説明

微粉砕機

【課題】実験室等で分析試料を得るための環境・生物試料を、迅速かつ効率的に微粉砕することができ、取り扱いが容易で安価な装置の開発。
【解決手段】手動で用いられ取っ手部と取っ手支持部と底部に溝が形成されたキネ本体部から構成される粗粉砕用キネと、円筒部と皿部から構成される粗粉砕用ウスからなる前処理用の粗粉砕器と、卓上ボール盤30のチャック38に取り付けられ底部に溝が形成されたシャフト付きキネ80と該シャフト付きキネに取り付けられる飛散防止カサ90と卓上ボール盤のワークテーブル36に定置される底部に溝が形成された微粉砕用ウス40と該微粉砕用ウスに取り付けられる飛散防止カバー60とウス固定用ガイド70とからなる後処理用の微粉砕器とからなる粉砕器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌や植物体等を微粉砕とする装置に関し、更に詳しくは土壌や植物体等を分析用試料として微粉砕とする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌等の環境試料の理化学性を分析するためには、試料の不均一性を解消するために風乾固化した土壌等を粉砕することが標準的な手法である。土壌や植物体等を粉砕する装置としては、ハンマーミルやカッターミルにより機械的に破砕する方法が一般に知られている。例えば植物原料の粉砕技術として、竪型ローラミルに植物原料を導入して、100℃程度の高温のガスにより80℃以上に加熱しながらすりつぶし、また高温ガスを搬送手段として分級・再粉砕することにより植物原料を安定した粒径に微粉砕する装置が提案されている(特許文献1を参照。)。また繊維を含む繊維質材料を粉砕する繊維質材料の粉砕方法としては、互いに接近する方向に付勢されながら回転する一対の金属製ロールの間に、繊維質材料を投入して圧縮粉砕するロール圧縮粉砕工程を備えた装置が提案されている(特許文献2を参照。)。
【0003】
さらに古紙、廃木材、木、竹、草等の植物セルロースを含む様々な植物性有機物を粉砕処理する方法及び装置として、植物性有機物をスライスチップ状に形成する前処理工程と、古紙、廃木材、自然な植物などの植物性有機物を粉砕乾燥装置に導入し、摩擦熱を主熱源とし、ヒーターを副熱源として、所定の温度下で水分を蒸発させながら攪拌・粉砕して乾燥した微細粉を形成する粉砕・乾燥工程と、乾燥した微細粉を回収する回収工程とを含む装置が提案されている(特許文献3を参照。)。
【0004】
また有機繊維物粉粒体または石炭、岩石粉粒体を粉砕する粉砕装置としては、回転軸が水平で相互に隣接しかつロール隣接部分が共に下向きに回転駆動される1対のロールよりなり、該1対のロールの内の一方のロールが多角柱体で、他方のロールが円柱体であり、その回転中心軸が相互に接近または離隔できるように移動自在に枢支され、被粉砕材を粉砕しうるに足る押付け力でもって前記1対のロールを相互に押し付ける押圧機構と、該押圧機構と前記1対のロールに介装されるスプリングと、前記1対のロールの間に被粉砕材を供給する被粉砕材供給手段とを備えた装置が提案されている(特許文献4を参照。)。
【0005】
また超微粉の製品を高い生産性で、かつその粒度分布の広がりを任意に調整できる装置として、粉砕機は主軸の回転を受けて公転しつつそれぞれが自己の回転軸を中心として自転する複数のミルポットを主軸の周囲に均等に配設した複数の乾式連続遊星ボールミルを併置し、第一の乾式連続遊星ボールミルの前方に具えた第一のフィーダ、同じく後方へ具えた第一の分級機、および該分級機の後方に具えた第一の粉体回収装置までの各装置を通じて空気と粉体とを輸送する第一ブロックを形成し、分級機から分級された粗粉Rは再び第一フィーダに戻入する経路と、粉体回収装置で回収された微粉Fが第二フィーダへ収容される経路とを配設し、以下同様に第二の乾式連続遊星ボールミル、第二粉体回収装置を経由して超微粉製品Pの回収部へ至る空気輸送路を形成する第二ブロックを連結したことを特徴とする連続式粉砕分級装置がある(特許文献5を参照。)。
【0006】
しかしながら、上記の発明はいずれも装置が大型で、且つ高価なものであり、実験室等で分析試料を得るのには不適当であった。また土壌や植物体などの環境試料は、化学分析に供するため、高温履歴は試料の変質を招くために避ける必要がある。実験室等で分析試料を得る微粉砕装置としては、前記ボールミルの球体の代わりに金属円筒を用いたミルがあるが、容器の着脱に体力を消耗し、容器の洗浄に時間がかかる等、作業効率が悪いという不都合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−211777号公報
【特許文献2】特開2007−275894号公報
【特許文献3】特開2007−190487号公報
【特許文献4】特開2003−290673号公報
【特許文献5】特開平6−47308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、実験室等で分析試料を得るための環境・生物試料を、迅速かつ効率的に微粉砕することができ、取り扱いが容易で安価な装置を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<1> 本発明は、分析用試料を調製するための粉砕器において、手動で用いられ、取っ手部と取っ手支持部と底部に溝が形成されたキネ本体部から構成される粗粉砕用キネと、円筒部と皿部から構成される粗粉砕用ウスとからなる前処理用の粗粉砕器と、卓上ボール盤のチャックに取り付けられ底部に溝が形成されたシャフト付きキネと該シャフト付きキネに取り付けられる飛散防止カサと卓上ボール盤のワークテーブルに定置される底部に溝が形成された微粉砕用ウスと該微粉砕用ウスに取り付けられる飛散防止カバーとウス固定用ガイドとからなる後処理用の微粉砕器とからなることを特徴とする粉砕器である。
<2> さらに本発明は、前記溝が、円形を扇形に3分の1乃至8分の1のいずれかに分割したときの各分割線に並行した凸部及び凹部からなる連続した直線又は不連続な直線により形成されている粉砕器である。
<3> さらに本発明は、前記溝の間隔が、凸部が0.5〜2mm、凹部が1〜3mmで、凸部と凹部の深さが、0.3〜1.0mmである粉砕器である。
<4> さらに本発明は、前記卓上ボール盤の回転数が800rpm〜2000rpmである粉砕器である。
<5> さらに本発明は、前記飛散防止カバー内面上段部と内面中段部の傾斜角が110°〜140°であり、飛散防止用カサ水平部と周縁部の傾斜角が100°〜130°である粉砕器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の微粉砕器により、土壌や植物体等の環境試料の一般理化学性分析に供する直径2mm以下の粗粉砕試料、および微量試料分析に供する直径0.2mm以下の微粉砕試料を容易かつ経済的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は粗粉砕用キネを示す斜視説明図である。
【図2】図2は粗粉砕用キネ底面の溝の一例を示す説明図である。
【図3】図3は粗粉砕用キネ底面の溝の一例を示す説明図である。
【図4】図4は粗粉砕用ウスの円筒部を示す斜視説明図である。
【図5】図5は粗粉砕用ウスの皿部を示す斜視説明図である。
【図6】図6は微粉砕器の全体を示した正面説明図である。
【図7】図7は微粉砕用ウスを示した斜視説明図である。
【図8】図8は微粉砕用飛散防止カバーを示した斜視説明図である。
【図9】図9は微粉砕用飛散防止カバーと微粉砕用ウスが嵌合した状態の断面図である。
【図10】図10は微粉砕用ウス固定用レンチを示した斜視説明図である。
【図11】図11は微粉砕用シャフト付きキネを示した斜視説明図である。
【図12】図12は微粉砕用飛散防止カサを示した斜視説明図である。
【図13】図13は粗粉砕用キネ底面の溝を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、前処理として用いる粗粉砕器と、後処理として用いる微粉砕器とからなり、乾燥された土壌や植物体等を微粉末に、水分を含んだ植物体等をペーストにすることを特徴とする装置である。以下に、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
本発明において、固化した礫を含む土塊、木炭片、植物体等の材料の微粉末を得る場合は、乾燥処理をすることにより水分含量が5%〜10%となるようにあらかじめ調製される。また水分を含んだ植物体等をペーストとする場合は、前記粗粉砕器は用いられず、直接微粉砕器が用いられる。
【0014】
前記粗粉砕器は、粗粉砕用キネと粗粉砕用ウスとからなり、手動により供試試料を粉砕する。前記粗粉砕用キネを図1に示す。図1において10は粗粉砕用キネを、12は取っ手部を、13は取っ手支持部を、14はキネ本体部を、16はキネ本体部の底面をそれぞれ示す。該取っ手部12は握りやすい形状で構成され、キネ本体部14の上下、及び回転の動作を容易に行うことができる。キネ本体部14の底面16はヤスリ状の溝がもうけられ、対象物の形状に関わらず、キネ本体部14による打撃とすり潰しにより対象物を粉砕することが可能である。キネ本体部14の底面の溝の形状は、底面の円形を扇形に3分の1乃至8分の1のいずれかに分割したときの各分割線に並行な溝により形成されることが好ましい。具体的に6分の1分割したときの溝の形状を図2に示す。図2において、6ブロックの扇形に分割された各ブロックの溝17は、反時計回りに分割線18と並行な凸部及び凹部により形成される。溝は図2に示すように連続して形成されていてもよく、図3に示すように不連続に形成されたものであってもよい。該溝の間隔は凸部が0.5〜2mm、凹部が1〜3mmであることが好ましく、該溝の深さは0.3〜1.0mmが好ましい。
【0015】
前記粗粉砕用キネ10の取っ手部12の長さは、操作の容易のために25cm〜35cmが好ましく、外径は2cm〜3cmが好ましい。該取っ手部12の素材は所要の強度と耐久性を有する限りはいずれの素材も用いることができるが、ステンレス等の金属製パイプにより構成され、該端部がゴムキャップでカバーされることが握りやすく、操作しやすい点で好ましい。
【0016】
前記取っ手支持部13の長さは50cm〜60cmが好ましく、外径は2cm〜3cmが好ましい。該取っ手支持部13の素材も、取っ手12と同様に金属パイプが好ましい。またキネ本体部14は高さが8cm〜11cm、径が6〜8cmの円筒状で、素材としてはステンレス等の無垢の金属素材が好ましい。前記粗粉砕用キネ10の取っ手部12、取っ手支持部13、キネ本体部14は、一体で形成されていることが好ましい。
【0017】
前記粗粉砕用ウスは円筒部と皿部により構成される。前記円筒部を図4に示す。図4において20は円筒部を示し、22は筒部を、24は裾部を示す。図5に皿部25を示す。図5において25は皿部を、26は皿部本体を、27は支持板を、28は固定用ボルトを、29は皿部本体の底面をそれぞれ示す。
【0018】
前記粗粉砕用ウスは、前記円筒部の裾部24を皿部本体26に嵌め込み、固定用ボルト28で固定して使用される。前記筒部22は、粉砕時に試料の飛散を防ぎ、粉砕された試料は皿部本体26に回収される。前記固定ボルト28を取り外すことにより、前記円筒部20と皿部25とは容易に分離され、粉砕された試料の取り出しや、前記円筒部20および皿部25の洗浄操作が容易となる。
【0019】
前記皿部本体の底面29には溝が形成されてもよく、また平滑であってもよい。前記支持板27は前記皿部本体26と一体形成されており、粉砕動作時に皿部25が揺動しなければよい。該皿部本体26の内径は前記キネ本体部14の径に対し5〜10mm大きく、キネ本体部14が粉砕用ウス内部で上下動及び回転動をすることにより、供試試料のすり潰しが行われる。
【0020】
前記円筒部22は、キネ本体の上下動や回転運動を保持するガイドとしても作用するが、試料の飛散を防止するためには円筒部の長さが19cm〜25cmであることが好ましい。
【0021】
前記粗粉砕器が、固化した礫を含む土塊や、木炭片、植物体等の試料の粉末を得るために用いられるときは、該試料の水分含量が5%〜10%となるようにあらかじめ調整されることが好ましい。該調整は試料の分析目的に応じ、風乾処理、乾熱オーブン、通風乾燥等の適宜の乾燥方法を用いることができる。
【0022】
前記粗粉砕器は、手動で取っ手12を上下動させ、または取っ手12を回転させることにより試料をすり潰す。該粗粉砕器を作動させることによりにより、乾燥した供試試料について粒径を2mm以下の試料を得ることができる。
【0023】
前記粗粉砕器により粗粉砕された試料のうち、更に微細の試料を機器分析に供する場合は、該粗粉砕器により調製した試料を少量分取して、更に該粗粉砕器により目開き0.5mmのふるいを全通するように微粉砕し、微粉砕試料として供試することが一般的であるが、数十〜数百mgの秤取量が必要な場合には、前記微粉砕器が用いられる。
【0024】
前記微粉砕器は、市販の卓上ボール盤のチャックにシャフト付きキネと飛散防止カバーを取り付け、卓上ボール盤のワークテーブル上に微粉砕用ウスを取り付けたものである。該微粉砕用ウスは飛散防止カバーが取り付けられ、ウス固定用レンチで卓上ボール盤の支柱に定置されている。
【0025】
前記微粉砕器の全体正面説明図を図6に示す。図6において30は卓上ボール盤を、32は卓上ボール盤の支柱を、34は卓上ボール盤のシャフト上下ハンドルを、36は卓上ボール盤のワークテーブルを、38は卓上ボール盤のチャックを、40は微粉砕用ウスを、60は飛散防止カバーを、70は微粉砕用ウスの固定レンチを、80はシャフト付きキネを、90は飛散防止カサをそれぞれ示す。
【0026】
前記卓上ボール盤30は、市販の卓上ボール盤を使用することがでる。該卓上ボール盤としては回転数が800rpm〜2000rpmであることが好ましい。
【0027】
図7に微粉砕用ウスの斜視説明図を示す。図7において40は微粉砕用ウスを、42は微粉砕用ウス40の内面を、43は微粉砕用ウスの上面を、44は微粉砕用ウスの底部を、46は微粉砕用ウスの側部を、47は微粉砕用ウスの側部の凹状溝を、48は微粉砕用ウスの土台をそれぞれ示す。微粉砕用ウスの中心部は、ウスの内面42と底部44により円筒を形成する。該円筒の容量は目的とする試料が2〜5gの場合は15〜30cmが好ましく、該円筒の内径は30〜40mmが好ましく、高さは10〜30mmが好ましい。前記微粉砕用ウス40は、ステンレス等の容易に摩耗しない金属により、一体に形成されることが好ましい。
【0028】
前記微粉砕用ウス40の側部の凹状溝47は、前記飛散防止カバー60を固定用オシボルト66により固定するためのもので、幅が5〜7mm、深さが2.5〜3.5mmであることが好ましい。前記微粉砕用ウスの土台48は正方形に形成され、前記ウス固定用レンチ70のウス固定用ガイド72と嵌合する。また微粉砕用ウス40の底部44は、前記粗粉砕用キネ本体部の底面16と同様の溝が刻まれており、前記シャフト付きキネ80の底部に施した溝とかみ合うことによって、目的の試料が粉砕される。
【0029】
図8に飛散防止カバーの斜視説明図を示す。図8において60は飛散防止カバーを、62は飛散防止カバーの外側を、64は飛散防止カバーの内面を、66は固定用オシボルトをそれぞれ示す。また図9に飛散防止カバー60と微粉砕用ウス40が嵌合した状態の断面図を示す。図9において斜線部分は微粉砕用ウス40を、白抜き部分は飛散防止カバー60を、64は飛散防止カバーの内面を、64aは内面上段部を、64bは内面中段部を、64cは内面水平部を、64dは内面下段部をそれぞれ示す。
【0030】
図9に示されるように飛散防止カバーの内面64はロート状に形成され、内面上段部64aと内面中段部64bの傾斜角は110°〜140°が好ましく、120°〜130°がより好ましい。該内面中段部64bの底部の内径は、前記微粉砕用ウスの円筒の内径と同一に形成される。
【0031】
前記飛散防止カバーの内面下段部64dの内径は前記微粉砕用ウス40の外面46と嵌合するように形成される。また該外側62には180度の角度で一対の固定用オシボルト66が設けられ、該固定用オシボルト66は微粉砕用ウスの側部の凹状溝47と固定される。
【0032】
前記飛散防止カバー60は、試料の粉砕状態が認識できるように透明樹脂等の透明体で構成されることが好ましく、前記微粉砕用ウス40の外側を覆うように上方から装着される。前記の通り、飛散防止カバー60の内面中段部64bの底部の内径は、前記微粉砕用ウス40の円筒の内径と同一に形成され、前記シャフト付きキネ80が前記微粉砕用ウス40に挿入されるのを妨げないと同時に、飛散防止カバーの内面水平部64c及び内面下段部64dが前記微粉砕用ウス40の上面43及び側部46と密着して前記微粉砕用ウス40を覆う。この構造は、前記微粉砕用ウス40の上面43と該飛散防止カバー60との接触面に粉砕された試料が進入することを防ぎ、試料の損失を回避する。さらに、飛散防止カバーの内面中段部64bは傾斜を付けてあるので、粉砕によって前記微粉砕用ウス40の底部からウスの側面を通って上方に飛散された試料は、該飛散防止カバー60からウス底部44に捕集される。
【0033】
図10にウス固定用レンチを示す。図10において70はウス固定用レンチを、72はウス固定用ガイド、74はレンチシャフトを示す。該ウス固定用ガイド72は、前記微粉砕用ウス40の土台48が嵌め込まれることによって、該ウスと固定される。
【0034】
前記ウス固定用ガイド72に微粉砕用ウス40が嵌め込まれたウス固定用レンチ70は、卓上ボール盤のワークテーブル36上に、レンチシャフト74が卓上ボール盤支柱32に当たるように置かれる。該レンチシャフト74には、シャフト付きキネ80の回転力により卓上ボール盤支柱32を押圧する力が働き、卓上ボール盤支柱32に係止されて、微粉砕用ウス40が卓上ボール盤のワークテーブル36上に定置されるとともに、卓上ボール盤の振動が飛散防止カバー60に伝達され、微粉試料のウス40への還流を効率よく行う。
【0035】
図11にシャフト付きキネを示す。図5において80はシャフト付きキネを、82はシャフト上部を、83はシャフト端部を、84はキネ本体を、86はシャフト下部をそれぞれ示す。
【0036】
前記シャフト上部82のシャフト端部83は円筒棒状となっており、該シャフト端部83を卓上ボール盤のチャック38に装着し、チャックを締めて、チャックに固定する。卓上ボール盤のチャックの回転数を調節することにより、前記シャフト付きキネ80の回転数を調整することができ、卓上ボール盤のシャフト上下ハンドルを回転させることで、シャフト付きキネ80の上下動を行うことができる。
【0037】
前記シャフト下部86は前記シャフト上部82より太く形成され、シャフト上部とシャフト下部との段差部分は、飛散防止用カサ90のストッパーとして機能する。またシャフト付きキネの底部は、前記粗粉砕用キネ本体部の底面16と同様の溝が刻まれており、前記微粉砕用ウス40の底部44に施された溝とかみ合い、シャフト付きキネ80の回転によって、対象物の形状に関わらず試料のすり潰しが可能である。前記シャフト付きキネ80は、ステンレス等の容易に摩耗しない金属により、一体に形成されることが好ましい。
【0038】
図12に飛散防止用カサを示す。図12において90は飛散防止用カサを、92は飛散防止用カサの穴を、93は飛散防止用カサの水平部を、94は飛散防止用カサの周縁部を示す。該穴92の内径は前記シャフト上部82の外径に対して0.3〜0.7mm大きいことが好ましい。前記穴92の内径が前記シャフト82の外径より大きいことにより、キネ80が卓上ボール盤の回転機構によって回転している際にも、該穴92がシャフト82と密着しないので、回転のラグが生じ、該飛散防止カサ90本体に振動が発生し、粉砕された試料の微粉末が該飛散防止カサの表面に付着するのを防止する。
【0039】
前記周縁部94は斜め下方に傾斜を有し、水平部93と周縁部94の傾斜角は100°〜130°が好ましく、110°〜120°がより好ましい。該周縁部94が斜め下方に傾斜角を有することにより、前記飛散防止カバー60より飛散する試料を、微粉砕用ウス40に回収することができる。
【0040】
本発明の粉砕器の操作は以下の通りである。前処理として行う粗粉砕には、図1に示される粗粉砕用キネと、図4及び図5に示される粗粉砕用ウスが用いられる。あらかじめ乾燥した試料を手で軽くほぐし、肉眼で確認できる数cmのかたまりが存在する場合にはあらかじめこれを除去する。その後、図4及び図5に示される粗粉砕用ウスに試料を入れ、図1に示される粗粉砕用キネを粗粉砕用ウスの円筒20に挿入し、手動でキネを上下して試料を粉砕し、また取っ手を回転させることにより試料をすり潰す。
【0041】
前記粉砕用キネは、前記の溝が刻まれているため、押し潰しと同時に、すり潰しの機能を有しており、試料が効率よく粉砕される。前記上下動と回転動を、目的とする試料サイズとなるまで反復する。乾燥土壌を50g供試して2mm程度の粉砕試料を得る場合の所要時間は30秒程度である。粉砕が終了したら、皿部と円筒部を外し、粉砕された試料を目的とする目開きのふるいに通過させ、粗粉砕試料を得る。
【0042】
前記の前処理として粗粉砕器によって得られた粗粉砕試料を、更に微粉砕する後処理は以下の通りである。前記粗粉砕器によって得られた粗粉砕試料を分取し、前記微粉砕用ウス40に入れ、飛散防止カバー60を微粉砕用ウスに取り付け、ウス固定用レンチ70をセットした卓上ボール盤のワークテーブル36上に定置する。一方、飛散防止カサ90をシャフト付きキネ80のシャフト上部82に装着し、シャフト端部83を卓上ボール盤のチャック38に取り付ける。
【0043】
前記卓上ボール盤の電源スイッチをONにしてシャフト付きキネ80を回転させ、試料が入ったウスの底部44方向に下降挿入する。シャフト付きキネ80を徐々に下降させ、試料粉砕が開始されると、粉砕された粒子がウスの底部44から飛散防止カバー60の内部に飛び出してくる。該飛散防止カバー60と飛散防止カサ90によって飛散試料の粒子が飛散防止カバー60の内部にトラップされ、飛散防止カバー内部の傾斜により、再び微粉砕用ウス40に還流される。飛散防止カバー60は、還流する粒子の粉砕程度が肉眼で確認できる透明体で形成されることが好ましい。
【0044】
前記の粉砕が十分行われたと判断されたら、シャフト付きキネ80がウス40に挿入された状態で卓上ボール盤の回転軸を停止させる。微粉砕された試料はウス底部44や飛散防止カバー内部の他に図10で示されるシャフト付きキネ本体84の上部傾斜部分に付着しているので、シャフト上部82に軽く振動を与えて試料をウスに回収し、微粉砕試料を得る。
【0045】
前記シャフト付きキネの回転数、及び操作時間は、好ましくは前記飛散防止カバーが透明体により形成されることから、微粉砕用ウス40内における粉砕経過は肉眼で観察でき、また微粉砕に要する時間は数分のため、目的とする粉砕状態となるまで観察しながら操作を調整することができる。
【実施例】
【0046】
本発明の内容を以下の実施例で更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1:粗粒質土壌の粉砕)
実施例1に用いた粗粉砕器として、図1に示すキネ、及び図2、図3に示すウスを用いた。該ウスの取っ手部12の長さは300mm、直径は25mm、取っ手支持部13の長さは625mm、キネ本体部14の長さは95mm、直径は65mmであった。該キネ本体の底面の形状を図13に示す。図13において塗りつぶし部分が凸部を示し、凸部の幅は1mm、凹部の幅は2mm、溝の深さは0.6mmであった。また円筒部20の長さは210mm、皿部本体26の内径は95.3mmであった。
【0047】
供試土壌として、岡山県で採取した礫質山地褐色森林土、壌〜砂質の表層土壌をもちいた。試料を室温で風乾後、固化した土塊を手で軽くほぐし、肉眼で確認できる数cmの礫を除去した後、試料約50gを粗粉砕器によって粉砕した。粉砕された試料を目開き2mmのステンレス製ふるいを通過させ細土試料を得た。ふるいを通過しなかった2mm以上の粒径の粒子は全て岩石破片や石英粒などの礫画分に分類される粒子であった。
【0048】
粗粉砕器によって得られた細土試料5gを分取し、微粉砕器により粉砕した。実施例1に用いた微粉砕器として、図4に示す微粉砕器を用いた。卓上ボール盤は藤原産業(株)卓上ボール盤、型式DP−375Vを用いた。微粉砕用ウス40の内径は35.2mm、ウスの内面42の高さは21mm、シャフト付きキネ80の全長は105mm、キネ本体84の外径は34mmであった。ウスの底面及びシャフト付きキネの底面の溝は、前記粗粉砕用キネ本体の底面の形状と同様であった。また飛散防止カバーの内面上段部64aと内面中段部64bの傾斜角は124°、飛散防止カサの水平部93と周縁部94の傾斜角は114°であった。
【0049】
前記シャフト付きキネの回転数を1350rpmとして、30秒間で、1回目の処理を行った。本供試土壌では、粗粉砕後の試料中に石英粒子が含まれていたが、1回の行程で目開き0.2mmのふるい上に残存した粒子のみを再び微粉砕器により処理することにより、目開き0.2mmのステンレス製ふるいを全通した。微粉砕行程に要した時間は試料の分取からふるいの通過まで5分であった。
【0050】
(実施例2:細粒質土壌の粉砕)
実施例1に用いたと同一の粗粉砕器及び微粉砕器を用いた。供試土壌として、茨城県で採取した細粒質グライ化灰色低地土、粘質の下層土を用いた。試料を風乾後、固化した土塊を手で軽くほぐし、肉眼で確認できる長さ数cmの植物根を除去した後、試料約50gを粗粉砕器によって実施例1と同様の方法で粉砕した。粉砕された試料を目開き2mmのステンレス製ふるいを通過させ粗粉砕後の試料を得た。本供試土壌には2mm以上の礫はほとんど含まれず、粘土含量が高いため、粗粉砕器による1回の行程では目開き2mmのふるい上に粘土粒子の凝集体が残存していた。そこで残存試料を再び粗粉砕器によってすり潰すことで2mm以下の細土試料を得た。
【0051】
前記粗粉砕器によって得られた粗粉砕後の試料約5gを分取し、微粉砕器により前記シャフト付きキネの回転数を1350rpmとして、実施例1と同様の方法で粉砕した。細土試料は1回の行程で目開き0.2mmのステンレス製ふるいを全通した。微粉砕行程に要した時間は試料の分取からふるいの通過まで3分であった。
【0052】
(実施例3:火山灰土壌の粉砕)
実施例1に用いたと同一の粗粉砕器を用い、微粉砕器についてはウスの底面及びシャフト付きキネの底面の溝を図2に示す6分割された溝を用いた以外は実施例1と同様におこなった。また該溝の幅及び深さは粗粉砕用ウスの溝と同様とした。供試土壌として、茨城県で採取した腐植質厚層黒ボク土、非埋没腐植質の下層土を用いた。試料を風乾後、固化した土塊を手で軽くほぐし、肉眼で確認できる長さ数cmの植物根を除去した後、試料約50gを前記粗粉砕器によって実施例1と同様の方法で粉砕した。粉砕された試料を目開き2mmのステンレス製ふるいを通過させ粗粉砕後の試料を得た。本供試土壌は火山灰から生成しており、礫画分はほとんどふくまれないため、粉砕は迅速に行われた。
【0053】
前記粗粉砕器によって得られた粗粉砕後の試料約5gを分取し、前記微粉砕器により前記シャフト付きキネの回転数を1350rpmとして、実施例1と同様の方法で粉砕した。細土試料は1回の行程で目開き0.2mmのステンレス製ふるいを全通した。微粉砕行程に要した時間は試料の分取からふるいの通過まで3分であった。
【0054】
(実施例4:新鮮植物体の粉砕)
実施例1に用いたと同一の微粉砕器を用いた。市販のホウレン草と小松菜を供試した。ホウレン草、小松菜のそれぞれの茎部と葉部を1cm四方にカットし、約3gを取り、直接前記微粉砕器で粉砕した。該微粉砕器による粉砕は、前記シャフト付きキネの回転数を1350rpmとして、実施例1と同様の方法で行った。粉砕に要した時間は約5秒で、ペースト状の試料が得られた。
【0055】
(実施例5:穀物の粉砕)
実施例1に用いたと同一の粗粉砕器及び微粉砕器を用いた。精白米および籾付大麦を供試した。精白米、籾付大麦ともに約30gを、前記粗粉砕器にそれぞれ取り、粒径が2mm以下となるように粉砕した。
【0056】
前記により粗粉砕された各試料を、前記微粉砕器により前記シャフト付きキネの回転数を1350rpmとして、実施例1と同様の方法で粉砕した。微粉砕工程に要した時間は、精白米が、2gの試料が約30秒間の粉砕により、目開き0.2mmのふるいを全通した。籾付大麦は1gの試料が約20秒間の粉砕によって約3割が0.2mm以下の粒径となり、残存試料を再び微粉砕器によって約30秒間粉砕することにより、全量が0.2mm以下の粒径となった。
【0057】
(実施例6:食品の粉砕)
実施例1に用いたと同一の微粉砕器を用いた。市販の肉類や加工食品を供試した。新鮮な市販の牛肉、豚肉、鶏肉をそれぞれ4g分取し、直接微粉砕器によって粉砕した。該微粉砕器による粉砕は、前記シャフト付きキネの回転数を、牛肉、豚肉、鶏肉それぞれ1350rpmとして、各肉とも実施例1と同様の方法で行った。粉砕に要した時間は各肉ともに約10秒でペーストが得られた。市販のハム、かまぼこの加工食品についても、各4gを前記肉類と同様に微粉砕器によって粉砕したところ、約5秒でペーストが得られた。
【0058】
(実施例7:木炭の粉砕)
実施例1に用いたと同一の粗粉砕器及び微粉砕器を用いた。木炭を供試した。市販の木炭を約3cm立方のサイズに裁断し、20gを前記粗粉砕器によって粉砕した。木炭の繊維構造により2mmより長い破片が残存したが、繊維の口径は2mm以下で目開き2mmのふるいを全通した。該粗粉砕試料から2gを分取し、前記微粉砕器により、前記シャフト付きキネの回転数を1350rpmとして粉砕した。約10秒間の粉砕によって、目開き0.2mmのふるいを全通した微粉炭が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の微粉砕器により、土壌や植物体等の環境試料の一般理化学性分析に供する直径2mm以下の粗粉砕試料、および微量試料分析に供する直径0.2mm以下の微粉砕試料を容易かつ経済的に得ることができ、研究室等における分析用試料を得るための粉砕器としての利用が期待される。
【符号の説明】
【0060】
10 粗粉砕用キネ
12 取っ手部
13 取っ手支持部
14 粗粉砕用キネ本体部
16 キネ本体部の底面
17 キネ本体部底面の溝
18 キネ本体部底面の分割線
20 円筒部
22 筒部
24 裾部
25 皿部
26 皿部本体
27 支持板
28 固定用ボルト
29 皿部本体の底面
30 卓上ボール盤
32 卓上ボール盤の支柱
34 卓上ボール盤のシャフト上下ハンドル
36 卓上ボール盤のワークテーブル
38 卓上ボール盤のチャック
40 微粉砕用ウス
42 微粉砕用ウスの内面
43 微粉砕用ウスの上面
44 微粉砕用ウスの底部
46 微粉砕用ウスの側部
47 微粉砕用ウスの側部の凹状溝
48 微粉砕用ウスの土台
60 飛散防止カバー
62 飛散防止カバーの外側
64 飛散防止カバーの内面
64a内面上段部
64b内面中段部
64c内面水平部
64d内面下段部
66 固定用オシボルト
70 微粉砕用ウスの固定レンチ
72 ウス固定用ガイド
74 レンチシャフト
80 微粉砕用シャフト付きキネ
82 シャフト上部
83 シャフト端部
84 キネ本体
86 シャフト下部
90 飛散防止カサ
92 飛散防止用カサの穴
93 飛散防止用カサの水平部
94 飛散防止用カサの周縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用試料を調製するための粉砕器において、手動で用いられ、取っ手部と取っ手支持部と底部に溝が形成されたキネ本体部から構成される粗粉砕用キネと、円筒部と皿部から構成される粗粉砕用ウスとからなる前処理用の粗粉砕器と、卓上ボール盤のチャックに取り付けられ底部に溝が形成されたシャフト付きキネと該シャフト付きキネに取り付けられる飛散防止カサと卓上ボール盤のワークテーブルに定置される底部に溝が形成された微粉砕用ウスと該微粉砕用ウスに取り付けられる飛散防止カバーとウス固定用ガイドとからなる後処理用の微粉砕器とからなることを特徴とする粉砕器。
【請求項2】
前記溝が、円形を扇形に3分の1乃至8分の1のいずれかに分割したときの各分割線に並行して形成される請求項1に記載の粉砕器。
【請求項3】
前記溝の間隔が、凸部が0.5〜2mm、凹部が1〜3mmで、凸部と凹部の深さが、0.3〜1.0mmである請求項2に記載された粉砕器。
【請求項4】
前記溝が、不連続の溝である請求項2または請求項3に記載された粉砕器。
【請求項5】
前記卓上ボール盤の回転数が800rpm〜2000rpmである請求項1ないし請求項4のいずれかに記載された粉砕器。
【請求項6】
前記飛散防止カバー内面上段部と内面中段部の傾斜角が110°〜140°であり、飛散防止用カサ水平部と周縁部の傾斜角が100°〜130°である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載された粉砕器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−218241(P2011−218241A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86596(P2010−86596)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【出願人】(000152011)株式会社藤原製作所 (6)
【Fターム(参考)】