心停止前、心停止中および心停止後の哺乳動物の治療法
心停止前、心停止中および心停止後の哺乳動物の治療法が開示される。このような治療に有用なレボシメンダンを含む医薬品組成物がさらに開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心停止前、心停止中および心停止後の哺乳動物の治療法、ならびに前記方法で使用するのに適した医薬品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
循環器疾患は西洋では依然として死因のトップである。心停止を起こした時、病院内であれ、その他の場所であれ、生存率は比較的低い。さらに、心肺蘇生の初期成功率はおよそ39%(13%から59%の範囲)であるものの、発症した者の大部分は72時間以内に死亡し、主な原因は心不全および/または心室細動の再発である。残念なことに、病院外で蘇生に成功した患者のわずか5%または8人に1人しか入院後に生き延びない。心停止からの蘇生に成功した後に、可逆的心筋障害が実験モデル(Tang et al., Crit. Care Med., 21:1046−1050(1993);Tang et al., Circulation, 92:3089−3093(1995);Gazmuri et al., Crit. Care Med., 24:992−1000(1996);Kern et al., J.Am.Coll.Cardiol, 28:232−240(1996))および患者(Deantonioら. Pacing Clin. Electrophysiol, 13:982−985(1990))で見られた。この機能障害はラットモデルでは2時間から5時間でピークとなり、通常は72時間以内に回復する(Kern et al., J.Am. Coll. Cardiol, 28:232−240(1996))。ヒトの患者では、心筋の収縮機能障害は一週間から二週間持続する場合がある(Deantonio et al., Pacing Clin. Electrophysiol, 13:982−985(1990))。一過性冠動脈閉塞後の可逆的心室機能障害の現象が見られ、それは急性心筋梗塞の『気絶した』心筋と記述される現象と同等である(Braunwald et al., Circulation, 66(6):1146−9(1982))。このことから、心停止からの蘇生に成功した後72時間以内に起こる心室性不整脈と心不全により致死率が高くなることが少なくとも部分的に説明できるであろう(Liberthson et al., N.Engl. J. Med., 291(7):317−321(1974))。
【0003】
通常、心停止時の心臓の除細動への応答およびその後の自発循環の回復または回帰(ROSC)は心停止からCPRや除細動を含む処置まで虚血であった合計時間に依存している。虚血時間が長く、心室細動の期間も長いほど、除細動を含む二次循環救命処置(ACLS)プロトコルへの応答を引き起こすことがより困難になる。(ACLS guidelines,1st paragraph, p.190;またMH Hayes, RA Berg, CW Otto Current Opinion Critical Care 2003;9:211−217)。これは除細動の更なる試行および/またはより大きな除細動エネルギーを必要とするより高い除細動の閾値時間を生み出す虚血による。さらにエピネフリンなどACLSガイドラインにおいて推奨されている薬剤の多くが、およびリドカインなど他の薬剤も除細動の閾値を上げている。除細動のエネルギーおよび試行の累積が大きくなるほど、蘇生後の心筋の損傷と機能障害ならびに循環と臓器灌流の障害は大きくなる。このような臓器灌流の障害もしくは不全がさらに蘇生後症候群の一因となり(ACLS guidelines, 1166ページ)、心停止した者の回復や予後が不良となる一因である。蘇生後の心筋障害はしばしば心筋の電気的不安定および再発性不整脈を引き起こし、さらに除細動を試行する必要が生じ、心筋の損傷をより大きくする可能性がある。(Gazmuri et al., Current Opinion Critical Care 2003;9199−204)。
【0004】
患者において蘇生を行う過程にかかわるその他の要因(すなわち、換気と循環を回復すること)も、心筋の損傷や機能障害の増大に一役買っている可能性がある。たとえば、ドブタミンやノルエピネフリンやエピネフリンなどの現在利用可能な薬剤は、心筋気絶や機能不全の治療に用いられる可能性があるが、心筋や臓器の虚血を誘発および/または悪化させ、酸素消費を増大させ、細胞へのカルシウム流を増加させることがある。加えて、β受容体作動薬活性を持つその他の薬剤(エピネフリンなど)は心停止および/または蘇生後回復を治療するのに使われているが、β受容体刺激による心筋の電気的不安定や異所性活動を増大させ(Gazmuri et al.,上記)、酸素消費量およびβ受容体活性化作用による細胞へのカルシウム流入の増加を引き起こす可能性もある。β受容体作動薬の影響を治療するためにβ受容体拮抗薬を使用し、蘇生後の回復が改善したと述べられている(Gazmuri et al.,上記)。しかし、β受容体拮抗薬は蘇生中または蘇生後の心機能障害の一因となる可能性がある陰性変力作用がある。加えて、β受容体活性化作用の悪影響なしに冠動脈灌流圧を改善することにより、心停止を治療するためにバソプレシンが用いられている。しかし、蘇生後の期間にはバソプレシンの血管収縮作用がより長く持続し、臓器への血流が損なわれる。血管収縮の延長は心後負荷を増大させることにより心筋障害も悪化させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、心停止前、心停止中および心停止後に心筋およびその他の臓器・組織を保護する方法および薬剤が当技術分野で必要である。より具体的には、ROSCまでの時間を改善し、除細動閾値を下げ、蘇生前または蘇生後の心筋障害を最小化または予防し、再灌流障害を最小化または予防しおよび/または心停止を発症している者の生存率を向上させるための治療法が当技術分野で必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本発明は、一般に心停止前、心停止中および心停止後の哺乳動物の治療法、ならびにこれらの方法で使用するのに適したレボシメンダンを含む医薬品組成物に関する。
【0007】
第1の実施形態において、本発明は心停止状態にある哺乳動物における自発循環を回復する方法を提供し、この方法は哺乳動物に心肺蘇生(CPR)および除細動ショックを適用するステップを含み、その改良は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与することを含む。レボシメンダン化合物はレボシメンダンまたはレボシメンダン代謝物であることが好ましい。レボシメンダン化合物を投与するステップはCPRの適用発生時に行うことが好ましい。
【0008】
第2の実施形態において、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法を提供し、この方法は除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、および効果的な心調律を回復するのに十分な頻度で除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこの頻度は標準と認められた治療プロトコルによって確立された頻度と比較して低い。
【0009】
代替の実施形態において、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法を提供し、この方法は以下のステップを含む:前記除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、および効果的な心調律を回復するのに十分な頻度で除細動ショックを適用するステップ、ここでこの頻度はレボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある類似の哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度と比較して低い。
【0010】
第3の実施形態では、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法を提供し、この方法は除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、およびならびに効果的な心調律を回復するのに十分なエネルギーで除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこのエネルギーは標準と認められた治療プロトコルによって確立された頻度と比較して少ない。
【0011】
代替の実施形態において、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法を提供し、この方法は除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップおよびに効果的な心調律を回復するのに十分なエネルギーで除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこのエネルギーはレボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある同様の哺乳動物に適用するエネルギーと比較して低い。
【0012】
第4の実施形態において、本発明は心停止からの蘇生中または蘇生後に治療を必要とする哺乳動物に心筋障害を治療する方法を提供し、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップを含む。
【0013】
第5の実施形態において、本発明は治療を必要とする哺乳動物の心不整脈を治療する方法を提供し、この方法は哺乳動物に1回もしくはそれ以上の除細動ショックを適用するステップを含み、その改良は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与することを含む。レボシメンダン化合物の投与は、前記の1回もしくはそれ以上の除細動ショックを適用した後に行うことが好ましい。
【0014】
第6の実施形態において、本発明は心停止後に哺乳動物の臓器機能を保護する方法を提供し、ここでこの方法は哺乳動物に自発循環を回復させるステップを含み、その改良は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与することを含む。該臓器機能は脳、腎臓もしくは肝臓の機能が好ましい。
【0015】
第7の実施形態において、本発明は心停止または全体的な虚血に先立ち、治療を必要とする哺乳動物に心筋障害を予防する方法を提供し、この方法は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップを含む。
【0016】
前記実施形態のいずれかまたはすべてにおいて、レボシメンダン化合物の投与は単回投与または持続注入のいずれかで化合物を投与することを含む。哺乳動物への投与は非経口経路で行われることが好ましく、静脈内、気管内、動脈内、経皮または心臓内投与によって行われるのがより好ましい。
【0017】
前記実施形態のいずれかまたはすべてにおいて、哺乳動物はヒトが好ましい。加えて、前記実施形態のいずれかまたはすべてにおいて、レボシメンダン化合物の哺乳動物への投与は約0.01〜約5.0μg/kg/分で、約0.05〜約0.4μg/kg/分が好ましく、約0.1μg/kg/分がより好ましい。あるいは、レボシメンダン化合物の投与は約0.06〜約36μg/kgである。
【0018】
加えて、前記実施形態のいずれかまたはすべてにおいて、前記方法は治療有効量のアドレナリン受容体遮断薬を哺乳動物に投与するステップをさらに含む。アドレナリン受容体遮断薬はβアドレナリン遮断薬またはαアドレナリン遮断薬のいずれでもよい。βアドレナリン遮断薬の場合、β−1アドレナリン遮断薬またはβ−2アドレナリン遮断薬のいずれでも良い。βアドレナリン遮断薬はプロパノロール、メトプロロール、エスモロールまたはアテノロールが好ましい。あるいは、αアドレナリン遮断薬の場合、α−1アドレナリン遮断薬とする。βまたはαアドレナリン受容体遮断薬として特徴付けられる薬剤はカルベジロールが好ましい。
【0019】
(発明の詳細な説明)
ここで参照したすべての抄録、参考文献、特許および公開された特許出願は、その全体を参照することによってここに含まれる。
【0020】
ここで使われる「アドレナリン受容体遮断薬」の語句はアドレナリン受容体を遮断する作用を持ついずれの薬剤を指す。本発明の文脈においてはしたがって、このような薬剤にはプロパノロール、メトプロロール、カルベジロールなどのアドレナリン受容体遮断薬と認められている薬剤、およびこの遮断作用を有する他の化合物が含まれる。
【0021】
ここで使われる「心不整脈」の語句は異常心拍または異常拍動を指す。この状態はペースメーカー機能を維持するための結節における欠陥によって、あるいは電気伝導系の不全によって引き起こされる場合がある。不整脈の例には、以下に限定されないものとして徐脈、頻脈(上室性頻拍および心室性頻拍など)、心室細動および期外収縮が含まれる。「心不整脈を治療すること」とは心不整脈の状態を軽減または回復させることを指す。
【0022】
ここで使われる「徐脈」の用語は心臓は確実に収縮しているが、1分あたりの収縮回数が60未満である循環状態を指す。
【0023】
ここで使われる「心停止」の用語は心拍出および有効な循環の停止を指す。心停止は通常心室性頻拍および心室性細動(または両方)もしくは徐脈などの心不整脈により誘発される。心停止は心臓病または心発作に起因する場合または呼吸停止、感電死、溺死、窒息および外傷など他の要因に起因する場合がある。心停止が発生したとき、酸素の供給および二酸化炭素の除去が停止し、組織細胞の代謝が無酸素性となり、その結果、代謝性アシドーシスおよび呼吸性アシドーシスが起こる。心臓、肺、腎臓および脳の損傷を防ぐには、直ちに心肺蘇生を開始する必要がある。脳死および永久死は心停止後4−6分以内に起こり始める。
【0024】
ここで使われる「心肺蘇生」または「CPR」の語句は、マウス・ツー・マウス換気および胸部圧迫(通常は個人により器具を用いずに)をそれを必要とする個人に行うプロセスを指す。CPR適用のための治療ガイドライン基準は当該技術分野については十分に確立されている(たとえば米国心臓協会(AHA)/国際蘇生法連絡委員会(ILCOR))の二次循環救命処置(ACLS)ガイドラインを参照)。(たとえばCirculationの補遺版102巻(8)、2000年8月22日を参照)
【0025】
ここで使われる「うっ血性心不全」の語句は体の他の器官へ十分な血液を送り出す能力が損なわれたことを特徴とする心臓の異常な状態を指す。うっ血性心不全は冠動脈疾患、心筋梗塞、心内膜炎、心筋炎または心筋症を含む多くの状況に起因する場合がある。心室が血液を駆出できないと、容量負荷、心室拡張、および心内圧の上昇に陥る。静水圧増大が左心から逆行伝達されることは肺うっ血をひきおこす;右心圧上昇は体静脈うっ血や末梢浮腫をひきおこす。
【0026】
ここで使われる「除細動」の用語は有効な心調律の回復を伴う心筋(心房または心室)の細動停止または休止を指す。通常、除細動は電気ショックを供給する装置(たとえば除細動器)を用いて行われる。
【0027】
ここで使われる「有効な心調律」の語句は、たとえば個人の安定および/または生存など好ましい治療結果が得られた心調律を指す。
【0028】
ここで使われる「期外収縮」の用語は異所性刺激による脱分極に起因する異常な心収縮を指す。
【0029】
ここで使われる「虚血」の用語は血流が体の一部に限定されている状態を指す。虚血は血液供給の機械的閉塞(たとえば、動脈狭窄)に起因する場合がある。「局所虚血」は臓器の一部への血流が制限されている状態を指す。「全体虚血」は臓器全体への血流が制限されている状態を指す。
【0030】
ここで使われる「レボシメンダン化合物」の用語はレボシメンダンのラセミ混合物または鏡像異性体あるいはレボシメンダン代謝物のラセミ混合物または鏡像異性体を指す。「レボシメンダン」の用語は具体的に[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの(−)−鏡像異性体を指す。
【0031】
ここで使われる「哺乳動物」の用語は哺乳綱の脊椎動物で、多少なりとも体毛で覆われ、乳腺から出る乳で子供を養い、孵卵性の単孔類を除き、生きた子供を出産するものを指す。哺乳動物の例としては以下に限定されないものとして、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ブタ、サルおよびヒトを含む。哺乳動物はヒトが好ましい。
【0032】
ここで使われる「心筋障害」の語句は、心拍出量の低下、心収縮性の低下および心停止または心停止を治療するために使われた治療に付随または起因してあるいはそれにより引き起こされた左室充満圧の増加を伴う動脈圧の低下を特徴とする心臓の状態を指す。「心筋障害の治療」または「心筋障害の改善」は心筋障害の緩和、減弱、回復または軽減を指す。心筋の機能/機能障害は、当業者に周知の器具および手段を使って測定される。
【0033】
ここで使われる「製薬学的に許容される塩」の語句は、レボシメンダンなど生理学的に製薬用途に適した有効成分の塩の形状を指す。
【0034】
ここで使われる「臓器機能を保護すること」の語句は、心停止後、哺乳動物について有効な臓器機能を回復すること、有効な臓器機能を維持することまたは臓器機能がさらに悪化するのを防ぐことを指す。
【0035】
ここで使われる「標準と認められた治療プロトコル」の語句は、当該分野の施術者が特定の状態を治療する手段として認めた一連の指導ガイドラインを指す。例としては、AHA/LIROCにより制定された心停止を起こした個人へのCPRの投与および除細動に関するガイドラインが、標準と認められた治療プロトコルである。
【0036】
ここで使われる「自発循環を回復させること」、「自発循環を復旧させること」または「ROSC」の語句は、個人の自発的な血液循環の復旧または再開を指す。個人が自発循環を維持するために追加の支援手段が必要な場合と必要でない場合がある。
【0037】
ここで使われる「頻脈」の用語は、1分当たり100拍以上で収縮する心臓の状態を指す。
【0038】
ここで使われる「心室細動」の語句は、電気的刺激、伝導、および心室収縮の組織化の欠如を特徴とする心臓の状態を指す。
【0039】
本発明は心筋障害の特殊な状態を罹患している哺乳動物を治療するための改良された方法を提供する。より具体的には、本発明は全体的な心虚血またはそのような虚血に先行するいずれかの不整脈に罹患している哺乳動物を治療するための方法を提供する。さらに具体的には、本発明の方法は上述の状態を起こし、その治療を必要としている哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与することを含む。
【0040】
一つの態様として、本発明は心停止状態にある哺乳動物に自発循環を回復する改良された方法に関する。具体的には、この改良には心停止中でその治療を必要としている哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与することを含む。ここで哺乳動物とは自発循環を回復するために、心肺蘇生(CPR)および除細動ショックを処置されているかまたは処置されるであろうものとする。米国心臓協会(AHA)は国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)と共同で、心停止を起こしている個人を蘇生させるためのガイドラインを制定し、それには自発循環を回復する手順が含まれる。これらのガイドラインは心停止状態にある個人を治療する救急医療体制(EMS)職員(たとえば救急医療士)や病院のスタッフに認められた治療プロトコルの標準を制定しており、またこれらの人々や病院および病院以外の施設に従事している医療提供者によって、日常的に実施されている。しかし、当業者はまた、このガイドラインはこのような治療を必要とする個人全員に対して一般に適用されるが、実際に行われる治療はその必要度に応じて個人個人でばらつきがありうることを理解している。
【0041】
哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与するステップは、哺乳動物が心停止を起こすと予測される時期の直前、あるいは哺乳動物が実際に心停止中または心停止を起こした後の時点でのいつでも実施することができる。さらに、レボシメンダン化合物を投与するステップは、単回投与または大量瞬時投与あるいは持続注入でレボシメンダン化合物を投与する場合がある。哺乳動物が心発作を起こしやすい時期、または実際に心停止である時期を決定する方法は周知であり、当業者の技術内であるものに、以下に限定されないものとして、心電図(ECG)の使用およびクレアチニンキナーゼ−MB、ミオグロビンおよびトロポニンIの臨床検査が含まれる。
【0042】
別の実施形態として、本発明は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を除細動治療に先立ち哺乳動物に投与することで、(1)血行動態的に有効な心機能を再開するために、心室細動を起こしている哺乳動物に除細動治療を繰り返さなければならない場合その回数を低減すること;および/または(2)心室細動を起こしている哺乳動物に血行動態的に有効な心機能を再開するための除細動療法中に加えられるエネルギー量(すなわち電流)を低減することができる、という発見に関する。
【0043】
ひとつの態様として、本発明の方法は、心停止前または心停止状態にある哺乳動物に、一回またはそれ以上の除細動ショックを適用する前に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与するステップ、ならびに効果的な心調律を回復するのに十分な頻度(すなわち回数)で除細動ショックを適用するステップを含んでおり、ここでその頻度は標準と認められた治療プロトコルにより確立された頻度と比較して少ない。上記のように、標準と認められた治療プロトコルは、たとえばAHA/ILROCにより心停止状態にある個人に除細動を行うために確立された。このような個人はCPRを必要とする場合もあるし、しない場合もある。好ましくは、除細動ショックの回数は50%まで低減するのが好ましく、60%までがさらに好ましく、70%までがさらに好ましく、80%までがさらに好ましく、90%までがよりさらに好ましく、100%までがさらにより好ましい。
【0044】
代替の実施態様として、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法を提供し、この方法は一回またはそれ以上の除細動ショックを適用する前に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、ならびに効果的な心調律を回復するのに十分な頻度で除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこの頻度はレボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある同様の哺乳動物に適用される除細動ショックの頻度と比較して少ない。好ましくは、除細動ショックの回数は50%まで低減するのが好ましく、60%までがさらに好ましく、70%までがさらに好ましく、80%までがさらに好ましく、90%までがよりさらに好ましく、100%までがさらに好ましい。
【0045】
さらに別の態様として、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法を提供し、この方法は一回またはそれ以上の除細動ショックを適用する前に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、ならびに効果的な調律を回復するのに十分なエネルギーで除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこのエネルギーは標準と認められた医療プロトコルによって確立された除細動ショックのエネルギーと比較して少ない。好ましくは、除細動ショックのエネルギーは50%まで低減するのが好ましく、60%までがさらに好ましく、70%までがさらに好ましく、80%までがさらに好ましく、90%までがよりさらに好ましく、100%までがよりさらに好ましい。
【0046】
さらに別の代替の態様として、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法を提供し、この方法は一回またはそれ以上の除細動ショックを適用する前に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、ならびに効果的な調律を回復するのに十分なエネルギーで除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこのエネルギーは前記レボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある同様の哺乳動物に適用される除細動のエネルギーと比較して少ない。好ましくは、除細動ショックのエネルギーは50%まで低減するのが好ましく、60%までがさらに好ましく、70%までがさらに好ましく、80%までがさらに好ましく、90%までがよりさらに好ましく、100%までがよりさらに好ましい。
【0047】
ここで開示されたいずれの実施形態および/または態様において、除細動治療は除細動器によって提供されてよく、この除細動器は心室細動を起こしている対象者に血行動態的に有効な心機能を再開するために、哺乳動物の胸部またはその心臓に直接電気ショックを与えるものである。除細動電極は好ましくは心臓に向かい合う反対側(左側および右側心室心外膜上など)に置かれ、できる限り多くの心筋量が除細動ショックの直流通路内に置かれるようにする。通常、除細動器は約200ジュールから約400ジュールのエネルギーを対象者に与える。除細動を成功させる秘訣は心室細動または他の不整脈を停止させるのに十分なエネルギー(すなわち電流)を心臓に与えることである。このエネルギーは治療される対象者に損傷(熱傷や記憶喪失など)を与えるほど大きくすべきでない。一般に、除細動の初回試行以降、その後の除細動で適用されるエネルギー(電流)は増大し、それにより対象者に損傷を与えるリスクも増加する。除細動治療は非常に重要な医療手段であるが、除細動ショックが適用されるごとに、治療される患者に損傷を与えるリスクは増加する。
【0048】
さまざまなタイプの除細動器が当技術分野で周知である。具体的には外用(手動式除細動器または自動外用除細動器など)または体内用(埋め込み型電気除細動器など)がある。通常、埋め込み型除細動器は対象者の心臓の働きを監視し、必要時に自動的に電気療法パルスを対象者の心臓に供給する。本発明の方法において哺乳動物に除細動治療を提供するステップは、以下に限定されないものとして、哺乳動物の治療中、すなわち心停止前、心停止中または心停止後のいつでも可能である。好ましくは、除細動治療の提供は心停止の発症時に行う。加えて、除細動はレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩の投与前、投与中または投与後に行なってよい。
【0049】
さらなる実施形態として、本発明は、以下に限定されないものとして、上室性頻拍、心室性頻拍、心室細動および期外収縮心などの不整脈を呈している哺乳動物を治療するための改良された方法を提供する。具体的には、この改良は心不整脈を呈し、その治療を必要としている哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与することが含み、ここで動物は一回またはそれ以上の除細動ショックを処置される。
【0050】
治療を必要とする哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与するステップは、哺乳動物が心不整脈を呈している間いつでも実施することができる。心不整脈を測定する方法は当業者の技術内で周知であり、心電図の使用を含む。
【0051】
さらなる実施形態として、本発明は、心停止または全体的な虚血に先立ち、心筋傷害の予防が必要な哺乳動物に心筋障害を予防する方法に関し、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップを含む。このような「前処理」は心停止中に発症しうる虚血性損傷から心筋を保護する。治療を必要とする哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与するステップは、たとえば心臓手術に先立ち実施することができる。
【0052】
さらなる実施形態として、本発明は心停止後に蘇生された哺乳動物における心筋障害を治療する方法に関する。この方法は心停止後に蘇生され、その治療を必要とする哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップを含む。具体的には、本発明者らはレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩が、心筋機能の改善ならびに哺乳動物の蘇生後の生存期間の延長に使用可能であることを発見した。さらに具体的には、本発明者らはレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩が、自発循環が回復した後の哺乳動物に投与された場合、心機能を改善し、心室充満圧を低減し、より大きな変力効果を提供することを発見した。
【0053】
治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を治療を必要とする哺乳動物に投与するステップは、対象者が心停止後に自発循環を回復し、心筋傷害を呈している後のいつでも実施することができる。心筋傷害を測定する方法は当業者の技術内で周知であり、心電図の使用を含む。
【0054】
別の実施形態として、本発明は哺乳動物の臓器機能を保護する改良された方法を、それを必要とする哺乳動物に提供する。具体的には、この改良はそのような治療を必要としている哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与することが含み、ここで哺乳動物とは自発循環を回復したものである。自発循環を回復することが必要にもかかわらず、ROSCに起因する臓器や組織の再灌流は、「再灌流傷害」として知られる状態を哺乳動物に引き起こす場合がある。「再灌流傷害」は再灌流に関連した一連の病態を指し、他の状態のうち、心筋気絶、微小血管および内皮障害、および不可逆性細胞損傷または壊死が認められる(Subodh Verma et al.,臨床の心臓病専門医のための再灌流障害,Circulation, 105巻:2332−2336 (2002))。再灌流障害のメディエーターには酸素遊離基、細胞内カルシウム過負荷、内皮障害、微小血管障害、および心筋代謝の変化が含まれる場合がある(S.Verma et al.,上記)。したがって、ひとつの態様として、本発明は臓器機能を再灌流障害の影響から保護する方法を提供する。本方法はいかなる臓器も保護する場合があるが、好ましくは脳、腎臓、肝臓および心組織である。当業者が理解するように、本発明により保護され得る範囲は、臓器損傷の初期の重篤度によりさまざまである。治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を臓器の保護を必要とする哺乳動物に投与するステップは、蘇生または自発循環回復前あるいは後のいつでも実施可能である。
【0055】
臓器の機能障害/機能を測定する方法は当業者で周知であり、臓器の機能または障害を測定するいずれの手段をも含む。たとえば、臓器の機能障害/機能は臓器のバイアビリティを示す酵素またはそれ以外の指標の値を評価することにより測定される場合があり、これには、以下に限定されないものとして、心トロポニンI(心組織用)、クレアチニンまたはBUN(腎組織用)、血清ASTおよびALT(肝組織用)などがある。臓器バイアビリティを測定するその他の手段に、脳組織用に脳波図、心組織用に心電図などが含まれる。
【0056】
ここで記述されたいずれの実施形態および/または態様、レボシメンダン化合物を投与するステップにおいて、この化合物は[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの(−)と(+)の両方を含むレボシメンダンのラセミ混合物または(−)−鏡像異性体のみ(例えば(−)−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ)プロパンジニトリル)またはラセミ代謝物(N−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]アセトアミド)または鏡像異性体代謝物([R]−N−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]アセトアミド)を含む。好ましいレボシメンダン化合物は(−)−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルである。レボシメンダンのラセミ混合物を作成する方法は、1991年5月28日に公開された米国特許第5,019,575号および1995年9月6日に公開された欧州特許第EP 0 383 449号に記述されている。[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの(−)−鏡像異性体(すなわちレボシメンダン)を作成する方法は、1995年6月13日に公開された米国特許第5,424,428号および1995年3月8日に公開された欧州特許第EP 0 565 546号に記述されている。レボシメンダン代謝物のラセミ混合物を調製する方法は、それぞれ1973年7月17日および1983年8月9日に公開された米国特許第3,746,712号および4,397,854号に記述されている。代謝物の[R]−鏡像異性体を調製する方法は、1999年3月18日および2003年4月29日に公開された米国特許第5,905,078号およびRE38,102 E、ならびに2004年3月10日に公開された欧州特許第EP 1 087 769号に記述されている。
【0057】
さらに、ここで記述されたいずれの実施形態および/または態様において、心停止直前または心停止中の哺乳動物に有利なように、その他の化合物も投与可能である。これらの化合物は本発明によるレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩の投与前、投与後または投与と同時に投与可能である。たとえば、アドレナリン遮断薬による治療を受けていて、心停止の発作がある患者は、レボシメンダン化合物による治療を受けてもよい。投与可能な化合物の例は、アドレナリン受容体遮断薬、抗血栓薬、血管拡張薬および鎮痛薬を含む。投与可能なアドレナリン受容体遮断薬は、β−1アドレナリン受容体遮断薬またはβ−2アドレナリン受容体遮断薬などのβアドレナリン受容体遮断薬およびα−1アドレナリン受容体遮断薬などのαアドレナリン受容体遮断薬を含む。投与可能なβアドレナリン受容体遮断薬の例は、以下に限定されないものとして、アテノロール、メトプロロール、エスモロールおよびプロパノロールおよびカルベジロールを含む。投与可能なαアドレナリン受容体遮断薬の例は、以下に限定されないものとして、カルベジロールを含む。投与可能な抗血栓薬の例は、以下に限定されないものとして、アスピリンを含む。投与可能な血管拡張剤の例は、以下に限定されないものとして、ニトログリセリンを含む。投与可能な鎮痛薬の例は、以下に限定されないものとして、硫酸モルヒネを含む。一般に、治療有効量の上述の化合物のいずれも、その治療を必要とする哺乳動物に投与され、また実際に投与される量は治療されるべき状態、投与経路、対象者の年齢、体重、および状態に依存し、熟練した医師により適宜決定することができる。
【0058】
本発明によれば、レボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩は治療を必要とする哺乳動物に、当技術分野で周知であるさまざまな経路によって投与可能であり、これは経口および経直腸などの経腸投与、または皮下、筋肉内、腹腔内、舌下、静脈内、気管内、動脈内、経皮または心臓内などの非経口投与を含む。哺乳動物の治療を取り巻く状況が緊急の場合、好ましい投与経路として心臓内注入が示唆される場合がある。
【0059】
ここで使われる「治療有効量」または「製薬学的に効果のある量」の用語は、必要な投与量および期間で望ましい治療結果を得るのに有効なレボシメンダン化合物の量を意味する。哺乳動物に投与されるべき治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩は、治療されるべき状態、投与経路、対象者の年齢、体重、および状態に依存し、熟練した医師の技術内で周知である。一般に、レボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩は、約0.01〜約5.0μg/kg/分、好ましくは約0.5〜約0.4μg/kg/分、最も好ましくは約0.1μg/kg/分の量で投与可能である。哺乳動物の状態の性質次第で、レボシメンダンまたは製薬学的に許容されるその塩を、心停止の直前または心停止中から治療効果が得られるまで持続的に投与する場合もある。大量瞬時投与は可能であり、またはその投与後に上述のように持続的投与することもできる。
【0060】
別の実施形態として、本発明は哺乳動物の心停止を治療する製剤に関わる。本発明の製剤は、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩および製薬学的に許容される担体を含む。本発明の製剤は、治療を必要とする哺乳動物に投与された場合、上記哺乳動物の自発循環を回復するのに十分であり、その際、製剤はCPRおよび除細動の実施と共に投与される。
【0061】
別の実施形態として、本発明の製剤は、治療を必要とする哺乳動物に投与された場合、除細動ショックの頻度またはエネルギーを低減するのに十分であり、除細動と共に投与される。別の実施形態として、本発明の製剤は、治療を必要とする哺乳動物に投与された場合、心不整脈を治療するのに十分であり、除細動と共に投与される。別の実施形態として、該製剤は、治療を必要とする哺乳動物に投与された場合、心停止からの蘇生後に投与される際に臓器機能を保護するのに十分である。レボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩はいずれの剤型の製剤でも使用できるが、フリーズドライが好ましい。本発明による製剤はその他の適切な賦形剤、担体、または必要または望ましい他の化合物を含むことができる。
【0062】
本発明による製剤は、所望の純度を持つ有効成分(たとえばレボシメンダン、および以下に限定されないものとしてアドレナリン受容体遮断薬などのその他化合物)を、場合によっては凍結乾燥製剤または水溶液状の生理的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することによって調製してよい(レミントンの薬学第16版、Osol, A. Ed. (1980))。好ましくは、本発明の製剤は実質的に水分を含まない。許容される担体、賦形剤あるいは安定剤は投与量および濃度が受容者にとって無毒であり、およびリン酸塩、クエン酸塩、他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む単糖類、二糖類および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトールやソルビトールなどの糖アルコール、ナトリウムなどの塩を形成する対イオン;および/またはTWEEN商標、PLURONICS商標またはPEGなどの非イオン性界面活性剤を含む。
【0063】
本発明の製剤の投与量および所望の薬物濃度は、治療されるべき状態、投与経路、対象者の年齢、体重、および状態に依存し、熟練した医師の技術内で周知である。加えて、ヒトへの治療にとって有効な投与量を決定するための信頼できる指針が動物実験により得られた。
【0064】
本発明は上述の記述および実施例によって例示される。上述の記述は多くのバリエーションは当業者にとって明らかとなるため、限定されない説明として意図された。
【0065】
ここで記述された本発明の方法の組成物、操作および調製に関する変更は、本発明の概念および要旨を逸脱しない範囲で実施可能である。
【実施例1】
【0066】
心停止後に蘇生された哺乳動物における心筋障害を治療するためのレボシメンダン使用
すべての動物は、アメリカ医学研究協会により制定された実験動物取り扱いの原則および研究用動物資源協会により作成され、アメリカ国立衛生研究所により出版された実験動物の取り扱いと使用に関する指針(NIH出版86−32、1985年改訂)に従い、人道的な取り扱いを受けた。
【0067】
方法:体重が500〜550gの雄のSprague−Dawleyラットに水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ペントバルビタール(45mg/kg)の腹腔内投与により動物を麻酔した。麻酔を維持するため、およそ1時間の間隔を置いて、または必要に応じて追加投与(10mg/kg)したが、心停止の誘発前30分間は麻酔薬の投与は行わなかった。145°曲がったチップ付鈍針上に取り付けた14gカニューレを、Stark法に従い径行的に気管に挿管した(Stark et al., J. Appl. Physiol. Resp. Environ. Exercise Physiol, 51(5): 1355−1356 (1981))。血管カテーテル法、血行動態測定、採血、ETCO2の監視、VFの誘発および前胸圧迫の手順は、Von Planta I et al., J. Appl. Physiol,65(6): 2641−2647 (1988)に記載されているように実施した。
【0068】
左室圧およびdP/dt40と下降dP/dtmaxを測定するため、ポリエチレン製カテーテル(PE50,Becton−Dickinson)を外科的に露出させた右頚動脈から左室まで進めた。長さ10cmで直径0.5mmの熱電対マイクロプローブを右大腿動脈から挿入し、大動脈弁まで進め、さらに遠位の上行大動脈に引き抜いた。このセンサーで血液温度を測定した。心拍出量測定のため、0.2mLの等張食塩水(室温)を左内頚静脈から進めたカテーテル経由で右房へ注入した。二重の熱希釈曲線を得て記録し、心拍出量コンピュータシステム(Model CO100, ICCM, Palm Springs, CA)を使って心拍出量を算出した。
【0069】
右内頚静脈から右室に進めたガイドワイヤー経由で、心室細動(「VF」)を誘発した。60Hzの電流を最大2mAまで漸進的に増加させ、右室心内膜まで供給し、自発除細動を防ぐため、電流を3分間流した。VFの発症後、機械的人工換気を停止した。VFの発症後、VFは6分間治療されず、空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って換気および前胸圧迫を含むCPRを完了した。これらの手順はVon Planta I et al. J. Appl. Physiol,65(6): 2641−2647 (1988)に記載の通りであり、技術について詳細に記述されている(Tang et al., Circulation, 92: 3089−3093 (1995); Sun et al., J. Pharm. Exp. Ther., 291: 773−777 (1999)を参照)。前胸圧迫の開始と同期して、動物に機械的換気を実施した。1回換気量を0.65mL/100g動物体重、100回/分の頻度、1.0のFiO2と定めた。前胸圧迫を200回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、2:1の圧迫/換気率を与えるよう同調させた。冠動脈灌流圧(CPP)が18〜22mmHgになるように圧迫の深さを最初に調節した。これにより通常8〜12mmHgの呼気終末PCO2を得た(Von Planta I et al., J. Appl. Physiol,65(6): 2641−2647 (1988)を参照)。動脈圧と血管ガスを測定するため、カテーテルを左大腿動脈まで進めた。血管ガスを測定するため、別のカテーテルを左大腿静脈まで進めた。蘇生は2ジュールのカウンターショックで3回まで試行した。自発循環の回復を、最低5分間に平均大動脈圧が60mmHgである上室性調律が回復した場合、と定義した。第1群では、動物は封印封筒方式により無作為化され、VF誘発直後に3種類の治療法のひとつに割り付けられた。レボシメンダンの大量瞬時投与(12μg/kg)の後、0.3μg/kg/分の持続的投与を行った。第2群では、ドブタミンの持続的注入(3μg/kg/分)を比較群の右房に開始した。プラセボの第3群では、等量のレボシメンダン希釈液を大量瞬時投与として注入し、その後レボシメンダンとドブタミンと等量の持続的注入を行った。蘇生後(PR)計240分間、注入を持続した。機械的人工換気は100%の吸入酸素で全体として蘇生後4時間持続した。動物は麻酔から覚醒し、気管内チューブを含むすべてのカテーテルが4時間後に抜去された。動物はケージに戻された。剖検の後、組織(心臓、肝臓、腎臓)が採取され、室温でホルマリンに保存された。
【0070】
レボシメンダンを独立変数とした。従属変数は蘇生後の心筋機能および生存期間であった。血行動態および代謝測定を含む各実験の主要結果因子については、バラメータ解析に適当であることが前もって証明されている。以前の経験から、均一の分散を持つ正規分布であることが示された。したがって、分散分析および共分散分析をデータ解析の主要方法とした。群間測定には、ANOVAおよびシェッフェの多重比較を採用した。
【0071】
実行可能性研究および用量漸増法:用量漸増法の結果を図1、2および3に示した。レボシメンダンを12μg投与後に0.3μg/kg/分投与すると、心拍出量が増大し、動脈圧が減少したが、これはドブタミン3μg/kg/分により生じたものと同程度であった。より高用量のレボシメンダンは動脈圧を下げ、心拍数を上げ、心拍出量もさらに増大した。
【0072】
結果:蘇生10分後(PR10)および投薬後、3群間で動脈圧に有意差は見られなかった(図4)。さらに、動脈血ガス、動脈血乳酸、呼気終末PCO2のいずれについても、表1および2に示したように、群間で有意差は見られなかった。ドブタミンはぎりぎりの有意性の心拍増大をもたらした(図5)。レボシメンダンとドブタミンは心係数に同程度の増加をもたらし(図6)、また初期に有意に高い1回拍出量をもたらした(図7)。全身血管(動脈)抵抗については、レボシメンダンはプラセボコントロールと比較して、有意な低下を示した(図8)。レボシメンダンはdP/dt40に反映されたように、収縮性についてより大きな増加を一貫してもたらした(図9)。より顕著な変弛緩(弛緩)効果がドブタミンに見られた(図10)。しかし、もっとも顕著なのはレボシメンダンを投与された動物で、コントロールやドブタミンを投与された動物に比較して、実質的に低く正常に近い左室拡張期(充満)圧が見られたことである(図11)。最後に、レボシメンダン群の蘇生後生存期間はドブタミン群や特にプラセボ群に比較して有意に長かった(図12)。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【実施例2】
【0075】
蘇生後ラットの心筋不全治療におけるドブタミンとレボシメンダンとの比較
ドブタミンは遷延した心停止からの蘇生後に生じる心筋収縮不全の管理に幅広く使われている。しかし、ドブタミンは虚血性心筋障害の重篤度を増大させる可能性がある。代替変力物質であるレボシメンダンは虚血性障害の重篤度を増加させることなく、心筋の収縮性を改善する可能性を有する。したがって、レボシメンダンを心停止からの蘇生後に投与した場合、ドブタミンやプラセボと比較して、蘇生後の虚血性心筋障害を軽減し、転帰を改善するか否かを調べる実験を行った。
【0076】
動物の準備:体重が450〜550gの雄のSprague−Dawleyラット15匹に水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ペントバルビタール(45mg/kg)の腹腔内投与により動物を麻酔した。麻酔を維持するため、およそ1時間の間隔を置いて、もしくは必要に応じて10mg/kgの追加腹腔内投与を行った。心停止の誘発前30分間は麻酔薬の投与は行わなかった。
【0077】
145°曲がったチップ付鈍針上に取り付けた14ゲージのカニューラ(Abbocath−T;Abbott Hospital Inc.,North Chicago,IL)を、前述の方法に従い経口的に気管に挿管した。20気管カニューラと人工呼吸器の間に挿入した副流赤外線CO2分析器(Model 200;Instrumentation Laboratories,Lexington,MA)を使って、呼気終末PCO2(PETCO2)を測定し、適切な分時換気が行われていることを確認した。左室圧、dP/dt40および下降dP/dtmaxを測定するため、23ゲージのポリエチレン製カテーテル(PE50,Becton−Dickinson,Sparks,MD)を外科的に露出させた右頚動脈から左心室まで進めた。高感度の圧力変換器(Model 42584−01;Abbott Critical Care System,North Chicago,IL)を使って、圧力を測定した。装置の最適な減衰周波数応答は22Hzであった。23ゲージのポリエチレン製カテーテル(PE50)を左外頚静脈、上大静脈を経由して右心室まで進めた。圧力をモニターしながら、カテーテルをゆっくりと右心房まで引き抜いた。別の高感度圧力変圧器(Abbott Model 42584−01)を使って、中胸部を基準にして右房圧を測定した。このカテーテルは温度トレーサーの注入口としても用いた。4Fサイズのポリエチレン製カテーテル(Model C−PMS−401J;Cook Critical Care,Bloomington,IN)を右外頚静脈を経由して右心房まで進めた。本カテーテルに付属している予めカーブしているガイドワイヤーを、カテーテル経由で心内膜心電図が観察できるまで右心室の中へ進めた。別の23ゲージのポリエチレン製カテーテル(PE50)を左大腿動脈経由で腹大動脈へ進め、同Abbott社高感度変圧器を使って大動脈圧を測定し、動脈血も採取した。長さ10cmで直径0.5mmの熱電対マイクロプローブ(9030−12−D−34;Columbus Instruments,Columbus,OH)を右大腿動脈から挿入し、上行大動脈まで進めた。熱電対を使って血液温度および熱希釈心拍出量を測定した。別のPE50カテーテルを左大腿静脈経由で下大静脈まで進め、静脈血を採取し、輸血を投与した。薬剤注入用にPE50カテーテルをもう1本追加して右大腿静脈へ進めた。EKG(2誘導)を継続して記録した。
【0078】
実験手順:計15匹の動物を調べた。治験医師はVFを誘発する直前まで介入について知らされておらず、その時点で治験統括医師が3群、すなわち(1)レボシメンダン、(2)ドブタミン、および(3)生理食塩水プラセボのひとつへの割付のための封印された封筒を開封した。これにより選択した薬剤の新鮮な希釈液を調製する時間が与えられた。60Hzの電流でVFが誘発され、電流は2.0から最大5.0mAまで漸増した。前述したように、自発除細動を防ぐため、電流を3分間流した(Von Planta I,Weil MH.ラットにおける心肺蘇生。J Appl Physiol.1988;65(6):2641−2647)。VFの発症後、人工換気を停止した。VFが8分間治療されなかった後に、空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って前胸圧迫を開始し、6分間継続した。
【0079】
これらの方法は広く行われており、十分報告されている(Von Planta I(前記))およびSun SJ,Weil MH,Tang W et al.蘇生後の心筋機能への緩衝液とアドレナリン作動薬の併用効果。J Pharm Exp Ther. 1999;291:773−777を参照)。前胸圧迫の開始と同期して、動物に機械的換気を実施した。1回換気量を6.5mL/kg動物体重、100回/分の頻度および1.0のFiO2と定めた。前胸圧迫を200回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、2:1の圧迫/換気率を与えるよう同調させた。冠動脈灌流圧(CPP)が約24mmHgになるように最初に圧迫の深さを調節した。これにより通常、約14mmHgのPETCO2が得られた(Von Plata I、前記)。前胸圧迫を6分間行った後、除細動を2ジュールの直流電気ショックで3回まで試行した。動物が蘇生されなかった場合は、前胸圧迫を30秒間再開し、次の電気ショックを行った。自発循環の回復(ROSC)を、最低5分間に平均大動脈圧が60mmHgである上室性調律が回復した場合、と定義した。ROSCの10分後に、3種類の介入のうちのひとつを開始した。レボシメンダンおよびドブタミンの投与量については、すでに治療効果があることが示されており(急性非代償性心不全の場合)、また同時に動脈圧を変化させなかった量が選択された。レボシメンダンは12μg/kgの負荷用量を10分間かけて注入され、その後0.3μg/kg/分で230分間注入された。ドブタミンは3μg/kg/分を240分間右心房に注入された。生理食塩水プラセボは総量5mLを240分間かけて注入され、ドブタミンおよびレボシメンダンと同等になるようにした。シリンジポンプ(Model 940,Harvard Apparatus,Southnatick. MA)を用いた。蘇生に成功した後、酸素による機械的人工換気と血行動態測定を計4時間継続して行った。動物は麻酔から覚醒し、それから4時間後に気管内チューブを含むすべてのカテーテルが抜去され、室内空気を呼吸した。その後72時間かけて生存が観察された。72時間後、動物を安楽死させ、剖検を通常通り行った。挿管、気道管理、または前胸圧迫による外傷性障害を含め、臓器の全体的な異常を検査した。
【0080】
測定:前述の方法により、0.5mLの動脈血および静脈血のPO2、PCO2、pH、SO2および乳酸、カルシウムおよび血中グルコースを測定した。4、21 同一のコロニーの麻酔されたドナーラットの動脈血1.0mLを下大静脈へ急速輸血し、臨床検査のために大動脈と大腿静脈から0.5mLずつ採取したのと同等量を補った。測定はベースライン時、蘇生成功後30、120および240分後に行った。大動脈圧、左室圧、右房圧、EKQおよびPETCO2を、CODASソフトウェア(DATAQ Inc.,Akron,OH)によりPCデータ取得システム上に継続的に記録した。毎分の前胸圧迫の終わりに測定された減圧拡張大動脈圧と同時右房圧の差としてCPPを算出した。
【0081】
左室圧の増加率(dP/dt40)が40mmHgでの左室圧での微分で測定され、等容性収縮の量的推計として用いられた。最大左室圧低下率−dP/dtも左室拡張期圧と一緒に測定し、心筋拡張機能の推定値とした。20、21 心拍出量コンピュータ(CO−100;Institute of Critical Care Medicine,Palm Springs,CA)を用いて熱希釈法により心拍出量をベースライン時、蘇生成功後30、60、180および240分後に測定した。それぞれの場合において、繰り返し測定の差は5%未満であった。
【0082】
統計解析:群間測定には、ANOVAおよびシェッフェの多重比較を採用した。結果の差はフィッシャーの直接確率検定で解析した。測定値は平均±SDで報告した。P<0.05の値を有意とみなした。
【0083】
結果:ベースライン時の心拍、動脈圧、左室拡張期圧、dP/dt40、下降dP/dt、心係数、およびETCO2に有意差は見られなかった(表3)。また動脈血ガス、静脈血ガス、乳酸、カルシウムおよび血中グルコースにも有意差は見られなかった。動物は心停止から14分後に蘇生に成功し、これにはVFが治療されなかった8分間とそれに続く前胸圧迫と機械的人工換気の6分間が含まれる。
【0084】
ドブタミン投与後に中等度の心拍上昇が見られ、予想通り投与量に反応した。しかし、平均動脈圧(MAP)は3群間で有意差が見られなかった。予想されたように、ドブタミンとレボシメンダンは心係数を有意に増加させたが、プラセボは増加させなかった。(図13)
【0085】
ドブタミンとレボシメンダンは図14に示されるように、収縮および拡張機能を改善した。生理食塩水プラセボと比較すると、dP/dt40と−dP/dtは有意に高い値を示した。レボシメンダンは左室拡張期(充満)圧の増加を有意により低く抑えた。ドブタミンを投与された動物において、動脈PCO2とETCO2がROSC後2時間目と4時間目の間で有意に高かった。加えて、統計学的には有意でなかったが、ドブタミン投与後に動脈血酸素飽和度が一貫して低かった(表4)。しかし、動脈血および混合静脈血のpH、PO2、乳酸、グルコースおよびカルシウムに一貫性のある差は認められなかった。
【0086】
最も重要な所見は、生存期間の増加で、これはレボシメンダンで最大、ドブタミンで中間、食塩水プラセボで最小であった。レボシメンダンとドブタミンならびに生理食塩水プラセボとの差は、図15で示したように有意であった。剖検では胸部および腹部内臓に全体的な障害は記録されなかった。
【0087】
この実験による比較から、心停止からの蘇生後のレボシメンダンの投与は、蘇生後の心筋機能をドブタミンの場合と同程度に改善することが示された。しかし、レボシメンダンはより低い心拍の増加およびより望ましい左室拡張期充満圧と関連した、より優れた延命効果がある。
【実施例3】
【0088】
蘇生後ブタの心筋不全治療におけるドブタミンとレボシメンダンとの比較
実験の準備:本実験は広く行われている心停止および心臓蘇生のブタモデルで実施した。(21、22)。簡潔に述べると、体重が35〜40kgの間の雄の飼育ブタ15頭に水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ケタミン(20mg/kg)の筋肉内投与で麻酔を開始し、ペントバルビタールナトリウム(30mg/kg)を耳静脈に注入し完了した。麻酔を維持するため、1時間の間隔を置いて、ペントバルビタールナトリウムを追加投与(8mg/kg)した。カフ付気管内チューブを気管内に挿入した。動物は15mL/kgで機械的換気を受け、流量制御換気装置(Model MA−I,Puritan−Bennett,Carlsbad,CA)を使ってピーク気道流速が40L/分、FiO2が0.2に調節した。赤外線分析器(Model 01R−7101 A,Nihon Kohden Corp,Tokyo,Japan)を使って、呼気終末PCO2(PETCO2)をモニターした。PETCO2を35〜40mmHgの間に維持して呼吸頻度を調節した。必要に応じて赤外線加熱ランプを使って、血液温度を37±0.5℃に保った。
【0089】
左室機能を測定するため、4方向に屈曲する5.5/7.5MHz両翼パルス波ドップラー経食道心エコートランスデューサー(Model 21363A,Hewlett−Packard Co. Medical Products Group,Andover,MA)を切歯から食道へ約40cmの距離進めた。大動脈圧測定のため、液体を満たしたカテーテルを外科的に露出させた左大腿動脈から胸大動脈まで進めた。右房圧および肺動脈圧、血液温度、心拍出量を測定するため、7−フレンチ型ペンタルーメン熱希釈チップカテーテルを外科的に露出させた左大腿静脈から流れ出方向付けて肺動脈へ進めた。VFを誘発するため、5−フレンチペーシングカテーテル(EP Techologies,Inc.,Mountain View,CA)を外科的に露出させた右橈側皮静脈から右心室まで進めた。外科的に露出させた左橈側皮静脈を経由して、透視しながら7−フレンチ血管造影カテーテル(5470,USCI C.R. Bard,Murray Hill,NJ)を上大静脈経由で右心房および冠状静脈洞まで進めた。このカテーテルを側方にループさせ、5cm下方に進めて大心臓静脈内に入れ、冠静脈血を採取した。心電図(EKG)第2誘導を継続して記録した。
【0090】
実験手順:計15匹の動物を調べた。VF誘発の15分前に、動物は封印封筒方式により無作為化された。右心室心内膜に送られた1〜2mAのAC電流で心停止を誘発した。VFの発症後、機械的人工換気を停止した。VFが7分間治療されない期間の最後に、空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って前胸圧迫(PC)を開始した(Thumper,Model 1000,Michigan Instruments,Grand Rapids,MI)。PC開始と同期して、動物は1回換気量を15mg/kg、FiO2を1.0で機械的人工換気を受けた。PCを100回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、5:1の圧迫/換気率、すなわち50%負荷サイクルを与えるよう同調させた。圧迫力は胸部の前後径が25%減少するように調節した。PCの5分後、右鎖骨下部と心尖部との間に150Jの二相性波形ショックを送り、除細動を試行した。平均大動脈圧が60mmHgを超える組織的な心調律が5分間以上持続した場合、動物は蘇生に成功したとみなされた。自発循環の回復(ROSC)の10分後に、3種類の介入のうちのひとつを開始した。レボシメンダンとドブタミンの投与量は以前の治験(23−25)に従って投与され、その後、これらの投与量が生理条件下で通常麻酔されたブタにおいて平均動脈圧を変化させないことを確認した。生理食塩水で希釈されたレボシメンダンを20μg/kgの負荷用量で10分間かけて注入し、その後、同様に生理食塩水溶液に希釈して0.4μg/kg/分を230分間注入した。生理食塩水で希釈されたドブタミンを5μg/kg/分で240分間右心房に注入した。薬剤を含まない同等量の生理食塩水溶液をROSC後10分間かけて注入し、その後レボシメンダンおよびドブタミンの投与量と同等量の生理食塩水を230分間持続注入した。100%酸素による機械的人工換気と血行動態測定を、蘇生後計4時間継続して行った。その後動物は麻酔から覚醒し、気管内チューブを含むすべてのカテーテルが4時間後に抜去された。72時間の観察期間の後、動物を安楽死させ、剖検を通常通り行った。剖検では、挿管、気道管理、または前胸圧迫による外傷性障害を含め、臓器の全体的な異常を検査した。
【0091】
測定:大動脈圧、右房圧、平均肺動脈圧を含む血行動態データ、冠動脈灌流圧、呼気終末PCO2を、第2誘導のEKGをリアルタイムで継続的にモニターし、前述のようにCODASハードウェア/ソフトウェア(DATAQ Inc.,Akron,OH)を使ってPCデータ取得システム上に継続的に記録した(21、22)。
【0092】
4方向に屈曲する経食道心エコートランスデューサーを使って、心エコーを測定した。左室収縮末期容積および左室拡張末期容積をディスク法(Acoustic Quantification Technology, Hewlett−Packard, Andover, MA)により長軸像から算出した。これらの値から駆出率および面積変化比を算出した。これらの測定値を心筋収縮機能の量的指標として用いた。測定はベースライン時、蘇生成功後30、60、120、180および240分後に行った。
【0093】
ブタ血液用に変更したSTATプロフィール分析器(ULTRA C,Nova Biomedical Corporation,Waltham,MA)で、200μLの血液量について動脈血ガスを測定した。以前に述べたように(22)、神経学的覚醒を100(完全に覚醒し活動的)から0(反応なく無呼吸)の尺度で得点化した。覚醒と活動に加えて、心停止から蘇生後24、48および72時間目における姿勢、水および食餌消費、およびセルフケアの客観的兆候をスコアに加えた。
【0094】
統計解析:群間測定には、ANOVAおよびシェッフェの多重比較を採用した。結果の差はフィッシャーの直接確率検定で解析した。測定値は平均±SDで報告した。p<0.05の値を有意とみなした。
【0095】
結果:ベースライン時の心拍(HR)、平均動脈圧(MAP)、右房圧(RAP)、平均肺動脈圧(MPAP)、駆出率(EF)、面積変化率(FAC)、心拍出量(CO)、および呼気終末PCO2(PETCO2)に有意差は見られなかった。ベースライン時の血液ガス値にも有意差は見られなかった。動物はVFが治療されなかった7分間とそれに続く前胸圧迫と機械的人工換気の5分間、すなわち合計12分間の心停止後に蘇生に成功した。
【0096】
心拍の相違は3群間で見られなかった。予想されたように、レボシメンダンとドブタミンとの間で動脈圧に差は見られなかったが、蘇生60分後では生理食塩水プラセボの動脈圧が有意に低かった。レボシメンダン投与4時間後に平均肺動脈圧および右房(充満)圧が有意に低下した。(表5)。
【0097】
レボシメンダンとドブタミンは共に投与された量で収縮機能を改善した。図16に示されるように、生理食塩水プラセボと比較して、両変力物質は心拍出量を有意に増大させた。しかし、レボシメンダンはドブタミンに比較して有意に大きいEFおよびFACを72時間の時点で維持しており(図17および18)、冠動脈−静脈酸素の差が数値的に低かった(図19)。従って、駆出率から見た収縮性の増大は、酸素抽出の増大を伴わずに観測された(図20)。冠静脈血の乳酸については差は見られなかった(図21)。神経学的覚醒スコアは24時間の時点でレボシメンダンが有意に優れていた(表6)。
【実施例4】
【0098】
心肺蘇生中のレボシメンダン投与の効果
動物の準備:体重が450〜580gの雄のSprague−Dawleyラット10匹に水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ペントバルビタール(45mg/kg)の腹腔内投与により動物を麻酔した。麻酔を維持するため、およそ1時間の間隔を置いて、または必要に応じて10mg/kgの追加投与を行った。心停止の誘発前30分間は麻酔薬の初期投与は行わなかった。145°曲がったチップ付鈍針上に取り付けた14ゲージのカニューラを、Stark法に従い気管に挿管した(Stark RA,Nahrwold ML,Cohen PJ. 肉眼によらないラットの経口気管挿管,J. Appl. Physiol. Resp. Environ. Exercise Physiol,51(5):1355−1356(1981))。dP/dt40および下降dP/dtを含む左室圧を測定するため、ポリエチレン製カテーテル(PE50,Becton−Dickinson)を外科的に露出させた右頚動脈から左心室まで進めた。ポリエチレン製カテーテル(PE50,Becton−Dickinson)を左外頚静脈、上大静脈を経由して右心房まで進めた。高感度の圧力変換器(Model 42584−01;Abbott Critical Care System,North Chicago,IL)を使って、右房圧を測定した。長さ10cm、直径0.5mmの熱電対マイクロプローブ(9030−12−D−34;Columbus Instrument,Columbus,OH)を右大腿動脈から挿入し、下行大動脈まで進めた。このセンサーで血液温度を測定した。心拍出量測定のため、8〜12℃の間の0.2mLの等張食塩水を左内頚静脈から進めたカテーテル経由で右房へ注入した。二重の熱希釈曲線を得て、心拍出量コンピュータ(CO−100;Institute of Critical Care Medicine,Palm Springs,CA)を使って記録した。PE50カテーテルを左大腿動脈経由で胸大動脈へ進めて動脈血を採取して血中ガスの分析を行い、高感度変圧器(model 42584−01;Abbott Critical Care System)を使って大動脈圧を測定した。収縮期圧、拡張期圧、解釈された平均動脈圧を持続的に記録した。別のPE50カテーテルを左大腿静脈経由で下大静脈まで進め、静脈血ガスの分析に提供するため血液を採取した。同一のコロニーの麻酔されたドナーラットの動脈血1.2mLを下大静脈へ急速輸血し、臨床検査のために大動脈と下大静脈からそれぞれ0.6mLずつ採取したのと同等量を補った。次に4Fサイズのポリエチレン製カテーテル(Model C−PMS−401 J;Cook Critical Care,Bloomington,IN)を右外頚静脈を経由して右心房まで進め、VFを誘発した。本カテーテルに付属している予めカーブしているガイドワイヤーを、カテーテル経由で心内膜心電図が観察できるまで右心室の中へ進めた。60HzのAC電流を最大3.5mAまで右室心内膜にVFが誘発されるまで供給した。次に電流を半分にして、自発除細動を防ぐため3分間流した。VFは6分間治療されなかった。VFの発症後、機械的人工換気を停止した。空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って前胸圧迫を行った。これらの手順は以前に詳細に記述されており(Von Planta I、前記)、また当業者で周知である(Tang W,Weil MH,Sun S,Noc M,Yang L,Gazmuri R。エピネフリンは蘇生後の心筋障害の重篤度を増大させる。Circulation 1995;92:3089−3093およびSun S,Weil MH,Tang W,Povoas H,Mason E。蘇生後の心筋機能への緩衝液とアドレナリン作動薬の併用効果。Pharmacology 1999;291:773−777を参照)
【0099】
前胸圧迫の開始と同期して、動物に機械的換気を実施した。1回換気量を0.65mL/100g動物体重、100回/分の頻度および1.0のFiO2と定めた。前胸圧迫を200回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、2:1の圧迫/換気率を与えるよう同調させた。最初に冠動脈灌流圧(CPP)が約23±1mmHgになるように圧迫の深さを調節した。これにより通常14±3mmHgの呼気終末PCO2を得た(Von Planta I,上記)。蘇生は2ジュールの2相性ショックで3回まで試行した。自発循環の回復(ROSC)を、平均大動脈圧が60mmHgを持つ上室性調律が最低5分間維持された場合、と定義した。レボシメンダンはOrion社(Espoo,フィンランド)より供給され、2.5mg/mLに希釈され、20μg/kgの大量瞬時投与でVFが2分間治療されなかった後に右心房へ注入された。酸素による機械的人工換気を蘇生後4時間継続して行った。動物は麻酔から覚醒し、気管内チューブを含むすべてのカテーテルが4時間後に抜去された。心電図(EKG)第2誘導を継続して記録した。動物はケージに戻された後、動物の蘇生後活動状態を計48時間の間4時間ごとに記録した。動物にペントバルビタール(150mg/kg)を腹腔内投与して安楽死させ、剖検を通常通り行い、CPR介入中の骨性胸郭および胸部および腹部内臓への障害を調べた。
【0100】
統計解析:群間測定には、ANOVAおよびシェッフェの多重比較を採用した。各群内の時間に基づく測定間の比較はANOVA反復測定で行った。カテゴリー変数はフィッシャーの直接確率検定で解析した。測定値は平均±SDで報告した。p<0.05の値を有意とみなした。
【0101】
結果:ベースライン時の血行動態および血液分析については、レボシメンダンとプラセボ投与群で有意差は見られなかった。VFの発症と同期して、平均動脈圧(MAP)は133±6から11±2mmHgへ低下し、MAPは1±1から9±2mmHgに増加して、以前の報告が確認された(Tang W,Weil MH,Sun S,Pernat A,Mason E。KATPチャネル活性化は蘇生後の心筋障害の重篤度を低下させる。Am J Physiol 2000;279:H1609−H1615)。死戦期の喘ぎによる偶発的な増加を除き、心停止が治療されない6分間にCPPは1から3mmHgの間にとどまっていた。前胸圧迫はCPPを平均23±1mmHgに増大させた。レボシメンダン投与前後いずれにおいてもレボシメンダン群とプラセボコントロール群との間にCPPについては差が見られなかった。各動物への除細動は成功した。しかし、レボシメンダンを投与された動物は蘇生が成功する前のCPRの期間が有意に短かった(表7)。蘇生が成功するまでに必要な電気ショックの累積回数は、プラセボ群の動物(5匹)よりレボシメンダン群の動物の方が有意に少なかった。レボシメンダン投与群の動物において、蘇生後4時間にわたり、有意に高い心係数、dP/dt40およびMAPが記録された(図22)。左室コンプライアンスの指標としての下降dP/dtはETCO2と共に増大した(図23)。左室機能の改善はレボシメンダン投与後のSTセグメントのより低い上昇とともに(表7)、左室拡張期圧の減少に反映されている(図23)。抹消動脈抵抗(PAR)はレボシメンダン投与後有意に低下した(図24)。蘇生後の生存期間はレボシメンダン投与群の動物で有意に増大した(表8)。
【0102】
蘇生後のSTセグメントの上昇がより低く抑えられることは、レボシメンダンが蘇生成功後に起こる虚血性障害、したがってまた後遺症の虚血を最小限に抑える能力があることを加えて示している。レボシメンダンは抹消抵抗を低下させるため、抹消動脈抵抗の血管拡張または同時に起こる減少があるとは言え、左心室後負荷の、結果として生じる低減によって、心係数の増大と動脈圧の増加を伴う収縮機能の改善が説明されるであろう。これらの測定値を併せて評価すると、レボシメンダンが心停止中に投与された場合、結果が改善する。
【実施例5】
【0103】
βアドレナリン作動性遮断後の蘇生後心筋機能に対するレボシメンダンの効果
動物の準備:体重が35〜40kgの雄の飼育ブタに水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ケタミン(20mg/kg)の筋肉内投与で麻酔を開始し、ペントバルビタールナトリウム(30mg/kg)を耳静脈に注入し完了した。麻酔を維持するため、1時間の間隔を置いて、ペントバルビタールナトリウムを追加投与(8mg/kg)した。カフ付気管内チューブを気管内に挿入した。動物は流量制御換気装置(Model MA−1,Puritan−Bennett,Carlsbad,CA)を使って、1回換気量を15mL/kg、ピーク気道流速を40L/分、およびFiO2を0.21で機械的換気を受けた。赤外線分析器(Model 01R−7101 A,Nihon Kohden Corp,Tokyo,Japan)を使って、呼気終末PCO2(ETCO2)をモニターした。PETCO2を35〜40mmHgの間に維持することで呼吸頻度を調節した。
【0104】
左室機能を測定するため、4方向に屈曲する5.5/7.5Hz両翼パルス波ドップラー経食道心エコートランスデューサー(Model 21363A,Hewlett−Packard Co. Medical Products Group,Andover,MA)を切歯から食道へ約35cmの距離進めた。大動脈圧測定のため、液体を満たしたカテーテルを左大腿動脈から胸大動脈まで進めた。右房圧および肺動脈圧、および血液温度を測定するため、7−フレンチ型ペンタルーメン熱希釈チップカテーテルを左大腿静脈から流れ方向に向けて肺動脈へ進めた。大心臓静脈の血液ガスおよび乳酸を測定するため、7−フレンチカテーテルを左橈側皮静脈から大心臓静脈まで進めた。VFを誘発するため、5−フレンチペーシングカテーテル(EP Techologies,Inc.,Mountain View,CA)を右橈側皮静脈から右心室まで進めた。
【0105】
実験手順:VFの15分前に、動物は封印封筒方式により無作為化された。治験医師は無作為化について知らされていなかった。右心室心内膜に送られた1〜2mAのAC電流で心停止を誘発した。VFの発症後、機械的人工換気を停止した。VFが7分間治療されない期間の最後に、空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って前胸圧迫(PC)を開始した(Thumper,Model 1000,Michigan Instruments,Grand Rapids,MI)。前胸圧迫開始と同時に、動物は1回換気量を15mL/kgおよびFiO2を1.0で機械的人工換気を受けた。前胸圧迫を100回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、5:1の圧迫/換気率、すなわち50%負荷サイクルを与えるよう同調させた。圧迫力は胸部の前後径が25%減少するように調節した。前胸圧迫の5分後、右鎖骨下部と心尖部との間に150Jの二相性波形ショックを送り、除細動を試行した。平均大動脈圧が60mmHg以上の組織的な心調律が5分間以上持続した場合、動物は蘇生に成功したとみなされた。すべての動物が電気除細動後に自発循環を回復(ROSC)し、ついで3つの投与群、すなわち(1)プロプラノロール(6分間のVF時に0.1mg/kgの大量瞬時投与);(2)プロプラノロール+レボシメンダン(蘇生10分後、20μg/kgを10分間、その後0.4μg/kg/分で220分間);および(3)同等量の生理食塩水のプラセボに無作為に割り付けられた。
【0106】
測定は蘇生後4時間にわたり行なった。実験手順を図25にまとめた。4時間後、動物に150mg/kgのペントバルビタールを静脈内投与して安楽死させた。剖検を行い、骨性胸郭および胸部および腹部内臓への障害を調べた。
【0107】
測定:大動脈圧、右房圧(RAP)、肺動脈圧(PAP)および呼気終末PCO2(PETCO2)を含む動態データを、心電図とともに継続的に測定し、前述のようにCODAS/WINDAQハードウェア/ソフトウェアを使ってPCデータ取得システム上に継続的に記録した(14)。合計16チャネルが提案された研究のため適切なサンプリング頻度での継続記録に利用可能であった。CPPはデジタル処理され、血行動態の測定値および心電図はリアルタイムで表示された。
【0108】
心エコー測定は4方向に屈曲する5.5/7.5Hz両翼パルス波ドップラー経食道心エコートランスデューサーを備えたHewlett−Packard Sonos 2500 心エコー装置(Model 21363A,Hewlett−Packard Co. Medical Products Group,Andover,MA)を使って行なった。長軸用に、2または4室像を得た。左室収縮末期容積および左室拡張末期容積をディスク法(Acoustic Quantification Technology,Hewlett−Packard,Andover,MA)により算出した。これらの値から駆出率(EF)および面積変化比(FAC)を算出した。これらの測定値を心筋収縮機能の量的指標として用いた。
【0109】
ブタ血液用に変更したSTATプロフィール分析器(ULTRA C,Nova Biomedical Corporation,Waltham,MA)を使って、200μLの血液量について動脈血、混合静脈血および大心臓静脈血のガス、ヘモグロビンおよびオキシヘモグロビンを測定した。動脈血および大心臓静脈血の乳酸は乳酸分析器(Model 23L,Yellow Springs Instruments,Yellow Springs,OH)で測定した。これらの測定は心停止の10分前、ROSCの10分後、その後1時間ごとで合計4時間実施した。ST−Tセグメントの上昇は蘇生5分後に測定し、ROSC後の5分間に起きた心室性期外収縮(PVB)の合計回数を数えた。適用したショックの合計回数と累積エネルギーを解析した。
【0110】
統計解析:すべてのデータは平均±標準偏差(SD)で表した。血行動態および代謝測定値の群間の差は、ANOVAで解析し、シェッフェの多重比較も行った。p<0.05の値を有意とみなした。
【0111】
結果:ベースライン時の血行動態、血液ガスおよび乳酸値は3群間で有意差は見られなかった。自発循環はすべての動物で回復した。CPR中およびCPR後のPETCO2、血液ガス分析、動脈血中乳酸について有意差は見られなかった。
以前の観察を確認するものとして、プロプラノロールをCPR中に投与すると蘇生が促進され、電気ショックの回数と総エネルギーが有意に低下した。蘇生後の心室性期外収縮回数の有意な低下と、ECGリムの第2誘導における蘇生後のSTセグメントのより低い上昇が記録された(図26)。
【0112】
蘇生後の駆出率およびFACは、生理食塩水プラセボ群と比較すると、プロプラノロール群で有意に増大した。蘇生後の早期にレボシメンダンを追加すると、図27に示されたように、プロプラノロールのみに比べ、EFおよびFACがさらに有意に増加した。
本実験研究の結果は以前の報告をさらに拡大し、プロプラノロールが蘇生を容易にし、具体的には電気除細動を容易にし、蘇生後の期外収縮の頻度を下げ、蘇生後虚血性障害の重篤度を緩和した。蘇生後の早期にレボシメンダンを投与すると、心筋の収縮機能をさらに有意に改善した。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】0.4 μg/kg/分のレボシメンダン(□)、0.3 μg/kg/分のレボシメンダン(△)、2 μg/kg/分のレボシメンダン(○)およびプラセボ(◆)を投与したラットにおける心係数(mL/kg/分)を測定したグラフである。
【図2】0.4 μg/kg/分のレボシメンダン(□)、0.3 μg/kg/分のレボシメンダン(△)、2 μg/kg/分のレボシメンダン(○)およびプラセボ(◆)を投与したラットにおける平均動脈圧(mmHg)を測定したグラフである。
【図3】0.4 μg/kg/分のレボシメンダン(□)、0.3 μg/kg/分のレボシメンダン(△)、2 μg/kg/分のレボシメンダン(○)およびプラセボ(◆)を投与したラットにおける心拍数(拍/分)を測定したグラフである。
【図4】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(◆)を蘇生後に投与したマウスの平均動脈圧を測定したグラフである。
【図5】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの心拍数(拍/分)を測定したグラフである。
【図6】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの心係数(mL/kg/分)を測定したグラフである。
【図7】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの1回拍出量を測定したグラフである。
【図8】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの全身血管抵抗を測定したグラフである。
【図9】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの収縮性(dP/dt40で反映されたとして)を測定したグラフである。
【図10】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの変弛緩効果または弛緩効果(下降dP/dt40で反映されたとして)を測定したグラフである。
【図11】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したマウスの左室拡張期(充満)圧(LVDP)をmmHgとして測定したグラフである。
【図12】コントロール群、ドブタミンおよびレボシメンダン投与群の生存期間(時間)を示した図である。
【図13】蘇生後の心拍数(1分あたりの拍数)、平均動脈圧(mmHg)および心係数(mL/分/kg)に対する3種類の処置の効果を示したグラフである。 値は平均値と標準偏差で表した。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP +0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01;†ドブタミンに対してP <0.05
【図14】dP/dt40(mmHg/秒×103)、−dP/dt(mmHg/秒×103)およびPLVD(mmHg)の値を示したグラフである。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01
【図15】72時間目の生存期間を表す図である。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01;†ドブタミンに対してP <0.05
【図16】蘇生後の心拍出量(mL/分)に対する3種類の処置の効果を示したグラフである。値は平均値と標準偏差で表した。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01
【図17】駆出率(EF、%)の値を示したグラフである。値は平均値と標準偏差で表した。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01;†ドブタミンに対してP <0.05;††ドブタミンに対してP <0.01
【図18】FAC(%)の値を示したグラフである。値は平均値を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン;VF=心室細動;PC=前胸圧迫;DF=除細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01;†ドブタミンに対してP <0.05
【図19】動脈血と大心臓静脈血のPO2の差(Pa−vO2)の値を示したグラフである。値は平均を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン。VF=心室細動。PC=前胸圧迫。DF=除細動。*生理食塩水プラセボに対してP<0.05
【図20】蘇生後240分におけるEFおよびPa−vO2のベースライン値に対するパーセンテージを示した図である。
【図21】大心臓静脈血の乳酸値を示したグラフである。
【図22】レボシメンダン(●で表す)投与後の心係数(CI)、収縮性 (dP/dt40)および平均動脈圧(MAP)の増加を生理食塩水プラセボ(□で表す)と比較したグラフである。値は平均を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン。VF=心室細動。PC=前胸圧迫。DF=除細動。
【図23】左室拡張期圧(LVDP)の低下および心室拡張機能の改善に一致する下降dP/dtおよび心拍出量の増加に一致する呼気終末PCO2(ETCO2)を示したグラフである。レボシメンダン(●)、生理食塩水(□)。値は平均を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン。VF=心室細動。PC=前胸圧迫。DF=除細動。
【図24】レボシメンダン(●)対生理食塩水(□)投与後の抹消動脈抵抗(PAR)の低下を示したグラフである。値は平均を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン。VF=心室細動。PC=前胸圧迫。DF=除細動。
【図25】本研究を実施するための実験手順を示したグラフである。VF=心室細動。DF=除細動
【図26】プロプラノロール群における除細動ショック、PVB数およびST−T上昇の著しい改善を示す図である。値は平均値±SDで表した。
【図27A】レボシメンダン+プロプラノロール群とプロプラノロール群におけるFACとEFがコントロール群に比較して有意に高いことを示した図である。値は平均値±SDで表した。
【図27B】レボシメンダン+プロプラノロール群とプロプラノロール群におけるFACとEFがコントロール群に比較して有意に高いことを示した図である。値は平均値±SDで表した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、心停止前、心停止中および心停止後の哺乳動物の治療法、ならびに前記方法で使用するのに適した医薬品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
循環器疾患は西洋では依然として死因のトップである。心停止を起こした時、病院内であれ、その他の場所であれ、生存率は比較的低い。さらに、心肺蘇生の初期成功率はおよそ39%(13%から59%の範囲)であるものの、発症した者の大部分は72時間以内に死亡し、主な原因は心不全および/または心室細動の再発である。残念なことに、病院外で蘇生に成功した患者のわずか5%または8人に1人しか入院後に生き延びない。心停止からの蘇生に成功した後に、可逆的心筋障害が実験モデル(Tang et al., Crit. Care Med., 21:1046−1050(1993);Tang et al., Circulation, 92:3089−3093(1995);Gazmuri et al., Crit. Care Med., 24:992−1000(1996);Kern et al., J.Am.Coll.Cardiol, 28:232−240(1996))および患者(Deantonioら. Pacing Clin. Electrophysiol, 13:982−985(1990))で見られた。この機能障害はラットモデルでは2時間から5時間でピークとなり、通常は72時間以内に回復する(Kern et al., J.Am. Coll. Cardiol, 28:232−240(1996))。ヒトの患者では、心筋の収縮機能障害は一週間から二週間持続する場合がある(Deantonio et al., Pacing Clin. Electrophysiol, 13:982−985(1990))。一過性冠動脈閉塞後の可逆的心室機能障害の現象が見られ、それは急性心筋梗塞の『気絶した』心筋と記述される現象と同等である(Braunwald et al., Circulation, 66(6):1146−9(1982))。このことから、心停止からの蘇生に成功した後72時間以内に起こる心室性不整脈と心不全により致死率が高くなることが少なくとも部分的に説明できるであろう(Liberthson et al., N.Engl. J. Med., 291(7):317−321(1974))。
【0003】
通常、心停止時の心臓の除細動への応答およびその後の自発循環の回復または回帰(ROSC)は心停止からCPRや除細動を含む処置まで虚血であった合計時間に依存している。虚血時間が長く、心室細動の期間も長いほど、除細動を含む二次循環救命処置(ACLS)プロトコルへの応答を引き起こすことがより困難になる。(ACLS guidelines,1st paragraph, p.190;またMH Hayes, RA Berg, CW Otto Current Opinion Critical Care 2003;9:211−217)。これは除細動の更なる試行および/またはより大きな除細動エネルギーを必要とするより高い除細動の閾値時間を生み出す虚血による。さらにエピネフリンなどACLSガイドラインにおいて推奨されている薬剤の多くが、およびリドカインなど他の薬剤も除細動の閾値を上げている。除細動のエネルギーおよび試行の累積が大きくなるほど、蘇生後の心筋の損傷と機能障害ならびに循環と臓器灌流の障害は大きくなる。このような臓器灌流の障害もしくは不全がさらに蘇生後症候群の一因となり(ACLS guidelines, 1166ページ)、心停止した者の回復や予後が不良となる一因である。蘇生後の心筋障害はしばしば心筋の電気的不安定および再発性不整脈を引き起こし、さらに除細動を試行する必要が生じ、心筋の損傷をより大きくする可能性がある。(Gazmuri et al., Current Opinion Critical Care 2003;9199−204)。
【0004】
患者において蘇生を行う過程にかかわるその他の要因(すなわち、換気と循環を回復すること)も、心筋の損傷や機能障害の増大に一役買っている可能性がある。たとえば、ドブタミンやノルエピネフリンやエピネフリンなどの現在利用可能な薬剤は、心筋気絶や機能不全の治療に用いられる可能性があるが、心筋や臓器の虚血を誘発および/または悪化させ、酸素消費を増大させ、細胞へのカルシウム流を増加させることがある。加えて、β受容体作動薬活性を持つその他の薬剤(エピネフリンなど)は心停止および/または蘇生後回復を治療するのに使われているが、β受容体刺激による心筋の電気的不安定や異所性活動を増大させ(Gazmuri et al.,上記)、酸素消費量およびβ受容体活性化作用による細胞へのカルシウム流入の増加を引き起こす可能性もある。β受容体作動薬の影響を治療するためにβ受容体拮抗薬を使用し、蘇生後の回復が改善したと述べられている(Gazmuri et al.,上記)。しかし、β受容体拮抗薬は蘇生中または蘇生後の心機能障害の一因となる可能性がある陰性変力作用がある。加えて、β受容体活性化作用の悪影響なしに冠動脈灌流圧を改善することにより、心停止を治療するためにバソプレシンが用いられている。しかし、蘇生後の期間にはバソプレシンの血管収縮作用がより長く持続し、臓器への血流が損なわれる。血管収縮の延長は心後負荷を増大させることにより心筋障害も悪化させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、心停止前、心停止中および心停止後に心筋およびその他の臓器・組織を保護する方法および薬剤が当技術分野で必要である。より具体的には、ROSCまでの時間を改善し、除細動閾値を下げ、蘇生前または蘇生後の心筋障害を最小化または予防し、再灌流障害を最小化または予防しおよび/または心停止を発症している者の生存率を向上させるための治療法が当技術分野で必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本発明は、一般に心停止前、心停止中および心停止後の哺乳動物の治療法、ならびにこれらの方法で使用するのに適したレボシメンダンを含む医薬品組成物に関する。
【0007】
第1の実施形態において、本発明は心停止状態にある哺乳動物における自発循環を回復する方法を提供し、この方法は哺乳動物に心肺蘇生(CPR)および除細動ショックを適用するステップを含み、その改良は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与することを含む。レボシメンダン化合物はレボシメンダンまたはレボシメンダン代謝物であることが好ましい。レボシメンダン化合物を投与するステップはCPRの適用発生時に行うことが好ましい。
【0008】
第2の実施形態において、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法を提供し、この方法は除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、および効果的な心調律を回復するのに十分な頻度で除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこの頻度は標準と認められた治療プロトコルによって確立された頻度と比較して低い。
【0009】
代替の実施形態において、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法を提供し、この方法は以下のステップを含む:前記除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、および効果的な心調律を回復するのに十分な頻度で除細動ショックを適用するステップ、ここでこの頻度はレボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある類似の哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度と比較して低い。
【0010】
第3の実施形態では、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法を提供し、この方法は除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、およびならびに効果的な心調律を回復するのに十分なエネルギーで除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこのエネルギーは標準と認められた治療プロトコルによって確立された頻度と比較して少ない。
【0011】
代替の実施形態において、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法を提供し、この方法は除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップおよびに効果的な心調律を回復するのに十分なエネルギーで除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこのエネルギーはレボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある同様の哺乳動物に適用するエネルギーと比較して低い。
【0012】
第4の実施形態において、本発明は心停止からの蘇生中または蘇生後に治療を必要とする哺乳動物に心筋障害を治療する方法を提供し、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップを含む。
【0013】
第5の実施形態において、本発明は治療を必要とする哺乳動物の心不整脈を治療する方法を提供し、この方法は哺乳動物に1回もしくはそれ以上の除細動ショックを適用するステップを含み、その改良は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与することを含む。レボシメンダン化合物の投与は、前記の1回もしくはそれ以上の除細動ショックを適用した後に行うことが好ましい。
【0014】
第6の実施形態において、本発明は心停止後に哺乳動物の臓器機能を保護する方法を提供し、ここでこの方法は哺乳動物に自発循環を回復させるステップを含み、その改良は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与することを含む。該臓器機能は脳、腎臓もしくは肝臓の機能が好ましい。
【0015】
第7の実施形態において、本発明は心停止または全体的な虚血に先立ち、治療を必要とする哺乳動物に心筋障害を予防する方法を提供し、この方法は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップを含む。
【0016】
前記実施形態のいずれかまたはすべてにおいて、レボシメンダン化合物の投与は単回投与または持続注入のいずれかで化合物を投与することを含む。哺乳動物への投与は非経口経路で行われることが好ましく、静脈内、気管内、動脈内、経皮または心臓内投与によって行われるのがより好ましい。
【0017】
前記実施形態のいずれかまたはすべてにおいて、哺乳動物はヒトが好ましい。加えて、前記実施形態のいずれかまたはすべてにおいて、レボシメンダン化合物の哺乳動物への投与は約0.01〜約5.0μg/kg/分で、約0.05〜約0.4μg/kg/分が好ましく、約0.1μg/kg/分がより好ましい。あるいは、レボシメンダン化合物の投与は約0.06〜約36μg/kgである。
【0018】
加えて、前記実施形態のいずれかまたはすべてにおいて、前記方法は治療有効量のアドレナリン受容体遮断薬を哺乳動物に投与するステップをさらに含む。アドレナリン受容体遮断薬はβアドレナリン遮断薬またはαアドレナリン遮断薬のいずれでもよい。βアドレナリン遮断薬の場合、β−1アドレナリン遮断薬またはβ−2アドレナリン遮断薬のいずれでも良い。βアドレナリン遮断薬はプロパノロール、メトプロロール、エスモロールまたはアテノロールが好ましい。あるいは、αアドレナリン遮断薬の場合、α−1アドレナリン遮断薬とする。βまたはαアドレナリン受容体遮断薬として特徴付けられる薬剤はカルベジロールが好ましい。
【0019】
(発明の詳細な説明)
ここで参照したすべての抄録、参考文献、特許および公開された特許出願は、その全体を参照することによってここに含まれる。
【0020】
ここで使われる「アドレナリン受容体遮断薬」の語句はアドレナリン受容体を遮断する作用を持ついずれの薬剤を指す。本発明の文脈においてはしたがって、このような薬剤にはプロパノロール、メトプロロール、カルベジロールなどのアドレナリン受容体遮断薬と認められている薬剤、およびこの遮断作用を有する他の化合物が含まれる。
【0021】
ここで使われる「心不整脈」の語句は異常心拍または異常拍動を指す。この状態はペースメーカー機能を維持するための結節における欠陥によって、あるいは電気伝導系の不全によって引き起こされる場合がある。不整脈の例には、以下に限定されないものとして徐脈、頻脈(上室性頻拍および心室性頻拍など)、心室細動および期外収縮が含まれる。「心不整脈を治療すること」とは心不整脈の状態を軽減または回復させることを指す。
【0022】
ここで使われる「徐脈」の用語は心臓は確実に収縮しているが、1分あたりの収縮回数が60未満である循環状態を指す。
【0023】
ここで使われる「心停止」の用語は心拍出および有効な循環の停止を指す。心停止は通常心室性頻拍および心室性細動(または両方)もしくは徐脈などの心不整脈により誘発される。心停止は心臓病または心発作に起因する場合または呼吸停止、感電死、溺死、窒息および外傷など他の要因に起因する場合がある。心停止が発生したとき、酸素の供給および二酸化炭素の除去が停止し、組織細胞の代謝が無酸素性となり、その結果、代謝性アシドーシスおよび呼吸性アシドーシスが起こる。心臓、肺、腎臓および脳の損傷を防ぐには、直ちに心肺蘇生を開始する必要がある。脳死および永久死は心停止後4−6分以内に起こり始める。
【0024】
ここで使われる「心肺蘇生」または「CPR」の語句は、マウス・ツー・マウス換気および胸部圧迫(通常は個人により器具を用いずに)をそれを必要とする個人に行うプロセスを指す。CPR適用のための治療ガイドライン基準は当該技術分野については十分に確立されている(たとえば米国心臓協会(AHA)/国際蘇生法連絡委員会(ILCOR))の二次循環救命処置(ACLS)ガイドラインを参照)。(たとえばCirculationの補遺版102巻(8)、2000年8月22日を参照)
【0025】
ここで使われる「うっ血性心不全」の語句は体の他の器官へ十分な血液を送り出す能力が損なわれたことを特徴とする心臓の異常な状態を指す。うっ血性心不全は冠動脈疾患、心筋梗塞、心内膜炎、心筋炎または心筋症を含む多くの状況に起因する場合がある。心室が血液を駆出できないと、容量負荷、心室拡張、および心内圧の上昇に陥る。静水圧増大が左心から逆行伝達されることは肺うっ血をひきおこす;右心圧上昇は体静脈うっ血や末梢浮腫をひきおこす。
【0026】
ここで使われる「除細動」の用語は有効な心調律の回復を伴う心筋(心房または心室)の細動停止または休止を指す。通常、除細動は電気ショックを供給する装置(たとえば除細動器)を用いて行われる。
【0027】
ここで使われる「有効な心調律」の語句は、たとえば個人の安定および/または生存など好ましい治療結果が得られた心調律を指す。
【0028】
ここで使われる「期外収縮」の用語は異所性刺激による脱分極に起因する異常な心収縮を指す。
【0029】
ここで使われる「虚血」の用語は血流が体の一部に限定されている状態を指す。虚血は血液供給の機械的閉塞(たとえば、動脈狭窄)に起因する場合がある。「局所虚血」は臓器の一部への血流が制限されている状態を指す。「全体虚血」は臓器全体への血流が制限されている状態を指す。
【0030】
ここで使われる「レボシメンダン化合物」の用語はレボシメンダンのラセミ混合物または鏡像異性体あるいはレボシメンダン代謝物のラセミ混合物または鏡像異性体を指す。「レボシメンダン」の用語は具体的に[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの(−)−鏡像異性体を指す。
【0031】
ここで使われる「哺乳動物」の用語は哺乳綱の脊椎動物で、多少なりとも体毛で覆われ、乳腺から出る乳で子供を養い、孵卵性の単孔類を除き、生きた子供を出産するものを指す。哺乳動物の例としては以下に限定されないものとして、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ブタ、サルおよびヒトを含む。哺乳動物はヒトが好ましい。
【0032】
ここで使われる「心筋障害」の語句は、心拍出量の低下、心収縮性の低下および心停止または心停止を治療するために使われた治療に付随または起因してあるいはそれにより引き起こされた左室充満圧の増加を伴う動脈圧の低下を特徴とする心臓の状態を指す。「心筋障害の治療」または「心筋障害の改善」は心筋障害の緩和、減弱、回復または軽減を指す。心筋の機能/機能障害は、当業者に周知の器具および手段を使って測定される。
【0033】
ここで使われる「製薬学的に許容される塩」の語句は、レボシメンダンなど生理学的に製薬用途に適した有効成分の塩の形状を指す。
【0034】
ここで使われる「臓器機能を保護すること」の語句は、心停止後、哺乳動物について有効な臓器機能を回復すること、有効な臓器機能を維持することまたは臓器機能がさらに悪化するのを防ぐことを指す。
【0035】
ここで使われる「標準と認められた治療プロトコル」の語句は、当該分野の施術者が特定の状態を治療する手段として認めた一連の指導ガイドラインを指す。例としては、AHA/LIROCにより制定された心停止を起こした個人へのCPRの投与および除細動に関するガイドラインが、標準と認められた治療プロトコルである。
【0036】
ここで使われる「自発循環を回復させること」、「自発循環を復旧させること」または「ROSC」の語句は、個人の自発的な血液循環の復旧または再開を指す。個人が自発循環を維持するために追加の支援手段が必要な場合と必要でない場合がある。
【0037】
ここで使われる「頻脈」の用語は、1分当たり100拍以上で収縮する心臓の状態を指す。
【0038】
ここで使われる「心室細動」の語句は、電気的刺激、伝導、および心室収縮の組織化の欠如を特徴とする心臓の状態を指す。
【0039】
本発明は心筋障害の特殊な状態を罹患している哺乳動物を治療するための改良された方法を提供する。より具体的には、本発明は全体的な心虚血またはそのような虚血に先行するいずれかの不整脈に罹患している哺乳動物を治療するための方法を提供する。さらに具体的には、本発明の方法は上述の状態を起こし、その治療を必要としている哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与することを含む。
【0040】
一つの態様として、本発明は心停止状態にある哺乳動物に自発循環を回復する改良された方法に関する。具体的には、この改良には心停止中でその治療を必要としている哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与することを含む。ここで哺乳動物とは自発循環を回復するために、心肺蘇生(CPR)および除細動ショックを処置されているかまたは処置されるであろうものとする。米国心臓協会(AHA)は国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)と共同で、心停止を起こしている個人を蘇生させるためのガイドラインを制定し、それには自発循環を回復する手順が含まれる。これらのガイドラインは心停止状態にある個人を治療する救急医療体制(EMS)職員(たとえば救急医療士)や病院のスタッフに認められた治療プロトコルの標準を制定しており、またこれらの人々や病院および病院以外の施設に従事している医療提供者によって、日常的に実施されている。しかし、当業者はまた、このガイドラインはこのような治療を必要とする個人全員に対して一般に適用されるが、実際に行われる治療はその必要度に応じて個人個人でばらつきがありうることを理解している。
【0041】
哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与するステップは、哺乳動物が心停止を起こすと予測される時期の直前、あるいは哺乳動物が実際に心停止中または心停止を起こした後の時点でのいつでも実施することができる。さらに、レボシメンダン化合物を投与するステップは、単回投与または大量瞬時投与あるいは持続注入でレボシメンダン化合物を投与する場合がある。哺乳動物が心発作を起こしやすい時期、または実際に心停止である時期を決定する方法は周知であり、当業者の技術内であるものに、以下に限定されないものとして、心電図(ECG)の使用およびクレアチニンキナーゼ−MB、ミオグロビンおよびトロポニンIの臨床検査が含まれる。
【0042】
別の実施形態として、本発明は治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を除細動治療に先立ち哺乳動物に投与することで、(1)血行動態的に有効な心機能を再開するために、心室細動を起こしている哺乳動物に除細動治療を繰り返さなければならない場合その回数を低減すること;および/または(2)心室細動を起こしている哺乳動物に血行動態的に有効な心機能を再開するための除細動療法中に加えられるエネルギー量(すなわち電流)を低減することができる、という発見に関する。
【0043】
ひとつの態様として、本発明の方法は、心停止前または心停止状態にある哺乳動物に、一回またはそれ以上の除細動ショックを適用する前に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与するステップ、ならびに効果的な心調律を回復するのに十分な頻度(すなわち回数)で除細動ショックを適用するステップを含んでおり、ここでその頻度は標準と認められた治療プロトコルにより確立された頻度と比較して少ない。上記のように、標準と認められた治療プロトコルは、たとえばAHA/ILROCにより心停止状態にある個人に除細動を行うために確立された。このような個人はCPRを必要とする場合もあるし、しない場合もある。好ましくは、除細動ショックの回数は50%まで低減するのが好ましく、60%までがさらに好ましく、70%までがさらに好ましく、80%までがさらに好ましく、90%までがよりさらに好ましく、100%までがさらにより好ましい。
【0044】
代替の実施態様として、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法を提供し、この方法は一回またはそれ以上の除細動ショックを適用する前に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、ならびに効果的な心調律を回復するのに十分な頻度で除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこの頻度はレボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある同様の哺乳動物に適用される除細動ショックの頻度と比較して少ない。好ましくは、除細動ショックの回数は50%まで低減するのが好ましく、60%までがさらに好ましく、70%までがさらに好ましく、80%までがさらに好ましく、90%までがよりさらに好ましく、100%までがさらに好ましい。
【0045】
さらに別の態様として、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法を提供し、この方法は一回またはそれ以上の除細動ショックを適用する前に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、ならびに効果的な調律を回復するのに十分なエネルギーで除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこのエネルギーは標準と認められた医療プロトコルによって確立された除細動ショックのエネルギーと比較して少ない。好ましくは、除細動ショックのエネルギーは50%まで低減するのが好ましく、60%までがさらに好ましく、70%までがさらに好ましく、80%までがさらに好ましく、90%までがよりさらに好ましく、100%までがよりさらに好ましい。
【0046】
さらに別の代替の態様として、本発明は心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法を提供し、この方法は一回またはそれ以上の除細動ショックを適用する前に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップ、ならびに効果的な調律を回復するのに十分なエネルギーで除細動ショックを適用するステップを含み、ここでこのエネルギーは前記レボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある同様の哺乳動物に適用される除細動のエネルギーと比較して少ない。好ましくは、除細動ショックのエネルギーは50%まで低減するのが好ましく、60%までがさらに好ましく、70%までがさらに好ましく、80%までがさらに好ましく、90%までがよりさらに好ましく、100%までがよりさらに好ましい。
【0047】
ここで開示されたいずれの実施形態および/または態様において、除細動治療は除細動器によって提供されてよく、この除細動器は心室細動を起こしている対象者に血行動態的に有効な心機能を再開するために、哺乳動物の胸部またはその心臓に直接電気ショックを与えるものである。除細動電極は好ましくは心臓に向かい合う反対側(左側および右側心室心外膜上など)に置かれ、できる限り多くの心筋量が除細動ショックの直流通路内に置かれるようにする。通常、除細動器は約200ジュールから約400ジュールのエネルギーを対象者に与える。除細動を成功させる秘訣は心室細動または他の不整脈を停止させるのに十分なエネルギー(すなわち電流)を心臓に与えることである。このエネルギーは治療される対象者に損傷(熱傷や記憶喪失など)を与えるほど大きくすべきでない。一般に、除細動の初回試行以降、その後の除細動で適用されるエネルギー(電流)は増大し、それにより対象者に損傷を与えるリスクも増加する。除細動治療は非常に重要な医療手段であるが、除細動ショックが適用されるごとに、治療される患者に損傷を与えるリスクは増加する。
【0048】
さまざまなタイプの除細動器が当技術分野で周知である。具体的には外用(手動式除細動器または自動外用除細動器など)または体内用(埋め込み型電気除細動器など)がある。通常、埋め込み型除細動器は対象者の心臓の働きを監視し、必要時に自動的に電気療法パルスを対象者の心臓に供給する。本発明の方法において哺乳動物に除細動治療を提供するステップは、以下に限定されないものとして、哺乳動物の治療中、すなわち心停止前、心停止中または心停止後のいつでも可能である。好ましくは、除細動治療の提供は心停止の発症時に行う。加えて、除細動はレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩の投与前、投与中または投与後に行なってよい。
【0049】
さらなる実施形態として、本発明は、以下に限定されないものとして、上室性頻拍、心室性頻拍、心室細動および期外収縮心などの不整脈を呈している哺乳動物を治療するための改良された方法を提供する。具体的には、この改良は心不整脈を呈し、その治療を必要としている哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与することが含み、ここで動物は一回またはそれ以上の除細動ショックを処置される。
【0050】
治療を必要とする哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与するステップは、哺乳動物が心不整脈を呈している間いつでも実施することができる。心不整脈を測定する方法は当業者の技術内で周知であり、心電図の使用を含む。
【0051】
さらなる実施形態として、本発明は、心停止または全体的な虚血に先立ち、心筋傷害の予防が必要な哺乳動物に心筋障害を予防する方法に関し、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップを含む。このような「前処理」は心停止中に発症しうる虚血性損傷から心筋を保護する。治療を必要とする哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与するステップは、たとえば心臓手術に先立ち実施することができる。
【0052】
さらなる実施形態として、本発明は心停止後に蘇生された哺乳動物における心筋障害を治療する方法に関する。この方法は心停止後に蘇生され、その治療を必要とする哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を哺乳動物に投与するステップを含む。具体的には、本発明者らはレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩が、心筋機能の改善ならびに哺乳動物の蘇生後の生存期間の延長に使用可能であることを発見した。さらに具体的には、本発明者らはレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩が、自発循環が回復した後の哺乳動物に投与された場合、心機能を改善し、心室充満圧を低減し、より大きな変力効果を提供することを発見した。
【0053】
治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を治療を必要とする哺乳動物に投与するステップは、対象者が心停止後に自発循環を回復し、心筋傷害を呈している後のいつでも実施することができる。心筋傷害を測定する方法は当業者の技術内で周知であり、心電図の使用を含む。
【0054】
別の実施形態として、本発明は哺乳動物の臓器機能を保護する改良された方法を、それを必要とする哺乳動物に提供する。具体的には、この改良はそのような治療を必要としている哺乳動物に、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を投与することが含み、ここで哺乳動物とは自発循環を回復したものである。自発循環を回復することが必要にもかかわらず、ROSCに起因する臓器や組織の再灌流は、「再灌流傷害」として知られる状態を哺乳動物に引き起こす場合がある。「再灌流傷害」は再灌流に関連した一連の病態を指し、他の状態のうち、心筋気絶、微小血管および内皮障害、および不可逆性細胞損傷または壊死が認められる(Subodh Verma et al.,臨床の心臓病専門医のための再灌流障害,Circulation, 105巻:2332−2336 (2002))。再灌流障害のメディエーターには酸素遊離基、細胞内カルシウム過負荷、内皮障害、微小血管障害、および心筋代謝の変化が含まれる場合がある(S.Verma et al.,上記)。したがって、ひとつの態様として、本発明は臓器機能を再灌流障害の影響から保護する方法を提供する。本方法はいかなる臓器も保護する場合があるが、好ましくは脳、腎臓、肝臓および心組織である。当業者が理解するように、本発明により保護され得る範囲は、臓器損傷の初期の重篤度によりさまざまである。治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を臓器の保護を必要とする哺乳動物に投与するステップは、蘇生または自発循環回復前あるいは後のいつでも実施可能である。
【0055】
臓器の機能障害/機能を測定する方法は当業者で周知であり、臓器の機能または障害を測定するいずれの手段をも含む。たとえば、臓器の機能障害/機能は臓器のバイアビリティを示す酵素またはそれ以外の指標の値を評価することにより測定される場合があり、これには、以下に限定されないものとして、心トロポニンI(心組織用)、クレアチニンまたはBUN(腎組織用)、血清ASTおよびALT(肝組織用)などがある。臓器バイアビリティを測定するその他の手段に、脳組織用に脳波図、心組織用に心電図などが含まれる。
【0056】
ここで記述されたいずれの実施形態および/または態様、レボシメンダン化合物を投与するステップにおいて、この化合物は[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの(−)と(+)の両方を含むレボシメンダンのラセミ混合物または(−)−鏡像異性体のみ(例えば(−)−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ)プロパンジニトリル)またはラセミ代謝物(N−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]アセトアミド)または鏡像異性体代謝物([R]−N−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]アセトアミド)を含む。好ましいレボシメンダン化合物は(−)−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルである。レボシメンダンのラセミ混合物を作成する方法は、1991年5月28日に公開された米国特許第5,019,575号および1995年9月6日に公開された欧州特許第EP 0 383 449号に記述されている。[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの(−)−鏡像異性体(すなわちレボシメンダン)を作成する方法は、1995年6月13日に公開された米国特許第5,424,428号および1995年3月8日に公開された欧州特許第EP 0 565 546号に記述されている。レボシメンダン代謝物のラセミ混合物を調製する方法は、それぞれ1973年7月17日および1983年8月9日に公開された米国特許第3,746,712号および4,397,854号に記述されている。代謝物の[R]−鏡像異性体を調製する方法は、1999年3月18日および2003年4月29日に公開された米国特許第5,905,078号およびRE38,102 E、ならびに2004年3月10日に公開された欧州特許第EP 1 087 769号に記述されている。
【0057】
さらに、ここで記述されたいずれの実施形態および/または態様において、心停止直前または心停止中の哺乳動物に有利なように、その他の化合物も投与可能である。これらの化合物は本発明によるレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩の投与前、投与後または投与と同時に投与可能である。たとえば、アドレナリン遮断薬による治療を受けていて、心停止の発作がある患者は、レボシメンダン化合物による治療を受けてもよい。投与可能な化合物の例は、アドレナリン受容体遮断薬、抗血栓薬、血管拡張薬および鎮痛薬を含む。投与可能なアドレナリン受容体遮断薬は、β−1アドレナリン受容体遮断薬またはβ−2アドレナリン受容体遮断薬などのβアドレナリン受容体遮断薬およびα−1アドレナリン受容体遮断薬などのαアドレナリン受容体遮断薬を含む。投与可能なβアドレナリン受容体遮断薬の例は、以下に限定されないものとして、アテノロール、メトプロロール、エスモロールおよびプロパノロールおよびカルベジロールを含む。投与可能なαアドレナリン受容体遮断薬の例は、以下に限定されないものとして、カルベジロールを含む。投与可能な抗血栓薬の例は、以下に限定されないものとして、アスピリンを含む。投与可能な血管拡張剤の例は、以下に限定されないものとして、ニトログリセリンを含む。投与可能な鎮痛薬の例は、以下に限定されないものとして、硫酸モルヒネを含む。一般に、治療有効量の上述の化合物のいずれも、その治療を必要とする哺乳動物に投与され、また実際に投与される量は治療されるべき状態、投与経路、対象者の年齢、体重、および状態に依存し、熟練した医師により適宜決定することができる。
【0058】
本発明によれば、レボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩は治療を必要とする哺乳動物に、当技術分野で周知であるさまざまな経路によって投与可能であり、これは経口および経直腸などの経腸投与、または皮下、筋肉内、腹腔内、舌下、静脈内、気管内、動脈内、経皮または心臓内などの非経口投与を含む。哺乳動物の治療を取り巻く状況が緊急の場合、好ましい投与経路として心臓内注入が示唆される場合がある。
【0059】
ここで使われる「治療有効量」または「製薬学的に効果のある量」の用語は、必要な投与量および期間で望ましい治療結果を得るのに有効なレボシメンダン化合物の量を意味する。哺乳動物に投与されるべき治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩は、治療されるべき状態、投与経路、対象者の年齢、体重、および状態に依存し、熟練した医師の技術内で周知である。一般に、レボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩は、約0.01〜約5.0μg/kg/分、好ましくは約0.5〜約0.4μg/kg/分、最も好ましくは約0.1μg/kg/分の量で投与可能である。哺乳動物の状態の性質次第で、レボシメンダンまたは製薬学的に許容されるその塩を、心停止の直前または心停止中から治療効果が得られるまで持続的に投与する場合もある。大量瞬時投与は可能であり、またはその投与後に上述のように持続的投与することもできる。
【0060】
別の実施形態として、本発明は哺乳動物の心停止を治療する製剤に関わる。本発明の製剤は、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩および製薬学的に許容される担体を含む。本発明の製剤は、治療を必要とする哺乳動物に投与された場合、上記哺乳動物の自発循環を回復するのに十分であり、その際、製剤はCPRおよび除細動の実施と共に投与される。
【0061】
別の実施形態として、本発明の製剤は、治療を必要とする哺乳動物に投与された場合、除細動ショックの頻度またはエネルギーを低減するのに十分であり、除細動と共に投与される。別の実施形態として、本発明の製剤は、治療を必要とする哺乳動物に投与された場合、心不整脈を治療するのに十分であり、除細動と共に投与される。別の実施形態として、該製剤は、治療を必要とする哺乳動物に投与された場合、心停止からの蘇生後に投与される際に臓器機能を保護するのに十分である。レボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩はいずれの剤型の製剤でも使用できるが、フリーズドライが好ましい。本発明による製剤はその他の適切な賦形剤、担体、または必要または望ましい他の化合物を含むことができる。
【0062】
本発明による製剤は、所望の純度を持つ有効成分(たとえばレボシメンダン、および以下に限定されないものとしてアドレナリン受容体遮断薬などのその他化合物)を、場合によっては凍結乾燥製剤または水溶液状の生理的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することによって調製してよい(レミントンの薬学第16版、Osol, A. Ed. (1980))。好ましくは、本発明の製剤は実質的に水分を含まない。許容される担体、賦形剤あるいは安定剤は投与量および濃度が受容者にとって無毒であり、およびリン酸塩、クエン酸塩、他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む単糖類、二糖類および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトールやソルビトールなどの糖アルコール、ナトリウムなどの塩を形成する対イオン;および/またはTWEEN商標、PLURONICS商標またはPEGなどの非イオン性界面活性剤を含む。
【0063】
本発明の製剤の投与量および所望の薬物濃度は、治療されるべき状態、投与経路、対象者の年齢、体重、および状態に依存し、熟練した医師の技術内で周知である。加えて、ヒトへの治療にとって有効な投与量を決定するための信頼できる指針が動物実験により得られた。
【0064】
本発明は上述の記述および実施例によって例示される。上述の記述は多くのバリエーションは当業者にとって明らかとなるため、限定されない説明として意図された。
【0065】
ここで記述された本発明の方法の組成物、操作および調製に関する変更は、本発明の概念および要旨を逸脱しない範囲で実施可能である。
【実施例1】
【0066】
心停止後に蘇生された哺乳動物における心筋障害を治療するためのレボシメンダン使用
すべての動物は、アメリカ医学研究協会により制定された実験動物取り扱いの原則および研究用動物資源協会により作成され、アメリカ国立衛生研究所により出版された実験動物の取り扱いと使用に関する指針(NIH出版86−32、1985年改訂)に従い、人道的な取り扱いを受けた。
【0067】
方法:体重が500〜550gの雄のSprague−Dawleyラットに水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ペントバルビタール(45mg/kg)の腹腔内投与により動物を麻酔した。麻酔を維持するため、およそ1時間の間隔を置いて、または必要に応じて追加投与(10mg/kg)したが、心停止の誘発前30分間は麻酔薬の投与は行わなかった。145°曲がったチップ付鈍針上に取り付けた14gカニューレを、Stark法に従い径行的に気管に挿管した(Stark et al., J. Appl. Physiol. Resp. Environ. Exercise Physiol, 51(5): 1355−1356 (1981))。血管カテーテル法、血行動態測定、採血、ETCO2の監視、VFの誘発および前胸圧迫の手順は、Von Planta I et al., J. Appl. Physiol,65(6): 2641−2647 (1988)に記載されているように実施した。
【0068】
左室圧およびdP/dt40と下降dP/dtmaxを測定するため、ポリエチレン製カテーテル(PE50,Becton−Dickinson)を外科的に露出させた右頚動脈から左室まで進めた。長さ10cmで直径0.5mmの熱電対マイクロプローブを右大腿動脈から挿入し、大動脈弁まで進め、さらに遠位の上行大動脈に引き抜いた。このセンサーで血液温度を測定した。心拍出量測定のため、0.2mLの等張食塩水(室温)を左内頚静脈から進めたカテーテル経由で右房へ注入した。二重の熱希釈曲線を得て記録し、心拍出量コンピュータシステム(Model CO100, ICCM, Palm Springs, CA)を使って心拍出量を算出した。
【0069】
右内頚静脈から右室に進めたガイドワイヤー経由で、心室細動(「VF」)を誘発した。60Hzの電流を最大2mAまで漸進的に増加させ、右室心内膜まで供給し、自発除細動を防ぐため、電流を3分間流した。VFの発症後、機械的人工換気を停止した。VFの発症後、VFは6分間治療されず、空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って換気および前胸圧迫を含むCPRを完了した。これらの手順はVon Planta I et al. J. Appl. Physiol,65(6): 2641−2647 (1988)に記載の通りであり、技術について詳細に記述されている(Tang et al., Circulation, 92: 3089−3093 (1995); Sun et al., J. Pharm. Exp. Ther., 291: 773−777 (1999)を参照)。前胸圧迫の開始と同期して、動物に機械的換気を実施した。1回換気量を0.65mL/100g動物体重、100回/分の頻度、1.0のFiO2と定めた。前胸圧迫を200回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、2:1の圧迫/換気率を与えるよう同調させた。冠動脈灌流圧(CPP)が18〜22mmHgになるように圧迫の深さを最初に調節した。これにより通常8〜12mmHgの呼気終末PCO2を得た(Von Planta I et al., J. Appl. Physiol,65(6): 2641−2647 (1988)を参照)。動脈圧と血管ガスを測定するため、カテーテルを左大腿動脈まで進めた。血管ガスを測定するため、別のカテーテルを左大腿静脈まで進めた。蘇生は2ジュールのカウンターショックで3回まで試行した。自発循環の回復を、最低5分間に平均大動脈圧が60mmHgである上室性調律が回復した場合、と定義した。第1群では、動物は封印封筒方式により無作為化され、VF誘発直後に3種類の治療法のひとつに割り付けられた。レボシメンダンの大量瞬時投与(12μg/kg)の後、0.3μg/kg/分の持続的投与を行った。第2群では、ドブタミンの持続的注入(3μg/kg/分)を比較群の右房に開始した。プラセボの第3群では、等量のレボシメンダン希釈液を大量瞬時投与として注入し、その後レボシメンダンとドブタミンと等量の持続的注入を行った。蘇生後(PR)計240分間、注入を持続した。機械的人工換気は100%の吸入酸素で全体として蘇生後4時間持続した。動物は麻酔から覚醒し、気管内チューブを含むすべてのカテーテルが4時間後に抜去された。動物はケージに戻された。剖検の後、組織(心臓、肝臓、腎臓)が採取され、室温でホルマリンに保存された。
【0070】
レボシメンダンを独立変数とした。従属変数は蘇生後の心筋機能および生存期間であった。血行動態および代謝測定を含む各実験の主要結果因子については、バラメータ解析に適当であることが前もって証明されている。以前の経験から、均一の分散を持つ正規分布であることが示された。したがって、分散分析および共分散分析をデータ解析の主要方法とした。群間測定には、ANOVAおよびシェッフェの多重比較を採用した。
【0071】
実行可能性研究および用量漸増法:用量漸増法の結果を図1、2および3に示した。レボシメンダンを12μg投与後に0.3μg/kg/分投与すると、心拍出量が増大し、動脈圧が減少したが、これはドブタミン3μg/kg/分により生じたものと同程度であった。より高用量のレボシメンダンは動脈圧を下げ、心拍数を上げ、心拍出量もさらに増大した。
【0072】
結果:蘇生10分後(PR10)および投薬後、3群間で動脈圧に有意差は見られなかった(図4)。さらに、動脈血ガス、動脈血乳酸、呼気終末PCO2のいずれについても、表1および2に示したように、群間で有意差は見られなかった。ドブタミンはぎりぎりの有意性の心拍増大をもたらした(図5)。レボシメンダンとドブタミンは心係数に同程度の増加をもたらし(図6)、また初期に有意に高い1回拍出量をもたらした(図7)。全身血管(動脈)抵抗については、レボシメンダンはプラセボコントロールと比較して、有意な低下を示した(図8)。レボシメンダンはdP/dt40に反映されたように、収縮性についてより大きな増加を一貫してもたらした(図9)。より顕著な変弛緩(弛緩)効果がドブタミンに見られた(図10)。しかし、もっとも顕著なのはレボシメンダンを投与された動物で、コントロールやドブタミンを投与された動物に比較して、実質的に低く正常に近い左室拡張期(充満)圧が見られたことである(図11)。最後に、レボシメンダン群の蘇生後生存期間はドブタミン群や特にプラセボ群に比較して有意に長かった(図12)。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【実施例2】
【0075】
蘇生後ラットの心筋不全治療におけるドブタミンとレボシメンダンとの比較
ドブタミンは遷延した心停止からの蘇生後に生じる心筋収縮不全の管理に幅広く使われている。しかし、ドブタミンは虚血性心筋障害の重篤度を増大させる可能性がある。代替変力物質であるレボシメンダンは虚血性障害の重篤度を増加させることなく、心筋の収縮性を改善する可能性を有する。したがって、レボシメンダンを心停止からの蘇生後に投与した場合、ドブタミンやプラセボと比較して、蘇生後の虚血性心筋障害を軽減し、転帰を改善するか否かを調べる実験を行った。
【0076】
動物の準備:体重が450〜550gの雄のSprague−Dawleyラット15匹に水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ペントバルビタール(45mg/kg)の腹腔内投与により動物を麻酔した。麻酔を維持するため、およそ1時間の間隔を置いて、もしくは必要に応じて10mg/kgの追加腹腔内投与を行った。心停止の誘発前30分間は麻酔薬の投与は行わなかった。
【0077】
145°曲がったチップ付鈍針上に取り付けた14ゲージのカニューラ(Abbocath−T;Abbott Hospital Inc.,North Chicago,IL)を、前述の方法に従い経口的に気管に挿管した。20気管カニューラと人工呼吸器の間に挿入した副流赤外線CO2分析器(Model 200;Instrumentation Laboratories,Lexington,MA)を使って、呼気終末PCO2(PETCO2)を測定し、適切な分時換気が行われていることを確認した。左室圧、dP/dt40および下降dP/dtmaxを測定するため、23ゲージのポリエチレン製カテーテル(PE50,Becton−Dickinson,Sparks,MD)を外科的に露出させた右頚動脈から左心室まで進めた。高感度の圧力変換器(Model 42584−01;Abbott Critical Care System,North Chicago,IL)を使って、圧力を測定した。装置の最適な減衰周波数応答は22Hzであった。23ゲージのポリエチレン製カテーテル(PE50)を左外頚静脈、上大静脈を経由して右心室まで進めた。圧力をモニターしながら、カテーテルをゆっくりと右心房まで引き抜いた。別の高感度圧力変圧器(Abbott Model 42584−01)を使って、中胸部を基準にして右房圧を測定した。このカテーテルは温度トレーサーの注入口としても用いた。4Fサイズのポリエチレン製カテーテル(Model C−PMS−401J;Cook Critical Care,Bloomington,IN)を右外頚静脈を経由して右心房まで進めた。本カテーテルに付属している予めカーブしているガイドワイヤーを、カテーテル経由で心内膜心電図が観察できるまで右心室の中へ進めた。別の23ゲージのポリエチレン製カテーテル(PE50)を左大腿動脈経由で腹大動脈へ進め、同Abbott社高感度変圧器を使って大動脈圧を測定し、動脈血も採取した。長さ10cmで直径0.5mmの熱電対マイクロプローブ(9030−12−D−34;Columbus Instruments,Columbus,OH)を右大腿動脈から挿入し、上行大動脈まで進めた。熱電対を使って血液温度および熱希釈心拍出量を測定した。別のPE50カテーテルを左大腿静脈経由で下大静脈まで進め、静脈血を採取し、輸血を投与した。薬剤注入用にPE50カテーテルをもう1本追加して右大腿静脈へ進めた。EKG(2誘導)を継続して記録した。
【0078】
実験手順:計15匹の動物を調べた。治験医師はVFを誘発する直前まで介入について知らされておらず、その時点で治験統括医師が3群、すなわち(1)レボシメンダン、(2)ドブタミン、および(3)生理食塩水プラセボのひとつへの割付のための封印された封筒を開封した。これにより選択した薬剤の新鮮な希釈液を調製する時間が与えられた。60Hzの電流でVFが誘発され、電流は2.0から最大5.0mAまで漸増した。前述したように、自発除細動を防ぐため、電流を3分間流した(Von Planta I,Weil MH.ラットにおける心肺蘇生。J Appl Physiol.1988;65(6):2641−2647)。VFの発症後、人工換気を停止した。VFが8分間治療されなかった後に、空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って前胸圧迫を開始し、6分間継続した。
【0079】
これらの方法は広く行われており、十分報告されている(Von Planta I(前記))およびSun SJ,Weil MH,Tang W et al.蘇生後の心筋機能への緩衝液とアドレナリン作動薬の併用効果。J Pharm Exp Ther. 1999;291:773−777を参照)。前胸圧迫の開始と同期して、動物に機械的換気を実施した。1回換気量を6.5mL/kg動物体重、100回/分の頻度および1.0のFiO2と定めた。前胸圧迫を200回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、2:1の圧迫/換気率を与えるよう同調させた。冠動脈灌流圧(CPP)が約24mmHgになるように最初に圧迫の深さを調節した。これにより通常、約14mmHgのPETCO2が得られた(Von Plata I、前記)。前胸圧迫を6分間行った後、除細動を2ジュールの直流電気ショックで3回まで試行した。動物が蘇生されなかった場合は、前胸圧迫を30秒間再開し、次の電気ショックを行った。自発循環の回復(ROSC)を、最低5分間に平均大動脈圧が60mmHgである上室性調律が回復した場合、と定義した。ROSCの10分後に、3種類の介入のうちのひとつを開始した。レボシメンダンおよびドブタミンの投与量については、すでに治療効果があることが示されており(急性非代償性心不全の場合)、また同時に動脈圧を変化させなかった量が選択された。レボシメンダンは12μg/kgの負荷用量を10分間かけて注入され、その後0.3μg/kg/分で230分間注入された。ドブタミンは3μg/kg/分を240分間右心房に注入された。生理食塩水プラセボは総量5mLを240分間かけて注入され、ドブタミンおよびレボシメンダンと同等になるようにした。シリンジポンプ(Model 940,Harvard Apparatus,Southnatick. MA)を用いた。蘇生に成功した後、酸素による機械的人工換気と血行動態測定を計4時間継続して行った。動物は麻酔から覚醒し、それから4時間後に気管内チューブを含むすべてのカテーテルが抜去され、室内空気を呼吸した。その後72時間かけて生存が観察された。72時間後、動物を安楽死させ、剖検を通常通り行った。挿管、気道管理、または前胸圧迫による外傷性障害を含め、臓器の全体的な異常を検査した。
【0080】
測定:前述の方法により、0.5mLの動脈血および静脈血のPO2、PCO2、pH、SO2および乳酸、カルシウムおよび血中グルコースを測定した。4、21 同一のコロニーの麻酔されたドナーラットの動脈血1.0mLを下大静脈へ急速輸血し、臨床検査のために大動脈と大腿静脈から0.5mLずつ採取したのと同等量を補った。測定はベースライン時、蘇生成功後30、120および240分後に行った。大動脈圧、左室圧、右房圧、EKQおよびPETCO2を、CODASソフトウェア(DATAQ Inc.,Akron,OH)によりPCデータ取得システム上に継続的に記録した。毎分の前胸圧迫の終わりに測定された減圧拡張大動脈圧と同時右房圧の差としてCPPを算出した。
【0081】
左室圧の増加率(dP/dt40)が40mmHgでの左室圧での微分で測定され、等容性収縮の量的推計として用いられた。最大左室圧低下率−dP/dtも左室拡張期圧と一緒に測定し、心筋拡張機能の推定値とした。20、21 心拍出量コンピュータ(CO−100;Institute of Critical Care Medicine,Palm Springs,CA)を用いて熱希釈法により心拍出量をベースライン時、蘇生成功後30、60、180および240分後に測定した。それぞれの場合において、繰り返し測定の差は5%未満であった。
【0082】
統計解析:群間測定には、ANOVAおよびシェッフェの多重比較を採用した。結果の差はフィッシャーの直接確率検定で解析した。測定値は平均±SDで報告した。P<0.05の値を有意とみなした。
【0083】
結果:ベースライン時の心拍、動脈圧、左室拡張期圧、dP/dt40、下降dP/dt、心係数、およびETCO2に有意差は見られなかった(表3)。また動脈血ガス、静脈血ガス、乳酸、カルシウムおよび血中グルコースにも有意差は見られなかった。動物は心停止から14分後に蘇生に成功し、これにはVFが治療されなかった8分間とそれに続く前胸圧迫と機械的人工換気の6分間が含まれる。
【0084】
ドブタミン投与後に中等度の心拍上昇が見られ、予想通り投与量に反応した。しかし、平均動脈圧(MAP)は3群間で有意差が見られなかった。予想されたように、ドブタミンとレボシメンダンは心係数を有意に増加させたが、プラセボは増加させなかった。(図13)
【0085】
ドブタミンとレボシメンダンは図14に示されるように、収縮および拡張機能を改善した。生理食塩水プラセボと比較すると、dP/dt40と−dP/dtは有意に高い値を示した。レボシメンダンは左室拡張期(充満)圧の増加を有意により低く抑えた。ドブタミンを投与された動物において、動脈PCO2とETCO2がROSC後2時間目と4時間目の間で有意に高かった。加えて、統計学的には有意でなかったが、ドブタミン投与後に動脈血酸素飽和度が一貫して低かった(表4)。しかし、動脈血および混合静脈血のpH、PO2、乳酸、グルコースおよびカルシウムに一貫性のある差は認められなかった。
【0086】
最も重要な所見は、生存期間の増加で、これはレボシメンダンで最大、ドブタミンで中間、食塩水プラセボで最小であった。レボシメンダンとドブタミンならびに生理食塩水プラセボとの差は、図15で示したように有意であった。剖検では胸部および腹部内臓に全体的な障害は記録されなかった。
【0087】
この実験による比較から、心停止からの蘇生後のレボシメンダンの投与は、蘇生後の心筋機能をドブタミンの場合と同程度に改善することが示された。しかし、レボシメンダンはより低い心拍の増加およびより望ましい左室拡張期充満圧と関連した、より優れた延命効果がある。
【実施例3】
【0088】
蘇生後ブタの心筋不全治療におけるドブタミンとレボシメンダンとの比較
実験の準備:本実験は広く行われている心停止および心臓蘇生のブタモデルで実施した。(21、22)。簡潔に述べると、体重が35〜40kgの間の雄の飼育ブタ15頭に水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ケタミン(20mg/kg)の筋肉内投与で麻酔を開始し、ペントバルビタールナトリウム(30mg/kg)を耳静脈に注入し完了した。麻酔を維持するため、1時間の間隔を置いて、ペントバルビタールナトリウムを追加投与(8mg/kg)した。カフ付気管内チューブを気管内に挿入した。動物は15mL/kgで機械的換気を受け、流量制御換気装置(Model MA−I,Puritan−Bennett,Carlsbad,CA)を使ってピーク気道流速が40L/分、FiO2が0.2に調節した。赤外線分析器(Model 01R−7101 A,Nihon Kohden Corp,Tokyo,Japan)を使って、呼気終末PCO2(PETCO2)をモニターした。PETCO2を35〜40mmHgの間に維持して呼吸頻度を調節した。必要に応じて赤外線加熱ランプを使って、血液温度を37±0.5℃に保った。
【0089】
左室機能を測定するため、4方向に屈曲する5.5/7.5MHz両翼パルス波ドップラー経食道心エコートランスデューサー(Model 21363A,Hewlett−Packard Co. Medical Products Group,Andover,MA)を切歯から食道へ約40cmの距離進めた。大動脈圧測定のため、液体を満たしたカテーテルを外科的に露出させた左大腿動脈から胸大動脈まで進めた。右房圧および肺動脈圧、血液温度、心拍出量を測定するため、7−フレンチ型ペンタルーメン熱希釈チップカテーテルを外科的に露出させた左大腿静脈から流れ出方向付けて肺動脈へ進めた。VFを誘発するため、5−フレンチペーシングカテーテル(EP Techologies,Inc.,Mountain View,CA)を外科的に露出させた右橈側皮静脈から右心室まで進めた。外科的に露出させた左橈側皮静脈を経由して、透視しながら7−フレンチ血管造影カテーテル(5470,USCI C.R. Bard,Murray Hill,NJ)を上大静脈経由で右心房および冠状静脈洞まで進めた。このカテーテルを側方にループさせ、5cm下方に進めて大心臓静脈内に入れ、冠静脈血を採取した。心電図(EKG)第2誘導を継続して記録した。
【0090】
実験手順:計15匹の動物を調べた。VF誘発の15分前に、動物は封印封筒方式により無作為化された。右心室心内膜に送られた1〜2mAのAC電流で心停止を誘発した。VFの発症後、機械的人工換気を停止した。VFが7分間治療されない期間の最後に、空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って前胸圧迫(PC)を開始した(Thumper,Model 1000,Michigan Instruments,Grand Rapids,MI)。PC開始と同期して、動物は1回換気量を15mg/kg、FiO2を1.0で機械的人工換気を受けた。PCを100回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、5:1の圧迫/換気率、すなわち50%負荷サイクルを与えるよう同調させた。圧迫力は胸部の前後径が25%減少するように調節した。PCの5分後、右鎖骨下部と心尖部との間に150Jの二相性波形ショックを送り、除細動を試行した。平均大動脈圧が60mmHgを超える組織的な心調律が5分間以上持続した場合、動物は蘇生に成功したとみなされた。自発循環の回復(ROSC)の10分後に、3種類の介入のうちのひとつを開始した。レボシメンダンとドブタミンの投与量は以前の治験(23−25)に従って投与され、その後、これらの投与量が生理条件下で通常麻酔されたブタにおいて平均動脈圧を変化させないことを確認した。生理食塩水で希釈されたレボシメンダンを20μg/kgの負荷用量で10分間かけて注入し、その後、同様に生理食塩水溶液に希釈して0.4μg/kg/分を230分間注入した。生理食塩水で希釈されたドブタミンを5μg/kg/分で240分間右心房に注入した。薬剤を含まない同等量の生理食塩水溶液をROSC後10分間かけて注入し、その後レボシメンダンおよびドブタミンの投与量と同等量の生理食塩水を230分間持続注入した。100%酸素による機械的人工換気と血行動態測定を、蘇生後計4時間継続して行った。その後動物は麻酔から覚醒し、気管内チューブを含むすべてのカテーテルが4時間後に抜去された。72時間の観察期間の後、動物を安楽死させ、剖検を通常通り行った。剖検では、挿管、気道管理、または前胸圧迫による外傷性障害を含め、臓器の全体的な異常を検査した。
【0091】
測定:大動脈圧、右房圧、平均肺動脈圧を含む血行動態データ、冠動脈灌流圧、呼気終末PCO2を、第2誘導のEKGをリアルタイムで継続的にモニターし、前述のようにCODASハードウェア/ソフトウェア(DATAQ Inc.,Akron,OH)を使ってPCデータ取得システム上に継続的に記録した(21、22)。
【0092】
4方向に屈曲する経食道心エコートランスデューサーを使って、心エコーを測定した。左室収縮末期容積および左室拡張末期容積をディスク法(Acoustic Quantification Technology, Hewlett−Packard, Andover, MA)により長軸像から算出した。これらの値から駆出率および面積変化比を算出した。これらの測定値を心筋収縮機能の量的指標として用いた。測定はベースライン時、蘇生成功後30、60、120、180および240分後に行った。
【0093】
ブタ血液用に変更したSTATプロフィール分析器(ULTRA C,Nova Biomedical Corporation,Waltham,MA)で、200μLの血液量について動脈血ガスを測定した。以前に述べたように(22)、神経学的覚醒を100(完全に覚醒し活動的)から0(反応なく無呼吸)の尺度で得点化した。覚醒と活動に加えて、心停止から蘇生後24、48および72時間目における姿勢、水および食餌消費、およびセルフケアの客観的兆候をスコアに加えた。
【0094】
統計解析:群間測定には、ANOVAおよびシェッフェの多重比較を採用した。結果の差はフィッシャーの直接確率検定で解析した。測定値は平均±SDで報告した。p<0.05の値を有意とみなした。
【0095】
結果:ベースライン時の心拍(HR)、平均動脈圧(MAP)、右房圧(RAP)、平均肺動脈圧(MPAP)、駆出率(EF)、面積変化率(FAC)、心拍出量(CO)、および呼気終末PCO2(PETCO2)に有意差は見られなかった。ベースライン時の血液ガス値にも有意差は見られなかった。動物はVFが治療されなかった7分間とそれに続く前胸圧迫と機械的人工換気の5分間、すなわち合計12分間の心停止後に蘇生に成功した。
【0096】
心拍の相違は3群間で見られなかった。予想されたように、レボシメンダンとドブタミンとの間で動脈圧に差は見られなかったが、蘇生60分後では生理食塩水プラセボの動脈圧が有意に低かった。レボシメンダン投与4時間後に平均肺動脈圧および右房(充満)圧が有意に低下した。(表5)。
【0097】
レボシメンダンとドブタミンは共に投与された量で収縮機能を改善した。図16に示されるように、生理食塩水プラセボと比較して、両変力物質は心拍出量を有意に増大させた。しかし、レボシメンダンはドブタミンに比較して有意に大きいEFおよびFACを72時間の時点で維持しており(図17および18)、冠動脈−静脈酸素の差が数値的に低かった(図19)。従って、駆出率から見た収縮性の増大は、酸素抽出の増大を伴わずに観測された(図20)。冠静脈血の乳酸については差は見られなかった(図21)。神経学的覚醒スコアは24時間の時点でレボシメンダンが有意に優れていた(表6)。
【実施例4】
【0098】
心肺蘇生中のレボシメンダン投与の効果
動物の準備:体重が450〜580gの雄のSprague−Dawleyラット10匹に水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ペントバルビタール(45mg/kg)の腹腔内投与により動物を麻酔した。麻酔を維持するため、およそ1時間の間隔を置いて、または必要に応じて10mg/kgの追加投与を行った。心停止の誘発前30分間は麻酔薬の初期投与は行わなかった。145°曲がったチップ付鈍針上に取り付けた14ゲージのカニューラを、Stark法に従い気管に挿管した(Stark RA,Nahrwold ML,Cohen PJ. 肉眼によらないラットの経口気管挿管,J. Appl. Physiol. Resp. Environ. Exercise Physiol,51(5):1355−1356(1981))。dP/dt40および下降dP/dtを含む左室圧を測定するため、ポリエチレン製カテーテル(PE50,Becton−Dickinson)を外科的に露出させた右頚動脈から左心室まで進めた。ポリエチレン製カテーテル(PE50,Becton−Dickinson)を左外頚静脈、上大静脈を経由して右心房まで進めた。高感度の圧力変換器(Model 42584−01;Abbott Critical Care System,North Chicago,IL)を使って、右房圧を測定した。長さ10cm、直径0.5mmの熱電対マイクロプローブ(9030−12−D−34;Columbus Instrument,Columbus,OH)を右大腿動脈から挿入し、下行大動脈まで進めた。このセンサーで血液温度を測定した。心拍出量測定のため、8〜12℃の間の0.2mLの等張食塩水を左内頚静脈から進めたカテーテル経由で右房へ注入した。二重の熱希釈曲線を得て、心拍出量コンピュータ(CO−100;Institute of Critical Care Medicine,Palm Springs,CA)を使って記録した。PE50カテーテルを左大腿動脈経由で胸大動脈へ進めて動脈血を採取して血中ガスの分析を行い、高感度変圧器(model 42584−01;Abbott Critical Care System)を使って大動脈圧を測定した。収縮期圧、拡張期圧、解釈された平均動脈圧を持続的に記録した。別のPE50カテーテルを左大腿静脈経由で下大静脈まで進め、静脈血ガスの分析に提供するため血液を採取した。同一のコロニーの麻酔されたドナーラットの動脈血1.2mLを下大静脈へ急速輸血し、臨床検査のために大動脈と下大静脈からそれぞれ0.6mLずつ採取したのと同等量を補った。次に4Fサイズのポリエチレン製カテーテル(Model C−PMS−401 J;Cook Critical Care,Bloomington,IN)を右外頚静脈を経由して右心房まで進め、VFを誘発した。本カテーテルに付属している予めカーブしているガイドワイヤーを、カテーテル経由で心内膜心電図が観察できるまで右心室の中へ進めた。60HzのAC電流を最大3.5mAまで右室心内膜にVFが誘発されるまで供給した。次に電流を半分にして、自発除細動を防ぐため3分間流した。VFは6分間治療されなかった。VFの発症後、機械的人工換気を停止した。空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って前胸圧迫を行った。これらの手順は以前に詳細に記述されており(Von Planta I、前記)、また当業者で周知である(Tang W,Weil MH,Sun S,Noc M,Yang L,Gazmuri R。エピネフリンは蘇生後の心筋障害の重篤度を増大させる。Circulation 1995;92:3089−3093およびSun S,Weil MH,Tang W,Povoas H,Mason E。蘇生後の心筋機能への緩衝液とアドレナリン作動薬の併用効果。Pharmacology 1999;291:773−777を参照)
【0099】
前胸圧迫の開始と同期して、動物に機械的換気を実施した。1回換気量を0.65mL/100g動物体重、100回/分の頻度および1.0のFiO2と定めた。前胸圧迫を200回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、2:1の圧迫/換気率を与えるよう同調させた。最初に冠動脈灌流圧(CPP)が約23±1mmHgになるように圧迫の深さを調節した。これにより通常14±3mmHgの呼気終末PCO2を得た(Von Planta I,上記)。蘇生は2ジュールの2相性ショックで3回まで試行した。自発循環の回復(ROSC)を、平均大動脈圧が60mmHgを持つ上室性調律が最低5分間維持された場合、と定義した。レボシメンダンはOrion社(Espoo,フィンランド)より供給され、2.5mg/mLに希釈され、20μg/kgの大量瞬時投与でVFが2分間治療されなかった後に右心房へ注入された。酸素による機械的人工換気を蘇生後4時間継続して行った。動物は麻酔から覚醒し、気管内チューブを含むすべてのカテーテルが4時間後に抜去された。心電図(EKG)第2誘導を継続して記録した。動物はケージに戻された後、動物の蘇生後活動状態を計48時間の間4時間ごとに記録した。動物にペントバルビタール(150mg/kg)を腹腔内投与して安楽死させ、剖検を通常通り行い、CPR介入中の骨性胸郭および胸部および腹部内臓への障害を調べた。
【0100】
統計解析:群間測定には、ANOVAおよびシェッフェの多重比較を採用した。各群内の時間に基づく測定間の比較はANOVA反復測定で行った。カテゴリー変数はフィッシャーの直接確率検定で解析した。測定値は平均±SDで報告した。p<0.05の値を有意とみなした。
【0101】
結果:ベースライン時の血行動態および血液分析については、レボシメンダンとプラセボ投与群で有意差は見られなかった。VFの発症と同期して、平均動脈圧(MAP)は133±6から11±2mmHgへ低下し、MAPは1±1から9±2mmHgに増加して、以前の報告が確認された(Tang W,Weil MH,Sun S,Pernat A,Mason E。KATPチャネル活性化は蘇生後の心筋障害の重篤度を低下させる。Am J Physiol 2000;279:H1609−H1615)。死戦期の喘ぎによる偶発的な増加を除き、心停止が治療されない6分間にCPPは1から3mmHgの間にとどまっていた。前胸圧迫はCPPを平均23±1mmHgに増大させた。レボシメンダン投与前後いずれにおいてもレボシメンダン群とプラセボコントロール群との間にCPPについては差が見られなかった。各動物への除細動は成功した。しかし、レボシメンダンを投与された動物は蘇生が成功する前のCPRの期間が有意に短かった(表7)。蘇生が成功するまでに必要な電気ショックの累積回数は、プラセボ群の動物(5匹)よりレボシメンダン群の動物の方が有意に少なかった。レボシメンダン投与群の動物において、蘇生後4時間にわたり、有意に高い心係数、dP/dt40およびMAPが記録された(図22)。左室コンプライアンスの指標としての下降dP/dtはETCO2と共に増大した(図23)。左室機能の改善はレボシメンダン投与後のSTセグメントのより低い上昇とともに(表7)、左室拡張期圧の減少に反映されている(図23)。抹消動脈抵抗(PAR)はレボシメンダン投与後有意に低下した(図24)。蘇生後の生存期間はレボシメンダン投与群の動物で有意に増大した(表8)。
【0102】
蘇生後のSTセグメントの上昇がより低く抑えられることは、レボシメンダンが蘇生成功後に起こる虚血性障害、したがってまた後遺症の虚血を最小限に抑える能力があることを加えて示している。レボシメンダンは抹消抵抗を低下させるため、抹消動脈抵抗の血管拡張または同時に起こる減少があるとは言え、左心室後負荷の、結果として生じる低減によって、心係数の増大と動脈圧の増加を伴う収縮機能の改善が説明されるであろう。これらの測定値を併せて評価すると、レボシメンダンが心停止中に投与された場合、結果が改善する。
【実施例5】
【0103】
βアドレナリン作動性遮断後の蘇生後心筋機能に対するレボシメンダンの効果
動物の準備:体重が35〜40kgの雄の飼育ブタに水のみを自由に与え、一晩絶食させた。ケタミン(20mg/kg)の筋肉内投与で麻酔を開始し、ペントバルビタールナトリウム(30mg/kg)を耳静脈に注入し完了した。麻酔を維持するため、1時間の間隔を置いて、ペントバルビタールナトリウムを追加投与(8mg/kg)した。カフ付気管内チューブを気管内に挿入した。動物は流量制御換気装置(Model MA−1,Puritan−Bennett,Carlsbad,CA)を使って、1回換気量を15mL/kg、ピーク気道流速を40L/分、およびFiO2を0.21で機械的換気を受けた。赤外線分析器(Model 01R−7101 A,Nihon Kohden Corp,Tokyo,Japan)を使って、呼気終末PCO2(ETCO2)をモニターした。PETCO2を35〜40mmHgの間に維持することで呼吸頻度を調節した。
【0104】
左室機能を測定するため、4方向に屈曲する5.5/7.5Hz両翼パルス波ドップラー経食道心エコートランスデューサー(Model 21363A,Hewlett−Packard Co. Medical Products Group,Andover,MA)を切歯から食道へ約35cmの距離進めた。大動脈圧測定のため、液体を満たしたカテーテルを左大腿動脈から胸大動脈まで進めた。右房圧および肺動脈圧、および血液温度を測定するため、7−フレンチ型ペンタルーメン熱希釈チップカテーテルを左大腿静脈から流れ方向に向けて肺動脈へ進めた。大心臓静脈の血液ガスおよび乳酸を測定するため、7−フレンチカテーテルを左橈側皮静脈から大心臓静脈まで進めた。VFを誘発するため、5−フレンチペーシングカテーテル(EP Techologies,Inc.,Mountain View,CA)を右橈側皮静脈から右心室まで進めた。
【0105】
実験手順:VFの15分前に、動物は封印封筒方式により無作為化された。治験医師は無作為化について知らされていなかった。右心室心内膜に送られた1〜2mAのAC電流で心停止を誘発した。VFの発症後、機械的人工換気を停止した。VFが7分間治療されない期間の最後に、空気圧駆動機械式胸部圧迫装置を使って前胸圧迫(PC)を開始した(Thumper,Model 1000,Michigan Instruments,Grand Rapids,MI)。前胸圧迫開始と同時に、動物は1回換気量を15mL/kgおよびFiO2を1.0で機械的人工換気を受けた。前胸圧迫を100回/分で維持し、圧迫と弛緩の期間が等しくなるように、5:1の圧迫/換気率、すなわち50%負荷サイクルを与えるよう同調させた。圧迫力は胸部の前後径が25%減少するように調節した。前胸圧迫の5分後、右鎖骨下部と心尖部との間に150Jの二相性波形ショックを送り、除細動を試行した。平均大動脈圧が60mmHg以上の組織的な心調律が5分間以上持続した場合、動物は蘇生に成功したとみなされた。すべての動物が電気除細動後に自発循環を回復(ROSC)し、ついで3つの投与群、すなわち(1)プロプラノロール(6分間のVF時に0.1mg/kgの大量瞬時投与);(2)プロプラノロール+レボシメンダン(蘇生10分後、20μg/kgを10分間、その後0.4μg/kg/分で220分間);および(3)同等量の生理食塩水のプラセボに無作為に割り付けられた。
【0106】
測定は蘇生後4時間にわたり行なった。実験手順を図25にまとめた。4時間後、動物に150mg/kgのペントバルビタールを静脈内投与して安楽死させた。剖検を行い、骨性胸郭および胸部および腹部内臓への障害を調べた。
【0107】
測定:大動脈圧、右房圧(RAP)、肺動脈圧(PAP)および呼気終末PCO2(PETCO2)を含む動態データを、心電図とともに継続的に測定し、前述のようにCODAS/WINDAQハードウェア/ソフトウェアを使ってPCデータ取得システム上に継続的に記録した(14)。合計16チャネルが提案された研究のため適切なサンプリング頻度での継続記録に利用可能であった。CPPはデジタル処理され、血行動態の測定値および心電図はリアルタイムで表示された。
【0108】
心エコー測定は4方向に屈曲する5.5/7.5Hz両翼パルス波ドップラー経食道心エコートランスデューサーを備えたHewlett−Packard Sonos 2500 心エコー装置(Model 21363A,Hewlett−Packard Co. Medical Products Group,Andover,MA)を使って行なった。長軸用に、2または4室像を得た。左室収縮末期容積および左室拡張末期容積をディスク法(Acoustic Quantification Technology,Hewlett−Packard,Andover,MA)により算出した。これらの値から駆出率(EF)および面積変化比(FAC)を算出した。これらの測定値を心筋収縮機能の量的指標として用いた。
【0109】
ブタ血液用に変更したSTATプロフィール分析器(ULTRA C,Nova Biomedical Corporation,Waltham,MA)を使って、200μLの血液量について動脈血、混合静脈血および大心臓静脈血のガス、ヘモグロビンおよびオキシヘモグロビンを測定した。動脈血および大心臓静脈血の乳酸は乳酸分析器(Model 23L,Yellow Springs Instruments,Yellow Springs,OH)で測定した。これらの測定は心停止の10分前、ROSCの10分後、その後1時間ごとで合計4時間実施した。ST−Tセグメントの上昇は蘇生5分後に測定し、ROSC後の5分間に起きた心室性期外収縮(PVB)の合計回数を数えた。適用したショックの合計回数と累積エネルギーを解析した。
【0110】
統計解析:すべてのデータは平均±標準偏差(SD)で表した。血行動態および代謝測定値の群間の差は、ANOVAで解析し、シェッフェの多重比較も行った。p<0.05の値を有意とみなした。
【0111】
結果:ベースライン時の血行動態、血液ガスおよび乳酸値は3群間で有意差は見られなかった。自発循環はすべての動物で回復した。CPR中およびCPR後のPETCO2、血液ガス分析、動脈血中乳酸について有意差は見られなかった。
以前の観察を確認するものとして、プロプラノロールをCPR中に投与すると蘇生が促進され、電気ショックの回数と総エネルギーが有意に低下した。蘇生後の心室性期外収縮回数の有意な低下と、ECGリムの第2誘導における蘇生後のSTセグメントのより低い上昇が記録された(図26)。
【0112】
蘇生後の駆出率およびFACは、生理食塩水プラセボ群と比較すると、プロプラノロール群で有意に増大した。蘇生後の早期にレボシメンダンを追加すると、図27に示されたように、プロプラノロールのみに比べ、EFおよびFACがさらに有意に増加した。
本実験研究の結果は以前の報告をさらに拡大し、プロプラノロールが蘇生を容易にし、具体的には電気除細動を容易にし、蘇生後の期外収縮の頻度を下げ、蘇生後虚血性障害の重篤度を緩和した。蘇生後の早期にレボシメンダンを投与すると、心筋の収縮機能をさらに有意に改善した。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】0.4 μg/kg/分のレボシメンダン(□)、0.3 μg/kg/分のレボシメンダン(△)、2 μg/kg/分のレボシメンダン(○)およびプラセボ(◆)を投与したラットにおける心係数(mL/kg/分)を測定したグラフである。
【図2】0.4 μg/kg/分のレボシメンダン(□)、0.3 μg/kg/分のレボシメンダン(△)、2 μg/kg/分のレボシメンダン(○)およびプラセボ(◆)を投与したラットにおける平均動脈圧(mmHg)を測定したグラフである。
【図3】0.4 μg/kg/分のレボシメンダン(□)、0.3 μg/kg/分のレボシメンダン(△)、2 μg/kg/分のレボシメンダン(○)およびプラセボ(◆)を投与したラットにおける心拍数(拍/分)を測定したグラフである。
【図4】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(◆)を蘇生後に投与したマウスの平均動脈圧を測定したグラフである。
【図5】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの心拍数(拍/分)を測定したグラフである。
【図6】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの心係数(mL/kg/分)を測定したグラフである。
【図7】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの1回拍出量を測定したグラフである。
【図8】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの全身血管抵抗を測定したグラフである。
【図9】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの収縮性(dP/dt40で反映されたとして)を測定したグラフである。
【図10】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したラットの変弛緩効果または弛緩効果(下降dP/dt40で反映されたとして)を測定したグラフである。
【図11】レボシメンダン(■)、ドブタミン(○)およびプラセボ(△)を蘇生後に投与したマウスの左室拡張期(充満)圧(LVDP)をmmHgとして測定したグラフである。
【図12】コントロール群、ドブタミンおよびレボシメンダン投与群の生存期間(時間)を示した図である。
【図13】蘇生後の心拍数(1分あたりの拍数)、平均動脈圧(mmHg)および心係数(mL/分/kg)に対する3種類の処置の効果を示したグラフである。 値は平均値と標準偏差で表した。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP +0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01;†ドブタミンに対してP <0.05
【図14】dP/dt40(mmHg/秒×103)、−dP/dt(mmHg/秒×103)およびPLVD(mmHg)の値を示したグラフである。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01
【図15】72時間目の生存期間を表す図である。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01;†ドブタミンに対してP <0.05
【図16】蘇生後の心拍出量(mL/分)に対する3種類の処置の効果を示したグラフである。値は平均値と標準偏差で表した。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01
【図17】駆出率(EF、%)の値を示したグラフである。値は平均値と標準偏差で表した。BL=ベースライン;DF=除細動;PC=前胸圧迫;VF=心室細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01;†ドブタミンに対してP <0.05;††ドブタミンに対してP <0.01
【図18】FAC(%)の値を示したグラフである。値は平均値を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン;VF=心室細動;PC=前胸圧迫;DF=除細動。*生理食塩水プラセボに対してP <0.05; **生理食塩水プラセボに対してP < 0.01;†ドブタミンに対してP <0.05
【図19】動脈血と大心臓静脈血のPO2の差(Pa−vO2)の値を示したグラフである。値は平均を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン。VF=心室細動。PC=前胸圧迫。DF=除細動。*生理食塩水プラセボに対してP<0.05
【図20】蘇生後240分におけるEFおよびPa−vO2のベースライン値に対するパーセンテージを示した図である。
【図21】大心臓静脈血の乳酸値を示したグラフである。
【図22】レボシメンダン(●で表す)投与後の心係数(CI)、収縮性 (dP/dt40)および平均動脈圧(MAP)の増加を生理食塩水プラセボ(□で表す)と比較したグラフである。値は平均を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン。VF=心室細動。PC=前胸圧迫。DF=除細動。
【図23】左室拡張期圧(LVDP)の低下および心室拡張機能の改善に一致する下降dP/dtおよび心拍出量の増加に一致する呼気終末PCO2(ETCO2)を示したグラフである。レボシメンダン(●)、生理食塩水(□)。値は平均を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン。VF=心室細動。PC=前胸圧迫。DF=除細動。
【図24】レボシメンダン(●)対生理食塩水(□)投与後の抹消動脈抵抗(PAR)の低下を示したグラフである。値は平均を表し、線分は±SDを表す。BL=ベースライン。VF=心室細動。PC=前胸圧迫。DF=除細動。
【図25】本研究を実施するための実験手順を示したグラフである。VF=心室細動。DF=除細動
【図26】プロプラノロール群における除細動ショック、PVB数およびST−T上昇の著しい改善を示す図である。値は平均値±SDで表した。
【図27A】レボシメンダン+プロプラノロール群とプロプラノロール群におけるFACとEFがコントロール群に比較して有意に高いことを示した図である。値は平均値±SDで表した。
【図27B】レボシメンダン+プロプラノロール群とプロプラノロール群におけるFACとEFがコントロール群に比較して有意に高いことを示した図である。値は平均値±SDで表した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心停止状態にある哺乳動物の自発循環を回復するための、前記哺乳動物に心肺蘇生(CPR)および除細動ショックを適用するステップを含む方法における、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与することを含む改良。
【請求項2】
前記投与ステップが前記CPR適用開始時に行われる請求項1の方法。
【請求項3】
前記レボシメンダン化合物が約0.06〜約36μg/kg/分の量で投与される請求項1の方法。
【請求項4】
心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法であって、
前記除細動ショックをに適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与するステップ、および
効果的な心調律を回復するのに十分な頻度(前記頻度は標準と認められた治療プロトコルにより確立された頻度と比較して少ない。)で前記除細動ショックを適用するステップ
を含む方法。
【請求項5】
心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法であって、
前記除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与するステップ、および
効果的な心調律を回復するのに十分な頻度(前記頻度は前記レボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある同様の哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度と比較して少ない。)で前記除細動ショックを適用するステップを含む方法。
【請求項6】
心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法であって、
前記除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与するステップ、および
効果的な心調律を回復するのに十分な前記エネルギーで前記除細動ショックを適用するステップ(前記エネルギーは標準と認められた治療プロトコルにより確立された前記エネルギーと比較して少ない。)ステップを含む方法。
【請求項7】
心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法であって、
前記除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記該哺乳動物に投与するステップ、および
効果的な心調律を回復するのに十分な前記エネルギー(前記エネルギーは前記レボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある類似の哺乳動物に適用される前記エネルギーと比較して少ない。)で前記除細動ショックを適用するステップを含む方法。
【請求項8】
除細動エネルギーを前記哺乳動物に適用するのに先立ち、治療有効量のアドレナリン受容体遮断薬を前記哺乳動物に投与するステップをさらに含む請求項7の方法。
【請求項9】
治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を下記哺乳動物に投与するステップを含む心停止中または心停止からの蘇生後の治療を必要とする哺乳動物において心筋障害を治療する方法。
【請求項10】
前記レボシメンダン化合物がレボシメンダンである請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項11】
前記レボシメンダン化合物がレボシメンダン代謝物である請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項12】
前記投与ステップが前記レボシメンダン化合物を持続注入で投与することを含む請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項13】
前記投与方法が非経口である請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項14】
前記非経口投与が静脈内、気管内、動脈内、経皮または心臓内である請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項15】
前記レボシメンダン化合物が約0.01から約5.0μg/kg/分の量で投与される請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項16】
前記レボシメンダン化合物が約0.05から約0.4μg/kg/分の量で投与される請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項17】
前記レボシメンダン化合物が約0.01μg/kg/分の量で投与される請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項18】
前記哺乳動物がヒトである請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項19】
治療有効量のアドレナリン受容体遮断薬を前記哺乳動物に投与するステップをさらに含む請求項1または5または6または7または9の方法。
【請求項20】
治療有効量のアドレナリン受容体遮断薬を前記哺乳動物に投与するステップをさらに含む請求項4の方法。
【請求項21】
前記アドレナリン受容体遮断薬の前記投与が前記レボシメンダン化合物を投与する前記ステップに先立ち行われる請求項19の方法。
【請求項22】
前記アドレナリン受容体遮断薬がβアドレナリン受容体遮断薬またはαアドレナリン受容体遮断薬である請求項19の方法。
【請求項23】
前記アドレナリン受容体遮断薬がβ−1アドレナリン受容体遮断薬またはβ−2アドレナリン受容体遮断薬である請求項22の方法。
【請求項24】
前記βアドレナリン受容体遮断薬がプロパノロール、メトプロロール、エスモロールまたはアテノロールである請求項22の方法。
【請求項25】
前記αアドレナリン遮断薬がα−1アドレナリン受容体遮断薬である請求項22の方法。
【請求項26】
前記βアドレナリン受容体遮断薬がカルベジロールである請求項22の方法。
【請求項27】
治療を必要とする哺乳動物において心不整脈を治療するための、1回もしくはそれ以上の除細動ショックを該哺乳動物に適用するステップを含む方法における、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与することを含む改良。
【請求項28】
前記投与ステップが1回もしくはそれ以上の該除細動ショックの前記適用の後に行われる請求項27の方法。
【請求項29】
心停止後の哺乳動物において臓器機能を保護するための、前記哺乳動物に自発循環を回復させるステップを含む方法における、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与することを含む改良。
【請求項30】
前記臓器機能が脳機能である請求項29の方法。
【請求項31】
前記臓器機能が腎機能である請求項29の方法。
【請求項32】
前記臓器機能が肝機能である請求項29の方法。
【請求項1】
心停止状態にある哺乳動物の自発循環を回復するための、前記哺乳動物に心肺蘇生(CPR)および除細動ショックを適用するステップを含む方法における、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与することを含む改良。
【請求項2】
前記投与ステップが前記CPR適用開始時に行われる請求項1の方法。
【請求項3】
前記レボシメンダン化合物が約0.06〜約36μg/kg/分の量で投与される請求項1の方法。
【請求項4】
心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法であって、
前記除細動ショックをに適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与するステップ、および
効果的な心調律を回復するのに十分な頻度(前記頻度は標準と認められた治療プロトコルにより確立された頻度と比較して少ない。)で前記除細動ショックを適用するステップ
を含む方法。
【請求項5】
心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度を低減する方法であって、
前記除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与するステップ、および
効果的な心調律を回復するのに十分な頻度(前記頻度は前記レボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある同様の哺乳動物に適用する除細動ショックの頻度と比較して少ない。)で前記除細動ショックを適用するステップを含む方法。
【請求項6】
心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法であって、
前記除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与するステップ、および
効果的な心調律を回復するのに十分な前記エネルギーで前記除細動ショックを適用するステップ(前記エネルギーは標準と認められた治療プロトコルにより確立された前記エネルギーと比較して少ない。)ステップを含む方法。
【請求項7】
心停止状態にある哺乳動物に適用する除細動ショックのエネルギーを低減する方法であって、
前記除細動ショックを適用するのに先立ち、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記該哺乳動物に投与するステップ、および
効果的な心調律を回復するのに十分な前記エネルギー(前記エネルギーは前記レボシメンダン化合物で治療されていない心停止状態にある類似の哺乳動物に適用される前記エネルギーと比較して少ない。)で前記除細動ショックを適用するステップを含む方法。
【請求項8】
除細動エネルギーを前記哺乳動物に適用するのに先立ち、治療有効量のアドレナリン受容体遮断薬を前記哺乳動物に投与するステップをさらに含む請求項7の方法。
【請求項9】
治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を下記哺乳動物に投与するステップを含む心停止中または心停止からの蘇生後の治療を必要とする哺乳動物において心筋障害を治療する方法。
【請求項10】
前記レボシメンダン化合物がレボシメンダンである請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項11】
前記レボシメンダン化合物がレボシメンダン代謝物である請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項12】
前記投与ステップが前記レボシメンダン化合物を持続注入で投与することを含む請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項13】
前記投与方法が非経口である請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項14】
前記非経口投与が静脈内、気管内、動脈内、経皮または心臓内である請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項15】
前記レボシメンダン化合物が約0.01から約5.0μg/kg/分の量で投与される請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項16】
前記レボシメンダン化合物が約0.05から約0.4μg/kg/分の量で投与される請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項17】
前記レボシメンダン化合物が約0.01μg/kg/分の量で投与される請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項18】
前記哺乳動物がヒトである請求項1または4または5または6または7または9の方法。
【請求項19】
治療有効量のアドレナリン受容体遮断薬を前記哺乳動物に投与するステップをさらに含む請求項1または5または6または7または9の方法。
【請求項20】
治療有効量のアドレナリン受容体遮断薬を前記哺乳動物に投与するステップをさらに含む請求項4の方法。
【請求項21】
前記アドレナリン受容体遮断薬の前記投与が前記レボシメンダン化合物を投与する前記ステップに先立ち行われる請求項19の方法。
【請求項22】
前記アドレナリン受容体遮断薬がβアドレナリン受容体遮断薬またはαアドレナリン受容体遮断薬である請求項19の方法。
【請求項23】
前記アドレナリン受容体遮断薬がβ−1アドレナリン受容体遮断薬またはβ−2アドレナリン受容体遮断薬である請求項22の方法。
【請求項24】
前記βアドレナリン受容体遮断薬がプロパノロール、メトプロロール、エスモロールまたはアテノロールである請求項22の方法。
【請求項25】
前記αアドレナリン遮断薬がα−1アドレナリン受容体遮断薬である請求項22の方法。
【請求項26】
前記βアドレナリン受容体遮断薬がカルベジロールである請求項22の方法。
【請求項27】
治療を必要とする哺乳動物において心不整脈を治療するための、1回もしくはそれ以上の除細動ショックを該哺乳動物に適用するステップを含む方法における、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与することを含む改良。
【請求項28】
前記投与ステップが1回もしくはそれ以上の該除細動ショックの前記適用の後に行われる請求項27の方法。
【請求項29】
心停止後の哺乳動物において臓器機能を保護するための、前記哺乳動物に自発循環を回復させるステップを含む方法における、治療有効量のレボシメンダン化合物または製薬学的に許容されるその塩を前記哺乳動物に投与することを含む改良。
【請求項30】
前記臓器機能が脳機能である請求項29の方法。
【請求項31】
前記臓器機能が腎機能である請求項29の方法。
【請求項32】
前記臓器機能が肝機能である請求項29の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【公表番号】特表2008−501033(P2008−501033A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515449(P2007−515449)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/018923
【国際公開番号】WO2005/117884
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/018923
【国際公開番号】WO2005/117884
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】
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