説明

成形方法

【課題】迅速な成形を可能にし、かつ、形状精度及び屈折率精度の高いレンズを提供することができるレンズの成形方法を提供すること。
【解決手段】第1の射出工程では、成形金型の金型温度T1を、硬化開始剤の1時間半減期に対応する1時間半減期温度Th以上であって、1時間半減期温度Thに30℃加算した温度以下とする。射出工程を以上のような温度条件下で行うことにより、熱硬化性樹脂の硬化が起きない程度の比較的低温でキャビティの充填が可能になる。第2の硬化工程では、成形金型の金型温度T2を、硬化開始剤の1分間半減期に対応する1分間半減期温度Tm及びガラス転移点Tgの少なくとも一方以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂を用いたレンズの成形方法、特に、熱硬化性樹脂を成形金型内に射出成形するとともに成形金型内で加熱し硬化させることによって、成形品としてのレンズを得るレンズの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーコンタクトレンズを型から抜き出す方法として、凹型上に液体モノマーを導入した後、液体モノマーを凸型とで挟むことによってレンズ形状とし、その後の熱処理等によってモノマーを重合するものがあり、型分離後に下向きの凹型に付着したポリマーコンタクトレンズを極低温物質等を利用した凹型の冷却によって落下させている(特許文献1)。
【0003】
その他、熱硬化性樹脂を用いた成形方法として、硬化性組成物の調合時や貯蔵時に−10℃〜19℃の範囲に保つとともに、初期重合条件として10±9℃の温度を5時間以上保つように重合させてゲル化させ、その後高温に昇温して硬化させるものがある(特許文献2)。また、熱硬化性樹脂用の重合炉の温度制御方法として、例えば熱硬化性樹脂を注入した型を重合炉内に設置し、重合炉内を加熱や冷却するものがある(特許文献3)。
【特許文献1】特表2003−512206号公報
【特許文献2】特開2004−209968号公報
【特許文献3】特開2005−97551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、熱硬化性樹脂を用いて成形する際に成形品の加熱や冷却を行う成形方法は公知であるが、いずれも、熱硬化性樹脂を用いて射出成形を行う技術ではない。なお、射出成形は、キャビティ中に樹脂を充填した後に直ちに硬化を進行させ得る点で、迅速な成形を可能にし、成形のサイクルタイムを大幅に短縮できる点で優れる。
【0005】
また、レンズの成形は、表面形状の精度だけでなく、屈折率も重要な要素となるが、従来の熱硬化性樹脂を用いた成形方法では、成形品の屈折率を精密に制御することが行われていない。特に、射出成形では、硬化の進行が迅速である分だけ、屈折率の均一性等の管理が極めて重要な要素となってくる。
【0006】
そこで、本発明は、迅速な成形を可能にし、かつ、形状精度及び屈折率精度の高いレンズを提供することができるレンズの成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るレンズの成形方法は、熱硬化性樹脂を使用したレンズの成形方法であって、温度管理の対象として、熱硬化性樹脂を成形金型内に射出する射出工程と、成形金型内に充填された熱硬化性樹脂を硬化させる硬化工程と、成形金型内で硬化した成形品を取り出す準備としての取出工程とを少なくとも備え、射出工程の金型温度よりも硬化工程の金型温度を高くすることを特徴とする。以上において、射出工程は、熱硬化性樹脂が成形金型内に充填され始めてからレンズに対応するキャビティの充填が完了するまでを意味する。硬化工程は、レンズに対応するキャビティ中に充填された熱硬化性樹脂を加熱によって硬化することを意味する。また、取出工程は、レンズを含む成形品を成形金型外に取り出す前準備としての温度制御を意味するが、具体的には成形金型を開放する型開きまでに相当する。
【0008】
上記レンズの成形方法は、熱硬化性樹脂を成形金型内に射出する射出工程を備えるので、開放された成形金型に熱硬化性樹脂を充填する場合に比較して迅速な成形を可能にし、成形のサイクルタイムを大幅に短縮できる。また、上記成形方法では、射出工程の金型温度よりも硬化工程の金型温度を高くするので、射出工程の金型温度を相対的に下げることができる。これにより、射出工程で金型のキャビティ中に熱硬化性樹脂を充填する際に熱硬化性樹脂の硬化が進行して成形品たるレンズに樹脂流動履歴、具体的には屈折率分布が残ることを防止できる。なお、硬化工程では、射出工程よりも高温で迅速な硬化を行うことができるので、成形のサイクルタイムを短縮できる射出成形の利点を損なうことがない。
【0009】
本発明の具体的な態様によれば、上記成形方法において、射出工程、硬化工程、及び取出工程にそれぞれ対応させて3段階以上で金型温度を変化させる温度管理を行うことを特徴とする。この場合、射出工程で樹脂流動履歴としての屈折率幅を低減する金型温度を設定し、硬化工程で迅速に硬化を進行させる金型温度を設定し、取出工程以後で成形品のレンズに歪みや変形が発生しにくい金型温度を設定できる。
【0010】
本発明の別の具体的な態様によれば、硬化工程の金型温度よりも取出工程の金型温度を低くすることを特徴とする。この場合、取出工程の金型温度を低くすることでレンズに内部歪みが発生することを簡易に防止できる。
【0011】
本発明のさらに別の具体的な態様によれば、硬化工程及び取出工程の金型温度を一致させる温度管理を行うことを特徴とする。この場合、硬化工程及び取出工程の金型温度を一致させるので、成形のサイクルタイムを簡易な手法でさらに短縮できる。
【0012】
本発明のさらに別の具体的な態様によれば、硬化工程内で金型温度を2段階以上に変化させることを特徴とする。この場合、硬化工程を温度変化を伴う多様な工程にできるので、キャビティ内に充填された熱硬化性樹脂の適切な加熱(例えば急加熱の防止)を実現できる。
【0013】
本発明のさらに別の具体的な態様によれば、射出工程の金型温度は、硬化開始剤の1時間半減期に対応する1時間半減期温度以上であって、1時間半減期温度に30℃加算した温度以下であり、硬化工程の金型温度は、硬化開始剤の1分間半減期に対応する1分間半減期温度及びガラス転移点の少なくとも一方以上であり、取出工程の金型温度は、ガラス転移点から20℃減算した温度以上であって、ガラス転移点以下であることを特徴とする。この場合、射出工程において、熱硬化性樹脂の硬化が起きない程度の低温でキャビティの充填が可能になり、樹脂流動履歴としての屈折率幅を確実に低減できる。また、硬化工程において、キャビティ中の熱硬化性樹脂の硬化を促進することができ、成形のサイクルタイム短縮を実効的なものとすることができる。また、取出工程において、ガラス転移点よりも適度に低い状態として、高温で取り出される成形品の軟化変形を防止つつ成形金型からの離型に際しての応力変形の発生を抑えることができる。
【0014】
本発明のさらに別の具体的な態様によれば、射出工程及び硬化工程の金型温度に少なくとも対応して、熱硬化性樹脂の射出圧力及び/又は成形金型の型締力を制御することを特徴とする。この場合、キャビティ内の樹脂が徐々に硬化していく際、最適な射出圧力や型締力となるように制御することで、レンズにヒケのような形状不良が発生することを防止できまた、レンズの形状を高精度にすることができる。
【0015】
本発明のさらに別の具体的な態様によれば、射出工程の金型温度、硬化工程の金型温度、及び取出工程の金型温度は、成形金型、成形機、及び外部装置の少なくとも一つに組み込まれた加熱装置と冷却装置とを動作させることによって達成されることを特徴とする。この場合、成形金型の温度を迅速かつ精密に制御することができ、熱硬化性樹脂に対する熱的な処理工程も効率的で的確なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るレンズの成形方法について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係るレンズの成形方法の基本概念を具体的な金型温度の管理工程として説明するグラフである。グラフ中に実線L1で示すように、本成形方法は、基本的に、熱硬化性樹脂を成形金型(不図示)内に射出する射出工程と、この成形金型内に充填された熱硬化性樹脂を硬化させる硬化工程と、この成形金型内で硬化した成形品を取り出す準備としての取出工程とを備える。
【0018】
第1の射出工程では、成形金型の金型温度T1を、硬化開始剤の1時間半減期に対応する1時間半減期温度Th以上であって、1時間半減期温度Thに30℃加算した温度以下とする。本射出工程において、成形金型は、期間P1だけ(具体的には例えば10秒間程度)、上記金型温度T1に維持される。なお、1時間半減期温度Thは、後に詳述するが、熱硬化性樹脂中の硬化開始剤を1時間で徐々に半減させる比較的低温を意味し、熱硬化性樹脂、硬化開始剤等の素材的要素のほか、熱硬化性樹脂の体積等の外的要因によっても変動する。また、射出工程の長さ、すなわち金型温度T1を維持する期間も、熱硬化性樹脂の粘度、成形金型に充填される熱硬化性樹脂の体積等の要因によって適宜調整される。
【0019】
射出工程を以上のような温度条件下で行うことにより、熱硬化性樹脂の硬化が起きない程度の比較的低温でキャビティの充填が可能になり、得られたレンズにおいて、樹脂流動履歴としての屈折率幅を低減することができる。つまり、波面の乱れの少ない高品位のレンズを提供することができる。
【0020】
第2の硬化工程では、成形金型の金型温度T2を、硬化開始剤の1分間半減期に対応する1分間半減期温度Tm及びガラス転移点Tgの少なくとも一方以上とする。本硬化工程において、成形金型は、期間P2だけ(具体的には例えば100〜数100秒間程度)、上記金型温度T2に維持される。なお、1分間半減期温度Tmは、後に詳述するが、熱硬化性樹脂中の硬化開始剤を1分で急速に半減させる比較的高温を意味し、熱硬化性樹脂、硬化開始剤等の素材的要素のほか、熱硬化性樹脂の体積等の外的要因によっても変動する。また、ガラス転移点Tgは、熱硬化性樹脂に固有の値であり、例えば応力歪みの計測によって決定される。さらに、硬化工程の長さ、すなわち金型温度T2を維持する期間は、金型温度T1と同様に、熱硬化性樹脂、硬化開始剤等の素材的要素と、熱硬化性樹脂の体積等の外的要因とを参酌して設定される。なお、金型温度T2がガラス転移点Tgよりも50℃を超えて高いと、熱硬化性樹脂が炭化する現象が生じて、製品すなわちレンズの性能劣化につながるおそれがある。
【0021】
硬化工程を以上のような温度条件下で行うことにより、キャビティ中に射出及び充填後の熱硬化性樹脂を迅速に硬化させることができ、成形のサイクルタイム短縮を実効的なものとすることができる。つまり、射出成形のスループットの高さを損なわないので、熱硬化性樹脂によっても高品位のレンズの量産が可能になる。
【0022】
第3の取出工程では、成形金型の金型温度T3を、ガラス転移点Tgから20℃減算した温度以上であって、ガラス転移点Tg以下とする。なお、本取出工程において、成形金型は、期間P3だけ(具体的には例えば数10秒間程度)、上記金型温度T3に維持される。なお、ガラス転移点Tgは、硬化工程で用いた値と同様のものである。また、取出工程の長さ、すなわち金型温度T3を維持する期間は、熱硬化性樹脂、硬化開始剤等の素材的要素と、熱硬化性樹脂の体積等の外的要因とを参酌して設定される。
【0023】
取出工程を以上のような温度条件下で行うことにより、取り出される成形品の温度がガラス転移点Tgよりもある程度低い状態となるので、高温で取り出される成形品の軟化変形を防止できる。一方、取り出される成形品の温度がガラス転移点Tgに比較して低くなり過ぎることを防止できるので、成形金型からの離型に際して成形品の特にレンズ部分に応力変形が発生することを防止できる。また、成形のサイクルタイム短縮を実効的なものとすることができる。
【0024】
なお、以上において、射出工程と硬化工程との間には、第1遷移期間PT1を設けている。第1遷移期間PT1は、通常短いことが望ましいが、成形金型に組み込んだ温調装置の加熱性能に依存して短縮に限界がある。一方で、成形金型のキャビティ内に充填された熱硬化性樹脂内に極端な温度分布が形成されることを回避する観点から、第1遷移期間PT1をある程度の長さに確保することが望ましい場合もあり、使用する樹脂や成形品仕様に応じて適宜選択することが好ましい。
【0025】
また、硬化工程と取出工程との間には、第2遷移期間PT2を設けている。第2遷移期間PT2も、通常短いことが望ましいが、成形金型に組み込んだ温調装置の冷却性能に依存して短縮に限界がある。一方で、成形金型のキャビティ内に充填された熱硬化性樹脂内に極端な温度分布が形成されることを回避する観点から、第2遷移期間PT2をある程度の長さに確保することが望ましい場合もあり、使用する樹脂や成形品仕様に応じて適宜選択することが好ましい。
【0026】
また、取出工程は、グラフ中に点線L2で示すように射出工程と同一金型温度とすることもできる。つまり、取出工程において、金型温度T3を硬化工程の金型温度T2に保つことができる。この場合、第2遷移期間PT2を省略できるので、通常は、成形のサイクルタイムを簡易な手法でさらに短縮できる。
【0027】
さらに、射出工程は、原則として熱硬化性樹脂を成形金型内に充填するためのものであるが、準備としての事前の待機期間や予備としての事後の保持期間を付随的に設けることができる。つまり、期間P1を必要最小限以上に延長することもできる。
【0028】
また、取出工程は、成形金型内で硬化した成形品を取り出すためのものであるが、準備としての事前の待機期間や予備としての事後の保持期間を付随的に設けることができる。つまり、期間P3を必要最小限以上に延長することもできる。
【0029】
その他、硬化工程を複数の段階に分けることもでき、この場合、熱硬化性樹脂の温度管理が細やかになって、熱硬化性樹脂の特性に適合した硬化を実現できる。
【0030】
以下、1時間半減期温度Thや1分間半減期温度Tmの意義について説明する。本発明者は、実験等の研究を重ねた結果、熱硬化性樹脂の射出成形で金型温度を経時的に変化させるヒートサイクル型の加熱が高品位のレンズ成形に不可欠であることを見出した。そして、ヒートサイクル型の加熱に際しての温度設定では、上記の1時間半減期温度Thや1分間半減期温度Tmが基準として重要になることを見出した。ここで、半減期とは、もとの硬化開始剤(有機過酸化物)が分解して活性酸素量が1/2になるまでに要する時間のことである。1時間の半減期とは、ある一定温度の硬化開始剤(有機過酸化物)を熱分解させたときに1時間で半減することを指し、Thは、1時間の半減期を得るための分解温度である。これを1時間半減期温度と定義する。また、1分間の半減期とは、ある一定温度の硬化開始剤(有機過酸化物)を熱分解させたときに1分間で半減することを指し、Tmは、1分間の半減期を得るための分解温度である。これを1分間半減期温度と定義する。下記の表1は、各種熱硬化性樹脂について、その1時間半減期温度Th及び1分間半減期温度Tmを一覧にしたものである。
【表1】

熱硬化性樹脂の射出成形では、結果的に成形金型の温度制御によって熱硬化性樹脂の温度制御を行うことになり、成形金型の温度管理に1時間半減期温度Thや1分間半減期温度Tmを利用することになる。一般的な傾向としては、成形金型の金型温度が1時間半減期温度Thよりも低い場合、熱硬化性樹脂の材料の反応速度が遅くなってレンズ形状の形成に1時間以上必要になることを意味する。一方、成形金型の金型温度が1分間半減期温度Tm程度に高い場合、熱硬化性樹脂の材料の反応速度が迅速なものとなるが、成形金型内に熱硬化性樹脂を充填する最中に硬化が進行し、或いは硬化開始剤(具体的には有機過酸化物)が十分に機能する前に失活して熱硬化性樹脂の硬化が不完全となる。特に、金型温度が1分間半減期温度Tm付近で成形金型内に熱硬化性樹脂を充填する最中に硬化が進行する場合、成形金型と流動している樹脂との温度差が大きくなって硬化の分布が生じてしまう。結果的に、製品としてのレンズに屈折率分布が生じてレンズの性能を劣化させるおそれがある。
【0031】
以下の図2(A)は、ヒートサイクル型の加熱により、成形金型への充填中に樹脂が硬化することを防止しつつ、成形金型に充填後に金型温度を上げて樹脂の硬化を図った結果の屈折率を示す。また、以下の図2(B)〜2(D)は、成形金型の充填中に樹脂の硬化が進行した比較例の成形品の屈折率を示す。図2(A)に示す屈折率プロファイルは鋭い単一のピークを示すが、図2(B)に示す比較例の屈折率プロファイルはブロードで、図2(C)及び2(D)に示す比較例の屈折率プロファイルは2つのピークに分岐している。以下では、成形品としてのレンズの屈折率を評価するため、評価の基準として上記のような屈折率プロファイルの曲線を用い、この曲線上のピークの麓の平坦部にベースラインをひくとともに、ピークの両下端部の延長線とベースラインとの一対の交点の間隔を屈折率幅とした(図2(C)参照)。また、この屈折率幅を規格化するため、2mm厚のレンズ等に換算することを行うこととする。たとえば、携帯電話に付属するカメラ用の撮像レンズや光ピックアップ用の対物レンズでは、屈折率幅が0.003以内であれば実用上の問題が発生しないことを実験的に確認しており、屈折率幅が0.003を超える場合、屈折率の不均一が無視できないものとなって要求されるレンズ性能を満たさなくなる傾向が強まることを実験的に確認している。
【0032】
以下、上記成形方法を実施するための成形金型及びこれを組み込んだ射出成形機について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
図3は、射出成形機10を説明する正面図である。この射出成形機10は、第1金型である固定金型41と第2金型である可動金型42とで構成される成形金型40を備えており、この成形金型40中に射出装置16からの熱硬化性樹脂を充填して硬化させる射出成形を行う。
【0034】
射出成形機10は、固定盤11と、可動盤12と、開閉駆動装置15と、射出装置16と、温度調節装置18と、減圧装置19と、制御装置20とを備える。射出成形機10は、可動盤12と固定盤11との間に固定金型41と可動金型42とを挟持して両金型41,42を型締めすることにより型空間すなわちキャビティCV(図4(A)参照)を形成し、かかるキャビティCVを利用した射出成形を可能にする。ここで、射出成形機10は、成形金型40の型開き及び型閉じが横方向すなわち水平方向となっている。なお、縦方向に型開き及び型閉じするタイプの射出成形機に上記成形金型40を組み込むこともできる。
【0035】
固定盤11は、支持フレーム14の中央側上面に固定された厚板状の取付盤であり、固定盤11の内側は、固定金型41を着脱可能に支持している。可動盤12は、後述する開閉駆動装置15によって固定盤11に対して進退移動可能に支持された厚板状の取付盤である。可動盤12の内側は、可動金型42を着脱可能に支持している。なお、可動盤12には、エジェクタ45が組み込まれている。このエジェクタ45は、型開き時に可動金型42に残される成形品を可動金型42内から固定金型41側に押し出して離型するためのものである。
【0036】
開閉駆動装置15は、リニアガイド15aと、動力伝達部15dと、アクチュエータ15eとを備える。リニアガイド15aは、可動盤12を支持しつつ、固定盤11に対する進退方向に関して可動盤12の滑らかな往復移動を可能にしている。動力伝達部15dは、アクチュエータ15eからの駆動力を受けて伸縮する。これにより、支持フレーム14上に固定された型締め盤13に対して可動盤12が近接したり離間したりと自在に変位し、結果的に、可動盤12と固定盤11とを互いに近接するように型閉じすることができ、所望の型締め力で両者を締め付けることができる。
【0037】
射出装置16は、シリンダ16a、原料貯留部16b、射出ノズル16d、及び駆動部16eを備える。射出装置16は、先細りの射出ノズル16dから温度制御された硬化前の液体状の樹脂を吐出することができる。射出装置16は、シリンダ16aの射出ノズル16dを、固定盤11に設けた開口を介して固定金型41のスプル部分SP(図4(A)参照)に対して分離可能に接続することができ、固定金型41と可動金型42とを型締めした状態で形成されるキャビティCV(図4(A)参照)中に溶融樹脂を所望のタイミングで供給することができる。なお、シリンダ16aは、原料貯留部16bに接続されており、この原料貯留部16bから適当なタイミング及び量で樹脂の供給を受ける。また、図示を省略するが、駆動部16eは、シリンダ16a内に組み込まれたスクリュ16fを回転させる回転駆動機構と、スクリュ16fを軸方向に進退させる直動駆動機構とを有する。スクリュ16fを回転させることで、シリンダ16a内の液体状の樹脂を撹拌等することができ、スクリュ16fを前進させることで、シリンダ16a内の液体状の樹脂を射出ノズル16dから所望の圧力及び流量で射出させることができる。
【0038】
温度調節装置18は、樹脂成形金型40を構成する両金型41,42中においてキャビティに隣接して内蔵されたヒータ72d(図4(A)参照)等に接続されており、成形に際して両金型41,42の内部温度を適切に保つ。この際、ヒータ72dに適当な電力を供給すれば、両金型41,42の昇温や温度保持が可能になり、ヒータ72dへの通電を停止し或いは減少させれば、放熱すなわち自然冷却によって両金型41,42の降温が可能になる。なお、両金型41,42の温度調節は、ヒータ72dを用いる方法に限らず、様々な方法を用いることができる。たとえば、両金型41,42中においてキャビティに隣接して形成されている流路に熱媒体を循環させることにより、両金型41,42の成形時(射出時、硬化時、及び取出時を含む)に両金型41,42の金型温度を適切に保つことができる。温調のため循環させる熱媒体は、油系、水系、気体系等の各種物質とすることができる。なお、熱媒体等を供給する加熱装置は、樹脂成形金型40外の適所に配置することができる。つまり、射出成形機10の本体部分や外部装置として加熱装置を設けることができる。また、また、熱媒体等を供給する冷却装置も、樹脂成形金型40外の適所に配置することができる。つまり、射出成形機10の本体部分や外部装置として冷却装置を設けることができる。さらに、ヒータ72dとともに冷却素子を樹脂成形金型40内に埋め込むこともできる。
【0039】
減圧装置19は、成形金型40の可動金型42(又は固定金型41)側に連結されており、型締め状態の成形金型40中に形成されるキャビティCV(図4(A)参照)内を大気に比較して所望の程度に減圧することができる。
【0040】
制御装置20は、射出装置制御部22と、型温度制御部24と、開閉制御部25と、減圧制御部26と、エジェクタ制御部27とを備える。射出装置制御部22は、駆動部16e等を動作させることによって、原料貯留部16bからシリンダ16aに導入された樹脂を撹拌等するとともに、両金型41,42間に形成されたキャビティCV(図4(A)参照)中に所望の射出率で液状の樹脂を供給する。つまり、射出装置制御部22の制御下で駆動部16eによる樹脂の押し出し量や温度を調整することができる。型温度制御部24は、温度調節装置18の動作を制御しており、、成形に際して両金型41,42の内部温度を適切に保つ。具体的には、図1に示す熱的工程、すなわち射出工程と硬化工程と取出工程とを実行する。開閉制御部25は、開閉駆動装置15の動作を制御しており、両金型41,42の開閉タイミングや型閉じの圧力を調整する。減圧制御部26は、減圧装置19を適宜動作させることにより、成形に際して両金型41,42間に形成されたキャビティCV内の圧力を調整する。具体的には、減圧制御部26の制御下で、成形時、例えば成形金型40のキャビティCVの充填開始前に、キャビティCV内を大気圧よりも0.05MPa以上低い状態に維持することで、キャビティCV内への樹脂の充填を迅速に行わせる。エジェクタ制御部27は、可動盤12に組み込まれたエジェクタ45の動作を制御しており、型開き時に一方の可動金型42に残る成形品を可動金型42内から押し出して離型し、レンズアレイからなる成形品の射出成形機10外への搬出を可能にする。レンズアレイ成形では、一度に多数の光学面成形を行うため、レンズ間の屈折率をなくす上でも、本手法が有効となる。
【0041】
図4(A)及び4(B)は、成形金型40の構造を概念的に説明する拡大断面図である。なお、図4(A)は、型閉じ又は型締め状態の成形金型40を示し、図4(B)は、型開き状態の成形金型40を示す。
【0042】
まず、固定盤11に支持された固定金型41は、金型ユニット61と、断熱板63とを備える。金型ユニット61は、成形面を有するキャビティ部71と、キャビティ部71の温度すなわち金型温度を調整する温調部72と、キャビティ部71と温調部72との間に介在して配置される型板73とで構成される。この際、キャビティ部71と型板73とは平坦面FS1を介して密着し、温調部72と型板73とは平坦面FS2を介して密着する。キャビティ部71は、型板73上に固定される胴型71aと、胴型71aに埋め込まれた多数のレンズ面形成用のコア型78とを備える。つまり、コア型78は、胴型71aの適所に形成された多数のコア挿通孔71dに裏側から埋め込むようにして固定されている。この際、コア型78の裏面は、平坦面FS1において型板73に密着して支持されている。胴型71aと型板73には、樹脂充填用のスプル部分SPが形成されており、スプル部分SPの入り口は、射出装置16に設けた射出ノズル16dの先端が嵌合するような形状を有する。断熱板63と温調部72には、射出ノズル16dを通すための貫通孔63a,72aが形成されており、この貫通孔63a,72aは、固定盤11に形成された開口11aに接続されて外部に開放されている。温調部72の適所に形成された挿入孔には、複数のヒータ72dと、複数の温度センサ72eとが挿入されて固定されている。ヒータ72dや温度センサ72eは、図3の型温度制御部24の制御下で動作しており、温調部72を所望の温度に略均一な状態で保持する。つまり、熱電対等で構成される温度センサ72eからの検出出力に基づいてヒータ72dに対する通電量が調整され、温調部72の基材が定常的に加熱され、略一様な温度に維持される。温調部72で発生した熱は、型板73を介してキャビティ部71に伝搬し、キャビティ部71を対応する温度に加熱する。この際、型板73が高い熱伝導度を有するので、型板73が熱的な緩衝材となってキャビティ部71に温度ムラが発生することを効率的に防止する。また、このため、本手法のように金型温度を意図的に上下させても、レンズ間の温度差を小さくすることができる。また、型板73が高い剛性を有するので、型締めの応力によってキャビティ部71が変形することを防止する。
【0043】
なお、温調部72は、締結具41cにより、断熱板63とともに固定盤11に締め付けられて固定される。また、キャビティ部71は、締結具41dにより、型板73とともに温調部72に締め付けられて固定される。
【0044】
次に、可動盤12に支持された可動金型42は、金型ユニット81と、断熱板83とを備える。金型ユニット81は、成形面を有するキャビティ部91と、キャビティ部91の温度すなわち金型温度を調整する温調部92と、キャビティ部91と温調部92との間に介在して配置される型板93とで構成される。この際、キャビティ部91と型板93とは平坦面FS1を介して密着し、温調部92と型板93とは平坦面FS2を介して密着する。キャビティ部91は、型板93上に固定される胴型91aと、胴型91aに埋め込まれた多数のレンズ面形成用のコア型98とを備える。つまり、コア型98は、胴型91aの適所に形成された多数のコア挿通孔91dに裏側から埋め込むようにして固定されている。この際、コア型98の裏面は、平坦面FS1において型板93に密着して支持されている。型板93からは、固定金型41に向けて突起部PPが形成されている。この突起部PPは、型板73等に形成されたスプル部分SPに挿入されてスプル部分SPの容積を調整する。温調部92の適所に形成された挿入孔には、複数のヒータ72dと、複数の温度センサ72eとが挿入されて固定されている。ヒータ72dや温度センサ72eは、図3の型温度制御部24の制御下で動作しており、温調部92を所望の温度に略均一な状態で保持する。温調部92で発生した熱は、型板93を介してキャビティ部91に伝搬し、キャビティ部91を対応する温度に加熱する。この際、型板93が高い熱伝導度を有するので、型板93が熱的な緩衝材となってキャビティ部91に温度ムラが発生することを効率的に防止する。また、このため、本手法のように金型温度を意図的に上下させても、レンズ間の温度差を小さくすることができる。また、型板93が高い剛性を有するので、型締めの応力によってキャビティ部91が変形することを防止する。
【0045】
なお、温調部92は、締結具42cにより、断熱板83とともに可動盤12に締め付けられて固定される。また、キャビティ部91は、締結具42dにより、型板93とともに温調部92に締め付けられて固定される。
【0046】
以上のキャビティ部91において、型面側の外周には、樹脂製のシールリングSRが埋め込まれており、固定金型41と可動金型42とを型締めした状態で形成されるキャビティCVを周囲から気密に保って、キャビティCV内に高圧で保持されている液状の樹脂が成形金型40外に漏れ出すことを防止する。
【0047】
図5は、図3等に示す射出成形機10を用いた光学成形品の製造方法の概要を説明するフローチャートである。まず、温度調節装置18及び型温度制御部24により、可動金型42と固定金型41とを射出温度まで加熱する(ステップS10)。これにより、両金型41,42においてキャビティCVを形成する金型部分の表面やその近傍の温度を射出工程に適する温度まで上昇させる。
【0048】
これと並行して、開閉駆動装置15を動作させ、可動金型42を固定金型41側に前進させて型閉じを開始させる(ステップS11)。開閉駆動装置15の閉動作を継続することにより、可動金型42と固定金型41とが接触する型閉じ状態となる。この型閉じ後、減圧装置19を適宜動作させて、キャビティCV内を予め大気に比較して所望の程度に減圧する。その後、開閉駆動装置15の閉動作を更に継続することにより、可動金型42と固定金型41とを必要な圧力で締め付ける型締めが行われる(ステップS12)。
【0049】
次に、射出装置16を動作させて、型締めされた可動金型42と固定金型41との間に形成されたキャビティCV中に、熱硬化性樹脂をゲート部GP等を介して必要な圧力及び射出率で充填する射出を行わせる(ステップS13)。この際、温度調節装置18の動作の制御により、可動金型42と固定金型41とは、図1に示すように、期間P1だけ(例えば10秒間程度)、金型温度T1=Th〜Th+30℃に維持される。
【0050】
熱硬化性樹脂をキャビティCVに充填した後は、温度調節装置18及び型温度制御部24により、可動金型42と固定金型41とを硬化温度まで加熱する。これによって、キャビティCV中の熱硬化性樹脂が適宜加熱されるので、熱硬化性樹脂が硬化する(ステップS14)。この際、温度調節装置18の動作の制御により、可動金型42と固定金型41とは、図1に示すように、期間P2だけ(例えば100〜数100秒間程度)、金型温度T2=Tm又はTg以上(例えばTg+30℃)に維持される。
【0051】
以上の硬化工程(ステップS14)の初期段階において、射出装置16からの熱硬化性樹脂の射出圧力を制御することができる。例えばシリンダ16a内の樹脂圧力を保持し或いは高めることで、射出ノズル16dからキャビティCVに射出される射出圧力を維持・増加させることができ、キャビティCVの内圧を確保することができ光学成形品の形状転写精度を高めることができる。
【0052】
また、以上の硬化工程(ステップS14)において、成形金型40の型締力を制御することができる。つまり、例えば開閉駆動装置15による締め付け力を増加させることで、可動金型42と固定金型41との型締力を高めることができ、キャビティCVの内圧を増加させて光学成形品の表面にヒケ等が発生する現象を抑えることができる。
【0053】
なお、射出装置16からの熱硬化性樹脂の射出圧力を高めることや、金型41,42の型締力を高めることは、一括して行う必要はなく、いずれか一方のみを実施することもできる。
【0054】
次に、開閉駆動装置15を動作させて、可動金型42を後退させ、可動金型42を固定金型41から離間させる型開きを行わせる(ステップS15)。この結果、光学成形品は、可動金型42に保持された状態で固定金型41から離型される。以上の型開きの工程(ステップS15)に際しては、事前に成形金型40を少し冷却して光学成形品の形状を安定化する取出工程を実施する。つまり、実際の型開き動作を開始する前に、温度調節装置18及び型温度制御部24により可動金型42と固定金型41とを取出温度に保持する。具体的には、温度調節装置18の動作の制御により、可動金型42と固定金型41とは、図1に示すように、期間P3だけ(例えば数10秒間程度)、金型温度T3=Tg−20℃〜Tgに維持される。
【0055】
次に、エジェクタ45を動作させて、突き出しピン(不図示)による光学成形品の突き出しを行わせる(ステップS16)。この結果、光学成形品が突き出しピン(不図示)の先端面に付勢されて固定金型41側に押し出されて、光学成形品が可動金型42から離型される。
【0056】
なお、両金型41,42から離型された光学成形品は、この光学成形品から延びるスプル部等を把持することによって、射出成形機10の外部に搬出される(ステップS17)。さらに、搬出後の光学成形品は、スプル部の除去、個別のレンズへの分割等の加工を施されて出荷用の製品とされる。
【0057】
以下、図3等に示す射出成形機10を用いて、図1に示す温度制御を行うレンズ成形方法の具体的な実施例について説明する。
【0058】
〔実施例1〕
レンズ成形方法の実施例1について説明する。図6(A)に示すグラフは、実施例1における温度管理すなわち射出、硬化、及び取出の各工程における温度変化のパターンを概念的に説明するものである。また、以下の表2は、金型温度の変化パターンを数値化したものであり、射出工程と、硬化工程と、取出工程とを設け、それらの間に、第1遷移期間としての昇温時間と、第2遷移期間としての冷却時間とを付加している。
【表2】

実施例1では、熱硬化性樹脂として、新中村化学製のDCP(トリシクロデカンジメターノールジメタクリレート)に重合開始剤として日油製のパーブチルOを1wt%添加し、硬化用の液体樹脂とした。なお、この液体樹脂は、後述する硬化試験によって、ガラス転移点Tgが170℃であることが分かっている。また、パーブチルOの1時間半減期温度Thは92.1℃であり、その1分間半減期温度Tmは134℃である。この液体樹脂を図3等に例示する射出成形機10で成形する実験を行った。つまり、実施例の熱硬化性樹脂を射出温度(すなわち金型温度T1)120℃に保持された成形金型40中のキャビティCVに10秒間の射出工程で充填した。その後、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を昇温して硬化温度(すなわち金型温度T2)180℃とし、この硬化温度にて170秒保持した。最後に、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を冷却してTg=170℃よりも低い取出温度(すなわち金型温度T3)165℃とし、この取出温度にて20秒保持後に光学成形品の実際の取り出しを行った。以上の成形工程のサイクルタイムは380秒であった。
【0059】
なお、以上において、加熱にはカートリッジヒータを用い、冷却はカートリッジヒータをOFFすることで実現した。
【0060】
〔実施例2〕
レンズ成形方法の実施例2について説明する。図6(B)に示すグラフは、実施例2における温度管理すなわち射出、硬化、及び取出の各工程における温度変化のパターンを概念的に説明するものである。また、以下の表3は、金型温度の変化パターンを数値化したものであり、射出工程と、硬化工程と、取出工程とを設け、それらの間に、第1遷移期間としての昇温時間と、第2遷移期間としての冷却時間とを付加している。
【表3】

実施例2では、熱硬化性樹脂として、実施例1と同じ新中村化学製のDCPを用いるが、重合開始剤を日油製のパーヘキサ22に変更し、これを1wt%添加した。なお、この液体樹脂も、後述する硬化試験によって、ガラス転移点Tgが170℃であることが分かっている。また、パーヘキサ22の1時間半減期温度Thは121.7℃であり、その1分間半減期温度Tmは159.9℃である。この液体樹脂を図3等に例示する射出成形機10で成形する実験を行った。つまり、実施例の熱硬化性樹脂を射出温度(すなわち金型温度T1)150℃に保持された成形金型40中のキャビティCVに10秒間の射出工程で充填した。その後、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を昇温して硬化温度(すなわち金型温度T2)180℃とし、この硬化温度にて170秒保持した。最後に、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を冷却してTg=170℃よりも低い取出温度(すなわち金型温度T3)165℃とし、この取出温度にて20秒保持後に光学成形品の実際の取り出しを行った。以上の成形工程のサイクルタイムは320秒であった。つまり、実施例1よりもサイクルタイムを60秒短縮できた。
【0061】
なお、以上において、加熱にはカートリッジヒータを用い、冷却はカートリッジヒータをOFFすることで実現した。
【0062】
〔比較例1〕
比較例1は、実施例1に対応するものである。この場合、新中村化学製のDCPに重合開始剤として日油製のパーブチルOを1wt%添加した試料を準備した。この試料を射出成形機にて加熱硬化させた。加熱硬化時の温度条件は、180℃一定で180秒維持した。この場合、計測を考慮して2mm厚の平行平板試料等を作製した。なお、実施例1の試料も、条件を一致させるため、同様の射出成形機にて成形し2mm厚の平行平板試料等とした。
【0063】
比較例1の試料については、セイコー電子(株)製のTMA/SS120型熱応力歪み測定装置を用いて、ガラス転移点Tgを求めた。この際、窒素ガス雰囲気下、1分間に5℃の割合で金型温度を30℃から280℃まで上昇させて、変曲点からガラス転移点Tgを決定した。得られたガラス転移点は、実施例1の欄でも説明したように170℃であった。
【0064】
比較例1の試料については、島津製作所製の屈折率測定装置KPR200を用いてVブロック法によってd線における屈折率を測定した。図8(A)は、比較例1の屈折率プロファイルであり、図8(B)は、実施例1の屈折率プロファイルである。両グラフからも明らかなように、比較例1の成形品では2つ以上の屈折率ピークが現れるのに対し、実施例1の成形品では単一の屈折率ピークのみが現れる。
【0065】
〔比較例2〕
比較例2は、実施例2に対応するものである。この場合、新中村化学製のDCPを用いるが、重合開始剤を日油製のパーヘキサ22に変更し、これを1wt%添加した。この試料を射出成形機にて加熱硬化させた。加熱硬化時の温度条件は、表3に示すとおりであり、180℃一定で180秒維持した。この場合、計測を考慮して2mm厚の平行平板試料等を作製した。なお、実施例2の試料も、条件を一致させるため、同様の射出成形機にて成形し2mm厚の平行平板試料等とした。
【0066】
比較例2の試料についても、比較例1と同様の熱応力歪み測定装置を用いて、ガラス転移点Tgを求めた。得られたガラス転移点は、実施例2の欄でも説明したように170℃であった。
【0067】
比較例2の試料についても、比較例1と同様の屈折率測定装置を用いて、屈折率を測定した。この場合も、比較例2の成形品では2つの屈折率ピークが現れるのに対し、実施例2の成形品では単一の屈折率ピークのみが現れる。
【0068】
〔比較例3〕
比較例3は、実施例1に対応するものである。この場合、新中村化学製のDCPに重合開始剤として日油製のパーブチルOを1wt%添加した試料を準備した。この場合、試料をガラス転移点Tgよりも低温で加熱硬化させた。つまり、加熱硬化時の金型温度は、147℃であり、この金型温度で600秒維持した。維持時間600秒以下では樹脂を完全に硬化させることができなかった。この場合、計測を考慮して2mm厚の平行平板試料等を作製した。
【0069】
比較例3の試料についても、比較例1と同様の熱応力歪み測定装置を用いて、ガラス転移点Tgを求めた。得られたガラス転移点は、170℃であった。また、比較例3の試料についても、比較例1と同様の屈折率測定装置を用いて、屈折率を測定した。この場合、比較例3の成形品でも単一の屈折率ピークのみであった。
【0070】
以下の表4は、実施例1,2と、比較例1〜3について得られた特性を一覧にしたものである。
【表4】

この表4からも明らかなように、実施例1,2では屈折率幅が少なく変形の少ない光学成形品が得られるのに対し、比較例1,2では屈折率幅が多く変形の多い光学成形品が得られる。また、比較例3は、屈折率幅や変形に関しては優れるが、サイクルタイムが極めて長くなってしまう。
【0071】
〔実施例3〕
レンズ成形方法の実施例3について説明する。図6(C)に示すグラフは、実施例3における温度管理すなわち射出、硬化、及び取出の各工程における温度変化のパターンを概念的に説明するものである。また、以下の表5は、金型温度の変化パターンを数値化したものである。
【表5】

実施例3では、熱硬化性樹脂として、実施例1と同じく、新中村化学製のDCPを用い、重合開始剤として日油製のパーブチルOを1wt%添加した。なお、この液体樹脂は、既述のようにガラス転移点Tgが170℃である。また、パーブチルの1時間半減期温度Thは92.1℃であり、その1分間半減期温度Tmは134℃である。この液体樹脂を図3等に例示する射出成形機10で成形する実験を行った。つまり、実施例の熱硬化性樹脂を射出温度(すなわち金型温度T1)120℃に保持された成形金型40中のキャビティCVに10秒間の射出工程で充填した。その後、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を昇温して硬化温度(すなわち金型温度T2)180℃とし、この硬化温度にて170秒保持した。最後に、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を冷却してTg=170℃よりも低い取出温度(すなわち金型温度T3)165℃とし、この取出温度にて20秒保持後に光学成形品の実際の取り出しを行った。以上の成形工程のサイクルタイムは350秒であった。つまり、実施例1よりもサイクルタイムを30秒短縮できた。
【0072】
なお、以上において、加熱には180℃の油を用い、冷却には165℃の油を用いた。つまり、冷却油を用いることで、サイクルタイムの短縮を達成している。
【0073】
〔実施例4〕
レンズ成形方法の実施例4について説明する。図6(D)に示すグラフは、実施例4における温度管理すなわち射出、硬化、及び取出の各工程における温度変化のパターンを概念的に説明するものである。また、以下の表6は、金型温度の変化パターンを数値化したものである。
【表6】

実施例4では、熱硬化性樹脂として、実施例1と同じく、新中村化学製のDCPを用い、重合開始剤として日油製のパーブチルOを1wt%添加した。なお、この液体樹脂は、既述のようにガラス転移点Tgが170℃である。また、パーブチルの1時間半減期温度Thは92.1℃であり、その1分間半減期温度Tmは134℃である。この液体樹脂を図3等に例示する射出成形機10で成形する実験を行った。つまり、実施例の熱硬化性樹脂を射出温度(すなわち金型温度T1)120℃に保持された成形金型40中のキャビティCVに10秒間の射出工程で充填した。その後、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を2段階で昇温して硬化温度(すなわち金型温度T2)150℃(Tm+16℃)にて115秒保持し、硬化温度(すなわち金型温度T2)180℃(Tm+46℃)にて100秒保持した。最初の段階で架橋反応を90%程度終了させ、次の段階で残りの反応を終了させつつ内部歪みを緩和する。最後に、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を冷却してTg=170℃よりも低い取出温度(すなわち金型温度T3)165℃とし、この取出温度にて20秒保持後に光学成形品の実際の取り出しを行った。以上の成形工程のサイクルタイムは380秒であった。
【0074】
なお、以上において、以上において、加熱にはカートリッジヒータを用い、冷却はカートリッジヒータをOFFすることで実現した。
【0075】
本実施例の場合、実施例1の硬化温度よりも低い金型温度で硬化させる事前工程を付け加えており、内部歪みの少ない光学成形品を成形することができた。
【0076】
〔実施例5〕
レンズ成形方法の実施例5について説明する。図7(A)に示すグラフは、実施例5における温度管理すなわち射出、硬化、及び取出の各工程における温度変化のパターンを概念的に説明するものである。また、以下の表7は、金型温度の変化パターンを数値化したものである。
【表7】

実施例5では、熱硬化性樹脂として、実施例1と同じく、新中村化学製のDCPを用い、重合開始剤として日油製のパーブチルOを1wt%添加した。なお、この液体樹脂は、既述のようにガラス転移点Tgが170℃である。また、パーブチルの1時間半減期温度Thは92.1℃であり、その1分間半減期温度Tmは134℃である。この液体樹脂を図3等に例示する射出成形機10で成形する実験を行った。つまり、実施例の熱硬化性樹脂を射出温度(すなわち金型温度T1)120℃に保持された成形金型40中のキャビティCVに10秒間の射出工程で充填した。その後、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を昇温して硬化温度(すなわち金型温度T2)180℃(Tm+46℃)にし、この硬化温度にて120秒保持した。最後に、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を冷却してTg=170℃よりも低い取出温度(すなわち金型温度T3)165℃とし、この取出温度にて20秒保持後に光学成形品の実際の取り出しを行った。以上の成形工程のサイクルタイムは450秒であった。
【0077】
なお、以上において、以上において、加熱にはカートリッジヒータを用い、冷却はカートリッジヒータをOFFすることで実現した。
【0078】
本実施例の場合、実施例1に比較して昇温速度が遅く、硬化温度硬化温度に達するまでにゆっくりと硬化反応が進むので、実施例1よりも安定した形状バラツキの小さい光学成形品を成形することができた。
【0079】
〔実施例6〕
レンズ成形方法の実施例6について説明する。図7(B)に示すグラフは、実施例6における温度管理すなわち射出、硬化、及び取出の各工程における温度変化のパターンを概念的に説明するものである。また、以下の表8は、金型温度の変化パターンを数値化したものである。
【表8】

実施例6では、熱硬化性樹脂として、実施例1と同じく、新中村化学製のDCPを用い、重合開始剤として日油製のパーブチルOを1wt%添加した。なお、この液体樹脂は、既述のようにガラス転移点Tgが170℃である。また、パーブチルの1時間半減期温度Thは92.1℃であり、その1分間半減期温度Tmは134℃である。この液体樹脂を図3等に例示する射出成形機10で成形する実験を行った。つまり、実施例の熱硬化性樹脂を射出温度(すなわち金型温度T1)120℃に保持された成形金型40中のキャビティCVに10秒間の射出工程で充填した。その後、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を昇温して硬化温度(すなわち金型温度T2)170℃(Tm+36℃)にし、この硬化温度にて260秒保持した。その後、成形金型40を冷却することなく光学成形品の取り出しを行った。以上の成形工程のサイクルタイムは370秒であった。つまり、実施例1よりもサイクルタイムを10秒短縮できた。なお、以上において、加熱にはカートリッジヒータを用いた。
【0080】
本実施例の場合、実施例1に比較して取出し時に多少軟化しているが、成形時間を短縮しても良品を得ることができた。
【0081】
〔実施例7〕
レンズ成形方法の実施例7について説明する。図7(C)に示すグラフは、実施例7における温度管理すなわち射出、硬化、及び取出の各工程における温度変化のパターンを概念的に説明するものである。また、以下の表9は、金型温度の変化パターンを数値化したものである。
【表9】

実施例7では、熱硬化性樹脂として、実施例1と同じく、新中村化学製のDCPを用い、重合開始剤として日油製のパーブチルOを1wt%添加した。なお、この液体樹脂は、既述のようにガラス転移点Tgが170℃である。また、パーブチルの1時間半減期温度Thは92.1℃であり、その1分間半減期温度Tmは134℃である。この液体樹脂を図3等に例示する射出成形機10で成形する実験を行った。つまり、実施例の熱硬化性樹脂を射出温度(すなわち金型温度T1)120℃に保持された成形金型40中のキャビティCVに10秒間の射出工程で充填した。その後、成形金型40とともに熱硬化性樹脂を昇温して硬化温度(すなわち金型温度T2)140℃(Tm+6℃)にし、この硬化温度にて270秒保持した。その後、成形金型40を冷却することなく光学成形品の取り出しを行った。以上の成形工程のサイクルタイムは320秒であった。つまり、実施例1よりもサイクルタイムを60秒短縮できた。なお、以上において、加熱にはカートリッジヒータを用いた。
【0082】
本実施例の場合、実施例1、6に比較して多少形状のバラツキが大きくなるが、成形時間を短縮することができた。
【0083】
以下の表10は、以上の実施例1−7の結果を一覧にしたものである。なお、判定は、成形品の屈折率分布や変形程度に基づいた総合的なもので、○印は、一定の品質要件を満たしていることを意味する。
【表10】

【0084】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、固定金型41及び可動金型42で構成される射出成形金型に設けるキャビティCVの形状は、図示のものに限らず、様々な形状とすることができる。すなわち、成形金型40によって射出成形する光学成形品は、レンズアレイに限らず、様々な単品又はアレイ状の製品とできる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本実施形態に係るレンズの成形方法の基本概念を具体的な温度管理工程として説明する図である。
【図2】(A)は、成形金型に充填後に金型温度を上げて樹脂の硬化を図った実施形態の屈折率を示し、(B)〜(D)は、充填中に樹脂の硬化が進行した比較例の成形品の屈折率を示す。
【図3】第1実施形態の射出成形機を説明する正面図である。
【図4】(A)、(B)は、図3の射出成形機に組み込まれる成形金型の構造を説明する拡大断面図である。
【図5】図3の装置を用いた射出成形の全体を説明するフローチャートである。
【図6】(A)〜(D)は、実施例1〜4の温度パターンを説明するグラブである。
【図7】(A)〜(C)は、実施例5〜7の温度パターンを説明するグラブである。
【図8】(A)は、比較例の屈折率の実験値を示し、(B)は、実施例の屈折率の実験値を示す。
【符号の説明】
【0086】
10…射出成形機、 11…固定盤、 12…可動盤、 15…開閉駆動装置、 16…射出装置、 16a…シリンダ、 16b…原料貯留部、 16d…射出ノズル、 16e…駆動部、、 18…温度制御装置、 18…減圧装置、20…制御装置、 22…射出装置制御部、 24…型温度制御部、 25…開閉制御部、 27…エジェクタ制御部、 40…樹脂成形金型、 41…固定金型、 41c,41d…締結具、 42…可動金型、 45…エジェクタ、 71…キャビティ部、 71a…胴型、 72…温調部、 72d…ヒータ、 72e…温度センサ、 73…型板、 78…コア型、 91…キャビティ部、 91a…胴型、 92…温調部、 93…型板、 98…コア型、 CV…キャビティ、 PP…突起部、 SP…スプル部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を使用したレンズの成形方法であって、
温度管理の対象として、熱硬化性樹脂を成形金型内に射出する射出工程と、成形金型内に充填された熱硬化性樹脂を硬化させる硬化工程と、成形金型内で硬化した成形品を取り出す準備としての取出工程とを少なくとも備え、
前記射出工程の金型温度よりも前記硬化工程の金型温度を高くすることを特徴とするレンズの成形方法。
【請求項2】
前記射出工程、前記硬化工程、及び前記取出工程にそれぞれ対応させて3段階以上で金型温度を変化させる温度管理を行うことを特徴とする請求項1に記載のレンズの成形方法。
【請求項3】
前記硬化工程の金型温度よりも前記取出工程の金型温度を低くすることを特徴とする請求項2に記載のレンズの成形方法。
【請求項4】
前記硬化工程及び前記取出工程の金型温度を一致させる温度管理を行うことを特徴とする請求項1に記載のレンズの成形方法。
【請求項5】
前記硬化工程内で金型温度を2段階以上に変化させることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の成形方法。
【請求項6】
前記射出工程の金型温度は、硬化開始剤の1時間半減期に対応する1時間半減期温度以上であって、前記1時間半減期温度に30℃加算した温度以下であり、
前記硬化工程の金型温度は、硬化開始剤の1分間半減期に対応する1分間半減期温度及びガラス転移点の少なくとも一方以上であり、
前記取出工程の金型温度は、ガラス転移点から20℃減算した温度以上であって、ガラス転移点以下であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のレンズの成形方法。
【請求項7】
前記射出工程及び前記硬化工程の金型温度に少なくとも対応して、熱硬化性樹脂の射出圧力及び/又は前記成形金型の型締力を制御することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のレンズの成形方法。
【請求項8】
前記射出工程の金型温度、前記硬化工程の金型温度、及び前記取出工程の金型温度は、前記成形金型、成形機、及び外部装置の少なくとも一つに組み込まれた加熱装置と冷却装置とを動作させることによって達成されることを特徴とする請求項2に記載のレンズの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−89293(P2010−89293A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259126(P2008−259126)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】