説明

微多孔膜積合体及びその製造方法、並びに微多孔膜の製造方法

【課題】サイクル性に優れたセパレータとして好適な微多孔膜を生産し得る、微多孔膜積合体を提供する。
【解決手段】少なくとも1枚の微多孔膜を含む複数枚の膜が積合された微多孔膜積合体であって、微多孔膜と、前記微多孔膜に隣接する剥離膜との剥離強度が0.5〜250g/25mmである微多孔膜積合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔膜積合体及びその製造方法、並びに微多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系微多孔膜は、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等に使用されており、特にリチウムイオン2次電池用セパレータとして使用されている。近年、リチウムイオン2次電池は、携帯電話、ノート型パソコン等の小型電子機器、さらには電気自動車、小型電動バイク等への応用も図られている。特に、今後も全世界的に急速に市場が拡大していくノート型パソコンや携帯電話用途の機器は、様々な国々で生産、使用されることから、ポリオレフィン系微多孔膜には様々な要求特性に応えることが求められる。昨今は、来るべき化石燃料の枯渇に備え、分散型エネルギー貯蔵が重要であるという認識が広がっており、今後、リチウムイオン2次電池用、及びそのセパレータの需要は急速に広がっていくものと予想される。このような事情のもと、リチウムイオン2次電池用のセパレータに関して、セパレータの生産速度を上げ、大量且つ安価に、しかも既に市場で使用されているセパレータの基本性能を維持しつつ供給することが求められている。
また、リチウムイオン2次電池の種類によって用いるセパレータの性状は異なっており、例えば、ノートブックパソコン等に用いられる円筒形の電池では、過充電や落下等に対する安全性と電池作製時に高速で捲回されるための強度の要望から、比較的厚めの15〜25μm程度のセパレータが用いられている。一方で、携帯電話等に用いられる角型電池には、ノートブックパソコン以上に小形化が求められ、用いるセパレータも薄くなっており、一般に9〜15μm程度の膜が利用されている。
【0003】
従来、セパレータの生産速度を上げる方法として、複数の微多孔膜を重ね合わせた多層膜を製膜後、各層を剥離して複数の微多孔膜を得る発想はあった。例えば、特許文献1には、樹脂原料と可塑剤からなる微多孔膜の押出溶融原反を製膜後、重ね合せることで多層化した後、延伸工程、可塑剤抽出工程により多孔膜を製膜後、再度多層多孔膜を剥離することで複数の多孔膜を得る方法が開示されている。また、特許文献2には、ポリプロピレンからなる微多孔膜前駆体とPEからなる(PP/PE/PP)の構成を有する3層微多孔膜の製法として、まずチューブ状の2層のPP層又はPE層を8組、即ち16層を重ね合わせた後、そのまま延伸開孔させ、その後、各層を剥離し、(PP/PE/PP)の構成となるようにカレンダー加工にて積合して1組の多層微多孔膜を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−51648号公報
【特許文献2】特開平8−222197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載された技術を用いて得られる剥離後の微多孔膜はいずれも、セパレータとして用いた場合のサイクル特性の観点からは、なお改良の余地がある。
また、特許文献1の方法においては、単層フィルムを製膜後に重ね合わせるため、特許文献2の方法においては、別々の製膜ラインにて製膜した複数枚の微多孔膜前駆体を重ね合せるため、いずれも大掛かりな装置が必要であり、また製膜ラインが寸断されるため、生産速度が遅いという問題がある。
また、特許文献1の製法では、微多孔膜前駆体を押出成形で作成するが、シート状の溶融樹脂をキャストロールに接触せることによりその表面近傍部分のみが固化前にロールに押し付けられることから、その表面近傍のみが孔閉塞を起こす現象を示し、微多孔膜の透過性を損ねる場合がある。この孔閉塞現象は片面のみであればその影響も小さいが、キャストロールを用いる場合は両面で起こり得る。これは特にポリオレフィン樹脂等、結晶性樹脂で見られる。
【0006】
更に、特許文献1及び2に開示された方法に関して、過大な設備費を費やさずに生産性を上げる手段としては、設備の許容する限り押出量と延伸速度を上げる、所謂、増速法も考え得るが、リチウムイオン二次電池に用いられるようなセパレータは、厚み、透気度、強度等の物性のスペックが非常に狭く、増速により配向が変わり、物性、特に熱収縮率が大きくなりすぎたり、延伸の異方性により突き刺し強度が弱くなったりする傾向にある。また、微多孔膜に強度を持たせるため、同時二軸延伸機内や遂次2軸延伸機で加熱し延伸する場合においては、増速により延伸機内でボーイングが発生して幅方向で物性の不揃いが生じ、かえって生産性を落とす傾向にある。
【0007】
従って、上記特許文献1及び2には、性能を維持したまま、早い生産速度で大量且つ安価に微多孔膜を生産する方法に関する記載はない。また、円筒用の20μmと角型用の15μm等、種類の異なるセパレータを大量且つ安価に生産する方法に関する記載はない。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、サイクル性に優れたセパレータとして好適な微多孔膜を生産し得る、微多孔膜積合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究を重ねた結果、特定の微多孔膜積合体が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
少なくとも1枚の微多孔膜を含む複数枚の膜が積合された微多孔膜積合体であって、
前記微多孔膜と、前記微多孔膜に隣接する剥離膜との剥離強度が0.5〜250g/25mmである微多孔膜積合体。
[2]
前記微多孔膜の厚みが3〜100μm、突刺し強度が50〜1000g、透気度が10〜1000sec/100cc、気孔率が15〜80%である[1]に記載の微多孔膜積合体。
[3]
前記剥離膜の透気度が1500sec/100cc以上である[1]又は[2]に記載の微多孔膜積合体。
[4]
前記剥離膜が、樹脂成分と無機フィラーとを含むと共に、
前記樹脂成分と前記無機フィラーとの配合比が、(樹脂成分)/(無機フィラー)(質量比)として100/5〜100/150である[1]〜[3]のいずれかに記載の微多孔膜積合体。
[5]
前記剥離膜の突刺し強度が40g以上である[1]〜[4]のいずれかに記載の微多孔膜積合体。
[6]
前記剥離膜の突刺し強度が200g以上である[1]〜[5]のいずれかに記載の微多孔膜積合体。
[7]
前記剥離膜はポリプロピレンを主体とする膜である[1]〜[6]のいずれかに記載の微多孔膜積合体。
[8]
前記無機フィラーの平均粒子径が0.1〜8μmである[4]〜[7]のいずれかに記載の微多孔膜積合体。
[9]
[1]〜[8]のいずれかに記載の微多孔膜積合体の製造方法であって、以下の(A),(B)の各工程、
(A)共押出法により、微多孔膜の前駆体シートと剥離膜との積層体を形成する、前駆体積層シート形成工程、
(B)前記前駆体シートを多孔化して微多孔膜を形成する、微多孔膜形成工程、
を含む製造方法。
[10]
以下の(A)〜(C)の各工程、
(A)共押出法により、微多孔膜の前駆体シートと剥離膜との積層体を形成する、前駆体積層シート形成工程、
(B)前記前駆体シートを多孔化して微多孔膜を形成する、微多孔膜形成工程、
(C)前記微多孔膜の前駆体シート又は前記微多孔膜と、剥離膜とを剥離する剥離工程、
を含む微多孔膜の製造方法。
[11]
前記(C)工程は、前記微多孔膜の前駆体シート又は前記微多孔膜と、剥離膜と、をピンチロールの下流側にて剥離する工程である[10]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、サイクル性に優れたセパレータとして好適な微多孔膜を生産し得る、微多孔膜積合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた剥離後の微多孔膜の、外表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られた剥離後の微多孔膜の、剥離面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】微多孔膜積合体を剥離する剥離ユニットを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施の形態における微多孔膜積合体は、少なくとも1枚の微多孔膜を含む複数枚の膜が積合された微多孔膜積合体であって、微多孔膜と、前記微多孔膜に隣接する剥離膜との剥離強度が0.5〜250g/25mmである。
【0015】
本実施の形態における微多孔膜積合体は、少なくとも1枚、好ましくは2枚以上の微多孔膜を含む複数枚の膜が積合された構造を有している。微多孔膜積合体は、少なくとも2枚の微多孔膜を含む薄膜を重ねた構造を有し、例えば、微多孔膜1/微多孔膜2の2枚からなる構造(この場合、一方の微多孔膜を「剥離膜」と扱うことができる。以下、同様である。)や、微多孔膜1/無孔膜/微多孔膜2の3枚からなる構造(この場合、「無孔膜」を「剥離膜」と扱うことができる。以下、同様である。)、更に枚数を重ねた4枚以上からなる構造を有していてもよい。
さらに無孔膜/微多孔膜1/微多孔膜2、あるいは無孔膜/微多孔膜1/無孔膜/微多孔膜2/無孔膜のように、微多孔膜が中間層にあってもよい。
【0016】
このようにして微多孔膜積合体を剥離することにより得られた微多孔膜は、サイクル性に優れたセパレータとして好適な微多孔膜である。
特定の微多孔膜積合体からそのような微多孔膜が得られる作用の詳細については詳らかではないが、隣接する膜に対して特定の剥離強度をもって積合された微多孔膜積合体においては、隣接する膜に面する微多孔膜表面にスキン層が形成され難く、微多孔膜の膜厚方向全般に亘り良好な均一性を有する孔構造が実現されることが、良好なサイクル特性に寄与するものと考えられる。特に、目的層である微多孔膜層を中間層に配置した構成では、両面ともスキン層が生じ難く、きわめて透過性の良好な微多孔膜を実現し得る。このスキン層とは、一般には結晶性樹脂の急冷により生じる非晶層であり、結晶部分と開孔性が異なる為、透過性の不均一が生じる。剥離面では急冷にならない為スキン層が発生しないと考えられる。
【0017】
ここで、薄膜とは一般に5μm〜50μmの厚みの範囲の膜を言う。それぞれの薄膜、例えば、微多孔膜1は単層膜でもよいが、それ自体が多層構造であってもよく、例えば、ポリプロピレンを主体とする外層とPEを主体とする層をPP/PE/PPの様に配置した3層膜でもよい。但し、薄膜が多層である場合は、1枚の薄膜の内部において各層は容易に剥離できないことが好ましい。
【0018】
微多孔膜積合体に含まれる少なくとも2枚の微多孔膜は、隣接する膜と剥離により分離可能であり、その剥離強度が0.5〜250g/25mm幅である。剥離強度が上記範囲内であると、薄膜であっても、製膜ラインやスリッターのピンチロール等を利用した剥離が可能であるため、微多孔膜積合体から複数枚の微多孔膜を同時に取得することができ、結果として、目的膜である微多孔膜の生産性を著しく向上させることが可能となる。剥離強度は、好ましくは150g/25mm幅未満であり、この範囲内であれば剥離速度を上げることができる傾向にある。また、剥離する微多孔膜積合体が400mm程度以上の広幅の場合は、好ましくは100g/25mm幅未満であれば、広幅であっても高速で剥離できる傾向にある。また、50g/25mm幅未満であれば、10μm以下の薄い膜であっても良好に剥離できる傾向にある。更に、20g/25mm幅未満であれば、高速且つ薄膜の剥離が可能となる傾向にあり、5g/25mm幅未満であれば、剥離速度を100m/min以上にまで引き上げることができる傾向にある。一方、剥離強度の下限としては、0.5g/25mm幅以上であり、この範囲内であると、製膜途中に不用意に部分的に剥離することがなく、良好に製膜できる。
【0019】
本実施の形態における微多孔膜積合体からは微多孔膜が複数枚分離されるが、分離された少なくとも1枚の微多孔膜が、厚み3〜100μm、突刺し強度50〜1000g、透気度10〜1000sec/100cc、気孔率15〜80%、を満たす微多孔膜(A)であることが好ましい。各物性が上記範囲内であれば、リチウムイオン2次電池用セパレータとして使用した際に、保存性、サイクル性、出力等の電池性能に優れ、また不慮のセパレータの破れによる短絡防止性、電池の熱暴走時の昇温による破膜防止性等の安全性に優れる傾向にある。
【0020】
微多孔膜(A)の厚みは、電池性能の観点からは、好ましくは30μm未満であり、電池容量の観点からは、好ましくは20μm未満である。また微多孔膜を微多孔膜積合体から剥離する際に、破れたりせずに安定に剥離する観点からは、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上である。
【0021】
微多孔膜(A)の突刺し強度は、剥離時の強度確保の観点から、好ましくは100g以上であり、セパレータの安全性の観点から、好ましくは200g以上であり、より好ましくは300g以上であり、さらに好ましくは400g以上である。
【0022】
微多孔膜(A)の透気度は、電池性能の観点からは、好ましくは600sec/100cc以下であり、高出力性の観点からは、好ましくは400sec/100cc以下である。
【0023】
微多孔膜(A)の気孔率は、電池性能の観点からは、好ましくは30%以上、高出力の観点からは、好ましくは40%以上であり、突刺し強度を維持する観点からは、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。
【0024】
微多孔膜の原料としては、成形加工性と電解液に対する耐溶剤性の観点から、ポリオレフィンを主成分とすることが好ましい。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等が挙げられる。
【0025】
ポリエチレンとしては、例えば、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、及びこれらの混合物等が挙げられる。微多孔膜をセパレータとして用いる場合には、熱収縮を低減できる観点から、イオン重合による線状の高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、あるいはこれらの混合物が好ましい。ここでいう超高分子量ポリエチレンとは、粘度平均分子量が50万以上のものを指す。超高分子量ポリエチレンが全ポリエチレン中に占める割合としては、好ましくは5〜50質量%、分散性の観点から、より好ましくは9〜40質量%である。
【0026】
ポリエチレンの粘度平均分子量Mv(複数種のポリエチレンを用いる場合には、その全体の粘度平均分子量)としては、微多孔膜の強度を向上させる観点から、好ましくは20万以上であり、より好ましくは30万以上である。
【0027】
ポリエチレンの分子量分布(Mw/Mn)は、無機粒子等を混合して混練する場合に、その混練性を向上させ、無機粒子が二次凝集した粒状の欠点が発生することを抑制する観点から、6以上であることが好ましく、より好ましくは8以上である。
【0028】
ポリプロピレンとしては、例えば、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等の、プロピレンのホモ重合体や、プロピレンと、エチレンやブテン、炭素数5以上のα−オレフィン等のコモノマーとを共重合させて得られるランダム共重合体やブロック共重合体、ターポリマー等が挙げられる。さらに、メタロセン触媒等を利用し、立体規則性を低下させたポリプロピレンを少量ブレンドしてもよい。上記の中でも、成形性と強度・剛性等の物性のバランスの観点から、アイソタクティックポリプロピレンが好ましい。
【0029】
ポリプロピレンの粘度平均分子量(Mv)は、溶融混練が容易となり、膜としたときにフィッシュアイ状の欠陥が改善される観点から、好ましくは100万以下であり、より好ましくは70万以下、さらに好ましくは60万以下である。
【0030】
本実施の形態のおける微多孔膜積合体は、上述した微多孔膜(目的膜)に隣接する少なくとも1枚の剥離膜を含む。この場合、目的膜である微多孔膜と隣接する剥離膜の剥離強度は250g/25mm幅以下であり、これを達成するために、微多孔膜と分離された少なくとも1枚の剥離膜は、透気度が1500sec/100cc以上の微多孔膜又は無孔膜であることが好ましい。ここでいう「無孔膜」とは、厳密には定義されないが、透気度が概ね10000sec/100ccを超える膜を言う。
【0031】
本発明者等の検討によると、剥離膜の透気度が1500sec/100cc以上であると剥離強度が低下する傾向にあり、微多孔膜を剥離し易くなることが分かった。剥離膜の透気度は、高速剥離の観点からは、好ましくは5000sec/100cc以上であり、より好ましくは実質的に無孔膜である。理由は明らかではないが、無孔膜は多孔膜に比べて厚み方向の圧縮応力が強くなるため、例えば2枚の多孔膜を重ねた場合よりも、多孔膜と無孔膜を重ねた場合のほうが、製膜工程中のピンチロール等で圧縮された際の抵抗力が強くなり、膜同士の界面での粘着による剥離強度の増加が抑制されるものと推定される。この分離された剥離膜は微多孔膜として製品化してもよいし、無孔膜である場合には、剥離のための剥離専用層として用いてもよい。剥離専用層として用いる場合は、剥離後に粉砕する等して繰返しリサイクル使用することが好ましい。
【0032】
また、微多孔膜に隣接する少なくとも1枚の剥離膜は、突刺し強度が40g以上であることが好ましい。剥離膜の突刺し強度が40g以上であると、剥離時に膜が破れず良好に剥離できる傾向にある。剥離膜の突刺し強度は、広幅膜の剥離性の観点からは、好ましくは80g以上、高速剥離性の観点からは、好ましくは120g以上である。剥離膜の突刺し強度は、特に好ましくは200g以上であり、上記範囲であると剥離生産性がさらに安定する傾向にある。
【0033】
剥離膜の原料としては、共押出性や共延伸性だけ出なく、目的膜である微多孔膜との剥離性を考慮して選ぶのがよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンや、ポリアミド、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン等が好適に用いられるが、基本的には微多孔膜との剥離強度や、剥離時の強度を指標に選ばれるべきである。例えば、微多孔膜の原料として、融点135℃の高密度ポリエチレンを用いる場合には、剥離膜は、ポリプロピレンやPET等のポリエチレンよりも高耐熱性の樹脂を選ぶのが好ましい。特に、剥離膜の原料としてポリプロピレンを用いる場合は、ポリエチレン主体の微多孔膜との共押出性、共延伸性が良好となり、膜厚分布に優れた微多孔膜が得られる傾向にあるため好ましい。さらに、融点が150℃以下のポリプロピレン、例えばランダム共重合体や低立体規則性のポリプロピレンを用いれば、延伸性がさらに改善されるため、膜厚分布の改善だけでなく、透過性と強度のバランスも改善される。さらには延伸助剤として、例えばポリブテン−1、石油樹脂、エチレン−プロピレンランダム共重合エラストマー、スチレン−ブタジエンラバー等を混合すれば、膜自体の強度も改善され、剥離膜を薄膜化できる。
剥離膜の原料としては、ポリプロピレンを主体とすることが好ましく、共押出性や、製膜安定性、透過性、強度、剥離性のバランスが優れる。ここでポリプロピレンを主体とするとは、はく離膜の樹脂成分のうちポリプロピレンが50質量%以上を占めることである。さらに好ましくは60質量%以上であり、この範囲であると、剥離性がさらに向上し、安定した剥離ができる。
【0034】
また、剥離膜は、剥離性が向上する傾向にあるため、無機フィラーを含んでいることが好ましい。無機フィラーとしては、例えば、アルミナ(例えば、α−アルミナ等)、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維等が挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。これらの中でも、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムやタルク、酸化亜鉛等が特に好適に用いられる。
【0035】
無機フィラーの平均粒子径としては、特に限定されないが、好ましくは0.05〜8μmのものが好適に使用されうる。平均粒子径が上記範囲内であると、無機フィラーが樹脂膜を補強し、剥離膜自体の強度を向上させるため、剥離の際に剥離膜が破れにくく、安定に生産できる傾向にある。無機フィラーの平均粒子径としては、特に好ましくは0.1〜5μmの範囲内であり、上記範囲であると剥離速度を上げることができるため、生産性が向上する傾向にある。
【0036】
無機フィラーの含有量は、剥離膜中に、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは5〜150質量部である。無機フィラーの含有量が上記範囲であると剥離性が改善される傾向にある。無機フィラーの含有量としては、樹脂成分100質量部に対して、より好ましくは5〜100質量部、更に好ましくは5〜80質量部であり、上記範囲内であると、剥離膜自体の強度が上がり、剥離の際に剥離膜が破れず、高速で剥離できるようになる。無機フィラーの含有量は、剥離速度をさらに上げることが可能となる観点から、特に好ましくは8〜35質量部である。
【0037】
本実施の形態における微多孔膜積合体が少なくとも2枚の微多孔膜を含んでいる場合、1回の成形で2枚以上の微多孔膜を作製することができる。この2枚以上の微多孔膜は、全く同じ性状である必要はなく、例えば、下記の例1及び2ような膜構成(重ね方)をとってもよい。
例1 3枚構造 微多孔膜(20μm)/無孔膜(10μm)/微多孔膜(10μm)
例2 5枚構造 微多孔膜(20μm)/無孔膜(10μm)/微多孔膜(10μm)/無孔膜(10μm)/微多孔膜(20μm)
ここでいう性状とは、厚み、気孔率、透気度、突刺し強度のような膜物性や、原料組成も含まれる。
【0038】
本実施の形態における微多孔膜積合体を得る方法としては、特に限定されないが、以下の(A),(B)の各工程、
(A)共押出法により、微多孔膜の前駆体シートと剥離膜との積層体を形成する、前駆体積層シート形成工程、
(B)前記前駆体シートを多孔化して微多孔膜を形成する、微多孔膜形成工程、
を含むことが好ましい。
また、適宜延伸工程を採用することができる。延伸工程は、前記(B)工程の前工程であってもよいし、後工程であってもよい。
【0039】
例えば、ポリエチレン(PE)製の単層の微多孔膜を2枚含む微多孔膜積合体を得る方法について説明する。1台の押出機でポリエチレン原料と可塑剤を所定量配合した原料を押出し、もう1台の押出機でPET等の原料と可塑剤を所定量配合若しくは配合せずに押し出し、共押出ダイス内で、例えばPE/PET/PEの3層構造に共押出し、キャスト成形により延伸前の微多孔膜積合体の前駆体を得る。この前駆体を可塑剤抽出・延伸・熱固定等の工程を経ることで微多孔膜積合体を得ることができる。
【0040】
原料である樹脂組成物を混練する方法としては、あらかじめ原料樹脂と、場合により可塑剤をヘンシェルミキサーやタンブラーミキサー等で事前混練する工程を経て、該混練物を押出機に投入し、押出機中で加熱溶融させながら、必要に応じて任意の比率で所定量になるまで可塑剤を導入し、さらに混練する方法が挙げられる。この方法は、樹脂組成の分散性がより良好なシートを得ることができ、各層が、高倍率でも破膜することなく延伸することができる点で好ましい。
【0041】
溶融押出機としては、二軸押出機を用いることが好ましく、これにより強度のせん断が付与出来るため、分散性が一層向上する。より好ましくは、二軸押出機のスクリューのL/Dが20〜70程度であり、さらに好ましくは30〜60である。そのスクリューにはフルフライトの部分と、一般にニーディングディスクやローター等の混練部分を配していることが好ましい。
【0042】
押出機先端に装着されるダイスは、特に限定されないが、サーキュラーダイス、Tダイス等が用いられる。本実施の形態においては、無機粒子を用いる場合や、劣化し易い樹脂組成物を用いる場合は、それによる摩耗や付着を抑制する対策を講じたもの、例えば、流路やリップに、テフロン(登録商標)加工、セラミック加工、ニッケル加工、モリブデン加工、ハードクロムコートしたものが好適に用いられる。
【0043】
本実施の形態においては、共押出ダイを用いることが好ましく、Tダイの場合はダイスの内部で溶融樹脂を膜状に広げてから各層を合流せしめるコートハンガー式のマルチマニホールドダイスを用いるのが厚み制御の観点から特に好ましい。ただし、フィードブロックダイや、クロスヘッド式のダイスも用いることは可能である。サーキュラーダイスの場合はスパイラル式ダイや、多層フィルムでも5層以上の場合はスタック式のダイスが熱劣化防止の観点から好ましく、各層間の接着強度を上げたい場合には特に好ましい。
【0044】
本実施の形態においては微多孔膜と剥離膜とが共に溶融状態で共押出されるが、両者を積合し多層化するのはダイス内であることが好ましい。互いに接する2層の押出し温度での溶融粘度の比としては、好ましくは1/3〜3/1、より好ましくは1/2〜2/1である。溶融粘度の比を上記範囲に設定することは、樹脂合流時の界面乱れ等を抑制し、偏肉を抑制する観点から好ましい。
【0045】
ダイスより押し出された溶融樹脂は、例えばキャスト装置に導入され、共延伸前の原反とすることができる。その後、高機械強度、縦横の物性バランス付与のために共延伸される(共延伸工程)が、このときの延伸は二軸延伸であることが好ましく、より好ましくは同時二軸延伸、逐次二軸延伸である。延伸温度は、好ましくは100℃〜155℃以下、より好ましくは110℃〜140℃の範囲内である。延伸倍率は、膜強度の観点から、好ましくは面積倍率で3倍以上〜200倍以下である。
【0046】
共延伸前の原反又は共延伸後の膜を抽出溶媒に浸漬して可塑剤や無機フィラーを抽出することにより多孔化し(多孔化工程)、その後、膜を十分乾燥させればよい。可塑剤のみを抽出する場合の抽出溶媒としては、ポリオレフィン等の原料樹脂及び無機フィラーに対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対しては良溶媒であり、沸点が原料樹脂の融点よりも低いことが好ましい。このような抽出溶媒としては、例えば、塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等の塩素系溶剤;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類;ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテル、環状ヒドロフルオロカーボン、ペルオロカーボン、ペルフルオロエーテル等のハロゲン系有機溶剤;ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類;n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。またこれらの抽出溶媒を2種類以上使用してもよい。上記の中では特に塩化メチレンが好ましい。多孔化工程は共延伸工程の前でもよいし、後でもよい。複数の抽出槽による多段抽出でもよい。無機フィラーの抽出溶媒としては、例えば、アルカリ水等が挙げられる。
【0047】
可塑剤や無機フィラーの抽出後には、膜厚、透気度等の膜物性の調整、或いはフィルムの熱収縮防止のため、必要に応じて加熱延伸による熱固定を加えてもよい。抽出後の延伸は一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸が挙げられ、好ましくは同時二軸延伸、逐次二軸延伸である。延伸温度は、好ましくは100℃以上155℃以下である。延伸倍率は、好ましくは面積倍率で1倍を超えて10倍以下である。
【0048】
さらに寸法安定化のための熱処理を実施する場合は、高温雰囲気下での膜収縮を低減するために、例えば二軸延伸機、一軸延伸機、あるいは両方を用いて、100℃以上150℃以下で熱処理を行うことができる。好ましくは、樹脂の融点以下の温度範囲で、幅方向、長さ方向、あるいは両方向にその倍率又は/及び応力を緩和することにより行う。
【0049】
本実施の形態においては、以下の(C)工程、
(C)前記微多孔膜の前駆体シート又は前記微多孔膜と、剥離膜とを剥離する剥離工程、
を含むことにより、剥離後の微多孔膜(目的膜)を得ることができる。微多孔膜を分離する方法としては、微多孔膜積合体をピンチロールに導入し、ロールの出側で2枚以上の複数枚数の膜に分離するのが好ましい。この際、剥離後、微多孔膜をピンチロールに少なくとも(抱き角度)30度以上(好ましくは60〜120度、より好ましくは80〜100度)で接触させるようにロール類を設定するのが好ましい。前記(C)工程が、前記微多孔膜の前駆体シート又は前記微多孔膜と、剥離膜と、をピンチロールの下流側にて剥離する工程である場合、剥離が常にロール上で行なわれるため剥離点が安定し、剥離の際のシワ等が入りにくく、また薄膜を剥離する場合でも破れ難くなる傾向にある。剥離に用いるピンチロールには、剥離ロールを設置すると更に剥離が安定する傾向にあるため好ましい。
【0050】
剥離後の微多孔膜は、熱収縮特性をより向上させる観点から、その表面に、更に無機フィラー層を備えてもよい。このような無機フィラー層は、例えば、無機フィラー100質量部に対してバインダー1〜30質量部を含む混合液(必要に応じ、溶媒を含有する)を塗布し、必要に応じて乾燥することにより形成することができる。
【0051】
このような無機フィラーとしては、上述した無機フィラーと同様のものを用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂が挙げられる。
【0052】
無機フィラーとバインダーとを含む混合液を微多孔膜に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定されない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコータ−法、ナイフコータ−法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。また、用途に応じて無機フィラー含有樹脂溶液を微多孔膜の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。
【実施例】
【0053】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0054】
(1)剥離強度(g/25mm幅)
島津製作所製AG−100A 引っ張り試験機にて測定した。サンプルをMD200mm、TD25mmの短冊状にサンプリングし、その一端Aをテープ等で剥離し、100mmまで手で剥離した。この時点で剥離できないサンプルは剥離強度が250g/25mm超であり、「剥離不可」であると判断した。剥離した2枚の端Aを引っ張り試験機のチャックにJIS K−7127に準じて固定し、速度100mm/minで剥離させた時の、平均荷重を読み取った。
【0055】
(2)各層の厚み(μm)
東洋精機製の微少測厚器(タイプKBN、端子径Φ5mm、測定圧62.47kPa)を用いて、雰囲気温度23±2℃で測定した。剥離できないものは操作顕微鏡の断面写真から読み取った。
【0056】
(3)気孔率(%)
全層の気孔率:100mm四方の微多孔膜のサンプルの質量から目付けW(g/cm2)を算出した。次に微多孔膜を構成する成分(樹脂及び添加剤)の平均密度ρ(g/cm3)を算出し、微多孔膜の厚みd(cm)とから、下記式にて気孔率を計算した。
気孔率=(W/(d*ρ))*100(%)。
【0057】
(4)透気度 (秒/100cc)
JIS P−8117に準拠し、ガーレー式透気度計「G−B2」(東洋精機製作所(株)製、商標)で測定した。
【0058】
(5)突刺し強度(g)
ハンディー圧縮試験器「KES−G5」(カトーテック製、商標)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行うことにより求めた。
【0059】
(6)熱収縮率(%)
サンプルをMD/TDそれぞれ100mmの方形に切り出し、予め130℃に熱してある熱風乾燥機にサンプルを入れ、1時間後の寸法収縮率を求めた。サンプルは、乾燥機の内壁等に付着しないよう、またサンプル同士が融着しないようコピー紙等の上に乗せた。
【0060】
(7)膜厚分布
幅が200mmの剥離後の微多孔膜層を、幅方向に5mm毎に厚み測定し、その最大値と最小値の差(R)により下記のように合否を求めた。
○(合格):Rが微多孔膜層の厚みの9%以下
×(不合格):Rが微多孔層の厚みの10%以上
【0061】
(8)スキン層の有無
微多孔膜の最外面と剥離面とを、日立ハイテック社製 走査型電子顕微鏡S4800にて、1.0KVの加速電圧で観察した。
以下の基準により、スキン層の有無を判断した。
スキン層無し:観察画像において、均一に孔が形成されている。
スキン層あり:観察画像において、幹の部分が溶融したように不均一で閉塞気味である。
【0062】
(9)粘度平均分子量
ASTM−D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求めた。
ポリエチレンについては、次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0063】
(10)無機フィラーの平均粒子径
島津製作所(株)製レーザー回折/散乱式粒度分布測定器(SALD-3000)を用いて下記条件で測定した。
測定溶媒として、工業用アルコール(日本アルコール販売(株)製 エキネンF−8(商品名)、組成はエタノール86.4%、メタノール7.3%、水分6.3%)を用いた。
分散条件は200rpmで攪拌しながら40Wの超音波を10分の照射後に測定した。各粒子の屈折率は所定の値を用い、温度は25℃で測定し、求めたメディアン径を分散平均粒子径とした。
【0064】
(11)生産性
図3に示す剥離ユニットに、剥離前の3層構造の微多孔膜積合体を繰出し機に導入し、ロールの出側で単層の微多孔膜と2層膜の剥離膜(P)/微多孔膜の2層膜の2枚の膜に分離した。更に2層膜を再度剥離ユニットに導入し、剥離膜(P)と微多孔膜(A−2)1層づつに剥離した。
この装置の抱き角は、微多孔膜積合体を剥離させるピンチロール部分で、膜がロールに接する円弧長さから求め、これは60度であった。
この剥離ユニットで連続的に剥離した際に、15m/minの速度で剥離できるものを○とし、30m/minで剥離できるものを◎とした。
【0065】
以下の実施例及び比較例で用いた材料は以下のとおりである。
(1)HDPE
旭化成ケミカルズ社製 商品名「SH810」
粘度平均分子量30万の超高密度ポリエチレン
(2)UHMWPE
旭化成ケミカルズ社製 商品名「UH850」
粘度平均分子量200万の超高分子量ポリエチレン
(3)PP1
プライム社製 商品名「F300SV」
(4)PP2
サンアロマー社製 商品名「PB222A」
ランダム共重合体
(5)PETG
KODAR社製 非晶質ポリエステル 商品名「PETG6763」
(6)PB
三井化学製 ポリブテン樹脂 商品名「ビューロンP5050N」
(7)フィラー1
勝光山鉱業所製 タルク 平均粒子径 3.2μm
(8)フィラー2
神島化学工業製 炭酸カルシウム 平均粒子径 0.16μm
(9)フィラー3
徳山曹達製 シリカ 平均粒子径 0.02μm
(10)フィラー4
徳山曹達製 シリカ 平均粒子径 10μm
【0066】
[実施例1]
微多孔膜(A−1)/無孔膜(P)/微多孔膜(A−2)の3層構成を有する微多孔膜積合体を製造した。実施例で使用した原料樹脂を表1に示す。
表1に示す配合割合(質量部)にて原料樹脂(樹脂成分)を配合した。また、当該原料樹脂100質量部に対し、核剤としてビス(P−エチルベンジリデン)ソルビトールを0.5質量部、酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン−(3’、5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.3質量部、可塑剤として流動パラフィン(37.8℃における動粘度75.90cSt、密度868kg/m3)を10質量部配合した。これらの原料をヘンシェルミキサーで攪拌し原料を調製した。
次に、微多孔膜(A−1)、無孔膜(P)、微多孔膜(A−2)の原料を、それぞれ別個の3台の二軸押出機(口径44mm、L/D=49)に投入した。各押出機のシリンダーの途中部分において、流動パラフィンを追加し、最終的に表2の気孔率となるように注入した。
なお、押出機とダイスとの間には、400メッシュのスクリーンを配したスクリーンチェンジャー、及びギヤポンプを配した。ダイスはマルチマニホールド式の3種3層の共押出が可能なTダイを用いた。ダイス内では、両表層が2対1に配置されるように設計されており、表層が中間層の両側に積合された。ダイスから出た溶融フィルム原反は、キャストロールで冷却固化させ、合計厚さ1.5mmのシートを成形した。
このシートを同時二軸延伸機で120℃の条件で面積倍率49倍に延伸した後、塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去後に乾燥し、さらに小形の同時二軸テンター延伸機により125〜130℃の条件で横方向に1.5倍延伸した。この延伸シートを130℃で14%幅方向に緩和して熱処理を行うことにより、表層の二層が同一の組成で、中間層が異なる3種3層構造を有する微多孔膜積合体を得た。フィルムの巻取り速度は5m/minであった。
さらに微多孔膜積合体を図3に示す剥離ユニット導入し、ロールの出側で単層の微多孔膜(A−1)と2層膜の剥離膜(P)/微多孔膜(A−2)の2層膜の2枚の膜に分離した。更に2層膜を再度剥離ユニットに導入しピンチロールに導き、剥離膜(P)と微多孔膜(A−2)1層づつに剥離した。剥離速度は20m/minであったが、剥離点は安定しており、膜が破れたり、剥離の際に異音を生じたりすることがなかった。そこで、速度を30m/minまで上げたが剥離の問題は全く生じなかった。巻き取った単体の微多孔膜(A−1)、微多孔膜(B)、剥離膜(A−2)の捲回体の端面も不揃い等無くそろっていた。ピンチロールは微多孔膜を剥離後、微多孔膜が抱き角度60度で接するようにロールを調整した。得られた微多孔膜(A−1)及び(A−2)の物性を表2に示す。また、得られた剥離後の微多孔膜の、外表面の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。更に、得られた剥離後の微多孔膜の、剥離面の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0067】
[実施例2〜17、比較例1〜3]
表2及び表3に記載した条件とした以外は、実施例1と同様に製膜し、微多孔膜積合体を得た。得られた微多孔膜(A−1)及び(A−2)の物性を表2及び表3に示す。
なお、2種3層ダイスは、基本的に両表層が同じ物性になるように留意したもので、ダイス内部で1台の押出機から供給された表層樹脂が両表層均等に流れるように設計したものである。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表2及び3の結果から、以下の内容が読み取れる。
即ち、実施例の微多孔膜積合体から形成された微多孔膜は、リチウムイオン2次電池用セパレータとして充分な性能を示し、複数種の微多孔膜を同時に、生産速度を落とすことなく得ることができた。
各実施例はいずれも良好に2枚の微多孔膜が生産できており、2枚の物性もほぼ同等になっている。特に実施例3、9、11〜16においては、30m/minまで速度を上げても問題なかった。実施例1、2、4〜8、17においては20m/minでは問題なかったが、30m/minでは剥離層が破れた。実施例10では剥離膜の強度が弱く剥離速度が20m/minでは破れる傾向にあったため、15m/minで実施した。
実施例11、13〜15は無機フィラーの効果で剥離膜の強度が向上しており、安定に高速で剥離することができた。実施例12、16、17についても良好であったが、実施例12は実施例14に比べると無機フィラーの量がやや多く、実施例16は無機フィラーの粒子径が小さく、実施例17は大きいため、実施例14が最も安定性に優れていた。
比較例1において得られた微多孔膜は縦方向に配向がかかりすぎ、縦方向の熱収縮率が非常に高かった。また、同時二軸延伸機内でボーイング現象が発生し、膜厚みの横方向の分布が悪く、中央付近しか製品が取れず、生産性が非常に悪かった。
比較例2及び3は剥離膜(P)として微多孔膜(A−1)層と相溶性の良い組成を選んだが、剥離強度が250g/25mmを超えているため15m/minでも剥離層が破れ剥離が困難であり、微多孔膜を得ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、サイクル性に優れたセパレータとして好適な微多孔膜を生産し得る、微多孔膜積合体が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚の微多孔膜を含む複数枚の膜が積合された微多孔膜積合体であって、
前記微多孔膜と、前記微多孔膜に隣接する剥離膜との剥離強度が0.5〜250g/25mmである微多孔膜積合体。
【請求項2】
前記微多孔膜の厚みが3〜100μm、突刺し強度が50〜1000g、透気度が10〜1000sec/100cc、気孔率が15〜80%である請求項1に記載の微多孔膜積合体。
【請求項3】
前記剥離膜の透気度が1500sec/100cc以上である請求項1又は2に記載の微多孔膜積合体。
【請求項4】
前記剥離膜が、樹脂成分と無機フィラーとを含むと共に、
前記樹脂成分と前記無機フィラーとの配合比が、(樹脂成分)/(無機フィラー)(質量比)として100/5〜100/150である請求項1〜3のいずれか1項に記載の微多孔膜積合体。
【請求項5】
前記剥離膜の突刺し強度が40g以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の微多孔膜積合体。
【請求項6】
前記剥離膜の突刺し強度が200g以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の微多孔膜積合体。
【請求項7】
前記剥離膜はポリプロピレンを主体とする膜である請求項1〜6のいずれか1項に記載の微多孔膜積合体。
【請求項8】
前記無機フィラーの平均粒子径が0.1〜8μmである請求項4〜7のいずれか1項に記載の微多孔膜積合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の微多孔膜積合体の製造方法であって、以下の(A),(B)の各工程、
(A)共押出法により、微多孔膜の前駆体シートと剥離膜との積層体を形成する、前駆体積層シート形成工程、
(B)前記前駆体シートを多孔化して微多孔膜を形成する、微多孔膜形成工程、
を含む製造方法。
【請求項10】
以下の(A)〜(C)の各工程、
(A)共押出法により、微多孔膜の前駆体シートと剥離膜との積層体を形成する、前駆体積層シート形成工程、
(B)前記前駆体シートを多孔化して微多孔膜を形成する、微多孔膜形成工程、
(C)前記微多孔膜の前駆体シート又は前記微多孔膜と、剥離膜とを剥離する剥離工程、
を含む微多孔膜の製造方法。
【請求項11】
前記(C)工程は、前記微多孔膜の前駆体シート又は前記微多孔膜と、剥離膜と、をピンチロールの下流側にて剥離する工程である請求項10に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−51330(P2011−51330A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112362(P2010−112362)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】