説明

成膜用マスクおよびこれを用いた表示装置の製造方法

【課題】基板の外周部の配線回路の損傷・破壊を抑えることが可能な成膜用マスクおよびこれを用いた表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】枠体40は、開口41の周囲に、基板11との対向面40Aから厚み方向の一部に段差42を有している。この段差42の端42Aは、基板11の外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の端110Dよりも外側に位置している。基板11と枠体40とを密着させる際に、外周部110Aの配線回路110Bと枠体40との間に、段差42によるすきまGが生じる。よって、外周部110Aの配線回路110Bと枠体40との間に異物が挟みこまれてしまうことが回避される。また、重力で基板11がたわんでいても、基板11が開口41のエッジ41Aに最初に接触してしまうことが回避される。よって、外周部110Aの配線回路110Bの損傷・破壊が抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescence)などの表示装置の製造に用いられる成膜用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELなどの表示装置の製造には、RGB各色の画素に合わせた微細な開口をもつマスクを用いた塗り分け方式と、成膜範囲とほぼ同じサイズの大きな開口をもつ、いわゆるエリアマスクを用いたエリア成膜方式とがある。そのうち、エリア成膜方式では、成膜対象である基板をマスクと密着させて成膜を行う(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−106918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来では、基板の外周部とマスクとを密着させる際に、それらの間に異物を挟みこんでしまい、基板の外周部に設けられた配線回路が損傷を受けたり破壊されたりしてしまうという問題点があった。また、基板とマスクとを密着させる際に、重力で基板がたわんでいることにより、基板がマスクの開口のエッジ(端面またはその角)に最初に接触してしまい、これも外周部の配線回路の損傷・破壊の原因となってしまっていた。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、基板の外周部の配線回路の損傷・破壊を抑えることが可能な成膜用マスクおよびこれを用いた表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による成膜用マスクは、少なくとも一つの表示領域が設けられると共に表示領域内および表示領域以外の外周部に配線回路が設けられた基板に対して、表示領域の全体に膜を形成するためのものであって、表示領域に対向して成膜材料通過用の開口を有する枠体を備え、枠体は、開口の周囲に、基板との対向面から厚み方向の一部に段差を有し、段差の端は、基板の外周部の配線回路の端よりも外側に位置しているものである。
【0007】
本発明による表示装置の製造方法は、少なくとも一つの表示領域が設けられた基板に対して、表示領域内および表示領域以外の外周部に配線回路を形成すると共に、表示領域に、第1電極,発光層を含む有機層および第2電極をこの順に有する複数の有機発光素子を形成するものであって、有機層および第2電極のうち少なくとも一方を、上記本発明の成膜用マスクを用いて形成するようにしたものである。
【0008】
本発明の成膜用マスク、または本発明による表示装置の製造方法では、成膜用マスクの枠体は、開口の周囲に、基板との対向面から厚み方向の一部に段差を有しており、この段差の端は、基板の外周部の配線回路の端よりも外側に位置しているので、基板の外周部と枠体とを密着させる際に、外周部の配線回路と枠体との間に、段差によるすきまが生じる。よって、配線回路と枠体との間に異物が挟みこまれてしまうことが回避され、基板の外周部の配線回路の損傷・破壊が抑えられる。また、基板の外周部と枠体とを密着させる際に、重力で基板がたわんでいても、基板と枠体との間に、段差によるすきまが確保される。よって、基板が開口のエッジに最初に接触してしまうことが回避され、基板の外周部の配線回路の損傷・破壊が抑えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成膜用マスク、または本発明による表示装置の製造方法によれば、成膜用マスクの枠体の開口の周囲に、基板との対向面から厚み方向の一部に段差を設け、この段差の端を、基板の外周部の配線回路の端よりも外側に位置させるようにしたので、基板の外周部の配線回路の損傷・破壊を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る成膜用マスクを用いて製造される表示装置の構成を表す図である。
【図2】図1に示した画素駆動回路の一例を表す等価回路図である。
【図3】図1に示した表示領域の構成を表す断面図である。
【図4】図1に示した表示領域の構成を表す平面図である。
【図5】図1に示した表示装置の製造方法を工程順に表す断面図である。
【図6】図5に続く工程を表す断面図である。
【図7】図6に続く工程を表す断面図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る成膜用マスクの構成を表す斜視図である。
【図9】図8に示した成膜用マスクの断面図である。
【図10】図9に示した基板のたわみ量の計算結果を表す図である。
【図11】従来の成膜用マスクの構成を説明するための断面図である。
【図12】図11に示した成膜用マスクの問題点を説明するための断面図である。
【図13】図7に続く工程を表す断面図である。
【図14】表示装置の他の例を表す断面図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態に係る成膜用マスクの構成を表す平面図である。
【図16】図15に示した成膜用マスクの断面図である。
【図17】段差による成膜材料の回り込みを説明するための図である。
【図18】上記実施の形態の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図19】上記実施の形態の表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図20】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図21】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図22】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図23】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【図24】図1に示した基板の変形例を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(枠体に段差を設けた例)
2.第2の実施の形態(段差に凸部を設けた例)
3.適用例
【0012】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態に係る成膜用マスクの説明に先立ち、このマスクにより製造される表示装置の一例を具体的に説明する。
【0013】
この表示装置は、有機ELテレビジョン装置などとして用いられるものであり、例えば図1に示したように、ガラス等よりなる基板11の上に、表示領域110として、後述する複数の有機EL素子10R,10G,10Bがマトリクス状に配置されたものである。表示領域110以外の外周部には、配線回路として、例えば、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。なお、本実施の形態では、基板11の中央部に一つの表示領域110が設けられている場合について説明する。
【0014】
表示領域110内には、配線回路として、画素駆動回路140が設けられている。図2は、画素駆動回路140の一例を表したものである。画素駆動回路140は、後述する下部電極13の下層に形成されたアクティブ型の駆動回路である。すなわち、この画素駆動回路140は、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、これらトランジスタTr1,Tr2の間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機EL素子10R(または10G,10B)とを有する。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガ構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガ構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0015】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、有機EL素子10R,10G,10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0016】
図3は、表示領域110の断面構成を表したものである。表示領域110には、赤色の光を発生する有機EL素子10Rと、緑色の光を発生する有機EL素子10Gと、青色の光を発生する有機EL素子10Bとが、順に全体としてマトリクス状に形成されている。有機EL素子10R,10G,10Bは、例えば図4に示したように、短冊状(長方形)の平面形状を有し、発光色ごとに長手方向に列をなすように配置されている。なお、隣り合う有機EL素子10R,10G,10Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0017】
有機EL素子10R,10G,10Bは、それぞれ、基板11の側から、上述した画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1、平坦化層12、陽極としての第1電極13、絶縁膜14、後述する発光層を含む有機層15、および陰極としての第2電極16がこの順に積層された構成を有している。このうち、第2電極16は、本実施の形態の成膜用マスクを用いて形成されたものである。
【0018】
このような有機EL素子10R,10G,10Bは、必要に応じて、窒化ケイ素(SiN)または酸化ケイ素(SiO)などの保護膜17により被覆され、更にこの保護膜17
上に、熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層20を間にしてガラスなどよりなる封止用基板31が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。封止用基板31には、必要に応じてカラーフィルタ32およびブラックマトリクスとしての光遮蔽膜(図示せず)が設けられていてもよい。
【0019】
駆動トランジスタTr1は、平坦化層12に設けられた接続孔12Aを介して第1電極13に電気的に接続されている。平坦化層12は、画素駆動回路140が形成された基板11の表面を平坦化するためのものであり、微細な接続孔12Aが形成されるためパターン精度が良い材料により構成されていることが好ましい。平坦化層12の構成材料としては、例えば、ポリイミド等の有機材料、あるいは酸化シリコン(SiO2 )などの無機材料が挙げられる。
【0020】
第1電極13は、有機発光素子10R,10G,10Bの各々に対応して形成されている。また、第1電極13は、反射層としての機能も兼ねており、例えば、白金(Pt),金(Au),銀(Ag),クロム(Cr)あるいはタングステン(W)などの金属または合金により構成されている。絶縁膜14は、第1電極13と第2電極16との絶縁性を確保すると共に、有機EL素子10R,10G,10Bにおける発光領域の形状を正確に所望の形状とするためのものであり、例えば、ポリイミドにより構成されている。
【0021】
有機層15は、例えば、正孔輸送層,発光層および電子輸送層が第1電極13の側からこの順に積層された構造を有している。正孔輸送層は発光層への正孔注入効率を高めるためのものである。発光層は電界をかけることにより電子と正孔との再結合が起こり、光を発生するものである。電子輸送層は、発光層への電子注入効率を高めるためのものである。有機EL素子10Rの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、ビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン(α−NPD)が挙げられ、有機EL素子10Rの発光層の構成材料としては、例えば、2,5−ビス−[4−[N−(4−メトキシフェニル)−N−フェニルアミノ]]スチリルベンゼン−1,4−ジカーボニトリル(BSB)が挙げられ、有機EL素子10Rの電子輸送層の構成材料としては、例えば、8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq )が挙げられる。有機EL素子10Bの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、α−NPDが挙げられ、有機EL素子10Bの発光層の構成材料としては、例えば、4,4´−ビス(2,2´−ジフェニルビニン)ビフェニル(DPVBi)が挙げられ、有機EL素子10Bの電子輸送層の構成材料としては、例えば、Alq が挙げられる。有機EL素子10Gの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、α−NPDが挙げられ、有機EL素子10Gの発光層の構成材料としては、例えば、Alq にクマリン6(C6;Coumarin6)を1体積%混合したものが挙げられ、有機EL素子10Gの電子輸送層の構成材料としては、例えば、Alq が挙げられる。
【0022】
第2電極16は、有機EL素子10R,10G,10Bの共通電極として、基板11の表示領域110の全体に設けられている。また、第2電極16は、半透過性電極により構成されており、発光層で発生した光は第2電極16の側から取り出されるようになっている。第2電極16は、例えば、銀(Ag),アルミニウム(Al),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na)などの金属または合金により構成されている。
【0023】
この表示装置は、例えば次のようにして製造することができる。
【0024】
まず、上述した材料よりなる基板11を用意し、この基板11の表示領域110内に、図5(A)に示したように、配線回路として、画素駆動回路140を形成する。また、表示領域110以外の外周部には、配線回路として、図1に示したように信号線駆動回路120および走査線駆動回路130を設ける。
【0025】
次いで、図5(B)に示したように、基板11の全面に、例えばスピンコート法により、例えば感光性ポリイミドよりなる平坦化層12を塗布形成し、露光、現像処理により所定の形状にパターニングすると共に接続孔12Aを形成したのち、焼成する。
【0026】
続いて、図6(A)に示したように、平坦化層12の上に、例えばスパッタ法により、例えば上述した材料よりなる第1電極13を形成したのち、例えばリソグラフィー技術およびエッチングにより、第1電極13を所定の形状にパターニングする。これにより、平坦化層12の上に、複数の第1電極13が形成される。
【0027】
そののち、図6(B)に示したように、基板11の全面にわたり感光性樹脂を塗布し、露光および現像処理により開口部を設けたのち、焼成して、絶縁膜14を形成する。
【0028】
続いて、図7(A)に示したように、例えば真空蒸着法により、上述した材料よりなる有機EL素子10Rの正孔注入層,正孔輸送層,発光層および電子輸送層を順次成膜し、有機EL素子10Rの有機層15を形成する。そののち、同じく図7(A)に示したように、有機EL素子10Gの正孔注入層,正孔輸送層,発光層および電子輸送層を順次成膜し、有機EL素子10Gの有機層15を形成する。続いて、同じく図7(A)に示したように、有機EL素子10Rの有機層15と同様にして、上述した材料よりなる有機EL素子10Bの正孔注入層,正孔輸送層,発光層および電子輸送層を順次成膜し、有機EL素子10Bの有機層15を形成する。
【0029】
有機EL素子10R,10G,10Bの有機層15を形成したのち、図7(B)に示したように、基板11の全面にわたり、例えば蒸着法により、上述した材料よりなる第2電極16を形成する。以上により、図1および図3に示した有機EL素子10R,10G,10Bが形成される。
【0030】
本実施の形態では、以上の有機EL素子10R,10G,10Bの第2電極16を、成膜用マスクを用いた真空蒸着法により形成する。この成膜用マスク1は、表示領域110の全体に膜を形成するためのものであって、図8に示したように、基板11よりもやや大きな矩形状の枠体40を備えている。枠体40は、表示領域110に対向して成膜材料通過用の開口41を有しており、基板11は、成膜面を下に向けて枠体40の上に載置されるようになっている。
【0031】
枠体40は、第2電極16が形成される基板11と同等の線熱膨張係数を有する材料により構成されていることが好ましい。蒸着時の温度変化に伴い、枠体40と基板11とを同期して膨張収縮させると共に、膨張収縮による寸法変化量を等しくすることができるからである。更に、枠体40は、高い剛性および十分な厚みを有し、線熱膨張係数のほか、熱容量、表面の輻射射出率、周囲の支持体(図示せず)との熱伝導により流入流出する伝熱量、および蒸着源(図示せず)からの輻射熱を遮る断熱板(図示せず)により制限される流入熱量などを最適に調節して設計されていることが望ましい。
【0032】
図9は、成膜用マスク1の断面構造を表したものであり、枠体40上に基板11を載せた状態を表している。基板11は、表示領域110と、表示領域110以外の外周部110Aとを有している。表示領域110内には、有機EL素子10R,10G,10Bの各層と、配線回路110B(すなわち、画素駆動回路140)とが形成されている。外周部110Aには、配線回路110B(すなわち、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130)が設けられている。外周部110Aの配線回路110Bは、有機EL素子10R,10G,10Bの各層により覆われず露出している配線回路露出領域110Cとなっている。また、基板11は枠体40上に置かれており、開口41が表示領域110に対向し、枠体40が外周部110Aに対向している。なお、図9では、重力により基板11にたわみが生じている状態を表している。
【0033】
枠体40は、開口41の周囲に、基板11との対向面40Aから厚み方向の一部に段差42を有している。この段差42の端42Aは、外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の端110Dよりも外側(基板11の端11Aの側)に位置している。すなわち、段差42の幅W42は、枠体40が外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)に接触しない程度に十分に大きく設定されている。これにより、この成膜用マスク1では、基板11の外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の損傷・破壊を抑えることが可能となっている。
【0034】
段差42の高さH42は、枠体40の上に載置された基板11のたわみ量よりも大きいことが好ましい。これにより、重力で基板11がたわんでいても、基板11が開口41のエッジ41Aに最初に接触してしまうことが回避され、基板11の外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の損傷・破壊が抑えられる。
【0035】
基板11のたわみ量(たわみ角度θ)は、基板11の板厚や受け方により変わるが、有限要素法シミュレーションまたは実測により事前に知ることが可能である。図10は、板厚0.5mm、730mm×920mmサイズの基板11を20点受けにした場合において、基板11の短辺(730mmの辺)方向のたわみ量のシミュレーション結果を表したものである。図10から、基板11のたわみ角度θは、基板11の端11Aから60mm以内では1.9°、基板11の端11Aから180mmの位置では0.6°となり、基板11の端11A近傍のたわみ角度θがきつくなることが分かる。この場合には、例えば段差42の幅W42を2mmとした場合、段差42の高さH42は67μm以上であることが好ましい。
【0036】
この成膜用マスク1は、例えば、上述した枠体40の材料よりなる板を用意し、この板に例えばエッチングにより開口41および段差42を設けることにより製造することができる。その際、基板11との対向面40Aには、開口41および段差42以外の領域にマスクを形成し、反対側の面には、開口41以外の領域にマスクを形成する。なお、開口41および段差42は、機械加工あるいはレーザ加工などの他の方法により形成することも可能である。
【0037】
この成膜用マスク1では、図示しない蒸着源からの蒸着材料が開口41を通過し、基板11上に第2電極16が形成される。ここでは、枠体40の開口41の周囲に段差42が設けられており、この段差42の端42Aが、基板11の外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の端110Dよりも外側に位置しているので、基板11と枠体40とを密着させる際に、外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)と枠体40との間に、段差42によるすきまGが生じる。よって、外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)と枠体40との間に異物が挟みこまれてしまうことが回避され、外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の損傷・破壊が抑えられる。また、基板11と枠体40とを密着させる際に、重力で基板11がたわんでいても、基板11と枠体40との間に、段差42によるすきまGが確保される。よって、基板11が開口41のエッジ41Aに最初に接触してしまうことが回避され、外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の損傷・破壊が抑えられる。従って、歩留まりが向上する。
【0038】
これに対して、従来の成膜用マスクでは、図11に示したように、段差が設けられていなかったので、図12に示したように、基板811とマスク840とを密着させる際に、それらの間に異物850を挟みこんでしまい、外周部810Aの配線回路810B(配線回路露出領域810C)が損傷を受けたり破壊されたりしてしまっていた。また、基板811とマスク840とを密着させる際に、重力で基板810がたわんでいることにより、基板811がマスク840の開口841のエッジ841Aに最初に接触してしまい、これも外周部810Aの配線回路810B(配線回路露出領域810C)の損傷・破壊の原因となってしまっていた。なお、図11および図12では、図9に対応する構成要素には図9と同一の800番台の符号を付して表している。
【0039】
このようにして成膜用マスク1を用いて第2電極16を形成したのち、図13に示したように、例えばCVD法またはスパッタ法により、第2電極16の上に、上述した材料よりなる保護膜17を形成する。
【0040】
また、例えば、上述した材料よりなる封止用基板31の上に、赤色フィルタの材料をスピンコートなどにより塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングして焼成することにより赤色フィルタを形成する。続いて、赤色フィルタと同様にして、青色フィルタおよび緑色フィルタを順次形成する。
【0041】
そののち、保護膜17の上に、接着層20を形成し、この接着層20を間にして封止用基板31を貼り合わせる。以上により、図1ないし図3に示した表示装置が完成する。
【0042】
この表示装置では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。すなわち、この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、これにより、各有機EL素子10R,10G,10Bに駆動電流Idが注入されることにより、正孔と電子とが再結合して発光が起こる。この光は、第2電極16,カラーフィルタ32および封止用基板31を透過して取り出される。
【0043】
ここでは、第2電極16を上記の成膜用マスク1を使用して形成しているので、基板11の外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の損傷・破壊が抑えられている。配線回路110Bの損傷・破壊による不良は進行性があることが多く、後になって信頼性不良を発現するが、検査で見つけることが難しい。よって、第2電極16を成膜用マスク1を使用して形成することにより、そのような進行性のある不良の発生を未然に抑え、信頼性を向上させることが可能となる。
【0044】
このように本実施の形態では、成膜用マスク1の枠体40の開口41の周囲に、基板11との対向面40Aから厚み方向の一部に段差42を設け、この段差42の端42Aを、基板11の外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の端110Dよりも外側に位置させるようにしたので、基板11の外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の損傷・破壊を抑えることが可能となる。
【0045】
なお、上記実施の形態では、第2電極16のみを上記の成膜用マスク1を使用して形成する場合について説明したが、この成膜用マスク1は、図14に示したように、白色発光の有機層15を表示領域110の全体に形成する場合にも適用可能である。その場合には、白色発光の有機層15および第2電極16の両方を成膜用マスク1を用いて形成することが可能である。
【0046】
(第2の実施の形態)
図15および図16は、本発明の第2の実施の形態に係る成膜用マスク1Aの構成を表すものである。この成膜用マスク1Aは、段差42内に凸部43を設けることにより、段差42の高さH42を小さくするようにしたことを除いては、第1の実施の形態の成膜用マスク1と同一の構成を有し、その作用および効果も同一である。
【0047】
第1の実施の形態の成膜用マスク1では、段差42の高さH42を大きくしていくと、基板11と枠体40との間のすきまGが大きくなる。その結果、図17に示したように、成膜時に成膜材料の回り込み44が大きくなるので、外周部110Aの幅を広くする必要が生じ、額縁サイズが大きくなる。従って、狭額縁化のためには、段差42の高さH42はできるだけ低くすることが望ましい。
【0048】
そこで、本実施の形態では、基板11の外周部110Aには、段差42に対向する領域内に、配線回路110Bの設けられていないすきま部分110Eを設ける一方、枠体40には、段差42のすきま部分110Eに対向する位置に、段差42と同じ高さの凸部43を設けるようにしている。これにより、基板11と枠体40とを密着させる際に、凸部43は、外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)ではなく、基板11のすきま部分110Eのガラス面に接触する。よって、凸部43との接触による基板11の外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の損傷・破壊が抑えられる。
【0049】
また、基板11の外周部110Aは凸部43によって支持されるので、段差42の高さH42を基板11のたわみ量よりも小さくしても、基板11が開口41のエッジ41Aに最初に接触してしまうことが回避される。よって、エッジ41Aとの接触による基板11の外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の損傷・破壊が抑えられる。
【0050】
図10の例で説明すると、段差42の幅W42を2mmとした場合、凸部43を設けたときには、段差42の高さH42を67μm未満とすることが可能となる。凸部43の形状は特に限定されず、ダボ(円柱)でもよいし、角柱でもよい。
【0051】
この成膜用マスク1Aは、基板11との対向面40Aに形成するマスクを、開口41および段差42以外の領域と、段差42内の凸部43の形成予定位置とに設けることを除いては、第1の実施の形態と同様にして製造することができる。
【0052】
このように本実施の形態では、基板11の外周部110Aには、段差42に対向する領域内に、配線回路110Bの設けられていないすきま部分110Eを設ける一方、枠体40には、段差42のすきま部分110Eに対向する位置に、段差42と同じ高さの凸部43を設けるようにしたので、この凸部43により基板11の外周部110Aが支持されると共に凸部43が外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)に接触することがない。よって、段差42の高さH42を基板11のたわみ量よりも小さくしても、外周部110Aの配線回路110B(配線回路露出領域110C)の損傷・破壊を抑えることが可能となる。よって、成膜材料の回り込みを低減することが可能となり、狭額縁な表示装置の実現に有利である。
【0053】
(モジュールおよび適用例)
以下、上記実施の形態で説明した表示装置の適用例について説明する。上記実施の形態の表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0054】
(モジュール)
上記実施の形態の表示装置は、例えば、図18に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、基板11の一辺に、封止用基板31から露出した領域210を設け、この露出した領域210に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0055】
(適用例1)
図19は、上記実施の形態の表示装置が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0056】
(適用例2)
図20は、上記実施の形態の表示装置が適用されるデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0057】
(適用例3)
図21は、上記実施の形態の表示装置が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0058】
(適用例4)
図22は、上記実施の形態の表示装置が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0059】
(適用例5)
図23は、上記実施の形態の表示装置が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0060】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、基板11の中央部に一つの表示領域110が設けられている場合について説明したが、一枚の基板11に二つ以上の表示領域110が設けられていてもよい。例えば、図24に示したように、大型の基板11に二つの表示領域110が設けられていてもよい。
【0061】
また、上記実施の形態では、成膜用マスク1,1Aを蒸着法に用いた場合について説明したが、本発明の成膜用マスク1,1Aは、スパッタ法などの他の成膜法にも用いることが可能である。
【0062】
更に、例えば、上記実施の形態において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。例えば、基板11はガラス基板に限らず、ステンレス鋼などの金属基板、プラスチックフィルムをガラス等の支持体に貼りつけたものでもよい。
【0063】
加えて、上記実施の形態では、有機EL素子10R,10G,10Bの構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。
【0064】
更にまた、上記実施の形態では、本発明の成膜用マスクを有機EL素子10R,10G,10Bを備えた表示装置の第2電極16または有機層15の形成に適用した場合について説明したが、本発明は、半導体製造プロセスなどにも適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1,1A…成膜用マスク、10R,10G,10B…有機EL素子、11…基板、13…第1電極(陽極)、14…絶縁膜、15…有機層、16…第2電極(陰極)、20…接着層、31…封止用基板、40…枠体、41…開口、42…段差、43…凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの表示領域が設けられると共に前記表示領域内および前記表示領域以外の外周部に配線回路が設けられた基板に対して、前記表示領域の全体に膜を形成するための成膜用マスクであって、
前記表示領域に対向して成膜材料通過用の開口を有する枠体を備え、
前記枠体は、前記開口の周囲に、前記基板との対向面から厚み方向の一部に段差を有し、前記段差の端は、前記基板の外周部の配線回路の端よりも外側に位置している
成膜用マスク。
【請求項2】
前記基板の外周部は、前記段差に対向する領域内に、前記配線回路の設けられていないすきま部分を有し、
前記枠体は、前記段差のすきま部分に対向する位置に、前記段差と同じ高さの凸部を有する
請求項1記載の成膜用マスク。
【請求項3】
前記段差の高さは、前記枠体の上に載置された前記基板のたわみ量よりも大きい
請求項1記載の成膜用マスク。
【請求項4】
少なくとも一つの表示領域が設けられた基板に対して、前記表示領域内および前記表示領域以外の外周部に配線回路を形成すると共に、前記表示領域に、第1電極,発光層を含む有機層および第2電極をこの順に有する複数の有機発光素子を形成する表示装置の製造方法であって、
前記有機層および前記第2電極のうち少なくとも一方を、前記表示領域に対向して成膜材料通過用の開口を有する枠体を備えた成膜用マスクを用いて形成し、
前記枠体は、前記開口の周囲に、前記基板との対向面から厚み方向の一部に段差を有し、前記段差の端は、前記基板の外周部の配線回路の端よりも外側に位置している
表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−31473(P2012−31473A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172088(P2010−172088)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】