説明

彩色膜振動吸音板およびこれを用いた室内装飾用吸音構造体ならびに道路・鉄道用防音壁

【課題】 彩色膜振動吸音板およびこれを用いた室内装飾用吸音構造体ならびに道路・鉄道用防音壁を提供する。
【解決手段】 多数の開口を有する2枚の板状体で彩色した樹脂薄膜を挟持してなる彩色膜振動吸音板であって、該樹脂薄膜の少なくとも一方の表面にエンボス加工を施すことにより、その表面粗さ(JIS B−0601)が、中心面平均粗さRa 1.0μm〜5.0μm、十点平均粗さRz 5.0μm〜15.0μmの物性を示すことを特徴とする、彩色膜振動吸音板およびこれを用いた室内装飾用吸音構造体ならびに道路・鉄道用防音壁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音特性のみならず、彩色樹脂薄膜と塗装を施した多数の開口を有する板状体を用いた装飾性・意匠性のある膜振動吸音板、また、該膜振動吸音板を用いた道路・鉄道等の防音壁用吸音板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、室内用途用の吸音材としては、例えば特開平11−350656号公報(特許文献1)に開示されているように、孔あき石膏ボードと軟質ポリウレタンフォームを積層した吸音下地パネルや、実開平6−8526号公報(特許文献2)に開示されているように、無機繊維質フェルト、網目層及び表面織布をこの順序に一体的に接着した積層体であって、表面織布は防燃加工された有機繊維を含む無機繊維製断熱吸音板が提案されている。
【0003】
一方、道路や鉄道等の防音壁用吸音材としては、例えば特許第3392070号公報(特許文献3)に開示されているように、多数の開口を有する板状体と透明な樹脂薄膜とを積層してなる板状で透明な膜振動吸音材で円筒の側壁を形成し、その円筒の内部には、透明な樹脂製の平板を切断・接着して、垂直板と水平板を形成して十字状とした防音壁頂消音装置用透明遮音板を挿入した透光型防音壁頂消音装置が提案されている。
【0004】
また、飛行場や高速道路およびその周辺、音楽ホール、体育館、工事現場、トンネル内、クリーンルーム等の場所で防音を目的とし、必要に応じて、この吸音材を通しての見通し性や防塵性及び無塵性を確保することができる膜振動吸音材として、例えば特許第2518589号公報(特許文献4)に開示されているように、多数の開口を有しかつ互いに開口率の異なる板状体で、樹脂薄膜を挟持した膜振動吸音材や特開平6−83365号公報(特許文献5)に開示されているように、多数の開口を有する板状体で、樹脂薄膜を挟持してなる膜振動吸音材が提案されている。
【特許文献1】特開平11−350656号公報
【特許文献2】実開平6−8526号公報
【特許文献3】特許第3392070号公報
【特許文献4】特許第2518589号公報
【特許文献5】特開平6−83365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような、特許文献1の場合は、石膏ボードに孔あけ加工した吸音ボードは一般的に単独使用では充分な吸音特性を有しない。従って、軟質ポリウレタンフォームや軟質繊維系との併用が必要となる。また、特許文献2の場合は、軟質繊維系吸音材(グラスウール・ロックウール等)を吸音性織物で外装する方式は、老朽化に起因する解体の際の環境汚染が懸念される。
【0006】
また、特許文献3〜5の場合は、見通し性のある透光型の防音壁や膜振動吸音材についての提案はあるが、しかし、透光型膜振動吸音板の長年の実験的検証ならびに製造経験より、その「見透かし性」が逆に室内用途における装飾性・意匠性を阻害することを認識した。すなわち、従来型の透光型膜振動吸音板を内装用に壁面に用いた場合には、吸音板(シースルー)を通して壁面のコンクリート等の下地材が露出して美観が損なわれる。また天井に用いた場合には鉄骨構造等が露出するため同様に美観が損なわれるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した問題を解消するために発明者らは鋭意開発を進めた結果、本発明の目的は、前記問題を解決してより優れた吸音特性と装飾性・意匠性を兼備した内装用の彩色膜振動吸音板を提供することである。また、老朽化に伴う解体の際に軟質繊維等の環境汚染物質の飛散のない、意匠性に優れた道路・鉄道等の防音壁用吸音板、および眩光防止機能を有する道路中央分離帯用防音壁を提供することである。すなわち、本発明者らは透光型膜振動吸音板に用いられている樹脂薄膜に彩色した不透明な樹脂薄膜を用いる事に着目、本発明に至ったものである。
【0008】
その発明の要旨とするところの本発明の第一の態様は、多数の開口を有する2枚の板状体で彩色した樹脂薄膜を挟持してなる彩色膜振動吸音板であって、該樹脂薄膜の少なくとも一方の表面にエンボス加工を施すことにより、その表面粗さ(JIS B−0601)が、中心面平均粗さRa 1.0μm〜5.0μm、十点平均粗さRz 5.0μm〜15.0μmの物性を示すことを特徴とする、彩色膜振動吸音板である。
【0009】
また、本発明の第二の態様は、第一の態様に記載の彩色膜振動吸音板が、網目の大きさの異なる二枚のアルミニウム製エキスパンドメタルを事前に平坦化し、この二枚の、アルミニウム製エキスパンドメタルの少なくとも一枚の表面に塗装を施し、この二枚の板状体で一枚の彩色樹脂薄膜を挟持する構造の積層体であることを特徴とする、彩色膜振動吸音板である。
【0010】
また、本発明の第三の態様は、第二の態様に記載の少なくとも一枚の塗装を施したアルミニウム製エキスパンドメタルの表面に、さらに模様や文字を描画したことを特徴とする彩色膜振動吸音板である。本発明の第四の態様は、第一の態様から第三の態様に記載の彩色膜振動吸音板を用いた、室内装飾用吸音構造体であって、懸垂して用いることを特徴とする室内装飾用吸音構造体である。
【0011】
また、本発明の第五の態様は、遮音板と金属製の枠部材で筐体を形成し、そのもう一方の面(開放面)に、第一の態様からから第三の態様に記載の彩色膜振動吸音板を配設したことを特徴とする吸音パネルならびにそれを用いた道路・鉄道用防音壁である。および、本発明の第六の態様は、前面に透光型膜振動吸音板を配設した二式の筐体で、一枚の透光性遮音板を挟持した構造の透光型の道路中央分離帯用防音壁であって、自動車のヘッドライトの光が対向車線の運転者の目に直接入らないように、当該防音壁を構成する下段の吸音パネルに、第一の態様からから第三の態様に記載の彩色膜振動吸音板を用いたことを特徴とする、眩光防止機能を有する透光型の道路中央分離帯用防音壁である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の彩色膜振動吸音板を用いることにより、優れた吸音特性を有し、薄型・軽量で難燃性・耐候性に優れ、かつ意匠性に優れた彩色膜振動吸音板の提供が可能となる。また、意匠性に優れた道路・鉄道用の防音壁ならびに眩光防止機能を有する、道路の中央分離帯用防音壁の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の彩色膜振動吸音板について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、図は説明のための概念図であり、アルミニウム製エキスパンドメタルの網目のサイズやパネルのサイズ等は実寸に即したものではない。また、以下の説明において、アルミニウム製エキスパンドメタルとは金属板に特殊な刃型を用いて千鳥配列の切れ目を入れ、同時にこれを押し伸ばしながら網目を形成した網状の金属板である。
【0014】
図1は、アルミニウム製エキスパンドメタルを説明する図である。図1(a)はアルミニウム製エキスパンドメタルの一つの網目1の正面図であり、図1(b)はそのa−a断面図、また、図1(c)は(b)にロール圧延して平坦化加工を施した状態を示す説明図である。図1(b)から明らかなように、アルミニウム製エキスパンドメタルの断面には大きな起伏(凹凸)があるため、彩色樹脂薄膜2を挟持した際(他方の板状体は省略してある)、彩色樹脂薄膜2との接触が不十分であり、結果的に吸音特性は不十分である。
【0015】
図1(c)は、アルミニウム製エキスパンドメタルを、圧延ロールを用いて平坦化加工後のアルミニウム製エキスパンドメタル3を示す説明図であり、彩色樹脂薄膜2を挟持した際(他方のアルミニウム製エキスパンドメタルは省略してある)、彩色樹脂薄膜2との接触が十分になるので吸音特性も向上する。
【0016】
平坦化加工後のアルミニウム製エキスパンドメタル3の厚さには特に限定はなく、要求される機械的強度、吸音板のサイズ等に応じて適宜選定すればよいが、吸音特性、取り扱性、加工性、重量等を考慮すれば、通常0.2mm〜2mm程度、好ましくは0.4mm〜1mmである。平坦化加工後のアルミニウム製エキスパンドメタルへの塗料としては、フッ素系樹脂塗料やポリエステル系樹脂塗料が一般的であるが、耐候性の観点からはフッ素系樹脂塗料がより好適である。塗装方式としては、スプレー塗装方式や静電塗装方式が一般的である。また、塗装すべき面は彩色膜振動吸音板が人目に触れる、表面に塗装するのが一般的である。
【0017】
前記平坦化加工後のアルミニウム製エキスパンドメタルは多数の開口を有する板状体であるので、平板に描画するような完全な描画は困難であるが、用いる2枚のアルミニウム製エキスパンドメタルの細かい網目の方を塗装面とし、ここに描画するのが好ましい。
一方、彩色樹脂薄膜2としては、吸音特性・難燃性・耐候性・耐久性の観点よりフッ素系彩色樹脂薄膜7が好適である。
【0018】
フッソ系彩色樹脂薄膜7の厚さには特に限定はないが、好適な膜振動を得て良好な吸音特性を発現するためには10μm〜30μm、好ましくは20μm〜30μmとするのがよい。フッ素系彩色樹脂薄膜としては現在、灰色(グレイ)、白、黒、赤系、緑(グリーン)系の存在を確認しているが、今後他の色の製品の出現も待たれる。
【0019】
ところで、白、黒等、原色系のフッソ系彩色樹脂薄膜には光沢があり、この光沢が室内用途における意匠性を阻害する場合もある。また、道路用防音壁等の屋外用途に用いた場合においても、この光沢が太陽光や自動車のヘッドライトにより眩光を惹起する可能性がある。このフッソ系彩色樹脂薄膜の表面に、エンボス加工を施すことのより、表面の光沢は大幅に軽減される。
【0020】
また、このエンボス加工により、薄膜表面粗さが増大することにより、フィルム表面と事前に平坦化したアルミニウム製エキスパンドメタルとの摩擦が増加することにより結果的に吸音率の向上も得られる。しかしながら、エンボス加工による表面粗さの増大はフィルム強度の劣化に繋がる可能性があるので、表面粗さはフィルム強度と光沢軽減の両面を鑑みて、中心面平均粗さRa:1.0μm〜5.0μm、十点平均粗さRz:5.0μm〜15.0μmの範囲が好適である。
【0021】
すなわち、中心面平均粗さRaが1.0μm未満、十点平均粗さRzが5.0μm未満では、光沢の軽減効果は十分に出現しない。また、Raが5.0μmを、十点平均粗さRzが15.0μmを超えるとフィルムの強度が劣化することから、その範囲をそれぞれ、中心面平均粗さRa:1.0μm〜5.0μm、十点平均粗さRz:5.0μm〜15.0μmとした。
【0022】
本発明の彩色膜振動吸音板4はアルミニウム製エキスパンドメタル(5と6)とフッ素系彩色樹脂薄膜7の積層体であるので、板厚が約1.5mm、重量が1.5kg/m2 と極めて薄型・軽量な吸音板の提供が可能である。また、樹脂薄膜はフッ素系彩色樹脂薄膜7を用いているので難燃性の吸音板の提供が可能となる。
【0023】
併せて、フッ素系彩色樹脂薄膜7と、塗装を施したアルミニウム製エキスパンドメタルにさらに必要があれば、その表面にさらに文字や絵を描画することにより、装飾性・意匠性のある膜振動吸音板の提供が可能となる。なお、アルミニウム製エキスパンドメタルへの塗装と描画は必要性がない場合は不要である。アルミニウム製エキスパンドメタルの材質は純度の高いアルミニウムを用いているので、通常の用途であれば、室外用途においても十分な耐候性を有する。
【0024】
さらに、グラスウールやアルミニウム系多孔質吸音材のように多孔質ではないので、施工後のダスト吸着の懸念が極め少ないばかりか、水を用いて容易に洗浄可能な吸音板の提供が可能となる。併せて、グラスウールやアルミニウム系多孔質吸音材のように多孔質ではないので保水による重量増がないばかりか、耐候性に優れているので、室内プール等多湿な雰囲気中で用いられる天井用吸音板としての用途にも好適である。
【0025】
室内プールの天井用吸音材としてグラスウール等の吸音材を用いた場合に、吸湿による重量増により天井から落下した事例もある。また、前記従来型の、道路や鉄道等の防音壁用吸音構造体としては、グラスール等の軟質繊維系多孔質吸音材を耐候性フィルムで保護したものを、音源側に多数のスリットを形成した金属板(ルーバー)で保護した構造が一般的であるが、このタイプの防音壁も、本発明の彩色膜振動吸音板4を用いることにより、意匠性の優れた防音壁への代替を可能とする。
【0026】
すなわち、前記ルーバーの部位に本発明の彩色膜振動吸音板4を配設することにより、前記軟質繊維系多孔質吸音材を充填することなく、単純な防音壁構造が可能になり防音壁構造体の重量減少の可能性も期待されるので、防音壁の製造コストの低減も期待される。また、アルミニウム製エキスパンドメタルは回収してリサイクルが可能である。
【0027】
室内用途の板状吸音材の施工方法としては、剛体(壁面)から空気層(70mm〜100mm)を介して平面的に施工する方式が一般的であるが、本発明の彩色膜振動吸音板4の場合には、空気層を介すことなく直接室内の空中に懸垂するだけでも十分な吸音特性を発揮する。上記懸垂方式吸音構造体の形態としては本来の平板形状にこだわるものではなく、平板を湾曲させたもの、円筒や半円筒に加工した形状のものを用いてもよい。これにより装飾性・意匠性の一層の向上が期待される。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例によって詳細に説明する。
(実施例1)
図2は、本実施例の彩色膜振動吸音板の平面図である。また、図3は、図2のb−b断面図である。この図2、3に示すように、網目サイズが4mm×8mmのアルミニウム製エキスパンドメタルを、圧延ロールを用いて平坦化加工を施した、大きさが2000mm×1000mmの板状体5を準備した。また、網目サイズが5mm×10mmのアルミニウム製エキスパンドメタルを、同じく平坦化加工を施し、大きさが2000mm×1000mmの板状体6を準備した。
【0029】
上記2枚の平坦化加工後のアルミニウム製エキスパンドメタル(5と6)の表面に、フッ素系樹脂塗料を用いて、スプレー塗装方式にて緑色(グリーン)に塗装を施した。上記2枚の板状体(5と6)で、白色に彩色したフッ素系彩色樹脂薄膜7を挟持することにより、彩色膜振動吸音板4とした。(図2と図3に示す吸音板4は実寸法を示すものではない。)なお、白色に色付けしたフッソ系樹脂薄膜7は、25μmの薄膜を用いた。該フッソ系樹脂薄膜7の片面にエンボス加工を施すことにより、中心面平均粗さが、Ra:2.00μm、十点平均粗さRz:8.50μmとした。(JIS B0601に準拠)
なお、エンボス加工を施さないもう片面(鏡面)の中心面平均粗さ、Ra:0.15μm、十点平均粗さRz:0.60μmであった。上記彩色膜振動吸音板4を8枚製作し、8枚の吸音板はそれぞれ、外形(開口部分)が2000mm×1000mm、深さが100mm(空気層の大きさ)の鋼板製筐体の開口側にセットし、JISA 1409に準じて、残響室法吸音率を測定した。
【0030】
図4は、鋼板製筐体8の開口側に、彩色膜振動吸音板4をセットした状態の吸音パネル構造体9の概略図を示す。また、図5は、図4のc−c断面図を示す。筐体の幅方向中央部には、彩色膜振動吸音板4の筐体8内側への撓みを防止する目的で中桟10を設けた。当該吸音パネル構造体9の遮音板を11に示す。また、残教室法吸音率を測定した結果を表1の実施例1に示す。表1から明らかなように、室内用のみならず、道路・鉄道用の防音壁用にも十分採用可能な吸音板であることが明らかである。
【0031】
表1の比較例に、フッソ系樹脂薄膜7の片面(表面)にエンボス加工を施さないこと以外は実施例1と同様の彩色膜振動吸音板を用いた場合の残教室法吸音率の計測結果を示す。吸音率は片面にエンボス加工を施した実施例1の場合よりも劣る事が明らかである。
【0032】
【表1】

また、樹脂薄膜(表側)の光沢は、表1に示すように、エンボス加工を施した実施例1には認められなかったが、左記の比較例では認められた。
【0033】
(実施例2)
図6は、実施例1で用いた彩色膜振動吸音板4の8枚を、残響室の天井に自重で自然に湾曲させて吊り下げた状態を示す。(図中には2枚のみ示す。)彩色膜振動吸音板4の長手方向の吊り幅が1000mmになるように調整した。これを平板自重湾曲懸垂方式吸音構造体13と称する。この状態でJISA 1409に準じて、残響室法吸音率を測定し、表2の実施例2にその測定結果を示す。
【0034】
実施例1の場合のように吸音パネル構造体9を用いて空気層を確保すること無でも、同様に良好な吸音特性が得られた。また、表2の比較例に、樹脂薄膜に彩色もエンボス加工も施さない、透明な従来型の膜振動吸音板を用いた場合の残教室法吸音率を示す。エンボス加工を施していない左記の比較例の吸音率は、エンボス加工を施した実施例2の吸音率よりも劣ることが明らかである。
【0035】
【表2】

また、実施例2の表側エンボス加工面を可視側にした場合の、平板自重湾曲懸垂方式吸音構体13の光沢は認められないが、透明な従来型の膜振動吸音板を用いた左記の比較例の場合は光沢が認められた。表2にはさらに、平板自重湾曲懸垂方式吸音構体13を室内に用いた場合の装飾性に関して、従来型の膜振動吸音板を用いた左記の比較例と比較して示した。左記の比較例に示す、従来型の膜振動吸音板を用いた場合は、天井が透けて見えてしまうので、装飾性に関しては良好とは言えない。
【0036】
(実施例3)
図7は、本実施例に用いた道路・鉄道用吸音パネル17の説明図(断面図)を示す。パネルの形状、サイズ等は実寸に即したものではなく説明のためのものである。彩色膜振動吸音板4は、実施例1と同様の構成のものを用いた。パネルの枠材は鋼板製パネル枠14を用いた。遮音板も1.6mmの鋼板製遮音板15である。中桟も鋼板製中桟16とした。当該吸音パネルの空気層は100mmとする。当該道路・鉄道用吸音パネル17の吸音面側(4側)の平面サイズは1000mm×2000mmとする。
【0037】
図8は、当該道路・鉄道用吸音パネル17を用いた、道路・鉄道用防音壁21の一例を示す。左図は道路側から見た正面図を、また右図はそのd−d断面図を示す。道路・鉄道用吸音パネル17はコンクリート製基礎20にH型鋼製の支柱19を立て、この支柱の中に高さが1000mmの道路・鉄道用吸音パネル17の3段を積み上げる方式を用いた。この頂部に円筒形の防音壁頂部消音装置18を配設した。
【0038】
当該実施例においては、実施例1と同様の白色の樹脂薄膜と、事前に平坦化し、緑色(グリーン)に塗装したアルミ製エキスパンドメタルを用いた彩色膜振動吸音板を用いているが、樹脂薄膜の色とアルミ製エキスパンドメタルの塗装色はこの組み合わせにこだわるものではない。たとえば、緑色系の彩色膜振動吸音板を用いることにより、運転者の心の平穏を得られる可能性のある防音壁も考えられる。また、赤色系の彩色膜振動吸音板を用いることにより、交通事故多発ゾーンであることを警告することができる可能性も考えられる。
【0039】
本発明の彩色膜振動吸音板4を用いた防音壁の採用により、大量のグラスウール等軟質繊維系吸音材を内蔵した、従来型のルーバータイプ防音壁では期待できない、意匠性のある道路・鉄道用防音壁が可能となる。また、前記したように、従来型の防音壁の場合には、将来の老朽化による解体の際に、大量の軟質繊維の環境への飛散が懸念されるが、本発明の防音壁の採用によりこの課題は解決される。
【0040】
前記、表1の評価項目に当該実施例3、すなわち、道路用防音壁に実施例1、あるいは左記の比較例の彩色膜振動吸音板を用いた場合の、彩色膜振動吸音板(樹脂薄膜)の光沢に起因する眩光に関する評価結果を記述した。実施例1に用いた、樹脂薄膜の表側にエンボス加工を施した場合には、太陽光や自動車のヘッドライトに起因する眩光は認められなかったが、エンボス加工を施していない左記の比較例の場合には眩光が認めらた。
【0041】
(実施例4)
最近、透光型膜振動吸音板と透光性の遮音板を組み合わせた、透光型の道路中央分離帯用防音壁が出現している。ところが、この防音壁を用いた場合には、自動車のヘッドライトの光が対向車線の運転者の目に直接入るために、この眩光に起因する運転上の安全性に課題がある。本発明の中央分離帯用眩光防止防音壁29を用いることにより、この課題が解決される。
【0042】
図9と図10は、本発明の道路中央分離帯用防音壁29に用いる両面タイプ吸音パネル(25と26)の説明図を示す。両面タイプ吸音パネル(25と26)とは、一枚のポリカーボネート製透光型遮音板(23)の両側に所定の空気層を介して膜振動吸音板(4または22)を配設した吸音パネル(25と26)である。これを道路の中央分離帯用防音壁29に用いることにより、両側で発生している道路騒音の吸音が可能となる。
【0043】
図9に示す不透光型両面タイプ吸音パネル25の吸音側平面サイズは1000mm×2000mmとする。従って、道路中央分離帯用防音壁29の自動車のヘッドライトの光が問題となる下方の2段(合計で高さ2m)の両面タイプ吸音パネル25の膜振動吸音板は前記実施例1と同様の、表側にエンボス加工を施した彩色膜振動吸音板4とする。一方、その上の4段に関しては、図10に示す透光型両面タイプ吸音パネル26であるので、透光型膜振動吸音板22とポリカーボネート製透光型遮音板23を用いる。枠材はいずれもアルミ製枠材24とする。
【0044】
図11は、当該実施例の眩光防止機能を有する透光型道路中央分離帯用防音壁29の説明図を示す。まず透光性のない白色の彩色膜振動吸音板4を用いた、不透光型両面タイプ吸音パネル25をコンクリート製基礎20にH型鋼製の支柱19を立て、この支柱の中に高さが1000mmの吸音パネル25の2段を積み上げる方式を用いた。さらにこの上の4段に透光型両面タイプ吸音パネル26を積み上げて、頂部にアルミ製天蓋28を配設した。
【0045】
【表3】

対向車線の自動車のヘッドライトは上記2段の彩色膜振動吸音板4を用いた不透光型両面タイプ吸音パネル25により遮光されるので、眩光防止機能を有する道路中央分離帯用防音壁29となり得る。表3に実施例4の眩光防止機能を有する透光型道路中央分離帯用防音壁29と、左記の比較例の従来型の透光型道路中央分離帯用防音壁、すなわち、下方の2段も全て透光型の道路中央分離帯用防音壁を用いた場合の評価結果を示す。
【0046】
道路中央分離帯用防音壁の下2段に、彩色膜振動吸音板4を用いた実施例4場合は、対向車線のヘッドライトに起因する眩光防止性が良好であるが、下2段を含めてすべて透明樹脂薄膜を用いた、従来型の道路中央分離帯用防音壁を用いた場合には眩光防止性は不良であった。道路中央分離帯用防音壁の下2段に樹脂薄膜の表側にエンボス加工を施した実施例4の場合には、太陽光やヘッドライトに起因する光沢は認められなかったが、エンボス加工を施していない左記の比較例の場合には光沢が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
優れた吸音特性を有し、薄型・軽量で、かつ難燃性・耐候性に優れた、内装用の彩色膜振動吸音板として利用できる。また、道路・鉄道防音壁用および道路中央分離帯用の彩色膜振動吸音板としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】アルミニウム製エキスパンドメタルを説明する図である。
【図2】本実施例の彩色膜振動吸音板の平面図である。
【図3】図2のb−b断面図である。
【図4】鋼板製筐体の開口側に、彩色膜振動吸音板をセットした状態の吸音パネル構造体の概略図である。
【図5】図4のc−c断面図である。
【図6】平板自重湾曲懸垂方式吸音構造体を示す図である。
【図7】道路・鉄道用吸音パネルの説明図である。
【図8】道路・鉄道用防音壁の一例を示す図である。
【図9】不透光型両面タイプ吸音パネルの説明図である。
【図10】透光型両面タイプ吸音パネルの説明図である。
【図11】眩光防止機能を有する透光型道路中央分離帯用防音壁の説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 アルミニウム製エキスパンドメタルの一つの網目
2 彩色樹脂薄膜
3 平坦加工後のアルミニウム製エキスパンドメタル
4 彩色膜振動吸音板
5 網目サイズが4mm×8mmの平坦加工した板状体
6 網目サイズが5mm×10mmの平坦加工した板状体
7 フッ素系彩色樹脂薄膜
8 鋼板製筐体
9 吸音パネル構造体
10 中桟
11 遮音板
13 平板自重湾曲懸垂方式吸音構造体
14 鋼板製パネル枠
15 鋼板製遮音板
16 鋼板製中桟
17 道路・鉄道用吸音パネル
18 防音壁頂部消音装置
19 H型鋼製の支柱
20 コンクリート製基礎
21 道路・鉄道用防音壁
22 透光型膜振動吸音板
23 ポリカーボネート製透光型遮音板
24 アルミ製枠材
25 不透光型両面タイプ吸音パネル
26 透光型両面タイプ吸音パネル
27 アルミ製中桟
28 アルミ製天蓋
29 眩光防止機能を有する透光型道路中央分離帯用防音壁


特許出願人 株式会社 ユニックス
代理人 弁理士 椎 名 彊


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の開口を有する2枚の板状体で彩色した樹脂薄膜を挟持してなる彩色膜振動吸音板であって、該樹脂薄膜の少なくとも一方の表面にエンボス加工を施すことにより、その表面粗さ(JIS B−0601)が、中心面平均粗さRa 1.0μm〜5.0μm、十点平均粗さRz 5.0μm〜15.0μmの物性を示すことを特徴とする、彩色膜振動吸音板。
【請求項2】
請求項1に記載の彩色膜振動吸音板が、網目の大きさの異なる二枚のアルミニウム製エキスパンドメタルを事前に平坦化し、この二枚の、エキスパンドメタルの少なくとも一枚の表面に塗装を施し、この二枚の板状体で一枚の彩色樹脂薄膜を挟持する構造の積層体であることを特徴とする、彩色膜振動吸音板。
【請求項3】
請求項2に記載の少なくとも一枚の塗装を施したエキスパンドメタルの表面に、さらに模様や文字を描画したことを特徴とする彩色膜振動吸音板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の彩色膜振動吸音板を用いた室内装飾用吸音構造体であって、懸垂して用いることを特徴とする室内装飾用吸音構造体。
【請求項5】
遮音板と金属製の枠部材で筐体を形成し、そのもう一方の面(開放面)に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の彩色膜振動吸音板を配設したことを特徴とする吸音パネルならびにそれを用いた道路・鉄道用防音壁。
【請求項6】
前面(音源側)に透光型膜振動吸音板を配設した二式の筐体で、一枚の透光性遮音板を挟持した構造の透光型の道路中央分離帯用防音壁であって、自動車のヘッドライトの光が対向車線の運転者の目に直接入らないように、当該防音壁を構成する下段の吸音パネルに、請求項1〜3のいずれか1項に記載の彩色膜振動吸音板を用いたことを特徴とする、眩光防止機能を有する透光型道路中央分離帯用防音壁。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−189926(P2010−189926A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35303(P2009−35303)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000138680)株式会社ユニックス (13)
【Fターム(参考)】