説明

弾性表面波デバイス及び弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法

【課題】四硼酸リチウム圧電基板を用いた弾性表面波デバイスおいて、共振周波数より高周波側に生じる、バルク波に起因するスプリアスを抑圧すると共に、圧電基板の裏面を装置で吸引する際のエラーを低減する手段を得る。
【解決手段】四硼酸リチウム圧電基板の表面上に少なくとも1つのIDT電極を備えた弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板の裏面に、前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し、傾斜角θ(0°<θ≦90°)を有する複数の溝を備え、前記溝は、エッチング工程により前記圧電基板の裏面の周縁部を残して形成され弾性表面波デバイスを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイスに関し、特に圧電基板として四硼酸リチウムを用いた弾性表面波デバイスにおいて、バルク波に起因して共振周波数よりも高周波側に発生するスプリアスを抑圧し、且つ弾性表面波デバイス素子の電気的検査の際に裏面の吸着を確実にした弾性表面波デバイス、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波デバイス(SAWデバイス)は通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから、特に携帯電話、LAN等の通信機器に多く用いられている。図11(a)は一般的な正規型のトランスバーサル型SAWフィルタ素子50の構成を示す平面図であって、圧電基板55の主表面上に表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極60、61を所定の間隙を隔して配置し、両IDT電極60、61の間に遮蔽用の電極62を配設する。ボンディングワイヤ等を用いて、IDT電極60を構成する一方のくし形電極を入力端子INに接続し、他方のくし形電極を接地する。更にIDT電極61を構成する一方のくし形電極を出力端子OUTに接続し、他方のくし形電極、及び遮蔽電極62を接地して、トランスバーサル型SAWフィルタ50を構成する。なお、圧電基板55の表面の両端には弾性表面波を吸収する吸収材68を設けるのが一般的である。
【0003】
IDT電極60、61は、互いに間挿し合う複数のくし形電極(電極指)からなり、その電極材料はアルミニウム合金等を用いる。図11(a)に示すような正規型IDT電極60、61を用いた場合、励振される表面波は左右に等しく伝搬するために、トランスバーサル型SAWフィルタ素子50の挿入損失が大きくなる。トランスバーサル型SAWフィルタの挿入損失を改善した変換器(IDT電極)として、図11(b)に示したような一方向性変換器(SPUDT)63、64がある。IDT電極63は図中右方への表面波を強く励振することができ、IDT電極64はトランスバーサル型SAWフィルタ素子の中央部に対してIDT電極63と対称な構成となっているので、左方から到来する表面波を効率よく電気信号としてピックアップすることができ、トランスバーサル型SAWフィルタ素子の挿入損失が大幅に低減される。
【0004】
圧電基板に四硼酸リチウム(Li247)を用いてトランスバーサル型SAWフィルタを構成すると、図12に示すように通過域外高周波側にバルク波(BAW)によるスプリアスが発生し、減衰特性が大きく劣化する。このスプリアスを改善すべく種々の提案がなされているが、特許文献1には、図13に示すようなトランスバーサル型SAWフィルタが開示されている。図13(a)は平面図、同図(b)はQ1−Q1における断面図、同図(c)は裏面図である。四硼酸リチウム圧電基板70上に表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極75、76を所定の間隙を隔して配置し、IDT電極75の一方のくし形電極を入力端子INに接続し、他方のくし形電極を接地する。更にIDT電極76のくし形電極を出力端子OUTに接続し、他方のくし形電極を接地して、トランスバーサル型SAWフィルタ素子75を構成する。圧電基板70の裏面にフォトリソグラフィ技法とエッチング加工を用いて、多数の溝78を形成することにより、圧電基板70の裏面からのバルク波の反射を散乱させ、トランスバーサル型SAWフィルタに生じるスプリアスを改善すると記されている。
【0005】
また、特許文献2には、図14の断面図に示すような弾性表面波素子80が開示されている。圧電基板84(45°X−ZLi247)の表面上にIDT電極86、87を形成する。矢印で示した弾性表面波の伝搬方向Bに対して直交するように、圧電基板84の裏面にダイサーカット加工により所要本数の溝90を形成し、各溝90の側壁面によってバルク波を抑圧することにより、受信側IDT電極87でのバルク波受信率を低減させ、バルク波に起因するスプリアスが大幅に低減されると記されている。
【特許文献1】特開平11−68496号公報
【特許文献2】特開2002−246876公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示されているようにフォトリソグラフィとエッチング、あるいはダイサーカット加工により、四硼酸リチウム圧電基板の裏面の対向する2つの端縁間に全幅に亘って溝を形成したトランスバーサル型SAWフィルタにおいては、通過域外高周波側のスプリアスは抑圧されるものの、例えば、表面に形成したIDT電極の電気的性能をチェックするために、トランスバーサル型SAWフィルタ素子の裏面を真空吸着パッドにより吸着する際に、溝端部から負圧漏れが発生して吸着エラーが発生するという問題があった。
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、共振周波数の高周波側に発生するバルク波に起因するスプリアスを抑圧すると共に、真空吸着パッドによる裏面吸着を容易、確実にした四硼酸リチウム弾性表面波デバイス、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、共振周波数の高周波側に発生するバルク波に起因するスプリアスを抑圧し、ウエハーまたはチップの破損を低減すると共に、裏面の吸着を容易にした四硼酸リチウム弾性表面波デバイスを得るため、四硼酸リチウム圧電基板の表面上に少なくとも1つのIDT電極を備えた弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板の裏面に、前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し、傾斜角θ(0°<θ≦90°)を有する複数の溝を備え、前記溝は、エッチングにより前記圧電基板の裏面の周縁部を残して形成するように、弾性表面波デバイスを構成する。
以上のように構成した弾性表面波デバイスは、共振周波数の高周波側に発生する、バルク波に起因するスプリアスを抑圧すると共に、表面に形成したIDT電極の電気的機能をチェックするために、弾性表面波デバイス素子の裏面を真空吸着パッドにて吸引する際に、吸引エラーが生じないという効果がある。
【0008】
四硼酸リチウム・ウエハーの表面上に、少なくとも1つのIDT電極を備えたSAWデバイスパターンを格子状に配し、前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し傾斜角θ(0°<θ≦90°)を有する複数の溝が、前記四硼酸リチウム・ウエハーの裏面上に、エッチング工程を用いて形成され、前記溝は、対向する前記SAWデバイスパターンに対し、その内側に形成された弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法である。
以上のような弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法では、ウエハーに形成される各SAWデバイスパターンの電気的機能をチェックするために、ウエハーの裏面を真空吸着パッドにて吸引する際に、溝端部からの負圧漏れによる吸引エラーが生じないため、電気的機能のチェックが確実に行えるという効果がある。また、ウエハーをダイシングにて個別のチップに切断した後でも、チップの吸引エラーが生じないため、チップ上のIDT電極の電気的機能を確実に測定できるという効果がある。
【0009】
四硼酸リチウム・ウエハーの表面上に、少なくとも1つのIDT電極を備えた弾性表面波デバイス素子を格子状に配し、前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し、傾斜角θ(0°<θ≦90°)を有する複数の溝が、前記四硼酸リチウム・ウエハーの裏面上に、エッチング工程を用いて形成され、前記溝は、前記ウエハーの周縁部を残すように形成された弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法である。
以上のような弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法では、ウエハーに形成される各SAWデバイスパターンの電気的機能をチェックするために、ウエハーの裏面を真空吸着パッドにて吸引する際に、吸引エラーが生じないため、電気的機能のチェックが確実に行えるという効果がある。
【0010】
前記エッチング工程は、燐酸、硝酸、酢酸を含む酸の混合液を用いて行われる弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法である。
以上のように、エッチング液に燐酸、硝酸、酢酸を含む酸の混合液を用いる、四硼酸リチウム圧電基板のエッチングレートが速く、深い溝が形成できるという効果がある。
【0011】
前記エッチング工程は、四硼酸リチウム・ウエハー上に形成された電極膜のエッチング液と同一の液を用いて行われる弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法である。
以上のように、ウエハーの表面上に形成した電極膜をエッチングするエッチング液と、同じエッチング液を用いて四硼酸リチウム・ウエハーに形成する溝のエッチングを行うので、エッチング液の管理が容易になると効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態としての、圧電基板に四硼酸リチウムを用いたトランスバーサル型SAWフィルタ素子の構成例を示す図であり、同図(a)は平面図、同図(b)は裏面図、同図(c)はQ−Qにおける断面図である。
トランスバーサル型SAWフィルタ素子1は、四硼酸リチウム(45°X−ZLi247以下、LBOと称す)圧電基板5の表面上に、弾性表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極10、11を所定の間隙を隔して配置し、両IDT電極10、11の間に遮蔽電極12を配設した概略構成を備えている。ボンディングワイヤ等を用いて、IDT電極10を構成する一方のくし形電極を入力端子INに接続し、他方のくし形電極を接地する。更にIDT電極11を構成する一方のくし形電極を出力端子OUTに接続し、他方のくし形電極と、遮蔽電極12とを接地する。IDT電極10、11は、互いに間挿し合う複数の電極指からなり、その電極材料にはアルミニウム合金等を用いる。
【0013】
LBO圧電基板5の厚さをHとし、その裏面に図1(b)、(c)に示すように、LBO圧電基板5の周縁部6を全周に亘って額縁のように残して、弾性表面波の伝搬方向に対し傾斜角θを有する複数の、幅w、深さhの溝20を、フォトリソグラフィとエッチングとを用いて形成し、本発明に係るトランスバーサル型SAWフィルタ素子1を構成する。なお、圧電基板5の表面の両端には弾性表面波を吸収する吸収材30を設ける。
【0014】
本発明の製造法を説明する前に、図1(a)に示すように、LBO圧電基板5の表面にIDT電極10、11及び遮蔽電極12を形成し、裏面には図2(a)、(b)(c)の各右側の図に示すような、傾斜角がθで、幅w、ピッチp、深さhの複数の溝21を、ダイシングを用いて形成したトランスバーサル型SAWフィルタの実験例について、説明する。
初めに、IDT電極10、11により励起される弾性表面波の伝搬方向と、溝21の延在方向とのなす傾斜角θについて実験的に検討した。図2(a)は、弾性表面波の伝搬方向と直交して溝21を形成した場合のトランスバーサル型SAWフィルタの減衰特性である。傾斜角θが90°である場合、周波数領域α(f0+30MHz〜f0+50MHz)のバルク波スプリアスの減衰量(dB)は、36dB程度である。図2(b)は、傾斜角θを45°として溝21を形成した場合のトランスバーサル型SAWフィルタの減衰特性である。傾斜角θが45°の場合では、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量は37dB程度である。図2(c)は、傾斜角θが45°の溝21に重ねて、傾斜角θが135°の溝21を形成した場合のトランスバーサル型SAWフィルタの減衰特性を示す図である。この場合は、図2(c)から明らかなように、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量は32dB程度となる。傾斜角θが0°≦θ≦90°の場合について調べた結果、LBO圧電基板5に形成する溝21の傾斜角θと、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量(dB)との間に緩い相関があることが分かる。また、溝21の本数が多すぎると、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量が劣化、つまり抑圧効果が減ずることも判明した。
【0015】
図3は、厚さ0.35mmのLBO圧電基板の裏面に、溝21の幅wを0.15mm、ピッチpを0.55mmとし、溝21の深さhをパラメータとした場合の、周波数領域αにおけるバルク波スプリアスの減衰量(dB)をプロットした図である。溝21の深さhが増すに応じて減衰量は増大し、0.1mmを越えるあたりから減衰量はほぼ一定値になる。この理由は、溝21の深さhを深くすることによりバルク波は抑圧されるが、周波数領域αの表面波成分は抑圧されないからと推定される。
【0016】
図4は、IDT電極10、11によりLBO圧電基板5の表面に励起される弾性表面波の波長λで、溝21のピッチpを規格化した波長規格化ピッチ(p/λ)と、周波数領域α(f0+30MHz〜f0+50MHz)に発生するバルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を示した図である。図4より波長規格化ピッチ(p/λ)として36.8以上、44.2以下範囲の値を用いた場合に、バルク波スプリアスを37dB〜38dBと良好に抑圧できることが分かる。
【0017】
図5は、圧電基板(チップ)5に形成した溝21の本数nと、バルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を示した図である。図5より1チップ当たり4.3本以上、5.2本以下の範囲の本数nの溝を設けた場合に、周波数領域αに発生するバルク波スプリアスを37dB〜38dBと良好に抑圧できることが分かる。溝21の本数nに小数が生じるのは、溝21が圧電基板5の下の縁から上の縁まで達する場合を1本とし、上下の何れかの縁に達しない場合は、小数としたからである。
【0018】
図6は、1チップに形成した溝21の部分の合計面積をチップの全面積で規格化した規格化溝面積と、周波数領域α(f0+30MHz〜f0+50MHz)に発生するバルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を示した図である。図6から規格化溝面積は0.25以上、0.3以下の範囲とした場合に、バルク波スプリアスを36dB〜37dBと良好に抑圧できることが分かる。
【0019】
圧電基板5の板厚Hで溝のピッチpを規格化し、基板厚規格化ピッチをp/Hとする。図7は、基板厚規格化ピッチ(p/H)と、周波数領域α(f0+30MHz〜f0+50MHz)に発生するバルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を示した図である。基板厚規格化ピッチ(p/H)が小さくても、また大きくてもバルク波スプリアスの減衰量は劣化し、基板厚規格化ピッチ(p/H)が1.43以上、1.71以下の範囲のときに、周波数領域αに発生するバルク波スプリアスの抑圧を37.5dB〜38.5dBと良好に抑圧することができる。
【0020】
以上の実験結果は、例えば図2(b)の右側の図に示すように、圧電基板の裏面の対向する2つの端縁間(下端縁から上端縁まで)を貫通する溝をダイシングにより形成したトランスバーサル型SAWフィルタに関するものである。しかし、周波数領域αに発生するバルク波スプリアスを抑圧することはできるものの、圧電基板(チップ)、あるいはウエハーに形成したIDT電極の電気的性能を検査するために、圧電基板(チップ)あるいはウエハーの裏面に真空吸着装置(真空吸着パッド)を密着させた上で密着面に負圧を導入して吸着保持する際に、圧電基板等の端縁に開口した溝端部からの負圧漏れにより吸着エラーを起こし、電気的性能が正確に測定できないという虞がある。そこで、以上の溝の傾斜角θ、ピッチp、幅w、深さh、本数nと、周波数領域αにおけるバルク波スプリアスの減衰量とに関する実験結果を踏まえ、図1(b)に示すように、溝20をフォトリソグラフィとエッチングにて形成し、圧電基板5の周縁部6を額縁のように残すことを想到した。
【0021】
本発明に係るLBO弾性表面波デバイス(SAWデバイス)の製造方法は、四硼酸リチウム・ウエハーの表面上に、少なくとも1つのIDT電極を備えたSAWデバイスパターンを格子状に配し、前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し傾斜角θ(0°<θ≦90°)を有する複数の溝を、前記四硼酸リチウム・ウエハーの裏面上に、エッチング工程を用いて形成する。そして、前記裏面の溝は、対向する表面のSAWデバイスパターンに対し、その内側(SAWデバイスパターンの外側輪郭線よりも内側)に形成されるように弾性表面波デバイス・ウエハーを製造する。
【0022】
製造方法について、図8と、図9とを用いて説明する。図8(a)はLBOウエハーの裏面図、同図(b)はIDT電極が形成されているLBOウエハーの表面図、図9はLBO弾性表面波素子の製造フロー図である。円形のLBOウエハーを洗浄し、乾燥した後、真空装置内に入れ、所定の温度に保ちながら蒸着、あるいはスパッタ等の方法で、LBOウエハーの主面(表面)にアルミニウム合金の電極膜を形成する。真空装置からLBOウエハーを取り出し、該ウエハーの主面(表面)と裏面にレジスト膜を塗布し、乾燥する。LBOウエハーの裏面をマスクを介して露光、現像し、レジスト膜に規則的に並んだ窓部を形成する。エッチング液中でLBOウエハーを所定の時間エッチングすると、前記窓部を介してLBOウエハーがエッチングされる。エッチング液から取り出し、前記レジスト膜を剥離剤を用いて剥離する。このときの、LBOウエハーの裏面の状態が図8(a)に示す裏面図のようになる。LBOウエハー5の裏面には所定の傾斜角θ、幅w、深さh、ピッチpの溝20が多数、規則的に形成される。
【0023】
次に主面(表面)にレジスト膜を塗布し、主面をマスクを介して露光、現像し、レジスト膜に窓部を形成し、窓部の下の電極膜をエッチング液中でエッチングする。主面に残るレジスト膜を剥離剤を用いて剥離すると、主面(表面)に格子状に並んだIDT電極が得られる。このときの状態が図8(b)に示す表面図であり、LBOウエハー5の主面上にトランスバーサル型SAWフィルタのパターン2が格子状に形成されている。以上のように、フォトリソグラフィとエッチングを用いて表面にSAWデバイスパターン2を、裏面に溝20を形成することにより、裏面の溝20は、対向する表面のSAWデバイスパターン2に対し、そのパターンの内側に形成されることになる。LBOウエハー5をダイシングマシンで個片のデバイス素子に切断すると、図1に示すトランスバーサル型SAWフィルタ素子1が得られる。
【0024】
図10はウエハーの状態で各弾性デバイス素子パターン3の電気的機能をチェックするためのLBOウエハーであり、図10(a)が裏面図、同図(b)が主面図(表面図)である。製造工程は図8、図9で説明した通りであるが、溝21の長さだけが図8の溝20の場合と異なる。即ち、図10に示すLBOウエハー5をダイシングマシンで圧電基板個片に切断すると、得られたLBO弾性表面波素子の裏面の溝21は、圧電基板個片の対向する2つの端縁(下端から上端)にまで達する溝長となる。
【0025】
本発明の特徴は、フォトリソグラフィとエッチングを用いてLBO圧電基板の裏面に溝を形成するので、溝の傾斜角θ、幅w、ピッチp、深さh、長さ等はフォトマスク、エッチング時間により、容易に且つ精度良く形成することができるという利点がある。その上、製造工程中で裏面に溝を形成したLBOウエハーを扱う場合においても、溝がLBOウエハーの周縁に到達していないために破損しにくいという効果がある。また、チップにおいても圧電基板(チップ)5に周縁部6(非溝形成部)を残して溝20を形成するので、弾性表面波デバイスの制作工程中における破損が大幅に低減するという効果がある。更に、チップの検査の際にチップの吸引エラーを大幅に低減することができるという利点もある。更に、弾性デバイスに構成した後の耐震性、対衝撃性が大きく改善されるという効果がある。また、LBOウエハーに溝を形成する際にウエハーの周縁部を残して溝を形成するので、LBOウエハーの電気的チェックの際、ウエハーの吸引エラーが起こることは無いという効果がある。
【0026】
ダイシングで溝を形成すると機械的な加工のために、マイクロクラックが入り、チップ、あるいはウエハーの強度が弱くなる場合があるが、エッチングで溝を形成する場合は、マイクロクラックが生じることはなく、チップ、あるいはウエハーの強度が強いという利点がある。
また、LBO圧電基板の裏面に溝を形成するためのエッチング液には、酸系、例えば燐酸、硝酸、酢酸を含む混合液を用いると、エッチングレートが速く、深い溝が形成される。
また、LBO圧電基板の主面に形成した電極膜のエッチング液と、裏面のLBOのエッチング液とに同じエッチング液を用いることで、工程管理が簡素化されるとう利点がある。
以上の説明では、LBO圧電基板の裏面の溝をウエットエッチングにて形成する例を説明したが、ドライエッチングにて形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るトランスバーサル型SAWフィルタ素子の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は裏面図、(c)は断面図。
【図2】裏面に溝を形成したトランスバーサル型SAWフィルタの減衰特性を示す図であり、(a)は弾性表面波の伝搬方向と直交して溝を形成した場合の図、(b)は45°の傾斜で溝を形成した場合の図、(c)は裏面の溝を斜め格子で形成した場合の特性を示す図。
【図3】溝の深さhとバルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図4】波長規格化ピッチ(p/λ)とバルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図5】溝の本数nとバルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図6】チップ面積に対する溝の合計面積と、バルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図7】基板厚規格化ピッチとバルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図8】LBOウエハーを示す図で、(a)は裏面図、(b)は表面図。
【図9】裏面の溝形成工程と、表面のIDT電極形成工程とを示すフロー図。
【図10】LBOウエハーを示す図で、(a)は裏面図、(b)は表面図。
【図11】(a)は従来のトランスバーサル型SAWフィルタ素子の平面図、(b)は一方向性変換器(SPUDT)を示す平面図。
【図12】従来のトランスバーサル型SAWフィルタの減衰特性を示す図。
【図13】従来のトランスバーサル型SAWフィルタ素子構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は断面図、(c)は裏面図。
【図14】従来のトランスバーサル型SAWフィルタ素子の断面図。
【符号の説明】
【0028】
1 トランスバーサル型SAWフィルタ素子、2、3 トランスバーサル型SAWデバイスパターン、5 圧電基板、6 周縁部、10、11 IDT電極、12 遮蔽電極、20、20a、20b、21 溝、30 吸収材、θ 弾性表面波の伝搬方向と溝方向とがなす傾斜角、w 溝の幅、p 溝のピッチ、H 圧電基板の厚さ、h 溝の深さ、IN 入力端子、OUT 出力端子、λ 弾性表面波の波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四硼酸リチウム圧電基板の表面上に少なくとも1つのIDT電極を備えた弾性表面波デバイスであって、
前記圧電基板の裏面に、前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し、傾斜角θ(0°<θ≦90°)を有する複数の溝を備え、
前記溝は、エッチングにより前記圧電基板の裏面の周縁部を残して形成されることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
四硼酸リチウム・ウエハーの表面上に、少なくとも1つのIDT電極を備えたSAWデバイスパターンを格子状に配し、
前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し傾斜角θ(0°<θ≦90°)を有する複数の溝が、前記四硼酸リチウム・ウエハーの裏面上に、エッチング工程を用いて形成され、
前記溝は、対向する前記SAWデバイスパターンに対し、その内側に形成されることを特徴とする弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法。
【請求項3】
四硼酸リチウム・ウエハーの表面上に、少なくとも1つのIDT電極を備えたSAWデバイスパターンを格子状に配し、
前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し、傾斜角θ(0°<θ≦90°)を有する複数の溝が、前記四硼酸リチウム・ウエハーの裏面上に、エッチング工程を用いて形成され、
前記溝は、前記ウエハーの周縁部を残すように形成されることを特徴とする弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法。
【請求項4】
前記エッチング工程は、燐酸、硝酸、酢酸を含む酸の混合液を用いて行われることを特徴とする請求項2又は3に記載の弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法。
【請求項5】
前記エッチング工程は、四硼酸リチウム・ウエハー上に形成された電極膜のエッチング液と同一の液を用いて行われることを特徴とする請求項2、3又は4に記載の弾性表面波デバイス・ウエハーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−283337(P2008−283337A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124195(P2007−124195)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】