説明

引き抜き成形品の製造方法

【課題】高真円度を有し、反りねじれに優れ、安価で軽量のシャフト製品を製造することができる引き抜き成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、金型を通過させながら硬化させる引き抜き成形により得られる引き抜き成形品の製造方法であって、繊維糸の各々の張力を、張力センサ7及び張力コントローラ8により5〜50Nに調整しながら、繊維糸を金型6に引き込んで金型内を通過させ、加熱硬化させる引き抜き成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話基地局のアンテナや液晶パネル等の搬送に用いられる搬送用シャフト等の製造材料となる引き抜き成形品の製造方法に関し、特に、反りが少なく真円度の優れた、軽量な引き抜き成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
引き抜き成形品は、ハウジングの構造材や、プリント基板、液晶、シャドーマスク等の電子部品の搬送用シャフト等に幅広く使われている。特に半導体搬送装置に使用される搬送用シャフトは反りねじれ規格が厳しく0.4mm/m以内、また製品径の仕上がり公差がh7を目標とした規格が求められている。
【0003】
特に、基板を連続的に搬送するための搬送用シャフトは、上記の特性に加えて、長期間の使用において信頼性も求められ、特に耐薬品性が求められる。さらに、製品の軽薄化、大型化に伴い、軽量化に加え、たわみ等を抑制する形状安定性も求められている。
【0004】
従来の搬送用シャフトは、剛性の高い金属を用いることが一般的であったが、軽量化を目的として、カーボン繊維を基材としてエポキシ樹脂により成形した引き抜き成形製品も使用されるようになってきている。
【0005】
ガラス繊維やカーボン繊維引き抜きに熱硬化性樹脂を含浸硬化した成形製品の製造方法は、従来、樹脂を含浸させた補強繊維を、所定の断面積をもつ金型に通過させて、硬化させながら連続的に引き抜くという、いわゆる連続引き抜き成形法が採られていた。このとき、従来法では強化繊維の密度に差が出てしまい、高真円度で反り、ねじれの小さい引き抜き成形品を作ることが困難であり、製造後にアニールを行い、反り直しをしたり、表面研磨して精度を出す等をしていた。
【0006】
このような中、高真円度、反り、ねじれを小さくするために中心層を形成する樹脂よりも硬化速度の遅い樹脂を表層に使用して一体化する、などの提案がなされている(例えば、特許文献1参照。)。また、引き抜き孔を有するダイスに樹脂含浸繊維を通し繊維の蛇行割合を抑えることにより引っ張り強度を改善する提案がなされている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平7−24922号公報
【特許文献2】特開2002−160303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
基板搬送等に使用されるシャフト製品は特に反りねじれが少なく、真円度等の寸法精度が要求される製品であるが、従来の引き抜き成形品ではその特性を満足することができない場合があった。そのため、このようなシャフト製品は基盤をまっすぐに搬送することが出来ないといった問題や、ガラス基板などは割れるなどの問題が発生していた。
【0008】
そこで、本発明は、高真円度を有し、反りねじれに優れ、安価で軽量のシャフト製品を製造することができる引き抜き成形品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意検討を進めた結果、含浸された繊維糸を金型導入口に入る前に所定の張力に調整しながら加熱金型を通過させることにより、高真円度、反りねじれに優れ、安価で軽量のシャフト製品を製造することができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明の引き抜き成形品の製造方法は、複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、金型を通過させながら硬化させる引き抜き成形品の製造方法であって、繊維糸の各々の張力を5〜50Nに調整しながら、繊維糸を金型に引き込んで金型内を通過させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の引き抜き成形品の製造方法によれば、高真円度で、反りねじれが少なく、軽量性、成形収縮率に優れた引き抜き成形品を製造することができ、例えば、搬送用シャフト等のような寸法精度に優れ、かつ、高い信頼性が求められる製品を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明における引き抜き成形品の製造方法は、図1に示した引き抜き成形品の製造装置により実施され、高真円度で、反りねじれが少なく、軽量性、成形収縮率に優れた引き抜き成形品を製造することができる。図1は、引き抜き成形品の製造装置の概略構成図を示したものであり、この引き抜き成形品の製造装置1は、バネつきボビン2と、ガイドロール3と、レジン浴4、ガイド5と、金型6と、張力センサ7と、張力コントローラ8と、ベルトコンベア9とから構成されている。
【0014】
バネつきボビン2は、バネがついており、これがボビンを引っ張ることにより繊維糸の張力を調整するようになっており、このバネつきボビン2は回転して所定の張力を有する繊維糸を供給する。巻きだされた複数本の繊維糸は、ガイドロール3を通ってレジン浴4中のレジンに浸漬され、熱硬化性樹脂組成物が含浸付着される。
【0015】
熱硬化性樹脂組成物を付着した繊維糸は、ガイド5に導かれて金型6内へ引き込まれる。このとき、引き込まれる繊維糸の各々について、張力を測定する張力センサ7により所定の張力を有しているかどうか確認され、張力が小さかったり、大きすぎたりする場合には、張力コントローラ8の指示によりバネつきボビン2の引っ張る力を加えたり、緩めたりすることで、繊維糸の張力を調整するようになっている。
【0016】
本発明においては、この金型に引き入れる際の繊維糸の張力が重要であり、通常、繊維糸の張力を5〜50Nの範囲内とすることが求められ、10〜40Nの範囲内であることが好ましい。張力が5N未満であると真円度や反りの抑制が十分とならず、50Nを超えると繊維のほつれや毛羽立ちが生じてしまい好ましくない。
【0017】
繊維糸の張力は、例えば、おもりやバネにより繊維糸に引っ張る力が加わったときに、その応力として対応した張力が生じ、これを繊維糸が有する状態となる。したがって、本発明では、繊維糸の張力をフィードバックして、所定の範囲に入るように繊維糸の張力を調整しながら、成形作業を行うのが好ましい。
【0018】
具体的には、バネつきボビン2の繊維糸ごとに、その熱硬化性樹脂組成物で含浸され、金型6に引き込まれる直前の繊維糸の張力を張力センサ7により感知し、ここで得られた張力の値を張力コントローラ8において所定の値に入っているか否かを判断する。このとき、所定の値に入っている場合には、そのままボビンを引っ張る力を維持し、所定の値を外れた場合において、張力が足りない場合には、バネの強さを調整してボビンを引っ張る力を強く、また、張力が大きい場合には、バネの強さを調整してボビンを引っ張る力を弱くすればよい。このとき、張力の調整は全ての繊維糸を一括に管理しても良いし、各々の繊維糸を独立して管理してもよい。
【0019】
また、張力を調整する繊維糸は、用いる全ての繊維糸に対して行っても良いが、例えば、円柱状の成形品を製造する場合には、その外径に配置される繊維糸に対してのみ行うようにしてもよい。このようにすると、全ての繊維糸に対して張力センサやコントロールを行う必要がなく、それでいて、真円度や反りの低減に有効な外径部分には張力を加えているため低コストで高信頼性の製品を製造することができる。また、このとき、外径に配置される繊維糸は引き抜き方向に対する垂直断面において円形状に等間隔になるように配置することが好ましく、このようにすればさらに真円度を高めるのに有効である。
【0020】
本発明に用いる熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂をベース樹脂として用いることができ、ビニルエステル樹脂であることが好ましい。
【0021】
この熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、(A)ビニルエステル樹脂と、(B)架橋剤と、(C)低収縮剤と、(D)無機充填材と、(E)離型剤と、(F)有機過酸化物とを必須成分として含有するものが好ましい。
【0022】
本発明に用いる(A)ビニルエステル樹脂は、成形材料として一般に使用されているものであれば特に限定されずに使用することができ、例えば、D−953(大日本インキ工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。このような(A)ビニルエステル樹脂は、(a)酸性分と(b)エポキシ樹脂成分を反応させて得られるものである。
【0023】
ここで(a)酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸等の不飽和一塩基酸が挙げられ、さらに必要に応じてフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸等の二塩基酸を2種類以上混合して使用することもできる。
【0024】
また、(b)エポキシ樹脂成分としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量等に制限されることなく広く用いることができ、具体的には、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型の芳香族基を有するエポキシ樹脂、ポリカルポン酸がグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、シクロヘキサン誘導体にエポキシ基が縮合した脂環式の基を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独又は2種類以上を混合して使用することができる。さらに、エポキシ樹脂成分としては、これらの他に必要に応じて液状のモノエポキシ樹脂を併用成分として使用することができる。
【0025】
この(A)ビニルエステル樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に70〜85質量%の範囲であることが好ましい。
【0026】
本発明に用いる(B)架橋剤としては、(A)ビニルエステル樹脂と重合可能な二重結合を有するものであれば使用可能であり、例えば、スチレンモノマー、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートモノマー、メタクリル酸メチル、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。この(B)架橋剤の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
本発明に用いる(C)低収縮材としては、熱可塑性樹脂であるポリエチレン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ゴム、ポリエチレン等が使用可能であるが、耐薬品性、軽量性、低収縮性の観点からポリエチレン樹脂であることが好ましい。このうちガラス転移点が70〜120℃のポリエチレン樹脂粉末が耐薬品性及び成形収縮率の向上のために特に好ましい。この(C)低収縮材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に0.5〜1.5質量%の範囲であることが好ましい。
【0028】
本発明に用いる(D)無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ガラスバルーン等の通常用いられているものが挙げられ、特に限定されるものではない。この(D)無機充填材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に10〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0029】
本発明に用いる(E)離型剤は、成形材料として通常使用される離型剤であればよく、例えば、市販のシリコーンオイルが挙げられ、中でもエポキシ変性シリコーンオイルが好ましい。この(E)離型剤の配合量は熱硬化性樹脂組成物中に0.01〜2質量%であることが好ましい。
【0030】
本発明に用いる(F)有機過酸化物としては、ビニルエステル樹脂の硬化剤として通常用いられる化合物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化イソブチリル等が挙げられる。この(F)有機過酸化物の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に0.1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0031】
このビニルエステル樹脂組成物において、低収縮材としてポリエチレンを使用すると、耐薬品性、軽量性及び寸法安定性を満足し、サポート製品としての長期信頼性を満足することができ、さらに低コストな引き抜き成形品として製造することができる。これは不飽和ポリエステル樹脂をベース樹脂とした場合にも同様のことがいえる。
【0032】
次に、本発明に使用する繊維糸は、繊維を収束して得られたものであって、従来、引き抜き成形品の製造に用いられてきた繊維糸により得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、耐薬品性の有機繊維等からなる繊維糸が挙げられる。この繊維糸としては、一般に市販されているものが適用可能であり、ガラス繊維としては、例えば、E−ガラス繊維、T−ガラス繊維、D−ガラス繊維等、カーボン繊維としてはPAN系等からなる繊維基材として用いられるものが挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、PBO繊維、全芳香族ポリエステル繊維、高強度ポリエステル繊維、ポリケトン繊維等が挙げられ、これらを混抄したものでもよい。
【0033】
また、ここで用いる繊維糸、特にガラス繊維は、表面にシランカップリング材によりサイジング処理を行い、耐薬品性を維持するようにすることが好ましく、このサイジング処理を行うサイジング剤としては、アルカリ成分との反応性が低く、マトリックス樹脂に対するぬれ性が良い薬剤が挙げられ、具体的には、メタクリルシランやウレイドシラン等のシランカップリング剤又はそれらの混合品であることが好ましい。
【0034】
この繊維糸の含有量は、成形品中の繊維基材の平均体積含有率(体積比率)で、50〜80%とすることが好ましい。50%未満であると成形品の剛性が乏しくなってしまい、80%を越えると繊維強化材に樹脂組成物が含浸していない部分ができ、引き抜き成形品の物性低下を引き起こしてしまう。
【0035】
引き抜き成形用の熱硬化性樹脂組成物と繊維糸との混合は、繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、樹脂組成物が繊維糸に付着した状態とすることが好ましい。繊維糸が引き抜き成形時の引き抜き力に耐え得ることが必要であるので、繊維糸の構成を、繊維糸のロービングを引き抜き方向に配向させて使用することが好ましい。
【0036】
そして、ここで用いる引き抜き成形品の製造方法においては、上記した繊維の複数本、例えば50〜500本の繊維を収束して得られた繊維糸に熱硬化性樹脂組成物ワニスに含浸させ、この繊維強化樹脂組成物を、加熱金型内を通すことによって熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、金型形状により外形を整えて引き抜き、成形品を形成するものであり、この引き抜き成形においては、用いる樹脂組成物に応じて、加熱温度及び引き抜き速度を適宜選択して行うことができる。
【0037】
ここで、所定の張力を有する繊維糸は、そのまま金型6内に引き込まれ、加熱された金型内を通過することで、加熱硬化して所定の形状に成形されるが、このとき用いる金型としては、引き抜き成形に用いられる金型であれば特に限定されるものではなく、従来用いられていた方法により加熱硬化すればよい。
【0038】
なお、金型としては、図1の金型6として示したような複数個の金型を組み合わせて一体にしたものを用いることが、成形品を高真円度とし、反りの低減を図る観点から好ましいものである。
【0039】
この金型6は、熱硬化性樹脂組成物を含浸した繊維糸を金型内に引き込む第1の金型6a、第1の金型に続く第2の金型6b及びこれらの金型を通過して最終的に引き抜き成形品が引き出される第3の金型6cの3つの金型を含んでいるものである。このとき、第1の金型6aが入口、第3の金型6cが出口となって本発明に用いられる金型が形成されており、それぞれが硬化温度を独立して制御できるようになっている。この金型6は、一体としたときに金型に円柱状の型が形成されるものであり、この型の内部に熱硬化性樹脂組成物を含浸した繊維糸を通過させ、円柱状又は筒状の引き抜き成形品を製造することができるものである。
【0040】
本発明における金型6は、樹脂の硬化により引き抜き成形品を得るためにヒーター等で加熱制御されている。ここで金型の温度は、70〜170℃であることが好ましい。金型温度が70℃未満であると、繊維強化樹脂組成物が未硬化の状態で引き抜かれやすくなってしまい、170℃を超えると、硬化反応が急激に起こるため成形品にクラックや反りの不良を生じさせる可能性が高くなってしまう。
【0041】
なお、この金型の温度は、金型の入口(第1の金型)と金型の他の部分の温度を別々に制御することが好ましく、例えば、金型の入口温度は、入口で絞られる繊維強化樹脂組成物のゲル化を抑制する観点から、使用する硬化剤の反応温度より低く抑え、金型の他の部分で硬化を進めることが好ましい。
【0042】
このように加熱帯を2段階以上に分割することで、入口付近のゲル化を抑制しつつ、後の加熱で繊維強化樹脂組成物の硬化度を大きくすることができる。具体的には、第1の金型温度を70〜100℃、にし、第2、3の金型の温度を130〜170℃、好ましくは150〜170℃にすることが好ましく、このような温度範囲に差を設けることで、さらに反りねじれを少なくする効果を得ることができる。
【0043】
このとき、引き抜き時間(金型中を通過する時間)は0.5〜3.0分の範囲内となるようにすることが好ましく、このような引き抜き時間とする引き抜き速度は、一般的には、10〜120cm/分の範囲であることが好ましく、20〜35cm/分であることが特に好ましい。引き抜き速度が10cm/分未満であると、成形金型中での硬化が早い時点で完了してしまい、引き抜く際の抵抗が大きくなり安定的に連続成形できなくなってしまい、一方、引き抜き速度が120cm/分を超えると、繊維強化樹脂組成物が未硬化の状態で引き抜かれ易くなってしまう。
【0044】
すなわち、引き抜き成形では、繊維強化樹脂組成物を、加熱された金型内に連続的に引き込み、金型内通過中に樹脂を所定の温度に付して硬化させると共に、金型出口から所定の時間で引き抜くのである。この引き抜き成形で用いられる装置は、繊維糸の張力の調整に関するもの以外は、通常用いられている引き抜き成形品の製造装置と同様の構成とすればよく、特に限定されずに使用することができる。また、金型部分は上記説明したものであることが好ましい。
【0045】
なお、張力センサ7は、繊維糸の張力を感知することができるものであれば、特に限定されずに用いることができ、市販の張力計を用いてもよいし、予め張力と繊維糸の張り具合やバネ付きボビンにかけている荷重等との関係を求めておいて間接的に求めるようにしてもよい。このとき、張力センサにより得られた張力において、各々の繊維糸の張力が5〜50Nの範囲内であるかを張力コントローラ8で判断し、その範囲外であるときはその範囲内となるように張力コントローラ8がバネつきボビン2へ指示を出す。
【0046】
また、各々の繊維糸を、その最大値との差が30%以内となるように調整をする場合には、同様に張力センサ7により得られた張力において、各々の繊維糸の張力が5〜50Nの範囲内となるように調整した後、その繊維糸同士の張力を比較して、その最大値を算出し、その最大値に対して差が30%以内となるように他の繊維糸の張力を調整することで達成できる。
【0047】
本発明は、含浸された繊維糸が金型導入口に入る前に、特定の張力を与えられながら加熱金型を通過することにより、高真円度、反りねじれに優れ、安価で軽量のシャフト製品を製造することができる引き抜き成形品の製造方法を見出し、成形の最適条件を制御することが可能である。
【0048】
本発明によれば、硬化樹脂組成物を適正の張力範囲で効率的に硬化させることができ、操作性良く成形することができる。また、このようにして得られる成形品は、熱硬化性樹脂組成物に、さらに低収縮剤を混合しておくことにより、体積収縮が小さく、外観及び物性にも優れた成形品とすることができる。
【0049】
なお、図2には、従来の引き抜き成形品の製造装置を示したが、この引き抜き成形品の製造装置11は、通常のボビン12を用い、張力センサ、張力コントローラ等の張力を調整する機構を有していないこと以外は、図1の引き抜き成形品の製造装置と同様の構成を有するものである。
【0050】
この製造装置11を用いた従来の引き抜き成形品の製造方法では、ボビン12から巻き出され、樹脂を含浸付着した繊維糸が、金型6での成形時に引っ張る力以外は張力をほとんどかけられることなく引き抜き成形される。このとき、ガイドロール3やガイド5を経由するために、繊維糸には1〜2N程度の若干の張力がかかり、このとき余分な樹脂が除かれ、繊維糸を金型に平行に揃える程度の力となる。しかし、各々の繊維糸にかかる力が小さいことや、不均等に力がかかったりするため、成形品の反り、ねじれが大きくなる場合があり、従来の方法では高精度の引き抜き成形品(特に、円筒形状の)を得ることが困難であった。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0052】
(実施例1)
熱硬化性樹脂成分として、ビニルエステル樹脂(大日本インキ工業株式会社製、商品名:UE3505) 24質量部、スチレンモノマー(日本ユピカ株式会社製、商品名:スチレンモノマー) 0.35質量部、ポリエチレン(住友精化株式会社製、商品名:フローセンUF−1.5) 0.25質量部、硫酸バリウム(堺化学工業株式会社製、商品名:沈降性硫酸バリウム−100) 4.7質量部、有機過酸化物1(日本油脂株式会社製、商品名:パーブチルO) 0.06質量部、有機過酸化物2(日本油脂株式会社製、商品名:パーヘキサHC) 0.35質量部、離型材(小桜商会株式会社製、商品名:INT−1850HT〔有機酸、グリセリド、合成樹脂縮合体〕) 0.35質量部を混練機(ディスパー)にいれ、約20分間混練し、熱硬化性樹脂成形材料を得た。
【0053】
次に、基材としてカーボン繊維 UT−500−24K(東邦テナックス株式会社製、商品名)60本を、得られた熱硬化性樹脂成形材料の入った樹脂槽に含浸させ、この樹脂成形材料を含浸させたカーボン繊維を、図1で示した張力制御装置の付いた引き抜き成形品の製造装置により、全てのカーボン繊維の張力を20〜25Nの範囲に制御しながら、約90℃に加熱した第1の金型(長さ:250mm)に送り込み、さらに165℃に加熱した第2の金型(長さ:250mm)で硬化を行い、さらに165℃に加熱した第3の金型(長さ250mm)で十分に硬化させ、20cm/分の速度で引き抜きいて直径10mmの円柱状の丸棒を得て、これを切断装置で切断し、カーボン繊維の体積比率が70%の引き抜き成形品を得た。なお、このとき、繊維糸の張力は、PLS−K−Bシリーズ テンションメーター(日本電産シンポ株式会社製)により求めた。
【0054】
得られた引き抜き成形品の真円度、反り及び成形収縮率を測定し、耐薬品性(酸、アルカリ)についても評価を行い、この結果を表1に示した。
【0055】
(実施例2〜3、比較例1)
実施例1で得られた熱硬化性樹脂成形材料を用い、張力及び引き抜き速度を変えた以外は、実施例1と同様の操作により引き抜き成形品を製造した。なお、このとき用いた張力及び引き抜き速度については、表1に示した条件で行った。
【0056】
なお、比較例においては、図2に示した従来の引き抜き成形品の製造と同様、積極的に張力をかけない条件とし、それ以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0057】
【表1】

【0058】
*1:TALYROND300(ランク・テーラーホブソン社製、商品名)にて測定した。
*2:長さ1000mmの製品をVブロック(スパン900)にのせ、中央部にダイヤルゲージをあてて、製品を回転させた時の振れを測定した。
*3:JIS K 6911に準じて測定した。
*4:太さ10mm、長さ25mmの試験片を、塩化第2銅+3N塩酸水溶液(80℃)に浸漬し、1000時間処理した時の処理前後の質量変化率を測定した。
*5:太さ10mm、長さ25mmの試験片を、3%苛性ソーダ水溶液(80℃)に浸漬し、1000時間処理した時の処理前後の質量変化率を測定した。
【0059】
なお、*4、*5の判定は、次の質量変化率の数値範囲を基準として行った。
◎:0〜0.20%
○:0.21%〜0.50%
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の引き抜き成形品の製造方法に用いる引き抜き成形品の製造装置を示した概略構成図である。
【図2】従来の引き抜き成形品の製造方法に用いる引き抜き成形品の製造装置を示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0061】
1…引き抜き成形品の製造装置、2…バネつきボビン、3…ガイドロール、4…レジン浴、5…ガイド、6…金型、6a…第1の金型、6b…第2の金型、6c…第3の金型、7…張力センサ、8…張力コントローラ、9…ベルトコンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、金型を通過させながら硬化させる引き抜き成形品の製造方法であって、
前記繊維糸の各々の張力を5〜50Nに調整しながら、前記繊維糸を前記金型に引き込んで金型内を通過させることを特徴とする引き抜き成形品の製造方法。
【請求項2】
複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、金型を通過させながら硬化させる引き抜き成形品の製造方法であって、
前記引き抜き成形品の少なくとも外径に配置される繊維糸を、引き抜き方向の垂直断面に対して円形状に等間隔になるように配置し、その各々の張力を5〜50Nに調整しながら、前記繊維糸を前記金型に引き込んで金型内を通過させることを特徴とする引き抜き成形品の製造方法。
【請求項3】
前記張力を調整された繊維糸の各々の張力を、その最大値との差が30%の範囲内としたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の引き抜き成形品の製造方法。
【請求項4】
前記張力を調整された繊維糸の各々の張力をセンサにより感知し、該感知した張力に基づいて、前記張力を調整された繊維糸の各々の張力を、その最大値との差が30%の範囲内となるように調整することを特徴とする請求項3記載の引き抜き成形品の製造方法。
【請求項5】
前記張力の調整が、おもり又はバネにより行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の引き抜き成形品の製造方法。
【請求項6】
前記繊維が、ガラス繊維及び/又はカーボン繊維で構成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の引き抜き成形品の製造方法。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂組成物が、(A)ビニルエステル樹脂と、(B)架橋剤と、(C)低収縮剤と、(D)無機充填材と、(E)離型剤と、(F)有機過酸化物と、を必須成分とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の引き抜き成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−290381(P2008−290381A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139215(P2007−139215)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】