説明

成膜用マスク部材、および成膜用マスク部材の製造方法

【課題】被処理基板とのアライメントマークと、支持基板とチップとを接合する際のアライメントマークとを高い位置精度で形成することのできる成膜用マスク部材、およびこの成膜用マスク部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】マスク開口部22が形成されたチップ20を支持基板30に対して固定することにより形成される成膜用マスク部材10において、チップ20の上面20xには、支持基板との位置合わせ用の第1アライメントマーク24と、被処理基板との位置合わせ用の第2アライメントマーク25とが形成されている。第1アライメントマーク24は貫通穴である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板に成膜する成膜パターンに対応するマスク開口部が貫通するチップを支持基板上に接合した成膜用マスク部材、および当該成膜用マスク部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種半導体装置や電気光学装置の製造工程では、成膜パターンに対応するマスク開口部が形成された成膜用マスク部材を被処理基板に重ね、この状態で真空蒸着法、スパッタ成膜、イオンプレーティング、CVD法などの成膜を行うことがある。例えば、電気光学装置としての有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELという)装置の製造工程において、発光素子用の有機EL材料(有機機能層)を所定形状に形成する際にフォトリソグラフィ技術を利用すると、パターニング用のレジストマスクをエッチング液や酸素プラズマなどで除去する際に有機機能材料が水分や酸素に触れて劣化するおそれがあるため、被処理基板に成膜用マスク部材を重ねた状態で真空蒸着を行うマスク蒸着法によって有機機能層を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、成膜用マスク部材は、被処理基板上に成膜する成膜パターンに対応するマスク開口部が形成された複数のチップと、この複数のチップを保持するガラス製の支持基板とを有しており、チップの上面を被処理基板に重ね合わせた状態で成膜を行う。このような成膜用マスク部材においては、例えば、支持基板の上面には被処理基板とのアライメントマークが形成されているとともに、チップとのアライメントマークも形成されている。また、チップの支持基板との接合面(下面)には、支持基板とのアライメントマークが形成されており、かかるアライメントマークを用いて、支持基板上の所定位置にチップを接合する。
【特許文献1】特開2005−276480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、チップの方にマスク開口部が形成されているにもかかわらず、支持基板の方に被処理基板とのアライメントマークが形成されている構成では、マスク開口部と、被処理基板とのアライメントマークとの間に位置ずれが発生しやすく、成膜精度が低いという問題点がある。すなわち、チップが単結晶シリコン基板からなる場合、チップが透明でないため、支持基板の上面にチップを接合する際、支持基板の下面側から支持基板に形成されているアライメントマークと、チップのアライメントマークとを確認する必要があり、そのため、画像処理装置を用いることになるが、画像処理装置を用いてのアライメントは精度が低く、支持基板に対するチップの位置精度が低いからである。
【0005】
そこで、チップの下面(支持基板との接合面)に支持基板とのアライメントマークを形成する一方、チップの上面(被処理基板と重なる側の面)に被処理基板とのアライメントマークを形成することが考えられるが、このような構成では、別々の露光工程で、エッチングマスクにアライメントマーク形成用の開孔部を形成するため、2種類のアライメントマークの間で位置精度を確保できないという問題点がある。
【0006】
以上の問題に鑑みて、本発明の課題は、被処理基板とのアライメントマークと、支持基板とチップとを接合する際のアライメントマークとを高い位置精度で形成することのできる成膜用マスク部材、およびこの成膜用マスク部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、被処理基板上に成膜する成膜パターンに対応するマスク開口部が形成されたチップと、該チップを保持する支持基板とを有し、前記チップの一方面を前記被処理基板に重ね合わせた状態で成膜に用いられる成膜用マスク部材において、前記チップの一方面には、前記支持基板との位置合わせを行うための第1アライメントマークと、前記被処理基板との位置合わせを行うための第2アライメントマークとが形成され、前記第1アライメントマークは、貫通穴より形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、チップには、支持基板との位置合わせを行うための第1アライメントマークが形成されているとともに、被処理基板との位置合わせを行うための第2アライメントマークもチップの方に形成されている。また、第1アライメントマークおよび第2アライメントマークはいずれも、チップの一方面側に形成されているので、1回の露光で、これらのアライメントマークを形成すための開孔部、およびマスク開口部を形成するための開孔部をエッチングマスクに形成することができる。従って、チップでは、第1アライメントマーク、第2アライメントマーク、およびマスク開口部の間の相対的な位置精度が高い。それ故、被処理基板に対して高い精度でマスク開口部を位置合わせすることができる。また、第1のアライメントマークは、チップの一方面側に形成されているが、貫通穴である。従って、チップを支持基板に接合する際、チップの一方面側から、第1アライメントマークを通して、支持基板に形成されているアライメントマークを確認できる。それ故、画像処理装置を用いなくても、チップと支持基板とのアライメントを行うことができるので、支持基板にチップを高い位置精度で接合することができる。
【0009】
本発明は、前記チップが単結晶シリコン製である場合に適用すると効果的である。チップが単結晶シリコン製である場合には、透明でないが、第1のアライメントマークが貫通穴であるため、チップの一方面側から、第1アライメントマークを通して、支持基板に形成されているアライメントマークを確認できる。
【0010】
本発明では、前記チップにおいて、前記マスク開口部で挟まれた梁部の厚さが5μm以上、かつ、50μm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明では、被処理基板上に成膜する成膜パターンに対応するマスク開口部が形成されたチップと、該チップを保持する支持基板とを有し、前記チップの一方面を前記被処理基板に重ね合わせた状態で成膜に用いられる成膜用マスク部材の製造方法において、チップ形成用基板の一方面のうち、前記マスク開口部、前記支持基板との位置合わせを行うための第1アライメントマーク、および前記被処理基板との位置合わせを行うための第2アライメントマークを形成すべき領域で開孔する第1エッチングマスクにより前記チップ形成用基板の一方面および他方面を覆う第1エッチングマスク形成工程と、前記第1エッチングマスクの開孔部から前記チップ形成用基板を厚さ方向の途中位置までエッチングして前記マスク開口部、前記第1アライメントマーク、および前記第2アライメントマークを形成する第1エッチング工程と、前記チップ形成用基板の他方面のうち、前記マスク開口部および前記第1アライメントマークと重なる領域で開孔する第2エッチングマスクで前記チップ形成用基板の一方面および他方面を覆う第2エッチングマスク形成工程と、前記第2エッチングマスクの開孔部から前記チップ形成用基板をエッチングして前記マスク開口部および前記第1アライメントマークを貫通させる第2エッチング工程と、を有することを特徴とする。このように構成すると、従来と同一の工程数でチップに対して、マスク開口部、第1アライメントマーク、および第2アライメントマークを一括して形成することができ、かつ、互いの位置精度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した成膜用マスク部材、およびその製造方法について説明する。なお、以下の説明に用いる各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせてある。また、以下の実施の形態では、本発明の成膜用マスク部材が使用される対象として有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置を例示する。
【0013】
(有機EL装置の構成例)
図1は、本発明が適用される有機EL装置の要部断面図である。図1に示す有機EL装置1は、表示装置やプリンタの光学ヘッドなどとして用いられるものであり、素子基板2上では、感光性樹脂からなる隔壁9で囲まれた複数の領域に画素3が構成されている。複数の画素3は各々、有機EL素子3aを備えており、有機EL素子3aは、陽極として機能するITO(Indium Tin Oxide)膜からなる画素電極4と、この画素電極4からの正孔を注入/輸送する正孔注入輸送層5と、有機EL材料からなる発光層6と、電子を注入/輸送する電子注入輸送層7と、アルミニウムやアルミニウム合金からなる陰極8とを備えている。陰極8の側には、有機EL素子3aが水分や酸素により劣化するのを防止するための封止層や封止部材(図示せず)が配置されている。素子基板2上には、画素電極4に電気的に接続された駆動用トランジスタ2aなどを含む回路部2bが有機EL素子3aの下層側に形成されている。ここで、有機EL装置1が表示装置として用いられる場合、各画素3はマトリクス状に形成される。なお、有機EL装置1では、隔壁9が形成されずに、各々の層が所定の領域に形成されることもある。
【0014】
有機EL装置1がボトムエミッション方式である場合は、発光層6で発光した光を画素電極4の側から出射するため、素子基板2の基体としては、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)などの透明基板が用いられる。その際、陰極8を光反射膜によって構成すれば、発光層6で発光した光を陰極8で反射して透明基板の側から出射することができる。
【0015】
これに対して、有機EL装置1がトップエミッション方式である場合は、発光層6で発光した光を陰極8の側から出射するため、素子基板2の基体は透明である必要はない。但し、有機EL装置1がトップエミッション方式である場合でも、素子基板2に対して光出射側とは反対側の面に反射層(図示せず)を配置して、発光層6で発光した光を陰極8の側から出射する場合には、素子基板2の基体として透明基板を用いること必要がある。なお、有機EL装置1がトップエミッション方式である場合において、素子基板2の基体と発光層6との間、例えば、画素電極4の下層側などに反射層を形成して、発光層6で発光した光を陰極8の側から出射する場合には、素子基板2の基体は透明である必要はない。
【0016】
ここで、有機EL装置1がトップエミッション方式である場合、陰極8が薄く形成される。このため、陰極8の電気抵抗の増大を補うことを目的に、隔壁9の上面にアルミニウムやアルミニウム合金からなる補助配線8aが形成されることもある。
【0017】
有機EL装置1がカラー表示装置として用いられる場合、複数の画素3および有機EL素子3aは各々、赤(R)、緑(G)、青(B)に対応するサブ画素として構成される。その場合、有機EL素子3aにおいて、発光層6は、各色に対応する光を出射可能な発光材料により形成される。また、単独の発光材料からなる発光層6によって、RGB各色の特性を得るのは難しいことが多いので、ホスト材料に蛍光色素をドーピングした発光層6を形成し、蛍光色素からのルミネッセンスを発光色として取り出すこともある。このようなホスト材料とドーパント材料の組み合わせとしては、例えば、トリス(8−キノリラート)アルミニウムとクマリン誘導体との組み合わせ、アントラセン誘導体とスチリルアミン誘導体との組み合わせ、アントラセン誘導体とナフタセン誘導体との組み合わせ、トリス(8−キノリラート)アルミニウムとジシアノピラン誘導体との組み合わせ、ナフタセン誘導体とジインデノペリレンとの組み合わせなどがある。また、電子注入輸送層7は、トリス(8−キノリラート)アルミニウムを含む有機アルミニウム錯体などが用いられる。
【0018】
(有機EL装置1の製造方法)
素子基板2を形成するにあたっては、単品サイズの基板に以下の工程を施す方法の他、素子基板2を多数取りできる大型基板に以下の工程を施した後、単品サイズの素子基板2に切断する方法が採用されるが、以下の説明では、サイズを問わず、素子基板2(被処理基板)と称して説明する。
【0019】
有機EL装置1を製造するには、素子基板2に対して成膜工程、レジストマスクを用いてのパターニング工程などといった半導体プロセスを利用して各層が形成される。但し、正孔注入輸送層5、発光層6、電子注入輸送層7などは、水分や酸素により劣化しやすいため、正孔注入輸送層5、発光層6、電子注入輸送層7を形成する際、さらには、電子注入輸送層7の上層に補助配線8aや陰極8を形成する際、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行うと、レジストマスクをエッチング液や酸素プラズマなどで除去する際に正孔注入輸送層5、発光層6、電子注入輸送層7が水分や酸素により劣化してしまう。そこで、本形態では、正孔注入輸送層5、発光層6、電子注入輸送層7を形成する際、さらには補助配線8aや陰極8を形成する際には、後述する成膜用マスク部材を用いてのマスク蒸着法によって、素子基板2に所定形状の薄膜を形成し、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行わない。
【0020】
(成膜用マスク部材の全体構成)
図2は、本発明を適用した成膜用マスク部材全体の基本的構成を示す斜視図である。図3は、成膜用マスク部材の一部を拡大してチップの基本的構成を示す説明図である。
【0021】
図2および図3に示す成膜用マスク部材10は、ベース基板をなす矩形の支持基板30に、複数のチップ20を複数、取り付けた構成を有している。本形態において、チップ20はシリコン製であり、複数枚が各々、支持基板30にアライメントされた状態で支持基板30の上面に陽極接合や紫外線硬化型接着剤などにより接合されている。
【0022】
成膜用マスク部材10は、所定の成膜パターンをマスク蒸着法により形成するためのマスクであり、チップ20には、成膜パターンに対応する長孔形状のマスク開口部22が複数一定間隔で平行に並列した状態で形成されている。このため、チップ20には、マスク開口部22の各間に梁部27が形成されている。チップ20において、マスク開口部22の形成領域の周りには外枠部26が形成されており、かかる外枠部26が支持基板30に接合されている。
【0023】
支持基板30には、長方形の貫通穴からなる複数の開口領域32が平行、かつ一定間隔で設けられており、複数のチップ20は、支持基板30の開口領域32を塞ぐように支持基板30上に固定されている。支持基板30の構成材料は、チップ20の構成材料の熱膨張係数と同一又は近い熱膨張係数を有するものが好ましい。チップ20はシリコンであるので、シリコンの熱膨張係数と同等の熱膨張係数をもつ材料で支持基板30を構成する。このようにすることにより、支持基板30とチップ20との熱膨張量の違いによる「歪み」や「撓み」の発生を抑えることができる。本形態では、支持基板30としては、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英ガラスなどからなる透明基板が用いられている。
【0024】
チップ20は、例えば、面方位(100)を有する単結晶シリコン基板20aからなり、後述するように、単結晶シリコン基板20aにフォトリソグラフィ技術やエッチング技術などを用いて、貫通溝からなるマスク開口部22を形成することにより、製造される。チップ20の下面(他方面)には大きな凹部29が形成されており、マスク開口部22は、凹部29の底部で開口している。このため、マスク開口部22が形成された領域では基板厚(梁部27の厚さ)が薄く、5μm〜50μmである。このため、マスク開口部22では、斜め方向に進行する蒸着粒子もマスク開口部22を通過しやすくなっている。
【0025】
(成膜用マスク部材の詳細構成)
図4(a)、(b)は、本発明を適用した成膜用マスク部材に用いたチップの平面図、および図4(a)におけるA−A′断面図である。
【0026】
図2に示すように、本形態の成膜用マスク部材10において、支持基板30の上面には、開口領域32の長手方向に沿って一定間隔にアライメントマーク34が形成されている。また、図2、図3および図4(a)、(b)に示すように、チップ20の上面(一方面)には第1アライメントマーク24、および第2アライメントマーク25が少なくとも2ヶ所形成されている。第1アライメントマーク24、および支持基板30のアライメントマーク34は、チップ20を支持基板30に固定する際の位置合わせに使用される。また、第2アライメントマーク25は、素子基板2に成膜用マスク部材10を装着する際の位置合わせに使用される。
【0027】
ここで、第2アライメントマーク25は、梁部27の厚さ寸法と略等しい深さ寸法の有底の穴であり、その深さ寸法は5μm〜50μmである。これに対して、第1アライメントマーク24は、チップ20の外枠部26を貫通する貫通穴である。
【0028】
(マスク蒸着法)
かかる成膜用マスク部材10を用いて、素子基板2にマスク蒸着を行う場合には、まず、素子基板2の下面(被成膜面/素子基板2の両面のうち、有機EL素子3aが形成されている側の面)に成膜用マスク部材10を重ねる。その際、チップ20に形成された第2アライメントマーク25と、素子基板2に形成されているアライメントマーク(図示せず)とを重ね合わせることにより、素子基板2に対する成膜用マスク部材10の位置決めを行い、その位置で素子基板2に対して成膜用マスク部材10を重ねる。この結果、素子基板2の下面には成膜用マスク部材10のチップ20の上面が当接する。この状態で真空蒸着を行うと、坩堝から供給された蒸着分子や蒸着原子は、チップ20のマスク開口部22を介して素子基板2の下面に堆積し、所定の成膜パターンが形成される。従って、図1を参照して説明した正孔注入輸送層5、発光層6および電子注入輸送層7などを所定のパターンに形成することができる。また、成膜用マスク部材10をずらしながら複数回、成膜することにより、被成膜領域全体にわたってストライプ状の薄膜を形成することができる。
【0029】
(成膜用マスク部材の製造方法)
図5(a)〜(h)は、本形態の成膜用マスク部材10の製造方法のうち、チップ20の製造方法を示す工程断面図である。本形態の成膜用マスク部材10を製造するにあたっては、まず、図5(a)、(b)に示す第1エッチングマスク形成工程において、単結晶シリコン基板20a(チップ形成用基板)の上面20x(一方面)のうち、マスク開口部22、第1アライメントマーク24、および第2アライメントマーク25を形成すべき領域で開孔する第1エッチングマスクにより単結晶シリコン基板20aの上面20xおよび下面20y(他方面)を覆う。より具体的には、図5(a)に第1保護膜形成工程において、面方位(100)を有する単結晶シリコン基板20aの全面に熱酸化法により、厚さが1μm程度の酸化膜20b(第1保護膜)を形成し、単結晶シリコン基板20aの上面20xおよび下面20yを酸化膜20bで覆う。次に、図5(b)に示す第1保護膜パターニング工程においては、フォトリソグラフィ技術、および緩衝ふっ酸を用いたエッチングにより、単結晶シリコン基板20aの上面に形成されている酸化膜20bのうち、マスク開口部22、第1アライメントマーク24、および第2アライメントマーク25を形成すべき領域の酸化膜を除去する。
【0030】
次に、第1エッチング工程においては、図5(c)に示すように、酸化膜20bをエッチングマスクとして用いて、単結晶シリコン基板20aの上面20xをエッチングする。例えば、DEEP−RIE装置を用いて、酸化膜20bの開孔領域から単結晶シリコン基板20aの上面20xに対してドライエッチングを行う。これにより、単結晶シリコン基板20aの上面20xには、マスク開口部22、第1アライメントマーク24、および第2アライメントマーク25が溝状に形成される。ここで、第1エッチング工程でのエッチング量が、図4(a)、(b)に示す梁部27の厚さとなる。梁部27の厚さは、チップ20を用いてマスク蒸着を行う際、蒸着原子や蒸着分子がマスク開口部22内を通過しやすいよう、できるだけ薄い方が望ましい。但し、あまり薄くし過ぎるとチップ20の強度が低下してしまうため、本形態では、第1エッチング工程におけるエッチング量を5μm以上、50μm以下、好ましくは5μm以上、40μm以下、例えば、30μm程度とする。
【0031】
次に、図5(d)に示すように、緩衝ふっ酸を用いて、単結晶シリコン基板20aの全面に形成された酸化膜20bを全て除去する。
【0032】
図5(e)、(f)に示す第2エッチングマスク形成工程において、単結晶シリコン基板20aの下面20yのうち、マスク開口部22および第1アライメントマーク24と重なる領域で開孔する第2エッチングマスクで単結晶シリコン基板20aの上面20xおよび下面20yを覆う。より具体的には、図5(e)に示す第2保護膜形成工程において、単結晶シリコン基板20aの全面に熱酸化法により、厚さが1μm程度の酸化膜20bを再度、形成し、単結晶シリコン基板20aの上面20xおよび下面20yを酸化膜20bで覆う。次に、図5(f)に示す第2保護膜パターニング工程において、フォトリソグラフィ技術、および緩衝ふっ酸を用いたエッチングにより、単結晶シリコン基板20aの下面20yに形成されている酸化膜20bのうち、マスク開口部22、および第1アライメントマーク24と重なる領域の酸化膜20bを除去する。
【0033】
次に、第2エッチング工程においては、図5(g)に示すように、酸化膜20bをマスクとして用いて単結晶シリコン基板20aの下面20yをエッチングする。例えば、温度が80℃、濃度が35%の水酸化カリウム水溶液により、酸化膜20bの開孔領域から単結晶シリコン基板20aの下面20yに対してウエットエッチングを行う。ここで行うウエットエッチングは、結晶異方性エッチングであり、単結晶シリコン基板20aの下面20yにはマスク開口部22と重なる領域に大きな凹部29が形成され、凹部29の上底部でマスク開口部22が貫通する。また、単結晶シリコン基板20aの下面20yには第1アライメントマーク24と重なる領域に大きな凹部24bが形成され、第1アライメントマーク24が貫通する。
【0034】
次に、図5(h)に示すように、緩衝ふっ酸を用いて、単結晶シリコン基板20aの全面に形成された酸化膜20bを全て除去する。これにより、単結晶シリコン基板20aの上面20xには、マスク開口部22、第1アライメントマーク24および第2アライメントマーク25が形成され、これらのうち、マスク開口部22および第1アライメントマーク24については貫通穴として形成される。
【0035】
しかる後には、チップ20を支持基板30上に接合する。その際には、第1アライメントマーク24が貫通穴であるため、チップ20の上面側から第1アライメントマーク24を通して、支持基板30に形成されているアライメントマーク34を確認し、位置合わせを行った後、チップ20を支持基板30上に接合する。
【0036】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の成膜用マスク部材10において、チップ20には、支持基板30との位置合わせを行うための第1アライメントマーク24が形成されているとともに、素子基板2との位置合わせを行うための第2アライメントマーク25もチップ20の方に形成されている。また、第1アライメントマーク24および第2アライメントマーク25はいずれも、チップ20の一方面側に形成されているので、第1保護膜パターニング工程での1回の露光で、これらのアライメントマーク24、25を形成すための開孔部、およびマスク開口部22を形成するための開孔部をエッチングマスク(図5(b)に示す酸化膜20b)に形成することができる。従って、チップ20では、第1アライメントマーク24、第2アライメントマーク25、およびマスク開口部22の間の相対的な位置精度が高い。それ故、素子基板2に対して成膜用マスク部材10を精度よく配置することができる。
【0037】
また、第1のアライメントマーク24は、チップ20の一方面側に形成されているが、貫通穴である。従って、チップ20を支持基板30に接合する際、チップ20の上面側から、第1アライメントマーク24を通して、支持基板30に形成されているアライメントマーク34を確認できる。それ故、画像処理装置を用いなくても、チップ20と支持基板30とのアライメントを行うことができるので、支持基板30にチップ20を高い位置精度で接合することができる。
【0038】
[その他の実施の形態]
本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記の製造方法では、マスクとして酸化膜20bを用いたが、耐エッチング性を有するものであれば、CVD法などにより形成された窒化シリコン膜や、スパッタ法により形成されたAu膜やPt膜などの金属膜であってもよい。また、上記形態では、複数のチップ20を支持基板30に接合した成膜用マスク部材10に本発明を適用したが、マスク開口部を形成した単結晶シリコン基板を1枚のみ用いた成膜用マスク部材に本発明を適用してもよい。さらに、上記形態では、面方位(100)の単結晶シリコン基板20aにマスク開口部22を形成した例を説明したが、その他の面方位を備えた単結晶シリコン基板や、その他のシリコン基板、さらにはシリコン以外の基板にマスク開口部22を形成した成膜用マスク部材に本発明を適用してもよい。
【0039】
また、上記形態については、真空蒸着法に用いる成膜用マスク部材を説明したが、スパッタ成膜法やイオンプレーティング法などの蒸着法、さらにはCVD法に用いる成膜用マスク部材に本発明を適用することができる。また、近年、イオンプレーティング法についてはプラズマを利用したプラズマコーティングが提案されており、かかる蒸着法に用いる成膜用マスク部材に対しても、本発明を適用することができる。
【0040】
さらに、上記形態では、有機EL装置1のストライプ状の薄膜(補助配線8a、正孔注入輸送層5、発光層6、電子注入輸送層7)を形成するための成膜用マスク部材に本発明を適用したが、液晶装置その他の電気光学装置や半導体装置の製造工程において、ストライプ状の薄膜を形成する成膜用マスク部材に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明が適用される有機EL装置の要部断面図である。
【図2】本発明を適用した成膜用マスク部材全体の基本的構成を示す斜視図である。
【図3】本発明を適用した成膜用マスク部材の一部を拡大してチップの基本的構成を示す説明図である。
【図4】(a)、(b)は、本発明を適用した成膜用マスク部材に用いたチップの平面図、および図4(a)におけるA−A′断面図である。
【図5】(a)〜(h)は、本発明を適用した成膜用マスク部材の製造方法を示す工程断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1・・有機EL装置、2・・素子基板(被処理基板)、3・・画素、3a・・有機EL素子、4・・画素電極、5・・正孔注入輸送層、6・・発光層、7・・電子注入輸送層、8・・陰極、8a・・補助配線、10・・成膜用マスク部材、20・・チップ、20a・・単結晶シリコン基板(チップ形成用基板)、20b・・酸化膜(保護膜)、20x・・単結晶シリコン基板の上面(一方面)、20y・・単結晶シリコン基板の下面(他方面)、22・・マスク開口部、24・・第1アライメントマーク、25・・第2アライメントマーク、26・・外枠部、27・・梁部、30・・支持基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板上に成膜する成膜パターンに対応するマスク開口部が形成されたチップと、該チップを保持する支持基板とを有し、前記チップの一方面を前記被処理基板に重ね合わせた状態で成膜に用いられる成膜用マスク部材において、
前記チップの一方面には、前記支持基板との位置合わせを行うための第1アライメントマークと、前記被処理基板との位置合わせを行うための第2アライメントマークとが形成され、
前記第1アライメントマークは、貫通穴より形成されていることを特徴とする成膜用マスク部材。
【請求項2】
前記チップは、単結晶シリコン製であることを特徴とする請求項1に記載の成膜用マスク部材。
【請求項3】
前記チップにおいて、前記マスク開口部で挟まれた梁部の厚さが5μm以上、かつ、50μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜用マスク部材。
【請求項4】
被処理基板上に成膜する成膜パターンに対応するマスク開口部が形成されたチップと、該チップを保持する支持基板とを有し、前記チップの一方面を前記被処理基板に重ね合わせた状態で成膜に用いられる成膜用マスク部材の製造方法において、
チップ形成用基板の一方面のうち、前記マスク開口部、前記支持基板との位置合わせを行うための第1アライメントマーク、および前記被処理基板との位置合わせを行うための第2アライメントマークを形成すべき領域で開孔する第1エッチングマスクにより前記チップ形成用基板の一方面および他方面を覆う第1エッチングマスク形成工程と、
前記第1エッチングマスクの開孔部から前記チップ形成用基板をエッチングして前記マスク開口部、前記第1アライメントマーク、および前記第2アライメントマークを形成する第1エッチング工程と、
前記チップ形成用基板の他方面のうち、前記マスク開口部および前記第1アライメントマークと重なる領域で開孔する第2エッチングマスクで前記チップ形成用基板の一方面および他方面を覆う第2エッチングマスク形成工程と、
前記第2エッチングマスクの開孔部から前記チップ形成用基板をエッチングして前記マスク開口部および前記第1アライメントマークを貫通させる第2エッチング工程と、
を有することを特徴とする成膜用マスク部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−231497(P2008−231497A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72019(P2007−72019)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】