後方散乱電子回折パターンの歪みを修正する方法
【課題】後方散乱電子回折(EBSD)パターンの磁場歪みを修正すること。
【解決手段】後方散乱電子回折(EBSD)パターンの磁場歪みを修正する方法が提供される。最初に、EBSDパターンが、電子顕微鏡内に配置された試料から生成される。顕微鏡内の磁場の所定の表現が用いられ、顕微鏡内の電子の軌道が異なった出現角度に対して計算される。次に、計算された軌道を用いて、顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合のEBSDパターンを表現する、修正されたEBSDパターンが、計算される。
【解決手段】後方散乱電子回折(EBSD)パターンの磁場歪みを修正する方法が提供される。最初に、EBSDパターンが、電子顕微鏡内に配置された試料から生成される。顕微鏡内の磁場の所定の表現が用いられ、顕微鏡内の電子の軌道が異なった出現角度に対して計算される。次に、計算された軌道を用いて、顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合のEBSDパターンを表現する、修正されたEBSDパターンが、計算される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡を用いて結晶性試料から得られた後方散乱回折パターンの歪みを修正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小さなサンプルの表面を横切って集束させた電子ビームを走査させることによりこの小さなサンプルを拡大するために、走査電子顕微鏡(SEM)が用いられる。SEMは、また、結晶又は多結晶の大きさ及び形状、結晶格子の方位、並びに、多結晶材料内の結晶の空間的な位置のような、結晶学的な情報を得るためにも用いることができる。
【0003】
このSEM内の電子ビームが、サンプル上の所望の点に当たると、電子がそのサンプルの少量の材料と相互作用し、散乱した電子が結晶格子によって回折させられ、後方散乱電子回折(EBSD)パターンが、そのSEM内の蛍光体スクリーン上に形成される。この蛍光体スクリーンは、低照度積分型CCDデバイスを用いて監視される。このCCDの信号は回折パターンのディジタルイメージを与えるもので、個別の強度値を持った画素の2次元アレイ状のコンピュータにより分析される。蛍光体スクリーンに形成される回折パターンは、直線に近い線の複数対である「菊池バンド」の形状となる。このバンドは、蛍光体スクリーン上において、結晶中におけるブラッグ条件を満足する回折電子ビームのトレースを示す。これらバンドの相対的な間隔及び角度は、電子ビーム及び蛍光体スクリーンに対する、電子ビームの下での結晶の方位を記述する情報を含む。
【0004】
結晶の方位は、回折パターンにおける菊池バンドと結晶構造データベースに含まれる結晶学的な情報とを用いてSEMコンピュータ上で実行されるソフトウェアにより判断される。これは、上記回折パターンにおける各対のバンドを「ハフ空間」中の1つの点に変換する「ハフ変換」として知られるイメージ処理ルーチンを用いて実行される。ハフ空間における上記点の極座標によって、菊池バンドの傾斜角度、及び、このバンドと選択された原点との間の距離が与えられる。回折パターンを分析する際には、ソフトウェアは、回折パターンにおいて同一平面上にない3つの強い菊池バンドを選択して、1つの3重線を形成する。この3重線内の各対の菊池バンド間の格子間角度が、回折パターンのハフ変換により測定される。次に、格子間角度は、結晶データベース内の結晶学的な情報を用いて計算された結晶に関する格子間角度のリストと比較される。このようにして、菊池バンドが正確にインデックスされ、結晶の方位が判断される。
【0005】
電子ビームを集束させるための最終段(対物)電子レンズが試料の近くに磁場を発生させるようになったSEMを用いることによりEBSDパターンが得られる場合に、問題が発生する。この問題は、試料の付近における磁場が大きい「没入型レンズ」SEMにおいて、特に顕著となる。これらの磁場は、イメージ分解能に関しては有益であるが、試料から出る電子の軌道を歪ませる。EBSDパターンは、これらの磁場によって歪まされ、理論的には直線に近い線として現れるであろう特徴が、実際には、没入型レンズSEMを用いて得られるEBSDパターンイメージにおいては湾曲したものとなる。したがって、ハフ変換により得られるこのような歪んだEBSDパターンイメージを分析することは不可能であり、また、これによって、材料分析のために没入型レンズSEMを用いることの有用性が、著しく制限される。
【0006】
米国特許第6,555,817号は、利用可能な実験的情報に基づいてEBSD回折パターンイメージの歪みを修正するシステム及び方法を開示している。キャリブレーション処理においては、試料近くの磁場が無視できる程度であるSEM上では直線に近い線の既知のパターンを与えることになる試料が用いられる。歪んだEBSDパターンが没入型レンズSEM上において得られ、オペレータのディスプレイに表示される。オペレータは、マウスのようなユーザ入力デバイスを用いて、歪んだEBSDパターン内の湾曲した菊池バンドに対応するセグメントと、歪んでいないパターン内のこれに対応するセグメントとを指定する。キャリブレーション処理は、このセグメント化された曲線に適合する一連の数学的曲線を計算する。これらの数学的な曲線は、上記のようにユーザによって指定された線に沿った点が直線を形成するためにシフトしなければならない量を定める。これらの修正パラメータが、パターン修正パラメータ内に保存され、未知の試料から後に得られるすべてのパターンを修正するために用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キャリブレーション処理は、上記パターンにおいて直線に沿った点を特定する際に、ユーザ部分に熟練を要求し、かつ、時間を消費するものである。さらには、磁場が強い場合には、大きく図形がシフトしていることによって、歪んでいないパターン内の多くのバンドが歪んだパターン内においては可視的でなくなる。ハフ変換は、イメージにおいて直線を検出するための処理としてよく知られているが、曲がりが未知の弱いコントラストの線を自動的に検出することは、非常に専門的かつ複雑なパターン認識問題であり、よく知られた解決法はない。キャリブレーション処理は、また、均一でない歪みを十分に修正できることを確実にするためには、パターン全体にわたり、十分な量の曲線を測定することを必要とする。1回のキャリブレーション処理から得られた歪みの修正は、同一のSEM動作条件のもとで後に得られるすべてのパターンに適用できるであろうが、SEMの加速電圧を変化させるか又は試料の高さを変化させた場合には、その新しい条件について新しいキャリブレーションが必要となる。
【0008】
したがって、実際の使用に際しては、歪んでいないイメージ及び歪んだイメージの両方において多数の認識可能な特徴を必要とせず、オペレータの介入を最小限とし、かつ、できるだけ自動化されたキャリブレーション処理を実現することが、非常に強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、後方散乱電子回折パターンの磁場歪みを修正する方法として、電子顕微鏡内に配置された試料から生成されたEBSDパターンを得ることと、異なる出現角度に対して、該顕微鏡内の磁場の所定の表現に従って該顕微鏡内の電子の軌道を計算することと、計算された該軌道を用いて、顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合のEBSDパターンを表現する修正されたEBSDパターンを計算することと、を含む方法が提供される。
【0010】
したがって、本発明は、上述した問題に対処するものであり、かつ、高速で正確な、汎用性のある、電子顕微鏡におけるEBSDパターンを修正する方法を提供するものである。
【0011】
上記磁場の所定の表現は、試料と電子顕微鏡の検出器との間の領域における磁場を記述するもので、好ましくはこの試料の付近に関連するものとすることができる。
【0012】
EBSDパターンは、多くの形をとることができるが、好ましくは、このパターンによりイメージを形成することができるように、画素のアレイにより表現される。これらの画素は、ディジタルカメラのような検出器のシステムの個々の素子に対応するものとすることができる。
【0013】
このEBSDパターンを修正するために、典型的には、上記修正されたEBSDパターンを計算する段階は、前記電子顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合に前記顕微鏡の検出器の上において前記電子が衝突する位置を計算することを含む。次に、修正されていないイメージは、上記磁場における電子の軌道が、どのようにして結果的に上記画素に具現化されるイメージとなったかということを計算することにより、修正することができる。
【0014】
走査電子顕微鏡を含む様々なタイプの電子顕微鏡を、この方法において用いることができる。この方法は、特に「没入型レンズ」走査電子顕微鏡を用いることに有利な適用例を見い出すことができる。よって、電子顕微鏡の磁場は、典型的には1以上の磁気レンズからの漏れ磁場である。
【0015】
磁場の表現は、多くの形をとることができる。例えば、顕微鏡の磁場の表現は、顕微鏡内の多数の空間的位置における磁場の強さ及び方向のデータベースとすることができる。これらは、モデリング及び測定の結果として得ることができる。好ましくは、顕微鏡の磁場のモデルが用いられる。少なくとも1つの磁気双極子の形での磁場の表現を用いて良好な結果を得ることができる、ということが分かっている。このようなモデルは、光学軸を中心にしたリング状に配置された複数の磁気双極子を含むものとすることができる。
【0016】
このようなモデルは、完全に理論的な性質のものであるが、好ましくは、顕微鏡内の磁場の測定値といった実験的データに適合させられる1又はそれ以上のパラメータを含むものである。詳細な磁気モデリングソフトウェアもまた、上記モデルの適合の対象となるデータを与えるために用いることができる。
【0017】
このようなパラメータを選択するときには、上記モデルは、典型的には、顕微鏡の磁場が存在する場合に得られるテストEBSDパターンを用いて計算される結晶方位と、顕微鏡の磁場が所定の閾値以下の、すなわち実際に最小化された、実質的に存在しない場合に得られるEBSDパターンを用いて計算される結晶方位との間の差が与えられるようにされる。或いはまた、これらのパターン自体を比較することができる。磁場が存在しない状態は、相対的に低い(対物レンズの電流が相対的に小さい)顕微鏡倍率を用いることにより十分に近似される。相対的に高い倍率は、磁場の存在の原因となる。低倍率のEBSDイメージを修正された高倍率のイメージと比較して、正しいモデルパラメータを選択することができる。このようなパラメータとして、磁気双極子の位置及び磁場の強さを用いることができる。
【0018】
モデルパラメータは、作動距離、試料の高さ又は顕微鏡の加速電圧に応じて調整することができる。テストパターンは、各々の場合におけるモデルのパラメータを設定するために用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
添付図面を参照して本発明のいくつかの例を説明する。
本発明は、試料の付近の磁場の表現を用いて、その試料から後方散乱した電子の軌道を計算する。その計算は、EBSDパターンがどれだけ歪むであろうかということを求めるために用いられ、そのEBSDパターンをその磁場が存在しない場合にそのEBSDパターンがとるであろう形に再マッピングする方法を提供する。次に、ハフ変換のような通常の技術を適用して、修正されたパターンを分析することができる。
【0020】
図1は、EBSDパターン分析を実行するために構成されたSEM1の構成要素を簡略化して表現したものである。入射電子ビーム2の形をとる電子が、磁気レンズ3を通過し、このビームの方向に対して或る角度に傾斜した表面を有する試料4に衝突する。試料から受け取られた電子は、蛍光体スクリーン5に衝突する。1つの最終段対物レンズ3が示されているが、収差を低減するために付加的な磁気レンズを設けることができる。以下の説明は、1つの対物レンズについて述べるが、本発明は、試料の付近に強い磁場が存在するような構成にも適用することができる。この磁場は、磁場がレンズの金属製ハウジング内に限定されるような通常のSEMを用いた状況と対比して、時には「漏れ磁場」と称される。この磁場は、また、上記状況と試料が磁場のない領域にあるような通常のSEMとをさらに区別するために「没入」磁場とも称される。
【0021】
対物レンズより下方での磁場のジオメトリ及び漏れ磁場の強さという点では、その詳細は、通常は未知であるが、良質のSEMの対物レンズについては、磁場は、その対物レンズの光軸に関して放射方向に対称性を有する。漂遊磁場がなければ、弾性的に散乱した電子は、直線上を進み、集束させた入射ビームによって衝突された試料4における点から進み始めて、EBSDパターンが形成される蛍光体スクリーン5に向かって移動する。これが矢印6によって示されている。しかしながら、磁場がある場合には、帯電した粒子の軌道が、eを電子の電荷とし、vを速度ベクトルとし、Bを磁場の強さベクトルとした場合に、ベクトル外積(ev×B)で表されるローレンツ力によって曲がる。漏れ磁場が、矢印7によって図示されている。
【0022】
一般的な場合には、磁場の強さ及び方向は変化する。このことは、図2において、小さい矢印が異なる位置において磁場の方向を示し、かつ、影を付けた輪郭が磁場の強さを示す2次元断面として図示されている。
【0023】
菊池バンドを形成する電子は、入射ビームと同じエネルギーを本質的に有するので、速度の大きさは、電子が試料からの軌道を開始したときに計算することができる。初期方向が、直線軌道を用いて電子が蛍光体に対し位置(x0、y0)において衝突するように選択され、次に、初期速度ベクトルvの大きさ及び方向が決定される。任意の位置において磁場の強さ及び方向すなわちBを予測できれば、電子に対する初期の力を計算することができ、また、これにより、加速度が決定される。当業者であれば理解できる通り、軌道に沿ってわずかに増加させた時間及び距離を考慮すれば、今度はこの増加端における電子の新しい位置及び速度を予測するようにして、電子の方向の変化を計算することができる。連続的に増加させてこのような計算を繰り返すことにより、電子が蛍光体の平面に位置(x、y)において到達するまで、電子の軌道をたどることができる。
【0024】
図3において、左方から始まる大きな矩形グリッドが、漏れ磁場が存在しない場合に後方散乱した電子が蛍光体の平面に到達する位置に現れている。右方に移動しており、各々が矩形グリッドと交差する点に対応している複数のドットが、磁場がある場合に上記と同一の電子が蛍光体の平面に到達する位置に現れている。中央における四角形の領域が、ディジタルカメラによって撮像される画素の矩形グリッドを効果的に定める蛍光体の物理的な位置を示す。蛍光体上の(x、y)における画素内で終了するすべての軌道について、磁場が存在しない場合に電子が到達したであろう、各軌道に対応する位置が、格納される。軌道が終了しない画素については、(x0、y0)の値が、その画素の付近の値から補間される。
【0025】
このように、すべての画素について、磁場が存在しない場合にこの画素に寄与する電子が蛍光体の平面に衝突すると推定される位置を示す修正値が、格納される。この例において、図4に示すように、ここで、蛍光体から記録された画素の矩形イメージグリッドが、図4の左方に向かう画素の非矩形グリッドにマッピングされる。本発明は、ここで説明するような矩形及び四角形のグリッドに限定されない、ということが理解できよう。
【0026】
図4が示すように、再マッピングされた画素は、もはや均一なグリッドとして配置されていない。このイメージに対する後の分析のためには、修正された画素の均一なアレイを設けることがさらに便利であり、したがって、中間位置には、近くの画素の強さに基づく補間により得られた強さの値が割り当てられる。
【0027】
ゲルマニウムのような知られた結晶性試料が、蛍光体上にEBSDパターンを形成する場合には、菊池バンドが曲がることは明らかである。このことが図5に示されている。
【0028】
画素が上述したように再マッピングされたとき、修正されたパターン(図6)は、菊池バンドが真っすぐに延びる状態になっていることを示しており、この結果得られたパターンは、今では例えばハフ変換を用いて分析され、交差するバンドの位置及び角度を求めることができるものとなっている。
【0029】
この方法にとっての肝要な点は、磁場の分布を求めることにある。顕微鏡のレンズは、通常、磁場モデリングソフトウェアを用いて設計され、一例としては、電子顕微鏡の製造業者は、異なるレンズ電流について磁場ベクトルを記述したデータベースを生成することができる。このデータは、計算によって生成することができる。或いはまた、チャンバ内の多数の位置における磁場の強さを測定してもよい。しかしながら、両方の場合において、実際に用いられそうなあらゆる条件において磁場の値を得ることは有用であり、また、正確な軌道計算を行うために十分な位置において磁場の強さを得ることが、必ずしもいつも可能なわけではない。ここで説明した手法は、1以上の磁気双極子を用いて磁場をモデリングするものである。次に、用いた磁気双極子の位置、距離及び強さが、磁場に対する最良の近似を与えるように調整される。
【0030】
図7において、対物レンズについての軸方向磁場の強さ(ピークを示す曲線)が、20mmのところで分離した磁気双極子により形成された近似的な磁場と比較されている。磁極片から10mm以上離れた距離については、近似的な磁場は、非常に良好であり、作動距離が10mmより十分に大きい場合にパターンを修正するのに十分である、ということが分かる。より精巧なモデルであれば、実際の磁場分布に対して十分に正確に適合することができる。図8において、各々が40mmの長さ及び直径7mmを有し、円形状に配置された16個の双極子が、幅広い範囲の作動距離にわたって歪みを修正するのに適した、顕微鏡レンズの磁場に、適合している。
【0031】
さらに複雑なモデルは、より多くの計算時間を必要とする。長さ、位置及び強さを変化させることが可能な1つの双極子による近似は、いくつかの場合において十分である。どのようなモデルを選んだとしても、特定の双極子の強さにおけるパラメータを最適化しなくてはならない。このような最適化は、実験的な又はモデル化された磁場の分布に対する最良適合となるように選択することができるが、パラメータが、既知の試料からのEBSDパターンを測定することを含んだキャリブレーション処理によって導かれる方法を、以下に説明する。
【0032】
磁場没入型SEMが、低倍率(LM)モードで動作する場合には、EBSDパターンは比較的歪まない。同一の電圧及び作動距離の下において高倍率(HM)モードで得られる歪みパターンが、図9A及び図9Bに示すように、LMパターンと対になる。図9Aは、20kV及びWD(作動距離)=15mmの下において得られた、無歪低倍率(LM)パターンである。図9Bは、同一の電圧及び作動距離の下において得られた、歪み高倍率(LM)パターンである。
【0033】
この例では、図9Bにおけるパターンの歪みは、磁気単極子が或る与えられた低い位置(LML)にあり、かつ、磁気双極子の磁場B0がこの磁気単極子から距離r0の位置にある場合の双極子の磁場に起因すると推定する。次に、この磁場は、上述した軌道計算方法を用いて、歪みパターンを無歪パターンに関連付けるために用いることができる。一例として、この磁場に対する、過小評価、略適切な評価及び過大評価による結果が、それぞれ、図10A、図10B及び図10Cに示されているが、実際には、最適な磁場を選択する客観的な方法が有益である。
【0034】
異なる磁場の強さB0が、図10A乃至図10Cにおける歪みパターンを修正するために用いられる。図10Aは、B0=5.6テスラを用いて不十分な修正をした場合を示し、図10Bは、B0=8.6テスラを用いて十分な修正をした場合を示し、図10Cは、B0=11.6テスラを用いて過度な修正をした場合を示す。
【0035】
モデルパラメータを最適化する1つの方法は、通常のEBSDキャリブレーション処理を用いて、低倍率(LM)パターンにおけるいわゆる「パターン中心」を識別することである。「パターン中心」とは、無歪電子軌道が垂直入射して蛍光体の平面と交差する、この平面における点である。この点が、蛍光体の上にあれば、「パターン中心」の近くにおいて認識可能な特徴は、高倍率(HM)パターンにおいて対応する位置に配置するのに用いることができる。次に、この磁場モデルパラメータは、パターン中心の明白な移動に合致する電子の軌道に対して必要な変更を施すために調整される。
【0036】
磁場パラメータをさらに精密に調整する方法は、磁場パラメータの異なる値について修正されたパターンを解くことを含む。歪み高倍率(HM)パターンが十分に修正された場合には、このパターンから(例えばハフ変換及びその後の分析を用いて)得られた結晶方位は、同一の試料の無歪低倍率(LM)パターンを用いて求められる結晶方位と同一となるはずである。実際には、高倍率(HM)パターンから求められた結晶方位と低倍率(LM)パターンから求められた結晶方位との間の方位誤差が1°未満である場合には、パターン修正は通常十分である。
【0037】
次の例では、歪み高倍率パターンを修正するための磁場の強さが、方位誤差と磁場の強さとを対応付けてプロットすることにより決定される。25kVで得られるパターン及び3つの異なる作動距離が、顕微鏡における特定の磁気双極子の位置についての磁場の強さを計算するために用いられる。これが図11に示されている。低倍率(LM)パターンを用いた分析と修正された高倍率(HM)パターンを用いた分析との間の方位誤差を0.5°未満にすることを実現するために、3つの作動距離における高倍率(HM)パターンを修正するのに、−15.5、−13及び−12テスラというさらに低い磁気単極子の磁場の強さを示す3つの曲線の最小値を用いることができる。
【0038】
いくつかの顕微鏡の構成では、漏れ磁場を一定に保ちながら試料の高さを変化させることができる。この場合には、低倍率(LM)パターンと修正された高倍率(HM)パターンとの間の方位誤差を最小限にする磁気単極子の強さは、試料の高さとともに変化することになる。これにより十分な修正を行うことができるが、漏れ磁場が常に同一である場合には、理論的な磁場モデルは、電子ビームが試料に衝突する位置の高さとは無関係なものとなる。しかしながら、最終段レンズに関して異なる磁気双極子の位置を用いた計算を繰り返すことにより、異なる試料の高さにより得られたパターンを修正することができる磁場の強さを、同一の値に集めることができる。これは、20kVのパターンとして図12に示されている。異なる試料の高さにより得られる歪みパターンについての方位誤差の最小値が、上記と同一の磁場の強さである−8.5テスラによって実現される。
一連のSEM加速電圧で得られたパターンが同様に用いられ、十分なパターン修正を与える磁気双極子モデルのパラメータを求めることができる。
【0039】
磁場パラメータをさらに精密に調整する(上述した)方法に用いられる処理は、磁場パラメータの異なる値について修正されたパターンを解くことを含む。この処理は、以下のような方法ステップに要約することができる。
(1)低倍率(LM)モードにおいて(実質的に歪みを含まない)「参照」後方散乱電子回折パターンを得る。
(2)菊池バンドを検出し、かつ、インデックスすることを可能にして(1)において得られた参照パターンを解くことができるようにするために、EBSDパターンを調整する。
(3)ここでは(高倍率)HMモードを用いているが(1)におけるものと同一の位置から歪みEBSDパターンを得る。
(4)磁束の分布を与えるための、このモデルについて磁場パラメータを選択する。
(5)(4)において選択した磁場パラメータを高倍率(HM)パターンに適用して、歪みEBSDパターンを修正することを試みる。
(6)(5)において「修正しされた」パターンを用いて、(2)における「参照」低倍率(LM)パターンの方位に関する方位誤差を計算する。
(7)「修正された」パターンの解と「参照」パターンの解との間において所望レベルの方位誤差を得るために、(4)において(磁束のような)磁場パラメータを選択することにより、ステップ(4)から(6)を繰り返す。
【0040】
選択された磁場パラメータが、顕微鏡内の磁場を表現するために選択されたモデルに依存する、ということが理解できよう。これらのパラメータの1つ、例えば磁場の強さのようなパラメータは、変化させることができ、或いは、より複雑な場合には、多数のパラメータを変化させることができる。変化させるために選択された磁場パラメータは、所定の順序に従って変更することができる。方位誤差は十分に最小化することが望ましいが、修正の精度を最大化するためには、実際には、方位誤差の閾値は、修正が効率的に小さく、したがって受け入れられる、とみなされる値以下に、設定することができる。これは、修正されたパターンの最終的な利用の仕方に依存する。
【0041】
別の例では、このモデルのための所望の磁場パラメータが、「参照」後方散乱電子回折パターンの解も「歪み」後方散乱電子回折パターンの解のいずれをも必要とすることなく、得ることができる。代わりに、2つの生パターン間の最良適合を得るために、これら2つの生パターンが互いに関連付けられる。この方法は以下の通りである。
(i)低倍率(LM)モードを用いて「参照」後方散乱電子回折パターンを得る。
(ii)ここでは高倍率モード(HM)を用いるが、(i)におけるものと同一の試料の位置から「歪み」後方散乱電子回折パターンを得る。
(iii)この歪みパターンに適用する適切な磁場パラメータを選択する。
(iv)上記のように選択されたパラメータを適用して、この歪みパターンを「修正する」。
(v)「修正された」パターンを直接的に「参照」パターンと比較する。
(vi)修正されたパターンと参照パターンとの間において十分な関連性を得るために、「黄金比」(又はこれと等価な)最小化アルゴリズムを用いて磁場パラメータを変化させて、ステップ(iii)から(v)を繰り返す。
【0042】
上述した方法におけると同様に、閾値は、これら2つのパターン間の関連性が十分であるとみなされる値以下に設定することができる。「黄金比」アルゴリズムは、例えば「Press, W.H., Teukolsky, S.A., Vetterling, W.T., and Flannery, B.P., 1999, Numerical Recipes in C, The Art of Scientific Computing, second edition, Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom」に見ることができる。
【0043】
このように、上述した方法では、適切な「修正」磁場パラメータを得るために比較されるのは、パターンに起因するインデックスではなくパターンそのものである。各パターンにおける対応する領域を比較する必要があると、ということが理解できよう。
【0044】
これらの例は、通常のEBSD技術を用いて解くことができる修正されたパターンを得るために、磁場のための簡単な磁気双極子モデルを用いることができる、ということを示す。さらには、このモデルに適したパラメータは、2つのイメージにおいて対応する特徴をユーザに識別させる必要のないキャリブレーション処理によって得ることができ、これらのパラメータは、関数最小値(function minimum)を探すことによって、すなわち、自動化することが容易な処理によって、決定することができる。
【0045】
本明細書は、パターンの歪みを計算するために没入磁場の知識を如何に効果的に用いることができるかを示している。磁場が正確に分かっていない場合に、詳細なレンズ設計及びレンズモデリングツールを利用することは有利であるが、簡単な磁気双極子の近似を最適化してパターンを十分に修正することも依然として可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、後方散乱パターンを得るためのSEMの構成を示す概略図である。
【図2】図2は、典型的な漏れ磁場を示す。
【図3】図3は、漏れ磁場がある場合の電子の軌道と漏れ磁場が存在しない場合の電子の軌道との間の関係を示す。
【図4】図4は、受け取ったグリッドにおける電子の発信源を示す。
【図5】ゲルマニウムについての典型的な歪んだEBSDを示す。
【図6】対応する修正されたEBSDを示す。
【図7】磁気レンズ軸方向磁場の強さと磁気双極子の軸方向磁場の強さとの間の比較を示す。
【図8】磁気レンズが円形状に配置した磁気双極子を用いてモデル化される様子を示す。
【図9A】低倍率における磁場没入型SEMのEBSDの一例を示す。
【図9B】歪み収差を示した、高倍率における磁場没入型SEMのEBSDの一例を示す。
【図10A】不十分な修正がされたEBSDパターンの一例を示す。
【図10B】十分な修正がされたEBSDパターンを示す。
【図10C】過度な修正がされたEBSDパターンを示す。
【図11】3つの作動距離についての方位誤差と磁場の強さとの関係を示す。
【図12】試料の異なった高さで異なった磁気双極子の位置を用いることができる様子を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡を用いて結晶性試料から得られた後方散乱回折パターンの歪みを修正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小さなサンプルの表面を横切って集束させた電子ビームを走査させることによりこの小さなサンプルを拡大するために、走査電子顕微鏡(SEM)が用いられる。SEMは、また、結晶又は多結晶の大きさ及び形状、結晶格子の方位、並びに、多結晶材料内の結晶の空間的な位置のような、結晶学的な情報を得るためにも用いることができる。
【0003】
このSEM内の電子ビームが、サンプル上の所望の点に当たると、電子がそのサンプルの少量の材料と相互作用し、散乱した電子が結晶格子によって回折させられ、後方散乱電子回折(EBSD)パターンが、そのSEM内の蛍光体スクリーン上に形成される。この蛍光体スクリーンは、低照度積分型CCDデバイスを用いて監視される。このCCDの信号は回折パターンのディジタルイメージを与えるもので、個別の強度値を持った画素の2次元アレイ状のコンピュータにより分析される。蛍光体スクリーンに形成される回折パターンは、直線に近い線の複数対である「菊池バンド」の形状となる。このバンドは、蛍光体スクリーン上において、結晶中におけるブラッグ条件を満足する回折電子ビームのトレースを示す。これらバンドの相対的な間隔及び角度は、電子ビーム及び蛍光体スクリーンに対する、電子ビームの下での結晶の方位を記述する情報を含む。
【0004】
結晶の方位は、回折パターンにおける菊池バンドと結晶構造データベースに含まれる結晶学的な情報とを用いてSEMコンピュータ上で実行されるソフトウェアにより判断される。これは、上記回折パターンにおける各対のバンドを「ハフ空間」中の1つの点に変換する「ハフ変換」として知られるイメージ処理ルーチンを用いて実行される。ハフ空間における上記点の極座標によって、菊池バンドの傾斜角度、及び、このバンドと選択された原点との間の距離が与えられる。回折パターンを分析する際には、ソフトウェアは、回折パターンにおいて同一平面上にない3つの強い菊池バンドを選択して、1つの3重線を形成する。この3重線内の各対の菊池バンド間の格子間角度が、回折パターンのハフ変換により測定される。次に、格子間角度は、結晶データベース内の結晶学的な情報を用いて計算された結晶に関する格子間角度のリストと比較される。このようにして、菊池バンドが正確にインデックスされ、結晶の方位が判断される。
【0005】
電子ビームを集束させるための最終段(対物)電子レンズが試料の近くに磁場を発生させるようになったSEMを用いることによりEBSDパターンが得られる場合に、問題が発生する。この問題は、試料の付近における磁場が大きい「没入型レンズ」SEMにおいて、特に顕著となる。これらの磁場は、イメージ分解能に関しては有益であるが、試料から出る電子の軌道を歪ませる。EBSDパターンは、これらの磁場によって歪まされ、理論的には直線に近い線として現れるであろう特徴が、実際には、没入型レンズSEMを用いて得られるEBSDパターンイメージにおいては湾曲したものとなる。したがって、ハフ変換により得られるこのような歪んだEBSDパターンイメージを分析することは不可能であり、また、これによって、材料分析のために没入型レンズSEMを用いることの有用性が、著しく制限される。
【0006】
米国特許第6,555,817号は、利用可能な実験的情報に基づいてEBSD回折パターンイメージの歪みを修正するシステム及び方法を開示している。キャリブレーション処理においては、試料近くの磁場が無視できる程度であるSEM上では直線に近い線の既知のパターンを与えることになる試料が用いられる。歪んだEBSDパターンが没入型レンズSEM上において得られ、オペレータのディスプレイに表示される。オペレータは、マウスのようなユーザ入力デバイスを用いて、歪んだEBSDパターン内の湾曲した菊池バンドに対応するセグメントと、歪んでいないパターン内のこれに対応するセグメントとを指定する。キャリブレーション処理は、このセグメント化された曲線に適合する一連の数学的曲線を計算する。これらの数学的な曲線は、上記のようにユーザによって指定された線に沿った点が直線を形成するためにシフトしなければならない量を定める。これらの修正パラメータが、パターン修正パラメータ内に保存され、未知の試料から後に得られるすべてのパターンを修正するために用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キャリブレーション処理は、上記パターンにおいて直線に沿った点を特定する際に、ユーザ部分に熟練を要求し、かつ、時間を消費するものである。さらには、磁場が強い場合には、大きく図形がシフトしていることによって、歪んでいないパターン内の多くのバンドが歪んだパターン内においては可視的でなくなる。ハフ変換は、イメージにおいて直線を検出するための処理としてよく知られているが、曲がりが未知の弱いコントラストの線を自動的に検出することは、非常に専門的かつ複雑なパターン認識問題であり、よく知られた解決法はない。キャリブレーション処理は、また、均一でない歪みを十分に修正できることを確実にするためには、パターン全体にわたり、十分な量の曲線を測定することを必要とする。1回のキャリブレーション処理から得られた歪みの修正は、同一のSEM動作条件のもとで後に得られるすべてのパターンに適用できるであろうが、SEMの加速電圧を変化させるか又は試料の高さを変化させた場合には、その新しい条件について新しいキャリブレーションが必要となる。
【0008】
したがって、実際の使用に際しては、歪んでいないイメージ及び歪んだイメージの両方において多数の認識可能な特徴を必要とせず、オペレータの介入を最小限とし、かつ、できるだけ自動化されたキャリブレーション処理を実現することが、非常に強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、後方散乱電子回折パターンの磁場歪みを修正する方法として、電子顕微鏡内に配置された試料から生成されたEBSDパターンを得ることと、異なる出現角度に対して、該顕微鏡内の磁場の所定の表現に従って該顕微鏡内の電子の軌道を計算することと、計算された該軌道を用いて、顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合のEBSDパターンを表現する修正されたEBSDパターンを計算することと、を含む方法が提供される。
【0010】
したがって、本発明は、上述した問題に対処するものであり、かつ、高速で正確な、汎用性のある、電子顕微鏡におけるEBSDパターンを修正する方法を提供するものである。
【0011】
上記磁場の所定の表現は、試料と電子顕微鏡の検出器との間の領域における磁場を記述するもので、好ましくはこの試料の付近に関連するものとすることができる。
【0012】
EBSDパターンは、多くの形をとることができるが、好ましくは、このパターンによりイメージを形成することができるように、画素のアレイにより表現される。これらの画素は、ディジタルカメラのような検出器のシステムの個々の素子に対応するものとすることができる。
【0013】
このEBSDパターンを修正するために、典型的には、上記修正されたEBSDパターンを計算する段階は、前記電子顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合に前記顕微鏡の検出器の上において前記電子が衝突する位置を計算することを含む。次に、修正されていないイメージは、上記磁場における電子の軌道が、どのようにして結果的に上記画素に具現化されるイメージとなったかということを計算することにより、修正することができる。
【0014】
走査電子顕微鏡を含む様々なタイプの電子顕微鏡を、この方法において用いることができる。この方法は、特に「没入型レンズ」走査電子顕微鏡を用いることに有利な適用例を見い出すことができる。よって、電子顕微鏡の磁場は、典型的には1以上の磁気レンズからの漏れ磁場である。
【0015】
磁場の表現は、多くの形をとることができる。例えば、顕微鏡の磁場の表現は、顕微鏡内の多数の空間的位置における磁場の強さ及び方向のデータベースとすることができる。これらは、モデリング及び測定の結果として得ることができる。好ましくは、顕微鏡の磁場のモデルが用いられる。少なくとも1つの磁気双極子の形での磁場の表現を用いて良好な結果を得ることができる、ということが分かっている。このようなモデルは、光学軸を中心にしたリング状に配置された複数の磁気双極子を含むものとすることができる。
【0016】
このようなモデルは、完全に理論的な性質のものであるが、好ましくは、顕微鏡内の磁場の測定値といった実験的データに適合させられる1又はそれ以上のパラメータを含むものである。詳細な磁気モデリングソフトウェアもまた、上記モデルの適合の対象となるデータを与えるために用いることができる。
【0017】
このようなパラメータを選択するときには、上記モデルは、典型的には、顕微鏡の磁場が存在する場合に得られるテストEBSDパターンを用いて計算される結晶方位と、顕微鏡の磁場が所定の閾値以下の、すなわち実際に最小化された、実質的に存在しない場合に得られるEBSDパターンを用いて計算される結晶方位との間の差が与えられるようにされる。或いはまた、これらのパターン自体を比較することができる。磁場が存在しない状態は、相対的に低い(対物レンズの電流が相対的に小さい)顕微鏡倍率を用いることにより十分に近似される。相対的に高い倍率は、磁場の存在の原因となる。低倍率のEBSDイメージを修正された高倍率のイメージと比較して、正しいモデルパラメータを選択することができる。このようなパラメータとして、磁気双極子の位置及び磁場の強さを用いることができる。
【0018】
モデルパラメータは、作動距離、試料の高さ又は顕微鏡の加速電圧に応じて調整することができる。テストパターンは、各々の場合におけるモデルのパラメータを設定するために用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
添付図面を参照して本発明のいくつかの例を説明する。
本発明は、試料の付近の磁場の表現を用いて、その試料から後方散乱した電子の軌道を計算する。その計算は、EBSDパターンがどれだけ歪むであろうかということを求めるために用いられ、そのEBSDパターンをその磁場が存在しない場合にそのEBSDパターンがとるであろう形に再マッピングする方法を提供する。次に、ハフ変換のような通常の技術を適用して、修正されたパターンを分析することができる。
【0020】
図1は、EBSDパターン分析を実行するために構成されたSEM1の構成要素を簡略化して表現したものである。入射電子ビーム2の形をとる電子が、磁気レンズ3を通過し、このビームの方向に対して或る角度に傾斜した表面を有する試料4に衝突する。試料から受け取られた電子は、蛍光体スクリーン5に衝突する。1つの最終段対物レンズ3が示されているが、収差を低減するために付加的な磁気レンズを設けることができる。以下の説明は、1つの対物レンズについて述べるが、本発明は、試料の付近に強い磁場が存在するような構成にも適用することができる。この磁場は、磁場がレンズの金属製ハウジング内に限定されるような通常のSEMを用いた状況と対比して、時には「漏れ磁場」と称される。この磁場は、また、上記状況と試料が磁場のない領域にあるような通常のSEMとをさらに区別するために「没入」磁場とも称される。
【0021】
対物レンズより下方での磁場のジオメトリ及び漏れ磁場の強さという点では、その詳細は、通常は未知であるが、良質のSEMの対物レンズについては、磁場は、その対物レンズの光軸に関して放射方向に対称性を有する。漂遊磁場がなければ、弾性的に散乱した電子は、直線上を進み、集束させた入射ビームによって衝突された試料4における点から進み始めて、EBSDパターンが形成される蛍光体スクリーン5に向かって移動する。これが矢印6によって示されている。しかしながら、磁場がある場合には、帯電した粒子の軌道が、eを電子の電荷とし、vを速度ベクトルとし、Bを磁場の強さベクトルとした場合に、ベクトル外積(ev×B)で表されるローレンツ力によって曲がる。漏れ磁場が、矢印7によって図示されている。
【0022】
一般的な場合には、磁場の強さ及び方向は変化する。このことは、図2において、小さい矢印が異なる位置において磁場の方向を示し、かつ、影を付けた輪郭が磁場の強さを示す2次元断面として図示されている。
【0023】
菊池バンドを形成する電子は、入射ビームと同じエネルギーを本質的に有するので、速度の大きさは、電子が試料からの軌道を開始したときに計算することができる。初期方向が、直線軌道を用いて電子が蛍光体に対し位置(x0、y0)において衝突するように選択され、次に、初期速度ベクトルvの大きさ及び方向が決定される。任意の位置において磁場の強さ及び方向すなわちBを予測できれば、電子に対する初期の力を計算することができ、また、これにより、加速度が決定される。当業者であれば理解できる通り、軌道に沿ってわずかに増加させた時間及び距離を考慮すれば、今度はこの増加端における電子の新しい位置及び速度を予測するようにして、電子の方向の変化を計算することができる。連続的に増加させてこのような計算を繰り返すことにより、電子が蛍光体の平面に位置(x、y)において到達するまで、電子の軌道をたどることができる。
【0024】
図3において、左方から始まる大きな矩形グリッドが、漏れ磁場が存在しない場合に後方散乱した電子が蛍光体の平面に到達する位置に現れている。右方に移動しており、各々が矩形グリッドと交差する点に対応している複数のドットが、磁場がある場合に上記と同一の電子が蛍光体の平面に到達する位置に現れている。中央における四角形の領域が、ディジタルカメラによって撮像される画素の矩形グリッドを効果的に定める蛍光体の物理的な位置を示す。蛍光体上の(x、y)における画素内で終了するすべての軌道について、磁場が存在しない場合に電子が到達したであろう、各軌道に対応する位置が、格納される。軌道が終了しない画素については、(x0、y0)の値が、その画素の付近の値から補間される。
【0025】
このように、すべての画素について、磁場が存在しない場合にこの画素に寄与する電子が蛍光体の平面に衝突すると推定される位置を示す修正値が、格納される。この例において、図4に示すように、ここで、蛍光体から記録された画素の矩形イメージグリッドが、図4の左方に向かう画素の非矩形グリッドにマッピングされる。本発明は、ここで説明するような矩形及び四角形のグリッドに限定されない、ということが理解できよう。
【0026】
図4が示すように、再マッピングされた画素は、もはや均一なグリッドとして配置されていない。このイメージに対する後の分析のためには、修正された画素の均一なアレイを設けることがさらに便利であり、したがって、中間位置には、近くの画素の強さに基づく補間により得られた強さの値が割り当てられる。
【0027】
ゲルマニウムのような知られた結晶性試料が、蛍光体上にEBSDパターンを形成する場合には、菊池バンドが曲がることは明らかである。このことが図5に示されている。
【0028】
画素が上述したように再マッピングされたとき、修正されたパターン(図6)は、菊池バンドが真っすぐに延びる状態になっていることを示しており、この結果得られたパターンは、今では例えばハフ変換を用いて分析され、交差するバンドの位置及び角度を求めることができるものとなっている。
【0029】
この方法にとっての肝要な点は、磁場の分布を求めることにある。顕微鏡のレンズは、通常、磁場モデリングソフトウェアを用いて設計され、一例としては、電子顕微鏡の製造業者は、異なるレンズ電流について磁場ベクトルを記述したデータベースを生成することができる。このデータは、計算によって生成することができる。或いはまた、チャンバ内の多数の位置における磁場の強さを測定してもよい。しかしながら、両方の場合において、実際に用いられそうなあらゆる条件において磁場の値を得ることは有用であり、また、正確な軌道計算を行うために十分な位置において磁場の強さを得ることが、必ずしもいつも可能なわけではない。ここで説明した手法は、1以上の磁気双極子を用いて磁場をモデリングするものである。次に、用いた磁気双極子の位置、距離及び強さが、磁場に対する最良の近似を与えるように調整される。
【0030】
図7において、対物レンズについての軸方向磁場の強さ(ピークを示す曲線)が、20mmのところで分離した磁気双極子により形成された近似的な磁場と比較されている。磁極片から10mm以上離れた距離については、近似的な磁場は、非常に良好であり、作動距離が10mmより十分に大きい場合にパターンを修正するのに十分である、ということが分かる。より精巧なモデルであれば、実際の磁場分布に対して十分に正確に適合することができる。図8において、各々が40mmの長さ及び直径7mmを有し、円形状に配置された16個の双極子が、幅広い範囲の作動距離にわたって歪みを修正するのに適した、顕微鏡レンズの磁場に、適合している。
【0031】
さらに複雑なモデルは、より多くの計算時間を必要とする。長さ、位置及び強さを変化させることが可能な1つの双極子による近似は、いくつかの場合において十分である。どのようなモデルを選んだとしても、特定の双極子の強さにおけるパラメータを最適化しなくてはならない。このような最適化は、実験的な又はモデル化された磁場の分布に対する最良適合となるように選択することができるが、パラメータが、既知の試料からのEBSDパターンを測定することを含んだキャリブレーション処理によって導かれる方法を、以下に説明する。
【0032】
磁場没入型SEMが、低倍率(LM)モードで動作する場合には、EBSDパターンは比較的歪まない。同一の電圧及び作動距離の下において高倍率(HM)モードで得られる歪みパターンが、図9A及び図9Bに示すように、LMパターンと対になる。図9Aは、20kV及びWD(作動距離)=15mmの下において得られた、無歪低倍率(LM)パターンである。図9Bは、同一の電圧及び作動距離の下において得られた、歪み高倍率(LM)パターンである。
【0033】
この例では、図9Bにおけるパターンの歪みは、磁気単極子が或る与えられた低い位置(LML)にあり、かつ、磁気双極子の磁場B0がこの磁気単極子から距離r0の位置にある場合の双極子の磁場に起因すると推定する。次に、この磁場は、上述した軌道計算方法を用いて、歪みパターンを無歪パターンに関連付けるために用いることができる。一例として、この磁場に対する、過小評価、略適切な評価及び過大評価による結果が、それぞれ、図10A、図10B及び図10Cに示されているが、実際には、最適な磁場を選択する客観的な方法が有益である。
【0034】
異なる磁場の強さB0が、図10A乃至図10Cにおける歪みパターンを修正するために用いられる。図10Aは、B0=5.6テスラを用いて不十分な修正をした場合を示し、図10Bは、B0=8.6テスラを用いて十分な修正をした場合を示し、図10Cは、B0=11.6テスラを用いて過度な修正をした場合を示す。
【0035】
モデルパラメータを最適化する1つの方法は、通常のEBSDキャリブレーション処理を用いて、低倍率(LM)パターンにおけるいわゆる「パターン中心」を識別することである。「パターン中心」とは、無歪電子軌道が垂直入射して蛍光体の平面と交差する、この平面における点である。この点が、蛍光体の上にあれば、「パターン中心」の近くにおいて認識可能な特徴は、高倍率(HM)パターンにおいて対応する位置に配置するのに用いることができる。次に、この磁場モデルパラメータは、パターン中心の明白な移動に合致する電子の軌道に対して必要な変更を施すために調整される。
【0036】
磁場パラメータをさらに精密に調整する方法は、磁場パラメータの異なる値について修正されたパターンを解くことを含む。歪み高倍率(HM)パターンが十分に修正された場合には、このパターンから(例えばハフ変換及びその後の分析を用いて)得られた結晶方位は、同一の試料の無歪低倍率(LM)パターンを用いて求められる結晶方位と同一となるはずである。実際には、高倍率(HM)パターンから求められた結晶方位と低倍率(LM)パターンから求められた結晶方位との間の方位誤差が1°未満である場合には、パターン修正は通常十分である。
【0037】
次の例では、歪み高倍率パターンを修正するための磁場の強さが、方位誤差と磁場の強さとを対応付けてプロットすることにより決定される。25kVで得られるパターン及び3つの異なる作動距離が、顕微鏡における特定の磁気双極子の位置についての磁場の強さを計算するために用いられる。これが図11に示されている。低倍率(LM)パターンを用いた分析と修正された高倍率(HM)パターンを用いた分析との間の方位誤差を0.5°未満にすることを実現するために、3つの作動距離における高倍率(HM)パターンを修正するのに、−15.5、−13及び−12テスラというさらに低い磁気単極子の磁場の強さを示す3つの曲線の最小値を用いることができる。
【0038】
いくつかの顕微鏡の構成では、漏れ磁場を一定に保ちながら試料の高さを変化させることができる。この場合には、低倍率(LM)パターンと修正された高倍率(HM)パターンとの間の方位誤差を最小限にする磁気単極子の強さは、試料の高さとともに変化することになる。これにより十分な修正を行うことができるが、漏れ磁場が常に同一である場合には、理論的な磁場モデルは、電子ビームが試料に衝突する位置の高さとは無関係なものとなる。しかしながら、最終段レンズに関して異なる磁気双極子の位置を用いた計算を繰り返すことにより、異なる試料の高さにより得られたパターンを修正することができる磁場の強さを、同一の値に集めることができる。これは、20kVのパターンとして図12に示されている。異なる試料の高さにより得られる歪みパターンについての方位誤差の最小値が、上記と同一の磁場の強さである−8.5テスラによって実現される。
一連のSEM加速電圧で得られたパターンが同様に用いられ、十分なパターン修正を与える磁気双極子モデルのパラメータを求めることができる。
【0039】
磁場パラメータをさらに精密に調整する(上述した)方法に用いられる処理は、磁場パラメータの異なる値について修正されたパターンを解くことを含む。この処理は、以下のような方法ステップに要約することができる。
(1)低倍率(LM)モードにおいて(実質的に歪みを含まない)「参照」後方散乱電子回折パターンを得る。
(2)菊池バンドを検出し、かつ、インデックスすることを可能にして(1)において得られた参照パターンを解くことができるようにするために、EBSDパターンを調整する。
(3)ここでは(高倍率)HMモードを用いているが(1)におけるものと同一の位置から歪みEBSDパターンを得る。
(4)磁束の分布を与えるための、このモデルについて磁場パラメータを選択する。
(5)(4)において選択した磁場パラメータを高倍率(HM)パターンに適用して、歪みEBSDパターンを修正することを試みる。
(6)(5)において「修正しされた」パターンを用いて、(2)における「参照」低倍率(LM)パターンの方位に関する方位誤差を計算する。
(7)「修正された」パターンの解と「参照」パターンの解との間において所望レベルの方位誤差を得るために、(4)において(磁束のような)磁場パラメータを選択することにより、ステップ(4)から(6)を繰り返す。
【0040】
選択された磁場パラメータが、顕微鏡内の磁場を表現するために選択されたモデルに依存する、ということが理解できよう。これらのパラメータの1つ、例えば磁場の強さのようなパラメータは、変化させることができ、或いは、より複雑な場合には、多数のパラメータを変化させることができる。変化させるために選択された磁場パラメータは、所定の順序に従って変更することができる。方位誤差は十分に最小化することが望ましいが、修正の精度を最大化するためには、実際には、方位誤差の閾値は、修正が効率的に小さく、したがって受け入れられる、とみなされる値以下に、設定することができる。これは、修正されたパターンの最終的な利用の仕方に依存する。
【0041】
別の例では、このモデルのための所望の磁場パラメータが、「参照」後方散乱電子回折パターンの解も「歪み」後方散乱電子回折パターンの解のいずれをも必要とすることなく、得ることができる。代わりに、2つの生パターン間の最良適合を得るために、これら2つの生パターンが互いに関連付けられる。この方法は以下の通りである。
(i)低倍率(LM)モードを用いて「参照」後方散乱電子回折パターンを得る。
(ii)ここでは高倍率モード(HM)を用いるが、(i)におけるものと同一の試料の位置から「歪み」後方散乱電子回折パターンを得る。
(iii)この歪みパターンに適用する適切な磁場パラメータを選択する。
(iv)上記のように選択されたパラメータを適用して、この歪みパターンを「修正する」。
(v)「修正された」パターンを直接的に「参照」パターンと比較する。
(vi)修正されたパターンと参照パターンとの間において十分な関連性を得るために、「黄金比」(又はこれと等価な)最小化アルゴリズムを用いて磁場パラメータを変化させて、ステップ(iii)から(v)を繰り返す。
【0042】
上述した方法におけると同様に、閾値は、これら2つのパターン間の関連性が十分であるとみなされる値以下に設定することができる。「黄金比」アルゴリズムは、例えば「Press, W.H., Teukolsky, S.A., Vetterling, W.T., and Flannery, B.P., 1999, Numerical Recipes in C, The Art of Scientific Computing, second edition, Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom」に見ることができる。
【0043】
このように、上述した方法では、適切な「修正」磁場パラメータを得るために比較されるのは、パターンに起因するインデックスではなくパターンそのものである。各パターンにおける対応する領域を比較する必要があると、ということが理解できよう。
【0044】
これらの例は、通常のEBSD技術を用いて解くことができる修正されたパターンを得るために、磁場のための簡単な磁気双極子モデルを用いることができる、ということを示す。さらには、このモデルに適したパラメータは、2つのイメージにおいて対応する特徴をユーザに識別させる必要のないキャリブレーション処理によって得ることができ、これらのパラメータは、関数最小値(function minimum)を探すことによって、すなわち、自動化することが容易な処理によって、決定することができる。
【0045】
本明細書は、パターンの歪みを計算するために没入磁場の知識を如何に効果的に用いることができるかを示している。磁場が正確に分かっていない場合に、詳細なレンズ設計及びレンズモデリングツールを利用することは有利であるが、簡単な磁気双極子の近似を最適化してパターンを十分に修正することも依然として可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、後方散乱パターンを得るためのSEMの構成を示す概略図である。
【図2】図2は、典型的な漏れ磁場を示す。
【図3】図3は、漏れ磁場がある場合の電子の軌道と漏れ磁場が存在しない場合の電子の軌道との間の関係を示す。
【図4】図4は、受け取ったグリッドにおける電子の発信源を示す。
【図5】ゲルマニウムについての典型的な歪んだEBSDを示す。
【図6】対応する修正されたEBSDを示す。
【図7】磁気レンズ軸方向磁場の強さと磁気双極子の軸方向磁場の強さとの間の比較を示す。
【図8】磁気レンズが円形状に配置した磁気双極子を用いてモデル化される様子を示す。
【図9A】低倍率における磁場没入型SEMのEBSDの一例を示す。
【図9B】歪み収差を示した、高倍率における磁場没入型SEMのEBSDの一例を示す。
【図10A】不十分な修正がされたEBSDパターンの一例を示す。
【図10B】十分な修正がされたEBSDパターンを示す。
【図10C】過度な修正がされたEBSDパターンを示す。
【図11】3つの作動距離についての方位誤差と磁場の強さとの関係を示す。
【図12】試料の異なった高さで異なった磁気双極子の位置を用いることができる様子を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
後方散乱電子回折(EBSD)パターンの磁場歪みを修正する方法であって、
電子顕微鏡内に配置された試料から生成されるEBSDパターンを得るステップと、
前記顕微鏡内の磁場の所定の表現に従って、異なる出現角度に対して前記顕微鏡内の電子の軌道を計算するステップと、
計算された前記軌道を用いて、前記顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合のEBSDパターンを表現する、修正されたEBSDパターンを計算するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記磁場の所定の表現が前記試料の付近に関連している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記EBSDパターンが画素のアレイによって表現されている、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記修正されたEBSDパターンを計算するステップが、前記電子顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合に前記顕微鏡の検出器の上において前記電子が衝突する位置を計算するステップを含む、請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記電子顕微鏡が没入型レンズ走査電子顕微鏡である、請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記顕微鏡の磁場が漏れ磁場である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記顕微鏡の磁場の表現が、顕微鏡内の多数の空間的位置における磁場の強さ及び方向のデータベースである、請求項1から請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記表現が前記顕微鏡の磁場のモデルである、請求項1から請求項7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記モデルが少なくとも1つの磁気双極子のモデルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記モデルがリング状に配置された複数の磁気双極子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記モデルが前記顕微鏡内の磁場の測定値に適合している、請求項8から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記モデルが、磁場モデリングソフトウェアにより計算された前記顕微鏡の磁場の値に適合している、請求項8から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合に得られるテストEBSDパターンと前記モデルを用いて修正されたEBSDパターンとの間の差が、所定の閾値より小さくなるように、前記モデルが適合されている、請求項8から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
(i)低倍率モードを用いて参照後方散乱電子回折パターンを得るステップと、
(ii)高倍率モードを用いて、前記試料の同一部分から歪み後方散乱電子回折パターンを得るステップと、
(iii)前記歪みパターンに適用する適切な磁場パラメータを選択するステップと、
(iv)選択された前記パラメータを適用して、修正されたパターンを生成するステップと、
(v)前記修正されたパターンを前記参照パターンと比較するステップと、
(vi)前記修正されたパターンと前記参照パターンとの間において所望の関連性を得るために、最小化アルゴリズムを用いて磁場パラメータを変化させながら、ステップ(iii)からステップ(v)を繰り返すステップと、
を実行することにより、前記モデルが、結晶方位における前記差を与えるようにされている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記顕微鏡の磁場が存在する場合に得られるテストEBSDパターンを用いて計算された結晶方位と、前記顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合に得られるテストEBSDパターンを用いて計算された結晶方位との差が、所定の閾値より小さくなるように、前記モデルが適合されている、請求項8から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記磁場が存在する状態及び前記磁場が存在しない状態は、それぞれ、相対的に高い顕微鏡の倍率及び低い顕微鏡の倍率を用いて生成させられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
結晶方位における前記差は、前記磁場が実質的に存在しない場合に得られるテストEBSDと、前記磁場が存在する場合のテストEBSD及び前記モデルに基づいて修正されたEBSDとの間において決定される、請求項15又は請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(1)低倍率モードにおいて参照後方散乱電子回折パターンを得るステップと、
(2)(1)において得られた前記参照パターンを解くために前記EBSDパラメータを調整するステップと、
(3)高倍率モードを用いて同一の位置から歪んだEBSDパターンを得るステップと、
(4)前記モデルを定めるために1以上の磁場パラメータを選択するステップと、
(5)前記選択された磁場パラメータを前記歪んだEBSDパターンに適用して、修正されたパターンを生成するステップと、
(6)(5)において修正された前記パターンを用いて、(2)における前記参照パターンの前記方位に関する方位誤差を計算するステップと、
(7)前記修正されたパターンの解と前記参照パターンの解との間において所望のレベルの方位誤差を得るために、異なる磁場パラメータを選択することにより、ステップ(4)から(6)を繰り返すステップと、
により、前記モデルが前記差を与えるようにされている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記差が最小化されている、請求項13から請求項18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記テストパターンが一連の試料の高さにより得られる、請求項13から請求項19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記テストパターンが一連の顕微鏡加速電圧により得られる、請求項13から請求項20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
コンピュータプログラム製品であって、
前記プログラムがコンピュータ上で実行されるときに請求項1から請求項21のいずれかに記載の方法を実行するようにされたコンピュータプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラム製品。
【請求項23】
コンピュータ読み取り可能な媒体に備えられた、請求項22に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項1】
後方散乱電子回折(EBSD)パターンの磁場歪みを修正する方法であって、
電子顕微鏡内に配置された試料から生成されるEBSDパターンを得るステップと、
前記顕微鏡内の磁場の所定の表現に従って、異なる出現角度に対して前記顕微鏡内の電子の軌道を計算するステップと、
計算された前記軌道を用いて、前記顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合のEBSDパターンを表現する、修正されたEBSDパターンを計算するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記磁場の所定の表現が前記試料の付近に関連している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記EBSDパターンが画素のアレイによって表現されている、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記修正されたEBSDパターンを計算するステップが、前記電子顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合に前記顕微鏡の検出器の上において前記電子が衝突する位置を計算するステップを含む、請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記電子顕微鏡が没入型レンズ走査電子顕微鏡である、請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記顕微鏡の磁場が漏れ磁場である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記顕微鏡の磁場の表現が、顕微鏡内の多数の空間的位置における磁場の強さ及び方向のデータベースである、請求項1から請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記表現が前記顕微鏡の磁場のモデルである、請求項1から請求項7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記モデルが少なくとも1つの磁気双極子のモデルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記モデルがリング状に配置された複数の磁気双極子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記モデルが前記顕微鏡内の磁場の測定値に適合している、請求項8から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記モデルが、磁場モデリングソフトウェアにより計算された前記顕微鏡の磁場の値に適合している、請求項8から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合に得られるテストEBSDパターンと前記モデルを用いて修正されたEBSDパターンとの間の差が、所定の閾値より小さくなるように、前記モデルが適合されている、請求項8から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
(i)低倍率モードを用いて参照後方散乱電子回折パターンを得るステップと、
(ii)高倍率モードを用いて、前記試料の同一部分から歪み後方散乱電子回折パターンを得るステップと、
(iii)前記歪みパターンに適用する適切な磁場パラメータを選択するステップと、
(iv)選択された前記パラメータを適用して、修正されたパターンを生成するステップと、
(v)前記修正されたパターンを前記参照パターンと比較するステップと、
(vi)前記修正されたパターンと前記参照パターンとの間において所望の関連性を得るために、最小化アルゴリズムを用いて磁場パラメータを変化させながら、ステップ(iii)からステップ(v)を繰り返すステップと、
を実行することにより、前記モデルが、結晶方位における前記差を与えるようにされている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記顕微鏡の磁場が存在する場合に得られるテストEBSDパターンを用いて計算された結晶方位と、前記顕微鏡の磁場が実質的に存在しない場合に得られるテストEBSDパターンを用いて計算された結晶方位との差が、所定の閾値より小さくなるように、前記モデルが適合されている、請求項8から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記磁場が存在する状態及び前記磁場が存在しない状態は、それぞれ、相対的に高い顕微鏡の倍率及び低い顕微鏡の倍率を用いて生成させられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
結晶方位における前記差は、前記磁場が実質的に存在しない場合に得られるテストEBSDと、前記磁場が存在する場合のテストEBSD及び前記モデルに基づいて修正されたEBSDとの間において決定される、請求項15又は請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(1)低倍率モードにおいて参照後方散乱電子回折パターンを得るステップと、
(2)(1)において得られた前記参照パターンを解くために前記EBSDパラメータを調整するステップと、
(3)高倍率モードを用いて同一の位置から歪んだEBSDパターンを得るステップと、
(4)前記モデルを定めるために1以上の磁場パラメータを選択するステップと、
(5)前記選択された磁場パラメータを前記歪んだEBSDパターンに適用して、修正されたパターンを生成するステップと、
(6)(5)において修正された前記パターンを用いて、(2)における前記参照パターンの前記方位に関する方位誤差を計算するステップと、
(7)前記修正されたパターンの解と前記参照パターンの解との間において所望のレベルの方位誤差を得るために、異なる磁場パラメータを選択することにより、ステップ(4)から(6)を繰り返すステップと、
により、前記モデルが前記差を与えるようにされている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記差が最小化されている、請求項13から請求項18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記テストパターンが一連の試料の高さにより得られる、請求項13から請求項19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記テストパターンが一連の顕微鏡加速電圧により得られる、請求項13から請求項20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
コンピュータプログラム製品であって、
前記プログラムがコンピュータ上で実行されるときに請求項1から請求項21のいずれかに記載の方法を実行するようにされたコンピュータプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラム製品。
【請求項23】
コンピュータ読み取り可能な媒体に備えられた、請求項22に記載のコンピュータプログラム製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−292764(P2006−292764A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−128667(P2006−128667)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(594126702)オックスフォード インストルメンツ アナリティカル リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128667(P2006−128667)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(594126702)オックスフォード インストルメンツ アナリティカル リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
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