説明

心電図同期心筋断層像から2次元流体方程式を用いた心筋収縮の測定法

【課題】従来のQSFP法は、放射線医薬品を使用するため、検査を行うことができる施設は限られている。他のモダリティー(MRI、X-CT、US等)でも同様に、心筋の収縮の定量化を可能にすること。
【解決手段】MRI、X-CT、US等の心電図同期断層像を使って、左室の壁厚を、円筒スクリーン、回転放物面スクリーン、球面スクリーン、回転楕円体スクリーン上に投影する。投影された壁厚の変化は、2次元2階偏微分方程式(2次元流体方程式)で表される。コンピューターを用いて数値的に式を解き、スクリーン上の点の移動を求め、心筋上に逆投影することにより、心臓の各点における接線方向の移動を求め、接線方向の収縮率を計算する。心筋に集積する放射性医薬品の集積量のかわりに、心電図同期MRI、X-CT、USでられた心筋断層像データーより得られる心筋の壁厚の値を用いて、QSFP法と同じ手法を使って、心筋の収縮を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心電図同期による核磁気共鳴断層像(MRI)、エックス線断層像(X-CT)、超音波断層像(US)等を用いた心臓の断層像から、局所的な心筋の収縮を定量化するものである。
【背景技術】
【0002】
生活習慣の変化、特に食事習慣、運動不足、喫煙、ストレスなどにともない、近年、虚血性心疾患の増加が問題となってきている。
【0003】
虚血性心疾患の診断法の1つとして、心筋に集積する放射性医薬品を投与し、心筋の血流分布をシンチカメラで撮像することによってえられる血流分布をもとに、核医学的に診断する方法がある。
【0004】
虚血性心疾患の診断および治療には、おおきな冠動脈の循環動態の情報は必要不可欠ではあるものの、毛細血管や側副路の発達などの循環動態を反映する心筋収縮の解析が必要になってきた。
【0005】
心筋に集積する放射性医薬品を投与し、心臓への集積を単一光子断層画像(Single Photon
Emission Computed Tomography、 SPECT)法を用いて、核医学的手法(以下QSFP、 Quantification of Segmental Function
by solving Poisson equation、と呼ぶ)で解析し、心臓の筋肉の収縮を定量化する方法が、前田らによって考案された。
【0006】
SPECT装置のみでなく、MRI、X-CT、US等の検査機器を備えた施設においても心筋収縮を測る新しい臨床検査法の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3394242 心電図同期横断断層像による心筋収縮運動の定量法
【0008】
【非特許文献1】前田尚利ほか、映像情報、12巻、39ページ、2007年
【非特許文献2】H. Maeda、Physiological Measurement、 volume 25(1) 71-84、 2004
【非特許文献3】H. Maeda et al.、Physics in Medicine and Biology、 volume 46 347-367、 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のQSFP法は放射性医薬品を使ってのみ検査可能であり、利用できる施設は限定される。
【0010】
放射性医薬品の分布を用いたSPECT法の代わりに、MRI、X-CT、USで得られた断層像を使って、QSFP法と同様の手法を用いて心筋の収縮を測定し、核医学の設備のない施設でも、QSFP法の利用を可能にすること。
【課題を解決するための手段】
【0011】
心電図同期MRI、X-CT、 USで得られた断層像の壁厚を、心臓の長軸もしくは中心から、外側に向かって、仮想的な円筒スクリーン、回転放物面スクリーン、球面スクリーン、または楕円スクリーン上に投影する。
【0012】
スクリーン上に投影された心壁厚の時間的空間的変化は、流体を記述する2次元2階偏微分方程式(2次元流体方程式)で表されるので、QSFP法と同様に、これらのスクリーン上での2次元流体方程式を円筒座標、回転放物面座標、楕円座標、または球面座標を使って、2次元流体方程式の速度ポテンシャル(ψ)を数値的に求める。
【0013】
速度ポテンシャル(ψ)を使って、2次元流体の流れに沿った点の移動を計算し、移動した点を心臓の壁上に逆投影することにより、心臓左室壁の変形を計算する。
【0014】
QSFP法と同じ手法で、心壁上の2点間の距離の変化、または心壁上の任意の面積の変化から、壁の収縮を計算する。
【発明の効果】
【0015】
従来の核医学手法を用いたQSFP法では、SPECT装置が設置された限られた施設でのみ検査が可能であったが、本法を使用することにより、MRI、X-CT、US画像を用いて心筋の収縮量を知ることが可能となり、放射性医薬品を使用することなく、QSFP法の利用が可能となる。
【0016】
心電図同期多層US装置を用いることにより、オンラインで、すなわち検査の施行時において検査をしながら心臓の収縮を測定することが可能になる。
【0017】
放射線被曝の軽減、医療費の節約のみでなく、幅広い医療施設で検査が可能となるので、心臓の検査の恩恵に浴する人口が増す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】球面座標系を使って計算する場合についての図解である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
心電図同期MRI、X-CT、US画像等を用いて、心基部から心尖部までの心臓全体をカバーする断層像のデーターを、1心拍を複数の時相に分けて収集する。
【0020】
左室中心点(実施例で述べる投影の原点となる点)から、心筋の壁の厚さを、仮想球面スクリーンに投影する。球面座標を使う場合、必ずしも短軸断層像である必要はなく、横断断層像、前額断断層像、矢状断断層像であってもかまわない。
【0021】
投影された厚さの時間的・空間的な変化から心臓壁のそれぞれの点の移動速度を、以下に述べる2次元の流体方程式を解くことによって求める。
【0022】
2次元の流体方程式の解をもとに、2次元の仮想球面スクリーンに投影された心筋のそれぞれの点の移動を、流線に沿って逐次計算する。
【0023】
球面スクリーン上の点を心筋壁に逆投影することにより、心筋の円周方向または長軸方向の長さの変化率、または心筋表面の面積の変化率として収縮を計算する。
【0024】
以下に球面座標を用いた場合の説明をする。流れの式は次式のように与えられる。
【0025】
【数1】

【0026】
仮想球面スクリーン上の球面座標では、半径が一定であるので、この式は以下のように簡単になる。
【0027】
【数2】

【0028】
この式を、差分方程式として直接コンピューターを用いて解くか、もしくはルジャンドル多項式(associated
Legendre polynomials)で展開して、速度ポテンシャルψの解を求めることができる。
【0029】
ψをθ方向、φ方向に微分することにより、速度ベクトル(Vθ、Vφ)を求め、QSFP法と同様に、球面スクリーン上の流体の流れに沿った移動を計算し、心筋の3次元座標に逆投影し心臓の変形を求める。
【産業上の利用可能性】
【0030】
医療産業において、虚血性心疾患、心筋炎、心奇形などにたいする診断のみばかりでなく、適切な薬物療法、運動療法、手術療法、侵襲的な介入治療などの選択が可能となって、不必要な医療費の削減に役立ち、削減できた資源を他の治療分野に振り向けることが可能となる。
【0031】
将来、USをオンラインで利用することが可能となれば、運動負荷、薬物負荷等による検査をあわせ用いることによって、最適な治療法を見つけることが可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1 心臓
2 投影の原点
3 仮想的な球面スクリーン
4 球面スクリーンの赤道
5 壁の厚さを投影する微少面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心電図同期による核磁気共鳴断層像(MRI)、エックス線断層像(X-CT),超音波断層像(US)等で得られた横断断層像、前額断断層像、矢状断断層像、または短軸断層像を用いて、壁厚を投影してQSFP法を使い、局所的な心筋の収縮を計算すること。
【請求項2】
QSFP法を使って心筋の収縮を計算し解析を行う目的で、左室の心筋断層像を用いて心壁厚、または放射性医薬品の集積を、その中心軸から仮想的な円筒スクリーン、回転放物面スクリーン、またはその中心から回転楕円体スクリーン、球面スクリーン、直交スクリーン上へ、投影すること。

【図1】
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【公開番号】特開2012−24365(P2012−24365A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166575(P2010−166575)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(398038959)
【Fターム(参考)】