説明

形状測定装置及びこれを用いた形状測定方法

【課題】両面非球面レンズの偏心測定に要する時間を短縮する。
【解決手段】形状測定装置10には、Yテーブル13,Xテーブル14,Zテーブル15が設けられている。Zテーブル15には、第1プローブ16と第2プローブ17が正対して設けられている。第1プローブ16と第2プローブ17の間にはレンズ保持枠18が設けられ、偏心測定の対象となる両面非球面レンズが保持される。第1プローブ16と第2プローブ17は互いの位置関係が保たれながら移動するから、各プローブに対するレンズ位置のズレが生じない。第1プローブ16によりレンズ前面の形状を測定し、第2プローブ17によってレンズ後面の形状を測定すると、各非球面の光軸の位置が算出され、両面間の偏心量が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の曲面を有するレンズ等の光学部材を測定対象物として、各曲面の相対的な位置差を測定する形状測定方法及び形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク用対物レンズや携帯電話機に内蔵されるカメラ用対物レンズ等に両面非球面レンズが広く利用されている。両面非球面レンズは、2つの非球面の光軸が極めて高い精度で合致している必要があり、非球面レンズを製造する際には、実際に作製したレンズから非球面間の偏心を測定し、測定結果を製造工程にフィードバックしてレンズの成形精度を高める等の工夫がなされている。
【0003】
特許文献1には、レンズの表面に押し当てられる2本の位置決めピンが形成された治具を有する偏心測定装置が記載されている。この偏心測定装置では、レンズの前面を測定する際に、レンズ前面を2本の位置決めピンに下方から押し当て、レンズの位置を固定した後に表面の形状を測定する。そして、レンズの後面を測定する際には、レンズを位置決めピンから一度離して180度回転させ、レンズ後面を2本の位置決めピンに上方から押し当て、レンズの位置を固定した後に表面の形状を測定する。レンズの前面と後面の表面形状が測定されると各非球面の光軸の位置が求められ、非球面間の偏心量が算出される。
【0004】
また、特許文献2に記載された偏心測定装置は、位置決め用の3つの真球が設けられたレンズ保持板を備えている。3つの真球は、その一部がレンズ保持板の前面と後面からそれぞれ露呈されている。レンズの前面を測定する際には、3つの真球の頂点位置を測定し、基準座標の決定とレンズ保持板の走査平面に対する傾き量の算出が行われる。レンズの後面を測定する際には、レンズ保持板を装置から外して裏返しにした後、同様にして3つの真球の頂点座標を測定し、基準座標の決定とレンズ保持板の傾き量の算出が行われる。レンズの前面と後面の表面形状が測定された後、真球によって決定された基準座標とレンズ保持板の傾き量から、各非球面の光軸の位置とその偏心量が算出される。
【0005】
上記特許文献1,2に記載された偏心測定装置は、レンズの両面の形状を測定するためにレンズを裏返している。このため、特許文献1記載のものは、レンズの位置が測定ごとに変わり、精度の高い偏心測定ができない欠点があり、特許文献2記載のものでは、レンズを裏返す度に測定時の基準位置を求めなければならず、手間がかかるという欠点があった。また、レンズを裏返さなくて済むように、2つのプローブを互いに正対する向きに設けることにより、測定対象物の表裏両面の形状を同時に測定するものが公知である(例えば特許文献3,4参照)。
【特許文献1】特開2002−214071号公報
【特許文献2】特開2002−71344号公報
【特許文献3】特開平10−38538号公報
【特許文献4】特開2001−324311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献3,4に記載された従来の形状測定装置は、各々のプローブが個別に独立して移動するため、測定を行う度に各プローブの原点を合わせる調整や、各プローブのずれを求める必要があり、手間がかかるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を考慮してなされたもので、測定ごとにプローブを調整する必要がなく、能率的にレンズ等の表面形状が測定できる形状測定装置、及びこれを用いた偏心測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の形状測定装置は、物体の表面を走査する第1プローブと第2プローブとが互いに正対して設けられたプローブ支持体と、前記第1プローブと第2プローブとの間で測定対象物を保持する保持体と、前記プローブ支持体又は前記保持体を駆動して、前記測定対象物に対して前記第1及び第2プローブを相対的に移動させる移動手段と、前記移動手段を制御して、前記第1プローブを測定対象物の前面に接近させるとともに前記第2プローブを測定対象物から退避させ、前記第1プローブで測定対象物の前面を走査してその形状を測定する第1の測定手段と、前記移動手段を制御して、前記第2プローブを測定対象物の後面に接近させるとともに前記第1プローブを測定対象物から退避させ、前記第2プローブで測定対象物の後面を走査してその形状を測定する第2の測定手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
前記第1プローブ及び前記第2プローブが接触式又は光学式プローブであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の形状測定方法は、請求項1又は2に記載の形状測定装置により、複数の曲面を有する光学部材の各曲面の形状を測定し、各曲面が有する特徴点の位置をそれぞれ求め、前記特徴点の位置を比較して各曲面間の位置ズレの大きさを測定することを特徴とする。
【0011】
前記保持体に真球を保持させ、保持された真球の表面を前記形状測定装置により測定し、前記第1プローブによって測定された真球表面の頂点の位置と前記第2プローブによって測定された真球表面の頂点の位置との較差によって、前記対称軸の位置を補正することを特徴とする。
【0012】
前記測定対象物は両面非球面レンズであることを特徴とする。
【0013】
前記測定対象物の各曲面の形状測定値を設計値と比較することにより、各曲面の基準面に対する傾斜角度を算出し、各曲面間の相対的な傾きを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1プローブと第2プローブとが一体となって測定対象物に対して移動するから、第1プローブと第2プローブとの位置関係が変わらず、測定対象物の表裏両面の形状を測定する際に、各面を測定するごとに調整作業や原点決めを行う必要がない。これにより、レンズ等の偏心量を測定するにあたり、各面の形状、対称軸(光軸)の位置を高精度にかつ短時間で求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1において、形状測定装置10は、定盤部11の上に支柱部12が設けられている。支柱部12には、Yテーブル13と、Xテーブル14と、Zテーブル15とが設けられている。Yテーブル13は、Y軸に平行なスライドガイド13aを介して支柱部12に対してY軸方向のスライド移動が可能である。Xテーブル14は、X軸に平行なスライドガイド14aを介してYテーブル13に対してX軸方向のスライド移動が可能である。Zテーブル15は、Z軸に平行なスライドガイド15aを介してXテーブル14に対してZ軸方向のスライド移動が可能である。
【0016】
Zテーブル15には、第1プローブ16と第2プローブ17とがX軸方向に互いに正対して設けられている。第1プローブ16と第2プローブ17は、Yテーブル13とXテーブル14とZテーブル15がそれぞれスライド移動することによって、X軸方向,Y軸方向,Z軸方向に自在に移動できる。第1プローブ16と第2プローブ17はZテーブル15上で互いの相対位置関係を保ちながら一体に移動する。レンズ保持枠18は定盤部11に設けられ、第1プローブ16と第2プローブ17との間でレンズを定位置に保持する。
【0017】
形状測定装置10には、第1プローブ16と第2プローブ17とによって物体の表面を走査して得られた形状測定値を出力する測定値出力部19が設けられている。演算装置20は、測定値出力部19から出力された形状測定値の演算処理を行う。演算装置20には、測定された物体の曲面の設計式等が予め入力され、測定値と設計値とを比較して、測定値を設計値に合致(フィッティング)させる演算処理を行う。この演算処理では、測定値と設計値との較差から、走査時の基準面に対する測定された曲面の傾きと頂点の位置が算出される。また、演算装置19は、曲面上の特定の位置座標、例えばレンズ面の光軸や球面の頂点の位置座標を算出することができる。
【0018】
図2において、第1プローブ16と第2プローブ17には触針23,24がそれぞれ設けられている。触針23,24は、その先端と測定対象物との間に原子間力が作用する距離まで接近し、原子間力が一定の大きさに保たれるようにして測定対象物の表面を走査する進退移動する。触針23,24は、第1プローブ16と第2プローブ17とが数十ミリメートルの範囲でX軸,Y軸,Z軸の3方向に移動するのに対し、例えば数マイクロメートルの範囲でX軸方向のみに変位する。触針23,24の変位により、測定対象物の表面の詳細な凹凸情報が得られる。
【0019】
通常、第1プローブ16と第2プローブ17はZテーブル15に固定されており、両者の間隔が一定に保たれている。Zテーブル15に設けられた間隔調整ガイド25は、第1プローブ16と第2プローブ17の間隔を変更するときに、各プローブの固定を解除してX軸方向に移動させるためのガイドとなる。
【0020】
レンズ保持枠18には、開口26が設けられている。レンズ保持枠18に取り付けられたレンズ28は、そのレンズ前面28fとレンズ後面28bとが露呈され、それぞれ第1プローブ16と第2プローブ17に対面する。レンズ28は、例えば両面非球面レンズである。レンズ保持枠18にはレンズ押さえ板30が設けられている。レンズ押さえ板30は、レンズ前面28fをバネ力で押圧し、レンズ28をレンズ保持枠18に固定させる。
【0021】
形状測定装置10と演算装置20を用いた両面非球面レンズの偏心測定方法について説明する。図3において、最初に測定を行うときは、第1プローブ16と第2プローブ17の初期位置の違いによる各プローブの走査座標系のズレを較正するための予備測定を行う。レンズ保持枠18にレンズ28とほぼ同径の真球35を取り付ける。
【0022】
形状測定装置10を作動させ、第1プローブ16を用いて真球35の表面形状を測定する。Xテーブル14は、第1プローブ16をZテーブル15ごと真球35に接近させる方向に移動させる(図4(a)参照)。このとき、第2プローブ17は真球35から離れる方向に移動する。第1プローブ16は、Yテーブル13,Xテーブル14,Zテーブル15のスライド移動により真球35の表面を走査し、真球35の表面形状を測定する。測定値は演算装置20に送られ、演算装置20では測定値から真球35の前面側の頂点座標O(f)が算出される。
【0023】
第1プローブ16による真球35の形状測定が終了すると、Xテーブル14は、第2プローブ17を真球35の接近させる方向に移動させる(図4(b))。このとき、第1プローブ16は真球35から離れる方向に移動する。第2プローブ17によって真球35の表面形状を反対側から測定する。測定値は演算装置20に送られ、演算装置20では測定値から真球35の後面側の頂点座標O(b)が算出される。第1プローブ16の走査座標系と第2プローブ17の走査座標系とのズレは、各プローブにより測定された真球35の頂点座標の差[O(f)−O(b)]によって与えられる。なお、場合に応じて、真球35の真球度の補正も行い、このときの第1プローブ16の走査座標系と第2プローブ17の走査座標系とのズレは、真球度の補正値をεとして[O(f)−O(b)+ε]として与えられる。
【0024】
真球35をレンズ保持枠18から取り外し、偏心の測定対象となるレンズ28を取り付ける。第1プローブ16をレンズ前面28fに接近させ、第1プローブ16によりレンズ前面28fの形状を測定する。このとき、第2プローブ17はレンズ後面28bから離れた位置に退避する。第1プローブ16はレンズ前面28fを走査し、レンズ前面28fの表面形状が測定される。測定値は演算装置20に送られ、演算装置20ではレンズ前面28fの光軸の位置P(f)とレンズ前面28fの走査平面に対する傾きθ(f)が算出される。
【0025】
レンズ前面28fの測定終了後、第2プローブ17をレンズ後面28fに接近させ、第1プローブ17をレンズ前面28fから退避させる。第2プローブ17はレンズ後面28bを走査し、レンズ前面28bの表面形状が測定される。測定値は演算装置20に送られ、演算装置20ではレンズ後面28bの光軸の位置P(b)とレンズ後面28bの走査平面に対する傾きθ(b)が算出される。
【0026】
演算装置20は、レンズ後面28bの光軸の位置P(b)を真球35の頂点座標の差[O(f)−O(b)]によって補正すると、第2プローブ17の走査座標系と第1プローブ16の走査座標系とのズレが相殺され、第1プローブ16の走査座標系におけるレンズ後面28bの光軸の位置P’(b)が算出される。レンズ前面28fの光軸の位置P(f)と補正されたレンズ後面28bの光軸の位置P’(b)との差を求めることにより、光軸のズレすなわち偏心量Sが求められる。また、θ(f)とθ(b)との差を求めることにより、レンズ前面28fに対するレンズ後面28bの倒れTが求められる。
【0027】
このようにして、レンズ28の測定を行った後、他のレンズを測定する場合には、第1プローブ16と第2プローブ17の間隔を変更する等により各プローブの相対位置は変わらない限り、[O(f)−O(b)]は不変であるから、真球35を用いた予備測定を再度行う必要はなく、測定するレンズをレンズ保持枠18に取り付け、両面の形状の測定を行えばよいので、2枚目以降のレンズの測定に要する時間は大幅に短縮される。
【0028】
以上のようにして求められた偏心量Sとレンズ面の倒れTとから、レンズ28を製作するときの成形金型の精度が確認され、さらに精度の高いレンズ加工を実現するための指標とすることができる。また、求められた偏心量Sとレンズ面の倒れTを与えたシミュレーションを行うことで、作製されたレンズの性能を正確に評価でき、レンズの品質向上が期待できる。
【0029】
なお、本発明を実施する上では、また、レンズを保持するためには、レンズ押さえ板30のバネ力によるもの以外に、レンズ保持枠18に設けた穴から空気を吸引してレンズを固定してもよく、また、レンズをレンズ保持枠18に接着して固定してもよい。また、上記実施形態は、第1プローブ16及び第2プローブ17を移動させているが、これに限らず、2つのプローブを固定し、レンズ保持枠18を移動させるようにしてもよい。本発明は、両面非球面レンズの偏心測定に最も適しているが、球面の全体を正確に測定することができれば、片面非球面レンズや球面レンズの偏心測定に用いてもよく、眼鏡用レンズの偏心を測定してもよい。また、レンズ以外にも、宝石や石材等のガラスと異なる物質、不透明な物質からなる物体の偏心測定に用いてもよい。さらに、本発明において使用する表面形状測定装置は、原子間力に基づく走査変位から表面形状を測定するものに限らず、触針と光学部材がともに導電性を有している場合にはトンネル電流を利用した表面形状測定を例とする各種の走査型プローブを用いた測定を行ってもよく、光学部材の曲面各部にレーザー等の光や電磁波を照射し、その反射光や透過光から表面形状を測定する非接触・光学式の測定を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】形状測定装置の斜視図である。
【図2】第1プローブと第2プローブの正面図である。
【図3】偏心測定方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】真球を用いた予備測定の斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
10 形状測定装置
13 Yテーブル
14 Xテーブル
15 Zテーブル
16 第1プローブ
17 第2プローブ
18 レンズ保持枠
20 演算装置
23,24 触針
28 レンズ
28f レンズ前面
28b レンズ後面
35 真球


【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の表面を走査する第1プローブと第2プローブとが互いに正対して設けられたプローブ支持体と、
前記第1プローブと第2プローブとの間で測定対象物を保持する保持体と、
前記プローブ支持体又は前記保持体を駆動して、前記測定対象物に対して前記第1及び第2プローブを相対的に移動させる移動手段と、
前記移動手段を制御して、前記第1プローブを測定対象物の前面に接近させるとともに前記第2プローブを測定対象物から退避させ、前記第1プローブで測定対象物の前面を走査してその形状を測定する第1の測定手段と、
前記移動手段を制御して、前記第2プローブを測定対象物の後面に接近させるとともに前記第1プローブを測定対象物から退避させ、前記第2プローブで測定対象物の後面を走査してその形状を測定する第2の測定手段とを備えたことを特徴とする形状測定装置。
【請求項2】
前記第1プローブ及び前記第2プローブは接触式又は光学式プローブであることを特徴とする請求項1記載の形状測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の形状測定装置により、複数の曲面を有する光学部材の各曲面の形状を測定し、各曲面が有する特徴点の位置をそれぞれ求め、前記特徴点の位置を比較して各曲面間の位置ズレの大きさを測定することを特徴とする形状測定方法。
【請求項4】
前記保持体に真球を保持させ、保持された真球の表面を前記形状測定装置により測定し、前記第1プローブによって測定された真球表面の頂点の位置と前記第2プローブによって測定された真球表面の頂点の位置との較差によって、前記特徴点の位置を補正することを特徴とする請求項3記載の形状測定方法。
【請求項5】
前記測定対象物は両面非球面レンズであることを特徴とする請求項3又は4記載の形状測定方法。
【請求項6】
前記測定対象物の各曲面の形状測定値を設計値と比較することにより、各曲面の基準面に対する傾斜角度を算出し、各曲面間の相対的な傾きを算出することを特徴とする請求項3ないし5にいずれか1つ記載の形状測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−90719(P2006−90719A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272961(P2004−272961)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】