説明

弾性表面波素子及びその製造方法

【課題】櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域が確実に保護された弾性表面波素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】圧電基板10上に形成された櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12を有する弾性表面波素子において、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12が収容される空間を形成して、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12を覆う蓋体を圧電基板10上に設けた。蓋体は、例えば、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12が収容される空間を形成して、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12を覆うように跨ぐブリッジ状の第一の蓋体部14と、第一の蓋体部14を封止する封止膜16と、第一の蓋体部14を覆う第二の蓋体部18と、からなる二重構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば移動体通信機器に搭載されるフィルタなどの弾性表面波デバイスに用いられる弾性表面波素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば携帯電話機などの移動体通信機器に搭載される弾性表面波フィルタを代表とした弾性表面波デバイスは、圧電基板の表面を伝搬する弾性表面波を利用するため、この弾性表面波の伝搬領域や、弾性表面波を励振する櫛型電極に水分や埃が付着しないように、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域が保護された構成となっている。
【0003】
下記特許文献1には、実装基板に、金属バンプにより、弾性表面波素子をフェイスダウン実装し、このように実装された弾性表面波素子の全体を樹脂フィルムで覆い、実装基板の実装面と樹脂フィルムとを密着させてなる弾性表面波デバイスが記載されている。この弾性表面波デバイスでは、実装基板と弾性表面波素子との間の空間(すなわち、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域が存在する空間)が樹脂フィルムによって封止されることで、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域が保護されている。
【0004】
下記特許文献2には、圧電基板上に少なくとも1つの櫛型電極部からなる機能部分(櫛型電極部などの弾性表面波が伝搬する表面部分)を有する弾性表面波素子において機能部分の周囲に保護部材(機能部分の周囲を囲う側壁のようなもの)を形成し、この機能部分と保護部材とを覆うようにして保護フィルムを圧電基板に接着した上で、この弾性表面波素子を、櫛型電極部を有する面を対向させて実装基板にバンプを介して接合してなる弾性表面波デバイスが記載されている。この弾性表面波デバイスでは、機能部分と保護部材とを覆うようにして保護フィルムを圧電基板に接着して機能部分(櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域に相当)が封止されることで、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域が保護されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−184309号公報
【特許文献2】特開2004−153412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来の技術は、いずれも実装基板と弾性表面波素子とを組み合わせた(実装させた)状態で、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域の確実な保護(パッケージング)が実現されている。特許文献1に記載の弾性表面波デバイスでは、実装基板にフェイスダウン実装された弾性表面波素子の全体を樹脂フィルムで覆い、実装基板の実装面と樹脂フィルムとを密着させることで、実装基板と弾性表面波素子との間の空間(すなわち、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域が存在する空間)を樹脂フィルムによって封止し、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域を保護している。
【0007】
また、特許文献2に記載の弾性表面波デバイスでは、機能部分(櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域)と保護部材とを覆うようにして保護フィルムを圧電基板に接着して機能部分を封止することで、機能部分(櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域)を保護している。このとき、保護部材(機能部分の周囲を囲う側壁のようなもの)を保護フィルムで覆っただけでは、この保護フィルムが撓んでしまい、弾性表面波素子の姿勢によっては撓んだ保護フィルムが機能部分に触れてしまうといった事態が生じる虞がある。そこで、特許文献2に記載の弾性表面波デバイスでは、この弾性表面波素子を、弾性表面波素子の下側に位置する実装基板に、くし型電極部を有する面を対向させた状態でバンプを介して接合することで、保護フィルムの撓みによる不都合を解消し、かつ保護フィルムによって機能部分(櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域)を保護している。
【0008】
以上のように、従来では、実装基板と弾性表面波素子とを組み合わせた(実装させた)状態で、弾性表面波デバイスとして、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域の確実な保護(パッケージング)を実現させている。ここで、弾性表面波素子側のみにおいて、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域の確実な保護(パッケージング)を実現できれば、弾性表面波素子のベアチップ供給を行うことが可能となり、実装基板への実装工程が簡易になる等、有利な効果が得られることから、このような弾性表面波素子側のみでの櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域の確実な保護(パッケージング)がなされることは非常に好ましい。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題に鑑み、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域が確実に保護(パッケージング)された弾性表面波素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の弾性表面波素子は、圧電基板と、圧電基板上に形成された櫛形電極と、櫛形電極から圧電基板の表面及び表面近傍を伝搬する弾性表面波の伝搬領域と、を有する弾性表面波素子において、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成して、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆う蓋体を圧電基板上に有し、この蓋体により、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を封止したことを特徴とする。
【0011】
ここで、上記構成の弾性表面波素子において、蓋体は、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成して、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆うように跨ぐブリッジ状の蓋体部と、ブリッジ状の蓋体部の開口部を封止する封止膜と、を含む構成とすると良い。あるいは、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成して、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆うように跨ぐブリッジ状の第一の蓋体部と、第一の蓋体部の開口部を封止する封止膜と、封止膜によって封止された第一の蓋体部を覆う第二の蓋体部と、を含む構成とすると良い。
【0012】
また、上記構成の弾性表面波素子において、ブリッジ状の蓋体部の開口部には傾斜面が加工されているのが好適である。
【0013】
また、上記構成の弾性表面波素子において、圧電基板上に、蓋体の外部に配置された電極パッドと、電極パッドと櫛型電極とを接続する電極パターンと、が形成され、さらに電極パッド上にはバンプが形成されているのが好適である。
【0014】
また、本発明の弾性表面波素子の製造方法は、櫛形電極と、櫛形電極から圧電基板の表面及び表面近傍を伝搬する弾性表面波の伝搬領域と、を有する弾性表面波素子が複数形成された圧電基板に対し、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成し、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆うように跨ぐブリッジ状の蓋体部を、各弾性表面波素子ごとに個別に形成する蓋体部形成工程と、各弾性表面波素子に形成されたブリッジ状の蓋体部の開口部を封止する封止膜を形成し、各弾性表面波素子における櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を個別に密封する密封工程と、を有することを特徴とする。あるいは、密封工程後に、各弾性表面波素子におけるブリッジ状の蓋体部(第一の蓋体部)を覆う第二の蓋体部を、各弾性表面波素子ごとに個別に形成する工程をさらに有することを特徴とする。
【0015】
ここで、上記構成の弾性表面波素子の製造方法において、ブリッジ状の蓋体部を形成する工程は、各弾性表面波素子における櫛型電極および弾性表面波の伝搬領域の上に被さるように、犠牲層を各弾性表面波素子ごとに個別に形成する工程と、各犠牲層の上を跨ぐように樹脂を塗布して硬化させる工程と、犠牲層エッチングにより各犠牲層を除去する工程と、を有し、各犠牲層の除去により、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成し、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆うように跨ぐブリッジ状の蓋体部が、各弾性表面波素子ごとに個別に形成されるようにすると良い。また、上記構成の弾性表面波素子の製造方法において、ブリッジ状の蓋体部を形成するための樹脂には、光感光性樹脂を用い、犠牲層には、光感光性樹脂の硬化温度に耐え得る耐熱性を有し、且つ有機溶剤によって除去可能なレジストを用い、有機溶剤を用いて犠牲層エッチングを行うことにより犠牲層を除去するようにすると良い。
【0016】
また、上記構成の弾性表面波素子の製造方法において、ブリッジ状の蓋体部の形成工程後、このブリッジ状の蓋体部の開口部に傾斜面を形成する工程を行ってから密封工程を行うようにすると良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明の弾性表面波素子によれば、弾性表面波素子側のみにおいて、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域の確実な保護(パッケージング)を実現できる。したがって、弾性表面波素子のベアチップ供給を行うことが可能となり、実装基板への実装工程が簡易になる、または、弾性表面波素子の取扱いがし易くなる、等といった有利な効果が得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態における弾性表面波素子は、圧電基板10上の櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域12を蓋体によって封止した構成を有しており、これにより、実装基板との関係如何にかかわらず、弾性表面波素子側において櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域12を確実に保護(パッケージング)している。例えば図5のように、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12が収容される空間を形成した状態でこの櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12を跨いだブリッジ状の蓋体部14の開口部近傍に、この開口部を封止するための封止膜16(例えば金属膜やパッシベーション膜など)を形成することにより、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12が収容される空間を密封し、この封止されたブリッジ状の蓋体部14によって、弾性表面波素子において櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域12を確実に保護している。あるいは、図6のように、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12が収容される空間を形成した状態でこの櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12を跨いだブリッジ状の蓋体部(第一の蓋体部)14の開口部近傍に、この開口部を封止するための封止膜16(例えば金属膜やパッシベーション膜など)を形成することにより、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12が収容される空間を密封し、さらにこの外側から第二の蓋体部18で覆うことにより、封止膜16で開口を封止された第一の蓋体部14と第二の蓋体部18との二重構造からなる蓋体を形成し、この二重構造の蓋体によって、弾性表面波素子において櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域12を確実に保護している。
【0019】
本実施形態における弾性表面波素子は、次のようにして作製される。まず、図1のように、圧電基板10上には、複数の弾性表面波素子が形成されている。各弾性表面波素子には、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12と、櫛型電極から引き出された電極パターン20および電極パッド30とが形成されている。図1では、説明の便宜上、一例として圧電基板10上に形成された2組の弾性表面波素子を示している。そして本実施形態では、この圧電基板10上に形成されている弾性表面波素子のそれぞれに対し、各櫛型電極および弾性表面波の伝搬領域12を封止する蓋体を作製していく。
【0020】
蓋体の作製工程としては、まず、圧電基板10上の櫛型電極および弾性表面波の伝搬領域12の上に犠牲層40を形成する(図2参照)。犠牲層40の形成工程は、圧電基板10の全体に犠牲層を塗布してから、公知のフォトリソグラフィー技術を適用して、余分な犠牲層を除去し、それぞれの弾性表面波素子における櫛型電極および弾性表面波の伝搬領域12に被さるように、図2のように犠牲層40を形成させればよい。ここで、形成した犠牲層40の高さH1は、約1〜10μmとしている。
【0021】
次に、例えば樹脂を用いて、犠牲層40の上を跨ぐようにディスペンサ等で樹脂を塗布し、この樹脂を硬化させる(図3参照)。この硬化した樹脂が後のブリッジ状の蓋体部14となる。この樹脂の塗布、硬化工程も、圧電基板10の全体に樹脂を塗布してから、露光、ベーク、現像、レジスト除去などといった公知のフォトリソグラフィー技術を適用して、余分な樹脂を除去して、図3のように、各犠牲層40を樹脂体が個別に跨いだ状態にしてから各樹脂体を硬化させればよい。ここで、形成した樹脂体の高さH2(すなわち、ブリッジ状の蓋体部14の高さH2)は、約5〜100μmとしている。
【0022】
そして、このように各犠牲層40を跨ぐ樹脂体が形成された後、犠牲層エッチングを行う。これにより、犠牲層40のみが除去されるため、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12が収容される空間を形成して櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12を覆うように跨いだ状態の樹脂体、すなわちブリッジ状の蓋体部14が、圧電基板10上に形成される(図4参照)。なお、この蓋体部14はブリッジ状の構造であるため、犠牲層40の除去に用いられるエッチング液が、この蓋体部14の内部から外部に抜け易く、エッチング処理が良好にかつ効率良く行える。
【0023】
なお、本実施形態では、ブリッジ状の蓋体部14を形成するための樹脂には光感光性樹脂(例えば化学増幅型レジストや永久レジスト)を用い、犠牲層40には、化学増幅型レジストや永久レジストの硬化温度に耐え得る耐熱性を有し、且つ有機溶剤によって除去可能なレジストを用いている。特に、有機溶剤によって除去可能なレジストを犠牲層40として用いたのは、以下の理由がある。弾性波デバイスではアルミニウム製の電極を用いるのが一般的であるが、エッチング液を酸性やアルカリ性のものにしてしまうと、犠牲層エッチング時にアルミニウム製電極と反応してしまい、これにより、弾性波素子の周波数特性が変化してしまう。そこで、エッチング液と電極との反応を回避すべく、犠牲層40には有機溶剤によって除去可能なレジストを用い、有機溶剤を用いてエッチングするのが好適である。
【0024】
また、硬化温度が高温(例えば150℃)である化学増幅型レジストや永久レジストをブリッジ状の蓋体部14の材料として用い、この高温の硬化温度に耐え得る耐熱性を有し且つ有機溶剤によって除去可能なレジストを犠牲層40として用いると、以下のような利点がある。通常のレジストでは、95℃以下での使用が必要であるため、このようなレジストを犠牲層40として用いると、ブリッジ状の蓋体部14を形成する際には95℃以上の温度を加えて樹脂を硬化させることはできず、またもしそれ以上の温度が加わった場合には、櫛型電極の電極指にレジストが付着し、犠牲層除去処理後にもレジスト除去残留物が付着したまま残ってしまうことが懸念される。しかしながら、硬化温度が高温(例えば150℃)である化学増幅型レジストや永久レジストをブリッジ状の蓋体部14の材料として用い、この高温の硬化温度に耐え得る耐熱性を有し且つ有機溶剤によって除去可能なレジストを犠牲層40として用いれば、犠牲層40の形成後に露光、ベーク、現像を行ってから150℃のハードベークによる硬化を行って、犠牲層40を跨ぐブリッジ状の蓋体部14を形成しても、犠牲層40は高温の硬化温度に耐え得る耐熱性を有することから、通常のレジストの場合に生じる問題は解消される。したがって、本実施形態において使用した材料によれば、犠牲層40の除去も確実に行われ、且つ、ブリッジ状の蓋体部14を確実に硬化させることができる。そして、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12が収容される空間(すなわち、高さH1が約1〜10μmの空間)を形成し且つ櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12を覆うように跨ぐブリッジ状の蓋体部14を、良好に圧電基板10上に形成することができる。
【0025】
こうして、図4のようなブリッジ状の蓋体部14を形成した後、この蓋体部14の開口部を封止するように、膜(封止膜)16を形成して、ブリッジ状の蓋体部14と圧電基板10との間に形成される櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12の収容空間を、封止膜16によって密封する(図5参照)。なお、この工程も、圧電基板10の全体に、例えば公知の蒸着法やスパッタリング法などを用いて膜16を形成してから、露光、ベーク、現像、レジスト除去などといった公知のフォトリソグラフィー技術を適用して、余分な膜16を除去し、第一の蓋体部14のそれぞれに対して図5のように封止膜16が形成された状態にすれば良い。あるいはマスクを用いて、各蓋体部14の開口部近傍にのみ膜16が形成するようにした上で、公知の蒸着法やスパッタリング法などを用いて、各蓋体部14の開口部近傍に封止膜16を形成するようにしても良い。また、図5(c)に示すように、ブリッジ状の蓋体部14の開口部に傾斜面を加工して形成しておくことで、公知の蒸着法やスパッタリング法などを用いて圧電基板10の上方からの蒸着により膜形成を行ったとしても、膜16の形成と共に容易に開口部を封止することが可能となる。なお、封止膜16としては、Ti/Alなどの金属膜、SiOなどの金属酸化膜、あるいはSiNなどのパッシベーション膜などを用いれば良い。
【0026】
以上のようにして、本実施形態では、圧電基板10上に形成されている複数の弾性表面波素子において、ブリッジ状の蓋体部14を封止膜16で封止した構造の蓋体が、各弾性表面波素子に対して作製される。そして、このような蓋体により、各弾性表面波素子において、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域12が確実に保護されることとなる。
【0027】
そして、複数の弾性表面波素子が形成された圧電基板10において、各弾性表面波素子に上記のような蓋体が形成された後に、圧電基板10から個々の弾性表面波素子を切り出すことで、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域12を蓋体によって確実に保護した弾性表面波素子が製造される。
【0028】
ここで、各弾性表面波素子に形成された蓋体は、樹脂製のブリッジ状の蓋体部14により、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域12の良好な密封性のみならず、外力に対する十分な耐久性をも兼ね備えている。したがって、蓋体を作製した後の弾性表面波素子の取扱いがし易くなるといった利点もある。
【0029】
ところで、ブリッジ状の蓋体部14を封止する封止膜16の蒸着性が悪い場合には、良好な密封性は望めない。また、後述のように複数の弾性表面波素子が形成された圧電基板10から個々の弾性表面波素子を切り出す前に、各弾性表面波素子における電極パッド30上に、バンプ下地金属(UBM)50及びバンプ60を形成する場合には、形成時に種々の薬品を使用するため、その薬品によって封止膜16が劣化し、良好な密封性が望めなくなるといった事態が生じ得る。
【0030】
そこで、圧電基板10上に形成されている複数の弾性表面波素子において、図5のように各ブリッジ状の蓋体部(第一の蓋体部)14を封止膜16で封止したら、さらにこの封止膜16で封止されたブリッジ状の第一の蓋体部14の全体を覆うように、ディスペンサ等で樹脂を塗布し、この樹脂を硬化させることで、封止膜16で封止された第一の蓋体部14の全体をさらに覆う第二の蓋体部18を形成しても良い(図6参照)。こうして、図6のように、第一の蓋体部14及び第二の蓋体部18の二重構造からなる蓋体を形成できる。この第二の蓋体部18の形成工程も、圧電基板10の全体に樹脂を塗布してから、露光、ベーク、現像、レジスト除去などといった公知のフォトリソグラフィー技術を適用して、余分な樹脂を除去し、封止膜16で封止された第一の蓋体部14の全体をさらに覆う第二の蓋体部18を、第一の蓋体部14のそれぞれに対して形成させればよい。
【0031】
なお、封止膜16で封止しない状態で第一の蓋体部14を覆うように樹脂を塗布して硬化させ、第二の蓋体部18によって第一の蓋体部14の開口部を塞ごうとすると、この第一の蓋体部14の開口部の高さが約1〜10μmであるために、毛細管現象によって樹脂が開口部から第一の蓋体部14の内部(すなわち、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域12が収容される空間)に浸入してしまうといった事態が生じ得るが、本実施形態では、封止膜16の存在によって、このような事態の発生も回避される。
【0032】
以上のように、圧電基板10上に形成されている複数の弾性表面波素子において、第一の蓋体部14及び第二の蓋体部18の二重構造からなる蓋体により、各弾性表面波素子における櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域12を確実に保護するようにしても良い。
【0033】
またこのとき、各弾性表面波素子に形成された蓋体は、樹脂製の第一の蓋体部14及び第二の蓋体部18が重なる構造を有しているため、上記の実施形態に比して、より外力に対する十分な耐久性をも兼ね備えることとなる。
【0034】
なお、複数の弾性表面波素子が形成された圧電基板10から個々の弾性表面波素子を切り出す前に、各弾性表面波素子における電極パッド30上に、バンプ下地金属(UBM)50及びバンプ60を形成し、しかる後に圧電基板10から個々の弾性表面波素子を切り出すことで、図7のような構成の弾性表面波素子を複数作製でき、これにより、櫛型電極や弾性表面波の伝搬領域12が蓋体によって確実に保護された弾性表面波素子のベアチップ供給が可能となる。この場合、バンプ下地金属(UBM)50及びバンプ60の形成工程を弾性表面波素子の切り出した後に、切り出された各弾性表面波素子ごとに行っても良い。ここで、図7では、二重構造の蓋体を形成した弾性表面波素子に対してバンプ下地金属(UBM)50及びバンプ60を形成した構成となっているが、封止膜16の性質によっては、図6に示すような構造の蓋体を形成した弾性表面波素子に対してバンプ下地金属(UBM)50及びバンプ60を形成しても良いことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】圧電基板上に形成される複数の弾性表面波素子の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における弾性表面波素子の蓋体を作製する過程を示す図であり、図2(a)は犠牲層を基板上に形成した状態を示す断面図、図2(b)は上面図である。
【図3】本発明の実施の形態における弾性表面波素子の蓋体を作製する過程を示す図であり、図3(a)は犠牲層上に樹脂を塗布した状態を示す断面図、図3(b)は上面図である。
【図4】本発明の実施の形態における弾性表面波素子の蓋体を作製する過程を示す図であり、犠牲層を除去した状態を示す断面図である。
【図5】犠牲層除去後のブリッジ状の蓋体部を封止膜で封止された、本発明の実施の形態における弾性表面波素子の構成を示す図であり、図5(a)は横から見た図、図5(b)はA−A線断面図、図5(c)は他の構成例を示す図である。
【図6】他の実施の形態における弾性表面波素子の構成を示す図であり、図6(a)は横から見た図、図6(b)はB−B線断面図、図6(c)は他の構成例を示す図である。
【図7】図6の弾性表面波素子にバンプを取り付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 圧電基板、12 櫛型電極および弾性表面波の伝搬領域、14 ブリッジ状の蓋体部(第一の蓋体部)、16 封止膜、18 第二の蓋体部、20 電極パターン、30 電極パッド、40 犠牲層、50 バンプ下地金属、60 バンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、圧電基板上に形成された櫛形電極と、櫛形電極から圧電基板の表面及び表面近傍を伝搬する弾性表面波の伝搬領域と、を有する弾性表面波素子において、
櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成して、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆う蓋体を圧電基板上に有し、
この蓋体により、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を封止したことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子において、
蓋体は、
櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成して、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆うように跨ぐブリッジ状の蓋体部と、
ブリッジ状の蓋体部の開口部を封止する封止膜と、
を含むことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項3】
請求項1に記載の弾性表面波素子において、
蓋体は、
櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成して、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆うように跨ぐブリッジ状の第一の蓋体部と、
第一の蓋体部の開口部を封止する封止膜と、
封止膜によって封止された第一の蓋体部を覆う第二の蓋体部と、
を含むことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項4】
請求項2または3に記載の弾性表面波素子において、
ブリッジ状の蓋体部の開口部には傾斜面が加工されていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の弾性表面波素子において、
圧電基板上に、蓋体の外部に配置された電極パッドと、電極パッドと櫛型電極とを接続する電極パターンと、が形成され、さらに電極パッド上にはバンプが形成されていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項6】
請求項5に記載の弾性表面波素子を、実装基板の実装面にバンプを介して実装してなる弾性表面波デバイス。
【請求項7】
櫛形電極と、櫛形電極から圧電基板の表面及び表面近傍を伝搬する弾性表面波の伝搬領域と、を有する弾性表面波素子が複数形成された圧電基板に対し、
櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成し、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆うように跨ぐブリッジ状の蓋体部を、各弾性表面波素子ごとに個別に形成する蓋体部形成工程と、
各弾性表面波素子に形成されたブリッジ状の蓋体部の開口部を封止する封止膜を形成し、各弾性表面波素子における櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を個別に密封する密封工程と、
を有することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項8】
櫛形電極と、櫛形電極から圧電基板の表面及び表面近傍を伝搬する弾性表面波の伝搬領域と、を有する弾性表面波素子が複数形成された圧電基板に対し、
櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成し、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆うように跨ぐブリッジ状の第一の蓋体部を、各弾性表面波素子ごとに個別に形成する第一蓋体部形成工程と、
各弾性表面波素子に形成された第一の蓋体部の開口部を封止する封止膜を形成し、各弾性表面波素子における櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を個別に密封する密封工程と、
各弾性表面波素子における第一の蓋体部を覆う第二の蓋体部を、各弾性表面波素子ごとに個別に形成する第二蓋体部形成工程と、
を有することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
ブリッジ状の蓋体部を形成する工程は、
各弾性表面波素子における櫛型電極および弾性表面波の伝搬領域の上に被さるように、犠牲層を各弾性表面波素子ごとに個別に形成する工程と、
各犠牲層の上を跨ぐように樹脂を塗布して硬化させる工程と、
犠牲層エッチングにより各犠牲層を除去する工程と、
を有し、
各犠牲層の除去により、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域が収容される空間を形成し、櫛形電極及び弾性表面波の伝搬領域を覆うように跨ぐブリッジ状の蓋体部が、各弾性表面波素子ごとに個別に形成される、
ことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
ブリッジ状の蓋体部を形成するための樹脂には、光感光性樹脂を用い、
犠牲層には、光感光性樹脂の硬化温度に耐え得る耐熱性を有し、且つ有機溶剤によって除去可能なレジストを用い、
有機溶剤を用いて犠牲層エッチングを行うことにより犠牲層を除去する、
ことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか一つに記載の弾性表面波素子の製造方法において、
ブリッジ状の蓋体部の形成工程後、このブリッジ状の蓋体部の開口部に傾斜面を形成する工程を行ってから密封工程を行う、
ことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−235672(P2007−235672A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55964(P2006−55964)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】