説明

成形装置

【課題】成形サイクルを短縮しつつも、簡素な構成を用いて優れた外観品質の光学部品を安定して成形できる成形装置を提供する。
【解決手段】断熱層52c、42cにより、型空間CVからコア型52,42への熱伝導が抑制されるので、溶融樹脂の温度が保たれ、コア型52,42の転写面形状を精度良く転写できる。又、高熱伝導母材52d、42dにより速やかに熱を分散させることで、溶融樹脂の熱がこもって局所的な偏りが生じることが抑制され、温度の不均一性を解消できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ等の光学部品を成形するのに好適な成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒケやウェルドラインの発生を抑制し、複屈折が小さい成形品を得る成形方法として、特許文献1が開示されている。この開示された技術は、誘導加熱により表面加工層のみを選択的に加熱することに関するものである。ここでは一例としては、シクロオレフィン系樹脂(Tg=138〜140℃)を誘導加熱により140℃以上の状態で充填し、樹脂の熱変形温度付近(約120〜125℃)まで冷却してから成形品を取出すことが示されている。しかしながら、この技術には欠点がある。具体的には、誘導加熱により所望の温度に到達するまでの時間や、成形品を安定して取り出せる温度に冷却するまでに時間を要し生産性が悪くなるということである。また、成形品の性能を安定させるために、誘導加熱による温度制御を安定させる必要もある。さらには、通常の金型温度制御装置とは別に、新たな誘導加熱するための温度制御装置が必要になり、また金型に誘導加熱のためのコイルを内蔵するため金型が複雑になり金型製作費が高くなり、加えて新たな生産設備が必要となるため成形品の製造コストが高くなる、という欠点がある。
【0003】
このように、成形品の外観品質を求める要求の一方で、成形サイクルの短縮を求める要求がある。しかるに、成形サイクルを短縮するには、一般的には金型を温度を下げることが考えられる。しかし、金型温度を下げていると、金型内に充填された樹脂の冷却が早くなり、フローマークやジェッティングなどの外観不良が発生する恐れが高まるため、金型温度を下げるには本来的に限界がある。これに対し、断熱層を有する断熱金型を用いて成形することで、樹脂からの熱の逃げを抑制し外観不良を抑制することが考えられる。しかしながら本発明者の検討によれば、断熱金型を用いて金型温度を下げて成形する場合、製品外形を形成する金型キャビティと、光学面を形成する転写面との間に、大きな温度ムラが発生し、複屈折劣化することが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−127175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、成形サイクルを短縮しつつも、簡素な構成を用いて優れた外観品質の光学部品を安定して成形できる成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の成形装置は、光学部品を成形する金型を備えた成形装置において、
前記金型は、光学部品を成形する転写面側から順に、表面加工層、熱伝導度が20W/m・K以下である断熱層、熱伝導度が70W/m・K以上である高熱伝導母材を有し、
成形時における前記金型の温度を、成形しようとする光学部品の素材のガラス転移点温度Tgより低く設定することを特徴とする。
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、単に熱伝導度が20W/m・K以下である断熱層のみを金型に設けただけでは、加熱溶融された光学部品の素材を成形する際に、その熱がこもって局所的な偏りが生じ、これにより温度の不均一を招き、複屈折が生じることを突き止めたのである。そして、かかる知見に基づき、金型の母材を熱伝導度が70W/m・K以上である高熱伝導性の素材から形成することを導出したのである。つまり、成形時に金型に供給された光学部品の素材の熱がこもって局所的な偏りが生じる前に、断熱層の裏側に設けられた高熱伝導母材により速やかに熱を分散させ、温度の不均一性を解消するようにしたのである。これにより、成形品においてヒケやウェルドラインの発生が抑制され、成形歪みが小さく複屈折が小さい成形品が得られる。又、断熱層を設けることで、成形時における前記金型の温度をガラス転移点温度Tgより低くできるので、大量の熱移動を伴う加熱冷却が不要になり成形サイクルを短くできる。
【0008】
本発明によると、製品となる光学部品の外観品質や複屈折などの光学特性を損なうことなく冷却時間を短縮でき、サイクルが短い成形により、高い生産性を可能にする。例えば、従来の成形サイクルを半分にできると、金型の製作数を半分に削減できるからコストを半分にでき、さらには1度の成形で複数の光学部品を成形する場合、金型のキャビティ数を半分にしても、同じ時間で同じ個数の光学部品を成形できる。金型のキャビティ数が多くなるに連れて、キャビティ間の成形条件に偏りが生じるから、全てのキャビティに適した成形条件を見つけるのが困難になるが、キャビティ数を減らすことで、容易に成形条件を求めることができ、また生産維持・管理工数の削減が可能となる。高熱伝導母材の熱伝導率を100W/m・K以上とすれば、光学特性を損なうことなく冷却時間をさらに短縮できるので、より好ましい。
【0009】
請求項2に記載の成形装置は、請求項1に記載の発明において、成形時における前記金型の温度は、前記ガラス転移点温度Tgより20〜70℃低いことを特徴とする。前記ガラス転移点温度Tgより20℃以上低くすることで、成形サイクルを有効に減少させることが出来、前記ガラス転移点温度Tgより70℃以下で高くすることで、光学部品の外観品質を確保できる。前記ガラス転移点温度Tgより30〜60℃低くすると、より好ましい。
【0010】
請求項3に記載の成形装置は、請求項1又は2に記載の発明において、前記高熱伝導母材は、銅合金または超硬合金で形成されていることを特徴とする。これにより、金型母材としての機械物性や加工性と高熱伝導率を兼ね備えた金型母材を得ることができる。
【0011】
請求項4に記載の成形装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記金型は、一対設けられ、互いに対して相対的に可動となっており、前記金型は、コア型と、前記コア型の周囲に配置される外周型とを有し、前記コア型が、前記表面加工層と、前記断熱層と、前記高熱伝導母材とを有することを特徴とする。前記コア型が、前記表面加工層と、前記断熱層と、前記高熱伝導母材とを有すれば、既存の成形装置でも、コア型だけを入れ替えれば同じ効果を得ることができ、新たな設備が不要となる。
【0012】
請求項5に記載の成形装置は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記表面加工層の面粗さは、Ra0.1μm以下であることを特徴とする。これにより成形された光学部品に高精度な鏡面を与えることができる。Ra0.05μm以下であれば、より好ましい。
【0013】
請求項6に記載の成形装置は、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記表面加工層の厚みが、0.1μm〜1mmであることを特徴とする。前記表面加工層の厚みが、0.1μm以上であれば、回折構造を転写するための微細構造を加工でき、一方、1mm以下であれば、例えば断熱層の効果を維持できる。前記表面加工層の厚みを0.1μm〜300μmとすると、より好ましい。
【0014】
請求項7に記載の成形装置は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記断熱層の厚みが、0.1mm〜10mmであることを特徴とする。前記断熱層の厚みが、0.1mm以上であれば、十分な断熱効果を発揮でき、一方、10mm以下であれば、例えば光学部品の成形でも温度の不均一を抑制できる。前記断熱層の厚みを、0.1mm〜1mmとすると好ましい。
【0015】
請求項8に記載の成形装置は、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、温度調整された液体を循環させることで前記金型の温度調整を行う温度調整装置を有することを特徴とする。これにより、成形時における前記金型の温度を、成形しようとする光学部品の素材のガラス転移点温度Tgより低い任意の値に維持することができる。
【0016】
高熱伝導母材としては、銅合金、超硬合金(WC)の他に、アルミ合金、AlNセラミックス、Mg合金、銅タングステン(CuW)、銅モリブデン(CuMo)、SiC、Al−SiCなども用いることができる。また国際公開WO2009/051094号公報、特開2010−248064に示されているような黒鉛と金属との焼結成形体なども用いることができる。
【0017】
断熱層としては、熱伝導度が20W/m・k以下のPI(ポリイミド)の他に、ジルコニア、チタン合金、強化ガラス、窒化珪素などを用いることができる。ジルコニアとしては、酸化イットリウムや酸化アルミニウム、酸化マグネシウムで安定化されたものが好適である。
【0018】
表面加工層は、高熱伝導の金型母材に断熱層を形成後、Ni合金メッキを施し、その表面に機械加工を行っても良い。このとき断熱層がポリイミドであればスピンコートや、ポリイミドフィルムを接着することで形成できる。また、ジルコニア層であれば、溶射により形成してもよいし、ジルコニアの焼結体などを接着・接合しても良い。
【0019】
金型温度は、素材のガラス転移点温度(Tg)よりも30℃〜60℃、荷重たわみ温度よりも10℃から40℃低く設定しても良い。冷却時間を短く出来る効果がより得られる。
【0020】
成形に用いる樹脂材料は、PC、PMMA、COP、COC、変性PC、変性ポリエステルなどの熱可塑性樹脂を好適に用いることができる。
【0021】
光学素子には、レンズや平行平板素子の他、医療用チップなどの透明光学素子も含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、成形サイクルを短縮しつつも、簡素な構成を用いて優れた外観品質の光学部品を安定して成形できる成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態にかかる成形装置100の概略図である。
【図2】成形状態における固定金型50及び可動金型40の断面図である。
【図3】成形装置100の動作を説明するフローチャートである。
【図4】変形例にかかる金型の断面図である。
【図5】変形例にかかる金型の断面図である。
【図6】変形例にかかる金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態にかかる成形装置100の概略図である。成形装置100は、射出成形を行って成形品MPを作製する本体部分である射出成形機10と、射出成形機10から成形品MPを取り出す付属部分である取出し装置20と、成形装置100を構成する各部の動作を統括的に制御する制御装置30とを備える。
【0025】
射出成形機10は、固定盤11と、可動盤12と、型締め盤13と、開閉駆動装置15と、射出装置16とを備える。射出成形機10は、可動盤12と固定盤11との間に可動金型40と固定金型50を挟持して両金型40,50を型締めすることにより成形を可能にする。
【0026】
固定盤11は、可動盤12に対向して支持フレーム14の中央に固定されており、取出し装置20をその上部に支持する。固定盤11は、固定金型50を着脱可能に支持している。なお、固定盤11は、タイバーを介して型締め盤13に固定されており、成形時の型締めの圧力に耐え得るようになっている。なお、成形品MPは、光学部品としてのレンズOLを複数備えるものであり、これら複数のレンズOLは、成形時に付随して形成されるスプルやランナを介して互いに連結されている。
【0027】
可動盤12は、スライドガイド15aによって固定盤11に対して進退移動可能に支持されている。可動盤12は、可動金型40を着脱可能に支持している。可動盤12には、その背面にエジェクタ70が設けられている。エジェクタ70は、可動金型40内の成形品MPのランナ部をエジェクタピン71によって固定金型50側に押し出すことができ、取出し装置20による移送を可能にする。なお、成形品を金型から押し出す方法としては、エジェクタピン71による方法のほか、コア型を突き出す方法などでもよい。
【0028】
型締め盤13は、支持フレーム14の端部に固定されている。型締め盤13は、型締めに際して、開閉駆動装置15の動力伝達部15dを介して可動盤12をその背後から支持する。
【0029】
開閉駆動装置15は、スライドガイド15aと、動力伝達部15dと、アクチュエータ15eとを備える。スライドガイド15aは、可動盤12を支持するとともに可動盤12の固定盤11に対する進退方向に関する滑らかな往復移動を可能にしている。動力伝達部15dは、制御装置30の制御下で動作するアクチュエータ15eからの駆動力を受けて伸縮する。これにより、固定盤11に対して可動盤12が近接したり離間したり自在に進退移動し、結果的に、固定盤11と可動盤12とを互いに近接・離間して固定金型50と可動金型40との型締め及び型開きを行う。
【0030】
射出装置16は、シリンダ16a、原料貯留部16b、スクリュ16c、樹脂射出端16dを備える。射出装置16は、制御装置30の制御下で適当なタイミングで動作するものであり、樹脂射出端16dから温度制御された状態で溶融樹脂を吐出することができる。射出装置16は、シリンダ16aの樹脂射出端16dを固定盤11に対して分離可能に接続することができ、固定盤11を介して、固定金型50と可動金型40とを型締めした状態で形成される型空間CV(図2参照)に連通する流路部分に対して溶融樹脂を所望のタイミングで供給することができる。
【0031】
温度調節装置17は、射出成形機10の金型40,50の温度を調節する部分である。温度調節装置17は、温調回路を有しており、固定金型50と可動金型40との温度調節が可能になっている。具体的には、例えば固定側外周型51と可動側外周型41とに設けた流体循環路51a、41a(図2参照)に温度調節媒体(油、水等)を供給することにより、固定金型50と可動金型40とを必要な温度まで加熱する。なお、媒体を用いずにヒータ等を用いて温度調節をしてもよい。
【0032】
取出し装置20は、成形品MPを把持することができるハンド21と、ハンド21を3次元的に移動させる3次元駆動装置22とを備える。取出し装置20は、制御装置30の制御下で適当なタイミングで動作するものであり、固定金型50と可動金型40とを離間させて型開きした後に、可動金型40に残る成形品MPを把持して外部に搬出する役割を有する。
【0033】
制御装置30は、開閉制御部31と、射出装置制御部32と、エジェクタ制御部33と、取出し装置制御部34とを備える。開閉制御部31は、アクチュエータ15eを動作させることによって両金型40,50の型締めや型開きを可能にする。射出装置制御部32は、スクリュ16c等を動作させることによって両金型40,50間に形成された型空間CV中に所望の圧力で樹脂を注入させる。また、樹脂充填後の保圧の際に一定の保圧値で型空間CV内を保圧する。エジェクタ制御部33は、エジェクタ70を動作させることによって型開き時に可動金型40に残る成形品MPを可動金型40内から押し出させる。取出し装置制御部34は、取出し装置20を動作させることによって型開き及び離型後に可動金型40に残る成形品MPを把持して射出成形機10外に搬出させる。
【0034】
図2は、成形状態における固定金型50及び可動金型40の断面図である。固定金型50と可動金型40とは、パーティングラインPLを境として開閉可能になっている。
【0035】
両金型41,42に挟まれた空間である型空間CVは、成形品である光学部品としてのレンズの形状に対応するものとなっている。成形されるレンズは、例えば光ピックアップ装置用の対物レンズであり、BD用の波長の光束に対してNA0.85以上を満たすレンズである。
【0036】
固定金型50は、固定側の入れ子としてのコア型52と、固定側の入れ子を支持して一体に固定することを可能とした構造を有する外周型51と、外周型51及びコア型52を一体に固定し成形機のプラテンへ取り付けるための取付板53と、外周型51を保持する型板54を備える。ここで、外周型51と取付板53とは、入れ子としてのコア型52を周囲から保持し固定する型部材である。
【0037】
外周型51は、パーティングラインPLを形成する端面51bを有する。また、外周型51の先端には、フランジ成形面51cが設けられている。また、外周型51内部には、コア型52を挿入支持する円柱状の貫通孔であるコア挿通孔51cが形成されている。なお、外周型51は、STAVAX(ウッデホルムス社の登録商標)などのSUS系の鋼等で構成されている。
【0038】
コア型52は、コア挿通孔51cに嵌合可能な円筒状の外周側面を有しており、コア型52の先端には、型空間CVを形成するための光学面転写面52aが設けられている。この光学面転写面52aは、凹面であり、成形するレンズの一方の光学面を成形する転写面である。
【0039】
コア型52は、光学面転写面52a側から順に、表面加工層52b、断熱層52c、高熱伝導母材52dから構成されている。
【0040】
取付板53は、軸線方向に延在するスプルーSPと半径方向に延在するランナーRNを内部に形成し、端面51b、41bの間に形成されたゲートGTを介して、外部の射出装置16と型空間CVとを連通している。
【0041】
高熱伝導母材52dは、入れ子であるコア型52を構成する主部であり、熱伝導度が70W/m・K以上である高熱伝導材料、具体的には銅合金で構成されている。
【0042】
断熱層52cは、高熱伝導母材52dよりも熱伝導度が低く、表面加工層52bと高熱伝導母材52dとの間に挟まれて、成形中のレンズの急速な冷却を防止する断熱層としての役割を有する。断熱層52cの形状は、型空間CVの形状に対応している。具体的には、断熱層52cは、光学面転写面52a全体とフランジ面成形面51cの一部に亘って連続的に形成され、その厚さは0.1mm以上、1mm以下で略一様である。なお、断熱層52cの熱伝導率は、20W/m・K以下の低熱伝導率材料で構成され、例えばジルコニアやアルミナ等のセラミックス、ポリイミド等の樹脂材料を用いて形成することができる。
【0043】
表面加工層52bは、光学面転写面52a及びフランジ面成形面51cを形成するための層である。表面加工層52bの表面は、光学面転写面52a及びフランジ面成形面51cの一部とに亘って連続的に延びている。表面加工層52bは、その面粗さが、0.1μm以下であり、その厚みが、0.1μm〜1mmである。尚、成形するレンズの薄肉部は薄くし、厚肉部は厚くしても良い。表面加工層52b、鏡面加工性に優れ、工具磨耗が小さい切削性の良い材料として、ニッケルリンメッキ層で形成されている。ニッケルリンメッキ層は、無電解ニッケルメッキ法を用いて形成される。このニッケルリンメッキ層の表面加工によって、ニッケルリンメッキ層の表面として精密な形状を有する光学面転写面52aが形成されている。さらに、光学面転写面52aは、樹脂系の材料で形成された薄い離型膜でコートすることができる。
【0044】
なお、表面加工層52bは、メッキの剥離を防止するため、コア型52を覆うようにコア型52と外周型51との間にも設けられている。
【0045】
可動金型40は、可動側の入れ子としてのコア型42と、可動側の入れ子を支持して一体に固定することを可能とした構造を有する外周型41と、外周型41及びコア型42を一体に固定し成形機のプラテンへ取り付けるための取付板43と、外周型を保持する型板44を備える。ここで、外周型41と取付板43とは、入れ子としてのコア型42を周囲から保持し固定する型部材である。
【0046】
外周型41は、パーティングラインPLを形成する端面41bを有する。また、外周型41の先端には、フランジ成形面41dが設けられている。また、外周型41内部には、コア型42を挿入支持する円柱状の貫通孔であるコア挿通孔41cが形成されている。なお、外周型41は、STAVAXなどのSUS系の鋼等で構成されている。
【0047】
コア型42は、コア挿通孔41cに嵌合可能な円筒状の外周側面を有しており、コア型42の先端には、型空間CVを形成するための光学面転写面42aが設けられている。この光学面転写面42aは、光学面転写面52aとは曲率が異なる凹面であり、成形するレンズの他方の光学面を成形する転写面である。
【0048】
コア型42は、光学面転写面42a側から順に、表面加工層42b、断熱層42c、高熱伝導母材42dから構成されている。
【0049】
高熱伝導母材42dは、入れ子であるコア型42を構成する主部であり、熱伝導度が70W/m・K以上である高熱伝導材料、具体的には銅合金で構成されている。
【0050】
断熱層42cは、高熱伝導母材42dよりも熱伝導度が低く、表面加工層42bと高熱伝導母材42dとの間に挟まれて、成形中のレンズの急速な冷却を防止する断熱層としての役割を有する。断熱層42cの形状は、型空間CVの形状に対応している。具体的には、断熱層42cは、光学面転写面42a全体とフランジ面成形面41cの一部に亘って連続的に形成され、その厚さは0.1mm以上、1mm以下で略一様である。なお、断熱層42cの熱伝導率は、20W/m・K以下の低熱伝導率材料で構成され、例えばジルコニアやアルミナ等のセラミックス、ポリイミド等の樹脂材料を用いて形成することができる。
【0051】
表面加工層42bは、光学面転写面42a及びフランジ面成形面41cを形成するための層である。表面加工層42bの表面は、光学面転写面42a及びフランジ面成形面41cの一部とに亘って連続的に延びている。表面加工層42bは、その面粗さが、Ra0.1μm以下であり、その厚みが、0.1μm〜1mmである。尚、成形するレンズの薄肉部は薄くし、厚肉部は厚くしても良い。表面加工層42b、鏡面加工性に優れ、工具磨耗が小さい切削性の良い材料として、ニッケルリンメッキ層で形成されている。ニッケルリンメッキ層は、無電解ニッケルメッキ法を用いて形成される。このニッケルリンメッキ層の表面加工によって、ニッケルリンメッキ層の表面として精密な形状を有する光学面転写面42aが形成されている。さらに、光学面転写面42aは、樹脂系の材料で形成された薄い離型膜でコートすることができる。
【0052】
なお、表面加工層42bは、メッキの剥離を防止するため、コア型42を覆うようにコア型42と外周型41との間にも設けられている。
【0053】
図3は、成形装置100の動作を説明するフローチャートである。まず、図3に示すように、成形装置100の温度調節装置17を動作させ、両金型40,50を成形に適する温度(素材のガラス転移点温度より20〜70℃低い温度)まで加熱する(ステップS10)。尚、平滑面で成形サイクルを短くしたい場合は、熱変形温度よりも低くするのが望ましい。特に、回折構造等に対応した微細形状の転写性が要求される場合には、ガラス転移点温度Tgに近い温度とすると良い。
【0054】
次に、開閉駆動装置15を動作させ、可動盤12を前進させて型閉じを開始させる(ステップS11)。開閉駆動装置15の閉動作を継続することにより、固定金型50と可動金型40とが接触する型当たり位置まで可動盤12が固定盤11側に移動して型閉じが完了し、開閉駆動装置15の閉動作を更に継続することにより、固定金型50と可動金型40とを必要な圧力で締め付ける型締めが行われる(ステップS12)。
【0055】
型締め後、射出成形機10において、射出装置16を動作させて、型締めされた固定金型50と可動金型40との間の型空間CV中に、加熱された溶融樹脂を必要な圧力で注入する射出を行わせる(ステップS13)。これにより、型締めされたスプルーSP、ランナーRN及びゲートGTを介して、固定金型50と可動金型40との間の型空間CV中に樹脂が充填される充填工程が行われる。充填工程後、射出成形機10は、型空間CV中の樹脂圧を必要なレベルに保つ(ステップS14)。
【0056】
成形金型40は、温度調節装置17により、型空間CVや金型が適度に加熱されており、射出装置16から供給される溶融樹脂が緩やかに冷却され、かかる冷却にともなって溶融樹脂が固化し成形が完了するのを待つ(ステップS15)。このとき断熱層52c、42cにより、型空間CVからコア型52,42への熱伝導が抑制されるので、溶融樹脂の温度が保たれ、コア型52,42の転写面形状を精度良く転写できる。又、高熱伝導母材52d、42dにより速やかに熱を分散させることで、溶融樹脂の熱がこもって局所的な偏りが生じることが抑制され、温度の不均一性を解消できる。これにより、成形品においてヒケやウェルドラインの発生が抑制され、成形歪みが小さく複屈折が小さい成形品が得られる。又、断熱層を設けることで、成形時における金型の温度をガラス転移点温度Tgより低くできるので、大量の熱移動を伴う加熱冷却が不要になり成形サイクルを短くできる。
【0057】
成形完了後、型締めを終了し、開閉駆動装置15を動作させて、可動盤12を後退させる型開きが行われる(ステップS16)。これに伴って、可動金型40が後退し、固定金型50と可動金型40とが離間する。この結果、成形品すなわちレンズは、可動金型40に保持された状態で固定金型50から離型される。次に、射出成形機10において、エジェクタ70を動作させて、成形品の突き出しを行わせる(ステップS17)。具体的には、成形品のスプル部等が、エジェクタピン71による突き出しによって可動金型40から離型される。成形品を可動金型40から離型した後、取出し装置20を動作させて、突き出された成形品の適所をハンド21で把持して外部に搬出する(ステップS18)。
【0058】
(実施例) 本発明者が行った実施例と比較例とを比較して評価した結果を、表1に示す。
表1における評価項目は、冷却時間の短縮効果と、外観、複屈折である。冷却時間の短縮効果については、成形後の冷却条件を短くしていった際における金型から取り出した直後の各条件の成形品(ここでは平行平板とした)温度を、サーモグラフィーで測定することで求めた。すなわち各金型構成/金型温度条件において、荷重たわみ温度よりも成形品の温度が下がるまでに必要となる冷却時間を求めた。外観については、ゲート付近に発生するフローマーク/ジェッティングの発生状況を比較している。これらの外観不良は、比較例1のような一般的な金型構成/金型温度条件では、ゲート部分を通過する際の射出速度を一旦遅くすることで低減・解消することができる。複屈折については、直交ニコルによる観察により評価を行い、比較例1との相対比較の結果を表している。尚、成形する素材にはガラス転移点温度Tgが145℃のポリカーボネート樹脂を用い、成形条件は、樹脂温度が290℃、保圧条件は80〜90MPaである。
【0059】
【表1】

[仕様]
比較例1(従来技術):金型の表面層はニッケルメッキ(厚さ0.05mm、熱伝導度8.4W/m・K)、母材はSTAVAX(厚さ10mm、熱伝導度=23W/m・K)であり、金型温度は120℃とした。
比較例2:金型の表面層はニッケルメッキ(厚さ0.05mm)、母材は銅合金(日立製作所製HIT MAX、熱伝導度=198.7W/m・K、厚さ10mm)であり、金型温度は120℃とした。
比較例3:金型の表面層はニッケルメッキ(厚さ0.05mm)、母材はSTAVAX(厚さ10mm、熱伝導度=23W/m・K)であり、金型温度は110℃とした。
比較例4:金型の表面層はニッケルメッキ(厚さ0.05mm)、母材はZrO2(厚さ10mm、熱伝導度=3W/m・K)であり、金型温度は100℃とした。
比較例5:金型の表面層はニッケルメッキ(厚さ0.05mm)、断熱層はポリイミド(厚さ0.04mm、熱伝導度=0.3W/m・K)、母材はSTAVAX(厚さ10mm、熱伝導度=23W/m・K)であり、金型温度は100℃とした。
実施例:金型の表面層はニッケルメッキ(厚さ0.05mm)、断熱層はポリイミド(厚さ0.04mm、熱伝導度=0.3W/m・K)、母材は銅合金(日立製作所製HIT MAX、熱伝導度=198.7W/m・K、厚さ10mm)であり、金型温度は100℃とした。
【0060】
[考察]
従来技術に対応する比較例1(冷却時間は100秒)を基本として評価を行ったところ、母材を、高熱伝導度を有する銅合金に変更した比較例2の場合、冷却時間は20秒短縮されるが、外観品質が劣化することが分かった。又、比較例1に対して、金型温度を10℃低下させた比較例3の場合、冷却時間は50秒短縮されるが、外観品質が劣化し、複屈折も比較例1よりも悪化することが分かった。更に、比較例1に対して、母材をZrO2に変更し、金型温度を20℃低下させた比較例4の場合、冷却時間は10秒短縮され、外観品質は維持されるが、複屈折が比較例1よりも悪化することがわかった。又、比較例1に対して、表面層と母材との間に断熱層を設け、金型温度を20℃低下させた比較例5の場合、冷却時間は50秒短縮され、外観品質は維持されるが、複屈折が比較例1よりも悪化することがわかった。これに対し、比較例1に対して、母材を、高熱伝導度を有する銅合金に変更し、表面層と母材との間に断熱層を設け、金型温度を20℃低下させた実施例の場合、冷却時間は70秒短縮され、外観品質が維持され、複屈折も比較例1と同程度に良好であることがわかった。これにより本発明の効果が確認できた。
【0061】
上述した実施の形態では、金型の転写面を非球面形状で示したが、図4に示すような平面や、球面、自由曲面でも同様の効果が得られる。又、表面層にブレーズ、回折等の微細形状が形成されていても良い。
【0062】
また、表面加工層は電鋳方式により形成しても良い。図5に示すように、製品形状と略同じ形状で加工されたマスターにNi合金メッキを電鋳により所望の厚みに形成し、その積層表面を均一に加工し、脱型して得られるスタンパーとして使用しても良い。この場合、予め形成・金型に組み込まれた「高熱伝導母材+断熱層」のコアに、先で得られたスタンパーをボルトなどで直接又は、爪部を有する固定部材FXを介して間接的に固定するか、真空吸着等により接触させることで成形可能となる。
【0063】
また、図6に示すように、表面加工層は電鋳方式により形成し、その裏面に断熱層を貼り付けても良い。製品形状と略同じ形状で加工されたマスターにNi合金メッキを電鋳により積層し、その上から断熱層(更には高熱伝導層)を形成した後に、マスターを脱型することで、断熱層を付与したスタンパーを得ることができる。各層の形成後、表面を均一にするための加工を入れても良い。その場合、予め形成・金型に組み込まれた「高熱伝導母材」のコアに、得られた断熱層つきのスタンパーをボルトなどで直接又は、爪部を有する固定部材FXを介して間接的に固定するか、真空吸着等により接触させることで成形可能となる。
【0064】
本発明は、明細書に記載の実施例に限定されるものではなく、他の実施例・変形例を含むことは、本明細書に記載された実施例や思想から本分野の当業者にとって明らかである。明細書の記載及び実施例は、あくまでも例証を目的としており、本発明の範囲は後述するクレームによって示されている。
【符号の説明】
【0065】
10 射出成形機
11 固定盤
12 可動盤
13 型締め盤
14 支持フレーム
15 開閉駆動装置
15a スライドガイド
15d 動力伝達部
15e アクチュエータ
16 射出装置
16a シリンダ
16b 原料貯留部
16c スクリュ
16d 樹脂射出端
17 温度調節装置
20 取り出し装置
21 ハンド
22 3次元駆動装置
30 制御装置
31 開閉制御部
32 射出装置制御部
33 エジェクタ制御部
34 装置制御部
40 可動金型
41 外周型
41b 端面
41c コア挿通孔
41d フランジ成形面
42 コア型
42a 光学面転写面
42b 表面加工層
42c 断熱層
42d 高熱伝導母材
43 取付板
44 型板
50 固定金型
51 外周型
51a 流体循環路
51b 端面
51c コア挿通孔
51d フランジ成形面
52 コア型
52a 光学面転写面
52b 表面加工層
52c 断熱層
52d 高熱伝導母材
53 取付板
54 型板
70 エジェクタ
71 エジェクタピン
CV 型空間
FX 固定部材
GT ゲート
PL パーティングライン
SP スプルー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部品を成形する金型を備えた成形装置において、
前記金型は、光学部品を成形する転写面側から順に、表面加工層、熱伝導度が20W/m・K以下である断熱層、熱伝導度が70W/m・K以上である高熱伝導母材を有し、
成形時における前記金型の温度を、成形しようとする光学部品の素材のガラス転移点温度Tgより低く設定することを特徴とする成形装置。
【請求項2】
成形時における前記金型の温度は、前記ガラス転移点温度Tgより20〜70℃低いことを特徴とする請求項1に記載の成形装置。
【請求項3】
前記高熱伝導母材は、銅合金、または超硬合金で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形装置。
【請求項4】
前記金型は、一対設けられ、互いに対して相対的に可動となっており、前記金型は、コア型と、前記コア型の周囲に配置される外周型とを有し、前記コア型が、前記表面加工層と、前記断熱層と、前記高熱伝導母材とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成形装置。
【請求項5】
前記表面加工層の面粗さは、Ra0.1μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成形装置。
【請求項6】
前記表面加工層の厚みが、0.1μm〜1mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の成形装置。
【請求項7】
前記断熱層の厚みが、0.1mm〜10mmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の成形装置。
【請求項8】
温度調整された液体を循環させることで前記金型の温度調整を行う温度調整装置を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−75457(P2013−75457A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217257(P2011−217257)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】