説明

成膜装置及びキャリブレーション方法

【課題】防着板の再生作業に伴う寸法変化及び変形に左右されにくい成膜装置及び該成膜装置のキャリブレーション方法を提供する。
【解決手段】真空チャンバ内101で対向するステージ103上の被処理基板Wとターゲット106との間のスパッタリング空間108を囲繞する防着板104を備え、少なくとも1種類の反応性ガスと成膜材料とを反応させて被処理基板上に成膜を行う成膜装置において、圧力検知手段により測定されたスパッタリング空間の圧力値に基づいて、スパッタリング空間内に導入されるガス流量と、真空チャンバの内壁と防着板との間の空間に導入されるガス流量との流量比を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ及び真空チャンバを用いた減圧環境下で基体上に成膜処理を行なう成膜装置及びキャリブレーション方法に関し、特に真空チャンバ内に防着板を備え、ターゲットより放出された成膜材料を反応性ガスと反応させて成膜を行う物理蒸着装置及び物理蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置、例えば強誘電体材料を用いた不揮発性半導体メモリ回路(FeRAM:Ferroelectric
Random Access Memory)の強誘電体キャパシタの電極に使用される窒化チタン等の金属化合物には、高純度及び高い膜厚制御性の点からスパッタ技術が適用される傾向にある。この際、金属単体のターゲットをアルゴン等の不活性ガスでスパッタし、放出された金属を窒素や酸素等の反応性ガスと反応させて所望の金属化合物を得る、いわゆる「反応性スパッタ」と呼ばれる技術が多く用いられている。これは、真空容器内にスパッタ用ガス(例えばアルゴン)と共に、例えば酸素・窒素といった反応性ガスを導入し、この反応ガスの分子とターゲットからスパッタにより放出された金属とを反応させ、生成された反応化合物の薄膜を基板上に形成するものである。
【0003】
図14は従来用いられてきた反応性スパッタ装置を示す模式図である。このような装置は、特許文献1で開示されており、窒化チタン(TiN)や酸化イリジウム(IrOx)などの金属化合物を反応性スパッタにより成膜することができる。
【0004】
本装置は、ステンレス等で構成された真空容器301に不図示のターボ分子ポンプ等の排気手段(不図示)が接続され、例えば1×10−8Paの高真空環境に維持することが可能となっている。さらに真空容器301は被処理基板303を保持するためのステージ302を備えており、被処理基板303がこの上に載置されて成膜処理が行なわれる。
【0005】
305は成膜の原料となる純物質又はその化合物から成るターゲットであり、電圧を印可できるよう図示されないDC電源が接続され、真空容器301と絶縁された状態となるよう設置されており、さらにターゲット305の表面に磁場を与えることができるよう、不図示のマグネットが設けられる。なお、ターゲット305はパッキングプレート304上に設置されている。
【0006】
314、315はガス導入手段であり、例えばマスフローコントローラなどの流量制御手段と、バルブなどとによって構成される。ガス導入手段314、315には、例えばアルゴンなどのスパッタ用ガスを供給する手段315と、窒素などの反応性ガスを供給する手段314とが接続され、スパッタ用ガス及び反応性ガスを真空チャンバ301内へ吐出するよう構成される。ガス導入手段315よりスパッタ用ガスを導入し、ガス導入手段314より窒素などの反応性ガスを導入し、DC電源よりターゲット305が負電圧となるよう電力を投入することで、マグネットによってマグネトロン放電が発生する。
【0007】
マグネトロン放電によってターゲット305の近傍にてスパッタ用ガスがプラズマ化され、このプラズマ中の陽イオンが負電圧のターゲット305に加速されて衝突する。この陽イオンの衝突によりターゲット305から原子・分子等が放出され、さらに放出された原子はガス導入手段314より同時に導入された反応性ガスと反応し金属化合物を生成する。こうして生成した金属化合物が、対向した基板303表面に到達することで、所望の膜が堆積される。
【0008】
例えば、ターゲット305をイリジウムとし、反応性ガス314として酸素(O)ガスを用いることにより、基板303上に強誘電体である酸化イリジウム(IrO)膜を形成することができる。真空容器301には、OガスのO濃度を測定するためのOガス濃度計311がパイプ312を介して接続されている。Oガス濃度計311によって測定されるOガスのO濃度のデータは、Oガス濃度計311と電気的に接続された制御ユニット313に送られる。
【0009】
上記装置において、スパッタされた膜は基板のみならず真空容器301内全域へ飛散・堆積するため、成膜工程においてパーティクルを発生させないためには、飛散した膜をトラップし、容易に剥離しないようにするための防着板306が必要となる。この防着板306は、ブラスト加工等により表面粗さが母材より増加するよう処理されており、付着した膜が容易に剥離しないように構成され、なおかつ一定量の膜が堆積した場合には取り外し、別途ブラスト処理などの手段により堆積した膜を除去し、再使用することが可能となるよう構成されている。さらに防着板306はターゲット305近傍からステージ302に至るまでの空間を取り囲み、成膜容器301内にターゲットを内包するシールド内空間318及びシールド外空間319を構成するよう構成されており、シールド外空間319の壁面に膜が付着することを防止している。
【0010】
ここでガス導入手段314,315よりシールド外空間319に導入されたスパッタ用ガス315及び反応性ガス314は、防着板306上の開口部320を通じてシールド内空間318へ供給され、同時にシールド内空間318よりシールド外空間319へ排気される。
【0011】
ここで、反応性ガス315の濃度が膜質に大きく影響することから、シールド内空間318の被処理基板303近傍には、上記の通り、反応性ガスの濃度をモニターする手段311が設けられており、被処理基板近傍の反応性ガス濃度が一定になるよう、ガス導入手段314へ供給される反応性ガスの流量を制御することで、膜質の管理をより低コストで実施できると記載されている。
【0012】
一方、図15は従来用いられてきた別の反応性スパッタ装置を示す模式図である。このような装置は、特許文献2で開示されている。この装置は、真空チャンバ401内にスパッタリング空間を画定する防着板406を備え、この真空チャンバ401内のウエーハステージ407に搭載したウエーハ408の表面に、この真空チャンバ1の上部に設けたスパッタターゲット405から飛来した金属粒子の薄膜を形成するスパッタ装置である。更にこの装置においては、防着板(シールド)406にて画定された空間内に直接アルゴンなどの反応性ガスを導入する反応ガス導入口403aと、防着板406にて画定された空間内の圧力を直接計測することが可能な圧力計404とを具備するように構成されている。なお、図15において、401aは排気口、401bはウエーハ搬入口、402aはゲートバルブ、402はクライオポンプ、406aは防着板406の開口部である。本装置の場合は、反応性ガスの吐出口410は防着板406上に構成されており、該反応性ガスをシールド内空間418へ直接吐出するよう構成されている。該シールド内空間418の圧力を測定する圧力計404で圧力をモニターしながら、導入する反応性ガス流量を調整可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−200405号公報
【特許文献2】特開平05−247639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、上記2つの装置において、防着板306及び406は、表面に付着した膜を除去するために定期的にガス導入手段314、315及び403aとの接続部分を切り離し、交換作業が必要となる。通常、防着板306及び406は一定回数の再使用を可能とするため、取り外した後に化学的又は物理的な力によって付着した膜を除去する再生作業が行われる。この再生作業の際、防着板306及び406に全く負荷を与えずに付着した膜のみを除去することは困難であり、化学的なエッチングもしくは物理的な除去工程により、防着板自体にも変形及び寸法変化が生じる。
また、再生作業を伴わなくても、使用限界に達したターゲットの交換などに伴って防着板306及び406の取り外し、再取り付け作業を行うと、防着板306及び406の取り付け位置、又はターゲット305及び405と防着板306及び406のクリアランスが変動し得る。もちろん、同一の部品で構成した別々のチャンバ同士においても、防着板306及び406の取り付け位置の違いが生じ得る。
【0015】
特許文献1に開示されたような反応性スパッタ装置の場合、防着板306の変形又は取り付け位置の変動によって、シールド内空間318とシールド外空間319との間の開口320の寸法も変動することになる。これにより、シールド内空間318及びシールド外空間319へ供給される反応性ガスの流量が変動する可能性がある。これを補正するために、シールド内空間318の反応性ガス濃度が所定の値になるよう、反応性ガス314の流量自体を調整しても、シールド外空間319へ導入される反応性ガス流量も変動させることになるため、シールド内空間318の内部の反応性ガス分布に影響する恐れがある。すなわち、シールド外空間319の圧力が変動することにより、シールド内空間318から、シールド外空間319へ反応性ガスが流出する速度やその分布が変動するため、反応性スパッタの膜質及び分布に影響を及ぼす可能性がある。
【0016】
その一方で、特許文献2に開示されているような反応性スパッタ装置の場合、導入された反応性ガスを導入手段403aから直接シールド内空間418へ吐出するよう構成されている。ここで、ガス導入手段403aから導入される反応性ガスを全てシールド内空間418へ導入するためには、ガス吐出部分410をシールド外空間419に対して気密構造とする必要がある。
【0017】
ところが、反応性スパッタのように部材からのアウトガスに悪影響を受けやすい装置においては、反応性ガスの供給経路への樹脂シール材等の使用は好ましくなく、また、溶接やロウ付けといった手法では防着板406の取り外し作業性を著しく損なう。しかも、防着板406を再生することによる変形や寸法の変化はランダムに起こるため、ガス吐出部分410からシールド外空間419への反応性ガスのリーク量を制御することが困難であった。つまり、上記装置においても防着板406の再生に伴う反応性スパッタの膜質再現性については、特許文献1の装置と同様の問題を抱えている。本発明者の知りうる範囲でこの点を解消するものは未だ知られていない。
【0018】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、防着板の再生作業に伴う寸法変化及び変形に左右されにくい成膜装置及び該成膜装置のキャリブレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明の一つの態様は、真空チャンバ内で少なくとも1種類の反応性ガスと成膜材料とを反応させて被処理基板上に成膜を行う成膜装置であって、真空チャンバ内で対向する前記被処理基板と前記成膜材料を含むターゲットとの間のスパッタリング空間を囲繞する防着板と、前記成膜時に前記真空チャンバ内へ少なくとも前記反応性ガスを含むガスを供給するガス供給手段と、前記スパッタリング空間の圧力を示す信号値を検知する圧力検知手段と、前記ガス供給手段に接続されており、分岐している第一のガス導入手段及び第二のガス導入手段と、ガス流量比制御手段と、を備え、前記第一のガス導入手段は、前記防着板に囲繞されている前記スパッタリング空間に前記ガス供給手段からのガスを導入し、前記第二のガス導入手段は、前記真空チャンバの内壁と前記防着板との間のスパッタリング外空間に前記ガス供給手段からのガスを導入し、前記ガス流量比制御手段は、前記スパッタリング空間の前記信号値に基づいて、前記第一のガス導入手段により前記スパッタリング空間に導入されるガスの流量と、前記第二のガス導入手段により前記スパッタリング外空間に導入されるガスの流量との比を制御することを特徴とする。
【0020】
本発明の別の態様は、真空チャンバで対向する被処理基板とターゲットとの間のスパッタリング空間を囲繞する防着板と、前記スパッタリング空間の内外に分岐して接続されるガス供給手段とを備え、少なくとも1種類の反応性ガスと成膜材料とを反応させて被処理基板上に成膜を行う成膜装置のキャリブレーション方法であって、前記ガス供給手段から前記真空チャンバ内に所定の流量の測定用ガスを供給する第一のステップと、前記スパッタリング空間の圧力を示す信号値である第一の信号値を検知し、前記第一の信号値からキャリブレーションの基準値を決定する第二のステップと、前記ガス供給手段から前記真空チャンバ内に前記第一のステップと同一の流量の測定用ガスを供給する第三のステップと、前記スパッタリング空間の圧力を示す信号値である第二の信号値を検知し、前記第二の信号値が前記キャリブレーションの基準値になるように、前記スパッタリング空間に導入する前記測定用ガスの流量と、前記真空チャンバの内壁と防着板との間のスパッタリング外空間に導入する前記測定用ガス流量との比を制御する第四のステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧力測定手段により測定されたスパッタリング空間の圧力を示す信号に基づいて、スパッタリング空間内に導入されるガス流量と、真空チャンバの内壁と防着板との間の空間に導入されるガス流量との流量比を制御しているので、再生に伴って防着板の変形や寸法変化が生じたり、防着板の取り外し及び取り付けに伴って取り付け位置が変動したりすることによって、反応性ガスのスパッタリング空間内への導入に際し、スパッタリング空間の外へ漏れる反応性ガスの流量が変動する場合でも、シールド内外へ導入される反応性ガス流量の変動を低減することができ、膜質の再現性を維持することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置の構造を示す模式図である
【図2】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置のガス導入部分の拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置のキャリブレーション方法を示すフロー図である。
【図4】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置における、Arガス流量とターゲット電圧との関係を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置の別の構造を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置における、Arガス流量とプラズマ発光強度との関係を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置の別の構造を示す模式図である。
【図8】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置における、分光器で検出する発光スペクトルを示す図である。
【図9】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置の別の構造を示す模式図である。
【図10】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置における、質量分析計で検出する質量電荷比と電流値の関係を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置の別のキャリブレーション方法を示すフロー図である。
【図12】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置における、ターゲットで消費された積算電力と、ターゲットに印加される電圧との関係を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態である反応性マグネトロンスパッタ装置の別のキャリブレーション方法を示すフロー図である。
【図14】従来技術である反応性スパッタ装置の構造を示す模式図である。
【図15】従来技術である反応性スパッタ装置の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1及び図2は、本発明の実施形態の一例であるところの、半導体装置の製造に用いる反応性スパッタ装置の概略図である。図1に示す少なくとも1種類の反応性ガスと成膜材料とを反応させて被処理基板上に成膜を行う物理蒸着装置(反応性スパッタ装置)は、真空チャンバ101内で対向するステージ上103の被処理基板Wとターゲット106との間のスパッタリング空間(「シールド内空間」ともいう)108を囲繞する防着板104と、真空チャンバ101内にガスを供給するガス供給手段(「第一のガス供給手段」ともいう)105と、スパッタリング空間108の圧力を測定する圧力計(「圧力センサ」ともいう)111と、を備える。
【0024】
本発明の実施形態の装置の第一の特徴点は、ガス供給手段105が、分岐する第一のガス導入手段と第二のガス導入手段とから構成されている点である。本発明の実施形態の装置の第二の特徴点は、第一のガス導入手段として、スパッタリング空間内108にガスを導入する第一のガス導入パイプ114を備え、第一のガス導入パイプ114の一端が、真空チャンバ101に設けられた防着板104の開口128に接続されており、第二のガス導入手段として、真空チャンバ101の内壁101aと防着板104の外壁104bとの間の空間にガスを導入する第二のガス導入パイプ115を備えている点である。本発明の実施形態の装置の第三の特徴点は、ガス供給手段105が、圧力計111により測定されたスパッタリング空間108の圧力値に基づいて、第一のガス導入パイプ114に導入されるガス流量と、第二のガス導入パイプ115に導入されるガス流量との比を制御するガス流量比制御手段としての可変バルブ112、制御部113、記憶部121を備えている点である。本発明の実施形態の装置の第四の特徴点は、真空チャンバ内101に少なくとも1種類の反応性ガスを供給する第一のステップと、スパッタリング空間内108の圧力を測定する第二のステップと、測定された圧力が一定になるように、スパッタリング空間内108に導入する反応性ガス流量と、真空チャンバ101の内壁101aと防着板104との間のスパッタリング外空間に導入される反応性ガス流量と、の流量比を制御する第3のステップと、を有する点である。
【0025】
本実施形態の装置は、チタン(Ti)をターゲット106とし、スパッタ用ガスであるアルゴン(Ar)と反応性ガスである(N)を用いてDCマグネトロン放電を発生させ該ターゲットをスパッタすることにより窒化チタン(TiN)を被処理基板W上に堆積することが可能となっている。101は真空チャンバでありステンレスなどの金属材料により気密構造となるよう構成されており、さらに該真空チャンバ101の壁面には排気口120が設けられ、排気手段であるところのターボ分子ポンプ102が接続されている。このターボ分子ポンプにより、真空チャンバ101内を1×10−8Paの高真空とすることが可能となっている。
【0026】
105はガス供給手段であり、図示されないガスボンベ及びマスフローコントローラが接続されており、Ar及びNをそれぞれ所望の流量に制御した状態で、混合して供給できるよう構成されている。
【0027】
さらにガス供給手段105には分岐が設けられており、第一のガス導入パイプ114と第二のガス導入パイプ115に接続され、それぞれ真空チャンバ101へ前記ArとNの混合ガスを供給する。
【0028】
106はTiからなるターゲットであり、図示されないDC電源が接続され、また図示しないターゲット保持機構により保持されており、なおかつ真空チャンバ101の壁面とは絶縁されて設けられており、所望の負電圧を印加できるようになっている。また、107はマグネットであり、ターゲット表面近傍に磁場を与えることができるように配置されている。
【0029】
真空チャンバ101を排気手段102によって真空引きした状態で前記ガス導入パイプ114及び115より混合ガスを導入し、さらにターゲット106の表面に負電圧を印加することでマグネトロン放電を生じさせ、該ターゲット106表面をスパッタすることができる。スパッタにより放出されたチタン粒子は前記導入されたNと反応し、ステージ103上に載置された被処理基板W上にTiNを形成する。
【0030】
しかし、真空チャンバ101中に拡散するTi及びTiNは、該被処理基板W上のみならず真空チャンバ101内全域に飛散、堆積し、一定以上堆積すると剥離してパーティクル源となる懸念がある。よって、アルミ合金等からなる交換可能な防着板104を、ターゲット106及び被処理基板Wを含む成膜空間を覆うように構成し、交換不可能な部材への堆積を防いでいる。これにより真空チャンバ101内は、前記防着板(「シールド」ともいう)により覆われたスパッタリング空間108と、スパッタリング外空間(「シールド外空間」ともいう)109に区画される。すなわち、スパッタリング空間108は、ターゲット106、被処理基板W、そして防着板104により囲まれたシールド内空間である。
【0031】
第一のガス導入パイプ114は、前記混合ガスを前記スパッタリング空間108へ供給されるように構成されており、具体的には、図2に示すように防着板104に設けられた開口128へ第1のガス導入パイプ114を挿入して構成されている。
【0032】
ここで、防着板104は前述のように、一定量の膜が堆積した場合に交換する必要があり、容易に取り外し可能であることが求められる。また、取り外した防着板104は、ウェットエッチング等の化学的手段又はブラスト等の物理的手段により堆積した膜を除去し、一定回数再使用される(以下「再生作業」という)ことから、ある程度の寸法変化や形状の歪みが発生する可能性がある。
【0033】
従って、開口128は、第1のガス導入パイプ114に対してある程度のクリアランスを持った構造であることが望ましく、例えば、第1のガス導入パイプ114の第1のガス導入パイプ114の外径6.4mmに対して開口128の直径を10mm程度に構成するとよい。
【0034】
さらに、交換部品ではない第一のガス導入パイプ114のガス吐出口114aに膜が付着した場合、パーティクル源となる可能性があることから、前記吐出口114aとターゲット107との間には第二の防着板110が設けられている。図2に示すように第二の防着板110は、第一のガス導入パイプ114の吐出口114aを囲繞するように取り付けられているため、吐出口114aに膜が付着した場合、パーティクル源が、スパッタリング空間108内に吐出されることがないという効果をもたらす。
【0035】
一方で、第二のガス導入パイプ115の吐出口115aは、シールド外空間109へ前記混合ガスを導入するよう構成されている。また、第二のガス導入パイプ115には、例えば可変コンダクタンスバルブなどのガス流量比制御手段としての可変バルブ112が設けられており、このバルブを操作することで第一のガス導入パイプ114の吐出口114aよりシールド内空間108へ導入されるガス流量と、第二のガス導入パイプ115の吐出口115aよりシールド外空間109へ導入されるガスの流量との流量比を任意に変更することが可能となっている。また、シールド内空間108には、例えばキャパシタンスマノメータを使用した圧力センサ111が、例えばパイプ122により防着板104と接続されており、シールド内空間108の圧力を計測できるようになっている。
【0036】
ここで、第一のガス導入パイプ114の吐出口114aより導入されたガスは、その全量がシールド内空間108へ放出される(図2中矢印118)わけではなく、一部は防着板104との接合部よりシールド外空間109へ漏れる(図2中矢印117)ことになる。しかも、防着板104は再生作業によって寸法変化、歪みを伴う可能性があり、シールド外空間109へ漏れる量及びシールド内空間108へ導入される量を一定に維持することは困難である。
【0037】
そこで、ガス供給手段105に予め定められた流量の測定用ガスを流し、可変バルブ112の調整によって圧力センサ111の値が所定の範囲となるようにキャリブレーションを行う。ここで分岐比率を調整する手段としては、分岐した各々のガス導入パイプ114、115にバルブや可変オリフィス等を設け各ガス導入パイプ114、115のコンダクタンスを独立して調整してもよいし、いずれか片方にのみコンダクタンス調整手段を設けてもよく、片方にのみ設ける場合の方がより低コストの装置を提供することができるため好ましい。なお、測定用ガスは、スパッタ用ガスであるアルゴン(Ar)又は反応性ガスである(N)を用いてもよいし、それ以外のガスを用いてよい。
【0038】
吐出口114a、115aより導入するガス流量は一定であるため、この調整によりシールド外空間109へ導入されるガス流量の合計値(116+117)を調整し、吐出口114aからシールド外空間109へ漏れるガス117の流量及びシールド内空間108へ導入されるガス118の流量の変動を吸収することができる。つまり、シールド内空間108の内外の圧力を共に再現性良く管理することが可能であり、反応性ガスの分圧及びシールド内空間108の反応性ガスの分布に敏感な反応性スパッタにおいても、膜質の再現性を維持することができる。
【0039】
この装置を用い、防着板104に対して繰り返しブラストによる再生作業を行い、TiNの成膜性能への影響を調査した。具体的には、防着板104を搭載してのTiN成膜と、防着板104を取り外しての再生とを繰り返して行い、TiN成膜条件としては、DC電力900W、Ar流量40sccm(Standard
Cubic Centimeter per Minute)、N流量20sccm、成膜時間500秒の条件でSiO付きのシリコンウェハ上に成膜を行い、TiNのシート抵抗値を測定した。なお、sccm=一分間当たり供給されるガス流量を0℃1気圧で表したcm数=1.69×10−3Pa・m/s(0℃において)である。
【0040】
可変バルブ112を調整しキャリブレーションを行う具体的な手順を図3にフローチャートで示す。キャリブレーションを行うことで、メンテナンス作業を行う前後において発生する成膜条件のばらつきを低減し、膜質の再現性を維持することができる。ここで、メンテナンス作業とは、防着板の再生作業や、防着板の交換など、防着板の変形や取り付け位置の変動を発生させ、シールド内空間108の内外おける反応性ガスの流量に変動をもたらす可能性のある作業をさす。
【0041】
図3に示す手順においては、キャリブレーションの対象となる真空チャンバ101のメンテナンス作業前において、基準値となる信号値を取得し、メンテナンス作業後にキャリブレーションを行っている。
まず、キャリブレーションの基準値となる圧力値を決定する。本実施形態の装置において、最初に可変バルブ112を中間位置としておき、ガス供給手段105からNガス50sccmを流したところ、圧力センサ111の値は8.05×10−2Paであった。従って、本装置のシールド内空間108の内外の反応性ガスの分配比率は、合計でNガスを50sccm導入する際に、シールド内空間108の圧力値がキャリブレーション基準値8.0×10−2Pa〜8.1×10−2Paとなるように調整することとする(ステップ1)。
次に、ステップ1でキャリブレーションの基準値の決定が行われた真空チャンバ101において、TiN膜を成膜する(ステップ2)。その後、真空チャンバ101を開放して内部の防着板104の再生作業を行い、再生された防着板104を再び同じ真空チャンバ101に搭載する(ステップ3)。その後、真空チャンバ101を真空引きし、ガス供給手段105よりNガスを50sccm供給する(ステップ4)。この際の圧力センサ111の値がキャリブレーション基準値となるように可変バルブ112を調整し、キャリブレーションを行う(ステップ5)。この作業により、ガス供給手段から導入される反応性ガスは、ステップ1の時点と同じ比率でシールド内空間108、シールド外空間109へ分配されるように調整される。このように、防着板104の再生作業や交換など、ガス分配の比率に影響を与える可能性がある、装置のメンテナンス作業を行った後にキャリブレーションを行うことで、反応性ガスをシールド内空間108の内外へキャリブレーション時と同じ比率で分配することが可能となり、反応性スパッタの条件が変動するのを抑制することができる。
【0042】
キャリブレーションの基準値となる信号値を取得する真空チャンバ(以下、「標準チャンバ」という)と、メンテナンス作業後にキャリブレーションを行う真空チャンバ(以下、「調整チャンバ」という)は、同一真空チャンバのメンテナンス作業前とメンテナンス作業後であってもよいし、構成を同じくする異なる真空チャンバであってもよい。さらに、各真空チャンバが搭載するターゲットの使用状態すなわち印加された電力の積算値(以下、「積算電力」という)が異なる状態であってもよい。
キャリブレーションの基準値の決定は必ずしも最初に行う必要はなく、成膜中に基準値となる信号値を測定してもよいし、メンテナンス作業の直前に基準値となる信号値を測定してもよい。
一度キャリブレーションを行った後に複数回成膜を行う場合には、次にメンテナンス作業を行うまでキャリブレーションを行わなくてもよいし、所定の成膜回数ごとにキャリブレーションを行ってもよい。
【0043】
図3に示すキャリブレーションを行う場合の本発明に係る実施形態の効果を見積もるため、可変バルブ112を全閉で固定し調整を行わない場合と、シールド交換直後に可変バルブ112の調整によりキャリブレーションを行った場合とでTiN膜質の推移を比較した。
【0044】
以下の表1は、本発明の実施形態である図1の装置で行った実験結果を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
上記表1に示すように、可変バルブ112を全閉として全てのガスが第一のガス導入パイプ114の吐出口114aより導入される場合、ガス供給手段105にNガス50sccmを流した際のシールド内空間108の圧力は、徐々に低下する傾向が見られる。この状態でTiNを成膜したところ、防着板104の再生に伴ってTiNのシート抵抗値が低下している。この結果より、防着板104がブラスト処理を繰り返すことにより徐々に変形又は開口128の拡大など寸法変化を起こし、第一のガス導入パイプ114の吐出口114aから導入されたガスのうちシールド外空間へ漏れるガス117の量が増加しているものと考えられる。この結果と比較し、可変バルブ112の調整を行ったケースでは、防着板104の再生を行ってもTiNのシート抵抗の変動は発生していない。
【0047】
圧力センサ111による圧力計測は、ヌードイオンゲージやキャパシタンスマノメータ、ピラニーゲージ等、各種真空ゲージを使用することができるほか、シールド内空間108の圧力の大小を検知可能なあらゆる手段に置き換えることが可能である。さらに、圧力を検知するための複数の手段を装置に備えてもよい。ここで、シールド内空間108の圧力の大小を検知可能な信号を、圧力を示す信号(圧力信号ともいう)という。
例えば、図4は、図5に示すようなターゲット106に接続された直流電源302によってターゲット106に掛かる電流又は電圧を検出可能な装置を用い、前記ステップ1において、ガス供給手段105にArガスを導入し、電力を1000Wで一定となるように放電を行う際の、Arガス流量とターゲットに掛かる電圧の関係を示すグラフである。なお、図5は、図1における圧力センサ111を直流電源302に置き換えた構成をしており、図1と同じ部材には共通の符号を用いている。図4が示すように、シールド内空間108のArガス流量が増加するのに伴い、ターゲット106に掛かる電圧は単調減少する傾向を示すため、ターゲット206に掛かる電圧をシールド内空間108の圧力を示す信号として用いてもよい。この性質を利用して、ターゲットに掛かる電圧を圧力を示す信号としてキャリブレーションに使用し、例えば50sccmのArガスをガス供給手段205から導入した場合に、ターゲットに掛かる電圧300Vを基準値として定めることが可能である。
【0048】
また、図6に示すようなプラズマ発光強度とシールド内空間208のArガス流量の関係から、プラズマ発光強度を圧力を示す信号としてキャリブレーションに使用してもよい。プラズマ発光強度は、図7に示すような装置を用いて、シールド内空間108に接続された公知の分光器301によって発光スペクトルを検出することにより取得できる。なお、図7は、図1における圧力センサ111を分光器301に置き換えた構成をしており、図1と同じ部材には共通の符号を用いている。なお、図5は、図1における圧力センサ111を直流電源302で置き換えた構成をしており、図1と同じ部材には共通の符号を用いている。図8は、50sccmのArガスをガス供給手段205から導入してチタンのターゲット206に1000Wの直流電流を印加する際の発光スペクトルである。この発光スペクトルにおいてArの発光を表す812nmのピーク強度をArガス流量に対してプロットすることで、図6に示すような関係を得ることができる。
【0049】
さらに、圧力センサ111の代わりに、公知の質量分析計を適用することも可能である。例えば、図9に示すような装置において、シールド内空間108に質量分析計303を接続し、Arガス50sccmを導入すると、図10に示すようなデータを得ることができる。なお、図9は、図1における圧力センサ111を質量分析計303に置き換えた構成をしており、図1と同じ部材には共通の符号を用いている。ここで、横軸はArガス分子の分子量を電荷で割った質量電荷比(分子量M、電荷ZとしてM/Zで表す)を示し、縦軸は検出強度(電流値で表示)を示す。図13において質量電荷比が36及び40のピークがArに相当するピークであり、このピーク強度を圧力を示す信号としてキャリブレーションに使用することができる。
【0050】
なお、上記図3及び図11は、キャリブレーションの基準値となる信号値を取得する手順(図3のステップ1、ステップ2、請求項18記載の発明)と、メンテナンス作業後にキャリブレーションを行う手順(図3のステップ3からステップ5、請求項17記載の発明)とを示しているが、キャリブレーションの基準値となる信号値を取得する手順(図3のステップ1、ステップ2、請求項18記載の発明)を省略し、メンテナンス作業後にキャリブレーションを行う手順(図3のステップ3からステップ5、請求項17記載の発明)のみを行うことも可能である。
即ち、ガス供給手段105から真空チャンバ101内に所定の流量の測定用ガスを供給する第一のステップと、スパッタリング空間の圧力を示す信号値を検知する第二のステップと、
信号値が予め決定されているキャリブレーションの基準値になるように、第一のガス導入手段114によりスパッタリング空間に導入される前記測定用ガスの流量と、第二のガス導入手段115によりスパッタリング外空間に導入される前記測定用ガス流量との流量比を調整する第三のステップと、を実行すれば、キャリブレーションの基準値となる信号値を取得することなくメンテナンス作業後にキャリブレーションを行うことも可能である。
【0051】
また、キャリブレーションの基準値となる信号値を取得するステップ1で用いる標準チャンバと、キャリブレーションを行うステップ4、5で用いる調整チャンバは、既に述べたように、構成を同じくする異なる真空チャンバであっても良いし、ターゲットの使用状態、すなわち印加された積算電力が異なる状態であっても良い。すなわち、図3におけるステップ1とステップ2が前後して、図11のような手順となってもよい。
【0052】
ここで、上述の圧力値並びに質量分析をキャリブレーションの信号値とする場合には、ターゲットの積算電力に影響されないが、電圧、電流及び発光強度についてはターゲットの積算電力に応じて変化することが知られている。そのため、ターゲットを交換してからキャリブレーションを行う場合、又はキャリブレーション基準値の決定時と別の真空チャンバでキャリブレーションを実行する場合は、キャリブレーション実行時に使用するターゲットの積算電力に合わせてキャリブレーションの基準値を算出する必要がある。
一例として、図6に示す装置にチタンのターゲットを搭載し、Arガスを50sccm流し、1000Wの直流電力を印加した場合のターゲット電圧yを積算電力xに対してプロットすると、図12のようになる。すなわち、ターゲット電圧yを積算電力xはy=9×10−7×x−6×10−6×x−0.193×x+300の関係式にあることがわかる。このように、予めターゲット電圧と積算電力との関係を取得しておくことで、キャリブレーションの基準値を決定した時の信号値から、キャリブレーションの実行時に使用すべき基準値を算出することができる。
図13に、圧力を示す信号と積算電力との関係からキャリブレーションの基準値を算出する場合のフローチャートを示す。具体的には、基準状態におけるターゲット電圧測定(ステップ3)がターゲット積算電力100kWhにおいて282.5Vという値であり、ステップ5のメンテナンスにおいてターゲットを新品に交換すると、ステップ6及び7で行うキャリブレーションは積算電力が0kWhの状態であるので、図12の関係からキャリブレーションの基準値を300Vとすればよいことが分かる。
【0053】
なお、図1及び図2に示す装置において、防着板104を搭載した後の可変バルブ112の開度調整は自動で行われるようにしてもよい。また、制御部113が、可変バルブ112の開度調整を実施し、その結果を、調整されたバルブ開度の定数として、ROMやHDDなどの記憶部121に記憶するようにしてもよい。それにより、可変バルブ112の開度を必要に応じて変化させることが可能となり、再び反応性スパッタリングを行うときに記憶されたバルブ開度の値を読み出して適用することが可能となる。
例えば、放電の際のプラズマ着火においては、ターゲット近傍をスパッタリング時よりも高圧に保つ必要が有るケースが多い。この場合に、可変バルブ112の開度をプラズマ着火前に変化させ、全てのガスが第一のガス導入手段へ供給されるようにすることで、プラズマ着火を行うことができ、プラズマ着火後に可変バルブ112の開度を記憶されたバルブ開度の値に調整することで、開度調整を再度行うことなく反応性スパッタリングを行うことができる。
このように、自動で調整されたバルブ開度を定数として記憶するので、作業者による個人差を生じさせずに可変バルブ112の開度調整を再現性良く行うことができ、また調整のために掛かる装置の稼働コストを低減できるという効果がある。なお、本明細書において、「バルブ開度」とは、例えば公知のニードルバルブ等において、全閉から全開までの間のどの位置に調整するかを指し、調整ノブの回転数などによって表すことができる。例えば、上記表1に示す例で、「バルブ112全閉」の状態では、調整ノブの回転数は「0」とする。この時には、「バルブ開度の定数=0」として、ROMやHDDなどの記憶部121に記憶する。また、上記表1に示す例で、「バルブ112調整有り」の状態では、調整ノブの回転数は「2」とする。この時には、「バルブ開度の定数=2」として、ROMやHDDなどの記憶部121に記憶する。なお、ニードルバルブ等の全閉から全開までの間のどの位置に調整したかが解れば、調整ノブの回転数以外でも、「バルブ開度」を規定することは可能である。即ち、コンダクタンスを調整可能であれば、調整ノブの回転数以外でも規定可能である。
【0054】
さらに、制御部113による可変バルブ112開度の調整を、複数の流量、圧力値に対して実施し、その平均値を採用するようにしてもよい。具体的には、予め定められた流量を少なくとも第一の流量値と第二の流量値とし、バルブ開度を前記第一の流量値と第二の流量値に対応して、第一のバルブ開度と第二のバルブ開度として、ROMやHDDなどの記憶部121に格納し、更に、第一のバルブ開度と第二のバルブ開度の平均値を、調整したバルブ開度の定数として、ROMやHDDなどの記憶部121に格納するようにすればよい。例えば、上記実施形態においてNガス流量が、5sccm、10sccm、20sccm、50sccmで前記調整作業を行い、各流量で求められた可変バルブ112開度の平均値を調整したバルブ開度の定数として、ROMやHDDなどの記憶部121に格納するようにすれば、圧力の測定ばらつき等の影響を低減し、より信頼性の高い調整を行うことができる。
【0055】
可変バルブ112開度の調整を、作業者が行ってもよい。その場合は、図1及び図2に示す装置において、圧力センサ111に接続されており、圧力値を表示する表示部を設けることが好ましい。作業者は、表示部に表示された圧力値がキャリブレーションの基準値と異なる場合、表示部に表示された圧力値がキャリブレーションの基準値となるように可変バルブ112の開度調整を行うことができる。
【0056】
第一、第二のガス導入パイプ114及び115が、ターボ分子ポンプ102に対してシールド内空間108よりも遠い位置に配置されているが、本発明の形態はこれに限るものではなく、第一、第二のガス導入手段である第一、第二のガス導入パイプ114、115が近傍に配置されていれば、その配置は任意である。好ましくは、スパッタリング空間が、第一のガス導入手段及び第一のガス導入手段と、排気口との間に位置する形態、又は第一のガス導入手段及び第二のガス導入手段が、スパッタリング空間と、排気口との間に位置する形態が望ましい。もし第一のガス導入手段と第二のガス導入手段との間に排気口又はスパッタリング空間が介在すると、各ガス導入手段の流量比を調整することにより、ガスの流れる経路が大幅に変化してしまう恐れがある。しかしながら、第一、第二のガス導入パイプ114、115を近傍に配置することで、第一のガス導入手段の吐出口114aからシールド外空間へ漏れるガス117と第二のガス導入手段の吐出口115aが近傍に位置することになるため、ガスの流れる経路の変化を抑制することができ、シールド内空間108の内外における反応性ガス圧力の再現性改善に好適である。
【0057】
ガス供給手段105より第一、第二のガス導入パイプ114、115への分岐比率を調整するためのガス流量比制御手段としてバルブを採用し、バルブの開度の変更によってコンダクタンスを調整することで、低コストで再現性の良いキャリブレーションを実現できるという効果がある。また、ガス流量比制御手段として、バルブのみならずオリフィスやマスフローを搭載するようにしてもよい。さらに搭載される場所も、第一、第二のガス導入手段いずれかに備えられていればよく、両方に搭載されていても効果を損ねるものではない。
【0058】
また、スパッタ用ガスと反応性ガスは必ずしも混合して導入される必要はなく、膜質に対して影響の小さいスパッタ用ガスに関しては、反応性ガスと独立して真空チャンバ内101へ導入しても良い。例えば、前記実施形態において、第三のガス導入手段として第三のガス導入パイプをさらに備えていても良い。当該第三のガス導入手段からターゲット106の近傍へスパッタ用ガスを独立して導入し、第一、第二のガス導入手段からは反応性ガスのみを導入するようにしても良い。この場合には、スパッタ用ガスと反応性ガスとを別々に導入することによって、膜質に影響を与えやすい反応性ガスの流れの再現性を確保しながら、ターゲット106からのスパッタリングを独立して調整することができるため、膜質を制御しやすくなるという利点がある。
【0059】
防着板104は図1、図2に示す形状に限定されるものではなく、複数の防着板を組み合わせて前記シールド内空間108を形成するように構成してもよく、前記シールド内空間108と前記シールド外空間109とを連通させるような別の開口が設けられていてもよい。さらに、ターゲット106とステージ103の間に公知のシャッター機構が搭載されていてもよい。また、本発明は、防着板104の再生に伴う変形のみならず、防着板104そのものの寸法ばらつきや取り付け位置のばらつきに対しても効果がある。
【0060】
ターゲット106とステージ103の位置関係も図1、図2に示すものに限らず、例えばターゲットとステージが平行ではなく斜めに配置されていてもよいし、ターゲットの中心軸がステージの中心を通らないような配置でも何ら問題はない。この発明において、物理蒸着の手段としては、プラズマによるスパッタのほか、分子線蒸着などの方法を適用することができる。また、排気手段とはターボ分子ポンプに代表される真空ポンプを指し、排気口を通じて真空チャンバを減圧する役割を持つ。
【0061】
ステージ103は、成膜処理において被処理基板Wを保持するためのものであり、静電吸着装置などの吸着手段を用いてもよく、さらに基板を自転・公転させる機構や、温度制御機構、被処理基板に電圧を印加するためのバイアス機構など、各種の機能を搭載することができる。
【0062】
また、真空ポンプの種類、防着板の形状、ステージの数、形状、配置、材質及び表面処理など、適宜変更することができる。第一及び第二のガス導入手段は、上述の実施形態としてはパイプを用いているが、パイプ以外の形状でもよい。また、基板の形状、大きさ及び材質が変更可能であることは言うまでもない。上記実施形態としては反応性マグネトロンスパッタ装置でのTiN成膜を挙げているが、本発明の用途は当然ながらこれに限られる物ではなく、防着板によって区画されたシールド内空間を備え、反応性物理蒸着を行う装置全般に適用することが可能であり、成膜される膜種もTiNに限らず、酸化膜、酸窒化膜などに適用が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0063】
101 真空チャンバ
102 排気手段
103 ステージ
104 防着板
105 第一のガス供給手段
106 ターゲット
107 マグネット
108 スパッタリング空間
109 シールド外空間
110 第二の防着板
111 圧力測定手段
112 ガス流量比制御手段
113 第二の制御部
114 第一のガス導入手段
115 第二のガス導入手段
120 排気口
121 記憶部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内で少なくとも1種類の反応性ガスと成膜材料とを反応させて被処理基板上に成膜を行う成膜装置であって、
真空チャンバ内で対向する前記被処理基板と前記成膜材料を含むターゲットとの間のスパッタリング空間を囲繞する防着板と、
前記成膜時に前記真空チャンバ内へ少なくとも前記反応性ガスを含むガスを供給するガス供給手段であって、前記防着板に囲繞されている前記スパッタリング空間に前記ガスを導入する第一のガス導入手段と、前記第一のガス導入手段から分岐され、前記真空チャンバの内壁と前記防着板との間のスパッタリング外空間に前記ガスを導入する第二のガス導入手段とを有するガス供給手段と、
前記第一のガス導入手段が前記スパッタリング空間に導入する前記ガスの流量と、前記第二のガス導入手段が前記スパッタリング外空間に導入する前記ガスの流量との流量比を調整するガス流量比制御手段と、
を備える成膜装置。
【請求項2】
前記スパッタリング空間の圧力を示す信号値を検知する圧力検知手段をさらに備える請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記信号値は、前記スパッタリング空間内の圧力値、前記ターゲットに印加される電圧、前記ターゲットに流入する電流、質量分析計の分圧値及びスパッタリング放電の発光強度の少なくとも1つである請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記信号値が所定の基準値と異なる場合に、前記信号値が前記所定の基準値になるように前記ガス流量比制御手段を制御する制御部をさらに備える請求項2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記ガス流量比制御手段は、前記第一のガス導入手段と前記第二のガス導入手段の少なくとも一方に設けられたバルブを備え、
前記バルブ開度の変更によって、前記流量比を調整可能であることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記信号値が所定の基準値となるよう前記バルブ開度を調整する制御部と、
前記制御部により調整された前記バルブ開度を定数として格納する記憶部とをさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記予め定められた流量を少なくとも第一の流量値及び第二の流量値とし、前記第一の流量値及び第二の流量値を用いて調整された前記バルブ開度を、それぞれ第一のバルブ開度及び第二のバルブ開度として前記記憶部に格納し、
さらに、前記第一のバルブ開度及び第二のバルブ開度の平均値を、前記調整されたバルブ開度の定数として前記記憶部に格納することを特徴とする請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記圧力検知手段に接続され、前記信号値を表示する表示部をさらに備える請求項2に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記スパッタリング空間が、前記第一のガス導入手段及び第二のガス導入手段と、前記真空チャンバ内を排気手段により排気するための排気口と、の間に位置することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記第一のガス導入手段及び第二のガス導入手段が、前記スパッタリング空間と、前記真空チャンバ内を排気手段により排気するための排気口との間に位置することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記第一のガス導入手段及び第二のガス導入手段と独立して前記真空チャンバ内へスパッタ用ガスを導入するための第三のガス導入手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記第一のガス導入手段のガス吐出口を囲繞する第二の防着板をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記成膜装置が、物理蒸着装置であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記ガス供給手段は、前記反応性ガスと希ガスとを混合して、又は前記反応性ガス及び前記希ガスのどちらかに切り替えて供給可能であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項15】
前記防着板が開口部を備え、
前記第一のガス導入手段は、パイプ状であって、前記防着板の前記開口部に接続されることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項16】
前記防着板は、前記成膜装置から取り外し可能であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項17】
真空チャンバ内で対向する被処理基板とターゲットとの間のスパッタリング空間を囲繞する防着板と、前記防着板に囲繞されている前記スパッタリング空間にガスを導入する第一のガス導入手段と、前記第一のガス導入手段から分岐され、前記真空チャンバの内壁と前記防着板との間のスパッタリング外空間にガスを導入する第二のガス導入手段とを有するガス供給手段とを備え、少なくとも1種類の反応性ガスと成膜材料とを反応させて被処理基板上に成膜を行う成膜装置のキャリブレーション方法であって、
前記ガス供給手段から前記真空チャンバ内に所定の流量の測定用ガスを供給する第一のステップと、
前記スパッタリング空間の圧力を示す信号値を検知する第二のステップと、
前記信号値が予め決定されているキャリブレーションの基準値になるように、前記第一のガス導入手段により前記スパッタリング空間に導入される前記測定用ガスの流量と、前記第二のガス導入手段により前記スパッタリング外空間に導入される前記測定用ガス流量との流量比を調整する第三のステップと、
を有するキャリブレーション方法。
【請求項18】
前記第一のステップの前に、前記ガス供給手段から前記真空チャンバ内に所定の流量の測定用ガスを供給する第四のステップと、
前記第四のステップの後に、前記スパッタリング空間の圧力を示すキャリブレーション用信号値を検知し、前記キャリブレーション用信号値を前記キャリブレーションの基準値として決定する第五のステップと、
をさらに含む、請求項17に記載のキャリブレーション方法。
【請求項19】
前記信号値は、前記スパッタリング空間内の圧力値、前記ターゲットに印加される電圧、前記ターゲットに流入する電流、質量分析計の分圧値及びスパッタリング放電の発光強度の少なくとも1つである請求項17に記載のキャリブレーション方法。
【請求項20】
前記第一から第三のステップは、前記ターゲットの交換又は前記防着板の交換の少なくとも1つを含むメンテナンス作業を実施した後に行うことを特徴とする請求項17に記載のキャリブレーション方法。
【請求項21】
前記信号値及び前記キャリブレーション用信号値は、前記ターゲットに印加される電圧、前記ターゲットに流入する電流及びスパッタリング放電の発光強度の少なくとも1つであり、
前記ターゲットに印加された電力の積算値である積算電力と、前記スパッタリング空間の圧力を示す信号値との相関が予め取得されており、
前記第一から第三のステップで用いられるターゲットは第一の積算電力を持ち、
前記第四及び第五のステップで用いられるターゲットは第二の積算電力を持ち、
前記キャリブレーションの基準値を、前記相関によって、前記信号値及び前記キャリブレーション用信号値ならびに前記第一及び第二の積算電力から算出することを特徴とする請求項18に記載のキャリブレーション方法。
【請求項22】
前記第一から第三のステップは、第一のチャンバで行い、
前記第四及び第五のステップは、前記第一のチャンバと同一の構成からなる別のチャンバである第二のチャンバで行うことを特徴とする請求項18に記載のキャリブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−52221(P2012−52221A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143926(P2011−143926)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】