強度及び弾性率の向上した炭素繊維と、これらを調製するための関連する方法及び装置
本発明は、大きな引張強さ及び弾性率を有する炭素繊維を対象とする。本発明は、この炭素繊維を製造するための方法及び装置も提供する。この方法は、酸化オーブンを通して前駆体繊維を前進させることを含み、ここで、繊維は、酸化雰囲気において、張力荷重が酸化オーブンを通る複数のパスの間で分配された制御延伸を受け、これにより、より大きな累積延伸を達成することが可能となる。前記方法はまた、2つ以上のパスの各々において1つ又は複数の転移を繊維に経させるのに十分な制御延伸を2つ以上のパスの各々において繊維に行うことを含む。本発明はまた、互いに独立に駆動できるので、複数のパスの各々においてオーブンに加えられる延伸量を独立に制御できる、一連の複数の協調駆動ロールを有する酸化オーブンも対象とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く炭素繊維に、より詳細には、向上した強度及び弾性率を有する炭素繊維、並びにこれらの炭素繊維を製造するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、それらの望ましい性質の故に、様々な構造体用途及び産業に使用されている。例えば、炭素繊維は、高強度及び高スチフネスを併せ持ち、同時に等価な性質の金属部材よりかなり軽い重量を有する構造体部材に成形できる。炭素繊維は、前駆体繊維、例えば紡糸ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を、この前駆体繊維が加熱され、酸化され、炭素化されて、90%を超えるカーボンである繊維を生成する多段階プロセスにおいて変換することによって製造できる。得られる炭素繊維は、構造体用途の高強度複合材料に成型でき、それらを複合しないで電気及び摩擦用途に使用でき、或いは、吸着材、フィルター、又は他の用途で使用するためにさらに加工できる。特に、炭素繊維が、樹脂、セラミック、又は金属マトリックスの強化材料としての役目を果たす複合材料が開発されている。
【0003】
益々、炭素繊維は、構造部材として航空機用途に用いられている。航空機産業の厳しい要求に合わせるために、大きな引張強さと高弾性率の両方を有する新しい炭素繊維を絶えず開発することが必要である。特に、1,000ksi以上の引張強さ及び50Msi以上の弾性率を有する炭素繊維を開発することが求められている。一本一本がより大きな引張強さ及び弾性率を有する炭素繊維は、より低い強度の炭素繊維より少量で使用でき、それでも尚、所定の炭素繊維複合部材では同じ全体強度を達成できる。結果として、複合部材はより軽量である。部材重量の低減は、航空機産業にとって重要であり、このような部材を組み込む航空機の燃料効率を向上させる。
【0004】
引張強さ及び弾性率を上げるいくつかの方法が、先行技術において探求され、通常、複雑な結果を生じた。例えば、弾性率は、炭素化温度を上げることによって増大させ得ることが一般的に知られている。しかし、炭素化温度の上昇の結果、引張強さは小さくなる。結果として、この方法は通常、引張強さ及び弾性率の向上した炭素繊維を調製する有効な手段を提供しなかった。
【0005】
別の方法は、前駆体繊維を炭素繊維に変換する過程の前又はその間に、前駆体繊維を延伸することに焦点を合わせた。炭素繊維の弾性率は、繊維を、紡糸後のステップ、酸化ステップ、炭素化ステップ、又はこれらの組合せにおいて延伸することによって向上し得ることが、先行技術においてすでに確認されている。しかし、一般通念では、酸化ステップにおける延伸量は、化学反応、例えば、PAN前駆体繊維の熱誘起環化及び/又は酸化架橋の開始に応じて発生する、繊維の張力レベルによって制限されると思われた。張力の蓄積は、標準的な酸化条件、例えば、180℃より上では、比較的小さな延伸で繊維の破断を引き起こした。結果として、酸化の間にPAN繊維を延伸しようとする、先行する試みは、通常、ある最大量の延伸に、又は、1回だけの連続延伸に制限された。
【0006】
いくつかの研究及び先行技術の参考文献は、さらに、この初期又は最大の延伸を越える改善は、性質におけるゲイン(gain)を、あるとしても、ほとんどもたらさず、事実、実際に繊維の破断又は損傷に至り得ることを示唆していた。例えば、米国特許第4609540号は、酸化雰囲気において前駆体繊維に加えられる最適の延伸の決定方法を記載する。この‘540特許によれば、延伸の最適量は、%伸びvs.張力のプロットから決定できる変曲点に対応し、また、この最適伸びはまた、繊維内の最大の結晶配向度にほぼ対応する。この変曲点を越えると、‘540特許は、さらなる延伸による如何なるゲインも最低限であり、結果的にフラフ(fluff)の成長及び可能性として破断を生じ得ることを教示する。
【0007】
このように、大きな引張強さ及び高弾性率の両方を有する炭素繊維、並びに、このような炭素繊維を調製するために使用できる方法及び装置が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、向上した強度及び弾性率を有する炭素繊維、並びにこれらの炭素繊維を調製するために使用できる方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態において、前記方法は、酸化オーブンを通して前駆体繊維を前進させることを含み、ここで、繊維は、酸化雰囲気において、張力荷重が酸化オーブンを通る複数のパスの間に分配された、制御延伸(controlled stretching)を受ける。結果として、繊維の総累積延伸は、複数のパスに渡って張力荷重を分配可能にする延伸条件を選択することによって増大させることができる。複数のパスの間での張力荷重の分配により、繊維は、前に予想されたものを超える度合いまで延伸可能になる。酸化の間の繊維のこの制御延伸は、例えば、配向の向上、酸化の均一性、及び欠陥誘発クロスタリットの成長の減少をもたらす助けとなることができ、このことが、今度は、得られる炭素繊維の弾性率及び引張強さにおける向上をもたらすことができる。
【0010】
一実施形態において、本方法は、酸化オーブンに炭素繊維前駆体ポリマーを通過させることを含み、この酸化オーブン中で、少なくとも1つのパスにおいて5と30%の間である%延伸に、また後のパスにおいて5と20%の間である%延伸に、及び2から15%の延伸に繊維が供されるように、繊維は複数の制御延伸に供される。特定の一実施形態において、繊維は、第1パスにおいて5と30%の間である%延伸に、第2パスにおいて5と20%の間である%延伸に、また第3及び第4パスにおいて2と15%の間である%延伸に供される。さらなる実施形態において、本発明の方法は、酸化オーブンにおいて、炭素繊維の前駆体繊維を、複数の制御延伸に供することを含み、ここで:a)第1パスにおいて、繊維は、10と40%の間である%延伸に供され;b)第2パスにおいて、繊維は、約2と20%の間である%延伸に供され;c)第3パスにおいて、%延伸は約2と16%の間であり;また、d)第4パスにおいて、繊維は、約2と12%の間である%延伸に供される。酸化ステップが完了した後、こうして酸化された繊維は、次いで、約400と800℃の間の温度の炉を通過させ、その後、1300と1500℃の間である温度を有する炉に繊維を通過させることによって炭素化することができる。
【0011】
本発明のさらなる態様において、引張強さと弾性率における向上は、繊維に1つ又は複数の転移を受けさせる量の延伸に繊維を供する、酸化雰囲気における繊維の制御延伸によって達成できることもまた見出された。例示的実施形態において、炭素繊維は、複数のパスで酸化オーブンを通して前駆体繊維を前進させることによって調製され、ここで、前駆体繊維は、2つ以上のパスの各々において少なくとも2つの転移を受けるように、2つ以上のパスにおいて制御された量の延伸に供される。転移は、所定のパスに対して張力vs.%延伸のプロットから決定でき得る変曲域を含む。いくつかの実施形態においては、前駆体繊維を、酸化オーブンを通る複数のパス(例えば、2から20のパス)を通して繊維が前進させられる、制御された量の延伸に供すことができる。
【0012】
別の態様において、本発明は、酸化雰囲気において、前駆体繊維を複数の制御延伸パスに従わせることができる、酸化オーブンを対象とする。一実施形態において、この酸化オーブンは、複数の駆動ロール及び複数のアイドラロールを含み、ここで、駆動ロール及びアイドラロールは酸化オーブンを通る繊維パスを定めるように協調する。一実施形態において、駆動ロールは、酸化オーブンを通るパスの少なくとも2つ以上で、速度、及び代わりに張力を独立に制御できるように、互いに独立に駆動できる。いくつかの実施形態において、アイドラロールは、繊維が酸化オーブンを通して前進するにつれて、繊維の張力を連続的にモニターすることが可能な張力測定装置、例えばロードセルを含む。
【0013】
酸化ステップの後、繊維を炭素繊維に変換する残りの工程は、通常の方法を用いて実施できる。繊維は、酸化された繊維を、低温及び高温の炉を通して前進させることによって変換できる。一実施形態において、酸化の間の繊維の制御延伸は、繊維が低温炉を通して前進する時に、ある量、例えば5と40パーセントの間だけ、さらに繊維を延伸することを可能にする。
【0014】
本発明に従って調製された炭素繊維は、50Msiに近く、それを超える弾性率、及び1,000ksiに近く、それを超える引張強さを有し得る。一実施形態において、本発明は、少なくとも950ksiの引張強さ、及び少なくとも45Msiの弾性率を有する炭素繊維を提供し、ここで、この炭素繊維の原子間力顕微鏡(AFM)表面像は、炭素繊維表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション(striation)及び高位相角ドメインの複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる。さらに、本発明に従って調製された炭素繊維は、約2.0より大きく、特に2.5より大きく、より特別には約3.0より大きい算術平均粗さ(Ra)値、及び、約2.0より大きく、特に3.0より大きく、より特別には約4.0より大きい二乗平均平方根粗さ(Rq)値を有し得る。さらに、本発明に従って調製された炭素繊維は、5ナノメートル以上の平均位相角深さを有し得る。いくつかの実施形態において、炭素繊維は、8ナノメートル以上、特に、10ナノメートル以上の平均位相角深さを有し得る。
【0015】
一実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維は、約4nm以上、特に、約4.5nmを超えるLa値を、いくつかの実施形態において、5.0nmを超えるLa値を有する。本発明に従って調製された炭素繊維は、また、高い弾性率及び抵抗率の値の組合せによって特徴付けられる。例えば、一実施形態において、炭素繊維は、少なくとも50Msiの弾性率、少なくとも13μΩm以上の抵抗率を有し得る。
【0016】
このように、本発明は、向上した引張強さ及び弾性率を有する炭素繊維、並びにこのような炭素繊維を製造するための方法及び装置を提供する。
【0017】
こうして一般的用語で本発明を説明したが、これから、添付図(これらは、必ずしも一定の縮尺で描かれていない)が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】PAN前駆体繊維が環化及び酸化を経てピリドン構造を形成する反応過程の説明図である。
【図2】本発明により使用され得る例示的な酸化オーブンの説明図である。
【図3】前駆体繊維を炭素繊維に変換するために使用できる設備の概略図である。
【図4】延伸されるにつれて複数の転移を経る繊維を表す、張力vs.%延伸のプロットのグラフである。
【図5】転移点を際立たせる、張力vs.%延伸の一次導関数のプロットのグラフである。
【図6】転移点を際立たせる、張力vs.%延伸の二次導関数のプロットのグラフである。
【図7A】酸化オーブンで炭素繊維を延伸する先行技術の方法に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7B】酸化オーブンで炭素繊維を延伸する先行技術の方法に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7C】本発明に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7D】本発明に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7E】本発明に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7F】本発明に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
これから、添付図(これらには、全てではないが、本発明のいくつかの実施形態が示されている)を参照して、以下に、本発明をより完全に説明する。実際に、これらの発明は、多くの異なる形態で実施でき、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきでない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が当該の法的要件を満たすために記載されている。全体を通じて、類似の数は類似の要素を表す。
【0020】
一態様において、本発明は、向上した引張強さ及び弾性率を有する炭素繊維を対象とする。別の態様において、本発明は、前記炭素繊維の製造装置及び方法を対象とする。本発明の方法に従って調製される炭素繊維は、1000ksiに近く、それを超える引張強さ、及び50Msiに近く、それを超える弾性率を有し得る。
【0021】
下でより詳細に記載されるように、本発明による炭素繊維は、前駆体繊維、例えばポリアクリロニトリル(PAN)を含む繊維を、酸化雰囲気を通る複数のパスに供することによって調製され、ここで、繊維は、酸化雰囲気を通る2つ以上のパスにおいて制御延伸される。酸化ステップを完了すると、前駆体繊維の炭素繊維への変換を完了するために、繊維は、1つ又は複数のさらなる炉(例えば、低温炉及び高温炉)を通して前進させることができる。本発明に関連して、「繊維」という用語は、1本のフィラメント、又は一緒に束ねられた複数のフィラメント(トウとも呼ばれる)を含む。トウ又は束は、約1,000から100,000本の個々のフィラメントを含み得る。
【0022】
本発明に関連して、「前駆体繊維」という用語は、十分な加熱により、約90重量%以上、特に、約95重量%以上のカーボン含量を有する炭素繊維に変換され得る、ポリマー材料を含む繊維を表す。前駆体繊維は、アクリロニトリル(AN)のホモポリマー及びコポリマーの両方を含み得るし、メチルアクリレート(MA)、メタクリル酸(MAA)、メタリルスルホン酸ナトリウム、イタコン酸(IA)、臭化ビニル(VB)、イソブチルメタクリレート(IBMA)及びこれらの組合せのようなコポリマーを含み得る。一実施形態において、前駆体繊維は、主としてアクリロニトリルモノマーからなるポリアクリロニトリル(PAN)ポリマーを含む。
【0023】
前駆体繊維は、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、塩化亜鉛又はチオシアン酸ナトリウムの溶液のような有機及び/又は無機溶媒に前駆体ポリマーを溶媒和させて、紡糸溶液とすることにより、溶融紡糸することによって調製できる。特定の実施形態において、紡糸溶液は、水、アクリロニトリルポリマー及びチオシアン酸ナトリウムから、約60:10:30の例示的なそれぞれの重量の比率で生成される。次いで、この溶液は、蒸発により濃縮され、濾過されて、紡糸溶液となる。一実施形態において、紡糸溶液は、約15重量%のアクリロニトリルポリマーを含む。紡糸溶液は、通常の紡糸法、例えば、乾式、乾式/湿式、又は湿式紡糸を用いて、スピナレットを通過して、ポリアクリロニトリル前駆体を生成する。特定の実施形態において、PAN前駆体繊維は、乾式/湿式紡糸法を用いて製造され、この紡糸法では、多数のフィラメントが、紡糸溶液から形成され、スピナレットから、スピナレットと凝固剤(例えば、チオシアン酸ナトリウム水溶液)の間のエアギャップ、又は他のギャップを通過する。凝固浴から出た後、紡糸フィラメントは洗浄される。いくつかの実施形態において、紡糸されたフィラメントは、高温の水及び水蒸気の中で、それらの元の長さの数倍まで延伸され得る(米国特許第4452860号を参照、これは参照を通じて本明細書に組み込まれる)。さらに、ポリアクリロニトリル前駆体繊維は、炭素繊維の製造の間にそれを取扱い易くするために、サイジング剤、例えば、シラン化合物により処理され得る。PAN前駆体繊維を調製する例示的方法は、米国特許第5066433号において詳細に検討されており、その内容は参照を通じて本明細書に組み込まれる。
【0024】
前駆体繊維は、約85と99重量%の間のアクリロニトリル、及び約15と1重量%の間の他のモノマー(例えば、メタクリル酸、アクリル酸、メチルアクリレート、及びメチルメタクリレート、並びにこれらの組合せ)から製造されるポリアクリロニトリル系繊維を含み得る。ポリアクリロニトリル前駆体繊維は、1束当たり、それぞれが約3000と50,000の間のフィラメント、特に、1束当たり約3000と24,000の間のフィラメントを含む束の状態になっている。フィラメントは、約0.50と1.50の間、特に、約0.60と0.85の間の平均デニールを有し、各束において、フィラメントの95%は、±0.05デニールにあり得る。一実施形態において、ポリアクリロニトリル出発材料は、滑らかな表面、丸い横断面、及び約1.5〜2.5デシリットル/グラムの間の固有粘度を有する。変換の前のフィラメントの直径は、約7.5から13.5μm、より一般的には、約8.5から10.5μmの範囲にあり得る。
【0025】
酸化(これはまた酸化安定化とも言われる)の間に、PAN前駆体繊維は、PAN前駆体分子の環化及び酸化を引き起こすために、酸化雰囲気において、約150℃から600℃の間の温度で加熱される。これに関して、図1は、PAN前駆体繊維の環化及び酸化の過程を段階的に説明する。ステップ(A)において、PANのニトリル基が整列するようになる。ステップ(B)及び(C)において、ニトリル基が重合して、ポリナフチリジン環「ラダー」構造を形成し、この構造は、ステップ(D)において互変異性化されて、多環ジヒドロピリジンを生成する。ステップ(E)において、多環ジヒドロピリジンは酸化/脱水素を受けて、安定なピリドン構造を生成する。
【0026】
酸化の間に、所定の前駆体で、図1に示す反応が起こる度合いは、一般に、温度及びフィラメントの直径の関数である。これは、一部は、フィラメントへの酸素の拡散の影響に帰因すると考えられる。比較的低い温度(例えば、約240℃以下)及び/又は比較的小さなフィラメント直径(例えば、約10ミクロン以下)では、フィラメント表面での酸素の反応の割合に対する、フィラメントコアへの酸素の拡散の割合が高められる。より高温及び/又はより大きなフィラメント直径では、酸素は、それが拡散できるより速く反応する傾向があり、酸化された繊維のスキン層がコアの回りに形成され、コアでは熱誘起反応だけが起こる。酸化された表面層は、フィラメントコアへの酸素輸送に対する拡散バリアとして働くと考えられる。その存在は、得られる繊維におけるスキン−コアの違い、並びに構造的及び化学的の両方の不均質に繋がるので、望ましくない。例えば、酸化された繊維におけるスキン−コアの違い及び構造上の不均質は、外側層の弾性率が、内側層のそれより大きいという結果を生じ得る。この弾性率の分布は、前駆体繊維の内側及び外側層の間の環化/酸化の進行の違いによって引き起こされる。環化/酸化の進行の違いは、前駆体繊維の外側部分の選択的酸化(これは、繊維への酸素の拡散に対するバリアの生成に繋がる)に一部は帰因する、繊維の内側部分への酸素の浸透の減少から生じると考えられる。
【0027】
上記のように、本発明の炭素繊維は、複数のパスにおいて、酸化オーブンに前駆体繊維を通過させることによって調製でき、ここで、前駆体繊維は、オーブンを通る2つ以上のパスにおいて制御延伸に供される。一実施形態において、制御延伸は、オーブンを通る2つ以上のパスにおいて繊維に加えられる張力の大きさを独立に制御することを含む。酸化オーブンを通る制御されたパスにおいて延伸を独立に制御することにより、いくつかの利点がもたらされる。例えば、一実施形態において、制御延伸により、酸化オーブンを通る複数のパスの間に張力荷重を分配することが可能になり、これは、処理の間に繊維が受ける最大の歪速度を減少させる結果になる。結果として、前駆体繊維は、先行技術で以前に教示されてない限界まで延伸できる。酸化の間の繊維のこの制御延伸は、例えば、配向、酸化の均一性の向上、欠陥誘発クリスタリットの成長の減少、半径方向の均質性、及び構造上の欠陥を最低限にするか又は無くする手段をもたらす助けとなり得る。転じて、これらの利点は、得られる炭素繊維の弾性率及び引張強さにおける向上をもたらすことができる。
【0028】
図2を参照すると、前駆体繊維を制御延伸するのに使用され得る例示的な酸化オーブンが示されており、全体として参照番号20で表される。酸化オーブンは、通常、約150から600℃の間、特に、約175と400℃の間、より特別には、約175と300℃の間である高温に保たれる酸化雰囲気(例えば、空気)を有する内部22を含む。一実施形態において、前駆体繊維24は、複数のパスでオーブンの内部を通り前進し、これらのパスの各々で、炭素繊維に加えられる張力は独立に制御できる。本発明に関連して、「高温」という用語は、PAN前駆体繊維の酸化を引き起こすのに十分なだけ高いが、望ましくない効果、例えば、繊維の構造上の欠陥、燃焼、溶融、又は破断などを繊維に生じるほどには高くない温度を意味する。
【0029】
酸化オーブン20は、複数のアイドラロール(合わせて、参照番号28で表される)、及び複数の駆動ロール(合わせて、参照番号30で表される)を含む。前駆体繊維24は、クリール(示されていない)のような供給源から供給され、駆動フィードロール26によって前方に引っ張られる。各アイドラロール28は、1つ又は複数の対応する駆動ロール30と協調して、酸化オーブンを通る繊維パスを定める。本発明の目的では、「パス」は、上流の駆動ロールから下流の駆動ロールまで繊維によって辿られる経路(繊維の少なくともいくらかの部分は酸化オーブンを通って移動する)として定義される。このように定義されたパスは、アイドラロール、バー(bar)、又は他のこのような仕組みの形で、向きを変える点を含み得る。例示の実施形態では、繊維パスは、繊維が1つの駆動ロールとそれに関連する駆動ロールとの間を移動する時の繊維経路を表す。例えば、ロール26と駆動ロール30aとの間の繊維経路は、酸化オーブンを通る単一の繊維パスを定める。
【0030】
いくつかの実施形態において、酸化オーブンは、酸化オーブンを通る繊維パスを定める協調する駆動ロール対を含み得る。この実施形態では、1つの繊維パスは、第1駆動ロールとそれに関連する第2駆動ロールとの間でオーブンを通って繊維が移動する時の繊維の経路を表す。
【0031】
いくつかの実施形態において、前駆体繊維24は、引き続くパスの間で酸化オーブンを出てもよい。これに関連して、図2は、アイドラロール28及び駆動ロール30が酸化オーブンの外部に配置された実施形態を例示する。繊維が引き続くパスの間で酸化オーブンを出られるようにすることは、PAN鎖、従って繊維を、制御延伸しながら、それらを安定化する間に放出される発生熱のいくらかを散逸させる助けとなり得る。外部ロールはまた、繊維が高温表面にくっ付く傾向を押さえる助けにもなり得る。
【0032】
別の実施形態では、駆動ロール、アイドラロール又は両方が、酸化オーブンの内部に配置され得る。また、アイドラロール28が、引き続く駆動ロール30の間に備えられることは必要ではなく、パスが互いに向かい合っていることも必要ではない。例えば、オーブン20における十分な滞在時間を仮定すれば、前駆体繊維24は、アイドラロールによりニップされた引き続く駆動ロール30によって、オーブン20を通り真っ直ぐに動かされてもよい。
【0033】
駆動ロール30は、パスの間に加えられる延伸又は張力の大きさを独立に制御できるように、他の駆動ロールとは独立した速度でそれぞれ駆動され得る。例えば、駆動ロール30aは、駆動ロール30bが駆動される速度V2と異なるか、又は同じであり得る速度V1で駆動され得る。結果として、ロール28aと30aの間のパスにおいて繊維24に加えられる張力、さらには%延伸は、ロール30aと28bの間のパスにおいて繊維24に加えられる張力及び%延伸と異なり得る。各ロール30での速度を独立に制御することにより、各パスでの%延伸を独立に制御することが可能になる。結果として、引き続く駆動ロールは、酸化オーブンを通る複数の繊維パスに渡って張力又は歪速度を分配するために使用できる。一実施形態において、繊維は、約10%/分/パス以下である歪速度を受ける。
【0034】
一実施形態において、駆動ロール30は、それぞれ別々に、ロールを駆動するためのモーターと機械的に連結している。通常、駆動ロールは、ロールが駆動される速度の制御を向上させるために、独立したモーターによってそれぞれ別々にギア駆動され、結果として、繊維に加えられる張力の大きさの制御を向上させることができる。いくつかの実施形態においてチェーン駆動が使用され得るが、これは、駆動ロールの間で起こり得る速度の変動のために、一般に、望ましさが劣る。
【0035】
駆動ロール及びアイドラロールの総数は、得られる炭素繊維の所望の性質に基づいて選択できる。一実施形態において、酸化オーブンは2から20対の協調するアイドラロール及び駆動ロールを含み得る。他の実施形態において、酸化オーブンは2から12対の協調するアイドラロール及び駆動ロールを含み得る。いくつかの実施形態において、1つの導入口につき、2つ以上のロールを有するアセンブリ、又は異なる寸法のロールを有する配置構成が、繊維とロールの間の接触角を増して、延伸の間の繊維の滑りを減らすか、又は無くすることを助けるために、使用され得る。例えば、互いにごく接近したロール対は、繊維の経路としてS字型を定めることができ、これは、繊維の滑りを無くすことができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、アイドラロール28は、張力測定装置(例えば、ロードセル)を含んでいてもよく、これは、各パスの張力を連続的にモニターすることを可能にする。この場合、測定された張力は、相互に関連させて駆動ロールの速度を調節することによって、所定のパスにおいて前駆体繊維に加えられる張力を別々に制御するために使用され得る。
【0037】
所定のパスでの延伸は、引き続く駆動ロールの出口速度(V1)及び入口速度(V2)の間の違いから、式1を用いて計算される。
%延伸=100(V2/V1−1) (1)
例えば、50%延伸は、相対速度(出口/入口)の比=1.50である場合に達成できる。延伸は、比V2/V1=1.50になるまで、V1に対してV2を増すこと、V2に対してV1を低下させること、又は両方の速度を同時に変えることによって調節できる。50%延伸は、1.50の延伸比に相当することに注意。本発明に関連して、50%延伸は、「1.5X」と呼ばれ、「2X」延伸は繊維の元の長さ(1X)に比べて100%の延伸を意味する。「3X」延伸は元の長さの200%の延伸を表す(すなわち、元の長さの3倍の長さ)。
【0038】
酸化オーブンを出て行くと、繊維24は、1つ又は複数のさらなる酸化オーブン、中間炉、又は炭素化炉へと下流に前進し得る。これに関連して、図3は、前駆体繊維の炭素繊維への変換に使用され得る設備及び方法の概略図である。示されるように、前駆体繊維24が供給ロール40により供給される。代わりに、前駆体繊維は、クリールを用いて1つの束に纏められる複数の前駆体束から供給されてもよい。次いで、前駆体繊維は、1つ又は複数の酸化オーブン20を通過し、酸化オーブンで、それは、制御延伸に供される。
【0039】
いくつかの実施形態において、前記設備は、複数の酸化オーブンを含んでいてもよく、この場合、引き続くオーブンは、前の酸化オーブンの温度と、通常、少なくとも同じ高さである温度に保たれる。上昇する温度勾配を有する複数の酸化オーブンを設備が含む時、引き続くオーブンの温度は、前のオーブンの温度より、通常、約1から50℃の間だけ高く、より典型的には、5から20℃高い。いくつかの実施形態において、1つだけの酸化オーブンにおいて、温度勾配が、オーブン内の異なる加熱ゾーンによって設定され得る。別の実施形態では、酸素濃度が大気のそれより高いか又は低い環境で、酸化過程が実施され得る。さらに別の実施形態では、酸化処理ステップに、非酸化ガス処理が先行するか、又は介在し得る、或いは、酸化処理ステップは、様々な安定化促進剤の添加、流れパターンの配置構成、及び当技術分野において知られている他の方法によって改善され得る。
【0040】
1つ又は複数の酸化オーブンを通って前進した後、延伸され安定化された繊維は、次に、1つ又は複数の低温炉42(タール除去炉とも呼ばれる)を通過し、その後、1つ又は複数の高温炉44(炭素化炉とも呼ばれる)を通過する。低温及び高温炉は、窒素のような不活性性ガスを含む。1つ又は複数の低温炉における安定化された繊維の温度は、約300℃と900℃の間、より典型的には400℃と800℃の間の範囲にある。
【0041】
低温炉では、炭素化されている通過安定化繊維から発生する揮発性生成物が除かれる。1つ又は複数の低温炉を出た後、次いで、繊維は、1つ又は複数の高温炉において、一層高い温度、例えば、1200℃と2000℃の間、特に、1250℃と1600℃の間の温度に曝される。好ましい実施形態において、高温炉は、約1300から1500℃の間である。
【0042】
低温及び高温炉を通って移動する間、繊維の長さが、出口で、入口での長さに比べて、約1と40%の間、例えば、1と30%の間、特に、約1と24%の間だけ長いように、繊維はさらに延伸され得る。炭素化の完了後に、炭素化された繊維は、次に、グラファイト化、表面処理及び/又はサイジングを含めて、1つ又は複数のさらなる処理を受け得る。グラファイト化は、2000℃を超える温度の1つ又は複数の不活性ガス炉における熱処理を表す。表面処理には、繊維が1つ又は複数の電気化学浴を通って前進する陽極酸化が含まれる。表面処理は、繊維−マトリックスの層間又はショートビーム剪断強度の評価のような試験に現れる、マトリックス樹脂への繊維の接着性、従ってまた複合材の性質を向上させる助けとなり得る。サイジングは、使用中の損傷から繊維を保護するための表面コーティング又は皮膜を形成する水分散性材料を含む浴を通して繊維を前進させることを通常含む。複合材用途では、水分散性材料は通常、複合材製造に選定されたマトリックス樹脂に相溶性である。
【0043】
すでに記載したように、酸化の間に繊維に行うことができる%延伸の大きさは、繊維における張力荷重の蓄積によって制限されることが広く受け入れられてきた。しかし、出願人は、繊維の総累積%延伸は、酸化オーブンを通る複数のパスに張力荷重又は延伸を分配することによって増大させ得ることを見出した。結果として、繊維の総累積延伸は、複数のパスに張力荷重を分配することを可能にする延伸条件を選択することによって増大させることができる。別の言い方をすると、所定のパスにおける歪速度を小さくすることによって、総累積延伸を、パスにおける最大の%延伸の対応する増加なしに増大させることができる。これは、より高い度合いの延伸を、複数のパスの進路に渡って行うことを可能にし、このことは、得られる炭素繊維の引張強さ及び弾性率を向上させるさらなる助けとなり得る。本発明に関連して、「累積延伸」という用語は、酸化オーブンに入る前の繊維に比較した、繊維の総%延伸を表す。累積延伸は、個々の各ステップでの延伸の積、又は当該セクション内の初期及び最終速度の比のいずれかから計算できる。
【0044】
理論に拘束されようとは思わないが、酸化オーブンにおける、これらの漸増する制御延伸はいくつかの重要な利点をもたらす。例えば、より大きな累積延伸は、PAN繊維内の配向をさらに増す助けとなり得るし、また、繊維における欠陥誘発クリスタリットの生成を減らす助けにもなり得る。延伸が反応性環境、例えば酸化オーブンで実施される時、これらのゲイン(gain)は、PANポリマー鎖において起こっている化学反応を通じて繊維に固定され得る。非酸化条件下での延伸は、熱緩和及び/又はエントロピー性回復のせいで、ゲインのいくらかを失う結果になり得る。さらに、繊維の制御延伸による歪速度の分配は、また、低温及び/又は高温炉にも適用できる。
【0045】
酸化オーブンにおける複数のパスに渡る歪の分配は、また、酸化の均一性、及び酸化が起こる速度を上げる助けにもなる。制御延伸の1つの利点は、張力荷重が、1回の大きなステップとは対照的に、積み重ねられる比較的小さい段階において加えられることである。結果として、これは、引き続く延伸の間に分子が緩和することを可能にする。この場合、望ましくないコンホメーション又は配向に最初に引き伸ばされた分子は、より望ましい様に再配向する新たな機会をもつことができ、このことが、今度は、得られる炭素繊維の引張強さ及び弾性率を向上させる助けとなり得る。さらに、安定化の開始時に制御延伸を行うことにより、繊維を細くすることが可能になり、これが、今度は、無延伸繊維より早い速度での、より均一な酸化を容易にする助けとなる。結果として、繊維におけるスキン−コア構造の生成のような不均質性の根源が、低減され得る。これは、繊維における張力荷重勾配をさらに減少させる助けとなり得るし、また、得られる炭素繊維の弾性率及び引張強さを向上させ得る。
【0046】
さらに、酸化ステップの間の制御延伸は、(複数の)酸化オーブンの下流での張力を低下させる結果になり得ることが見出された。一実施形態において、酸化段階での漸増延伸が、低温炉におけるさらなる延伸と結び付けて使用され得る。より一様に酸化された繊維は、差剪断歪(differential shear strain)の蓄積によって受ける影響がより少なく、従ってより大きな張力に耐えることができ、この故に、低温段階の間にさらなる延伸を用いることができ、これは、低温炉において達成される、さらなる構造上のゲイン(例えば、分子配向)をもたらすことができる。一実施形態において、酸化された繊維は、低温炉において、約1と40%の間、例えば、約1と30%、及び約1と24%の間である%延伸を受け得る。
【0047】
一実施形態において、酸化オーブン20を通る複数のパスは、複数の酸化パスに渡って張力荷重を分配するのに使用できる。例えば、各駆動ロール30が他の駆動ロールに対して駆動される速度は、複数のパスの全体に渡って様々な張力荷重を加えるために用いることができる。いくつかの実施形態において、後の駆動ロールの速度は、前の駆動ロールに対して小さくなっていてもよく、これは、そのパスにおける張力の低下を生じる。いくつかの場合において、張力の低下は、酸化の間に繊維が収縮することを可能にし得る。上記のように、反応性環境における延伸は、制御延伸の結果として得られる機械的構造的ゲインを固定化する助けとなり得る。結果として、いくつかの実施形態において、繊維の性質は、制御延伸によって最初に向上させることができ、次いで、繊維は、その延伸過程によって得られたゲインを失うことなく、収縮することが可能になる。このことにより、フィラメントデニールの回復、又は前の延伸で失われた単位長さ当たりの重量の増大が可能になり得る。
【0048】
所定のパスにおける所望の延伸量、各パスの長さ、酸化オーブン中のパスの数、及び酸化オーブン内の繊維の滞留時間は、前駆体繊維の組成及び炭素繊維の所望の性質に依存する。一実施形態において、前駆体繊維は、酸化オーブンを通して約2と20パスの間、特に、約2と10の間、例えば、4と8パスの間を通過し得る。いくつかの実施形態において、各パスの長さは、4と40フィートの間の範囲にあり得る。通常、各パスでの酸化オーブン中の滞留時間は、約0.1から20分の間、例えば、約1から12分、又は2から10分の間である。
【0049】
一実施形態において、強度及び弾性率が向上した炭素繊維は、複数のパスで酸化オーブンを通して前駆体を前進させることによって調製でき、ここで、少なくとも2つ以上のパスにおける前駆体繊維への張力が約100から1,000mg/denの間である。通常、所定のパスにおいて繊維が受ける%延伸の最大量は、歪速度が、1パス当たり、約10%/分以下、特に、約5%/分未満であるように選択される。所定のパスにおいて所定の繊維に加えられる%延伸の大きさを求める方法は、下でより詳細に記載される。制御延伸により獲得される機械的性質のゲインは、前駆体繊維の最初の直径、デニール、又は化学組成によって制限されない。
【0050】
一実施形態において、引張強さ及び弾性率が向上した炭素繊維は、約1.5dpf以下、特に0.8dpf以下のフィラメントデニールを有する前駆体繊維に、5と100%の間、特に、15と60%の間である累積%延伸を行うことによって調製できる。さらに別の実施形態において、前駆体繊維は、5と70%の間、より典型的には、15と60%の間である累積%延伸に供される。別の実施形態において、前駆体繊維は、酸化ステップの前の繊維の元の直径に比べて、繊維の直径における20から70%の減少を生じる複数の制御延伸に供される。さらに別の実施形態において、前駆体繊維の直径は、25と50%の間、特に、30と45%の間、減少する。特に有用な一実施形態において、前駆体繊維の延伸方法は、酸化オーブンにおいて複数の制御延伸に前駆体繊維を供することを含み、ここで、a)第1パスにおける%延伸は10と40%延伸の間であり;b)第2パスにおける%延伸は2と20%延伸の間であり;c)第3パスにおける%延伸は2と16%延伸であり;またd)第4パスにおける%延伸は2と12%延伸の間である。さらなる実施形態において、酸化された繊維は、低温炉において、1と30%延伸の間である%延伸に供される。一実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維は、950ksiを超え、特に、1000ksiを超える引張強さ、及び、44Msiを超え、特に50Msiを超える弾性率を有し得る。
【0051】
一実施形態において、酸化された繊維は、炭素化され、電気化学的に表面処理され、また構造複合材、例えばプレプリグの調製に使用されるように、保護コーティングによるサイジングをされ得る。一実施形態において、19ksiを超える層間又はショートビーム剪断強度を有する、本発明の炭素繊維を含むプレプリグが調製され得る。
【0052】
さらなる態様において、本発明は、炭素繊維の弾性率及び引張強さの向上は、先行技術においてこれまでに教示される限界を超える、前駆体繊維の制御延伸によって達成できるという認識に基づいている。特に、これらの向上は、2つ以上のパスにおいて1つ又は複数の転移を繊維に経させるのに十分な大きさの延伸を、酸化の間に前駆体繊維に行うことによって達成できることが見出された。一実施形態において、炭素繊維は、酸化雰囲気(例えば、酸化オーブン)を通して、複数のパスで、前駆体繊維を前進させることによって調製され、ここで、前駆体繊維は、2つ以上のパスの各々において少なくとも2つの転移を経るように、2つ以上のパスにおいて制御された量の延伸に供される。転移は、所定のパスに対して、張力vs.%延伸のプロットから決定できる変曲域を含む。図4は、酸化オーブンを通る1つのパスにおいて、前駆体繊維が少なくとも3つの別個の転移を経た、動的トウ張力vs.%延伸のプロットの例示的グラフである。本発明に関連して、「動的トウ張力」という用語は、処理ステップを通してトウを移動させながらインラインで測定した平均張力を表す。具体的には、図4において、動的トウ張力は、酸化オーブンを連続的に通過しているPAN繊維のトウが受ける、特定のパスにおける定常状態の張力を表す。「%延伸」という用語は、上の式Iによって定義されるものと同じである。
【0053】
このプロットから、繊維は、酸化オーブンにおいて制御延伸に供される時、複数の転移を受け得ることが分かる。例示されたプロットにおいて、前駆体繊維は、3つの転移を経たように描かれている。延伸が、0%から、いくらかの初期値まで増加するにつれて、主として、前のステップにおいて延伸された構成分子が緩和し収縮しようとする傾向があるために、張力は増加する。この緩和(エントロピー性回復としても知られる)は、延伸が大きい程、分子が、一層、それらの隣の分子からそれら自身を解きほぐすことができるために、加えられる延伸の関数である。解きほぐされた分子は、今度は、より大きな荷重を担うことができるが、さらに大きな%延伸では、分子が解きほぐされること及び再配向することは、より困難になる。温度、滞留時間、フィラメントの直径、及び反応の度合いのようなパラメータに依存して、張力は、さらに解きほぐされること、及び再配向することが有利でなくなるまで増大し続ける。この点(図4のA点)で、張力は横ばいになり始め、前駆体繊維が、前に経た速度で張力が増加することなく、さらに延伸を受けることができる時に変曲域が現れる。
【0054】
さらに多くの延伸を受けると、より秩序化した(又は、擬結晶)ドメインの中の最も弱い領域内の分子は、引き離され始め、互いに滑るように強いられる。これは、これらの部分を一緒に保つ強いニトリル双極子及び/又は水素結合の相互作用に打ち勝つことを必要とする。酸化安定化反応は、この点で、助けとなり得る。酸化安定化の間に、ニトリル基は重合して、はしご形構造を形成する(しばらくの間、図1を参照)。これらのはしご形構造は、酸素が十分に速く拡散でき、それらに達すれば、非常に素早く酸化される。そうでなければ、これらのはしご形構造は、フィラメントのコアに残る。しかし、ニトリル基の重合(環化)は、強い双極子を消費し、そのため、互いに分子が滑ることを促進する。これは、さらに解きほぐされること、及び再配向することを、実効トウ張力の増大を伴い、促進する。
【0055】
張力は増大し続け、環化は、滑り、再配向するように、より多くの分子を自由にする。はしご形ポリマーの酸化は、隣接する鎖の間でのニトリル基の架橋(誤配向又は曲がったはしご形分子を生じる)を伴い、張力の増加にかなり寄与し始める。張力は、安定化過程が進展し、鎖間架橋度が増加するにつれて、徐々に横ばいになり始める。結果として、前駆体繊維は、同じ速度の延伸を、一層、持続できない。結果的に、変曲域が図4の点Bに現れる。ニトリル基の重合、はしご形ポリマーの形成、及び酸化反応の程度に応じて、比較的小さい歪速度で延伸される繊維は、かなりの延伸の可能性を保持し得る。安定化反応が酸素の拡散速度によって制限される場合、スキン−コア構造が発達し、スキンにおける張力の増大はコアにおけるものより大きい。これは、過去においてPAN繊維が安定化の間に延伸された度合いを制限したかもしれない応力勾配の原因となる。しかし、上記のように、漸増延伸は、分子が引き続く延伸の間に緩和できるように、小さな積み重ねられる段階において張力を加えることを可能にする。結果として、この場合、望ましくないコンホメーション又は配向に最初に延伸された分子は、より望ましい様に、再配向される新たな機会を有し得る。
【0056】
さらに、この段階でのより大きな%延伸は、より細いフィラメントを生じ得る。安定化の間に繊維を延伸することは、有効なフィラメント表面積を増大させ、拡散距離を減少させることによって、コアへの酸素の拡散を促進する。これは、今度は、繊維をより均質にし得る。しかし、より酸化された繊維における張力の増大は、酸化の少ない繊維におけるより大きい。したがって、十分に大きな延伸で、張力は再び増大し始める。
【0057】
結局、点Bを過ぎて張力が増加し続けるにつれて、残っているミクロフィブリルを繋いでいる鎖又は連結分子の破損のせいで、分子は壊れ始める。この時点で、残っている秩序化ドメインを繋いでいる連結分子の中で最も短いもの及び/又は最も応力を受けているもの(例えば、ぴんと張ったもの)が壊れ始め、結果的に、それらの負荷が、より長く、また/又はより小さい応力を受けた(例えば、たるんだ)連結分子に移され得る。結果的に、この時点で、張力は、再び横ばいになり始め、第3の変曲域が、図4の点Cで現れる。さらなる転移は、多孔の発生のような構造上の崩壊に起因し得る。かなりの多孔の発生は、ヘリウム比重測定法によって求められる、安定化繊維の密度(ox−密度)の低下を伴い得る。
【0058】
一実施形態において、転移の発現は、各パスにおいて加えることができる%延伸に対する指針として役立ち得る。指針として転移を用いることは、総累積延伸を増大させることができるように、所定のパスにおいて加えることができる延伸の最大量を決める助けとなり得る。転移の正確な位置及び大きさは、プロセスパラメータ(例えば、温度、滞留時間、加熱速度など)、さらには繊維の性質(例えば、組成、フィラメントの直径、構造モルホロジーなど)に応じて変わり得る。さらに、転移の位置はまた、酸化オーブンにおける引き続くパスの間でも変わり得る。しかし、実際に、転移は、「動的トウ張力」vs.「動的平衡延伸」の読みから直接、酸化ステップの間、辿ることができる。所定の前駆体での転移の数は、通常、得られる炭素繊維製品の目標とする性質に応じて決まる。PAN繊維の安定化の場合には、1つのパス当たり少なくとも1つの転移が有利であり、少なくとも2つのパスにおける、1つのパス当たり2つ以上の転移が望ましいことであり得る。例えば、繊維が所定のパスにおいて2つより多い転移を経る時、たるんだ連結分子の破壊(及び、それに続くラジカル反応)又は多孔の局所的生成に帰因する、炭素繊維の機械的性質における何らかの悪影響は、酸素の浸透の向上及び欠陥の除去に帰因する分子配向及び全体としての均質性におけるゲインによって依然として相殺され得る。酸化安定化の間の転移の確認方法の例が下の表1に例示される。
【0059】
表1は、酸化オーブンを通る1つのパスでの、0.6dpfのPAN前駆体繊維に対する、動的トウ張力vs.延伸曲線のデータを列挙する。表1の例において、動的トウ張力は、取得データ毎に延伸を約3%ずつ増加させて求めた。他の実施形態では、延伸の増加は、約0.1から10%、又は2から6%の範囲にあり得る。第2列は、安定な張力の読みに達した後で求めた動的張力を列挙する。3列は、逐次増加する2つの延伸点で求めた張力の間の差(Diff)を列挙する。例えば、0と3%延伸の間では、Diff=1092−795=297gである。4列は3列から計算される、次々の差の間の差(Der)を列挙する。例えば、0と6%延伸の間では、Der=219−297=−78gである。曲線の最初の部分が勾配の減少を示す(すなわち、それは、「下向きに凹んだ」曲線である)ために、Der値は、最初は負であることに注意。「Diff」及び「Der」という項は、それぞれ、曲線の第1及び第2導関数に関連する。こうして、第2導関数項「Der」は、曲線が下に凹(又は、減少する勾配)を示す時に負になるであろう。この「Der」項はまた、曲線の勾配が増加し始める(又は、曲線が「上に」凹となる)場合、正の値に変わるであろう。凹状の逆転する点は、延伸の増加の関数として動的張力を記録すること、及び「Der」関数が正になる延伸に注目することによって、簡単にそれと確認できるであろう。
表1.動的張力vs.延伸曲線における転移点の決定
【表1】
【0060】
表1に記す例では、3つの明瞭な転移が起こり、これらはそれぞれ、15%、33%、及び48%延伸で認めることができる。より大きな延伸での転移は、含まれるより小さな張力差のせいで、識別するのが困難になる。表1における列5〜7は、列2〜4と同じ情報を与えるが、mg/denの単位(すなわち、異なるデニールのトウとの比較を容易にするために、トウの線密度によって規格化した張力)である。図5及び6を参照すれば、転移の出現はまた、それぞれ、第1及び第2導関数のプロットからも確定できる。
【0061】
上で手短に記したように、表1に関連させて上に記載された方法は、所定のパスにおいて加えられる%延伸を決めるために使用できる。所望の又は最大の限界が第1の%延伸に対して一旦決められると、上の方法は第2パスに対して繰り返される。次いで、この方法は、酸化オーブンを通るxの繊維パスに対して、x回繰り返すことができる。通常、この方法は、所望の%延伸が、所定の1組の条件で所定の前駆体繊維について各パスに対して一旦決められれば、繰り返される必要はない。
【0062】
上述の議論から、本発明は、酸化オーブンを通る複数のパスにおいて、繊維を制御延伸することによって、炭素繊維の引張強さ及び弾性率を向上させる方法を提供することが明らかである。本発明に従って調製された炭素繊維は、大きな引張強さ及び高弾性率の両方を有することによって特徴付けられる。上で検討されたように、前記炭素繊維の利点のある性質は、酸化安定化の間に、制御延伸を前駆体繊維に行うことによって得ることができる。引張強さ及び弾性率の向上に加えて、本発明に従って調製された炭素繊維は、先行技術の炭素繊維にこれまで見出されなかった独特の性質及び構造的特徴を有する。例えば、本発明に従って調製された炭素繊維は、大きな比率の平均より小さい位相角、表面粗さの増加、平均位相角深さの増加、大きな抵抗率の値、より均一な結晶分布を示し得る。
【0063】
図7Aから7Fは、タッピング方式で原子間力顕微鏡(AFM)を用いて得た、様々な炭素繊維の表面位相像である。表面位相像は、Digital Instruments Co.(サンタバーバラ、カリフォルニア州)によって製造された、NanoScope IIa 走査プローブ顕微鏡により得られた。タッピング方式AFMは、振動するカンチレバーの末端に取り付けられた尖端(tip)を試料表面に渡って走査することによって運転する。カンチレバーは、20〜100nmの間の範囲の振幅で、その共鳴周波数で、又は、ほぼその共鳴周波数周波数で加振される。尖端は、x−y−z走査の間に振動しながら、試料表面を軽く打つ。先端−表面の相互作用は、特徴的な位相パターンでカンチレバーを振動させる。位相パターン(位相コントラスト像の形で)は、表面−先端の強い、及び弱い相互作用の領域の間を区別するために用いることができる。これらの領域は、次には、例えば結晶ドメインのような材料の特徴に関連付けることができる。図7Aから7Fでは、各炭素繊維試料(必要とされる時には、脱サイジングした)の1本のフィラメントが、特別なAFMホールダに装着された。各フィラメントの3つの表面領域(1μm×1μm)が、20nmの振幅で走査されて、試料の位相角像が生成された。位相角深さは、AFM像におけるピークと谷の間の平均距離を表す。
【0064】
図7Aは、酸化オーブンの1つのパスにおいてPAN前駆体に15%の累積延伸を行うことによって調製した炭素繊維の表面位相像である。図7Aは、下の表3に見出すことができる比較例1に対応する。図7Bは、先行技術の方法に従って弾性率を増すために1500℃を超える温度で炭素化されたこと以外は、比較例1に概ね従って調製された炭素繊維の表面位相像である。図7Cから7Fは、本発明に従って調製された炭素繊維の表面位相像である。図7C、7D、7E、及び7Fは、それぞれ、実施例23、35、29、及び34に対応し、これらの処理の詳細は下の表6に見出すことができる。
【0065】
AFM像における明るい領域は、炭素繊維上の大きな位相角の領域に対応し、暗い領域は、低位相角の炭素繊維の領域に対応する。全てのAFM像は、それらを直接比較し易いように、同じスケールで与えられている。図7A及び7Bにおいて、従来の延伸方法により調製された炭素繊維のAFM表面像は、暗い領域及び/又は明るい領域によって特徴付けられる。図7Cから7Fに示されるように、本発明に従って調製された炭素繊維のAFM像は、繊維の表面に渡って延びる複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる。一実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維のAFM像は、暗い領域の複数のストライエーション及び明るい領域の複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる。例えば、図7C及び7Dにおいて、AFM像は、炭素繊維の表面に渡って延びる、高位相角ドメイン及び低位相角ドメインの両方のストライエーションを示す。これらのストライエーションは、図7E及び7Fにおいて、より一層明らかであり、これらの図は、実施例のセクションに記載のように、同じ値域内の機械的性質を有するが、インライン表面処理とサイジングステップとをそれらに行った後で分析された炭素繊維の像を与える。詳細には、図7E及び7Fにおける像は、また、炭素繊維の表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション及び高位相角ドメインの複数のストライエーションを示す。図7A及び7B、従来の延伸法に従って調製された炭素繊維のAFM像に戻って参照すると、表面のストライエーションは、本発明の像におけるより、目立たなく、明瞭でない。形状の表面トポグラフィー像と異なり、位相角深さ像は、表面の曲がり(又は、フィラメントの直径)の影響を受け難いことにさらに注意すべきである。したがって、ストライエーションが、異なる度合いの構造秩序のドメインを表すとすると、AFM像は、本発明の方法が炭素繊維の表面モルホロジーをかなり変えることを示す。長いストライエーションの形の秩序化ドメインの生成は、下でより詳細に検討される、X線回折分析によって求められるパラメータLa(平均結晶幅又はリボン長さに関連する)の増加と符合している。下の表2において、繊維の表面構造の変化は、本発明の炭素繊維における引張強さ及び弾性率の両方の増加を伴うことが分かる。比較として、図7Aにおける炭素繊維は、図7Cから7Fに示される炭素繊維よりかなり小さい引張強さ及び弾性率を有する。同様に、図7Bにおける炭素繊維は、高弾性率を有するが、その引張強さは、本発明の繊維のものを下回る。
【0066】
さらに、3次元AFM像は、炭素繊維の表面を、トポグラフィー的粗さ及び位相角深さ分布のような表面の特徴を基に特徴付けることを可能にする。下の表2に、AFM像における炭素繊維の位相角深さ及び粗さを表す様々なパラメータが評価されている。
表2:図7A〜7Fに示す炭素繊維のAFM分析の要約
【表2】
a下の実施例セクションの表6から。
b比較例1に従うが、>1,500℃で炭素化して調製(表4参照)。
c表面処理及びサイジングを含む(下の実施例セクションを参照);試料は走査前に脱サイジングした。
【0067】
図7Aから7Fにおける炭素繊維の深さの様子の分析は、本発明に従って調製された炭素繊維が、広い深さ分布関数(広いピーク)及び大きな最大深さ(深さの大きくなる方向に偏った、ピークのすそ)を有することを明らかにする。通常、本発明に従って調製された炭素繊維は、約5nmを超え、特に約8nmを超え、より特別には10nmを超える平均位相角深さを有する。
【0068】
AFM像における炭素繊維の表面粗さも、また、算術平均粗さ(Ra)及び二乗平均平方根粗さ(Rq)の値により特徴付けられた。
【0069】
算術平均粗さ(Ra)は、次の式に従って計算される。
【数1】
二乗平均平方根粗さ(Rq)は、次に式に従って計算される。
【数2】
式(1)及び(2)において、Ziの値は、AFM像における平均データ面から測った表面高さの全ての「n」個の差を表す。異なるピーク振動数を有する2つの表面は、同じRa及び/又はRq平均値を有し得ることに注意すべきである。それでも、表面粗さの値は、位相像深さ分析だけによって得られる情報を補足する定量的情報を与える。図7Aから7FにおけるAFM像は、1μm×1μmの全領域に渡って走査され、次いで、Ra及びRqの値は、上の式を用いて計算された。図7Aから7FにおけるAFM像の切断部粗さも、また、300nmの長さで、秩序化相の配向に直交する仮想的切断線を引くことによって解析した。
【0070】
表2のデータは、本発明に従って調製された代表的炭素繊維の力学的性質が、パラメータRaの関数としてどのように変化するかを示す。位相角コントラストにおける粗さが大きい程、対応する炭素繊維の機械的性質は高い。例えば、比較例1は、約1.2のRa値、932ksiの引張強さ、及び42.7Msiの弾性率を有する。同様に、1500℃を超える温度で炭素化された試料(AFM比較例1)は、約2.5の全面でのRa値を有し、50Msiを超える弾性率を有するが、たった732ksiの引張強さを有するにすぎない。約2を超えるRa値を有する本発明の炭素繊維は、比較例の炭素繊維を超える、かなり向上した引張強さ及び弾性率を有する。例えば、実施例23は、3を超えるRa値を有し、1012ksiの引張強さ及び46Msiの弾性率を有する。4を超えるRa値を有する実施例29は、1113ksiの引張強さ及び51.5Msiの弾性率を有する。通常、本発明に従って調製された炭素繊維は、約2.0を超え、特に2.5を超え、より特別には約3.0を超えるRa値を有し得る。
【0071】
表2のデータはまた、本発明に従って調製された代表的炭素繊維の力学的性質が、パラメータRqの関数としてどのように変化するかを示す。パラメータRaと同じく、位相角コントラストにおける粗さが大きい程、対応する炭素繊維の機械的性質は大きい。通常、本発明に従って調製された炭素繊維は、約2.0を超え、特に3.0を超え、より特別には約4.0を超えるRq値を有し得る。
【0072】
表2のデータ、及び図7Cから7FのAFM像から、繊維を調製する本発明の方法により、引張強さ及び弾性率の増加した繊維が得られること、並びに、引張強さ及び弾性率におけるこの増加は、繊維に起こっている構造上の変化、例えば、繊維表面の連続的なストライエーションの出現、位相角深さの増加、及び繊維表面の粗さの増加を伴っていることが分かる。
【0073】
上で検討された表面の特徴以外に、本発明に従って調製された炭素繊維は、また、独特の結晶寸法(La及びLc)を有する。表3は、本発明に従って調製された炭素繊維のクリスタリットのデータを含む。表3のデータは、様々な炭素繊維にX線回折分析を行うことによって得られた。測定は、回折ビームモノクロメータと共にCuKα放射線を用い、広角粉末回折計の回折面に垂直に繊維ストランドを調節し、反射法で実施した。La及びLcの決定には、それぞれ、La=1.84×λ/(B×cos(θ))、及びLc=0.89×λ/(B×cos(θ))(式中、λは1.54Åであり、Bは、(2θ度)でのピーク幅であり、θは回折角である)の関係を用いた。
表3:炭素繊維のX線回折データ
【表3】
【0074】
通常、パラメータLaは、「クリスタリット幅」又は「リボン長さ」に関連しており、パラメータLcは「クリスタリット高さ」に関連している。一実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維は、約4nm以上で、特に約4.5nmを超え、いくつかの実施形態においては5.0nmを超えるLa値を有する。表4のデータは、本発明に従って製造された炭素繊維は、類似の温度で製造された従来のPAN系炭素繊維より大きなLa値を有する傾向があることを示唆する。表3に例示される炭素繊維は、約1,315℃の炭素化温度で調製され、このような比較的低い炭素化温度で通常予想されるものより大きなLa値を有する。匹敵するLa値を有する従来のPAN系炭素繊維は、通常、1,750℃より高温で、2,000℃を超えさえする高温に、例えば、炭素繊維にグラファイト化を誘発するのに十分な高温に、繊維を加熱する従来の方法により調製される。表3に例示される炭素繊維は、約1,315℃の炭素化温度で調製され、このような比較的低い炭素化温度で処理されたPAN系前駆体から通常予想されるものより大きなLa値を有する。他方、メソフェーズピッチ系前駆体は、低い炭素化温度で大きなLa値を示すことが知られている。しかし、メソフェーズピッチ系繊維によって示される大きなLa値には、小さな引張強さの値が伴う。上記のように、大きなLa値は、関連するAFM位相像に認められる明瞭なストライエーションと符合しており、再び、本発明に従って調製された炭素繊維の独特な特質を示している。本発明に従って調製された炭素繊維は、比較的小さな寸法の結晶ドメイン(引張強さを向上させるため)と共に、高度に配向した延びたリボン(弾性率を向上させるため)の必要性の間の好ましいバランスをもたらすことができる。
【0075】
別の実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維は、また、それらの抵抗率によって特徴付けることができる。繊維トウの電気抵抗率は、市販のデジタルマルチメータ(GW Instek Model GDM−8055)を用いて求めた。このメータは、連続繊維の0.20mの複数本切片の端から端までの電気抵抗率(R)を測定するために、トウを一直線に揃えるように考案された繊維支持フレームに連結された。1つの試料当たり6〜10本の切片の平均のR値が、次の式を用いて電気抵抗率(r)を計算するために用いられた。
r=5RW/ρ (4)
ここで、R(オーム)は、平均の測定電気抵抗であり、W(g/m)は、表6〜9に列挙された、繊維の単位長さ当たりの重量(WPUL)であり、ρ(g/cm3)は、繊維の密度(やはり、表6〜9に列挙されている)であり、rは、μΩmの単位で計算される。
【0076】
表4に示されるように、本発明に従って調製された炭素繊維は、類似の弾性率を有する繊維に通常予想されるものより、比較的大きな抵抗率を有する。炭素繊維の弾性率を増すための従来技術の方法(例えば、1,500℃より高温で繊維を炭素化すること)は、通常、電気抵抗率の低下を伴う。従来の処理方法は、弾性率の増加と共に抵抗率の予想される減少に導くが、本発明の炭素繊維の抵抗率は、約50Msiを超える弾性率で、比較的大きい(13μΩmを超える、いくつかの実施形態では14μΩmを超える)ままであった。
表4:代表的炭素繊維の抵抗率データ
【表4】
【0077】
上の表4の実施例において、比較例1、実施例31から33、及び実施例35は、下の表6に記載の方法に従って調製された。抵抗率比較例1及び2は、それらが1,500℃超える温度で炭素化されたこと以外は、表6における比較例1に記載の方法に概ね従って調製された。
【0078】
さらに、本発明に従って調製された炭素繊維は、また、1本のフィラメントにおける均一な結晶分布を有する。一実施形態において、本発明の炭素繊維は、約0.05未満、特に0.015未満である、各1本のフィラメントの内側と外側層との間の結晶性における違い「RD」を有することによって特徴付けられる。RDはRAMAN分析によって求めることができる。RDを求める例示的な方法は、米国特許第6428892号に記載されており、その内容は、本明細書における教示と合致する範囲で本明細書に組み込まれる。
【0079】
内側と外側層との間の構造上の相違が小さいか又はほとんど無い炭素繊維は、内側と外側層との間の「RD」の小さな差を示す。一実施形態において、本発明の炭素繊維は、約0.01から0.05、より特別には、0.01と0.025の間の、内側と外側との間の差「RD」を示す。
【0080】
本発明の炭素繊維の結晶の均一性は、また、炭素繊維の半径方向の均一性(radial uniformity、RU)によっても特徴付けることができる。本開示において定義される、半径方向均一性パラメータ「RU」は、炭素繊維フィラメントの外側と内側層との間の歪分布の違いの相対的尺度を与える。RU値の誘導及び意味は下に略述される。
【0081】
半径方向均一性は、100倍の対物レンズにより集光されるAr+イオンレーザー光線(波長 514.5nm)によって励起され、1,800gr/mmの格子を装備する、Jobin−Yvonの「LabRAM」ラマン分光計により評価された。試料フィラメントは、それらの横断面をレーザー光線の方向に直交するように配向させて装着した。振動源に対して装着具を保護した後、レーザー光線は、選択されたフィラメント横断面内の2つの半径方向位置:(a)フィラメントの中央、及び(b)フィラメントの外側表面近く、に独立に焦点を合わせた。非弾性的に散乱された放射線強度Ic又はIsが、それぞれ、試料中の炭素の秩序及び無秩序構造に帰せられるラマン散乱ピークの形状によって決められた波数の下側及び上側の境界内で、高スペクトル分解能(〜1cm−1の波数増加で)で測定された。これらのピークの典型的な下側及び上側の境界は、それぞれ、約700cm−1又はそれ以下、及び2,220cm−1又はそれ以上である。試料でのレーザースポットは1ミクロンの直径を有するので、3ミクロンより小さいフィラメント直径にこの技法を拡張するにはさらなる改良が必要とされ得ることに注意すべきである。
【0082】
半径方向均一性(RU)の値は、広く炭素質材料(特に、炭素繊維)からのラマンピークが、様々な度合いに応力を受けた多数の結合の一緒になった応答を表すということに注目することによって導かれる。この故に、ラマンピークの位置及び形状は、調べられる領域内に含まれる結合が受けている歪の大きさに関係して変化する。炭素繊維のラマンスペクトルは、通常、2つの広いピーク:約1,560〜1,600cm−1に最大強度を有する吸収(グラファイトと同質の秩序構造に関連する、Gバンド)、及び、約1,330〜1,370cm−1に最大強度を有する別の吸収(無秩序構造に関連する、Dバンド)を示す。これら2つの広いピークは、結合への応力の相対的な分布によって決められる度合いまで重なる。パラメータRUは、この度合いを、所定の試料の秩序(Yg)及び無秩序(Yd)領域内の平均の歪の度合いを表す振動数でのラマン強度を基に定量化する。内側(又はコア)層と外側(又はスキン)層で求められるラマン強度比Yd/Ygの間の差が、半径方向均一性に逆比例することに注意すれば、パラメータRUは、次の式で計算できることになる。
RU=((Is,g−Ibs,g)(Ic,g−Ibc,g))/((Is,d−Ibs,d)(Ic,g−Ibc,g)−(Is,g−Ibs,g)(Ic,d−Ibc,d)) (5)
式5において、ラマン強度Iは、生のデータから直接取られ(カーブフィッティングによるベースライン補正に帰因する偏りを避けるために)、下付き文字s及びcは、それぞれ、フィラメント横断面のスキン及びコア領域を表し、下付き文字g及びdは、それぞれ、上で定義された秩序及び無秩序領域を表し、上付き文字bは、生のデータプロットから導かれるベースラインの値を表す。本出願の目的では、強度Ig及びIdは、それぞれ、通常、1,560〜1,600cm−1及び1460〜1,500cm−1内の強度値に関連する。式5に従って計算されるRU値は、半径方向均一性に正比例し、本発明の繊維が有する、半径方向の歪分布の小さな相違に非常に敏感である。
【0083】
本発明の炭素繊維に対するRU値の代表的な例が、下の表5に列挙されている。表5における実施例は、下の表6における実施例に対応している。通常、本発明による炭素繊維は、比較的大きなRU値を有する。一実施形態において、炭素繊維は、約50以上、特に約75以上のRU値を有する。いくつかの実施形態において、炭素繊維は、約100以上のRU値を有し得る。一実施形態において、本発明は、少なくとも975ksiの引張強さ、少なくとも46Msiの弾性率、及び約50以上のRU値を有する炭素繊維を含む。
表5:代表的炭素繊維の半径方向均一性
【表5】
【0084】
1本の繊維の内側と外側層との間の結晶度の違いは、通常、安定化の間に酸素が繊維に拡散できるかどうかに依存すると考えられる。上で検討されたように、本発明は、酸化の間のPAN繊維の、より良好な制御及びより均一な酸化をもたらし、このため、結果的に、炭素繊維の内側と外側部分の間の結晶度の分布がより均一になる。通常、内側と外側層との間の結晶度の違いは繊維の太さが増すにつれて増大する。本発明では、制御延伸が、個々のフィラメントを細くする助けとなり、このことが、今度は、繊維へのより均一な酸素の拡散を可能にする。結果として、繊維における結晶度の分布もまた、より均一である。本発明によれば、引張応力集中の領域が減少した炭素繊維が製造され得る。炭素繊維の外側層近くでの高結晶度は、炭素繊維に破断又は損傷を生じ得る大きな引張応力の点を生じ得るので、結果的に、炭素繊維の引張強さは小さくなる。
【0085】
本発明に従って調製された炭素繊維は、また、破損するまで荷重が加えられた時に、様々な歪の値を与え得る。特に、先行技術の方法に従って製造された時に約2%の破損歪(strain−to−failure)を示すと思われる繊維から、2.5%に近い破損歪の値が測定された。
【0086】
本発明に従って製造された炭素繊維は、また、複合材製造にとっても明瞭な利点をもたらす。本発明は、比較的低い炭素化温度で比較的高い弾性率を有する炭素繊維を得る方法を提供するので、炭素繊維の表面は反応性のままであり得る。この事実は、向上した機械的性質への転換のための、一層穏やかな表面処理、及び、複合材樹脂との一層効果的な相互作用を可能にする。低い炭素化温度はまた、圧縮強度の向上にとっても有益であり得る。さらに、本発明は、比較的小さい直径を有する炭素繊維を調製するために用いることができ、この炭素繊維は、(a)トウの成形性の向上にとっての、フィラメントの剛性の低下;及び(b)繊維−樹脂の接触にとっての、比表面積の増加;の点で、利点をもたらし得る。この増加した比表面積は、AFM分析によって明らかになった位相角粗さの向上と結び付き、繊維と樹脂との間の化学結合による機械的噛合いを向上させる助けになり得る。
【0087】
次の実施例は、本発明の態様を例示するために記載されており、本発明を限定すると解釈されるべきでない。特に断らなければ、実施例に挙げられる全ての弾性率の測定は、米国特許第5004590号(この内容は参照を通じて本明細書に組み込まれる)により詳細に記載されているように、ASTM D 4018に従って行った。繊維の弾性率の値は、それぞれ0.1%及び0.6%の上側及び下側歪限界の間で求めた、樹脂含侵トウのストランドの弦引張り弾性率を表す。さらに、引張強さは、米国特許第5004590号(この内容は参照を通じて本明細書に組み込まれる)により詳細に記載されているように、ASTM D 4018に従って測定した。
【実施例】
【0088】
表6〜8に列挙する実施例において、ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維は、98mol%のアクリロニトリル及び2mol%のメタクリル酸からなるコポリマーから、エアギャップ湿式紡糸法によって製造した。出発コポリマーは、溶媒として濃厚チオシアン酸ナトリウムを用いて求めた時、約2.0デシリットル/グラムの固有粘度を有していた。表9の実施例では、PAN前駆体繊維は、1.5mol%のイタコン酸及び5.5mol%のメチルアクリレートから構成されるターポリマーから、湿式紡糸法によって製造した。全ての実施形態において、紡糸及び凝固剤溶液は、チオシアン酸ナトリウム水溶液に基づいていた。繊維は、それらのトウの形の長さが、スピナレットからの押出の後のそれらの長さに比べて、水蒸気延伸後、約6倍の長さに達するように、紡糸の間に延伸した。乾燥した前駆体繊維は、約1wt%のシリコーン系仕上げオイルを含み、0.60(表6)、0.8(表7)、1.33(表8)及び1.53(表9)dpfのフィラメントデニールを有していた。表6〜9は、6,000と24,000フィラメント/トウの間のフィラメント数を有する繊維での結果を列挙する。
【0089】
前駆体繊維は、それらを、段々と高くなる酸化温度に通常保たれた一連の強制空気対流オーブンを通過させることによって安定化した(例外は表6〜9の脚注に記す)。第1オーブンは、図2に示すように、複数のパスにおいて、制御延伸又は収縮が可能であるように配置構成した。以下の実施例では、外部ロールアセンブリを有する4つのパスを用いた。各ロールアセンブリは、それ自身の個別のモーター、及び繊維とロール表面との間の接触を増すためにギアによって連結された複数のロールを含んでいた。第1駆動ロールアセンブリは、オーブンを通して、ロードセルに接続されたアイドラロールに繊維を前進させた。繊維は、ロードセル付きアイドラロールで180度反転し、オーブンに戻り第2駆動ロールアセンブリに向かった。第2ロールアセンブリは、通常、第1アセンブリより高速で駆動されるので、第1パスにおける有効%延伸は、それに対応して、比較的大きかった。引き続くロールアセンブリにおける速度は、引き続くパスにおいて繊維が受ける有効%延伸もまた変えるように調節した。
【0090】
表6〜9に与える情報は、例示として表6の実施例35を参照することによって最もよく理解できる。実施例35では、第2ロールアセンブリを、第1アセンブリより20%大きな速度で駆動したので、第1パスの有効延伸%は20.0%であった(表6)。引き続くロールアセンブリの速度は、3つのさらなるパスにおいて繊維が受ける有効%延伸が13.3%(#2)、10.3%(#3)及び6.70%(#4)であるように調節した。こうして、第1酸化オーブン内でこの繊維が受けた総累積%延伸(OX−Str)は60.0%であった。制御延伸の間、第1酸化オーブンは、223℃の温度(Temp Ox.)に保った。繊維の制御延伸の後、繊維は、0%のさらなる延伸で、246℃まで段階的に高くなる温度に保たれた、さらに3つの酸化オーブンを通して前進した。4つの全ての酸化オーブンにおける総滞留時間は90分未満であった。表の脚注に示され、下でより詳細に検討されるように、他の実施例は、広い範囲の実験パラメータを網羅する。
【0091】
次いで、実施例35により安定化された繊維は、それぞれ523℃及び1,315℃の平均温度を有する低温及び高温炉を通して前進した。以下の実施例のいくつかにおいて、高温炉は、より高温で、例えば、1,500℃又はそれ以上で運転した。実施例35において、これらの炭素化炉を通る繊維の入口及び出口の速度は、独立したロールによって、低温及び高温炉でそれぞれ、21.1%及び−3.5%(収縮)の有効%延伸を加えるように設定した。他の実施例では、低温炉における延伸及び高温炉における収縮の度合いは、表6〜9に列挙された通りに加減した。特に断らなければ、炭素化ゾーンにおける全滞留時間は、プロセスの酸化安定化部分のそれの約十分の1であった。
【0092】
実施例35において炭素化ステップの完了後に、繊維に、90クローン/平方メートルの電荷により炭酸水素アンモニウム浴中で陽極酸化を行うことによって、繊維を表面処理した。この表面処理した繊維に、エポキシ相溶性サイジング剤によりサイジング処理を行い、乾燥し、スプールに巻き、その後、試験、又は複合材を生成させるためのさらなる処理をした。実施例35の場合には、6インチの樹脂含侵プレプリグテープを製造し、その性質を試験するのに十分な量の炭素繊維を製造した。米国特許第5004590号(これは、すでに参照を通じて組み込まれた)に記載のラミネート試験による、層間又はショートビーム剪断強度の測定は、複合材が19.0ksiのショートビーム剪断強度を有することを示した。
【0093】
酸化オーブンにおける制御延伸の効果及び得られる繊維の性質を、4つの異なるタイプの繊維で調べた。以下の実施例は、長期間にわたって、研究用パイロットラインで調製した。この期間の間、ラインの性能を向上させるために、特に、様々な原因により生じる張力の変動を少なくするために、機械的変更を行った。最低限レベルへの張力変動の低減は、スリップ−フリーロール及び制振装置の使用を含めて、繊維技術の分野において知られている方法によって達成できる。結果におけるいくらかの実験的バラツキが当然予想され、典型的な変動係数は2〜3%以内である。しかし、表におけるいくつかの実施例における明らかなバラツキは、時間的順番又は実験の試験の組ではなく、酸化延伸の厳密さが増す順番にそれらを列挙していることの反映である。各表の関連する脚注は、標準的規範からの様々な相違について説明している。
【0094】
結果は下の表に要約する。
1)表6:表6の実施例は、0.60dpfのデニール及び8.5μmの繊維直径を有するPAN前駆体繊維(AN:MAA)を用いて調製した。
2)表7:表7の実施例は、0.80dpfのデニール及び9.8μmの繊維直径を有するPAN前駆体繊維(AN:MAA)を用いて調製した。
3)表8:表8の実施例は、1.33dpfのデニール及び12.6μmの繊維直径を有するPAN前駆体繊維(AN:MAA)を用いて調製した。
4)表9:表9の実施例は、1.53dpfのデニール及び13.5μmの繊維直径を有するPAN前駆体繊維(AN:IA:MA)を用いて調製した。
【0095】
表6から9において、次の欄の標題は以下の通り定義される:
a)「OX−パス#における%延伸」は、引き続く駆動ロールの間の%延伸を表す;
b)「OX−Str.(%)」は、酸化オーブンにおける繊維の累積%延伸を表す;
c)「Temp.OX(℃)」は、酸化オーブンの温度を表す;
d)「TR−Str.(%)」は、低温炉(タール除去炉とも呼ばれる)における%延伸を表す;
e)「Temp.TR(℃)」は、低温炉の温度を表す;
f)「C2−Str.(%)」は、高温炉(炭素化炉とも呼ばれる)における%延伸を表す;
g)「HIT(℃)」は、高温炉の温度を表す;
h)「WPUL」は、炭素繊維の単位長さ当たりの重量を表す;
i)「密度」は、炭素繊維の密度を表す;
j)「直径」は、炭素繊維フィラメントの平均直径を表し、繊維のWPUL及び密度から計算される;及び
k)「引張強さ」及び「弾性率」は上で定義された通りである。
表6:0.60dpfを有するPAN前駆体繊維から調製した炭素繊維の処理条件及び特性データ
【表6−1】
【表6−2】
【表6−3】
a設備コンポーネントの改善
b張力変動の低減
c6,000(vs.12,000)フィラメント/トウ
d空の表面処理及びサイジング処理部を通して運転(ブランク運転)
e表面処理を含むがサイジング無し
fサイジングを含むが、不安定なエマルジョン
g表面処理及びサイジングを含む
h炭素化の間の比較的大きな張力変動
表7:0.80dpfを有するPAN前駆体繊維から調製した炭素繊維の処理条件及び特性データ
【表7−1】
【表7−2】
【表7−3】
a安定化試料の酸化密度を1%だけ下げるために下流のオーブン温度の平均値を低くした
b安定化試料の酸化密度を2%だけ下げるために下流のオーブン温度の平均値を低くした
c張力変動を低減
d安定化時間を2分の1にするために下流のオーブン温度の平均値を上げた
e低温炭素化炉を出る繊維の性質(高温炉をオフにした)
表8:1.33dpfを有するPAN前駆体繊維から調製した炭素繊維の処理条件及び特性データ
【表8】
表9:1.53dpfを有するPAN前駆体繊維から調製した炭素繊維の処理条件及び特性データ
【表9】
a標準の2倍の炭素化滞留時間で実施
【0096】
表6から9の実施例において、本発明による炭素繊維の制御延伸により、従来の方法に従って調製された炭素繊維に比べて、引張強さ及び弾性率の向上した炭素繊維が得られることが容易に分かる。例えば、表6において、実施例35は、従来の技術を用いて調製された炭素繊維(例えば、比較例1)を凌ぐ、引張強さ及び弾性率におけるかなりの向上を示す。詳細には、約20%に達する引張強さ及び弾性率におけるゲインが、0.6dpfの前駆体に、実施例35に指定の条件で、制御された酸化延伸及び引き続く炭素化を行うことによって達成された。これらの条件は、用いられた4つのパスの各々における1つと2つの間の転移に対応する。下で検討されるように、別の条件は、転移の組合せが異なり、従って、得られる炭素繊維の機械的性質は異なる。
【0097】
比較例1〜4は、機械的性質におけるゲインが、ラインの機械の性能を向上させることによって、特に、張力変動を低減させるためのステップを踏むことによって実現されることを示す。結果の改善のためには、張力変動は、好ましくは、<5%の範囲内、最も好ましくは<3%の範囲内にすべきである。対照的に、比較例4〜9は、本発明によって達成された水準の機械的性質の向上は、酸化過程において早い段階に、大きな歪速度で、大きな総酸化延伸を加えるという従来技術の手法によっては実現できないことを示す。
【0098】
実施例1〜5及び比較例6は、類似の総酸化延伸及びフィラメント直径の炭素繊維の機械的性質への酸化延伸の分配の効果を例示するために1組として行われた。15%の総酸化延伸、及び約4.35μmのフィラメント直径で、試験試料は、引張強さ及び弾性率に、かなりの増加を示す(それぞれ、約10%及び約7%)。これらの増加は、1パス当たりの酸化延伸の分配だけを変えることによって達成されたので、フィラメント直径に関らず、酸化延伸が炭素繊維の機械的性質に直接の影響を及ぼすと言える。
【0099】
実施例5はまた、酸化の間の中間ステップとして(パス#3〜4において)収縮させることの効果を例示する。実施例1〜4との比較は、酸化の中間ステップの間に繊維を収縮させることは、繊維の性質にとって有害でなく、フィラメントの直径を増すために用いることができることを示す。この結果は、所望の機械的性質、直径及び単位長さ当たりの重量の炭素繊維を製造するのに、延伸及び収縮プロトコルの目的に適った組合せを適用することの利点を例示する。
【0100】
実施例6〜61は、0.6dpfの前駆体から様々な実験条件で製造される繊維の転移、及び機械的性質へのそれらの影響の系統的探求を例示する。当業者は、低温及び高温炭素化炉での延伸及び温度のようなパラメータの結果への有益な影響を認めるであろう。しかし、含まれる延伸の大きさは、従来技術に比べて相対的に大きい。当業者はまた、酸化延伸分配パラメータの変更を通じてのみ達成された、同じような直径の繊維の機械的性質における向上のさらなる例を認めるであろう(例えば、実施例41と55を比較)。
【0101】
実施例42〜53は、弾性率を増大させるために、1,350℃を超えて炭素化温度を上げることの効果を例示する。予想されるように、引張強さは、炭素化温度を上げると共に低下する。しかし、引張強さの値は、850ksiより大きいままであり、これは、58Msiに達する弾性率を有する炭素繊維では予想外である(例えば、実施例53参照)。
【0102】
表7〜9は、本発明の方法がまた、より大きなフィラメントデニール(表7〜9)及び組成(表9)のPAN前駆体に適用された時にも、機械的性質が増加することを立証する。当業者は、これらの表に列挙された機械的性質の組合せのいくつかが、大きなデニールの(より経済的な)前駆体から製造される材料としては、予想外に高いことを認めるであろう。
【0103】
本明細書に記載の本発明の多くの修正及び他の実施形態が、上述の説明及び関連する図面に記載の教示から利益を得る、これらの発明が関連する分野の技術者には思い浮かぶであろう。したがって、本発明は、開示された具体的実施形態に限定されるべきでないこと、並びに修正及び他の実施形態は添付の特許請求の範囲内に含められると見なされていることが理解されるべきである。本明細書において具体的な用語が用いられているが、それらは、一般的で、説明的な意味でのみ使用されており、限定のためではない。
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く炭素繊維に、より詳細には、向上した強度及び弾性率を有する炭素繊維、並びにこれらの炭素繊維を製造するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、それらの望ましい性質の故に、様々な構造体用途及び産業に使用されている。例えば、炭素繊維は、高強度及び高スチフネスを併せ持ち、同時に等価な性質の金属部材よりかなり軽い重量を有する構造体部材に成形できる。炭素繊維は、前駆体繊維、例えば紡糸ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を、この前駆体繊維が加熱され、酸化され、炭素化されて、90%を超えるカーボンである繊維を生成する多段階プロセスにおいて変換することによって製造できる。得られる炭素繊維は、構造体用途の高強度複合材料に成型でき、それらを複合しないで電気及び摩擦用途に使用でき、或いは、吸着材、フィルター、又は他の用途で使用するためにさらに加工できる。特に、炭素繊維が、樹脂、セラミック、又は金属マトリックスの強化材料としての役目を果たす複合材料が開発されている。
【0003】
益々、炭素繊維は、構造部材として航空機用途に用いられている。航空機産業の厳しい要求に合わせるために、大きな引張強さと高弾性率の両方を有する新しい炭素繊維を絶えず開発することが必要である。特に、1,000ksi以上の引張強さ及び50Msi以上の弾性率を有する炭素繊維を開発することが求められている。一本一本がより大きな引張強さ及び弾性率を有する炭素繊維は、より低い強度の炭素繊維より少量で使用でき、それでも尚、所定の炭素繊維複合部材では同じ全体強度を達成できる。結果として、複合部材はより軽量である。部材重量の低減は、航空機産業にとって重要であり、このような部材を組み込む航空機の燃料効率を向上させる。
【0004】
引張強さ及び弾性率を上げるいくつかの方法が、先行技術において探求され、通常、複雑な結果を生じた。例えば、弾性率は、炭素化温度を上げることによって増大させ得ることが一般的に知られている。しかし、炭素化温度の上昇の結果、引張強さは小さくなる。結果として、この方法は通常、引張強さ及び弾性率の向上した炭素繊維を調製する有効な手段を提供しなかった。
【0005】
別の方法は、前駆体繊維を炭素繊維に変換する過程の前又はその間に、前駆体繊維を延伸することに焦点を合わせた。炭素繊維の弾性率は、繊維を、紡糸後のステップ、酸化ステップ、炭素化ステップ、又はこれらの組合せにおいて延伸することによって向上し得ることが、先行技術においてすでに確認されている。しかし、一般通念では、酸化ステップにおける延伸量は、化学反応、例えば、PAN前駆体繊維の熱誘起環化及び/又は酸化架橋の開始に応じて発生する、繊維の張力レベルによって制限されると思われた。張力の蓄積は、標準的な酸化条件、例えば、180℃より上では、比較的小さな延伸で繊維の破断を引き起こした。結果として、酸化の間にPAN繊維を延伸しようとする、先行する試みは、通常、ある最大量の延伸に、又は、1回だけの連続延伸に制限された。
【0006】
いくつかの研究及び先行技術の参考文献は、さらに、この初期又は最大の延伸を越える改善は、性質におけるゲイン(gain)を、あるとしても、ほとんどもたらさず、事実、実際に繊維の破断又は損傷に至り得ることを示唆していた。例えば、米国特許第4609540号は、酸化雰囲気において前駆体繊維に加えられる最適の延伸の決定方法を記載する。この‘540特許によれば、延伸の最適量は、%伸びvs.張力のプロットから決定できる変曲点に対応し、また、この最適伸びはまた、繊維内の最大の結晶配向度にほぼ対応する。この変曲点を越えると、‘540特許は、さらなる延伸による如何なるゲインも最低限であり、結果的にフラフ(fluff)の成長及び可能性として破断を生じ得ることを教示する。
【0007】
このように、大きな引張強さ及び高弾性率の両方を有する炭素繊維、並びに、このような炭素繊維を調製するために使用できる方法及び装置が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、向上した強度及び弾性率を有する炭素繊維、並びにこれらの炭素繊維を調製するために使用できる方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態において、前記方法は、酸化オーブンを通して前駆体繊維を前進させることを含み、ここで、繊維は、酸化雰囲気において、張力荷重が酸化オーブンを通る複数のパスの間に分配された、制御延伸(controlled stretching)を受ける。結果として、繊維の総累積延伸は、複数のパスに渡って張力荷重を分配可能にする延伸条件を選択することによって増大させることができる。複数のパスの間での張力荷重の分配により、繊維は、前に予想されたものを超える度合いまで延伸可能になる。酸化の間の繊維のこの制御延伸は、例えば、配向の向上、酸化の均一性、及び欠陥誘発クロスタリットの成長の減少をもたらす助けとなることができ、このことが、今度は、得られる炭素繊維の弾性率及び引張強さにおける向上をもたらすことができる。
【0010】
一実施形態において、本方法は、酸化オーブンに炭素繊維前駆体ポリマーを通過させることを含み、この酸化オーブン中で、少なくとも1つのパスにおいて5と30%の間である%延伸に、また後のパスにおいて5と20%の間である%延伸に、及び2から15%の延伸に繊維が供されるように、繊維は複数の制御延伸に供される。特定の一実施形態において、繊維は、第1パスにおいて5と30%の間である%延伸に、第2パスにおいて5と20%の間である%延伸に、また第3及び第4パスにおいて2と15%の間である%延伸に供される。さらなる実施形態において、本発明の方法は、酸化オーブンにおいて、炭素繊維の前駆体繊維を、複数の制御延伸に供することを含み、ここで:a)第1パスにおいて、繊維は、10と40%の間である%延伸に供され;b)第2パスにおいて、繊維は、約2と20%の間である%延伸に供され;c)第3パスにおいて、%延伸は約2と16%の間であり;また、d)第4パスにおいて、繊維は、約2と12%の間である%延伸に供される。酸化ステップが完了した後、こうして酸化された繊維は、次いで、約400と800℃の間の温度の炉を通過させ、その後、1300と1500℃の間である温度を有する炉に繊維を通過させることによって炭素化することができる。
【0011】
本発明のさらなる態様において、引張強さと弾性率における向上は、繊維に1つ又は複数の転移を受けさせる量の延伸に繊維を供する、酸化雰囲気における繊維の制御延伸によって達成できることもまた見出された。例示的実施形態において、炭素繊維は、複数のパスで酸化オーブンを通して前駆体繊維を前進させることによって調製され、ここで、前駆体繊維は、2つ以上のパスの各々において少なくとも2つの転移を受けるように、2つ以上のパスにおいて制御された量の延伸に供される。転移は、所定のパスに対して張力vs.%延伸のプロットから決定でき得る変曲域を含む。いくつかの実施形態においては、前駆体繊維を、酸化オーブンを通る複数のパス(例えば、2から20のパス)を通して繊維が前進させられる、制御された量の延伸に供すことができる。
【0012】
別の態様において、本発明は、酸化雰囲気において、前駆体繊維を複数の制御延伸パスに従わせることができる、酸化オーブンを対象とする。一実施形態において、この酸化オーブンは、複数の駆動ロール及び複数のアイドラロールを含み、ここで、駆動ロール及びアイドラロールは酸化オーブンを通る繊維パスを定めるように協調する。一実施形態において、駆動ロールは、酸化オーブンを通るパスの少なくとも2つ以上で、速度、及び代わりに張力を独立に制御できるように、互いに独立に駆動できる。いくつかの実施形態において、アイドラロールは、繊維が酸化オーブンを通して前進するにつれて、繊維の張力を連続的にモニターすることが可能な張力測定装置、例えばロードセルを含む。
【0013】
酸化ステップの後、繊維を炭素繊維に変換する残りの工程は、通常の方法を用いて実施できる。繊維は、酸化された繊維を、低温及び高温の炉を通して前進させることによって変換できる。一実施形態において、酸化の間の繊維の制御延伸は、繊維が低温炉を通して前進する時に、ある量、例えば5と40パーセントの間だけ、さらに繊維を延伸することを可能にする。
【0014】
本発明に従って調製された炭素繊維は、50Msiに近く、それを超える弾性率、及び1,000ksiに近く、それを超える引張強さを有し得る。一実施形態において、本発明は、少なくとも950ksiの引張強さ、及び少なくとも45Msiの弾性率を有する炭素繊維を提供し、ここで、この炭素繊維の原子間力顕微鏡(AFM)表面像は、炭素繊維表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション(striation)及び高位相角ドメインの複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる。さらに、本発明に従って調製された炭素繊維は、約2.0より大きく、特に2.5より大きく、より特別には約3.0より大きい算術平均粗さ(Ra)値、及び、約2.0より大きく、特に3.0より大きく、より特別には約4.0より大きい二乗平均平方根粗さ(Rq)値を有し得る。さらに、本発明に従って調製された炭素繊維は、5ナノメートル以上の平均位相角深さを有し得る。いくつかの実施形態において、炭素繊維は、8ナノメートル以上、特に、10ナノメートル以上の平均位相角深さを有し得る。
【0015】
一実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維は、約4nm以上、特に、約4.5nmを超えるLa値を、いくつかの実施形態において、5.0nmを超えるLa値を有する。本発明に従って調製された炭素繊維は、また、高い弾性率及び抵抗率の値の組合せによって特徴付けられる。例えば、一実施形態において、炭素繊維は、少なくとも50Msiの弾性率、少なくとも13μΩm以上の抵抗率を有し得る。
【0016】
このように、本発明は、向上した引張強さ及び弾性率を有する炭素繊維、並びにこのような炭素繊維を製造するための方法及び装置を提供する。
【0017】
こうして一般的用語で本発明を説明したが、これから、添付図(これらは、必ずしも一定の縮尺で描かれていない)が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】PAN前駆体繊維が環化及び酸化を経てピリドン構造を形成する反応過程の説明図である。
【図2】本発明により使用され得る例示的な酸化オーブンの説明図である。
【図3】前駆体繊維を炭素繊維に変換するために使用できる設備の概略図である。
【図4】延伸されるにつれて複数の転移を経る繊維を表す、張力vs.%延伸のプロットのグラフである。
【図5】転移点を際立たせる、張力vs.%延伸の一次導関数のプロットのグラフである。
【図6】転移点を際立たせる、張力vs.%延伸の二次導関数のプロットのグラフである。
【図7A】酸化オーブンで炭素繊維を延伸する先行技術の方法に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7B】酸化オーブンで炭素繊維を延伸する先行技術の方法に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7C】本発明に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7D】本発明に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7E】本発明に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【図7F】本発明に従って調製された炭素繊維の原子間力顕微鏡(AMF)像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
これから、添付図(これらには、全てではないが、本発明のいくつかの実施形態が示されている)を参照して、以下に、本発明をより完全に説明する。実際に、これらの発明は、多くの異なる形態で実施でき、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきでない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が当該の法的要件を満たすために記載されている。全体を通じて、類似の数は類似の要素を表す。
【0020】
一態様において、本発明は、向上した引張強さ及び弾性率を有する炭素繊維を対象とする。別の態様において、本発明は、前記炭素繊維の製造装置及び方法を対象とする。本発明の方法に従って調製される炭素繊維は、1000ksiに近く、それを超える引張強さ、及び50Msiに近く、それを超える弾性率を有し得る。
【0021】
下でより詳細に記載されるように、本発明による炭素繊維は、前駆体繊維、例えばポリアクリロニトリル(PAN)を含む繊維を、酸化雰囲気を通る複数のパスに供することによって調製され、ここで、繊維は、酸化雰囲気を通る2つ以上のパスにおいて制御延伸される。酸化ステップを完了すると、前駆体繊維の炭素繊維への変換を完了するために、繊維は、1つ又は複数のさらなる炉(例えば、低温炉及び高温炉)を通して前進させることができる。本発明に関連して、「繊維」という用語は、1本のフィラメント、又は一緒に束ねられた複数のフィラメント(トウとも呼ばれる)を含む。トウ又は束は、約1,000から100,000本の個々のフィラメントを含み得る。
【0022】
本発明に関連して、「前駆体繊維」という用語は、十分な加熱により、約90重量%以上、特に、約95重量%以上のカーボン含量を有する炭素繊維に変換され得る、ポリマー材料を含む繊維を表す。前駆体繊維は、アクリロニトリル(AN)のホモポリマー及びコポリマーの両方を含み得るし、メチルアクリレート(MA)、メタクリル酸(MAA)、メタリルスルホン酸ナトリウム、イタコン酸(IA)、臭化ビニル(VB)、イソブチルメタクリレート(IBMA)及びこれらの組合せのようなコポリマーを含み得る。一実施形態において、前駆体繊維は、主としてアクリロニトリルモノマーからなるポリアクリロニトリル(PAN)ポリマーを含む。
【0023】
前駆体繊維は、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、塩化亜鉛又はチオシアン酸ナトリウムの溶液のような有機及び/又は無機溶媒に前駆体ポリマーを溶媒和させて、紡糸溶液とすることにより、溶融紡糸することによって調製できる。特定の実施形態において、紡糸溶液は、水、アクリロニトリルポリマー及びチオシアン酸ナトリウムから、約60:10:30の例示的なそれぞれの重量の比率で生成される。次いで、この溶液は、蒸発により濃縮され、濾過されて、紡糸溶液となる。一実施形態において、紡糸溶液は、約15重量%のアクリロニトリルポリマーを含む。紡糸溶液は、通常の紡糸法、例えば、乾式、乾式/湿式、又は湿式紡糸を用いて、スピナレットを通過して、ポリアクリロニトリル前駆体を生成する。特定の実施形態において、PAN前駆体繊維は、乾式/湿式紡糸法を用いて製造され、この紡糸法では、多数のフィラメントが、紡糸溶液から形成され、スピナレットから、スピナレットと凝固剤(例えば、チオシアン酸ナトリウム水溶液)の間のエアギャップ、又は他のギャップを通過する。凝固浴から出た後、紡糸フィラメントは洗浄される。いくつかの実施形態において、紡糸されたフィラメントは、高温の水及び水蒸気の中で、それらの元の長さの数倍まで延伸され得る(米国特許第4452860号を参照、これは参照を通じて本明細書に組み込まれる)。さらに、ポリアクリロニトリル前駆体繊維は、炭素繊維の製造の間にそれを取扱い易くするために、サイジング剤、例えば、シラン化合物により処理され得る。PAN前駆体繊維を調製する例示的方法は、米国特許第5066433号において詳細に検討されており、その内容は参照を通じて本明細書に組み込まれる。
【0024】
前駆体繊維は、約85と99重量%の間のアクリロニトリル、及び約15と1重量%の間の他のモノマー(例えば、メタクリル酸、アクリル酸、メチルアクリレート、及びメチルメタクリレート、並びにこれらの組合せ)から製造されるポリアクリロニトリル系繊維を含み得る。ポリアクリロニトリル前駆体繊維は、1束当たり、それぞれが約3000と50,000の間のフィラメント、特に、1束当たり約3000と24,000の間のフィラメントを含む束の状態になっている。フィラメントは、約0.50と1.50の間、特に、約0.60と0.85の間の平均デニールを有し、各束において、フィラメントの95%は、±0.05デニールにあり得る。一実施形態において、ポリアクリロニトリル出発材料は、滑らかな表面、丸い横断面、及び約1.5〜2.5デシリットル/グラムの間の固有粘度を有する。変換の前のフィラメントの直径は、約7.5から13.5μm、より一般的には、約8.5から10.5μmの範囲にあり得る。
【0025】
酸化(これはまた酸化安定化とも言われる)の間に、PAN前駆体繊維は、PAN前駆体分子の環化及び酸化を引き起こすために、酸化雰囲気において、約150℃から600℃の間の温度で加熱される。これに関して、図1は、PAN前駆体繊維の環化及び酸化の過程を段階的に説明する。ステップ(A)において、PANのニトリル基が整列するようになる。ステップ(B)及び(C)において、ニトリル基が重合して、ポリナフチリジン環「ラダー」構造を形成し、この構造は、ステップ(D)において互変異性化されて、多環ジヒドロピリジンを生成する。ステップ(E)において、多環ジヒドロピリジンは酸化/脱水素を受けて、安定なピリドン構造を生成する。
【0026】
酸化の間に、所定の前駆体で、図1に示す反応が起こる度合いは、一般に、温度及びフィラメントの直径の関数である。これは、一部は、フィラメントへの酸素の拡散の影響に帰因すると考えられる。比較的低い温度(例えば、約240℃以下)及び/又は比較的小さなフィラメント直径(例えば、約10ミクロン以下)では、フィラメント表面での酸素の反応の割合に対する、フィラメントコアへの酸素の拡散の割合が高められる。より高温及び/又はより大きなフィラメント直径では、酸素は、それが拡散できるより速く反応する傾向があり、酸化された繊維のスキン層がコアの回りに形成され、コアでは熱誘起反応だけが起こる。酸化された表面層は、フィラメントコアへの酸素輸送に対する拡散バリアとして働くと考えられる。その存在は、得られる繊維におけるスキン−コアの違い、並びに構造的及び化学的の両方の不均質に繋がるので、望ましくない。例えば、酸化された繊維におけるスキン−コアの違い及び構造上の不均質は、外側層の弾性率が、内側層のそれより大きいという結果を生じ得る。この弾性率の分布は、前駆体繊維の内側及び外側層の間の環化/酸化の進行の違いによって引き起こされる。環化/酸化の進行の違いは、前駆体繊維の外側部分の選択的酸化(これは、繊維への酸素の拡散に対するバリアの生成に繋がる)に一部は帰因する、繊維の内側部分への酸素の浸透の減少から生じると考えられる。
【0027】
上記のように、本発明の炭素繊維は、複数のパスにおいて、酸化オーブンに前駆体繊維を通過させることによって調製でき、ここで、前駆体繊維は、オーブンを通る2つ以上のパスにおいて制御延伸に供される。一実施形態において、制御延伸は、オーブンを通る2つ以上のパスにおいて繊維に加えられる張力の大きさを独立に制御することを含む。酸化オーブンを通る制御されたパスにおいて延伸を独立に制御することにより、いくつかの利点がもたらされる。例えば、一実施形態において、制御延伸により、酸化オーブンを通る複数のパスの間に張力荷重を分配することが可能になり、これは、処理の間に繊維が受ける最大の歪速度を減少させる結果になる。結果として、前駆体繊維は、先行技術で以前に教示されてない限界まで延伸できる。酸化の間の繊維のこの制御延伸は、例えば、配向、酸化の均一性の向上、欠陥誘発クリスタリットの成長の減少、半径方向の均質性、及び構造上の欠陥を最低限にするか又は無くする手段をもたらす助けとなり得る。転じて、これらの利点は、得られる炭素繊維の弾性率及び引張強さにおける向上をもたらすことができる。
【0028】
図2を参照すると、前駆体繊維を制御延伸するのに使用され得る例示的な酸化オーブンが示されており、全体として参照番号20で表される。酸化オーブンは、通常、約150から600℃の間、特に、約175と400℃の間、より特別には、約175と300℃の間である高温に保たれる酸化雰囲気(例えば、空気)を有する内部22を含む。一実施形態において、前駆体繊維24は、複数のパスでオーブンの内部を通り前進し、これらのパスの各々で、炭素繊維に加えられる張力は独立に制御できる。本発明に関連して、「高温」という用語は、PAN前駆体繊維の酸化を引き起こすのに十分なだけ高いが、望ましくない効果、例えば、繊維の構造上の欠陥、燃焼、溶融、又は破断などを繊維に生じるほどには高くない温度を意味する。
【0029】
酸化オーブン20は、複数のアイドラロール(合わせて、参照番号28で表される)、及び複数の駆動ロール(合わせて、参照番号30で表される)を含む。前駆体繊維24は、クリール(示されていない)のような供給源から供給され、駆動フィードロール26によって前方に引っ張られる。各アイドラロール28は、1つ又は複数の対応する駆動ロール30と協調して、酸化オーブンを通る繊維パスを定める。本発明の目的では、「パス」は、上流の駆動ロールから下流の駆動ロールまで繊維によって辿られる経路(繊維の少なくともいくらかの部分は酸化オーブンを通って移動する)として定義される。このように定義されたパスは、アイドラロール、バー(bar)、又は他のこのような仕組みの形で、向きを変える点を含み得る。例示の実施形態では、繊維パスは、繊維が1つの駆動ロールとそれに関連する駆動ロールとの間を移動する時の繊維経路を表す。例えば、ロール26と駆動ロール30aとの間の繊維経路は、酸化オーブンを通る単一の繊維パスを定める。
【0030】
いくつかの実施形態において、酸化オーブンは、酸化オーブンを通る繊維パスを定める協調する駆動ロール対を含み得る。この実施形態では、1つの繊維パスは、第1駆動ロールとそれに関連する第2駆動ロールとの間でオーブンを通って繊維が移動する時の繊維の経路を表す。
【0031】
いくつかの実施形態において、前駆体繊維24は、引き続くパスの間で酸化オーブンを出てもよい。これに関連して、図2は、アイドラロール28及び駆動ロール30が酸化オーブンの外部に配置された実施形態を例示する。繊維が引き続くパスの間で酸化オーブンを出られるようにすることは、PAN鎖、従って繊維を、制御延伸しながら、それらを安定化する間に放出される発生熱のいくらかを散逸させる助けとなり得る。外部ロールはまた、繊維が高温表面にくっ付く傾向を押さえる助けにもなり得る。
【0032】
別の実施形態では、駆動ロール、アイドラロール又は両方が、酸化オーブンの内部に配置され得る。また、アイドラロール28が、引き続く駆動ロール30の間に備えられることは必要ではなく、パスが互いに向かい合っていることも必要ではない。例えば、オーブン20における十分な滞在時間を仮定すれば、前駆体繊維24は、アイドラロールによりニップされた引き続く駆動ロール30によって、オーブン20を通り真っ直ぐに動かされてもよい。
【0033】
駆動ロール30は、パスの間に加えられる延伸又は張力の大きさを独立に制御できるように、他の駆動ロールとは独立した速度でそれぞれ駆動され得る。例えば、駆動ロール30aは、駆動ロール30bが駆動される速度V2と異なるか、又は同じであり得る速度V1で駆動され得る。結果として、ロール28aと30aの間のパスにおいて繊維24に加えられる張力、さらには%延伸は、ロール30aと28bの間のパスにおいて繊維24に加えられる張力及び%延伸と異なり得る。各ロール30での速度を独立に制御することにより、各パスでの%延伸を独立に制御することが可能になる。結果として、引き続く駆動ロールは、酸化オーブンを通る複数の繊維パスに渡って張力又は歪速度を分配するために使用できる。一実施形態において、繊維は、約10%/分/パス以下である歪速度を受ける。
【0034】
一実施形態において、駆動ロール30は、それぞれ別々に、ロールを駆動するためのモーターと機械的に連結している。通常、駆動ロールは、ロールが駆動される速度の制御を向上させるために、独立したモーターによってそれぞれ別々にギア駆動され、結果として、繊維に加えられる張力の大きさの制御を向上させることができる。いくつかの実施形態においてチェーン駆動が使用され得るが、これは、駆動ロールの間で起こり得る速度の変動のために、一般に、望ましさが劣る。
【0035】
駆動ロール及びアイドラロールの総数は、得られる炭素繊維の所望の性質に基づいて選択できる。一実施形態において、酸化オーブンは2から20対の協調するアイドラロール及び駆動ロールを含み得る。他の実施形態において、酸化オーブンは2から12対の協調するアイドラロール及び駆動ロールを含み得る。いくつかの実施形態において、1つの導入口につき、2つ以上のロールを有するアセンブリ、又は異なる寸法のロールを有する配置構成が、繊維とロールの間の接触角を増して、延伸の間の繊維の滑りを減らすか、又は無くすることを助けるために、使用され得る。例えば、互いにごく接近したロール対は、繊維の経路としてS字型を定めることができ、これは、繊維の滑りを無くすことができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、アイドラロール28は、張力測定装置(例えば、ロードセル)を含んでいてもよく、これは、各パスの張力を連続的にモニターすることを可能にする。この場合、測定された張力は、相互に関連させて駆動ロールの速度を調節することによって、所定のパスにおいて前駆体繊維に加えられる張力を別々に制御するために使用され得る。
【0037】
所定のパスでの延伸は、引き続く駆動ロールの出口速度(V1)及び入口速度(V2)の間の違いから、式1を用いて計算される。
%延伸=100(V2/V1−1) (1)
例えば、50%延伸は、相対速度(出口/入口)の比=1.50である場合に達成できる。延伸は、比V2/V1=1.50になるまで、V1に対してV2を増すこと、V2に対してV1を低下させること、又は両方の速度を同時に変えることによって調節できる。50%延伸は、1.50の延伸比に相当することに注意。本発明に関連して、50%延伸は、「1.5X」と呼ばれ、「2X」延伸は繊維の元の長さ(1X)に比べて100%の延伸を意味する。「3X」延伸は元の長さの200%の延伸を表す(すなわち、元の長さの3倍の長さ)。
【0038】
酸化オーブンを出て行くと、繊維24は、1つ又は複数のさらなる酸化オーブン、中間炉、又は炭素化炉へと下流に前進し得る。これに関連して、図3は、前駆体繊維の炭素繊維への変換に使用され得る設備及び方法の概略図である。示されるように、前駆体繊維24が供給ロール40により供給される。代わりに、前駆体繊維は、クリールを用いて1つの束に纏められる複数の前駆体束から供給されてもよい。次いで、前駆体繊維は、1つ又は複数の酸化オーブン20を通過し、酸化オーブンで、それは、制御延伸に供される。
【0039】
いくつかの実施形態において、前記設備は、複数の酸化オーブンを含んでいてもよく、この場合、引き続くオーブンは、前の酸化オーブンの温度と、通常、少なくとも同じ高さである温度に保たれる。上昇する温度勾配を有する複数の酸化オーブンを設備が含む時、引き続くオーブンの温度は、前のオーブンの温度より、通常、約1から50℃の間だけ高く、より典型的には、5から20℃高い。いくつかの実施形態において、1つだけの酸化オーブンにおいて、温度勾配が、オーブン内の異なる加熱ゾーンによって設定され得る。別の実施形態では、酸素濃度が大気のそれより高いか又は低い環境で、酸化過程が実施され得る。さらに別の実施形態では、酸化処理ステップに、非酸化ガス処理が先行するか、又は介在し得る、或いは、酸化処理ステップは、様々な安定化促進剤の添加、流れパターンの配置構成、及び当技術分野において知られている他の方法によって改善され得る。
【0040】
1つ又は複数の酸化オーブンを通って前進した後、延伸され安定化された繊維は、次に、1つ又は複数の低温炉42(タール除去炉とも呼ばれる)を通過し、その後、1つ又は複数の高温炉44(炭素化炉とも呼ばれる)を通過する。低温及び高温炉は、窒素のような不活性性ガスを含む。1つ又は複数の低温炉における安定化された繊維の温度は、約300℃と900℃の間、より典型的には400℃と800℃の間の範囲にある。
【0041】
低温炉では、炭素化されている通過安定化繊維から発生する揮発性生成物が除かれる。1つ又は複数の低温炉を出た後、次いで、繊維は、1つ又は複数の高温炉において、一層高い温度、例えば、1200℃と2000℃の間、特に、1250℃と1600℃の間の温度に曝される。好ましい実施形態において、高温炉は、約1300から1500℃の間である。
【0042】
低温及び高温炉を通って移動する間、繊維の長さが、出口で、入口での長さに比べて、約1と40%の間、例えば、1と30%の間、特に、約1と24%の間だけ長いように、繊維はさらに延伸され得る。炭素化の完了後に、炭素化された繊維は、次に、グラファイト化、表面処理及び/又はサイジングを含めて、1つ又は複数のさらなる処理を受け得る。グラファイト化は、2000℃を超える温度の1つ又は複数の不活性ガス炉における熱処理を表す。表面処理には、繊維が1つ又は複数の電気化学浴を通って前進する陽極酸化が含まれる。表面処理は、繊維−マトリックスの層間又はショートビーム剪断強度の評価のような試験に現れる、マトリックス樹脂への繊維の接着性、従ってまた複合材の性質を向上させる助けとなり得る。サイジングは、使用中の損傷から繊維を保護するための表面コーティング又は皮膜を形成する水分散性材料を含む浴を通して繊維を前進させることを通常含む。複合材用途では、水分散性材料は通常、複合材製造に選定されたマトリックス樹脂に相溶性である。
【0043】
すでに記載したように、酸化の間に繊維に行うことができる%延伸の大きさは、繊維における張力荷重の蓄積によって制限されることが広く受け入れられてきた。しかし、出願人は、繊維の総累積%延伸は、酸化オーブンを通る複数のパスに張力荷重又は延伸を分配することによって増大させ得ることを見出した。結果として、繊維の総累積延伸は、複数のパスに張力荷重を分配することを可能にする延伸条件を選択することによって増大させることができる。別の言い方をすると、所定のパスにおける歪速度を小さくすることによって、総累積延伸を、パスにおける最大の%延伸の対応する増加なしに増大させることができる。これは、より高い度合いの延伸を、複数のパスの進路に渡って行うことを可能にし、このことは、得られる炭素繊維の引張強さ及び弾性率を向上させるさらなる助けとなり得る。本発明に関連して、「累積延伸」という用語は、酸化オーブンに入る前の繊維に比較した、繊維の総%延伸を表す。累積延伸は、個々の各ステップでの延伸の積、又は当該セクション内の初期及び最終速度の比のいずれかから計算できる。
【0044】
理論に拘束されようとは思わないが、酸化オーブンにおける、これらの漸増する制御延伸はいくつかの重要な利点をもたらす。例えば、より大きな累積延伸は、PAN繊維内の配向をさらに増す助けとなり得るし、また、繊維における欠陥誘発クリスタリットの生成を減らす助けにもなり得る。延伸が反応性環境、例えば酸化オーブンで実施される時、これらのゲイン(gain)は、PANポリマー鎖において起こっている化学反応を通じて繊維に固定され得る。非酸化条件下での延伸は、熱緩和及び/又はエントロピー性回復のせいで、ゲインのいくらかを失う結果になり得る。さらに、繊維の制御延伸による歪速度の分配は、また、低温及び/又は高温炉にも適用できる。
【0045】
酸化オーブンにおける複数のパスに渡る歪の分配は、また、酸化の均一性、及び酸化が起こる速度を上げる助けにもなる。制御延伸の1つの利点は、張力荷重が、1回の大きなステップとは対照的に、積み重ねられる比較的小さい段階において加えられることである。結果として、これは、引き続く延伸の間に分子が緩和することを可能にする。この場合、望ましくないコンホメーション又は配向に最初に引き伸ばされた分子は、より望ましい様に再配向する新たな機会をもつことができ、このことが、今度は、得られる炭素繊維の引張強さ及び弾性率を向上させる助けとなり得る。さらに、安定化の開始時に制御延伸を行うことにより、繊維を細くすることが可能になり、これが、今度は、無延伸繊維より早い速度での、より均一な酸化を容易にする助けとなる。結果として、繊維におけるスキン−コア構造の生成のような不均質性の根源が、低減され得る。これは、繊維における張力荷重勾配をさらに減少させる助けとなり得るし、また、得られる炭素繊維の弾性率及び引張強さを向上させ得る。
【0046】
さらに、酸化ステップの間の制御延伸は、(複数の)酸化オーブンの下流での張力を低下させる結果になり得ることが見出された。一実施形態において、酸化段階での漸増延伸が、低温炉におけるさらなる延伸と結び付けて使用され得る。より一様に酸化された繊維は、差剪断歪(differential shear strain)の蓄積によって受ける影響がより少なく、従ってより大きな張力に耐えることができ、この故に、低温段階の間にさらなる延伸を用いることができ、これは、低温炉において達成される、さらなる構造上のゲイン(例えば、分子配向)をもたらすことができる。一実施形態において、酸化された繊維は、低温炉において、約1と40%の間、例えば、約1と30%、及び約1と24%の間である%延伸を受け得る。
【0047】
一実施形態において、酸化オーブン20を通る複数のパスは、複数の酸化パスに渡って張力荷重を分配するのに使用できる。例えば、各駆動ロール30が他の駆動ロールに対して駆動される速度は、複数のパスの全体に渡って様々な張力荷重を加えるために用いることができる。いくつかの実施形態において、後の駆動ロールの速度は、前の駆動ロールに対して小さくなっていてもよく、これは、そのパスにおける張力の低下を生じる。いくつかの場合において、張力の低下は、酸化の間に繊維が収縮することを可能にし得る。上記のように、反応性環境における延伸は、制御延伸の結果として得られる機械的構造的ゲインを固定化する助けとなり得る。結果として、いくつかの実施形態において、繊維の性質は、制御延伸によって最初に向上させることができ、次いで、繊維は、その延伸過程によって得られたゲインを失うことなく、収縮することが可能になる。このことにより、フィラメントデニールの回復、又は前の延伸で失われた単位長さ当たりの重量の増大が可能になり得る。
【0048】
所定のパスにおける所望の延伸量、各パスの長さ、酸化オーブン中のパスの数、及び酸化オーブン内の繊維の滞留時間は、前駆体繊維の組成及び炭素繊維の所望の性質に依存する。一実施形態において、前駆体繊維は、酸化オーブンを通して約2と20パスの間、特に、約2と10の間、例えば、4と8パスの間を通過し得る。いくつかの実施形態において、各パスの長さは、4と40フィートの間の範囲にあり得る。通常、各パスでの酸化オーブン中の滞留時間は、約0.1から20分の間、例えば、約1から12分、又は2から10分の間である。
【0049】
一実施形態において、強度及び弾性率が向上した炭素繊維は、複数のパスで酸化オーブンを通して前駆体を前進させることによって調製でき、ここで、少なくとも2つ以上のパスにおける前駆体繊維への張力が約100から1,000mg/denの間である。通常、所定のパスにおいて繊維が受ける%延伸の最大量は、歪速度が、1パス当たり、約10%/分以下、特に、約5%/分未満であるように選択される。所定のパスにおいて所定の繊維に加えられる%延伸の大きさを求める方法は、下でより詳細に記載される。制御延伸により獲得される機械的性質のゲインは、前駆体繊維の最初の直径、デニール、又は化学組成によって制限されない。
【0050】
一実施形態において、引張強さ及び弾性率が向上した炭素繊維は、約1.5dpf以下、特に0.8dpf以下のフィラメントデニールを有する前駆体繊維に、5と100%の間、特に、15と60%の間である累積%延伸を行うことによって調製できる。さらに別の実施形態において、前駆体繊維は、5と70%の間、より典型的には、15と60%の間である累積%延伸に供される。別の実施形態において、前駆体繊維は、酸化ステップの前の繊維の元の直径に比べて、繊維の直径における20から70%の減少を生じる複数の制御延伸に供される。さらに別の実施形態において、前駆体繊維の直径は、25と50%の間、特に、30と45%の間、減少する。特に有用な一実施形態において、前駆体繊維の延伸方法は、酸化オーブンにおいて複数の制御延伸に前駆体繊維を供することを含み、ここで、a)第1パスにおける%延伸は10と40%延伸の間であり;b)第2パスにおける%延伸は2と20%延伸の間であり;c)第3パスにおける%延伸は2と16%延伸であり;またd)第4パスにおける%延伸は2と12%延伸の間である。さらなる実施形態において、酸化された繊維は、低温炉において、1と30%延伸の間である%延伸に供される。一実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維は、950ksiを超え、特に、1000ksiを超える引張強さ、及び、44Msiを超え、特に50Msiを超える弾性率を有し得る。
【0051】
一実施形態において、酸化された繊維は、炭素化され、電気化学的に表面処理され、また構造複合材、例えばプレプリグの調製に使用されるように、保護コーティングによるサイジングをされ得る。一実施形態において、19ksiを超える層間又はショートビーム剪断強度を有する、本発明の炭素繊維を含むプレプリグが調製され得る。
【0052】
さらなる態様において、本発明は、炭素繊維の弾性率及び引張強さの向上は、先行技術においてこれまでに教示される限界を超える、前駆体繊維の制御延伸によって達成できるという認識に基づいている。特に、これらの向上は、2つ以上のパスにおいて1つ又は複数の転移を繊維に経させるのに十分な大きさの延伸を、酸化の間に前駆体繊維に行うことによって達成できることが見出された。一実施形態において、炭素繊維は、酸化雰囲気(例えば、酸化オーブン)を通して、複数のパスで、前駆体繊維を前進させることによって調製され、ここで、前駆体繊維は、2つ以上のパスの各々において少なくとも2つの転移を経るように、2つ以上のパスにおいて制御された量の延伸に供される。転移は、所定のパスに対して、張力vs.%延伸のプロットから決定できる変曲域を含む。図4は、酸化オーブンを通る1つのパスにおいて、前駆体繊維が少なくとも3つの別個の転移を経た、動的トウ張力vs.%延伸のプロットの例示的グラフである。本発明に関連して、「動的トウ張力」という用語は、処理ステップを通してトウを移動させながらインラインで測定した平均張力を表す。具体的には、図4において、動的トウ張力は、酸化オーブンを連続的に通過しているPAN繊維のトウが受ける、特定のパスにおける定常状態の張力を表す。「%延伸」という用語は、上の式Iによって定義されるものと同じである。
【0053】
このプロットから、繊維は、酸化オーブンにおいて制御延伸に供される時、複数の転移を受け得ることが分かる。例示されたプロットにおいて、前駆体繊維は、3つの転移を経たように描かれている。延伸が、0%から、いくらかの初期値まで増加するにつれて、主として、前のステップにおいて延伸された構成分子が緩和し収縮しようとする傾向があるために、張力は増加する。この緩和(エントロピー性回復としても知られる)は、延伸が大きい程、分子が、一層、それらの隣の分子からそれら自身を解きほぐすことができるために、加えられる延伸の関数である。解きほぐされた分子は、今度は、より大きな荷重を担うことができるが、さらに大きな%延伸では、分子が解きほぐされること及び再配向することは、より困難になる。温度、滞留時間、フィラメントの直径、及び反応の度合いのようなパラメータに依存して、張力は、さらに解きほぐされること、及び再配向することが有利でなくなるまで増大し続ける。この点(図4のA点)で、張力は横ばいになり始め、前駆体繊維が、前に経た速度で張力が増加することなく、さらに延伸を受けることができる時に変曲域が現れる。
【0054】
さらに多くの延伸を受けると、より秩序化した(又は、擬結晶)ドメインの中の最も弱い領域内の分子は、引き離され始め、互いに滑るように強いられる。これは、これらの部分を一緒に保つ強いニトリル双極子及び/又は水素結合の相互作用に打ち勝つことを必要とする。酸化安定化反応は、この点で、助けとなり得る。酸化安定化の間に、ニトリル基は重合して、はしご形構造を形成する(しばらくの間、図1を参照)。これらのはしご形構造は、酸素が十分に速く拡散でき、それらに達すれば、非常に素早く酸化される。そうでなければ、これらのはしご形構造は、フィラメントのコアに残る。しかし、ニトリル基の重合(環化)は、強い双極子を消費し、そのため、互いに分子が滑ることを促進する。これは、さらに解きほぐされること、及び再配向することを、実効トウ張力の増大を伴い、促進する。
【0055】
張力は増大し続け、環化は、滑り、再配向するように、より多くの分子を自由にする。はしご形ポリマーの酸化は、隣接する鎖の間でのニトリル基の架橋(誤配向又は曲がったはしご形分子を生じる)を伴い、張力の増加にかなり寄与し始める。張力は、安定化過程が進展し、鎖間架橋度が増加するにつれて、徐々に横ばいになり始める。結果として、前駆体繊維は、同じ速度の延伸を、一層、持続できない。結果的に、変曲域が図4の点Bに現れる。ニトリル基の重合、はしご形ポリマーの形成、及び酸化反応の程度に応じて、比較的小さい歪速度で延伸される繊維は、かなりの延伸の可能性を保持し得る。安定化反応が酸素の拡散速度によって制限される場合、スキン−コア構造が発達し、スキンにおける張力の増大はコアにおけるものより大きい。これは、過去においてPAN繊維が安定化の間に延伸された度合いを制限したかもしれない応力勾配の原因となる。しかし、上記のように、漸増延伸は、分子が引き続く延伸の間に緩和できるように、小さな積み重ねられる段階において張力を加えることを可能にする。結果として、この場合、望ましくないコンホメーション又は配向に最初に延伸された分子は、より望ましい様に、再配向される新たな機会を有し得る。
【0056】
さらに、この段階でのより大きな%延伸は、より細いフィラメントを生じ得る。安定化の間に繊維を延伸することは、有効なフィラメント表面積を増大させ、拡散距離を減少させることによって、コアへの酸素の拡散を促進する。これは、今度は、繊維をより均質にし得る。しかし、より酸化された繊維における張力の増大は、酸化の少ない繊維におけるより大きい。したがって、十分に大きな延伸で、張力は再び増大し始める。
【0057】
結局、点Bを過ぎて張力が増加し続けるにつれて、残っているミクロフィブリルを繋いでいる鎖又は連結分子の破損のせいで、分子は壊れ始める。この時点で、残っている秩序化ドメインを繋いでいる連結分子の中で最も短いもの及び/又は最も応力を受けているもの(例えば、ぴんと張ったもの)が壊れ始め、結果的に、それらの負荷が、より長く、また/又はより小さい応力を受けた(例えば、たるんだ)連結分子に移され得る。結果的に、この時点で、張力は、再び横ばいになり始め、第3の変曲域が、図4の点Cで現れる。さらなる転移は、多孔の発生のような構造上の崩壊に起因し得る。かなりの多孔の発生は、ヘリウム比重測定法によって求められる、安定化繊維の密度(ox−密度)の低下を伴い得る。
【0058】
一実施形態において、転移の発現は、各パスにおいて加えることができる%延伸に対する指針として役立ち得る。指針として転移を用いることは、総累積延伸を増大させることができるように、所定のパスにおいて加えることができる延伸の最大量を決める助けとなり得る。転移の正確な位置及び大きさは、プロセスパラメータ(例えば、温度、滞留時間、加熱速度など)、さらには繊維の性質(例えば、組成、フィラメントの直径、構造モルホロジーなど)に応じて変わり得る。さらに、転移の位置はまた、酸化オーブンにおける引き続くパスの間でも変わり得る。しかし、実際に、転移は、「動的トウ張力」vs.「動的平衡延伸」の読みから直接、酸化ステップの間、辿ることができる。所定の前駆体での転移の数は、通常、得られる炭素繊維製品の目標とする性質に応じて決まる。PAN繊維の安定化の場合には、1つのパス当たり少なくとも1つの転移が有利であり、少なくとも2つのパスにおける、1つのパス当たり2つ以上の転移が望ましいことであり得る。例えば、繊維が所定のパスにおいて2つより多い転移を経る時、たるんだ連結分子の破壊(及び、それに続くラジカル反応)又は多孔の局所的生成に帰因する、炭素繊維の機械的性質における何らかの悪影響は、酸素の浸透の向上及び欠陥の除去に帰因する分子配向及び全体としての均質性におけるゲインによって依然として相殺され得る。酸化安定化の間の転移の確認方法の例が下の表1に例示される。
【0059】
表1は、酸化オーブンを通る1つのパスでの、0.6dpfのPAN前駆体繊維に対する、動的トウ張力vs.延伸曲線のデータを列挙する。表1の例において、動的トウ張力は、取得データ毎に延伸を約3%ずつ増加させて求めた。他の実施形態では、延伸の増加は、約0.1から10%、又は2から6%の範囲にあり得る。第2列は、安定な張力の読みに達した後で求めた動的張力を列挙する。3列は、逐次増加する2つの延伸点で求めた張力の間の差(Diff)を列挙する。例えば、0と3%延伸の間では、Diff=1092−795=297gである。4列は3列から計算される、次々の差の間の差(Der)を列挙する。例えば、0と6%延伸の間では、Der=219−297=−78gである。曲線の最初の部分が勾配の減少を示す(すなわち、それは、「下向きに凹んだ」曲線である)ために、Der値は、最初は負であることに注意。「Diff」及び「Der」という項は、それぞれ、曲線の第1及び第2導関数に関連する。こうして、第2導関数項「Der」は、曲線が下に凹(又は、減少する勾配)を示す時に負になるであろう。この「Der」項はまた、曲線の勾配が増加し始める(又は、曲線が「上に」凹となる)場合、正の値に変わるであろう。凹状の逆転する点は、延伸の増加の関数として動的張力を記録すること、及び「Der」関数が正になる延伸に注目することによって、簡単にそれと確認できるであろう。
表1.動的張力vs.延伸曲線における転移点の決定
【表1】
【0060】
表1に記す例では、3つの明瞭な転移が起こり、これらはそれぞれ、15%、33%、及び48%延伸で認めることができる。より大きな延伸での転移は、含まれるより小さな張力差のせいで、識別するのが困難になる。表1における列5〜7は、列2〜4と同じ情報を与えるが、mg/denの単位(すなわち、異なるデニールのトウとの比較を容易にするために、トウの線密度によって規格化した張力)である。図5及び6を参照すれば、転移の出現はまた、それぞれ、第1及び第2導関数のプロットからも確定できる。
【0061】
上で手短に記したように、表1に関連させて上に記載された方法は、所定のパスにおいて加えられる%延伸を決めるために使用できる。所望の又は最大の限界が第1の%延伸に対して一旦決められると、上の方法は第2パスに対して繰り返される。次いで、この方法は、酸化オーブンを通るxの繊維パスに対して、x回繰り返すことができる。通常、この方法は、所望の%延伸が、所定の1組の条件で所定の前駆体繊維について各パスに対して一旦決められれば、繰り返される必要はない。
【0062】
上述の議論から、本発明は、酸化オーブンを通る複数のパスにおいて、繊維を制御延伸することによって、炭素繊維の引張強さ及び弾性率を向上させる方法を提供することが明らかである。本発明に従って調製された炭素繊維は、大きな引張強さ及び高弾性率の両方を有することによって特徴付けられる。上で検討されたように、前記炭素繊維の利点のある性質は、酸化安定化の間に、制御延伸を前駆体繊維に行うことによって得ることができる。引張強さ及び弾性率の向上に加えて、本発明に従って調製された炭素繊維は、先行技術の炭素繊維にこれまで見出されなかった独特の性質及び構造的特徴を有する。例えば、本発明に従って調製された炭素繊維は、大きな比率の平均より小さい位相角、表面粗さの増加、平均位相角深さの増加、大きな抵抗率の値、より均一な結晶分布を示し得る。
【0063】
図7Aから7Fは、タッピング方式で原子間力顕微鏡(AFM)を用いて得た、様々な炭素繊維の表面位相像である。表面位相像は、Digital Instruments Co.(サンタバーバラ、カリフォルニア州)によって製造された、NanoScope IIa 走査プローブ顕微鏡により得られた。タッピング方式AFMは、振動するカンチレバーの末端に取り付けられた尖端(tip)を試料表面に渡って走査することによって運転する。カンチレバーは、20〜100nmの間の範囲の振幅で、その共鳴周波数で、又は、ほぼその共鳴周波数周波数で加振される。尖端は、x−y−z走査の間に振動しながら、試料表面を軽く打つ。先端−表面の相互作用は、特徴的な位相パターンでカンチレバーを振動させる。位相パターン(位相コントラスト像の形で)は、表面−先端の強い、及び弱い相互作用の領域の間を区別するために用いることができる。これらの領域は、次には、例えば結晶ドメインのような材料の特徴に関連付けることができる。図7Aから7Fでは、各炭素繊維試料(必要とされる時には、脱サイジングした)の1本のフィラメントが、特別なAFMホールダに装着された。各フィラメントの3つの表面領域(1μm×1μm)が、20nmの振幅で走査されて、試料の位相角像が生成された。位相角深さは、AFM像におけるピークと谷の間の平均距離を表す。
【0064】
図7Aは、酸化オーブンの1つのパスにおいてPAN前駆体に15%の累積延伸を行うことによって調製した炭素繊維の表面位相像である。図7Aは、下の表3に見出すことができる比較例1に対応する。図7Bは、先行技術の方法に従って弾性率を増すために1500℃を超える温度で炭素化されたこと以外は、比較例1に概ね従って調製された炭素繊維の表面位相像である。図7Cから7Fは、本発明に従って調製された炭素繊維の表面位相像である。図7C、7D、7E、及び7Fは、それぞれ、実施例23、35、29、及び34に対応し、これらの処理の詳細は下の表6に見出すことができる。
【0065】
AFM像における明るい領域は、炭素繊維上の大きな位相角の領域に対応し、暗い領域は、低位相角の炭素繊維の領域に対応する。全てのAFM像は、それらを直接比較し易いように、同じスケールで与えられている。図7A及び7Bにおいて、従来の延伸方法により調製された炭素繊維のAFM表面像は、暗い領域及び/又は明るい領域によって特徴付けられる。図7Cから7Fに示されるように、本発明に従って調製された炭素繊維のAFM像は、繊維の表面に渡って延びる複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる。一実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維のAFM像は、暗い領域の複数のストライエーション及び明るい領域の複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる。例えば、図7C及び7Dにおいて、AFM像は、炭素繊維の表面に渡って延びる、高位相角ドメイン及び低位相角ドメインの両方のストライエーションを示す。これらのストライエーションは、図7E及び7Fにおいて、より一層明らかであり、これらの図は、実施例のセクションに記載のように、同じ値域内の機械的性質を有するが、インライン表面処理とサイジングステップとをそれらに行った後で分析された炭素繊維の像を与える。詳細には、図7E及び7Fにおける像は、また、炭素繊維の表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション及び高位相角ドメインの複数のストライエーションを示す。図7A及び7B、従来の延伸法に従って調製された炭素繊維のAFM像に戻って参照すると、表面のストライエーションは、本発明の像におけるより、目立たなく、明瞭でない。形状の表面トポグラフィー像と異なり、位相角深さ像は、表面の曲がり(又は、フィラメントの直径)の影響を受け難いことにさらに注意すべきである。したがって、ストライエーションが、異なる度合いの構造秩序のドメインを表すとすると、AFM像は、本発明の方法が炭素繊維の表面モルホロジーをかなり変えることを示す。長いストライエーションの形の秩序化ドメインの生成は、下でより詳細に検討される、X線回折分析によって求められるパラメータLa(平均結晶幅又はリボン長さに関連する)の増加と符合している。下の表2において、繊維の表面構造の変化は、本発明の炭素繊維における引張強さ及び弾性率の両方の増加を伴うことが分かる。比較として、図7Aにおける炭素繊維は、図7Cから7Fに示される炭素繊維よりかなり小さい引張強さ及び弾性率を有する。同様に、図7Bにおける炭素繊維は、高弾性率を有するが、その引張強さは、本発明の繊維のものを下回る。
【0066】
さらに、3次元AFM像は、炭素繊維の表面を、トポグラフィー的粗さ及び位相角深さ分布のような表面の特徴を基に特徴付けることを可能にする。下の表2に、AFM像における炭素繊維の位相角深さ及び粗さを表す様々なパラメータが評価されている。
表2:図7A〜7Fに示す炭素繊維のAFM分析の要約
【表2】
a下の実施例セクションの表6から。
b比較例1に従うが、>1,500℃で炭素化して調製(表4参照)。
c表面処理及びサイジングを含む(下の実施例セクションを参照);試料は走査前に脱サイジングした。
【0067】
図7Aから7Fにおける炭素繊維の深さの様子の分析は、本発明に従って調製された炭素繊維が、広い深さ分布関数(広いピーク)及び大きな最大深さ(深さの大きくなる方向に偏った、ピークのすそ)を有することを明らかにする。通常、本発明に従って調製された炭素繊維は、約5nmを超え、特に約8nmを超え、より特別には10nmを超える平均位相角深さを有する。
【0068】
AFM像における炭素繊維の表面粗さも、また、算術平均粗さ(Ra)及び二乗平均平方根粗さ(Rq)の値により特徴付けられた。
【0069】
算術平均粗さ(Ra)は、次の式に従って計算される。
【数1】
二乗平均平方根粗さ(Rq)は、次に式に従って計算される。
【数2】
式(1)及び(2)において、Ziの値は、AFM像における平均データ面から測った表面高さの全ての「n」個の差を表す。異なるピーク振動数を有する2つの表面は、同じRa及び/又はRq平均値を有し得ることに注意すべきである。それでも、表面粗さの値は、位相像深さ分析だけによって得られる情報を補足する定量的情報を与える。図7Aから7FにおけるAFM像は、1μm×1μmの全領域に渡って走査され、次いで、Ra及びRqの値は、上の式を用いて計算された。図7Aから7FにおけるAFM像の切断部粗さも、また、300nmの長さで、秩序化相の配向に直交する仮想的切断線を引くことによって解析した。
【0070】
表2のデータは、本発明に従って調製された代表的炭素繊維の力学的性質が、パラメータRaの関数としてどのように変化するかを示す。位相角コントラストにおける粗さが大きい程、対応する炭素繊維の機械的性質は高い。例えば、比較例1は、約1.2のRa値、932ksiの引張強さ、及び42.7Msiの弾性率を有する。同様に、1500℃を超える温度で炭素化された試料(AFM比較例1)は、約2.5の全面でのRa値を有し、50Msiを超える弾性率を有するが、たった732ksiの引張強さを有するにすぎない。約2を超えるRa値を有する本発明の炭素繊維は、比較例の炭素繊維を超える、かなり向上した引張強さ及び弾性率を有する。例えば、実施例23は、3を超えるRa値を有し、1012ksiの引張強さ及び46Msiの弾性率を有する。4を超えるRa値を有する実施例29は、1113ksiの引張強さ及び51.5Msiの弾性率を有する。通常、本発明に従って調製された炭素繊維は、約2.0を超え、特に2.5を超え、より特別には約3.0を超えるRa値を有し得る。
【0071】
表2のデータはまた、本発明に従って調製された代表的炭素繊維の力学的性質が、パラメータRqの関数としてどのように変化するかを示す。パラメータRaと同じく、位相角コントラストにおける粗さが大きい程、対応する炭素繊維の機械的性質は大きい。通常、本発明に従って調製された炭素繊維は、約2.0を超え、特に3.0を超え、より特別には約4.0を超えるRq値を有し得る。
【0072】
表2のデータ、及び図7Cから7FのAFM像から、繊維を調製する本発明の方法により、引張強さ及び弾性率の増加した繊維が得られること、並びに、引張強さ及び弾性率におけるこの増加は、繊維に起こっている構造上の変化、例えば、繊維表面の連続的なストライエーションの出現、位相角深さの増加、及び繊維表面の粗さの増加を伴っていることが分かる。
【0073】
上で検討された表面の特徴以外に、本発明に従って調製された炭素繊維は、また、独特の結晶寸法(La及びLc)を有する。表3は、本発明に従って調製された炭素繊維のクリスタリットのデータを含む。表3のデータは、様々な炭素繊維にX線回折分析を行うことによって得られた。測定は、回折ビームモノクロメータと共にCuKα放射線を用い、広角粉末回折計の回折面に垂直に繊維ストランドを調節し、反射法で実施した。La及びLcの決定には、それぞれ、La=1.84×λ/(B×cos(θ))、及びLc=0.89×λ/(B×cos(θ))(式中、λは1.54Åであり、Bは、(2θ度)でのピーク幅であり、θは回折角である)の関係を用いた。
表3:炭素繊維のX線回折データ
【表3】
【0074】
通常、パラメータLaは、「クリスタリット幅」又は「リボン長さ」に関連しており、パラメータLcは「クリスタリット高さ」に関連している。一実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維は、約4nm以上で、特に約4.5nmを超え、いくつかの実施形態においては5.0nmを超えるLa値を有する。表4のデータは、本発明に従って製造された炭素繊維は、類似の温度で製造された従来のPAN系炭素繊維より大きなLa値を有する傾向があることを示唆する。表3に例示される炭素繊維は、約1,315℃の炭素化温度で調製され、このような比較的低い炭素化温度で通常予想されるものより大きなLa値を有する。匹敵するLa値を有する従来のPAN系炭素繊維は、通常、1,750℃より高温で、2,000℃を超えさえする高温に、例えば、炭素繊維にグラファイト化を誘発するのに十分な高温に、繊維を加熱する従来の方法により調製される。表3に例示される炭素繊維は、約1,315℃の炭素化温度で調製され、このような比較的低い炭素化温度で処理されたPAN系前駆体から通常予想されるものより大きなLa値を有する。他方、メソフェーズピッチ系前駆体は、低い炭素化温度で大きなLa値を示すことが知られている。しかし、メソフェーズピッチ系繊維によって示される大きなLa値には、小さな引張強さの値が伴う。上記のように、大きなLa値は、関連するAFM位相像に認められる明瞭なストライエーションと符合しており、再び、本発明に従って調製された炭素繊維の独特な特質を示している。本発明に従って調製された炭素繊維は、比較的小さな寸法の結晶ドメイン(引張強さを向上させるため)と共に、高度に配向した延びたリボン(弾性率を向上させるため)の必要性の間の好ましいバランスをもたらすことができる。
【0075】
別の実施形態において、本発明に従って調製された炭素繊維は、また、それらの抵抗率によって特徴付けることができる。繊維トウの電気抵抗率は、市販のデジタルマルチメータ(GW Instek Model GDM−8055)を用いて求めた。このメータは、連続繊維の0.20mの複数本切片の端から端までの電気抵抗率(R)を測定するために、トウを一直線に揃えるように考案された繊維支持フレームに連結された。1つの試料当たり6〜10本の切片の平均のR値が、次の式を用いて電気抵抗率(r)を計算するために用いられた。
r=5RW/ρ (4)
ここで、R(オーム)は、平均の測定電気抵抗であり、W(g/m)は、表6〜9に列挙された、繊維の単位長さ当たりの重量(WPUL)であり、ρ(g/cm3)は、繊維の密度(やはり、表6〜9に列挙されている)であり、rは、μΩmの単位で計算される。
【0076】
表4に示されるように、本発明に従って調製された炭素繊維は、類似の弾性率を有する繊維に通常予想されるものより、比較的大きな抵抗率を有する。炭素繊維の弾性率を増すための従来技術の方法(例えば、1,500℃より高温で繊維を炭素化すること)は、通常、電気抵抗率の低下を伴う。従来の処理方法は、弾性率の増加と共に抵抗率の予想される減少に導くが、本発明の炭素繊維の抵抗率は、約50Msiを超える弾性率で、比較的大きい(13μΩmを超える、いくつかの実施形態では14μΩmを超える)ままであった。
表4:代表的炭素繊維の抵抗率データ
【表4】
【0077】
上の表4の実施例において、比較例1、実施例31から33、及び実施例35は、下の表6に記載の方法に従って調製された。抵抗率比較例1及び2は、それらが1,500℃超える温度で炭素化されたこと以外は、表6における比較例1に記載の方法に概ね従って調製された。
【0078】
さらに、本発明に従って調製された炭素繊維は、また、1本のフィラメントにおける均一な結晶分布を有する。一実施形態において、本発明の炭素繊維は、約0.05未満、特に0.015未満である、各1本のフィラメントの内側と外側層との間の結晶性における違い「RD」を有することによって特徴付けられる。RDはRAMAN分析によって求めることができる。RDを求める例示的な方法は、米国特許第6428892号に記載されており、その内容は、本明細書における教示と合致する範囲で本明細書に組み込まれる。
【0079】
内側と外側層との間の構造上の相違が小さいか又はほとんど無い炭素繊維は、内側と外側層との間の「RD」の小さな差を示す。一実施形態において、本発明の炭素繊維は、約0.01から0.05、より特別には、0.01と0.025の間の、内側と外側との間の差「RD」を示す。
【0080】
本発明の炭素繊維の結晶の均一性は、また、炭素繊維の半径方向の均一性(radial uniformity、RU)によっても特徴付けることができる。本開示において定義される、半径方向均一性パラメータ「RU」は、炭素繊維フィラメントの外側と内側層との間の歪分布の違いの相対的尺度を与える。RU値の誘導及び意味は下に略述される。
【0081】
半径方向均一性は、100倍の対物レンズにより集光されるAr+イオンレーザー光線(波長 514.5nm)によって励起され、1,800gr/mmの格子を装備する、Jobin−Yvonの「LabRAM」ラマン分光計により評価された。試料フィラメントは、それらの横断面をレーザー光線の方向に直交するように配向させて装着した。振動源に対して装着具を保護した後、レーザー光線は、選択されたフィラメント横断面内の2つの半径方向位置:(a)フィラメントの中央、及び(b)フィラメントの外側表面近く、に独立に焦点を合わせた。非弾性的に散乱された放射線強度Ic又はIsが、それぞれ、試料中の炭素の秩序及び無秩序構造に帰せられるラマン散乱ピークの形状によって決められた波数の下側及び上側の境界内で、高スペクトル分解能(〜1cm−1の波数増加で)で測定された。これらのピークの典型的な下側及び上側の境界は、それぞれ、約700cm−1又はそれ以下、及び2,220cm−1又はそれ以上である。試料でのレーザースポットは1ミクロンの直径を有するので、3ミクロンより小さいフィラメント直径にこの技法を拡張するにはさらなる改良が必要とされ得ることに注意すべきである。
【0082】
半径方向均一性(RU)の値は、広く炭素質材料(特に、炭素繊維)からのラマンピークが、様々な度合いに応力を受けた多数の結合の一緒になった応答を表すということに注目することによって導かれる。この故に、ラマンピークの位置及び形状は、調べられる領域内に含まれる結合が受けている歪の大きさに関係して変化する。炭素繊維のラマンスペクトルは、通常、2つの広いピーク:約1,560〜1,600cm−1に最大強度を有する吸収(グラファイトと同質の秩序構造に関連する、Gバンド)、及び、約1,330〜1,370cm−1に最大強度を有する別の吸収(無秩序構造に関連する、Dバンド)を示す。これら2つの広いピークは、結合への応力の相対的な分布によって決められる度合いまで重なる。パラメータRUは、この度合いを、所定の試料の秩序(Yg)及び無秩序(Yd)領域内の平均の歪の度合いを表す振動数でのラマン強度を基に定量化する。内側(又はコア)層と外側(又はスキン)層で求められるラマン強度比Yd/Ygの間の差が、半径方向均一性に逆比例することに注意すれば、パラメータRUは、次の式で計算できることになる。
RU=((Is,g−Ibs,g)(Ic,g−Ibc,g))/((Is,d−Ibs,d)(Ic,g−Ibc,g)−(Is,g−Ibs,g)(Ic,d−Ibc,d)) (5)
式5において、ラマン強度Iは、生のデータから直接取られ(カーブフィッティングによるベースライン補正に帰因する偏りを避けるために)、下付き文字s及びcは、それぞれ、フィラメント横断面のスキン及びコア領域を表し、下付き文字g及びdは、それぞれ、上で定義された秩序及び無秩序領域を表し、上付き文字bは、生のデータプロットから導かれるベースラインの値を表す。本出願の目的では、強度Ig及びIdは、それぞれ、通常、1,560〜1,600cm−1及び1460〜1,500cm−1内の強度値に関連する。式5に従って計算されるRU値は、半径方向均一性に正比例し、本発明の繊維が有する、半径方向の歪分布の小さな相違に非常に敏感である。
【0083】
本発明の炭素繊維に対するRU値の代表的な例が、下の表5に列挙されている。表5における実施例は、下の表6における実施例に対応している。通常、本発明による炭素繊維は、比較的大きなRU値を有する。一実施形態において、炭素繊維は、約50以上、特に約75以上のRU値を有する。いくつかの実施形態において、炭素繊維は、約100以上のRU値を有し得る。一実施形態において、本発明は、少なくとも975ksiの引張強さ、少なくとも46Msiの弾性率、及び約50以上のRU値を有する炭素繊維を含む。
表5:代表的炭素繊維の半径方向均一性
【表5】
【0084】
1本の繊維の内側と外側層との間の結晶度の違いは、通常、安定化の間に酸素が繊維に拡散できるかどうかに依存すると考えられる。上で検討されたように、本発明は、酸化の間のPAN繊維の、より良好な制御及びより均一な酸化をもたらし、このため、結果的に、炭素繊維の内側と外側部分の間の結晶度の分布がより均一になる。通常、内側と外側層との間の結晶度の違いは繊維の太さが増すにつれて増大する。本発明では、制御延伸が、個々のフィラメントを細くする助けとなり、このことが、今度は、繊維へのより均一な酸素の拡散を可能にする。結果として、繊維における結晶度の分布もまた、より均一である。本発明によれば、引張応力集中の領域が減少した炭素繊維が製造され得る。炭素繊維の外側層近くでの高結晶度は、炭素繊維に破断又は損傷を生じ得る大きな引張応力の点を生じ得るので、結果的に、炭素繊維の引張強さは小さくなる。
【0085】
本発明に従って調製された炭素繊維は、また、破損するまで荷重が加えられた時に、様々な歪の値を与え得る。特に、先行技術の方法に従って製造された時に約2%の破損歪(strain−to−failure)を示すと思われる繊維から、2.5%に近い破損歪の値が測定された。
【0086】
本発明に従って製造された炭素繊維は、また、複合材製造にとっても明瞭な利点をもたらす。本発明は、比較的低い炭素化温度で比較的高い弾性率を有する炭素繊維を得る方法を提供するので、炭素繊維の表面は反応性のままであり得る。この事実は、向上した機械的性質への転換のための、一層穏やかな表面処理、及び、複合材樹脂との一層効果的な相互作用を可能にする。低い炭素化温度はまた、圧縮強度の向上にとっても有益であり得る。さらに、本発明は、比較的小さい直径を有する炭素繊維を調製するために用いることができ、この炭素繊維は、(a)トウの成形性の向上にとっての、フィラメントの剛性の低下;及び(b)繊維−樹脂の接触にとっての、比表面積の増加;の点で、利点をもたらし得る。この増加した比表面積は、AFM分析によって明らかになった位相角粗さの向上と結び付き、繊維と樹脂との間の化学結合による機械的噛合いを向上させる助けになり得る。
【0087】
次の実施例は、本発明の態様を例示するために記載されており、本発明を限定すると解釈されるべきでない。特に断らなければ、実施例に挙げられる全ての弾性率の測定は、米国特許第5004590号(この内容は参照を通じて本明細書に組み込まれる)により詳細に記載されているように、ASTM D 4018に従って行った。繊維の弾性率の値は、それぞれ0.1%及び0.6%の上側及び下側歪限界の間で求めた、樹脂含侵トウのストランドの弦引張り弾性率を表す。さらに、引張強さは、米国特許第5004590号(この内容は参照を通じて本明細書に組み込まれる)により詳細に記載されているように、ASTM D 4018に従って測定した。
【実施例】
【0088】
表6〜8に列挙する実施例において、ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維は、98mol%のアクリロニトリル及び2mol%のメタクリル酸からなるコポリマーから、エアギャップ湿式紡糸法によって製造した。出発コポリマーは、溶媒として濃厚チオシアン酸ナトリウムを用いて求めた時、約2.0デシリットル/グラムの固有粘度を有していた。表9の実施例では、PAN前駆体繊維は、1.5mol%のイタコン酸及び5.5mol%のメチルアクリレートから構成されるターポリマーから、湿式紡糸法によって製造した。全ての実施形態において、紡糸及び凝固剤溶液は、チオシアン酸ナトリウム水溶液に基づいていた。繊維は、それらのトウの形の長さが、スピナレットからの押出の後のそれらの長さに比べて、水蒸気延伸後、約6倍の長さに達するように、紡糸の間に延伸した。乾燥した前駆体繊維は、約1wt%のシリコーン系仕上げオイルを含み、0.60(表6)、0.8(表7)、1.33(表8)及び1.53(表9)dpfのフィラメントデニールを有していた。表6〜9は、6,000と24,000フィラメント/トウの間のフィラメント数を有する繊維での結果を列挙する。
【0089】
前駆体繊維は、それらを、段々と高くなる酸化温度に通常保たれた一連の強制空気対流オーブンを通過させることによって安定化した(例外は表6〜9の脚注に記す)。第1オーブンは、図2に示すように、複数のパスにおいて、制御延伸又は収縮が可能であるように配置構成した。以下の実施例では、外部ロールアセンブリを有する4つのパスを用いた。各ロールアセンブリは、それ自身の個別のモーター、及び繊維とロール表面との間の接触を増すためにギアによって連結された複数のロールを含んでいた。第1駆動ロールアセンブリは、オーブンを通して、ロードセルに接続されたアイドラロールに繊維を前進させた。繊維は、ロードセル付きアイドラロールで180度反転し、オーブンに戻り第2駆動ロールアセンブリに向かった。第2ロールアセンブリは、通常、第1アセンブリより高速で駆動されるので、第1パスにおける有効%延伸は、それに対応して、比較的大きかった。引き続くロールアセンブリにおける速度は、引き続くパスにおいて繊維が受ける有効%延伸もまた変えるように調節した。
【0090】
表6〜9に与える情報は、例示として表6の実施例35を参照することによって最もよく理解できる。実施例35では、第2ロールアセンブリを、第1アセンブリより20%大きな速度で駆動したので、第1パスの有効延伸%は20.0%であった(表6)。引き続くロールアセンブリの速度は、3つのさらなるパスにおいて繊維が受ける有効%延伸が13.3%(#2)、10.3%(#3)及び6.70%(#4)であるように調節した。こうして、第1酸化オーブン内でこの繊維が受けた総累積%延伸(OX−Str)は60.0%であった。制御延伸の間、第1酸化オーブンは、223℃の温度(Temp Ox.)に保った。繊維の制御延伸の後、繊維は、0%のさらなる延伸で、246℃まで段階的に高くなる温度に保たれた、さらに3つの酸化オーブンを通して前進した。4つの全ての酸化オーブンにおける総滞留時間は90分未満であった。表の脚注に示され、下でより詳細に検討されるように、他の実施例は、広い範囲の実験パラメータを網羅する。
【0091】
次いで、実施例35により安定化された繊維は、それぞれ523℃及び1,315℃の平均温度を有する低温及び高温炉を通して前進した。以下の実施例のいくつかにおいて、高温炉は、より高温で、例えば、1,500℃又はそれ以上で運転した。実施例35において、これらの炭素化炉を通る繊維の入口及び出口の速度は、独立したロールによって、低温及び高温炉でそれぞれ、21.1%及び−3.5%(収縮)の有効%延伸を加えるように設定した。他の実施例では、低温炉における延伸及び高温炉における収縮の度合いは、表6〜9に列挙された通りに加減した。特に断らなければ、炭素化ゾーンにおける全滞留時間は、プロセスの酸化安定化部分のそれの約十分の1であった。
【0092】
実施例35において炭素化ステップの完了後に、繊維に、90クローン/平方メートルの電荷により炭酸水素アンモニウム浴中で陽極酸化を行うことによって、繊維を表面処理した。この表面処理した繊維に、エポキシ相溶性サイジング剤によりサイジング処理を行い、乾燥し、スプールに巻き、その後、試験、又は複合材を生成させるためのさらなる処理をした。実施例35の場合には、6インチの樹脂含侵プレプリグテープを製造し、その性質を試験するのに十分な量の炭素繊維を製造した。米国特許第5004590号(これは、すでに参照を通じて組み込まれた)に記載のラミネート試験による、層間又はショートビーム剪断強度の測定は、複合材が19.0ksiのショートビーム剪断強度を有することを示した。
【0093】
酸化オーブンにおける制御延伸の効果及び得られる繊維の性質を、4つの異なるタイプの繊維で調べた。以下の実施例は、長期間にわたって、研究用パイロットラインで調製した。この期間の間、ラインの性能を向上させるために、特に、様々な原因により生じる張力の変動を少なくするために、機械的変更を行った。最低限レベルへの張力変動の低減は、スリップ−フリーロール及び制振装置の使用を含めて、繊維技術の分野において知られている方法によって達成できる。結果におけるいくらかの実験的バラツキが当然予想され、典型的な変動係数は2〜3%以内である。しかし、表におけるいくつかの実施例における明らかなバラツキは、時間的順番又は実験の試験の組ではなく、酸化延伸の厳密さが増す順番にそれらを列挙していることの反映である。各表の関連する脚注は、標準的規範からの様々な相違について説明している。
【0094】
結果は下の表に要約する。
1)表6:表6の実施例は、0.60dpfのデニール及び8.5μmの繊維直径を有するPAN前駆体繊維(AN:MAA)を用いて調製した。
2)表7:表7の実施例は、0.80dpfのデニール及び9.8μmの繊維直径を有するPAN前駆体繊維(AN:MAA)を用いて調製した。
3)表8:表8の実施例は、1.33dpfのデニール及び12.6μmの繊維直径を有するPAN前駆体繊維(AN:MAA)を用いて調製した。
4)表9:表9の実施例は、1.53dpfのデニール及び13.5μmの繊維直径を有するPAN前駆体繊維(AN:IA:MA)を用いて調製した。
【0095】
表6から9において、次の欄の標題は以下の通り定義される:
a)「OX−パス#における%延伸」は、引き続く駆動ロールの間の%延伸を表す;
b)「OX−Str.(%)」は、酸化オーブンにおける繊維の累積%延伸を表す;
c)「Temp.OX(℃)」は、酸化オーブンの温度を表す;
d)「TR−Str.(%)」は、低温炉(タール除去炉とも呼ばれる)における%延伸を表す;
e)「Temp.TR(℃)」は、低温炉の温度を表す;
f)「C2−Str.(%)」は、高温炉(炭素化炉とも呼ばれる)における%延伸を表す;
g)「HIT(℃)」は、高温炉の温度を表す;
h)「WPUL」は、炭素繊維の単位長さ当たりの重量を表す;
i)「密度」は、炭素繊維の密度を表す;
j)「直径」は、炭素繊維フィラメントの平均直径を表し、繊維のWPUL及び密度から計算される;及び
k)「引張強さ」及び「弾性率」は上で定義された通りである。
表6:0.60dpfを有するPAN前駆体繊維から調製した炭素繊維の処理条件及び特性データ
【表6−1】
【表6−2】
【表6−3】
a設備コンポーネントの改善
b張力変動の低減
c6,000(vs.12,000)フィラメント/トウ
d空の表面処理及びサイジング処理部を通して運転(ブランク運転)
e表面処理を含むがサイジング無し
fサイジングを含むが、不安定なエマルジョン
g表面処理及びサイジングを含む
h炭素化の間の比較的大きな張力変動
表7:0.80dpfを有するPAN前駆体繊維から調製した炭素繊維の処理条件及び特性データ
【表7−1】
【表7−2】
【表7−3】
a安定化試料の酸化密度を1%だけ下げるために下流のオーブン温度の平均値を低くした
b安定化試料の酸化密度を2%だけ下げるために下流のオーブン温度の平均値を低くした
c張力変動を低減
d安定化時間を2分の1にするために下流のオーブン温度の平均値を上げた
e低温炭素化炉を出る繊維の性質(高温炉をオフにした)
表8:1.33dpfを有するPAN前駆体繊維から調製した炭素繊維の処理条件及び特性データ
【表8】
表9:1.53dpfを有するPAN前駆体繊維から調製した炭素繊維の処理条件及び特性データ
【表9】
a標準の2倍の炭素化滞留時間で実施
【0096】
表6から9の実施例において、本発明による炭素繊維の制御延伸により、従来の方法に従って調製された炭素繊維に比べて、引張強さ及び弾性率の向上した炭素繊維が得られることが容易に分かる。例えば、表6において、実施例35は、従来の技術を用いて調製された炭素繊維(例えば、比較例1)を凌ぐ、引張強さ及び弾性率におけるかなりの向上を示す。詳細には、約20%に達する引張強さ及び弾性率におけるゲインが、0.6dpfの前駆体に、実施例35に指定の条件で、制御された酸化延伸及び引き続く炭素化を行うことによって達成された。これらの条件は、用いられた4つのパスの各々における1つと2つの間の転移に対応する。下で検討されるように、別の条件は、転移の組合せが異なり、従って、得られる炭素繊維の機械的性質は異なる。
【0097】
比較例1〜4は、機械的性質におけるゲインが、ラインの機械の性能を向上させることによって、特に、張力変動を低減させるためのステップを踏むことによって実現されることを示す。結果の改善のためには、張力変動は、好ましくは、<5%の範囲内、最も好ましくは<3%の範囲内にすべきである。対照的に、比較例4〜9は、本発明によって達成された水準の機械的性質の向上は、酸化過程において早い段階に、大きな歪速度で、大きな総酸化延伸を加えるという従来技術の手法によっては実現できないことを示す。
【0098】
実施例1〜5及び比較例6は、類似の総酸化延伸及びフィラメント直径の炭素繊維の機械的性質への酸化延伸の分配の効果を例示するために1組として行われた。15%の総酸化延伸、及び約4.35μmのフィラメント直径で、試験試料は、引張強さ及び弾性率に、かなりの増加を示す(それぞれ、約10%及び約7%)。これらの増加は、1パス当たりの酸化延伸の分配だけを変えることによって達成されたので、フィラメント直径に関らず、酸化延伸が炭素繊維の機械的性質に直接の影響を及ぼすと言える。
【0099】
実施例5はまた、酸化の間の中間ステップとして(パス#3〜4において)収縮させることの効果を例示する。実施例1〜4との比較は、酸化の中間ステップの間に繊維を収縮させることは、繊維の性質にとって有害でなく、フィラメントの直径を増すために用いることができることを示す。この結果は、所望の機械的性質、直径及び単位長さ当たりの重量の炭素繊維を製造するのに、延伸及び収縮プロトコルの目的に適った組合せを適用することの利点を例示する。
【0100】
実施例6〜61は、0.6dpfの前駆体から様々な実験条件で製造される繊維の転移、及び機械的性質へのそれらの影響の系統的探求を例示する。当業者は、低温及び高温炭素化炉での延伸及び温度のようなパラメータの結果への有益な影響を認めるであろう。しかし、含まれる延伸の大きさは、従来技術に比べて相対的に大きい。当業者はまた、酸化延伸分配パラメータの変更を通じてのみ達成された、同じような直径の繊維の機械的性質における向上のさらなる例を認めるであろう(例えば、実施例41と55を比較)。
【0101】
実施例42〜53は、弾性率を増大させるために、1,350℃を超えて炭素化温度を上げることの効果を例示する。予想されるように、引張強さは、炭素化温度を上げると共に低下する。しかし、引張強さの値は、850ksiより大きいままであり、これは、58Msiに達する弾性率を有する炭素繊維では予想外である(例えば、実施例53参照)。
【0102】
表7〜9は、本発明の方法がまた、より大きなフィラメントデニール(表7〜9)及び組成(表9)のPAN前駆体に適用された時にも、機械的性質が増加することを立証する。当業者は、これらの表に列挙された機械的性質の組合せのいくつかが、大きなデニールの(より経済的な)前駆体から製造される材料としては、予想外に高いことを認めるであろう。
【0103】
本明細書に記載の本発明の多くの修正及び他の実施形態が、上述の説明及び関連する図面に記載の教示から利益を得る、これらの発明が関連する分野の技術者には思い浮かぶであろう。したがって、本発明は、開示された具体的実施形態に限定されるべきでないこと、並びに修正及び他の実施形態は添付の特許請求の範囲内に含められると見なされていることが理解されるべきである。本明細書において具体的な用語が用いられているが、それらは、一般的で、説明的な意味でのみ使用されており、限定のためではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも950ksiの引張強さ及び少なくとも45Msiの弾性率を有し、炭素繊維の表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション及び高位相角ドメインの複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる原子間力顕微鏡表面像を有する炭素繊維であって、5ナノメートル以上の平均位相角深さを有する炭素繊維。
【請求項2】
少なくとも975ksiの引張強さ及び少なくとも47Msiの弾性率を有する、請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項3】
少なくとも1000ksiの引張強さ及び少なくとも50Msiの弾性率を有する、請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項4】
8ナノメートル以上の平均位相角深さを有する、請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項5】
二乗平均平方根粗さ(Rq)値が約2以上である粗さを有する、請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項6】
少なくとも1000ksiの引張強さ及び少なくとも50Msiの弾性率を有する炭素繊維であって、約4nm以上のクリスタリット幅の値La、及び約14μΩm以上の抵抗率の値を有する炭素繊維。
【請求項7】
約50以上の半径方向均一性RU値を有する、請求項6に記載の炭素繊維。
【請求項8】
約8ナノメートル以上の平均位相角深さを有する、請求項6に記載の炭素繊維。
【請求項9】
約0.05以下のRD値を有する、請求項6に記載の炭素繊維。
【請求項10】
炭素繊維の表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション及び高位相角ドメインの複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる原子間力顕微鏡表面像を有する炭素繊維であって、約4nm以上のクリスタリット幅の値Laを有する炭素繊維。
【請求項11】
約2以上の二乗平均平方根粗さ(Rq)値をさらに有する、請求項10に記載の炭素繊維。
【請求項12】
約4以上の二乗平均平方根粗さ(Rq)値をさらに有する、請求項10に記載の炭素繊維。
【請求項13】
少なくとも50Msiの弾性率、少なくとも13μΩm以上の抵抗率、及び約4nm以上のクリスタリット幅の値Laを有する、請求項10に記載の炭素繊維。
【請求項14】
8ナノメートル以上の平均位相角深さを有する、請求項13に記載の炭素繊維。
【請求項15】
酸化された繊維を生成させるために、複数のパスにおいて高温の酸化雰囲気に繊維を曝すことによって、炭素繊維前駆体ポリマーを安定化するステップ;
パスの少なくとも2つにおいて、繊維を10と30%の間である%延伸に供するステップ;
酸化された繊維を約400と800℃の間の温度の炉に通過させるステップ;及び
繊維を約1300と1500℃の間である温度を有する炉に通過させることによって繊維を炭素化するステップ
によって調製される炭素繊維であって、少なくとも1000ksiの引張強さ及び50Msiの弾性率を有する炭素繊維。
【請求項16】
炭素繊維の表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション及び高位相角ドメインの複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる原子間力顕微鏡表面像を有する、請求項15に記載の炭素繊維。
【請求項17】
約4nm以上のクリスタリット幅の値La、及び約14μΩm以上の抵抗率の値を有する、請求項15に記載の炭素繊維。
【請求項18】
5ナノメートル以上の平均位相角深さを有する、請求項15に記載の炭素繊維。
【請求項19】
二乗平均平方根粗さ(Rq)値が約2以上である粗さを有する、請求項15に記載の炭素繊維。
【請求項20】
引張強さ及び弾性率が向上した炭素繊維の製造方法であって、
酸化された繊維を生成させるために、酸化オーブン(このオーブンは、約175から300℃の間の温度の酸化雰囲気を有する)における少なくとも4つのパスを通して、炭素繊維前駆体ポリマーを前進させるステップ;
繊維を、第1パスにおいては5と30%の間である%延伸に、第2パスにおいては5と20%の間である%延伸に、また第3及び第4パスにおいては2と15%の間である%延伸に、供するステップ;
酸化された繊維を、約400と800℃の間の温度の炉に通過させるステップ;及び
繊維を約1300と1500℃の間である温度を有する炉に通過させることによって、繊維を炭素化するステップ
を含む方法。
【請求項21】
延伸ステップが、複数のパスにおいて、2つ以上のパスの各々において約25%以下である%延伸を繊維に加える複数の制御延伸に、繊維を供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
繊維がパスの一部として酸化オーブンを出る、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
繊維が、アクリロニトリル、メチルアクリレート、メタクリル酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、及びイタコン酸からなる群から選択される1種又は複数のコモノマーを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前駆体繊維が約0.6から0.8dpfの間のデニールを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前駆体繊維に表面処理及びサイジングを行うステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
炭素繊維前駆体ポリマーを含む繊維の延伸方法であって、
2つ以上のパスにおいて酸化オーブン(この酸化オーブンは酸化雰囲気を有する)を通して繊維を前進させるステップ;
2つ以上のパスの各々において少なくとも2つの転移を繊維に経させるのに十分な量で、2つ以上のパスにおいて繊維を延伸するステップ
を含み、各転移が張力vs.%延伸のプロットから決定できる変曲域を含む、方法。
【請求項27】
延伸ステップが、2つ以上のパスにおいて、2つ以上のパスの各々において約25%以下である%延伸を繊維に加える複数の制御延伸に、繊維を供することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
繊維をさらなる延伸に供する前に、それぞれの制御延伸の間で、繊維を安定化させることを可能にするステップをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
延伸ステップが、2つ以上のパスの各々において、2つ以上のパスにおいて約10と25%の間である%延伸に繊維に加える複数の制御延伸に、繊維を供することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
第1パスにおいて、少なくとも2つの転移(各転移は張力vs.%延伸のプロットから得られ得る変曲点を含む)を繊維に経させるのに十分な量で繊維を延伸するステップ;及び
第2パスにおいて、少なくとも2つの転移(各転移は張力vs.%延伸のプロットから得られ得る変曲点を含む)を繊維に経させるのに十分な量で繊維を延伸するステップ
をさらに含み、第1及び第2パスの両方で少なくとも約30%以上である累積延伸を繊維が受ける、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
第1パスにおいて、少なくとも3つの転移を繊維に経させるのに十分な量で、繊維が延伸される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
繊維がパスの一部として酸化オーブンを出る、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
繊維が酸化オーブンを通して3つ以上のパスを通過し、該繊維が、該パスの各々において、少なくとも2つの転移を繊維に経させるのに十分な量で、延伸に供される、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
繊維が約10%/分/パス以下である歪速度に曝される、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
繊維が複数の酸化オーブンに導入され、引き続く炉の各々が、前の酸化オーブンと少なくとも同じ高さである温度の酸化雰囲気を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
繊維の直径の25から50%の減少を繊維に生じさせるのに十分である累積延伸を繊維が受ける、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
繊維を延伸するステップが、酸化オーブンにおいて、複数の制御延伸に繊維を供することをさらに含み、a)第1パスにおいて、繊維が、10と40%の間である%延伸に供され;b)第2パスにおいて、繊維が、約2と20%の間である%延伸に供され;c)第3パスにおいて、%延伸が約2と16%の間であり;また、d)第4パスにおいて、繊維が、約2と12%の間である%延伸に供される、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
ポリアクリロニトリルポリマーを含む繊維を、約175℃から300℃の間の温度の酸化雰囲気を有する酸化オーブン(この酸化オーブンは、炉を通る繊維パスをそれぞれ定める複数の協調ロール対を有する)に導入するステップ;
2つ以上の該繊維パスを繊維が通過する時に、1パス当たり1つ又は複数の転移を繊維に経させるのに十分な量で、繊維を延伸するステップ(ここで、各転移は、張力vs.%延伸のプロットから得られ得る変曲点を含む);
酸化された繊維をオーブンから前進させるステップ;及び
酸化された繊維を炭素化熱処理に供するステップ
を含む炭素繊維の製造方法。
【請求項39】
繊維を延伸するステップが、酸化オーブンにおいて、繊維を、複数の制御延伸に供することをさらに含み、a)第1パスにおいて、繊維が、10と40%の間である%延伸に供され;b)第2パスにおいて、繊維が、約2と20%の間である%延伸に供され;c)第3パスにおいて、%延伸が約2と16%の間であり;また、d)第4パスにおいて、繊維が、約2と12%の間である%延伸に供される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
繊維が、アクリロニトリル、メチルアクリレート、メタクリル酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、及びイタコン酸からなる群から選択される1種又は複数のコモノマーを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
繊維が約0.6から1.53dpfの間のデニールを有する、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
繊維が、酸化オーブンを通る少なくとも8つのパスを通過し、引き続くパスの各々において、%延伸が前のパスにおけるものより小さい、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
炭素化熱処理が、約1200と2000℃の間の温度である高温炉を通して繊維を前進させることを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
高温炉が約1300と1500℃の間の温度である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
高温炉に繊維を通過させる前に、低温炉を通して繊維を前進させることをさらに含み、該低温炉が約400と800℃の間の温度である、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
低温炉を通して繊維を前進させる時に、繊維を延伸することをさらに含み、この延伸量が、1と24%延伸の間である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
酸化オーブンを出る時に、酸化オーブンに入る前の元の繊維の直径より10と50%の間だけ小さい平均直径を繊維が有する、請求項38に記載の方法。
【請求項48】
繊維が、約1,000と50,000本の間の個々のフィラメントを有する繊維束を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項49】
繊維が、酸化オーブンを通る3つ以上のパスを通過し、該パスの各々において、少なくとも2つの転移を繊維に経させるのに十分な量で、繊維が延伸に供される、請求項38に記載の方法。
【請求項50】
繊維を制御して延伸するための酸化オーブンであって、
内部スペースを定める1つ又は複数の壁面;
酸化オーブンの内部スペースを少なくとも部分的に通って延びる繊維の経路を定めるように設計され配置構成され、また隣接する駆動ロールの間に少なくとも2つのパスを定めるように配置された、複数の少なくとも3つの駆動ロール;及び
少なくとも1つの駆動ロールを駆動するための駆動モーター
を備え、張力が繊維に加えられ、また繊維が2つのパスの各々に沿って延伸されるように、3つの駆動ロールの速度が異なる、酸化オーブン。
【請求項51】
複数の駆動ロールの少なくとも1つ又は複数が、酸化オーブンの内部の外側に配置される、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項52】
隣接する駆動ロールの間に少なくとも2つのパスを定めるように、少なくとも3つの駆動ロールの2つと協調する少なくとも1つのアイドラロールをさらに備える、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項53】
アイドラロールが、酸化オーブンを通って前進する繊維の張力レベルを測定できる張力負荷装置を含む、請求項52に記載の酸化オーブン。
【請求項54】
酸化オーブンの内部を、150と600℃の間の温度に保つことができる、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項55】
酸化オーブンが、2と20の間の駆動ロールアセンブリを含む、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項56】
各駆動ロールが駆動モーターを備える、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項57】
第1駆動ロール、及び第1駆動ロールの下流にある第2駆動ロールを備え、第2駆動ロールが第1駆動ロールより高速で駆動される、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項58】
第2駆動ロールの下流にある第3駆動ロールを備え、第3駆動ロールが第2駆動ロールより高速で駆動される、請求項57に記載の酸化オーブン。
【請求項1】
少なくとも950ksiの引張強さ及び少なくとも45Msiの弾性率を有し、炭素繊維の表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション及び高位相角ドメインの複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる原子間力顕微鏡表面像を有する炭素繊維であって、5ナノメートル以上の平均位相角深さを有する炭素繊維。
【請求項2】
少なくとも975ksiの引張強さ及び少なくとも47Msiの弾性率を有する、請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項3】
少なくとも1000ksiの引張強さ及び少なくとも50Msiの弾性率を有する、請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項4】
8ナノメートル以上の平均位相角深さを有する、請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項5】
二乗平均平方根粗さ(Rq)値が約2以上である粗さを有する、請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項6】
少なくとも1000ksiの引張強さ及び少なくとも50Msiの弾性率を有する炭素繊維であって、約4nm以上のクリスタリット幅の値La、及び約14μΩm以上の抵抗率の値を有する炭素繊維。
【請求項7】
約50以上の半径方向均一性RU値を有する、請求項6に記載の炭素繊維。
【請求項8】
約8ナノメートル以上の平均位相角深さを有する、請求項6に記載の炭素繊維。
【請求項9】
約0.05以下のRD値を有する、請求項6に記載の炭素繊維。
【請求項10】
炭素繊維の表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション及び高位相角ドメインの複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる原子間力顕微鏡表面像を有する炭素繊維であって、約4nm以上のクリスタリット幅の値Laを有する炭素繊維。
【請求項11】
約2以上の二乗平均平方根粗さ(Rq)値をさらに有する、請求項10に記載の炭素繊維。
【請求項12】
約4以上の二乗平均平方根粗さ(Rq)値をさらに有する、請求項10に記載の炭素繊維。
【請求項13】
少なくとも50Msiの弾性率、少なくとも13μΩm以上の抵抗率、及び約4nm以上のクリスタリット幅の値Laを有する、請求項10に記載の炭素繊維。
【請求項14】
8ナノメートル以上の平均位相角深さを有する、請求項13に記載の炭素繊維。
【請求項15】
酸化された繊維を生成させるために、複数のパスにおいて高温の酸化雰囲気に繊維を曝すことによって、炭素繊維前駆体ポリマーを安定化するステップ;
パスの少なくとも2つにおいて、繊維を10と30%の間である%延伸に供するステップ;
酸化された繊維を約400と800℃の間の温度の炉に通過させるステップ;及び
繊維を約1300と1500℃の間である温度を有する炉に通過させることによって繊維を炭素化するステップ
によって調製される炭素繊維であって、少なくとも1000ksiの引張強さ及び50Msiの弾性率を有する炭素繊維。
【請求項16】
炭素繊維の表面に渡って延びる、低位相角ドメインの複数のストライエーション及び高位相角ドメインの複数のストライエーションの存在によって特徴付けられる原子間力顕微鏡表面像を有する、請求項15に記載の炭素繊維。
【請求項17】
約4nm以上のクリスタリット幅の値La、及び約14μΩm以上の抵抗率の値を有する、請求項15に記載の炭素繊維。
【請求項18】
5ナノメートル以上の平均位相角深さを有する、請求項15に記載の炭素繊維。
【請求項19】
二乗平均平方根粗さ(Rq)値が約2以上である粗さを有する、請求項15に記載の炭素繊維。
【請求項20】
引張強さ及び弾性率が向上した炭素繊維の製造方法であって、
酸化された繊維を生成させるために、酸化オーブン(このオーブンは、約175から300℃の間の温度の酸化雰囲気を有する)における少なくとも4つのパスを通して、炭素繊維前駆体ポリマーを前進させるステップ;
繊維を、第1パスにおいては5と30%の間である%延伸に、第2パスにおいては5と20%の間である%延伸に、また第3及び第4パスにおいては2と15%の間である%延伸に、供するステップ;
酸化された繊維を、約400と800℃の間の温度の炉に通過させるステップ;及び
繊維を約1300と1500℃の間である温度を有する炉に通過させることによって、繊維を炭素化するステップ
を含む方法。
【請求項21】
延伸ステップが、複数のパスにおいて、2つ以上のパスの各々において約25%以下である%延伸を繊維に加える複数の制御延伸に、繊維を供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
繊維がパスの一部として酸化オーブンを出る、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
繊維が、アクリロニトリル、メチルアクリレート、メタクリル酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、及びイタコン酸からなる群から選択される1種又は複数のコモノマーを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前駆体繊維が約0.6から0.8dpfの間のデニールを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前駆体繊維に表面処理及びサイジングを行うステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
炭素繊維前駆体ポリマーを含む繊維の延伸方法であって、
2つ以上のパスにおいて酸化オーブン(この酸化オーブンは酸化雰囲気を有する)を通して繊維を前進させるステップ;
2つ以上のパスの各々において少なくとも2つの転移を繊維に経させるのに十分な量で、2つ以上のパスにおいて繊維を延伸するステップ
を含み、各転移が張力vs.%延伸のプロットから決定できる変曲域を含む、方法。
【請求項27】
延伸ステップが、2つ以上のパスにおいて、2つ以上のパスの各々において約25%以下である%延伸を繊維に加える複数の制御延伸に、繊維を供することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
繊維をさらなる延伸に供する前に、それぞれの制御延伸の間で、繊維を安定化させることを可能にするステップをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
延伸ステップが、2つ以上のパスの各々において、2つ以上のパスにおいて約10と25%の間である%延伸に繊維に加える複数の制御延伸に、繊維を供することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
第1パスにおいて、少なくとも2つの転移(各転移は張力vs.%延伸のプロットから得られ得る変曲点を含む)を繊維に経させるのに十分な量で繊維を延伸するステップ;及び
第2パスにおいて、少なくとも2つの転移(各転移は張力vs.%延伸のプロットから得られ得る変曲点を含む)を繊維に経させるのに十分な量で繊維を延伸するステップ
をさらに含み、第1及び第2パスの両方で少なくとも約30%以上である累積延伸を繊維が受ける、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
第1パスにおいて、少なくとも3つの転移を繊維に経させるのに十分な量で、繊維が延伸される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
繊維がパスの一部として酸化オーブンを出る、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
繊維が酸化オーブンを通して3つ以上のパスを通過し、該繊維が、該パスの各々において、少なくとも2つの転移を繊維に経させるのに十分な量で、延伸に供される、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
繊維が約10%/分/パス以下である歪速度に曝される、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
繊維が複数の酸化オーブンに導入され、引き続く炉の各々が、前の酸化オーブンと少なくとも同じ高さである温度の酸化雰囲気を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
繊維の直径の25から50%の減少を繊維に生じさせるのに十分である累積延伸を繊維が受ける、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
繊維を延伸するステップが、酸化オーブンにおいて、複数の制御延伸に繊維を供することをさらに含み、a)第1パスにおいて、繊維が、10と40%の間である%延伸に供され;b)第2パスにおいて、繊維が、約2と20%の間である%延伸に供され;c)第3パスにおいて、%延伸が約2と16%の間であり;また、d)第4パスにおいて、繊維が、約2と12%の間である%延伸に供される、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
ポリアクリロニトリルポリマーを含む繊維を、約175℃から300℃の間の温度の酸化雰囲気を有する酸化オーブン(この酸化オーブンは、炉を通る繊維パスをそれぞれ定める複数の協調ロール対を有する)に導入するステップ;
2つ以上の該繊維パスを繊維が通過する時に、1パス当たり1つ又は複数の転移を繊維に経させるのに十分な量で、繊維を延伸するステップ(ここで、各転移は、張力vs.%延伸のプロットから得られ得る変曲点を含む);
酸化された繊維をオーブンから前進させるステップ;及び
酸化された繊維を炭素化熱処理に供するステップ
を含む炭素繊維の製造方法。
【請求項39】
繊維を延伸するステップが、酸化オーブンにおいて、繊維を、複数の制御延伸に供することをさらに含み、a)第1パスにおいて、繊維が、10と40%の間である%延伸に供され;b)第2パスにおいて、繊維が、約2と20%の間である%延伸に供され;c)第3パスにおいて、%延伸が約2と16%の間であり;また、d)第4パスにおいて、繊維が、約2と12%の間である%延伸に供される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
繊維が、アクリロニトリル、メチルアクリレート、メタクリル酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、及びイタコン酸からなる群から選択される1種又は複数のコモノマーを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
繊維が約0.6から1.53dpfの間のデニールを有する、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
繊維が、酸化オーブンを通る少なくとも8つのパスを通過し、引き続くパスの各々において、%延伸が前のパスにおけるものより小さい、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
炭素化熱処理が、約1200と2000℃の間の温度である高温炉を通して繊維を前進させることを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
高温炉が約1300と1500℃の間の温度である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
高温炉に繊維を通過させる前に、低温炉を通して繊維を前進させることをさらに含み、該低温炉が約400と800℃の間の温度である、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
低温炉を通して繊維を前進させる時に、繊維を延伸することをさらに含み、この延伸量が、1と24%延伸の間である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
酸化オーブンを出る時に、酸化オーブンに入る前の元の繊維の直径より10と50%の間だけ小さい平均直径を繊維が有する、請求項38に記載の方法。
【請求項48】
繊維が、約1,000と50,000本の間の個々のフィラメントを有する繊維束を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項49】
繊維が、酸化オーブンを通る3つ以上のパスを通過し、該パスの各々において、少なくとも2つの転移を繊維に経させるのに十分な量で、繊維が延伸に供される、請求項38に記載の方法。
【請求項50】
繊維を制御して延伸するための酸化オーブンであって、
内部スペースを定める1つ又は複数の壁面;
酸化オーブンの内部スペースを少なくとも部分的に通って延びる繊維の経路を定めるように設計され配置構成され、また隣接する駆動ロールの間に少なくとも2つのパスを定めるように配置された、複数の少なくとも3つの駆動ロール;及び
少なくとも1つの駆動ロールを駆動するための駆動モーター
を備え、張力が繊維に加えられ、また繊維が2つのパスの各々に沿って延伸されるように、3つの駆動ロールの速度が異なる、酸化オーブン。
【請求項51】
複数の駆動ロールの少なくとも1つ又は複数が、酸化オーブンの内部の外側に配置される、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項52】
隣接する駆動ロールの間に少なくとも2つのパスを定めるように、少なくとも3つの駆動ロールの2つと協調する少なくとも1つのアイドラロールをさらに備える、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項53】
アイドラロールが、酸化オーブンを通って前進する繊維の張力レベルを測定できる張力負荷装置を含む、請求項52に記載の酸化オーブン。
【請求項54】
酸化オーブンの内部を、150と600℃の間の温度に保つことができる、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項55】
酸化オーブンが、2と20の間の駆動ロールアセンブリを含む、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項56】
各駆動ロールが駆動モーターを備える、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項57】
第1駆動ロール、及び第1駆動ロールの下流にある第2駆動ロールを備え、第2駆動ロールが第1駆動ロールより高速で駆動される、請求項50に記載の酸化オーブン。
【請求項58】
第2駆動ロールの下流にある第3駆動ロールを備え、第3駆動ロールが第2駆動ロールより高速で駆動される、請求項57に記載の酸化オーブン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【公表番号】特表2010−510406(P2010−510406A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538444(P2009−538444)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/083886
【国際公開番号】WO2008/063886
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(503308494)ヘクセル コーポレイション (15)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/083886
【国際公開番号】WO2008/063886
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(503308494)ヘクセル コーポレイション (15)
【Fターム(参考)】
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