説明

弾性表面波デバイス及びその製造方法

【課題】帯域内でのリップル成分、帯域外でのスプリアス成分を減少させて機能を向上させるとともに、化学的影響による機能の劣化を防止することができるSAWデバイス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】機能領域A1の圧電材料層30を除く基板1の一部に、所定の表面粗さの凹凸を有する弾性表面波吸収部A2が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイス及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用した弾性表面波デバイス(以下、SAWデバイスという)が知られている。一般に、SAWデバイスは圧電材料層を備え、その表面に入力用と出力用の櫛歯状の電極が設けられている。入力用の電極に印可された電圧は、圧電材料層を伝播する所定の周波数のSAWに変換される。このSAWを出力用の電極により電圧として取り出すことで、入力信号から所定の周波数の出力信号を取り出すフィルターとして用いられている。
【0003】
このようなSAWデバイスにおいては、発生したSAWが例えば素子の端面等により反射されて周波数の異なるSAWやバルク波として出力側の電極に伝播することが知られている。これらは、出力側の電極において、帯域内でのリップル成分、帯域外でのスプリアス成分として検出され、SAWデバイスの機能が劣化する。
【0004】
従来、SAWデバイスの機能の劣化を防止するため、電極構造列の間に弾性表面波を吸収又は散乱する遮断手段(溝)を設けるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献1では、遮断手段として粘性の高いエポキシ系樹脂を配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】5−102783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、遮断手段が電極構造列間に設けられた溝であるため、電極構造列内において発生するSAWデバイスの機能の劣化を防止することができないという課題がある。また、遮断手段として粘性の高いエポキシ系樹脂を配置すると、主に有機物を構成するC、H、Oを含むガスが発生し、化学的影響によるSAWデバイスの機能の劣化を招く虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、帯域内でのリップル成分、帯域外でのスプリアス成分を減少させて機能を向上させるとともに、化学的影響による機能の劣化を防止することができるSAWデバイス及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明のSAWデバイスは、圧電材料層を有する基板と、前記圧電材料層上の機能領域に等間隔に設けられた少なくとも一対の櫛歯状電極と、を備えた弾性表面波素子であって、前記機能領域の前記圧電材料層を除く前記基板の一部に、所定の表面粗さの凹凸を有する弾性表面波吸収部が形成されていることを特徴とする。
このように構成することで、機能領域外に伝播するSAWを弾性表面波吸収部により減衰させ、帯域内でのリップル成分、帯域外でのスプリアス成分を減少させ、SAWデバイスの機能を向上させることができる。また、有機物を用いることがないので、化学的影響による機能の劣化を防止することができる。
【0009】
また、本発明のSAWデバイスは、前記表面粗さは、算術平均粗さが前記弾性表面波の波長の1/2以上であることを特徴とする。
このように構成することで、弾性表面波吸収部に伝播したSAWを十分に減衰させることができる。
【0010】
また、本発明のSAWデバイスは、前記表面粗さは、算術平均粗さが1μm以下であることを特徴とする。
このように構成することで、弾性表面波吸収部に伝播したSAWがバルク波に変換されることを防止できる。
【0011】
また、本発明のSAWデバイスは、前記弾性表面波吸収部は、前記機能領域を除く圧電材料層の表面に形成されていることを特徴とする。
このように構成することで、機能領域の外に伝播するSAWを減衰させることができる。
【0012】
また、本発明のSAWデバイスは、前記圧電材料層及び前記櫛歯状電極を覆う保護層が設けられ、前記弾性表面波吸収部は、前記機能領域を除く保護層の表面に設けられていることを特徴とする。
このように構成することで、機能領域外に伝播して保護層に到達したSAWを減衰させることができる。
【0013】
また、本発明のSAWデバイスは、前記基板が、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、水晶、シリコン、酸化シリコン、ダイヤモンド、石英、ガラス、PZT、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化シリコン、サファイヤ、の中から選択される材料により形成されていることを特徴とする。
このように構成することで、所望の機能を備えたSAWデバイスを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態におけるSAWデバイスを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のB−B’線に沿う矢視断面図である。
【図2】縦軸をdB、横軸を周波数として本実施形態のSAWデバイスの特性を示すグラフである。
【図3】縦軸をdB、横軸を周波数として従来のSAWデバイスの特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や部材毎に縮尺を適宜変更している。
【0016】
図1(a)は、本実施形態の弾性表面波デバイス(以下、SAWデバイス100という)の構成を示す斜視模式図であり、図1(b)は図1(a)のB−B’線に沿う矢視断面図である。本実施形態のSAWデバイス100は、トランスバーサル型のSAWフィルターである。
【0017】
図1(a)及び図1(b)に示すように、SAWデバイス100は、基板1を有している。基板1は、支持基板10と、ダイヤモンド層20と、圧電材料層30と、保護層40と、により構成されている。圧電材料層30の表面には、一対のグレーティング電極71,72が設けられている。一対のグレーティング電極71,72により、反射器70が構成される。一対のグレーティング電極71,72の間には、一対のインターディジタルトランスデューサ(IDT:Interdigital Transducer)50,60が設けられている。ここでは、IDT50が電気信号の入力部として機能し、IDT60が電気信号の出力部として機能する。
【0018】
以下、図1(a)及び図1(b)に示すxyz直交座標系を設定し、これに基づいて各部材の位置関係を説明する。このxyz直交座標系において、SAWデバイス100の面方向において、一対のIDT50,60が並ぶ方向をx方向、x方向と直交する方向をy方向、SAWデバイス100の面方向と直交する厚み方向をz方向とする。
【0019】
SAWデバイス100では、IDT50からIDT60に向かって(x方向に沿って)伝播したSAWが電気信号として取り出されるようになっている。一対のグレーティング電極71,72は、x方向において、IDT50,60を挟んで配置されている。
【0020】
支持基板10は、シリコンを材料として形成されている。支持基板10の材料としては、シリコン以外にも、半導体材料、ガラス材料、石英材料、セラミックス材料、サファイア材料、ポリイミド又はポリカーボネイト等の樹脂材料等を用いることができる。
【0021】
ダイヤモンド層20は、SAWが伝播する伝播媒体として機能する。ダイヤモンド層20としては、単結晶のもの、多結晶のもの、非晶質のもの、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)からなるもの、のいずれを用いても良い。
【0022】
圧電材料層30は、圧電材料である水晶により形成されている。IDT50により電圧波形が印加されると、圧電材料層30に歪みを生じて、電圧波形に応じたSAWが発生する。圧電材料層の材料としては、水晶以外にも、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、PZT、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、のいずれを用いてもよい。
【0023】
保護層40は、圧電材料層30、IDT50,60、及び反射器70を覆うように設けられている。保護層40は、例えばSiO等の酸化シリコンを材料として形成されている。保護層40の材料としては、酸化シリコン以外にも、窒化シリコン等を用いることができる。
【0024】
IDT50は、一対の櫛歯電極51,52を有している。櫛歯電極51は、複数の枝部51bと、複数の枝部51bに共通して設けられた幹部51aを有している。なお、図1(a)及び図1(b)には、3本の枝部51bを図示しているが、実際には多数(例えば150本、櫛歯電極51,52の合計で300本)が設けられている。
【0025】
複数の枝部51bの各々は、IDT50,60が並ぶ方向(x方向)と直交する方向(y方向)に延設されている。複数の枝部51bは、互いに平行に設けられ、x方向に等間隔に配置されている。幹部51aは、複数の枝部51bの各々における一方の端部と接続されている。幹部51aは、電気信号の供給源と電気的に接続されており、SAWデバイス100における入力側の電極パッドとして機能する。幹部51a及び複数の枝部51bは、いずれも導電材料により形成されている。
【0026】
櫛歯電極52は、櫛歯電極51と同様に形成され、幹部52aと複数の枝部52bとを有している。y方向において枝部51b及び52bを挟む一方の側(y正方向側)に幹部51aが配置されており、他方の側(y負方向側)に幹部52aが配置されている。x方向において枝部51b,52bは、交互に等間隔で並んでいる。枝部51b,52bが交互に並ぶ櫛歯電極51,52では、SAWの波長λが枝部51b,52bの間隔dを用いて、λ=4dで表される。
【0027】
IDT60は、IDT50と同様の形状になっており、櫛歯電極61,62を有している。櫛歯電極61は、幹部61aと複数の枝部61bとを有しており、櫛歯電極62は、幹部62aと複数の枝部62bとからなっている。
【0028】
グレーティング電極71,72は、枝部51b,52bと同じ方向に延在する複数の帯状部71b,72bを有している。複数の帯状部は、互いに平行して等間隔で並んでいる。なお、図1(a)及び図1(b)には、それぞれ5本の帯状部71b,72bを図示しているが、実際には多数(例えば200本)設けられる。グレーティング電極71,72により反射器70が構成されている。
【0029】
本実施形態では、グレーティング電極71の帯状部71b、櫛歯電極51,52の枝部51b,52b、櫛歯電極61,62の枝部61b,62b、及び、グレーティング電極72の帯状部72bの形成領域が、SAWデバイス100の機能領域A1となっている。機能領域A1における圧電材料層30の表面は平滑に設けられている。
機能領域A1の外側の圧電材料層30の表面は、微細な凹凸が無数に設けられた弾性表面波吸収部(以下、SAW吸収部A2という)となっている。
【0030】
SAW吸収部A2は、機能領域A1を取り囲むように、機能領域A1の周囲に設けられている。SAW吸収部A2は、例えば、CFを材料ガスとするドライエッチングにより、所定の表面粗さとなるように設けられている。SAW吸収部A2は、例えば、SAWの波長λの1/2程度の表面粗さ(算術平均粗さ)Ra以上になるように設けられている。また、SAW吸収部A2は、表面粗さRaが1μm以下であることが望ましい。
【0031】
SAW吸収部A2を形成する際には、まず、圧電材料層30の表面にレジスト層を形成し、フォトリソグラフィ法、エッチング法によりパターニングする。これにより、機能領域A1のレジスト層を残してそれ以外の部分のレジスト層を除去する。そして、レジスト層を介してCFを材料ガスとするドライエッチングにより圧電材料層30の表面を加工する。
【0032】
この際、圧電材料層30の表面に微細な凹凸を形成することが目的であるため、エッチング時に生成されたラジカルが圧電材料層の表面により多く衝突するような条件でエッチングを行うことが好ましい。エッチングの終了後、レジスト層を除去することで、表面が平滑な機能領域A1と所定の表面粗さのSAW吸収部A2とを有する圧電材料層30が形成される。その後、機能領域A1にIDT50,60、グレーティング電極71,72を形成し、これらを覆うように保護層40を形成する。
【0033】
図1(a)に示すSAWデバイス100のIDT50に電気信号が入力されると、枝部51b,52bの間に電気信号に応じた電圧波形が印加され、SAWが発生する。発生したSAWは機能領域A1を伝播してIDT60に入射する。すると、機能領域A1の枝部61b,62bの間にSAWの振動に伴う圧電材料層30の歪みに応じて、電位差が生じる。この電位差により、IDT60から電気信号が出力される。これにより、SAWの振動数に応じた所定の周波数の電気信号を取り出すことができる。
【0034】
グレーティング電極71は、IDT50からグレーティング電極71に向かって機能領域A1を伝播するSAWを反射させて、IDT60側に伝播させる。グレーティング電極72は、IDT60からグレーティング電極72に向かって機能領域A1を伝播するSAWを反射させて、IDT50側に伝播させる。これにより、SAWは、反射器70の内側の機能領域A1で往復する。そのため、SAWの減衰が少なくなり、入出力の効率が向上する。
【0035】
IDT50への電圧波形の印加により発生したSAWは、機能領域A1の外側へも伝播する。従来のSAWデバイスでは、機能領域の外側へ伝播したSAWが素子の端縁により反射され、SAWデバイスの機能の劣化を招いていた。
【0036】
一方、本実施形態のSAWデバイス100では、機能領域A1の外側にSAW吸収部A2が設けられている。機能領域A1の外側へ伝播したSAWは所定の表面粗さRaを有するSAW吸収部A2へ入射する。SAW吸収部A2では、表面が平滑な機能領域A1と比較して伝播するSAWが大きく減衰する。このとき、SAW吸収部A2の表面粗さRaをSAWの波長λの1/2以上とすることで、より効果的にSAWを減衰させることができる。
【0037】
また、表面粗さRaが1μmよりも大きいと、SAWが大きなバルク波として変換されるため、SAWの減衰による効果が得られない。したがって、表面粗さRaは例えば数nm〜数百nm程度であることが望ましい。本実施形態では、表面粗さRaをSAWの波長λに応じて例えば10nm〜100nm程度に設定する。
【0038】
図2は、縦軸をdB、横軸を規格化した周波数として、本実施形態のSAWデバイス100の特性を示すグラフである。図3は、図2と同様に従来のSAWデバイスの特性を示すグラフである。
図3に示すように、SAW吸収部を有さない従来のSAWデバイスでは、出力信号に多くのリップル成分、スプリアス成分が含まれている。一方、図2に示すように、本実施形態のSAWデバイスにおいては、これらが減少し、比較的滑らかな信号が得られている。
【0039】
以上説明したように、本実施形態のSAWデバイス100によれば、機能領域A1外に伝播するSAWをSAW吸収部A2により減衰させ、帯域内でのリップル成分、帯域外でのスプリアス成分を減少させ、SAWデバイス100の機能を向上させることができる。また、有機物を用いることがないので、化学的影響による機能の劣化を防止することができる。
【0040】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、SAW吸収部は、機能領域を除く保護層の表面に設けられていてもよい。これにより、機能領域外に伝播して保護層に到達したSAWを減衰させることができる。また、機能領域は櫛歯電極及びグレーティング電極の形成領域よりも外側の領域を含むように設けてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 基板、30 圧電材料層、40 保護層、50,60 IDT(櫛歯状電極)、100 弾性表面波(SAW)デバイス、A1 機能領域、A2 弾性表面波(SAW)吸収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料層を有する基板と、前記圧電材料層上の機能領域に等間隔に設けられた少なくとも一対の櫛歯状電極と、を備えた弾性表面波デバイスであって、
前記機能領域の前記圧電材料層を除く前記基板の一部に、所定の表面粗さの凹凸を有する弾性表面波吸収部が形成されていること
を特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記表面粗さは、算術平均粗さが前記弾性表面波の波長の1/2以上であること
を特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記表面粗さは、算術平均粗さが1μm以下であること
を特徴とする請求項2に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記弾性表面波吸収部は、前記機能領域を除く圧電材料層の表面に形成されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
前記圧電材料層及び前記櫛歯状電極を覆う保護層が設けられ、
前記弾性表面波吸収部は、前記機能領域を除く保護層の表面に設けられていること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
前記基板が、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、水晶、シリコン、酸化シリコン、ダイヤモンド、石英、ガラス、PZT、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化シリコン、サファイヤ、の中から選択される材料により形成されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項7】
圧電材料層を有する基板と、前記圧電材料層上の機能領域に等間隔に設けられた少なくとも一対の櫛歯状電極と、を備えた弾性表面波デバイスの製造方法であって、
前記機能領域の前記圧電材料層を除く前記基板の一部にドライエッチングを行って、所定の表面粗さの凹凸を有する弾性表面波吸収部を形成することを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−232794(P2010−232794A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75913(P2009−75913)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】