説明

弾性表面波装置及びこれを搭載した通信端末。

【課題】
従来の弾性表面波装置では、櫛型電極の配置によっては温度変化に伴う基板変形の抑制効果を達成することができない。特に、弾性波表面装置の端面及びこれに近い領域では温度変化に伴う基板変形を抑制することができず、所望の周波数温度特性を得ることができない。
【解決手段】
本発明における弾性表面波装置では、圧電基板と、前記圧電基板に接合され、前記圧電基板と異なる膨張係数の材質からなる支持基板と、前記圧電基板の面上に配置された弾性表面波を励振する櫛型電極と、を備え、弾性表面波が伝播する方向において、前記櫛型電極の長さが前記圧電基板の長さに対して40%以上70%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置及びこれを搭載した通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、「圧電基板と圧電基板よりも小さな膨張係数を有する支持基板とを接着層を介して貼り合せた」弾性表面波装置として、「圧電基板は、厚さが5〜100μmであって、かつ圧電基板の接着面が粗面に加工されたものであり、支持基板は、シリコンからなるものであって、かつ支持基板の両表面層が0.1〜40μmの厚さで酸化された」ものが提案されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−229455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、圧電基板と支持基盤とで膨張係数が異なる材質を使用して温度変化による両基板がお互いの変形を抑制するように構成することで周波数温度特性を安定させている。
【0005】
しかしながら、前記特許文献1には弾性表面波装置における櫛型電極の配置について何ら開示されていない。言い換えれば、前記特許文献1では弾性表面波装置の層構造について開示しているのみであって、その表面に櫛型電極をどのように配置するか等の面構造については何ら開示していない。
【0006】
このため、前記特許文献1記載の技術では、櫛型電極の配置によっては温度変化に伴う基板変形の抑制効果を達成することができない。即ち、弾性波表面装置の端面は自由端であるため温度変化に伴う基板変形を抑制することができず、また、端面に近い領域でもその抑制効果が小さく所望の周波数温度特性を得ることができない。
【0007】
また、弾性表面波装置において基板変形の抑制効果を達成できる領域が明らかにされていないため、いかなる領域に櫛型電極を配置しなければならないか不明であり、同様に所望の周波数温度特性を得ることができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、圧電基板と、圧電基板に接合され、圧電基板と異なる膨張係数の材質からなる支持基板と、圧電基板の面上に配置された弾性表面波を励振する櫛型電極とを備える。弾性表面波が伝播する方向において、櫛型電極の長さは圧電基板の長さに対して40%以上70%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温度特性に優れた弾性表面波装置およびこれを搭載した通信端末を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、本発明の実施の形態の背景、特に弾性表面波装置の周波数温度特性について説明する。
【0011】
弾性表面波装置は、櫛型電極を表面に配置する圧電基板と圧電基板を支持する支持基板とを備えている。
【0012】
この圧電基板は、通常は弾性表面波装置用の単結晶基板として、タンタル酸リチウム(以下LTと略す)、ニオブ酸リチウム(以下LNと略す)や水晶の単結晶基板がそのまま用いられている。特に、LTおよびLN単結晶基板は弾性表面波の伝搬速度が速く、電気機械結合定数が大きい為、高周波数かつ広帯域周波数用の弾性表面波装置の基板に多く用いられている。
【0013】
しかし、これらの基板は温度変化に伴う伝搬速度の変化すなわち温度係数(Temperature Coefficient of Delay、以下TCDと略す)が大きく、規定の温度範囲において所望の周波数温度特性のすなわち櫛型電極の電極間隔と弾性波の音速により決まるフィルタ等の中心周波数が温度により変動しないように調整することが困難である。特に、通過帯域周波数と阻止帯域周波数との周波数間隔が狭い場合、この温度係数による影響は顕著になる。これに対し、弾性表面波を送受信する櫛型電極指を作製した圧電基板上に逆の温度係数を有する酸化シリコン膜等を形成したり、圧電基板をサファイアやシリコン(以下Siと略す)などの熱膨張係数が小さい基板に直接又は接着剤で接合する方法が提案されている。
【0014】
しかし、上記の対応では以下の問題がある。まず、櫛型電極指を作製した圧電基板上に逆の温度係数を有する酸化シリコン膜などを形成する方法では、形成する膜の膜厚制御が非常に厳しくなる。すなわち、膜厚が厚くなり過ぎると周波数特性が全体に低い周波数側へ移動し、薄くなり過ぎると逆に高い周波数側へ移動することになり、膜厚の変動が周波数の変動に直結するからである。更に、作製する膜厚の精度を良くする為には高価な設備が必要になる。
【0015】
また、圧電基板を熱膨張係数が小さい基板に直接接合する方法では、接合する両基板表面の平坦性に厳しい非常に要求があり、接合する両面の清浄度も厳しくなり、更に、基板間の気泡を完全に除去する必要がある。これらに対応する為には、やはり高価な設備が必要となる。
【0016】
また、弾性表面波装置の層構造を工夫することでこれらの課題を解決したとしても、櫛型電極の配置によっては温度変化に伴う基板変形の抑制効果を達成することができず、所望の周波数温度特性を得ることができない。また、弾性表面波装置において基板変形の抑制効果を達成できる領域が明らかにされていないため、いかなる領域に櫛型電極を配置しなければならないか不明であり、同様に所望の周波数温度特性を得ることができない。
【0017】
以上のように、弾性表面波装置の層構造のみならず、その表面に櫛型電極をどのように配置するか等の面構造についても考慮しなければ所望の周波数温度特性を得ることはできない。
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図を用いて説明する。
【0019】
図1は弾性表面波装置の上面図、図2は弾性表面波装置の側面断面図である。図1及び2において、100は単結晶の圧電基板であるLT基板、101は接合面、102はLT基板の上面(表面)、200は接着剤、300は圧電基板の単結晶の支持基板であるSi基板、400は櫛型電極としての櫛型交差指電極(以下IDT電極と略す)、401はIDT電極からなる直列共振器、402は並列共振器、501は直列共振器401に信号を入力する入力端子、502は並列共振器402からの信号を出力する出力端子、600は弾性表面波の伝播方向を示している。
【0020】
図1に示すように、LT基板の上面102に、IDT電極400からなる直列共振器401と並列共振器402とが配置されている。そして、入力端子501から入力信号が入力されると、前記の直列共振器401と並列共振器402により濾波された信号が出力端子502より取り出される。この際、弾性表面波600は本図に示す様に、IDT電極に垂直に励振、伝搬する。
【0021】
また、図2に示すように、LT基板100の接合面101は接着剤200によりSi基板300に接合されている。このLT基板の上面102は、接着面の面粗さを示す指標であるRaが0.1<Ra<0.5nmである所謂鏡面仕上げの状態に研磨され、弾性表面波の送信および受信用の微細な櫛型交差指電極400が形成されている。
【0022】
ここで、本実施例と特許文献1との層構造における構成上の違いを述べる。まず、本実施例では接合する為の接着剤に紫外線硬化型のエポキシ接着剤を用いているが、特許文献1では光硬化型であるがアクリル系の接着剤を用いている。これは、エポキシ系接着剤の方が温度変化に対して、ヤング率の変化度合いが小さいからである。
【0023】
また、本実施例では単結晶圧電基板の接合する面を上記所謂鏡面仕上げとしているが、特許文献1では接合する面をRaで表示される粗さが0.05<Ra<0.3μmの範囲で粗している。これは、単結晶圧電基板のIDTが作製される面は所謂鏡面仕上げである為、反対側の接合する面も同じ面状態である方が接合した基板の反りが小さいからである。
【0024】
また、本実施例では下地基板として抵抗率100Ωcm以上の高抵抗Si基板を用いているが、特許文献1では表面層を0.1〜40μmの厚さで酸化したSi基板を用いている。これは、高抵抗Si基板の方が入手性が良いからである。
【0025】
また、本実施例では単結晶圧電基板として、LTでは面方位が30〜45°Yカットであり、LNでは面方位が40〜65°Yカットである基板としているが、特許文献1では単にLTおよびLNとしている。これは、本実施例で指定した範囲で、伝搬速度が速く、電気機械結合定数が大きい弾性表面波が得られるからである。
【0026】
次に、本実施例と特許文献1との面構造における構成上の違いを図1を用いて説明する。図1において、Aは弾性表面波装置の中心から弾性表面波装置の端までの距離であり、Bは弾性表面波装置の中心から弾性表面波用共振器の端までの距離である。A、Bともに弾性表面波の伝播方向のと同じ向きを基準にしている。図1において、Bの値がAの値に近くなるほど、即ち、B/Aの値が大きくなるほど、Si基板によるLT基板の熱膨張率の抑制効果が弱まり、弾性表面波装置でのTCDの抑制率が小さくなり、これにより、温度特性が劣化するものと考えられる。何故なら、弾性表面波装置の端面は自由端であるため温度変化に伴う基板変形を圧電基板と支持基板との間で相殺或いは抑制することができないからである。また、端面に近い領域も同様の理由によりその抑制効果が小さい。
【0027】
従って、弾性表面波装置の端部領域及びその周辺領域、特に弾性表面波の伝播方向における端部領域及びその周辺領域には極力櫛型電極を配置しないようにすることが望ましい。即ち、B/Aを小さくすればするほど安定した周波数温度特性を得ることができる。
【0028】
一方で、安定した周波数温度特性を確保するために周辺領域を広く取りすぎると、基板の利用効率が低下して弾性表面波装置の小型化が困難になり、また、余分な基板材料が必要となるためコスト低減の妨げにもなる。従って、B/Aを小さくしすぎるのも避けるべきであり、周波数温度特性を確保できる必要十分な範囲でB/Aを設定するのが望ましい。
【0029】
これを図3、図4、図5、図7を用いて説明する。
【0030】
図3は、図1及び図2で説明した本実施例における弾性表面波装置の構成を等価回路で表した図であり、弾性表面波装置の表面に配置された櫛型電極の401と402がそれぞれ直列共振器と並列共振器であることが示されている。
【0031】
図4は、図3の構成により得られる周波数特性を示している。図4において、横軸は周波数(単位Hz)を、縦軸は減衰度(単位dB)を示しており、減衰度10dBでの左右の周波数をそれぞれf1およびf2とすると、中心周波数は(f1+f2)/2で表される。ここでは移動通信端末に使用される周波数を例として説明しており、f1は1824MHz、f2は1919MHzであり、中心周波数は1871.5MHzとなる。
【0032】
図7上図は本実施例を適用した場合の周波数温度特性、図7下図は従来の周波数温度特性を示している。両者を比較すると、温度変動に対する周波数特性のずれが本実施例において大幅に改善されていることが分かる。
【0033】
即ち、図7では摂氏-25度、25度、50度、85度の際の周波数温度特性を示しているが、本実施例による特性が従来例による特性と比較して温度変化による特性の変動が小さくなっていることが示されている。ピークロスの差は本実施例では約0.24dBであるのに対し、従来例では約0.43dBである。
【0034】
図5は実際にSi基板にLT基板を接合し、弾性表面波用共振器の長さを変化させ、中心周波数の温度特性を測定することにより、TCDの抑制率を示した図である。本図で、横軸は上記したB/Aを、縦軸はTCDの抑制率を示している。本図によれば、B/Aが小さい程、TCDの抑制率が大きく、優れた温度特性を有する弾性表面波装置を得ることが出来る。図5の結果から、B/Aが80%でTCDの抑制率は約25%、B/Aが70%でTCDの抑制率は約40%、B/Aが60%でTCDの抑制率は約55%、B/Aが50%でTCDの抑制率は約65%、B/Aが40%でTCDの抑制率は約70%、B/Aが30%でTCDの抑制率は約75%であることが理解される。
【0035】
本図からも明らかなように、B/Aが80%程度の領域ではさほどTCDの抑制率を上げることはできない。B/Aが70%以下の領域になるとTCDの抑制率が改善され、B/Aが40%程度の領域になるまで高い割合で改善されていく。40%未満の領域ではB/Aを小さくしてもTCDの抑制率はさほど上がらない。従って、TCDをある程度十分に改善するためにはB/Aを70%以下とすべきである。一方、基板の利用効率や小型化を確保するためにはB/Aを40%以上とすることが望ましく、また、B/Aが40%未満の領域ではTCDの抑制率の改善はさほど望めない。以上のことから、TCDの抑制及び基板の利用効率等を両立させることを考えると、B/Aは40%以上70%以下であることが望ましい。また、基板の利用効率をある程度以上維持したままTCDの抑制率をさらに高めるのであれば50%以上60%以下の範囲にすることも考えられる。また、抑制率を優先するのであれば60%以上70%以下の範囲にしても良い。
【0036】
さて、TCDの抑制効果は受信帯域周波数と送信帯域周波数との周波数間隔が狭く、かつ、相手側の帯域周波数での減衰度を大きくせざるを得ない方式で顕著になる。すなわち、受信用弾性表面波装置では、受信帯域周波数での減衰度は小さく、かつ、送信帯域周波数での減衰度を大きく取ることが要求され、逆に、送信用弾性表面波装置では、送信帯域周波数での減衰度は小さく、かつ、受信帯域周波数での減衰度を大きく取ることが要求される方式で特に有効となる。
【0037】
最近、移動端末では、符号分割方式(Code Division Multiple Access方式、CDMA方式と略す)が急速に普及し始めている。その中で、特に北米圏を中心にサービスされているCDMA方式の周波数配置を用い以下説明する。上記CDMA方式の場合、通話時に送信系と受信系とを同時に作動させ、かつ音声の品質を良く保つことが要求される。従って、送信系で用いる弾性表面波装置では、送信帯周波数での減衰度が小さく、相手側即ち受信帯周波数での減衰度は大きいことが要求される。逆に、受信系で用いる弾性表面波装置では、受信帯周波数での減衰度が小さく、相手側即ち送信帯周波数での減衰度は大きいことが要求される。
【0038】
一方、上記した北米中心にサービスされているCDMA方式の場合、送信帯周波数が1850〜1910MHzであり、受信帯周波数は1930〜1990MHzである。従って、送信帯周波数と受信帯周波数との間隔が20MHzと狭い。一方、弾性表面波装置では、通過帯周波数から減衰帯周波数への傾斜に要する周波数幅、弾性表面波装置の製造における材料や工程変動による周波数幅、および温度変動に伴い変動する周波数幅の総和が上記の送信帯周波数と受信帯周波数との間隔内に収まらなければならない。上記北米圏を中心にサービスされているCDMA方式の場合、通過帯周波数から減衰帯周波数への傾斜に要する周波数幅が約10MHz、弾性表面波装置の製造における材料や工程変動による周波数幅が約5MHzであることから、温度変動に伴い変動する周波数幅に与えられるのは約5MHzである。
【0039】
一方、弾性表面波装置に用いられるLT基板ではLT単結晶の面方位が30〜45°Yカットであり、弾性表面波の伝搬方向がX軸方向の物が一般的である。上記方位の中で、LT単結晶の面方位42°Yカット近傍ウエハにつき以下説明する。前記ウエハのTCDは約−42ppm/°Kである。又、移動端末の使用温度範囲を−25℃〜85℃とすると、前記ウエハを用い北米圏を中心にサービスされているCDMA方式の弾性表面波装置を作製した場合、温度変動に伴い変動する周波数幅は約8.8MHzとなり、全温度範囲にて5MHz内に収まらず、周波数特性を満足させることが出来ない。
【0040】
これに対して、本発明による図5により、B/Aの比率を70%以下にすることにより、TCDの抑制率40%以上を得ることが出来る為、上記温度変動に伴い変動する周波数幅を約5MHzに抑えることが出来、安定した周波数特性を提供することが出来る。しかし、B/Aの比率は小さい程、効果が望めるが、1枚の単結晶圧電基板から得られる弾性表面波装置の効率を考慮すると、無制限に小さくすることは得策では無い。又、本発明による図5より、20%以下としてもその効果は殆ど変化しない。従って、B/Aの比率下限を20%とすることが望ましい。更に、B/Aの比率を60%以下にすることで、TCDの抑制率50%以上を得ることが出来、これにより、弾性表面波装置での通過帯周波数から減衰帯周波数への傾斜に要する周波数幅、および製造における材料や工程変動による周波数幅を緩和することが出来、更に、安価で特性の良い弾性表面波装を提供することができる。
【0041】
しかし、上記Aを極端に大きくし、それに伴いBを大きくしても、上記と同じく1枚の単結晶圧電基板から得られる弾性表面波装置の製造効率を下げてしまう。従って、AとBの差、即ち“A-B”は100μm以下に抑えることが望ましい。
【0042】
又、上記ではLT基板の面方位42°Yカット近傍ウエハにつき記述したが、LT基板の面方位39°Yカット近傍ウエハについても同様な効果を得ることができる。LT基板の面方位39°Yカット近傍ウエハの場合、TCDは約−35ppm/°Kである。この場合、前記と同じ温度範囲で、温度変動に伴い変動する周波数幅は約7.3MHzである。従って、B/Aの比率を75%以下に設定すれば、温度変動に伴い変動する周波数幅を約5MHzに抑えることが出来、本発明によるB/Aの比率を75%以下に設定すれば、温度変動に伴い変動する周波数幅をより狭くすることが出来、より安価で特性の優れた弾性表面波装置を提供することができる。
【0043】
更に、LT基板の面方位36°Yカット近傍ウエハについても同様な効果を得ることができる。LT基板の面方位36°Yカット近傍ウエハの場合、TCDは約−32ppm/°Kである。この場合、前記と同じ温度範囲で、温度変動に伴い変動する周波数幅は約6.8MHzである。従って、B/Aの比率を80%以下に設定すれば、温度変動に伴い変動する周波数幅を約5MHzに抑えることが出来、本発明によるB/Aの比率を80%以下に設定すれば、温度変動に伴い変動する周波数幅をより狭くすることが出来、より安価で特性の良い弾性表面波装を提供することができる。
【0044】
尚、上記形態では、共振器を組み合わせてなる弾性表面波装置につき説明したが、図6に示す様な通過型の弾性表面波装置、更には通過型の弾性表面波装置を複数個組み合わせた多段型の弾性表面波装置においても同様な効果を得ることが出来る。図6では、入力信号が入力端子501より入り、入力側IDT701にて弾性表面波600が励起され、出力側IDT702へ伝搬し、そこで再度電気信号に変換され、出力端子502からつぎの回路へ送られる。そして、信号はこの過程において所望の周波数特性に整えられる。この構成の弾性表面波装置においても、B/Aの比率を70%以下に設定すれば、温度変動に伴い変動する周波数幅をより狭くすることが出来、より安価で特性の良い弾性表面波装を提供することができる。
【0045】
尚、本発明による効果は純粋な温度変動に対する周波数変動を抑制するだけでなく、弾性表面波が伝搬する方向に垂直な方向の変動をも抑制することで、極力最適な状態を保つことで、周波数特性を安定化できる。更に、前記IDT電極の形状を極力初期の最良状態に保つことで、バルク波放出が小さい弾性表面波としても極力最良な状態で使用できる為、弾性表面波の伝搬損失が小さく、従って、損失が小さい弾性表面波装置を得ることが出来る。
【0046】
又、上記の実施形態では第1の基板としてLT基板について説明しているが、LN基板においても同様な効果が得られる。又、上記の実施形態では第2の基板としてSi基板につき説明しているが、ガラス基板やサファイア基板を用いても同様な効果が得られる。
【0047】
又、第1の基板厚さは20μm乃至70μmの範囲が好ましい。これは20μm以下になると、加工が難しくなり、基板の完成歩留まり、ひいては価格が上昇し、逆に70μm以上になると、第2の基板によるTCDの抑制効果が弱まるからである。現在、弾性表面波装置に用いられている単結晶圧電基板の厚さは150μm乃至350μmである。この厚さの単結晶圧電基板をそのまま第2の基板に接合しても、第1の基盤のIDTが形成される面と第2の基板の面との距離が大きくなり、熱膨張係数さらにはTCD抑制効果が得られなくなる。上記範囲の中で、第1の基板厚さは50μm近傍が、加工性およびTCD抑制効果の両面からバランスが取れており、好ましい。
【0048】
更に、第2の基板の厚さは100μm乃至350μmの範囲が好ましい。これは、100μm以下にするとTCDの抑制効果が弱まるからであり、逆に、350μm以上になると、弾性表面波装置の高さが高くなり、薄型化の傾向に逆行し、商品価値が下がるからである。
【0049】
又、LT基板の面方位は30°Yカット乃至45°Yカットの範囲が好ましく、LN基板の面方位は40°Yカット乃至65°Yカットの範囲が好ましい。これは、上記範囲において、両基板とも弾性表面波の伝搬速度が比較的速く、かつ電気機械結合定数が比較的大きい為である。
【0050】
又、第2の基板としてSi基板を用いる場合、その抵抗率は1000Ωcm以上であることが好ましい。これは、弾性表面波用IDTやそれらを接続する配線パターンとグラウンドとの間に発生する対地容量を極力小さくする為である。
【0051】
更に、第1の基板と第2の基板とを接合する接着剤の厚さは10μm以下が望ましい。これは、接着剤の厚さが厚くなると、均一に塗布することが難しくなり、かつ、第2の基板によるTCD抑制効果も減少するからである。
【0052】
又、第1の基板と第2の基板とを接合する接着剤として、紫外線硬化型接着剤を用いることが望ましい。これは、紫外線硬化型接着剤の場合、接着剤の硬化に殆ど熱を必要としない為、熱膨張率の異なる物質を接合する際生じる反りを極力小さく出来るからである。
【0053】
更に、第2の基板に接合される第1の基板面102の粗さは、弾性表面波用共振器などが作製される第1の基板面101の粗さと同じく、Ra表示を用い、0.1<Ra<0.5nmの範囲にあることが望ましい。
【0054】
以上のように、本実施例に記載した弾性表面波装置を用いることにより、温度変化に対して、安定な特性を有する移動通信端末を提供することが出来る。この移動通信端末は、 信号を受信する受信部と、受信部で受信した信号を濾波する上記実施例で説明した弾性表面波装置と、弾性表面波装置で濾波された信号を復調する復調部と、復調部で復調された信号を出力する出力部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施例に係わる弾性表面波装置の上面図である。
【図2】実施例に係わる弾性表面波装置の断面図である。
【図3】図1の等価回路図である。
【図4】図1の弾性表面波装置により得られる周波数特性図である。
【図5】弾性表面波装置の中心から弾性表面波用共振器の端までの距離と弾性表面波装置の中心から弾性表面波装置の端までの距離の比に対する温度特性の抑制率の変化を示す図である。
【図6】他の例を示す通過型弾性表面波装置の上面図である。
【図7】本実施例による周波数温度特性と従来例による周波数温度特性を示す図。
【符号の説明】
【0056】
100‥単結晶圧電基板、101‥弾性表面波用共振器などを作製する単結晶圧電基板面、102‥第2の基板に接合される単結晶圧電基板面、200‥接合用接着剤、300‥第2の基板、400‥直列椀弾性表面波用共振器、402‥並列椀弾性表面波用共振器、501‥入力端子、502‥出力端子、600‥弾性表面波、701‥入力用櫛型交差指電極、702‥出力用櫛型交差指電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板に接合され、前記圧電基板と異なる膨張係数の材質からなる支持基板と、
前記圧電基板の面上に配置された弾性表面波を励振する櫛型電極と、を備え、
弾性表面波が伝播する方向において、前記櫛型電極の長さが前記圧電基板の長さに対して40%以上70%以下であることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
請求項1記載の弾性表面波装置において、
前記圧電基板は、ニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムの単結晶圧電基板であることを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項3】
請求項1記載の弾性表面波装置において、
前記支持基板は、ガラス基板、サファイア基板又はシリコン基板であることを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項4】
請求項1記載の弾性表面波装置において、
前記圧電基板の厚さを20μmから70μmの範囲としたことを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項5】
請求項2記載の弾性表面波装置において、
前記圧電基板として用いるタンタル酸リチウム単結晶の面方位が30〜45°Yカットであることを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項6】
請求項2記載の弾性表面波装置において、
前記圧電基板として用いるニオブ酸リチウム単結晶の面方位が40〜65°Yカットであることを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項7】
請求項3記載の弾性表面波装置において、
前記支持基板として用いるシリコン基板の抵抗率を1000Ωcm以上とすることを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項8】
請求項1記載の弾性表面波装置において、
前記圧電基板と前記支持基板との接合面を、紫外線硬化型接着剤を用いて接合したことを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項9】
請求項8記載の弾性表面波装置において、
前記圧電基板と前記支持基板との接合面の厚さを10μm以下としたことを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項10】
請求項1記載の弾性表面波装置において、
前記圧電基板の前記支持基板との接合面はRaで表示される粗さが0.1<Ra<0.5nmの範囲で鏡面仕上げされていることを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項11】
単結晶圧電基板である第1の基板と、前記第1の基板に接合された第2の基板と、前記第1の基板における前記第2の基板との接合面と反対側の面上に弾性表面波を励振する櫛型交差指電極とを備えた弾性表面波装置において、
弾性表面波を励振する櫛型交差指電極により構成される弾性表面波用共振器の弾性表面波が伝搬する方向の長さが弾性表面波装置の弾性表面波が伝搬する方向の長さの70%以下であることを特徴とした弾性表面波装置。
【請求項12】
信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信した信号を濾波する請求項1から請求項11の何れか記載の弾性表面波装置と、
前記弾性表面波装置で濾波された信号を復調する復調部と、
前記復調部で復調された信号を出力する出力部と、
を備えたことを特徴とした通信端末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−150931(P2007−150931A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344870(P2005−344870)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】