説明

建設機械

【課題】 旋回装置のピニオンと旋回輪の内歯との間に生じたバックラッシを容易に調整する。
【解決手段】 旋回装置11のケーシング12に設けた円形嵌合突部12Cの中心Aに対し、ケーシング12に回転可能に支持された出力軸19の軸中心Dを寸法Eだけ偏心させる構成とする。このため、旋回フレーム6の取付座7に旋回装置11を取付けるときに、取付座7の円形嵌合孔7Aにケーシング12の円形嵌合突部12Cを嵌合させた状態で、ケーシング12を円形嵌合突部12Cを中心として回転させることにより、出力軸19のピニオン23を旋回輪3の内歯3Dに対して接近、離間する方向に位置調整することができる。これにより、取付座7の円形嵌合孔7Aにケーシング12の円形嵌合突部12Cを嵌合させた状態で、旋回輪3の内歯3Dとピニオン23との噛合部のバックラッシを容易に調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン等の基体上に旋回体が旋回可能に搭載された建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル、油圧クレーン等の建設機械は、走行体等の基体と、該基体上に旋回輪を介して旋回可能に搭載された旋回体と、旋回体を基体に対して旋回させる旋回装置とにより大略構成されている。
【0003】
ここで、基体と旋回体との間に設けられる旋回輪は、通常、基体の上面側に取付けられる内輪と、旋回体の下面側に取付けられる外輪と、これら外輪と内輪との間に設けられる多数の鋼球(転動体)とにより構成され、内輪の内周側には全周に亘って内歯が形成されている。
【0004】
また、旋回装置は、旋回体に取付けられるケーシングと、該ケーシング内に設けられ回転源の回転を減速する減速機構と、前記ケーシングに回転可能に支持され該減速機構によって減速された回転を出力する出力軸と、該出力軸の下端側に一体形成され旋回輪の内輪に設けられた内歯に噛合するピニオンとを備えて構成されている。
【0005】
そして、油圧モータ等の回転源が回転すると、この回転が減速機構によって減速されて出力軸に伝わることにより、ピニオンが大きな回転力(トルク)をもって回転する。そして、回転するピニオンが、旋回輪の内輪に設けた内歯に噛合しつつ内輪に沿って公転し、このピニオンの公転力がケーシングを介して旋回体に伝わることにより、基体上で旋回体が旋回する構成となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−264670号公報
【0007】
ここで、旋回体のうち旋回輪の近傍部位には、通常、旋回装置のピニオンの外径寸法よりも大径な円形嵌合孔が形成され、旋回装置のケーシングの下端側には、旋回体の円形嵌合孔に対応する突起状の円形嵌合突部が設けられている。そして、旋回装置のケーシングに設けられた円形嵌合突部を、旋回体の円形嵌合孔に嵌合(いんろう嵌合)させた状態で、旋回装置のケーシングを、複数のボルトを用いて旋回体に取付ける構成となっている。
【0008】
この場合、ケーシングに支持された出力軸の軸中心は、ケーシングに設けられた円形嵌合突部の中心と一致しており、ケーシングの円形嵌合突部が旋回体の円形嵌合孔に嵌合した状態で、出力軸に設けられたピニオンが、旋回輪の内輪に設けられた内歯に噛合するように構成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、旋回輪の内輪に内歯を形成するときの加工公差と、出力軸の下端側にピニオンを形成するときの加工公差とにより、旋回輪(内輪)の内歯にピニオンを噛合させたときに、これら内歯とピニオンとの噛合部にはバックラッシが生じる。そして、内歯とピニオンとの噛合部に大きなバックラッシが生じた場合には、旋回体が旋回動作を行うときにガタが発生し、この分、旋回体の円滑な旋回動作が損なわれてしまうという問題がある。
【0010】
この場合、旋回装置のピニオンは、ケーシングに設けた円形嵌合突部が旋回体に設けた円形嵌合孔に嵌合した状態で、旋回輪の内歯に噛合するように位置決めされる。従って、旋回体に旋回装置を取付けたときに内歯とピニオンとの噛合部に大きなバックラッシが生じたとしても、このバックラッシを調整するためにピニオンの取付位置を調整することが困難であるという不具合がある。
【0011】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、旋回装置のピニオンと旋回輪の内歯との間に生じたバックラッシを容易に調整することができるようにした建設機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため本発明は、基体と、該基体に内輪が取付けられ該内輪の外周側に外輪が回転可能に設けられた旋回輪と、該旋回輪の外輪に取付けられ前記旋回輪の位置に円形な嵌合孔が設けられた旋回体と、該旋回体に取付けられ前記旋回体を前記基体に対して旋回させる旋回装置とを備え、前記旋回装置は、筒状体をなし下端側に前記旋回体の嵌合孔に嵌合する円形嵌合突部が設けられ該円形嵌合突部を前記嵌合孔に嵌合させた状態で前記旋回体に取付けられるケーシングと、該ケーシング内に設けられ回転源の回転を減速する減速機構と、前記ケーシングに回転可能に支持され該減速機構によって減速された回転を出力する出力軸と、該出力軸に設けられ前記旋回輪の内輪に設けられた内歯に噛合するピニオンとにより構成してなる建設機械に適用される。
【0013】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記出力軸の軸中心を前記ケーシングの円形嵌合突部の中心に対して偏心させたことにある。
【0014】
請求項2の発明は、前記ケーシングには、当該ケーシングを前記旋回体に締結するボルトが挿通される複数のボルト挿通孔を前記円形嵌合突部と同心円上に配置して設け、前記各ボルト挿通孔は、前記ケーシングが前記旋回体に対し前記円形嵌合突部を中心として回転するのを許す長孔または大径孔により構成したことにある。
【0015】
請求項3の発明は、前記ケーシングを前記旋回体に対して回転させたときに当該ケーシングの回転角度を確認するための目盛り手段を設ける構成としたことにある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、ケーシングに支持された出力軸の軸中心を、ケーシングの円形嵌合突部の中心に対して偏心させたので、ケーシングの円形嵌合突部を旋回体の嵌合孔に嵌合させた状態においても、この円形嵌合突部を中心としてケーシングを旋回体に対して回転させることにより、出力軸に設けられたピニオンを、旋回輪の内歯に対して接近、離間する方向に移動させることができる。これにより、旋回輪の内歯に対してピニオンを位置調整することができ、旋回輪の内歯とピニオンとの噛合部に生じるバックラッシを適宜に調整することができる。この結果、ケーシングを旋回体に取付けた後においても、ピニオンの位置を調整して旋回輪の内歯に適正に噛合させることにより、旋回装置によって旋回体を円滑に旋回させることができ、建設機械の信頼性を高めることができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、ケーシングの円形嵌合突部と同心円上に配置した各ボルト挿通孔を、長孔または大径孔により構成したので、ケーシングの円形嵌合突部を旋回体の嵌合孔に嵌合させた状態でも、各ボルトを緩めることにより、長孔または大径孔の範囲でケーシングを旋回体に対して回転させることができる。これにより、ケーシングに支持された出力軸のピニオンを、旋回輪の内歯に対して位置調整し、両者の噛合部のバックラッシを適宜に調整した状態で、ケーシングの長孔または大径孔に挿通したボルトを用いてケーシングを旋回体に締結することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、ケーシングを旋回体に対して回転させることにより、ピニオンと旋回輪の内歯との噛合部のバックラッシを調整したときに、ケーシングの回転角度がどれくらいであったかを目盛り手段によって確認することができる。従って、例えば旋回装置の点検、保守作業時に旋回体から旋回装置を取外した後、この旋回装置を再び旋回体に取付けるときに、ピニオンと旋回輪の内歯との噛合部のバックラッシの調整作業を迅速かつ容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る建設機械の実施の形態を、油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
まず、図1ないし図6は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は建設機械の代表例としての油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、基体としての自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2の丸胴2A上に設けられた旋回輪3と、該旋回輪3を介して下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体4と、該上部旋回体4を下部走行体2に対して旋回させる後述の旋回装置11とにより大略構成されている。そして、上部旋回体4の前部側にはスイング式の作業装置5が設けられ、該作業装置5によって土砂の掘削作業等を行う構成となっている。
【0021】
ここで、旋回輪3は、図3に示すように、下部走行体2の丸胴2A上に取付けられた内輪3Aと、後述する旋回フレーム6の底板6Aの下面側に取付けられた外輪3Bと、内輪3Aと外輪3Bとの間に配設された複数の鋼球3C(1個のみ図示)とからなり、内輪3Aの内周側には全周に亘って内歯3Dが形成されている。そして、旋回フレーム6に取付けられた外輪3Bが、後述の旋回装置11によって内輪3Aの周囲を回転することにより、上部旋回体4が下部走行体2上で旋回する構成となっている。
【0022】
次に、6は上部旋回体4のベースとなる旋回フレームで、該旋回フレーム6は、図2に示すように、左,右方向の中央部を前,後方向に延びる厚肉な平板状の底板6Aと、該底板6Aの上面側に立設され前,後方向に延びた左,右の縦板6B,6Cと、これら左,右の縦板6B,6Cの前端部に設けられ作業装置5を支持する支持ブラケット6Dと、底板6Aの左側に設けられた円弧状の左枠部材6Eと、底板6Aの右側に設けられた円弧状の右枠部材6Fとにより大略構成され、強固な支持構造体をなしている。
【0023】
ここで、旋回フレーム6の底板6Aのうち旋回輪3を臨む位置には、左,右の縦板6B,6C間に位置してピニオン挿通孔6Gが穿設されている。そして、このピニオン挿通孔6Gは、後述する旋回装置11のピニオン23が挿通されるものである。また、底板6Aの上面側には、ピニオン挿通孔6Gを取囲んで後述の取付座7が設けられている。
【0024】
7は旋回フレーム6の底板6Aに設けられた取付座で、該取付座7は、後述の旋回装置11が取付けられるものである。ここで、取付座7は、図2ないし図4に示すように環状な板体によって形成され、底板6Aに穿設されたピニオン挿通孔6Gを取囲んだ状態で、溶接等の手段を用いて底板6Aの上面側に固着されている。
【0025】
7Aは取付座7の内周側に形成された嵌合孔としての円形嵌合孔で、該円形嵌合孔7Aは、後述するケーシング12の円形嵌合突部12Cが嵌合するものである。また、取付座7には、後述のボルト13が螺合する複数のボルト孔(雌ねじ孔)7B,7B,…が周方向に間隔をもって螺設されている。
【0026】
次に、11は上部旋回体4側に設けられた旋回装置で、該旋回装置11は、旋回輪3に回転力を伝達することにより、上部旋回体4を下部走行体2に対して旋回させるものである。ここで、旋回装置11は、図3ないし図5に示すように、後述のケーシング12、旋回モータ14、減速機構16、出力軸19、ピニオン23等により構成されている。
【0027】
12は筒状体をなすケーシングで、該ケーシング12は、旋回フレーム6の取付座7に取付けられる段付き円筒状の下側ケーシング12Aと、該下側ケーシング12Aの上端側にボルト締めされた段付き円筒状の上側ケーシング12Bとにより大略構成され、旋回装置11の外殻を構成するものである。
【0028】
ここで、下側ケーシング12Aの下端側には、円形嵌合突部12Cが下向きに突設され、該円形嵌合突部12Cは、旋回フレーム6に設けられた取付座7の円形嵌合孔7Aに嵌合(いんろう嵌合)するものである。また、下側ケーシング12Aの下面には、円形嵌合突部12Cから径方向外側に張出す大径な下フランジ部12Dが設けられ、該下フランジ部12Dには後述の各長孔12Gが設けられている。
【0029】
一方、上側ケーシング12Bの上端側には、径方向外側に張出す上フランジ部12Eが設けられ、この上フランジ部12Eは、後述の旋回モータ14が取付けられるものである。また、上側ケーシング12Bの内周側には、全周に亘って内歯(リングギヤ)12Fが形成され、この内歯12Fには、後述の各遊星歯車17B,18Bが噛合する構成となっている。
【0030】
12G,12G,…はケーシング12の下フランジ部12Dに設けられた複数のボルト挿通孔としての長孔で、これら各長孔12Gは、旋回フレーム6の取付座7に設けられた各ボルト孔7Bに対応した位置に配置されている。そして、各長孔12Gに挿通したボルト13を取付座7のボルト孔7Bに螺合することにより、ケーシング12は、円形嵌合突部12Cを取付座7の円形嵌合孔7Aに嵌合させた状態で、当該取付座7にボルト締めされる構成となっている。
【0031】
この場合、図3及び図5に示すように、円形嵌合突部12Cの中心をAとすると、下フランジ部12Dの各長孔12Gは、円形嵌合突部12Cの中心Aを中心とした半径Bの同心円C上に配置され、かつ、この同心円Cに沿って円弧状に湾曲している。従って、ボルト13を緩めた状態では、各長孔12Gは、ケーシング12が円形嵌合突部12Cを中心として回転するのを許す構成となっている。
【0032】
14はケーシング12の上端側に取付けられた回転源としての旋回モータで、該旋回モータ14は、油圧モータにより構成されている。そして、旋回モータ14のモータハウジング14Aが、ボルト15を用いてケーシング12の上フランジ部12Eに取付けられることにより、旋回モータ14のモータ軸14Bが、ケーシング12内に突出する構成となっている。
【0033】
16はケーシング12の上側ケーシング12B内に設けられた減速機構で、該減速機構16は、旋回モータ14(モータ軸14B)の回転を減速するものである。ここで、減速機構16は、後述する1段目の遊星歯車減速機構17と、2段目の遊星歯車減速機構18とにより構成されている。
【0034】
17は旋回モータ14の下側に位置してケーシング12(上側ケーシング12B)内に設けられた1段目の遊星歯車減速機構で、該遊星歯車減速機構17は、旋回モータ14のモータ軸14Bにスプライン結合された太陽歯車17Aと、ケーシング12の内歯12Fと太陽歯車17Aとに噛合し、太陽歯車17Aの周囲を自転しつつ公転する複数(例えば3個)の遊星歯車17Bと、これら各遊星歯車17Bを回転可能に支持し、各遊星歯車17Bの公転力を2段目の遊星歯車減速機構18に伝達するキャリア17Cとにより大略構成されている。
【0035】
18は1段目の遊星歯車減速機構17の下側に位置してケーシング12(上側ケーシング12B)内に設けられた2段目の遊星歯車減速機構で、該遊星歯車減速機構18は、1段目の遊星歯車減速機構17のキャリア17Cにスプライン結合された太陽歯車18Aと、ケーシング12の内歯12Fと太陽歯車18Aとに噛合し、太陽歯車18Aの周囲を自転しつつ公転する複数(例えば3個)の遊星歯車18Bと、これら各遊星歯車18Bを回転可能に支持し、各遊星歯車18Bの公転力を後述の出力軸19に伝達するキャリア18Cとにより大略構成されている。
【0036】
19はケーシング12内を上,下方向に伸長して設けられた出力軸で、該出力軸19は、上側軸受20、下側軸受21を介して下側ケーシング12Aに回転可能に取付けられ、各遊星歯車減速機構17,18によって2段減速された旋回モータ14の回転を出力するものである。
【0037】
ここで、出力軸19の上端側には、上側軸受20から上方に突出する軸スプライン部19Aが一体に設けられ、この軸スプライン部19Aは、2段目の遊星歯車減速機構18のキャリア18Cにスプライン結合されるものである。また、出力軸19の軸スプライン部19Aと上側軸受20の内輪との間には、環状の与圧リング22が設けられ、該与圧リング22は、上側軸受20、下側軸受21を軸方向に与圧すると共に上側軸受20に対して出力軸19を軸方向に抜止めするものである。
【0038】
23は出力軸19の下端側に一体に設けられたピニオンで、該ピニオン23は、ケーシング12から下方に突出し、旋回フレーム6の底板6Aに設けられたピニオン挿通孔6Gを通じて旋回輪3の内輪3Aと対面している。そして、ピニオン23は、内輪3Aの内歯3Dに噛合することにより、出力軸19の回転を旋回輪3(内輪3A)に伝達するものである。
【0039】
ここで、図5及び図6に示すように、出力軸19の軸中心Dは、ケーシング12に設けられた円形嵌合突部12Cの中心Aに対し、寸法(偏心量)Eだけ偏心する構成となっている。従って、ケーシング12を取付座7に対し、円形嵌合突部12Cを中心として矢印F方向に回転させると、図6に示すように、出力軸19の軸中心Dは、円形嵌合突部12Cの中心Aを中心として半径Eの円形な軌跡G上を移動するようになる。
【0040】
これにより、出力軸19に設けられたピニオン23を、旋回輪3の内歯3Dに対して接近、離間する方向に移動させることができ、ケーシング12の円形嵌合突部12Cを取付座7の円形嵌合孔7Aに嵌合させた状態においても、旋回輪3の内歯3Dとピニオン23との噛合部に生じるバックラッシを適宜に調整することができる構成となっている。
【0041】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、この油圧ショベル1は、下部走行体2によって作業現場まで自走し、旋回装置11によって上部旋回体4を旋回させつつ、作業装置5を用いて土砂等の掘削作業を行う。
【0042】
ここで、上部旋回体4を旋回させるときには、まず、旋回モータ14のモータ軸14Bが回転し、このモータ軸14Bの回転が遊星歯車減速機構17,18によって2段減速されて出力軸19に伝わることにより、ピニオン23が大きな回転力(トルク)をもって回転する。
【0043】
そして、ピニオン23が旋回輪3の内輪3Aに設けた内歯3Dと噛合しつつ内輪3Aに沿って公転し、このピニオン23の公転力がケーシング12を介して旋回フレーム6に伝わることにより、上部旋回体4が下部走行体2上で旋回動作を行う。
【0044】
ここで、本実施の形態では、ケーシング12に設けた円形嵌合突部12Cの中心Aに対し、ケーシング12に回転可能に支持された出力軸19の軸中心Dを寸法Eだけ偏心させることにより、旋回フレーム6の取付座7に旋回装置11を取付けるときに、旋回輪3の内歯3Dと出力軸19のピニオン23との噛合部のバックラッシを容易に調整することができるようになっており、以下、旋回装置11の取付け作業について説明する。
【0045】
まず、図4に示すように、旋回装置11を組立てた状態で、この旋回装置11のピニオン23を、旋回フレーム6に設けた取付座7の円形嵌合孔7A内に挿通する。そして、図3に示すように、旋回装置11のケーシング12に設けられた円形嵌合突部12Cを、取付座7の円形嵌合孔7Aに嵌合させる。
【0046】
そして、ケーシング12の下フランジ部12Dに設けた各長孔12Gにボルト13を挿通し、このボルト13を取付座7の各ボルト孔7Bに仮止め状態に螺合させることにより、ケーシング12を取付座7に対し、円形嵌合突部12Cを中心として回転可能な状態に仮止めする。
【0047】
ここで、ケーシング12の各長孔12Gは、円形嵌合突部12Cの中心Aを中心とした半径Bの同心円C上に配置され、かつ、この同心円Cに沿って円弧状に湾曲しているため、各長孔12Gの範囲内で、ケーシング12を円形嵌合突部12Cを中心として回転させることができる。
【0048】
また、ケーシング12に回転可能に支持された出力軸19の軸中心Dは、ケーシング12に設けた円形嵌合突部12Cの中心Aに対して寸法Eだけ偏心している(図6参照)。このため、ケーシング12を取付座7に対し、円形嵌合突部12Cを中心として矢印F方向に回転させることにより、出力軸19の軸中心Dは、円形嵌合突部12Cの中心Aを中心として半径Eの円形な軌跡G上を移動するようになる。
【0049】
これにより、出力軸19に設けられたピニオン23を、旋回輪3の内歯3Dに対して接近、離間する方向に移動させることができる。従って、ケーシング12の円形嵌合突部12Cを取付座7の円形嵌合孔7Aに嵌合させた状態で、旋回輪3の内歯3Dとピニオン23との噛合部に生じるバックラッシを適宜に調整することができる。
【0050】
そして、旋回輪3の内歯3Dとピニオン23との噛合部のバックラッシを調整した後には、ケーシング12の各長孔12Gに挿通したボルト13を取付座7のボルト孔7Bに締込むことにより、旋回装置11のケーシング12を、ボルト13を用いて旋回フレーム6の取付座7に強固に締結することができる。
【0051】
かくして、本実施の形態による油圧ショベル1は、旋回装置11のケーシング12に設けた円形嵌合突部12Cの中心Aに対し、ケーシング12に回転可能に支持された出力軸19の軸中心Dを寸法Eだけ偏心させる構成としている。このため、旋回フレーム6の取付座7に旋回装置11を取付けるときに、ケーシング12を旋回フレーム6の取付座7に対し、円形嵌合突部12Cを中心として回転させることにより、出力軸19のピニオン23を旋回輪3の内歯3Dに対して接近、離間する方向に位置調整し、旋回輪3の内歯3Dとピニオン23との噛合部のバックラッシを容易に調整することができる。
【0052】
この結果、ケーシング12の円形嵌合突部12Cを取付座7の円形嵌合孔7Aに嵌合させた後においても、ピニオン23と旋回輪3の内歯3Dとの噛合部に生じるバックラッシを調整して両者を適正に噛合させることにより、旋回装置11によって上部旋回体4を下部走行体2上で円滑に旋回させることができるので、油圧ショベル1の信頼性を高めることができる。
【0053】
次に、図7及び図8は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、ケーシングに設けられる複数のボルト挿通孔を大径孔により構成したことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0054】
図中、31は第2の実施の形態に用いられる旋回装置を示し、この旋回装置31は、第1の実施の形態に用いた旋回装置11とほぼ同様に、後述のケーシング32、旋回モータ14、減速機構16、出力軸19、ピニオン23等により構成されている。しかし、旋回装置31は、ケーシング32に後述の各大径孔32Gが設けられている点で、第1の実施の形態による旋回装置11とは異なるものである。
【0055】
32は旋回装置31の外殻をなす筒状のケーシングで、該ケーシング32は、第1の実施の形態によるケーシング12とほぼ同様に、下側ケーシング32A、上側ケーシング32B、円形嵌合突部32C、下フランジ部32D、上フランジ部32E、内歯32F等によって構成されている。そして、本実施の形態においても、ケーシング32に回転可能に支持された出力軸19の軸中心Dは、ケーシング32に設けられた円形嵌合突部32Cの中心Aに対し、寸法(偏心量)Eだけ偏心する構成となっている。
【0056】
しかし、本実施の形態によるケーシング32は、下フランジ部32Dに後述する複数の大径孔32Gが設けられている点で、複数の長孔12Gが設けられた第1の実施の形態によるケーシング12とは異なっている。
【0057】
32G,32G,…はケーシング32の下フランジ部32Dに設けられた複数のボルト挿通孔としての大径孔で、これら各大径孔32Gは、旋回フレーム6の取付座7に設けられた各ボルト孔7Bに対応した位置に配置されている。そして、各大径孔32Gに挿通したボルト13を取付座7のボルト孔7Bに螺合することにより、ケーシング32は、円形嵌合突部32Cを取付座7の円形嵌合孔7Aに嵌合させた状態で、当該取付座7にボルト締めされる構成となっている。
【0058】
この場合、各大径孔32Gは、例えばボルト13の直径の2倍程度の孔径を有しており、第1の実施の形態による各長孔12Gと同様に、円形嵌合突部32Cと同心円上に配置されている。従って、ボルト13を緩めた状態では、各大径孔32Gは、ケーシング32が円形嵌合突部32Cを中心として回転するのを許す構成となっている。
【0059】
本実施の形態は上述の如き旋回装置31を有するもので、本実施の形態においても、第1の実施の形態による旋回装置11と同様に、旋回フレーム6の取付座7に旋回装置31を取付けるときに、ケーシング32を取付座7に対し、円形嵌合突部32Cを中心として回転させることにより、出力軸19に設けられたピニオン23を、旋回輪3の内歯3Dに対して接近、離間する方向に移動させることができる。
【0060】
この結果、ケーシング32の円形嵌合突部32Cを取付座7の円形嵌合孔7Aに嵌合させた状態で、旋回輪3の内歯3Dとピニオン23との噛合部に生じるバックラッシを適宜に調整することができ、両者を適正に噛合させることができる。
【0061】
次に、図9ないし図12は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、旋回体に対してケーシングを回転させたときにその回転角度を確認するための目盛り手段を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0062】
図中、41は旋回フレーム6の取付座7と旋回装置11のケーシング12との間に設けられた目盛り手段で、該目盛り手段41は、ケーシング12を取付座7に対し、円形嵌合突部12Cを中心として回転させたときに、このケーシング12の回転角度を確認するためのものである。そして、目盛り手段41は、後述の目盛り付きワッシャ42と、ノックピン43とにより構成されている。
【0063】
42は旋回フレーム6の取付座7側に設けられた目盛り付きワッシャで、該目盛り付きワッシャ42は、円弧状に湾曲した長円形状をなし、ケーシング12を締結する各ボルト13のうち隣合う2本のボルト13が長さ方向の両端側に挿通された平ワッシャ42Aと、該平ワッシャ42Aの長さ方向の中央部に形成された長円形状の長溝孔42Bと、該長溝孔42Bの周縁部に位置して平ワッシャ42Aに設けられた目盛り42Cとにより構成されている。
【0064】
そして、目盛り付きワッシャ42は、平ワッシャ42Aに挿通された2本のボルト13が取付座7のボルト孔7Bに螺合することにより、各ボルト13を介して取付座7に取付けられている。また、目盛り付きワッシャ42の長溝孔42Bには、後述のノックピン43が挿通される構成となっている。
【0065】
43は旋回装置11のケーシング12側に設けられた1本のノックピンで、該ノックピン43は、図10に示すように、ケーシング12を構成する下フランジ部12Dの上面側に穿設されたピン孔12H内に埋込まれ、ケーシング12に固定されている。そして、ノックピン43は、下フランジ部12Dの上面から上方に突出し、目盛り付きワッシャ42の長溝孔42B内に遊挿される構成となっている。
【0066】
従って、旋回輪の内歯(図示せず)と旋回装置11のピニオン23との噛合部に生じるバックラッシを調整するため、円形嵌合突部12Cを中心としてケーシング12を取付座7に対して回転させると、図11及び図12に示すように、ケーシング12に取付けられたノックピン43が、ボルト13を介して取付座7に取付けられた目盛り付きワッシャ42の長溝孔42B内を移動する構成となっている。
【0067】
本実施の形態は上述の如き目盛り手段41を有するもので、旋回輪の内歯(図示せず)と旋回装置11のピニオン23との噛合部に生じるバックラッシを調整するため、円形嵌合突部12Cを中心としてケーシング12を取付座7に対して回転させると、図11及び図12に示すように、ケーシング12に取付けられたノックピン43が、目盛り付きワッシャ42の長溝孔42B内を移動し、この長溝孔42Bの周縁部に設けられた目盛り42Cを指し示す。
【0068】
これにより、作業者は、バックラッシの調整時におけるケーシング12の回転角度がどれくらいであるかを目盛り手段41によって確認することができる。従って、例えば旋回装置11の点検、保守作業を行うため、取付座7から旋回装置11を取外した後、この旋回装置11を再び取付座7に取付けるときに、取付座7に対するケーシング12の回転角度を予め確認することにより、旋回装置11のピニオン23と旋回輪3の内歯3Dとの噛合部のバックラッシの調整作業を迅速かつ容易に行うことができる。
【0069】
なお、上述した第3の実施の形態では、ボルト13を介して取付座7側に取付けられた目盛り付きワッシャ42と、ケーシング12に突設されたノックピン43とからなる目盛り手段41を用いた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図13に示す変形例のように、取付座7の上面外周側に設けられた目盛り45Aと、ケーシング12を構成する下フランジ部12Dの上面外周側に設けられた合いマーク45Bとからなる目盛り手段45を用いる構成としてもよい。
【0070】
また、上述した第1の実施の形態では、旋回フレーム6の底板6Aに環状な取付座7を固着し、この取付座7の内周側に円形嵌合孔7Aを形成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば旋回フレーム6の底板6Aに穿設したピニオン挿通孔6Gを円形嵌合孔として用いる構成としてもよい。このことは、第2,第3の実施の形態についても同様である。
【0071】
さらに、上述した各実施の形態では、建設機械として自走可能な下部走行体2を備えた油圧ショベル1を例に挙げている。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば定置式の油圧クレーンのように、固定された基体上に旋回輪を介して旋回体が搭載された建設機械にも広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施の形態による油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】油圧ショベルの旋回フレームを単体で示す平面図である。
【図3】図1中の旋回輪、旋回装置等を示す縦断面図である。
【図4】旋回フレームの取付座に旋回装置を取付ける状態を示す分解斜視図である。
【図5】旋回装置等を上方からみた平面図である。
【図6】旋回輪の内歯とピニオンとの噛合部を図3中の矢示VI−VI方向からみた断面図である。
【図7】第2の実施の形態に用いる旋回装置を示す図3と同様な縦断面図である。
【図8】旋回フレームの取付座に旋回装置を取付ける状態を示す図4と同様な分解斜視図である。
【図9】第3の実施の形態に用いる旋回装置、目盛り手段等を上方からみた平面図である。
【図10】目盛り手段を図9中の矢示X−X方向からみた拡大断面図である。
【図11】図9中の目盛り手段を拡大した平面図である。
【図12】目盛り手段のノックピンが移動した状態を示す図11と同様な平面図である。
【図13】目盛り手段の変形例を示す図9と同様な平面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 下部走行体(基体)
3 旋回輪
3A 内輪
3B 外輪
3D 内歯
4 上部旋回体(旋回体)
6 旋回フレーム
7 取付座
7A 円形嵌合孔(嵌合孔)
11,31 旋回装置
12,32 ケーシング
12C,32C 円形嵌合突部
12G 長孔(ボルト挿通孔)
13 ボルト
14 旋回モータ(回転源)
16 減速機構
19 出力軸
23 ピニオン
32G 大径孔(ボルト挿通孔)
41,45 目盛り手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体に内輪が取付けられ該内輪の外周側に外輪が回転可能に設けられた旋回輪と、該旋回輪の外輪に取付けられ前記旋回輪の位置に円形な嵌合孔が設けられた旋回体と、該旋回体に取付けられ前記旋回体を前記基体に対して旋回させる旋回装置とを備え、
前記旋回装置は、筒状体をなし下端側に前記旋回体の嵌合孔に嵌合する円形嵌合突部が設けられ該円形嵌合突部を前記嵌合孔に嵌合させた状態で前記旋回体に取付けられるケーシングと、該ケーシング内に設けられ回転源の回転を減速する減速機構と、前記ケーシングに回転可能に支持され該減速機構によって減速された回転を出力する出力軸と、該出力軸に設けられ前記旋回輪の内輪に設けられた内歯に噛合するピニオンとにより構成してなる建設機械において、
前記出力軸の軸中心を前記ケーシングの円形嵌合突部の中心に対して偏心させる構成としたことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記ケーシングには、当該ケーシングを前記旋回体に締結するボルトが挿通される複数のボルト挿通孔を前記円形嵌合突部と同心円上に配置して設け、
前記各ボルト挿通孔は、前記ケーシングが前記旋回体に対し前記円形嵌合突部を中心として回転するのを許す長孔または大径孔により構成してなる請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記ケーシングを前記旋回体に対して回転させたときに当該ケーシングの回転角度を確認するための目盛り手段を設ける構成としてなる請求項1または2に記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−90587(P2010−90587A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260673(P2008−260673)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】