説明

弾性表面波素子および通信装置

【課題】 通過帯域内の平衡度が良好な弾性表面波素子およびそれを用いた通信装置を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波素子は、圧電基板1上に、弾性表面波の伝搬方向に第1のIDT電極31〜38を電気的に接続した3つのIDT電極群21〜23を配設し、IDT電極群21〜23の第1のIDT電極31〜38の間に、第1のIDT電極31〜38に電気的に非接続の、第1の分離電極51〜54を配設した第1の弾性表面波素子部Aと、IDT電極群24,25と第1の分離電極55,56を配設し、IDT電極群24,25と反射器電極4,5との間にIDT電極群24,25とは電気的に非接続の第3のIDT電極61,62を第2の分離電極として配設した第2の弾性表面波素子部Bとを備え、第1の弾性表面波素子部Aの中央のIDT電極群22が不平衡入力部6、第2の弾性表面波素子部Bの2つのIDT電極群24,25が平衡出力部7,8とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上に平衡入力または平衡出力を行う平衡信号電極と、不平衡出力または不平衡入力を行う不平衡信号電極とを備えて成る共振器型の弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器などの弾性表面波素子およびこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器のRF(無線周波数)段に用いられる周波数選択フィルタとして、弾性表面波フィルタが広く用いられている。一般に、周波数選択フィルタに求められる特性としては、広通過帯域、低損失、通過帯域外における高減衰量などの諸特性が挙げられる。また、近年、移動体通信機器等の小型化、軽量化および低コスト化のため、使用部品の削減が進められ、弾性表面波フィルタに新たな機能の付加が要求されてきている。その1つに不平衡入力−平衡出力型または平衡入力−不平衡出力型に構成できるようにするといった要求がある。ここで、平衡入力または平衡出力とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力されるものをいい、各信号線路の信号は振幅が等しく、位相が逆相になっている。これに対して、不平衡入力または不平衡出力とは、信号がグランド電位に対する1本の線路の電位として入力または出力されるものをいう。
【0003】
従来の弾性表面波フィルタは、一般的に不平衡入力−不平衡出力型弾性表面波フィルタ(以下、不平衡型弾性表面波フィルタともいう)であるため、弾性表面波フィルタの後段に接続される回路や電子部品が平衡入力型となっている場合、弾性表面波フィルタと後段との間に、不平衡−平衡変換器(以下、バランともいう)を挿入した回路構成を採っていた。同様に弾性表面波フィルタの前段の回路や電子部品が平衡出力型となっている場合、前段と弾性表面波フィルタとの間にバランを挿入した回路構成となっていた。
【0004】
現在、バランを削除するために、弾性表面波フィルタに不平衡−平衡変換機能または平衡−不平衡変換機能を持たせた、不平衡入力−平衡出力型弾性表面波フィルタまたは平衡入力−不平衡出力型弾性表面波フィルタ(以下、平衡型弾性表面波フィルタともいう)の実用化が進められている。不平衡−平衡変換機能の要求を満たすため、縦結合二重モードフィルタが多く用いられている。また、RF用フィルタとしては、接続端子の一方を不平衡接続で入出力インピーダンスが50Ω、他方を平衡接続で入出力インピーダンスが100〜200Ωに整合させるという要求が多い。
【0005】
図8に従来までの平衡入出力に対応した共振器型弾性表面波フィルタを示す。圧電基板201上に形成したIDT(Inter Digital Transducer)電極203は、一対の互いに対向させた櫛歯状電極に電界を加え、弾性表面波を励振させるものである。そして、IDT電極203に入力信号を加えることで、励振された弾性表面波がIDT電極203の両側に位置する、IDT電極202,204に伝搬される。IDT電極202,204のそれぞれの一方の櫛状電極が、2段目のIDT電極205,207のそれぞれの一方の櫛状電極に縦続接続され、最終的に2段目の中央のIDT電極206の一方の櫛状電極から出力信号端子222、他方の櫛状電極から出力信号端子223へ信号が伝わり平衡出力される。また、共振器型電極パターンを2段縦続接続させることにより、フィルタ特性である通過帯域外減衰量の向上ができる構成となっている。
【0006】
上記のような共振器型弾性表面波フィルタでは、IDT電極202,204,205,206,207は、対向する櫛状電極の電極本数および配置、また寄生容量を発生させる要因となる周辺の電極パターンなどの構造が互いに微妙に異なるために、出力信号端子222,223に伝わる信号が互いに振幅が異なり、また位相が逆相からずれてしまい、その結果、平衡度の劣化した共振器型弾性表面波フィルタしか得られなかった。
【0007】
近年、弾性表面波フィルタは各種通信機器の小形化、無調整化に一役を担っている。通過帯域内の平衡度についても高性能化が要求されており、例えば、900MHz帯携帯電話用のフィルタとしては、振幅平衡度は0.5dB以下、位相平衡度は5度以下の高性能なバランスフィルタが要求されている。
【0008】
また、図9に示すように、全体の両側が反射器210,211に挟まれた3個のIDT電極202,203,204を有する1段目の縦結合型二重モードフィルタのうち、中央のIDT電極203に不平衡端子221を接続し、その両側のIDT電極202,204がそれぞれ2段目のIDT電極205,207に縦続接続され、2段目の中央のIDT電極206を2分割して、逆位相にして平衡信号端子222,223に接続している。これにより、50Ω不平衡入力−200Ω平衡出力の構成が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0009】
また、従来の2重モード弾性表面波共振器フィルタでは、弾性表面波の伝搬方向に3個並んだIDT電極のうち中央に配置されたIDT電極を偶数対にすることにより、平衡度を改善する構成が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0010】
また、図10に示すように、1段目に弾性表面波の伝搬方向に沿って3個のIDT電極202,203,204を近接配置し、中央のIDT電極203に不平衡端子221を接続し、その両側のIDT電極202,204をそれぞれ2段目のIDT電極205,207に縦続接続した構成とし、2段目の中央のIDT電極206を2分割してそれぞれを平衡信号端子222,223に接続し、さらに無電界領域を形成する一方の平衡信号端子222に、圧電基板201上またはパッケージの内部または外部にリアクタンス(キャパシタンス)成分224を付加することにより、平衡度を改善させる構成が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0011】
図8〜図10に示すように、複数個並設したIDT電極の弾性表面波の伝搬路の両端に、弾性表面波を効率よく共振させるための反射器電極が設けられた共振器型電極パターンにおいて、通過帯域内での振幅と位相の平衡度の向上が求められている。ここで、振幅と位相の平衡度とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力するもので、各信号線路の信号の振幅の大きさが近似しているほど振幅の平衡度が優れており、また、各信号の位相の差が180°に近似しているほど位相の平衡度が優れているといえる。
【特許文献1】特開平11−97966号公報
【特許文献2】特開2002−84164号公報
【特許文献3】特開2004−96244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した従来の2段構成で2段目の中央のIDT電極に平衡出(入)力端子を接続した弾性表面波素子である、特許文献1に開示されている弾性表面波素子においては、位相を逆相にするために、中央のIDT電極の両側に位置するIDT電極の電極指ピッチ等を変えた構造や、中央のIDT電極とその両側のIDT電極との間の隣接する距離を左右で変えた構造を採用しているので、平衡度が劣化するという問題があった。
【0013】
また、特許文献1に開示されている弾性表面波素子では、中央のIDT電極の最外側電極指の極性と、それに隣接するIDT電極の最外側電極指の極性とが左右で異なるので、各平衡信号端子に生じる寄生容量が異なるため、このような構成の平衡型弾性表面波フィルタは平衡度が悪いという問題点があった。
【0014】
また、特許文献2に開示されている弾性表面波素子では、例えば圧電基板としてLiTaO単結晶の基板を用いた場合、振幅平衡度は1.2dB程度、位相平衡度は11度程度しか得られず、要求を満足する充分な平衡度が得られていなかった。
【0015】
さらに、特許文献3に開示されている弾性表面波素子について効果の検証を行った。図3に図9の弾性表面波素子における周波数特性を線図(グラフ)で示す。図3において、横軸は周波数(単位:MHz)、縦軸は減衰量(単位:dB)を表し、実線の特性曲線は平衡信号端子に何も付加しない場合の結果を示し、破線はどちらか一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続した場合の結果を示している。一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続させた場合、通過帯域内のリップルが増加している。
【0016】
また、図4は図9の弾性表面波素子におけるVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)を示す線図である。図3と同様に実線の特性曲線は平衡信号端子に何も付加しない場合の結果を示し、破線はどちらか一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続した場合の結果を示している。一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続させた場合、VSWRも劣化していることが分かる。
【0017】
また、図9の弾性表面波素子における通過帯域およびその近傍の位相平衡度を図5(a)に、振幅平衡度を図5(b)に線図で示す。図3と同様に実線の特性曲線は平衡信号端子に何も付加しない場合の結果を示し、破線がどちらか一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続した場合の結果を示している。図5から明らかなように、一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続させても位相平衡度、振幅平衡度に大きな改善が見られなかった。
【0018】
従って、本発明は、上記従来の技術の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、弾性表面波フィルタの平衡度を改善させることができ、高品質な平衡型弾性表面波フィルタとしても機能する弾性表面波素子およびそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の弾性表面波素子は、圧電基板上に、弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数本有する第1のIDT電極の複数を互いに電気的に接続した3つのIDT電極群を配設してなるとともに、これらIDT電極群の前記弾性表面波の伝搬方向の外側の両方に、前記弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数本有する第1の反射器電極を配設し、前記IDT電極群の少なくとも2つの前記第1のIDT電極の間に、前記第1のIDT電極に電気的に非接続の、第2のIDT電極および第2の反射器電極の内いずれか1種以上を第1の分離電極として1つ以上配設してなる第1の弾性表面波素子部と、2つの前記IDT電極群およびその前記弾性表面波の伝搬方向の外側の両方に配設された前記第1の反射器電極ならびに前記第1の分離電極を配設してなるとともに、前記IDT電極群と前記第1の反射器電極との間に、前記IDT電極群とは電気的に非接続の第3のIDT電極を第2の分離電極として配設してなる第2の弾性表面波素子部とを備え、前記第1の弾性表面波素子部の両端の前記IDT電極群がそれぞれ前記第2の弾性表面波素子部の前記第2の分離電極と縦続接続されており、前記第1の弾性表面波素子部の中央の前記IDT電極群が不平衡入力部または不平衡出力部とされ、前記第2の弾性表面波素子部の2つの前記IDT電極群のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされていることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の弾性表面波素子は、上記構成において、前記第2の弾性表面波素子部の前記IDT電極群と前記第2の分離電極との間に、前記IDT電極群とは電気的に非接続の、第4のIDT電極および第3の反射器電極の内いずれか1種以上を第3の分離電極として配設してなることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波素子を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の弾性表面波素子によれば、第1の弾性表面波素子部と第2の弾性表面波素子部が縦続接続されており、第1の弾性表面波素子部の中央のIDT電極群が不平衡入力部または不平衡出力部とされ、第2の弾性表面波素子部の2つのIDT電極群のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされており、第1のIDT電極の間に分離電極として第2のIDT電極または第2の反射器電極を挿入していることにより、不平衡−平衡変換機能を有する弾性表面波素子を構成することができる。また、IDT電極群の少なくとも2つの第1のIDT電極の間に、第1のIDT電極に電気的に非接続の、第2のIDT電極および第2の反射器電極の内いずれか1種以上を第1の分離電極として1つ以上配設することにより、2つのIDT電極群における電極の電気的な容量が等しくなるように調整することが可能となり、平衡度の劣化を抑制することができる。また、共振モードの選択の自由度が広がり、弾性表面波の振幅分布の制御の自由度が増し、結果として挿入損失およびリップルを低減しつつ広帯域化するといったフィルタ特性の制御を行なうことができる。さらに、2段に縦続接続した構成により、通過帯域外減衰量を充分に確保することができる。
【0023】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、第2の弾性表面波素子部のIDT電極群と第2の分離電極との間に、IDT電極群とは電気的に非接続の、第4のIDT電極および第3の反射器電極の内いずれか1種以上を第3の分離電極として配設することにより、同様に不平衡−平衡信号の変換器の機能を有した弾性表面波素子を提供することができ、通過帯域における平衡度を改善することができる。さらに共振モードの選択の自由度が広がり、弾性表面波の振幅分布の制御の自由度が増し、結果として挿入損失およびリップルを低減しつつ広帯域化するといったフィルタ特性の制御を行なうことができる。
【0024】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波素子を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、従来より要求されていた良好な平衡度を満たすことができるものが得られ、かつバランを削除することが可能となり、本発明の弾性表面波素子による良好なフィルタ特性を利用しつつ他部品の実装面積を大きく取ることができ、部品の選択の幅が広がるため、高機能を有する通信装置を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の弾性表面波素子の実施の形態について図面を参照にしつつ以下に詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波素子について、簡単な構造の共振器型の弾性表面波フィルタを例にとり説明する。
【0026】
なお、以下に説明する図において同一構成には同一符号を付している。また、各電極の大きさや電極間の距離、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示している。
【0027】
図1は、本発明の弾性表面波素子について実施の形態の第1の例を示すものであり、弾性表面波素子の平面図である。図1に示すように、本発明の弾性表面波素子は、圧電基板上に、弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数本有する第1のIDT電極31〜42の複数を互いに電気的に接続した3つのIDT電極群21,22,23を配設してなるとともに、これらIDT電極群21,22,23の弾性表面波の伝搬方向の外側の両方に、弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数本有する第1の反射器電極2,3を配設し、IDT電極群21,22,23の少なくとも2つの第1のIDT電極の間に、第1のIDT電極31〜42に電気的に非接続の、第2のIDT電極および第2の反射器電極の内いずれか1種以上を第1の分離電極(この例では、反射器電極51,52,53,54)として1つ以上配設してなる第1の弾性表面波素子部Aと、2つのIDT電極群24,25およびその弾性表面波の伝搬方向の外側の両方に配設された第1の反射器電極4,5ならびに第1の分離電極(反射器電極)55,56を配設してなるとともに、IDT電極群24,25と第1の反射器電極4,5との間に、IDT電極群24,25とは電気的に非接続の第3のIDT電極61,62を第2の分離電極として配設してなる第2の弾性表面波素子部Bとを備えている。
【0028】
そして、第1の弾性表面波素子部Aの両端のIDT電極群21,23がそれぞれ第2の弾性表面波素子部Bの第2の分離電極(IDT電極61,62)と縦続接続されており、第1の弾性表面波素子部Aの中央のIDT電極群22が不平衡入力部または不平衡出力部(この例では不平衡入力部6)とされ、第2の弾性表面波素子部Bの2つのIDT電極群24,25のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部(この例では、平衡出力部7,8)とされている。
【0029】
これらの構成により、第1の弾性表面波素子部Aの両端のIDT電極群21,23がそれぞれ第2の弾性表面波素子部Bの第2の分離電極(IDT電極61,62)と縦続接続されており、2つのIDT電極群24,25のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされており、第1のIDT電極の間に分離電極として第2のIDT電極または第2の反射器電極を挿入していることにより、不平衡−平衡変換機能を有する弾性表面波素子を構成することができる。
【0030】
さらに、第1の弾性表面波素子部Aの中央のIDT電極群22に不平衡入力信号を入力することで、励振された弾性表面波がIDT電極群22の両側に位置するIDT電極群21,23に伝搬される。さらに、IDT電極群21,23がそれぞれ、第2の弾性表面波素子部BのIDT電極61,62に縦続接続され、IDT電極群24,25へ信号が伝わり平衡出力される。その際、2つのIDT電極群24,25の間に配置された電気的に非接続の反射器電極55,56の電極指ピッチおよび電極指本数を調整することにより、各平衡出力部7,8の位相の差を180°に等しくしている。また、複数のIDT電極と分離電極から構成されたIDT電極群によりインピーダンスを高めることができる。そのため、不平衡接続部の入力インピーダンスを50Ωとしたとき、平衡接続部で入出力インピーダンスを100〜200Ωに整合させるという要求を満たすことができる。
【0031】
なお、平衡出力部7,8から平衡信号(2つの信号の振幅が同じで位相が逆位相になっている信号)を取り出すには、平衡入力部6から平衡出力部7までの信号経路と、平衡入力部6から平衡出力部8までの信号経路とのそれぞれに、互いに極性の反転したIDT電極を設ければよい。例えば、図1の場合、IDT電極33とIDT電極36、IDT電極32とIDT電極37が、互いに極性が反転している。
【0032】
また、弾性表面波素子部Aにおいて、IDT電極群21,23の少なくとも2つの第1のIDT電極31,32,37,38の間に、第1のIDT電極31,32,37,38に電気的に非接続の、第2のIDT電極および第2の反射器電極51,54の内いずれか1種以上を第1の分離電極として1つ以上配設することにより、2つのIDT電極群21,23における電極の電気的な容量を等しく調整することが可能となり、平衡度を向上させることができる。さらに、共振モードの選択の自由度が広がり、弾性表面波の振幅分布の制御の自由度が増し、結果として挿入損失およびリップルを低減しつつ広帯域化するといったフィルタ特性の制御を行なうことができる。
【0033】
なお、IDT電極31〜42,61,62、反射器電極2,3,4,5,51〜56の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図においてはそれらの形状を簡略化して図示している。また、第1の分離電極となる第1のIDT電極または第2の反射器電極51〜54は、接地された状態でも、電気的に浮いている状態でもかまわない。第2の反射器電極51〜54が電気的に接続されておらず、浮いている状態の場合、配線の引き回しが容易になる利点がある。
【0034】
また、弾性表面波素子用の圧電基板1としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶は電気機械結合係数が大きく、かつ、周波数温度係数が小さいため圧電基板1として好ましい。また、これらの焦電性圧電単結晶のうち、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させたものであれば、デバイスの信頼性上良好である。圧電基板1の厚みは0.1〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板1が脆くなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用に適さない。
【0035】
また、IDT電極31〜42,61,62および反射器電極2,3,4,5,51〜56は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタリング法またはCVD法などの薄膜形成法により形成する。各電極の厚みは0.1〜0.5μm程度とすることが弾性表面波素子としての特性を得る上で好適である。
【0036】
さらに、本発明に係る弾性表面波素子の電極および圧電基板1上の弾性表面波の伝搬部にSiO,SiN,Si,Al等を保護膜として形成して、導電性異物による通電防止や耐電力向上を図ることもできる。
【0037】
また、本発明の弾性表面波素子を通信装置に適用することができる。すなわち、少なくとも受信回路または送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置、または、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰させて、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能である。したがって、本発明の弾性表面波素子を採用すれば、平衡出力対応に必要なバランを削除することが可能となり、本発明の弾性表面波素子による良好なフィルタ特性を利用しつつ他部品の実装面積を大きく取ることができ、部品の選択の幅が広がるため、高機能を有する通信装置を提供できる。
【0038】
図2は、本発明の弾性表面波素子について実施の形態の第2の例を示すものであり、弾性表面波素子の平面図である。図2に示すように、上述した第1の例の弾性表面波素子において、第2の弾性表面波素子部BのIDT電極群24,25と第2の分離電極(第3のIDT電極61,62)との間(IDT電極群24と第3のIDT電極61との間、IDT電極群25と第3のIDT電極62との間)に、IDT電極群24,25とは電気的に非接続の、第4のIDT電極および第3の反射器電極71,72の内いずれか1種以上を第3の分離電極(この例では、第3の反射器電極71,72)として配設することにより、第1の例と同様に不平衡−平衡信号の変換器の機能を有した弾性表面波素子を提供することができ、通過帯域における平衡度を改善することができる。さらに、共振モードの選択の自由度が広がり、弾性表面波の振幅分布の制御の自由度が増し、結果として挿入損失およびリップルを低減しつつ広帯域化するといったフィルタ特性の制御を行なうことができる。
【0039】
なお、上述した実施の形態の説明では、簡単のためIDT電極群21〜23の少なくとも2つのIDT電極31,32,37,38の間に、IDT電極群21〜23に電気的に非接続の、第2のIDT電極および弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数本有する第2の反射器電極51〜54の内のいずれかから成る第1の分離電極を1つ配設してなる例を示したが、これに限定されるものではなく、第2のIDT電極および第2の反射器電極51〜54の2種を複数配設するようにしてもよく、その他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することは可能である。
【実施例】
【0040】
本発明の弾性表面波素子の具体的な実施例について以下に説明する。
【0041】
図1に示す弾性表面波素子を具体的に作製した実施例について説明する。38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO単結晶の圧電基板1上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)から成る微細な各電極のパターンを形成した。図1の弾性表面波素子を構成するIDT電極及び反射器電極の平均電極指ピッチ及び電極指本数を以下に示す。
【0042】
第1の弾性表面波素子部Aを構成する第1のIDT電極31,32,33,34,35,36,37,38の平均電極指ピッチは、それぞれ2.10μm,2.01μm,1.96μm,2.11μm,2.11μm,1.96μm,2.01μm,2.10μmとし、電極指本数は、それぞれ14本,8本,8本,18本,18本,8本,8本,14本とした。また、第1の分離電極となる第2の反射器電極51,52,53,54の平均電極指ピッチは、ともに2.15μmとし、電極指本数は、ともに2本とした。
【0043】
同様に、第2の弾性表面波素子部Bを構成する2段目の第1のIDT電極39,40,41,42の平均電極指ピッチは、それぞれ2.00μm,2.12μm,2.12μm,2.00μmとした。第1のIDT電極39,40,41,42の電極指本数は、それぞれ8本,18本,18本,8本とした。
【0044】
また、第2の反射器電極55,56の均電極指ピッチは、ともに2.15μmとし、電極指本数は、ともに2本とした。また、第2の分離電極を構成する第3のIDT電極61,62の平均電極指ピッチは、ともに2.07μmとし、電極指本数は、18本とした。
【0045】
また、各弾性表面波共振子部A,Bの両側に配設した第1の反射器電極2,3,4,5の平均電極指ピッチは、ともに2.13μmとし、電極指本数は、ともに70本とした。
【0046】
そして、弾性表面波素子は、圧電基板1上に、弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数本有する第1のIDT電極31〜42の複数を互いに電気的に接続した3つのIDT電極群21,22,23を配設してなるとともに、これらIDT電極群21,22,23の弾性表面波の伝搬方向の外側の両方に、弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数本有する第1の反射器電極2,3を配設し、IDT電極群21,22,23の少なくとも2つの第1のIDT電極31〜38の間に、第1のIDT電極31〜38に電気的に非接続の、第2の反射器電極51〜54を第1の分離電極として1つ以上配設してなる第1の弾性表面波素子部Aと、2つのIDT電極群24,25およびその弾性表面波の伝搬方向の外側の両方に配設された第1の反射器電極4,5ならびに第1の分離電極(第2の反射器電極55,56)を配設してなるとともに、IDT電極群24,25と第1の反射器電極4,5との間に、IDT電極群24,25とは電気的に非接続の第3のIDT電極61,62を第2の分離電極として配設してなる第2の弾性表面波素子部Bとを備えている。
【0047】
また、第1の弾性表面波素子部Aの両端のIDT電極群21,23がそれぞれ第2の弾性表面波素子部Bの第2の分離電極(第3のIDT電極61,62)と縦続接続されており、第1の弾性表面波素子部Aの中央のIDT電極群22が不平衡入力部6とされ、第2の弾性表面波素子部Bの2つのIDT電極群24,25のそれぞれが平衡出力部7,8とされている。
【0048】
各電極のパターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)およびRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを実施することによって行なった。
【0049】
まず、個々の圧電基板1となる領域が多数形成された母基板を、アセトン,IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に母基板の乾燥を行なった後、母基板の上面に各電極となる金属膜の成膜を行なった。金属膜の成膜にはスパッタリング装置を使用し、金属膜の材料としてAl(99質量%)−Cu(1質量%)合金を用いた。この金属膜の膜厚は約0.34μmとした。
【0050】
次に、母基板の上面の金属膜上にフォトレジスト層を約0.5μmの厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状に各電極のパターニングを行ない、現像装置にて不要部分のフォトレジスト層をアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出させた後、RIE装置により金属膜のエッチングを行ない、各電極のパターニングを終了し、弾性表面波素子の各電極のパターンを得た。
【0051】
その後、各電極の所定領域上に保護膜を形成した。すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極のパターンおよび圧電基板1上にSiO膜を約0.02μmの厚みに形成した。
【0052】
次に、母基板の下面にフォトレジスト層を約5μmの厚みにスピンコートし、フォトリソグラフィによってそのフォトレジスト層についてフリップチップ実装用の窓開け部のパターニングを行ない、RIE装置等で窓開け部のエッチングを行なった。その後、スパッタリング装置を使用し、Alを主成分とする電極パッドを窓開け部に成膜した。この電極パッドの厚みは約1.0μmとした。その後、フォトレジスト層および不要箇所のAlをリフトオフ法により同時に除去し、弾性表面波素子を外部回路基板等にフリップチップ実装するための導体バンプを形成するための電極パッドを、個々の圧電基板1の領域に設けた。
【0053】
次に、上記電極パッドにAuからなるフリップチップ実装用の導体バンプを、バンプボンディング装置を使用し形成した。導体バンプの直径は約80μm、その高さは約30μmであった。
【0054】
次に、母基板にその分割線に沿ってダイシング加工を施し、個々の弾性表面波素子(チップ)ごとに分割した。その後、各チップをフリップチップ実装装置にて電極パッド形成面である下面を下側にしてパッケージ内に接着した。その後、N雰囲気中でベーキングを行ない、弾性表面波装置を完成した。パッケージは、セラミック層を多層積層して成る2.5×2.0mm角の積層構造のものを用いた。
【0055】
比較例のサンプルとして、図6に示すように、第2の弾性表面波素子部BにおいてIDT電極群24,25で第1の分離電極55,56(図1)として機能する第2の反射器電極がない微細な各電極のパターンを、上記と同様の工程で作製した弾性表面波素子を用いた。
【0056】
次に、本発明の実施例における弾性表面波素子の特性測定を行なった。0dBmの信号を入力し、周波数910〜980MHzの範囲で測定した。サンプル数は30個、測定機器はマルチポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「E5071A」)である。
【0057】
通過帯域(924〜960MHz)における振幅平衡度と位相平衡度の線図(グラフ)を図7に示す。実施例の平衡度は非常に良好であった。すなわち、図7(a)の実線に示すように、実施例の振幅平衡度(平衡出力された2つの信号の振幅が近似するほど0dBに近い値となる)は、最も劣化した値で0.41dBであり、図7(b)の実線に示すように、実施例の位相平衡度(平衡出力された2つの信号の位相差が180°に近似するほど0°に近い値となる)は、最も劣化した値で2.4°であった。
【0058】
一方、図7(a)の破線に示すように、比較例の振幅平衡度は最も劣化した値で0.39dBであり、図7(b)の破線に示すように、比較例の位相平衡度は最も劣化した値で2.8°であった。
【0059】
このように本実施例では、通過帯域において位相平衡度を改善することができた。なお、位相平衡度の2.4°と2.8°との差は、実際にはCNR(Carrier Noise Ratio)等の観点では顕著な差である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の弾性表面波素子について実施の形態の第1の例を示し、電極構造を模式的に示す平面図である。
【図2】本発明の弾性表面波素子について実施の形態の第2の例を示し、電極構造を模式的に示す平面図である。
【図3】従来の弾性表面波素子の通過帯域およびその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図4】従来の弾性表面波素子の通過帯域およびその近傍におけるVSWRの周波数特性を示す線図である。
【図5】従来の弾性表面波素子の通過帯域およびその近傍における平衡度の周波数依存性を示す線図であり、(a)は振幅平衡度を示す線図、(b)は位相平衡度を示す線図である。
【図6】比較例の弾性表面波素子の電極構造を模式的に示す平面図である。
【図7】本発明の実施例および比較例の弾性表面波素子の通過帯域およびその近傍における平衡度の周波数依存性を示す線図であり、(a)は振幅平衡度を示す線図、(b)は位相平衡度を示す線図である。
【図8】従来の弾性表面波素子の電極構造の1例を模式的に示す平面図である。
【図9】従来の弾性表面波素子の電極構造の他の例を模式的に示す平面図である。
【図10】従来の弾性表面波素子の電極構造の他の例を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0061】
1:圧電基板
2〜5:第1の反射器電極
6:不平衡入(出)力部
7,8:平衡出(入)力部
21〜25:IDT電極群
31〜42:第1のIDT電極
51〜54:第2の反射器電極
55,56:第1の分離電極
61,62:第3のIDT電極
71,72:第3の反射器電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数本有する第1のIDT電極の複数を互いに電気的に接続した3つのIDT電極群を配設してなるとともに、これらIDT電極群の前記弾性表面波の伝搬方向の外側の両方に、前記弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数本有する第1の反射器電極を配設し、前記IDT電極群の少なくとも2つの前記第1のIDT電極の間に、前記第1のIDT電極に電気的に非接続の、第2のIDT電極および第2の反射器電極の内いずれか1種以上を第1の分離電極として1つ以上配設してなる第1の弾性表面波素子部と、2つの前記IDT電極群およびその前記弾性表面波の伝搬方向の外側の両方に配設された前記第1の反射器電極ならびに前記第1の分離電極を配設してなるとともに、前記IDT電極群と前記第1の反射器電極との間に、前記IDT電極群とは電気的に非接続の第3のIDT電極を第2の分離電極として配設してなる第2の弾性表面波素子部とを備え、前記第1の弾性表面波素子部の両端の前記IDT電極群がそれぞれ前記第2の弾性表面波素子部の前記第2の分離電極と縦続接続されており、前記第1の弾性表面波素子部の中央の前記IDT電極群が不平衡入力部または不平衡出力部とされ、前記第2の弾性表面波素子部の2つの前記IDT電極群のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記第2の弾性表面波素子部の前記IDT電極群と前記第2の分離電極との間に、前記IDT電極群とは電気的に非接続の、第4のIDT電極および第3の反射器電極の内いずれか1種以上を第3の分離電極として配設してなることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の弾性表面波素子を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−186444(P2006−186444A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375125(P2004−375125)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】