説明

微細粒子の生成装置

【課題】 超臨界晶析法によって微細な粒度分布も狭い粒子を効率良く得ることのできる微細粒子の生成装置を提供すること。
【解決手段】 流体を噴出させるノズルと、超臨界流体とを用いた超臨界晶析法による微細粒子の生成装置において、前記ノズル31の開口7を、略一定幅の長尺な開口とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細粒子の生成装置に関し、特に、ノズルと超臨界流体とを用いた微細粒子の生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水や各種溶媒に溶けにくい物質、例えば難溶性薬物の微細粒子を得る場合、この難溶性薬物(溶質)を溶解した超臨界流体を、ノズルから大気中に急激に噴出させて溶質を析出させる超臨界急速膨張法(RESS法: Rapid Expansion of Supercritical Fluid Solutions )や、薬物(溶質)を溶解した溶液を超臨界流体中にノズルから噴出、或いは超臨界流体を薬物(溶質)が溶解した溶液中にノズルから噴出させて溶質を析出させる超臨界貧溶媒法(SAS法: Supercritical Anti-Solvent 、又はGAS法: Gas Anti-Solvent)を用いて生成される場合がある。
なお、この明細書では、上記の各方法を含み、ノズルと超臨界流体とを用いる溶質の析出方法を総称して『超臨界晶析法』と呼ぶ。
【0003】
上記超臨界晶析法に用いる超臨界流体は、臨界温度(Tc)以上で、かつ臨界圧力(Pc)以上の状態にある流体を言い、かかる超臨界流体は、密度は液体に近く、粘度や拡散係数は気体に近い。密度が大きいので固体のような不揮発性物質でも溶解でき、また大きな拡散係数によって液体溶媒中より早い物質移動が期待できる。更に動粘度(粘度/密度)は液体や気体よりも小さいので自然対流が起こり易い、等の特徴を備えている。
【0004】
超臨界急速膨張法の場合、溶質を溶解した上記超臨界流体は、ノズルを通して大気圧近くまで膨張・低密度化されると急激な温度降下(ジュール・トムソン効果)が起こり、溶質の溶解度が急激に減少する。そのため、溶質の過飽和度が非常に大きくなり、溶質の析出が起こる。この過飽和状態は10-5秒以下の短時間で起こり、膨張による温度や圧力変化は音速で伝達される。これにより、超臨界急速膨張法は、通常の晶析法に比べて溶解度の低下が急速で過飽和に達するまでの時間が非常に短いため、生成する核の成長期間が一様に限定される。したがって、粒度分布が狭い微細粒子を生成することが可能となる。
また、超臨界急速膨張法では、核生成及び粒子成長期間が短いため、微細粒子でかつ非晶質となる場合が多い。非晶質化することにより、溶解度や溶解速度を増大させることができるため、難溶性薬物の溶出性を改善させることができる。そのため、近年においては、この超臨界急速膨張法の医薬品製造への適用が活発に検討されている。
【0005】
一方、超臨界貧溶媒法の場合、超臨界流体を貧溶媒として用い、溶質を溶解した溶液に超臨界流体をノズルより噴出させることにより添加(GAS法)、或いは溶質を溶解した溶液を超臨界流体中にノズルより噴出させることにより添加(SAS法)すると、超臨界流体が、溶質が溶解した溶媒の溶解力を低下させ(貧溶媒化)、溶質が析出する。
この超臨界貧溶媒法は、溶質を溶媒に溶解した後に超臨界流体と接触させるため、超臨界急速膨張法に比べて溶質濃度を高くすることが可能であり、高い収率が期待でき、更に熱的に不安定な物質に対しても適用可能であると言われている。
【0006】
上記超臨界急速膨張法等によって微細な粒子を得るためには、例えば超臨界流体を、溶質が溶解している状態(飽和溶解度以下)から如何に短時間に大きな過飽和状態にするかが非常に重要となる。即ち、過飽和度が大きいと、溶液中の結晶析出は結晶核の発生が優先される。ここで核の発生臨界径は物質によって理論的に決まっており、その大きさは数ナノメートルオーダーである。一方、過飽和度又は過飽和度の時間変化率が小さいと、発生した結晶核の成長が優先される。しがって、より微細な粒度分布も狭い粒子を得るためには、大きな過飽和度を短時間(大きな変化率)で均一に与える必要がある。
【0007】
ここで、従来においては、溶質を溶解した超臨界流体等は、例えば特許文献1の図3に示されたような円筒状のノズル、或いはピンホールノズルを使用して噴出され、溶質を析出させて微細粒子を生成させることが一般的に成されていた。
【0008】
【特許文献1】特開2001−129389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたような円筒状のノズル、或いはピンホールノズルのような円形の開口から流体を噴出させる場合、厳密に言えば流速は中央部が速く、壁面近傍が遅くなり、流れは開口中央に集中し、この流れに乗れなかった壁面近傍の流体はノズル内部に滞留する時間が長くなる。そのため、超臨界急速膨張法の場合、この滞留した流体中において析出した核は成長して大きくなることが生じる。また、ノズル内部で発生した核は流れに乗って開口中央に向かって集中するため、粒子間距離が短くなって粒子同士の衝突が起こり易くなり、その結果、粒子同士の凝集・癒着によって粒子径が大きくなることも生じる。
【0010】
また、ノズルの開口径は小さいほど得られる粒子径は小さくなる(例えば、超臨界急速膨張法の場合、開口径の大きなノズルを用いて噴出させると、ジュール・トムソン効果による温度降下を伴う膨張を始める圧力降下開始点が開口径の小さなノズルを用いたときよりもノズルの上流側に移動し、ノズルを通過する時間が相対的に長くなり、核発生から結晶成長終了までの時間が長くなり、結晶が成長してしまう。)が、ノズルの開口径が小さいと析出した粒子、或いは溶媒中の溶質等によって開口が閉塞してしまうことが生じ易くなり、また、一度閉塞すると運転中にこれを解消することは難しいという課題がある。この課題を解決するために、溶質の超臨界流体或いは他の溶媒に対する溶解量(濃度)を下げるという方法も考えられるが、これでは微細粒子の生成量が減少し、経済的ではないという新たな課題が生じる。
【0011】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑み成されたものであって、その目的は、超臨界晶析法によって微細な粒度分布も狭い粒子を効率良く得ることのできる微細粒子の生成装置を提供することにある。また、開口幅が狭くても、生成した微細粒子等によってノズルの開口が閉塞することがなく、また仮に閉塞した場合でも、速やかに解消することのできる微細粒子の生成装置、具体的には噴出ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記した目的を達成するため、流体を噴出させるノズルと、超臨界流体とを用いた超臨界晶析法による微細粒子の生成装置において、前記ノズルの開口を、略一定幅の長尺な開口としたことを特徴とする。
【0013】
ここで、上記本発明の好ましい実施の形態としては、上記超臨界晶析法を、溶質が溶解した超臨界流体をノズルより噴出させ、溶質を析出させる超臨界急速膨張法、又は溶質を溶解した溶液を超臨界流体中にノズルより噴出、或いは超臨界流体を溶質を溶解した溶液中にノズルより噴出させ、溶質を析出させる超臨界貧溶媒法のいずれかとする。また、上記ノズルの開口を環状、或いは直線状とする。また、上記開口を複数個(複数本)形成する。更に、上記開口の幅を30μm以下、長さを前記幅の200倍以上とする。また、上記環状の開口を、略円柱状或いは略円環状の切り欠き孔を有する固定子と、該固定子の前記切り欠き孔に侵入する同芯でかつ略円柱状或いは略円筒状の可動子とにより形成する。また、上記直線状の開口を、略直方体状の切り欠き孔を有する固定子と、該固定子の前記切り欠き孔に侵入する略直方体状の可動子とにより形成する。更に、上記開口の幅を、上記可動子の上記固定子への侵入位置によって調整する。また、上記固定子の切り欠き孔の先端に拡開部を設ける。更に、上記超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用いる。
【発明の効果】
【0014】
上記した本発明に係る微細粒子の生成装置によれば、ノズルの開口が細長い所謂スリット状であるため、超臨界急速膨張法の場合、ノズル内で発生した溶質の核が中央の流体の流れに乗れなくても、従来の円筒状のノズルやピンホールノズルのように開口が1点ではなく細長く連続して存在しているため、より圧力損失の低い箇所に粒子が移動でき、そのためノズル内部に滞留する時間が短く且つ均一となり、微細な粒度分布も狭い粒子を得ることができる。また、ノズル内で発生した溶質の核は1点に集中することはなく開口の長手方向に分散するため、衝突が回避され、粒子同士の凝集・癒着によって粒子径が大きくなることもない。更に、ノズルの開口が上記ノズル内で発生した溶質の核によって閉塞することもなく、微細粒子を効率的に生成することができる。
【0015】
また、超臨界貧溶媒法のうち、溶質を溶解した溶液を超臨界流体中に噴出させるSAS法においても、ノズルの開口径が小さいほど得られる粒子径が小さくなるが、溶質濃度が高い場合においても、ノズルを閉塞させることなく、微細な溶液のミストを噴出することができる。また、溶液によって閉塞しても、開口を一時的に広げることにより閉塞を瞬時に解消することができる。また、溶質を溶解した溶液中に超臨界流体を噴出させるGAS法においても、ノズルの開口が析出した溶質で閉塞した場合、上記と同様の方法で解消することができる。また、従来のピンホールノズルでは、ノズル部において急速膨張によるジュール・トムソン効果によって生じる温度降下に伴って、ノズル内部の開口部近傍の超臨界流体の温度が下がり、超臨界状態を保つことができないことが問題になる場合があるが、本発明に係るノズルは、超臨界流体との接触面積が従来のピンホールノズルに比較して大きいため、ノズルを加熱することにより超臨界流体との良好な熱交換を行うことができ、ジュール・トムソン効果による温度降下に伴う諸問題に対しても有効となる。
【0016】
また、上記ノズルの開口を環状、或いは直線状とすれば、略一定幅の長尺な開口を容易に形成することができる。また、上記開口を複数個(複数本)形成すれば、微細粒子の生成量を増大させることができる。更に、上記開口の幅を30μm以下、長さを前記幅の200倍以上とすれば、超臨界晶析法によって微細な粒度分布も狭い粒子を安定的に生成することができる。また、上記環状の開口を、略円柱状或いは略円環状の切り欠き孔を有する固定子と、該固定子の前記切り欠き孔に侵入する同芯でかつ略円柱状或いは略円筒状の可動子とにより形成する、或いは上記直線状の開口を、略直方体状の切り欠き孔を有する固定子と、該固定子の前記切り欠き孔に侵入する略直方体状の可動子とにより形成し、上記開口の幅を、上記可動子の上記固定子への侵入位置によって調整し得るものとすれば、溶質の微細化に必要な最狭幅にノズルの開口幅を容易に設定でき、また、開口の一部又は全部が発生した溶質の核等によって閉塞しても、開口を一時的に広げることにより閉塞を瞬時に解消することができる。更に、上記固定子の切り欠き孔の先端に拡開部を設ければ、更に微細な粒子の生成が可能となる。また、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用いることとすると、二酸化炭素は無害であり、臨界点も比較的低いため、エネルギー消費量も少ない環境に優しい微細粒子の生成装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、上記した本発明に係る微細粒子の生成装置の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
ここで、超臨界晶析法に用いることができる超臨界流体としては、二酸化炭素、アンモニア、水、アルコール等の超臨界流体が挙げられるが、中でも超臨界二酸化炭素が好ましい。これは、二酸化炭素は、その臨界温度が31.3℃、臨界圧力が7.38MPaと、アンモニア(臨界温度:132.3℃、臨界圧力:11.28MPa)、水(臨界温度:374.1℃、臨界圧力:22.06MPa)等に比してその臨界点が低く、容易に超臨界状態とすることができること。また、化学的に安定で、不燃性であることから、取扱いが容易であること。更に、安価であり、自然界に存在する物質であることから、地球環境への負荷が少ないこと。常温・常圧で気体であるため、反応終了後常圧に戻すことにより容易に除去できること、等の利点を有するためである。
そのため、以下、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用いた超臨界急速膨張法の場合につき、本発明を説明する。
なお、図1は本発明に係る微細粒子の生成装置の全体を概念的に示した図、図2〜図7は本発明に係る微細粒子の生成装置の要部であるノズルの種々の実施の形態を概念的に示した図である。
【0018】
図1において、10は超臨界流体の供給手段を示し、該供給手段10は、二酸化炭素ボンベ11、一次バルブ12、圧力計13、冷却装置14、高圧ポンプ15、二次バルブ16、流量計17、加熱器18、及び三次バルブ19から構成され、一次バルブ12を開くことにより二酸化炭素をボンベ11から冷却装置14に供給し、冷却装置14において二酸化炭素を液化し、該液化した二酸化炭素を高圧ポンプ15を用いて加熱器18に圧送し、該加熱器18において二酸化炭素を臨界温度、臨界圧力以上に加熱し、超臨界状態となった二酸化炭素を三次バルブ19を開くことにより、後記する耐圧容器に供給できる構成となっている。
なお、上記流量計17は、コリマス式質量流量計で、配管中を流れる流体の密度、温度、流量及び積算流量を測定することができるものである。
【0019】
また、図1中20は、上記供給手段10より供給された超臨界流体に溶質を溶解させる溶解手段を示し、該溶解手段20は、耐圧容器21、該耐圧容器21を加熱するヒーター22、2組の羽根を取り付けた攪拌羽根23、該攪拌羽根23を回動させるモーター24、耐圧容器21内の圧力及び温度を計測する圧力計25、温度計26を備えている。上記耐圧容器21は、770mlの容積を有し、最大15MPaの圧力に耐え、最高温度388Kまで上昇させることが可能なように設計されている。また、攪拌羽根23の最大回転速度は、10rpsである。
なお、他の超臨界流体を使用する場合は、少なくともその超臨界流体の臨界圧力に充分に耐え、かつ臨界温度以上に上昇させることが可能なように上記耐圧容器21等を設計する必要がある。
【0020】
更に、図1中30は、超臨界流体の噴霧手段を示す。該噴霧手段30は、後に詳述するノズル31と、該ノズル31へ溶質が溶解した超臨界流体を導く配管32と、該配管32の途中に設けられたバルブ33とから構成されている。
また、図中40は微細粒子の回収手段を示し、該回収手段40は、前記ノズル31の前方周囲を覆う回収容器(噴霧室)41で構成され、必要に応じて例えばサイクロン、バグフィルター等の気固分離手段及び排気ブロワー(図示省略)が連設されている。また、42は上記回収容器(噴霧室)41の下部に設けられた熱風供給手段で、この熱風供給手段42には、気体供給装置(図示せず)から一定温度に加熱された気体が供給される。
【0021】
上記ノズル31は、略一定幅の長尺な開口を有するノズルであり、該ノズル31としては、図2〜図7に示した構造のものが例示できる。なお、図2〜図7は、あくまで本発明において使用し得るノズルを概念的に示したものであり、細部、特に固定子と可動子のネジ部(摺接部)のシール構造については省略しているが、このシール構造としては周知のシール構造、例えばニードルバルブにおいて採用されている固定子であるバルブ本体と可動子であるニードルとのシール構造等を好適に採用できる。また、図3〜図7においては、図2に示した部材及び部分と同一の作用効果を果たす部材及び部分には、同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0022】
図2に示したノズル31は、固定子を構成するノズル本体1と、可動子を構成するニードル2とから構成された、流量を微細に調整できるニードルバルブと同一の構造によって開口幅の調整をし得るようにしたものである。
即ち、上記ノズル本体1は、両端面が閉じた略円筒状の部材で、該ノズル本体1の一端面の中央部には円柱状の切り欠き孔3が形成され、側面(又は他の端面)には供給口4が形成されている。そして、供給口4には上記配管32が連結され、耐圧容器21内の溶質が溶解した超臨界流体がこの配管32を介してノズル本体1内に供給される。
【0023】
上記ニードル2は、円柱状部材の先端部を円錐状に形成した形状を成し、他端部には摘み5が装着されている。また、ニードル2にはその胴部に雄ネジ6aが形成され、上記ノズル本体1の他の端面の中央部に形成された貫通雌ネジ6bに螺合されている。そして、該ニードル2は上記ノズル本体1の円柱状切り欠き孔3と同芯に配置され、該ニードル2の円錐状先端部を円柱状切り欠き孔3に侵入させることによって、両者間において略一定幅の長尺な環状の開口7(幅:X、長さ:L)が形成される。
【0024】
上記環状開口7の幅Xは、摘み5を回動することにより任意に調整することができ、該環状開口7の幅Xは30μm以下、更に好ましくは3μm以下に調整でき、長さLは前記幅Xの200倍以上、更に好ましくは2000倍以上に成るように環状開口7が設計されていることが、微細な粒度分布も狭い粒子を安定的に生成させる上において好ましい。また、上記ニードル2の直径は円柱状切り欠き孔3の内径と同じか、それより大きいことが好ましい。
なお、環状開口7の長さLは、厳密には幅方向中央の円周長さとなるが、幅Xは極小であるために円柱状切り欠き孔3の内周長さと考えてよい。
【0025】
図3は、ノズル31の他の実施例を示した図である。
この実施例に係るノズル本体1は、両端面が閉じた略四角筒状の部材である。そして、このノズル本体1の一端面には、図2の円柱状の切り欠き孔3に代えて、直方体状の切り欠き孔3が形成されている。また、図2のニードル2に代えて、先端部が断面視三角形に切り欠かれた略直方体状(略板状)の可動子2が設けられている。
【0026】
図3に示した実施例の場合、可動子2の両側面と直方体状の切り欠き孔3との間に、等間隔の幅X、長さLなる二列の直線状の開口7,7が形成される。そして、摘み5を上下方向にスライドさせることにより、直線状開口7の幅Xを任意に調整することができる。この場合も、直線状開口7の幅Xは30μm以下、長さLは前記幅Xの200倍以上に成るように直線状開口7が設計されていることが、微細な粒度分布も狭い粒子を安定的に生成させる観点から好ましい。また、可動子2の幅は直方体状切り欠き孔3の幅と同じか、それより大きいことが好ましい。
【0027】
図4は、図2に示したニードルバルブの構造のノズル31において、ニードル2の直径と円柱状切り欠き孔3の内径を共に大きくしたノズル31の実施例である。この実施例のように円柱状切り欠き孔3の内径を大きくする、例えば2倍にすると、環状開口7の幅Xが同じでも長さLが2倍となり、環状開口7の面積は2倍(同様に3倍の場合は3倍)となる。そのため、微細粒子の生産量を増大させることができる。
【0028】
図5は、図2のニードル2と円柱状切り欠き孔3との組合せで形成させる環状開口7に加えて、幅が円柱状切り欠き孔3の内径と同じ円環状の切り欠き孔3aを円柱状切り欠き孔3と同芯にノズル本体1に設け、ニードル2の直径と同じ幅を有し、その先端部が断面視三角形に切り欠かれた円筒状の可動子2aをニードル2の胴部に固定し、該円筒状の可動子2aと円環状の切り欠き孔3aとの間においても二列の環状開口7a,7aが形成されるように構成したものである。
この様な構成とすることにより、微細粒子の生産量を更に増大させることができる。なお、円環状の切り欠き孔3aは図示したように断続でも、連続でもよい。但し、連続の円環状切り欠き孔3aとした場合には、中心部を別途部材を設けて支える必要がある。
【0029】
図6は、ニードル2の先端部も円柱状とし、その代わりに切り欠き孔3の形状を外方ほど内径の小さな切頭円錐状にし、環状開口7の幅Xを調整し得るようにしたノズル31の他の実施例である。この実施例においては、環状開口7の長さLも幅Xの調整と同時に調整することができる。また、図示したように、ノズル本体1の内部にロート状側壁部8を形成すると、ノズル本体1の内部において供給された溶質が溶解している超臨界流体が開口7に向かって流れ易いものとなる。
なお、この実施例において、ニードル2の先端部を円錐状(又は切頭円錐状)とし、切り欠き孔3も切頭円錐状にしてもよい。
【0030】
図7は、切り欠き孔3の先端に、外方ほど内径の大きくなる拡開部9を設けたノズル31の更に他の実施例である。このように開口7が形成される切り欠き孔3の先端に拡開部9を設ける、即ち、一度通路面積を絞った後、再び拡大する形状とすることにより、ラバール管の原理により、開口7から噴出された流体の速度は音速を超えることができ、更に微細な粒子の生成が可能となる。
【0031】
上記したようなノズル31を装着した本発明に係る装置を用い、微細粒子を生成するにあたっては、先ず、図1に示した二酸化炭素を冷却して液体にするための冷却装置14を立ち上げ、そこに一次バルブ12を開くことによりボンベ11より二酸化炭素を供給し、二酸化炭素を−20℃前後になるまで冷却して液化する。
【0032】
続いて、液化二酸化炭素を加熱して超臨界流体にするための加熱器18を立ち上げ、該加熱器18に液化した二酸化炭素を高圧ポンプ15を用いて圧送し、該加熱器18において二酸化炭素を臨界温度(31.3℃)、臨界圧力(7.38MPa)以上に加熱・加圧し、超臨界状態の二酸化炭素とする。
【0033】
続いて、耐圧容器21に秤量した一定量の溶質を投入し、そこにバルブ19を開くことにより超臨界二酸化炭素を供給し、ヒーター22を作動させることにより所定の温度と圧力に保持した状態で、モーター24を作動して一定速度で撹絆羽根23を回転させ、超臨界二酸化炭素中に溶質を溶解させる。
【0034】
一定時間経過後、バルブ33を開いてノズル31から回収容器(噴霧室)41内に溶質が溶解した超臨界二酸化炭素を噴出させる。
なお、ノズル31の開口幅Xは、事前に摘み5を操作すること等により最適な開口幅Xに調整しておく。
【0035】
溶質が溶解した超臨界二酸化炭素は、ノズル31を通して大気圧近くまで膨張・低密度かされと急激な温度降下(ジュール・トムソン効果)が起こり、溶質の溶解度が急激に減少(1万分の1以下)する。そのため、溶質の過飽和度が非常に大きくなり、溶質の析出が起こる。
この際、本発明に係るノズル31の開口7は、細長い所謂スリット状であるため、ノズル内で発生した上記溶質の核は、ノズル31の内部に滞留することなく、より圧力損失の低い箇所に粒子が移動し、極めて短時間でノズル31内を通過して回収容器(噴霧室)41内に噴出されるため、溶質の核が大きな粒子に成長することはない。また、ノズル内で発生した溶質の核は、1点に集中することはなく開口7の長手方向に分散するため、衝突が回避され、粒子同士の凝集・癒着によって粒子径が大きくなることもなく、微細な粒度分布も狭い粒子を得ることができる。更に、ノズル31の開口7が上記ノズル内で発生した溶質の核によって閉塞することもなく、また、万一開口7の一部又は全部が発生した溶質の核によって閉塞しても、開口7を一時的に広げることにより閉塞を瞬時に解消することができ、微細粒子を効率的に生成することができる。
【0036】
一方、ノズル31の上方には、熱風供給手段42を介して熱風(例えば、200℃)が供給されているため、噴出された超臨界二酸化炭素及び/又は周囲の大気中の水分が急激な温度降下によって凝結して生成した微細粒子を凝集させることはなく、超臨界二酸化炭素は瞬時に気化して二酸化炭素となり、また生成した微細粒子は瞬時に乾燥される。
なお、ノズル31から噴出された超臨界二酸化炭素が大気圧までその圧力が降下したときに、二酸化炭素の凝固点(−78.5℃)以下にまで温度が降下しないよう、上記耐圧容器21内での二酸化炭素の超臨界状態時における温度と圧力を調整することは、上記の凝結による微細粒子の凝集を起こさせない観点から好ましい。
【0037】
上記気化した二酸化炭素は熱風と共に系外に排出され、生成した微細粒子は回収容器(噴霧室)41において、又は必要に応じて連接されたサイクロン、バグフィルター等によって回収される。
【0038】
ノズル31から粒子が出てこなくなったら、一次バルブ12を止め、耐圧容器21内の超臨界二酸化炭素を抜き、運転を終了する。
【0039】
以上、本発明に係る微細粒子の生成装置の実施の形態を、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用いた超臨界急速膨張法の場合につき説明したが、本発明は、何ら既述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の技術的思想の範囲内において、種々の変形および変更が可能であり、特に、本発明に係るノズルは、既述した超臨界急速膨張法以外に、超臨界貧溶媒法(SAS法、GAS法)においても好適に使用することができるものである。
【試験例】
【0040】
以下に、本発明に係る微細粒子の生成装置の効果を裏付ける試験例を記載する。
【0041】
−原 料−
微細粒子を生成する原料として、関東化学株式会社製のテオフィリンを用いた。このテオフィリンは、キサンチン系気管支拡張剤(喘息治療薬)として用いられる白色粉末の医薬品である。
【0042】
−試験例−
装置として、図1に示した微細粒子の生成装置を使用し、ノズル31は、図2に示したニードル2と円柱状切り欠き孔3との組合せで環状の開口7が形成されるノズル(スウェージロック社製のニードルバルブ、ニードル径:4.0mm、開口幅(x):6μm、開口長さ(L):12.5mm、開口面積:0.075mm2)を使用した。
【0043】
先ず、テオフィリン5gを計量し、図1に示した耐圧容器21に投入した。そこにバルブ19を開けて超臨界二酸化炭素を供給し、圧力15MPa、温度115℃を保持した状態で攪拌羽根23を10rpsの速度で10分間回動し、超臨界二酸化炭素中にテオフィリンを溶解させた。続いて、上記ノズル31からテオフィリンが溶解した超臨界二酸化炭素を回収容器(噴霧室)41内に噴出させ、生成された微細粒子を回収した。
なお、ノズル31の出口付近に設けた熱風供給手段42から200℃の熱風を供給し、噴出させた超臨界二酸化炭素を瞬時に気化させて二酸化炭素とし、また生成した微細粒子を乾燥させた。
【0044】
−比較例−
比較のため、上記試験例のノズル31を、従来より使用されている円筒状のステンレス製ノズル(ノズル内径:0.3mm、ノズル開口面積:0.071mm2)に代え、他は上記試験例と同一の装置及び条件で、上記円筒状のステンレス製ノズルよりテオフィリンが溶解した超臨界二酸化炭素を噴出させ、生成された微細粒子を回収した。
【0045】
−評 価−
上記試験例及び比較例で得られた各々の微細粒子の粒度分布を、レーザ回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、SALD−2000A)を用いて測定した。
その測定結果を、表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
上記表1の微細粒子の粒度分布の測定結果から、開口面積は略同じノズルであるにもかかわらず、本発明に係るノズルを使用した場合には、従来の円筒状ノズルを使用した場合に比して、平均粒子径で8分の1、そして、粒度分布も狭い粒子が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る微細粒子の生成装置の実施例の全体を概念的に示した図である。
【図2】本発明に係る微細粒子の生成装置において用いるノズルの実施例を概念的に示した図であって、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図3】本発明に係る微細粒子の生成装置において用いるノズルの他の実施例を概念的に示した図であって、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図4】本発明に係る微細粒子の生成装置において用いるノズルの更に他の実施例を概念的に示した図であって、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図5】本発明に係る微細粒子の生成装置において用いるノズルの更に他の実施例を概念的に示した図であって、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線に沿う部分の断面図である。
【図6】本発明に係る微細粒子の生成装置において用いるノズルの更に他の実施例を概念的に示した縦断面図である。
【図7】本発明に係る微細粒子の生成装置において用いるノズルの更に他の実施例を概念的に示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 ノズル本体(固定子)
2,2a ニードル(可動子)
3,3a 切り欠き孔
4 供給口
5 摘み
6a 雄ネジ
6b 雌ネジ
7,7a 開口
8 ロート状側壁部
9 拡開部
10 超臨界二酸化炭素の供給手段
11 二酸化炭素ボンベ
12 一次バルブ
13 圧力計
14 冷却装置
15 高圧ポンプ
16 二次バルブ
17 流量計
18 加熱器
19 三次バルブ
20 溶解手段
21 耐圧容器
22 ヒーター
23 攪拌羽根
24 モーター
25 圧力計
16 温度計
30 噴霧手段
31 ノズル
32 配管
33 バルブ
40 回収手段
41 回収容器(噴霧室)
42 熱風供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴出させるノズルと、超臨界流体とを用いた超臨界晶析法による微細粒子の生成装置において、前記ノズルの開口を、略一定幅の長尺な開口としたことを特徴とする、微細粒子の生成装置。
【請求項2】
上記超臨界晶析法が、溶質が溶解した超臨界流体をノズルより噴出させ、溶質を析出させる超臨界急速膨張法、又は溶質を溶解した溶液を超臨界流体中にノズルより噴出、或いは超臨界流体を溶質を溶解した溶液中にノズルより噴出させ、溶質を析出させる超臨界貧溶媒法のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の微細粒子の生成装置。
【請求項3】
上記ノズルの開口が、環状であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の微細粒子の生成装置。
【請求項4】
上記ノズルの開口が、直線状であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の微細粒子の生成装置。
【請求項5】
上記ノズルの開口が、複数個(複数本)形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の微細粒子の生成装置。
【請求項6】
上記開口の幅が30μm以下であり、長さが前記幅の200倍以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の微細粒子の生成装置。
【請求項7】
上記環状の開口が、略円柱状或いは略円環状の切り欠き孔を有する固定子と、該固定子の前記切り欠き孔に侵入する同芯でかつ略円柱状或いは略円筒状の可動子とにより形成されていることを特徴とする、請求項3、5又は6に記載の微細粒子の生成装置。
【請求項8】
上記直線状の開口が、略直方体状の切り欠き孔を有する固定子と、該固定子の前記切り欠き孔に侵入する略直方体状の可動子とにより形成されていることを特徴とする、請求項4、5又は6に記載の微細粒子の生成装置。
【請求項9】
上記開口の幅が、上記可動子の上記固定子への侵入位置によって調整されることを特徴とする、請求項7又は8に記載の微細粒子の生成装置。
【請求項10】
上記固定子の切り欠き孔の先端に、拡開部が設けられていることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の微細粒子の生成装置。
【請求項11】
上記超臨界流体が、超臨界二酸化炭素であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の微細粒子の生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−181553(P2006−181553A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381153(P2004−381153)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000152181)株式会社奈良機械製作所 (15)
【出願人】(503305035)
【Fターム(参考)】