微粒子が配置された弾性基質を有する挿入可能な医療機器、および薬物送達方法
本発明は、生物活性を有する薬剤を含む微粒子および被膜材料に配置された弾性表面を有する挿入可能な医療機器を提供するものである。弾性表面が膨張すると、微粒子が被検体へ放出される。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本発明は、出願人を同じくする仮出願61/072,234(出願日:2008年3月28日)の利益を享受する本出願である(発明の名称:微粒子が配置された弾性基質を有する挿入可能な医療機器、および薬物送達方法)。
【0002】
〔発明の分野〕
本発明は、挿入可能な医療器具から薬物を送達する分野に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
移植された医療機器からの薬剤の放出は、機器の機能および様々な医療条件での治療にとって有益であることが示されている。例えば、装置の表面から薬剤を送達することにより、移植可能な装置の存在によって生じる細胞応答を避けることができる。また、装置から放出される薬剤は、移植に伴う装置の機能寿命を短縮させる条件を回避することができる。装置から放出された薬剤で、身体の罹患部の治療を行ってもよい。
【0004】
移植可能な装置の中には、単に装置の表面に薬剤を塗布しただけのものもある。このような調製物は、挿入している間に薬剤が表面から容易に落ちてしまうことから、一般的に望ましくない。さらに、一般的に、移植の後に薬剤の放出を制御することは難しい。
【0005】
治療用の化合物を含むポリマー薄膜を備えた移植可能な医療機器は、従来技術に記載されており、装置の表面からの薬剤の放出を保護および制御するための改善策を提供している。これらの膜のいくつかは、薬剤の放出によって移植装置の近傍に局所的な治療効果を与えることができる。このような装置は、循環器系の疾患の治療に特に有効であることが知られている。
【0006】
薬剤溶出ステント(Drug-eluting stents)によって、投与部位に対して治療物質を局所的に放出させることができる。ステント上のポリマー膜を介して治療薬を局所的に放出させることによって、再狭窄が低減されるという好ましい結果が得られる。高分子化学の複数の分野において、従来技術のようなステントのための薬剤放出膜の使用について開発が進められている。それらの中には、奨励されて、現在、医療処置に使用されているものもある。これらの化学物質の多くが、疎水性の薬剤の送達に役立つ。
【0007】
一般的に、薬剤放出膜は、薬剤と溶媒に溶けるポリマーとを有する膜組成物を用いて調製される。その後、この組成物を基質の表面に塗布し、塗布した材料を乾燥させて溶媒を除去する。その結果、薬剤を内包するポリマー材料の被膜が得られ、この薬剤は移植に伴って被膜から溶出され得る。
【0008】
例えば、US特許第6,214,901には、疎水性の薬物(例えばラパマイシン)を放出させるための膜の調製に適したポリ(アルキル(メタ)アクリレート)およびポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)の混合物に基づいた膜組成物が記載されている。制御された状態での疎水性薬物の放出は、上記タイプのポリマー膜システムによって可能となる。例えば、上記システムによって、疎水性の薬物を、持続的かつ制御して放出することが可能となり、当該システムでは、親水性の薬物の総量の50%未満が最初の24時間の間に放出される。
【0009】
US特許第6,669,980には、薬物の送達に有効であると記載された他の疎水性ポリマーシステムが記載されており、ポリ(スチレン−イソブチレン−スチレン)を含む膜を備えた医療機器の調製について開示されている。
【0010】
US特許文献2005/0220843および2005/0244459には、薬物の送達に有効である他の疎水性ポリマーシステムが記載されている。
【0011】
特定の薬剤の使用に関して、上記ポリマーシステムは理想的なものではない。例えば、或る用途では、標的の身体組織に医療機器を一時的に挿入する。上述したポリマーシステムに関して、上記ポリマーシステムからの薬剤の放出速度は、標的の組織に対して治療量の薬剤を与えるために十分ではない可能性がある。
【0012】
さらに、薬物を送達する被膜の多くは、面積が増大しない表面である「静的表面(static surfaces)」をもつ装置からなる。典型的には、耐久性の被膜(durable coatings)を形成するポリマーシステムは、これらの静的表面に適している。しかし、静的ではない表面(すなわち、弾性表面)では、このような耐久性の被膜が必ずしも適切であるとは限らない。
【0013】
〔発明の要約〕
本発明は、生物活性を有する薬剤を含む微粒子が配置された挿入可能な医療機器に関する。微粒子は、装置から放出され得るものであり、被検体に対して生物活性を有する薬剤を与え、標的部位に治療効果をもたらす。本発明に係る装置は、被覆材料を介して微粒子が配置された膨張可能な弾性表面を有している。
【0014】
特定の形態では、本発明は、一時的に挿入可能な医療機器を用いて、標的組織に対して治療量の生物活性を有する薬剤を送達するのに好適であり、当該形態では、生物活性を有する薬剤は、標的組織において微粒子から放出される。任意に、生物活性を有する薬剤は、生物活性を有する薬剤の微粒子からの放出を調節するポリマーなどの放出制御成分に結合していてもよい。本発明は、標的部位における、生物活性を有する薬剤の送達および放出における利点を提供するものである。
【0015】
装置および方法は、挿入工程の間、生物活性を有する薬剤の損失を最小限に抑えるという利点をもつ。当該装置および方法を採用しない場合、標的組織ではない部位にて上記生物活性を有する薬剤の損失が生じる可能性がある。例えば、特定の実施形態では、本発明は、バルーンカテーテルを提供する。バルーンカテーテルでは、バルーン面に本願の実施形態に係る新規な微粒子が配置されている。標的組織(例えば腔内プローブ)にバルーン部を送達する間、生物活性を有する薬剤の損失が最小限に抑制または解消される。そして、装置の表面から標的部位への、(微粒子を介した)生物活性を有する薬剤の送達が最大化される。
【0016】
或る実施形態では、本発明は、被検体に対して生物活性を有する薬剤を送達することができる、被膜を含む挿入可能な医療機器を提供する。当該機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部上の可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、被膜に配置された微粒子とを有している。微粒子は、装置の挿入および組織への微粒子の送達に伴って組織に放出される生物活性を有する薬剤を含んでいる。被膜に配置された微粒子は、被検体において、弾性部が膨張すると被膜から分離することができる。
【0017】
ある配列では、微粒子は完全または部分的に、可撓性ヒドロゲルマトリックスの表面に、またはその近傍に埋め込まれている。この構成では、微粒子は、可撓性ヒドロゲルマトリックスに不均一に分配される。
【0018】
被検体に挿入すると、直ちに可撓性ヒドロゲルマトリックスがさらに水酸化し、その結果、微粒子の周りの基質材料が緩む。標的部位では、被膜が弾性部に沿って膨張し得る。被膜の膨張を伴う基質の水酸化および緩みにより、被膜からの微粒子の放出が促進される。また、水酸化および膨張により、被膜の多孔性が高くなり、微粒子が基質の外に放出されて組織内に入る。
【0019】
ある場合では、被膜は、例えばポリ(ビニルピロリドン)などの水溶性ポリマーを含んでいてもよい。ある場合では、被膜は、反応フォトグループ(reacted photogroups)を介して弾性基質の表面に共有結合されたポリマーを含んでいてもよい。また、被膜は、水溶性ポリマーがマクロマー形状(macromer form)である組成物からなっていてもよい。
【0020】
関連する形態では、本発明は、被膜および微粒子を含む装置を用いて被検体に生物活性を有する薬剤を送達するための方法を提供する。上記方法は、挿入可能な医療機器を設けるステップを含む。上記機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部の表面上の可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、被膜に配置された微粒子とを有する。他のステップは、被検体に医療機器を挿入するステップと、標的部位にて膨張可能な弾性部を膨張させるステップとを有する。膨張後直ちに、または膨張後に、微粒子の部分が被膜から分離され、標的部位にて組織中に放出される。そして、生物活性を有する薬剤が微粒子から放出され、被検体に治療効果を与えることができる。
【0021】
本発明の他の形態では、挿入可能な医療機器は、微粒子と、膨張可能な弾性部に配置された生分解性被膜材料とを有する。例えば、一実施形態では、本発明は被検体に生物活性を有する薬剤を送達することができる挿入可能な医療機器を提供し、当該機器は、生分解性被膜および微粒子を含む。上記機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部の表面の可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、被膜に配置された微粒子とを有する。微粒子は、完全または部分的に、生分解性基質に埋め込まれている。微粒子は、機器の挿入に伴って放出される生物活性を有する薬剤を含む。
【0022】
装置が生分解性ポリマーマトリックスを備えている実施形態では、被検体において弾性部が膨張すると直ちに、微粒子に配置された基質の少なくとも一部が剥がれることができる。離層した、微粒子を含む生分解性ポリマー材料が、標的組織に付着する。離層したポリマーマトリックスが分解され、標的部位において微粒子から生物活性を有する薬剤が放出される。
【0023】
他の実施形態では、可撓性ヒドロゲルマトリックスに関して生分解性ポリマーマトリックスを使用する。機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部上の可撓性ヒドロゲルを含む被膜と、可撓性ヒドロゲルマトリックス上の生分解性ポリマーマトリックスと、被膜に配置された微粒子とを有する。微粒子は、微粒子の大部分が部分的に可撓性ヒドロゲルマトリックスおよび生分解性被膜材料に埋め込まれるように配置されていてもよく、または、微粒子の大部分が生分解性被膜材料に埋め込まれるように配置されていてもよい。
【0024】
関連する形態では、本発明は、生分解性ポリマーマトリックスおよび微粒子を備えた被膜を含む機器を用いて、被検体に対して生物活性を有する薬剤を送達するための方法を提供する。上記方法は、挿入可能な医療機器を提供するステップを含む。当該機器は、膨張可能な弾性部に配置された生分解性ポリマーマトリックスを備えた被膜と、被膜に配置された微粒子とを有する。他のステップは、被検体に医療機器を挿入するステップと、被検体において膨張可能な弾性部を膨張させるステップとを含む。膨張後直ちに、または膨張後に、微粒子に配置された生分解性ポリマーマトリックス部が、離層して標的部位の組織に送達される。
【0025】
他の形態では、本発明は、被検体に生物活性を有する薬剤を送達することができる挿入可能な医療機器を提供し、当該機器は、生分解性被膜および微粒子を含み、当該機器において、生分解性被膜の少なくとも一部が破壊されて、標的部位にて微粒子の放出を促す。上記機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部の表面上の生分解性材料を含む被膜と、生分解性被膜に配置された微粒子とを有する。微粒子は、機器の挿入に伴って放出される生物活性を有する薬剤を含む。微粒子を含む生分解性被膜の少なくとも一部が破壊されて、標的部位における微粒子の放出が可能となる。
【0026】
関連する形態では、本発明は、生分解性被膜および微粒子を含む機器を用いて、被検体に対して生物活性を有する薬剤を送達するための方法を提供する。上記方法は、挿入可能な医療機器を提供するステップを含み、機器は、膨張可能な弾性部上の生分解性被膜と、生分解性被膜に配置された微粒子とを有する。他のステップは、被検体に医療機器を挿入するステップと、被検体において膨張可能な弾性部を膨張させるステップとを含む。挿入処置の間に、生分解性被膜の一部が分解されて、微粒子の放出が促される。
【0027】
例示の実施形態では、挿入可能な医療機器は、バルーンを含む膨張可能な弾性部を有している。当該挿入可能な機器は、血管形成術用バルーンなどから選択されるものを含む。新規な微粒子機構に配置された血管形成術用バルーンを病変血管の治療工程において使用してもよい。微粒子に結合するとともに血管に放出され得る生物活性を有する薬剤の例としては、抗増殖性物質、抗炎症薬、および抗血小板化合物からなる群から選択されるものを挙げることができる。抗増殖性薬剤の一例は、パクリタキセルである。
【0028】
適した微粒子は、部分的または完全に、1つ以上の生物活性を有する薬剤からなるものを含む。
【0029】
ある場合では、微粒子は、制御放出薬剤を含む。例えば、制御放出薬剤は、生分解性ポリマーであってもよく、例えばPGA、PLAおよびPLGAからなる群から選択されるポリマーである。生分解性ポリマーは、生物活性を有する薬剤が膨張した弾性部材から放出された後で、生物活性を有する薬剤の放出を付加的に制御することができるように用いられる。
【0030】
〔図面の簡単な説明〕
図1a〜図1cは、埋め込まれた微粒子を備えた可撓性ヒドロゲル被膜に覆われた弾性基質を有する機器の一部と、弾性基質の膨張直後の、ヒドロゲル被膜から組織への微粒子の送達とを示す。
【0031】
図2a〜図2cは、埋め込まれた微粒子を備えた可撓性ヒドロゲル被膜に覆われた弾性基質を有する機器の一部と、弾性基質の膨張直後の微粒子を備えた生分解性被膜における断片の組織への送達を示す。
【0032】
図3〜図5は、可撓性ヒドロゲルマトリックスと、生分解性ポリマーマトリックスと埋め込まれた微粒子とを備えた被膜に覆われた弾性基質の一部を示す実施形態である。
【0033】
図6は、バルーン面上の非隣接点の被膜パターンを示す実施形態である。
【0034】
図7は、バルーン面上の非隣接螺旋縞の被膜パターンを示す実施形態である。
【0035】
図8は、離層した生分解性被膜を有する基質の顕微鏡写真である。
【0036】
図9は、取り付けられたバルーンカテーテルを備えた被膜装置の図である。
【0037】
図10aおよび図10bは、バルーン部分に被膜を有するバルーンの横断面図である。
【0038】
図11aおよび図11bは、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有するバルーン基質の顕微鏡写真である。
【0039】
図12aおよび図12bは、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有するバルーン基質の顕微鏡写真である。
【0040】
〔詳細な説明〕
本願に記載された本発明に係る実施形態は、包括的なものではなく、本発明を以下の詳細な説明に開示された形態に限定するものではない。むしろ、実施形態は、当業者が本発明の原理および実施を認識および理解できるように、選択および記載されている。
【0041】
本願に記載された全ての文献および特許は、参照により本願に含まれる。本願に開示した文献および特許は、開示のみを目的としている。本願に記載されたものはいずれも、発明者らが、本願に記載のあらゆる文献および/または特許を含む、あらゆる文献および/または特許に対して先行していないと認めるものと解釈すべきではない。
【0042】
概して、本発明は、微粒子を用いて標的組織に生物活性を有する薬剤を運搬するための方法および機器を提供する。微粒子は、被膜材料を介して、挿入可能な医療機器の膨張可能な弾性表面に配置される。被検体に装置を挿入し、標的組織と接触するように膨張可能な弾性表面を配置し、当該標的組織に微粒子が送達される。膨張可能な弾性表面が膨張し、弾性基質表面上の被膜から微粒子が放出または分離される。
【0043】
または、膨張可能な弾性表面は、弾性表面が膨張したときに弾性表面から放出される生分解性被膜材料を含んでいてもよく、その結果、微粒子に沿って生分解性被膜材料が送達されてもよい。弾性基質表面からの放出後、微粒子は、組織に結合されて生物活性を有する薬剤を放出してもよい。
【0044】
図1aに示した一実施形態では、機器は、膨張可能な弾性基質10(例えばバルーンカテーテルにおけるバルーン部分など)、可撓性ヒドロゲル被膜11、および可撓性ヒドロゲル被膜に配置された微粒子(12、13、14)を有する。図1aは、微粒子の結合が不均一であることを示す(すなわち、微粒子が、可撓性ヒドロゲル被膜/膨張可能な弾性基質の界面16の近傍ではなく、可撓性ヒドロゲル被膜15の表面近傍において可撓性ヒドロゲル被膜11に実質的に配置されているか、可撓性ヒドロゲル被膜に均一に分配されている)。図1aは、可撓性ヒドロゲル被膜に完全に埋め込まれた微粒子(12)、可撓性ヒドロゲル被膜に部分的に埋め込まれた微粒子(13)、および可撓性ヒドロゲル被膜に僅かに埋め込まれた微粒子(14)の例を示す。図示するにあたって、可撓性ヒドロゲル被膜に僅かに埋め込まれた微粒子は、可撓性ヒドロゲル被膜の表面に接着しているように見えてもよい。
【0045】
その後、(例えば微粒子被膜カテーテルバルーン形状などの)機器を被検体に挿入し、標的部位に送達させることができる。被検体に挿入すると直ちに、可撓性ヒドロゲルマトリックスの水酸化が進み、微粒子の周りの基質材料が緩む。図1bを参照すると、(例えば腔内閉塞などの)標的部位に機器を配置し、当該部位において膨張可能な弾性基質10がバルーンの膨張などによって膨張し、標的部位を膨張させ、標的部位の組織17に対して可撓性ヒドロゲル被膜11を押し上げる。標的部位において、可撓性ヒドロゲル被膜11が弾性基質10に沿って膨張する。膨張に伴って可撓性ヒドロゲル被膜が水和して緩むことによって、被膜11から組織17への微粒子の放出が促進される。ある場合には、微粒子がもはや閉じ込められず、被膜から放出される地点まで、被膜が変形してもよい。例えば、膨張すると直ちに、被膜が、微粒子を放出するために十分なほど薄くなる。または、あるいはさらに、微粒子の放出に十分な大きさに膨張した被膜において、孔が形成されるまで被膜が膨張してもよい。微粒子が被検体の組織に送達され、生物活性を有する薬剤が放出されて治療効果をもたらす。
【0046】
図1cを参照すると、微粒子の送達が行われた後で、(例えばバルーンの収縮によって)弾性基質10が収縮する。膨張可能な弾性基質10および可撓性ヒドロゲル被膜11が標的部位の組織17から分離して、微粒子を組織17に結合させる。
【0047】
図1a〜図1cは、本発明の実施形態および送達工程について図示しており、微粒子の大半がヒドロゲル基質から組織に送達される。しかし、本発明は、約10〜100%、または、さらに好適には30〜100%の範囲内において微粒子を組織に送達することが想定されている。
【0048】
可撓性ヒドロゲルマトリックスは、生体安定性の親水性ポリマーからなっていてもよい。ポリマーは、膨張可能な弾性基質に共有結合されているか、他の親水性ポリマーに共有結合されているか、または、その両方である。好適な実施形態では、生体安定性の親水性ポリマーは、反応フォトグループ(reacted photpgroups)を介して基質の表面に結合されるものである。
【0049】
本発明の他の形態では、挿入可能な医療機器は、微粒子の弾性基質への配置を促す生分解性被膜層を含む。
【0050】
上記機器は、微粒子と弾性基質の表面との間に存在する生分解性被膜層を有する。例えば、生分解性被膜層は、弾性基質の表面上にベース被膜(base coating)として存在する。生分解性被膜は、例えば微粒子を備えた層を形成するために用いられるポリマー材料の接着性などによって、微粒子を弾性基質に配置させることができる。
【0051】
例えば、他の形態では、微粒子は、弾性基質上に存在する生分解性被膜に埋め込まれるか、または覆われる。膨張していない状態では、微粒子は、ほぼ、または完全に被膜に内包されているか、または被膜に覆われている。図2aは、膨張可能な弾性基質20(例えば、バルーンカテーテルのバルーン部分など)、生分解性被膜21、および生分解性被膜21に完全に埋め込まれた微粒子(22)を有する機器を示している。
【0052】
図2bを参照すると、基質20が膨張すると直ちに、生分解性被膜21が破砕して基質20の表面から離層し、微粒子に沿って被膜部分(離層された生分解性断片28)が放出される。微粒子を備えた離層生分解性断片28が、被検体の組織27に送達される。離層生分解性断片28は、基質20よりも組織27への接着性が高い。
【0053】
図2cを参照すると、送達が行われた後で、(例えばバルーンの収縮によって)弾性基質20が収縮する。膨張可能な弾性基質20が標的部位の組織27から引き離され、微粒子を組織27に結合させる。生物活性を有する薬剤が微粒子から放出され、離層した生分解性断片28は分解される。
【0054】
ある場合では、微粒子と弾性基質との間の分解性被膜層が破砕し、微粒子の放出を促す。微粒子は、基質の膨張に伴って、標的部位にて放出される。
【0055】
他の実施形態では、図3〜図5に示したように、機器は、可撓性ヒドロゲルマトリックスと生分解性基質の両方をもつ被膜を有する。
【0056】
例えば、図3に示したように、機器は、膨張可能な弾性基質30(例えばバルーンカテーテルのバルーン部分など)、弾性基質30上の可撓性ヒドロゲル層31を備えた被膜、および可撓性ヒドロゲル層31上の生分解性層32を有する。図3の装置では、微粒子は、可撓性ヒドロゲル層31内および生分解性層32内、ならびに主としてこれら2つの層間の接触面35に配置されている。微粒子は、可撓性ヒドロゲル層31および生分解性層32に埋め込まれていてもよく(例えば微粒子34)、可撓性ヒドロゲル層31に埋め込まれていてもよい(例えば微粒子33)。
【0057】
また、図4の機器も、膨張可能な弾性基質40、弾性基質40上の可撓性ヒドロゲル層41に覆われた被膜、および生分解性層42を有している。微粒子(例えば微粒子44)は、まず生分解性層42内に配置され、生分解性材料内に埋め込まれている。
【0058】
図5の装置も、膨張可能な弾性基質50、弾性基質50上の可撓性ヒドロゲル層51に覆われた被膜、および生分解性層52を有する。本実施形態では、微粒子(例えば微粒子44)は、まず生分解性層42に配置されており、生分解性層に完全に埋め込まれた微粒子(53)、生分解性層に部分的に埋め込まれた微粒子(54)、および生分解性層にわずかに埋め込まれた微粒子(56)を示す。
【0059】
弾性基質の表面における1つ以上の部分に被膜が形成されていてもよい。多くの形態では、バルーンカテーテルのバルーン部分の全面に被膜が形成される。この場合、バルーンが生体内(in situ)で膨張すると、微粒子が動脈内腔の円周に送達される。
【0060】
不均一な生分解性被膜パターンについても検討されている。不均一な被膜とは、弾性面全体(たとえばバルーン面の全面)を覆う被膜材料ではなく、表面の1つ以上の部位に形成される被膜材料を意図する。不均一な被膜パターンは、弾性表面が膨張したときに、弾性表面から生分解性被膜材料が離層することを促進する。ある実施形態では、不均一な生分解性被膜は、この被膜が表面から離層する前に、殆ど、または全く破損しないこともある。他の形態では、不均一な生分解性被膜は、離層を促す破損し易いパターンであってもよい。膨張の圧力に関して言えば、不均一な生分解性被膜の場合、被膜の離層に必要な力が少なくて済む。
【0061】
図6および図7に不均一な生分解性被膜の例を示す。図6は、バルーン61の弾性表面上の生分解性被膜材料における点60(例えば「島(islands)」)の不均一な生分解性被膜パターンを示す。生分解性被膜材料の点は、微粒子と結合している。バルーンが膨張すると直ちに、微粒子を備えた生分解性被膜材料の点が、殆どまたは全く破損せずにバルーン表面から離層され、その後、組織に送達される。このような不均一なパターンの形状は、図示したような円形の点に限らず、あらゆる他の形状(多角形、卵形、不規則な形など)であってもよい。
【0062】
図7は、バルーン71の表面における、生分解性被膜材料の円周方向の縞70による不均一な生分解性被膜パターンを示す。円周方向の縞は、バルーンの近位端72から遠位端73へと連続している(図7に示すように、この縞は螺旋構造を形成する)。または、パターンは、バルーンの周りに環を形成する複数の円周方向の縞であってもよい(図示せず)。バルーンが膨張すると直ちに、生分解性被膜材料がその長さにそって複数の位置において容易に破砕する。破砕した部分は、バルーンの表面から剥がれることができ、その後、組織に送達される。
【0063】
不均一なパターンをもつ生分解性被膜は、バルーンの弾性表面の上に直接形成されるか、または、可撓性ヒドロゲル層などの他の被膜材料に配置されて形成される。点および縞のパターンなどの不均一なパターンは、本願に記載の吹付塗布装置を用いて形成される。
【0064】
離層した被膜の代表的な顕微鏡写真を図8に示す。
【0065】
本発明は、様々なタイプの挿入可能な医療機器を検討しており、これらの医療機器は、膨張可能な弾性基質を含み、この弾性基質から、微粒子が放出される。一実施形態では、微粒子を含む弾性基質を備えた挿入可能な医療機器は、バルーンカテーテルである。バルーンカテーテルは、一般的に、罹患した動脈の治療のための血管形成術に用いられる。バルーン血管形成術は、遮断された腔内経路(intraluminal channels)の拡張または再開を含む。表面に配置された新規な微粒子を備えたバルーンカテーテルをさらに詳しく説明する。
【0066】
膨張可能であり、体内での使用に適したいかなる材料、またはその組合せによって、機器における膨張可能な弾性部を形成してもよい。1つ以上の材料が、装置に使用され得る。多くの形態では、膨張可能な弾性材料は、エラストマー(弾性特性を有するポリマー)などの弾性および可撓性材料である。エラストマーは、典型的には、熱可塑性ポリマーである。エラストマーの例は、ポリウレタンおよびポリウレタン共重合体、ポリエチレン、スチレンブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ハロゲン化ブチルゴムを含むイソブチレン−イソプレーン共重合体(ブチルゴム)、ブタジエン−スチレン−アクリロニトリル共重合体、シリコンポリマー、フルオロシリコンポリマー、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエーテル−ポリエステル共重合体、およびポリエーテル−ポリアミド共重合体を含む様々なポリマーからなっていてもよい。
【0067】
膨張可能な弾性部は、単一のエラストマー材料、またはそれら材料の混合物からなっていてもよい。膨張可能な弾性部は、弾性部が単一層の材料となるように押出法によって製造される、または多層材料を形成するように同時押出法によって製造される。
【0068】
弾性部は、所望の用途および機器に適した厚さを有し、その厚さは5μm〜100μmである。
【0069】
カテーテルバルーン壁の厚さの例は、約5μm〜20μmである。バルーン壁の実際の厚さは、バルーンの所望の柔軟性、カテーテル上のバルーンの全体のプロフィール(低プロフィールの装置は、薄い壁のバルーンを使用してもよい)、バルーン壁の圧力定格、バルーンの膨張率などの1つ以上の因子によって変化してもよい。ある場合では、微粒子を備えた被膜が表面上に形成される場合に厚さが増大するように薄い壁をもつバルーンを使用する。
【0070】
膨張可能な弾性基質の製造は従来技術において周知であり、本願に記載した挿入可能な医療機器における膨張可能な基質部を設けるためにあらゆる適した方法を実施してもよい。例えば米国特許第4,490,421、5,556,383、6,210,364、6,168,748、6,328,710および6,482,348などの様々な文献には、カテーテルバルーンの構築が記載されている。典型的には、成形工程が、バルーン構築のために実施される。当該工程によって製造されたバルーンは、本発明に係る微粒子のための基質、および被膜材料として適している。例示の成形工程では、押出ポリマーチューブが、所望のバルーン形状をもつ鋳型内において、温度の上昇に伴って半径方向および軸方向に膨張する。バルーンは、成形工程の後に追加の処理を受ける。例えば、形成されたバルーンは、追加の加熱ステップを受けて、バルーンの収縮が低減される。
【0071】
本発明によると、微粒子は、生物活性を有する薬剤を含む微粒子成分であり、当該成分は、機器の弾性表面から放出可能なものである。微粒子は、被膜材料を介して弾性基質に配置され、その後基質の膨張後直ちに分離するのに十分な大きさおよび形状を有する三次元粒子である。
【0072】
多くの微粒子が、合成ポリマー材料からなるものなどであって、球状または実質的に球状の形である。多くの形態では、機器の弾性部が球状または実質的に球状である微粒子に結合されており、この微粒子を「ミクロスフィア(microspheres)」と称する。
【0073】
しかし、(例えば顕微鏡を用いて検査したときに)著しく非球形または不規則な形状である微粒子を用いることもできる。例えば、微粒子は曲面、平面、またはその組合せであってもよい。必要に応じて、膨張可能な弾性部を異なる大きさおよび/または形状の組合せをもつ複数の微粒子に結合してもよい。
【0074】
微粒子は、微結晶の形状をとるか、あるいは、結晶形または構成をもつ粒子の形状をとっていてもよい。結晶形の微粒子は、微粒子において三次元の全ての方向に延びる規則的に繰り返すパターンに配列された生物活性を有する薬剤分子からなっていてもよい。結晶形は、一般に、顕微鏡によって観察される。微結晶は、棒状、フィラメント状、スライバー状、または針状の形状として観察されてもよい。
【0075】
弾性基質上での被膜との接着において、微粒子は、凝集構造または塊状構造として観察(または存在)されてもよい。例えば、棒状、フィラメント状、スライバー状または針状の微粒子の凝集体が被膜材料に配置されてもよい。
【0076】
多くの形態では、膨張可能な弾性部に配置された微粒子が、約50μm未満の最大平均寸法(greatest average dimension)をもつ。例えば、微粒子は、約50μm未満の細長い軸に沿った長さをもつ細長い形状であってもよい。顕微鏡法などによる大きさ分析を用いて、不規則な形状の微粒子または微結晶を査定してもよい。ある場合では、微粒子は、約100nm〜約50μm、約100nm〜約25μm、約100nm〜約20μm、または約100μm〜約10μmの最大平均寸法を有する。
【0077】
また、多くの形態では、微粒子は、約100nm以上の平均直径を有する球状または実質的に球状のものである。例えば、膨張可能な弾性部に配置された微粒子は、約100nm〜約50μm、約150nm〜約25μm、約200nm〜約20μm、または約0.3μm〜約10μmの平均直径をもつ。
【0078】
多くの形態では、膨張可能な弾性部に配置された微粒子は、約50μm未満の平均直径(「dn」数平均(dn, number average))を有する。また、多くの形態では、微粒子は、約100nm以上の平均直径を有する。例えば、膨張可能な弾性部に連結された微粒子は、約100nm〜約50μm、約150nm〜約25μm、約200nm〜約20μm、または約0.3μm〜約10μmの平均直径を有する。
【0079】
微粒子を弾性部に配置する方法に応じて、特定の範囲内の粒径を有する微粒子を使用することが望ましい。例えば、微粒子が弾性部の表面上の被膜に固定化されている場合には、被膜の厚さよりも小さい平均直径を有する微粒子を使用することが一般的に望ましい。
【0080】
ある形態では、弾性表面に配置された微粒子は、小型の多分散性(low size polydispersity)を有する。小型の多分散性とは、微粒子の集合体における微粒子の大きさに、殆ど違いがないことを意図する(一方、大型の多分散性とは、微粒子集合体の大きさに大きな違いがあることを意図する)。
【0081】
少なくとも、膨張可能な弾性基質に配置された微粒子は、生物活性を有する薬剤を含む構成であればよい。一実施形態では、微粒子は、完全に、または実質的に、疾患の治療または予防のために選択された生物活性を有する薬剤からなる。他の実施形態では、生物活性を有する薬剤の混合物(例えば、2つ以上の異なる生物活性を有する薬剤)からなっていてもよい。他の実施形態では、微粒子は、生物活性を有する薬剤、および、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を調整する、被検体に治療効果を与えることを目的としない他の成分(例えば、ポリマーなど)から構成されていてもよい。他の実施形態では、微粒子は、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を調整する2つ以上の成分(例えば、2つ以上のポリマーなど)を含む。
【0082】
微粒子成分は、微粒子の一部、または全体が、互いに混合されていてもよい。または、微粒子成分は、互いに完全または実質的に分離されていてもよい。例えば、微粒子は、生物活性を有する薬剤の均一な混合物、および放出調整ポリマーを備えるように構成されている。他の例として、微粒子は、生物活性を有する薬剤のコア、およびコアの周りの放出調整ポリマーシェルを備えるように構成されている。
【0083】
「生物活性を有する薬剤」という用語は、合成または天然の有機分子または無機分子を指し、生体内において(in vivo)、鳥およびヒトを含む哺乳類、動物に投与されると、生物学的効果が生じる薬剤である。生物活性を有する薬剤の部分的なリストを以下に示す。微粒子のみ、または他の生物活性を有する薬剤と併せて含むものとして、生物活性を有する薬剤のうちのいずれか1つを選択してもよい。生物活性を有する薬剤の水溶性の情報に加え、生物活性を有する薬剤の総合的なリストは、The Merck Index, Thirteenth Edition, Merck & Co. (2001)に記載されている。
【0084】
弾性基質から放出される微粒子は、以下の分類に分別される生物活性を有する薬剤を運搬するために使用される。生物活性を有する薬剤は、限定するものではないが、アンギオテンシン転換酵素阻害剤、アクチン阻害剤、鎮痛剤、麻酔薬、降圧剤、抗ポリメラーゼ(anti polymerases)、抗分泌薬、抗生剤、抗癌性物質、抗コリン作用薬、抗凝血剤、抗けいれん薬、抗うつ剤、制吐剤、抗真菌剤、抗緑内障溶質、抗ヒスタミン剤、抗圧薬、抗炎症薬(NSAIDsなど)、代謝拮抗物質、抗有糸分裂薬、酸化防止剤、抗寄生虫物質および/または抗パーキンソン物質、抗増殖性物質(血管新生阻害剤を含む)、抗原虫病溶質、抗精神病物質、解熱剤、消毒剤、鎮痙薬、抗ウイルス薬、カルシウムチャンネル遮断薬、細胞応答調節剤(cell response modifiers)、キレート剤、化学療法薬、ドーパミン作動薬、細胞外基質成分、線維素溶解薬、フリーラジカル捕捉剤、成長ホルモン拮抗剤、睡眠剤、免疫抑制剤、抗毒素、表面糖タンパク質受容体の阻害剤、微小管阻害剤、縮瞳薬、筋収縮剤、筋弛緩剤、神経毒、神経送達物質、ポリヌクレオチドおよびその誘導体、オピオイド、プロスタグランジン、再形成阻害剤(remodeling inhibitors)、スタチン、ステロイド、血栓溶解剤、精神安定剤、血管拡張剤、および血管痙攣阻害剤を含む。
【0085】
ある形態では、微粒子は抗増殖剤を含む。抗増殖剤は、血管新生阻害剤であってもよい。
【0086】
ある形態では、微粒子は、抗炎症薬を含む。
【0087】
ある形態では、微粒子は、反応応答調節剤を含む。
【0088】
ある形態では、微粒子は、抗血栓剤を含む。
【0089】
ある形態では、微粒子は、免疫抑制剤を含む。
【0090】
細胞反応調節剤は、血小板由来増殖因子(pDGF)などの化学走化性因子である。他の化学走化性因子は、好中球活性化タンパク質、単球走化性タンパク質、マクロファージ炎症性タンパク質、SIS(小型誘導分泌(small inducible secreted))タンパク質、血小板因子、血小板塩基タンパク、メラノーマ成長刺激活性、上皮細胞増殖因子、形質転換成長因子(α)、線維芽細胞増殖因子、血小板由来内皮細胞成長因子、インスリン様成長因子、神経成長因子、血管内皮増殖因子、骨形態形成タンパク質、および骨成長/軟骨誘導因子(αおよびβ)を含む。他の細胞応答調節剤は、インターロイキン1〜インターロイキン10を含むインターロイキン、インターロイキン阻害剤またはインターロイキン受容体;α、βおよびγを含むインターフェロン;赤血球生成促進因子、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含む造血因子;αおよびβを含む腫瘍壊死因子;β−1、β−2、β−3、インヒビン、アクチビンおよびこれらのタンパク質のいずれかの生成をコードするDNAを含む形質転換成長因子(β)である。
【0091】
スタチンの例としては、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスチン、アトルバスタチン、セリバスタチン、およびスーパースタチンが挙げられる。
【0092】
ステロイドの例としては、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、βメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、フルドロコルチゾン、およびアルドステロンなどのグルココルチコイド;テストステロン、ジヒドロテストステロン、エストラジオール、ジエチルスチルベストロール、プロゲステロン、およびプロゲスチンなどの性ステロイドが挙げられる。
【0093】
生物活性を有する薬剤は、抗増殖性効果、抗血小板などの再狭窄防止効果、および/または抗血栓効果をもたらす。ある実施形態では、生物活性を有する薬剤は、抗炎症薬、免疫抑制剤、細胞接着因子、受容体、リガンド、成長因子、抗生剤、酵素、核酸などから選択されてもよい。抗増殖性効果を有する化合物としては、例えば、アクチノマイシンD、アンギオペプチン、c−mycアンチセンス、パクリタキセル、タキサンなどが挙げられる。
【0094】
抗血栓効果をもつ生物活性を有する薬剤の代表例は、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヒルジン、リジン、プロスタグランジン、アルガトロバン、ホルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリンアナログ、D-phe-pro-arg-クロロメチルケトン(合成アンチトロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質Iib/IIIa血小板膜レセプター抗体(glycoprotein Iib/IIIa platelet membrane receptor antibody)、コ蛋白質Iib/IIIa血小板膜レセプター抗体、組換えヒルジン、(例えばBiogenから市販されている)トロンビン阻害剤、コンドロイチン硫酸、改変デキストラン、アルブミン、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、酸化窒素阻害剤などを含む。
【0095】
生物活性を有する薬剤は、血小板凝集を調節するGPIIb-IIIa血小板受容体複合体の阻害剤であってもよい。GPIIb/IIIa阻害剤は、abciximab (ReoPro(登録商標))として知られるモノクローナル抗体Fab断片c7E3、およびeptifibatide (Integrilin(登録商標))やtirofiban (Agrastat(登録商標))などの合成ペプチドまたはペプチド模倣薬(peptidomimetics)を含んでいてもよい。
【0096】
生物活性を有する薬剤は、例えばシクロスポリン、CD−34抗体、エベロリムス、ミコフェノール酸、シロリムス、タクロリムスなどの免疫抑制剤であってもよい。
【0097】
さらに、生物活性を有する薬剤は、表面接着分子または細胞間接着分子であってもよい。細胞接着分子または、細胞外基質タンパク質などの接着タンパク質としては、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、エラスチン、ビトロネクチン、テネイシン、フィブリノーゲン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、フォン・ウィルブランド因子、骨シアロタンパク質(および活性ドメイン)、ならびにヒアルロン酸、キトサン、およびメチルセルロースなどの親水性ポリマー、ならびに他のタンパク質、炭水化物、脂肪酸などが挙げられる。他の細胞間接着分子としては、N−カドヘリンおよびP−カドヘリンおよびその活性ドメインが挙げられる。
【0098】
1つ以上の生物活性を有する薬剤のみからなる微粒子は、膨張可能な弾性基質に配置されて、生体内にて標的組織に放出される。換言すると、微粒子は、実質的または完全に1つ以上の生物活性を有する薬剤からなる。従来技術においては必要であった、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を制御する添加物質は必要ではない。微粒子の投与に伴う被検体に使用できる生物活性を有する薬剤の量を最大化できることから、上記は多くの治療方法において重要である。また、これは、生物活性を有する薬剤の部位特異的な送達、または、体内においてアクセスが制限されている領域(limited access region)への生物活性を有する薬剤の送達、を含む用途に関して好適である。他の利点は、微粒子に存在し、微粒子から放出可能な第二材料の量を最小限に抑えることができることにある。
【0099】
1つ以上の生物活性を有する薬剤のみからなる微粒子は、従来技術に記載されている。完全または略完全(例えば、微量の1つ以上の他の物質を含んでいてもよい)に生物活性を有する薬剤からなる微粒子を、本願では「純(neat)」微粒子と称する。
【0100】
例えば、パクリタキセル微粒子の調製については、米国特許第6,610,317に記載されている。したがって、本発明に係る一形態では、微粒子は、低分子量の生物活性を有する薬剤からなる。
【0101】
微粒子の調製のための他の技術は、周知であり、沈殿および結晶化を含む。例えば、溶媒(例えば有機溶媒)中の生物活性を有する薬剤の液体組成物を、過剰の非溶媒(例えば水または水組成)を加えることによって沈殿させてもよい。相分離または同等の技術によって溶媒が液体組成物から分離されてもよい。沈殿した組成物を粉砕にかける。粉砕とは、沈殿粒子の大きさを低減させる機械処理を意図する。例えば、湿式粉砕は、液体組成物の粒径を低減させて微粒子を形成するために使用される。その後、沈殿した生物活性を有する薬剤を濾過し、非溶媒(non-solvent)を用いて洗浄する。
【0102】
微粒子の調製に使用できる他の方法は、噴霧乾燥である。生物活性を有する薬剤および溶媒の液体組成物を霧化して基質上に噴霧蒸着(spray deposited)させる。上記工程の間に、液滴から溶媒を蒸発させる。所望の微粒子が形成されるように生物活性を有する薬剤の濃度、液滴の大きさ、および溶媒の蒸発を決定する。
【0103】
被膜を調製する一形態では、噴霧乾燥工程は、生物活性を有する薬剤の液体組成物を機器の被膜層(例えば、可撓性ヒドロゲル層または生分解性材料層)に直接噴霧することによって実施される。上記工程では、液滴から溶媒が蒸発するにつれて、微粒子が被膜層上に形成される。噴霧組成物は、ヒドロゲル層を膨張させる液体を含んでいてもよい。したがって、微粒子は、形成されるにつれてヒドロゲル材料の中へ移動する。非溶媒が蒸発するにつれて、ヒドロゲルが収縮し、微粒子はヒドロゲル材料によって拘束され、少なくとも部分的に可撓性ヒドロゲル被膜内に埋め込まれる(図1aを参照)。
【0104】
他の例として、治療用Fab(抗体)断片ミクロスフィアは、出願人を同じくする同時係属出願米国仮特許出願第60/937,492(出願日:2007年6月28日、Slagerら)に記載されている。したがって、本発明に係る他の形態では、微粒子は、ポリペプチドなどの高分子量の生物活性を有する薬剤からなる。
【0105】
賦形剤は、任意で微粒子に含まれる成分の1つである。賦形剤は、微粒子内の生物活性を有する薬剤の安定性を向上させる、または、微粒子の物理特性を変えることができる。賦形剤の例としては、グリセロール、ジエチレングリコール、ソルビトール、ソルビトールエステル、マルチトール、スクロース、フルクトース、転化糖、異性化液糖、およびそれらの混合物が挙げられる。賦形剤の量およびタイプは、周知の基準および技術に基づく。生物活性を有する薬剤の安定性を向上させるためなどに、酸化物質を微粒子に任意に加えてもよい。
【0106】
微粒子は、造影剤(imaging components)を含んでいてもよい。造影剤は、一般的な造影技術によって検出可能なものであり、新規の方法において使用に適したものである。これらの薬剤によって、弾性基質から微粒子を放出する前、放出する間、または放出した後で、体内の所望の部位(例えば、血管内の標的部位)を造影することができる。造影剤の例としては、生体内において検出可能なラベルを有する物質、例えば蛍光ラベルに接着された抗体、酸化鉄、Gd、またはMnまたは放射性同位体などの常磁性体などが挙げられる。造営剤は、常磁性共鳴造影、超音波造影、または他の適した検出技術によって検出されてもよい。
【0107】
生物活性剤を含有する微粒子は、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を調節する1つ以上の放出制御成分を任意に含んでいてもよい。或る形態では、放出制御成分は、微粒子に存在する材料であって、微粒子が体液または組織に接触した後で破砕、溶解、および/または分解されるように構成されている。1つ以上の成分の破壊、溶解、または分解によって、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出が遅くなり、所望の治療期間の間、生物活性を有する薬剤を、治療効果を示す量以上に存在させることができる。
【0108】
ある形態では、微粒子は、生物活性を有する薬剤、および1つ以上の生分解性または破壊可能なポリマー(本願においては「分解性ポリマー」と称する)を含む。本願発明に使用するとき、生分解性ポリマーは、ヒトの体内および生体(細菌など)内、および/または水中環境下において正常に機能する様々な酵素によって分解可能(単純な加水分解によって)なものである。生分解性ポリマーは、一旦分解されると、上記ポリマーの分解産物が体内に徐々に吸収または体内から除去される。分解性ポリマーは、天然物または合成物であり、あるいは、天然または合成のブロックからなる。微粒子における分解性ポリマー成分の選択は、本開示および当業者が持ち得る知識に基づいて行われる。
【0109】
一実施形態では、分解性ポリマーは合成物である。例示の合成分解性ポリマーは、ポリ(乳酸)(ポリ(ラクチド))、ポリ(グリコール酸)(ポリ(グリコリド))ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(ジオキセタン)などのポリエステル;ポリ(カプロラクトン)およびポリ(バレロラクトン)などのポリラクトン、ポリ(グリコリド−コ−ポリジオキサノン)、ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)、およびポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)などの共重合体;ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(タルトロン酸)、ポリ(β−マロン酸)、ポリ(プロピレンフマル酸エステル);分解性ポリエステルアミド;分解性ポリ無水物およびポリアルケン無水物(ポリ(セバシン酸))、ポリ(1,6−ビス(カルボキシフェノキシ)ヘキサン、ポリ(1,3−ビス(カルボキシフェノキシ)プロパン);分解性ポリカーボネートおよび脂肪族カーボネート;分解性ポリイミノカーボネート;分解性ポリアリレート;分解性ポリオルトエステル;分解性ポリウレタン;分解性ポリホスファゼン;分解性ポリヒドロキシアルカノエート;および分解性ポリアミドの群から選択される。
【0110】
米国特許第6,703,040には、生分解性ポリ(エステル−アミド)の例が記載されている。これらのポリ(エステル−アミド)は、(DACA)n形状のエステルおよびアミド結合を介して、ジオール(D)、ジカルボン酸(C)およびα−アミノ酸(A)の重合によって形成され得る。
【0111】
生分解性ポリエーテルエステル共重合体を用いてもよい。一般的に言えば、ポリエーテルエステル共重合体は、親水性ブロック(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキレングリコール)および疎水性ブロック(例えばポリエチレンテレフタル酸エステル)を含む両親媒性ブロック共重合体である。ブロック共重合体の例は、ポリ(エチレングリコール)ベースおよびポリ(ブチレンポリエチレンテレフタル酸エステル)ベースのブロック(PEG/PBTポリマー)を含む。これらのタイプのマルチブロック共重合体の例は、例えばUS特許第5,980,948に記載されている。PEG/PBT ポリマーは、PolyActive(登録商標)としてOctoplus BV(Leiden, Netherlands)から販売されている。
【0112】
ポリ(ヒドロキシ酪酸塩)PHB、ポリ(オキシエチレン)(POE)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、およびポリ(ラクチド)(PLA)から選択される1つ以上のポリマーブロックなどを含む他のPEG含有ブロック共重合体は、Advanced Polymer Materials, Inc. (Lachine, QC, Canada)から販売されている。
【0113】
少なくとも2つの異なるエステル結合を含むセグメント化された分子構造(segmented molecular architecture)を有するとともに、生分解性をも有する生分解性共重合体を用いてもよい。生分解性ポリマーは、(ABまたはABA型)ブロック共重合体、または(AB)n 型のセグメント化(マルチブロックまたはランダムブロックとしても知られる)共重合体であってもよい。これらの共重合体は、エステル交換に対して大きく異なる感受性を有する共重合体における結合を形成する2つの(またはそれ以上の)環状エステルモノマーを使用して、2つの(またはそれ以上の)ステージ開環共重合によって形成される。これらのポリマーの例は、例えば米国特許第5,252,701(Jarrett et al., “Segmented Absorbable Copolymer”)に記載されている。
【0114】
他のマルチブロック共重合体の例は、EP1555278に記載されたように化学式(1)〜(3)に基づく構造を有する。
[-R1-Q1-R4-Q2-]x-[R2-Q3-R4-Q4-]y-[R3-Q5-R4-Q6-]z- (1)
[-R1-R2-R 1-Q1-R4-Q2-]x-[R3-Q2-R4-Q1]z- (2)
[-R2-R1-R 2-Q1-R4-Q2-]x-[R3-Q2-R4-Q1]zB- (3)
これらの化学式では、R1およびR2は、非晶性ポリエステル、非非晶性ポリエーテルエステル、または非晶性ポリカーボネート;あるいは混合エステル、エーテルおよび/またはカーボネート基から得られる非晶性プレポリマーである。R1およびR2は、ポリエステル基を含んでいてもよい。これは、重合開始剤としてこれらの化合物を使用する結果起こり、ポリエーテルは、室温において非晶性または結晶性である。しかし、そうして導入されるポリエーテルは、生理学的条件下において非晶性となる。R1およびR2は、非晶性プレポリマーまたはブロックAおよびBからそれぞれ抽出され、R1およびR2は、同一ではない。R1およびR2は、同時にポリエーテル基を含んでいてもよいが、好適には、それらのうちの1つのみがポリエーテル基を含む。zは、ゼロまたは正の整数である。R3は、ポリ(エチレングリコール)などのポリエーテルであり、(z ≠ 0)、すなわち(z=0)ではない場合に存在する。R3は、生理学的条件下において非晶性となる。R4は、脂肪族C2-C8アルキレン基である。このアルキレン基は、任意にC1-C10 アルキレンによって置換されていてもよく、脂肪族基は、線形または環状であり、R4は、好適にはブチレン(CH2)4−基であり、C1-C10 アルキレン側基は、保護されたS、N、PまたはO成分を含んでいてもよい。Xおよびyは、正の整数であり、好適には少なくとも1であり、xおよびyの合計(x+y)は好適には最大2000、より好適には最大500、最も好適には最大200である。Q1〜Q6は、プレポリマーと多機能連鎖延長剤との反応によって得られる結合ユニットである。Q1〜Q6は、それぞれアミン、ウレタン、アミド、カーボネート、エステルまたは無水物である。
【0115】
他の適した生分解性ポリマー材料としては、リン含有結合を備えた生分解性テレフタル酸エステル共重合体が挙げられる。リン酸エステル結合を有するポリマー、すなわちポリ(リン酸塩)、ポリ(ホスホン酸塩)およびポリ(亜リン酸塩)は周知である。例えば、Penczek et al., Handbook of Polymer Synthesis, Chapter 17: “Phosphorus-Containing Polymers,” 1077-1132 (Hans R. Kricheldorf ed., 1992)、ならびに、米国特許第6,153,212, 6,485,737, 6,322,797, 6,600,010および6,419,709を参照されたい。亜リン酸塩であるリン酸エステル結合を含む生分解性テレフタル酸エステルポリマーを使用してもよい。適したテレフタル酸エステルポリマー−ポリ亜リン酸塩共重合体は、例えば米国特許第6,419,709(Maoら“Biodegradable Terephthalate Polyester-Poly(Phosphite) Compositions, Articles, and Methods of Using the Same)に記載されている。ホスホン酸塩である、リン酸エステル結合を含む生分解性テレフタル酸エステルポリマーを使用してもよい。適したテレフタル酸エステルポリエステル−ポリ(ホスホン酸塩)共重合体は、例えば米国特許第6,485,737および6,153,212(Mao ら、“Biodegradable Terephthalate Polyester-Poly(Phosphonate) Compositions, Articles and Methods of Using the Same)に記載されている。リン酸塩であるリン酸エステル結合を含む生分解性テレフタル酸エステルポリマーを使用してもよい。適したテレフタル酸エステルポリマーポリ(リン酸塩)共重合体は、例えば米国特許第6,322,797および6,600,010(Maoら、“Biodegradable Terephthalate Polyester-Poly(phosphate)Polymers, Compositions, Articles, and Methods for Making and Using the Same)に記載されている。
【0116】
生分解性多価アルコールエステルを用いてもよい(例えば、米国特許6,592,895を参照)。上記特許は、脂肪族ホモポリマーまたは共重合体ポリエステルから形成されるアシル成分を提供する、多価アルコールをエステル化することによって生成される生分解性星型ポリマーについて記載している。生分解性ポリマーは、US特許第6,583,219に記載されているように、架橋結合ポリマー構造を備えたヒドロゲルを形成する、疎水性および親水性成分を含む三次元架橋ポリマーネットワークであってもよい。疎水性成分は、不飽和基終端(unsaturated group terminated ends)を有する疎水性マクロマーであり、親水性ポリマーは、不飽和基を導入する化合物と反応するヒドロキシ基を含む多糖である。他の適した生分解性ポリマーは、α−アミノ酸(例えば、US特許第6,503,538に記載されているように弾性共重合体アミド、またはコポリエステルウレタンなど)ベースのポリマーを含んでいてもよい。
【0117】
分解性ポリマーは、米国特許第6,303,148に記載されたようなデキストランベースのポリマーを含んでいてもよい。デキストランベースの分解性ポリマーの例は、商標名OCTODEX(登録商標)として市販されているものが挙げられる。
【0118】
他の生分解性ポリマーとしては、ポリメチリデン−マロネート(polymethylidene-malonate)、ポリヒドロキシブチレートなどが挙げられる。
【0119】
微粒子は、天然の生分解性多糖を用いて形成されてもよい。重合可能基などの、ペンデント結合基(pendent coupling groups)を有する天然の生分解性多糖が反応して、多糖の架橋されたマトリックスを備えたボディー部が形成される。好適には、天然の生分解性多糖は、分子量が例えば約50,000 Da未満、25,000 Da未満、または10,000 Da未満である低分子量ポリマーである。
【0120】
ペンデント結合基を備えた天然の生分解性多糖は、米国公開第2005/0255142(2005年11月17日公開)(Chudzikら)、および米国特許出願第11/271,213(2005年11月11日)(Chudzikら)に記載されており、両方が本発明の用途に共通して用いられている。天然の生分解性多糖の好適な例は、マルトデキストリン、アミロース、およびポリアルジトールから選択されるものである。
【0121】
微粒子は、疎水性の成分によって誘導体化された多糖によって形成されてもよい。米国公開第2007/0260054(2007年11月8日)(Chudzik, S.J.)に記載された方法に基づき、例示の疎水性多糖を調製してもよく、この多糖は、本発明の用途に用いられてもよい。ボディー部は、C2-C18、線形、分岐、もしくは環状アルキル基、またはC2-C10もしくはC2-C6線形、分岐、もしくは環状アルキル基を備えた疎水性成分によって誘導体化された疎水性成分によって形成されてもよい。ある形態では、天然の生分解性多糖の疎水性誘導体は、1よりも高い置換度(degree of substitution)を有する。
【0122】
生分解性の微粒子は、例えば溶媒蒸発技術(例えばWiehert, B. and Rohdewald, P. J Microencapsul. (1993) 10:195を参照)などの従来技術によって、様々な生物活性を有する薬剤に内包されるように調製されてもよい。
【0123】
ある形態では、微粒子は、2つ以上の合成生分解性ポリマーを含み、そのうちの1つが、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を遅らせる。第一および第二生分解性ポリマーは、選択されたポリマーの、周知の分解速度または算出された分解速度に基づいて選択されてもよい。
【0124】
ある実施形態では、微粒子は、第二ポリマーよりも速い分解速度をもつ第一生分解性ポリマーを含む。より遅く分解される第二ポリマーは、基質からの生物活性を有する薬剤の放出速度を低減させる。微粒子は、追加のポリマーを含んでいてもよい。例えば微粒子は、第三、第四、第五ポリマーなどを含んでいてもよい。
【0125】
第一および第二生分解性ポリマーは、選択されたポリマーの周知または算出されたガラス転移温度(Tg)に基づいて選択される場合もある。Tgは、ポリマーがガラス状態からゴム状態に転移する地点での特定の温度を指す。Tgは、技術文献(例えばThermal Analysis of Polymeric Materials Wunderlich, B. (2005) Springer, Berlin;またはHandbook of Polymer Synthesis, Kricheldorf et al. (2005) Marcel Dekker, New York)から得られる、示差走査熱量測定などの分析技術を用いて決定される、または、Fox equation Fox, T.G. (1956) Bull. Am. Physics Soc. 1, 3, p. 123などの数学的手法によって得られるポリマーの固有特性および物理特性である。
【0126】
一実施形態では、微粒子は、第二ポリマーよりも低いTgをもつ第一ポリマーを有する。より硬い第二ポリマーは、基質からの生物活性を有する薬剤の放出速度を低減させることができる。例えばPLGAなどの適した第一ポリマーのTgは約45℃であり、PLLAなどの適した第二ポリマーのTgは約55℃である。
【0127】
ある形態では、第一および第二ポリマーのTgの差は、約5℃以上である。より詳しい形態では、第一および第二ポリマーのTgの差は、約10℃以上である。
【0128】
ある形態では、第一および第二ポリマーのTgは約35℃以上である。より詳しい形態では、第一および第二ポリマーのTgは約35℃〜約65℃の範囲内である。
【0129】
第一および第二ポリマーの選択は、分子量、溶解度、およびレオロジーなどのポリマーの他の特性に基づいていて行われてもよい。
【0130】
ある形態では、微粒子は、生物活性を有する薬剤およびポリマーを含み、当該微粒子は、生物活性を有する薬剤からなる内部およびポリマーからなる外部を備えた構造を有する。例えば、微粒子は、生物活性を有する薬剤のコアおよびポリマーシェルを有していてもよい。
【0131】
或る形態では、微粒子のコアは、実質的または完全に生物活性を有する薬剤からなり、シェルは生分解性ポリマーを含む。
【0132】
ある形態では、微粒子のコアは、生物活性を有する薬剤および第一ポリマーを含み、シェルは、生分解性ポリマーなどの第二ポリマーを含む。例えば、第一および第二ポリマーは、合成生分解性ポリマーから選択される。
【0133】
微粒子の内部(例えばコア)は、微粒子に存在する生物活性を有する薬剤の全てではないにしても、少なくとも大半を含む。内部および外部を有する微粒子を調製するために様々な技術を使用してもよい(例えば、Pekarek, K.J. (1994) Nature 367:258-60)。ある技術は、ポリマー混合物の相分離に基づく。相分離技術の多くが溶媒蒸発を伴う。
【0134】
最初に、第一ポリマーおよび生物活性を有する薬剤を含む第一組成物を調製することによって、内部および外部を有する微粒子を調製する。第一組成物を処理して、第一ポリマーおよび生物活性を有する薬剤の均一な縣濁を得る。そして、均一化された第一組成物を、第二ポリマーを含む第二組成物と混合させる。続いて、第一および第二組成物の混合物を均一化する。これらのステップの後で、当該組成物を、微粒子の形成を促進する溶液(たとえば、ポリビニルアルコール含有溶液など)と混合させることによって微粒子を形成する。ある実施形態では、例えば遠心分離などによって微粒子を回収し、任意に洗浄および凍結または凍結乾燥させる。
【0135】
ある具体的な形態では、微粒子の内部は、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)などの合成生分解性共重合体を含み、微粒子の外部は、ポリ(ラクチド)などの合成生分解性ホモポリマーを含む。
【0136】
微粒子は、生物活性を有する薬剤の放出を制御する1つ以上の非ポリマー化合物を含む。例えば、微粒子は、生物活性を有する薬剤の放出を制御する溶解性金属または金属塩を含む。金属塩の例は、無機金属塩化物、フッ化物、および酸化物である。金属塩は、水に僅かに溶ける。微粒子は、部分的または全体的に金属塩に覆われる。
【0137】
或る形態では、弾性表面は、2組以上の微粒子に接着される。2組以上の微粒子を使用することによって、特定の生物活性を有する薬剤が、微粒子が組織に送達された後で異なる速度で放出され得る、または、2つの異なる型の生物活性を有する薬剤が被検体に放出され得る。例えば、第一生物活性を有する薬剤が第一セットの微粒子から放出され、第二生物活性を有する薬剤が第二セットの微粒子から放出される。
【0138】
2つの生物活性を有する薬剤を送達したいときに2組の微粒子を使用することができる。この2つの生物活性を有する薬剤は、例えば疎水性および親水性薬物が極性または非極性溶媒において不適合であるなど、特定の環境においては互いに不適合である。例えば、第一生物活性を有する薬剤は、第一組の微粒子に存在する疎水性薬物であってもよく、第二生物活性を有する薬剤は、第二組の微粒子に存在する親水性薬物であってもよい。疎水性薬物のための有益な分解性ポリマーまたは分解性共重合体は、ラクチドまたはカプロラクトンを高濃度で含有する。一方、親水性薬剤のための有益な分解性ポリマーまたは分解性共重合体は、グリコリドを高濃度含有する。
【0139】
本発明に係る一形態では、微粒子は、弾性基質に存在する被膜に少なくとも部分的に埋め込まれており、被膜は、非膨張状態であって、(装置上の)被膜が体内に挿入されているときよりも低いレベルの水酸化レベルを有する。装置を体内に挿入すると、ヒドロゲルがさらに水酸化され、埋め込まれた微粒子の周りにおいてヒドロゲル材料が緩む(loosens)。標的部位では、被膜を備えた弾性基質が膨張する。水酸化反応が増大するに伴って、被膜の膨張が被膜からの微粒子の放出を促進する。微粒子が被検体の組織に送達され、生物活性を有する薬剤が放出されて治療効果がもたらされる。したがって、本発明に係る上記形態では、被膜が膨張状態のときに、弾力特性および多孔性を有する。
【0140】
被膜は、非膨張状態での微粒子の固定化を可能にするポリマー材料(1つ以上のポリマー)からなっていてもよい。ポリマー材料は、1つ以上のホモポリマー、コポリマーマトリックスを形成するのに有効なそれらの組合せまたは混合物を含んでいてもよい。ある好適な形態では、被膜として可撓性ヒドロゲルマトリックスを形成するためにポリマー材料を使用する。
【0141】
調製の或る形態では、1つ以上の基質形成ポリマーおよび微粒子を含む被膜組成物が形成される。一般的に、無傷の微粒子を備えた基質を形成するために適した成分の中から、被膜材料を選択して使用する。例えば、微粒子を破壊しない液体に溶解するポリマーを選択する。好適な実施形態では、親水性ポリマーを用いて微粒子を含む液体組成物を調製する。微粒子は一般的に非水溶性、すなわち容易には水に溶けないものである。
【0142】
他の場合では、微粒子は1つ以上の基質形成ポリマーを有する被膜組成物に含まれない。そのような被膜工程では、微粒子が被膜ポリマーマトリックスに配置される次の被膜ステップにおいて微粒子を使用する。
【0143】
一般的に、被膜組成物は、適した物理特性(弾性および微粒子保持率)を与える量およびタイプのポリマー材料を含む。或る形態では、組成物において基質を形成するために使用されるポリマー材料の量は、濃度にして約5 mg/mL〜約50 mg/mL、約10 mg/mL〜約40 mg/mL、または約10 mg/mL〜約20 mg/mLである。実施形態の一例では、約15 mg/mLのポリマー材料が被膜組成物に存在する。
【0144】
ポリマー材料は、ポリマーの架橋されたマトリックスを形成するために活性化され得るペンデント光反応基(pendent photo-reactive)または重合基を含んでいてもよい。組成物におけるポリマーの量は、これらの基による誘導体化のレベルに基づいて選択されてもよい。
【0145】
基質形成のためのポリマー材料として有効な親水性ポリマーの種類は、合成親水性ポリマーである。生体安定性を有する(すなわち、生体内において感知され得る分解性を示さない)合成親水性ポリマーをあらゆる適した単量体から調製する。この単量体は、アクリル単量体、ビニル単量体、エーテル単量体、またはこれらのタイプの単量体の1つ以上の混合物を含む。アクリル単量体は、例えばメタクリル樹脂、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸、アクリル酸、アクリル酸グリセロール、メタクリル酸グリセロール、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド(DMA)、および誘導体、および/またはこれらのいずれかの混合物を含む。ビニル単量体は、例えば、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、およびこれらのいずれかの誘導体を含む。エーテル単量体は、例えばエチレンオキシド、酸化プロピレン、酸化ブチレン、およびこれらのいずれかの混合物を含む。
【0146】
これらの単量体から形成されるポリマーの例は、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、およびポリ(HEMA)を含む。親水性共重合体は、例えばメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、およびビニルピロリドン(メタ)アクリルアミド共重合体を含む。ホモポリマーおよび/または共重合体の混合物を用いてもよい。
【0147】
ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド−コ−アミノプロピルメタクリルアミド)、およびポリ(アクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド)は、出願人を同じくする、同時係属出願の米国特許公開第2006/0030669(出願日:2004年9月17日、Tatonら)の実施例2に記載されている。
【0148】
ある実施形態では、親水性ポリマーは、ビニルピロリドンポリマー、またはポリ(ビニルピロリドン−コ−メタクリルアミド)などのビニルピロリドン/(メタ)アクリルアミド共重合体である。PVP共重合体を使用する場合、ビニルピロリドンの共重合体、またはアクリルアミド単量体基から選択される単量体であってもよい。アクリルアミド単量体の例は、(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミド誘導体であり、例えばジメチルアクリルアミドなどのアルキル(メタ)アクリルアミド、およびアミノプロピルメタクリルアミドおよびジメチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのアミノアルキル(メタ)アクリルアミドを含む。例えば、ポリ(ビニルピロリドン−コ−N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド)は、米国特許公開第2006/0030669 (Tatonら)の例2に記載されている。
【0149】
一実施形態では、記載されたようなポリマーおよび共重合体は、1つ以上の光活性基によって誘導体化される。生物安定性親水性ポリマーが備え得る(pendent from)光活性基の例は、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アンスロン、キノン、およびアンスロン様複素環(anthrone-like heterocycles)などのアリルケトンを挙げることができる。これにより、ペンデント活性化フォト基(pendent activatable photo group)を有する親水性ポリマーが得られる。このペンデント活性化フォト基(pendent activatable photo group)は、弾性基質に使用され、その後、フォト基(photogroup)を活性化させるために十分な化学線を用いて処理され、弾性基質材料などの標的に共有結合を生じさせる。フォト親水性(Photo-hydrophilic)ポリマーを使用することによって、弾性基質材料に共有結合された親水性ポリマー材料に、可撓性ヒドロゲルマトリックスの耐久性の被膜を与える。
【0150】
ペンデント活性化フォト基を有する親水性ポリマーを用いて、可撓性ヒドロゲル被膜を調製してもよい。光反応性基を有する親水性ポリマーの調製方法は従来技術では周知である。例えば、フォト−PVPを調製するための方法は、米国特許第5,414,075に記載されている。フォト−ポリアクリルアミドを調製するための方法は、US特許第6,007,833に記載されている。
【0151】
他の実施形態では、記載されたポリマーおよび共重合体は、1つ以上の重合性官能基によって形成される。ペンデント重合性官能基(pendent polymerizable groups)を備えたポリマーを一般的にマクロマーと称する。重合性官能基は、ポリマーストランドの末端部(終端)に存在するか、またはポリマーの長さに沿って存在する。ある実施形態では、重合性官能基は、ポリマーの長さに沿ってランダムに配置されている。重合性官能基は、活性化して、微粒子が固定化されている架橋されたマトリックスを形成する。
【0152】
任意に、被膜は架橋結合剤を含む。架橋結合剤は、被膜におけるポリマー結合、または被膜面へのポリマーの結合を促進することができる。特定の架橋結合剤の選択は、被膜組成の成分によって異なる。
【0153】
いくつかの架橋結合剤の例は、成分中のポリマーと反応可能な2つ以上の活性基を含む。活性基の例は、本願に記載したような光反応性基を含む。例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アンスロン、キノン、およびアンスロン様複素環(anthrone-like heterocycles)などのアリルケトンである。
【0154】
光反応性架橋結合剤は、イオン性であり、水性の組成物に溶け易い。したがって、ある実施形態では、少なくとも1つのイオン性光反応性架橋結合剤は、被膜を形成するために使用される。イオン性架橋結合剤は、スルホン酸、カルボン酸、ホスホン酸、その塩などの酸性基またはその塩を含んでいてもよい。対イオンの例は、アルカリ、アルカリ土類金属、アンモニウム、プロトン化アミンなどを含む。
【0155】
イオン性光反応性架橋結合剤は、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェノルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−ジスルホン酸または塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルフェノルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−ジスルホン酸または塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルメチレンオキシ)ベンゼン−1−スルホン酸または塩;N,N−ビス[2−(4−ベンゾイルベンゾイルオキシ)エチル]−2−アミノアミノエタンスルホン酸または塩などを含む。米国特許第6,278,018を参照されたい。
【0156】
本発明に係る他の形態では、生分解性被膜材料を用いる。生分解性被膜材料の例は、微粒子の制御放出因子として任意に使用されるものを含む。
【0157】
例えば、本発明の形態では、微粒子は、弾性基質上に存在する破損可能な生分解性被膜に埋め込まれる、および/または接着される。非膨張状態では、微粒子は、実質的または完全に被膜に内包されるか、または被膜層に接着される、またはその両方である。基質が膨張すると直ちに、被膜が破壊され、弾性表面から剥がれる。したがって、被膜は剛性および硬直性を有していてもよい。
【0158】
標的部位では、被膜部が内包された微粒子に沿って組織に送達される。送達された被膜部が組織に接着し、組織への微粒子の固定化を向上させるために隔壁または膜を与える場合もある。
【0159】
生分解性被膜材料の分解に伴って、生物活性を有する薬剤が放出され、治療効果がもたらされる。
【0160】
被膜は、微粒子の固定化が可能な生分解性ポリマー材料(1つ以上のポリマー)からなる。ポリマー材料は、1つ以上のホモポリマー、共重合体、基質の形成に有効なそれらの組合せまたは混合物を含む。
【0161】
基質の形成に天然ポリマーを用いてもよい。天然ポリマーは、ポリデキストラン、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシメチルセルロースなどの多糖類;ヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン;コラーゲン、アルブミンおよびアビジンなどの可溶性タンパク質といったポリペプチド;およびこれら天然ポリマーの組合せを含む。天然ポリマーと合成ポリマーとを組み合わせてもよい。
【0162】
米国特許公開第2005/0255142および2006/0165872 (supra)には、弾性基質の膨張後直ちに破壊されて剥がれる生分解性被膜の調製に適した天然の生分解性ポリマー材料の例が記載されている。生分解性被膜は、ペンデント結合基を介して、マルトデキストリン、アミロース、およびポリアルジトールなどの低分子量の生分解性多糖を架橋結合させることによって調製されてもよい。一般的に、被膜層を形成するために、結合基を活性化させるように表面に塗布されるポリマー材料を処理する。その結果、ポリマーを架橋結合させてポリマーマトリックスを形成する。
【0163】
生分解性被膜の調製に有益な他の生分解性材料の具体例は、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(グリコリド−コ−ポリジオキサノン)、ポリ無水物、ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)、およびポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)を含む。一般に、被膜層を形成するために、これらのポリマー材料を表面に塗布し、乾燥させてもよい。
【0164】
生分解性被膜の調製に有効な生分解性材料の他の例は、生分解性ポリ(エステル−アミド)(例えば米国特許第6,703,040に記載)、生分解性ポリエーテルエステル共重合体(例えばUS特許第5,980,948に記載のPEG/PBTポリマー)、エステル含有ブロック共重合体(例えば米国特許第5,252,701またはEP1555278に記載)、および分解性デキストランベースのポリマー(例えば米国特許第6,303,148に記載)を含む。
【0165】
例えば、弾性基質における生分解性被膜は、生分解性マルチブロック共重合体を含む被膜組成を調製することによって生成される。当該生分解性マルチブロック共重合体は、30 mg/mLのアセトンに溶解したグリコール酸、カプロラクトン、およびPEGポリマーブロックを含み、(ヒドロゲルベース被膜を含む、または含まない)バルーン上に溶液を噴霧することによって塗布される。(例えば微粒子形状の)生物活性を有する薬剤を被膜溶液(1〜50重量%)に溶解させるか、または分解性被膜が形成された後で塗布する。例えば、(メタノールに溶解した、または水中に微粒子として存在する)パクリタキセルを生分解性被膜に塗布する。
【0166】
生分解性被膜を形成するために使用される被膜組成物は、1つ以上の追加の生体適合性ポリマーを含む。例えば、二次、三次などの付加的な生体適合性ポリマーが被膜組成物に含まれ、所望の特性をもつ被膜を形成する。1つ以上の付加的なポリマーは、被膜の分解を促進する。ある形態では、生分解性ポリマーは、ポリラクチドなどの生分解性ポリマーと、およびポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド)、およびポリ(プロピレンオキシド)からなる群から選択されるものなどの生分解性ポリマーとから形成される。
【0167】
弾性基質表面に配置された微粒子の量は、微粒子に充填される生物活性を有する薬剤の量、生物活性を有する薬剤の放出速度、および微粒子の放出により被検体に投与可能な生物活性を有する薬剤の総量などの1つ以上の要因に基づいて選択される。微粒子の総量は、生物活性を有する薬剤の1つを送達するための1組の微粒子、または2つ以上の生物活性を有する薬剤を送達するための2組以上の微粒子を含む。
【0168】
基質は、被検体に送達されて微粒子の生物活性を有する薬剤が使用可能になったときに所望の治療反応を与えるために十分な量の微粒子に覆われている。ある形態では、弾性基質の表面は、高密度の微粒子を有していてもよい。同様に、これは、経時的に、治療に有効な量の生物活性を有する薬剤の送達を促進する。弾性基質に配置された微粒子の密度などの様々な要因に基づき、弾性基質の表面の面積毎の生物活性を有する薬剤の量が決定される(例えば、1cm2面積毎にμgの生物活性を有する薬剤)。ある形態では、基質に配置された微粒子の量は、約0.05μg/mm2〜約30μg/mm2、より具体的な実施形態では約1μg/mm2〜約3μg/mm2である。
【0169】
ポリマー材料および微粒子を弾性基質表面に配置させる様々な方法を実施してもよい。多くの実施形態では、ポリマー材料および微粒子を含む被膜組成物を調製し、その後弾性基質の表面に塗布する。一実施形態では、約10mg/mL〜約50mg/mLの範囲内の濃度の微粒子を含む被膜組成物を使用する。
【0170】
しかし、ポリマー材料が、微粒子とは別に表面に塗布される場合もある。例えば、第一ステップにおいてポリマー組成物が表面に塗布され、第二ステップにおいて、(ポリマー被膜材料を含まない)微粒子を有する組成が、予め被覆されたポリマーに塗布される。或る実施形態では、約10mg/ml〜約50mg/mLの濃度の(ポリマー被膜材料を含まない)微粒子を有する被膜組成物を使用する。また、任意に、微粒子を覆うトップコートなどの同じまたは他のポリマー材料を塗布するためのステップを実施してもよい。
【0171】
或る好適な形態では、噴霧被覆工程を用いて、弾性基質表面上に被膜を形成する。特定の実施形態では、噴霧蒸着工程(spray deposition process)を用いて被覆するためにバルーンを操作することができる装置にバルーンカテーテルを取り付ける。バルーンカテーテルの被覆のための装置の一例を図9に示す。
【0172】
被覆装置91において、バルーンカテーテルのカテーテル部92が分離円筒状ハウジング93の間の経路内に固定される。バルーンカテーテルのバルーン部95が、インデフレータ(indeflator)によって膨らむ。ハウジング94は、シリンダー軸の周りを回転することができ、標準の変速モータによって駆動する。バルーン95の先端は、円形のグロメットに保持されているが、回転することができる。バルーン表面を被覆するために、スプレーヘッド97が吹き付ける噴霧被覆剤の下に、材料固定具全てを移動させる。
【0173】
バルーン被覆装置および方法のさらなる形態および詳細については、出願人を同じくする仮出願第61/188,929(出願日:2008年8月14日 発明の名称:METHOD AND APPARATUS FOR COATING BALLOON CATHETERS (Chappaら))に記載されている。
【0174】
または、被膜組成物を弾性基質表面上に浸漬被覆させ、被膜表面を形成させる。他の方法では、弾性基質表面上に組成物をブラシで塗布する。
【0175】
典型的には、弾性部における被膜の厚さは、被覆工程の間に配置された最大微粒子の直径よりも厚い。ある用途では、基質は、ポリマー材料および微粒子の混合物を被覆する1つ以上のステップを受け、基質表面上に多層を形成することができる。
【0176】
ある形態では、弾性基質上に配置された被覆材料を処理することによって被膜を調製する。例えば、被膜組成物は反応基を含み、活性化したときに、ポリマー材料の架橋結合を生じさせ、被膜を形成する。被膜を形成するために使用するポリマー材料は、アクリレート基などのペンデント重合基(pendent polymerizable groups)を含んでいてもよい。重合開始剤である光活性化試薬の活性化により、重合基(polymerizable groups)の遊離基重合が起こる。塗布された組成物に紫外線処理を施して、重合開始剤を活性化させる。
【0177】
様々な技術を用いて、微粒子を被膜に結合させ、部分的に埋め込まれた粒子を提供する。ある技術では、可撓性ヒドロゲル層が膨張可能な弾性基質の表面上に形成される。続いて、微粒子を含有する液体組成物が可撓性ヒドロゲル層の表面上に配置される。液体組成物中の水により、可撓性ヒドロゲル層の少なくとも表面が膨張する。この膨張によって、可撓性ヒドロゲル層がヒドロゲル層上に配置された微粒子の少なくとも一部を透過させ、微粒子がヒドロゲル層のポリマー材料内に移動する。微粒子を部分的にヒドロゲル層に移動させるのに十分な時間が経過したら、蒸発、加熱または真空処理によって水を除去する。水を除去することによって、ヒドロゲル層が膨張状態から収縮し、微粒子を物理的に拘束し、その結果、ヒドロゲル層の表面上に配置された微粒子の大半が部分的に埋め込まれる。
【0178】
可撓性ヒドロゲルマトリックス被膜の表面を可視化する場合には、微粒子の大部分が表面のすぐ下のヒドロゲル基質に完全に埋め込まれ、そして、ヒドロゲル基質に部分的に埋め込まれ(一部が基質内に、一部が基質外に存在する)、そして微粒子がヒドロゲル表面に接着されているように部分的に埋め込まれている。
【0179】
多くの場合、ヒドロゲル層に配置されて部分的に内包された微粒子は、液体組成物には溶けない。例えば、微粒子は、非可溶性の生物活性を有する薬剤からなる。
【0180】
微粒子は、挿入可能な医療機器(medical articles)に存在する弾性表面に結合されていてもよい。「挿入可能な」医療機器は、病状の予防または治療のために哺乳類に導入するものである。「挿入可能な」医療機器は、短期間の使用または長期間の治療に用いられてもよい。「移植可能な」医療機器は、体内の標的部位において長期間、例えば数日間、数週間または数ヶ月間挿入することを目的として挿入可能な医療機器を指す。
【0181】
これらの装置は、動脈、静脈、心室または心房などの器官、組織または器官の内腔内に皮下的に、または経皮的に導入されるあらゆるものを含む。
【0182】
例示の医療機器は、血管インプラント(vascular implants)および人工血管、グラフト、手術用機器;合成プロテーゼ;細胞内タンパク質分解、ステント移植および細胞内ステントの組合せを含む人工血管;小径グラフト、腹部大動脈瘤グラフト;止血バリア;メッシュおよびヘルニア栓子(mesh and hernia plugs);ASD、PFOおよびVSD閉鎖;経皮的閉鎖デバイス(percutaneous closure devices);僧帽弁置換装置;左心房付属フィルタ;弁形成装置、カテーテル;中心静脈アクセスカテーテル、静脈アクセスカテーテル、腫瘍ドレナージカテーテル、薬剤注入カテーテル、非経口的栄養補給カテーテル、(抗血栓剤による処理などの)静脈カテーテル、脳卒中治療カテーテル、血圧およびステントグラフトカテーテル;吻合装置および吻合閉鎖(anastomotic closures);動脈瘤除去装置;感染制御装置;細胞膜;組織の骨格;組織関連材料;脳脊髄液(CSF)を含む短絡、緑内障ドレーン短絡;歯科用装置および歯科用インプラント;耳ドレナージ管、中耳腔換気用チューブなどの耳用装置;眼科用装置;脊髄および神経装置;神経再生管;神経用カテーテル;神経パッチ(neuropatches);整形外科用関節インプラント、骨修復/強化装置、軟骨修復装置、などの整形外科用装置;泌尿器用インプラント、膀胱用装置、腎臓用装置および血液透析用装置などの泌尿器用装置および尿道装置、ならびに人工肛門袋付属装置;胆道ドレナージ製品を含む。
【0183】
挿入可能な医療機器は、1つ以上の非弾性部分を有していてもよい。例えば、バルーンカテーテルでは、カテーテル部が非弾性部である。非弾性部は、部分的または完全にプラスチックポリマーからなっていてもよい。プラスチックポリマーは、付加重合または縮合重合の結果生じるオリゴマー、ホモポリマー、およびコポリマーを含む合成ポリマーからなるものを含む。適した付加ポリマーの例は、限定するものではないが、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸グリセリン、メタクリル酸グリセリン、メタクリルアミド、およびアクリルアミドなどのアクリル、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、ビニルピロリドン、二塩化ビニリデン、およびスチレンなどのビニルを含む。縮合重合体の例は、限定するものではないが、ポリカプロラクトン、ポリラウリルラクタム、 ポリヘキサメチレンアジポアミドなどのナイロン、ならびにポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ(エチレンテレフタル酸エステル)、ポリジメチルシロキサン、ならびにポリエーテルケトンを含む。
【0184】
非弾性部は、部分的または完全に金属からなっていてもよい。医療機器に使用できる金属は、プラチナ、金、またはタングステン、ならびにレニウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、チタン、ニッケルなどの他の金属、ならびにステンレス鋼、チタン/ニッケル、ニチノール合金、コバルトクロム合金、非鉄合金、およびプラチナ/イリジウム合金などの上記金属の合金を含む。合金の一例は、MP35である。
【0185】
例示の実施形態では、挿入可能な医療機器は、バルーンカテーテルを有する。バルーンカテーテル構造は周知の技術であり、例えば米国特許第4,195,637、5,041,089、5,087,246、5,318,587、5,382,234、5,571,089、5,776,101、5,807,331、5,882,336、6,394,995、6,517,515、6,623,504、6,896,842および7,163,523などの様々な文献に記載されている。バルーンカテーテルは、一般に、バルーン、カテーテルシャフト、誘導線、および連結管という4つの部分を含む。カテーテルシャフトの近位端には、代表的には連結管がある。連結管の端部において、誘導線を用いたカテーテルの配置が促される。誘導線は小さく、動脈に挿入した時に操作し易い。一旦誘導線が標的部位に移動すると、バルーン部を備えたカテーテルが、バルーンが血管内の標的部位に到達するまで誘導線を伝って送られる。その後、カテーテルが標的狭窄部に到達すると、バルーンが膨張し、それによって必要な機械力が加えられ、血管を拡張させる。連結管は、バルーンの膨張のためのシャフト内への液体の注入を制御することができる。バルーンは、代表的には、患者の動脈内腔に挿入され、非膨張状態で内腔を介して前進する。
【0186】
膨張の前に、バルーンは標的部位への送達のために小さく折り畳まれていてもよい。折り畳み工程は、バルーン材料の「アーム」を形成することと、これらのアームを内側に(カテーテル軸に向けて)折り込んでバルーン材料を小さくすることと、を含んでいてもよい。そのような折り畳みパターンを用いると、外側を向いたバルーン材料部分(バルーンが折り畳まれ小さくなったとき)、および内側を向いたバルーン材料部分、すなわち「保護」面を表す内向き部分が存在する。したがって、他の被覆実施形態では、バルーン材料の内向き面は、微粒子に接着されたポリマー材料の被膜を含む。図10aは、中心カテーテル部100を備えた収縮したバルーンの断面図であり、アーム102の側面を備えたアーム101形状を有するバルーン材料が微粒子に接着されたポリマー被膜を有する。図10bは、中心カテーテル部100を備えた小さく折り畳まれたバルーンの断面図であり、アーム102の側面が、カテーテル部100において内側に折り込まれた、微粒子に接着されたポリマー被膜を有する。バルーン面は、本願に記載したように噴霧被覆装置を用いて被覆されており、小さく折り畳まれた形状のバルーンが微粒子に接着された保護(内部)被膜面を有するパターンを提供する。
【0187】
バルーンは、一般的にインフレーションポートを介して注入される液体によって膨張する。液体の送達およびバルーン内への注入メカニズムは、カテーテルの具体的な設計によって異なり、これらの設計は周知である。
【0188】
本発明に係る新規な微粒子接着面を備えたバルーンカテーテルは、バルーン血管形成術において使用される。バルーン血管形成術は、病的動脈の治療のために一般的に実施されるものであり、アテローム狭窄を低減させる、または閉塞動脈を再疎通させる。そのような工程では、閉塞部位におけるバルーンの膨張によって、閉塞した管腔経路が再開されるか、または拡張する。本発明によれば、微粒子が配置されたバルーン部を有するバルーンカテーテルは、動脈、静脈または軌道などの患者の内腔経路に経皮的に挿入される。一旦挿入されると、バルーンは所望の治療部位まで前進し、その部位においてバルーンが膨張して内腔経路を拡張させる。本発明によると、バルーンが前進するときの生物活性を有する薬剤の損失を最小限に抑えられる、または排除できる。
【0189】
一旦バルーンが膨張すると、バルーン表面に配置された微粒子部分が標的部位における内腔動脈壁の組織に送達される。ある形態では、送達された部位は、表面に元来配置された微粒子の量の約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、または約90%以上である。ある形態では、送達される微粒子の量は約30%〜100%の範囲内である。
【0190】
例えば、微粒子がバルーン表面の膨張可能な被膜に含まれる形態では、バルーンの膨張が被膜を伸張させる。バルーン表面上の被膜が、物理的変化を受け、微粒子の放出が促進される。被検体に挿入されると直ちに、可撓性ヒドロゲルマトリックスがさらに水和化し、微粒子の周りの基質材料を緩める。また、(バルーンの膨張に伴う)被膜の伸張によって、非膨張状態のバルーンにおける被膜よりも被膜が効果的に薄くなる。さらに、被膜の伸張によって、微粒子が出ることができる孔が被膜に形成される。被膜の水和化、薄膜化、および/または孔の形成によって、バルーンが膨張すると被膜から微粒子が効果的に「飛び出る」。
【0191】
送達される微粒子は、標的部位における動脈組織に接着する。したがって、微粒子は標的部位において生物活性を有する薬剤を放出することができ、組織に治療効果をもたらす。標的部位での薬剤の放出は、バルーン膨張後の組織の反応を制御するのに役立つ。例えば、微粒子は、病変部位での新生内膜増殖を阻害するシロリムスやパクリタキセルなどの抗増殖剤を放出することができる。他の例としては、微粒子は、凝固を阻害するヘパリンなどの抗血栓薬を放出することができる。
【0192】
ある形態では、微粒子を用いて、持続的なプロフィールにて標的部位において生物活性を有する薬剤を放出させてもよい。この機構により、より長く、より治療に有効な時間、微粒子から生物活性を有する薬剤を放出させることができる。ある形態では、微粒子は、数日間から数ヶ月間に渡って生物活性を有する薬剤の放出を調節する生物活性を有する薬剤および生分解性ポリマーを含む。
【0193】
〔実施例1〕
バルーンカテーテルのバルーンの弾性表面に、パクリタキセル微粒子に覆われた可撓性ヒドロゲル被膜を設けた。被覆工程に使用したバルーンカテーテルは、Minnesota Medtec (Maple Grove, MN)から入手した。バルーンの弾性部は、ナイロン製であり、バルーン壁の厚さは5〜10μmである。
【0194】
(米国特許第 6,007,833、例1および2に記載されたように)フォト−ポリアクリルアミドを用いてヒドロゲル被膜溶液を調製した。フォト−ポリアクリルアミドは計量され、10mg/mLの濃度にて、IPAおよび水の混合物(50% IPA/50% water (v/v))に溶解された。取出し速度が0.5cm/sである浸漬工程によってフォト−ポリアクリルアミド被覆溶液中でバルーンを被覆した。ヒドロゲル被膜溶液をバルーンに塗布した後で、紫外線硬化を施した。400ワットの金属ハロゲン化バルブを備えたDymax 2000-EC Series UV Floodlambの前に被覆バルーンを配置し、光源から約20cm離れた位置で3分間照射し、その後取り出した。
【0195】
次に、湿式粉砕処理によって、パクリタキセル微粒子を調製した。簡潔に言えば、20mg/mLの脱イオン水に純薬(neat drug)を直接加えた。その後、沈殿したパクリタキセル粒子を水中で粉砕し、粒径を〜1〜3μmまで小さくした。薬剤/水の縣濁液を、セラミックビーズを含むガラスビンにてタンブル粉砕した。縣濁液を約100rpmにて16時間(一晩)粉砕した。周知の量の薬剤縣濁液(一般に20μl)をピペット操作することによって、得られた縣濁液をフォト−ポリマー被覆面に塗布した。溶媒が明らかに乾くまでバルーンを回転させ、ピペット操作された液滴をバルーンに均一に分散させた。
【0196】
図11aおよび図11bは、本方法に基づいて調製された、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有する弾性基質の微粒子を示す。
【0197】
〔例2〕
実施例1に記載の被覆工程を繰り返した。ただし、ヒドロゲル被覆層を形成するために異なる被膜組成物を用いた点が実施例1とは異なる。
【0198】
5 mg/mLのフォト−ポリアクリルアミド(例1)、(米国特許第5,414,075の実施例4に記載のように調製された)25 mg/mLのフォト−ポリ(ビニルピロリドン)、10 mg/mLのポリ(ビニルピロリドン)K90(BASF)、および(米国特許第6,278,018 (実施例1)に記載のように調製された)0.25 mg/mLの4,5−ビス(4−ベンゾイルフェノルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−ジスルホン酸を、IPAおよび水(15% IPA/85%水)の混合物に溶解させ、ヒドロゲル被膜溶液を調製した。
【0199】
実施例1のように、浸漬被覆、紫外線処理、およびパクリタキセル微粒子被覆を実施した。
【0200】
〔実施例3〕
バルーンカテーテルのバルーンの弾性表面に可撓性ヒドロゲル被膜を設け、ヒドロゲル表面上にパクリタキセル微粒子を形成させた。
【0201】
実施例1および2に記載されたように被覆処理を繰り返し、ヒドロゲル被覆層を設けた。
【0202】
続いて、濃度30mg/mLのメタノールにパクリタキセルを溶解させ、微粒子形成組成物を調製した。その後、周知の量の薬剤縣濁液(代表的には10〜20μl)をピペット操作することにより、組成物をフォト−ポリマー被覆面に塗布した。溶媒が明らかに乾くまでバルーンを回転させて、ピペット操作された液滴をバルーン上に均一に分散させた。
【0203】
図12aおよび図12bは、本方法に基づいて調製された、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子に覆われたヒドロゲル被膜を含む弾性基質の顕微鏡写真である。
【0204】
〔実施例4〕
シリコンチューブモデルにおいて、ヒドロゲル被膜を有するパクリタキセル微粒子被膜バルーンからの微粒子の送達を検査した。
【0205】
シリコンチューブ(内径:0.125インチ;外径:0.188インチ;壁:0.0315インチ;Cole-Parmer Instrument Co.)を得て、それを1.5インチの長さに切断した。シリコンチューブの断片をpH7.4のPBS(リン酸塩緩衝生理食塩水)4mLで満たした4mLの琥珀色のガラスバイアルに個々に配置した。このPBSは、水浴において37℃まで予め熱しておいたものである。
【0206】
(水浴において37℃まで予め熱しておいたpH7.4のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)8mLで満たした)8mLのバイアル中に、収縮して折り畳まれたバルーン(実施例1に基づいて準備されたもの)を配置し、4分間浸した。その後、バルーンを(4mLバイアルの中に漬かった)シリコンチューブの内腔に滑り込ませ、4atmにおいて30秒間膨張させた。その後圧力を解放し、バルーンをチューブから取り出した。
【0207】
チューブの内径の壁に送達されるパクリタキセルの量を決定するために、メタノール中の0.1%の氷酢酸混合物4mLに24時間チューブを浸した。紫外線による薬物含有量測定のために350μLアリコートの抽出媒体を96ウェルプレートに移動させた(@ 232 nm)
シリコンチューブに送達されるパクリタキセルの量を表1に表す。
【0208】
【表1】
【0209】
〔実施例5〕
生体外Cモデルにおいて、ヒドロゲル被膜を有するパクリタキセル微粒子被覆バルーンからの微粒子の送達を検査した。
【0210】
採取した豚の動脈を入手し、1.5インチの長さに切断した。pH7.4のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)4mLを満たした4mLの琥珀色ガラスバイアルに、豚の動脈断片を配置した。このPBSは、水浴において予め37℃まで熱しておいたものである。
【0211】
(水浴において37℃まで予め熱しておいたpH7.4のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)8mLで満たした)8mLのバイアル中に、収縮して折り畳まれたバルーン(実施例1に基づいて準備されたもの)を配置し、4分間浸した。その後、バルーンを(4mLバイアルの中に漬かった)豚の動脈の内腔に滑り込ませ、4atmにおいて30秒間膨張させた。その後圧力を解放し、バルーンを豚の動脈から取り出した。
【0212】
豚の動脈の内径の壁に送達されるパクリタキセルの量を決定するために、メタノール中の0.1%の氷酢酸混合物4mLに24時間豚の動脈を浸した。紫外線による薬物含有量測定のために1mLアリコートの抽出媒体を96ウェルプレートに移動させた(@ 232 nm)
豚の動脈に送達されるパクリタキセルの量を表2に表す。
【0213】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0214】
【図1】a〜cは、埋め込まれた微粒子を備えた可撓性ヒドロゲル被膜に覆われた弾性基質を有する機器の一部と、弾性基質の膨張直後の、ヒドロゲル被膜から組織への微粒子の送達とを示す。
【図2】a〜cは、埋め込まれた微粒子を備えた可撓性ヒドロゲル被膜に覆われた弾性基質を有する機器の一部と、弾性基質の膨張直後の微粒子を備えた生分解性被膜における断片部の組織への送達を示す。
【図3】可撓性ヒドロゲルマトリックスと、生分解性ポリマーマトリックスと埋め込まれた微粒子とを備えた被膜に覆われた弾性基質の一部を示す実施形態である。
【図4】可撓性ヒドロゲルマトリックスと、生分解性ポリマーマトリックスと埋め込まれた微粒子とを備えた被膜に覆われた弾性基質の一部を示す実施形態である。
【図5】可撓性ヒドロゲルマトリックスと、生分解性ポリマーマトリックスと埋め込まれた微粒子とを備えた被膜に覆われた弾性基質の一部を示す実施形態である。
【図6】バルーン面上の非隣接点の被膜パターンを示す実施形態である。
【図7】バルーン面上の非隣接螺旋縞の被膜パターンを示す実施形態である。
【図8】離層した生分解性被膜を有する基質の顕微鏡写真である。
【図9】取り付けられたバルーンカテーテルを備えた被膜装置の図である。
【図10】aおよびbは、バルーン部分に被膜を有するバルーンの横断面図である。
【図11】aおよびbは、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有するバルーン基質の顕微鏡写真である。
【図12】aおよびbは、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有するバルーン基質の顕微鏡写真である。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本発明は、出願人を同じくする仮出願61/072,234(出願日:2008年3月28日)の利益を享受する本出願である(発明の名称:微粒子が配置された弾性基質を有する挿入可能な医療機器、および薬物送達方法)。
【0002】
〔発明の分野〕
本発明は、挿入可能な医療器具から薬物を送達する分野に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
移植された医療機器からの薬剤の放出は、機器の機能および様々な医療条件での治療にとって有益であることが示されている。例えば、装置の表面から薬剤を送達することにより、移植可能な装置の存在によって生じる細胞応答を避けることができる。また、装置から放出される薬剤は、移植に伴う装置の機能寿命を短縮させる条件を回避することができる。装置から放出された薬剤で、身体の罹患部の治療を行ってもよい。
【0004】
移植可能な装置の中には、単に装置の表面に薬剤を塗布しただけのものもある。このような調製物は、挿入している間に薬剤が表面から容易に落ちてしまうことから、一般的に望ましくない。さらに、一般的に、移植の後に薬剤の放出を制御することは難しい。
【0005】
治療用の化合物を含むポリマー薄膜を備えた移植可能な医療機器は、従来技術に記載されており、装置の表面からの薬剤の放出を保護および制御するための改善策を提供している。これらの膜のいくつかは、薬剤の放出によって移植装置の近傍に局所的な治療効果を与えることができる。このような装置は、循環器系の疾患の治療に特に有効であることが知られている。
【0006】
薬剤溶出ステント(Drug-eluting stents)によって、投与部位に対して治療物質を局所的に放出させることができる。ステント上のポリマー膜を介して治療薬を局所的に放出させることによって、再狭窄が低減されるという好ましい結果が得られる。高分子化学の複数の分野において、従来技術のようなステントのための薬剤放出膜の使用について開発が進められている。それらの中には、奨励されて、現在、医療処置に使用されているものもある。これらの化学物質の多くが、疎水性の薬剤の送達に役立つ。
【0007】
一般的に、薬剤放出膜は、薬剤と溶媒に溶けるポリマーとを有する膜組成物を用いて調製される。その後、この組成物を基質の表面に塗布し、塗布した材料を乾燥させて溶媒を除去する。その結果、薬剤を内包するポリマー材料の被膜が得られ、この薬剤は移植に伴って被膜から溶出され得る。
【0008】
例えば、US特許第6,214,901には、疎水性の薬物(例えばラパマイシン)を放出させるための膜の調製に適したポリ(アルキル(メタ)アクリレート)およびポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)の混合物に基づいた膜組成物が記載されている。制御された状態での疎水性薬物の放出は、上記タイプのポリマー膜システムによって可能となる。例えば、上記システムによって、疎水性の薬物を、持続的かつ制御して放出することが可能となり、当該システムでは、親水性の薬物の総量の50%未満が最初の24時間の間に放出される。
【0009】
US特許第6,669,980には、薬物の送達に有効であると記載された他の疎水性ポリマーシステムが記載されており、ポリ(スチレン−イソブチレン−スチレン)を含む膜を備えた医療機器の調製について開示されている。
【0010】
US特許文献2005/0220843および2005/0244459には、薬物の送達に有効である他の疎水性ポリマーシステムが記載されている。
【0011】
特定の薬剤の使用に関して、上記ポリマーシステムは理想的なものではない。例えば、或る用途では、標的の身体組織に医療機器を一時的に挿入する。上述したポリマーシステムに関して、上記ポリマーシステムからの薬剤の放出速度は、標的の組織に対して治療量の薬剤を与えるために十分ではない可能性がある。
【0012】
さらに、薬物を送達する被膜の多くは、面積が増大しない表面である「静的表面(static surfaces)」をもつ装置からなる。典型的には、耐久性の被膜(durable coatings)を形成するポリマーシステムは、これらの静的表面に適している。しかし、静的ではない表面(すなわち、弾性表面)では、このような耐久性の被膜が必ずしも適切であるとは限らない。
【0013】
〔発明の要約〕
本発明は、生物活性を有する薬剤を含む微粒子が配置された挿入可能な医療機器に関する。微粒子は、装置から放出され得るものであり、被検体に対して生物活性を有する薬剤を与え、標的部位に治療効果をもたらす。本発明に係る装置は、被覆材料を介して微粒子が配置された膨張可能な弾性表面を有している。
【0014】
特定の形態では、本発明は、一時的に挿入可能な医療機器を用いて、標的組織に対して治療量の生物活性を有する薬剤を送達するのに好適であり、当該形態では、生物活性を有する薬剤は、標的組織において微粒子から放出される。任意に、生物活性を有する薬剤は、生物活性を有する薬剤の微粒子からの放出を調節するポリマーなどの放出制御成分に結合していてもよい。本発明は、標的部位における、生物活性を有する薬剤の送達および放出における利点を提供するものである。
【0015】
装置および方法は、挿入工程の間、生物活性を有する薬剤の損失を最小限に抑えるという利点をもつ。当該装置および方法を採用しない場合、標的組織ではない部位にて上記生物活性を有する薬剤の損失が生じる可能性がある。例えば、特定の実施形態では、本発明は、バルーンカテーテルを提供する。バルーンカテーテルでは、バルーン面に本願の実施形態に係る新規な微粒子が配置されている。標的組織(例えば腔内プローブ)にバルーン部を送達する間、生物活性を有する薬剤の損失が最小限に抑制または解消される。そして、装置の表面から標的部位への、(微粒子を介した)生物活性を有する薬剤の送達が最大化される。
【0016】
或る実施形態では、本発明は、被検体に対して生物活性を有する薬剤を送達することができる、被膜を含む挿入可能な医療機器を提供する。当該機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部上の可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、被膜に配置された微粒子とを有している。微粒子は、装置の挿入および組織への微粒子の送達に伴って組織に放出される生物活性を有する薬剤を含んでいる。被膜に配置された微粒子は、被検体において、弾性部が膨張すると被膜から分離することができる。
【0017】
ある配列では、微粒子は完全または部分的に、可撓性ヒドロゲルマトリックスの表面に、またはその近傍に埋め込まれている。この構成では、微粒子は、可撓性ヒドロゲルマトリックスに不均一に分配される。
【0018】
被検体に挿入すると、直ちに可撓性ヒドロゲルマトリックスがさらに水酸化し、その結果、微粒子の周りの基質材料が緩む。標的部位では、被膜が弾性部に沿って膨張し得る。被膜の膨張を伴う基質の水酸化および緩みにより、被膜からの微粒子の放出が促進される。また、水酸化および膨張により、被膜の多孔性が高くなり、微粒子が基質の外に放出されて組織内に入る。
【0019】
ある場合では、被膜は、例えばポリ(ビニルピロリドン)などの水溶性ポリマーを含んでいてもよい。ある場合では、被膜は、反応フォトグループ(reacted photogroups)を介して弾性基質の表面に共有結合されたポリマーを含んでいてもよい。また、被膜は、水溶性ポリマーがマクロマー形状(macromer form)である組成物からなっていてもよい。
【0020】
関連する形態では、本発明は、被膜および微粒子を含む装置を用いて被検体に生物活性を有する薬剤を送達するための方法を提供する。上記方法は、挿入可能な医療機器を設けるステップを含む。上記機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部の表面上の可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、被膜に配置された微粒子とを有する。他のステップは、被検体に医療機器を挿入するステップと、標的部位にて膨張可能な弾性部を膨張させるステップとを有する。膨張後直ちに、または膨張後に、微粒子の部分が被膜から分離され、標的部位にて組織中に放出される。そして、生物活性を有する薬剤が微粒子から放出され、被検体に治療効果を与えることができる。
【0021】
本発明の他の形態では、挿入可能な医療機器は、微粒子と、膨張可能な弾性部に配置された生分解性被膜材料とを有する。例えば、一実施形態では、本発明は被検体に生物活性を有する薬剤を送達することができる挿入可能な医療機器を提供し、当該機器は、生分解性被膜および微粒子を含む。上記機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部の表面の可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、被膜に配置された微粒子とを有する。微粒子は、完全または部分的に、生分解性基質に埋め込まれている。微粒子は、機器の挿入に伴って放出される生物活性を有する薬剤を含む。
【0022】
装置が生分解性ポリマーマトリックスを備えている実施形態では、被検体において弾性部が膨張すると直ちに、微粒子に配置された基質の少なくとも一部が剥がれることができる。離層した、微粒子を含む生分解性ポリマー材料が、標的組織に付着する。離層したポリマーマトリックスが分解され、標的部位において微粒子から生物活性を有する薬剤が放出される。
【0023】
他の実施形態では、可撓性ヒドロゲルマトリックスに関して生分解性ポリマーマトリックスを使用する。機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部上の可撓性ヒドロゲルを含む被膜と、可撓性ヒドロゲルマトリックス上の生分解性ポリマーマトリックスと、被膜に配置された微粒子とを有する。微粒子は、微粒子の大部分が部分的に可撓性ヒドロゲルマトリックスおよび生分解性被膜材料に埋め込まれるように配置されていてもよく、または、微粒子の大部分が生分解性被膜材料に埋め込まれるように配置されていてもよい。
【0024】
関連する形態では、本発明は、生分解性ポリマーマトリックスおよび微粒子を備えた被膜を含む機器を用いて、被検体に対して生物活性を有する薬剤を送達するための方法を提供する。上記方法は、挿入可能な医療機器を提供するステップを含む。当該機器は、膨張可能な弾性部に配置された生分解性ポリマーマトリックスを備えた被膜と、被膜に配置された微粒子とを有する。他のステップは、被検体に医療機器を挿入するステップと、被検体において膨張可能な弾性部を膨張させるステップとを含む。膨張後直ちに、または膨張後に、微粒子に配置された生分解性ポリマーマトリックス部が、離層して標的部位の組織に送達される。
【0025】
他の形態では、本発明は、被検体に生物活性を有する薬剤を送達することができる挿入可能な医療機器を提供し、当該機器は、生分解性被膜および微粒子を含み、当該機器において、生分解性被膜の少なくとも一部が破壊されて、標的部位にて微粒子の放出を促す。上記機器は、膨張可能な弾性部と、膨張可能な弾性部の表面上の生分解性材料を含む被膜と、生分解性被膜に配置された微粒子とを有する。微粒子は、機器の挿入に伴って放出される生物活性を有する薬剤を含む。微粒子を含む生分解性被膜の少なくとも一部が破壊されて、標的部位における微粒子の放出が可能となる。
【0026】
関連する形態では、本発明は、生分解性被膜および微粒子を含む機器を用いて、被検体に対して生物活性を有する薬剤を送達するための方法を提供する。上記方法は、挿入可能な医療機器を提供するステップを含み、機器は、膨張可能な弾性部上の生分解性被膜と、生分解性被膜に配置された微粒子とを有する。他のステップは、被検体に医療機器を挿入するステップと、被検体において膨張可能な弾性部を膨張させるステップとを含む。挿入処置の間に、生分解性被膜の一部が分解されて、微粒子の放出が促される。
【0027】
例示の実施形態では、挿入可能な医療機器は、バルーンを含む膨張可能な弾性部を有している。当該挿入可能な機器は、血管形成術用バルーンなどから選択されるものを含む。新規な微粒子機構に配置された血管形成術用バルーンを病変血管の治療工程において使用してもよい。微粒子に結合するとともに血管に放出され得る生物活性を有する薬剤の例としては、抗増殖性物質、抗炎症薬、および抗血小板化合物からなる群から選択されるものを挙げることができる。抗増殖性薬剤の一例は、パクリタキセルである。
【0028】
適した微粒子は、部分的または完全に、1つ以上の生物活性を有する薬剤からなるものを含む。
【0029】
ある場合では、微粒子は、制御放出薬剤を含む。例えば、制御放出薬剤は、生分解性ポリマーであってもよく、例えばPGA、PLAおよびPLGAからなる群から選択されるポリマーである。生分解性ポリマーは、生物活性を有する薬剤が膨張した弾性部材から放出された後で、生物活性を有する薬剤の放出を付加的に制御することができるように用いられる。
【0030】
〔図面の簡単な説明〕
図1a〜図1cは、埋め込まれた微粒子を備えた可撓性ヒドロゲル被膜に覆われた弾性基質を有する機器の一部と、弾性基質の膨張直後の、ヒドロゲル被膜から組織への微粒子の送達とを示す。
【0031】
図2a〜図2cは、埋め込まれた微粒子を備えた可撓性ヒドロゲル被膜に覆われた弾性基質を有する機器の一部と、弾性基質の膨張直後の微粒子を備えた生分解性被膜における断片の組織への送達を示す。
【0032】
図3〜図5は、可撓性ヒドロゲルマトリックスと、生分解性ポリマーマトリックスと埋め込まれた微粒子とを備えた被膜に覆われた弾性基質の一部を示す実施形態である。
【0033】
図6は、バルーン面上の非隣接点の被膜パターンを示す実施形態である。
【0034】
図7は、バルーン面上の非隣接螺旋縞の被膜パターンを示す実施形態である。
【0035】
図8は、離層した生分解性被膜を有する基質の顕微鏡写真である。
【0036】
図9は、取り付けられたバルーンカテーテルを備えた被膜装置の図である。
【0037】
図10aおよび図10bは、バルーン部分に被膜を有するバルーンの横断面図である。
【0038】
図11aおよび図11bは、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有するバルーン基質の顕微鏡写真である。
【0039】
図12aおよび図12bは、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有するバルーン基質の顕微鏡写真である。
【0040】
〔詳細な説明〕
本願に記載された本発明に係る実施形態は、包括的なものではなく、本発明を以下の詳細な説明に開示された形態に限定するものではない。むしろ、実施形態は、当業者が本発明の原理および実施を認識および理解できるように、選択および記載されている。
【0041】
本願に記載された全ての文献および特許は、参照により本願に含まれる。本願に開示した文献および特許は、開示のみを目的としている。本願に記載されたものはいずれも、発明者らが、本願に記載のあらゆる文献および/または特許を含む、あらゆる文献および/または特許に対して先行していないと認めるものと解釈すべきではない。
【0042】
概して、本発明は、微粒子を用いて標的組織に生物活性を有する薬剤を運搬するための方法および機器を提供する。微粒子は、被膜材料を介して、挿入可能な医療機器の膨張可能な弾性表面に配置される。被検体に装置を挿入し、標的組織と接触するように膨張可能な弾性表面を配置し、当該標的組織に微粒子が送達される。膨張可能な弾性表面が膨張し、弾性基質表面上の被膜から微粒子が放出または分離される。
【0043】
または、膨張可能な弾性表面は、弾性表面が膨張したときに弾性表面から放出される生分解性被膜材料を含んでいてもよく、その結果、微粒子に沿って生分解性被膜材料が送達されてもよい。弾性基質表面からの放出後、微粒子は、組織に結合されて生物活性を有する薬剤を放出してもよい。
【0044】
図1aに示した一実施形態では、機器は、膨張可能な弾性基質10(例えばバルーンカテーテルにおけるバルーン部分など)、可撓性ヒドロゲル被膜11、および可撓性ヒドロゲル被膜に配置された微粒子(12、13、14)を有する。図1aは、微粒子の結合が不均一であることを示す(すなわち、微粒子が、可撓性ヒドロゲル被膜/膨張可能な弾性基質の界面16の近傍ではなく、可撓性ヒドロゲル被膜15の表面近傍において可撓性ヒドロゲル被膜11に実質的に配置されているか、可撓性ヒドロゲル被膜に均一に分配されている)。図1aは、可撓性ヒドロゲル被膜に完全に埋め込まれた微粒子(12)、可撓性ヒドロゲル被膜に部分的に埋め込まれた微粒子(13)、および可撓性ヒドロゲル被膜に僅かに埋め込まれた微粒子(14)の例を示す。図示するにあたって、可撓性ヒドロゲル被膜に僅かに埋め込まれた微粒子は、可撓性ヒドロゲル被膜の表面に接着しているように見えてもよい。
【0045】
その後、(例えば微粒子被膜カテーテルバルーン形状などの)機器を被検体に挿入し、標的部位に送達させることができる。被検体に挿入すると直ちに、可撓性ヒドロゲルマトリックスの水酸化が進み、微粒子の周りの基質材料が緩む。図1bを参照すると、(例えば腔内閉塞などの)標的部位に機器を配置し、当該部位において膨張可能な弾性基質10がバルーンの膨張などによって膨張し、標的部位を膨張させ、標的部位の組織17に対して可撓性ヒドロゲル被膜11を押し上げる。標的部位において、可撓性ヒドロゲル被膜11が弾性基質10に沿って膨張する。膨張に伴って可撓性ヒドロゲル被膜が水和して緩むことによって、被膜11から組織17への微粒子の放出が促進される。ある場合には、微粒子がもはや閉じ込められず、被膜から放出される地点まで、被膜が変形してもよい。例えば、膨張すると直ちに、被膜が、微粒子を放出するために十分なほど薄くなる。または、あるいはさらに、微粒子の放出に十分な大きさに膨張した被膜において、孔が形成されるまで被膜が膨張してもよい。微粒子が被検体の組織に送達され、生物活性を有する薬剤が放出されて治療効果をもたらす。
【0046】
図1cを参照すると、微粒子の送達が行われた後で、(例えばバルーンの収縮によって)弾性基質10が収縮する。膨張可能な弾性基質10および可撓性ヒドロゲル被膜11が標的部位の組織17から分離して、微粒子を組織17に結合させる。
【0047】
図1a〜図1cは、本発明の実施形態および送達工程について図示しており、微粒子の大半がヒドロゲル基質から組織に送達される。しかし、本発明は、約10〜100%、または、さらに好適には30〜100%の範囲内において微粒子を組織に送達することが想定されている。
【0048】
可撓性ヒドロゲルマトリックスは、生体安定性の親水性ポリマーからなっていてもよい。ポリマーは、膨張可能な弾性基質に共有結合されているか、他の親水性ポリマーに共有結合されているか、または、その両方である。好適な実施形態では、生体安定性の親水性ポリマーは、反応フォトグループ(reacted photpgroups)を介して基質の表面に結合されるものである。
【0049】
本発明の他の形態では、挿入可能な医療機器は、微粒子の弾性基質への配置を促す生分解性被膜層を含む。
【0050】
上記機器は、微粒子と弾性基質の表面との間に存在する生分解性被膜層を有する。例えば、生分解性被膜層は、弾性基質の表面上にベース被膜(base coating)として存在する。生分解性被膜は、例えば微粒子を備えた層を形成するために用いられるポリマー材料の接着性などによって、微粒子を弾性基質に配置させることができる。
【0051】
例えば、他の形態では、微粒子は、弾性基質上に存在する生分解性被膜に埋め込まれるか、または覆われる。膨張していない状態では、微粒子は、ほぼ、または完全に被膜に内包されているか、または被膜に覆われている。図2aは、膨張可能な弾性基質20(例えば、バルーンカテーテルのバルーン部分など)、生分解性被膜21、および生分解性被膜21に完全に埋め込まれた微粒子(22)を有する機器を示している。
【0052】
図2bを参照すると、基質20が膨張すると直ちに、生分解性被膜21が破砕して基質20の表面から離層し、微粒子に沿って被膜部分(離層された生分解性断片28)が放出される。微粒子を備えた離層生分解性断片28が、被検体の組織27に送達される。離層生分解性断片28は、基質20よりも組織27への接着性が高い。
【0053】
図2cを参照すると、送達が行われた後で、(例えばバルーンの収縮によって)弾性基質20が収縮する。膨張可能な弾性基質20が標的部位の組織27から引き離され、微粒子を組織27に結合させる。生物活性を有する薬剤が微粒子から放出され、離層した生分解性断片28は分解される。
【0054】
ある場合では、微粒子と弾性基質との間の分解性被膜層が破砕し、微粒子の放出を促す。微粒子は、基質の膨張に伴って、標的部位にて放出される。
【0055】
他の実施形態では、図3〜図5に示したように、機器は、可撓性ヒドロゲルマトリックスと生分解性基質の両方をもつ被膜を有する。
【0056】
例えば、図3に示したように、機器は、膨張可能な弾性基質30(例えばバルーンカテーテルのバルーン部分など)、弾性基質30上の可撓性ヒドロゲル層31を備えた被膜、および可撓性ヒドロゲル層31上の生分解性層32を有する。図3の装置では、微粒子は、可撓性ヒドロゲル層31内および生分解性層32内、ならびに主としてこれら2つの層間の接触面35に配置されている。微粒子は、可撓性ヒドロゲル層31および生分解性層32に埋め込まれていてもよく(例えば微粒子34)、可撓性ヒドロゲル層31に埋め込まれていてもよい(例えば微粒子33)。
【0057】
また、図4の機器も、膨張可能な弾性基質40、弾性基質40上の可撓性ヒドロゲル層41に覆われた被膜、および生分解性層42を有している。微粒子(例えば微粒子44)は、まず生分解性層42内に配置され、生分解性材料内に埋め込まれている。
【0058】
図5の装置も、膨張可能な弾性基質50、弾性基質50上の可撓性ヒドロゲル層51に覆われた被膜、および生分解性層52を有する。本実施形態では、微粒子(例えば微粒子44)は、まず生分解性層42に配置されており、生分解性層に完全に埋め込まれた微粒子(53)、生分解性層に部分的に埋め込まれた微粒子(54)、および生分解性層にわずかに埋め込まれた微粒子(56)を示す。
【0059】
弾性基質の表面における1つ以上の部分に被膜が形成されていてもよい。多くの形態では、バルーンカテーテルのバルーン部分の全面に被膜が形成される。この場合、バルーンが生体内(in situ)で膨張すると、微粒子が動脈内腔の円周に送達される。
【0060】
不均一な生分解性被膜パターンについても検討されている。不均一な被膜とは、弾性面全体(たとえばバルーン面の全面)を覆う被膜材料ではなく、表面の1つ以上の部位に形成される被膜材料を意図する。不均一な被膜パターンは、弾性表面が膨張したときに、弾性表面から生分解性被膜材料が離層することを促進する。ある実施形態では、不均一な生分解性被膜は、この被膜が表面から離層する前に、殆ど、または全く破損しないこともある。他の形態では、不均一な生分解性被膜は、離層を促す破損し易いパターンであってもよい。膨張の圧力に関して言えば、不均一な生分解性被膜の場合、被膜の離層に必要な力が少なくて済む。
【0061】
図6および図7に不均一な生分解性被膜の例を示す。図6は、バルーン61の弾性表面上の生分解性被膜材料における点60(例えば「島(islands)」)の不均一な生分解性被膜パターンを示す。生分解性被膜材料の点は、微粒子と結合している。バルーンが膨張すると直ちに、微粒子を備えた生分解性被膜材料の点が、殆どまたは全く破損せずにバルーン表面から離層され、その後、組織に送達される。このような不均一なパターンの形状は、図示したような円形の点に限らず、あらゆる他の形状(多角形、卵形、不規則な形など)であってもよい。
【0062】
図7は、バルーン71の表面における、生分解性被膜材料の円周方向の縞70による不均一な生分解性被膜パターンを示す。円周方向の縞は、バルーンの近位端72から遠位端73へと連続している(図7に示すように、この縞は螺旋構造を形成する)。または、パターンは、バルーンの周りに環を形成する複数の円周方向の縞であってもよい(図示せず)。バルーンが膨張すると直ちに、生分解性被膜材料がその長さにそって複数の位置において容易に破砕する。破砕した部分は、バルーンの表面から剥がれることができ、その後、組織に送達される。
【0063】
不均一なパターンをもつ生分解性被膜は、バルーンの弾性表面の上に直接形成されるか、または、可撓性ヒドロゲル層などの他の被膜材料に配置されて形成される。点および縞のパターンなどの不均一なパターンは、本願に記載の吹付塗布装置を用いて形成される。
【0064】
離層した被膜の代表的な顕微鏡写真を図8に示す。
【0065】
本発明は、様々なタイプの挿入可能な医療機器を検討しており、これらの医療機器は、膨張可能な弾性基質を含み、この弾性基質から、微粒子が放出される。一実施形態では、微粒子を含む弾性基質を備えた挿入可能な医療機器は、バルーンカテーテルである。バルーンカテーテルは、一般的に、罹患した動脈の治療のための血管形成術に用いられる。バルーン血管形成術は、遮断された腔内経路(intraluminal channels)の拡張または再開を含む。表面に配置された新規な微粒子を備えたバルーンカテーテルをさらに詳しく説明する。
【0066】
膨張可能であり、体内での使用に適したいかなる材料、またはその組合せによって、機器における膨張可能な弾性部を形成してもよい。1つ以上の材料が、装置に使用され得る。多くの形態では、膨張可能な弾性材料は、エラストマー(弾性特性を有するポリマー)などの弾性および可撓性材料である。エラストマーは、典型的には、熱可塑性ポリマーである。エラストマーの例は、ポリウレタンおよびポリウレタン共重合体、ポリエチレン、スチレンブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ハロゲン化ブチルゴムを含むイソブチレン−イソプレーン共重合体(ブチルゴム)、ブタジエン−スチレン−アクリロニトリル共重合体、シリコンポリマー、フルオロシリコンポリマー、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエーテル−ポリエステル共重合体、およびポリエーテル−ポリアミド共重合体を含む様々なポリマーからなっていてもよい。
【0067】
膨張可能な弾性部は、単一のエラストマー材料、またはそれら材料の混合物からなっていてもよい。膨張可能な弾性部は、弾性部が単一層の材料となるように押出法によって製造される、または多層材料を形成するように同時押出法によって製造される。
【0068】
弾性部は、所望の用途および機器に適した厚さを有し、その厚さは5μm〜100μmである。
【0069】
カテーテルバルーン壁の厚さの例は、約5μm〜20μmである。バルーン壁の実際の厚さは、バルーンの所望の柔軟性、カテーテル上のバルーンの全体のプロフィール(低プロフィールの装置は、薄い壁のバルーンを使用してもよい)、バルーン壁の圧力定格、バルーンの膨張率などの1つ以上の因子によって変化してもよい。ある場合では、微粒子を備えた被膜が表面上に形成される場合に厚さが増大するように薄い壁をもつバルーンを使用する。
【0070】
膨張可能な弾性基質の製造は従来技術において周知であり、本願に記載した挿入可能な医療機器における膨張可能な基質部を設けるためにあらゆる適した方法を実施してもよい。例えば米国特許第4,490,421、5,556,383、6,210,364、6,168,748、6,328,710および6,482,348などの様々な文献には、カテーテルバルーンの構築が記載されている。典型的には、成形工程が、バルーン構築のために実施される。当該工程によって製造されたバルーンは、本発明に係る微粒子のための基質、および被膜材料として適している。例示の成形工程では、押出ポリマーチューブが、所望のバルーン形状をもつ鋳型内において、温度の上昇に伴って半径方向および軸方向に膨張する。バルーンは、成形工程の後に追加の処理を受ける。例えば、形成されたバルーンは、追加の加熱ステップを受けて、バルーンの収縮が低減される。
【0071】
本発明によると、微粒子は、生物活性を有する薬剤を含む微粒子成分であり、当該成分は、機器の弾性表面から放出可能なものである。微粒子は、被膜材料を介して弾性基質に配置され、その後基質の膨張後直ちに分離するのに十分な大きさおよび形状を有する三次元粒子である。
【0072】
多くの微粒子が、合成ポリマー材料からなるものなどであって、球状または実質的に球状の形である。多くの形態では、機器の弾性部が球状または実質的に球状である微粒子に結合されており、この微粒子を「ミクロスフィア(microspheres)」と称する。
【0073】
しかし、(例えば顕微鏡を用いて検査したときに)著しく非球形または不規則な形状である微粒子を用いることもできる。例えば、微粒子は曲面、平面、またはその組合せであってもよい。必要に応じて、膨張可能な弾性部を異なる大きさおよび/または形状の組合せをもつ複数の微粒子に結合してもよい。
【0074】
微粒子は、微結晶の形状をとるか、あるいは、結晶形または構成をもつ粒子の形状をとっていてもよい。結晶形の微粒子は、微粒子において三次元の全ての方向に延びる規則的に繰り返すパターンに配列された生物活性を有する薬剤分子からなっていてもよい。結晶形は、一般に、顕微鏡によって観察される。微結晶は、棒状、フィラメント状、スライバー状、または針状の形状として観察されてもよい。
【0075】
弾性基質上での被膜との接着において、微粒子は、凝集構造または塊状構造として観察(または存在)されてもよい。例えば、棒状、フィラメント状、スライバー状または針状の微粒子の凝集体が被膜材料に配置されてもよい。
【0076】
多くの形態では、膨張可能な弾性部に配置された微粒子が、約50μm未満の最大平均寸法(greatest average dimension)をもつ。例えば、微粒子は、約50μm未満の細長い軸に沿った長さをもつ細長い形状であってもよい。顕微鏡法などによる大きさ分析を用いて、不規則な形状の微粒子または微結晶を査定してもよい。ある場合では、微粒子は、約100nm〜約50μm、約100nm〜約25μm、約100nm〜約20μm、または約100μm〜約10μmの最大平均寸法を有する。
【0077】
また、多くの形態では、微粒子は、約100nm以上の平均直径を有する球状または実質的に球状のものである。例えば、膨張可能な弾性部に配置された微粒子は、約100nm〜約50μm、約150nm〜約25μm、約200nm〜約20μm、または約0.3μm〜約10μmの平均直径をもつ。
【0078】
多くの形態では、膨張可能な弾性部に配置された微粒子は、約50μm未満の平均直径(「dn」数平均(dn, number average))を有する。また、多くの形態では、微粒子は、約100nm以上の平均直径を有する。例えば、膨張可能な弾性部に連結された微粒子は、約100nm〜約50μm、約150nm〜約25μm、約200nm〜約20μm、または約0.3μm〜約10μmの平均直径を有する。
【0079】
微粒子を弾性部に配置する方法に応じて、特定の範囲内の粒径を有する微粒子を使用することが望ましい。例えば、微粒子が弾性部の表面上の被膜に固定化されている場合には、被膜の厚さよりも小さい平均直径を有する微粒子を使用することが一般的に望ましい。
【0080】
ある形態では、弾性表面に配置された微粒子は、小型の多分散性(low size polydispersity)を有する。小型の多分散性とは、微粒子の集合体における微粒子の大きさに、殆ど違いがないことを意図する(一方、大型の多分散性とは、微粒子集合体の大きさに大きな違いがあることを意図する)。
【0081】
少なくとも、膨張可能な弾性基質に配置された微粒子は、生物活性を有する薬剤を含む構成であればよい。一実施形態では、微粒子は、完全に、または実質的に、疾患の治療または予防のために選択された生物活性を有する薬剤からなる。他の実施形態では、生物活性を有する薬剤の混合物(例えば、2つ以上の異なる生物活性を有する薬剤)からなっていてもよい。他の実施形態では、微粒子は、生物活性を有する薬剤、および、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を調整する、被検体に治療効果を与えることを目的としない他の成分(例えば、ポリマーなど)から構成されていてもよい。他の実施形態では、微粒子は、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を調整する2つ以上の成分(例えば、2つ以上のポリマーなど)を含む。
【0082】
微粒子成分は、微粒子の一部、または全体が、互いに混合されていてもよい。または、微粒子成分は、互いに完全または実質的に分離されていてもよい。例えば、微粒子は、生物活性を有する薬剤の均一な混合物、および放出調整ポリマーを備えるように構成されている。他の例として、微粒子は、生物活性を有する薬剤のコア、およびコアの周りの放出調整ポリマーシェルを備えるように構成されている。
【0083】
「生物活性を有する薬剤」という用語は、合成または天然の有機分子または無機分子を指し、生体内において(in vivo)、鳥およびヒトを含む哺乳類、動物に投与されると、生物学的効果が生じる薬剤である。生物活性を有する薬剤の部分的なリストを以下に示す。微粒子のみ、または他の生物活性を有する薬剤と併せて含むものとして、生物活性を有する薬剤のうちのいずれか1つを選択してもよい。生物活性を有する薬剤の水溶性の情報に加え、生物活性を有する薬剤の総合的なリストは、The Merck Index, Thirteenth Edition, Merck & Co. (2001)に記載されている。
【0084】
弾性基質から放出される微粒子は、以下の分類に分別される生物活性を有する薬剤を運搬するために使用される。生物活性を有する薬剤は、限定するものではないが、アンギオテンシン転換酵素阻害剤、アクチン阻害剤、鎮痛剤、麻酔薬、降圧剤、抗ポリメラーゼ(anti polymerases)、抗分泌薬、抗生剤、抗癌性物質、抗コリン作用薬、抗凝血剤、抗けいれん薬、抗うつ剤、制吐剤、抗真菌剤、抗緑内障溶質、抗ヒスタミン剤、抗圧薬、抗炎症薬(NSAIDsなど)、代謝拮抗物質、抗有糸分裂薬、酸化防止剤、抗寄生虫物質および/または抗パーキンソン物質、抗増殖性物質(血管新生阻害剤を含む)、抗原虫病溶質、抗精神病物質、解熱剤、消毒剤、鎮痙薬、抗ウイルス薬、カルシウムチャンネル遮断薬、細胞応答調節剤(cell response modifiers)、キレート剤、化学療法薬、ドーパミン作動薬、細胞外基質成分、線維素溶解薬、フリーラジカル捕捉剤、成長ホルモン拮抗剤、睡眠剤、免疫抑制剤、抗毒素、表面糖タンパク質受容体の阻害剤、微小管阻害剤、縮瞳薬、筋収縮剤、筋弛緩剤、神経毒、神経送達物質、ポリヌクレオチドおよびその誘導体、オピオイド、プロスタグランジン、再形成阻害剤(remodeling inhibitors)、スタチン、ステロイド、血栓溶解剤、精神安定剤、血管拡張剤、および血管痙攣阻害剤を含む。
【0085】
ある形態では、微粒子は抗増殖剤を含む。抗増殖剤は、血管新生阻害剤であってもよい。
【0086】
ある形態では、微粒子は、抗炎症薬を含む。
【0087】
ある形態では、微粒子は、反応応答調節剤を含む。
【0088】
ある形態では、微粒子は、抗血栓剤を含む。
【0089】
ある形態では、微粒子は、免疫抑制剤を含む。
【0090】
細胞反応調節剤は、血小板由来増殖因子(pDGF)などの化学走化性因子である。他の化学走化性因子は、好中球活性化タンパク質、単球走化性タンパク質、マクロファージ炎症性タンパク質、SIS(小型誘導分泌(small inducible secreted))タンパク質、血小板因子、血小板塩基タンパク、メラノーマ成長刺激活性、上皮細胞増殖因子、形質転換成長因子(α)、線維芽細胞増殖因子、血小板由来内皮細胞成長因子、インスリン様成長因子、神経成長因子、血管内皮増殖因子、骨形態形成タンパク質、および骨成長/軟骨誘導因子(αおよびβ)を含む。他の細胞応答調節剤は、インターロイキン1〜インターロイキン10を含むインターロイキン、インターロイキン阻害剤またはインターロイキン受容体;α、βおよびγを含むインターフェロン;赤血球生成促進因子、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含む造血因子;αおよびβを含む腫瘍壊死因子;β−1、β−2、β−3、インヒビン、アクチビンおよびこれらのタンパク質のいずれかの生成をコードするDNAを含む形質転換成長因子(β)である。
【0091】
スタチンの例としては、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスチン、アトルバスタチン、セリバスタチン、およびスーパースタチンが挙げられる。
【0092】
ステロイドの例としては、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、βメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、フルドロコルチゾン、およびアルドステロンなどのグルココルチコイド;テストステロン、ジヒドロテストステロン、エストラジオール、ジエチルスチルベストロール、プロゲステロン、およびプロゲスチンなどの性ステロイドが挙げられる。
【0093】
生物活性を有する薬剤は、抗増殖性効果、抗血小板などの再狭窄防止効果、および/または抗血栓効果をもたらす。ある実施形態では、生物活性を有する薬剤は、抗炎症薬、免疫抑制剤、細胞接着因子、受容体、リガンド、成長因子、抗生剤、酵素、核酸などから選択されてもよい。抗増殖性効果を有する化合物としては、例えば、アクチノマイシンD、アンギオペプチン、c−mycアンチセンス、パクリタキセル、タキサンなどが挙げられる。
【0094】
抗血栓効果をもつ生物活性を有する薬剤の代表例は、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヒルジン、リジン、プロスタグランジン、アルガトロバン、ホルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリンアナログ、D-phe-pro-arg-クロロメチルケトン(合成アンチトロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質Iib/IIIa血小板膜レセプター抗体(glycoprotein Iib/IIIa platelet membrane receptor antibody)、コ蛋白質Iib/IIIa血小板膜レセプター抗体、組換えヒルジン、(例えばBiogenから市販されている)トロンビン阻害剤、コンドロイチン硫酸、改変デキストラン、アルブミン、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、酸化窒素阻害剤などを含む。
【0095】
生物活性を有する薬剤は、血小板凝集を調節するGPIIb-IIIa血小板受容体複合体の阻害剤であってもよい。GPIIb/IIIa阻害剤は、abciximab (ReoPro(登録商標))として知られるモノクローナル抗体Fab断片c7E3、およびeptifibatide (Integrilin(登録商標))やtirofiban (Agrastat(登録商標))などの合成ペプチドまたはペプチド模倣薬(peptidomimetics)を含んでいてもよい。
【0096】
生物活性を有する薬剤は、例えばシクロスポリン、CD−34抗体、エベロリムス、ミコフェノール酸、シロリムス、タクロリムスなどの免疫抑制剤であってもよい。
【0097】
さらに、生物活性を有する薬剤は、表面接着分子または細胞間接着分子であってもよい。細胞接着分子または、細胞外基質タンパク質などの接着タンパク質としては、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、エラスチン、ビトロネクチン、テネイシン、フィブリノーゲン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、フォン・ウィルブランド因子、骨シアロタンパク質(および活性ドメイン)、ならびにヒアルロン酸、キトサン、およびメチルセルロースなどの親水性ポリマー、ならびに他のタンパク質、炭水化物、脂肪酸などが挙げられる。他の細胞間接着分子としては、N−カドヘリンおよびP−カドヘリンおよびその活性ドメインが挙げられる。
【0098】
1つ以上の生物活性を有する薬剤のみからなる微粒子は、膨張可能な弾性基質に配置されて、生体内にて標的組織に放出される。換言すると、微粒子は、実質的または完全に1つ以上の生物活性を有する薬剤からなる。従来技術においては必要であった、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を制御する添加物質は必要ではない。微粒子の投与に伴う被検体に使用できる生物活性を有する薬剤の量を最大化できることから、上記は多くの治療方法において重要である。また、これは、生物活性を有する薬剤の部位特異的な送達、または、体内においてアクセスが制限されている領域(limited access region)への生物活性を有する薬剤の送達、を含む用途に関して好適である。他の利点は、微粒子に存在し、微粒子から放出可能な第二材料の量を最小限に抑えることができることにある。
【0099】
1つ以上の生物活性を有する薬剤のみからなる微粒子は、従来技術に記載されている。完全または略完全(例えば、微量の1つ以上の他の物質を含んでいてもよい)に生物活性を有する薬剤からなる微粒子を、本願では「純(neat)」微粒子と称する。
【0100】
例えば、パクリタキセル微粒子の調製については、米国特許第6,610,317に記載されている。したがって、本発明に係る一形態では、微粒子は、低分子量の生物活性を有する薬剤からなる。
【0101】
微粒子の調製のための他の技術は、周知であり、沈殿および結晶化を含む。例えば、溶媒(例えば有機溶媒)中の生物活性を有する薬剤の液体組成物を、過剰の非溶媒(例えば水または水組成)を加えることによって沈殿させてもよい。相分離または同等の技術によって溶媒が液体組成物から分離されてもよい。沈殿した組成物を粉砕にかける。粉砕とは、沈殿粒子の大きさを低減させる機械処理を意図する。例えば、湿式粉砕は、液体組成物の粒径を低減させて微粒子を形成するために使用される。その後、沈殿した生物活性を有する薬剤を濾過し、非溶媒(non-solvent)を用いて洗浄する。
【0102】
微粒子の調製に使用できる他の方法は、噴霧乾燥である。生物活性を有する薬剤および溶媒の液体組成物を霧化して基質上に噴霧蒸着(spray deposited)させる。上記工程の間に、液滴から溶媒を蒸発させる。所望の微粒子が形成されるように生物活性を有する薬剤の濃度、液滴の大きさ、および溶媒の蒸発を決定する。
【0103】
被膜を調製する一形態では、噴霧乾燥工程は、生物活性を有する薬剤の液体組成物を機器の被膜層(例えば、可撓性ヒドロゲル層または生分解性材料層)に直接噴霧することによって実施される。上記工程では、液滴から溶媒が蒸発するにつれて、微粒子が被膜層上に形成される。噴霧組成物は、ヒドロゲル層を膨張させる液体を含んでいてもよい。したがって、微粒子は、形成されるにつれてヒドロゲル材料の中へ移動する。非溶媒が蒸発するにつれて、ヒドロゲルが収縮し、微粒子はヒドロゲル材料によって拘束され、少なくとも部分的に可撓性ヒドロゲル被膜内に埋め込まれる(図1aを参照)。
【0104】
他の例として、治療用Fab(抗体)断片ミクロスフィアは、出願人を同じくする同時係属出願米国仮特許出願第60/937,492(出願日:2007年6月28日、Slagerら)に記載されている。したがって、本発明に係る他の形態では、微粒子は、ポリペプチドなどの高分子量の生物活性を有する薬剤からなる。
【0105】
賦形剤は、任意で微粒子に含まれる成分の1つである。賦形剤は、微粒子内の生物活性を有する薬剤の安定性を向上させる、または、微粒子の物理特性を変えることができる。賦形剤の例としては、グリセロール、ジエチレングリコール、ソルビトール、ソルビトールエステル、マルチトール、スクロース、フルクトース、転化糖、異性化液糖、およびそれらの混合物が挙げられる。賦形剤の量およびタイプは、周知の基準および技術に基づく。生物活性を有する薬剤の安定性を向上させるためなどに、酸化物質を微粒子に任意に加えてもよい。
【0106】
微粒子は、造影剤(imaging components)を含んでいてもよい。造影剤は、一般的な造影技術によって検出可能なものであり、新規の方法において使用に適したものである。これらの薬剤によって、弾性基質から微粒子を放出する前、放出する間、または放出した後で、体内の所望の部位(例えば、血管内の標的部位)を造影することができる。造影剤の例としては、生体内において検出可能なラベルを有する物質、例えば蛍光ラベルに接着された抗体、酸化鉄、Gd、またはMnまたは放射性同位体などの常磁性体などが挙げられる。造営剤は、常磁性共鳴造影、超音波造影、または他の適した検出技術によって検出されてもよい。
【0107】
生物活性剤を含有する微粒子は、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を調節する1つ以上の放出制御成分を任意に含んでいてもよい。或る形態では、放出制御成分は、微粒子に存在する材料であって、微粒子が体液または組織に接触した後で破砕、溶解、および/または分解されるように構成されている。1つ以上の成分の破壊、溶解、または分解によって、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出が遅くなり、所望の治療期間の間、生物活性を有する薬剤を、治療効果を示す量以上に存在させることができる。
【0108】
ある形態では、微粒子は、生物活性を有する薬剤、および1つ以上の生分解性または破壊可能なポリマー(本願においては「分解性ポリマー」と称する)を含む。本願発明に使用するとき、生分解性ポリマーは、ヒトの体内および生体(細菌など)内、および/または水中環境下において正常に機能する様々な酵素によって分解可能(単純な加水分解によって)なものである。生分解性ポリマーは、一旦分解されると、上記ポリマーの分解産物が体内に徐々に吸収または体内から除去される。分解性ポリマーは、天然物または合成物であり、あるいは、天然または合成のブロックからなる。微粒子における分解性ポリマー成分の選択は、本開示および当業者が持ち得る知識に基づいて行われる。
【0109】
一実施形態では、分解性ポリマーは合成物である。例示の合成分解性ポリマーは、ポリ(乳酸)(ポリ(ラクチド))、ポリ(グリコール酸)(ポリ(グリコリド))ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(ジオキセタン)などのポリエステル;ポリ(カプロラクトン)およびポリ(バレロラクトン)などのポリラクトン、ポリ(グリコリド−コ−ポリジオキサノン)、ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)、およびポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)などの共重合体;ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(タルトロン酸)、ポリ(β−マロン酸)、ポリ(プロピレンフマル酸エステル);分解性ポリエステルアミド;分解性ポリ無水物およびポリアルケン無水物(ポリ(セバシン酸))、ポリ(1,6−ビス(カルボキシフェノキシ)ヘキサン、ポリ(1,3−ビス(カルボキシフェノキシ)プロパン);分解性ポリカーボネートおよび脂肪族カーボネート;分解性ポリイミノカーボネート;分解性ポリアリレート;分解性ポリオルトエステル;分解性ポリウレタン;分解性ポリホスファゼン;分解性ポリヒドロキシアルカノエート;および分解性ポリアミドの群から選択される。
【0110】
米国特許第6,703,040には、生分解性ポリ(エステル−アミド)の例が記載されている。これらのポリ(エステル−アミド)は、(DACA)n形状のエステルおよびアミド結合を介して、ジオール(D)、ジカルボン酸(C)およびα−アミノ酸(A)の重合によって形成され得る。
【0111】
生分解性ポリエーテルエステル共重合体を用いてもよい。一般的に言えば、ポリエーテルエステル共重合体は、親水性ブロック(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキレングリコール)および疎水性ブロック(例えばポリエチレンテレフタル酸エステル)を含む両親媒性ブロック共重合体である。ブロック共重合体の例は、ポリ(エチレングリコール)ベースおよびポリ(ブチレンポリエチレンテレフタル酸エステル)ベースのブロック(PEG/PBTポリマー)を含む。これらのタイプのマルチブロック共重合体の例は、例えばUS特許第5,980,948に記載されている。PEG/PBT ポリマーは、PolyActive(登録商標)としてOctoplus BV(Leiden, Netherlands)から販売されている。
【0112】
ポリ(ヒドロキシ酪酸塩)PHB、ポリ(オキシエチレン)(POE)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、およびポリ(ラクチド)(PLA)から選択される1つ以上のポリマーブロックなどを含む他のPEG含有ブロック共重合体は、Advanced Polymer Materials, Inc. (Lachine, QC, Canada)から販売されている。
【0113】
少なくとも2つの異なるエステル結合を含むセグメント化された分子構造(segmented molecular architecture)を有するとともに、生分解性をも有する生分解性共重合体を用いてもよい。生分解性ポリマーは、(ABまたはABA型)ブロック共重合体、または(AB)n 型のセグメント化(マルチブロックまたはランダムブロックとしても知られる)共重合体であってもよい。これらの共重合体は、エステル交換に対して大きく異なる感受性を有する共重合体における結合を形成する2つの(またはそれ以上の)環状エステルモノマーを使用して、2つの(またはそれ以上の)ステージ開環共重合によって形成される。これらのポリマーの例は、例えば米国特許第5,252,701(Jarrett et al., “Segmented Absorbable Copolymer”)に記載されている。
【0114】
他のマルチブロック共重合体の例は、EP1555278に記載されたように化学式(1)〜(3)に基づく構造を有する。
[-R1-Q1-R4-Q2-]x-[R2-Q3-R4-Q4-]y-[R3-Q5-R4-Q6-]z- (1)
[-R1-R2-R 1-Q1-R4-Q2-]x-[R3-Q2-R4-Q1]z- (2)
[-R2-R1-R 2-Q1-R4-Q2-]x-[R3-Q2-R4-Q1]zB- (3)
これらの化学式では、R1およびR2は、非晶性ポリエステル、非非晶性ポリエーテルエステル、または非晶性ポリカーボネート;あるいは混合エステル、エーテルおよび/またはカーボネート基から得られる非晶性プレポリマーである。R1およびR2は、ポリエステル基を含んでいてもよい。これは、重合開始剤としてこれらの化合物を使用する結果起こり、ポリエーテルは、室温において非晶性または結晶性である。しかし、そうして導入されるポリエーテルは、生理学的条件下において非晶性となる。R1およびR2は、非晶性プレポリマーまたはブロックAおよびBからそれぞれ抽出され、R1およびR2は、同一ではない。R1およびR2は、同時にポリエーテル基を含んでいてもよいが、好適には、それらのうちの1つのみがポリエーテル基を含む。zは、ゼロまたは正の整数である。R3は、ポリ(エチレングリコール)などのポリエーテルであり、(z ≠ 0)、すなわち(z=0)ではない場合に存在する。R3は、生理学的条件下において非晶性となる。R4は、脂肪族C2-C8アルキレン基である。このアルキレン基は、任意にC1-C10 アルキレンによって置換されていてもよく、脂肪族基は、線形または環状であり、R4は、好適にはブチレン(CH2)4−基であり、C1-C10 アルキレン側基は、保護されたS、N、PまたはO成分を含んでいてもよい。Xおよびyは、正の整数であり、好適には少なくとも1であり、xおよびyの合計(x+y)は好適には最大2000、より好適には最大500、最も好適には最大200である。Q1〜Q6は、プレポリマーと多機能連鎖延長剤との反応によって得られる結合ユニットである。Q1〜Q6は、それぞれアミン、ウレタン、アミド、カーボネート、エステルまたは無水物である。
【0115】
他の適した生分解性ポリマー材料としては、リン含有結合を備えた生分解性テレフタル酸エステル共重合体が挙げられる。リン酸エステル結合を有するポリマー、すなわちポリ(リン酸塩)、ポリ(ホスホン酸塩)およびポリ(亜リン酸塩)は周知である。例えば、Penczek et al., Handbook of Polymer Synthesis, Chapter 17: “Phosphorus-Containing Polymers,” 1077-1132 (Hans R. Kricheldorf ed., 1992)、ならびに、米国特許第6,153,212, 6,485,737, 6,322,797, 6,600,010および6,419,709を参照されたい。亜リン酸塩であるリン酸エステル結合を含む生分解性テレフタル酸エステルポリマーを使用してもよい。適したテレフタル酸エステルポリマー−ポリ亜リン酸塩共重合体は、例えば米国特許第6,419,709(Maoら“Biodegradable Terephthalate Polyester-Poly(Phosphite) Compositions, Articles, and Methods of Using the Same)に記載されている。ホスホン酸塩である、リン酸エステル結合を含む生分解性テレフタル酸エステルポリマーを使用してもよい。適したテレフタル酸エステルポリエステル−ポリ(ホスホン酸塩)共重合体は、例えば米国特許第6,485,737および6,153,212(Mao ら、“Biodegradable Terephthalate Polyester-Poly(Phosphonate) Compositions, Articles and Methods of Using the Same)に記載されている。リン酸塩であるリン酸エステル結合を含む生分解性テレフタル酸エステルポリマーを使用してもよい。適したテレフタル酸エステルポリマーポリ(リン酸塩)共重合体は、例えば米国特許第6,322,797および6,600,010(Maoら、“Biodegradable Terephthalate Polyester-Poly(phosphate)Polymers, Compositions, Articles, and Methods for Making and Using the Same)に記載されている。
【0116】
生分解性多価アルコールエステルを用いてもよい(例えば、米国特許6,592,895を参照)。上記特許は、脂肪族ホモポリマーまたは共重合体ポリエステルから形成されるアシル成分を提供する、多価アルコールをエステル化することによって生成される生分解性星型ポリマーについて記載している。生分解性ポリマーは、US特許第6,583,219に記載されているように、架橋結合ポリマー構造を備えたヒドロゲルを形成する、疎水性および親水性成分を含む三次元架橋ポリマーネットワークであってもよい。疎水性成分は、不飽和基終端(unsaturated group terminated ends)を有する疎水性マクロマーであり、親水性ポリマーは、不飽和基を導入する化合物と反応するヒドロキシ基を含む多糖である。他の適した生分解性ポリマーは、α−アミノ酸(例えば、US特許第6,503,538に記載されているように弾性共重合体アミド、またはコポリエステルウレタンなど)ベースのポリマーを含んでいてもよい。
【0117】
分解性ポリマーは、米国特許第6,303,148に記載されたようなデキストランベースのポリマーを含んでいてもよい。デキストランベースの分解性ポリマーの例は、商標名OCTODEX(登録商標)として市販されているものが挙げられる。
【0118】
他の生分解性ポリマーとしては、ポリメチリデン−マロネート(polymethylidene-malonate)、ポリヒドロキシブチレートなどが挙げられる。
【0119】
微粒子は、天然の生分解性多糖を用いて形成されてもよい。重合可能基などの、ペンデント結合基(pendent coupling groups)を有する天然の生分解性多糖が反応して、多糖の架橋されたマトリックスを備えたボディー部が形成される。好適には、天然の生分解性多糖は、分子量が例えば約50,000 Da未満、25,000 Da未満、または10,000 Da未満である低分子量ポリマーである。
【0120】
ペンデント結合基を備えた天然の生分解性多糖は、米国公開第2005/0255142(2005年11月17日公開)(Chudzikら)、および米国特許出願第11/271,213(2005年11月11日)(Chudzikら)に記載されており、両方が本発明の用途に共通して用いられている。天然の生分解性多糖の好適な例は、マルトデキストリン、アミロース、およびポリアルジトールから選択されるものである。
【0121】
微粒子は、疎水性の成分によって誘導体化された多糖によって形成されてもよい。米国公開第2007/0260054(2007年11月8日)(Chudzik, S.J.)に記載された方法に基づき、例示の疎水性多糖を調製してもよく、この多糖は、本発明の用途に用いられてもよい。ボディー部は、C2-C18、線形、分岐、もしくは環状アルキル基、またはC2-C10もしくはC2-C6線形、分岐、もしくは環状アルキル基を備えた疎水性成分によって誘導体化された疎水性成分によって形成されてもよい。ある形態では、天然の生分解性多糖の疎水性誘導体は、1よりも高い置換度(degree of substitution)を有する。
【0122】
生分解性の微粒子は、例えば溶媒蒸発技術(例えばWiehert, B. and Rohdewald, P. J Microencapsul. (1993) 10:195を参照)などの従来技術によって、様々な生物活性を有する薬剤に内包されるように調製されてもよい。
【0123】
ある形態では、微粒子は、2つ以上の合成生分解性ポリマーを含み、そのうちの1つが、微粒子からの生物活性を有する薬剤の放出を遅らせる。第一および第二生分解性ポリマーは、選択されたポリマーの、周知の分解速度または算出された分解速度に基づいて選択されてもよい。
【0124】
ある実施形態では、微粒子は、第二ポリマーよりも速い分解速度をもつ第一生分解性ポリマーを含む。より遅く分解される第二ポリマーは、基質からの生物活性を有する薬剤の放出速度を低減させる。微粒子は、追加のポリマーを含んでいてもよい。例えば微粒子は、第三、第四、第五ポリマーなどを含んでいてもよい。
【0125】
第一および第二生分解性ポリマーは、選択されたポリマーの周知または算出されたガラス転移温度(Tg)に基づいて選択される場合もある。Tgは、ポリマーがガラス状態からゴム状態に転移する地点での特定の温度を指す。Tgは、技術文献(例えばThermal Analysis of Polymeric Materials Wunderlich, B. (2005) Springer, Berlin;またはHandbook of Polymer Synthesis, Kricheldorf et al. (2005) Marcel Dekker, New York)から得られる、示差走査熱量測定などの分析技術を用いて決定される、または、Fox equation Fox, T.G. (1956) Bull. Am. Physics Soc. 1, 3, p. 123などの数学的手法によって得られるポリマーの固有特性および物理特性である。
【0126】
一実施形態では、微粒子は、第二ポリマーよりも低いTgをもつ第一ポリマーを有する。より硬い第二ポリマーは、基質からの生物活性を有する薬剤の放出速度を低減させることができる。例えばPLGAなどの適した第一ポリマーのTgは約45℃であり、PLLAなどの適した第二ポリマーのTgは約55℃である。
【0127】
ある形態では、第一および第二ポリマーのTgの差は、約5℃以上である。より詳しい形態では、第一および第二ポリマーのTgの差は、約10℃以上である。
【0128】
ある形態では、第一および第二ポリマーのTgは約35℃以上である。より詳しい形態では、第一および第二ポリマーのTgは約35℃〜約65℃の範囲内である。
【0129】
第一および第二ポリマーの選択は、分子量、溶解度、およびレオロジーなどのポリマーの他の特性に基づいていて行われてもよい。
【0130】
ある形態では、微粒子は、生物活性を有する薬剤およびポリマーを含み、当該微粒子は、生物活性を有する薬剤からなる内部およびポリマーからなる外部を備えた構造を有する。例えば、微粒子は、生物活性を有する薬剤のコアおよびポリマーシェルを有していてもよい。
【0131】
或る形態では、微粒子のコアは、実質的または完全に生物活性を有する薬剤からなり、シェルは生分解性ポリマーを含む。
【0132】
ある形態では、微粒子のコアは、生物活性を有する薬剤および第一ポリマーを含み、シェルは、生分解性ポリマーなどの第二ポリマーを含む。例えば、第一および第二ポリマーは、合成生分解性ポリマーから選択される。
【0133】
微粒子の内部(例えばコア)は、微粒子に存在する生物活性を有する薬剤の全てではないにしても、少なくとも大半を含む。内部および外部を有する微粒子を調製するために様々な技術を使用してもよい(例えば、Pekarek, K.J. (1994) Nature 367:258-60)。ある技術は、ポリマー混合物の相分離に基づく。相分離技術の多くが溶媒蒸発を伴う。
【0134】
最初に、第一ポリマーおよび生物活性を有する薬剤を含む第一組成物を調製することによって、内部および外部を有する微粒子を調製する。第一組成物を処理して、第一ポリマーおよび生物活性を有する薬剤の均一な縣濁を得る。そして、均一化された第一組成物を、第二ポリマーを含む第二組成物と混合させる。続いて、第一および第二組成物の混合物を均一化する。これらのステップの後で、当該組成物を、微粒子の形成を促進する溶液(たとえば、ポリビニルアルコール含有溶液など)と混合させることによって微粒子を形成する。ある実施形態では、例えば遠心分離などによって微粒子を回収し、任意に洗浄および凍結または凍結乾燥させる。
【0135】
ある具体的な形態では、微粒子の内部は、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)などの合成生分解性共重合体を含み、微粒子の外部は、ポリ(ラクチド)などの合成生分解性ホモポリマーを含む。
【0136】
微粒子は、生物活性を有する薬剤の放出を制御する1つ以上の非ポリマー化合物を含む。例えば、微粒子は、生物活性を有する薬剤の放出を制御する溶解性金属または金属塩を含む。金属塩の例は、無機金属塩化物、フッ化物、および酸化物である。金属塩は、水に僅かに溶ける。微粒子は、部分的または全体的に金属塩に覆われる。
【0137】
或る形態では、弾性表面は、2組以上の微粒子に接着される。2組以上の微粒子を使用することによって、特定の生物活性を有する薬剤が、微粒子が組織に送達された後で異なる速度で放出され得る、または、2つの異なる型の生物活性を有する薬剤が被検体に放出され得る。例えば、第一生物活性を有する薬剤が第一セットの微粒子から放出され、第二生物活性を有する薬剤が第二セットの微粒子から放出される。
【0138】
2つの生物活性を有する薬剤を送達したいときに2組の微粒子を使用することができる。この2つの生物活性を有する薬剤は、例えば疎水性および親水性薬物が極性または非極性溶媒において不適合であるなど、特定の環境においては互いに不適合である。例えば、第一生物活性を有する薬剤は、第一組の微粒子に存在する疎水性薬物であってもよく、第二生物活性を有する薬剤は、第二組の微粒子に存在する親水性薬物であってもよい。疎水性薬物のための有益な分解性ポリマーまたは分解性共重合体は、ラクチドまたはカプロラクトンを高濃度で含有する。一方、親水性薬剤のための有益な分解性ポリマーまたは分解性共重合体は、グリコリドを高濃度含有する。
【0139】
本発明に係る一形態では、微粒子は、弾性基質に存在する被膜に少なくとも部分的に埋め込まれており、被膜は、非膨張状態であって、(装置上の)被膜が体内に挿入されているときよりも低いレベルの水酸化レベルを有する。装置を体内に挿入すると、ヒドロゲルがさらに水酸化され、埋め込まれた微粒子の周りにおいてヒドロゲル材料が緩む(loosens)。標的部位では、被膜を備えた弾性基質が膨張する。水酸化反応が増大するに伴って、被膜の膨張が被膜からの微粒子の放出を促進する。微粒子が被検体の組織に送達され、生物活性を有する薬剤が放出されて治療効果がもたらされる。したがって、本発明に係る上記形態では、被膜が膨張状態のときに、弾力特性および多孔性を有する。
【0140】
被膜は、非膨張状態での微粒子の固定化を可能にするポリマー材料(1つ以上のポリマー)からなっていてもよい。ポリマー材料は、1つ以上のホモポリマー、コポリマーマトリックスを形成するのに有効なそれらの組合せまたは混合物を含んでいてもよい。ある好適な形態では、被膜として可撓性ヒドロゲルマトリックスを形成するためにポリマー材料を使用する。
【0141】
調製の或る形態では、1つ以上の基質形成ポリマーおよび微粒子を含む被膜組成物が形成される。一般的に、無傷の微粒子を備えた基質を形成するために適した成分の中から、被膜材料を選択して使用する。例えば、微粒子を破壊しない液体に溶解するポリマーを選択する。好適な実施形態では、親水性ポリマーを用いて微粒子を含む液体組成物を調製する。微粒子は一般的に非水溶性、すなわち容易には水に溶けないものである。
【0142】
他の場合では、微粒子は1つ以上の基質形成ポリマーを有する被膜組成物に含まれない。そのような被膜工程では、微粒子が被膜ポリマーマトリックスに配置される次の被膜ステップにおいて微粒子を使用する。
【0143】
一般的に、被膜組成物は、適した物理特性(弾性および微粒子保持率)を与える量およびタイプのポリマー材料を含む。或る形態では、組成物において基質を形成するために使用されるポリマー材料の量は、濃度にして約5 mg/mL〜約50 mg/mL、約10 mg/mL〜約40 mg/mL、または約10 mg/mL〜約20 mg/mLである。実施形態の一例では、約15 mg/mLのポリマー材料が被膜組成物に存在する。
【0144】
ポリマー材料は、ポリマーの架橋されたマトリックスを形成するために活性化され得るペンデント光反応基(pendent photo-reactive)または重合基を含んでいてもよい。組成物におけるポリマーの量は、これらの基による誘導体化のレベルに基づいて選択されてもよい。
【0145】
基質形成のためのポリマー材料として有効な親水性ポリマーの種類は、合成親水性ポリマーである。生体安定性を有する(すなわち、生体内において感知され得る分解性を示さない)合成親水性ポリマーをあらゆる適した単量体から調製する。この単量体は、アクリル単量体、ビニル単量体、エーテル単量体、またはこれらのタイプの単量体の1つ以上の混合物を含む。アクリル単量体は、例えばメタクリル樹脂、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸、アクリル酸、アクリル酸グリセロール、メタクリル酸グリセロール、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド(DMA)、および誘導体、および/またはこれらのいずれかの混合物を含む。ビニル単量体は、例えば、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、およびこれらのいずれかの誘導体を含む。エーテル単量体は、例えばエチレンオキシド、酸化プロピレン、酸化ブチレン、およびこれらのいずれかの混合物を含む。
【0146】
これらの単量体から形成されるポリマーの例は、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、およびポリ(HEMA)を含む。親水性共重合体は、例えばメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、およびビニルピロリドン(メタ)アクリルアミド共重合体を含む。ホモポリマーおよび/または共重合体の混合物を用いてもよい。
【0147】
ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド−コ−アミノプロピルメタクリルアミド)、およびポリ(アクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド)は、出願人を同じくする、同時係属出願の米国特許公開第2006/0030669(出願日:2004年9月17日、Tatonら)の実施例2に記載されている。
【0148】
ある実施形態では、親水性ポリマーは、ビニルピロリドンポリマー、またはポリ(ビニルピロリドン−コ−メタクリルアミド)などのビニルピロリドン/(メタ)アクリルアミド共重合体である。PVP共重合体を使用する場合、ビニルピロリドンの共重合体、またはアクリルアミド単量体基から選択される単量体であってもよい。アクリルアミド単量体の例は、(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミド誘導体であり、例えばジメチルアクリルアミドなどのアルキル(メタ)アクリルアミド、およびアミノプロピルメタクリルアミドおよびジメチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのアミノアルキル(メタ)アクリルアミドを含む。例えば、ポリ(ビニルピロリドン−コ−N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド)は、米国特許公開第2006/0030669 (Tatonら)の例2に記載されている。
【0149】
一実施形態では、記載されたようなポリマーおよび共重合体は、1つ以上の光活性基によって誘導体化される。生物安定性親水性ポリマーが備え得る(pendent from)光活性基の例は、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アンスロン、キノン、およびアンスロン様複素環(anthrone-like heterocycles)などのアリルケトンを挙げることができる。これにより、ペンデント活性化フォト基(pendent activatable photo group)を有する親水性ポリマーが得られる。このペンデント活性化フォト基(pendent activatable photo group)は、弾性基質に使用され、その後、フォト基(photogroup)を活性化させるために十分な化学線を用いて処理され、弾性基質材料などの標的に共有結合を生じさせる。フォト親水性(Photo-hydrophilic)ポリマーを使用することによって、弾性基質材料に共有結合された親水性ポリマー材料に、可撓性ヒドロゲルマトリックスの耐久性の被膜を与える。
【0150】
ペンデント活性化フォト基を有する親水性ポリマーを用いて、可撓性ヒドロゲル被膜を調製してもよい。光反応性基を有する親水性ポリマーの調製方法は従来技術では周知である。例えば、フォト−PVPを調製するための方法は、米国特許第5,414,075に記載されている。フォト−ポリアクリルアミドを調製するための方法は、US特許第6,007,833に記載されている。
【0151】
他の実施形態では、記載されたポリマーおよび共重合体は、1つ以上の重合性官能基によって形成される。ペンデント重合性官能基(pendent polymerizable groups)を備えたポリマーを一般的にマクロマーと称する。重合性官能基は、ポリマーストランドの末端部(終端)に存在するか、またはポリマーの長さに沿って存在する。ある実施形態では、重合性官能基は、ポリマーの長さに沿ってランダムに配置されている。重合性官能基は、活性化して、微粒子が固定化されている架橋されたマトリックスを形成する。
【0152】
任意に、被膜は架橋結合剤を含む。架橋結合剤は、被膜におけるポリマー結合、または被膜面へのポリマーの結合を促進することができる。特定の架橋結合剤の選択は、被膜組成の成分によって異なる。
【0153】
いくつかの架橋結合剤の例は、成分中のポリマーと反応可能な2つ以上の活性基を含む。活性基の例は、本願に記載したような光反応性基を含む。例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アンスロン、キノン、およびアンスロン様複素環(anthrone-like heterocycles)などのアリルケトンである。
【0154】
光反応性架橋結合剤は、イオン性であり、水性の組成物に溶け易い。したがって、ある実施形態では、少なくとも1つのイオン性光反応性架橋結合剤は、被膜を形成するために使用される。イオン性架橋結合剤は、スルホン酸、カルボン酸、ホスホン酸、その塩などの酸性基またはその塩を含んでいてもよい。対イオンの例は、アルカリ、アルカリ土類金属、アンモニウム、プロトン化アミンなどを含む。
【0155】
イオン性光反応性架橋結合剤は、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェノルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−ジスルホン酸または塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルフェノルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−ジスルホン酸または塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルメチレンオキシ)ベンゼン−1−スルホン酸または塩;N,N−ビス[2−(4−ベンゾイルベンゾイルオキシ)エチル]−2−アミノアミノエタンスルホン酸または塩などを含む。米国特許第6,278,018を参照されたい。
【0156】
本発明に係る他の形態では、生分解性被膜材料を用いる。生分解性被膜材料の例は、微粒子の制御放出因子として任意に使用されるものを含む。
【0157】
例えば、本発明の形態では、微粒子は、弾性基質上に存在する破損可能な生分解性被膜に埋め込まれる、および/または接着される。非膨張状態では、微粒子は、実質的または完全に被膜に内包されるか、または被膜層に接着される、またはその両方である。基質が膨張すると直ちに、被膜が破壊され、弾性表面から剥がれる。したがって、被膜は剛性および硬直性を有していてもよい。
【0158】
標的部位では、被膜部が内包された微粒子に沿って組織に送達される。送達された被膜部が組織に接着し、組織への微粒子の固定化を向上させるために隔壁または膜を与える場合もある。
【0159】
生分解性被膜材料の分解に伴って、生物活性を有する薬剤が放出され、治療効果がもたらされる。
【0160】
被膜は、微粒子の固定化が可能な生分解性ポリマー材料(1つ以上のポリマー)からなる。ポリマー材料は、1つ以上のホモポリマー、共重合体、基質の形成に有効なそれらの組合せまたは混合物を含む。
【0161】
基質の形成に天然ポリマーを用いてもよい。天然ポリマーは、ポリデキストラン、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシメチルセルロースなどの多糖類;ヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン;コラーゲン、アルブミンおよびアビジンなどの可溶性タンパク質といったポリペプチド;およびこれら天然ポリマーの組合せを含む。天然ポリマーと合成ポリマーとを組み合わせてもよい。
【0162】
米国特許公開第2005/0255142および2006/0165872 (supra)には、弾性基質の膨張後直ちに破壊されて剥がれる生分解性被膜の調製に適した天然の生分解性ポリマー材料の例が記載されている。生分解性被膜は、ペンデント結合基を介して、マルトデキストリン、アミロース、およびポリアルジトールなどの低分子量の生分解性多糖を架橋結合させることによって調製されてもよい。一般的に、被膜層を形成するために、結合基を活性化させるように表面に塗布されるポリマー材料を処理する。その結果、ポリマーを架橋結合させてポリマーマトリックスを形成する。
【0163】
生分解性被膜の調製に有益な他の生分解性材料の具体例は、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(グリコリド−コ−ポリジオキサノン)、ポリ無水物、ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)、およびポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)を含む。一般に、被膜層を形成するために、これらのポリマー材料を表面に塗布し、乾燥させてもよい。
【0164】
生分解性被膜の調製に有効な生分解性材料の他の例は、生分解性ポリ(エステル−アミド)(例えば米国特許第6,703,040に記載)、生分解性ポリエーテルエステル共重合体(例えばUS特許第5,980,948に記載のPEG/PBTポリマー)、エステル含有ブロック共重合体(例えば米国特許第5,252,701またはEP1555278に記載)、および分解性デキストランベースのポリマー(例えば米国特許第6,303,148に記載)を含む。
【0165】
例えば、弾性基質における生分解性被膜は、生分解性マルチブロック共重合体を含む被膜組成を調製することによって生成される。当該生分解性マルチブロック共重合体は、30 mg/mLのアセトンに溶解したグリコール酸、カプロラクトン、およびPEGポリマーブロックを含み、(ヒドロゲルベース被膜を含む、または含まない)バルーン上に溶液を噴霧することによって塗布される。(例えば微粒子形状の)生物活性を有する薬剤を被膜溶液(1〜50重量%)に溶解させるか、または分解性被膜が形成された後で塗布する。例えば、(メタノールに溶解した、または水中に微粒子として存在する)パクリタキセルを生分解性被膜に塗布する。
【0166】
生分解性被膜を形成するために使用される被膜組成物は、1つ以上の追加の生体適合性ポリマーを含む。例えば、二次、三次などの付加的な生体適合性ポリマーが被膜組成物に含まれ、所望の特性をもつ被膜を形成する。1つ以上の付加的なポリマーは、被膜の分解を促進する。ある形態では、生分解性ポリマーは、ポリラクチドなどの生分解性ポリマーと、およびポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド)、およびポリ(プロピレンオキシド)からなる群から選択されるものなどの生分解性ポリマーとから形成される。
【0167】
弾性基質表面に配置された微粒子の量は、微粒子に充填される生物活性を有する薬剤の量、生物活性を有する薬剤の放出速度、および微粒子の放出により被検体に投与可能な生物活性を有する薬剤の総量などの1つ以上の要因に基づいて選択される。微粒子の総量は、生物活性を有する薬剤の1つを送達するための1組の微粒子、または2つ以上の生物活性を有する薬剤を送達するための2組以上の微粒子を含む。
【0168】
基質は、被検体に送達されて微粒子の生物活性を有する薬剤が使用可能になったときに所望の治療反応を与えるために十分な量の微粒子に覆われている。ある形態では、弾性基質の表面は、高密度の微粒子を有していてもよい。同様に、これは、経時的に、治療に有効な量の生物活性を有する薬剤の送達を促進する。弾性基質に配置された微粒子の密度などの様々な要因に基づき、弾性基質の表面の面積毎の生物活性を有する薬剤の量が決定される(例えば、1cm2面積毎にμgの生物活性を有する薬剤)。ある形態では、基質に配置された微粒子の量は、約0.05μg/mm2〜約30μg/mm2、より具体的な実施形態では約1μg/mm2〜約3μg/mm2である。
【0169】
ポリマー材料および微粒子を弾性基質表面に配置させる様々な方法を実施してもよい。多くの実施形態では、ポリマー材料および微粒子を含む被膜組成物を調製し、その後弾性基質の表面に塗布する。一実施形態では、約10mg/mL〜約50mg/mLの範囲内の濃度の微粒子を含む被膜組成物を使用する。
【0170】
しかし、ポリマー材料が、微粒子とは別に表面に塗布される場合もある。例えば、第一ステップにおいてポリマー組成物が表面に塗布され、第二ステップにおいて、(ポリマー被膜材料を含まない)微粒子を有する組成が、予め被覆されたポリマーに塗布される。或る実施形態では、約10mg/ml〜約50mg/mLの濃度の(ポリマー被膜材料を含まない)微粒子を有する被膜組成物を使用する。また、任意に、微粒子を覆うトップコートなどの同じまたは他のポリマー材料を塗布するためのステップを実施してもよい。
【0171】
或る好適な形態では、噴霧被覆工程を用いて、弾性基質表面上に被膜を形成する。特定の実施形態では、噴霧蒸着工程(spray deposition process)を用いて被覆するためにバルーンを操作することができる装置にバルーンカテーテルを取り付ける。バルーンカテーテルの被覆のための装置の一例を図9に示す。
【0172】
被覆装置91において、バルーンカテーテルのカテーテル部92が分離円筒状ハウジング93の間の経路内に固定される。バルーンカテーテルのバルーン部95が、インデフレータ(indeflator)によって膨らむ。ハウジング94は、シリンダー軸の周りを回転することができ、標準の変速モータによって駆動する。バルーン95の先端は、円形のグロメットに保持されているが、回転することができる。バルーン表面を被覆するために、スプレーヘッド97が吹き付ける噴霧被覆剤の下に、材料固定具全てを移動させる。
【0173】
バルーン被覆装置および方法のさらなる形態および詳細については、出願人を同じくする仮出願第61/188,929(出願日:2008年8月14日 発明の名称:METHOD AND APPARATUS FOR COATING BALLOON CATHETERS (Chappaら))に記載されている。
【0174】
または、被膜組成物を弾性基質表面上に浸漬被覆させ、被膜表面を形成させる。他の方法では、弾性基質表面上に組成物をブラシで塗布する。
【0175】
典型的には、弾性部における被膜の厚さは、被覆工程の間に配置された最大微粒子の直径よりも厚い。ある用途では、基質は、ポリマー材料および微粒子の混合物を被覆する1つ以上のステップを受け、基質表面上に多層を形成することができる。
【0176】
ある形態では、弾性基質上に配置された被覆材料を処理することによって被膜を調製する。例えば、被膜組成物は反応基を含み、活性化したときに、ポリマー材料の架橋結合を生じさせ、被膜を形成する。被膜を形成するために使用するポリマー材料は、アクリレート基などのペンデント重合基(pendent polymerizable groups)を含んでいてもよい。重合開始剤である光活性化試薬の活性化により、重合基(polymerizable groups)の遊離基重合が起こる。塗布された組成物に紫外線処理を施して、重合開始剤を活性化させる。
【0177】
様々な技術を用いて、微粒子を被膜に結合させ、部分的に埋め込まれた粒子を提供する。ある技術では、可撓性ヒドロゲル層が膨張可能な弾性基質の表面上に形成される。続いて、微粒子を含有する液体組成物が可撓性ヒドロゲル層の表面上に配置される。液体組成物中の水により、可撓性ヒドロゲル層の少なくとも表面が膨張する。この膨張によって、可撓性ヒドロゲル層がヒドロゲル層上に配置された微粒子の少なくとも一部を透過させ、微粒子がヒドロゲル層のポリマー材料内に移動する。微粒子を部分的にヒドロゲル層に移動させるのに十分な時間が経過したら、蒸発、加熱または真空処理によって水を除去する。水を除去することによって、ヒドロゲル層が膨張状態から収縮し、微粒子を物理的に拘束し、その結果、ヒドロゲル層の表面上に配置された微粒子の大半が部分的に埋め込まれる。
【0178】
可撓性ヒドロゲルマトリックス被膜の表面を可視化する場合には、微粒子の大部分が表面のすぐ下のヒドロゲル基質に完全に埋め込まれ、そして、ヒドロゲル基質に部分的に埋め込まれ(一部が基質内に、一部が基質外に存在する)、そして微粒子がヒドロゲル表面に接着されているように部分的に埋め込まれている。
【0179】
多くの場合、ヒドロゲル層に配置されて部分的に内包された微粒子は、液体組成物には溶けない。例えば、微粒子は、非可溶性の生物活性を有する薬剤からなる。
【0180】
微粒子は、挿入可能な医療機器(medical articles)に存在する弾性表面に結合されていてもよい。「挿入可能な」医療機器は、病状の予防または治療のために哺乳類に導入するものである。「挿入可能な」医療機器は、短期間の使用または長期間の治療に用いられてもよい。「移植可能な」医療機器は、体内の標的部位において長期間、例えば数日間、数週間または数ヶ月間挿入することを目的として挿入可能な医療機器を指す。
【0181】
これらの装置は、動脈、静脈、心室または心房などの器官、組織または器官の内腔内に皮下的に、または経皮的に導入されるあらゆるものを含む。
【0182】
例示の医療機器は、血管インプラント(vascular implants)および人工血管、グラフト、手術用機器;合成プロテーゼ;細胞内タンパク質分解、ステント移植および細胞内ステントの組合せを含む人工血管;小径グラフト、腹部大動脈瘤グラフト;止血バリア;メッシュおよびヘルニア栓子(mesh and hernia plugs);ASD、PFOおよびVSD閉鎖;経皮的閉鎖デバイス(percutaneous closure devices);僧帽弁置換装置;左心房付属フィルタ;弁形成装置、カテーテル;中心静脈アクセスカテーテル、静脈アクセスカテーテル、腫瘍ドレナージカテーテル、薬剤注入カテーテル、非経口的栄養補給カテーテル、(抗血栓剤による処理などの)静脈カテーテル、脳卒中治療カテーテル、血圧およびステントグラフトカテーテル;吻合装置および吻合閉鎖(anastomotic closures);動脈瘤除去装置;感染制御装置;細胞膜;組織の骨格;組織関連材料;脳脊髄液(CSF)を含む短絡、緑内障ドレーン短絡;歯科用装置および歯科用インプラント;耳ドレナージ管、中耳腔換気用チューブなどの耳用装置;眼科用装置;脊髄および神経装置;神経再生管;神経用カテーテル;神経パッチ(neuropatches);整形外科用関節インプラント、骨修復/強化装置、軟骨修復装置、などの整形外科用装置;泌尿器用インプラント、膀胱用装置、腎臓用装置および血液透析用装置などの泌尿器用装置および尿道装置、ならびに人工肛門袋付属装置;胆道ドレナージ製品を含む。
【0183】
挿入可能な医療機器は、1つ以上の非弾性部分を有していてもよい。例えば、バルーンカテーテルでは、カテーテル部が非弾性部である。非弾性部は、部分的または完全にプラスチックポリマーからなっていてもよい。プラスチックポリマーは、付加重合または縮合重合の結果生じるオリゴマー、ホモポリマー、およびコポリマーを含む合成ポリマーからなるものを含む。適した付加ポリマーの例は、限定するものではないが、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸グリセリン、メタクリル酸グリセリン、メタクリルアミド、およびアクリルアミドなどのアクリル、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、ビニルピロリドン、二塩化ビニリデン、およびスチレンなどのビニルを含む。縮合重合体の例は、限定するものではないが、ポリカプロラクトン、ポリラウリルラクタム、 ポリヘキサメチレンアジポアミドなどのナイロン、ならびにポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ(エチレンテレフタル酸エステル)、ポリジメチルシロキサン、ならびにポリエーテルケトンを含む。
【0184】
非弾性部は、部分的または完全に金属からなっていてもよい。医療機器に使用できる金属は、プラチナ、金、またはタングステン、ならびにレニウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、チタン、ニッケルなどの他の金属、ならびにステンレス鋼、チタン/ニッケル、ニチノール合金、コバルトクロム合金、非鉄合金、およびプラチナ/イリジウム合金などの上記金属の合金を含む。合金の一例は、MP35である。
【0185】
例示の実施形態では、挿入可能な医療機器は、バルーンカテーテルを有する。バルーンカテーテル構造は周知の技術であり、例えば米国特許第4,195,637、5,041,089、5,087,246、5,318,587、5,382,234、5,571,089、5,776,101、5,807,331、5,882,336、6,394,995、6,517,515、6,623,504、6,896,842および7,163,523などの様々な文献に記載されている。バルーンカテーテルは、一般に、バルーン、カテーテルシャフト、誘導線、および連結管という4つの部分を含む。カテーテルシャフトの近位端には、代表的には連結管がある。連結管の端部において、誘導線を用いたカテーテルの配置が促される。誘導線は小さく、動脈に挿入した時に操作し易い。一旦誘導線が標的部位に移動すると、バルーン部を備えたカテーテルが、バルーンが血管内の標的部位に到達するまで誘導線を伝って送られる。その後、カテーテルが標的狭窄部に到達すると、バルーンが膨張し、それによって必要な機械力が加えられ、血管を拡張させる。連結管は、バルーンの膨張のためのシャフト内への液体の注入を制御することができる。バルーンは、代表的には、患者の動脈内腔に挿入され、非膨張状態で内腔を介して前進する。
【0186】
膨張の前に、バルーンは標的部位への送達のために小さく折り畳まれていてもよい。折り畳み工程は、バルーン材料の「アーム」を形成することと、これらのアームを内側に(カテーテル軸に向けて)折り込んでバルーン材料を小さくすることと、を含んでいてもよい。そのような折り畳みパターンを用いると、外側を向いたバルーン材料部分(バルーンが折り畳まれ小さくなったとき)、および内側を向いたバルーン材料部分、すなわち「保護」面を表す内向き部分が存在する。したがって、他の被覆実施形態では、バルーン材料の内向き面は、微粒子に接着されたポリマー材料の被膜を含む。図10aは、中心カテーテル部100を備えた収縮したバルーンの断面図であり、アーム102の側面を備えたアーム101形状を有するバルーン材料が微粒子に接着されたポリマー被膜を有する。図10bは、中心カテーテル部100を備えた小さく折り畳まれたバルーンの断面図であり、アーム102の側面が、カテーテル部100において内側に折り込まれた、微粒子に接着されたポリマー被膜を有する。バルーン面は、本願に記載したように噴霧被覆装置を用いて被覆されており、小さく折り畳まれた形状のバルーンが微粒子に接着された保護(内部)被膜面を有するパターンを提供する。
【0187】
バルーンは、一般的にインフレーションポートを介して注入される液体によって膨張する。液体の送達およびバルーン内への注入メカニズムは、カテーテルの具体的な設計によって異なり、これらの設計は周知である。
【0188】
本発明に係る新規な微粒子接着面を備えたバルーンカテーテルは、バルーン血管形成術において使用される。バルーン血管形成術は、病的動脈の治療のために一般的に実施されるものであり、アテローム狭窄を低減させる、または閉塞動脈を再疎通させる。そのような工程では、閉塞部位におけるバルーンの膨張によって、閉塞した管腔経路が再開されるか、または拡張する。本発明によれば、微粒子が配置されたバルーン部を有するバルーンカテーテルは、動脈、静脈または軌道などの患者の内腔経路に経皮的に挿入される。一旦挿入されると、バルーンは所望の治療部位まで前進し、その部位においてバルーンが膨張して内腔経路を拡張させる。本発明によると、バルーンが前進するときの生物活性を有する薬剤の損失を最小限に抑えられる、または排除できる。
【0189】
一旦バルーンが膨張すると、バルーン表面に配置された微粒子部分が標的部位における内腔動脈壁の組織に送達される。ある形態では、送達された部位は、表面に元来配置された微粒子の量の約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、または約90%以上である。ある形態では、送達される微粒子の量は約30%〜100%の範囲内である。
【0190】
例えば、微粒子がバルーン表面の膨張可能な被膜に含まれる形態では、バルーンの膨張が被膜を伸張させる。バルーン表面上の被膜が、物理的変化を受け、微粒子の放出が促進される。被検体に挿入されると直ちに、可撓性ヒドロゲルマトリックスがさらに水和化し、微粒子の周りの基質材料を緩める。また、(バルーンの膨張に伴う)被膜の伸張によって、非膨張状態のバルーンにおける被膜よりも被膜が効果的に薄くなる。さらに、被膜の伸張によって、微粒子が出ることができる孔が被膜に形成される。被膜の水和化、薄膜化、および/または孔の形成によって、バルーンが膨張すると被膜から微粒子が効果的に「飛び出る」。
【0191】
送達される微粒子は、標的部位における動脈組織に接着する。したがって、微粒子は標的部位において生物活性を有する薬剤を放出することができ、組織に治療効果をもたらす。標的部位での薬剤の放出は、バルーン膨張後の組織の反応を制御するのに役立つ。例えば、微粒子は、病変部位での新生内膜増殖を阻害するシロリムスやパクリタキセルなどの抗増殖剤を放出することができる。他の例としては、微粒子は、凝固を阻害するヘパリンなどの抗血栓薬を放出することができる。
【0192】
ある形態では、微粒子を用いて、持続的なプロフィールにて標的部位において生物活性を有する薬剤を放出させてもよい。この機構により、より長く、より治療に有効な時間、微粒子から生物活性を有する薬剤を放出させることができる。ある形態では、微粒子は、数日間から数ヶ月間に渡って生物活性を有する薬剤の放出を調節する生物活性を有する薬剤および生分解性ポリマーを含む。
【0193】
〔実施例1〕
バルーンカテーテルのバルーンの弾性表面に、パクリタキセル微粒子に覆われた可撓性ヒドロゲル被膜を設けた。被覆工程に使用したバルーンカテーテルは、Minnesota Medtec (Maple Grove, MN)から入手した。バルーンの弾性部は、ナイロン製であり、バルーン壁の厚さは5〜10μmである。
【0194】
(米国特許第 6,007,833、例1および2に記載されたように)フォト−ポリアクリルアミドを用いてヒドロゲル被膜溶液を調製した。フォト−ポリアクリルアミドは計量され、10mg/mLの濃度にて、IPAおよび水の混合物(50% IPA/50% water (v/v))に溶解された。取出し速度が0.5cm/sである浸漬工程によってフォト−ポリアクリルアミド被覆溶液中でバルーンを被覆した。ヒドロゲル被膜溶液をバルーンに塗布した後で、紫外線硬化を施した。400ワットの金属ハロゲン化バルブを備えたDymax 2000-EC Series UV Floodlambの前に被覆バルーンを配置し、光源から約20cm離れた位置で3分間照射し、その後取り出した。
【0195】
次に、湿式粉砕処理によって、パクリタキセル微粒子を調製した。簡潔に言えば、20mg/mLの脱イオン水に純薬(neat drug)を直接加えた。その後、沈殿したパクリタキセル粒子を水中で粉砕し、粒径を〜1〜3μmまで小さくした。薬剤/水の縣濁液を、セラミックビーズを含むガラスビンにてタンブル粉砕した。縣濁液を約100rpmにて16時間(一晩)粉砕した。周知の量の薬剤縣濁液(一般に20μl)をピペット操作することによって、得られた縣濁液をフォト−ポリマー被覆面に塗布した。溶媒が明らかに乾くまでバルーンを回転させ、ピペット操作された液滴をバルーンに均一に分散させた。
【0196】
図11aおよび図11bは、本方法に基づいて調製された、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有する弾性基質の微粒子を示す。
【0197】
〔例2〕
実施例1に記載の被覆工程を繰り返した。ただし、ヒドロゲル被覆層を形成するために異なる被膜組成物を用いた点が実施例1とは異なる。
【0198】
5 mg/mLのフォト−ポリアクリルアミド(例1)、(米国特許第5,414,075の実施例4に記載のように調製された)25 mg/mLのフォト−ポリ(ビニルピロリドン)、10 mg/mLのポリ(ビニルピロリドン)K90(BASF)、および(米国特許第6,278,018 (実施例1)に記載のように調製された)0.25 mg/mLの4,5−ビス(4−ベンゾイルフェノルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−ジスルホン酸を、IPAおよび水(15% IPA/85%水)の混合物に溶解させ、ヒドロゲル被膜溶液を調製した。
【0199】
実施例1のように、浸漬被覆、紫外線処理、およびパクリタキセル微粒子被覆を実施した。
【0200】
〔実施例3〕
バルーンカテーテルのバルーンの弾性表面に可撓性ヒドロゲル被膜を設け、ヒドロゲル表面上にパクリタキセル微粒子を形成させた。
【0201】
実施例1および2に記載されたように被覆処理を繰り返し、ヒドロゲル被覆層を設けた。
【0202】
続いて、濃度30mg/mLのメタノールにパクリタキセルを溶解させ、微粒子形成組成物を調製した。その後、周知の量の薬剤縣濁液(代表的には10〜20μl)をピペット操作することにより、組成物をフォト−ポリマー被覆面に塗布した。溶媒が明らかに乾くまでバルーンを回転させて、ピペット操作された液滴をバルーン上に均一に分散させた。
【0203】
図12aおよび図12bは、本方法に基づいて調製された、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子に覆われたヒドロゲル被膜を含む弾性基質の顕微鏡写真である。
【0204】
〔実施例4〕
シリコンチューブモデルにおいて、ヒドロゲル被膜を有するパクリタキセル微粒子被膜バルーンからの微粒子の送達を検査した。
【0205】
シリコンチューブ(内径:0.125インチ;外径:0.188インチ;壁:0.0315インチ;Cole-Parmer Instrument Co.)を得て、それを1.5インチの長さに切断した。シリコンチューブの断片をpH7.4のPBS(リン酸塩緩衝生理食塩水)4mLで満たした4mLの琥珀色のガラスバイアルに個々に配置した。このPBSは、水浴において37℃まで予め熱しておいたものである。
【0206】
(水浴において37℃まで予め熱しておいたpH7.4のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)8mLで満たした)8mLのバイアル中に、収縮して折り畳まれたバルーン(実施例1に基づいて準備されたもの)を配置し、4分間浸した。その後、バルーンを(4mLバイアルの中に漬かった)シリコンチューブの内腔に滑り込ませ、4atmにおいて30秒間膨張させた。その後圧力を解放し、バルーンをチューブから取り出した。
【0207】
チューブの内径の壁に送達されるパクリタキセルの量を決定するために、メタノール中の0.1%の氷酢酸混合物4mLに24時間チューブを浸した。紫外線による薬物含有量測定のために350μLアリコートの抽出媒体を96ウェルプレートに移動させた(@ 232 nm)
シリコンチューブに送達されるパクリタキセルの量を表1に表す。
【0208】
【表1】
【0209】
〔実施例5〕
生体外Cモデルにおいて、ヒドロゲル被膜を有するパクリタキセル微粒子被覆バルーンからの微粒子の送達を検査した。
【0210】
採取した豚の動脈を入手し、1.5インチの長さに切断した。pH7.4のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)4mLを満たした4mLの琥珀色ガラスバイアルに、豚の動脈断片を配置した。このPBSは、水浴において予め37℃まで熱しておいたものである。
【0211】
(水浴において37℃まで予め熱しておいたpH7.4のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)8mLで満たした)8mLのバイアル中に、収縮して折り畳まれたバルーン(実施例1に基づいて準備されたもの)を配置し、4分間浸した。その後、バルーンを(4mLバイアルの中に漬かった)豚の動脈の内腔に滑り込ませ、4atmにおいて30秒間膨張させた。その後圧力を解放し、バルーンを豚の動脈から取り出した。
【0212】
豚の動脈の内径の壁に送達されるパクリタキセルの量を決定するために、メタノール中の0.1%の氷酢酸混合物4mLに24時間豚の動脈を浸した。紫外線による薬物含有量測定のために1mLアリコートの抽出媒体を96ウェルプレートに移動させた(@ 232 nm)
豚の動脈に送達されるパクリタキセルの量を表2に表す。
【0213】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0214】
【図1】a〜cは、埋め込まれた微粒子を備えた可撓性ヒドロゲル被膜に覆われた弾性基質を有する機器の一部と、弾性基質の膨張直後の、ヒドロゲル被膜から組織への微粒子の送達とを示す。
【図2】a〜cは、埋め込まれた微粒子を備えた可撓性ヒドロゲル被膜に覆われた弾性基質を有する機器の一部と、弾性基質の膨張直後の微粒子を備えた生分解性被膜における断片部の組織への送達を示す。
【図3】可撓性ヒドロゲルマトリックスと、生分解性ポリマーマトリックスと埋め込まれた微粒子とを備えた被膜に覆われた弾性基質の一部を示す実施形態である。
【図4】可撓性ヒドロゲルマトリックスと、生分解性ポリマーマトリックスと埋め込まれた微粒子とを備えた被膜に覆われた弾性基質の一部を示す実施形態である。
【図5】可撓性ヒドロゲルマトリックスと、生分解性ポリマーマトリックスと埋め込まれた微粒子とを備えた被膜に覆われた弾性基質の一部を示す実施形態である。
【図6】バルーン面上の非隣接点の被膜パターンを示す実施形態である。
【図7】バルーン面上の非隣接螺旋縞の被膜パターンを示す実施形態である。
【図8】離層した生分解性被膜を有する基質の顕微鏡写真である。
【図9】取り付けられたバルーンカテーテルを備えた被膜装置の図である。
【図10】aおよびbは、バルーン部分に被膜を有するバルーンの横断面図である。
【図11】aおよびbは、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有するバルーン基質の顕微鏡写真である。
【図12】aおよびbは、部分的にヒドロゲルに埋め込まれたパクリタキセル微粒子を備えたヒドロゲル被膜を有するバルーン基質の顕微鏡写真である。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に生物活性を有する薬剤を送達することができる、挿入可能な医療機器であって、
膨張可能な弾性部と、
上記膨張可能な弾性部の上の可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、
上記可撓性ヒドロゲルマトリックスに配置されるとともに、生物活性を有する薬剤を含む微粒子であって、上記被膜に配置された上記微粒子の一部が、上記被検体内にて上記弾性部が膨張したときに上記被膜から分離することができる微粒子と、を備えることを特徴とする医療機器。
【請求項2】
上記配置された微粒子の大半が、不均一に上記可撓性ヒドロゲルマトリックス内に分散されているとともに、上記可撓性ヒドロゲルマトリックスの表面にて部分的に埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
上記可撓性ヒドロゲルマトリックスが、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(HEMA)、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、およびビニルピロリドン/(メタ)アクリルアミド共重合体からなる群から選択されるポリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項4】
可撓性ヒドロゲルマトリックスが、ペンデント反応性フォト基を有するポリマーを含み、
上記ペンデント反応性フォト基は、上記被膜および上記膨張可能な弾性部の表面にある他のポリマーから選択された標的に対して上記ポリマーを共有結合させるものであることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項5】
上記膨張可能な弾性部が、バルーンの全体または一部であることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項6】
上記バルーンが、血管形成術用バルーンであることを特徴とする請求項5に記載の医療機器。
【請求項7】
上記被膜が、5μm〜100μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項8】
上記微粒子が、0.1μm〜10μmの平均最大粒径を有することを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項9】
上記微粒子が、純形であることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項10】
上記生物活性を有する薬剤が、抗増殖性化合物、抗炎症性化合物、および抗血小板化合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項11】
上記生物活性を有する薬剤が、パクリタキセルであることを特徴とする請求項10に記載の医療機器。
【請求項12】
上記可撓性ヒドロゲルマトリックス上に、溶解した生物活性を有する薬剤を含む液体組成物を配置する工程と、
上記微粒子が上記可撓性ヒドロゲルマトリックス内に部分的に埋め込まれるように、上記可撓性ヒドロゲルマトリックスの上に上記微粒子を形成する工程と、を含むプロセスによって形成される、請求項1に記載の医療機器。
【請求項13】
膨張可能な弾性部と、上記膨張可能な弾性部の上に設けられた可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、上記可撓性ヒドロゲルマトリックスに配置された、生物活性を有する薬剤を含む微粒子と、を有する挿入可能な医療機器を設ける工程と、
上記医療機器を被検体内へ挿入する工程と、
上記被検体内にて上記膨張可能な弾性部を膨張させる工程であって、上記微粒子の一部が上記被膜から分離して上記非検体内へ放出され、当該微粒子から生物活性を有する薬剤が放出されて上記被検体に治療効果を与える工程と、
を含む、被検体に生物活性を有する薬剤を送達するための方法。
【請求項14】
上記弾性部または上記被膜に配置された微粒子の量の10%〜100%が、上記弾性部の膨張に伴って上記医療機器から放出されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
膨張可能な弾性部と、
上記膨張可能な弾性部の上の生分解性ポリマーマトリックスを含む被膜と、
上記生体分解性ポリマーマトリックスに配置された、生物活性を有する薬剤を含む微粒子であって、微粒子が配置された生分解性マトリックスの少なくとも一部が、上記被検体内にて、上記弾性部が膨張するに伴って上記弾性部から剥がれることができる微粒子と、
を備える、被検体へ生物活性を有する薬剤を送達することができる挿入可能な医療機器。
【請求項16】
上記生分解性ポリマーマトリックスが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(グリコリド−コ−ポリジオキサノン)、ポリ無水物、ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)、およびポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)、生分解性ポリ(エステル−アミド)、生分解性ポリエーテルエステル共重合体、生分解性エステル含有ブロック共重合体、生分解性デキストランベースポリマー、および生分解性マルトデキストリンベースポリマーから選択される生分解性ポリマーを含むことを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項17】
上記膨張可能な弾性部と上記生分解性ポリマーマトリックスとの間に、可撓性ヒドロゲルマトリックスを含むことを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項18】
生分解性ポリマーマトリックスが、生分解性ポリマー同士を架橋結合させて上記マトリックスを形成させるペンデント重合基を有する生分解性ポリマーを含むことを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項19】
上記被膜の厚さが、5μm〜100μmであることを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項20】
上記生分解性ポリマーマトリックスが、生分解性マルトデキストリンベースポリマーを含むことを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項21】
上記被検体内で上記弾性部が膨張するに伴って、上記生分解性ポリマーマトリックスが、破砕するとともに、上記弾性部から剥がれることができることを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項22】
上記生分解性被膜が、非連続的であることを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項23】
膨張可能な弾性部と、上記膨張可能な弾性部の上の生分解性ポリマーマトリックスを備えた被膜と、上記生分解性ポリマーマトリックスに配置され、生物活性を有する薬剤を含む微粒子と、を備える挿入可能な医療機器を設ける工程と、
上記医療機器を被検体内に挿入する工程と、
上記被検体内にて上記弾性部を膨張させる工程であって、上記生分解性ポリマーマトリックスが破砕して基質部となり、当該破砕した基質部の一部または全てが、上記弾性基質から離層して、上記内包されて配置された微粒子とともに組織に送達され、当該微粒子から上記生物活性を有する薬剤が放出されて上記被検体に治療効果を与える工程と、
を含む、被検体に生物活性を有する薬剤を送達するための方法。
【請求項1】
被検体に生物活性を有する薬剤を送達することができる、挿入可能な医療機器であって、
膨張可能な弾性部と、
上記膨張可能な弾性部の上の可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、
上記可撓性ヒドロゲルマトリックスに配置されるとともに、生物活性を有する薬剤を含む微粒子であって、上記被膜に配置された上記微粒子の一部が、上記被検体内にて上記弾性部が膨張したときに上記被膜から分離することができる微粒子と、を備えることを特徴とする医療機器。
【請求項2】
上記配置された微粒子の大半が、不均一に上記可撓性ヒドロゲルマトリックス内に分散されているとともに、上記可撓性ヒドロゲルマトリックスの表面にて部分的に埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
上記可撓性ヒドロゲルマトリックスが、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(HEMA)、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、およびビニルピロリドン/(メタ)アクリルアミド共重合体からなる群から選択されるポリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項4】
可撓性ヒドロゲルマトリックスが、ペンデント反応性フォト基を有するポリマーを含み、
上記ペンデント反応性フォト基は、上記被膜および上記膨張可能な弾性部の表面にある他のポリマーから選択された標的に対して上記ポリマーを共有結合させるものであることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項5】
上記膨張可能な弾性部が、バルーンの全体または一部であることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項6】
上記バルーンが、血管形成術用バルーンであることを特徴とする請求項5に記載の医療機器。
【請求項7】
上記被膜が、5μm〜100μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項8】
上記微粒子が、0.1μm〜10μmの平均最大粒径を有することを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項9】
上記微粒子が、純形であることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項10】
上記生物活性を有する薬剤が、抗増殖性化合物、抗炎症性化合物、および抗血小板化合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項11】
上記生物活性を有する薬剤が、パクリタキセルであることを特徴とする請求項10に記載の医療機器。
【請求項12】
上記可撓性ヒドロゲルマトリックス上に、溶解した生物活性を有する薬剤を含む液体組成物を配置する工程と、
上記微粒子が上記可撓性ヒドロゲルマトリックス内に部分的に埋め込まれるように、上記可撓性ヒドロゲルマトリックスの上に上記微粒子を形成する工程と、を含むプロセスによって形成される、請求項1に記載の医療機器。
【請求項13】
膨張可能な弾性部と、上記膨張可能な弾性部の上に設けられた可撓性ヒドロゲルマトリックスを含む被膜と、上記可撓性ヒドロゲルマトリックスに配置された、生物活性を有する薬剤を含む微粒子と、を有する挿入可能な医療機器を設ける工程と、
上記医療機器を被検体内へ挿入する工程と、
上記被検体内にて上記膨張可能な弾性部を膨張させる工程であって、上記微粒子の一部が上記被膜から分離して上記非検体内へ放出され、当該微粒子から生物活性を有する薬剤が放出されて上記被検体に治療効果を与える工程と、
を含む、被検体に生物活性を有する薬剤を送達するための方法。
【請求項14】
上記弾性部または上記被膜に配置された微粒子の量の10%〜100%が、上記弾性部の膨張に伴って上記医療機器から放出されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
膨張可能な弾性部と、
上記膨張可能な弾性部の上の生分解性ポリマーマトリックスを含む被膜と、
上記生体分解性ポリマーマトリックスに配置された、生物活性を有する薬剤を含む微粒子であって、微粒子が配置された生分解性マトリックスの少なくとも一部が、上記被検体内にて、上記弾性部が膨張するに伴って上記弾性部から剥がれることができる微粒子と、
を備える、被検体へ生物活性を有する薬剤を送達することができる挿入可能な医療機器。
【請求項16】
上記生分解性ポリマーマトリックスが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(グリコリド−コ−ポリジオキサノン)、ポリ無水物、ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)、およびポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)、生分解性ポリ(エステル−アミド)、生分解性ポリエーテルエステル共重合体、生分解性エステル含有ブロック共重合体、生分解性デキストランベースポリマー、および生分解性マルトデキストリンベースポリマーから選択される生分解性ポリマーを含むことを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項17】
上記膨張可能な弾性部と上記生分解性ポリマーマトリックスとの間に、可撓性ヒドロゲルマトリックスを含むことを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項18】
生分解性ポリマーマトリックスが、生分解性ポリマー同士を架橋結合させて上記マトリックスを形成させるペンデント重合基を有する生分解性ポリマーを含むことを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項19】
上記被膜の厚さが、5μm〜100μmであることを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項20】
上記生分解性ポリマーマトリックスが、生分解性マルトデキストリンベースポリマーを含むことを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項21】
上記被検体内で上記弾性部が膨張するに伴って、上記生分解性ポリマーマトリックスが、破砕するとともに、上記弾性部から剥がれることができることを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項22】
上記生分解性被膜が、非連続的であることを特徴とする請求項15に記載の医療機器。
【請求項23】
膨張可能な弾性部と、上記膨張可能な弾性部の上の生分解性ポリマーマトリックスを備えた被膜と、上記生分解性ポリマーマトリックスに配置され、生物活性を有する薬剤を含む微粒子と、を備える挿入可能な医療機器を設ける工程と、
上記医療機器を被検体内に挿入する工程と、
上記被検体内にて上記弾性部を膨張させる工程であって、上記生分解性ポリマーマトリックスが破砕して基質部となり、当該破砕した基質部の一部または全てが、上記弾性基質から離層して、上記内包されて配置された微粒子とともに組織に送達され、当該微粒子から上記生物活性を有する薬剤が放出されて上記被検体に治療効果を与える工程と、
を含む、被検体に生物活性を有する薬剤を送達するための方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【公表番号】特表2011−517589(P2011−517589A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501815(P2011−501815)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/001901
【国際公開番号】WO2009/120361
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(506112683)サーモディクス,インコーポレイティド (50)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/001901
【国際公開番号】WO2009/120361
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(506112683)サーモディクス,インコーポレイティド (50)
【Fターム(参考)】
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