説明

弾性表面波フィルタ及びフィルタユニット

【課題】圧電体基板の端部に反射された波が、電極に入ることを効果的に防止する。
【解決手段】弾性表面波フィルタ1は、圧電体基板2上に、弾性表面波の進行方向と略直交する向きに延びた複数の電極指30、30を有する入力電極3及び出力電極4を具えている。圧電体基板2の端部は、該端部に伝達される弾性表面波の反射を抑えるべく、膨らみを外側に向けた円弧状に形成されている。圧電体基板2の端部は半円状、又は1/4円状であり、圧電体基板2上にて、両電極3、4の弾性表面波進行方向に沿う外側には、吸音剤5が塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビジョン受像機等の映像機器に使用されるトランスバーサルタイプの弾性表面波フィルタ及びフィルタユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、音声及び映像信号用のフィルタとして、トランスバーサルタイプの弾性表面波フィルタが使用される。出願人も以前、図5に示す弾性表面波フィルタ(1)を提案している(例えば、特許文献1参照)。図5(a)は、従来の弾性表面波フィルタ(1)の平面図、(b)は正面図である。
これは、周知の如く、圧電体基板(2)上に、IDT(Interdigital Transducer)電極と呼ばれる入力電極(3)、出力電極(4)、両電極(3)(4)間にシールド電極(6)、両電極の外側に吸音剤(5)を具えて構成される。入力電極(3)にて励振された弾性表面波は、図5の矢印X方向に沿って、出力電極(4)に流れ、電気信号に変換されて所望の周波数信号である音声及び映像信号が取り出される。入力電極(3)及び出力電極(4)は、弾性表面波の進行方向と略直交する向きに延びた複数の電極指(30)(30)を略等間隔に設けており、伝搬する表面波の周波数は電極指(30)(30)のピッチにより決定される。
【0003】
図6の点線部は、弾性表面波フィルタ(1)を通過すべき信号の周波数と、出力レベルの関係を示すグラフである。音声及び映像信号Y1−Y2に比して、ノイズ領域Y1以下Y2以上の信号は十分に減衰させなければならない。しかし、図5(b)に示すように、矢印X方向に沿って流れた弾性表面波であるC波が、圧電体基板(2)の端面に反射されて、反射波C1となり、出力電極(4)に伝わる。また、弾性表面波には、矢印X方向と反対方向に向かう波であるA波も存在し、かかるA波が圧電体基板(2)の端面に反射された反射波A1波も、出力電極(4)に伝わる。
また、入力電極(3)から発生する弾性表面波の中には、矢印X方向に沿わずに、電極指(30)と平行又は斜めに進行する波であるB波、D波が存在する。かかるB波、D波が圧電体基板(2)の端面に反射された反射波も、出力電極(4)に伝わる。かかる反射波が出力電極(4)に入ると、図6に示すノイズ領域Y1以下の信号が十分に減衰されなかったり、群遅延特性を悪化させる虞れがある。従って、圧電体基板(2)上にて両電極(3)(4)の外側に、吸音剤(5)(9)を塗布して、圧電体基板(2)の端面に反射された反射波が、出力電極(4)に伝わることを防ぐことが提案されている。また、B波、C波については、弾性波の進行方向と略直交する方向に吸音剤を塗布して、反射波を抑圧している。
更に、図7に示すように、圧電体基板(2)の弾性表面波の進行側端部を、弾性表面波の進行方向に対し斜めに形成して、圧電体基板(2)の全体を平行四辺形に形成し、A波及びC波による反射波が出力電極(4)に入ることを防いだものもある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−188674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電体基板(2)上に吸音剤(5)(9)を塗布したものでは、吸音剤(5)の塗布精度やダレにより、特に吸音剤(9)を電極(3)(4)に被さらないように塗布することは困難である。また、仮に吸音剤(5)を電極(3)(4)に被さらないように塗布できたとしても、該塗布領域に十分な量の吸音剤(9)を塗布することができず、吸音効果が薄い問題がある。
また、図7に示す圧電体基板(2)を平行四辺形に形成したものでは、A波及びC波による反射波を防ぐには有効であるが完全に防ぐことはできず、またB波、D波の反射波に対しては全く効果がない。
本発明の目的は、圧電体基板の端部に反射された波が、電極に入ることを効果的に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
圧電体基板(2)上に、弾性表面波の進行方向と略直交する向きに延びた複数の電極指(30)(30)を有する入力電極(3)及び出力電極(4)を具えた弾性表面波フィルタに於いて、圧電体基板(2)の端部は、該端部に伝達される弾性表面波の反射を抑えるべく、膨らみを外側に向けた円弧状に形成されている。
【発明の効果】
【0007】
端部が膨らみを外側に向けて丸みを帯びて形成されているから、圧電体基板(2)の端部に伝達される弾性表面波は、反射されずに膨らみに沿って流れる。従って、圧電体基板(2)の端部にて表面波は反射されず、圧電体基板(2)の端部に反射された表面波が、電極(4)に入る従来の問題を効果的に防止することができる。これにより、所望通りの通過域特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施例を図を用いて詳述する。
図1(a)は、本例に係わるトランスバーサルタイプの弾性表面波フィルタ(1)の平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。弾性表面波フィルタ(1)は、従来と同様に、圧電体基板(2)上に、IDT(Interdigital Transducer)電極と呼ばれる入力電極(3)、出力電極(4)、両電極(3)(4)間にシールド電極(6)、両電極の外側に吸音剤(5)を具えて構成される。入力電極(3)及び出力電極(4)は、弾性表面波の進行方向と略直交する向きに延びた複数の電極指(30)(30)を略等間隔に設けている。入力電極(3)にて励振された弾性表面波は、図1の矢印X方向に沿って、出力電極(4)に流れ、電気信号に変換されて、所望の周波数信号である音声及び映像信号が取り出される。
尚、図1では、入力電極(3)の電極指(30)の交差長は略一定であるが、これは図示の便宜上であり、弾性表面波フィルタ(1)の通過域特性に合わせて、交差長を変化させるアポダイズ法による重み付けをしてもよい。
【0009】
図1(b)、(c)に示すように、圧電体基板(2)の端部は、膨らみを外側に向けた円弧状に、即ち、丸みを帯びた半円状に形成されている。これにより、入力電極(3)から圧電体基板(2)の端部に伝達される弾性表面波C波、B波、D波は、反射されずに膨らみに沿って下向きに流れ、圧電体基板(2)の裏面に達する。入力電極(3)から矢印X方向とは反対方向に進むA波は、吸音剤(5)にて弱められた後に、圧電体基板(2)の端部にして下向きに流れ、圧電体基板(2)の裏面に達する。
従って、圧電体基板(2)の端部にて表面波は反射されず、反射波が出力電極(4)に入る従来の問題を効果的に防止することができる。これにより、設計の所望通りの、通過域特性を得ることができる。
図6の実線部は、本発明の実施例のシュミレーション結果である。端面の不要波の影響がなくなることで、通過帯域Y1−Y2での減衰が大きくなり、急峻な周波数特性を示すとともに、位相の乱れが少なくなり、群遅延特性がフラットに近づいている。群遅延特性のリップルが大きくなると、輝度信号と色信号のズレとなり、色が忠実に再現されない。本例の弾性表面波フィルタにより、群遅延特性がフラットに近づいているから、輝度信号と色信号のズレを防止できる。
尚、図1(a)では、圧電体基板(2)上にて両電極(3)(4)の弾性表面波進行方向に沿う外側に、吸音剤(5)を塗布しているが、圧電体基板(2)の端部にて、弾性表面波を裏面に逃がす効果が高ければ、吸音剤(5)を塗布しなくともよい。
【0010】
図2(a)、(b)は夫々、別の実施例に於ける弾性表面波フィルタ(1)の正面図及び右側面図である。本例にあっては、圧電体基板(2)の端部は、膨らみを外側に向けた円弧状に形成されているが、上端部のみが丸みを帯びた1/4円状に形成されている。この形状に於いても、圧電体基板(2)の端部に伝達される弾性表面波は、反射されずに膨らみに沿って下向きに流れ、圧電体基板(2)の裏面に達する。従って、圧電体基板(2)の端部にて表面波は反射されず、反射波が出力電極(4)に入る従来の問題を効果的に防止することができる。本例にあっても、設計の所望通りの、通過域特性を得ることができる。
【0011】
該弾性表面波フィルタ(1)は、フィルタ単品で供給されるばかりでなく、ユニットとしても供給される。図3は、端部が半円状に形成された圧電体基板(2)を用いたフィルタユニット(8)、図4は、端部が1/4円状に形成された圧電体基板(2)を用いたフィルタユニット(8)の側面図である。
弾性表面波フィルタ(1)を接着剤(72)にて、基板であるベース(7)に取り付けて、フィルタユニット(8)が構成される。両電極(3)(4)はワイヤ(70)(70)を介して、ベース(7)の外側に延びたリードピン(71)(71)に電気的に接続される。
圧電体基板(2)の端部に伝達される弾性表面波は、反射されずに膨らみに沿って下向きに流れ、接着剤(72)に達する。該接着剤(72)箇所にて、弾性表面波は消滅し、反射波が出力電極(4)に入る従来の問題を効果的に防止することができる。これにより、設計の所望通りの、通過域特性を得ることができる。
接着剤(72)に吸音剤(5)と同様に、吸音効果があれば、更に弾性表面波を消滅させる効果が高い。
また、図3及び図4に一点鎖線で示すように、ベース(7)上に金属製又はセラミック製のリッド(80)を取りつけて、電極(3)(4)を保護してもよい。
【0012】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、弾性表面波フィルタの平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図2】(a)、(b)は夫々、別の実施例に於ける弾性表面波フィルタの正面図及び右側面図である。
【図3】端部が半円状に形成された圧電体基板を用いたフィルタユニットの側面図である。
【図4】端部が1/4円状に形成された圧電体基板を用いたフィルタユニットの側面図である。
【図5】(a)は、従来の弾性表面波フィルタの平面図、(b)は正面図である。
【図6】弾性表面波フィルタを通過すべき信号の周波数と、出力レベルの関係を示すグラフである。
【図7】別の従来の弾性表面波フィルタの平面図である。
【符号の説明】
【0014】
(1) 弾性表面波フィルタ
(2) 圧電体基板
(3) 入力電極
(4) 出力電極
(5) 吸音剤
(7) ベース
(72) 接着剤
(8) フィルタユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体基板(2)上に、弾性表面波の進行方向と略直交する向きに延びた複数の電極指(30)(30)を有する入力電極(3)及び出力電極(4)を具えた弾性表面波フィルタに於いて、
圧電体基板(2)の端部は、端部に伝達される弾性表面波の反射を抑えるべく、膨らみを外側に向けた円弧状に形成されたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
圧電体基板(2)の端部は半円状、又は1/4円状である、請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
圧電体基板(2)上にて、両電極(3)(4)の弾性表面波進行方向に沿う外側には、吸音剤(5)が塗布される、請求項1又は2に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項4】
請求項1に記載の弾性表面波フィルタ(1)をベース(7)上に接着剤(72)にて固定して形成されるフィルタユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−303842(P2006−303842A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121799(P2005−121799)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】