説明

微細なパターン形状を有する金属ナノ粒子焼結体層の形成方法

【課題】金属ナノ粒子を低温焼結させ、基板上に金属ナノ粒子焼結体を製造する際、形成される焼結体層全体の嵩密度、機械的強度、導電性の低下を抑え、更には、得られる焼結体層全体の緻密さを高めることで、その下地層と焼結体層との界面において、高い密着性を達成することが可能な金属ナノ粒子焼結体の製造方法の提供。
【解決手段】アルキルアミンで表面を被覆した平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子を、沸点150℃以上の炭化水素溶媒中に分散した分散液を、基板上塗布した後、非加圧の還元性雰囲気下、150℃〜300℃の温度で加熱処理することで、表面を被覆するアルキルアミンを効率的に離脱させ、金属ナノ粒子相互の融着が緻密になされ、基板との密着性に優れる焼結体を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細なパターン形状を有する金属ナノ粒子焼結体層を形成する方法に関する。本発明は、特に、微細なパターン形状の描画に適用可能な、金属ナノ粒子の分散液を、目的のパターン形状で基板上に塗布し、該塗布層中に含まれる金属ナノ粒子を低温焼結処理することで、高い導電性を有する金属ナノ粒子焼結体層を基板上に形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器関連分野において、利用される配線基板上の配線パターンの微細化が進んでいる。また、種々の電極パターン部の形成に利用される金属薄膜層に関しても、極薄い膜厚の金属薄膜層の活用が進められている。例えば、スクリーン印刷法を利用して、微細配線形成や薄膜形成を達成する際、超ファインなパターン描画、あるいは極薄い膜厚の薄膜塗布層形成に、極めて粒子径の小さな金属微粒子分散液の応用が図られている。現時点において、前記の用途に応用可能な、金および銀の微粒子分散液が既に商品化されている。
【0003】
なかでも、金属ナノ粒子を利用して、超ファインな配線パターンを形成する方法に関して、例えば、金ナノ粒子あるいは銀ナノ粒子を用いる際には、既に方法論が確立されている。例えば、金ナノ粒子あるいは銀ナノ粒子を含む、超ファイン印刷用分散液を利用した極めて微細な回路パターンの描画と、その後、金属ナノ粒子相互の焼結を施すことにより、得られる焼結体型配線層において、配線幅および配線間スペースが5〜50μm、体積固有抵抗率が1×10-5Ω・cm以下の配線形成が可能となっている(特許文献1、特許文献2を参照)。
【0004】
具体的には、金ナノ粒子あるいは銀ナノ粒子を含む、超ファイン印刷用分散液では、金ナノ粒子あるいは銀ナノ粒子の表面をアミン化合物などの被覆剤分子で被覆した上で、分散溶媒中に分散させている。この超ファイン印刷用分散液を所望のパターンに塗布した後、分散溶媒を蒸散させる乾燥処理を施し、さらに、金属ナノ粒子表面を被覆する被覆剤分子を加熱して除去し、金属ナノ粒子の金属表面を互いに接触させ、比較的に低温で焼結を行っている。
【特許文献1】特開2002−334618号公報
【特許文献2】特開2004−218055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の金属ナノ粒子を低温焼結させ、金属ナノ粒子焼結体を製造する手法は、比較的に低い温度で加熱処理を施すことで、導電性に優れた金属ナノ粒子焼結体を作製することが可能である。しかし、金属ナノ粒子を被覆するアミン化合物の離脱が十分に達成できない条件では、得られる焼結体は、目的とする高い導電性を達成することができないという課題を有している。
【0006】
すなわち、予め、比較的に低い沸点を有する分散溶媒を蒸散させた後、さらに、加熱処理を進めると、金属ナノ粒子表面を被覆するアミン化合物は、金属表面から離脱し、該アミン化合物の気体分子となって、気相へ蒸散する。その際、金属ナノ粒子が、層状に積層されている状態では、その積層構造の内部の隙間空間は、蒸散された該アミン化合物の気体分子で占められた状態となる。すなわち、金属ナノ粒子が層状に積層されている状態では、比較的に低い沸点を有する分散溶媒が蒸散して、乾燥状態に至ると、積層構造の内部の隙間空間は、該アミン化合物の蒸気で充満された状態となり、この隙間空間の金属ナノ粒子表面からのアミン化合物の離脱は、緩やかにしか進行しなくなる。この段階でも、金属ナノ粒子の表面を被覆していたアミン化合物による被覆層は部分的に消失しているため、その被覆層が消失した局所的な領域において、金属ナノ粒子相互が接触すると、金属ナノ粒子の融着は進行し、焼結体層が形成されていく。
【0007】
一方、全体の金属ナノ粒子の表面全体に対して、被覆層が消失した局所的な領域の比率は、その加熱温度における、隙間空間の気相中のアミン化合物分子の局所的な分圧と、金属ナノ粒子表面に吸着しているアミン化合物の面密度との間の平衡関係が達成される結果、「飽和」する。その「飽和」状態に達すると、積層構造の内部の隙間空間では、アミン化合物の離脱が停止し、また、金属ナノ粒子相互の融着も、それ以上進行できない状態となる。結果的に、形成される焼結体層中において、金属ナノ粒子相互が融着することで形成される導通経路を介して、導電性が付与されるが、金属ナノ粒子相互が融着している箇所の密度が低い場合には、全体の導電性は低い状態に留まる。換言するならば、予め、比較的に低い沸点を有する分散溶媒を蒸散させ、乾燥状態とした時点で、金属ナノ粒子相互が接触している箇所の密度が低いと、最終的に形成される焼結体層全体の導電性の低下が引き起こされる。
【0008】
また、低温焼結処理に伴って、金属ナノ粒子相互の融着が進行すると、金属ナノ粒子の積層構造の内部に存在する隙間空間は減少し、形成される焼結体層全体の嵩密度は減少する。その際、金属ナノ粒子相互が接触している箇所の密度が低いと、隙間空間の減少の程度は相対的に低くなり、最終的に形成される焼結体層全体の嵩密度は相対的に低い状態となる。換言すると、焼結体層全体の嵩密度が相対的に低い状態では、焼結体層の内部には、隙間空間が多く残留している状態となっている。金属ナノ粒子相互が接触している箇所の密度が低いと、金属ナノ粒子相互の融着に因る連結箇所の密度が低くなり、最終的に形成される焼結体層全体の機械的強度も相対的に小さくなっている。
【0009】
すなわち、金属ナノ粒子相互が接触している箇所の密度が低く、また、各接触箇所において、金属ナノ粒子相互の融着に因る連結部位での接触面積が相対的に小さくなると、最終的に形成される焼結体層全体の嵩密度は相対的に低い状態となる。その際、金属ナノ粒子相互の融着に因る連結部位の密度と、その接触面積に依存する、形成される焼結体層全体の導電性、ならびに、機械的強度も相対的に低い状態となる。
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するものである。本発明の目的は、金属ナノ粒子を低温焼結させ、金属ナノ粒子焼結体を製造する際、形成される焼結体層全体の嵩密度、機械的強度、導電性の低下を抑え、例えば、微細なパターン形状に作製される焼結体層全体の導電性を、高い再現性で、体積固有抵抗率が1×10-5Ω・cm以下の範囲にすることが可能な金属ナノ粒子焼結体の製造方法を提供することにある。特には、基板上に微細なパターン形状の導電層の作製に応用できる、焼結処理温度を150℃以上、300℃以下の範囲に選択した際、焼結処理時間を1時間以下に抑えても、形成される焼結体層全体の嵩密度、機械的強度、導電性の低下を抑え、高い再現性で、例えば、得られる焼結体層全体の緻密さを高めることが可能な金属ナノ粒子焼結体の製造方法を提供することにある。更には、得られる焼結体層全体の緻密さを高めることで、その下地層と焼結体層との界面において、高い密着性を達成することが可能な金属ナノ粒子焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、先ず、従来の手順・条件において、金属ナノ粒子焼結体を製造する際、形成される焼結体層全体の嵩密度、機械的強度、導電性の低下を引き起こす要因を更に詳細に検討した。その検討過程において、金属ナノ粒子の分散液を塗布した後、この塗布層に含まれる比較的に低い沸点を有する分散溶媒を蒸散させると、分散されている金属ナノ粒子は、積層構造となるが、この段階では、金属ナノ粒子の表面は、被覆剤分子層が相当の範囲で残留していることを見出した。その場合、被覆剤分子層が残余する部分では、金属ナノ粒子は、被覆剤分子層を介して、接触する状態となる。金属ナノ粒子相互が、被覆剤分子層を介して、接触する状態となる部位では、その後、加熱を行って、金属ナノ粒子の表面上の被覆剤分子を気化させ、除去を図っても、金属ナノ粒子の金属面が互いに接し、融着を引き起こす確率は低いことを見出した。
【0012】
加えて、分散溶媒が蒸散され、金属ナノ粒子の周囲に残余している隙間空間が気相となると、この隙間空間中に、周辺雰囲気中に含まれる気体分子が侵入する。例えば、周辺雰囲気中に酸素分子が含まれていると、金属ナノ粒子の積層構造の表面からその内部へと、隙間を介する拡散過程に因って、酸素分子は徐々に侵入する。加熱状態において、金属ナノ粒子を覆っている被覆剤分子層が除去され、清浄な金属表面が露呈されている部位では、侵入する酸素分子に因って、表面の金属原子が酸化される。その結果、金属ナノ粒子の表面の一部に酸化被膜が形成される。勿論、表面に部分的に酸化被膜が形成された部位では、酸化被膜は、金属ナノ粒子相互の融着の進行を阻害する。例えば、金属ナノ粒子が積層した状態で、その時点で金属ナノ粒子相互が接触している箇所から、金属ナノ粒子相互の融着は開始するが、その後、金属ナノ粒子の表面に酸化被膜が形成されると、その段階で、融着の進行は停止することを見出した。
【0013】
一方、分散溶媒に浸された状態では、金属ナノ粒子の表面を被覆している、被覆剤分子の面密度が低くなると、積層状態の金属ナノ粒子が、金属面で接触している部位の比率が急激に増し、金属ナノ粒子相互が、被覆剤分子層を介して、接触する状態となる部位の比率は急速に低下することも見出した。積層状態の金属ナノ粒子が、金属面で接触している部位では、低温加熱によって、融着が進行するため、金属ナノ粒子が、金属面で接触している部位の比率が高くなると、積層状態の金属ナノ粒子全体が、融着の進行に伴って、有意に「嵩体積の収縮」を示すことも確認された。この「嵩体積の収縮」が進むと、当初、金属ナノ粒子間に僅かな隙間が存在していた部位でも、金属ナノ粒子相互が接触し、融着が可能となる。この二次的な効果を含めて、金属ナノ粒子の表面を被覆している、被覆剤分子の面密度を低くすると、塗布層に含まれる金属ナノ粒子は、積層構造を構成し、その内部は、金属ナノ粒子相互の融着部位が高い密度で形成される。更には、個々の融着部位の接触面積は、金属ナノ粒子相互の融着が進行するとともに拡がる。従って、積層構造の内部には、金属ナノ粒子相互の融着部位が高い密度で形成され、個々の融着部位の接触面積も広くなり、「嵩体積の収縮」が十分に進行した焼結体層が形成されることを見出した。その結果、得られる焼結体層全体の嵩密度、機械的強度、導電性は優れ、例えば、焼結体層全体の導電性を、高い再現性で、体積固有抵抗率が1×10-5Ω・cm以下の範囲にすることが可能であることを見出した。
【0014】
加熱処理を行っている時点で、金属ナノ粒子の表面を被覆している、被覆剤分子の面密度を低くする条件を検討した結果、金属ナノ粒子の分散液を塗布した後、この塗布層に対して、非加圧の還元性雰囲気下で、150℃〜300℃の範囲で加熱処理を施す条件が適することを確認した。すなわち、乾燥処理を施さず、非加圧の還元性雰囲気下で、塗布層に加熱処理を施すと、分散液中に含まれる分散溶媒の蒸散速度が低くなり、分散溶媒によって、金属ナノ粒子全体が浸漬されている状態で、被覆剤分子の離脱が進み、金属ナノ粒子の表面を被覆している、被覆剤分子の面密度が低くでき、緻密な金属ナノ粒子焼結体が製造されることを確認した。
【0015】
すなわち、加熱処理を非加圧の還元性雰囲気中で実施すると、分散溶媒の蒸散が進み、金属ナノ粒子の周囲に残余している隙間空間が気相となると、この隙間空間中に、周辺雰囲気中に含まれる気体分子が侵入するが、金属ナノ粒子の表面に酸化被膜が形成される現象が回避される。従って、酸化被膜の形成に因って、融着の進行が阻害される現象は回避されるため、積層構造の内部には、金属ナノ粒子相互の融着部位が高い密度で形成され、個々の融着部位の接触面積も広くなり、「嵩体積の収縮」が十分に進行した焼結体層が形成されることを確認した。
【0016】
「嵩体積の収縮」が十分に進行する結果、得られる焼結体層全体の緻密さが高くなるため、その下地層と焼結体層との界面において、高い密着性を達成することが可能であることも確認した。
【0017】
本発明者らは、上記の一連の知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明にかかる微細パターンの金属ナノ粒子焼結体層を形成する方法は:
基板上に、金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる微細なパターン形状を有する導電層を形成する方法であって、
平均粒子径を1〜100nmの範囲に選択する、金属ナノ粒子を含有する分散液を用いて、目的とする微細なパターン形状を有する塗布層を基板上に描画する工程と、
前記塗布層中に含まれる金属ナノ粒子の焼成処理を行って、微細なパターン形状を有する金属ナノ粒子焼結体層を基板上に形成する工程を有し;
前記分散液中に含有される、金属ナノ粒子は、該金属ナノ粒子表面の金属原子に対して、アミノ基の窒素原子上の孤立電子対を利用して配位的な結合が可能な沸点150℃以上のアルキルアミンにより、表面を被覆されており、
前記アルキルアミンにより表面を被覆されている金属ナノ粒子は、沸点150℃以上の炭化水素溶媒中に分散されており、
該分散液中に、前記沸点150℃以上の炭化水素は、金属ナノ粒子100質量部当たり、10質量部〜100質量部の範囲で含有されており;
前記金属ナノ粒子の焼成処理は、
加熱温度を、150℃以上、300℃以下の範囲に選択して、
水素ガス、または水素ガスと不活性気体との混合気体からなる還元性雰囲気下で実施する
ことを特徴とする微細パターンの金属ナノ粒子焼結体層を形成する方法である。
【0019】
その際、分散液中に含有される、金属ナノ粒子が、
金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムの金属種の群から選択される、一種の金属からなるナノ粒子、または、二種以上の金属種からなる合金のナノ粒子であることが好ましい。
【0020】
本発明においては、前記金属ナノ粒子の焼成処理工程に用いる、還元性雰囲気中の水素ガスの含有率は、1体積%〜100体積%の範囲に選択されていることが好ましい。特に、前記水素ガスと不活性気体との混合気体中において、利用される前記不活性気体は、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、あるいは、それらの二種以上を混合したものであることが好ましい。
【0021】
通常、前記金属ナノ粒子の焼成処理工程において、
水素ガス、または水素ガスと不活性気体との混合気体を所定の流速で流し、
非加圧の還元性雰囲気下で、加熱がなされている形態を選択することが望ましい。
【0022】
加えて、前記分散液中には、
加熱した際、水素原子の供給源として機能を有する、ロジン誘導体が、金属ナノ粒子100質量部当たり、0.5質量部〜5質量部の範囲で含有されていることが好ましい。その際、前記分散液中には、前記ロジン誘導体として、
アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、デヒドロアビエチン酸、アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、重合ロジン、水添ロジンのうち少なくとも一種類以上の化合物が含有されている形態を選択することが、より好ましい。
【0023】
また、前記分散液中にロジン誘導体を含有する際には、
前記基板は、金属材料で形成される表面を有し、
該金属材料の表面には、該金属材料の酸化物を含んでなる酸化被膜が形成され、
前記酸化被膜に含まれる該金属材料の酸化物は、塩基性の金属酸化物であり、
前記ロジン誘導体を利用するフラックス処理によって、前記塩基性の金属酸化物の除去が可能である形態とすることが可能である。
【0024】
本発明にかかる微細パターンの金属ナノ粒子焼結体の形成方法を適用して、前記基板上に形成される、金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる微細なパターン形状を有する導電層の一部は、ワイヤボンディング・パッドとして使用される形態とすることができる。その際、ワイヤボンディング・パッドとして使用される、金属ナノ粒子相互の焼結体層の部分は、該焼結体層の膜厚を0.5μm〜10μmの範囲に選択することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかる微細パターンの金属ナノ粒子焼結体の形成方法では、先ず、アルキルアミンからなる表面被覆層を有する金属ナノ粒子の分散液を利用して、基板上に描画される微細なパターンを有する塗布膜を形成する。その際、該分散液中に、該表面被覆層を有する金属ナノ粒子を分散させるための分散溶媒として、沸点150℃以上の炭化水素溶媒を含有させている。従って、加熱温度を150℃以上、300℃以下の範囲に選択し、非加圧の還元性雰囲気下で、加熱処理を実施すると、少なくとも金属ナノ粒子を浸す程度の分散溶媒が残余している状態で、アルキルアミンは、金属ナノ粒子表面から離脱され、金属ナノ粒子の金属表面を互いに接触させることが可能となる。すなわち、金属ナノ粒子の表面は、分散溶媒による液層で覆われた状態で、金属ナノ粒子相互の融着が開始する結果、当初の塗布膜の平面形状を保持した状態で、含まれる金属ナノ粒子相互が緻密に融着した焼結体層の形成が可能となる。すなわち、金属ナノ粒子の表面を覆っている被覆剤分子のアルキルアミンは、加熱処理を行う際、分散溶媒中に一旦溶出した上、蒸散がなされるので、乾燥処理済みの金属ナノ粒子の表面を被覆している状態と比較して、より速やかに、金属表面を被覆するアルキルアミンの離脱が可能となる。引き続き、加熱処理を進めると、金属ナノ粒子を浸していた分散溶媒は全て蒸散した状態に至るが、非加圧の還元性雰囲気下では、金属ナノ粒子の表面酸化は回避されている。結果として、融着は継続して進行するため、金属ナノ粒子相互の融着部位が高い密度で形成され、個々の融着部位の接触面積も広くなり、「嵩体積の収縮」が十分に進行した焼結体層が形成される。特に、基板と焼結体層との界面においては、分散溶媒が残余する時間は相対的に長くなり、「嵩体積の収縮」が十分に進行する結果、得られる焼結体層全体の緻密さがより高くなるため、基板表面の下地層と焼結体層との界面では、高い密着性が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明を詳しく説明する。
【0027】
本発明にかかる微細パターンの金属ナノ粒子焼結体の製造方法では、アルキルアミンからなる表面被覆層を有する金属ナノ粒子の分散液を利用して、基板上に所望の微細なパターン形状に描画塗布された塗布層を形成する。次いで、この塗布層中に含まれる金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子を、非加圧の還元性雰囲気下で加熱することにより、離脱させ、金属ナノ粒子相互の融着を起こさせ、焼結体を形成している。この金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子を離脱させる過程では、金属ナノ粒子分散液の塗布層中に、少なくとも、金属ナノ粒子を浸す程度に分散溶媒が残留する状態を維持する。そのため、沸点150℃以上の炭化水素溶媒を分散溶媒に用い、さらに、周囲の雰囲気を非加圧の還元性雰囲気とした上で、前記炭化水素溶媒の沸点より若干低い温度で加熱を行う条件を選択し、分散溶媒の急激な気化に起因する「気泡」の発生を回避している。
【0028】
前記非加圧の還元性雰囲気下において、炭化水素溶媒の沸点より若干低い温度で加熱を行うと、1気圧における沸点150℃以上の炭化水素溶媒は、「沸騰状態」ではなく、この加熱温度の液体として存在できる。その状態では、塗布層中に含まれる炭化水素溶媒は、その表面から徐々に蒸散するが、「沸騰状態」のように、急速な気化を起こし、「気泡」を形成することはない。従って、加熱に因って、塗布層中に含まれる金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子が離脱すると、分散性が損なわれ、金属ナノ粒子は沈降して、基板表面上に堆積して、積層構造を形成する。その際、金属ナノ粒子の粒子径が大きく、表面を被覆している被覆剤分子の離脱の程度が高い程、分散性の低下が大きく、金属ナノ粒子の粒子径が小さく、表面を被覆している被覆剤分子の離脱の程度が低い程、分散性の低下は小さい。そのため、基板表面との界面には、粒子径が大きく、被覆剤分子の離脱の程度が最も高い金属ナノ粒子が高い比率で沈積している状態となっている。一方、基板表面との界面から離れるに従って、粒子径が小さく、表面を被覆している被覆剤分子の離脱の程度が低い金属ナノ粒子の比率が増す状態となっている。基板表面に沈降した金属ナノ粒子により形成される積層構造は、前記ように厚さ方向に粒子径の分布が形成されている。この金属ナノ粒子の積層構造中、金属ナノ粒子相互の隙間を、分散溶媒が浸している状態で、その積層構造の表面を覆っている分散溶媒が徐々に蒸散する。
【0029】
一方、液相の温度Tにおいて、金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子は、液相中に溶解している該被覆剤分子と、吸着・脱着過程を介して、平衡状態となっている。すなわち、温度Tにおいて、金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子の面密度:Cabsorb(T)は、その表面を覆っている分散溶媒中に溶解している被覆剤分子の濃度:Csol(T)と、
absorb(T)/Csol(T)=Kabsorb・exp{ΔEabsorb/(kT)}
で近似的に記述可能な平衡状態となっている。
【0030】
また、温度Tにおける、分散溶媒に対する、被覆剤分子の飽和溶解度:Ceq。(T)は、近似的に、
eq。(T)/Ceq。(T0)=exp{−ΔEsol./(kT)}/exp{−ΔEsol./(kT0)}
で記述可能な温度依存性を示す。
【0031】
さらに、温度Tにおける、分散溶媒中に溶解している被覆剤分子と、気相中に存在している気体状の被覆剤分子とは、気相−液相間の平衡関係にある。その際、温度Tにおける、分散溶媒中に溶解している被覆剤分子の濃度:Csol(T)と、気相中に存在する気体状の被覆剤分子の分圧:Pvapor(T)は、気相の全体圧力Ptotal(T)が一定の場合、近似的に、
sol(T)/Csol(T0)={Pvapor(T)/Pvapor(T0)}・exp{ΔEvol./(kT)}/exp{ΔEvol./(kT0)}
で記述可能な温度依存性を示す。
【0032】
従って、室温(T1)では、塗布された分散液中においては、分散溶媒中に溶解している被覆剤分子の濃度:Csol(T1)と平衡する面密度Cabsorb(T1)で、金属ナノ粒子表面を被覆剤分子が覆っている。温度を上昇させると、金属ナノ粒子表面を被覆している被覆剤分子の離脱が進み、分散溶媒中に溶解している被覆剤分子の濃度:Csol(T)は上昇する。その際、金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子の面密度:Cabsorb(T)は、当初の面密度Cabsorb(T1)から大幅に減少する。その結果、加熱温度Tでは、金属ナノ粒子の表面の相当部分は、被覆剤分子が被覆していない状態となり、分散性が大幅に低下し、沈降する。そして、沈降した金属ナノ粒子相互は、金属表面を接触した状態となり、融着を開始する。
【0033】
一方、加熱処理を進める間に、分散溶媒の蒸散が進み、同様に、その中に溶解している被覆剤分子の蒸散も進む。金属ナノ粒子の分散液の塗布層中に含有される、分散溶媒と被覆剤分子との含有比率を比較すると、加熱処理開始時は、分散溶媒の含有比率が格段に高い。そのため、含有比率が格段に高い分散溶媒の蒸散速度は、被覆剤分子の蒸散速度より優っているため、分散溶媒の蒸散が優先して進行する。その結果、実際に蒸散が進行している塗布層の表面では、分散溶媒中に溶解している被覆剤分子の濃縮が進む。
【0034】
この被覆剤分子の濃縮が進むと、分散溶媒中に溶解している被覆剤分子の濃度:Csol(T)は急速に上昇する。基板表面上に積層構造を形成して、沈降した金属ナノ粒子相互の融着が進行する段階で、分散溶媒中に溶解している被覆剤分子の濃度:Csol(T)は急速に上昇すると、その金属ナノ粒子表面への被覆剤分子の再吸着が引き起こされる。その結果、金属ナノ粒子表面を被覆する被覆剤分子の面密度:Cabsorbは、加熱開始後、当初の面密度Cabsorb(T1)から減少して、一旦極小値を示すが、その後、再び上昇する。金属ナノ粒子表面を被覆する被覆剤分子の面密度:Cabsorbが、その加熱温度Tにおける閾値:Cabsorb-0(T)を超えると、金属ナノ粒子相互の融着の進行が阻害を受ける。
【0035】
更に、分散溶媒の蒸散が進み、分散溶媒が完全に蒸散する段階に至ると、金属ナノ粒子表面は、被覆剤分子の再吸着によって、少なくとも、その表面全体を被覆剤分子層で緻密に被覆された状態まで戻っている。その後、非加圧の雰囲気に曝された、金属ナノ粒子表面を覆う被覆剤分子は、再び、離脱し、気体となって、離散を開始する。そのため、金属ナノ粒子表面を被覆する被覆剤分子の面密度:Cabsorbが、徐々に減少し、閾値:Cabsorb-0(T)より低くなると、金属ナノ粒子相互の融着が再開される。
【0036】
但し、金属ナノ粒子表面が曝される非加圧の雰囲気中に、酸素分子が存在していると、被覆剤分子が離脱した金属表面に、その加熱温度において、酸素分子が作用する結果、表面の酸化が進行する。この表面酸化に因って、金属ナノ粒子表面に酸化被膜が形成されると、金属ナノ粒子相互の融着の進行が阻害を受ける。本発明では、非加圧の還元性雰囲気下において、加熱処理を進めることで、前記の金属ナノ粒子表面に酸化被膜が形成される現象を回避している。その結果、非加圧の還元性雰囲気に曝された、金属ナノ粒子表面を覆う被覆剤分子は、再び、離脱し、気体となって、離散を開始すると、金属ナノ粒子相互の融着が再開される。最終的に、基板上に、金属ナノ粒子が緻密な密度で低温焼結している焼結体層が形成される。
【0037】
まず、本発明の方法では、表面に被覆剤分子層を有する金属ナノ粒子を含有する分散液を用いて、目的とする微細なパターン形状に、該分散液の塗布層を描画する。その際、分散質とする表面に被覆剤分子層を有する金属ナノ粒子の平均粒子径は、100nm以下であり、極めて微細なパターンの形成にも応用できる。
【0038】
例えば、本発明にかかる微細パターンの金属ナノ粒子焼結体の製造方法では、目的とする微細なパターン形状の描画精度は十分高く、その微細なパターンの最小の配線幅を、1〜300μmの範囲、実用的には、5〜200μmの範囲に、対応させて、最小の配線間スペースを、1〜300μmの範囲、実用的には、5〜200μmの範囲に選択する際に、より好適な方法となる。
【0039】
前記最小の配線幅を考慮して、その精度に対応可能な、焼結体層の形成に用いる金属ナノ粒子として、少なくとも、平均粒子径が100nm以下のナノ粒子を利用している。一方、前記数μm程度の最小の配線幅(WLmin)に対応して、焼結体層の膜厚(tL)もサブμm〜数μmの範囲に選択される。そのため、かかる膜厚における平坦性を十分に満足させる観点からも、使用する金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択する。少なくとも、本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体の製造方法を、微細なパターンの形成に適用する際には、前記の極めて微細なパターンを、ナノ粒子の分散液を用いて、高い配線幅の均一性で描画する上では、使用するナノ粒子の平均粒子径は、目標とする最小の配線幅(WLmin)ならびに最小の配線間スペース(WSmin)に対して、その1/10以下に選択することが望ましい。同時に、最小の配線幅(WLmin)に応じて、焼結体配線層の層厚も適宜決定されるが、通常、最小の配線幅(WLmin)と比較し、焼結体層の層厚(tL)は有意に小さな形態である。通常、最小の配線幅(WLmin)と焼結体層の膜厚(tL)の比率:tL/WLminは、1/100≦(tL/WLmin)≦1、好ましくは1/50≦(tL/WLmin)≦1/2の範囲に選択される。その際、ナノ粒子の平均粒子径を、1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択することで、焼結体層の層厚(tL)のバラツキ、局所的な高さの不均一を抑制することが可能となる。
【0040】
本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体の製造方法は、使用する表面に被覆剤分子層を有する金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択することで、平均膜厚がサブμm〜数μm、例えば、0.3μm〜2μmの極薄い導電層を形成する際、高い膜厚の均一性、制御性を達成できる。一方、本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体の製造方法は、平均膜厚が数μm〜数10μm、例えば、4μm〜20μmの範囲の導電層の形成にも適用できる。
【0041】
なお、分散液中に含有される、表面に被覆剤分子層を有する金属ナノ粒子は、被覆剤分子として、該金属ナノ粒子表面の金属原子に対して、アミノ基の窒素原子上の孤立電子対を利用して配位的な結合が可能なアルキルアミンを利用している。従って、分散液の液相部分は、50℃以下の温度において、金属ナノ粒子の表面を被覆しているアルキルアミンの面密度:Cabsorb(T)と平衡する濃度:Csol(T)で、被覆剤分子のアルキルアミンが分散溶媒中に溶解している状態とする。
【0042】
その際、このアルキルアミンは、金属ナノ粒子の表面に、少なくとも、一分子層に相当する被覆剤分子層を形成することで、分散溶媒中における分散性を維持している。この被覆剤分子層の形成を確実に行うため、金属ナノ粒子100質量部あたり、アルキルアミンを、2質量部〜25質量部の範囲、より好ましくは、5質量部〜20質量部の範囲で含有されている状態を選択することが好ましい。この被覆剤分子のアルキルアミンは、加熱処理することで、金属ナノ粒子表面から離脱できることが必要であるが、分散液を50℃以下の温度で保存する間には、分散液中から容易に蒸散することのないものが好ましい。従って、1気圧における沸点は、150℃以上、300℃以下の範囲、好ましくは、150℃以上、280℃以下の範囲のアルキルアミンを利用することが好ましい。
【0043】
アルキルアミンとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミンのいずれを利用することも可能である。モノアルキルアミンを利用する際には、炭素数8〜14のアルキル基を有するモノアルキルアミンが好ましい。H2N(CH2R’)の形状を有するアルキルアミン、例えば、ドデシルアミン(融点28.3℃、沸点248℃)、デシルアミン(融点14℃、沸点218℃)などを利用することができる。
【0044】
ジアルキルアミンを利用する際には、二つのアルキル基の炭素数の合計は、8〜16の範囲が好ましく、その際、利用されるアルキル基が同じであっても、異なっていてもよい。例えば、ジアルキルアミンとして、二つのアルキル基は、炭素数5以上、9以下の範囲のジアルキルアミンが好適に利用できる。特には、炭素数5以上、9以下の範囲のアルキル基を持ち、HN(CH2R’)2の形状を有するジアルキルアミン、例えば、ビス(2−エチルヘキシル)アミン((CH3−CH2−CH2−CH2−CH(C25)−CH22NH;沸点:281℃)などを利用することができる。
【0045】
室温(T1)では、分散液中には、分散すべき金属ナノ粒子の表面には、被覆剤分子のアルキルアミンが、面密度:Cabsorb(T1)で存在し、それと平衡するように、分散溶媒中には、アルキルアミンが濃度:Csol(T1)で溶解している。従って、分散液全体には、金属ナノ粒子の表面に被覆に使用されているアルキルアミンの量は、金属ナノ粒子の表面積の総和をSとすると、{S・Cabsorb(T1)}であり、分散溶媒中に溶解しているアルキルアミンの量は、分散液の液相部分の総量をVtotal(T1)とすると、{Vtotal(T1)・Csol(T1)}となる。従って、アルキルアミンの総量は、{S・Cabsorb(T1)}+{Vtotal(T1)・Csol(T1)}である。
【0046】
加熱し、液温がT2に上昇した際、分散溶媒は一部蒸散して、残余する液相部分の総量は、Vtotal(T2)となる。この状態において、分散溶媒中には、アルキルアミンが濃度:Csol(T2)で溶解し、それと平衡するように、金属ナノ粒子の表面にはアルキルアミンが、面密度:Cabsorb(T2)で存在している。その際、アルキルアミンの総量は、{S・Cabsorb(T2)}+{Vtotal(T2)・Csol(T2)}である。

この加熱状態において、残余する液相部分の総量:Vtotal(T2)を、少なくとも、塗布層に存在する金属ナノ粒子全体を浸漬している状態とすることが望ましい。その際、分散溶媒の残余量は、塗布層に存在する金属ナノ粒子全体の隙間を充填可能な量であることが望ましい。従って、利用される分散液中には、1気圧における沸点150℃以上の炭化水素溶媒、通常、1気圧における沸点150℃以上、300℃以下の、好ましくは、沸点200℃以上、300℃以下の炭化水素溶媒を、分散溶媒として含有させる。該炭化水素溶媒が、金属ナノ粒子100質量部当たり、少なくとも、10質量部〜100質量部の範囲、好ましくは、20質量部〜100質量部の範囲、より好ましくは、20質量部〜80質量部の範囲で含まれることが望ましい。
【0047】
本発明においては、該炭化水素溶媒は、分散溶媒の機能、ならびに、アルキルアミンおよびロジン誘導体に対する溶媒の機能を有する。そのため、融点が高いロジン誘導体を溶解して、溶液とするためには、ロジン誘導体の含有量/該炭化水素溶媒の含有量の比率は、1/2以下、好ましくは、1/5以下とすることが望ましい。一方、アルキルアミン自体は、液体であり、炭化水素溶媒と均一な混合物を形成することが可能である。含有されているアルキルアミンの全量が、炭化水素溶媒と混合物を形成した際、アルキルアミンの含有量/該炭化水素溶媒の含有量の比率は、高くとも、3/2以下、一般に、2/2以下、好ましくは、1/2以下とすることが望ましい。一般に、アルキルアミンおよびロジン誘導体の含有量の合計よりも、該炭化水素溶媒の含有量が多くなるように、含有比率を選択することが望ましい。例えば、アルキルアミンおよびロジン誘導体の含有量の合計/該炭化水素溶媒の含有量の比率は、高くとも、3/2以下、一般に、2/2以下、好ましくは、3/5以下とすることが望ましい。
【0048】
本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体の製造方法では、金属ナノ粒子相互の焼結体形成は、金属ナノ粒子が金属表面を接触する際、低温で相互融着を起こす現象を利用している。また、分散溶媒が蒸散した後、非加圧の還元性雰囲気下で、加熱処理を継続して、金属ナノ粒子相互融着を更に進行させている。本発明においては、非加圧の還元性雰囲気として、水素ガス、または水素ガスと不活性気体との混合気体からなる還元性雰囲気を利用している。この還元性雰囲気中における水素ガスの含有率は、1体積%〜100体積%の範囲、好ましくは、2体積%〜100体積%の範囲に選択する。前記水素ガスと不活性気体との混合気体中において、利用される前記不活性気体は、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、あるいは、それらの二種以上を混合したものであることが好ましい。非加圧の還元性雰囲気中に、分散液の塗布層から蒸散する、分散溶媒、ならびに、被覆剤分子として利用するアルキルアミンの気体が混入する。特に、非加圧の還元性雰囲気中における、被覆剤分子として利用するアルキルアミンの分圧を低下させることが好ましい。その目的で、前記金属ナノ粒子の焼成処理工程において、水素ガス、または水素ガスと不活性気体との混合気体を所定の流速で流し、非加圧の還元性雰囲気下で、加熱がなされている形態を選択することが望ましい。
【0049】
一方、金属ナノ粒子相互の融着が進み、全体として、金属ナノ粒子の緻密な焼結体が形成された後、その焼結体内部の隙間空間には、分散溶媒が残余しない状態とする。すなわち、焼成処理が完了した時点では、不要な分散溶媒は、かかる加熱処理温度において、気化し、蒸散がなされる分散溶媒であることが必要となる。
【0050】
従って、利用される分散溶媒は、室温では、液状である必要があり、融点は、少なくとも、20℃以下、好ましくは、10℃以下である。一方、非加圧300℃以下に選択される加熱処理温度では、一定水準以上の蒸散性を示す必要もある。従って、分散溶媒として利用する炭化水素溶媒の沸点は、少なくとも、320℃以下、好ましくは、300℃以下、より好ましくは、280℃以下であることが望ましい。但し、その沸点が、150℃を下回ると、塗布膜層の描画を行う過程で、分散溶媒の蒸散が相当に進行するため、塗布膜層に含有される金属ナノ粒子の量にバラツキを引き起こす要因ともなる。従って、分散溶媒には、沸点が、好ましくは、150℃以上、300℃以下の範囲である炭化水素溶媒、より好ましくは、沸点が、200℃以上、300℃以下の範囲である炭化水素溶媒を選択する。具体的には、金属ナノ粒子相互の融着が開始する温度、例えば、銀ナノ粒子相互の融着が開始する温度、220℃程度に対して、分散溶媒として用いる炭化水素溶媒の沸点が高くなるように、選択を行うとより好ましい。
【0051】
表面に被覆剤分子層を有する金属ナノ粒子を含有する分散液の調製に利用される分散溶媒には、例えば、テトラデカン(融点5.86℃、沸点253.57℃)などの高い沸点を有する鎖式炭化水素溶媒を利用することができる。特には、分散溶媒は、加熱した際、アルキルアミンを容易に溶解する機能を具えていることが必要である。従って、テトラデカン(融点5.86℃、沸点253.57℃)などの高い沸点を有する鎖式炭化水素溶媒を利用することが好ましい。沸点が200℃〜300℃の範囲の炭化水素溶媒として、炭素数が12〜18の範囲の直鎖のアルカン、炭素数が11〜16の範囲の分岐を有するアルカンが好適に利用可能である。
【0052】
一方、上記の150℃以上、300℃以下の温度で加熱することによって、金属ナノ粒子は、その金属面を接する部位で、融着を起こすことが不可欠である。この低温加熱によって融着を起こすため、平均粒子径1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択する。その際、金属ナノ粒子を構成する金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムの金属種の群から選択される、一種の金属、または、二種以上の金属種からなる合金が利用できる。なお、金属ナノ粒子は、通常の金属微粉末と比較しても、遥かに酸化を受けやすいため、その表面に被覆剤分子として、アルキルアミンを被覆した状態で分散液中に分散されている。その分散液を調製する段階で、金属ナノ粒子の表面を被覆している、被覆剤分子が脱離した部位に酸化被膜が形成されることが懸念される。この分散液の調製段階で生じる、酸素分子による表面酸化の影響は、酸化を受け難い金属、例えば、貴金属、すなわち、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムで構成される金属ナノ粒子を用いる際には、問題とならない。
【0053】
本発明においては、金属ナノ粒子の焼成処理は、加熱温度を、150℃以上、300℃以下の範囲に選択して、水素ガス、または水素ガスと不活性気体との混合気体からなる還元性雰囲気下で実施する。その際、加熱処理中、上述するように、先ず、分散溶媒に浸された状態で、金属ナノ粒子の表面を被覆する被覆剤分子の離脱を進行させる。この金属ナノ粒子の表面を被覆する被覆剤分子の離脱に伴って、金属ナノ粒子相互が金属表面を接触させる状態となり、融着が開始する。その後、分散溶媒が蒸散した後、非加圧の還元性雰囲気に曝された、金属ナノ粒子の表面上に残余している被覆剤分子を熱的に解離(気化)させ、金属ナノ粒子相互の融着をさらに進行させる。このように、金属ナノ粒子の焼成処理は、詳細に見ると、二つの部分過程で構成されている。前半の過程では、金属ナノ粒子が分散溶媒に浸された状態において、金属ナノ粒子の表面全体を被覆する被覆剤分子の離脱がなされる。後半の過程では、分散溶媒が蒸散した後、非加圧の還元性雰囲気に曝された状態で、金属ナノ粒子の表面上に残余している被覆剤分子を熱的に解離(気化)させている。
【0054】
従って、前半の過程では、分散溶媒の急激な気化に起因する「気泡」の発生を回避可能な加熱温度T2を選択することが好ましい。分散液の塗布層中では、分散溶媒中には、上記のように被覆剤分子が溶解しているため、「沸点上昇」が起こり、分散溶媒の本来の沸点よりも高い温度で「沸騰状態」となる。換言すれば、前半の過程では、加熱温度T2を、分散溶媒の本来の沸点以下の範囲に選択すれば、分散溶媒の急激な気化に起因する「気泡」の発生を回避可能である。すなわち、前半の過程では、加熱温度T2を、150℃以上、300℃以下の範囲中、分散溶媒の本来の沸点(Ts-b)以下の範囲、好ましくは、分散溶媒の沸点(Ts-b)との温度差:(Ts-b−T2)が、10℃〜50℃の範囲となるように選択することが望ましい。
【0055】
一方、後半の過程では、非加圧の還元性雰囲気に曝された、金属ナノ粒子の表面上に残余している被覆剤分子を熱的に解離(気化)させるため、被覆剤分子のアルキルアミンが速やかに気化可能な加熱温度(T3)を選択することが望ましい。すなわち、前半の過程では、加熱温度T3を、150℃以上、300℃以下の範囲中、被覆剤分子のアルキルアミンの沸点(Tc-b)以上の範囲に選択することが好ましい。
【0056】
例えば、金属ナノ粒子の焼成処理は、前述のように、前半の過程と後半の過程に対応させて、それぞれ、加熱温度T2と加熱温度T3を選択する、二段階の加熱処理を実施することも可能である。その際、加熱温度T2と加熱温度T3は、少なくとも、150℃≦T2≦T3≦300℃、好ましくは、200℃≦T2≦T3≦300℃となるように選択することが望ましい。例えば、アルキルアミンの沸点(Tc-b)が分散溶媒の沸点(Ts-b)より高い場合には、少なくとも、150℃≦T2≦Ts-b<Tc-b≦T3≦300℃の関係、好ましくは、200℃≦T2≦Ts-b<Tc-b≦T3≦300℃の関係を満たすように選択することが望ましい。また、アルキルアミンの沸点(Tc-b)が分散溶媒の沸点(Ts-b)より低い場合には、少なくとも、150℃≦Tc-b≦T2≦Ts-b≦T3≦300℃の関係、好ましくは、200℃≦Tc-b≦T2≦Ts-b≦T3≦300℃の関係を満たすように選択することが望ましい。
【0057】
また、分散液中に分散されている金属ナノ粒子自体、その表面は被覆剤分子で被覆し、酸化を回避しているが、分散溶媒中に溶解する被覆剤分子との間で、吸着・脱着の平衡状態となっている。偶々、脱着が生じた際に、金属ナノ粒子の金属表面に酸素分子が作用して、局所的に酸化被膜が生成する場合もある。その点を考慮して、酸化を受け易い金属で構成される金属ナノ粒子を利用する際には、分散液中に、加熱した際、水素原子の供給源として機能を有する、ロジン誘導体を、金属ナノ粒子100質量部当たり、0.5質量部〜5質量部の範囲、好ましくは、0.7質量部〜3質量部の範囲で添加する形態とすることもできる。その際、分散液中添加される、加熱した際、水素原子の供給源として機能を有する、前記ロジン誘導体として、アビエチン酸(分子量302.4、融点172℃)、ネオアビエチン酸(分子量302.4、融点172℃)、パラストリン酸(分子量302.4、融点165℃)、レボピマール酸(分子量302.4、融点150℃)、ピマール酸(分子量302.4、融点218℃)、イソピマール酸(分子量302.4、融点160℃)、サンダラコピマール酸(分子量302.4、融点174℃)、デヒドロアビエチン酸(分子量300.4、融点172℃)、アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、重合ロジン、水添ロジンのうち少なくとも一種類以上の化合物が利用可能である。
【0058】
加熱処理を進める際、分散溶媒は液相として残余しており、水素原子の供給源としての機能を有する、ロジン誘導体は、分散溶媒中に溶解して、金属ナノ粒子の表面に局所的に生成した酸化被膜の還元に利用される水素の供給源として利用される。その還元処理によって、金属ナノ粒子相互の融着の進行を阻害する、局所的に生成した酸化被膜の除去がなされる。従って、酸化を受け易い金属で構成される金属ナノ粒子を利用する際には、前記の水素原子の供給源としての機能を有する、ロジン誘導体の添加を行うことで、形成される金属ナノ粒子焼結体は、緻密な焼結状態を示すものとなる。
【0059】
さらに、以下に説明するように、添加されているロジン誘導体は、加熱処理を施す際、金属材料の表面に存在する酸化被膜を除去する、フラックス成分として機能させることもできる。本発明において、基板上に金属ナノ粒子焼結体層を形成する際、その下地層として、金属材料で形成される表面を利用することが可能である。例えば、該金属材料の表面には、該金属材料の酸化に因って、金属材料の酸化物を含んでなる酸化被膜が形成される場合もある。その際には、該酸化被膜を予め除去した上で、分散液の塗布を行うことが好ましい。前記の酸化被膜を除去する処理を施した際にも、その後の酸化などの要因によって、該金属材料の酸化物を含んでなる酸化被膜が僅かに形成される場合がある。この酸化被膜が僅かに残余している際、該酸化被膜に含まれる該金属材料の酸化物が、塩基性の金属酸化物である場合、ロジン誘導体を利用するフラックス処理によって、前記塩基性の金属酸化物の除去が可能である。例えば、銅、銅合金に含まれる銅などは、その酸化被膜中には、二価の金属カチオンを含むM(II)O型の金属酸化物が含有されている。この塩基性の金属酸化物に対して、ロジン誘導体を作用させると、そのカルボキシル基(−COOH)を利用して、M(II)O型の金属酸化物を除去することが可能である。このロジン誘導体を利用するフラックス処理は、一般に、加熱条件下で進行するため、本発明では、上述の加熱処理を行う際に、分散液の液温が上昇するとともに、フラックス処理が進行する。
【0060】
本発明において、基板上に金属ナノ粒子焼結体層を形成する際、例えば、銅、あるいは、銅合金を、その下地層として利用することができる。例えば、銅のフレーム材、あるいは、銅を主成分とする銅系合金のフレーム材の表面に金属ナノ粒子焼結体層を形成する形態とすることができる。
【0061】
この銅、あるいは、銅系合金を下地層として、その表面に金属ナノ粒子焼結体層を形成する際、高沸点の炭化水素溶媒中に添加されているロジン誘導体は、金属表面に残留する酸化被膜を除去するために利用される、フラックス成分の機能をも有する。ロジン誘導体は、何れも、沸点が200℃以上のカルボン酸である。金属表面に残留する酸化被膜は、一般に、M(II)Oの形態の金属酸化物で構成されている。加熱処理の際、この金属酸化物M(II)Oに、カルボン酸(R−COOH)が作用すると、まず、下記のような反応によって、カルボン酸の塩基性金属塩が生成される。
【0062】
M(II)O+R−COOH → R−COO-[M2+・OH-
一方、分散溶媒中には、金属ナノ粒子の被覆剤分子として利用される、アルキルアミン、例えば、モノアルキルアミン(R’−NH2)が溶解している。このアルキルアミン(R’−NH2)は、金属原子Mに対する配位よりも、金属イオンM2+に対する配位を遥かに起し易い。従って、前記のカルボン酸の塩基性金属塩に対して、アルキルアミン(R’−NH2)が作用して、例えば、下記のようアミン錯体を生成する。
【0063】
R-COO-[M2+・OH-]+4R'-NH2 → R-COO-[M2+(R'-NH24]OH-
上記のアミン錯体を構成すると、分散溶媒中への溶解がより容易になる。その際、分散溶媒中に溶解している、アルキルアミン(R’−NH2)自体の濃度は低下するため、金属ナノ粒子の金属表面の金属原子に配位的に結合しているアルキルアミン(R’−NH2)の解離が促進される。
【0064】
R’−NH2:M → R’−NH2 + M
従って、炭化水素溶媒中に添加されているロジン誘導体は、金属表面に残留する酸化被膜を除去するために利用される、フラックス成分の機能に加えて、上記の機構を介して、金属ナノ粒子の表面を被覆する被覆剤分子、アルキルアミンの離脱を促進する機能をも発揮する。
【0065】
なお、生成されるアミン錯体は、その後、非加圧の還元性雰囲気に曝され、水素分子と接触すると、還元され、金属原子を生成する。生成される金属原子は、銅、あるいは、銅系合金の下地層表面、あるいは、金属ナノ粒子焼結体層中の金属ナノ粒子の表面に析出する。銅、あるいは、銅系合金の下地層表面に残留している酸化被膜の除去が達成されると、その清浄な金属表面と、金属ナノ粒子が接触すると、両者の界面では、融着が進行する。結果として、銅、あるいは、銅系合金の下地層と、金属ナノ粒子焼結体層の界面では、前記の融着の進行に起因して、高い密着性が達成される。
【0066】
本発明では、金属表面を有する基板上、特には、銅、あるいは、銅合金の表面を有する下地層上に金属ナノ粒子焼結体層を形成する際、ロジン誘導体を添加した金属ナノ粒子の分散液を利用する。このロジン誘導体を添加した金属ナノ粒子の分散液の塗布層に対して、非加圧の還元性雰囲気中、比較的低い温度で加熱し、金属ナノ粒子を焼成することで、優れた導電性を示す金属ナノ粒子焼結体型の導電体を形成し、銅あるいは銅合金基板上への密着性を向上させることができる。
【0067】
前記の銅あるいは銅合金基板上への密着性に優れる利点を利用して、本発明の方法で形成される金属ナノ粒子相互の焼結体層を、ワイヤボンディング・パッドとして使用することができる。ワイヤボンディング・パッドとして利用する際には、金属ナノ粒子相互の焼結体層の表面に、ボンディング・ワイヤが、鍛接(welding)によって、接合される。そのため、ワイヤボンディング・パッドとして利用される、金属ナノ粒子相互の焼結体層の膜厚は、接合されるボンディング・ワイヤのワイヤ径に応じて、選択される。例えば、ボンディング・ワイヤのワイヤ径(直径)dwが、5μm〜500μmの範囲である際には、対応させて、ワイヤボンディング・パッド用の金属ナノ粒子相互の焼結体層の膜厚tpadは、0.5μm〜10μmの範囲、好ましくは、1μm〜5μmの範囲に選択することが望ましい。勿論、ワイヤボンディング・パッド用の金属ナノ粒子相互の焼結体層のサイズ(パッド面のサイズ)は、ボンディング方法、ならびに、ボンディング・ワイヤのワイヤ径(直径)dwに応じて、適宜設定される。例えば、ウエディ・ボンディング方法を採用する際には、鍛接(welding)接合部位におけるボンディング・ワイヤの潰れ変形量を考慮して、パッド面のサイズを選択する。
【0068】
なお、ワイヤボンディング・パッド用の金属ナノ粒子相互の焼結体層の作製に利用される金属ナノ粒子の金属材料は、ボンディング・ワイヤの金属材料に応じて、選択される。一般に、ワイヤボンディング・パッド用の金属ナノ粒子相互の焼結体層に利用される金属ナノ粒子の金属材料と、ボンディング・ワイヤの金属材料には、同じ金属材料を選択することが望ましい。勿論、鍛接(welding)接合によって、十分に高い接合強度が得られる限り、金属ナノ粒子相互の焼結体層に利用される金属ナノ粒子の金属材料と、ボンディング・ワイヤの金属材料の組み合わせを、異なる金属材料の組み合わせとすることも可能である。
【0069】
また、本発明の方法で形成される金属ナノ粒子相互の焼結体層では、金属ナノ粒子を被覆しているアルキルアミンの除去がなされ、有機物は残余していない状態となる。そのため、ワイヤボンディングにおいて、鍛接(welding)接合を形成する際、金属ナノ粒子相互の焼結体層の金属材料と、ボンディング・ワイヤの金属材料とが、相互に緻密な金属結合を形成する結果、その接合強度は、十分に高いものとなる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明はこれら実施例により限定を受けるものではない。
【0071】
(実施例1)
銀ナノ粒子原料として、市販されている銀の超微粒子分散液(商品名:独立分散超微粒子Ag1T アルバックマテリアル製)、具体的には、銀超微粒子35質量部、アルキルアミンとして、ドデシルアミン(分子量185.36、融点28.3℃、沸点248℃、比重d440=0.7841)7質量部、有機溶剤として、トルエン(沸点110.6℃、比重d420=0.867)58質量部を含む、平均粒子径3nmの銀超微粒子の分散液を利用した。なお、該銀超微粒子分散液の液粘度は、1 mPa・s(20℃)である。
【0072】
先ず、1Lのナス型フラスコ中にて、銀超微粒子分散液Ag1T、500g(Ag35wt%含有)に、ドデシルアミン5.8gを添加・混合し、80℃で1時間加熱攪拌した。攪拌終了後、減圧濃縮により、Ag1T中に含まれる分散溶媒トルエンを脱溶剤した。
【0073】
前記の脱溶剤後の混合物に対して、含有される銀超微粒子175質量部当たり、N14(テトラデカン、粘度 2.0〜2.3 mPa・s(20℃)、融点5.86℃、沸点253.57℃、比重d420=0.7924、日鉱石油化学製)95質量部、アビエチン酸(和光純薬工業製)1.2質量部を添加し、室温(25℃)で攪拌して、均一な分散液とした。攪拌終了後、0.2μmメンブランフィルターで分散液の濾過を行った。得られる分散液は、液粘度(B型回転粘度計、測定温度20℃) 8mPa・sの、均一な濃紺色の高流動性ペースト状の銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)であった。なお、バルクの銀単体は、密度10.49g・cm-3(20℃)、抵抗率1.59μΩ・cm(20℃)を示す。
【0074】
先ず、銅板上に、インクジェット装置を用いて、銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)を塗布し、パッドパターンを描画する。この描画直後、銀ナノ粒子分散液の塗布層の層厚は、約20μmであった。
【0075】
ガス焼成炉内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、炉内にアルゴン96%−水素4%混合ガスを流し、還元性雰囲気下とする。10分かけて、常温から温度220℃まで昇温し、加熱温度220℃で、10分間保持する。次いで、2分30秒かけて、温度220℃から温度270℃まで昇温し、加熱温度270℃で、9分間保持する。次いで、常温まで、10分間をかけて、降温する。
【0076】
前記の還元性雰囲気下での焼成処理によって、作製される焼結体層の膜厚は、幅200μm、長さ200μmの平面形状のパターン部分では、平均膜厚2.0μmであった。得られた焼結体層について、断面観察を行ったところ、図1に示すようにボイドのないバルク構造をしていた。
【0077】
また、作製された焼結体層ボンディング・パッド上に、金ワイヤ(ワイヤ径30μm)を用いてワイヤ接合試験を行ったところ、平均プル強度が13.9gと高く、バラツキも小さかった。
【0078】
すなわち、銅板と、その上に作製された焼結体層ボンディング・パッドとの界面における密着性は、良好であり、その再現性も高いことが確認される。
【0079】
(比較例1)
実施例1に記載する手順に従って、アビエチン酸を添加している銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)を塗布し、インクジェット描画パターンを作製する。描画直後、銀ナノ粒子分散液の塗布層の層厚は、約20μmであった。この銅板上に形成されたインクジェット描画パターンをホットプレート上に設置し、空気中にて、加熱温度220℃で、10分間保持する。次いで、加熱温度270℃で、1分間保持し、常温まで、10分間をかけて、降温する。
【0080】
前記の大気中での焼成処理によって、作製される焼結体層の膜厚は、幅200μm、長さ200μmの平面形状のパターン部分では、平均膜厚3.0μmであった。得られた焼結体層について、断面観察を行ったところ、ボイドが多数存在し、バルク構造になっていなかった(図2、図3)。
【0081】
また、作製された焼結体層ボンディング・パッド上に、金ワイヤ(ワイヤ径30μm)を用いてワイヤ接合試験を行ったところ、平均プル強度が13.0gで、バラツキも大きかった。
【0082】
すなわち、銅板と、その上に作製された焼結体層ボンディング・パッドとの界面における密着性は、実施例1よりも若干劣っており、その再現性も低いと判断される。
【0083】
(比較例2)
実施例1に記載する手順に従って、アビエチン酸を添加している銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)を塗布し、インクジェット描画パターンを作製する。描画直後、銀ナノ粒子分散液の塗布層の層厚は、約20μmであった。
【0084】
ガス焼成炉内に塗布層形成を終えた基板を設置後、炉内に窒素ガスを流す。10分かけて、常温から温度220℃まで昇温し、加熱温度220℃で、10分間保持する。次いで、2分30秒かけて、温度220℃から温度270℃まで昇温し、加熱温度270℃で、9分間保持する。次いで、常温まで、10分間をかけて、降温する。
【0085】
前記の窒素雰囲気下での焼成処理によって、作製される焼結体層の膜厚は、幅200μm、長さ200μmの平面形状のパターン部分では、平均膜厚4.0μmであった。
【0086】
また、作製された焼結体層ボンディング・パッド上に、金ワイヤ(ワイヤ径30μm)を用いてワイヤ接合試験を行ったところ、接合性が悪く、プル強度測定に至らなかった。
【0087】
なお、別途、同じ条件で作製される焼結体層の体積固有抵抗率を測定したところ、バルク銀の抵抗率1.59μΩ・cm(20℃)と比較し、10倍程度高い値であった。比較例1で作製される焼結体層の体積固有抵抗率と、比較例2で作製される焼結体層の体積固有抵抗率を比較したところ、約8倍となっている。
【0088】
前記の結果より、大気中で焼成処理を施している比較例1と比較して、窒素雰囲気中で焼成処理を施している比較例2では、被覆剤分子のアルキルアミンの除去が抑制されていると判断される。従って、比較例2で作製された焼結体層ボンディング・パッドは、比較例1で作製される焼結体層ボンディング・パッドと比較しても、ワイヤ接合性が劣っていると判断される。
【0089】
(比較例3)
銀ナノ粒子原料として、市販されている銀の超微粒子分散液(商品名:独立分散超微粒子Ag1T アルバックマテリアル製)、具体的には、銀超微粒子35質量部、アルキルアミンとして、ドデシルアミン(分子量185.36、融点28.3℃、沸点248℃、比重d440=0.7841)7質量部、有機溶剤として、トルエン(沸点110.6℃、比重d420=0.867)58質量部を含む、平均粒子径3nmの銀超微粒子の分散液を利用した。なお、該銀超微粒子分散液の液粘度は、1 mPa・s(20℃)である。
【0090】
先ず、1Lのナス型フラスコ中にて、銀超微粒子分散液Ag1T、500g(Ag35wt%含有)に、ドデシルアミン5.8gを添加・混合し、80℃で1時間加熱攪拌した。攪拌終了後、減圧濃縮により、Ag1T中に含まれる分散溶媒トルエンを脱溶剤した。
【0091】
前記の脱溶剤後の混合物に対して、含有される銀超微粒子175質量部当たり、N14(テトラデカン、粘度 2.0〜2.3 mPa・s(20℃)、融点5.86℃、沸点253.57℃、比重d420=0.7924、日鉱石油化学製)96.2質量部を添加し、室温(25℃)で攪拌して、均一な分散液とした。攪拌終了後、0.2μmメンブランフィルターで分散液の濾過を行った。得られる分散液は、液粘度(B型回転粘度計、測定温度20℃) 8mPa・sの、均一な濃紺色の高流動性ペースト状の銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)であった。従って、該銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)中には、ロジン誘導体は添加されていない。
【0092】
先ず、銅板上に、インクジェット装置を用いて、銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)を塗布し、パッドパターンを描画する。この描画直後、銀ナノ粒子分散液の塗布層の層厚は、約20μmであった。
【0093】
前記の大気中での焼成処理によって、作製される焼結体層の膜厚は、幅200μm、長さ200μmの平面形状のパターン部分では、平均膜厚4.0μmであった。得られた焼結体層について、断面観察を行ったところ、ボイドが多数存在し、バルク構造になっていなかった(図3)。
【0094】
また、作製された焼結体層ボンディング・パッド上に、金ワイヤ(ワイヤ径30μm)を用いてワイヤ接合試験を行ったところ、平均プル強度が12.0gで、バラツキも大きかった。
【0095】
すなわち、銅板と、その上に作製された焼結体層ボンディング・パッドとの界面における密着性は、実施例1よりも若干劣っており、その再現性も低いと判断される。
【0096】
(実施例2)
比較例3に作製した銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)を用いて、銅板上に、インクジェット装置を用いて、銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)を塗布し、パッドパターンを描画する。この描画直後、銀ナノ粒子分散液の塗布層の層厚は、約20μmであった。従って、該銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)中には、ロジン誘導体は添加されていない。
【0097】
ガス焼成炉内に塗布層形成を終えた基板を設置後、炉内にアルゴン96%−水素4%混合ガスを流し、還元性雰囲気下とする。10分かけて、常温から温度220℃まで昇温し、加熱温度220℃で、10分間保持する。次いで、2分30秒かけて、温度220℃から温度270℃まで昇温し、加熱温度270℃で、9分間保持する。次いで、常温まで、10分間をかけて、降温する。
【0098】
前記の還元性雰囲気下での焼成処理によって、作製される焼結体層の膜厚は、幅200μm、長さ200μmの平面形状のパターン部分では、平均膜厚2.5μmであった。
【0099】
また、作製された焼結体層ボンディング・パッド上に、金ワイヤ(ワイヤ径30μm)を用いてワイヤ接合試験を行ったところ、平均プル強度が13.3gで、バラツキも小さかった。
【0100】
すなわち、ロジン誘導体を利用するフラックス処理がなされていなくとも、還元性雰囲気下での焼成処理を行うことによって、銅板と、その上に作製された焼結体層ボンディング・パッドとの界面における密着性は、十分に高い水準となっている。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の微細なパターン形状を有する金属ナノ粒子焼結体層の形成方法は、基板上に金属ナノ粒子焼結体を製造する際、形成される焼結体層全体の嵩密度、機械的強度、導電性の低下を抑え、更には、得られる焼結体層全体の緻密さを高めることで、その下地層と焼結体層との界面において、高い密着性を達成することが可能である。従って、例えば、銅あるいは銅合金製基板の表面に、良好な密着性を示すボンディング・パッド用の導電層として利用可能な金属ナノ粒子焼結体層の作製に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1において作製された焼結体層について、その断面をSIM(Scanning Ion Microscopy)観察した結果を示す画像のプリント・アウトである。
【図2】比較例1において作製された焼結体層について、その断面をSIM(Scanning Ion Microscopy)観察した結果を示す画像のプリント・アウトである。
【図3】比較例1において作製された焼結体層について、他の領域において、その断面をSIM(Scanning Ion Microscopy)観察した結果を示す画像のプリント・アウトである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる微細なパターン形状を有する導電層を形成する方法であって、
平均粒子径を1〜100nmの範囲に選択する、金属ナノ粒子を含有する分散液を用いて、目的とする微細なパターン形状を有する塗布層を基板上に描画する工程と、
前記塗布層中に含まれる金属ナノ粒子の焼成処理を行って、微細なパターン形状を有する金属ナノ粒子焼結体層を基板上に形成する工程を有し;
前記分散液中に含有される、金属ナノ粒子は、該金属ナノ粒子表面の金属原子に対して、アミノ基の窒素原子上の孤立電子対を利用して配位的な結合が可能な沸点150℃以上のアルキルアミンにより、表面を被覆されており、
前記アルキルアミンにより表面を被覆されている金属ナノ粒子は、沸点150℃以上の炭化水素溶媒中に分散されており、
該分散液中に、前記沸点150℃以上の炭化水素は、金属ナノ粒子100質量部当たり、10質量部〜100質量部の範囲で含有されており;
前記金属ナノ粒子の焼成処理は、
加熱温度を、150℃以上、300℃以下の範囲に選択して、
水素ガス、または水素ガスと不活性気体との混合気体からなる還元性雰囲気下で実施する
ことを特徴とする微細パターンの金属ナノ粒子焼結体層を形成する方法。
【請求項2】
分散液中に含有される、金属ナノ粒子が、
金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムの金属種の群から選択される、一種の金属からなるナノ粒子、または、二種以上の金属種からなる合金のナノ粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子の焼成処理工程に用いる、還元性雰囲気中の水素ガスの含有率は、
1体積%〜100体積%の範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水素ガスと不活性気体との混合気体中において、利用される前記不活性気体は、
窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、あるいは、それらの二種以上を混合したものである
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子の焼成処理工程において、
水素ガス、または水素ガスと不活性気体との混合気体を所定の流速で流し、
非加圧の還元性雰囲気下で、加熱がなされている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分散液中には、
加熱した際、水素原子の供給源として機能を有する、ロジン誘導体が、金属ナノ粒子100質量部当たり、0.5質量部〜5質量部の範囲で含有されている
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記分散液中には、前記ロジン誘導体として、
アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、デヒドロアビエチン酸、アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、重合ロジン、水添ロジンのうち少なくとも一種類以上の化合物が含有されている
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基板は、金属材料で形成される表面を有し、
該金属材料の表面には、該金属材料の酸化物を含んでなる酸化被膜が形成され、
前記酸化被膜に含まれる該金属材料の酸化物は、塩基性の金属酸化物であり、
前記ロジン誘導体を利用するフラックス処理によって、前記塩基性の金属酸化物の除去が可能である
ことを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記基板上に形成される、金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる微細なパターン形状を有する導電層の一部は、ワイヤボンディング・パッドとして使用される
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ワイヤボンディング・パッドとして使用される、金属ナノ粒子相互の焼結体層の部分は、該焼結体層の膜厚を0.5μm〜10μmの範囲に選択する
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−70727(P2009−70727A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239237(P2007−239237)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】