説明

微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法

【課題】規則的な配列パターンのピッチがより微細化するフォトニック結晶やピクセルアレーなどの材料やディバイスなどにおける配列の乱れをより簡便に、正確に、短い時間で、所望の範囲にわたって検出、測定することができる、微小な規則的パターンの配列の乱れを検出測定する方法を提供する。
【解決手段】微小な規則的パターンを有する被検出対象物上に、エネルギー線を所定の走査パターンで照射し、エネルギー線を照射したときに生ずる二次電子発生量、反射粒子量、二次イオン発生量あるいはX線量の違いによりモアレ縞を形成させて、そのモアレ縞に基づいて被検出対象物が有する規則的パターンの変形の様子を一度に所定範囲で観察し、局部的な配列の乱れを検出または測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶やピクセルアレーなどの規則的な配列パターンを持つ材料やディバイスなどにおける格子や配列粒子やパターンの欠落、間隔の不一致、方向性の不一致などの配列の乱れを検出または測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料あるいは光学材料等の材料、それらの材料を用いたディバイスなどにおいて、2次元的または3次元的に規則的な微小パターンの配列を持たせて、従来にはない性能を有する、あるいは新たな機能を発現する材料、ディバイスなどを創製する試みが行われている。
【0003】
たとえば、記録ディスクでは、数十ナノメーターの超微小ピットが数十ナノメーター間隔で規則的に多数配列されたものが実現されており、これにより記録密度を大幅に高めたDVDなどの大容量記録媒体の開発が進められている。
【0004】
また、ミクロンサイズの小さな光検出器を規則正しく配列させるためのピクセルアレーにも注目が集まり、この光検出器を接続する基板として、図1に示すように、はんだ粒子を規則正しい列(バンプ)状に形成させる技術が開発され、実装技術の高度化に伴い、バンプの細密化が進んでいる。なお、図1の(a)は(b)の拡大図である。
【0005】
また、図2や図3に示すようなフォトニック結晶も作製されている。このフォトニック結晶は、一般に数ナノメーターから数ミクロンサイズの誘電体の3次元的な周期配列を有する結晶構造をいい、多くはガラスやセラミックスなどを積み木細工のように規則正しく配列したものであり、物質の空間的な位置関係が誘電体の周期的な分布を形成する。
【0006】
さらに、粒子や格子を並べたフォトニック結晶だけではなく、規則的に配列させたポリマー等の粒子の間隙に別の素材(誘電体)を注入し、ポリマー等の粒子を加熱により蒸発させる、あるいは薬品にて除去することにより、ナノメーターサイズの微小孔が規則的に配列したナノメーターサイズの格子(直交格子、斜交格子)も提案されている。
【0007】
このように、微小な規則的パターンの配列を利用した材料、ディバイスなどの開発が現在急速に進められているが、この規則的パターンの配列に乱れが生じると、材料やディバイスなどの性質、性能に大きく影響する。そこで、上記のような材料、ディバイスなどにおいて、微小な規則的パターンの配列の乱れを精度よく検出することが非常に重要なこととなってくる。たとえばフォトニック結晶においてはパターンの間隔が異なることにより反射する光の波長が異なり、欠陥があることにより光の進む経路が変化したりするが、そのパターンひとつの要素が数ナノメートルから数百ナノメートルと可視光の波長より小さい場合、光学顕微鏡を用いた直接観察は大変困難であり、また走査型電子顕微鏡を用いての直接観察も一度に広範囲の配列の乱れを検出することは大変困難であった。
【0008】
一方、本発明者らは、構造材料の変形を測定するのに用いられるモアレ法を応力集中部等の局所的な微小変形測定に応用させた電子線モアレ法を先に提案している(特許文献1)。この電子線モアレ法は、試料上に試料とは異なる材料であって照射一次電子に対する二次電子発生量や反射電子量が試料とは異なるものを用いて規則的なパターン(モデルグリッド)を描き、これに電子線を照射して二次電子発生量や反射電子量の違いにより明暗の縞であるモアレ縞を形成させ、そのモアレ縞から変形量を測定する手法である。
【0009】
また、モアレ法には、上記の電子線モアレ法の他に、通常のグリッドの描いてある透明なシートをモデルグリッドに重ね合わせる光学的モアレ法、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いるSPMモアレ法(特許文献2)などがある。
【特許文献1】特開平2−110308号公報
【特許文献2】特開平7−333001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、モアレ法を用いて材料やディバイスなどの規則的パターンの配列の乱れを検出する上記従来技術の手法には以下に示すような問題点があった。
【0011】
特許文献1に記載の電子線モアレ法では、試料とは別の材料を用いて規則的なパターン(モデルグリッド)を試料上に描く必要があり、検出に手間がかかるという問題があった。
【0012】
また、光学的モアレ法では、検出に可視光を用いるため可視光の波長より小さい配列ピッチの規則的パターンの配列の乱れを検出することは大変困難であった。
【0013】
さらに、特許文献2のSPMモアレ法は、微細な領域では使用可能であるが、ナノメーターオーダーでプローブを走査するために圧電素子を用いているので、プローブのたわみの誤差や圧電素子の誤差の影響を受け、また一回の走査に時間がかかる上、走査できる範囲も小さい範囲に限られるという問題があった。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、規則的な配列パターンのピッチがより微細化するフォトニック結晶やピクセルアレーなどの材料やディバイスなどにおける配列の乱れをより簡便に、正確に、短い時間で、所望の範囲にわたって検出、測定することができる、微小な規則的パターンの配列の乱れを検出測定する方法を提供することを課題としている。
【0015】
また、本発明は、特に規則的な配列パターンの配列ピッチが可視光より小さな材料やディバイスあるいは構造体における配列の乱れを正確に検出、測定することができる方法を提供することも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するために、第1に、微小な規則的パターンを有する被検出対象物上に、エネルギー線を所定の走査パターンで照射し、エネルギー線を照射したときに生ずる二次電子発生量、反射粒子量、二次イオン発生量あるいはX線量の違いによりモアレ縞を形成させて、そのモアレ縞に基づいて被検出対象物が有する規則的パターンの変形の様子を一度に所定範囲(広範囲)で観察し、局所的な配列の乱れを検出または測定することを特徴とする微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、第2に、上記第1の発明において、エネルギー線が電子線、収束イオンビームなどの粒子線であることを特徴とする微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、第3に、上記第1の発明において、エネルギー線がレーザービームであることを特徴とする微小な規則的パターンの乱れ検出測定方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、第4に、上記第1または第2の発明において、微小な規則的パターンの配列ピッチが可視光の波長より小さいことを特徴とする微小な規則的パターンの配列の
乱れ検出測定方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、第5に、上記第4の発明において、微小な規則的パターンの配列ピッチが1ナノメートル〜350ナノメートルの範囲内であることを特徴とする微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法を提供する。
【0021】
また、本発明は、第6に、上記第4の発明において、微小な規則的パターンの配列が結晶性の配列であることを特徴とする微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法を提供する。
【0022】
さらに、本発明は、第7に、微小な規則的パターンを有する非導電性の被検出対象物上に、粒子線を所定の走査パターンで照射し、粒子線を照射したときに照射部位より生ずる二次電子発生量もしくは二次イオン発生量と粒子線による照射部位の帯電量とが等しくなるように粒子線の加速電圧を制御し、粒子線を照射したときに生じる二次電子発生量、反射粒子量、二次イオン発生量あるいはX線量の違いによりモアレ縞を形成させて、そのモアレ縞に基づいて被検出対象物が有する規則的パターンの変形の様子を一度に所定範囲(広範囲)で観察し、局部的なの配列の乱れを検出または測定することを特徴とする微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本願の第1から第3の発明によれば、電子線や収束イオンビームなどのエネルギー線を、微小な規則的パターンを有する被検出対象物に照射して、二次電子発生量、反射粒子量、二次イオン発生量あるいはX線量の違いにモアレ縞を形成し、そのモアレ縞に基づいて被検出対象物が有する規則的パターンの変形の様子を一度に所定範囲で観察し、局部的な配列の乱れを検出ないし測定するようにしたので、ピッチがより微細化するフォトニック結晶やピクセルアレーなどの材料やディバイスあるいは構造体における配列の乱れをより簡便に、正確に、短い時間で、所望の範囲にわたって検出、測定することが可能となる。
【0024】
また、本願の第4および第5の発明によれば、規則的な配列パターンのピッチが可視光より小さい、あるいは1ナノメートル〜350ナノメートルである材料やディバイスあるいは構造体における配列の乱れをも正確に検出ないし測定することができる。
【0025】
また、本願の第6の発明によれば、フォトニック結晶等の結晶性の配列を有する材料のパターンの乱れを正確に検出、測定することができる。
【0026】
さらに、本願の第7の発明によれば、微小な規則的パターンを有する非導電性の被検出対象物上に、粒子線を所定の走査パターンで照射し、粒子線を照射したときに照射部位より生ずる二次電子発生量もしくは二次イオン発生量と粒子線による照射部位の帯電量とが等しくなるように粒子線の加速電圧を制御するようにしたので、非導電性の被検出対象物の過剰帯電にモアレ縞への影響を効果的に防止できるため、非導電性の被検出対象物であっても規則的パターンの変形の様子を一度に所定範囲で観察し、局部的な配列の乱れを正確に検出、測定可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は上記のとおりの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0028】
本発明者は、フォトニック結晶やピクセルアレー等の微小な規則的パターンが先に特許文献1で提案した電子モアレ法におけるモデルグリッドに近い規則性を持っていることに着目し、その規則性を利用して電子線や収束イオンビームなどの粒子線、レーザービーム
などの非粒子線よりなるエネルギー線を照射してモアレ縞を形成し、そのモアレ縞の形状に基づいて規則的パターンの配列の乱れが検出、測定できるのではないかと考え、鋭意検討を重ねた結果、モデルグリッドを形成せずに、フォトニック結晶やピクセルアレー等の微小な規則的パターンを有する被検出対象物に直接エネルギー線を照射しながら走査することにより、規則的パターンの変形の様子を一度に所定範囲で観察し、局部的な配列の乱れが検出、測定可能であることを見出した。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0029】
すなわち、本発明の微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法は、微小な規則的パターンを有する被検出対象物上に、エネルギー線を所定の走査パターンで照射し、エネルギー線を照射したときに生ずる二次電子発生量、反射粒子量、二次イオン発生量あるいはX線量の違いによりモアレ縞を形成させて、そのモアレ縞に基づいて被検出対象物が有する規則的パターンの変形の様子を一度に所定範囲で観察し、局部的な配列の乱れを検出または測定することを特徴とする。
【0030】
本発明において、検出、測定対象となるのは、微小な規則的パターンを有する被検出対象物である。この被検出対象物とは、微小な規則的パターンを有する金属合金、半導体、誘電体等の各種材料、これら材料を用いた各種ディバイス、あるいは各種構造物等であることができる。具体的には、材料としては、前述したようなフォトニック結晶が例示されるが、もちろんこれに限定されない。また、ディバイスとしては、前述したようなピクセルアレーが例示されるが、もちろんこれに限定されない。これらの材料、ディバイスなどは、本発明でその微小な規則的パターンの局所的な配列の乱れが検出、測定できるものであれば特に限定されない。
【0031】
本発明で、規則的パターンとは、任意の構造単位の1次元的、2次元的、3次元的に規則的な配列のことを言う。本発明の被検出対象物が有する微小な規則的パターンの配列のピッチは、その配列の乱れが検出、測定できるものであれば、特に限定されないが、たとえば、1ナノメートル〜30ミクロンの範囲内のものとすることができ、特に可視光の波長より小さい1ナノメートル〜350ナノメートルの範囲内のものに対しては特に有効になものとなる。また、本発明の規則的パターンはそのピッチが必ずしも同じものでなくてもよく、交互に変わっていてもよいし、一定の決まりを持って変化していてもよい。
【0032】
本発明では、モアレ縞の形成のためにエネルギー線を照射するが、典型的には電子線や収束イオンビームなどの粒子線を用いることができ、また粒子線以外にもレーザービームなどの非粒子線も使用可能であり、所期の目的を達成できるものであればその他適宜の種類エネルギー線を用いることができる。電子線の照射には走査型電子顕微鏡を用いることができ、収束イオンビームの照射には収束イオンビーム照射装置を用いることができ、また、レーザービームの照射には走査型レーザー顕微鏡を用いることができ、これらの一部によりエネルギー線のビーム径を数ナノメーターのオーダーまで絞り込むことができる。エネルギー線のビーム径は、規則的パターンの単位構造の大きさに合わせて適宜設定することができ、たとえば単位構造の大きさの1〜50%程度とすることができる。また、エネルギー線の加速電圧は、被測定対象物やエネルギー線の種類に応じて適宜設定されるが、たとえば電子線の場合0.1〜100kV、収束イオンビームの場合0.1〜30kV程度とすることができる。収束イオンビームを用いる場合、そのイオンとしてはガリウムイオンやインジウムイオン等を用いることができる。
【0033】
本発明では、モアレ縞の形成のためにエネルギー線を所定のパターンで走査するが、そのパターン形状としては、たとえば平行線状、格子状とすることができるが、それ以外の形状としてもよい。また、平行線状や格子状の場合には、その走査パターン間隔は、規則的パターンの構造単位の配列ピッチに応じて設定することができ、ケースにより両者は一
致させても異ならせてもよい。また、走査パターンの走査速度も、被検出対象物の種類等に応じて適宜設定されるが、通常、1〜1000mm/秒程度とすることができる。
【0034】
本発明において、モアレ縞は、エネルギー線を所定の走査パターンで照射したとき、後述するように、その照射部位の形状や物質に応じて生ずる二次電子発生量、反射粒子量、二次イオン発生量あるいはX線量が異なることにより、これらの検出量が変動することで形成される。
【0035】
本発明の方法により検出できる配列の乱れとは、被検出対象物を構成する格子や配列粒子やパターンの欠落や間隔の不一致、方向性の不一致などの種々の欠陥等が包含される。
【0036】
本発明の方法においては、配列の乱れの検出のみならず、ケースによっては、得られたモアレ縞の形状を解析することにより、配列の乱れの分布や方向等の定量的な測定を行うこともできる。
【0037】
ここで、本発明による被検出対象物の規則的配列の乱れ検出、測定の原理を、電子線を用いた場合を例にして説明する。
【0038】
図4は本発明による上記配列の乱れ検出、測定を行うための装置構成例を模式的に示す図である。図4において、1は電子線源、2は電子線走査用コイル、3は電子線、4は二次電子・反射電子等、5は二次電子等検出器、6は電子線の照射位置と信号の検出量を輝度の強弱により表すモニターまたはパソコンとその情報を表示するモニター、Sは試料(被検出対象物)である。本例の試料Sは、数十から数百ナノメーターの粒子が規則的に配列されているものである。電子線源1は所定の加速電圧を印加され、所定のエネルギーを有する電子線3を出射し、電子線3は電子線走査用コイル2により試料SのX方向、Y方向に走査可能となっている。電子線3の走査位置情報は電子線走査用コイル2からモニターまたはパソコン6に送られる。電子線3が試料Sに照射されると、二次電子や反射電子等4が発生し、二次電子等検出器5により、その発生量が検出される。二次電子等検出器5による検出結果はモニターまたはパソコン6に送られ、電子線走査用コイル2からの走査位置情報と関連付けられ、モアレ縞がモニターに表示される。
【0039】
図5はモアレ縞による欠陥検出例の説明図である。図中11は被検出対象物の規則的パターンに配列された粒子、12はエネルギー線としての電子線、13はモアレ縞を与える二次電子、14A、14Bはモアレ縞、15は欠陥である。図5の(b)は、図4のように数十から数百ナノメーターの粒子11が縦横に規則的に配列した集合体において、一部に一方向に直線状欠陥(間隔のずれ)15がある場合である。
【0040】
電子線12を粒子11の列に対して列間距離の間隔より若干変えた間隔で照射しながら照射すると、粒子11における照射位置が走査線毎に変わり、それに伴い二次電子等の発生量が異なってくる。ここでは、粒子11の頂点に電子線3が照射されたときに二次電子等が最も多く発生し、モニター上で最も明るく観察できるとする。この場合、粒子11が規則的に配列され、配列に乱れがない場合、図5(a)ような等間隔のモアレ縞14Aが観察される。一方、粒子11の配列に線状の欠陥15がある場合、欠陥15付近でモアレ縞を与える粒子11の位置が変わるので図5(b)のように間隔が異なるモアレ縞14Bが観察される(図5(b)の左より2番目と3番目の縞との間隔が他に比べて短い)。したがって、このモアレ縞(14A、14B)を観察することにより、規則的パターンの配列の乱れの有無が検出される。
【0041】
また、図6は、規則的パターンの配列の一部に傾きが生じた場合の例を示す。規則的パターンの配列が平行で傾きがないときには、図6の上側に示すように、電子線の走査方向
に平行な等間隔のモアレ縞が観察されるが、規則的パターンの一部に傾きが生じた場合には、図6の下側に示すように二次電子等の発生量が最も多く明るく見える部分(二次電子等によるモアレ縞)は斜めに観察され、図6の上部のように平行ではないことがわかる。そして、このモアレ縞の幅と角度より、配列の乱れの角度を求めることができる。なお走査幅を配列の幅と同じに設定した場合には、走査幅とモアレ縞の傾きの角度より配列の傾きの角度を求めることができる。
【0042】
このように、被検出対象物上に微小な規則的パターンの配列の乱れが存在すると、その乱れの様子に応じたモアレ縞の変形が生じる。したがって、微小な欠陥を直接観察しなくても、モアレ縞を観察することにより、微小な欠陥を検出したり、傾きがあればその傾斜角度を求めたりすることができる。
【0043】
以上、電子線を例に説明したが、もちろん本発明によれば、上記原理は収束イオンビームやレーザービームなどのエネルギー線にも適用することができる。
【0044】
また、本発明によれば、被検出対象物がセラミックスやポリマーなどの非導電性の材質の場合、この規則的パターン上に電子線や収束イオンビームなどの粒子線を、二次電子等の発生量が粒子線による照射部位の帯電量と同じになるように粒子線源の加速電圧を調節してパターン状に照射し、粒子線を照射した時に発生する二次電子発生量等の違いによりモアレ縞を形成させることができる。
【0045】
また、帯電させることにより、規則的パターンの乱れている部分のみ帯電量に違いができて、粒子線がまげられ、モアレ縞に違いが生じ、導波路等の意図的に作製した規則的パターンの乱れを検出することも期待される。
【0046】
次に、本発明の具体的な実施形態を実施例にて説明する。もちろん、本発明がこれらの例示に限定されることはない。
【実施例】
【0047】
<実施例1>
規則的パターンを有する被検出対象物として、図7に示す升目が25ミクロンの直交の304ステンレス鋼製金網(メッシュ)を用いた。この金網を走査型電子顕微鏡(トプコン社製SX−40A)の試料室内に入れて減圧し、加速電圧20kV、電流値100pAの条件で、電子線を22ミクロンの走査間隔で図7の紙面水平方向に走査したところ、二次電子発生量等の違いにより図8に示すような等間隔のモアレ縞が得られた。
<実施例2>
電子線の走査間隔を25ミクロンにした以外は実施例1と同様にして金網に平行に電子線を走査したところ、図9に示すようにモアレ縞は観察できなかった。
【0048】
金網を図7の紙面平行方向より3度傾けた以外は上記と同様にして金網に平行に電子線を走査したところ、図10に示すような等間隔のモアレ縞が観察された。
【0049】
さらに、金網を図7の紙面平行方向より5度傾けた以外は上記と同様にして金網に平行に電子線を走査したところ、図11に示すような等間隔のモアレ縞が観察された。
【0050】
金網を傾ける角度が大きくなるとモアレ縞の間隔が小さくなっていることがわかる。逆にモアレ縞の傾きと電子線の走査幅より格子の傾きを求めることができる。また、以上のようにして、規則格子の平行性を確認できる。
<実施例3>
図7に示す升目が25ミクロンの直交の規則的パターンを有する金網(メッシュ)に切
れ目(矢印)を入れ、規則的パターンに乱れを生じさせた金網を走査型電子顕微鏡(トプコン社製SX−40A)の試料室内に入れて油拡散ポンプにて減圧し、電子線の走査間隔を23.5ミクロンにした以外は実施例1と同様にして金網に平行に走査したところ、図12に示すようなモアレ縞が観測された。切れ目でモアレ縞にずれを生じていることわかる。これは格子に切れ目(ずれ)が生じたために生じたものであり、格子の不連続性の検出に使用可能であることが確認された。
<実施例4>
金網を試料室内で右側を図の上下方向に引っ張った状態にしたこと以外は実施例1と同様にして電子線の走査を行ったところ、図13に示すようなモアレ縞が観測された。左側よりも右側のモアレ縞の間隔が狭く、格子間隔が大きくなっていることがわかる。
【0051】
以上の実施例は本発明の効果の実証のため比較的大きな規則的パターンを用いたが、もちろんこれらの実施例が本発明の範囲を制限するものではない。
<実施例5>
規則的パターンとして、電子線リソグラフィーを用いて作製したラインアンドスペースパターン(平行で等間隔な凹凸の平行線群)を用いた。電子線レジスト(日本ゼオン社製ZEP−520−22)を2500回/分の回転数でシリコン基板上に厚さ0.4ミクロンの厚さに塗布した。これに、等間隔の平行線を描画する機能を持つパターンジェネレーターを持つ走査型電子顕微鏡(トプコン社製SX−40A)を用いて、線間隔0.143ミクロン(可視光の波長よりも小さい)、平行線のビームを電流量20pA(ピコアンペア)、倍率を1260倍にしてラピッドスキャンモードで6秒間照射した。照射された部分を除去する現像は、日本ゼオン社製ZED−N50を用い、20℃において60秒行った。現像後、金蒸着をして走査型電子顕微鏡にて観察した結果を図14に示す。線間隔は0.143ミクロンであった。この試料を同走査型電子顕微鏡の試料室に入れて油拡散ポンプにて減圧し、加速電圧20kV、電流値20mAの電子線を0.14ミクロンの間隔で図14の線と平行に走査速度68mm/秒で照射したところ、図15に示すような間隔10ミクロンのモアレ縞が観察できた。モアレ縞間隔は不均一であり、ラピッドスキャンモードでは間隔が不均一となることがわかった。
【0052】
このように、本手法を用いると可視光の波長よりも小さく、光学顕微鏡では観察不可能なパターンの間隔の不均一性を検出できることがわかった。
<実施例6>
規則的パターンを有する試料として、光の干渉とフォトリソグラフィーを用いて作製した直交グリッドパターン(直交で等間隔な凹凸の平行線群)を用いた。このグリッドパターンは中国社製(Beijing Holo Tech Co. Ltd.)で線間隔は0.83ミクロンであった。これにレーザー顕微鏡(Lasertec製走査型レーザー顕微鏡1LM15W)を用いてレーザービームを0.76ミクロンの間隔で直交格子の一方の線に平行に照射したところ、図16に示すような間隔8.85ミクロンのモアレ縞が観察できた。モアレ縞間隔は中央部分でほぼ均一であり、この部分のグリッドはほぼ均一であることがわかった。
【0053】
以上の結果から、本発明により、規則的パターンの配列の乱れを効果的に検出できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】はんだのバンプを規則的に配列したピクセルアレーを示す図で(a)は(b)の拡大図である。
【図2】自己組織化により作製した規則的パターンを有するフォトニック結晶表面の電子顕微鏡写真像を示す図である。
【図3】3次元的の規則的なパターンを有するフォトニック結晶を示す図である。
【図4】本発明の方法を実施する装置構成例である。
【図5】欠陥によりモアレ縞の幅が変化する様子を説明するための概念図である。
【図6】配列の方向の乱れによりモアレ縞の角度が変化することを説明するための概念図である。
【図7】実施例1で用いた升目が25ミクロンの直交の金網(メッシュ)の電子顕微鏡写真像を示す図である。
【図8】実施例1で観察されたモアレ縞を示す図である。
【図9】実施例2において金網を傾斜させない場合にモアレ縞が観察されなかった様子を示す図である。
【図10】実施例2において金網を3度傾けた場合に観察されたモアレ縞を示す図ある。
【図11】実施例2において金網を5度傾けた場合に観察されたモアレ縞を示す図である。
【図12】実施例3で観察されたモアレ縞を示す図である。
【図13】実施例4で観察されたモアレ縞を示す図である。
【図14】実施例5で用いた、電子線リソグラフィーを用いて作製したラインアンドスペースパターン(平行で等間隔な凹凸の平行線群)の電子顕微鏡写真像を示す図である。
【図15】実施例5で観察されたモアレ縞を示す図である。
【図16】実施例6で得られたモアレ縞を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 電子線源
2 電子線走査用コイル
3 電子線
4 二次電子・反射電子等
5 二次電子等検出器
6 粒子線の照射位置と信号の検出量を輝度の強弱により表すモニターまたはパソコンとその情報を表示するモニター
S 試料
11 粒子
12 電子線
13 二次電子
14A、14B モアレ縞
15 欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小な規則的パターンを有する被検出対象物上に、エネルギー線を所定の走査パターンで照射し、エネルギー線を照射したときに生ずる二次電子発生量、反射粒子量、二次イオン発生量あるいはX線量の違いによりモアレ縞を形成させて、そのモアレ縞に基づいて被検出対象物が有する規則的パターンの変形の様子を一度に所定範囲で観察し、局部的な配列の乱れを検出または測定することを特徴とする微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法。
【請求項2】
エネルギー線が電子線、収束イオンビームなどの粒子線であることを特徴とする請求項1に記載の微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法。
【請求項3】
エネルギー線がレーザービームであることを特徴とする請求項1に記載の微小な規則的パターンの乱れ検出測定方法。
【請求項4】
微小な規則的パターンの配列ピッチが可視光の波長より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法。
【請求項5】
微小な規則的パターンの配列ピッチが1ナノメーター〜350ナノメーターの範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法。
【請求項6】
微小な規則的パターンの配列が結晶性の配列であることを特徴とする請求項4に記載の微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法。
【請求項7】
微小な規則的パターンを有する非導電性の被検出対象物上に、粒子線を所定の走査パターンで照射し、粒子線を照射したときに照射部位より生ずる二次電子発生量もしくは二次イオン発生量と粒子線による照射部位の帯電量とが等しくなるように粒子線の加速電圧を制御し、粒子線を照射したときに生じる二次電子発生量、反射粒子量、二次イオン発生量あるいはX線量の違いによりモアレ縞を形成させて、そのモアレ縞に基づいて被検出対象物が有する規則的パターンの変形の様子を一度に所定範囲で観察し、局部的な配列の乱れを検出または測定することを特徴とする微小な規則的パターンの配列の乱れ検出測定方法。

【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−315877(P2007−315877A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144786(P2006−144786)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】