説明

感光性インクおよびそれを用いた硬化物

【課題】 十分な硬化性を有するとともに光照射によるベンゼン放出が少なく、密着性および耐溶剤性の優れた硬化物を形成し得るカチオン重合型感光性インクを提供する。
【解決手段】 酸により重合可能な重合性化合物、ベンゼン環を含む光酸発生剤、および増感剤を含有するカチオン重合型感光性インクである。前記光酸発生剤の重量は、前記重合性化合物の重量の0.5%以上10%以下であり、前記光酸発生剤の含有量(m1モル)と前記増感剤の含有量(m2モル)とは、下記の関係を満たすことを特徴とする。
1<(m2/m1)≦5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性インクおよびそれを用いた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで多くの商用印刷の市場においては、揮発性の有機溶剤に色材が分散された溶媒型のインクを用いて印刷が行なわれてきた。地球環境に対する影響への配慮などから、近年では無溶剤型のインクが使用されつつある。水性インクの使用も検討されているが、商用印刷においては乾燥に時間を要する水性インクは生産性が低下する。印刷物の耐水性にも問題がある。
【0003】
このため、無溶剤型インクとして感光性インクが注目されてきている。感光性インクは非吸収性媒体に直接印字することができる。印字後には、光照射によって溶剤の放出なしに瞬時に硬化して印字を定着できるうえ、有機溶剤の揮発も少ない。感光性インクにおける重合開始剤として、従来から多く用いられているのはラジカル発生剤である。ラジカル発生剤を含有するラジカル重合型インクは、大気中の酸素により重合が阻害されてしまうため光に対する感度が低く、また基材に対する密着性も十分ではなかった。
【0004】
一方、重合開始剤として光酸発生剤を用いたカチオン重合型インクは、化学増幅型の感光性インクである。光照射により発生した酸が加熱により拡散することによって、インク内部まで重合反応を効率よく起こすことができる。酸素阻害を受けず高感度で、基材に対する密着性も優れている。
【0005】
カチオン重合型のUVインクにおいては、ベンゼン環を含む光酸発生剤が、通常、重合開始剤として使用されている。光照射により得られた硬化膜が加熱処理されると、重合開始剤からベンゼンが遊離して放出される。加熱処理の際に塗膜中からベンゼンが発生するのを抑制するため、重合開始剤におけるベンゼン環の水素原子をアルキル鎖などで置換することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、十分な硬化性を有するとともに光照射によるベンゼン放出が少なく、密着性および耐溶剤性の優れた硬化物を形成し得るカチオン重合型感光性インク、およびこれを用いた硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかるカチオン重合型感光性インクは、酸により重合可能な重合性化合物、
ベンゼン環を含む光酸発生剤、および
増感剤を含有するカチオン重合型感光性インクであって、
前記光酸発生剤の重量は、前記重合性化合物の重量の0.5%以上10%以下であり、
前記光酸発生剤の含有量(m1モル)と前記増感剤の含有量(m2モル)とは、下記の関係を満たすことを特徴とする。
【0008】
1<(m2/m1)≦5
本発明の一態様にかかる硬化物は、前述の感光性インクを用いて得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な硬化性を有するとともに光照射によるベンゼン放出が少なく、密着性および耐溶剤性の優れた硬化物を形成し得るカチオン重合型感光性インク、およびこれを用いた硬化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0011】
ベンゼン環を含む光酸発生剤を含有するUVインクをカチオン硬化させた塗膜においては、UV照射時にベンゼンが光酸発生剤から遊離して塗膜中に残留する。引き続いて加熱が行なわれると、塗膜中のベンゼンは塗膜から放出される。カチオン硬化型のUVインクを用いて形成された硬化物が加熱処理される場合、例えばプリント基板の半田リフロー工程などでは、ベンゼンが発生することになる。換気などに留意すれば環境測定上は十分問題のないレベルに抑えることもできるが、密閉状態で大量に処理すれば検出可能な量が発生する可能性もあるため、こうしたベンゼン放出に対する対策が必要である。
【0012】
カチオン硬化型UVインクにおいては、スルホニウム塩やヨードニウム塩が光酸発生剤として広く用いられている。特に、下記化学式(1)、(2)、(3)で表わされる化合物であり、ベンゼン環が含まれている。いずれにおいても、ベンゼン環には置換基が結合していない。非置換のベンゼン環であるので、光照射時には隣接する原子との結合が切れやすく、ベンゼンが副生成物として発生してしまう。
【化1】

【0013】
こうした非置換のベンゼン環の場合と比較すれば、置換基としてアルキル基が導入されたベンゼン環ではベンゼンの発生は少ない。その場合でも、十分に検出、定量可能な程度のベンゼンが発生することが本発明者らにより確認された。重合性化合物としてビニルエーテル化合物が用いられた場合には、ベンゼンの発生は特に顕著である。UVインクの硬化においては印刷速度の低下を避けて、短時間で硬化できるよう非常に紫外線の照度が高く設定されている。このため、副生成物も発生しやすいものと推測される。
【0014】
本実施形態においては、上述のような従来の光酸発生剤を使用してもベンゼンの発生を抑制することを目的としている。用いられる光酸発生剤は、光照射によりベンゼンの発生するベンゼン環を含んだ光酸発生剤である。すなわち、ベンゼン環のうち少なくとも1つのベンゼン環は、置換基が結合されていない。あるいは、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、または炭素数3〜20の分岐アルキル基を、置換基として有する。さらに好ましくは用いられるのは、非置換のベンゼン環、炭素数1〜14の直鎖アルキル基が導入されたベンゼン環、または炭素数3〜5の分岐アルキル基が導入されたベンゼン環を含む光酸発生剤である。このようなベンゼン環は、光反応により結合が切れてベンゼンが生成しやすい。しかしながら、製造コスト、溶解性、および吸収波長などの点で優れているため多く用いられている。
【0015】
光酸発生剤としては、ヨードニウムカチオン、スルフォニウムカチオン、あるいはホスホニウムカチオンがアニオンと対イオンを形成してなるオニウム塩が挙げられる。ヨードニウムカチオンとしては、例えば、下記一般式(4)で表わされるジアリールヨードニウム塩を使用することができる。
【化2】

【0016】
(上記一般式(4)中、R1およびR2は同一でも異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜20の置換基であり、少なくとも一つは水素または炭素数1から20の直鎖アルキル基、または炭素数3〜20の分岐アルキル基である。さらに好ましくは炭素数1〜14の直鎖アルキル基、または炭素数3〜5の分岐アルキル基である。)
アニオンとしては例えば、フルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン、ヘキサフルオロヒ素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、パラトルエンスルホネートアニオン、パラニトロトルエンスルホネートアニオン、ハロゲン系アニオン、スルホン酸系アニオン、カルボン酸系アニオン、または硫酸アニオンを対イオンとすることができる。
【0017】
さらに、例えば、ジアゾニウム塩、キノンジアジド化合物、有機ハロゲン化物、芳香族スルフォネート化合物、バイスルフォン化合物、スルフォニル化合物、スルフォネート化合物、スルフォニウム化合物、スルファミド化合物、ヨードニウム化合物、スルフォニルジアゾメタン化合物、およびそれらの混合物などの光酸発生剤を使用することができる。
【0018】
オニウム塩のより詳細な具体例としては、例えば、下記化学式で表わされる化合物が挙げられる。
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
市販のオニウム塩化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。みどり化学社製MPI−103(CAS.NO.[87709−41−9])、みどり化学社製BDS−105(CAS.NO.[145612−66−4])、みどり化学社製Pyrogallol tritosylate(CAS.NO.[20032−64−8])、みどり化学社製DTS−102(CAS.NO.[75482−18−7])、みどり化学社製DTS−103(CAS.NO.[71449−78−0])、みどり化学社製MDS−103(CAS.NO.[127279−74−7])、みどり化学社製MDS−105(CAS.NO.[116808−67−4])、みどり化学社製MDS−205(CAS.NO.[81416−37−7])、みどり化学社製BMS−105(CAS.NO.[149934−68−9])、みどり化学社製TMS−105(CAS.NO.[127820−38−6])、みどり化学社製NB−101(CAS.NO.[20444−09−1])、みどり化学社製NB−201(CAS.NO.[4450−68−4])、みどり化学社製DNB−101(CAS.NO.[114719−51−6])、みどり化学社製DNB−102(CAS.NO.[131509−55−2])、みどり化学社製DNB−103(CAS.NO.[132898−35−2])、みどり化学社製DNB−104(CAS.NO.[132898−36−3])、みどり化学社製DNB−105(CAS.NO.[132898−37−4])、みどり化学社製DAM−101(CAS.NO.[1886−74−4])、みどり化学社製DAM−102(CAS.NO.[28343−24−0])、みどり化学社製DAM−103(CAS.NO.[14159−45−6])、みどり化学社製DAM−104(CAS.NO.[130290−80−1]、CAS.NO.[130290−82−3])、みどり化学社製DAM−201(CAS.NO.[28322−50−1])、およびLamberti社製ESACURE1064、Lamberti社製ESACURE1187、サンアプロ社製CPI−100P(CAS.No.[68156−13−8])、和光純薬社製WPI−054(CAS.No.[524678−29−3])、和光純薬社製WPI−113(CAS.No.[477602−76−9])、和光純薬社製WPI−116(CAS.No.[71786−70−4])、和光純薬社製WPI−170(CAS.No.[61358−25−6])、およびチバガイギー社製IRGACURE250などである。
【0023】
上述したオニウム塩のなかでも、スルホニウム塩やヨードニウム塩は、安定性に優れている。しかしながら、その製造過程に起因して、通常、1価の塩(1価のカチオンと1個のアニオンとの塩)に加えて、75%程度まで2価以上の塩(例えば2価のカチオンと2個のアニオンとの塩)が不可避的に含まれる。一般的には、市販品もこうした混合物の状態であり、特にスルホニウム塩では、この傾向が顕著である。多価の塩が感光性インク中に含有されると、感光波長が長波長側にシフトして、一般に高感度となることが知られている。こうした利点を確保するために、2価以上の塩が意図的に混入される場合もある。例えば、Lamberti社ESACURE−1064等などの市販品がそれらに該当する。
【0024】
多価の塩は、感光性インクに含有される粉体の凝集安定性に大きく影響を及ぼす。具体的には、多価の塩は、粉体粒子と分散剤との間に弱い結合を生じさせて、ゲルまたは凝集体の発生を引き起こすといった欠点も有する。このため感光性インクが粉体を含有する場合には通常、これら多価の塩の存在を極力抑えることが、粉体粒子の分散安定性の向上に繋がる。
【0025】
多価のオニウム塩の含有率は、全オニウム塩総量の20重量部以下であることが望ましい。多価のオニウム塩の含有率は、より好ましくは5重量部以下であり、含まれないことが最も好ましい。
【0026】
上述したオニウム塩化合物の中でも、粉体の凝集安定性に格段に優れることから、アリールスルフォニウムのフルオロフォスフェート塩、あるいはアリールイオドニウムのフルオロフォスフェート塩が望ましい。1価のオニウム塩であっても、分散剤が不足した場合には、分散剤である末端アミン樹脂を経時的に徐々に置換する作用を有する。そのため、オニウム塩は、粉体表面と分散剤末端との結合部分に極力近づきにくい構造をとることが望ましい。比較的大きな置換基を構造内に有するオニウム塩化合物を用いることによって、これが可能となる。オニウム塩中のベンゼン環は、炭素数1以上20以下の有機基を有していれば、粉体表面へのイオン吸着が立体障害により低減される。ベンゼン環の50モル%以上が炭素数4以上20以下の有機基を有する場合、この効果はより顕著である。分散安定性に加えて、光反応時の空気中への分解物の飛散が抑制されるために安全性が高められる。しかも、かかる化合物は、溶媒に対する溶解性が高いことから、感光性インク中における塩の析出といった現象も抑えることができる。
【0027】
1価のオニウム塩が用いられると感光波長が短波長側にシフトするため、感度が低下する傾向がある。VI元素である硫黄や酸素を複素環内や連結基として有する芳香族置換基が構造内に含まれていれば、こうした不都合を回避することができる。
【0028】
さらに、下記一般式(5)または(6)に示されるように、比較的大きな有機基を構造内に含むオニウム塩の場合には、溶解安定性が高く、分散安定性も良好である。
【化7】

【0029】
ここで、A-はフルオロフォスフェートアニオンであり、R1、R2、およびR3は、水素原子または炭素数1〜20の置換基であり、R4は2価の芳香族置換基あるいはVI原子を構造内に含む2価の芳香族置換基を示す。R1、R2、およびR3のうち少なくとも一つは、水素原子または炭素数1から20の直鎖アルキル基、または炭素数3〜20の分岐アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1から14の直鎖アルキル基、または炭素数3〜5の分岐アルキル基である。
【0030】
1ないしR3として導入されうる炭素数1乃至20の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基などのアルキル基、メチルオキシ基,エチルオキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、およびデカニルオキシ基などの炭素数1乃至20のアルキルオキシ基;エチレングリコールが脱水縮合したポリエチレンオキシド骨格を有する炭素数3乃至20の置換基等が挙げられる。R1ないしR3のうち少なくとも一つは、炭素数1から14の直鎖アルキル基、または炭素数3〜5の分岐アルキル基を有する。
【0031】
また、R4として導入され得る2価の芳香族置換基としては、例えば、フェニレンやビフェニレンなどフェニレンを有する基;フェニレンサルファイド、フェニレンジサルファイドなどのフェニレンサルファイド骨格を有する基;ベンゾチオフェニレン、チオフェニレンおよびビチオフェニレン基などチオフェン骨格を有する基;フラニレン、ベンゾフラニレンなどのフラン骨格を有する基等が挙げられる。
【0032】
光酸発生剤の含有量は、その酸発生効率や添加する粉体成分の量などに応じて設定することができる。本発明の実施形態においては、感度の観点から、重合性化合物の重量の0.5%〜10%の量で、光酸発生剤が含有される。光酸発生剤の含有量が0.5重量%未満の場合には、感光性インクの感度が低くなる。一方、10重量%を超えると、インクの経時的劣化、経時的増粘が激しくなって塗膜性や光硬化後のインク膜の硬度が低下する。好ましくは、光酸発生剤の含有量は、重合性化合物100重量%に対して1重量%乃至8重量%であり、酸発生効率や添加する顔料の量などに応じて適宜決定することができる。またベンゼンの発生量については光酸発生剤の含有量が少ないほど発生が少ないため、光酸発生剤は上記の最適範囲中でできるだけ少ないことが望ましい。
【0033】
使用される光酸発生剤の種類に応じて、最適な含有量は異なる。例えばESACURE1187の場合、重合性化合物の1重量%〜7重量%が好ましく、3重量%〜5重量%がさらに好ましい。
【0034】
重合性化合物は、光酸発生剤および増感剤のもとで光照射により発生する酸の存在下で架橋または重合する化合物(カチオン重合性化合物)である。例えば、エポキシ基、オキセタン基、オキソラン基などのような環状エーテル基を有する分子量1000以下の化合物、上述した置換基を側鎖に有するアクリルまたはビニル化合物、カーボネート系化合物、低分子量のメラミン化合物、ビニルエーテル類やビニルカルバゾール類、スチレン誘導体、アルファ−メチルスチレン誘導体、ビニルアルコールとアクリル、メタクリルなどのエステル化合物をはじめとするビニルアルコールエステル類など、カチオン重合可能なビニル結合を有する重合性化合物を併せて使用してもよい。
【0035】
テルペノイド骨格をエステル側鎖に有するアクリルを用いることもでき、例えば、特開平08−82925に開示されたようなアクリル系化合物が好適である。具体的には、ミルセン、カレン、オシメン、ピネン、リモネン、カンフェン、テルピノレン、トリシクレン、テルピネン、フェンチェン、フェランドレン、シルベストレン、サビネン、ジペンテン、ボルネン、イソプレゴール、カルボンなどの不飽和結合を有するテルペンの2重結合をエポキシ化し、アクリル酸またはメタクリル酸を付加させたエステル化合物が挙げられる。
【0036】
あるいは、シトロネロール、ピノカンフェオール、ゲラニオール、フェンチルアルコール、ネロール、ボルネオール、リナロール、メントール、テルピネオール、ツイルアルコール、シトロネラール、ヨノン、イロン、シネロール、シトラール、ピノール、シクロシトラール、カルボメントン、アスカリドール、サフラナール、ピペリトール、メンテンモノオール、ジヒドロカルボン、カルベオール、スクラレオール,マノール、ヒノキオール、フェルギノール、トタロール、スギオール、ファルネソール,パチュリアルコール、ネロリドール、カロトール、カジノール、ランセオール、オイデスモール、フィトールなどのテルペン由来アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステル化合物を用いてもよい。
【0037】
さらには、シトロネロル酸、ヒノキ酸、サンタル酸、エステル側鎖にメントン、カルボタナセトン、フェランドラール、ピメリテノン、ペリルアルデヒド、ツヨン、カロン、ダゲトン、ショウノウ、ビサボレン、サンタレン、ジンギベレン、カリオフィレン、クルクメン、セドレン、カジネン、ロンギホレン、セスキベニヘン、セドロール、グアヨール、ケッソグリコール、シペロン、エレモフィロン、ゼルンボン、カンホレン、ポドカルプレン、ミレン、フィロクラデン、トタレン、ケトマノイルオキシド、マノイルオキシド、アビエチン酸、ピマル酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸、イソ−d−ピマル酸、アガテンジカルボン酸、ルベニン酸、カロチノイド、ペラリアルデヒド、ピペリトン、アスカリドール、ピメン、フェンケン、セスキテルペン類、ジテルペン類、トリテルペン類などの骨格をエステル側鎖に有するアクリレートまたはメタクリレート化合物、アクリルまたはメタクリレート系モノマー、スチレン系モノマー、あるいはビニル系の重合性基を複数有するオリゴマー系化合物などを含有することが望ましい。
【0038】
また、多価アルコール化合物のポリアクリレート化合物、多価芳香族アルコールのポリアクリレート化合物、多価脂環アルコールのポリアクリレート化合物、および置換基を有するスチレン系化合物などが挙げられる。こうしたモノマーとしては、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ネオペンチルアルコール、トリメチロールプロパンやペンタエリスト−ル、ビニルアルコール系オリゴマーなどのジ〜ポリアクリレート化合物、フェノールやクレゾール、ナフトール、ビスフェノール、およびそれらのノボラック系縮合化合物やビニルフェノール系オリゴマーのジ〜ポリアクリレート化合物など、およびそれらが水添された、シクロヘキサン、水添ビスフェノール、デカヒドロナフタレン脂環や、テルペン系脂環、ジシクロペンタンやトリシクロデカン系脂環のジ〜ポリヒドロキシ化合物のジ〜ポリアクリレート化合物などを挙げることができる。
【0039】
上述したなかでもオキシラン化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物が好適に用いられる。
【0040】
オキシラン化合物としては、通常エポキシ樹脂として用いられているものであれば使用することができる。具体的には芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、脂肪族エポキシドなどのモノマー、オリゴマー、およびポリマーが挙げられる。
【0041】
より具体的には、例えば、ダイセル化学社製のセロキサイド2021、セロキサイド2021A、セロキサイド2021P、セロキサイド2081、セロキサイド2000、セロキサイド3000に例示される脂環式エポキシ、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物であるサイクロマーA200、サイクロマーM100、MGMAのようなメチルグリシジル基を有するメタクリレート、低分子エポキシ化合物であるグリシドール、β−メチルエピコロルヒドリン、α−ピネンオキサイド、C12〜C14のα−オレフィンモノエポキシド、C16〜C18のα−オレフィンモノエポキシド、ダイマックS−300Kのようなエポキシ化大豆油、ダイマックL−500のようなエポキシ化亜麻仁油、エポリードGT301、エポリードGT401のような多官能エポキシなどを挙げることができる。さらに、サイラキュアのような米国ダウケミカル社の脂環式エポキシや、水素添加し且つ脂肪族化した低分子フェノール化合物の水酸基末端をエポキシを有する基で置換した化合物、エチレングリコールやグリセリン、ネオペンチルアルコールやヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなどの多価脂肪族アルコール/脂環アルコールなどのグリシジルエーテル化合物、ヘキサヒドロフタル酸や、水添芳香族の多価カルボン酸のグリシジルエステルなどを使用することができる。
【0042】
特に脂環式骨格を有するエポキシ化合物は、反応性に加えてある程度の高沸点と低粘度とを両立することができるためインクジェット印刷の場合に好適に用いられる。
【0043】
また、AMES試験による変異原性の高くないものとしては、比較的分子量の小さくないもののほうが好ましく、セロキサイド3000などの脂環式エポキシ化合物が好適に用いられる。なお、分子量は150以上300以下であることが好ましい。150未満の場合には、変異原性が高くなってしまい、一方、300を越えると保存安定性が悪くなってしまう傾向がある。
【0044】
オキシラン化合物の含有量は、重合性化合物中の30重量%以下であることが望ましい。より好ましくは3〜20重量%である。こうした範囲内でオキシラン化合物が含有された場合には、形成される硬化物の密着性および耐溶剤性は、よりいっそう高められる。
【0045】
オキセタン化合物としては、例えば、オキセタン環を2つ有する化合物、およびオキセタン環を1つ有する化合物などを用いることができる。オキセタン環を2つ有する化合物としては、例えば、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、1,4−ビス〔(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ベンゼン、1,3−ビス〔(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ベンゼン、4,4'−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ビフェニル、1,4−ビス{〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕メチル}ベンゼン、ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]シクロヘキサン、およびビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ノルボルナンなどが挙げられる。オキセタン環を1つ有する化合物としては、例えば、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]シクロヘキサン、およびオキセタニルシルセスキオキサンなどが挙げられる。また、オキセタン基を側鎖に有するアクリル化合物、およびオキセタン基を側鎖に有するメタクリル化合物なども用いることができる。こうした化合物が含有された場合には、粘度の上昇を抑えられるのに加えて、オキセタン化合物と同様の硬化加速効果を得ることができる。
【0046】
SUS、銅、アルミなどの多様な金属やPET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)などのプラスチック部材、およびガラスなど各種材質からなる基材に対する密着性を高めるためには、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタンが好適に用いられる。
【0047】
また、二官能のオキセタン化合物を用いることによって、硬化物の耐溶剤性がより向上する感光性インクとなる。オキセタン化合物は、単独で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
重合性化合物総量の30重量%以下のオキシラン化合物が含有される場合には、オキセタン化合物の含有量は、重合性化合物の総量の20〜60重量%とすることが好ましい。
【0049】
こうした割合でオキシラン化合物およびオキセタン化合物が重合性化合物に含有された感光性インクを用いることによって、密着性を損なわず、しかも膜強度がよりいっそう向上した硬化物を形成することができる。
【0050】
ビニルエーテル化合物は、重合性化合物の中でも特に硬化速度が速く、反応率も高い。感光性インクの硬化性能を高めるためには、少なくとも1種のビニルエーテル化合物が重合性化合物中に含有されることが望まれる。
【0051】
しかしながら、ビニルエーテル化合物が含有された感光性インクでは、光照射後の塗膜中に残留するベンゼンの量が顕著に増大することが本発明者らによって確認された。ビニルエーテル化合物の重合物がベンゼンを吸着しやすいのが原因であると推測される。ビニルエーテル化合物の重合反応の速度は、他の重合性化合物より速い。このため、発生したベンゼンが硬化膜中に閉じ込められて残留しやすくなるのも、一因であると推測される。
【0052】
重合性化合物としてビニルエーテル化合物が用いられる感光性インクにおいては、増感剤と光酸発生剤とのモル比を所定の範囲内に規定することによって、高い硬化性能を維持しつつ、ベンゼンの発生を抑制することができる。すなわち、ビニルエーテル化合物が使用される際に、本発明の実施形態の効果が特に顕著に発揮される。
【0053】
ビニルエーテル化合物としては、下記一般式(7)で表わされる化合物が用いられる。
【化8】

【0054】
(前記一般式(7)中、R11は、ビニルエーテル基、ビニルエーテル骨格を有する基、アルコキシ基、水酸基置換体および水酸基からなる群から選択され、少なくとも1つはビニルエーテル基またはビニルエーテル骨格を有する。R12は、置換または非置換の環式骨格または脂肪族骨格を有するp+1価の基であり、pは0を含む正の整数である。)
pが0であって、R12としてシクロヘキサン環骨格が導入される場合には、揮発性の観点から、R12には酸素が含まれることがより好ましい。具体的には、環骨格に含まれる少なくとも一つの炭素原子はケトン構造を有する構造、酸素原子に置換されている構造、あるいは酸素含有置換基を有する構造などであることが望まれる。
【0055】
一般に、脂肪族グリコール誘導体やシクロヘキサンジメタノールなどのメチレン基に結合したビニルエーテル化合物は、よく知られている。このようなビニルエーテル化合物の重合反応は、粉体によって顕著に阻害される。しかも、比較的粘度が高いことから、こうしたビニルエーテル化合物と粉体とを含有した感光性インクを調製することは、これまで困難とされてきた。上記一般式(7)で表わされるビニルエーテル化合物は、脂環式骨格、環状エーテル化合物、テルペノイド骨格あるいは芳香族骨格に、少なくとも1つのビニルエーテル基が直接結合している。このため、粉体と同時に含有されても硬化性能に優れる。
【0056】
前記一般式(7)において(p+1)価の有機基R12としては、例えば、ベンゼン環やナフタレン環、ビフェニル環を含む(p+1)価の基、シクロアルカン骨格や、ノルボルナン骨格、アダマンタン骨格、トリシクロデンカン骨格、テトラシクロドデカン骨格、テルペノイド骨格、および、コレステロール骨格などの橋かけ脂環化合物から誘導される(p+1)価の基などが挙げられる。
【0057】
より具体的には、シクロヘキサン(ポリ)オール、ノルボルナン(ポリ)オール、トリシクロデカン(ポリ)オール、アダマンタン(ポリ)オール、ベンゼン(ポリ)オール、ナフタレン(ポリ)オール、アントラセン(ポリ)オール、ビフェニル(ポリ)オールなどの脂環ポリオールやフェノール誘導体おける水酸基の水素原子が、ビニル基に置換された化合物などが挙げられる。また、ポリビニルフェノールやフェノールノボラックなどのポリフェノール化合物における水酸基の水素原子が、ビニル基に置換された化合物などを用いることもできる。上述したような化合物は、水酸基の一部が残留していてもよい。あるいは、脂環式骨格の一部のメチレン原子がケトン基やラクトン、酸素原子などに酸化あるいは置換されていても問題ない。こうした場合には、揮発性が低減するため望ましいものとなる。
【0058】
特に、シクロヘキシルモノビニルエーテル化合物は揮発性に富む。このため、シクロヘキシルモノビニルエーテル化合物が用いられる場合は、シクロヘキサン環は少なくともシクロヘキサノン環等に酸化されていることが望ましい。
【0059】
かかる化合物のなかでも、ビニルエーテル構造を含む置換基を有する環状エーテル化合物がより好ましい。硬化性や安全性の面では、酸素原子を含む5員環骨格を含み、橋かけ構造やスピロ構造を同時に有する環状エーテル骨格が最も好適である。こうしたビニルエーテル化合物は、相当するアルコール化合物と酢酸ビニルやプロペニルエーテルのようなビニルエーテル源を出発原料として、例えば、塩化イリジウムのような触媒を用いてアルコールをビニルエーテルに置換するような方法(J.Am.Chem.Soc.Vol124,No8,1590−1591(2002))により、好適に合成することができる。
【0060】
また、上述した化合物のなかでも、テルペノイド骨格やノルボルナン骨格のような天然に多く存在する骨格を有するエポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物は、コストの面で良好である。
【0061】
このような環状エーテル化合物の例としては、例えば、下記化学式で表される化合物が挙げられる。
【化9】

【0062】
環構造を有しないビニルエーテル化合物としては、具体的には比較的揮発性の低いポリ(アルキレングリコール)骨格を有するビニルエーテル化合物が、一般によく知られている。こうしたビニルエーテル化合物としては、例えばトリエチレングリコールジビニルエーテルが安価でよく用いられている。環構造をもたないビニルエーテル化合物を配合した場合には、基材に対する塗膜の密着性が大幅に低下してしまう。しかも、到達硬度も低下してしまう傾向がある。このため、ビニルエーテル化合物は、環構造を有するものが好ましい。
【0063】
上述したビニルエーテル構造を含む置換基を有する環状化合物は、重合性化合物中の含有量として30重量%以上であることが好ましい。30重量%以上であれば、硬化塗膜の硬度および溶剤耐性は十分に高いものとなる。
ビニルエーテル化合物は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
オキセタン化合物および特定のビニルエーテル化合物の少なくとも一方の重合性化合物は、単官能化合物であることが望ましい。単官能化合物が含有されることによって、得られる硬化物の収縮性を制御することができる。すなわち、適切に単官能化合物を加えることにより、酸重合性化合物の硬化過程において生じる収縮が抑えられ、結果的に硬化物の密着性が高められる。単官能化合物の含有量は、重合性化合物総量の20〜70重量%に規定される。こうした範囲の量で単官能化合物が含有されていれば、基材に対して高い密着性を有するとともに硬度も十分な硬化物を形成することができる。単官能化合物の含有量は、30〜50重量%であることが好ましい。
【0065】
例えば、単官能オキセタン化合物20〜40重量%、二官能のオキセタン化合物10〜30重量%、オキシラン化合物3〜20重量%、ビニルエーテル化合物30〜50重量%という処方で配合された感光性インクは、硬化物の強度が高められ、特に耐溶剤性の点でより好ましいものとなる。
【0066】
二官能のオキセタン化合物を含有する場合には、硬化膜の架橋度が増すために耐溶剤性が非常に高められる。二官能のオキセタン化合物の含有量が18重量%以上であって、単官能のオキセタン化合物の含有量が30重量%以下の場合には、光照射後の加熱条件が120℃以下であれば、光照射後の加熱直後には密着しない。数日放置することによって密着性が発現する。
【0067】
上述したような重合性化合物は、常温で流動性を有していれば任意のものを用いることができる。具体的にはスクリーン印刷などでは0.1Pa・s〜500Pa・sの粘度範囲が使用され、インクジェット印刷などでは1mPa・s〜50mPa・sの粘度で使用される。重合性化合物の粘度は、例えばコーンプレート型の粘度計で測定することができる。
【0068】
増感剤としては、例えば、アクリジン化合物、ベンゾフラビン類、ペリレン類、アントラセン類、チオキサントン化合物類、およびレーザ色素類などを挙げることができる。なかでも、ジヒドロキシアントラセンの一部の水素原子が有機基で置換された化合物やチオキサントン誘導体などは効果が高い。
【0069】
例えば、下記一般式(8)で表わされるアントラセンジエーテル化合物が用いられる。
【化10】

【0070】
上記一般式(8)中、Rは1価の有機基であり、例えばアルキル基、アリール基、ベンジル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、およびビニル基などが挙げられる。
【0071】
アルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、およびi−ペンチル基などが挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、およびp−トリル基などが挙げられ、ヒドロキシアルキル基としては、例えば、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−メチル−2−ヒドロキシエチル基、および2−エチル−2−ヒドロキシエチル基などが挙げられる。また、アルコキシアルキル基としては、例えば2−メトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、2−エトキシエチル基、3−エトキシプロピル基などがある。さらに、アリル基、2−メチルアリル基、あるいはビニル基などを導入してもよい。このような化合物は、例えば(J.Am.Chem.Soc.,Vol.124,No.8(2002)1590)に示されるような方法で合成することができる。
【0072】
前記一般式(8)におけるRO基は、酸により重合する基であることが好ましい。こうしたRO基としては、例えば、ビニルエーテル基、プロペニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、およびオキソラン基などが挙げられ、光酸発生剤による重合反応時に増感剤も重合に関与して、重合反応生成物に組み込まれることになる。また、RO基が、酸または熱により解離してOH基を生じる基の場合も、同様に光酸発生剤による重合反応時に関与して、重合反応生成物に組み込まれることになる。こうしたRO基としては、例えばtert-ブチル基、tert-ブトキシカルボニル基、アセタール基およびシリコーン含有基などが挙げられる。
【0073】
すなわち、一般式(8)におけるR基自体が重合した場合、増感剤は重合生成物の一部となる。あるいは、増感剤中に酸または熱により生成されたOH基が重合性化合物と結合した場合も同様に、増感剤は重合生成物の一部となる。これによって、重合反応の重合度をより進めることが可能であり、最終的な硬化性能(硬度)を向上させることが可能となるので、本発明の実施形態にかかる感光性インクを用いることによって、得られる硬化物の耐久性も向上させることができる。
【0074】
前記一般式(8)においてR14およびR15は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アルキルスルホニル基またはアルコキシ基を表わす。これらの基であればどのような基であってもよいが、合成の簡便さを考えるとR14およびR15は、いずれも水素原子でも問題ない。
【0075】
一般式(8)で表わされる化合物としては、例えば、9,10−ジメトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン(、2,3−ジエチル−9,10−ジエトキシアントラセン)のようなジアルコキシアントラセンや、9,10−ジフェノキシアントラセン、9,10−ジアリルオキシアントラセン、9,10−ジ(2−メチルアリルオキシ)アントラセン、9,10−ジビニルオキシアントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、および9,10−ジ(2−メトキシエトキシ)アントラセンなどが挙げられる。これらの化合物はどれを用いても十分な効果を発揮するが、化合物もしくはその合成原料の入手コストや、化合物の安全性を考慮すると、9,10−ジブトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、および9,10−ジビニルオキシアントラセンが特に好ましい。
【0076】
本発明の実施形態にかかるインクにおいては、光酸発生剤に対して所定の量で、増感剤が含有量される。具体的には、光酸発生剤のモル数をm1とし、増感剤のモル数をm2とした際、次の関係が必要である。
【0077】
1<(m2/m1)≦5
増感剤の増感作用を利用する場合には、増感剤は光酸発生剤より少ないモル数で配合されるのが通常である。増感剤は照射光を吸収して励起され、そのエネルギーを光酸発生剤に受け渡すことによって増感作用が生じる。光酸発生剤のモル数が増感剤より少ない場合には、励起された増感剤からのエネルギーを受け取るべき光酸発生剤分子が不足する。増感作用には利用されない部分が生じて無駄となり、感光性インクの感度は低下してしまう。増感の目的で用いられるので、従来、増感剤のモル数は最大でも光酸発生剤と同量とされてきた。
【0078】
本発明者らは、増感剤がベンゼン発生抑制剤としての作用を有することを見出した。ベンゼンの発生メカニズムは、次のように考察される。ベンゼン環を含む光酸発生剤が過剰のUV照射を受けると、光酸発生剤は光反応により過度に分解する。本来切断されるべきでない部分まで、結合が切れることによってベンゼンが副生する。これを抑制するためには、光酸発生剤が吸収する光を低減することが必要である。
【0079】
増感剤による光吸収を増加させて、光酸発生剤による光吸収を低減することが効果的である。このとき増感剤に吸収された光は、光酸発生剤が存在する分だけ光酸発生剤へのエネルギーの受け渡しが行なわれて、重合反応に寄与する。
【0080】
光酸発生剤より多い分の増感剤に吸収される光は、増感効果には寄与しないもののベンゼン発生の副反応の低減には効果的である。光酸発生剤による光の吸収を低減するためには、光酸発生剤のモル数より増感剤のモル数のほうが大きいことが必要とされる。増感剤による光の吸収は、光酸発生剤が酸を発生するための反応に用いられる光吸収波長のみでなく、より短波長の光を吸収するため、光酸発生剤が短波長(高エネルギー)の光を吸収して予期しない分解反応を起こすことを抑制することができる。
【0081】
例えば光照射光源としてメタルハライドランプを用いる場合、主波長365nmのランプを用いても、広い波長範囲の分布を有する光が照射される。したがって、波長254nm程度の光も多く照射されることになる。光酸発生剤として例えばESACURE1064を使用した場合は、通常365nm付近の光によって酸発生反応が進行する。波長254nm程度の短波長の光は、この酸発生反応には寄与しない。メタルハライドランプのように照射光の照度が強い場合には、微量のベンゼン発生の副反応が発生しているものと推測される。上述した増感剤はこのような短波長の光も吸収するため、光酸発生剤の光吸収を低減してベンゼン発生を抑えられることができる。
【0082】
光酸発生剤に光を吸収させないためには増感剤の量は多いほうがよいが、前述のように増感剤が過剰であれば増感剤に吸収された光が無駄になってしまう。硬化反応が極端に悪化せずに十分にベンゼンの発生が抑制できる増感剤のモル数は、光酸発生剤のモル数の5倍以下とする必要がある。これを越えると硬化膜の十分な硬化性能が得られず、耐溶剤性や硬度などが低下してしまう。また増感剤のモル数が光酸発生剤のモル数の1倍以下の場合には、ベンゼンの発生は十分には低減されておらず許容以上の発生量であった。光酸発生剤のモル数をm1と増感剤のモル数をm2との比(m2/m1)は、1.5以上2.5以下が好ましい。
【0083】
本発明の実施形態にかかる感光性インクには、種々の機能を付与するための粉体が含有されてもよい。
【0084】
粉体としては、上述した感光性インクの分散媒に分散可能であり、感光性インクに機能を付加するものであれば特に制限されない。主として、磁性、蛍光性、導電性、絶縁性、誘電性あるいは電磁波発熱性の粉体が挙げられる。また、耐熱性、機械的強度を向上させうる粉体等を用いることができる。具体的には、金属または金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸化物、金属硫化物、無機および有機蛍光体、カーボン繊維などが用いられる。
【0085】
導電性を付与するための粉体としては、主に金属が用いられる。例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、インジウム、チタン、アンチモン、錫、ロジウム、ルテニウムあるいはこれらの金属の合金などが挙げられる。これらの金属の酸化物などであってもよく、ITO膜などを作製したり、塗布後あるいは感光後に還元処理をすることにより金属膜を作製することが可能である。金属以外にも導電性炭素粉体、またはカーボン繊維などを用いることも可能である。
【0086】
蛍光性を示す粉体としては、無機蛍光体および有機蛍光体の何れを使用してもよい。無機蛍光体の材料としては、例えば、MgWO4、CaWO4、(Ca,Zn)(PO42:Ti+、Ba227:Ti、BaSi25:Pb2+、Sr227:Sn2+、SrFB23.5:Eu2+、MgAl1627:Eu2+、タングステン酸塩、イオウ酸塩のような無機酸塩類を挙げることができる。また、有機蛍光体の材料としては、例えば、アクリジンオレンジ、アミノアクリジン、キナクリン、アニリノナフタレンスルホン酸誘導体、アンスロイルオキシステアリン酸、オーラミンO、クロロテトラサイクリン、メロシアニン、1,1'−ジヘキシル−2,2'−オキサカルボシアニンのようなシアニン系色素、ダンシルスルホアミド、ダンシルコリン、ダンシルガラクシド、ダンシルトリジン、ダンシルクロリドのようなダンシルクロライド誘導体、ジフェニルヘキサトリエン、エオシン、ε−アデノシン、エチジウムブロミド、フルオレセイン、フォーマイシン、4−ベンゾイルアミド−4'−アミノスチルベン−2,2'−スルホン酸、β−ナフチル3リン酸、オキソノール色素、パリナリン酸誘導体、ペリレン、N−フェニルナフチルアミン、ピレン、サフラニンO、フルオレスカミン、フルオレセインイソシアネート、7−クロロニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾル、ダンシルアジリジン、5−(ヨードアセトアミドエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、5−ヨードアセトアミドフルオレセイン、N−(1−アニリノナフチル4)マレイミド、N−(7−ジメチル−4−メチルクマニル)マレイミド、N−(3−ピレン)マレイミド、エオシン−5−ヨードアセトアミド、フルオレセインマーキュリーアセテート、2−(4'−(2''−ヨードアセトアミド))アミノナフタレン−6−スルホン酸、エオシン、ローダミン誘導体、有機EL色素、有機ELポリマーや結晶、デンドリマー等を挙げることができる。
【0087】
絶縁性を向上させ得る粉体としては、例えばグリーンシートに含有されるような絶縁性セラミック粉体や結晶化ガラスの粉体、その他絶縁性の粉体であれば使用することができる。
【0088】
耐熱性や物理的強度を向上させ得る粉体としては、例えば、アルミニウムやシリコンの酸化物もしくは窒化物、シリコンカーバイド、タルク、マイカなどのフィラーなどを挙げることができる。また、酸化鉄や強磁性粉は磁性の付与に適しており、高誘電率なタンタル、チタン等の金属酸化粉なども配合することができる。
【0089】
上述した粉体は単独で、あるいは2種以上を混合して使用することが可能である。
【0090】
粉体成分の含有量は特に制限されないが、例えば導電性を付与する場合には含有量は多いことが望ましく、20重量%以上98重量%以下であることが望ましい。
【0091】
顔料または粉体としては、所望される光学的な発色・着色機能を有する任意のものを用いることができる。インクジェットインクとする場合には、顔料または粉体の平均粒子径は300nm以下に規定される。平均粒子径が300nm以上であるとインクジェットヘッドからの吐出において吐出不良が多く発生してしま。顔料または粉体の平均粒子径は、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは180nm以下である。
【0092】
顔料または粉体の粒子径は、例えば以下のような手法により求めることができる。まず、インク試料を500倍程度に溶媒に希釈し、この希釈した試料について動的光散乱法による粒子径測定を行い、キュムラント解析によりキュムラント平均粒子径を算出する。こうして得られた値を、顔料の平均粒子径とする。なお、平均粒子径の値としては、動的光散乱法によるz値(強度平均)を用いることができる。このような測定は、例えばMalvern社製Zetasizerなどを用いて行なうことができる。
【0093】
使用可能な顔料としては、例えば、光吸収性の顔料を挙げることができる。具体的には、カーボンブラック、カーボンリファインド、およびカーボンナノチューブのような炭素系顔料、鉄黒、コバルトブルー、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化クロム、および酸化鉄のような金属酸化物顔料、硫化亜鉛のような硫化物顔料、フタロシアニン系顔料、金属の硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、およびリン酸塩のような塩からなる顔料、ならびにアルミ粉末、ブロンズ粉末、および亜鉛粉末のような金属粉末からなる顔料が挙げられる。
【0094】
また、例えば、染料キレート、ニトロ顔料、アニリンブラック、ナフトールグリーンBのようなニトロソ顔料、ボルドー10B、レーキレッド4Rおよびクロモフタールレッドのようなアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む。)、ピーコックブルーレーキおよびローダミンレーキのようなレーキ顔料、フタロシアニンブルーのようなフタロシアニン顔料、多環式顔料(ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラノン顔料など)、チオインジゴレッドおよびインダトロンブルーのようなスレン顔料、キナクリドン顔料、キナクリジン顔料、ならびにイソインドリノン顔料のような有機系顔料を使用することもできる。
【0095】
黒インクで使用可能な顔料としては、例えば、コロンビア社製のRaven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400、三菱化学社製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、およびSpecial Black 4などのようなカーボンブラックを挙げることができる。
【0096】
イエローインクで使用可能な顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 128、C.I.Pigment Yellow 129、C.I.Pigment Yellow 151、C.I.Pigment Yellow 154、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 12、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 14C、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 17、C.I.Pigment Yellow 73、C.I.Pigment Yellow 74、C.I.Pigment Yellow 75、C.I.Pigment Yellow 83、C.I.Pigment Yellow 93、C.I.Pigment Yellow95、C.I.Pigment Yellow97、C.I.Pigment Yellow 98、C.I.Pigment Yellow 114、C.I.Pigment Yellow 139、C.I.Pigment Yellow 150およびPigment Yellow 180等が挙げられる。特にこれらの黄色顔料の中で、酸に対する色劣化が少ないPigment Yellow 180が望ましい。
【0097】
また、マゼンタインクで使用可能な顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 123、C.I.Pigment Red 168、C.I.Pigment Red 184、C.I.Pigment Red 202、C.I.Pigment Red 5、C.I.Pigment Red 7、C.I.Pigment Red 12、C.I.Pigment Red 48(Ca)、C.I.Pigment Red 48(Mn)、C.I.Pigment Red 57(Ca)、C.I.Pigment Red 57:1、C.I.Pigment Violet 19およびC.I.Pigment Red 112等が挙げられる。
【0098】
さらに、シアンインクで使用可能な顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 15:34、C.I.Pigment Blue 16、C.I.Pigment Blue 22、C.I.Pigment Blue 60、C.I.Pigment Blue 1、C.I.Pigment Blue 2、C.I.Pigment Blue 3、C.I.Vat Blue 4、およびC.I.Vat Blue 60等が挙げられる。
【0099】
天然クレイ、鉛白や亜鉛華や炭酸マグネシウムなどの金属炭酸化物、バリウムやチタンなどの金属酸化物のような白色顔料も有用である。白色顔料を含有したインクジェット用インクは、白色印刷に使用可能なだけでなく、重ね書きによる印刷訂正や下地補正に使用することができる。
【0100】
顔料は、インク100重量%に対して1重量%以上50重量%以下の割合で含有されることが望ましい。1重量%未満の場合には、充分な色濃度を確保することが困難となる。一方、50重量%を超えるとインク吐出性が低下する。より好ましくは、白以外の顔料の含有量は2重量%から8重量%の範囲、白顔料の含有量は5重量%から30重量%の範囲である。
【0101】
顔料等の種類によっては、インクの硬化性が低下することがある。適切な硬化性能が確保できるよう、光酸発生剤のモル数をm1と増感剤のモル数をm2との比(m2/m1)を決定することが望まれる。
【0102】
顔料または粉体が含有される場合には、溶媒中に所定の成分を配合し分散機により分散処理を施すことによって、本発明の実施形態にかかる感光性インクを調製することができる。上述した成分のうち、重合性化合物が、本発明の実施形態にかかる感光性インクにおける溶媒として作用する。分散機としては、一般的に使用されているものを用いることができる。具体的には、分散機としては、サンドミル、ボールミル、ロールミル、および超音波分散機などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この他にも、メディアレス分散機などを用いることもできる。
【0103】
分散処理においては、分散剤を添加することによってその効果が高められる。分散剤としては、例えば、ノニオン系またはイオン系界面活性剤や帯電剤のような分散剤、またはアクリルやビニルアルコールのような高分子系分散剤等を用いることができる。その添加量は、顔料の種類や溶媒等に応じて適宜決定することができるが、通常、顔料に対して20〜70重量%程度である。
【0104】
インクジェット記録用として用いる場合には、こうして調製された本発明の実施形態にかかる感光性インクは、常温(25℃)における粘度が50mPa・sec以下に規定される。粘度が50mPa・secを越えると、インクジェット記録ヘッドから吐出するのが困難になる。
【0105】
本発明の実施形態にかかる感光性インクを使用して印刷を行なう場合、印刷方法はインクジェット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スピンコート、スリットコートなどとくに限定はない。印刷後には、任意の光源を用いて光照射が行なわれる。紫外線を照射できる光源であれば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、および紫外線LEDなど特に限定はないが、印刷速度を考慮すると照射照度が大きいメタルハライドランプが最も望ましい。通常積算光量としては150〜300mJ/cm2、ピーク照度では1500〜3000mW/cm2程度で感光させるのが望ましいが、インクの配合によって異なるためこれに限定されるものではない。
【0106】
塗膜に残留したベンゼン量は、以下の手法で測定することができる。例えば、5〜8μmの膜厚の塗膜を基板上に形成し、1mg削り取ってATD用ガラスサンプル管中に収容する。これを試料として、ATD−GC/MS(固体吸着−加熱脱着−ガスクロマトグラフ質量分析)法によりベンゼンの測定を行なう。試料からの脱着は、250℃で行なう。このような分析方法を用いることによって、塗膜に残留しているベンゼンの定量検出が可能である。実質的にベンゼンの発生量が許容されると考えられるのは、塗膜1mgあたりの検出量が50ng以下の場合である。本発明の実施形態にかかる感光性インクは、この条件を満たす。
【0107】
UV照射時に放出されるベンゼン量の測定は、以下のように行なわれる。既知重量の感光性インクを基板に塗布し、これをガラス容器に密封する。この状態で、前述の場合と同様に光照射を行なってインクを硬化させる。その後、ガラス容器中のガスをサンプリングし、GC/MSによりベンゼン量を分析する。
【0108】
上述したように、本発明の実施形態にかかる感光性インクおよびその硬化物は、十分な硬化性、密着性、耐溶剤性を有し、かつ光照射によるベンゼン放出や塗膜へのベンゼン残留を抑制することが可能となる。
【0109】
以下に、具体例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
重合性化合物として、以下の5種類の化合物を準備した。
【0110】
セロキサイド3000:リモネンジオキサイド(ダイセル化学)
OXT221:3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン(東亞合成)
OXT211:3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン(東亞合成)
ONB−DVE:ヒドロキシメチル−ヒドロキシオキサノルボルナンジオールジビニルエーテル(ダイセル化学)
TDVE:トリエチレングリコールジビニルエーテル(ISPジャパン)
これらを用いて、下記表1に示す処方で感光性インクの主剤(No.1〜5)を準備した。
【表1】

【0111】
得られた主剤を用い、所定の組成で実施例および比較例の感光性インクを調製した。光酸発生剤の配合量、光酸発生剤のモル数(m1)と増感剤のモル数(m2)との比(m2/m1)、および顔料の配合量を、主剤の種類とともに下記表2および表3にまとめる。用いた顔料は酸化チタンであり、顔料および光酸発生剤の配合量は、主剤に対する重量%である。
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
表中の各成分は以下の化合物である。
【0114】
光酸発生剤 ESA1064:ESACURE1064(LAMBERTI社)
ESA1187:ESACURE1187(LAMBERTI社)
WPI−113(和光純薬工業)
ESA1064およびESA1187はスルホニウム塩、WPI−113はヨードニウム塩であり、それぞれ下記化学式で表わされる化合物である。
【化11】

【0115】
【化12】

【0116】
【化13】

【0117】
増感剤 DBA:9,10−ジブトキシアントラセン(川崎化成)
DPA:9,10−ジプロポキシアントラセン(川崎化成)
DEA:9,10-ジエトキシアントラセン(川崎化成)
各インクを用いて、基板上に塗膜を形成した。具体的には、バーコーターを用いてステンレス基板上に感光性インクをそれぞれ塗布し、膜厚約8μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、メタルハライドランプ(Light Hammer 6、Fusion社製)を用いてピーク照度1800mW/cm2で積算光量250mJ/cm2のUV光照射を行なった後、150℃で15分間加熱して硬化膜を得た。
【0118】
得られた硬化膜について、硬化硬度、耐溶剤性および密着性を調べて、硬化性能を評価した。
【0119】
耐溶剤性の評価に当たっては、エタノールを含浸させた綿棒で硬化物の表面を擦り、硬化物が剥がれるまでの回数を調べ、100回以上の場合を合格(○)とした。硬化硬度は、鉛筆硬度試験(JIS K5600−5−4、ISO/DIS 15184)に準拠して評価した。鉛筆硬度3H以上を合格(○)とし、満たないものは(×)とした。
【0120】
得られた結果を、下記表4および5にまとめる。
【表4】

【0121】
【表5】

【0122】
なお、密着性は、クロスカット剥離試験(JIS K5600−5−6、ISO 2409)に準拠して評価した。実施例および比較例の硬化膜は全て、密着性に問題ないことが確認された。
【0123】
さらに、硬化膜中に残留するベンゼン量を測定した。硬化した塗膜を1mg削り取って試料を準備し、ガラスサンプル管中に収容した。これを250℃で2分間加熱して、試料からベンゼンを脱着させた後、二次トラップにて捕集した。ATD−GC/MS(固体吸着−加熱脱着−ガスクロマトグラフ質量分析)法により、ベンゼンの定量測定を行なって塗膜1mg当たりの残留量(ng)を求めた。測定値を塗膜中残留量とする。塗膜中に残留したベンゼンは、加熱によって放出される。
【0124】
また、UV照射時に放出されるベンゼン量を測定した。上述と同様にバーコーターにより、重量が既知のインクをステンレス基板に塗布した。各基板について、ガラス容器に密封した状態で上述と同様に光を照射してインクを硬化させた。その後、ガラス容器中のガスをサンプリングしGC/MSによりベンゼン量の分析を行なって、塗膜1mg当たりについて、光照射時に放出されるベンゼン量(ng)を求めた。測定値を、光放射時放出量とする。
【表6】

【0125】
【表7】

【0126】
塗膜中に残留するベンゼン量は、塗膜1mg当たり50ng以下であれば問題ないことが、本発明者らによって確認されている。光照射時に塗膜から放出されるベンゼン量も同様に、塗膜1mg当たり50ng以下であれば問題ないので許容される。
【0127】
上記表に示されるように、実施例の感光性インクでは、ベンゼン量は許容範囲内に抑えられている。しかも、十分な硬化性能(耐溶剤性、硬度)も備えている。これら実施例のインクにおいては、増感剤と光酸発生剤とのモル比(m2/m1)が1より大きく、5以下に規定されているので、低減されたベンゼン量と優れた硬化性能とを両立することができた。
【0128】
比較例のインクでは、低減されたベンゼン量と優れた硬化性能とを両立することができない。比較例1,3〜5のインクでは、塗膜1mg当たりに残留するベンゼン量が50ngを越えている。これらのインクでは、増感剤と光酸発生剤とのモル比(m2/m1)が1以下に規定されている。一方、モル比(m2/m1)が5より大きな比較例2のインクでは、耐溶剤性および硬度を確保することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0129】
【特許文献1】特開2002−241474号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸により重合可能な重合性化合物、
ベンゼン環を含む光酸発生剤、および
増感剤を含有するカチオン重合型感光性インクであって、
前記光酸発生剤の重量は、前記重合性化合物の重量の0.5%以上10%以下であり、
前記光酸発生剤の含有量(m1モル)と前記増感剤の含有量(m2モル)とは、下記の関係を満たすことを特徴とするカチオン重合型感光性インク。
1<(m2/m1)≦5
【請求項2】
前記光酸発生剤は、オニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の感光性インク。
【請求項3】
前記オニウム塩は、ジアリールヨードニウム塩およびトリアリールスルホニウム塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の感光性インク。
【請求項4】
前記オニウム塩は、下記化学式(9)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項2に記載の感光性インク。
【化14】

【請求項5】
前記化学式(1)で表わされる化合物は、前記重合性化合物の重量の1%以上7%以下の量で含有されることを特徴とする請求項4の記載の感光性インク。
【請求項6】
前記ベンゼン環は、置換基を持たないか、もしくは炭素数1から20の直鎖アルキル基、および炭素数3〜20の分岐アルキル基の少なくとも一方から選択される置換基が結合されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の感光性インク。
【請求項7】
前記重合性化合物は、少なくとも1種のビニルエーテル化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の感光性インク。
【請求項8】
前記増感剤はアントラセン化合物であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の感光性インク。
【請求項9】
粉体をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の感光性インク。
【請求項10】
平均粒子径300nm以下の顔料または粉体をさらに含有し、25℃における粘度が50mPa・sec以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の感光性インク。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の感光性インクを硬化させてなることを特徴とする硬化物。

【公開番号】特開2011−63652(P2011−63652A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213550(P2009−213550)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】