各冷却流体の管理温度値より高いと判断した場合に、前記第1の手順で算出されたエンジン回転数と冷却ファン回転数に補正値を加算して制限信号として、それぞれエンジン、メイン油圧ポンプ及びファン制御用油圧ポンプを制御する第4の手順とを実行する演算部とを備えた
ことを特徴とする建設機械の騒音制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の建設機械の騒音制御装置において、
前記コントローラの記憶部は、前記管理温度値を超えた前記冷却流体の種類ごとに異なる補正値をさらに記憶し、
前記演算部は、前記第4の手順において、前記各冷却流体の温度検出値が前記各冷却流体の管理温度値より高いと判断した場合に、前記管理温度値を超えた前記冷却流体の種類ごとに異なる補正値を前記記憶部から読み出し、前記第1の手順で算出されたエンジン回転数と冷却ファン回転数にこの補正値を加算して制限信号として、それぞれエンジン、メイン油圧ポンプ及びファン制御用油圧ポンプを制御する
ことを特徴とする建設機械の騒音制御装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の建設機械の騒音制御装置において、
前記コントローラの記憶部は、前記各冷却流体の警報温度値をさらに記憶し、
前記演算部は、前記第2の手順において、さらに前記各冷却流体の温度が、前記記憶部に記憶した各冷却流体の警報温度値よりも低いか否かを比較し、高いと判断した場合に、警報を出力する
ことを特徴とする建設機械の騒音制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−133149(P2010−133149A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309949(P2008−309949)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】