説明

成形用金型の温度調整システム

【課題】金型の廃熱と冷却機による冷熱とを利用して低温域から高温域の広範囲にわたって金型温度を調節することのできるシステムを簡単な機構で提供すること。
【解決手段】冷却装置5により冷却された冷却液を収納する冷却槽1と、該冷却槽からの冷却液を収納する調整槽2と、調整槽2から金型10を経て調整槽2に戻る冷却液循環流路11と、この循環流路の途中から分岐されて冷却槽に至る分岐流路12と、該分岐流路の途中に設けられた制御弁13と、調整槽内の冷却液の温度を検出する温度センサ15とから成り、前記温度センサ15の検出温度が設定温度以上になると制御弁13が開いて循環流路の高温の冷却液の一部が冷却槽1に戻されるように形成され、冷却槽に戻された液量だけ冷却槽1から調整槽2に低温の冷却液が流入するように形成されている構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂成形用金型を所望する設定温度にコントロールする温度調整システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック成形において、成形機から金型内に射出された溶融樹脂は、金型内で冷却固形し、十分に冷却された後に金型外部に取り出されてプラスチック成形品が製造されている。
金型を冷却する手段として、冷却装置で冷却した冷却水を金型に循環する手法がとられている。金型内部に冷却液を通す流路を設け、この冷却液を一定温度に維持することにより金型温度が成形温度に適合するように温度制御が一般的に行われている。金型温度は成形される樹脂の熱変形温度に応じて一般的に10℃〜30℃の範囲内でコントロールされている。
しかし、熱変形温度の高い樹脂の場合には金型温度を常温以上の温度で、例えばEVA樹脂やABS樹脂のように40℃〜60℃で、ポリカーボネート樹脂の場合には80℃付近の高温領域で維持したいケースがある。このような場合、上記したような冷却水循環回路のみによる冷却システムでは対処できない。
【0003】
そこで、金型温度を低温領域から高温領域まで制御する方法として、例えば、特許文献1に示すような、金型を昇温させるヒータを金型冷却システム中に組み込む手段が提案されている。また、別途ヒータで加熱した高温冷却液を低温冷却液に適量混合することにより所定温度の冷却液を得る方法も知られている。
【特許文献1】特開平5−16198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したヒータを利用して昇温させる方法では、冷却装置とヒータのバランスのとれた高精度の温度制御システムが要求されて設備が高くつくと共に、ヒータや付帯設備が必要となってシステムが複雑になり、製作コストやランニングコストが高くなるといった欠点があった。
【0005】
そこで本発明は、上記のような従来課題を解消するために提案されたものであって、ヒータを使用することなく、金型の廃熱と冷却機による冷熱とを利用することによって所望する金型温度を低温域から高温域の広範囲にわたって調節することのできる金型温度調整システムを簡単な機構で提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為に本発明では次のような技術的手段を講じた。即ち、本発明にかかる成形用金型の温度調整システムにあっては、冷却装置により冷却された冷却液を収納する冷却槽と、該冷却槽からの冷却液を収納する調整槽と、調整槽から金型を経て調整槽に戻る冷却液循環流路と、この循環流路の途中から分岐されて冷却槽に至る分岐流路と、該分岐流路の途中に設けられた制御弁と、前記循環流路内若しくは調整槽内の冷却液の温度を検出する温度センサとから成り、前記温度センサの検出温度が設定温度以上になると制御弁が開いて循環流路の高温の冷却液の一部が冷却槽に戻されるように形成され、冷却槽に戻された液量だけ冷却槽から調整槽に低温の冷却液が流入するように形成されている構成としたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の成形用金型の温度調整システムは上記のごとく構成されているので、冷却槽と区分けされた調整槽内の冷却液の循環によって金型が冷却され、金型温度により循環冷却液が設定温度以上に上昇すると循環流路の高温の冷却液の一部が冷却槽に戻されて、この戻された液量だけ冷却槽から調整槽に低温の冷却液が流入して調整槽内の循環冷却液を自動的に設定温度に調整することができ、これにより、高温域の金型温度を維持するに必要な高温の循環冷却液を、金型の廃熱を利用することによって省エネで得ることができると共に、調整槽と区分けされた冷却槽内の冷却液は低温を維持できるので、冷却装置の熱負荷を緩和することができてランニングコストの低減化を図ることができるといった効果がある。
【0008】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
上記発明において、前記冷却槽と調整槽が隔壁で区分けされた一体構造で形成するのが好ましい。
この2槽一体構造により、槽全体をコンパクトにして設置スペースを小さくすることができる。
【0009】
また上記発明において、冷却槽の液面が調整槽の液面より上位となるように配置され、冷却槽の上縁にオーバーフロー口が設けられてこのオーバーフロー口から溢れた分が調整槽に流入するように形成されている構成とするのがよい。
これにより、的確に循環流路から冷却槽に戻された液量だけ冷却槽から調整槽に低温の冷却液を流入させることができると共に、流入させるための口を簡単に形成することができる。
【0010】
また上記発明において、冷却槽内部に冷却液を冷却する冷却装置のエバポレータが配置されている構成とするのがよい。
これによりエバポレータが隠れて外観イメージがスマートになると共に、エバポレータを螺管式熱交換器で形成することにより螺管周面に氷を付着さて多量の冷熱を蓄熱させることができ、加えて、エバポレータを槽外部に設けた場合に比べ、冷却水を冷却槽に循環させるパイプラインやポンプを省略できて構成を簡略化することが可能となる。
【0011】
更に本発明では、冷却装置のエバポレータが冷却槽の外部に設けられ、該エバポレータにより冷却された冷却液が冷却槽に流入するように形成されている構成とすることもできる。
これにより、エバポレータに高い熱交換効率を有するプレート式熱交換器を採用することができるメリットがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において本発明にかかる成形用金型の温度調整システムについて図面に示した実施例に基づき説明する。
図1は本発明にかかる温度調整システムの第1の実施例を示す説明図であり、図2はそのブロック図である。符号1は冷却液を収納する冷却槽を示し、図2は同じく冷却液を収納する調整槽を示す。本実施例では、冷却槽1と調整槽2は隔壁3で区分けされた一体構造の槽で形成されており、冷却槽1の液面が調整槽の液面より上位となるように配置され、冷却槽1の隔壁の上縁が切除されてオーバーフロー口4を形成しており、このオーバーフロー口4から溢れた分が調整槽2に流入するように設けられている。
【0013】
符号5は冷却水を冷却する冷却装置であって、フロン等の冷媒を圧縮するコンプレッサ6と、コンプレッサからの圧縮冷媒を凝縮するコンデンサ7、螺管式のエバポレータ(熱交換器)8並びにこれら機器をつなぐ冷媒循環回路9とからなり、前記エバポレータ6が冷却槽1の内部に配置されて冷却槽内の冷却水を熱交換により直接冷却するように構成されている。尚、冷却装置5は冷媒の蒸発熱を利用した一般的なヒートポンプ式の冷却装置であるので、その詳細な説明は省略する。
【0014】
更にこの温度調節システムでは、調整槽2からポンプP、プラスチック成形機の金型10を通って調整槽2に戻る冷却液循環流路11と、この循環流路11の金型10に至る流路途中から分岐されて冷却槽に至る分岐流路12と、調整槽2内の冷却液の温度を検出する温度センサ15とが設けられている。更に、前記分岐流路12の途中に制御弁13が設けられ、この制御弁13から分配されて調整槽2に戻るバイパス流路14が設けられている。
【0015】
本実施例では制御弁13は、分岐流路12とバイパス流路14との分配弁としての機能を果たし、常時は分岐流路12の冷却槽1に至る流路が閉鎖され、バイパス流路14への流路は開いており、温度センサ15による調整槽内の冷却液の検出温度が所望の設定温度以上になると、分岐流路12の冷却槽1に至る流路が開放され、循環流路の冷却液の一部が冷却槽1に戻され、検出温度が設定温度以下になると冷却槽への分岐流路12が閉ざされるように設定されている。このような設定を制御する手段はプログラムを組み込んだコンピュータ制御によって容易に行うことができる。
尚、バイパス流路14は何らかの原因で金型10内の流路にトラブルが生じた場合に循環流路11の冷却液を調整槽2に還流させるためのものであり、バイパス流路中の流量はバルブ16によって適宜調整され、バイパスを必要としない場合はバルブ16が閉ざされている。尚、このバイパス流路14は本システムから省略することも可能である。
【0016】
本システムで使用される冷却液として、水にエチレングリコール等の不凍剤を混入した不凍液が使用されているが、同等の物性を有する液体であればどのようなものであってもよい。
【0017】
上記の構成において、金型10を循環する冷却液の検出設定温度を50℃に設定して駆動すると、調整槽2の冷却液がポンプPによって循環流路11を循環し、金型10を冷却する。この段階では、冷却槽1内の冷却液は冷却装置5のエバポレータ8によって低温、例えば−20℃に保持されており、調整槽2には流入していない。
【0018】
循環流路11から還流される調整槽2内の冷却液が金型の熱を吸収して50℃を超えると、温度センサ15によって温度が検出されて制御弁13の冷却槽1に至る流路が開放され、循環流路11の温度の高い冷却液の一部が冷却槽1に戻される。この戻された液量だけ冷却槽1内の液量が増加して液面が上昇し、オーバーフロー口4から溢れて調整槽2に流入して調整槽2内の液温が低下する。調整槽2内の冷却液が50℃以下になると、温度センサ15が検知して、制御弁13により冷却槽1に至る流路が閉ざされる。この動作の繰り返しにより金型10に流れる冷却液の温度を常に設定温度に自動調整することができる。
尚、制御弁13は、調整槽2内の冷却液が50℃以下になっても完全に閉じるのではなく、少量の冷却液が流通するように設定するようにするのが好ましい。これにより金型温度吸収による調整槽内の急激な温度上昇を抑えることができる。
【0019】
また、本実施例では、冷却槽1の内部に冷却装置5の螺管式エバポレータ8を配置して冷却液を直接冷却するようにしたので、エバポレータ8が隠れて外観イメージがスマートになると共に、エバポレータ8の螺管周面に氷を付着さて多量の冷熱を蓄熱することができ、加えて、後で述べるエバポレータを冷却槽外部に設置した場合のように、エバポレータと冷却槽とに冷却水を循環させるパイプラインやポンプを省略できて構成を簡略化することが可能となる。
【0020】
尚、図3に示すように、エバポレータ8を冷却槽1の外部に設置して、該エバポレータ8と冷却槽1とを冷却液循環パイプライン17でつなぎ、ポンプP1で冷却水を循環させるようにしてもよい。この場合は、先の実施例に比べて冷却水循環パイプライン17やポンプP1を必要とするが、エバポレータ8に高い熱交換効率を有するプレート式熱交換器を採用することができるメリットがある。
【0021】
本発明の金型温度調整システムにおいて、循環流路11中の高温冷却水を冷却槽1に導入させる手段は上記実施例に限定されるものでなく種々の手法が考えられる。
図4は図1並びに図2で示した実施例に若干の変更を加えたものであって、分岐流路12の途中に電磁開閉バルブ18と、この電磁開閉バルブ18と連動する調節弁19が設けられている。この電磁開閉バルブ18と調節弁19は先の実施例で示した制御弁13と同様の役目を果たすものであって、常時は電磁開閉バルブ18の作動により調節弁19が閉じるか小さく絞られており、温度センサによる調整槽2内の冷却液の検出温度が所望の設定温度以上になると、電磁開閉バルブ18が動作して調節弁19が開放され、循環流路11の高温冷却液の一部が冷却槽1に戻される。調整槽2の冷却液温度が設定温度以下になると電磁開閉バルブ18が動作して調節弁19が閉じるか、若しくは小さく絞られるように設定されている。従ってこの実施例でも、先の実施例と同様に金型10に流れる冷却液の温度を常に設定温度に自動調整することができる。尚図面中の符号20は金型に至る冷却液循環流路11から調整槽2に戻るバイパス流路を示す。
【0022】
図5は高温冷却水を冷却槽1に導入させる手段の更に別の実施例を示すものであって、調整槽2からポンプP、プラスチック成形機の金型10を通って調整槽2に戻る冷却液循環流路11と、この循環流路11の金型10から調整槽2に戻る流路途中から分岐されて冷却槽に至る分岐流路12とが設けられ、その分岐点に前記第1実施例と同様に温度センサ15の検出温度に応じて開閉動作する制御弁13が設けられている。尚、符号21は金型10に至る冷却液循環流路11から調整槽2に戻るバイパス流路である。
従ってこの実施例でも、先の実施例と同様に、金型10に流れる冷却液の温度を常に設定温度に自動調整することができる。
【0023】
また、図6は、図5で示した実施例に若干の変更を加えた実施例を示すものであって、調整槽2からポンプP、プラスチック成形機の金型10を通って調整槽2に戻る冷却液循環流路11と、金型10から調整槽2に戻る循環流路11の流路途中から分岐されて冷却槽1に至る分岐流路12とが設けられ、分岐点から調整槽2に至る循環流路11途中に電磁開閉バルブ18が設けられ、冷却槽1に至る分岐流路12に電磁開閉バルブ18と連動する調節弁19が設けられている。この電磁開閉バルブ18と調節弁19は先の実施例で示した制御弁13と同様の役目を果たすものであって、常時は電磁開閉バルブ18が開いて調節弁19が閉じており、循環流路11の高温冷却液は調整槽2に戻される。温度センサによる調整槽2内の冷却液の検出温度が所望の設定温度以上になると、電磁開閉バルブ18が動作して調節弁19が開放され、循環流路11の高温冷却液の一部が冷却槽1に戻される。調整槽2の冷却液温度が設定温度以下になると電磁開閉バルブ18が開くと同時に調節弁19が閉じるか、若しくは小さく絞られるように設定されている。従ってこの実施例でも先の実施例と同様に金型10に流れる冷却液の温度を常に設定温度に自動調整することができる。
【0024】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施例構造のみに特定されるものではない。例えば、上記した実施例では、調整槽2並びに循環流路11内の側冷却液の温度を検出する温度センサ15を調整槽2内に設置したが循環流路11に設置してもよく、或いは制御バルブ13に組み込んで形成することも可能である。その他本発明ではその目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、プラスチック射出成形機における金型の温度調整システムとして適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる金型温度調整システムの第1実施例を示す説明図。
【図2】上記第1実施例のブロック図。
【図3】本発明にかかる金型温度調整システムの別の実施例を示す説明図。
【図4】本発明にかかる金型温度調整システムの更に別の実施例を示すブロック図。
【図5】本発明にかかる金型温度調整システムの更に他の実施例を示すブロック図。
【図6】本発明にかかる金型温度調整システムの更に別の実施例を示すブロック図。
【符号の説明】
【0027】
P ポンプ
1 冷却槽
2 容器の蓋体
3 隔壁
4 オーバーフロー口
5 冷却装置
8 エバポレータ
9 コンベア昇降機構
10 金型
11 循環流路
12 分岐流路
13 制御弁
14 バイパス流路
15 温度センサ
18 電磁開閉バルブ18
19 調節弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却装置により冷却された冷却液を収納する冷却槽と、該冷却槽からの冷却液を収納する調整槽と、調整槽から金型を経て調整槽に戻る冷却液循環流路と、この循環流路の途中から分岐されて冷却槽に至る分岐流路と、該分岐流路の途中に設けられた制御弁と、前記循環流路内若しくは調整槽内の冷却液の温度を検出する温度センサとから成り、
前記温度センサの検出温度が設定温度以上になると制御弁が開いて循環流路の高温の冷却液の一部が冷却槽に戻されるように形成され、冷却槽に戻された液量だけ冷却槽から調整槽に低温の冷却液が流入するように形成されている成形用金型の温度調整システム。
【請求項2】
前記冷却槽と調整槽が隔壁で区分けされた一体構造で形成されている請求項1に記載の成形用金型の温度調整システム。
【請求項3】
冷却槽の液面が調整槽の液面より上位となるように配置され、冷却槽の上縁にオーバーフロー口が設けられてこのオーバーフロー口から溢れた分が調整槽に流入するように形成されている請求項1又は請求項2に記載の成形用金型の温度調整システム。
【請求項4】
冷却槽から金型に至る循環流路の途中から調整槽に還流するバイパス流路が設けられている請求項1〜請求項3に記載の成形用金型の温度調整システム。
【請求項5】
冷却槽内部に冷却液を冷却する冷却装置のエバポレータが配置されている請求項1〜請求項4に記載の成形用金型の温度調整システム。
【請求項6】
冷却装置のエバポレータが冷却槽の外部に設けられ、該エバポレータにより冷却された冷却液が冷却槽に流入するように形成されている請求項1〜請求項5に記載の成形用金型の温度調整システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−99844(P2010−99844A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270693(P2008−270693)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(390027915)ナックス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】