説明

微細加工装置の真空室

【課題】半導体製造装置などの微細加工装置における異物の発生を抑制して、被加工材料である試料の汚染を抑制する技術を提供する。
【解決手段】処理室103内に付着した微粒子109と壁の間に吸着用分子を付着させ、吸着用分子の吸着力により前記微粒子109の剥離を抑制し、半導体基板108に付着する異物としての微粒子109を低減する。この吸着用分子として、沸点が−9℃以上の物質、例えばイソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、四塩化炭素、ハイドロフルオロエーテル、ブタノール、二硫化炭素、塩化ベンゼン、n−ヘキサン、n−オクタン、ベンゼン、アセトン、等を用い、該吸着用分子の分圧を、真空室103を構成する壁と汚染物質である微粒子109との接触部に近接した隙間部に前記吸着用分子が吸着するのに適した圧力に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細加工装置の真空室に係り、特に、半導体製造装置などの微細加工装置における異物の発生を抑制して被加工材料である試料の汚染を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(microelectromechanical system)分野,半導体製造分野などでは、真空下で微細加工や、その検査、観察などを行う装置が使用されている。
【0003】
このような装置においては、50nm以下の微粒子でさえ、デバイスに悪影響を与えるため、基板に付着することは極力低減されることが望まれる。
【0004】
従来、基板を搬送する搬送室の天井部品に微粒子が付着している場合、天井部品を組み立て真空引きを実施した後、その天井部の下に基板を運び一定時間放置すると、前記基板には放置した時間に比例して堆積する異物数が増加する傾向があった。
【0005】
従来は、異物を発生するのが搬送部であれば、天井部に取り付ける前に行う部品の洗浄方法を改善したり、天井部に樹脂製のフィルムを張り付けたり(例えば、特許文献1参照)、天井部の部品の加工方法を変更したりして、発生する異物数を低減していた。
【0006】
なお、装置に部品を取り付けた後の異物低減方法としては、ダミー搬送を繰り返して異物発生量が落ち着くのを待つ以外に方法はない。また、組み付け対象が処理室の場合は天井部を組み付けたときに異物(微粒子)がない状態であっても、半導体基板の処理を続けると天井に微粒子が蓄積する場合があり、処理室を使用していくうちに異物が落下する可能性が徐々に増加する。
【0007】
このような場合においては、従来、真空室を大気開放して微粒子を拭き取るウエット除去が定期的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−153681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
内壁面に微粒子が多数付着した真空室内に半導体基板をおいた場合、前記真空室内に微粒子が存在していてもそれが基板上に落下しなければ、基板上に悪影響を及ぼすことはない。
【0010】
天井に付着した微粒子は、何かの剥離力と付着力とが拮抗する状態にあり、下方に基板があるときに何かのきっかけで落下したものの何割かが、基板に付着し異物となる。 前記付着力の中で支配的な力は、ファンデルワールス力であり、剥離力として働く力の一つは、例えば、「粉体の基礎物性 第1巻 p235 粉体工学会編 2005年」に、「微粒子や壁の表面が荒れている場合には、ファンデルワールス力は非常に弱くなり、静電的な反発力と拮抗するようになる」と記載されているように静電気力である。
【0011】
本発明は真空室の天井や壁に付着した、付着力が弱く、剥離する可能性のある微粒子に対し、基板が真空室にある間には剥離させないようにし、これにより、基板に付着する異物数を低減するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0013】
真空室内に沸点が−9℃以上の分子(以下吸着用分子と記す)を導入し、該吸着用分子の分圧を、前記真空室を構成する壁と汚染物質である微粒子との接触部に近接した隙間部に前記吸着用分子が吸着するのに適した圧力(隙間部における飽和蒸気圧)に保つ。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以上の構成を備えるため、真空室の天井あるいは壁に付着した微粒子の剥離を抑制して基板に付着する異物数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施例の真空室を示す図である。
【図2】蒸発エンタルピーと25℃の蒸気圧の関係を示す図である。
【図3】蒸発エンタルピーと吸着エンタルピーの関係を示す図である。
【図4】沸点を25℃の蒸気圧の関係を示す図である。
【図5】平坦部の吸着エンタルピーと隙間部の吸着エンタルピーの関係を示す図である。
【図6】沸点と蒸発エンタルピーの関係を示す図である。
【図7】本発明に好適な物質の性質の概略を示す図である。
【図8】各種物質の物性を示す図である。
【図9】代表例としての吸着用分子の物性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の微粒子の剥離抑制手段は、真空室を構成する壁に付着した微粒子と壁との接触部に近接した隙間に分子(以下吸着用分子と記す)を吸着させることにより、そのファンデルワールス力により、微粒子の落下を抑制するものである。以下に、具体的な方法を説明する。
【0017】
図8は、各種物質の沸点Bp、25℃の蒸気圧Ps、蒸発エンタルピーΔHvおよび吸着エンタルピーΔHaを示す図である(化学便覧、日本化学会編参照)。また、図8のデータより求められる各物性の関係を図2ないし図6に示す。
【0018】
以下に、これらの関係をどのように利用して、真空室内で剥離する可能性のある微粒子を剥離させないようにするかを、すなわち、前記真空室に供給するに好適な吸着用分子の種類とその圧力をどのように選定するかを説明する。
【0019】
図8に示した25℃の蒸気圧Psは、25℃において、(吸着用分子が)液相中に入射する頻度と液相から気相に脱離する頻度が釣り合う飽和蒸気圧である。液相から気相に脱離する頻度は、蒸発エンタルピーΔHvを超えて脱離する頻度であり、図2に示すように物質にOH基があるかないかで異なるが、25℃における飽和蒸気圧Psは蒸発エンタルピーΔHvとある関係があり、この関係は図2より、
Ps[Pa]=7.58×10×EXP(−0.352×ΔHv[kJ/mol]) (水およびアルコール類を除く) ・・・(1)
Ps=2.63×10×EXP(−0.335×ΔHv[kJ/mol]) (アルコール類) ・・・(2)
である。これは、クラウジウス−クライペイロンの式
dP/dT=PΔH/RT ・・・(3)
(但し、Rは気体定数、Pは圧力、ΔHはエンタルピー変化、Tは温度)
を積分して得られる関係
P=P0×EXP(−ΔH/RT) ・・・(4)
=P0×EXP(−0.403×ΔH[kJ/mol]) ・・・(5)
から導くことができる。
【0020】
図8には被吸着物として、平坦なグラファイトとシリカ、および微細な隙間を持つ活性炭とシリカゲルへの吸着エンタルピーΔHaをそれぞれ示している。蒸発エンタルピーΔHvの場合と同様に、被吸着物から脱離する頻度は、被吸着物表面の吸着エンタルピーΔHaを超えて被吸着物から脱離する頻度であり、吸着エンタルピーΔHaから求まる蒸気圧は、被吸着部への入射頻度と脱離頻度が釣り合う圧力である。
【0021】
本願の発明者は、壁と微粒子の接触部には、そこに近接して、必然的に壁と微粒子の2面が近接した場所があり、この場所は微細な隙間となっていると考え、この微細な間隙には、微細な隙間をもつ物質(活性炭やシリカゲル)への吸着エンタルピーのデータを適用することができると考えた。
【0022】
なお、「粉体の基礎物性 第1巻 p91−99 粉体工学会編 2005年」によると、近接した2面間では、分子間力によるポテンシャルが重なり、エネルギーポテンシャルがさらに深くなると説明されており、一般的に隙間ではエンタルピーの増加があると言える。また、真空室の壁面の材質は金属の酸化物が想定されるため、シリカ(酸化ケイ素)あるいはシリカゲルの吸着エンタルピーのデータを使用した。以後で隙間と記述する部分は微粒子(異物)と金属等の酸化物の壁とで形成される微細な隙間を表している(図7参照)。
【0023】
式(4)の関係を利用して、前記隙間部の飽和蒸気圧Psnを求める。隙間部の吸着エンタルピーΔHanは、図3より蒸発エンタルピーΔHvに対して、次の関係にある。
【0024】
ΔHan(シリカゲル)[kJ/mol]=1.81×ΔHv[kJ/mol](水は除く)・・(6)
(水の場合は特別で、シリカゲルへの吸着エンタルピーΔHan<蒸発エンタルピーΔHvであり、隙間部に吸着するよりも、水分子同士が凝集すると予想され、壁や微粒子の表面が親水性である場合以外は吸着用分子には適さない。)
したがって、吸着エンタルピーΔHanが蒸発エントロピーΔHvより大きい増分ΔHd(=ΔHan−ΔHv)は、式(6)より、
ΔHd=0.81×ΔHv ・・・(7)
よって、25℃での蒸気圧Psと隙間部での飽和蒸気圧Psnとの関係は、式(5)より以下の式であらわされる。
【0025】
Psn=Ps×EXP(−ΔHd/RT)
=Ps×EXP(−0.81ΔHv/RT)
=Ps×EXP(−0.326×ΔHv[kJ/mol]) ・・・(8)
したがって、式(1)(2)および(8)より、25℃での蒸気圧Psにより隙間部の飽和蒸気圧Psnを計算すると、
Psn=5.97×10−9×(Ps^1.926) (水およびアルコール類を除く)・・・(9)
Psn=6.81×10−10×(Ps^1.973) (アルコール類)・・・(10)
また、蒸発エンタルピーΔHvにより計算する場合には、
Psn=7.58×10×EXP(−0.678×ΔHv[kJ/mol]) (水およびアルコール類を除く) ・・・(11)
Psn=2.63×10×EXP(−0.661×ΔHv[kJ/mol]) (アルコール類)・・・(12)
となる。
【0026】
なお、25℃の蒸気圧のデータが得られない場合には、図4より、
沸点Bpと25℃の蒸気圧Psとの間には
Ps[Pa]=311000×EXP(−0.043×Bp[℃])・・・・・(13)
の関係があるので、式(9)、(10)より、沸点Bpを用いて、
Psn=226×EXP(−0.083×Bp[℃])(水およびアルコール類を除く)
・・・(14)
Psn=46.8×EXP(−0.085×Bp[℃])(アルコール類)・・・(15)
によって求めることができる。
【0027】
このようにして求めた隙間部における飽和蒸気圧Psnとなるように、吸着用分子の分圧Ppを保つことにより、隙間部には吸着用分子がほぼ100%付着すると思われる。
【0028】
なお、飽和蒸気圧Psnより吸着用分子の分圧を低くすると、吸着用分子が隙間部に入射する頻度が減少し、隙間部での吸着用分子の占有率が低下する。占有率が低下すると隙間部からの脱離頻度もそれに応じて少なくなり、微細な隙間部の吸着用分子により占有された割合はPp/Psnと推定できる。
【0029】
微粒子と壁の付着力を向上するためには、隙間部に吸着用分子1個しか吸着する広さのない隙間部もある場合を考えると、吸着用分子を微粒子と壁との隙間に50%以上の確率で吸着させることが望ましい。この場合を考慮して、吸着用分子の分圧Ppを、0.5×Psn≦Ppとすることが望ましい。
【0030】
吸着用分子の分圧Ppを飽和蒸気圧Psn以上の分圧にしても、隙間部が既に吸着用分子で占められているため付着力の向上は大きくないと思われ、また、吸着用分子の分圧Ppを平坦部での飽和蒸気圧Psf以上にすると、ほぼ平坦な表面も全体が吸着用分子で覆われると考えられる。しかし、平坦部に吸着する吸着用分子の吸着面積の増加は、飛来した微粒子の再付着を促進させると思われ、微粒子の蓄積を促すため、吸着面積は増加させないほうがよい。したがって、吸着用分子の分圧Ppは平坦部での飽和蒸気圧Psfに比して小さい方が望ましい。
【0031】
平坦部での飽和蒸気圧Psfは、平坦面の吸着エンタルピーΔHafと隙間部への吸着エンタルピーΔHanを示した図5および式(4)をもとに求めることができる。
【0032】
すなわち、
ΔHan[kJ/mol]=1.29×ΔHaf[kJ/mol]
ΔHaf[kJ/mol]=0.775×ΔHan[kJ/mol] ・・・・(16)
より、
ΔHd(=ΔHaf−ΔHan)は、
ΔHd=−0.225×ΔHan ・・・・(17)
よって、式(4)より、
Psf=Psn×EXP(−0.403×(−0.225)×ΔHan[kJ/mol])
=Psn×EXP(0.0907×ΔHan[kJ/mol]) ・・・(18)
となる。
【0033】
式(18)より、吸着用分子の隙間部における吸着エンタルピーΔHanが40[kJ/mol]以上ならばPsf>38×Psnとなり、吸着用分子の分圧PpをPsnの2,3倍にしても平坦部はほとんど覆われない。
【0034】
また、吸着用分子の隙間部における吸着エンタルピーΔHanが20[kJ/mol]ならばPsf=6.1×Psnであり、この場合は若干影響がある。
【0035】
また、吸着用分子の分圧Ppが25℃での飽和蒸気圧Psを超える場合には、結露が起こるため好ましくない。装置の温度が22℃等の低温になる場合にはさらに厳しい。
【0036】
なお、吸着用分子は他のガスとの混合物の形で導入してもよい。吸着の平衡は、吸着用分子の分圧に依存するので、分圧が上記の範囲になるように制御するとよい。
【0037】
吸着用分子の飽和蒸気圧Psnの好ましい範囲に関して、以下に記す。
【0038】
本発明で用いる吸着用分子とその保持圧力(分圧)は、真空室で使用することを想定しており、飽和蒸気圧Psnは真空装置の使用可能圧力以下でなければならない。Psnが凡そ100Pa以下である為には、式(9)(10)(11)(12)(14)(15)を逆算すると、25℃の蒸気圧Ps,蒸発エンタルピーΔHv,沸点Bpはおよそ以下の範囲となる。
【0039】
Ps≦203000[Pa] (水およびアルコール類以外)
Ps≦457000[Pa] (アルコール類)
あるいは
ΔHv≧23[kJ/mol] (水およびアルコール類以外)
ΔHv≧26[kJ/mol] (アルコール類)
あるいは
Bp≧10[℃] (水およびアルコール類以外)
Bp≧−9[℃] (アルコール類)
以上を総合すると、好適な吸着用分子は、蒸発エンタルピーΔHvが23[kJ/mol]以上であり、式(18)より、Psf=8.1×Psnであるので、吸着用分子の分圧Ppの上限は、Pp≦2×Psnが適当である。
【0040】
また、分圧が0.001Pa以上あれば、「単分子吸着層を作るに要する時間(真空の物理と応用 熊谷寛夫、富永五郎編著 第7版 昭和56年 裳華房 p118)」によれば、粒子と壁との隙間に1秒以下の速さで吸着用分子が吸着されるので、バルブ開閉直後のウエハ搬送など1秒程度の速さで効果が発現されることが求められる場合にも十分対応できる。
【0041】
また、基板への吸着を考えた場合、0.001Pa未満である場合には、真空室搬出後の処理室あるいは大気中における吸着用分子の脱離の時定数が、1秒台より大きくなる可能性があり、真空室から基板が移動した後の影響を考慮すれば飽和蒸気圧Psnが0.001Pa未満であることは好ましくない。
【0042】
飽和蒸気圧Psnが凡そ0.001Pa以上である為には、25℃における蒸気圧Ps,蒸発エンタルピーΔHv,沸点Bpは以下の関係式を満たす必要がある。
【0043】
Ps≧516[Pa] (水およびアルコール類以外)
Ps≧1335[Pa] (アルコール類)
あるいは
ΔHv≦40[kJ/mol] (水およびアルコール類以外)
ΔHv≦43[kJ/mol] (アルコール類)
あるいは
Bp≦149[℃] (水およびアルコール類以外)
Bp≦127[℃] (アルコール類)
以上をまとめると、微粒子剥離抑制の目的を達成するために吸着用分子として用いるに好適な物質の選定方法とその分圧の設定は以下の通りとなる。なお、図7に好適な物質に求められる物性の概略を示した。
【0044】
すなわち、
水以外およびアルコール類以外の物質に対して、
1)沸点Bpが、10[℃]〜149[℃]の間である物質を選択し、以下の圧力範囲に分圧Ppを制御する。
【0045】
Psn=226×EXP(−0.083×Bp[℃])
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
2)蒸発エンタルピーΔHvが、23[kJ/mol]〜40[kJ/mol]の間である物質を選択し、以下の圧力範囲に分圧Ppを制御する。
【0046】
Psn=7.58×10×EXP(−0.678×ΔHv[kJ/mol])
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
3)25℃の蒸気圧Psが、516[Pa]〜203000[Pa]の間である物質を選択し、以下の圧力範囲に分圧Ppを制御する。
【0047】
Psn=5.97×10−9×(Ps^1.926)
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
アルコール類の物質に対して、
4)沸点Bpが、−9[℃]〜127[℃]の間である物質を選択し、以下の圧力範囲に分圧Ppを制御する。
【0048】
Psn=46.8×EXP(−0.085×Bp[℃])
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
5)蒸発エンタルピーΔHvが、26[kJ/mol]〜43[kJ/mol]の間である物質を選択し、以下の圧力範囲に分圧Ppを制御する。
【0049】
Psn=2.63×10×EXP(−0.661×ΔHv[kJ/mol])
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
6)25℃の蒸気圧Psが、1335[Pa]〜457000[Pa]の間である物質を選択し、以下の圧力範囲に分圧Ppを制御する。
【0050】
Psn=6.81×10−10×(Ps^1.973)
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
前記沸点Bp、蒸発エンタルピーΔHv、および25℃の蒸気圧Psを用いて行う、吸着用分子の3つの選択方法は、実質的には同じであり、与えられた物性データにしたがって圧力の制御範囲を決めればよい。算出方法によって圧力の制御範囲が異なる場合は、吸着の確実性を優先して圧力の高い方を選択するとよい。なお、沸点が25℃以下、または25℃の蒸気圧が101300Pa以下の吸着用分子は25℃、大気圧で通常液体である。
【0051】
また、吸着用分子として適当な物質は図8に示される物質に限られるわけではない。このため化学便覧などのデータベースから取り扱いやすさや他への影響を考慮して前記1)〜6)の範囲に含まれる物質を選択すればよい。
【0052】
これにより、ウエハが真空室にあるときに、真空室の微粒子が剥離するのを抑制でき、その結果、ウエハに付着する異物を低減することができる。
【実施例1】
【0053】
図1は、本発明の第1の実施例にかかる真空室を示す図である。図1に示すように、真空室103は、排気速度調整弁102を介して接続された排気ポンプ101、圧力計104,ガスフィルタ105を介して接続されたNガス用流量コントローラ106と吸着ガスの蒸気を導入可能なガス流量コントローラ107を備える。また、図1においては、基板108および微粒子109を模式的に示した。本実施例の真空室は、ドライエッチング装置の搬送室である。
【0054】
吸着用分子として、アルコール類で、沸点が、−9[℃]〜127[℃]の範囲である、沸点82[℃]の(CHCHOHを選択した。Psn=46.8×EXP(−0.085×Bp[℃])より、隙間部の飽和蒸気圧Psnは0.24[Pa]が得られる。したがって、0.5×Psn≦Pp≦2×Psnより、0.12[Pa]以上0.48[Pa]以下で制御することとした。ちなみに、25℃の蒸気圧Psとして5932[Pa]が文献から分かっており、これから求めたPsnは、0.11[Pa]であり、沸点から求めた値より低いため、不採用とした。
【0055】
本実施例における真空室の微粒子剥離抑制方法では、基板108が真空室103内に搬入される前に、ガス導入部より(CHCHOHが30%混合されたNガスを供給し、排気速度調整弁102を調整して真空室を1Paに保つようにした。このとき、(CHCHOHの分圧は0.3Paになっており、微粒子剥離抑制に好適な範囲になっている。その後、基板108の搬入搬出などの間は、圧力を1Pa前後に保った。基板108が搬出された後には、ガス導入を止め、排気速度調整弁102を開き真空排気を行った。このような制御行ったところ真空室で基板放置時の異物数は真空引きのみの場合に比べ少なかった。
【0056】
本実施例では、Nと吸着用分子の混合気体の状態で導入したが、Arやその他のガスと混合してもよく、(CHCHOH単体で導入してもよい。特に、分圧を低く制御する必要がある場合には、混合ガスによる導入方法は圧力が制御し易いという利点がある。
【0057】
基板がない時には、本実施例のように吸着用分子を排気し、アルゴンや窒素で置換して微粒子の付着力を弱くし剥離させてもよい。その場合は剥離した粒子が基板より下流に再付着するように圧力や流れを適正化するとさらによい。
【0058】
なお、(CHCHOH(イソプロピルアルコール、2−プロパノール)は、クリーンルームや基板洗浄でも使用されており、使用するのに適している。吸着用分子を導入する方法としては、液体用の流量コントローラを用いてもよい。
【0059】
吸着用分子は、常時流しておく必要はなく、基板がない時はオフしてもよいし、基板搬入前に所定の分圧に調整後排気速度調整弁とガスの導入を止めて圧力を保持していてもよい。
【0060】
本実施例では、真空室が搬送室の場合を示したが、本発明を反応室に適用する場合を以下に記す。例えば、基板を反応室に搬入してある状態で、かつ処理に使用するプロセスガスを導入している間は吸着用分子の導入は行わず、プロセスガスの導入が行われていない、処理前、処理と処理の間、あるいは処理後には吸着用分子を導入するというように適用することができる。処理は例えばエッチングやCVDなどである。
【実施例2】
【0061】
図9は、代表例としての吸着用分子(イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、四塩化炭素、ハイドロフルオロエーテル、ブタノール、二硫化炭素、塩化ベンゼン、n−ヘキサン、n−オクタン、ベンゼン、アセトン)とそれの25℃における蒸気圧、及び好適な分圧の上限と下限を示す。
【0062】
図9中のNo.13,No14の物質A、物質B(HFE:ハイドロフルオロエーテル)などは、反応性や可燃性が低い点で吸着用分子として適当である。
【0063】
吸着用分子として適当な物質は図8、9に示される物質に限られるわけではない。このため化学便覧などのデータベースから取り扱いやすさや他への影響を考慮して前記1)〜6)の範囲に含まれる物質を選択すればよい。
【0064】
これにより、ウエハが真空室にあるときに、真空室の微粒子が剥離するのを抑制でき、その結果、ウエハに付着する異物を低減することができる。
【0065】
また、吸着用分子として使用する物質は環境を配慮してオゾン破壊係数の小さいものを選択するか、除害対策を行った設備で使用しなければならない。CClなどは前記除害対策を行わなければならない。
【0066】
以上のように、本発明によれば、処理室内に付着した微粒子と壁の間に吸着用分子を付着することができ、これにより微粒子の剥離を抑制し、半導体基板に付着する異物としての微粒子を低減することができる。なお、対象とする真空室はドライエッチング室、CVDの反応室、あるいは基板を搬送し、待機させるための真空室とすることができる。
【符号の説明】
【0067】
101 排気ポンプ
102 排気速度調整弁
103 真空室
104 圧力計
105 ガスフィルタ
106 ガス流量コントローラ (N用)
107 ガス流量コントローラ (液体用)
108 基板
109 微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室内に沸点が−9℃以上の吸着用分子を導入し、該吸着用分子の分圧を、前記真空室を構成する壁と汚染物質である微粒子との接触部に近接した隙間部に前記吸着用分子が吸着するのに適した圧力に保つことを特徴とする微細加工装置の真空室。
【請求項2】
請求項1記載の微細加工装置の真空室において、
前記吸着用分子は、水以外およびアルコール類以外の物質であり、沸点Bpが、10[℃]〜149[℃]の間、あるいは、蒸発エンタルピーΔHvが、23[kJ/mol]〜40[kJ/mol]の間、あるいは25℃の蒸気圧Psが、516[Pa]〜203000[Pa]の間であることを特徴とする微細加工装置の真空室。
【請求項3】
請求項1記載の微細加工装置の真空室において、
前記吸着用分子はアルコール類の物質であり、沸点Bpが、−9[℃]〜127[℃]の間、あるいは、蒸発エンタルピーΔHvが、26[kJ/mol]〜43[kJ/mol]の間、あるいは、25℃の蒸気圧Psが、1335[Pa]〜457000[Pa]の間であることを特徴とする微細加工装置の真空室。
【請求項4】
請求項1記載の真空室において、
前記吸着用分子が水以外およびアルコール類以外の物質であり、
沸点Bpが、10[℃]〜149[℃]の間であり、かつ、
Psn=226×EXP(−0.083×Bp[℃])、
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
であらわされる圧力範囲に該吸着用分子の分圧Ppを制御するか、あるいは、
蒸発エンタルピーΔHvが、23[kJ/mol]〜40[kJ/mol]の間でありかつ、
Psn=7.58×10−8×EXP(−0.678×ΔHv[kJ/mol])、
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
であらわされる圧力範囲に該吸着用分子の分圧Ppを制御するか、あるいは
25℃の蒸気圧Psが、516[Pa]〜203000[Pa]の間でありかつ、
Psn=5.97×10−9×(Ps^1.926)、
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
で表される圧力範囲に前記吸着用分子の分圧Ppを制御することを特徴とする微細加工装置の真空室。(但し、Psn;隙間部における飽和蒸気圧)
【請求項5】
請求項1記載の微細加工装置の真空室において、
前記吸着用分子はアルコール類の物質であり、
沸点Bpが、−9[℃]〜127[℃]の間であり、かつ、
Psn=46.8×EXP(−0.085×Bp[℃])、
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
で表される圧力範囲に前記吸着用分子の分圧Ppを制御するか、あるいは、
蒸発エンタルピーΔHvが、26[kJ/mol]〜43[kJ/mol]の間であり、かつ、
Psn=2.63×10−9×EXP(−0.661×ΔHv[kJ/mol]) 、
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
で表される圧力範囲に前記吸着用分子の分圧Ppを制御するか、あるいは、
25℃の蒸気圧Psが、1335[Pa]〜457000[Pa]の間であり、かつ、
Psn=6.81×10−10×(Ps^1.973)、
0.5×Psn≦Pp≦2×Psn
で表される圧力範囲に前記吸着用分子の分圧Ppを制御することを特徴とする微細加工装置の真空室。(但し、Psn;隙間部における飽和蒸気圧)
【請求項6】
請求項1記載の微細加工装置の真空室において、前記吸着用分子はイソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、四塩化炭素、ハイドロフルオロエーテル、ブタノール、二硫化炭素、塩化ベンゼン、n−ヘキサン、n−オクタン、ベンゼン、アセトンの何れかであることを特徴とする微細加工装置の真空室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−204784(P2012−204784A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70621(P2011−70621)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】