説明

強度、延性及び衝撃エネルギー吸収能に優れた高強度鋼材並びにその製造方法

【課題】本発明は、従来技術では解決できない問題点、即ち、建造物や橋梁等の構造物、自動車の足回り鋼材、機械用歯車等部品に使用される鋼材として、高強度かつ高延性で、エネルギー吸収能に優れた厚鋼板、形鋼、異形棒鋼、棒鋼及び鋼線等の鋼材を製造するに当たって、高価な合金元素を添加せず、製造設備に過大な負荷をかけることなく現有の製造ラインにおいて、多資源・高エネルギーでかつ多工程のために安価かつ所望の鋼材を製造できないという問題を解決するものである。
【解決手段】
本発明は、建造物や橋梁等の構造物、自動車の足回り鋼材、機械用歯車等部品に使用される鋼材として、高強度かつ高延性で、エネルギー吸収能に優れた厚鋼板、形鋼、異形棒鋼、棒鋼及び鋼線等の鋼材を製造するため、安価なMn及びSiを添加した低C鋼を素材とし、短時間圧延処理により、γ/α生成比率を制御した2相組織鋼材を提供することにより解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物や橋梁等の構造物、自動車の足回り鋼材、機械用歯車等部品に使用される鋼材であって、特に高強度且つ高延性で、エネルギー吸収能に優れた厚鋼板や棒鋼・鋼線等の非調質鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、構造物の大型化や自動車部品の軽量化に伴って、これまで以上に強靭で高性能な鋼材が求められている。これに加えて当該鋼材を製造するに当たり、省資源且つ省エネルギーであることも重要な課題である。そして、当該鋼材を製造するに当たっては設備を増設ないし新設することなく、しかも従来の製造工程よりも省工程を目的とする鋼材を製造できることが一層望ましい。
【0003】
従来、主に自動車の車体向けとして高強度で高延性を有し、衝撃エネルギー吸収能にも優れた薄鋼板が多数開発されている。例えば、特許文献1には、高強度と高延性を両立させ、プレス成形性と衝撃エネルギー吸収能に優れた自動車用の冷延鋼板に関する技術が開示されている。これは高価な合金元素の添加量を抑制してフェライト結晶粒の微細化により強度を上昇させ、しかもプレス成形性に重要となる強度と延性とのバランスに優れた薄鋼板である。そしてその製造工程では熱間圧延の後、冷間圧延を行い、適切な焼鈍を行なうというものである。しかしながら、この技術によれば、MoやNi等の高価な合金元素が少量ではあるが添加必須元素であり、薄鋼板に圧延後、焼鈍処理を必要としている。
【0004】
また、非特許文献1には、高価な合金元素を添加せずにMnとSi含有量を高めた0.1%C−5%Mn−2%Siという低炭素鋼に準じる化学成分組成鋼を用い、焼鈍後の低温再加熱処理において高含有量のMnにより残留オーステナイトの分率を高めると同時に、高含有量のSiによりフェライト中からオーステナイトへ排出されたCにより残留オーステナイトを安定化させることによる加工硬化指数を高めた鋼板(New TRIP鋼と称される)が開示されている。しかし、このプロセスは薄鋼板に圧延後に複雑なプロセスである焼鈍処理及び低温再加熱処理を必要としており、省エネルギーの観点からの問題が解決されていない。そして、薄鋼板を製造対象鋼材としているので、熱間圧延に加えて冷間圧延工程も必須としている。
【0005】
一方、製造対象鋼材として薄鋼板を除く構造物等に使用される高強度、高強靭鋼材についても多数開発されている。例えば、特許文献2には、高強度、高延性で、耐遅れ破壊特性に優れ、しかも靭性が飛躍的に向上した高強度鋼材に関する技術が開示されている。この技術によれば、引張強さが1660〜1800MPa、伸び(全伸び)が18.5〜19.2%であって、室温におけるVノッチシャルピー試験の衝撃吸収エネルギーで305〜382J/cmを有する鋼材が例示されている(特許文献2の表6の実施例1及び実施例17参照)。しかし、この技術においても、化学成分組成として高価格のMoを1.0%程度含有させ、製造工程として、所定の温度及び時間の条件下において焼鈍、焼戻し及び時効処理のいずれかを施した後、350℃以上(AC1−20℃)以下の温度で加工をする(温間加工をする)工程が必要である。
【0006】
以上のように、これまでに開示されている技術では省資源、省エネルギーの問題が解決されておらず、また、比較的低温領域における温間加工を実施するために通常の製造ラインにおいては加工装置に大きな負担を強いることになり、工業的に幅広く利用するには問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−321207号報
【特許文献2】再公表特許 WO2007/058364
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.Takechi,JOM.December 2008,p.22.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みて、従来技術では解決することができない上記各種の問題点、即ち、建造物や橋梁等の構造物、自動車の足回り鋼材、機械用歯車等部品に使用される鋼材として、高強度かつ高延性で、エネルギー吸収能に優れた厚鋼板、形鋼、異形棒鋼、棒鋼及び鋼線等の鋼材を製造するために、安価なMn及びSiを添加した低C鋼を基盤とした短時間焼鈍処理により、更には、所定条件の圧延まで焼鈍処理を施さなくてもフェライトとオーステナイトとの生成比率を制御した2相組織を有する鋼材を提供することにより解決しようとするものである。
【0010】
製造対象とする鋼材の材料特性値に関しては、強度、延性及びエネルギー吸収能に優れた高強度鋼材を得ることである。一般的には引張強度の上昇につれて延性が低下するのに対して、本発明では全伸びを一定水準以上確保した高強度鋼材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記の課題を解決するために、鋼材の結晶組織形態の新規組合せの相及びその構成比率と材料特性値との関係を鋭意研究した、しかもかかる組織を得るための製造条件を研究した結果、本発明を完成するに至った。本発明は以下の特徴を有する。
【0012】
第1の発明は、化学成分組成が、質量%で、C :0.05〜0.20%、Si:1.0〜3.5%、Mn:4.5〜5.5%、Al:0.001〜0.080%、P:0.030%以下、S:0.020%以下、N:0.010%以下、Nb:0.01〜0.045%であって、残部がFe及び不可避不純物からなり、ミクロ組織は、主相がフェライトであり、第2相が30体積%以上を占めるオーステナイトからなる2相組織であり、圧延方向に平行な断面において、前記主相フェライトの長軸平均粒径が4.5μm以下、短軸平均粒径が1.0μm以下、アスペクト比が4.5以上、前記第2相オーステナイト長軸平均粒径が4.5μm、短軸平均粒径が0.5μm、アスペクト比が9.0であり、機械的性質として、引張強さ(TS)が1200MPa以上で、伸び(El)が30%以上であって、且つ引張強さと伸びとの積(TS×El)が40,000MPa・%以上であることを特徴とする強度、延性及びエネルギー吸収能に優れた高強度鋼材である。
【0013】
第2の発明は、第1の発明の化学成分組成の鋼の素材を、1200℃に均一加熱し、鍛造により減面率88%以上の減面率の加工を施した後、室温まで空冷し、更に、660〜690℃の温度範囲で80%以上の減面率の加工を行い、空冷しすることにより、第1の発明の2相ミクロ組織となすことにより、機械的性質として、引張強さ(TS)が1200MPa以上で、伸び(El)が30%以上であって、かつ引張強さと伸びとの積(TS×El)が40000MPa・%以上であることを特徴とする強度、延性及びエネルギー吸収能に優れた高強度鋼材の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本願の発明によれば、適切な温度範囲内において、所定値以上の塑性相当ひずみを導入する圧延加工を施すことにより、焼鈍処理を施さなくても、更に一段と優れた機械的性質を備えた鋼材が得られる。かくして、製品の品質、製造コスト、製造工程及び消費エネルギー的にも従来技術よりも優位となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における本願発明に係る高強度鋼材の調製工程の概略説明図である。
【図2】実施例1において、温間溝ロール圧延後に得られた本願発明に係る棒鋼の微細化されたミクロ組織のEBSDマップ(電子線回折から各相がbccであればフェライト、fccであればオーステナイトと識別してマップで示した組織図)であり、黒色がフェライト(α)、灰色がオーステナイト(γ)である。
【図3】実施例1で得られた本発明に係る鋼材の応力−ひずみ曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る鋼材の化学成分組成、顕微鏡組織及び機械的性質の特徴、並びに当該鋼材の製造方法の特徴について詳細に説明する。
【0017】
<鋼の化学成分組成>
本発明に係る高強度鋼材における化学成分組成の範囲は以下の通りである(以下、成分の%はすべて質量%を示す)。
【0018】
C:0.05〜0.20%とする。Cは引張強度を確保するために必要であるが、0.05%未満では本発明に係る鋼材の引張強度を十分に満たさないおそれがあるため、0.05%以上に規定する。一方、0.20%を超えると、鋼材の延性の低下傾向及び溶接性の低下傾向を示すので、上限を0.20%に規定する。
【0019】
Si:1.0〜3.5%とする。Siは、材質を大きく硬質化する置換型固溶体強化元素であり、鋼材の強度を上昇させるのに有効な元素であると共に、本発明の製造工程の焼鈍処理の加熱中におけるフェライト中の固溶Cを排出してオーステナイト中に濃化させてオーステナイトを安定化させる作用も有する。後者の作用を一層十分に発揮させるためには1.0%以上が望ましい。しかしながら、Si含有量が過度に高くなると熱間加工時の加熱中にSiスケールが多く発生しスケール除去に余分のコストがかかったり、スケールによる表面疵が発生し易くなる。そこで、上限を3.5%とする
【0020】
Mn:4.5〜5.5%とする。
本願発明品の製造方法の製造工程中で、最も特徴的な条件である累積塑性相当ひずみ2.0以上の塑性加工においては、ひずみ導入による転位増殖により95体積%以上を占める微細なラスマルテンサイト中のCを新たに生成されるオーステナイト(γ)中に高速で排出することにより、主相をフェライト、第二相をオーステナイトとするために、高いMn含有量が効果的作用を発揮する。
これらの作用効果を十分に発揮させるためには、Mn含有量を4.5%以上とすることが望ましい。一方、Mnが高濃度になると、鋼材の低温靭性を劣化させること、及び過度に高濃度になると凝固時の鋼中Mnの偏析が過大となり材料内部の均一性を害する。また、素材の調製工程における熱間加工工程において表面割れが発生し易くなる。よって、上限を5.5%とする。
【0021】
Al:0.001〜0.080%とする。Alは溶鋼の脱酸のために添加するが、真空溶解炉を使用した場合でも、0.001%未満ではその効果が不十分となる。転炉精錬の場合には、十分な脱酸をするためには、通常、0.010%以上が望ましい。一方、0.080%を超えると、AlNの生成により脆化の問題が起こる可能性がある他に、酸化物系介在物が増加して靭性を損なう可能性があるので、上限を0.080%とする。なお、本願発明においては、鋼の溶製工程としては、通常の工業的量産方法である転炉製鋼法や電気炉製鋼法を前提条件とし、真空精錬をしなくてもよい場合の他に、真空溶解炉をしようする少量生産の場合をも想定して下限値を規定している。
【0022】
P:0.030%以下とする。Pは、鋼中に不可避的に混入する不純物元素であり、靭性を低下させるので、その含有量の上限を0.030%に制限する。また、P含有量のより一層望ましい上限は、0.015%以下である。下限値は制限しないが、コストを考慮して決めればよい。
【0023】
S:0.020%以下とする。Sは、Pと同様に鋼中に不可避的に混入する不純物元素であり、加工性及び靭性を損なうので、その含有量の上限を0.020%に制限する。また、Sのより一層望ましい上限は、0.005%である。下限値は制限しないが、コストを考慮して決めればよい。
【0024】
N:0.010%以下とする。Nは、鋼中に不可避的に含有される元素であり、積極的に低減するためには脱ガス精錬等を必要とするので、製造コスト高を招く。また、Nは電気炉製鋼法による場合は特に原料中のN含有量にも依存するので、特に下限は規定しない。一方、N含有量が0.0080%を超えると、窒化物が増加して靭性を損なうので、上限を0.0100%とする。
【0025】
Nb:0.045%以下とする。Nbは、鋼中にNbC炭化物を母相中に微細分散させてγ粒界をピニングし、γ粒の高温域での成長を抑え、結果的に最終的に得られるα/γの2相組織を微細化させる効果がある。しかし、0.050%以上入れると鋼中の炭素を消費してしまい、オーステナイトの体積分率を下げ、鋼材の特性を劣化させる危険性がある。
【0026】
<ミクロ組織と機械的特性値>
次に、本発明に係る高強度鋼材のミクロ組織について説明する。
本発明に係る高強度鋼材のミクロ組織は、主相がフェライトであり、第2相がオーステナイト(γ)からなる2相組織であり、その際、オーステナイト(γ)の分率が30体積%以上を占めることである。第2相にはオーステナイト(γ)の他には、実質的にポリゴナルフェライト、準ポリゴナルフェライト、ベイナイト、ベイニティックフェライト、焼戻しマルテンサイト、パーライト及びセメンタイトの内のいずれをも含んでいない組織である。実質的に含んでいないとは、倍率10000倍のSEM及びTEMによる観察でもその存在が確認されないことを意味する。かかるミクロ組織を有することは、所要の機械的特性値を満たすための必要条件の一つであり、そのためには上述した鋼の化学成分組成を満たすことを前提条件とするものである。
【0027】
本発明に係る高強度鋼材は、その機械的特性値として、下記(1)から(3)式:
【数1】

【数2】

【数3】

の全てを満たすものである。
上記化学成分組成を有する鋼材であって、かかる機械的特性値を備えた鋼材は、これまで見当たらないのである。
【0028】
また、上記(1)から(3)式の機械的特性値を満たすためには、上述した化学成分組成及びミクロ組織に加えて、高強度鋼材のミクロ組織は、主相がフェライトであって第2相が30体積%以上の2相組織であって、圧延方向に平行な断面において、フェライトの長軸平均結晶粒径が4.5μm以下、短軸平均結晶粒径が1.0μm以下、アスペクト比:4.5以上であって、オーステナイト長軸平均結晶粒径が4.5μm以下、短軸平均結晶粒径が0.5μm以下、アスペクト比:9.0以上であることが望ましい。
【0029】
<製造方法>
次に、本発明の鋼材を得るための好ましい製造方法を説明する。
(1)素材(0.1%C−2%Si−5%Mn鋼)の熱間塑性加工条件について
上記で得られた素材の熱間における塑性加工方式としては、工業的に行われている厚鋼板製造ラインにおける平ロール圧延、極厚鋼板製造ラインにおける鍛造、棒鋼又は鋼線材製造ラインにおける溝ロール圧延、及び条鋼又は形鋼製造ラインにおける形ロール圧延の内のいずれであってもよい。これらいずれかの加工方式により、素材に対して所要の塑性相当ひずみを与える。
【0030】
上記の加工方式により、素材に導入される圧縮ひずみとせん断ひずみの入り方は異なる。そこで、全応力成分や全ひずみ成分の量や分布に関して理論的に塑性ひずみを算出する方法として、有限要素法(finite element methode:FEM)がある。塑性ひずみの計算については、参考文献(春海佳三郎、他「有限要素法入門」(共立出版(株):1990年3月15日)に詳述されている。しかしここでは、工業的に簡便に用いることができる塑性相当ひずみを用いてもよい。有限要素法計算で得られる塑性ひずみを用いれば一層望ましいが、ここでは工業的に簡便な、下記式(1)で定義される塑性相当ひずみ(e)を塑性ひずみの指標とする。
【数4】

ただし、Rは減面率(%)であり、素材のC方向断面積をSとし、熱間加工後のC方向断面積をSとすると、下記式(5)で表される。
【数5】

【0031】
後述する実施例1の試験において、前記化学成分組成範囲内にある0.1%C−2%Si−5%Mnの95mm角の鋼塊(素材)を1200℃で加熱後、38mm角まで鍛造したときに得られたミクロ組織は、主相が95体積%以上を占めるラスマルテンサイトで長径が7.0μm以下で短径が1.0μm以下であり、第2相が5体積%未満の残留オーステナイト(γ)でL方向断面が5.0μm、C方向断面が0.2μmという微細粒組織であった。かかる微細粒組織は塑性相当ひずみ(e)がある程度大きいときに得られる。実施例1での結果より、e≧1.8とするのが望ましい。
【0032】
(2)請求項2に対応する製造方法について
この製造方法は、上記(1)項で得られた95体積%以上を占めるラスマルテンサイトの主相と5体積%未満の残留オーステナイトの第2相とからなる鋼材料に、675〜750℃の範囲内において、累積塑性相当ひずみが1.5以上の塑性加工を施す。この方法は、フェライト/オーステナイトの2相領域の最適温度で大ひずみを加えることにより、材料中の元素の拡散速度を大きく高める効果が発揮され、同時に比較的低温における大ひずみによる動的再結晶による超微細化により、オーステナイト体積分率の高いフェライト/オーステナイト組織が形成される。この際、高温域で付加された圧延により、圧延に平行した面における伸長したフェライト粒のアスペクト比が4.5以上かつオーステナイトのアスペクト比が9.0以上となることが特徴である。
【実施例】
【0033】
<実施例1>
(1)実施例1の第1試験工程:素材を熱間鍛造
鋼塊(真空溶解した後、真空鋳造し、得られた縦95mm×横95mm×高さ450mmの鋼塊)の一部を素材とした。化学成分組成は表1に示したものであり、0.10%C−2%Si−5%Mn系の炭素鋼である。
【表1】

【0034】
上記95mm角の素材(鋼塊)を加熱昇温し、1200℃で1時間加熱保持した後、表2に示した鍛造スケジュールにより、上記の縦95mm×横95mmの角形状断面の素材に対して、途中で再加熱することなく縦と横とを交互に1回ずつセットのプレス鍛造を6セット行い、縦38mm×横38mmの角形状断面まで鍛造し、そして最後に材料全体を直線状に矯正して、38mm角の棒材とした。この熱間鍛造において、95mm角から38mm角に至る減面率(R)は、R=84.0%であり、塑性相当ひずみ(e)は、e=1.83であり、鍛造終了温度は678℃であった。その後直ちに空冷し、室温まで冷却して、棒材とした。
【表2】

【0035】
なお、塑性相当ひずみ(e)は、実施例1におけると同一、(6)及び(7)式により算出した。
【数6】

【数7】

【0036】
この熱間鍛造により得られた38mm角の棒材のミクロ組織は、主相が95体積%以上を占めるラスマルテンサイトで、第2相が5体積%未満の残留オーステナイト(γ)からなる2相組織であって、ラスマルテンサイトの平均結晶粒径は、長径が6.5μm以下で短径が1.2μm以下であり、残留オーステナイト(γ)の平均結晶粒径は、長手方向断面(L断面)において4.9μmであり、長手直角方向断面(C断面)において0.2μmであった。
【0037】
(2) 実施例1の第2試験工程(図1):38mm角棒材を温間溝ロール圧延
熱間鍛造で得られた38mm角の棒材を、温間溝ロール圧延により、17.5mm角の棒鋼とした。圧延条件は、材料を675℃で1時間加熱保持した後、圧延を3パスした後に675℃で5分間保持し(第1工程)、また圧延を3パスした後に675℃で5分間保持し(第2工程)、更に圧延を3パスした後に、材料全体を直線状に矯正するための矯正ロールを行なって、17.5mm角の棒鋼に仕上げた。かくしてこの間の温間溝ロール圧延における累積塑性相当ひずみは2.06であり、圧延の温度は675〜705℃の範囲内であった。この溝ロール圧延後、空冷した。圧延終了時の温度は705℃であった。
【0038】
なお、実操業の通常ラインにおいては、上記パススケジュールで圧延をする場合、最初に675℃に材料を加熱後に連続圧延工程に入れば、圧延による発熱作用が加わり、再加熱無しで675〜705℃程度で圧延をすることができると考えられる。上記の通り17.5mm角に仕上げた棒鋼を直ちに空冷して室温まで冷却した。
【0039】
(a)ミクロ組織の試験結果
上記温間温度域における溝ロール圧延により得られた棒鋼のミクロ組織は、図2に示すEBSDマップ像の通りである。棒鋼の軸芯部における像である。図2は、L方向断面におけるEBSDマップ像であり、70%のフェライトと30%の残留オーステナイトとからなる2相組織を示している。
【0040】
フェライトの平均粒径を測定した結果、表3に示すように、圧延方向に平行な断面において、フェライトの短軸平均結晶粒径が1.0μm以下、長軸平均結晶粒径が4.5μm以下(アスペクト比:4.5以上)であって、オーステナイトの短軸平均結晶粒径が0.5μm以下、長軸平均結晶粒径が4.5μm以下(アスペクト比:9.0以上)であった。
一方、L方向断面でのフェライト粒は図2に示した通り圧延方向に伸展している。
【表3】

【0041】
温間溝ロール圧延により、このような微細組織を有する棒鋼が得られた理由は、次のように考えられる。この理由として、675℃というα/γ2相域の最適温度で溝ロール圧延により大ひずみを加えるプロセスが、材料中の元素の拡散速度を大きく高める効果があることに加え、675℃という比較的低い温度で大ひずみを加えることによる動的再結晶の進行に伴う組織の超微細化の相乗効果が超微細かつγ体積分率の高いα/γ組織の形成に大きく寄与したと考えられる。
【0042】
(b)機械的性質の試験結果
図3に、実施例1の鋼材の応力−ひずみ曲線を示す。なお、引張試験は、L方向の丸棒引張試験片(試験部分の平行部直径が3.5mmφ、長さが24.5mm)で行った。
引張試験結果によれば、引張強さ(TS)=1,255MPa、伸び(El)=34.8%であり、引張強さ(TS)×伸び(El)=43,674MPa・%と優れていた。また、絞り(RA)は68.0%と優れていた。
【0043】
また、実施例2として実施例と同一成分に追加する形でNb0.045%を添加した組成で同一の実験を行った。この際、Nbによる微細効果で粒径が若干微細化し、特性としては強度、靭性は同等で延性が〜5%程度高い材料が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明による、高強度かつ高延性で、エネルギー吸収能に優れた厚鋼板や棒鋼・鋼線等は、建造物や橋梁等の構造物、自動車の足回り鋼材、機械用歯車等の部品に使用されることが期待されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分組成が、質量%で、
C :0.05〜0.20%、
Si:1.0〜3.5、
Mn:4.5〜5.5%、
Al:0.001〜0.080%
P:0.030%以下、
S:0.020%以下、
N:0.010%以下
Nb:0.01〜0.050%以下
であって、残部がFe及び不可避不純物からなり、
ミクロ組織として、主相がフェライトであり第2相が30体積%以上を占めるオーステナイトからなる2相組織であり、
前記ミクロ組織の主相フェライトの長径が4.5μm以下、短径が1.0μm以下、アスペクト比が4.5以上であり、第2相オーステナイトの長径が4.5μm以下、短径が0.5μm以下、アスペクト比が9.0以上であり、圧延方向に平行な断面において、前記主相フェライトの長軸平均結晶粒径が4.5μm以下、短軸平均結晶粒径が1.0μm以下、アスペクト比が4.5以上、前記第2相オーステナイト長軸平均結晶粒径が4.5μm以下、短軸平均結晶粒径が0.5μm以下、アスペクト比が9.0以上であり、
機械的性質として、引張強さ(TS)が1200MPa以上で、伸び(El)が30%以上であって、且つ引張強さと伸びとの積(TS×El)が40000MPa・%以上であることを特徴とする強度、延性及びエネルギー吸収能に優れた高強度鋼材。
【請求項2】
強度、延性及びエネルギー吸収能に優れた高強度鋼材の製造方法であって、
請求項1に記載の化学成分組成の鋼の素材を、
1200℃に均一加熱し、鍛造により減面率88%以上の減面率の加工を施した後、室温まで空冷し、更に、660〜690℃の温度範囲で80%以上の減面率の加工を行い、空冷しすることにより、請求項1に記載の2相ミクロ組織となすことを特徴とする強度、延性及びエネルギー吸収能に優れた高強度鋼材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−229455(P2012−229455A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96660(P2011−96660)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】