説明

応力負荷型単板磁気試験器

【課題】応力負荷型単板磁気試験器において、単板試料に加わる磁界の分布や単板試料の内部の磁束の分布を均一に近づけて電磁鋼板の磁気特性を正確に試験できるようにすること。
【解決手段】本発明では、単板試料(2)に応力を負荷するとともに単板試料(2)にヨーク(4)を接触させた状態で磁気特性を試験するための応力負荷型単板磁気試験器(1)において、単板試料(2)とヨーク(4)との接触力を調節するためのヨーク調節機構(5)を有することにした。また、前記単板試料(2)の両面を挟持する一対のホルダー(30、31)を有することにした。また、前記各ホルダー(30、31)にHコイル(32、33)を設けて、単板試料(2)の両面に配置したHコイル(32、33)でHコイルペア(24)を構成することにした。また、前記ホルダー(30、31)に空隙補償コイル(25)を設けることにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力負荷型単板磁気試験器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、発電機や変圧器やモーターなどの電磁機器の鉄心として電磁鋼板が利用されている。この電磁鋼板は、鉄損特性や交流磁化特性や皮相電力特性などを測定することによって磁気特性が評価される。そのための方法として、日本工業規格に「電磁鋼板単板磁気特性試験方法」が規格されている(非特許文献1参照。)。
【0003】
この日本工業規格で定められた「電磁鋼板単板磁気特性試験方法」では、矩形平板状の電磁鋼板を単板試料として用い、単板試料を励磁コイルとBコイルの巻線の中に置くとともに、単板試料にヨークを接触させて閉磁気回路を構成する(図6参照。)。この電磁鋼板単板磁気特性試験方法では、単板試料にヨークを接触させることで、単板試料に加わる磁界の分布や単板試料の内部の磁束の分布が均一に近づくようにしている。
【0004】
そして、電磁鋼板単板磁気特性試験方法では、Bコイルを用いて単板試料の磁束密度を測定する。また、単板試料の磁界強度は、Hコイル法や励磁電流法で測定されるが、Hコイル法では、単板試料の下方又は上方のいずれか一方にそれぞれ所定距離だけ離して2枚のHコイルからなるHコイルペアを配置し、それぞれのHコイルで計測される磁界強度とそれぞれのHコイルと単板試料との距離とを用いて単板試料の磁界強度を算出する。
【0005】
上記「電磁鋼板単板磁気特性試験方法」を用いることで、電磁鋼板の磁気特性を試験することができるが、実際の電磁機器に鉄心などとして組込まれる電磁鋼板は、加工や組立てなどによって内部に応力が残留又は作用している。
【0006】
そのため、従来においては、電磁鋼板からなる単板試料に応力を負荷した状態で上記と同様の電磁鋼板単板磁気特性試験を行い、実際の電磁機器として用いられている状態での電磁鋼板の磁気特性を試験するようにしている(たとえば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本工業規格 JIS C2556 「電磁鋼板単板磁気特性試験方法」
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−145951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した電磁鋼板単板磁気特性試験方法では、単板試料にヨークを接触させることで単板試料に加わる磁界の分布や単板試料の内部の磁束の分布を均一に近づけている。
【0010】
ところが、単板試料に応力を負荷させると、単板試料が引張又は圧縮によって変形してしまい、単板試料とヨークとを良好に接触させることができなくなり、単板試料に加わる磁界の分布や単板試料の内部の磁束の分布が不均一となって、電磁鋼板の磁気特性を正確に試験することが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、請求項1に係る本発明では、単板試料に応力を負荷するとともに単板試料にヨークを接触させた状態で磁気特性を試験するための応力負荷型単板磁気試験器において、単板試料とヨークとの接触力を調節するためのヨーク調節機構を有することにした。
【0012】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、前記単板試料の両面を挟持する一対のホルダーを有することにした。
【0013】
また、請求項3に係る本発明では、前記請求項2に係る本発明において、前記各ホルダーにHコイルを設けて、単板試料の両面に配置したHコイルでHコイルペアを構成することにした。
【0014】
また、請求項4に係る本発明では、前記請求項2又は請求項3に係る本発明において、前記ホルダーに空隙補償コイルを設けることにした。
【発明の効果】
【0015】
そして、本発明では、単板試料に応力を負荷するとともに単板試料にヨークを接触させた状態で磁気特性を試験するための応力負荷型単板磁気試験器において、単板試料とヨークとの接触力を調節するためのヨーク調節機構を有しているために、単板試料に応力を負荷させることで単板試料に変形が生じてもヨーク調節機構で単板試料とヨークとの接触力を調節することができるので、単板試料とヨークとを良好に接触させることができ、単板試料に加わる磁界の分布や単板試料の内部の磁束の分布を均一に近づけて電磁鋼板の磁気特性を正確に試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る応力負荷型単板磁気試験器の構成を示す模式図。
【図2】同試験回路図。
【図3】応力負荷型単板磁気試験器のコイルユニットを示す平面断面図。
【図4】同側面断面図。
【図5】コイルユニットのホルダーを示す分解斜視図。
【図6】日本工業規格で定められた「電磁鋼板単板磁気特性試験方法」の試験回路図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る応力負荷型単板磁気試験器の具体的な構成について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1に示すように、応力負荷型単板磁気試験器1は、矩形平板状の電磁鋼板からなる単板試料2に応力を負荷するための応力負荷機構3と、単板試料2に接触させるヨーク4の接触力を調節するためのヨーク調節機構5と、単板試料2の磁気特性を測定するための測定機構6とで概略構成し、単板試料2に応力を負荷するとともに単板試料2にヨーク4を接触させた状態で単板試料2の磁気特性を測定できるようにしている。
【0019】
応力負荷機構3は、ケーシング7の内部に単板試料2の両端部を保持する固定側クランプ8と移動側クランプ9とを対向させて配置するとともに、ケーシング7にシリンダー10を取付け、シリンダー10の進退ロッド11の先端に移動側クランプ9を取付けている。そして、シリンダー10の進退ロッド11を前進又は後退させることで、固定側クランプ8及び移動側クランプ9で両端部を保持した単板試料2を圧縮又は引張して、単板試料2に圧縮応力又は引張応力を負荷できるようにしている。
【0020】
また、応力負荷機構3は、各種の測定器12を設けて、単板試料2の長さ(試料長)の変化や単板試料2に作用する応力などを測定できるようにしている。
【0021】
さらに、応力負荷機構3は、ケーシング7にクランプ固定具13,14を取付けており、クランプ固定具13,14に固定側クランプ8と移動側クランプ9とをそれぞれ固定することで、固定側クランプ8と移動側クランプ9との間の距離、すなわち、単板試料2の試料長を一定にして磁気歪みによって発生する応力を測定できるようにしている。
【0022】
ヨーク調節機構5は、単板試料2の両面側にそれぞれ配置した一対のヨーク体15,16でヨーク4を構成している。
【0023】
また、ヨーク調節機構5は、一方のヨーク体15をケーシング7に固定するとともに、他方のヨーク体16をケーシング7に固定したシリンダー17の進退ロッド18の先端部に取付けている。
【0024】
さらに、ヨーク調節機構5は、測定器19を設けてヨーク4(ヨーク体15,16)の両端面と単板試料2との接触力を測定できるようにしている。
【0025】
そして、ヨーク調節機構5は、シリンダー17の進退ロッド18を前進又は後退させることで、一対のヨーク体15,16の両端面で単板試料2の両面を所望の接触力で挟持させることができ、その時のヨーク4と単板試料2との接触力を調節することができるようにしている。
【0026】
なお、上記ヨーク調節機構5において、ヨーク4は、一対のヨーク体15,16で複ヨークを形成する場合に限られず、一方のヨーク体16のみで単ヨークを形成してもよく、また、縦型ヨークであっても横型ヨークであってもよい。さらに、一方のヨーク体16のみを移動させる場合に限られず、両方のヨーク体15,16を移動させるようにしてもよい。
【0027】
測定機構6は、コイルユニット20に図2に示す試験回路を構成する測定器21を接続している。ここで、試験回路としては、図6に示す日本工業規格で定められた「電磁鋼板単板磁気特性試験方法」に用いられる試験回路を用いてもよい。この図6に示す試験回路では、励磁コイル22'の巻線の中にBコイル23'とHコイルペア24'を置くとともに、相互誘導コイルで構成された空隙補償コイル25'の一次コイルを励磁コイル22'に直列に接続し、空隙補償コイル25'の二次コイルをBコイル23'と逆相に直列に接続しているが、図2に示す試験回路では、励磁コイル22の巻線の中にBコイル23とHコイルペア24を置くとともに、空隙補償コイル25をBコイル23と逆相に直列に接続している。
【0028】
コイルユニット20は、図3〜図5に示すように、ユニットホルダー26に図2に示す試験回路の励磁コイル22とBコイル23とHコイルペア24と空隙補償コイル25を収容するとともに、ユニットホルダー26の中央部に単板試料2を両端部を露出させた状態で挿通している。このコイルユニット20は、ユニットホルダー26をケーシング7に着脱自在に装着される。
【0029】
ユニットホルダー26は、励磁コイル22を外周部に巻回した中空状の励磁コイルホルダー27とBコイル23を外周部に巻回した中空状のBコイルホルダー28と、Hコイルペア24及び空隙補償コイル25を保持するHコイルホルダー29とで構成しており、励磁コイルホルダー27の中空部にBコイルホルダー28を挿通し、Bコイルホルダー28の中空部にHコイルホルダー29を挿通することで、コイルユニット20を一体的に形成している。
【0030】
Hコイルペア24を保持するHコイルホルダー29は、単板試料2の両面を挟持する一対のホルダー30,31で構成しており、各ホルダー30,31でHコイルペア24を構成する各Hコイル32,33を保持している。
【0031】
各ホルダー30,31は、単板試料2の試料長よりも短い矩形平板形状となっており、表面中央部にHコイル32,33を保持するHコイル保持溝34を形成するとともに、Hコイル保持溝34の両端部に凸状の位置決め片35,35を形成し、位置決め片35,35の両側にホルダー30,31の端部からHコイル保持溝34に連通する連通溝36,36を形成している。
【0032】
このホルダー30,31で保持される各Hコイル32,33は、矩形平板状のコイル枠37の中央部に巻回されている。このコイル枠37には、各Hコイル32,33の両側に空隙補償コイル25も巻回している。なお、空隙補償コイル25は、必ずしもHコイル32,33の両側に設ける必要はなく、単板試料2の測定領域によっては片側だけに設けてもよい。
【0033】
そして、Hコイルホルダー29は、Hコイル32,33を巻回したコイル枠37を各ホルダー30,31のHコイル保持溝34の内部(一対の位置決め片35,35の間)に収容することで、Hコイル32,33及び空隙補償コイル25を所定の位置で位置決め保持できるようにしている。これにより、Hコイル32,33や空隙補償コイル25は、単板試料2の変形による影響を受けることなく、両コイル32,33,25と単板試料2との位置関係を近接かつ適切な距離を保って配置されることになり、磁気特性の測定精度を向上させることができる。
【0034】
また、Hコイルホルダー29は、各ホルダー30,31に形成した連通溝36を利用して、Hコイル32,33や空隙補償コイル25の配線を外部に引き出せるようにしている。
【0035】
このHコイルホルダー29は、両ホルダー30,31を図5に示すように上向きにして使用してもよく、また、各ホルダー30,31又は両ホルダー30,31を下向きにして使用してもよい。ホルダー30,31を下向きにして使用した場合には、単板試料2の表面側に連通溝36が位置することになるため、単板試料2に貼着した歪みゲージやその配線を連通溝36を利用して挿通させることもできる。
【0036】
応力負荷型単板磁気試験器1は、以上に説明したように構成しており、応力負荷機構3を用いて単板試料2に応力を負荷するとともに、ヨーク調節機構5を用いて単板試料2にヨーク4のヨーク体15,16を接触させ、その状態において測定機構6を用いて単板試料2の磁気特性の試験を行うようにしている。これにより、実際の電磁機器として用いられている状態での電磁鋼板の磁気特性を試験することができる。
【0037】
そして、上記応力負荷型単板磁気試験器1では、単板試料2に応力を負荷させることで単板試料2に変形が生じてもヨーク調節機構5で単板試料2とヨーク4との接触力を調節することができる。
【0038】
そのため、上記応力負荷型単板磁気試験器1では、単板試料2とヨーク4とを良好に接触させることができ、単板試料2に加わる磁界の分布や単板試料2の内部の磁束の分布を均一に近づけて電磁鋼板の磁気特性を正確に試験することができる。
【0039】
また、上記応力負荷型単板磁気試験器1においては、単板試料2の両面を一対のホルダー30,31で挟持しているために、一対のホルダー30,31によって単板試料2の撓み変形を防止することができ、その結果、単板試料2の変形を防止して磁気特性を高精度に測定することができる。
【0040】
上記応力負荷型単板磁気試験器1においては、単板試料2の磁界強度をHコイル法や励磁電流法で測定することができるが、単板試料2を挟持する各ホルダー30,31にHコイル32,33を設けて、単板試料2の両面に配置されるHコイル32,33で構成するHコイルペア24を用いて単板試料2の磁界強度を測定することもできる。
【0041】
従来のHコイル法による磁界強度の測定では、単板試料の一方側に所定距離を保ってHコイルペアを構成する2枚のHコイルをそれぞれ配置していたために、単板試料とHコイルとの距離が不正確であったり単板試料の表面と裏面とで磁場分布が異なる場合には、磁界強度を正確に測定できないおそれがある。しかしながら、単板試料2の両面に配置されるHコイル32,33で構成するHコイルペア24を用いて単板試料2の磁界強度を測定した場合には、単板試料2とHコイル32,33との距離や単板試料2の表裏の磁場分布にかかわりなく、それぞれのHコイル32,33で測定される磁界強度の平均値や最小値から単板試料2の磁界強度を柔軟に測定することができる。
【0042】
さらに、上記応力負荷型単板磁気試験器1においては、図6に示す日本工業規格で定められた「電磁鋼板単板磁気特性試験方法」に用いられる試験回路を用いることもできるが、図2に示すように、空隙補償コイル25をBコイル23と逆相に直列に接続した試験回路を用いている。
【0043】
従来の試験回路では、相互誘導コイルで構成された空隙補償コイル25'を用いるために、周囲に磁性体が無いことが必要であり、励磁コイル22'の外部に配置していたが、図2に示す試験回路では、空隙補償コイル25の小型化が可能であり、空隙補償コイル25をホルダー30,31に設けて励磁コイル22の巻線の中に配置することもできる。これにより、図2に示す試験回路では、高磁束密度での励磁波形の制御が容易であるとともに、励磁コイル22の内部の均一な磁場中での実磁場に対応した補償を行うことでき、補償精度を向上させることができる。
【0044】
なお、上記ホルダー30,31の構成や図2に示す試験回路の構成は、応力負荷型単板磁気試験器1だけでなく応力を負荷しないで電磁鋼板の磁気特性を試験する試験器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 応力負荷型単板磁気試験器 2 単板試料
3 応力負荷機構 4 ヨーク
5 ヨーク調節機構 6 測定機構
7 ケーシング 8 固定側クランプ
9 移動側クランプ 10 シリンダー
11 進退ロッド 12 測定器
13,14 クランプ固定具 15,16 ヨーク体
17 シリンダー 18 進退ロッド
19 測定器 20 コイルユニット
21 測定器 22,22' 励磁コイル
23,23' Bコイル 24,24' Hコイルペア
25,25' 空隙補償コイル 26 ユニットホルダー
27 励磁コイルホルダー 28 Bコイルホルダー
29 Hコイルホルダー 30,31 ホルダー
32,33 Hコイル 34 Hコイル保持溝
35 位置決め片 36 連通溝
37 コイル枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単板試料に応力を負荷するとともに単板試料にヨークを接触させた状態で磁気特性を試験するための応力負荷型単板磁気試験器において、
単板試料とヨークとの接触力を調節するためのヨーク調節機構を有することを特徴とする応力負荷型単板磁気試験器。
【請求項2】
前記単板試料の両面を挟持する一対のホルダーを有することを特徴とする請求項1に記載の応力負荷型単板磁気試験器。
【請求項3】
前記各ホルダーにHコイルを設けて、単板試料の両面に配置したHコイルでHコイルペアを構成したことを特徴とする請求項2に記載の応力負荷型単板磁気試験器。
【請求項4】
前記ホルダーに空隙補償コイルを設けたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の応力負荷型単板磁気試験器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−50391(P2013−50391A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188655(P2011−188655)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(508324433)公益財団法人大分県産業創造機構 (17)
【Fターム(参考)】