説明

成膜マスク、及び成膜マスクの製造方法

【課題】単結晶半導体基板を分割して得られた成膜マスクであって、分割時に生じるバリ等で表面の平滑性が損われない成膜マスク。
【解決手段】支持基板30と支持基板30に取り付けられた複数のチップ20とからなり、被成膜基板42に対向する第1表面11と膜材料源に対向する第2表面12とを有する成膜マスク10であって、チップ20は、単結晶半導体基板7に枠状の溝16を第1表面11側から形成後、溝16に外力を加えて破断分割して得られたチップ20であり、チップ20の側面部は溝16の一部である平滑面19と破断分割時に生じた破断面18とを有しており、破断面18は第1表面11側には形成されていないことを特徴とする成膜マスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜マスク、及び成膜マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大画面のFPD(フラットパネルディスプレイ)に用いる表示装置として、有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置が注目されている。有機EL装置は、一般的に陽極と少なくとも有機EL層を含む発光機能層と陰極とを積層してなる有機EL素子を、基板上に規則的に配置して形成されている。
有機EL装置をカラー化する手法としては、白色光を射出する有機EL素子とカラーフィルターとを組み合わせる手法と、赤色光を射出する有機EL素子と緑色光を射出する有機EL素子と青色光を射出する有機EL素子の3種類の有機EL素子を規則的に配置する手法がある。後者の手法では、3種類の有機EL素子毎に異なる材料を含む有機EL層を形成することが必要となる。そのため、上述の基板に、各々の有機EL素子の画素領域に対応する開口部を有するマスクを被せて、該マスク越しに有機EL材料を堆積させるマスク蒸着法(あるいはマスクスパッタ法)が研究されている。
【0003】
かかるマスク(成膜マスク)の形成材料としては、単結晶シリコン(珪素)が好適である。単結晶シリコンは面方位によりエッチングレートが大きく異なるため、上述の開口部を高い精度で形成できる。また、シリコンは熱膨張係数がガラスと略同一であるため、成膜時の熱膨張によるパターン精度の低下を抑制できる。ここで、単結晶シリコンのインゴットの直径は現行では最大で300mmであるため、そのままでは有機EL装置の大画面化に対応することが困難である。そのため、単結晶シリコン基板を用いて形成されたチップと単結晶シリコンを除く他の材料を用いて形成された支持体とを組み合わせて大面積の成膜マスクを形成する手法が紹介されている(特許文献1)。
上述のチップは、単結晶シリコン基板に、規則的に並ぶ一群の開口部と将来的にチップと成る複数の領域間を区画するミシン目を形成後、該ミシン目に外力を加えて単結晶シリコン基板を破断分割(以下、単に「分割」と称する。)することで得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−276480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の手法で形成された成膜マスクは、上述の分割時の屑等により、被成膜基板との密着が損われる可能性があるという問題がある。ミシン目とは、直線状に連続して形成された、基板の表面と裏面との間を貫通する孔(あるいはスリット)であるため、隣り合う該孔間の部分も基板の表面から裏面まで存在している。かかる部分は単結晶シリコン基板をチップごとに分割する際にバリ等となり得るため、チップ表面の平滑性を損い得る。その結果、被成膜基板に形成される有機EL層のパターン精度が低下し得ることとなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例にかかる成膜マスクは、支持基板と該支持基板に取り付けられた複数のチップとからなり、被成膜基板に対向する第1表面と膜材料源に対向する第2表面とを有する成膜マスクであって、上記チップは、単結晶半導体基板に枠状の溝を上記第1表面側から形成後、該溝に外力を加えて破断分割して得られたチップであり、上記チップの側面部は上記溝の一部である平滑面と上記破断分割時に生じた破断面とを有しており、上記破断面は上記第1表面側には形成されていないことを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、上記第1表面側におけるバリ等の発生を抑制できる。したがって、かかる成膜マスクを用いることで、被成膜基板に形成されるパターンの精度を向上できる。
【0009】
[適用例2]上述の成膜マスクであって、上記チップは、上記第2表面まで達する貫通溝と該第2表面まで達しない堀溝とが混在する上記溝を形成後に該溝に外力を加えて破断分割して得られたチップであることを特徴とする成膜マスク。
【0010】
このような構成によれば、上記チップの側面部における上記平滑面が占める割合を増加させることができる。したがって、上記第1表面側におけるバリ等の発生をより一層抑制できる。
【0011】
[適用例3]上述の成膜マスクであって、上記単結晶半導体基板は面方位を(110)面とする単結晶半導体基板であり、上記チップは平面視で矩形であって、該矩形を形成する相対向する2対の辺の内の一対の辺における上記側面部の面方位は(111)面であり、上記堀溝は該(111)面にのみ形成されていることを特徴とする成膜マスク。
【0012】
このような構成によれば、上記破断面が形成される面の面方位を(111)面に限定できる。したがって、上記第1表面側におけるバリ等の発生をより一層抑制できる。
【0013】
[適用例4]本適用例にかかる成膜マスクの製造方法は、支持基板と、該支持基板に取り付けられた単結晶半導体基板を分割して得られた複数のチップと、からなる成膜マスクの製造方法であって、面方位が(110)面である上記単結晶半導体基板の第1表面側に将来的にチップとなる領域を囲む平面視略矩形の枠状の溝を形成する第1の工程と、上記溝に外力を加えることにより上記単結晶半導体基板を破断分割してチップとする第2の工程と、上記チップを上記第1表面が被成膜基板側を向くように上記支持基板に取り付ける第3の工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
このような製造方法であれば、被成膜基板と破断面とが接触しない成膜マスクを得ることができる。かかる成膜マスクを用いることで、被成膜基板の表面に高精細な材料パターンを形成できる。
【0015】
[適用例5]上述の成膜マスクの製造方法であって、上記第1の工程は、上記枠状の溝を、該枠状の溝を構成する相対向する2対の溝の内の一対の溝が、上記単結晶半導体基板の基板面における結晶線の方向に沿って延在するように形成する工程であることを特徴とする成膜マスクの製造方法。
【0016】
このような製造方法であれば、上記一対の溝において形成される破断面の面方位を(111)面とすることができる。したがって、バリ等の発生が低減された成膜マスクを得ることができる。
【0017】
[適用例6]上述の成膜マスクの製造方法であって、上記第2の工程を実施する前に、上記枠状の溝の一部を、上記第1表面から該第1表面の反対側の面である第2表面までを貫通する貫通溝とする第4の工程をさらに実施することを特徴とする成膜マスクの製造方法。
【0018】
このような製造方法であれば、破断分割後の上記チップの周囲に占める破断面の割合を低減できる。したがって、バリ等の発生がより一層低減された成膜マスクを得ることができる。なお、上述したように、貫通溝とならない領域は堀溝となる。
【0019】
[適用例7]上述の成膜マスクの製造方法であって、上記第4の工程は、上記単結晶半導体基板の基板面における結晶線の方向に対して角度をもって形成された方の一対の溝の全てを上記貫通溝とする工程であることを特徴とする成膜マスクの製造方法。
【0020】
このような製造方法であれば、(111)面以外の面が上記破断面となることを回避できる。したがって、バリ等の発生がより一層低減された成膜マスクを得ることができる。
【0021】
[適用例8]上述の成膜マスクの製造方法であって、上記第4の工程は上記単結晶半導体基板を上記第2表面側からエッチングする工程であることを特徴とする成膜マスクの製造方法。
【0022】
このような製造方法であれば、上記貫通溝と上記堀溝とを同時に形成できる。したがって、バリ等の発生がより一層低減された成膜マスクを、製造コストの増加を抑制しつつ得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる成膜マスクの対象となる有機EL装置の模式断面図。
【図2】画素領域と陰極配線の配置の態様を示す図。
【図3】本発明にかかる成膜マスクの構成を模式的に示す斜視図。
【図4】チップの構成を模式的に示す斜視図。
【図5】単結晶シリコン基板とチップとを示す図。
【図6】単結晶シリコン基板を分割してチップとするために形成される溝を示す図。
【図7】第2の実施形態にかかる、分割前のチップの溝等を示す図。
【図8】第3の実施形態にかかるチップの形成工程を示す工程断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の各実施形態について図面に従って述べる。有機EL装置の発光機能層の形成には蒸着法が多用されるため、以下、成膜マスクとしての蒸着マスクについて述べる。尚、各図面における各部材は、各図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて図示している。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本発明にかかる成膜マスクとしての蒸着マスクを用いて製造される有機EL装置の模式断面図である。有機EL装置は被成膜基板である素子基板42の一方の側の面に形成された赤色有機EL素子46Rと緑色有機EL素子46Gと青色有機EL素子46Bとの3種類の有機EL素子46と、該有機EL素子を駆動するTFT(薄膜トランジスター)44等からなる。かかる3原色に対応する有機EL素子46により、カラー画像の表示が可能とされている。なお、本図においては、各有機EL素子46を覆う封止層、接着層、及び対向基板等は図示を省略している。
【0026】
上述のR,G,Bは各有機EL素子46(R,G,B)が射出する光の色を示している。該アルファベットを省略して「有機EL素子46」と記載した場合、総称を意味するものとする。後述する有機EL層56についても同様である。なお、上述の有機EL素子46が形成されている側の面を、以下、「上面」と称する。有機EL素子46とTFT44、及び図示を省略した保持容量等で1つの画素が形成される。各画素が光を射出する領域が画素領域である。
【0027】
有機EL素子46は、素子基板42の上面に順に積層(形成)された画素電極(陽極)52と正孔注入輸送層54と有機EL層56(R,G,B)と電子注入輸送層58と陰極60と、からなる。画素電極52と陰極60との間の通電により、有機EL層56内で光が生じて射出される。かかる(上述の)要素のうち、有機EL層56(R,G,B)のみが3種類の有機EL素子46(R,G,B)毎に夫々異なる材料で形成されており、他の要素は同一の材料からなる。画素電極52はITO(酸化インジウム・すず合金)からなり、島状にパターニングされている。そして、ドレイン電極48を介してTFT44と導通している。隣り合う画素電極52間は隔壁64で区画されている。有機EL層56は、該隔壁で囲まれた凹部内に局所的に形成されており、異なる色に対応する有機EL層56同士が重なり合うことが抑制されている。
【0028】
上述したように、有機EL層56は、各色に対応する光を射出可能な材料により形成される。単独の材料で各色に対応する光を射出することが困難である場合は、ホスト材料に蛍光色素をドーピングして有機EL層56を形成し、蛍光色素からのルミネッセンスを発光色として取り出すこともできる。このようなホスト材料とドーパント材料の組み合わせとしては、例えば、トリス(8−キノリラート)アルミニウムとクマリン誘導体との組み合わせ、アントラセン誘導体とスチリルアミン誘導体との組み合わせ、アントラセン誘導体とナフタセン誘導体との組み合わせ、トリス(8−キノリラート)アルミニウムとジシアノピラン誘導体との組み合わせ、ナフタセン誘導体とジインデノペリレンとの組み合わせなどがある。
【0029】
図1に示す有機EL装置はトップエミッション型であり、有機EL層56内で生じた光は、直接、あるいは反射板50で反射されて、矢印の方向すなわち陰極60側に射出される。したがって、陰極60は少なくとも半透明性を有することが必要とされる。しかし、仕事関数等の観点より、陰極60を上述のITOで形成することは困難である。そのため、陰極60は層厚が数nmないし十数nmのAl(アルミニウム)あるいはMgAg(マグネシウム・銀)合金等で形成されている。かかる薄い層厚の陰極60を用いた場合、陰極60としての面抵抗が増大して表示品質を低下させ得る。そのため、隔壁64の上面には陰極配線62が形成されている。隔壁64の形成領域は光を射出する領域(すなわち画素領域)ではないため、半透明性を要しない。したがって、局所的に厚く上述のAl等を堆積させて陰極配線62を形成し、陰極60としての面抵抗を低減している。
【0030】
図2は、図1に示す有機EL装置において画像が表示される領域である表示領域の一部を拡大して示す図であり、上述の画素領域と陰極配線62の配置の態様を示す図である。図示するように、複数の陰極配線62が互いに平行にX方向に延在している。陰極配線62の間に規則的に配置された矩形の領域が画素領域であり、アルファベットは射出する光の色を示している。画素領域間には上述したように隔壁64(図1参照)が形成されている。有機EL層56は、同色の画素領域間には隔壁64を跨ぐように形成できる。したがって、3原色に対応する3種類の有機EL層56は、陰極配線62と同様にX方向に延在する帯状の領域として形成できる。本発明の蒸着マスクは、かかる帯状の有機EL層56と陰極配線62を、フォトリソグラフィー法によらずに形成するために用いられるものである。
【0031】
具体的には、隔壁64等が形成された素子基板42に帯状の開口部を有する蒸着マスクを被せ、蒸着源、すなわち加熱源を備えたるつぼから上述の有機EL層56等の形成材料の粒子を飛翔させることにより、局所的に材料層(有機EL層56)を形成する。なお、正孔注入輸送層54、及び電子注入輸送層58も該蒸着マスクを用いて形成することもできる。
【0032】
図3は、本発明にかかる蒸着マスク10の構成を模式的に示す斜視図である。図示するように、蒸着マスク10は、ベース基板をなす矩形の支持基板30に、単結晶半導体基板としての単結晶シリコン基板を分割して形成されたチップ20を複数、取り付けた構成を有している。各々のチップ20は、アライメントされて支持基板30に陽極接合や紫外線硬化型接着剤などにより接合されている。
【0033】
図4は、チップ20の構成を模式的に示す斜視図である。チップ20には、蒸着パターンすなわち上述の図2に示す有機EL層56及び陰極配線62の平面視形状に対応する長孔形状の複数の開口部22が一定間隔で並列するように形成されている。そして各々の開口部22の間には、梁部27が形成されている。後述するように、開口部22の形成領域の周囲には外枠部25が形成されており、かかる外枠部25が支持基板30に接合されている。
【0034】
チップ20の、該外枠部が形成されている側の面、すなわち支持基板30に対向する側の面が第2表面12(図6参照)であり、該第2表面の反対側の表面が第1表面11(図6参照)である。チップ20、そして蒸着マスク10は、上述の蒸着時に、該第1表面が素子基板42に対向するように配置される。
【0035】
支持基板30には、長方形の貫通穴からなる複数の開口領域32が平行、かつ一定間隔で設けられており、複数のチップ20は、支持基板30の開口領域32を塞ぐように支持基板30上に固定されている。支持基板30には、アライメントマーク39(図3参照)が形成されており、アライメントマーク39は蒸着工程において蒸着マスク10の位置合わせを行うためのものである。なお、チップ20の外枠部25にアライメントマーク39を形成してもよい。支持基板30の構成材料は、チップ20の構成材料の熱膨張係数と同一又は近い熱膨張係数を有するものが好ましい。チップ20の構成材料は単結晶シリコンであるので、シリコンの熱膨張係数と同等の熱膨張係数をもつ材料で支持基板30を構成する。このようにすることにより、支持基板30とチップ20との熱膨張量の違いによる「歪み」及び「撓み」の発生を抑制できる。本実施形態では、支持基板30としては、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英ガラスなどからなる透明基板が用いられている。
【0036】
複数のチップ20の各々において、外枠部25の下面にはアライメントマーク24(図3参照)が少なくとも2ヶ所形成されている。これらのアライメントマーク24と、複数の開口領域32の外周に一定間隔に形成されたアライメントマーク34(図3参照)とを重ね合わせることにより、支持基板30に対するチップ20の位置合わせを行うことができる。アライメントマーク24,34は、フォトリソグラフィー法またはエッチング法等により形成される。
【0037】
上述したように、チップ20は単結晶シリコンからなる。具体的には、面方位(110)を有する単結晶シリコン基板にフォトリソグラフィー法により開口部22を形成し、分割することにより製造される。かかる態様を図5に示す。単結晶シリコン基板7はオリフラ8を有し、チップ20を分割するために形成される溝16(図6参照)は該オリフラに平行及び垂直な方向に形成されている。すなわち、チップ20は溝16により碁盤状に区切られた単結晶シリコン基板7の一部である。面方位(110)の単結晶シリコン基板の場合、結晶線9は面上で交差するように位置している。オリフラ8は、一方の結晶線9と平行となるように形成されている。そして、開口部22は、長軸方向がオリフラ8に平行となるように形成されている。
【0038】
面方位(110)の単結晶シリコン基板7を用いる理由は、開口部22の幅方向(短軸方向)の加工精度を向上させるためである。結晶線9を含み、かつ基板面に垂直な面は(111)面となる。かかる面は、他の面に比べてエッチングレートが遅いため、本来は等方的にエッチングが進行するウェットエッチング工程において、異方性エッチングが可能となる。したがって、開口部22を、上述の長軸方向がオリフラ8と平行となるように形成する場合、幅方向(短軸方向)にはエッチングが殆んど進行しないため、高い精度で形成できる。
【0039】
上述したように、本発明にかかる蒸着マスク10の蒸着対象は帯状のパターンである。開口部22の幅方向の寸法精度を向上させることで、図2においてY方向に隣り合う有機EL層56等を、所定の幅で、かつ、互いに重なり合うことが無いように形成できる。
【0040】
そして、本発明にかかる蒸着マスク10は、溝16を結晶線9に合せ、かつ第1表面11(図6参照)側から形成することで、分割時におけるバリ等の発生を抑制して、第1表面11の平滑性を向上させている。そして、被成膜基板である素子基板42の上面に形成される有機EL層56等のパターン精度を向上させている。以下、その態様を示す。なお、第1表面11(及び第2表面12)は、チップ20において定義される面であるため、チップ20の前段階である単結晶シリコン基板7においても適用される。
【0041】
図6は、単結晶シリコン基板7を分割してチップ20とするために形成される溝16等を示す図である。図6(a)は平面図であり、図6(b)は図6(a)のA−A’線において分割した状態を示す図、すなわちオリフラ8に平行方向の溝16の断面を示す図である。
【0042】
図示するように、溝16は貫通溝15と堀溝14との2種類の溝からなる。貫通溝15は第1表面11から第2表面12まで貫通している溝であり、堀溝14は第1表面11から所定の深さまで掘られている溝である。オリフラ8(図5参照)に水平方向に延在する溝16は貫通溝15のみであり、オリフラ8に垂直方向に延在する溝16は、貫通溝15と堀溝14とが交互に形成されている。
【0043】
チップ20の形成すなわち単結晶シリコン基板7の分割は、堀溝14と平面視で重なる部分の単結晶シリコン基板7を折ること、すなわち破断させることでなされる。かかる破断により形成される面が、図6(b)に示す破断面18である。そして、堀溝14の側面であった面、及び貫通溝15の側面であった面が平滑面19である。上述したバリ等は、かかる破断時に生成される。しかし、堀溝14は結晶線9に沿った方向にのみ形成されるため、破断面18は(111)面となる。結晶線9に沿った方向に破断されるため、バリ等の発生は他の線あるいは面で行われる場合に比べると抑制されている。
【0044】
また、堀溝14が第1表面11側から形成されているため、破断面18は第2表面12寄りに形成される。したがって、第1表面11と対向する素子基板42に対する影響は抑制される。さらに、オリフラ8に垂直な方向の溝16は全て貫通溝15であるため、分割時には平滑面19のみが生じ、バリ等の発生は有り得ない。したがって、本発明にかかる蒸着マスク10は、構成要素であるチップ20が単結晶シリコン基板7を分割して形成されてるにもかかわらず、被成膜基板である素子基板42に対する影響、すなわち正孔注入輸送層54等に与える損傷が極めて抑制されている。したがって、本発明にかかる蒸着マスク10を用いることで、表示品質の低下が抑制された有機EL装置を得ることができる。
【0045】
(第2の実施形態)
続いて本発明の第2の実施形態の蒸着マスクについて述べる。本実施形態の蒸着マスクは、第1の実施形態の蒸着マスクと類似した構成を有しており、チップ20の形成時における溝16の形状のみが異なっている。そこで、上述の第1の実施形態の図6に対応する図のみ示し、他の要素についての記載は省略する。
【0046】
図7は、本実施形態にかかる、分割前のチップ20の溝16等を示す図である。図7(a)は平面図であり、図7(b)は図7(a)のB−B’線において分割した状態を示す図、すなわちオリフラ8に平行方向の溝16の断面を示す図である。
【0047】
図示するように、本実施形態にかかる分割前のチップ20は、オリフラ8に平行な溝が全て堀溝14で構成されている。オリフラ8に垂直な溝は、上述の第1の実施形態と同様に、全て貫通溝15で構成されている。2組の対辺のうちの一組の辺の溝が全て堀溝14であるため、分割前の単結晶シリコン基板7が安定的に保持される。また、上述の第1の実施形態と同様に堀溝14は、第1表面11側から形成されており、かつ結晶線9と平行であるため、分割時におけるバリ等の発生は抑制される。したがって、第1の実施形態にかかる蒸着マスク10と同様に、被成膜基板である素子基板42に対する影響、すなわち正孔注入輸送層54等に与える損傷が極めて抑制される。
【0048】
すなわち、本発明にかかる蒸着マスクは、分割前の段階において安定的に保持できるという利点があり、かつ、第1の実施形態にかかる蒸着マスク10を用いた場合と同等の有機EL装置を得ることができる。
【0049】
(第3の実施形態)
続いて本発明の第3の実施形態として、蒸着マスク10の製造方法、具体的には単結晶シリコン基板7を分割してチップ20とする工程を示す。
図8(a)〜(d)は、本実施形態にかかるチップ20の形成工程を示す工程断面図である。図4に示すように、開口部22の長手方向と外枠部25の長手方向とは互いに直交している。また、外枠部25の延在方向と堀溝14の延在方向も互いに直交している。そのため、開口部22と外枠部25と堀溝14との3要素の全ての断面を示す切断線を引くことはできない。したがって、図8(a)〜(d)は、上記3要素全ての長手方向に直交する断面を仮想的に示す模式断面図である。以下、工程順に述べる。
【0050】
まず、図8(a)に示すように、単結晶シリコン基板7の全面、すなわち第1表面11と第2表面12の双方の面に、耐エッチングマスク材料となる酸化シリコン膜6を熱酸化法により形成する。該酸化シリコン膜は熱酸化でなく、CVD法等で形成してもよい。また、耐エッチングマスク材料は酸化シリコンに限定されるものではなく、例えば窒化シリコンを用いることもできる。
【0051】
次に、図8(b)に示すように、第1表面11と第2表面12の双方の面において、酸化シリコン膜6をパターニングする。該パターニングは通常のフォトリソグラフィー法で行なう。第1表面11側においては、将来的に開口部22が形成される領域と将来的に堀溝14が形成される領域、そして図示はされないが将来的に貫通溝15が形成される領域の酸化シリコン膜6が除去される。第2表面12側においては、将来的に1つのチップ20内の全ての開口部22を平面視で含む凹部26が形成される領域の酸化シリコン膜6が除去される。同時に、図示されてはいないが、将来的に貫通溝15が形成される領域の酸化シリコン膜6が除去される。
【0052】
次に、図8(c)に示すように、単結晶シリコン基板7を第1表面11と第2表面12の双方の面からエッチングして、酸化シリコン膜6で覆われていない領域の単結晶シリコン基板7を所定の深さまで(具体的には単結晶シリコン基板7の厚さ方向の略中間を若干超えるまで)除去する。かかる工程が第1の工程及び第4の工程である。第1の工程と第4の工程は同時に実施される。エッチングは、80℃に加熱した35重量%の水酸化カリウム水溶液を用いて行なう。かかる液によるウェットエッチングであれば結晶異方性エッチングが可能であり、また両面から同時にエッチングできる。かかる工程により、堀溝14と開口部22と凹部26、及び図示しない貫通溝15が形成される。
【0053】
将来的に開口部22が形成される領域は、平面視で上述の凹部26が形成される領域に含まれている。したがって、上述の将来的に開口部22が形成される領域は、第1表面11と第2表面12との双方からエッチングされる。その結果、凹部26の形成領域において第1表面11と第2表面12とを貫通する開口部22が形成される。凹部26は、マスク蒸着工程において、有機EL層56等の材料の粒子を効率的に素子基板42上に堆積させるために形成される。すなわち、開口部22は凹部26の底部で開口するため、開口部22が形成された領域では単結晶シリコン基板7の厚さが薄くなっており、斜め方向に進行する材料の粒子も開口部22を通過しやすくなっている。したがって、蒸着源と被成膜基板である素子基板42との間隔が同一の場合でも、効率よく材料層(例えば有機EL層56)を形成できる。
【0054】
堀溝14と開口部22の短軸方向に直交する面の面方位は(111)面であるためエッチングレートが遅い。したがって、略深さ方向にのみエッチングが進行して、幅方向の寸法精度が優れた開口部22が形成される。また、図示されてはいないが、本工程で第1表面11と第2表面12とを貫通する貫通溝15も形成される。
【0055】
次に、図8(d)に示すように、単結晶シリコン基板7の全面から酸化シリコン膜6を除去した後、第2の工程として該単結晶シリコン基板を堀溝14の位置で分割して、チップ20を形成する。これにより、開口部22の形成領域が外枠部25で挟まれたチップ20が形成される。かかるチップ20を、第3の工程として支持基板30(図3参照)に取り付けることで蒸着マスク10(図3参照)が形成される。
【0056】
堀溝14の側面(側壁)であった部分が平滑面19となり、単結晶シリコン基板7の分割によって生じた面が破断面18となる。堀溝14は第1表面11側から形成されているため、素子基板42に対向する該第1表面側には破断面18は形成されていない。したがって、上述の分割時に生じ得るバリ等が素子基板42の表面にすでに形成されている他の材料層(例えば正孔注入輸送層54)を損傷させることを抑制できる。したがって、このような工程で形成されたチップ20及び該チップを備える蒸着マスク10を用いることで、表示品質の低下が抑制された有機EL装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0057】
6…酸化シリコン膜、7…単結晶半導体基板としての単結晶シリコン基板、8…オリフラ、9…結晶線、10…成膜マスクとしての蒸着マスク、11…第1表面、12…第2表面、14…堀溝、15…貫通溝、16…溝、18…破断面、19…平滑面、20…チップ、22…開口部、24…アライメントマーク、25…外枠部、26…凹部、27…梁部、30…支持基板、32…開口領域、34…アライメントマーク、39…アライメントマーク、42…被成膜基板としての素子基板、44…TFT、46…有機EL素子、48…ドレイン電極、50…反射板、52…画素電極、54…正孔注入輸送層、56…有機EL層、58…電子注入輸送層、60…陰極、62…陰極配線、64…隔壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と該支持基板に取り付けられた複数のチップとからなり、被成膜基板に対向する第1表面と膜材料源に対向する第2表面とを有する成膜マスクであって、
前記チップは、単結晶半導体基板に枠状の溝を前記第1表面側から形成後、該溝に外力を加えて破断分割して得られたチップであり、
前記チップの側面部は前記溝の一部である平滑面と前記破断分割時に生じた破断面とを有しており、
前記破断面は前記第1表面側には形成されていないことを特徴とする成膜マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜マスクであって、
前記チップは、前記第2表面まで達する貫通溝と該第2表面まで達しない堀溝とが混在する前記溝を形成後に該溝に外力を加えて破断分割して得られたチップであることを特徴とする成膜マスク。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜マスクであって、
前記単結晶半導体基板は面方位を(110)面とする単結晶半導体基板であり、
前記チップは平面視で矩形であって、該矩形を形成する相対向する2対の辺の内の一対の辺における前記側面部の面方位は(111)面であり、
前記堀溝は該(111)面にのみ形成されていることを特徴とする成膜マスク。
【請求項4】
支持基板と、該支持基板に取り付けられた単結晶半導体基板を分割して得られた複数のチップと、からなる成膜マスクの製造方法であって、
面方位が(110)面である前記単結晶半導体基板の第1表面側に将来的にチップとなる領域を囲む平面視略矩形の枠状の溝を形成する第1の工程と、
前記溝に外力を加えることにより前記単結晶半導体基板を破断分割してチップとする第2の工程と、
前記チップを前記第1表面が被成膜基板側を向くように前記支持基板に取り付ける第3の工程と、
を有することを特徴とする成膜マスクの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の成膜マスクの製造方法であって、
前記第1の工程は、前記枠状の溝を、該枠状の溝を構成する相対向する2対の溝の内の一対の溝が、前記単結晶半導体基板の基板面における結晶線の方向に沿って延在するように形成する工程であることを特徴とする成膜マスクの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の成膜マスクの製造方法であって、
前記第2の工程を実施する前に、前記枠状の溝の一部を、前記第1表面から該第1表面の反対側の面である第2表面までを貫通する貫通溝とする第4の工程をさらに実施することを特徴とする成膜マスクの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の成膜マスクの製造方法であって、
前記第4の工程は、前記単結晶半導体基板の基板面における結晶線の方向に対して角度をもって形成された方の一対の溝の全てを前記貫通溝とする工程であることを特徴とする成膜マスクの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の成膜マスクの製造方法であって、
前記第4の工程は前記単結晶半導体基板を前記第2表面側からエッチングする工程であることを特徴とする成膜マスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−275599(P2010−275599A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130084(P2009−130084)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】