説明

心房細動の治療のための化合物

アデノシンA2Aレセプターアンタゴニストは、ヒトを含めた哺乳動物において心房細動に対する医薬の製造に有用である。アデノシンA2Aレセプターはヒト心房筋細胞に存在し、心房細動を引き起こす病理メカニズムに関与していることが見出された。当業界において知られている他の薬剤よりA2Aアンタゴニストを用いる利点は、A2Aアンタゴニストが心房細動の患者を特に標的としていることである。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、ヒトおよび獣医学の分野に関し、特に心血管疾患の治療のための化合物、とりわけ心房細動の治療のための化合物に関する。
【0002】
発明の背景
心房細動は、最も一般的な不整脈であり、高い罹患率および死亡率と関連している。その発生率および頻度はますます増加し、それは臨床的および経済的負担の増大となる(現在の頻度は全人口の2%である)。動悸、眩暈、呼吸困難などの重篤な臨床症状に加え、心房細動は、75歳以上の人々における虚血性脳梗塞において、単一の最も重要な因子である。全体的にみれば、心房細動は、心血管疾患による入院の5%以上を占める。心房細動は、約90%のケースにおいて、他の心疾患、例えば高血圧性心疾患、うっ血性心不全、または心臓弁疾患を伴い発生している。わずか10%のケースにおいて、心房細動は、他の心臓異常を伴わずに発生している(心房細動“単独”)。心房細動は三つの形態に分類される:(1)数秒〜数日にわたる期間の自己終結型心房細動の発症(episode)により特徴づけられる発作性心房細動、(2)医療介入により、終結されるまで無期限に続く持続性心房細動、そして(3)薬理的または電気的除細動により、終結されない恒久型心房細動である。
【0003】
いくつかの研究により、心房細動が、心房周辺においてランダムに変動する多数の回帰性電気小波から生じていることが示された。これらの小波は、左心房から肺静脈の近位5〜6cm部分へ伸びる心筋スリーブに通常位置する電気的トリガーにより生じている。心房細動が誘発されると、不整脈の持続に関与する、その電気的、機械的、および代謝的性質に影響を及ぼす心房の変化(心房リモデリング)が生まれる。心房細動の存在下において、心室拍数の制御が高められ、心拍数の制御が医学的治療により抑制できないと、心頻拍性筋障害(tachycardiomyopathy)と通常称される、心室拡張および心収縮機能障害に至る。発作および血栓塞栓症は、心房細動に関連した死亡および罹患の主原因であり、これの基本的な病態生理学的基礎は、血流の異常(例えば心房静止)と内皮または心臓内障害を伴うプロトロンボチック(prothrombotic)または過凝血状態である。
【0004】
心臓学における他の下位体系専門分野(subspecialty)では、この40年の間に不整脈の診断および治療において重要な進展を遂げた。多大な進歩にもかかわらず、不整脈の現実の療法および不整脈突然死の防止は、少数の患者において行なわれているに過ぎない。今日、心房細動療法は、適宜に、心房細動関連症状の減少、血栓塞栓合併症の防止、および不整脈の終結からなる。
【0005】
一般的に、心房細動の処置には二つのアプローチ( a)不整脈自体の治療およびb)血栓塞栓の危険性の減少)がある(cf.M.B.lqbal et al.,”Recent developments in atrial fibrillation”,British Medical Journal,2005,vol.330,pp.238-43)。不整脈の治療には、調律制御(洞調律の回復および維持)と、心拍数制御とがある。薬理学的に、調律および心拍数制御は、抗不整脈薬(クラスIおよびクラスIII抗不整脈剤)により治療されている。現在用いられているそれらの例は、フレカイニド、プロパフェノン、アミオダロン、ドフェチリド、イブチリド、およびソタロールである。非薬理学的に、調律および心拍数制御は、電気的除細動、心房性ペーシング、埋込み可能な心房除細動器、高周波カテーテル切除、および外科的迷路処置(surgical maze procedure)により行なわれる。
【0006】
血栓塞栓の危険性の減少、ひいては発作防止は、治療の戦略上極めて重要である。薬理学的には、アスピリンおよびワルファリンが、心房血栓形成および血栓塞栓事象を防止するために、大多数の患者において推奨されている。高い危険性を有する患者の試験から集積されたデータは、発作を防止する上でワルファリンがアスピリンより良いが、ワルファリンにおいて大出血の危険性がアスピリンの場合より2倍であることを示した。いずれにしても、抗凝血治療は、年齢、共存症、および禁忌に基づき個別に行なう必要がある。非薬理学的に、血栓塞栓の危険性の減少は、左心房付属器の切除またはカテーテル(研究中の処置)により現在、実施されている。
【0007】
最近の研究は、薬理学的および非薬理学的双方の治療戦略への新たなアプローチに向けられている。最も有望な薬剤は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)インヒビターおよびアンギオテンシンIIレセプター遮断薬である。プロテアーゼインヒビター、十分な選択性および特異性のホスファターゼ、または抗酸化剤も、構造的変化、心房拡張、および収縮性機能不全を減少または逆転させる上で、新たな治療戦略をもたらす。しかしながら、心房細動の治療の問題は、なお満足のゆくようには解決されていない。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、医薬品の周知のグループ、即ちアデノシンA2Aレセプターアンタゴニストが、ヒトを含めた哺乳動物において心房細動に対する医薬の製造に有用であることを見出した。
【0009】
本発明は、意外にもアデノシンA2Aレセプターが、ヒト心房筋細胞に存在し、心房細動を引き起こす病理メカニズムに関与していることを見出した。特に、本発明者らは、原形質膜で機能種であるホモダイマーアデノシンA2Aレセプター種の発現が心房細動の患者で上方調節されていることを見出した。電気生理学実験においては、これら患者からの心房筋細胞におけるアデノシンA2Aレセプターの活性化が、カルシウム波として測定される自発的筋小胞体カルシウム放出において、プロテインキナーゼA媒介性の増加に至ることを証明した。
【0010】
さらに、二つの異なる実験アプローチ(共焦点カルシウム画像法およびパッチクランプ技術)を用いて、本発明者らは、心房細動において見られるカルシウム波振動数上昇をアデノシンA2Aレセプターアンタゴニストにより減少させたことを見出した。実際に、アデノシンA2Aレセプターアンタゴニストは、カルシウム波によりアゴニスト刺激効果を逆転させるのみならず、基礎カルシウム波振動数も減少させる。一緒にすると、これらの結果は、細胞内カルシウム流動のアデノシンA2Aレセプター媒介調節異常が細動心房の複雑な電気的リモデリングの一因であることを示唆している。これらの事実は、アデノシンA2Aレセプターアンタゴニストを心房細動を治療するための選択的治療剤として方向づけられている。
【0011】
これまでに、最近の調査研究として、本発明者らは、心房細動期のある患者から摘出された右心房筋細胞が、この不整脈のない患者からの筋細胞より頻繁な自発的筋小胞体Ca2+放出を示すことのみを記載した(cf.L.Hove-Madsen et al.,”Atrial fibrillation is associated with increased spontaneous calcium release from the sarcoplasmic reticulum in human atrial myocytes”,Circulation,2004,vol.September,pp.1358-63)。
【0012】
したがって、本発明は、ヒトを含む哺乳動物における心房細動の予防および/または治療用の医薬の製造のためのアデノシンA2Aレセプターアンタゴニストの使用に関する。以下において、“アデノシンA2Aレセプターアンタゴニスト”は“A2Aアンタゴニスト”として、“アデノシンA2Aレセプター”は“A2Aレセプター”として称される。本発明のこの態様は、適量の許容される希釈剤または担体と一緒に有効量のA2Aアンタゴニストを、必要な哺乳動物(好ましくはヒト)へ投与することからなる、A2Aレセプターで拮抗することによる心房細動の予防および/または治療のための方法としても、一方では明確に表されている。
【0013】
当業界において知られる他の薬剤よりA2Aアンタゴニストを用いる利点は、A2Aアンタゴニストが心房細動の患者を特に標的としていることである。このように、機能性ダイマーA2Aレセプターの発現は、正常な心房の大きさをもつ過去に心房細動病歴のない患者において低いが、ダイマーレセプター種の発現は心房細動のある患者において強く上方調節される。ところが、現在用いられている他の薬剤は、様々な細胞において多数の機能を大きく調節するレセプターまたはチャンネルでより広く作用する。こうして、カルシウムアンタゴニストはL型カルシウムチャンネルを阻害することにより、カルシウム過負荷を減少させるのみならず、心臓収縮性も減少させる。さらに、L型カルシウム電流は平滑筋機能と分泌細胞とを、結果としてカルシウムアンタゴニストの望ましくない副作用と共に調節する。
【0014】
2Aレセプター
アデノシンは、体内において全ての代謝活性細胞により産生されるプリンヌクレオシドである。アデノシンは、細胞表面レセプターの四種の異なるサブタイプ:Gタンパク質結合レセプタースーパーファミリーに属するA、A2A、A2B、およびAを介して、その効果を発揮する。AおよびAは阻害性Gタンパク質と結合するが、A2AおよびA2Bは刺激性Gタンパク質と結合する。A2Aレセプターは、脳において、ニューロンおよびグリア細胞の双方において主に見られる(線条および側坐核において最高レベル、嗅球と視床下部および海馬領域において中〜高レベル)。線条において、A2Aレセプターは、神経伝達物質の放出および機能を調節する(cf.H.Kase et al.,”Progress in pursuit of therapeutic A2A antagonists:the adenosine A2A receptor selective antagonist KW6002:research and development toward a novel nondopaminergic therapy for Parkinson’s disease”,Neurology,2003,vol.61,pp.97-100)。末梢組織において、A2Aレセプターは、血小板、好中球、脾臓、胸腺、内皮、および血管平滑筋細胞に存在することが知られ、そこでは冠状動脈心疾患の患者において、心筋灌流の評価をなしうる強い冠状血管拡張を誘導する(cf.Z.Gao et al.,”Novel short-acting A2A adenosine receptor agonists for coronary vasodilatation:inverse relationship between affinity and duration od action of A2A agonists”,J.Pharmacol.Exp.Ther.,2001,vol.298,pp.209-18)。しかしながら、A2Aレセプターは、これまでにヒト心房筋細胞に存在していないとされてきた。
【0015】
心房細動を治療するために適した化合物
一般的に、アンタゴニストは、レセプターを活性化することなしに、レセプターと結合する分子である。それはレセプターの結合部位における内在性リガンドまたは基質と競合し、よって内在性リガンド結合に応答して細胞内シグナルを伝達しうるレセプターの能力を阻害する。アンタゴニストは、いくつかの様式により機能している。それは、A2Aレセプターへのアデノシンの結合を実質的に妨害、阻止、または防止し、それによりアデノシン媒介生物活性を阻害、抑制するか、またはその停止を引き起こすために十分な親和性および特異性により、アデノシンと結合またはそれを隔離しうる。
【0016】
2Aレセプターは、心筋細胞において、内在性リガンドの非存在下において、基礎活性を呈する。この活性は、該レセプターの構成的活性によるか、または内在性アデノシンによるレセプターの活性化によるものである。この状況下において、心房細動の治療は、アンタゴニストまたは逆作動薬(inverse agonist)を用いてこの基礎活性を低下させることにより行なえる。本発明のA2Aアンタゴニストの一部は、逆作動(inverse agonism)を発揮しうる。
【0017】
2Aレセプターの既知局在性および機能に従い、A2Aアンタゴニストは、パーキンソンおよびCNS(精神分裂症、アルツハイマー病における老人性痴呆、器質因性の(organic origin)精神病など)の他の疾患に対して、これまで用いられてきた。それらの中で、主なものはパーキンソン病である。
【0018】
あらゆるA2Aアンタゴニストが、本発明の目的に沿う使用に検討される。多くの異なる化合物が、A2Aアンタゴニストとして詳細に研究されてきたが、これらは二つの大きな群(キサンチン誘導体および非キサンチン複素環類)に分類される。
【0019】
本発明の具体的な態様において、A2Aアンタゴニストは、キサンチン誘導体またはその薬学上許容される塩である。様々な位置における異なる置換基でも、プリン環のデアゾ-アナログもしくはアゾ-アナログまたは他の複素環式アナログあるいは三または四環式誘導体/アナログであっても、類似のA2A拮抗活性を有しうる。キサンチン誘導体の中で、ある化合物に共通した、好ましい構造は1,3,7‐トリアルキル‐8‐スチリル‐キサンチン構造である。好ましい態様において、A2Aアンタゴニストは、DMPXとして知られるテオブロミン(式1)、KF17837(式2)、KW6002として知られるイストラデフィリン(式3)、p‐スルホスチリル‐DMPX(式4)、BS‐DMPX(式5)、MSX‐2(式6)、CSC(式7)、キサンチンアミン同族体(XAC、式8)、およびMSX‐3からなる群より選択される化合物である。
【0020】
さらに好ましい態様において、A2AアンタゴニストはKW6002である。現在、この化合物は、パーキンソン病についてフェーズIIIの臨床試験下にある。他の好ましい態様において、A2Aアンタゴニストは、MSX‐2である。他の好ましい態様において、A2Aアンタゴニストは、MSX‐3、MSX‐2のリン酸エステル、MSX‐2のプロドラッグである。
【化1】

【0021】
2Aレセプター拮抗活性を示すことが知られた他のキサンチン化合物は、例えば米国特許第5484920号、米国特許第5587378号、米国特許第5543415号、およびEP1016407A1号において記載されている。
【0022】
本発明の他の具体的態様において、A2Aアンタゴニストは、非キサンチン複素環である。典型的な非キサンチンアデノシンA2Aアンタゴニストはアデニンから誘導され、様々な置換基を有する一、二、三、および四環式化合物を含めた最広義のアデニン誘導体を表す。A2A拮抗活性を有した、アデニンから誘導されない、別の複素環式化合物が同定された。A2Aレセプター拮抗作用を示す、ある2-アミノピリジン化合物が知られ(例えば、WO02/14282号、WO01/25210号)、ある9-アミノピリミジン化合物も知られている(例えば、米国特許出願第2001/0027196号)。
【0023】
好ましい態様において、A2Aアンタゴニストは、SCH58261(式9)、ANR-82(式10)、ZM241385(式11)、SCH63390(式12)、CGS15943(式13)8FB-PTP(式14)、VER-6623(V2006としても知られる、式15)、(−)R,S-メフロキン(式16)、および7FB-PTP(式17)からなる群から選択されるものである。さらに好ましい態様において、非キサンチン化合物の群の中で、A2AアンタゴニストはVER-6623である。
【0024】
2Aアンタゴニストとして好ましい他の化合物は、式18のピラゾロピリミジン誘導体、式19のトリアゾロキノキサリン誘導体、式20の9‐置換2‐アミノ‐6‐フリル‐アデニン誘導体、ならびに式21、22、および23のトリアゾロトリアジン誘導体である。
【化2】



【0025】
他のトリアゾロピリミジンA2Aアンタゴニストは、例えばWO2004/029056号、WO95/01356号、米国特許第5565460号、WO97/05138号、WO98/52568号、WO01/92264号、およびPCT/US02/32630号において開示されている。特に、置換ピラゾール〔4,3‐e〕‐1,2,4‐トリアゾロ‐〔1,5‐c〕ピリミジン化合物が、WO2005/054245号、米国特許出願第2004/220194号公報、および米国特許出願第2003212059号公報において開示されている。
【0026】
適切なA2Aアンタゴニストの他の具体例としては下記特許、特許出願、および論文において開示された化合物がある:WO95/01356号、米国特許第6630475号、米国特許第5935964号、WO03/032996号、WO03/048165号、WO03/048164号、WO03/048163号、WO2005/042500号、WO2005/058883号、WO2005/040151号、WO2005/039572号、WO2004/092177号、米国特許出願第2004138235号公報、WO2004/019949号、WO02/14282号、WO2004/016605号、WO03/082873号、米国特許第5484920号、米国特許第5703085号、WO92/06976号、WO94/01114号、米国特許第5565460号、WO98/42711号、WO00/7201号、WO99/43678号、WO99/26627号、WO01/92264号、WO99/35147号、WO00/13682号、WO00/13681号、WO00/69464号、WO01/40230号、WO01/02409号、WO01/02400号、EP1054012号、WO01/62233号、WO01/17999号、WO01/80893号、WO02/14282号、WO01/97786号、WO01/16134号、WO00/73307号、米国特許出願第2005043315号、米国特許出願第2003149060号、Baraldi et al.,”Recent developments in the field of A2A and A3 adenosine receptor antagonists”,European Journal of Medicinal Chemistry,2003,vol.38,pp.367-82、E.Ongini,et al.,”Selective adenosine A2A receptor antagonists”,Farmaco,2001,vol.56,pp.87-90、C.E.Muller et al.,”A2A Adenosine receptor antagonists - future drugs for Parkinson’s disease?”,Drugs of the Future,2000,vol.25,pp.1043-52、L.J.Knutsen et al.,”KW-6002(Kyowa Hakko Kogyo)”,Curr.Opin.Investig.Drugs,2001,vol.2,pp.668-73、B.Cacciari et al.,”Medicinal chemistry of A2A adenosine receptor antagonists”,Curr.Top.Med.Chem.,2003,vol.3,pp.403-11、G.Yao et al.,”Synthesis of alkyne derivatives of novel triazolopyrazine as A2A adenosine receptor antagonists”,Bioorg.Med.Chem.Lett.,2005,vol.15,pp.511-5、E.Kiselgof et al.,”6-(2-furanyl)-9H-purin-2-amine derivatives as A2A adenosine antagonists”,Bioorg.Med.Chem.Lett.,2005,vol.15,pp.2119-22、S.M.Weiss et al.,”Discovery of nonxanthine adenosine A2A receptor antagonists for the treatment of Parkinson’s disease”,Neurology,2003,vol.61(Supp.6),pp.S101-6;C.B.Vu et al.,”Novel diamino derivatives of [1,2,4]triazolo[1,5-a][1,3,5]triazine as potent and selective adenosine A2A receptor antagonists”,J.Med.Chem.,2005,vol.48,pp.2009-18、C.B.Vu et al.,”Piperazine derivatives of [1,2,4]triazolo[1,5-a][1,3,5]triazine as potent and selective adenosine A2A receptor antagonists”,J.Med.Chem.,2004,vol.47,pp.4291-9。
【0027】
当業者であれば、化合物が本発明の目的にとって、良いA2Aアンタゴニストであるか否かがわかるであろう。例えば、化合物が良いA2Aアンタゴニストであるか否かを評価する適切な方法が当業界にある。例として、米国特許出願第2004/0138235号段落番号〔0226〕‐〔0240〕において記載された放射性リガンド結合アッセイに基づく方法がある。
【0028】
2AアンタゴニストがA2Aレセプターに選択的であることは、心房細動の治療に好ましい。上記すべてのA2AアンタゴニストがA2Aレセプターに選択的であるが、選択性の程度はそれらの中でも異なる。選択性は、異なる種(例えばラット、ヒト)においても若干、異なる。
【0029】
2Aアンタゴニストは、引用された特許および出願に記載の公知の方法により製造される。
【0030】
医薬組成物および投与
治療に関して、有効量とは、有益または望ましい臨床結果に影響を与えるために(即ち、疾患または障害の進行を緩和、改善、安定、逆転、もしくは遅延させるか、または疾患もしくは障害の病的結果を和らげるために)十分である、活性成分の量に関する。有効量は通常、個別に医師により決定される。
【0031】
治療に際して、本発明による使用向けの活性化合物は、加工していない化合物のままで投与してもよいが、医薬組成物において、一種以上のアジュバント、賦形剤、担体、緩衝剤、希釈剤、および/または他の常用製薬助剤と一緒に、場合により生理学上許容される塩の形態により、活性成分を導入することが好ましい。諸成分は、直腸、口腔、鼻内、および経皮経路を含めた、類似効用を有する剤の投与で許容されるいずれかの投与様式により、動脈内注射、静脈内、腹腔内、非経口、筋肉内、皮下、経口、局所により、吸入剤として、または例えばステント、すなわち動脈挿入円筒ポリマーのような含浸または被覆装置から、単回または複数回に分けて投与される。
【0032】
投与における他の好ましい様式は、非経口、特に注射による。注射による投与の形態には、水性もしくは油性懸濁液または乳濁液、および無菌水溶液がある。経口投与は、投与に際して他の好ましい経路である。医薬組成物は、錠剤、丸剤、粉末、エリキシル、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ、エアゾル、カプセルなどの形態をとることができる。
【0033】
本発明の組成物は、当業界において知られた操作を用いることにより、患者へ投与後に活性成分の即時、持続、または遅延放出をなしうるように処方しうる。経口投与用の制御放出薬物送達系としては、ポリマー被覆リザーバーまたは薬物‐ポリマーマトリックス処方物を含有した浸透ポンプ系および溶解系がある。本発明の方法において、使用のための他の処方は、経皮送達装置(“パッチ”)を用いる。このような経皮パッチは、制御された量により、化合物の連続的または断続的注入を行なうために用いられる。
【0034】
本組成物は、好ましくは単位剤形で処方される。投与量は、疾患の種類および程度に依存し、その決定は医師の裁量に属する。
【0035】
別記されない限り、ここで用いられているすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する業界の当業者により通常理解されるものと同様の意味を有する。明細書および請求の範囲を通して、“含んでなる”との用語およびその変更態様は、他の技術的特徴、添加物、成分、または工程を除外する意味ではない。本願の要約書もここに付されている。本発明の追加目的、利点、および特徴は、本明細書に記載の試験から当業者に明らかとなるか、または本発明の実施により判明するであろう。以下の実施例および図面は実例で示されているが、本発明はこれらに限定されない。
【発明の具体的説明】
【0036】
図面の詳細な説明
図1Aは、抗A2Aレセプター(パネル1、4、7、および10)と抗ミオシン(2)、抗α‐アクチニン(5)、抗コネキシン‐43(8)、または抗RyR(11)により二重染色された、摘出直後のヒト右心房筋細胞を示す。二重免疫蛍光像の二重焼付け(パネル3、6、9、および12)においては、A2Aレセプターとα‐アクチニンとの共存およびA2Aレセプターとリアノジンレセプター(RyR)との重複分布を現した。図1Bは、SDS‐PAGEにより分離され、かつウサギ抗A2Aレセプター抗体を用いてイムノブロットされた、ヒトA2Aレセプターを有する一過性トランスフェクトHEK細胞からの細胞膜(陽性制御、C)と、洞調律(SINUS)または心房細動(AF)を有する個体から得られたヒト心房膜とを示す。“Di”はダイマーを意味し、“Mo”はモノマーを意味する。図1Cは、図1Bのイムノブロットの相対濃度走査(Relative Densitometric Scan(RDS))を示す。A2Aレセプター(モノマー+ダイマー)の全量が黒棒により示される。A2Aレセプターモノマー(白棒)およびダイマー(灰色棒)の相対量は、各列において、A2Aレセプター(ダイマー+モノマー)の全合計を用いて標準化される。
【0037】
図2Aにおいて、200nM CGS21680への心筋細胞の暴露前(対照)、暴露中(CGS)、および暴露後(洗浄、W)に、−80mVで固定された膜電位で、自発的INCXが記録された。水平および垂直目盛棒は、各々30sおよび100pAに相当する。図2Bは、自発的Na‐Ca交換電流の数に及ぼすCGS21680の刺激効果の時間経過を示す(各30sスィープにおける事象としてカウントされた、e/s)。棒上の太線は、CGS21680適用期間を示す。図2Cは、A2AアンタゴニストZM241385(1μM)が自発的INCXで、200nM CGS21680の刺激効果をどのように逆転させられたかを示す。水平および垂直目盛棒は、各々30sおよび100pAに相当する。図2Dは、心房細動のない対照患者8例およびそれを有する患者11例からの心筋細胞におけるCGS効果の概要である。CGS21680の効果を評価するために、対応のあるt検定(paired t-test)が用いられ、p値を棒上に示す。INCXFは、INCX振動数を意味する。図2Eは、10μM H‐89の添加が患者5例において、200nM CGS21680の刺激効果を消失させたことを示す。ANOVAは、波振動数に及ぼす治療の有意な効果(p=0.001)を示し、事後検定は、CGS vs 対照においてp=0.03、CGS vs CGS+H‐89においてp=0.002、およびCGS+89 vs 対照においてp=0.05を示した。
【0038】
図3Aにおいて、A2AアンタゴニストSCH58261(50nM)は、心房細動の患者の試料において、自発的INCX振動数の可逆的減少を引き起こした。水平および垂直目盛棒は、各々30sおよび100pAに相当する。図3Bにおいて、A2Aアンタゴニストは共焦点カルシウム画像法(左パネル、n=6)またはパッチ‐クランプ技術(右パネル、n=7)で測定された自発的カルシウム波振動数(WF)を双方とも減少させた。ZM241385およびSCH58261の50nMの効果は同程度であり、集計した。共焦点実験に対応のないt検定およびパッチ‐クランプ実験に対応のあるt検定を用いた統計的な有意差が棒上に示される。
【0039】
ヒト右心房におけるA2Aレセプターの発現および局在性
ヒト右心房筋細胞におけるA2Aレセプターの存在をイムノブロッティングにより調べた。その結果、A2Aレセプターが右心房に存在し、該レセプターのモノマーおよびダイマー種双方がこの組織において発現され、洞調律のある心房の試料においてダイマー型が少数であることを示した。心房筋におけるA2Aレセプター局在性が、レセプターA2Aとミオシン、α‐アクチニン、コネキシン‐43、またはRyRに対する抗体により二重標識された試料によって、共焦点顕微鏡観察により研究された。A2Aレセプターは心筋線維に沿い横縞状パターンで発現され、筋節においてZ線のレベルで細胞骨格関連タンパク質α‐アクチニンと共存した。A2Aレセプターの分布は、心房細動を有するおよび有しない患者の試料において質的に類似した。
【0040】
心房細動のある患者におけるA2Aレセプター発現の上方調節
摘出された心房筋細胞は、A2Aレセプター縞状パターンと、心房組織サンプルとにおいて見られるα‐アクチニンとのコロニー化およびRyRとの重複分布を保持していた(図1A参照)。心房細動を有するおよび有しない患者の心筋細胞において、レセプター局在性に差異が観察されなかった(データ示さず)。ウエスタンブロッティングにより測定されたA2Aレセプタータンパク質レベルは心房細動のある患者において著しく増加し(図1B‐C参照)、興味深いことに、細胞表面に存在する機能型であるダイマーA2Aレセプター種が心房細動において著しく上昇した(図1C参照)。有意差は、血管において観察されなかった。したがって、これらの結果は、ヒト心房筋細胞におけるA2Aレセプターの発現のみならず、心房細動のある患者において、主にホモダイマー型でのそれらの上方調節も初めて証明した。
【0041】
2Aレセプターのアゴニスト刺激は、心房細動のある患者において自発的筋小胞体(SR)カルシウム放出のPKA依存性増加を誘導する
自発的SRカルシウム放出に及ぼすA2Aレセプターアゴニストの効果を、洞調律のある患者および心房細動のある患者から摘出された心房筋細胞により分析した。局所的な非伝播カルシウム放出(カルシウムスパーク)とSRからの再現的カルシウム放出(カルシウム波)との双方を分析した。A2AレセプターアゴニストCGS21680(200nM)とのプレインキュベーションは、心房細動を有する患者においてカルシウム波の数を増加させたが、不整脈を有しないものではそうではなかった。
【0042】
自発的SRカルシウム放出に及ぼすCGS21680の効果が、膜電位に及ぼす効果に付随的であるか否かを調べるために、−80mVにおいて膜電位を固定する際にパッチ‐クランプ技術を用いた。これは、CGS21680がそれらにより活性化されたNa‐Ca交換電流(INCX)として測定される自発的カルシウム波の数を可逆的に増加させることを妨げなかった(図2AおよびB参照)。実際に、心房細胞患者におけるCGS21680の有意な刺激効果をこのアプローチから確認した(図2D参照)。したがって、CGS21680により誘導される自発的SRカルシウム放出の増加は、RyR活性のA2Aレセプター依存性調節によるものである。CGS21680の特異的効果は、二種の選択的A2AアンタゴニストZM241385(図2C参照)およびSCH58261により逆転された。
【0043】
2Aレセプターは、Gsタンパク質に結合されるため、アゴニスト媒介レセプター活性化はcAMPレベルを増加させ、次いでこれがPKA活性化とRyRリン酸化とに至る。A2AレセプターがPKAのcAMP依存性活性化を介して、その効果を発揮するか否かを試験するために、選択的PKAインヒビターH‐89を用いた。心房細動のある患者の筋細胞において、CGS21680の刺激効果がH‐89により失われたが(図2E参照)、このことは自発的SRカルシウム放出のA2Aレセプター依存性調節が実際にPKA活性化で媒介されていることを証明している。興味深いことに、H‐89はCGS21680の効果を消失させるのみならず、それはCGS21680適用前に記録された基準より有意に低いレベルまで自発的カルシウム放出を実際に減少させた。共焦点顕微鏡観察によるカルシウムスパークおよび波の分析から、A2Aレセプター媒介自発的カルシウム放出のPKA依存性を確認した。
【0044】
2Aレセプター遮断は基礎自発的SRカルシウム放出を減少させる
ヒト心房筋細胞における基礎cAMPトーン(tone)の存在が、L型カルシウム電流の神経ホルモン調節の研究において主張された。PKA遮断剤H‐89が、カルシウム波振動数を基準レベル以下に減少させるという本発明者らの観察は、ヒト心房筋細胞で基礎A2Aレセプター依存性cAMPトーンがあることをさらに示唆している。この考えと一致して、基礎SRカルシウム放出の上昇を示す心房細動患者からの細胞に適用されたA2Aレセプター選択的アンタゴニストSCH58261またはZM241385は、共焦点顕微鏡観察またはパッチ‐クランプ技術により測定されるカルシウム波振動数を有意に減少させた(図3参照)。
【0045】
ヒト試料
心臓手術を受ける合計54例の患者からの心臓組織試料をこの研究において用いた。心房組織試料は手術時に通常捨てられる組織からなるが、この研究において用いられる許諾が各患者から得られた。該研究は、Sant Pau病院(Barcelona,Spain)の倫理委員会により承認された。
【0046】
患者54例中17例は心房細動の病歴を有していたが、残りの患者はこの不整脈を有しなかった。患者25例は心房細動を有しなかったが、左心房拡張(左心房直径>40mm)を有していた。特定の実験群において用いられた患者の数が適宜に示されている。Ca2+アンタゴニストにおいて治療された患者は、研究から除外された。他の患者薬物療法は、測定されるパラメーターに有意な影響を与え無いことがわかった。免疫組織化学分析においては、心房細動のある合計8例の患者(左心房直径:53.8±6.8mm)および心房拡張も心房細動の病歴もない患者15例(左心房直径:36.5±3.4mm)を対照として用いた。
【0047】
抗体
次の一次抗体を用いた:A2Aレセプターの第二細胞外ループに相当するペプチドに対して作製されたウサギアフィニティー精製抗A2Aレセプターポリクローナル抗体VC21‐Ab、ウサギ抗A2Aレセプター抗体(クローンPA1‐042,Affinity BioReagents,Golden,CO,U.S.A.)、マウス抗遅筋ミオシン抗体(クローンNOQ7.5.4D,Chemicon International,Temecula,California,U.S.A.)、マウス抗α‐アクチニン抗体(クローンEA‐53,SigmaAldrich Chemical Co.,St.Louis,MO,U.S.A.)、マウス抗コネキシン‐43抗体(クローン2,Transduction Laboratories,Lexington,KY,U.S.A.)、マウス抗リアノジンレセプター抗体(クローンC3‐33,Calbiochem,San Diego,California,U.S.A.)。用いられた二次抗体は、ALEXAFLUOR 488複合ヤギ抗マウスIgG(1/1000)、TEXAS RED複合ヤギ抗ウサギIgG(1/2000)(Molecular Probes,Eugene,OR,U.S.A.)、西洋ワサビ(horseradish)ペルオキシダーゼ複合ヤギ抗ウサギIgG(1/60000)(Pierce Chemical Co.,Rockford,IL,U.S.A.)、およびウサギ抗マウスIgG(1:2000)(Dako,Glostrup,Denmark)であった。
【0048】
筋細胞摘出
前記ようにヒト心房組織試料から筋細胞を摘出した(cf.L.Hove-Madsen et al.,”Atrial fibrillation is associated with increased spontaneous calcium release from the sarcoplasmic reticulum in human atrial myocytes”,Circulation,2004,vol.110,pp.1358-63)。簡単に言えば、試料をすすぎ、30mMブタンジオンモノオキシム(BDM)を含有した無カルシウム溶液中において細断し、0.5mg/mLコラゲナーゼ(Worthington2型,318u/mg)および0.5mg/mLプロテイナーゼ(Sigma XXIV型,11u/mg固体)を含有した無Ca2+溶液中、35℃においてインキュベートした。45分間後、組織を酵素溶液から取り出し、細胞を無Ca2+溶液中パスツールピペットによりほぐした。残りの組織は0.4mg/mLコラゲナーゼを含有した新鮮無カルシウム溶液中において、3×15分間かけて消化した。ほぐした細胞を含有する溶液を600rpmで1分間遠心し、無カルシウム溶液に再懸濁し、次いでカルシウムを1mMまで徐々に増やした。透明な横縞のある粒状でない細長い細胞のみを実験に用いた。
【0049】
陽性対照:細胞培養およびトランスフェクション
HEK‐293細胞をダルベッコ変法イーグル培地(DMEM,Sigma Aldrich Chemical Co.)により増殖させた。リン酸カルシウム沈降法により、ヒトA2AレセプターについてコードするDNA(cf.M.Canals et al.,”Adenosine A2A-dopamine D2 receptor-receptor heteromerization:qualitative and quantitative assessment by fluorescence and bioluminescence energy tranfer”,J.Biol.Chem.,2003,vol.278,pp.46741-9)により細胞を一過性にトランスフェクトした。細胞をトランスフェクションから24時間後または48時間後に収集した。
【0050】
自発的SRカルシウム放出
レーザー走査共焦点顕微鏡(Leica TCS SP2 AOBS,Germany)を用いて、fluo‐3負荷細胞によりカルシウムスパークおよびカルシウム波を検出した。実験溶液はNaCl 136(mM)、KCl 4、NaHPO 0.33、NaHCO 4、CaCl 2、MgCl 1.6、HEPES10、グルコース5、ピルビン酸5(pH=7.4)を含有していた。1〜5%に減衰された488nmの励起により500〜650nmにおいて蛍光を集めた。カルシウムスパークおよびカルシウム波は1kHzの走査速度で2×10.24sにわたり静止条件下において測定した。カルシウムスパークは、隣接3μmセクションには検出可能な増加がなく、カルシウムスパークの中心を含む3μmセクションでのシグナル量の増加として検出した。2以上の隣接3μmセクションにおけるシグナル量の増加をカルシウム波として計測した。各カルシウムスパークの振幅とその半減期とをカルシウムスパーク過渡現象の減衰期の指数的激変から求めた。カルシウムスパーク振動数を各細胞において求め、走査された細胞の長さに対して標準化した。
【0051】
パッチ‐クランプ
カルシウム波に伴う一過性内向きNa‐Ca交換電流を、ソフトウェア制御パッチ‐クランプ増幅器(EPC10,HEKA,Germany)を用いて、穿孔パッチ形状により記録した。ピペット抵抗は、1.5〜4MΩであった。実験は、室温において行い、アクセス抵抗が安定して、ピペット抵抗の5倍未満に減少したときに始めた。細胞外溶液は、NaCl 127(mM)、テトラエチルアンモニウム(TEA)5、HEPES 10、NaHCO 4、NaHPO 0.33、グルコース10、ピルビン酸5、CaCl 2、MgCl 1.8(pH=7.4)を含有していた。ピペット溶液は、アスパラギン酸 109(mM)、CsCl 47、MgATP3、MgCl 1、Naホスホクレアチン5、LiGTP0.42、HEPES 10、および250μg/mLアンホテリシンB(pH=7.2)を含有していた。A2AレセプターアゴニストCGS21680、アンタゴニストZM241385およびSCH58261とプロテインキナーゼAインヒビターH‐89をDMSOにすべて溶解し、10mMストック溶液として保管した。細胞を10mMカフェインへ一時的に暴露することにより、カフェイン放出性SRカルシウム含有量を測定した。得られたNa‐Ca交換電流の時間積分量を、Na‐Ca交換器により3Na:1Ca2+の化学量論と仮定して、SRから放出されたカルシウムのpmole(10−18モル)に変換した。
【0052】
データ分析および統計
電気生理学的および共焦点カルシウム画像法実験を患者の臨床データに関する知識無しに実施した。同一患者の細胞において記録されたCa2+スパークおよびCa2+波を平均化した。別記されない限り、各患者の平均値を統計分析に用い、平均±S.E.M.として表示した。一連のデータを正規性について検定した。具体的効果を検定する際に、有意差を評価する上でスチューデントt検定を用いた。ANOVAは複数効果の比較に用い、スチューデント‐ニューマン‐クールス事後検定は具体的効果の有意性を評価するために用いた。
【0053】
膜調製
0.32Mスクロース含有5mMトリスHCl(pH7.4:緩衝液A)の氷冷溶液中、Polytronホモゲナイザー(Kinematica,PTA 20TSローター,セッティング5,3回の15s期)による細胞の破壊後に、遠心により膜を得た。4℃において30分間にわたる1000×gの遠心(タイプ75Tiローターで3500rpm)により細胞残屑(cell debris)を分離した。上澄みを4℃において、30分間にわたり26000×gにより遠心し(タイプ75Tiローターで20000rpm)、ペレットを緩衝液Aに再懸濁し、37℃において30分間インキュベートし、同条件により遠心した。ペレットを0.3M KClに再懸濁し、4℃において一晩攪拌し、4℃において30分間にわたり26000×gにより遠心し(タイプ75Tiローターで20000rpm)、上記のような緩衝液Aにより一度洗浄した。最終ペレット(膜フラクション)を50mMトリスHClに再懸濁し、−80℃において凍結した。トランスフェクトされたHEK細胞からの膜懸濁物は上述のとおり、得た(C.Herrera et al.,“Adenosine A2B receptors behave as an alternative anchoring protein for cell surface adenosine deaminase in lymphocytes and cultured cells”,Mol.Pharmacol.,2001,vol.59,pp.127-34参照)。タンパク質をビシンコニン酸法(Pierce Chemical Co.)により定量した。
【0054】
ゲル電気泳動およびイムノブロッティング
ヒト細胞または一過性トランスフェクトHEK細胞からの膜を37℃において、2時間加熱することによりSDS‐PAGE試料緩衝液(8M尿素,2%SDS,100mM DTT,375mMトリス,pH6.8)により処理し、10%ゲルでSDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離させた。セミドライ・トランスファー・システムを用いてタンパク質をPVDF膜へ移し、指定された抗体、次いで西洋ワサビ(horseradish)ペルオキシダーゼ(HRP)複合ヤギ抗ウサギIgG(1/60000)によりイムノブロットした。化学発光検出キット(SuperSignal,West Pico Chemiluminiscent基質,Pierce)を用いて、免疫反応バンドを展開させた。
【0055】
免疫染色
免疫組織化学法では、ヒト心房組織をOCTに包埋し、液体窒素冷却イソペンタンにより凍結させた。18℃に冷却されたクリオスタットにより、8μm断片に切断した。各断片をSUPERFROST PLUS(BDH Chemicals Ltd.,Poole,United Kingdom)スライド上に集め、風乾し、−70℃において貯蔵した。免疫蛍光法においては、トリス緩衝液(TBS)(150mM NaCl/50mMトリスHCl,pH7.5)中10%ロバ血清で30分間にわたり各断片を遮断した。スライドをアフィニティー精製抗A2Aレセプター(VC21,25μg/mL)および抗α‐アクチニン(1:500希釈)、抗ミオシン(2μg/mL)、抗コネキシン‐43(2.5μg/mL)、および抗リアノジンレセプター(6.5μg/mL)を室温において1時間インキュベートし、次いで10分間にわたりTBSによって3回洗浄した。ALEXA FLUOR 488複合ヤギ抗マウスIgGおよびTEXAS RED複合ヤギ抗ウサギIgGを1:2000の希釈で遮断溶液に適用した。断片をすすぎ、VECTASHIELD免疫蛍光培地(Vector Laboratories Inc.,Burlingame,CA,U.S.A.)によりマウントした。免疫組織化学法においては、ポリ‐D‐リジンで被覆された24mmガラスカバースリップに摘出直後のヒト筋細胞を置いた。付着後、摘出溶液細胞をリン酸緩衝液ですすぎ、室温において20分間かけてPBS中2%パラホルムアルデヒドにより固定した。細胞をPBSにより洗浄し、アルデヒド基を封止するために0.1Mグリシンと5分間インキュベートした。PBSによる洗浄後、PBS中0.2%トリトン‐X‐100で15分間かけて筋細胞の透過性を上げた。次いで細胞をPBSにより洗浄し、室温において10%ウマ血清で30分間遮断し、次の一次抗体:ウサギポリクローナル抗A2Aレセプター(10μg/mL)、抗α‐アクチニン(1:500希釈)、抗ミオシン(1:500希釈)、および抗コネキシン‐43(1:150希釈)と室温において1時間インキュベートし、PBSにより3回洗浄し、ALEXA FLUOR 488と複合化された抗マウス抗体および/またはTEXAS REDと複合化された抗ウサギ抗体により染色した。最後に、細胞を再び3回すすぎ、VECTASHIELDでマウントした。Leica TCS4D共焦点レーザー走査顕微鏡(Leica Lasertechnik GmbH,Heidelberg,Germany)で共焦点顕微鏡観察を行なった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】心房細動を有する患者におけるA2Aレセプター発現の上方調節。
【図2】A2Aレセプターのアゴニスト刺激には、心房細動を有する患者において自発的筋小胞体カルシウム放出のPKA依存性増加がある。
【図3】A2Aアンタゴニストは、心房細動の患者において基礎自発的筋小胞体カルシウム放出を減少させる。−80mVの保持電位において自発的INCXを示す実験。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトを含む哺乳動物において、心房細動の予防および/または治療用の医薬の製造のための、アデノシンA2Aレセプターアンタゴニストの使用。
【請求項2】
前記A2Aアンタゴニストが、キサンチン誘導体またはその薬学上許容される塩である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記A2Aアンタゴニストが、下記式からなる群から選択される化合物である、請求項2に記載の使用:
【化1】

【請求項4】
前記A2Aアンタゴニストが、KW6002としても知られる式(3)の化合物である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記A2Aアンタゴニストが、MSX‐2としても知られる式(6)の化合物である、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
前記A2Aアンタゴニストが請求項3に記載の式(6)の化合物のリン酸エステルである、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
前記A2Aアンタゴニストがピラゾロピリミジン誘導体である、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記A2Aアンタゴニストがトリアゾロキノキサリン誘導体である、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記A2Aアンタゴニストがトリアゾロトリアジン誘導体である、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記A2Aアンタゴニストが下記式からなる群より選択される化合物である、請求項1に記載の使用:
【化2】



【請求項11】
前記A2AアンタゴニストがVER‐6623としても知られる式(15)の化合物である、請求項10に記載の使用。

【図2】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−511551(P2009−511551A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535047(P2008−535047)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000564
【国際公開番号】WO2007/045705
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】