説明

成膜装置、成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法

【課題】溝、チャネル等の凹部を有する基体の凹部の内面に形成されるパリレン膜の膜厚分布を低減できる成膜装置、成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】溝、チャネル等の凹部を有する基体163の少なくとも前記凹部の内面にポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する成膜チャンバー153を備える成膜装置であって、前記基体163を第一の目標設定温度に制御する基体加熱機構を有することを特徴とする成膜装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜(以下、パリレン膜と称する場合がある。)は、耐薬品性及び絶縁性に優れているので、種々の精密部品の保護膜として使用可能である。特に、インクジェットヘッドの電極等をインクから保護する保護膜として好適に用いられる。
【0003】
インクジェットヘッドを利用して、微小な液滴を吐出することによって画像を記録したり微細なパターンや構造を形成する方法は近年よく知られてきている。このようなインクジェットヘッドには代表的なものとして、圧電性セラミック材料の電圧による変形を利用して液滴を吐出するものと、加熱により液中に気泡を発生して体積膨張を生じさせることで液滴を吐出するものとが知られている。この種の素子の例として、セラミック材料からなる厚さ1乃至2mm程度の基板に、溝深さが略0.5mm、溝幅及び溝間の壁の厚さが0.18mmといった微細な溝を多数形成して、溝が形成された側にカバー材を接合することで微細なトンネル状の空間が多数形成された構造となっているものがある。このようなトンネル状の空間を本明細書ではチャネルと呼ぶ。インクジェットヘッドでは、このトンネル状の空間に、吐出される液を保持して前述のような方法で液を吐出する。
【0004】
電気信号に基づいて液を吐出する機能を得るために、チャネルの内面には金属材料からなる電極が形成されているものが多い。加熱により気泡を発生することで液を吐出する場合は、加熱手段としてのヒータも金属膜がチャネルの内部に形成されているものが多い。従ってインクジェットヘッドのチャネルの内面は、通常は金属材料が形成されている。
【0005】
一方吐出される液体は様々な種類のものが使われ、油性インクのような油性の液体は一般に金属に対して腐食性は小さいが、水性インク等の水溶性の液体は金属に対して腐食性を有する場合がある。特に電極に電圧が加えられると、電気化学的な反応によって腐食が促進される。また液滴吐出の目的によっては、腐食性が強い液体が使われる場合も有る。
【0006】
このような原因で生じる金属材料の腐食を防止し、インクジェットヘッドの耐久性を向上する目的で、チャネルの内面に保護膜を形成することが行われている。このような保護膜の材料として、パリレン膜がよく知られていて、一般に化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition、以下CVDという場合がある)によって、チャネルの内面に保護膜を形成している。また、パリレン膜の保護膜の性能や耐久性を向上するために、様々な工夫が行われている。
【0007】
従来は、パリレン膜を形成する基体を加熱する加熱手段を有していない成膜装置を用いてパリレン膜を成膜していた(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2002−355966号公報
【特許文献2】特開2003−19797号公報
【特許文献3】特開2007−185883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3に開示されている方法は、主にパリレン膜の密着性や膜自体の性質に着目して保護膜としての性能向上を図ったものであり、膜自体の性能を改善する上で有効な方法である。しかしながら、インクジェットヘッドのチャネルの内面にパリレン膜を形成する場合には、以下のような技術的問題がある。
【0009】
例えば、インクジェットヘッドの場合、チャネルは断面形状が極めて小さいことが普通で、断面積が0.1mm以下で長さは10mmを超える場合も多い、極めて細長い空間である。また、インクジェットヘッドを製造する上で、チャネルを形成するための溝を有する基板と基板に接合されるカバー材との接合を充分に強固なものとするためには、保護膜形成は溝を形成した基板にカバー材を接合してから行うことが望ましく、従ってトンネル状の空間に対して製膜することが求められる。またチャネルは両端部に開口を有しているとは限らず、一方の端部は閉じられた構造となっていて他方の端部のみが開口を有している場合も有る。
【0010】
このような細長いチャネルの内面にCVDで保護膜を製膜する場合、チャネルの開口部近傍には製膜ガスが充分に行きわたり、必要な厚さの膜が形成されやすいが、開口部から離れたチャネルの奥の部分には製膜ガスが充分に行きわたらず、開口部近傍に比べて膜の厚さが薄くなりがちである。均一な膜厚の保護膜を形成するのが困難な場合に、膜厚が薄くなりがちな部分の膜厚を必要な膜厚にするためには、チャネルの開口部近傍では必要以上の膜厚となってしまう。保護膜の膜厚がチャネルの中央部で1μm程度になるまで製膜を続けると、チャネルの開口部の近傍では膜厚が10μmを越えてしまうことが多い。
【0011】
このように、必要以上に膜厚が厚すぎると高価な原材料を使用するパリレン膜が無駄に消費されることになり、原料の有効利用率が低下するという問題がある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、溝、チャネル等の凹部を有する基体の凹部の内面に形成されるパリレン膜の膜厚分布を低減できる成膜装置、成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0014】
1.溝、チャネル等の凹部を有する基体の少なくとも前記凹部の内面にポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する成膜チャンバーを備える成膜装置であって、
前記基体を第一の目標設定温度に制御する基体加熱機構を有することを特徴とする成膜装置。
【0015】
2.前記成膜チャンバーの内壁を第二の目標設定温度に制御するチャンバー内壁加熱機構を更に有することを特徴とする前記1に記載の成膜装置。
【0016】
3.前記基体加熱機構は、成膜中の前記基体の温度を前記第一の目標設定温度に制御することを特徴とする前記1または2に記載の成膜装置。
【0017】
4.前記チャンバー内壁加熱機構は、成膜中の前記チャンバー内壁の温度を前記第二の目標設定温度に制御することを特徴とする前記2または3に記載の成膜装置。
【0018】
5.前記基体加熱機構は、前記基体の温度を検出する基体温度検出手段と、前記基体の加熱を行う基体加熱手段と、前記基体温度検出手段の検出結果に基づいて、前記基体加熱手段を制御する基体温度制御手段とを備えることを特徴とする前記1乃至4の何れか1項に記載の成膜装置。
【0019】
6.前記チャンバー内壁加熱機構は、前記チャンバー内壁の温度を検出するチャンバー内壁温度検出手段と、前記チャンバー内壁の加熱を行うチャンバー内壁加熱手段と、前記チャンバー内壁温度検出手段の検出結果に基づいて、前記チャンバー内壁加熱手段を制御するチャンバー内壁温度制御手段とを備えることを特徴とする前記2乃至5の何れか1項に記載の成膜装置。
【0020】
7.前記基体加熱機構は、前記基体の温度を検出する基体温度検出手段と、前記基体の加熱を行う基体加熱手段と、前記基体温度検出手段の検出結果に基づいて、前記基体加熱手段を制御する基体温度制御手段とを備え、
前記チャンバー内壁加熱機構は、前記チャンバー内壁の温度を検出するチャンバー内壁温度検出手段と、前記チャンバー内壁の加熱を行うチャンバー内壁加熱手段と、前記チャンバー内壁温度検出手段の検出結果に基づいて、前記チャンバー内壁加熱手段を制御するチャンバー内壁温度制御手段とを備え、
前記基体温度制御手段と前記チャンバー内壁温度制御手段は、共通の制御装置で構成されていることを特徴とする前記2乃至4の何れか1項に記載の成膜装置。
【0021】
8.前記基体加熱機構は、前記第一の目標設定温度を変更可能となっていることを特徴とする前記1乃至7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【0022】
9.前記チャンバー内壁加熱機構は、前記第二の目標設定温度を変更可能となっていることを特徴とする前記2乃至8のいずれか一項に記載の成膜装置。
【0023】
10.前記第二の目標設定温度が前記第一の目標設定温度よりも高いことを特徴とする前記2乃至9のいずれか一項に記載の成膜装置。
【0024】
11.前記第二の目標設定温度が前記第一の目標設定温度よりも10℃以上高いことを特徴とする前記10に記載の成膜装置。
【0025】
12.成膜チャンバー内で、溝、チャネル等の凹部を有する基体の少なくとも前記凹部の内面にポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する成膜方法であって、
前記基体を第一の目標設定温度に加熱する基体加熱ステップと、
加熱された基体の前記凹部の内面にポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する成膜ステップと、
を有することを特徴とする成膜方法。
【0026】
13.前記成膜ステップの前に、
前記成膜チャンバーの内壁を第二の目標設定温度に加熱するチャンバー内壁加熱ステップ
を有することを特徴とする前記12に記載の成膜方法。
【0027】
14.前記基体は、前記成膜ステップの間は前記第一の目標設定温度に保たれていることを特徴とする前記12または13に記載の成膜方法。
【0028】
15.前記チャンバー内壁は、前記成膜ステップの間は前記第二の目標設定温度に保たれていることを特徴とする前記13または14に記載の成膜方法。
【0029】
16.前記第一の目標設定温度が変更可能であることを特徴とする前記12乃至15のいずれか一項に記載の成膜方法。
【0030】
17.前記第二の目標設定温度が変更可能であることを特徴とする前記13乃至16のいずれか一項に記載の成膜方法。
【0031】
18.前記第二の目標設定温度が前記第一の目標設定温度よりも高いことを特徴とする前記13乃至17のいずれか一項に記載の成膜方法。
【0032】
19.前記第二の目標設定温度が前記第一の目標設定温度よりも10℃以上高いことを特徴とする前記18に記載の成膜方法。
【0033】
20.インクチャネルの内面に電極膜を有するインクジェットヘッドの製造方法であって、前記1乃至11のいずれか一項に記載の成膜装置を用いて、少なくとも前記電極膜の表面に前記ポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する工程を有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、溝、チャネル等の凹部を有する基体の凹部の内面に形成されるパリレン膜の膜厚分布を抑制することができる。余分な付着量が減少するため原材料の利用率の向上が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明に係る成膜装置についての一実施形態を説明する。なお、以下の説明では、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲が以下の実施形態および図面に限定されるものではない。
【0036】
まず、図1乃至図3に基づいて本実施形態の成膜装置について説明する。本実施形態の成膜装置は、例えば、後述するインクジェットヘッドのインクチャネル内の電極を保護する保護膜を形成する際に用いる。
【0037】
本発明にかかる成膜装置150は、図1、図2に示すように、昇華炉151、熱分解炉152、成膜チャンバー153、コールドトラップ155及び排気ポンプ154を有し、これら昇華炉151、熱分解炉152、成膜チャンバー153、コールドトラップ155及び排気ポンプ154はガス流路を形成する配管により図示するように連結されている。コールドトラップ155は、未反応のモノマーガスをトラップする液体窒素収容部156を有する。成膜工程中、上記成膜装置は、真空度が40〜80hPaに保たれる。この真空度は、成膜チャンバー153内の圧力を測定する圧力ゲージ158によりモニターされている。また、昇華炉151内は100℃〜200℃、熱分解炉152内は450℃〜700℃、成膜チャンバー153の内壁は60℃〜100℃の各温度に保持される。
【0038】
昇華炉151内ではパリレン膜の原料である固体二量体のジパラキシリレンの気化が行われる。この原料としては、下記一般式1で表される(2,2)−パラシクロファン化合物を用いることができる。
【0039】
【化1】

【0040】
(式1中、Y,Zは水素原子、アルキル基、またはハロゲン元素を表し、Y,Zは同一でも異なっていてもよい。)
熱分解炉152内では、気化したジパラキシリレンを熱分解させてパラキシリレンラジカルを発生させる熱分解が行われる。
【0041】
熱分解炉152内で発生したパラキシリレンラジカルは、バッフル160を経由して成膜チャンバー153内全体に拡散し、成膜対象物である基体に付着する。更に、この成膜チャンバー153内で、基体に付着したパラキシリレンラジカルは、付着と同時に気相重合して高分子量のポリパラキシリレンの被膜を形成する。
【0042】
このようにして成膜されたポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜は、下記一般式2で表される。
【0043】
【化2】

【0044】
(式2中、Y,Zは式1と同義である。mは重合数を表す。)
このような一般式2で表されるパリレン膜は、所謂、パリレンNに相当するポリパラキシリレン(一般式2において、Y,Z=水素原子)、モノクロロポリパラキシリレン(一般式2において、Y=水素原子、Z=塩素原子)、あるいは、所謂、パリレンCに相当するジクロロポリバラキシリレン(一般式2において、Y,Z=塩素原子)等が好ましい。
【0045】
図3(a)に成膜チャンバー153の模式的上面図、(b)に断面図、図4に温度制御のブロック図を示す。成膜チャンバー153には、底面に開口を有する箱形の形状を呈し成膜チャンバー153を開閉するための外部容器170が備えられている。
【0046】
成膜チャンバー153には、図2、3に示すように基体を導入するための外部容器170が備えられているが、基体を導入できればよく、このような形状の外部容器170に限定されるものではない。
【0047】
基体を設置後、図示しない圧接機構により、外部容器170をO−リング161を介して底板159に圧接させて、成膜チャンバー153内を密閉する。
【0048】
また、成膜チャンバー153の底面には、熱分解炉152との連結を行うための連結部、コールドトラップ155を介して排気ポンプ154との連結を行うための連結部が備えられている。
【0049】
成膜チャンバー153内の底部には、試料台157が設置されている。この試料台157に成膜する対象物である基体163が設置される。試料台157は金属等の熱伝導率の高い材料で構成される。
【0050】
成膜チャンバー153の底面の外側には、図示しないが、試料台157を回転させるためのモーターが設置され、試料台157と連結されている。試料台157の回転軸部分には、図示しないが、真空漏れを防止するためのO−リングが設置されている。また、図示しないがモーターには電源が設置されている。
【0051】
成膜対象物である基体としては、特に限定されるものではない。例えば、インクジェットヘッド、半導体部品、ゴム成形品、センサー、カテーテルなど電子分野、自動車分野、医療分野等で広く用いられる製品を用いることができる。溝、チャネル等の凹部を有する基体の少なくとも凹部の内面にポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する。
【0052】
次に、温度制御の構成を説明する。
【0053】
成膜装置150には、図4に示す基体加熱機構60及びチャンバー内壁加熱機構50が備えられている。
【0054】
基体加熱機構60は、成膜が行われる基体の温度を第一の目標設定温度(例えば、設定温度プラス・マイナス1℃等の範囲)に制御することにより、成膜が行われる基体の温度を所定の温度に制御するものである。
【0055】
図4に示すように、基体加熱機構60は、概略して、基体加熱手段173と、基体温度検出手段175と、入力手段53と、基体温度制御手段(ここでは制御部30が相当する)とを備えている。なお、基体加熱手段173、基体温度検出手段175及び入力手段53と、基体温度制御手段(制御部30)との間は、インターフェース31を介して互いに接続されている。
【0056】
基体加熱手段173は、基体の少なくとも一部の近傍に備えられ、基体の加熱を行うものである。具体的には、図3に示すように、基体加熱手段173は、試料台157に内蔵されたヒータ173aを備えている。
【0057】
ヒータ173aは、試料台157の基体載置面157aのほぼ全面に延在する熱源として機能を有するものである。
【0058】
基体温度検出手段175は、図3において基体の少なくとも一部の近傍に配置され、基体の温度を検出するものである。具体的には、基体温度検出手段175は、成膜が行われる基体の上面に配置されており、図3に示す温度センサ175aを備えている。図3に示すように、温度センサ175aは基体の表面に直接接触する接触型センサとなっている。
【0059】
温度センサ175aとしては、熱電対センサを用いることができる。熱電対センサは、2つの異なる金属を環状に連結し2接点の温度差により発生する熱電量から温度を検出する。
【0060】
この温度センサ175aにより、基体の温度を検出するようになっている。そして、この基体温度検出手段175としての温度センサ175aは、図4に示すように、検出結果としての基体の温度情報(以下、”検出温度情報”と称する)を制御部30に入力する。
【0061】
入力手段53は、操作盤、キーボード等であり、成膜するパリレン膜の種類またはその原料の種類に関する情報(以下、”設定情報”と称する)を制御部30に入力するものである。この入力手段53は、オペレータの手動操作により操作盤、キーボード等に設定情報が打ち込まれると、打ち込まれた設定情報を制御部30に入力する。なお、具体的には、設定情報は、パリレンN、パリレンC等の成膜するパリレン膜の種類またはその原料の種類に関する情報となっている。
【0062】
制御部30は、メモリ33と、CPU32とを備えている。
【0063】
メモリ33は、基体温度検出手段175から出力された検出温度情報、入力手段から出力された設定情報等を記憶する。また、メモリ33は、設定情報に対応する目標設定温度の情報(以下、”目標設定温度情報”と称する)をデータテーブルとして記憶している。従って、メモリ33では、入力手段53による設定情報に応じて目標設定温度情報が切り替えられるようになっている。具体的には、パリレンNといった設定情報から、パリレンCといった設定情報に変更されると、第1の目標設定温度も相対的に高くなるように、例えば、40℃から50℃に切り替わるように目標設定温度情報が切り替えられるようになっている。
【0064】
パリレンCは微細構造中への浸透性がパリレンNに比べ落ちるため微細構造の奥に入り込みにくく、入口部と奥部の膜ムラ(膜厚分布)が大きいが、基体温度を高めに設定することで、これらの欠点をカバーでき、より均一な(より膜厚分布が少ない)膜形成が出来るとともに、パリレンNより耐熱性が高いパリレンCの利点を生かして、耐熱性の高いパリレン膜を形成できる。
【0065】
なお、前記目標設定温度は、入力手段による手動の設定情報の変更に基づいて変更される他、センサ等により設定情報や他の条件を取得して、自動的に目標設定温度を変更する場合もある。
【0066】
CPU32は、メモリ33に記憶された検出温度情報及び目標設定温度情報を読み出し、これら情報の比較をする等の各種演算を行う。そして、CPU32は、演算結果に伴い基体の温度の上昇が必要であると判断した場合には、基体加熱手段173に加熱を行わせる作動信号を送る。また、CPU32は、演算結果に伴い基体の温度の上昇が不必要であると判断した場合には、基体加熱手段173に作動信号は送らない。
【0067】
インターフェース31は、上記した基体加熱手段173、基体温度検出手段175又は入力手段53と、制御部30との間で行われる各種情報及び信号の転送を媒介するものである。
【0068】
次に、チャンバー内壁加熱機構50について説明する。
【0069】
チャンバー内壁加熱機構50は、成膜チャンバー内壁の少なくとも一部を第二の目標設定温度(例えば、設定温度プラス・マイナス1℃等の範囲)に制御することにより、チャンバー内壁の温度を所定の温度に制御するものである。
【0070】
図4に示すように、チャンバー内壁加熱機構50は、概略して、チャンバー内壁加熱手段162(ヒータ162a)と、チャンバー内壁温度検出手段164(温度センサ164a)と、チャンバー内壁温度制御手段(ここでは制御部30が相当する)とを備えている。なお、チャンバー内壁加熱手段、チャンバー内壁温度検出手段と、チャンバー内壁温度制御手段(制御部30)との間は、インターフェース31を介して互いに接続されている。
【0071】
成膜チャンバー153の内壁は、図3に示すように、外部容器170の内面と底板159により形成され、外部容器170の外壁部分を覆うように、ヒータ162aが備えられている。これにより、成膜チャンバー153の内壁が第二の目標設定温度に加熱された状態で成膜できる。
【0072】
ヒータ162aとしては、成膜チャンバー153の内壁を加熱することができればよく、特に限定されるものではない。例えば、シリコンラバーヒータを用いることができ。また、温度センサ164aがチャンバー内壁に設けられている。
【0073】
チャンバー内壁温度制御手段(ここでは制御部30が相当する)は、図4に示すように、インターフェイス31、CPU32、メモリ33等から構成され、メモリ33中に書き込まれている制御プログラムや制御データに従いインターフェイス31に接続された各種機器を制御するようになっている。なお、この実施の形態では、基体温度制御手段とチャンバー内壁温度制御手段が共通の制御装置(すなわち、制御部30)で構成されている。
【0074】
インターフェイス31には、チャンバー内壁加熱手段162と、チャンバー内壁温度検出手段164などが電気的に接続されている。
【0075】
メモリ33は、チャンバー内壁温度検出手段164から出力された検出温度情報、入力手段から出力された設定情報等を記憶する。また、メモリ33は、設定情報に対応する目標設定温度の情報(以下、”目標設定温度情報”と称する)をデータテーブルとして記憶している。従って、メモリ33では、入力手段53による設定情報に応じて目標設定温度情報が切り替えられるようになっている。具体的には、パリレンNといった設定情報から、パリレンCといった設定情報に変更されると、第2の目標設定温度も相対的に高くなるように、例えば、60℃から70℃に切り替わるように目標設定温度情報が切り替えられるようになっている。
【0076】
パリレンCは成膜速度がパリレンNに比べ速いので、チャンバー内壁により厚い膜がつきやすいが、内壁温度を高めに設定することで、これらの欠点をカバー出来る。
【0077】
メモリ33には、成膜に関する各種データや、成膜装置の各部の動作に関する各種制御プログラムや制御データなどが書き込まれている。
【0078】
メモリ33は、成膜に関する各種データを記憶する記憶領域とCPU32による作業領域なども備えられている。
【0079】
CPU32は、メモリ33に格納されている各種プログラムの中から指定されたプログラムを、メモリ33内の作業領域に展開し、各センサからの入力信号に応じて、プログラムに従った各種処理を実行する。
【0080】
次に、成膜装置150の動作について説明する。
【0081】
成膜装置150においては、原料、基体等をセットし、電源を投入することにより、成膜可能な状態となる。
【0082】
まず、ここでは、オペレータの手動操作により、操作盤、キーボード等の入力手段53に設定情報が打ち込まれる。この場合、設定情報は、成膜するパリレン膜の種類またはその原料の種類に関する情報となっている。これにより、入力手段53はインターフェース31を介して設定情報を制御部30に入力する。この設定情報は制御部30のメモリ33に記憶される。
【0083】
この間、基体温度検出手段175としての温度センサ175aは、セットされた基体の温度を検出する。温度センサ175aは、検出温度情報を、インターフェース31を介して制御部30に入力する。この検出温度情報は制御部30のメモリ33に記憶される。
【0084】
そして、制御部30のCPU32は、メモリ33に記憶された検出温度情報と、設定情報に対応する目標設定温度情報とを読み出し、比較演算する。そして、CPU32は、その演算結果に伴い基体の温度の上昇が必要であると判断した場合には、作動信号を基体加熱手段173にインターフェース31を介して入力する。すると、基体加熱手段173は作動する。この場合、ヒータ173aが作動してヒータ173aから熱が発生し、基体を試料台との接触面側から加熱する。
【0085】
また、当該演算結果に伴い基体の温度の上昇が不必要であると判断した場合には、CPU32は、作動信号を基体加熱手段173に入力しない。従って、基体加熱手段173としてのヒータ173aは作動せず、基体の加熱は行われない。
【0086】
このようにして、基体加熱機構60は、基体温度検出手段175による検出温度情報に基づいて、成膜が行われる基体の温度を第一の目標設定温度に制御している。
【0087】
同様に、チャンバー内壁温度検出手段164としての温度センサ164aは、セットされたチャンバー内壁の温度を検出する。温度センサ164aは、検出温度情報を、インターフェース31を介して制御部30に入力する。この検出温度情報は制御部30のメモリ33に記憶される。
【0088】
そして、制御部30のCPU32は、メモリ33に記憶された検出温度情報と、設定情報に対応する目標設定温度情報とを読み出し、比較演算する。そして、CPU32は、その演算結果に伴いチャンバー内壁の温度の上昇が必要であると判断した場合には、作動信号をチャンバー内壁加熱手段162にインターフェース31を介して入力する。すると、チャンバー内壁加熱手段162は作動する。この場合、ヒータ162aが作動してヒータ162aから熱が発生し、チャンバー内壁を外壁側から加熱する。
【0089】
また、当該演算結果に伴いチャンバー内壁の温度の上昇が不必要であると判断した場合には、CPU32は、作動信号をチャンバー内壁加熱手段162に入力しない。従って、チャンバー内壁加熱手段162としてのヒータ162aは作動せず、チャンバー内壁の加熱は行われない。
【0090】
このようにして、チャンバー内壁加熱機構500は、チャンバー内壁温度検出手段164による検出温度情報に基づいて、成膜が行われるチャンバー内壁の温度を第二の目標設定温度に制御している。
【0091】
引き続き、熱分解炉152内で発生したパラキシルレンラジカルが、基体加熱機構60及びチャンバー内壁加熱機構500により温度が制御された状態の成膜チャンバー153内に導入されで、成膜ステップが行われる。
【0092】
次に、図1〜図4に示した本実施形態の成膜装置を用いて製造されたインクジェットヘッドについて、図5〜図6を用いて説明する。
【0093】
図5はインクジェットヘッドの一部を示す外観斜視図、図6(a)は図示左側にこのインクジェットヘッドにおけるパリレン膜の保護膜10(以下、パリレン膜10と称する場合もある)を成膜する前の1つのインクチャネルのチャネル列方向(図5のB方向)の断面と図示右側に長さ方向(図5のA方向)の断面を拡大して示す図である。
【0094】
図6(b)はこのインクジェットヘッドにおけるパリレン膜の保護膜10を成膜後の1つのインクチャネルのチャネル列方向の断面と長さ方向の断面を拡大して示す図である。
【0095】
なお、図5では、電極膜と保護膜は省略してある。
【0096】
インクジェットヘッド1は、圧電性基板2と、例えばガラス、セラミックス、合成樹脂等からなるカバー基板3と、ノズルプレート6とからなり、圧電性基板2には、溝状のチャネルが互いに平行となるように所定のピッチで溝状に研削加工されることで、インクチャネル4と側壁5とが交互に並設されている。
【0097】
インクチャネル4の一端は、図示しないインク供給部(インクマニホールド)に連結され、前記インク供給部から内部にインクが供給される。インクチャネル4の他端は、ノズルプレート6に形成されたノズル孔7と連通している。
【0098】
ノズルプレート6は、圧電性基板2とカバー基板3とに亘ってその前面に接着され、ノズル孔7は、インクチャネル4に対応するように開設されている。ノズルプレート6としては、例えば、ステンレス等の金属、ポリアルキレン、エチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネイト、酢酸セルロース等のプラスチックが好適である。
【0099】
圧電性基板2には、電界を印加することにより変形を生じる公知の圧電材料を使用することができ、例えば、PZT、BaTiO、PbTiO等の基板が挙げられる。中でも、PZT[チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)]を含有し、圧電特性を有する圧電性セラミックス基板であるPZT基板が、圧電定数やその高周波応答性等の圧電特性に優れるので好ましい。
【0100】
圧電性基板2の上面に接着されるカバー基板3には、機械的強度が高く、耐インク性を備えたものであれば、上述した種々の材質のものを用いることができるが、中でもセラミックス基板を用いることが好ましく、更に、圧電性基板2として圧電性セラミックス基板を使用した場合には、非圧電性のセラミックス基板を用いることが好ましい。圧電性セラミックスの側壁の変位を強固に支えることができ、且つ、自身の変形が少ないために、効率的な駆動により低電圧化が可能となるので好ましい。
【0101】
具体的には、シリコン、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、窒化シリコン、シリコンカーバイト、石英の少なくとも1つを主成分とした基板を挙げることができ、特に、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウム等を主成分とするセラミックス基板は、板厚が薄くても優れた基板特性を有し、駆動時の発熱や環境温度の変化に伴う基板の膨張による反りやストレスでの破壊を低下できるので好ましく、中でも酸化アルミニウムを主成分とする基板が安価で高絶縁性であるため特に好ましい。
【0102】
このようなインクジェットヘッド1は、インクチャネル4の両側壁5を変形させることにより、インクチャネル4の容積を変化させ、インクチャネル4内のインクに吐出のための圧力を付与する。圧電素子からなる側壁5を変形させるために、インクチャネル4内に臨む壁面には電極膜8が密着形成されている。この電極膜8に電圧を掛けると、圧電素子からなる側壁5に分極方向と直角方向に電界が印加され、圧電滑り効果によって側壁5がせん断変形し、インクチャネル4内のインクに吐出のための圧力を作用させる。
【0103】
電極膜8は、蒸着、スパッタリング、めっき等により形成されるが、特に無電解めっきにより形成されるものが好ましい。電極膜用金属の材料としては、金、銀、銅、アルミニウム、パラジウム、コバルト、ニッケル、タンタル、チタン等が好ましく、特に、電気的特性、耐食性及び加工性の点から、アルミニウム、タンタル、ニッケル、チタニウム、銀、金、銅から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい。電極膜8の膜厚は、0.5〜5.0μm程度とすることが好ましい。
【0104】
図6(a)に示すように、電極膜8は、側壁5の両壁面とインクチャネル4内の底面とに亘って形成されているが、圧電性基板により構成される側壁5を駆動させるため、少なくともインクチャネル4内に臨む側壁5の両壁面に形成されていればよい。
【0105】
電極膜8の形成後又は電極膜8の陽極酸化処理後、カバー基板3を圧電性基板2の上面に接着し、各インクチャネル4の上部を閉塞してチャネル基板23を作製する。この接着工程では、接着剤を塗布する前に、圧電性基板2のインクチャネル4が設けられた加工面(側壁5の上面)及びカバー基板3の接着面は、その状態に応じて洗浄や研磨等の前処理を行うことが好ましい。接着面の前処理により良好な接着を行うことができる。
【0106】
圧電性基板2とカバー基板3とは、例えばエポキシ系接着剤を塗布した後、加熱加圧することにより接着剤を硬化させて接着され、両者が一体化されたチャネル基板23が作製される。
【0107】
チャネル基板23におけるインクチャネル4は、図6(a)に示すように両端部に開口Kを有していて、開口の断面積が0.1mm以下でチャネル長さLは1mm〜50mm程度である、極めて細長い空間である。また、チャネル長さ方向で形状、大きさともほぼ変わらないストレート形状のチャネルとなっている。
【0108】
電極膜8は、一方の開口から他方の開口まで連続的に形成されている。また、チャネル内の電極膜8に連続して、端部の開口面から圧電性基板2の底面側に接続電極8aが形成されている。この接続電極8aを図示しない駆動回路に接続し、電極膜8に側壁5を駆動するための駆動電圧が印加される。
【0109】
このチャネル基板23を成膜チャンバー153内の試料台157の基体載置面157a上に設置し、少なくとも各インクチャネル4の内面の電極膜8の表面に、上記一般式2で示されるポリパラキシリレン又はその誘導体からなる保護膜10を形成する。
【0110】
本実施形態では、図6(b)に示すようにチャネル内面の全面に成膜している。なお、膜を付着させない部分には予め成膜前にマスキングをしておく。
【0111】
このチャネル基板23を成膜チャンバー153内の試料台157の基体載置面157a上に置く際に、電極膜8が形成されている圧電性基板2側が基体載置面157a上に接するようにすることが好ましい。試料台157のヒータ173aから電極膜8への加熱効率を高めることができる。熱伝導率の高い金属で構成される接続電極8aを介して、チャネル基板23、特に電極膜8を効率的に加熱できる。
【0112】
パリレン膜10は、電極膜8の表面に被覆形成される膜厚の最小値を1μm程度とすることが好ましい。
【0113】
チャネル基板23に保護膜10を形成した後、その前面に、各インクチャネルに対応した位置にノズル孔7が設けられたノズルプレート6を、例えばエポキシ系接着剤で接着して、チャネル基板23とノズルプレート6は一体に組み立てられる。組立後、例えば、接着面は加圧状態で、所定温度で熱処理され、さらにこの加圧・加熱状態が所定時間保持されて、接着剤が硬化される。最後に、チャネル基板の背面または側面に、インクマニホールドを接着剤を用いて接合し、硬化のための熱処理が行われる。
【0114】
図6(c)は、図6(b)の実施形態の変形例のインクジェットヘッド1の1つのインクチャネルの断面を拡大して示す図である。
【0115】
ここで、前述のように、種々の置換したジパラキシリレンダイマー又はその誘導体を用いた種々のパリレン膜があり、必要な性能等に応じて、それら種々のパリレン膜を複数積層したような多層構成のパリレン膜を所望の保護膜として適用することも好ましい。以下にその具体例を示す。
【0116】
図6(c)は、電極膜8を第1のパリレン膜10と第1のパリレン膜10とは異なる第2のパリレン膜12の2層の膜で被覆している。
【0117】
2層の保護膜を積層する方法としては、保護膜10を形成後に成膜チャンバを大気開放して真空を破り、保護膜12を形成する工程を経る方法でも良いが、第1の成膜工程と第2の成膜工程の間に水分吸着やダストおよび有機物による汚染にさらされる危険性を回避するため、保護膜10と保護膜12を同一装置で連続的に成膜することが好ましい。生産性が向上し、製造コストを下げることもできる。例えば、特開2003−19797号公報に記載の様な昇華炉と熱分解炉をそれぞれ2つずつ設けた成膜装置を用いればよい。
【0118】
そして、積層する複数のパリレン膜の種類に応じて、成膜開始から終了まで段階的に第1の目標温度及び第2の目標温度を変化させることが好ましい。
【0119】
例えば、第1のパリレン膜10としてパリレンNを、第2のパリレン膜12としてパリレンCを成膜する場合、パリレンCを成膜中は、パリレンNの成膜中よりも第1の目標温度及び第2の目標温度を高く設定することが好ましい。例えば、前述のように、第1の目標温度40℃及び第2の目標温度60℃でパリレンNを成膜し、第1の目標温度50℃及び第2の目標温度70℃でパリレンCを成膜すればよい。
【0120】
本発明の成膜装置、成膜方法は、インクチャネルの側壁の少なくとも一部が圧電素子からなり、電極膜が圧電素子の表面に形成されているインクジェットヘッド、あるいは、インクチャネルの内面に発熱抵抗層が形成され、電極膜が発熱抵抗層に電圧を印加するために発熱抵抗層に接して形成されているインクジェットヘッドに限らず、インクチャネル内に電極膜を有するインクジェットヘッドであれば、同様に適用可能である。
【0121】
また、本実施形態では、インクジェットヘッドのインクチャネル内の電極を保護する保護膜を形成する際に本発明に係る成膜装置を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、電気・電子部品の製造装置内に備えることも可能である。さらには、医療や食品の製造機器にも適用できるほか、生体内への適用も可能である。
【0122】
以上、本実施の形態に係る成膜装置及び成膜方法によれば、基体加熱機構60によって、基体の温度を第一の目標設定温度に制御できるため、基体が所定の温度に加熱された状態で成膜することができ、溝、チャネル等の凹部を有する基体の少なくとも前記凹部の内面にポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する場合において、凹部入口と凹部奥側の膜厚分布を抑制することができて原材料の利用率の向上が可能になる。
【0123】
これは、パリレン膜の重合反応は発熱反応であるため、温度が高い方が反応が抑制されパリレン膜の成膜速度、付着量が減少するため、未反応モノマー(活性種)が、凹部入口から凹部の奥側まで拡散していく結果、凹部入口の膜厚は相対的に薄くなり、奥側が相対的に厚めになることによるものと推測される。成膜を開始する直前までに目標設定温度となるようにされ、成膜が終了するまで目標設定温度を維持していることが好ましい。
【0124】
第一の目標設定温度としては、パリレン膜の膜厚分布を低減できる温度であればよく、好ましくは上記基体を40℃から60℃に加熱することである。
【0125】
インクジェットヘッドのチャネルのような、長さに対して開口面積が小さいトンネル状のチャネルの、開口部に近い部分と開口部から遠い部分とで膜厚分布の小さい保護膜が形成されるようにして、膜厚が不充分になる部分、逆に膜厚が厚すぎる部分が生じることを防止して、チャネルの長さ方向全体にわたって必要充分な膜厚の保護膜を実現することが可能になる。
【0126】
また、基体温度制御手段30が、基体温度検出手段175の検出結果に基づいて、基体加熱手段173を制御するので、基体の温度に対応させて、基体加熱手段173の出力を変更することができる。これにより、基体の温度を第一の目標設定温度により確実に制御することができ、膜厚分布をより確実に低減することができる。
【0127】
また、チャンバー内壁加熱機構50によって、チャンバー内壁の温度を第二の目標設定温度に制御できるため、成膜チャンバー153の内壁が所定の温度に加熱された状態で成膜することができ、内壁への付着量を抑制することができる。加えて、クリーニング作業時間を短縮することができる。成膜を開始する直前までに目標設定温度となるようにされ、成膜が終了するまで目標設定温度を維持していることが好ましい。
【0128】
第二の目標設定温度としては、内壁へのパリレン膜の付着を抑制できる温度であればよく、好ましくは上記内壁を60℃から100℃に加熱することである。
【0129】
チャンバー内壁温度制御手段30が、チャンバー内壁温度検出手段164の検出結果に基づいて、チャンバー内壁加熱手段162を制御するので、チャンバー内壁の温度に対応させて、チャンバー内壁加熱手段162の出力を変更することができる。これにより、チャンバー内壁の温度を第二の目標設定温度により確実に制御することができ、内壁への付着量をより確実に抑制することができる。
【0130】
なお、この実施の形態においては、基体加熱機構60の基体温度制御手段とチャンバー内壁加熱機構50のチャンバー内壁温度制御手段が共通の制御装置で構成されている。これにより、成膜装置の構成要素が少なくて済むと共に、双方の制御を連動させて効率的に基体の温度制御と、チャンバー内壁の温度制御を行うことができる。
【0131】
また、基体加熱機構60が第一の目標設定温度を変更可能となっており、成膜するパリレン膜の種類やその原料の種類等に応じて、最適な第一の目標設定温度を設定することができる。なお、第一の目標設定温度の変更には、手動の場合と自動の場合があり、手動の場合には、キーボード等の入力手段から入力した変更値に基づき基体加熱機構が第一の目標設定温度を設定し、自動の場合には、基体加熱機構がセンサ等から得られる種々の条件から自動的に適切な第一の目標設定温度を設定する。
【0132】
また、チャンバー内壁加熱機構50が第二の目標設定温度を変更可能となっており、成膜するパリレン膜の種類やその原料の種類等に応じて、最適な第二の目標設定温度を設定することができる。なお、第二の目標設定温度の変更には、手動の場合と自動の場合があり、手動の場合には、キーボード等の入力手段から入力した変更値に基づきメディア温度調節機構が第二の目標設定温度を設定し、自動の場合には、メディア温度調節機構がセンサ等から得られる種々の条件から自動的に適切な第二の目標設定温度を設定する。
【0133】
また、前記基体加熱機構と前記チャンバー内壁加熱機構が、第二の目標設定温度が第一の目標設定温度よりも高い温度になるように各目標設定温度を設定する。このため、基体の温度よりもチャンバー内壁の温度が高い状態で成膜できるため、チャンバー内壁への付着量を抑制できると共に基体への付着量の割合を増加させて、原材料の利用率の更なる向上が可能になる。基体とチャンバー内壁の温度差としては、10℃以上が好ましい。
【0134】
上記実施形態では、トンネル状のチャネル全体を加熱しているが、チャネルの開口部の温度がチャネル奥側の温度よりも高くなるように加熱することが好ましい。温度が相対的に低い、チャネル奥側の部分に製膜ガスが付着して固化する効率が高まり、膜厚分布の均一性をより高めることができる。具体的には、チャネルの開口部を奥側より強く加熱するようにすればよい。
【0135】
図7は、基体として、チャネル基板23を用いて、チャネルの長さ方向(図示A方向)の両端の開口部近傍を加熱する基体加熱手段173として輻射ランプ173bを用いた加熱システムを適用している。輻射ランプ173bは、図示しない固定手段に固定されているとともに、赤外線を輻射するものである。輻射ランプ173bが作動すると、赤外線をチャネルの両端の開口部近傍に輻射し、開口部近傍を加熱できるようになっている。チャネルの開口部の温度が奥側(チャネル長さ方向の中央部分)の温度よりも高くなるように加熱することが可能になる。
【0136】
本実施形態の成膜装置は、基体の凹部内面以外の面に成膜する場合や、凹部を有しない基体に成膜する場合にも用いることができ、この場合は、基体の加熱は行っても行わなくてもどちらでも良い。手動で基体加熱機構の動作をON/OFFするスイッチを設け、オペレーターが、基体の加熱が不要の場合は、基体加熱機構の動作をOFFにすればよい。
【0137】
なお、チャンバー内壁加熱機構は、基体の種類に関係なく、いずれの場合も作動させることが好ましい。
【実施例】
【0138】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて例証するが、本発明は以下の実施例によって限定されない。
【0139】
(実施例1)
上述した図5のシェアモード型のインクジェットヘッドのインクチャネル内面にパリレン膜の保護膜を成膜して評価した。
1.チャネル基板の作製
(チャネル基板A)
厚さ1mmのPZT板の上面にドライフィルムを貼り付け、その上面から深さ360μm、幅75μm、長さ10mm、140μmのピッチで256本のインクチャネルをダイシングブレードを用いて研削した後、ニッケルの真空蒸着により、PZT板の上面及び各チャネルの内壁面にニッケルの金属膜を形成した。その後、アセトンでドライフィルムを剥離することにより、PZT板の上面に蒸着されたニッケルの金属膜を除去し、各チャネルの内壁面にニッケル電極膜を形成した。
【0140】
このPZT板の上面に、アルミナからなるカバー基板を各チャネルを覆うように接着してチャネル基板Aを作製した。
(チャネル基板B)
幅125μm、230μmのピッチとした以外は、チャネル基板Aと同様にしてチャネル基板Bを作製した。
2.パリレン膜の形成
(実施例1)
「日本パリレン(株)」製の「ラボコーターPDS2010型真空蒸着装置」を用い、図3,4に示すような基体加熱機構60を設置して、チャネル基板23の温度が約50℃になるように加熱し、上記のチャネル基板A、Bのチャネル内面全体にパリレンCの成膜を行った。
【0141】
(実施例2)
基体加熱機構60に加えて、図3,4に示すようなチャンバー内壁加熱機構50を設置して、チャンバー内壁の温度が約70℃になるように加熱して成膜した以外は、実施例1と同様にしてパリレンCの成膜を行った。
【0142】
(比較例1)
「日本パリレン(株)」製の「ラボコーターPDS2010型真空蒸着装置」を用い、基体加熱機構60を設置せず、すなわち、チャネル基板23を加熱せずに成膜した以外は、実施例1と同様にしてパリレンCの成膜を行った。
3.評価
チャネル内のチャネル長さ方向のパリレンCの膜厚分布を測定し、チャネル入口の開口部の膜厚T2を1とした相対値(膜厚低減率α)を調べた。
【0143】
成膜チャンバーの内壁に付着したパリレン膜の厚さを測定し、付着量とした。
【0144】
評価結果を表1に示す。
【0145】
【表1】

【0146】
表1より、チャネル基板を加熱した状態で成膜した実施例は、加熱しない状態で成膜した比較例よりも、パリレン膜の膜厚分布が小さく、本発明の効果が確認できた。
【0147】
保護膜の機能は、膜厚に依存し、最も薄くなるチャネル奥部(入口の開口からの距離が5mmの位置)が保護膜機能を維持可能な最小膜厚Tmin以上であることが不可欠である。
【0148】
表1でチャネル奥部の膜厚T1は、チャネル入口の膜厚T2、膜厚低減率をαとして、
T1=T2×α
で表される。また、
T1≧Tmin (1)
T2≧Tmin/チャネル奥部での膜厚低減率α (2)
となり、表1でチャネル基板Aの場合、
実施例1では、
T2≧Tmin/0.16 (3)
比較例では、
T2≧Tmin/0.09 (4)
よって
(4)/(3)=0.09/0.16=0.56
となり、実施例1では、比較例の56%の原料の使用で、最も薄くなるチャネル奥部(入口の開口からの距離が5mmの位置)が保護膜機能を維持可能な最小膜厚Tminを達成できる。よって実施例では比較例に対してパリレン膜の材料費用を44%削減可能であるといえる。
【0149】
また、表1より、チャンバー内壁を70℃に加熱した状態で成膜した実施例2では、成膜チャンバーの内壁に付着したパリレン膜の厚さは1μm以下であった。これに対して、チャンバー内壁を加熱しない状態で成膜した実施例1では、成膜チャンバーの内壁に付着したパリレン膜の厚さは6μm以上であり、チャンバー内壁加熱にとる付着量低減の効果が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】本発明の成膜装置の一例を示す模式図である。
【図2】図1の成膜装置の一例を示す分解斜視図である。
【図3】成膜チャンバーの模式図であり、(a)は上から見た図、(b)は横から見た断面図である。
【図4】図1の成膜装置の温度制御のブロック図である。
【図5】実施の形態のインクジェットヘッドの一部を示す外観斜視図。
【図6】図5のインクジェットヘッドの1つのインクチャネルの断面を拡大して示す図。
【図7】他の実施の形態の成膜チャンバーの模式図であり、(a)は上から見た図、(b)は横から見た断面図である。
【符号の説明】
【0151】
150 成膜装置
151 昇華炉
152 熱分解炉
153 成膜チャンバー
154 排気ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝、チャネル等の凹部を有する基体の少なくとも前記凹部の内面にポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する成膜チャンバーを備える成膜装置であって、
前記基体を第一の目標設定温度に制御する基体加熱機構を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記成膜チャンバーの内壁を第二の目標設定温度に制御するチャンバー内壁加熱機構を更に有することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基体加熱機構は、成膜中の前記基体の温度を前記第一の目標設定温度に制御することを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記チャンバー内壁加熱機構は、成膜中の前記チャンバー内壁の温度を前記第二の目標設定温度に制御することを特徴とする請求項2または3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基体加熱機構は、前記基体の温度を検出する基体温度検出手段と、前記基体の加熱を行う基体加熱手段と、前記基体温度検出手段の検出結果に基づいて、前記基体加熱手段を制御する基体温度制御手段とを備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記チャンバー内壁加熱機構は、前記チャンバー内壁の温度を検出するチャンバー内壁温度検出手段と、前記チャンバー内壁の加熱を行うチャンバー内壁加熱手段と、前記チャンバー内壁温度検出手段の検出結果に基づいて、前記チャンバー内壁加熱手段を制御するチャンバー内壁温度制御手段とを備えることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記基体加熱機構は、前記基体の温度を検出する基体温度検出手段と、前記基体の加熱を行う基体加熱手段と、前記基体温度検出手段の検出結果に基づいて、前記基体加熱手段を制御する基体温度制御手段とを備え、
前記チャンバー内壁加熱機構は、前記チャンバー内壁の温度を検出するチャンバー内壁温度検出手段と、前記チャンバー内壁の加熱を行うチャンバー内壁加熱手段と、前記チャンバー内壁温度検出手段の検出結果に基づいて、前記チャンバー内壁加熱手段を制御するチャンバー内壁温度制御手段とを備え、
前記基体温度制御手段と前記チャンバー内壁温度制御手段は、共通の制御装置で構成されていることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記基体加熱機構は、前記第一の目標設定温度を変更可能となっていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記チャンバー内壁加熱機構は、前記第二の目標設定温度を変更可能となっていることを特徴とする請求項2乃至8のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記第二の目標設定温度が前記第一の目標設定温度よりも高いことを特徴とする請求項2乃至9のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記第二の目標設定温度が前記第一の目標設定温度よりも10℃以上高いことを特徴とする請求項10に記載の成膜装置。
【請求項12】
成膜チャンバー内で、溝、チャネル等の凹部を有する基体の少なくとも前記凹部の内面にポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する成膜方法であって、
前記基体を第一の目標設定温度に加熱する基体加熱ステップと、
加熱された基体の前記凹部の内面にポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する成膜ステップと、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項13】
前記成膜ステップの前に、
前記成膜チャンバーの内壁を第二の目標設定温度に加熱するチャンバー内壁加熱ステップ
を有することを特徴とする請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記基体は、前記成膜ステップの間は前記第一の目標設定温度に保たれていることを特徴とする請求項12または13に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記チャンバー内壁は、前記成膜ステップの間は前記第二の目標設定温度に保たれていることを特徴とする請求項13または14に記載の成膜方法。
【請求項16】
前記第一の目標設定温度が変更可能であることを特徴とする請求項12乃至15のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項17】
前記第二の目標設定温度が変更可能であることを特徴とする請求項13乃至16のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項18】
前記第二の目標設定温度が前記第一の目標設定温度よりも高いことを特徴とする請求項13乃至17のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項19】
前記第二の目標設定温度が前記第一の目標設定温度よりも10℃以上高いことを特徴とする請求項18に記載の成膜方法。
【請求項20】
インクチャネルの内面に電極膜を有するインクジェットヘッドの製造方法であって、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の成膜装置を用いて、少なくとも前記電極膜の表面に前記ポリパラキシリレン又はその誘導体を含む膜を形成する工程を有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−1546(P2010−1546A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162989(P2008−162989)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】