説明

弾性表面波デバイスおよびそれを用いた移動体通信機器並びにセンサー

【課題】弾性表面波共振子あるいはフィルタなどの弾性表面波デバイスにおいて、損失を最小化し、急峻性を向上させることを目的とするものである。
【解決手段】漏洩表面弾性波を励起することが可能なカット角で切り出された圧電基板1上に櫛型電極や反射器を設け、従来LSAWとして利用されていたSAWの音速を低減させ、前記圧電基板を伝播する遅い横波の速度よりも遅くしたSAWを利用することにより、従来LSAWとして利用されていたSAWを伝播損失の発生しないRSAWとして利用し、従来のLSAWを利用したSAWフィルタやSAW共振子と比較し、挿入損失が少なく、かつ急峻特性が向上したSAWフィルタやSAW共振子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高周波帯域において優れた通過帯域特性を有する弾性表面波デバイスおよびそれを用いた移動体通信機器とセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波デバイス(以下、SAWデバイスとよぶ)は小型、軽量であることから、移動体通信端末の無線機器において、フィルタあるいは共振器として多く用いられている。このような移動体通信端末の無線機器に用いられるフィルタに対しては、携帯電話システムの高周波化に伴い高周波領域、特に800MHz帯〜数GHz帯で使用できることが要求される。特に、通過帯域においては低損失で、かつ阻止域においては高抑圧が可能で、しかも急峻なフィルタ特性を有することが要求される。
【0003】
一般に、圧電基板上に形成された電極指が相互にかみ合わさったインターディジタルトランスデューサ(以下、IDTとよぶ)電極に電圧を印加すると、圧電基板の表面を伝播する弾性表面波(以下、SAWとよぶ)が生じる。SAWデバイスは、このSAWを励振し、受信することで必要なフィルタ特性を実現している。このSAWデバイスの電気的特性は、IDT電極の形状や構成および圧電基板を伝播するSAWの伝播特性により主として決定される。例えば、SAWデバイスの1種であるSAW共振子においては、IDT電極の電極指間ピッチpとSAWの音速、すなわち伝播速度v、共振周波数fの間には、(式1)の関係がある。
【0004】
v=2・p・f (式1)
したがって、SAWデバイスを高周波領域で使用すると共振周波数fが大きくなり、SAWの伝播速度vが一定であれば、IDT電極指間ピッチpを小さくしなければならない。これは、IDT電極のパターン幅を非常に小さくすることになるため、SAWデバイスの製造歩留まりが低下する。製造歩留まりを低下させないようにするためには、SAWの伝播速度vの大きな圧電基板が求められる。また、低損失な特性を得るには、SAWの伝播に伴う損失やIDT電極の抵抗をできるだけ小さくする必要がある。
【0005】
このような点から、高周波帯で低損失なSAWフィルタやSAW共振子などのSAWデバイスを実現するにあたっては、リチウム酸タンタル(LiTaO3)単結晶(以下、LT単結晶とよぶ)の36°回転Yカット板においてX方向をSAWの伝播方向とした36°Y−XLiTaO3基板(以下、LT36°板とよぶ)や、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶(以下、LN単結晶とよぶ)の64°回転YカットにおいてX方向をSAWの伝播方向とした64°Y−XLiNbO3基板(以下、LN64°板とよぶ)が広く使われてきた。これらのカット角で切り出されたLT36°板およびLN64°板を用いると、漏洩弾性表面波(Leaky surface acoustic wave:以下、LSAWとよぶ)とよばれ、一部が基板内部にバルク波を放射しながら伝播するSAWを利用するSAWデバイス構成が可能である。
【0006】
これらの基板で励振されるLSAWは、音速、すなわち伝播速度が速い特徴を有する。さらに、IDT電極の質量負荷効果が無視できる場合、すなわち伝播するLSAWの波長に比べIDT電極の膜厚が充分に薄い場合、ほとんどバルク波が放射されなくなるので、バルク波の放射に伴う伝播損失が充分小さくできる。そのため、LT36°板やLN64°板は、低損失の高周波SAWフィルタやSAW共振子を構成するのに適している。この理由により、従来多く利用されてきた。
【0007】
しかし、これらの基板を800MHz帯〜数GHz帯のSAWフィルタやSAW共振子に用いると、SAWの波長が短くなり、IDT電極の膜厚がSAWの波長の数%〜十数%となってしまうので、IDT電極の質量負荷効果が無視できなくなる。この結果、LSAWの伝播に伴う伝播損失が無視できなくなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この問題を解決する手段として、カット角を高角度側にずらして切り出した基板を用いることが有効であり、伝播損失を十分小さくできることが、特開平9−167936号公報に示されている。これによると、IDT電極の規格化膜厚h/λ(h:電極の膜厚、λ:SAWの波長)によって、LT単結晶やLN単結晶上を伝播するLSAWの伝播損失が最小になる基板のカット角は異なる。LT単結晶の場合には、IDT電極の膜厚がLSAWの波長の0.03〜0.15(規格化膜厚h/λが3%〜15%)となる場合は、カット角を36°ではなく、39〜46°へと高角度側にシフトさせると、伝播損失をほぼ0にできることが示されている。同様に、LN単結晶の場合には、IDT電極の膜厚がLSAWの波長の0.03〜0.15(規格化膜厚h/λが3%〜15%)となる場合は、カット角を64°ではなく、66〜74°と高角度側にシフトさせると、伝播損失をほぼ0とできることが示されている。
【0009】
しかし、一般に、周波数特性が異なるSAWフィルタやSAW共振子はIDT電極間のピッチが異なる。したがって、仮に同一の膜厚で異なる周波数特性を有するSAWフィルタやSAW共振子を作製する場合、それぞれのSAWフィルタやSAW共振子で最適な規格化膜厚h/λは異なることになる。この結果、例えば1つのチップ上に周波数の異なるSAWフィルタを形成するような構成、いわゆる2フィルタin1チップタイプ構成からなるSAWデバイスの場合については、以下に述べるような課題が生じる。すなわち、IDT電極の膜厚は一般に1チップ内では同一であるので、これら2つのSAWフィルタの伝播損失を両方ともほぼ0とすることができなくなる。一方、これら2種類のSAWフィルタともに伝播損失をほぼ0にするためには、1チップ内において、それぞれのSAWフィルタに応じて最適な膜厚とすることが必要となる。しかし、これを実現するための製造工程は非常に複雑となり、実際の量産工程に導入することは困難である。
【0010】
さらに、特開平5−183380号公報には、帯域外の抑圧を大きくする方法として、SAW共振子をラダー型に接続してなるラダー型SAWフィルタの並列腕の共振子にリアクタンス素子を接続する方法が開示されている。しかし、この方法では抑圧する帯域を広げることで、ある帯域範囲において充分な抑圧を得ることはできるが、フィルタ特性として要求される急峻性を大きく向上させることはできない。したがって、比クロスバンド(=(クロスバンド上端周波数−クロスバンド下端周波数)/クロスバンドの中心周波数)が、例えばアメリカの携帯電話の規格であるPCSでは0.01であり、通過帯域と阻止域とが非常に近接しているような場合、上記の方法では通過帯域の近傍にある阻止域を充分に抑圧することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、特にSAWフィルタやSAW共振子の挿入損失を低減し、かつ急峻特性を向上させたSAWデバイスと、それを用いた移動体通信機器およびセンサーを提供することを目的とする。具体的には、LSAWを励起することが可能なカット角で切り出された圧電基板を用い、従来LSAWとして利用されていたSAWの音速を低減させ、圧電基板を伝播する遅い横波の速度よりも遅くすることにより、理論上伝播損失の発生しないRSAWを利用することで、従来のLSAWを利用したSAWデバイスに比べて、挿入損失が少なく、かつ急峻特性を向上させることを基本とする。
【0012】
上記課題を解決するために本発明のSAWデバイスは、LSAWを励起することが可能なカット角で切り出された圧電基板と、この圧電基板上に少なくとも一対の互いにかみ合わされた電極指を有するIDT電極を含む電極パターンとからなるSAWデバイスであって、このSAWデバイスの共振周波数をf(Hz)、圧電基板を伝播する遅い横波の音速をvb(m/s)、圧電基板上に形成された電極パターンの電極指のピッチをp(m)としたとき、電極指のピッチpが2×p≦vb/fの関係を満たすことを特徴とする。
【0013】
この構成により、LSAWのバルク波の放射を抑制し、LSAWをRSAWとして伝播させることで伝播損失をほぼ0とすることが可能となり、従来のLSAWを利用した場合よりも挿入損失が低く、かつ急峻特性の優れたSAWデバイスが得られる。
【0014】
また、本発明のSAWデバイスは上記の構成に加えて、さらに電極パターンの電極指が、この電極指のピッチpとほぼ同じピッチを有して圧電基板表面に設けられた段部の頂部に形成されている構成からなる。これにより、従来のLSAWを利用した場合よりも低損失でかつ、急峻特性の優れたSAWデバイスを得ると同時に、LSAWをRSAWとして利用した時に生じる電極1本あたりの反射係数の低下を改善できる。その結果、電気的特性の、特に通過特性において発生するリップルを抑制したSAWデバイスを得ることができる。
【0015】
また、本発明のSAWデバイスは上記の構成に加えて、電極パターン上に少なくともその電極パターンを覆う誘電体膜がさらに形成されている構成からなる。これにより、誘電体膜を形成することによる音速の低下を利用し、従来のLSAWを利用した場合よりも挿入損失が低く、急峻特性の優れたSAW共振子を得ることができる。
【0016】
また、本発明のSAWデバイスは上記の構成において、さらに電極指がアルミニウム(Al)もしくはAlを主体とする金属からなり、かつこの圧電基板を用いてLSAWを利用して作製されたLSAW型弾性表面波デバイスのIDT電極の膜厚をhLとし、このLSAW型弾性表面波デバイスと同一の共振周波数としたときの弾性表面波デバイスのIDT電極の膜厚をhrとした場合、弾性表面波デバイスのIDT電極の膜厚hrがhL≦hrを満たす構成としたことを特徴とする。
【0017】
この構成により、IDT電極の質量負荷によりLSAWの伝播速度を低下させると同時にIDT電極の膜厚に起因する電極膜の抵抗の上昇を抑えることができる。その結果、低損失で急峻特性の優れたSAWデバイスを得ることが可能となる。
【0018】
また、本発明のSAWデバイスは上記構成において、さらに弾性表面波デバイスの少なくとも電極指がAlよりも密度の大きい金属を用いたことを特徴とする。この構成により、少なくともIDT電極の電極指をAlよりも密度の高い金属によって形成することで電極1本あたりの反射係数の低下を改善でき、その結果通過特性において発生するリップルを抑制し、かつ、急峻特性の優れたSAWデバイスを得ることができる。
【0019】
また、本発明のSAWデバイスは上記構成において、さらに弾性表面波デバイスの少なくとも電極指がAlよりも密度の大きい金属からなる第1の層と、AlもしくはAlを主体とする金属からなる第2の層とを有する少なくとも2層以上の多層構造の電極であることを特徴とする。この構成により、IDT電極1本あたりの反射係数の低下を改善できる。その結果、通過特性において発生するリップルを抑制すると同時に、電極の抵抗の上昇も抑制できるので、損失が少なく急峻特性の優れたSAWデバイスを得ることができる。
【0020】
また、本発明のSAWデバイスは上記構成において、圧電基板がLiTaO3単結晶(
LT)であることを特徴とする。これにより、1チップ上に従来のLSAWを利用したSAWデバイスと本発明のSAWデバイスとを同時に形成することもできる。
【0021】
また、本発明のSAWデバイスは上記構成において、LiTaO3単結晶からなる圧電
基板は、LiTaO3単結晶のX軸を中心に、Y軸からZ軸方向に26度以上、50度以
下の範囲の角度で回転させた方位で切り出されたカット面を有し、漏洩表面弾性波を励起することが可能な特性を有することを特徴とする。この構成により、従来のLSAWを利用したSAWデバイスと本発明のSAWデバイスとを同時に1チップ上に形成する2デバイスin1チップタイプのSAWデバイスを作成しても、両方のSAWデバイスともに損失が小さく、かつ優れた急峻特性を得ることができる。
【0022】
また、本発明のSAWデバイスは上記構成において、圧電基板がLiNbO3単結晶で
あることを特徴とする。これにより、従来のLSAWを利用したSAWデバイスと本発明のSAWデバイスとを1チップ上に形成する2デバイスin1チップタイプのSAWデバイスとしても良好な特性を得ることができる。
【0023】
また、本発明のSAWデバイスは上記構成において、LiNbO3単結晶からなる圧電
基板は、LiNbO3単結晶のX軸を中心に、Y軸からZ軸方向に50度以上、80度以
下の範囲の角度で回転させた方位で切り出されたカット面を有し、漏洩表面弾性波を励起することが可能な特性を有することを特徴とする。この構成により、従来のLSAWを利用したSAWデバイスと本発明のSAWデバイスとを1チップ上に形成した2デバイスin1チップタイプのSAWデバイスを作成しても、両方のSAWデバイスともに損失の少なく、かつ優れた急峻特性を得ることができる。
【0024】
また、本発明のSAWデバイスは、上記構成のSAWデバイスを2つ以上組み合わせて1つのチップ上に形成したことを特徴とする。この構成により、低損失でかつ急峻な周波数選択性を有するSAWデバイスを得ることができる。
【0025】
また、本発明の移動体通信機器は、上記構成のSAWデバイスを用いたことを特徴とする。この構成により、低損失で急峻な特性のSAWデバイスを移動体通信機器に用いることが可能となり、小型で、かつ軽量、薄型化された移動体通信機器、例えば携帯電話を実現できる。
【0026】
また、本発明のセンサーは、本発明に開示された手法により実現された低損失で急峻な特性のSAWデバイスをセンサー部として用いることで、小型で、軽量で、かつ感度の良好なセンサーを得ることができる。なお、センサーとしては、温度を感知するセンサーとして用いることが好適であるが、においを感知するセンサー、水分量を感知するセンサー等にも用いることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように本発明は、LSAWの音速を圧電基板の遅い横波以下の音速に低下させることにより、バルク波の放射を抑制してSAW共振子あるいはSAWフィルタなどのSAWデバイスの損失を低減するとともに、急峻性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施例のSAWデバイスについて詳細に説明する。
【0029】
(実施例1)
図1Aは、本発明の実施例1におけるSAWデバイスの一例として作製した1portのSAW共振子を示す斜視図である。圧電基板1上にSAW共振子2が形成されている。SAW共振子2は、IDT電極3および反射器4で構成されている。図1Bは図1Aに示すt−t線に沿った断面図である。図1CはIDT電極の1周期分の拡大図であり、電極指301が圧電基板1上に一定のピッチpで形成された状態を示す。
【0030】
本実施例では、圧電基板1として39°YカットX伝播のLT基板(以下、39°Y−XLT基板とよぶ)を用いた。この圧電基板1を伝播する遅い横波の音速vbは、vb=3350.8m/sである。この圧電基板1上に作製されたSAW共振子2の電極の材料としては、AlにCuを添加したAl−Cu合金を用いた。なお、SAW共振子の電極とは、少なくともIDT電極と共振器の電極とが含まれる。
【0031】
実施例試料1のSAW共振子2として、電極指301間ピッチpが0.8μm、規格化膜厚h/λが19.4%の構成からなるSAW共振子2を作製した。この実施例試料1のSAW共振子2の共振周波数fは1891.4MHzであり、(式1)から算出されるSAWの音速は3026.2m/sとなる。したがって、本実施例で用いた圧電基板1である39°Y−XLT基板における遅い横波の音速vbよりも遅くなっている。さらに、上記数値をもとに計算すると、2×p=1.6×10-6、vb/f=3350.8/(1891.4×106)=1.772×10-6であるので、2×p≦vb/fの関係を満たしている。
【0032】
また、比較試料1として、電極指301間ピッチpが1.06μm、規格化膜厚h/λが6.0%のSAW共振子を作製した。さらに、比較試料2として、電極指301間ピッチpが1.0μm、規格化膜厚h/λが11%のSAW共振子も作製した。それぞれのSAW共振子の共振周波数fは、比較試料1が1886.0MHzであり、比較試料2が1884.9MHzである。また、それぞれのSAW共振子におけるSAWの音速は、(式1)とそれぞれの共振周波数fから求めることができる。その値は、比較試料1が3998.3m/sであり、比較試料2が3769.8m/sである。したがって、比較試料1および比較試料2ともに、本実施例で用いた圧電基板1である39°Y−XLT基板における遅い横波の音速vbよりも速い。さらに、比較試料1および比較試料2ともに、2×p≦vb/fの関係を満たしていない。
【0033】
図2は、本実施例の圧電基板1である39°Y−XLT基板におけるLSAWの伝播損失とIDT電極の規格化膜厚h/λとの関係を示す。図2からわかるように、この圧電基板1を伝播するLSAWの伝播損失は、規格化膜厚h/λが約6%の時に最小になる。
【0034】
図3Aは、実施例試料1のSAW共振子2の通過特性を示す。また、図3Bは比較試料1のSAW共振子、図3Cは比較試料2のSAW共振子の通過特性をそれぞれ示す。
【0035】
なお、本実施例においては、SAW共振子の作製と特性の評価については、以下のように行った。SAW共振子の作製は、IDT電極と共振器を作製するための電極膜をマグネトロンスパッタ法により圧電基板1上に形成した後、フォトリソグラフィ工法および塩素系エッチングガスを用いたドライエッチング工法により所定のSAW共振子の電極パターンを形成した。
【0036】
また、電気的特性は高周波プローブを用いて測定した。通過特性のうち急峻性を比較する指標は、図4に示すような方法により評価した。すなわち、図4に示すように、通過特性における反共振点B2と、反共振点B2での反共振周波数f2よりも20MHz低周波数側の点B1を規定し、B1とB2とを直線(図4中の破線で示す)で結んだときの傾きをもって急峻性指標とした。ただし、B1とB2間の中点の周波数で規格化した。なお、f2−f1=20MHzである。したがって、この急峻性指標の値が大きいほど、共振器としての急峻性は高く、同時に挿入損失が小さく、かつ減衰極における減衰量が大きいことになる。急峻性指標を求めるための計算式を以下に示す。
【0037】
急峻性指標={(ATT2−ATT1)/20}/(f1+10)
また、挿入損失を比較する指標としては、図5に示すような方法により評価した。すなわち、図5に示すように、反共振点B2での反共振周波数f2よりも低域側で抑圧が10dBとなる点B3での周波数f3を求め、この周波数f3からさらに低周波数側に20MHz低い点B4での周波数f4における挿入損失を挿入損失指標とした。これにより、これらのSAW共振子を用いてラダー型のフィルタを作製した場合、必要な抑圧を確保した状態で、かつ挿入損失の指標を得ることができる。
【0038】
また一方、帯域外の抑圧度の指標としては、図6に示すような方法により評価した。すなわち、図6に示すように、反共振点B2での反共振周波数f2よりも30MHz高周波数側の点B5での周波数f5における抑圧度を用いて比較した。
【0039】
以上の3つの評価指標を用いて、本実施例である実施例試料1のSAW共振子、比較試料1のSAW共振子および比較試料2のSAW共振子の特性をそれぞれ比較した。この結果を、表1に示す。なお、上述したように、圧電基板1としては39°Y−XLT基板であり、電極材料としてはAl−Cu合金である。
【0040】
【表1】

【0041】
表1からわかるように、実施例試料1は、比較試料1および比較試料2よりも急峻性指標が高く、また挿入損失指標も小さく、良好な特性を有することがわかる。従来と同様に、実施例試料1におけるSAW共振子がLSAWを利用したものであれば、規格化膜厚h/λが19.4%であるので図2からわかるように、伝播損失が比較試料1と比較試料2に比べ格段に大きくなり、その結果損失が大きくなると予測される。しかしながら、実施例試料1では、挿入損失指標はむしろ比較試料1および比較試料2に比べて良好な結果が得られている。この結果は、以下のように説明できる。すなわち、実施例試料1のSAW共振子では、その音速が圧電基板1である39°Y−XLT基板を伝播する遅い横波の音速vb以下に低下している。この結果、本来LSAWのモードで伝播するはずの波がLSAWのモードで伝播せず、レーリーSAW(以下、RSAWとよぶ)モードで伝播する。したがって、伝播損失がほぼ0となり、損失、急峻性ともに向上したものと推定される。これは、上記の圧電基板1を用いて、2×p≦vb/fの関係を満たすように電極ピッチpを設定したことによる。
【0042】
ただし、急峻性に関しては損失の低下とともに、電気機械結合係数の変化による影響も伴っていると考えられる。特に、SAW共振子の電極の膜厚を厚くした場合、一般的に実効結合係数keffが増加し、その結果、容量比γが低下して急峻性が悪くなる。しかし、実施例試料1は、比較試料1および比較試料2よりも電極膜厚が厚いにかかわらず、急峻性はむしろ高く、良好な特性を示している。したがって、本来LSAWのモードで伝播するはずの波がRSAWモードで伝播するに伴い、結合係数も同時に低下していると推定される。
【0043】
一方、比較試料1と比較試料2とを比べると、比較試料1の方が挿入損失、急峻性ともに優れている。これは、以下に述べる理由によると推定される。すなわち、比較試料1と比較試料2のSAWは、従来のLSAWモードで伝播しているが、さらに比較試料1の場合には図2で示されるようにIDT電極の規格化膜厚h/λを、LSAWの伝播損失がほぼ0となる約6%としたことによる。この結果は、特開平9−167936号公報に開示されている内容とも一致する。なお、比較試料1と比較試料2については、その音速が実施例試料1で用いた39°Y−XLT基板を伝播する遅い横波よりも速いため、従来のLSAWモードで伝播していることがわかる。
【0044】
以上のように低損失で急峻なSAWデバイスを得る方法として、LSAWを励起することが可能なカット角で切り出された圧電基板1上に、2×p≦vb/fとなるようにSAWデバイス2を形成することが有効であることが確認された。
【0045】
特に、電極としてAlもしくはAlを主体とする金属を用い、圧電基板1として、X軸を中心にY軸からZ軸方向に26度以上、50度以下の範囲の角度で回転させた方位で切り出されたカット面を有するLT単結晶を用いる場合、種々のSAW共振子を試作して確認した結果、2×p≦vb/fの関係を満たすようにIDT電極パターンを設定すれば同様の効果が得られることが見出された。さらに、IDT電極の電極指のメタライゼーションレシオηを約0.5とし、規格化膜厚h/λを15%以上とすれば、上記の効果を有するSAWデバイスをより確実に得ることができるので製造歩留まりも大きく改善される。
【0046】
また電極としてAlもしくはAlを主体とする金属を用い、X軸を中心にY軸からZ軸方向に50度以上、80度以下の範囲の角度で回転させた方位で切り出されたカット面を有するLN単結晶を用いる場合、LT単結晶の場合と同様に種々のSAW共振子を試作して確認した結果、2×p≦vb/fの関係を満たすようにIDT電極パターンを設定すれば同様の効果が得られることが見出された。さらに、メタライゼーションレシオηを約0.5とし、規格化膜厚h/λを12%以上とすれば、同様の効果を有するSAWデバイスをより確実に得ることができるので製造歩留まりも大きく改善される。
【0047】
ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、電極としてAlもしくはAlを主体とする金属以外の材料を用いてもよい。さらに、圧電基板として、他のカット角で切り出されたLT単結晶やLN単結晶、もしくはLiB23(LBO)基板や他の圧電基板の材料、あるいは圧電薄膜を用いた場合でも、本来LSAWで伝播するSAWの音速を種々の手段で遅い横波の速度以下に低下させRSAWとし、かつ上記関係式を満たすようにIDT電極の膜厚、形状を設定すれば同様の効果が得られる。
【0048】
(実施例2)
本発明の実施例2におけるSAWデバイスの一例として、ラダー型SAWフィルタを作製した。このSAWフィルタの構成の斜視図を図7Aに示す。図7Bは、その回路構成図を示す。図7Bに示す回路構成図からわかるように、本実施例のSAWフィルタは、5個の直列腕のSAW共振子5と、2個の並列腕のSAW共振子6とで構成されている。直列腕SAW共振子5は、IDT電極7と、このIDT電極7の両側に設けられた反射器9とで構成されている。一方、並列腕SAW共振子6は、同様にIDT電極8と、この両側に設けられた反射器10とで構成されている。また、本実施例では、中心周波数が836MHz、帯域幅が25MHzとなるようにそれぞれの電極の膜厚とパターン形状を設定している。
【0049】
圧電基板11は、本実施例では42°YカットX伝播のLT基板(以下、LT42°板とよぶ)を用いた。この圧電基板11を伝播する遅い横波の音速vbは3350.8m/sである。図8に、この圧電基板11を用いてLSAWを利用したSAW共振子を作製したときの規格化膜厚h/λと伝播損失の関係を示す。SAW共振子の電極には、AlにCuを添加したAl−Cu合金膜を用いた。このSAWフィルタの作製方法および電気的特性の測定方法は、本発明の実施例1と同様に行った。
【0050】
表2に、本実施例における実施例試料2と比較試料3について、直列腕SAW共振子5と並列腕SAW共振子6のIDT電極指間ピッチp、規格化膜厚h/λ、共振周波数fおよびSAW音速をそれぞれ示す。表2から、実施例試料2は2×p≦vb/fの関係を満たしているが、比較試料3は2×p≦vb/fの関係を満たしていないことがわかる。また、図9Aに、実施例試料2のSAWフィルタの通過特性を示す。また、図9Bに比較試料3のSAWフィルタの通過特性を示す。
【0051】
なお、それぞれの通過特性を評価する指標としては最小挿入損失およびフィルタの角型比を用いた。この角型比の定義としては、特開平9−167936号公報に記載されている方法と同様とした。図10に、この角型比の定義を説明するための図を示す。角型比は、通過帯域の最小挿入損失C1に対して、さらに1.5dB減衰した点C2における帯域幅BWbと、20dB減衰した点C3における帯域幅BWaとを求め、これらの比、すなわちBWa/BWbとして定義した。角型比が大きい程フィルタはブロードになり、選択比が劣化し、かつ通過帯域幅が減少する。従って、角型比が1に近づくほど帯域通過型フィルタは高性能であるといえる。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例試料2のSAWフィルタおよび比較試料3のSAWフィルタについて、最小挿入損失および角型比の測定結果を表2に示す。
【0054】
表2からわかるように、実施例試料2は比較試料3に比べて、最小挿入損失および角型比ともに良好な結果が得られた。比較試料3のSAWフィルタを構成するそれぞれのSAW共振子の規格化膜厚h/λは、図8からLT42°板においてLSAWの伝播損失がほぼ0となる値である。一方、実施例試料2の規格化膜厚h/λは18.4%と19.3%である。したがって、このSAWフィルタを構成するそれぞれのSAW共振子がLSAWを利用して動作するならば、図8からわかるように伝播損失は大きくなる。このため、比較試料3と比べて、最小挿入損失および角型比ともに悪化するはずである。しかし、実施例試料2では、そのIDT電極構成として、各SAW共振子が2×p≦vb/fの関係を満たすように設計しているので、比較試料3の場合よりも高性能なSAWフィルタを実現している。
【0055】
なお、本実施例においてはラダー型のSAWフィルタを用いたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ラティス型SAWフィルタ、多重モード型SAWフィルタまたはIIDT(Interdigitated Interdigital Transducer)型SAWフィルタ等の他の方式の共振器SAWフィルタでも、2×p≦vb/fの関係を満たせば同様の効果が得られる。
【0056】
また、本発明によれば、従来得られなかったフィルタ特性が実現できるため、小型、軽量で、かつ高性能なフィルタが実現できる。さらに、これを移動体通信機器に用いることで、移動体通信機器の小型、軽量化が可能となる。
【0057】
(実施例3)
本発明の実施例3のSAWデバイスとしては、本発明の実施例1で用いた1portのSAW共振子と同様の1−portタイプのSAW共振子を用いた。
【0058】
本実施例では、実施例試料3、実施例試料4、実施例試料5および実施例試料6については、圧電基板1としてLT36°板を用いた。この圧電基板1を伝播する遅い横波の音速vbは3350.8m/sである。また比較試料4については、圧電基板1としてLT42°板を用いた。これらの圧電基板1上に図1Aから図1Cに示した構成のSAW共振子を作製した。
【0059】
本実施例では、実施例試料3、実施例試料4および実施例試料5のSAW共振子はすべて、電極指間ピッチpは0.8μm、メタライゼーションレシオηは約0.5、および共振周波数fは1890.6MHzとなるようにした。また、実施例試料6については、電極指間ピッチpが0.6μm、メタライゼーションレシオηが約0.5として、共振周波数fが1890.6MHzとなるようにした。
【0060】
実施例試料3と実施例試料4では、SAW共振子の電極にはAlを用いた。さらに、実施例試料3のSAW共振子の規格化膜厚h/λは19.8%とした。また、実施例試料4のSAW共振子の規格化膜厚h/λは15.0%として、実施例試料3と比べ薄くした。しかし、共振周波数が実施例試料3と一致するようにLT基板に段部を設け、その上に電極を形成した。この形成方法については、後述する。
【0061】
実施例試料5では、SAW共振子の電極としてAlよりも密度の大きいタングステン(W)を用いた。実施例試料5のSAW共振子の規格化膜厚h/λは、AlとWとの密度の違いを考慮し2.7%とした。このように設定することで、共振周波数が実施例試料3と一致するようにした。
【0062】
実施例試料6では、SAW共振子の電極として、W層とAl層の2層からなる多層膜電極を用いた。実施例試料6のSAW共振子の規格化膜厚h/λは8.7%であるが、Al層とW層の層厚の割合およびAlとWとの密度の違いを考慮して、共振周波数が実施例試料3と一致するようにした。
【0063】
このようにすることにより、実施例試料4、実施例試料5および実施例試料6ともに、その規格化膜厚h/λはAlに換算した場合に実施例試料3と一致する。
【0064】
また、比較試料4のSAW共振子も作製した。この比較試料4は、電極間ピッチpは1.1μm、メタライゼーションレシオηは約0.5、および規格化膜厚h/λは約10%とし、LT42°板を用いた場合のLSAWの伝播損失が最小となるように設計した。
【0065】
なお、共振周波数fについては、実施例試料3、実施例試料4、実施例試料5および実施例試料6ともに、すべて等しく1890.6MHzである。
【0066】
さらに、SAW共振子の作製および評価は、基本的には本発明の実施例1と同様の方法で行った。ただし、実施例試料4については、圧電基板に段部を作製する必要があるため、IDT電極と共振器の電極パターンをエッチングする工程中において、塩素系エッチングガスにArを添加したスパッタエッチングを行った。これにより、露出した圧電基板の領域部、すなわち電極指間部分の圧電基板を一部エッチングして、所定の段部を形成した。これにより、IDT電極の電極指は、この電極指と同じピッチで形成された圧電基板の段部の頂部に所定の厚さで形成できる。
【0067】
また、実施例試料5と実施例試料6については、WをエッチングするのにF系ガスを用いた。特に、実施例試料6については、Al層を塩素系ガスによりエッチングを行い、W層についてはAl層をエッチングマスクとしてF系ガスを用いてエッチングを行った。
【0068】
実施例試料3、実施例試料4、実施例試料5、実施例試料6および比較試料4のSAW共振子の通過特性を、図11A、図11B、図11C、図11Dおよび図11Eにそれぞれ示す。また、それぞれのSAW共振子の特性の測定結果を表3に示す。
【0069】
図11Aから図11Dの実施例試料3、実施例試料4、実施例試料5および実施例試料6と、比較試料4である図11Eとを比較すると、比較試料4よりもすべて急峻性が良好であることが分かる。また、挿入損失については、実施例試料3、実施例試料4および実施例試料6が、最小挿入損失と挿入損失指標ともに比較試料4に比べ良好であった。これに対して、実施例試料5は、挿入損失が比較試料4に比べてやや悪い結果となった。これは、IDT電極にWを用いたため膜厚を薄くせざるを得なくなったこと、およびW自体がAlに比べて比抵抗が大きいことの理由により、IDT電極の抵抗値が大きくなったためと思われる。
【0070】
【表3】

【0071】
ただし、比較試料4は、従来、比較的良好なSAW共振子特性を得ることができるとされている条件(LT基板のカット角:42°、電極の規格化膜厚h/λを約10%)を満たす試料である。これに対して、実施例試料3、実施例試料4、実施例試料5および実施例試料6のように、LSAWを励起することが可能なカット角で切り出された圧電基板上に、2×p≦vb/fとなるようにSAW共振子を形成することで、基板のカット角に大きな制限を設けることなしに、比較試料4とほぼ同等もしくはそれ以上の急峻性および低損失なSAW共振子が得られた。
【0072】
さらに、比較試料4は電極指がAlからなり、LSAWを利用して作製されたSAWデバイスであるが、このIDT電極の膜厚hLは0.11μmである。一方、実施例試料3と実施例試料4とは同じようにIDT電極の電極指がAlからなり、比較試料4とほぼ同
一の共振周波数であるが、圧電基板を伝播する遅い横波を利用したSAWデバイスであり、これらのIDT電極の膜厚hrは、それぞれ0.32μm、0.24μmである。これらの結果と、さらに種々の試料を作製して測定した結果とから、hL≦hrを満たす構成とすることで、特にカット角を選ぶことなく、急峻性かつ低損失なSAW共振子が得られることが見出された。これは、質量負荷効果によりSAWの音速が圧電基板を伝播する遅い横波の音速を下回るようにできることによる。
【0073】
また、図11Aから図11Dに示す実施例試料3、実施例試料4、実施例試料5および実施例試料6の通過特性を比較すると、実施例試料3においては、その通過特性が若干波打ったようになっているのに対し、実施例試料4、実施例試料5および実施例試料6においては、そのような波うち状態は観察されない。これは、実施例試料3については、本来LSAWとして伝播する波の音速を遅い横波よりも遅くしてRSAWとして利用するのに伴い、IDT電極および反射器の電極のそれぞれ1本あたりの反射係数が低下したことが原因である。この問題を解決する方法として設計を工夫することも考えられるが、IDT電極および反射器の電極の1本あたりの反射率の改善が必要である。
【0074】
一方、実施例試料4、実施例試料5および実施例試料6においては、以下のことがわかる。すなわち、実施例試料4については基板に段部を設けることにより、その通過特性が滑らかになっている。また、実施例試料5と実施例試料6においては、電極の全部もしくは一部にAlよりも密度の高いWを用いることにより、その通過特性が滑らかになっている。このことから、本来LSAWとして伝播する波の音速を遅い横波よりも遅くしRSAWとして利用するのに伴い発生するIDT電極と反射器の電極の1本あたりの反射係数の低下を改善する方法として、基板に段部を設けることや電極の全部もしくは一部にAlよりも密度の高い材料を用いることが有効であることが見出された。
【0075】
本実施例においては、圧電基板に段部を設けることやAlよりも密度の高い材料を用いることでIDT電極および反射器の電極の反射率の改善を行ったが、反射率の低下の改善を行う方法としては、例えばIDT電極と圧電基板との間に電気的特性の劣化を生じない程度の絶縁物を形成する方法等、他の方法も用いてもよい。
【0076】
また本実施例においては、Alよりも密度の高い電極材料としてWを用いたが、電極材料としてはこれに限定されるものではなく、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、銅(Cu)またはその他の金属材料、あるいはこれらの合金や多層膜構成などとしてもよい。多層膜構成では、本実施例の積層構造や積層材料には限定されず、本発明の条件を満足する種々の積層構成が可能である。さらに、IDT電極と反射器の電極とは、同一の材料もしくは同一の構造でなくてもよい。
【0077】
また、同時にSAW導波路領域の両端を形成するバスバー部分に関しても反射係数をあげることでSAWの導波路領域からの漏れが低減され、さらに共振器の特性を向上させることができる。ただし、IDT電極に関しては抵抗値がAl電極を用いた場合より大幅に増大しない方が好ましく、Alを用いた場合の10倍以下の抵抗値であることが好ましい。また、比較的IDT電極の抵抗が高い場合は、IDT電極以外のバスバーや引き回しの線路の材料や構造を変えることで、その部分の抵抗値を下げることは本実施例の共振子を用いたSAWフィルタ等を形成する場合特に有効である。
【0078】
またWやMoなど基板材料よりも線熱膨張係数の小さい電極材料、もしくはこれら電極材料を用いた積層電極の場合、反射係数だけでなく同時に温度特性を改善することができる。しかも、本発明においては従来のSAWに比べ電極膜厚を厚くすることが可能であるため、その効果も大きい。
【0079】
(実施例4)
本発明の実施例4では、SAWデバイスとして本発明の実施例1で用いた1portのSAW共振子と同様の1portのSAW共振子を用いた。本実施例で作製した実施例試料7と実施例試料8は、SAW共振子の圧電基板1上のIDT電極3および反射器4の電極にはAlを用い、また圧電基板1としてはLT36°板を用いた。この圧電基板1を伝播する遅い横波の音速vbは3350.8m/sである。
【0080】
実施例試料7と実施例試料8においては図12Aと図12Bに示すように、SAW共振子のIDT電極および反射器を覆うように誘電体膜を形成する構成とした。
【0081】
実施例試料7では、この誘電体膜としてチッ化珪素膜12を形成した。この構成の断面図を図12Aに示す。図12Aでは、圧電基板1上にIDT電極の電極指301が形成され、この電極指301と圧電基板1上に誘電体膜としてチッ化珪素膜12が形成されている状態を示す。
【0082】
また、実施例試料8では酸化珪素膜13を形成した。この構成の断面図を図12Bに示すが、図12Aと同様に圧電基板1上にIDT電極の電極指301が形成され、この電極指301と圧電基板1上に酸化珪素膜13が形成されている状態を示す。また、それぞれのSAW共振子の特性を表4に示す。
【0083】
実施例試料7の電極指間ピッチpは0.80μm、メタライゼーションレシオηは約0.5であり、チッ化珪素膜12を形成する前の共振周波数fbeforeは1885.45MHzである。また、チッ化珪素膜12を形成した後の共振周波数fafterは1876.30MHzであった。したがって、実施例試料7では、チッ化珪素膜12形成前のSAWの音速は3016.7m/sであり、遅い横波の音速3350.8m/sよりも遅い。これにより、2×p≦vb/fbeforeの関係を満たしている。さらに、チッ化珪素膜12形成後のSAWの音速は3002.1m/sであるので、遅い横波の音速3350.8m/sよりも遅い。この場合にも、2×p≦vb/fafterの関係を満たしている。すなわち、実施例試料7は、チッ化珪素膜12を形成する前後において、2×p≦vb/fの関係を満たしている。
【0084】
一方、実施例試料8のSAW共振子の電極間ピッチpは0.80μm、メタライゼーションレシオηは約0.5であり、酸化珪素膜13を形成する前の共振周波数fbeforeは1848.37MHzである。また、酸化珪素膜13を形成した後の共振周波数fafter
2484.20MHzであった。したがって、酸化珪素膜13の形成前のSAWの音速は2957.4m/sであり、遅い横波の音速よりも遅い。すなわち、このときには2×p≦vb/fbeforeの関係を満たしている。酸化珪素膜13を形成すると、SAWの音速は3974.7m/sとなり、遅い横波の音速3350.8m/sよりも速くなった。この結果、2×p≧vb/fafterの関係を満たした。すなわち、実施例試料8では、誘電体
膜である酸化珪素膜13の形成前後で2×p×fbefore≦vb≦2×p×fafterの関係
を満たしている。
【0085】
また、比較試料5と比較試料6として、実施例試料7と実施例試料8の誘電体膜の形成後のそれぞれの共振周波数と等しい共振周波数を有する通常のLSAWを利用したSAW共振子を作製した。比較試料5と比較試料6において、SAW共振子の電極にはAlを用いた。また、圧電基板としては36°YカットX伝播のLT基板を用いた。また、比較試料5の電極指間ピッチpは1.06μm、比較試料6の電極指間ピッチpは0.81μmであり、比較試料5と比較試料6ともにメタライゼーションレシオηは約0.5である。したがって、比較試料5と比較試料6のLSAWの音速は(式1)から4001.3m/sおよび4004.3m/sで、遅い横波の音速より速い。
【0086】
図13Aと図13Bに、実施例試料7の誘電体膜12の形成前後の通過特性を示す。また、図14Aと図14Bに、実施例試料8の誘電体膜13の形成前後の通過特性を示す。さらに、図15に比較試料5の通過特性、図16に比較試料6の通過特性をそれぞれ示す。
【0087】
なお、SAW共振子の作製および評価は、基本的には本発明の実施例1と同様の方法で行った。ただし、実施例試料7と実施例試料8における誘電体膜の形成は、IDT電極等のパターン形成後にスパッタリングにてウエハー全面に誘電体膜を形成し、電気的特性を測定するのにプローバーとの接触が必要なパッド領域についてのみ誘電体膜をフォトリソグラフィおよびエッチングで誘電体膜を取り除いた。それぞれのSAW共振子の特性を表4に示す。
【0088】
【表4】

【0089】
図13Aと図13Bとからわかるように、実施例試料7については、チッ化珪素膜12の形成後、挿入損失、急峻性ともに良化する結果が得られた。また、図15に示す比較試料5と比べると、チッ化珪素膜12の形成前においては挿入損失、急峻性ともに比較試料5よりも若干悪い特性を有するが、チッ化珪素膜12の形成後には比較試料5よりも良好な特性となることが認められた。このことから、チッ化珪素膜12のような誘電体膜を形成しても、本発明の効果を得ることができることが確認された。
【0090】
また、実施例試料8については、酸化珪素膜13の形成前後で共振周波数が大きくなっているが、図14Aと図14Bとの比較からわかるように挿入損失および急峻性に大きな変化は見られなかった。図16に示す比較試料6と比べると、誘電体膜の形成前後ともに通常のLSAWを利用したSAW共振子よりも特性が優れていることが認められた。
【0091】
したがって、酸化珪素膜13のような誘電体膜を形成することでSAWの音速が増加する場合には、2×p×fbefore≦vb≦2×p×fafterの関係を満たすように電極間ピ
ッチpおよび共振周波数fbeforeを設定すれば、挿入損失、急峻性の優れたSAW共振子を得ることができる。通常、SAW共振子の場合、周波数が低いほど電極間ピッチは広くなるため、この場合においても、誘電体膜の形成によるSAWの音速の上昇を利用することでSAW共振子の電極間ピッチを広くすることができるので、SAWデバイス作製面で有利となる。
【0092】
なお、誘電体膜としてチッ化珪素膜を用いると膜形成後に共振周波数は小さくなるが、この減少度合いは膜厚により設定可能である。比較試料6のように誘電体膜形成前では4004.3m/sで、遅い横波の音速より速いSAW共振子表面にチッ化珪素膜を実施例試料7よりも厚く形成すれば、膜形成後の共振周波数を小さくすることができる。膜厚を適当に設定することにより、2×p×fafter≦vbを満たすようにすることができ、同
様に本発明の効果を得ることができる。
【0093】
なお、本実施例においては、誘電体膜としてチッ化珪素膜および酸化珪素膜の単層膜を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ポリイミド系樹脂やチッ化珪素膜と酸化珪素膜の積層膜等を用いても良い。さらに、本実施例においては、IDT電極の上面に誘電体膜を設けたが、圧電基板の上面に直接誘電体膜を設け、その上面にIDT電極を形成することや、それらを組み合わせた構成においても同様の効果を得ることができる。
【0094】
また、誘電体膜の形成によるSAWの音速の変化は誘電体膜の材料および膜厚や構成によって変化することから、本実施例で示した例に限らず、それぞれの場合において本実施例を実現する電極膜厚や構成、誘電体膜の材料や構成等に最適条件が存在する。
【0095】
(実施例5)
本発明の実施例5ではSAWデバイスとして、同一チップ上に800MHz帯のラダー型SAWフィルタと、1.9GHz帯のラダー型SAWフィルタが存在する、いわゆる2フィルタin1チップタイプのフィルタの場合について説明する。本実施例においては、実施例試料9、実施例試料10、比較試料7および比較試料8の4種類の試料を作製した。800MHz帯のフィルタに関してはアメリカのAMPS/CDMA用の送信側フィルタ、1.9GHz帯のフィルタに関しては同じくアメリカのPCS帯のCDMA用送信側フィルタを作製した。
【0096】
800MHz帯AMPS/CDMA用送信フィルタに必要な特性、すなわち要求仕様は、通過帯域が824MHz〜849MHz、挿入損失が2.5dB以下、受信帯域での阻止域が869MHz〜894MHzで抑圧度が40dB以上であることが要求される。1.9GHzPCS帯CDMA用送信フィルタに必要な特性、すなわち要求仕様は、通過帯域が1850MHz〜1910MHz、挿入損失が2.5dB以下、受信帯域での阻止域が1930MHz〜1990MHzで抑圧度が40dB以上であることが要求される。
【0097】
実施例試料9では、LT39°板上にAl膜を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングにより800MHzのラダー型SAWフィルタおよび1.9GHz帯のSAWフィルタを形成した。実施例試料9の800MHzのフィルタにおけるSAW共振子のIDT電極の規格化膜厚h/λは約6.0%となるように設計して、LT39°板を用いてLSAWを利用したSAW共振子の伝播損失がほぼ0となる条件に一致するようにした。この800MHz帯のSAWフィルタを形成しているSAW共振子はLSAWを利用したものであり、共振周波数および電極間ピッチpの関係は、2×p≦vb/fを満たしていない。
【0098】
また、1.9GHzのラダー型SAWフィルタについては、この1.9GHz帯のSAWフィルタを形成しているSAW共振子の共振周波数fおよび電極間ピッチpが2×p≦vb/fの関係を満たすように設計されており、LSAWの音速を低下させRSAWとして利用している。
【0099】
実施例試料10においては、LT39°板上にWとAlをこの順に積層し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングにより800MHzのラダー型SAWフィルタおよび1.9GHz帯のSAWフィルタのパターンを形成した。この際、ドライエッチングのガスとしては、まずCl系ガスでAl層をエッチングし、次に大気にさらすことなく、F系ガスを用いてW層をエッチングした。その後レジストを一度剥離した後、800MHz帯のフィルタパターンの部分をさらにレジストにより保護した上で、再度Cl系ガスを用いて1.9GHz帯のフィルタパターン部分のAl層をエッチングした。したがって、800MHz帯のフィルタのIDT電極はW/Alの2層膜、1.9GHz帯のIDT電極はW単層膜となっている。
【0100】
この実施例10における800MHz帯のSAWフィルタを構成しているSAW共振子はLSAWを利用したものであり、共振周波数および電極間ピッチpの関係は2×p≦vb/fを満たしていない。また、1.9GHzのラダー型SAWフィルタについては、この1.9GHz帯のSAWフィルタを形成しているSAW共振子の共振周波数fおよび電極間ピッチpが、2×p≦vb/fの関係を満たすように設計しており、LSAWの音速を低下させRSAWとして利用している。
【0101】
比較試料7においては、まず1.9GHzのフィルタの設計膜厚分のAl膜を39°LT板上に作製し、つぎに1.9GHz帯フィルタ部分をレジストで保護してから、Ti、Alの順で成膜し800MHz帯のフィルタ形成部分の膜厚が800MHz帯のフィルタの設計膜厚になるように成膜した。ここでTiは密着層として用いた。さらに、1.9GHz帯フィルタ部分を保護していたレジストをその部分に膜付けされたTi/Al膜とともに剥離した。さらに、1.9GHz帯フィルタ部分の保護と800MHz帯フィルタのパターン形成のために、レジストを塗布した。このレジストに対して露光を行い、その後ドライエッチングを行うことで、800MHz帯フィルタと1.9GHz帯フィルタを1チップ上に作製した。
【0102】
この比較試料7における800MHz帯のSAWフィルタおよび1.9GHzを構成しているSAW共振子はLSAWを利用したものであり、それぞれにおいて、共振周波数および電極間ピッチpの関係は、2×p≦vb/fの関係を満たしていない。
【0103】
比較試料8においては、39°LT板上にAl、Wの順に2層膜を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングにより800MHzのラダー型SAWフィルタおよび1.9GHz帯のSAWフィルタのパターンを形成した。この際、ドライエッチングのガスとしては、まずF系ガスでW層をエッチングし、つぎに大気状態にさらすことなく、Cl系ガスを用いてAl層をエッチングした。その後レジストを一度剥離した後、800MHz帯のフィルタパターン部分をレジストにより再度保護した上で、F系ガスを用いて1.9GHz帯のフィルタパターン部分のW膜をエッチングした。したがって、この時点で1.9GHz帯のIDT電極はAl単層膜であり、800MHz帯のIDT電極はAlとWとの2層膜構成となっている。
【0104】
この比較試料8における800MHz帯のSAWフィルタおよび1.9GHzを構成しているSAW共振子はLSAWを利用したものであり、それぞれにおいて、共振周波数および電極間ピッチpは、2×p≦vb/fの関係を満たしていない。
【0105】
実施例試料9、実施例試料10、比較試料7および比較試料8のすべてにおいて、IDT電極パターン形成後、さらに引き回し線路およびバスバー、およびパッド部分にAl膜を蒸着し補強を行った。その後、これらのウエハーをダイシングし、個片のチップに分割したうえで、3mm角のセラミックパッケージにダイボンドを行い、そしてワイヤーボンディングによって電気的接続をとったうえで、窒素雰囲気中にて気密封止を行った。
【0106】
図17A、図17Bに実施例試料9、図18A、図18Bに実施例試料10、図19A、図19Bに比較試料7、および図20A、図20Bに比較試料8の通過特性を示す。また、それぞれの図には、通過帯域(送信側帯域)および阻止帯域(受信側帯域)もあわせて示している。
【0107】
これらの結果を詳細に観察すると、800MHz帯のSAWフィルタに関しては、実施例試料9、実施例試料10、比較試料7および比較試料8ともに、ほぼ同等の特性が得られていることが分かる。また、1.9GHzのSAWフィルタに関しては、本来LSAWとして伝播する波の音速を遅くして、RSAWとして利用した実施例試料9と実施例試料10とは要求仕様を満たしている。一方、比較試料7と比較試料8とは、通過帯域の挿入損失、阻止域の抑圧度ともに要求仕様を満たしていない。また。実施例試料9と実施例試料10とを比較すると、実施例試料9に見られるリップルが実施例試料10ではほとんど見られない。これはIDT電極材料がWであることに起因するものと思われる。
【0108】
また、実施例試料10においては、電極材料がWのみであるにもかかわらず、挿入損失はあまり他の例と変わっていない。これは、SAW共振器においてIDT電極の抵抗値は損失に影響しにくいことや、引き回しの線路等にAlの補強を行ったことによるものと思われる。また、比較試料7については、作製プロセスの煩雑性が原因と思われるが、最終的に特性が得られるものが少なく歩留まりが悪かった。
【0109】
(実施例6)
以下、本発明の実施例6における弾性表面波デバイスを用いたセンサーについて図面を参照しながら説明する。
【0110】
本実施例では、弾性表面波デバイスを用いたセンサーの一例として、温度センサについて説明する。図21は、本センサーの基本構成の概略図である。図21において、絶縁基材21の先端にパッケージングされたSAW共振子22が実装されており、その出力部が絶縁基材21上に設けられた線路23を介して、ネットワークアナライザ24に電気的に接続された構成からなる。本温度センサーは、このSAW共振子22がセンサー部であり、その通過特性がネットワークアナライザ24により測定される。
【0111】
この温度センサーは、周囲の温度変化に応じてSAW共振子22の周波数特性が変動するので、その変動量により温度測定を行うことができる。本実施例においては、温度変化による反共振周波数の移動量をモニタした。
【0112】
SAW共振子22としては、実施例1の実施例試料1で説明したSAW共振子を用いた。以下では、これにより作製した温度センサーを実施例センサー1とよぶ。また、同様に実施例1の比較試料1で説明したSAW共振子を用いた比較例センサーも作製した。
【0113】
これら2種類の温度センサーの特性については、以下のようにして評価した。すなわち、センサー部であるSAW共振子22をオーブンにいれ、環境温度を変化させながら環境温度の変化値と反共振周波数の変化値との関係を求めた。この結果を図22に示す。図22において、縦軸は反共振周波数の変化値であり、横軸は常温(25℃)からの温度差で表示している。この結果からわかるように、実施例センサー1は、温度特性が約130ppm/Kであるのに対し、比較例センサーはその温度特性が35ppm/Kであった。また、実施例1の図3Aと図3Bの比較からもわかるように、その反共振周波数付近の特性も実施例センサー1のほうが比較例センサーと比べて鋭く、結果として実施例センサー1のほうが感度よく温度の測定が可能なことが認められた。
【0114】
このような温度特性は、IDT電極の膜厚を厚くすることで、基板の持つ温度特性が変化することを利用したものである。この場合、IDT電極の膜厚はAl電極を用いたときには、規格化膜厚h/λが10%以上とすることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上のように本発明は、LSAWの音速を圧電基板の遅い横波以下の音速に低下させることにより、バルク波の放射を抑制してSAW共振子あるいはSAWフィルタなどのSAWデバイスの損失を低減するとともに、急峻性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】Aは、本発明の実施例1におけるSAWデバイスの一例として作製した1−portSAW共振子を示す斜視図、Bは、Aに示すt−t線に沿った断面図、Cは、同実施例のIDT電極1周期分の断面拡大図
【図2】39°Y−XLT基板におけるLSAWの伝播損失とIDT電極の規格化膜厚との関係を示す図
【図3】Aは、同実施例において、実施例試料1の1−portSAW共振子の通過特性を示す図、Bは、同実施例において、比較試料1の1−portSAW共振子の通過特性を示す図、Cは、同実施例において、比較試料2の1−portSAW共振子の通過特性を示す図
【図4】同実施例において、急峻度指標を求めるための図
【図5】同実施例において、挿入損失指標を求めるための図
【図6】同実施例において、帯域外抑圧度指標を求めるための図
【図7】Aは、本発明の実施例2におけるSAWデバイスの一例としてのラダー型SAWフィルタの構成を示す斜視図、Bは、同実施例におけるラダー型SAWフィルタの回路構成図
【図8】同実施例において用いたLT42°板におけるLSAWの伝播損失と規格化膜厚との関係を示す図
【図9】Aは、同実施例において、実施例試料2のラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図、Bは、同実施例において、比較試料3のラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図
【図10】同実施例において、角型比の定義を説明するための図
【図11】Aは、本発明の実施例3において、実施例試料3の1−portSAW共振子の通過特性を示す図、Bは、同実施例において、実施例試料4の1−portSAW共振子の通過特性を示す図、Cは、同実施例において、実施例試料5の1−portSAW共振子の通過特性を示す図、Dは、同実施例において、実施例試料6の1−portSAW共振子の通過特性を示す図、Eは、同実施例において、比較試料4の1−portSAW共振子の通過特性を示す図
【図12】Aは、本発明の実施例4において、実施例試料7の1−portSAW共振子の構成の一部を示す断面図、Bは、同実施例において、実施例試料8の1−portSAW共振子の構成の一部を示す断面図
【図13】Aは、同実施例において、実施例試料7の1−portSAW共振子の誘電体膜形成前の通過特性を示す図、Bは、同実施例において、実施例試料7の1−portSAW共振子の誘電体膜形成後の通過特性を示す図
【図14】Aは、同実施例において、実施例試料8の1−portSAW共振子の誘電体膜形成前の通過特性を示す図、Bは、同実施例において、実施例試料8の1−portSAW共振子の誘電体膜形成後の通過特性を示す図
【図15】同実施例において、比較試料5の1−portSAW共振子の通過特性を示す図
【図16】同実施例において、比較試料6の1−portSAW共振子の通過特性を示す図
【図17】Aは、本発明の実施例5において、実施例試料9の2フィルタin1チップtypeのSAWフィルタの内、800MHz帯ラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図、Bは、同実施例において、実施例試料9の2フィルタin1チップtypeのSAWフィルタの内、1.9GHz帯ラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図
【図18】Aは、同実施例において、実施例試料10の2フィルタin1チップtypeのSAWフィルタの内、800MHz帯ラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図、Bは、同実施例において、実施例試料10の2フィルタin1チップtypeのSAWフィルタの内、1.9GHz帯ラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図
【図19】Aは、同実施例において、比較試料7の2フィルタin1チップtypeのSAWフィルタの内、800MHz帯ラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図、Bは、同実施例において、比較試料7の2フィルタin1チップtypeのSAWフィルタの内、1.9GHz帯ラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図
【図20】Aは、同実施例において、比較試料8の2フィルタin1チップtypeのSAWフィルタの内、800MHz帯ラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図、Bは、同実施例において、比較試料8の2フィルタin1チップtypeのSAWフィルタの内、1.9GHz帯ラダー型SAWフィルタの通過特性を示す図
【図21】本発明の実施例6において、弾性表面波デバイスを温度センサーとした基本構成の概略図
【図22】同実施例において、環境温度と反共振周波数との関係を求めた図
【符号の説明】
【0117】
1 圧電基板
2 SAW共振子
3,7,8 IDT電極
4,9,10 反射器
5 直列腕SAW共振子
6 並列腕SAW共振子
11 圧電基板
12 チッ化珪素膜
13 酸化珪素膜
21 絶縁基材
22 SAW共振子
23 線路
24 ネットワークアナライザ
301 電極指

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漏洩表面弾性波を励起することが可能なカット角で切り出された圧電基板と、前記圧電基板上に少なくとも1対の互いにかみ合わされた電極指を有するインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極からなる電極パターンとを含む弾性表面波デバイスであって、前記弾性表面波デバイスの共振周波数をf(Hz)、前記圧電基板を伝播する遅い横波の音速をvb(m/s)、前記圧電基板上に形成された前記電極パターンの前記電極指のピッチをp(m)としたとき、前記電極指のピッチpが2×p≦vb/fの関係を満たすことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記電極パターンの前記電極指が、前記電極指のピッチpとほぼ同じピッチを有して前記圧電基板表面に設けられた段部の頂部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記弾性表面波デバイスは、前記電極パターン上に少なくともその電極パターンを覆う誘電体膜がさらに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記電極指がアルミニウム(Al)もしくはアルミニウム(Al)を主体とする金属からなり、かつ前記圧電基板を用いて前記漏洩表面弾性波を利用して作製されたLSAW型弾性表面波デバイスのIDT電極の膜厚をhLとし、前記LSAW型弾性表面波デバイスと同一の共振周波数としたときの前記弾性表面波デバイスの前記IDT電極の膜厚をhrとした場合、前記弾性表面波デバイスの前記IDT電極の膜厚hrがhL≦hrを満たす構成としたことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
前記弾性表面波デバイスの少なくとも前記電極指がアルミニウム(Al)よりも密度の大きい金属を用いたことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
前記弾性表面波デバイスの少なくとも前記電極指がアルミニウム(Al)よりも密度の大きい金属からなる第1の層と、アルミニウム(Al)もしくはアルミニウム(Al)を主体とする金属からなる第2の層とを有する少なくとも2層以上の多層構造の電極であることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項7】
前記圧電基板がリチウム酸タンタル(LiTaO3)単結晶であることを特徴とする請求
項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項8】
前記リチウム酸タンタル(LiTaO3)単結晶からなる前記圧電基板は、前記リチウム
酸タンタル(LiTaO3)単結晶のX軸を中心に、Y軸からZ軸方向に26度以上、50度以下の範囲の角度で回転させた方位で切り出されたカット面を有し、漏洩表面弾性波を励起することが可能な特性を有することを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項9】
前記圧電基板がニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶であることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項10】
前記ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶からなる前記圧電基板は、前記ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶のX軸を中心に、Y軸からZ軸方向に50度以上、80度以下の範囲の角度で回転させた方位で切り出されたカット面を有し、漏洩表面弾性波を励起することが可能な特性を有することを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項11】
請求項1に記載の前記弾性表面波デバイスを2つ以上組み合わせて1つのチップ上に形成したことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項12】
請求項1に記載の前記弾性表面波デバイスを用いた移動体通信機器。
【請求項13】
請求項1に記載の前記弾性表面波デバイスを用いた移動体通信機器。
【請求項14】
請求項1に記載の前記弾性表面波デバイスを用いたセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2007−74754(P2007−74754A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326760(P2006−326760)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【分割の表示】特願2003−585283(P2003−585283)の分割
【原出願日】平成15年4月14日(2003.4.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】