説明

感光性ペースト及びそれを用いて形成した焼成物パターン

【課題】 高精細のパターン加工が可能で、少ない溶剤量でも低温保管時の光重合開始剤の結晶化が起こりにくい感光性ペーストを提供すること。
【解決手段】 本発明の感光性ペーストは、(A)無機微粒子、(B)光重合性化合物を含む有機成分、及び(C)光重合開始剤として2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノンを含有することを特徴とする。こにより、少ない溶剤量でも低温保管時の光重合開始剤の結晶化が起こりにくい感光性ペーストを提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略称する)に精細な電極パターン、ブラックマトリックス、隔壁パターンを形成するのに有用な感光性ペースト及びそれを用いて形成した焼成物パターンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
PDPは、プラズマ放電による発光を利用して映像や情報の表示を行なう平面ディスプレイであり、パネル構造、駆動方法によってDC型とAC型に分類される。このPDPによるカラー表示の原理は、リブ(隔壁)によって離間された前面ガラス基板と背面ガラス基板に形成された対向する両電極間のセル空間(放電空間)内でプラズマ放電を生じさせ、各セル空間内に封入されているHe、Xe等のガスの放電により発生する紫外線で背面ガラス基板内面に形成された蛍光体を励起し、3原色の可視光を発生させるものである。
以下、添付図面を参照しながら簡単に説明する。
【0003】
図1は、フルカラー表示、3電極構造の面放電方式PDPの構造例を部分的に示している。前面ガラス基板1の下面には、放電のための透明電極3a又は3bと該透明電極のライン抵抗を下げるためのバス電極4a又は4bとからなる一対の表示電極2a、2bが所定のピッチで多数列設されている。これらの表示電極2a、2bの上には、電荷を蓄積するための透明誘電体層5(低融点ガラス)が印刷、焼成によって形成され、その上に保護層(MgO)6が蒸着されている。 保護層6は、表示電極の保護、放電状態の維持等の役割を有している。一方、背面ガラス基板11の上には、放電空間を区画するストライプ状のリブ(隔壁)12と各放電空間内に配されたアドレス電極(データ電極)13が所定のピッチで多数列設されている。また、各放電空間の内面には、赤(14a)、青(14b)、緑(14c)の3色の蛍光体膜が規則的に配され、フルカラー表示においては、前記のように赤、青、緑の3原色の蛍光体膜14a、14b、14cで1つの画素が構成される。
なお、上記構造のPDPでは、一対の表示電極2aと2bの間に交流のパルス電圧を印加し、同一基板上の電極間で放電させるので、「面放電方式」と呼ばれている。
また、上記構造のPDPでは、放電により発生した紫外線が背面基板11の蛍光体膜14a、14b、14cを励起し、発生した可視光を前面基板1の透明電極3a、3bを透して見る構造となっている。
【0004】
近年、このような構造のPDPにおいて画質向上のためパターン加工において高密度化、高精細化が要求されている。そこでフォトリソグラフィー法によるパターニングが行なわれてきた。
【0005】
このようなフォトリソグラフィー法による高精細のパターニングを実現するためには、光重合開始剤としてα―アミノアルキルフェノン系の2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノンが有効であることが提案されている(特許文献1,2参照)。
【0006】
しかしながら、この光重合開始剤は、溶剤に対する溶解性が低く、感光性ペーストの低温保管時に結晶化してしまう。その結果、この状態で感光性ペーストを使用すると、形成したパターンが不均一であったり、ピンホールが発生したりする問題があった。そのため、感光性ペーストを長時間室温で放置し、又は感光性ペ−ストを長時間攪拌して結晶を溶かす必要があり、作業性の低下を招くこととなった。
また、溶剤に対する溶解性が低いために用いる溶剤量が多くなり、環境負荷が大きいといった問題もあった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−269848号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−72240号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、このような従来技術が抱える課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、高精細のパターン加工が可能で、少ない溶剤量でも低温保管時の光重合開始剤の結晶化が起こりにくい感光性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、上記目的の実現に向け鋭意研究した結果、下記内容を要旨構成とする発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の感光性ペーストは、(A)無機微粒子、(B)光重合性化合物を含む有機成分、及び(C)光重合開始剤として2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノンを含有することを特徴としている。
このような本発明の感光性ペーストは、ペースト状の形態であってもよく、また予めフィルム状に製膜したドライフィルムの形態であってもよい。
さらに本発明によれば、このような感光性ペーストの焼成物から電極パターンやブラックマトリックスパターン、隔壁パターンなどが形成されてなるPDPが提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明の感光性ペーストによれば、溶剤に対する溶解性に優れた光重合開始剤を使用しているので、少ない溶剤量でも低温保管時の光重合開始剤の結晶化が起こりにくい感光性ペーストを提供することができる。その結果、高精細のパターン加工が可能となる。しかも、本発明の感光性ペーストによれば、攪拌時間短縮による作業性向上、溶剤量の削減による環境負荷低減化を実現することができる。さらに、優れた溶解性のため、溶剤量の少ないドライフィルムなどにも適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の感光性ペーストは、光重合開始剤として、溶剤に対する溶解性に優れた2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノンを用いている点に最大の特徴がある。これにより、少ない溶剤量でも低温保管時の光重合開始剤の結晶化が起こりにくい感光性ペーストを提供することができる。
このような光重合開始剤の配合割合は、光重合性化合物を含む有機成分(B)中の樹脂成分100質量部当り1〜30質量部が適当であり、好ましくは、5〜20質量部である。
【0012】
以下、本発明の感光性ペーストの各成分について説明する。
前記無機微粒子(A)としては、ガラス微粒子、無機フィラー、黒色顔料、及び導電性粉末のうちから選ばれるいずれか少なくとも1種が挙げられる。
これらのうちガラス微粒子としては、ガラス転移点(Tg)が300〜500℃で、ガラス軟化点(Ts)が400〜600℃であるガラス、例えば酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛または酸化リチウムを主成分とするガラスが好適に使用できる。また、解像度の点からは、平均粒径10μm以下、好ましくは5μm以下のガラス粉末を用いることが好ましい。
【0013】
黒色顔料としては、焼成パターンに黒色が求められる場合に使用され、Co、Ni、Cu、Fe、Mn、Al、Ru等の1種または2種以上の金属酸化物からなる黒色顔料を添加することができる。かかる黒色顔料の平均粒径は2μm以下、好ましくは0.1〜1μmの微粒子を用いることが望ましい。この理由は、平均粒径が2μmより小さいと、少量の添加でも、密着性等を損なうことなく緻密な焼成皮膜を形成でき、充分な黒色度を得ることができるからである。一方、黒色顔料の平均粒径が2μmよりも大きくなると、焼成皮膜の緻密性が悪くなり、黒色度が低下し易い。また、0.1μmより小さくなると隠ぺい力が低下し透明感が現れることがあり、適当でない。
このような黒色顔料の配合量は、前記ガラス微粒子100質量部当り10〜100質量部が適当である。
【0014】
また、黒色顔料は、予めスラリー化したものを用いることができる。この場合、スラリーに用いる有機溶剤は任意に選択できるが、ソルベントショックを防ぐためにペースト中に用いられる溶剤と種類を同一にしたほうが望ましい。また、スラリー中の顔料濃度は任意に選択できるが、作業性などを考慮すると50〜80%が好ましい。
【0015】
前記導電性粉末としては、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)などの金属粉単体とその合金の他、酸化スズ(SnO2)、酸化インジウム(In2O3)、ITO(Indium Tin Oxide)、酸化ルテニウム(RuO2)などを用いることができる。これらは単独でまたは2種以上の混合粉として用いることができる。
【0016】
上記導電性粉末の形状は、球状、フレーク状、デントライト状など種々のものを用いることができるが、光特性、分散性を考慮すると、球状のものを用いることが好ましい。また、平均粒径としては、ライン形状の点から10μm以下のもの、好ましくは5μm以下のものを用いることが望ましい。また、導電性粉末の酸化防止、ペースト内での分散性向上、現像性の安定化のため、特にAg、Ni、Alについては脂肪酸による処理を行うことが好ましい。脂肪酸としてはオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
【0017】
導電性粉末の配合量は、導電性粉末以外のペースト成分の合計量を100質量部としたときに50〜2000質量部となる割合が適当である。導電性粉末の配合量が50質量部未満の場合、導体回路の線幅収縮や断線が生じやすくなり、一方、2000質量部を超えて多量に配合すると、光の透過を損ない、組成物の十分な光硬化性が得られ難くなる。さらに焼成後の皮膜の強度、基板への密着性向上のために、前記したようなガラス微粒子を金属粉100質量部当り1〜30質量部の割合で添加することができる。
【0018】
次に、前記(B)成分の「光重合性化合物を含む有機成分」とは、光重合性成分を必須成分として含むことを意味している。光重合性成分としては、例えば、カルボキシル基含有感光性樹脂(オリゴマーもしくはポリマー)、光重合性モノマー、オリゴマー及び/又はポリマーが挙げられる。
なお、任意の有機成分としては、組成物のペースト化に有用な有機溶剤や分散剤、光重合性を持たない樹脂、(C)成分以外の他の光重合開始剤、光増感剤、安定剤、消泡・レベリング剤、シランカップリング剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0019】
前記光重合性化合物を含む有機成分を構成する光重合成分としては、それ自体がエチレン性不飽和二重結合を有するカルボキシル基含有感光性樹脂が挙げられる。
具体的には、好適に使用できる樹脂(オリゴマー及びポリマーのいずれでもよい)として、以下のようなものが挙げられる。
(1)不飽和カルボン酸と不飽和二重結合を有する化合物の共重合体にエチレン性不飽和基をペンダントとして付加させることによって得られるカルボキシル基含有感光性樹脂
(2)エポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物と不飽和二重結合を有する化合物の共重合体に、不飽和カルボン酸を反応させ、生成した2級の水酸基に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂
(3)不飽和二重結合を有する酸無水物と不飽和二重結合を有する化合物の共重合体に、水酸基と不飽和二重結合を有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂
(4)多官能エポキシ化合物と不飽和モノカルボン酸を反応させ、生成した2級の水酸基に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂
(5)水酸基含有ポリマーに多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂に、エポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物をさらに反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂
【0020】
前記光重合性化合物を含む有機成分を構成する光重合成分以外の樹脂成分としては、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有さないカルボキシル基含有樹脂が挙げられる。
具体的には、好適に使用できる樹脂(オリゴマー及びポリマーのいずれでもよい)として、以下のようなものが挙げられる。
(1)不飽和カルボン酸と不飽和二重結合を有する化合物を共重合させることによって得られるカルボキシル基含有樹脂
(2)不飽和二重結合を有する化合物とグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体のエポキシ基に、1分子中に1つのカルボキシル基を有し、エチレン性不飽和結合を持たない有機酸を反応させ、生成した2級の水酸基に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂
(3)水酸基含有ポリマーに多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂
【0021】
このようなカルボキシル基含有感光性樹脂及びカルボキシル基含有樹脂は、単独で又は混合して用いてもよいが、いずれの場合でもこれらは合計で組成物全量の10〜80質量%の割合で配合することが好ましい。これらの樹脂の配合量が上記範囲よりも少な過ぎる場合、形成する皮膜中の上記樹脂の分布が不均一になり易く、特にカルボキシル基含有感光性樹脂の場合、充分な光硬化性及び光硬化深度が得られ難く、選択的露光、現像によるパターニングが困難となる。一方、上記範囲よりも多過ぎると、焼成時のパターンのよれや線幅収縮を生じ易くなるので好ましくない。
【0022】
また、上記カルボキシル基含有感光性樹脂及びカルボキシル基含有樹脂は、重量平均分子量が1,000〜100,000、好ましくは5,000〜70,000で、酸価が50〜250mgKOH/gであり、カルボキシル基含有感光性樹脂の場合はさらに、その二重結合当量が350〜2,000、好ましくは400〜1,500であるものを好適に用いることができる。上記樹脂の重量平均分子量が1,000より低い場合、現像時の皮膜の密着性に悪影響を与え、一方、100,000よりも高い場合、現像不良を生じ易いので好ましくない。また、酸価が50mgKOH/gより低い場合、アルカリ水溶液に対する溶解性が不充分で現像不良を生じ易く、一方、250mgKOH/gより高い場合、現像時に皮膜の密着性の劣化や光硬化部(露光部)の溶解が生じるので好ましくない。さらに、カルボキシル基含有感光性樹脂の場合、その二重結合当量が350よりも小さいと、焼成時に残渣が残り易くなり、一方、2,000よりも大きいと、現像時の作業余裕度が狭く、また光硬化時に高露光量を必要とするので好ましくない。
【0023】
前記光重合性化合物を含む有機成分を構成する他の光重合成分として、光重合性モノマーが挙げられる。この光重合性モノマーは、ペーストにおける光硬化性の付与(例えば、エチレン性不飽和二重結合を有さない上記カルボキシル基含有樹脂を用いる場合に有効である。)、ペーストの光硬化性の促進及び現像性を向上させるために用いる。
この光重合性モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート,2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリウレタンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及び上記アクリレートに対応する各メタクリレート類;フタル酸、アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、こはく酸、トリメリット酸、テレフタル酸等の多塩基酸とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとのモノ−、ジ−、トリ−又はそれ以上のポリエステルなどが挙げられるが、特定のものに限定されるものではなく、またこれらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの光重合性モノマーの中でも、1分子中に2個以上のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する多官能モノマーが好ましい。
【0024】
このような光重合性モノマーの配合量は、前記樹脂(カルボキシル基含有感光性樹脂及び/又はカルボキシル基含有樹脂)100質量部当り20〜100質量部が適当である。光重合性モノマーの配合量が上記範囲よりも少ない場合、組成物の充分な光硬化性が得られ難くなり、一方、上記範囲を超えて多量になると、皮膜の深部に比べて表面部の光硬化が早くなるため硬化むらを生じ易くなる。
【0025】
前記光重合性化合物を含む有機成分を構成する(C)成分以外の光重合開始剤の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシー2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等のアミノアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;又はキサントン類;(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−ペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、エチル−2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィネイト等のフォスフィンオキサイド類;各種パーオキサイド類などが挙げられ、これら公知慣用の光重合開始剤を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの光重合開始剤の配合割合は、(C)成分の光重合開始剤の効果を損なわない程度に配合することができる。
【0026】
また、上記のような光重合開始剤は、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類のような光増感剤の1種あるいは2種以上と組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明の感光性ペーストは、無機フィラーやガラス微粒子を配合すると、得られるペーストの保存安定性が悪く、ゲル化や流動性の低下により塗布作業性が悪くなる傾向がある。
従って、本発明の感光性ペーストでは、ペーストの保存安定性向上のために、無機フィラーやガラス微粒子の成分である金属あるいは酸化物粉末との錯体化あるいは塩形成などの効果のある化合物を、安定剤として添加することが好ましい。
この安定剤としては、マロン酸、アジピン酸、ギ酸、酢酸、アセト酢酸、クエン酸、ステアリン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等の各種有機酸やリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸ブチル、リン酸フェニル、亜リン酸エチル、亜リン酸ジフェニル、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等の各種リン酸化合物(無機リン酸、有機リン酸)などの酸が挙げられ、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような安定剤は、前記のガラス微粒子や無機フィラー100質量部当り0.1〜10質量部の割合で添加することが好ましい。
【0028】
また、本発明の感光性ペーストは、光重合性モノマーを配合すると、得られるペーストの保存安定性が悪く、ゲル化や流動性の低下により塗布作業性が悪くなる傾向がある。
従って、本発明の感光性ペーストでは、ペーストの保存安定性向上のために、光重合性モノマーの熱重合禁止剤を添加することが好ましい。
この熱重合禁止剤としては、フェノチアジン、2−エチルアントラキノン、ヒドロキノン、N−フェニルナフチルアミン、クロラニール、ピロガロール、ベンゾキノン、t−ブチルカテコールなどが挙げられ、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような熱重合禁止剤は、樹脂成分100質量部当り0.01〜1質量部の割合で添加することが好ましい。
【0029】
本発明の感光性ペーストは、組成物を希釈することによりペースト化し、容易に塗布工程を可能とし、乾燥によって造膜して接触露光を可能とさせるために、適宜の量の有機溶剤を配合することができる。
具体的には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの酢酸エステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テルピネオールなどのアルコール類;オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明の感光性ペーストは、さらに必要に応じて、シリコーン系、アクリル系等の消泡・レベリング剤、皮膜の密着性向上のためのシランカップリング剤、等の他の添加剤を配合することもできる。さらにまた、必要に応じて、公知慣用の酸化防止剤や、焼成時における基板との結合成分としての金属酸化物、ケイ素酸化物、ホウ素酸化物などの微粒子を添加することもできる。
【0031】
以上説明したような本発明の感光性ペーストは、予めフィルム状に成膜されている場合には基板上にラミネートすればよいが、ペースト状の場合には、スクリーン印刷法、バーコーター、ブレードコーターなど適宜の塗布方法で基板、例えばPDPの前面基板となるガラス基板に塗布し、次いで指触乾燥性を得るために、熱風循環式乾燥炉や遠赤外線乾燥炉等で、例えば約60〜120℃で5〜40分程度乾燥させて有機溶剤を蒸発させ、タックフリーの塗膜を得る。その後、選択的露光、現像、焼成を行なって所定の焼成物パターンである電極回路を形成する。
【0032】
露光工程としては、所定の露光パターンを有するネガマスクを用いた接触露光及び非接触露光が可能である。露光光源としては、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー光、メタルハライドランプ、ブラックランプ、無電極ランプなどが使用される。露光量としては50〜1000mJ/cm程度が好ましい。
【0033】
現像工程としては、スプレー法、浸漬法等が用いられる。現像液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウムなどの金属アルカリ水溶液や、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン水溶液、特に約1.5質量%以下の濃度の希アルカリ水溶液が好適に用いられるが、組成物中のカルボキシル基含有樹脂のカルボキシル基がケン化され、未硬化部(未露光部)が除去されればよく、上記のような現像液に限定されるものではない。また、現像後に不要な現像液の除去のため、水洗や酸中和を行なうことが好ましい。
【0034】
焼成工程においては、現像後の基板を空気中又は窒素雰囲気下で約400〜600℃の加熱処理を行ない、所望の焼成物パターンを形成する。なお、この時の昇温速度は、20℃/分以下に設定することが好ましい。
【0035】
なお、所望の焼成物パターンの種類に応じて、無機微粒子(A)成分を適宜選定することができる。例えば、電極パターンの形成の場合には、導電性粉末が用いられるが、焼成性を向上させるために適量のガラス微粒子を併用することが好ましい。特に、黒色電極パターンを形成する場合には、さらに黒色顔料も用いられる。また、ブラックマトリックスパターンの場合には、ガラス微粒子と黒色顔料が用いられ、隔壁パターンの形成にはガラス微粒子が用いられる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。なお、「部」及び「%」とあるのは、特に断りがない限り全て質量基準である。
【0037】
(合成例1)
温度計、攪拌機、滴下ロート、及び還流冷却器を備えたフラスコに、メチルメタクリレートとメタクリル酸を0.76:0.24のモル比で仕込み、溶媒としてジプロピレングリコールモノメチルエーテル、触媒としてアゾビスイソブチロニトリルを入れ、窒素雰囲気下、80℃で2〜6時間攪拌し、樹脂溶液を得た。この樹脂溶液を冷却し、重合禁止剤としてメチルハイドロキノン、触媒としてテトラブチルホスホニウムブロミドを用い、グリシジルメタクリレートを、95〜105℃で16時間の条件で、上記樹脂のカルボキシル基1モルに対し0.12モルの割合の付加モル比で付加反応させ、冷却後取り出し、カルボキシル基含有感光性樹脂Aを生成した。この樹脂Aは、重量平均分子量が約10,000、酸価が59mgKOH/g、二重結合当量が950であった。なお、得られた共重合樹脂の重量平均分子量の測定は、(株)島津製作所製ポンプLC−6ADと昭和電工(株)製カラムShodex(登録商標)KF−804、KF−803、KF−802を三本つないだ高速液体クロマトグラフィーにより測定した。
【0038】
(合成例2)
メチルメタクリレートとメタクリル酸の仕込み比をモル比で0.87:0.13とし、グリシジルメタクリレートを付加反応させないこと以外は、上記合成例1と同様にしてカルボキシル基含有樹脂Bを生成した。この樹脂Bは、重量平均分子量が約10,000、酸価が74mgKOH/gであった。
【0039】
このようにして得られた樹脂A又はBを用い、以下に示す組成比にて配合し、攪拌機により攪拌後、3本ロールミルにより練肉してペースト化を行なった。練肉条件はサンプル量1kgを室温で30分である。
なお、ガラス粉末としては、PbO 60%、B 20%、SiO 15%、Al 5%を粉砕し、熱膨張係数α300=70×10−7/℃、ガラス転移点445℃、平均粒径1.6μmとしたものを使用した。
【0040】
(組成物例1)
樹脂A 100.0部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 50.0部
2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)
−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン
(イルガキュア379、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
10.0部
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル 80.0部
銀粉 600.0部
ガラス粉末 30.0部
リン酸エステル 1.0部
【0041】
(組成物例2)
樹脂A 100.0部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 50.0部
2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)
−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン
(イルガキュア379、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
5.0部
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル 80.0部
銀粉 600.0部
ガラス粉末 30.0部
リン酸エステル 1.0部
【0042】
(組成物例3)
樹脂B 100.0部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 50.0部
2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)
−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン
(イルガキュア379、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
10.0部
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル 40.0部
四三酸化コバルト(Co) 50.0部
【0043】
(組成物例4)
樹脂B 100.0部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 50.0部
2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)
−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン
(イルガキュア379、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
5.0部
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル 40.0部
四三酸化コバルト(Co) 50.0部
【0044】
(比較組成物例1〜4)
光重合開始剤として、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノンの代わりに2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン(イルガキュア369、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を用いたこと以外は、それぞれ組成物例1〜4と同様にしてペーストを得た。
【0045】
このようにして得られた組成物例1〜4及び比較組成物例1〜4の各ペーストについて、練肉後の最大粒径と冷蔵保管後の最大粒径を測定し、低温保管時の光重合開始剤の結晶化を評価した。また、解像性、現像後のライン形状、焼成後のライン形状を評価した。
その評価方法は以下のとおりである。
【0046】
練肉後の最大粒径および冷蔵保管後の最大粒径:
評価組成物1kgを、セラミック製3本ロールを用いて30分間練肉を行い、評価ペーストを作製した。この評価ペーストについて、練肉後の最大粒径は練肉直後に、また冷蔵保管後の最大粒径は4℃で1週間保管したのち25℃で3時間放置した後に、グラインドゲージを用いて最大粒径を測定し、その最大粒径の変化により結晶化の状況を評価した。
【0047】
解像性とライン形状:
(評価基板)この評価に使用する基板は、ITO膜付きガラス基板上に、評価用ペーストを300メッシュのポリエステルスクリーンを用いて全面に塗布し、次いで、熱風循環式乾燥炉にて90℃で20分間乾燥して指触乾燥性の良好な皮膜を形成した。その後、光源をメタルハライドランプとし、ライン幅10〜100μm、スペース幅100μmのストライプ状のネガマスクをもちいて、組成物上の積算光量が300mJ/cmとなるように露光した後、液温25℃の0.5wt%NaCO水溶液を用いて現像を20秒間行い、水洗した。最後に空気雰囲気下にて5℃/分で昇温し、580℃で30分間焼成して基板を作製した。
(評価方法)解像性については、10〜100μmライン幅の中で、パターン形成できる最も細線のものを調べることにより評価した。
現像後のライン形状については、現像まで終了したパターンを顕微鏡観察し、ラインに不規則なばらつきがなく、よれ等がないかどうかで評価した。
焼成後のライン形状については、焼成まで終了したパターンを顕微鏡観察し、ラインに不規則なばらつきがなく、よれ等がないかどうかで評価した。ライン形状の評価基準は以下の通りである。
○:不規則なばらつきがなく、よれ等がない。
△:若干不規則なばらつき、よれ等がある。
×:不規則なばらつき、よれ等がある。
【0048】
これらの評価結果を表1に示す。この表1に示す結果から明らかなように、本発明の組成物に係るペーストは、比較組成物のペーストに比べて低温保管後においても、光重合開始剤の結晶化が起こりにくく、高精細なパターンを形成できることがわかった。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】面放電方式のAC型PDPの部分分解斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 前面ガラス基板
2a,2b 表示電極
3,3a,3b 透明電極
4,4a,4b バス電極
5 透明誘電体層
6 保護層
10 ブラックマトリックス
11 背面ガラス基板
12 リブ
13 アドレス電極
14a,14b,14c 蛍光体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無機微粒子、(B)光重合性化合物を含む有機成分、及び(C)光重合開始剤として2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノンを含有することを特徴とする感光性ペースト。
【請求項2】
前記無機微粒子(A)が、ガラス微粒子、無機フィラー、黒色顔料、及び導電性粉末のうちから選ばれるいずれか少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の感光性ペースト。
【請求項3】
前記ガラス微粒子は、ガラス転移点(Tg)が300〜500℃で、ガラス軟化点(Ts)が400〜600℃である請求項2に記載の感光性ペースト。
【請求項4】
前記導電性粉末が、Ag、Au、Pd、Ni、Cu、Al及びPtから選ばれるいずれか少なくとも1種の金属粉である請求項2に記載の感光性導電ペースト。
【請求項5】
前記光重合性化合物を含む有機成分(B)が、1分子中に少なくとも1つのアクリロイル基及び/又はメタアクリロイル基を有する感光性モノマー、オリゴマーを含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載の感光性ペースト。
【請求項6】
前記光重合性化合物を含む有機成分(B)が、カルボキシル基を有する重量平均分子量が1,000〜100,000、酸価が20〜150mgKOH/gのオリゴマーもしくはポリマーを含む請求項1乃至5のいずれか一項に記載のアルカリ現像型感光性ペースト。
【請求項7】
請求1乃至6のいずれか一項に記載の感光性ペーストを用いて形成してなる、フラットパネルディスプレイの隔壁パターン、誘電体パターン、電極パターン及びブラックマトリックスパターンから選ばれるいずれか少なくとも1種の焼成物パターンを形成したプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【公開番号】特開2006−30853(P2006−30853A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212962(P2004−212962)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(591021305)太陽インキ製造株式会社 (327)
【Fターム(参考)】