説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】 成膜装置及び成膜方法に関し、長期稼動によって生じ易い膜剥離による二次パーティクル発生を抑制し、高品質な薄膜形成を可能にする。
【解決手段】 アーク放電により、ターゲット1からターゲット材料を蒸発させ、基板2上に堆積させる成膜装置に、ターゲット1からのパーティクル7を捕獲する防着板3のパーティクル付着面5を大気解放することなく取り替える付着面取替機構を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成膜装置及び成膜方法に関するものであり、特に、炭素系保護膜等の高温下での成膜が必要な成膜工程におけるパーティクルの基板への付着を低減するための構成に特徴のある成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、情報記録装置であるヘッドの浮上を伴う磁気記録装置、所謂ハードディスクドライブは、コンピュータや各種情報端末などの外部記憶装置として一般に広く使用されている。
【0003】
現在の磁気ディスクは、硬質非磁性基板上に良好な磁気特性を示すコバルト系の合金からなるを薄膜磁性合金層を磁気記録層として設けたものからなるが、磁性合金層は耐久性、耐蝕性に著しく劣るため、磁気ヘッドとの接触、摺動による摩擦、摩耗や湿気吸着による腐食発生のため磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷が生じ易い。
【0004】
そこで現状では、磁性合金層表面に保護膜層を設け、さらにその直上をフッ素系の潤滑剤で被覆することで、耐久性や耐蝕性の向上を図っている。
【0005】
例えば、保護膜としては、SiO2 や、SiNx 、或いは、Al2 3 等の様々な材質が用いられるが、現状はアモルファスの炭素系保護膜が耐熱性、耐蝕性および耐摩耗性の点において磁気記録媒体および磁気ヘッドの保護膜として好適であるとされ、一般には、スパッタリング法やCVD法で堆積された炭素系保護膜が製品へ適用されている。
【0006】
ところで近年の情報化社会ではあらゆる用途において取り扱う情報量が増加する傾向にあり、主要な外部記録装置である磁気ディスクには一層の高記録密度化が切望されており、この要求に応えるためには素子部性能の向上に加え、磁気記録層と磁気ヘッドの記録/読み取り部間の間隔、所謂磁気スペーシングを短縮することが不可欠であり、保護膜自身の薄層化が必要となる。
【0007】
そのため、5nm以下の極薄膜においても十分な耐久性/耐蝕性を確保できる保護膜のニーズが高まっており、そこで、従来以上に良好な耐久性が得られる保護膜の形成が可能なフィルタードカソーディックアーク法(FCA法)に注目が集まっている。
【0008】
このFCA法は放電点温度が1万℃以上にものぼるアーク放電を利用しているため、耐熱性の高い炭素でも容易に溶融・昇華させることができる。
本手法ではCVD法とは異なり炭素のみを材料とした成膜が可能である上、保護膜を構成する炭素間の結合もダイアモンドと同様のsp3性に富んでいることから高硬度化が比較的容易であるという特長がある。
【0009】
実際に、本発明者等が調査した結果では、FCA法で形成した保護膜、即ち、FCA膜は1nmの膜厚においてもCVD法で成膜した4nm厚の保護膜と同等以上の耐久性を有することが判っている。
【0010】
また、FCA法ではアーク放電時に付随的に多量なマクロパーティクル、即ち、陰極構成材料からなる微粒子であるドロップレットが発生するため、成膜対象物上へ付着したパーティクルが原因で磁気ディスク保護膜としての所要を満たすことができないという古くからの技術課題が存在した。
【0011】
しかし、近年ではプラズマ流を基板まで導く磁場フィルタを改良し、プラズマ流とパーティクルを空間的に分離することで、基板へのパーティクル付着量を低減するフィルタリング方法(T型フィルタ)が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0012】
このようなT型フィルタを搭載したFCA成膜装置で作製したFCA膜は、高耐久性を維持しつつ、かつ従来比で1/100程度のパーティクル削減が可能であることが知られている。
【0013】
このように、T型フィルタは放電起因のパーティクル除去に効果的であるものの、曲線型のフィルタ形状とは異なり成膜時にアーク源に対面する内壁へパーティクルが集中するため、たとえ該当箇所に防着板を設置していても短時間の成膜で容易に膜堆積が進行し、結果として剥離物が二次的なパーティクルとなることが新たな問題となっている。
【0014】
さらに、防着板を高い頻度で交換することで二次パーティクルの発生をある程度抑制することは可能であるが、メンテナンス時に発生するデッドタイムの積算が通常の成膜装置より長時間となるため、量産稼動には不向きであるという問題もある。
【0015】
そこで、このような問題を解決するために、T型フィルタ構造に斜行壁及び反射板を設けるとともに、この斜行壁及び反射板によってマクロパーティクルが導かれる位置に緩衝板を備えた捕集部を設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−216575号公報
【非特許文献1】Takigawa et al. Surface and Coatings Technology 163−164,p.368,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、捕集部を設けると装置構成が複雑になるとともに、全体の装置構成から見て奥まった位置に形成されるものであるので、清掃時の清掃作業が困難になるという問題がある。
【0017】
また、斜行壁及び反射板を用いているため、この斜行壁及び反射板に対するマクロパーティクルの付着は避けられず、この斜行壁及び反射板に付着したマクロパーティクルの剥離が問題になるという問題がある。
【0018】
したがって、本発明は、長期稼動によって生じ易い膜剥離による二次パーティクル発生を抑制し、高品質な保護膜形成を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
図1参照
上記の課題を解決するために、本発明は、成膜装置において、アーク放電により、ターゲット1からターゲット材料を蒸発させ、基板2上に堆積させる成膜装置において、ターゲット1からのパーティクル7を捕獲する防着板3のパーティクル付着面5を大気解放することなく取り替える付着面取替機構を備えたことを特徴とする。
【0020】
このように、ターゲット1からのパーティクル7を捕獲する防着板3のパーティクル付着面5を大気解放することなく取り替える付着面取替機構を備えることによって、メンテナンス時に発生するデッドタイムの積算が通常の成膜装置より短時間となるため、量産稼動に好適となる。
なお、パーティクル6は基板2方向へ湾曲されて基板2上に堆積する。
【0021】
この場合の防着板3におけるパーティクル付着面5は複数存在することが望ましく、それによって回転動作だけでパーティクル付着面5を取り替えることができる。
また、防着板3の各パーティクル付着面5はそれぞれ独立して防着板機能を果たすことが可能であるため、付着面数に応じて安定稼動時間は増加する。
【0022】
例えば、防着板3はSUS製であり、互いに120°の角度で配置されるとともに、両面がパーティクル付着面5となった3枚の防着羽板4から構成することが望ましく、一方の面をパーティクル付着面5とした平板状の防着板に比べて安定稼動時間は約3倍になる。
【0023】
この場合、防着板3の表面にブラスト処理を施したブラスト処理面を設けることが望ましく、それによって、付着したパーティクル7により形成される膜の剥離を抑制することができる。
【0024】
或いは、防着板3の表面にリブを設置しても良く、この場合もブラスト処理面と同様に付着したパーティクル7により形成される膜の剥離を抑制することができる。
【0025】
また、防着板3のパーティクル付着面5を取り替える時期を決定するための稼働時間モニタ機構を備えるように構成しても良く、それによって、工数削減を図ることが可能になる。
【0026】
また、成膜方法としては、アーク放電により、ターゲット1からターゲット材料を蒸発させ、基板2上に堆積させる際に、予め実験的に定めた所定稼働時間毎にターゲット1からのパーティクル7を捕獲する防着板3のパーティクル付着面5を大気解放することなく取り替えれば良い。
この場合のターゲット材料としてはグラファイトが典型的なものであり、その結果、基板2上に堆積する薄膜はカーボン保護膜となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、FCA装置等の成膜装置に防着板のパーティクル付着面を大気解放することなく取り替える付着面取替機構を設けているので、長期稼動においてもパーティクルの付着発生を抑制し高品質な保護膜等の薄膜の形成が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、アーク放電により、ターゲットからターゲット材料を蒸発させ、基板上に堆積させるFCA装置において、陰極となるグラファイト等のターゲットからのマクロパーティクルを捕獲する防着板、例えば、互いに120°の角度で配置されるとともに、両面がパーティクル付着面となった3枚の防着羽板から構成される防着板のように、パーティクル付着面5が複数存在する防着板のパーティクル付着面を大気解放することなく取り替える付着面取替機構、典型的には回転機構を備えたものであり、防着板のパーティクル付着面を取り替える時期を決定するための稼働時間モニタ機構を設けても良いものである。
【0029】
この場合、防着板には、付着したパーティクルによる薄膜の剥離を抑制するためには、その表面をブラスト処理を施したブラスト処理面を設けても良いし、及び/又は防着板の表面にリブを設置しても良い。
【実施例1】
【0030】
ここで、図2乃至図7を参照して、本発明の実施例1のFCA装置を説明する。
図2参照
図2は、本発明の実施例1のFCA装置の概略的構成図であり、このFCA装置は、SUS製の円管状の真空チャンバー10内に形成されるアーク放電部20、アーク放電部20で発生させたパーティクル11を通過させるパーティクル通過部30、パーティクル11を湾曲磁界により湾曲させる湾曲部40、湾曲されたパーティクル11を通過させるパーティクル通過部50、パーティクル通過部50に接続する成膜部60、及び、T型フィルター部70により構成される。
【0031】
アーク放電部20においては、陰極となるターゲット21は絶縁導入端子22に取付けられ、その周囲は陰極プロテクタ23で覆われ、その近傍にトリガー電極24が配置される。
一方、真空チャンバー10の内壁には陽極25が設けられ、ターゲット21と陽極25との間にはアーク電源26が接続され、ターゲット21とトリガー電極24との間には制限用抵抗27が接続される。
【0032】
また、真空チャンバー10の外周には、アーク安定化磁界を発生させる磁界発生器28,29が設けられており、磁界発生器28からの印加磁界と磁界発生器29からの印加磁界が互いに逆方向になるように磁界を印加することによって発生したプラズマを安定化する。
【0033】
また、パーティクル通過部30においては、真空チャンバー10の外周にパーティクル11を誘導するための誘導磁界を発生させる2つの磁界発生器31,32が設けられている。
【0034】
また、湾曲部40においては、真空チャンバー10の外周にパーティクル通過部50に向かう交差方向に湾曲磁界を発生させる湾曲磁界発生器41が設けられており、湾曲磁界発生器41により発生させた湾曲磁界によりパーティクル11をパーティクル通過部50の方向に湾曲させる。
なお、パーティクル11と同時に発生するマクロパーティクル12は電気的に中性であるので、湾曲磁界の影響を受けずに直進する。
【0035】
また、パーティクル通過部50においては、真空チャンバー10の外周にセンタリング絞り磁界を発生させる絞り磁界発生器51と、パーティクル11を誘導する誘導磁界を発生させる磁界発生器52,53,54が設けられている。
【0036】
また、成膜部60には、基板ホルダ61が設けられており、この基板ホルダ61に保持された基板62上にパーティクル11を付着させて薄膜63を形成する。
【0037】
一方、ターゲット21からマクロパーティクル12の直進する方向に設けられたT型フィルター部70には回転軸72に対して3枚の防着羽板73を互いに120°の角度になるように取り付けた防着板71が設けられており、回転制御機構(図示は省略)によって真空シールを介して真空チャンバー10の外部に突き出している回転軸72を回転させることによって、防着板71のパーティクル付着面を取り替える。
【0038】
図3参照
図3は、本発明の実施例1における防着羽板の概念的構成図であり、上図は概略的正面図であり、下図は上図におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図であり、両方に面をブラスト処理することによって、微小な凹凸を有するブラスト処理面74とすることによって、ブラスト処理面74に付着したマクロパーティクル12からなる付着薄膜との密着性を高めて付着薄膜の剥離を防止している。
なお、この場合のブラスト処理は、例えば、粒径が#100のAl2 3 粒子をブラスト材として、例えば、3.5kg/cm2 の圧力で吹きつけて加工を行うものであり、吹き付け時間は適宜である。
【0039】
再び、図2参照
また、このFCA装置の制御部(図示は省略)には、装置の累積稼働時間をモニタするモニタ機構が設けられており、このモニタ機構でモニタした累積稼働時間が予め定めた時間に達した時点で、且つ、その時行われている成膜工程が終了したのち、回転制御機構によって防着板71を120°回転させてパーティクル付着面を取り替える。
なお、パーティクル付着面を取り替えた時点で、モニタ機構をリセットして新たに累積稼働時間のモニタを開始する。
【0040】
次に、図4を参照して本発明の実施例1のFCA装置を用いた成膜工程の一例を説明する。
図4参照
図4は、基板が磁気記録媒体である場合の成膜状態を示す概念的断面図であり、まず、基板62として、アルミ合金基板64上にNi−Pメッキ層65を設けたのち、スパッタ法によりCr下地層66及び磁気記録層67を順次堆積させたものを用意する。
【0041】
次いで、FCA装置を用いて、ターゲット21としてグラファイトターゲットを用いて、例えば、アーク電流40A、アーク電圧30Vの条件で0.1nm/秒の成膜レートで3nmの炭素系保護膜からなる薄膜63を成膜する。
次いで、薄膜63の表面にフッ素系潤滑剤68を塗布することによって磁気記録媒体の基本構成が完成する。
【0042】
次に、図5乃至図7を参照して、本発明の防着板の効果を説明する。
図5参照
図5は、10時間毎にパーティクル付着面を変更してメンテナンスを行うことなく連続稼動を行い、30時間経過した時点で上述のように保護膜を形成した磁気記録媒体について、保護膜表面のパーティクル数を光の散乱を利用した表面欠陥評価装置を用いて評価した場合のパーティクル分布図であり、直径1μm以上のパーティクル数は2.5インチのディスク1面当たり約21個であった。
なお、この場合のパーティクル付着面変更時間の10時間は、事前調査より上記成膜条件では、約10時間の連続稼動経過後に防着板からの膜剥離が生じ易いことが判明したためである。
【0043】
図6及び図7参照
図6及び図7は、パーティクル付着面を変更することなく連続稼働10時間経過時点及び30時間経過時点で保護膜を形成した磁気記録媒体について、保護膜表面のパーティクル数を評価したパーティクル分布図であり、直径1μm以上のパーティクル数は2.5インチのディスク1面当たりそれぞれ、約18個及び約459個であった。
なお、この場合の防着板は、単一面で構成された従来品を利用した。
【0044】
図5と図6及び図7と対比から、10時間毎にパーティクル付着面を変更することによって、従来の防着板を用いた場合と同様に付着防止効果が得られたが、30時間経過した場合には急激に増加しており、これは、前述した通り、防着板からの剥離物が二次パーティクルとして被成膜面に付着したためと推定される。
【0045】
このように、本発明の実施例1においては、パーティクル付着面の変更が可能な防着板を用い、事前調査より成膜条件において防着板からの膜剥離が発生し出す累積稼働時間に達する前にパーティクル付着面を変更しているので、保護膜表面への二次パーティクルの付着を防止することができる。
【実施例2】
【0046】
次に、図8を参照して、本発明の実施例2のFCA装置を説明するが、この場合には、防着板に設ける防着羽板の枚数が異なるだけで基本的装置構成は上記の実施例1のFCA装置と全く同様であるので防着板の構成のみ説明する。
図8参照
図8は、本発明の実施例2のFCA装置に用いる防着板の概念的構成図であり、上図は概略的正面図であり、下図は上図におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。
【0047】
下図に示すように、本発明の実施例2のFCA装置に用いる防着板81は、回転軸82に対して互いのなす角が180°になるように2枚の防着羽板83が取り付けられている。
また、上図に示すように、各防着羽板83の表面は上記の実施例1の防着板71と同様にブラスト処理されたブラスト処理面84になっている。
【0048】
この実施例2の防着板81は、累積稼働10時間経過後に180°回転させて付着面を取り替えて使用するものであり、累積稼働20時間経過後に、メンテナンスのために真空チャンバー10から取り出すことになる。
【0049】
この場合、実施例1の防着板71に比べて交換のためのメンテナンス頻度が1.5倍になるが、真空チャンバー10の内壁との間隙が小さくなるので、マクロパーティクル12を効率的に捕獲することができる。
【実施例3】
【0050】
次に、図9を参照して、本発明の実施例3のFCA装置を説明するが、この場合には、防着板に設ける防着羽板の枚数が異なるだけで基本的装置構成は上記の実施例1のFCA装置と全く同様であるので防着板の構成のみ説明する。
図9参照
図9は、本発明の実施例3のFCA装置に用いる防着板の概念的構成図であり、上図は概略的正面図であり、下図は上図におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。
【0051】
下図に示すように、本発明の実施例3のFCA装置に用いる防着板85は、回転軸86に対して互いのなす角が90°になるように4枚の防着羽板87が取り付けられている。
また、上図に示すように、各防着羽板87の表面は上記の実施例1の防着板71と同様にブラスト処理されたブラスト処理面88になっている。
【0052】
この実施例3の防着板85は、累積稼働10時間経過後に90°回転させて付着面を取り替えて使用するものであり、累積稼働40時間経過後に、メンテナンスのために真空チャンバー10から取り出すことになる。
【0053】
この場合、実施例1の防着板71に比べて交換のためのメンテナンス頻度が3/4になるとともに、真空チャンバー10の内壁との間隙が小さくなるので、マクロパーティクル12を効率的に捕獲することができる。
なお、この場合、各防着羽板87の端面89にもマクロパーティクル12が付着するので、端面89にもブラスト処理を施すことが望ましい。
【実施例4】
【0054】
次に、図10を参照して、本発明の実施例4のFCA装置を説明するが、この場合には、防着板に設ける防着羽板の構成が異なるだけで基本的装置構成は上記の実施例1のFCA装置と全く同様であるので防着板の構成のみ説明する。
図10参照
図10は、本発明の実施例4のFCA装置に用いる防着板の概念的構成図であり、上左図は概略的正面図であり、上右図は1枚の防着羽板の概略的側面図であり、下図は上左図におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った概略的断面図である。
【0055】
下図に示すように、本発明の実施例4のFCA装置に用いる防着板91は、実施例1の防着板71と同様に回転軸92に対して互いのなす角が120°になるように3枚の防着羽板93が取り付けられている。
【0056】
しかし、この実施例4の防着羽板93の付着面には複数のリブ94が所定ピッチで設けられている。
例えば、長さが約14mmのリブ94を45°傾斜した状態で12mmピッチで設置する。
【0057】
この場合、防着羽板93の付着面に設けた複数のリブ94が付着面の表面積を大きくする効果があるので、ブラスト処理面と同様にマクロパーティクル12が付着することにより形成された付着薄膜の剥離を抑制することができる。
【0058】
以上、本発明の各実施例を説明したが、本発明は各実施例に示した構成、条件、数値に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、防着板に取り付ける防着羽板の枚数は任意であり、5枚以上取付けても良いものである。
【0059】
また、上記の実施例4のリブを設けた防着板については、特に言及していないが、リブを含めた防着羽板に対して実施例1と同様のブラスト処理を施しても良いものであり、それによって、付着薄膜の剥離をより効果的に防止することができる。
【0060】
また、上記の各実施例においては、防着羽板を真空チャンバーと同様に脱ガスの少ないSUSで構成しているが、SUSに限られるものではなく、Al等の他の金属で構成しても良く、或いは、ガラス等の絶縁体で構成しても良いものである。
【0061】
また、上記の各実施例においては、付着面取替時間を累積稼働10時間としているが、これは、上述の成膜条件における付着面取替時間であり、成膜条件に応じて適宜変更されるものである。
【0062】
ここで、再び図1を参照して、改めて、本発明の詳細な特徴を説明する。
再び、図1参照
(付記1) アーク放電により、ターゲット1からターゲット材料を蒸発させ、基板2上に堆積させる成膜装置において、前記ターゲット1からのパーティクル7を捕獲する防着板3のパーティクル付着面5を大気解放することなく取り替える付着面取替機構を備えたことを特徴とする成膜装置。
(付記2) 上記防着板3における上記パーティクル付着面5が複数存在することを特徴とする付記1記載の成膜装置。
(付記3) 上記防着板3は、互いに120°の角度で配置されるとともに、両面が上記パーティクル付着面5となった3枚の防着羽板4から構成されることを特徴とする付記3記載の成膜装置。
(付記4) 上記防着板3の表面にブラスト処理を施したブラスト処理面を設けることを特徴とする付記1乃至3のいずれか1に記載の成膜装置。
(付記5) 上記防着板3の表面にリブを設置することを特徴とする付記1乃至4のいずれか1に記載の成膜装置。
(付記6) 上記防着板3のパーティクル付着面4を取り替える時期を決定するための稼働時間モニタ機構を備えたことを特徴とする付記1乃至5のいずれか1に記載の成膜装置。
(付記7) アーク放電により、ターゲット1からターゲット材料を蒸発させ、基板2上に堆積させる成膜方法において、予め実験的に定めた所定稼働時間毎に前記ターゲット1からのパーティクルを捕獲する防着板3のパーティクル付着面5を大気解放することなく取り替えることを特徴とする成膜方法。
(付記8) 上記ターゲット材料がグラファイトであり、上記基板2上に堆積する薄膜がカーボン保護膜であることを特徴とする付記7記載の成膜方法。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の活用例としては、磁気ディスク媒体への炭素系保護膜形成に用いる高温のアーク放電の伴うFCA装置が典型的であるが、磁気ディスク媒体への炭素系保護膜形成に限られるものではなく、非炭素系保護膜の形成工程にも適用されるものであり、さらには、各種の成膜工程において用いられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1のFCA装置の概略的構成図である。
【図3】本発明の実施例1における防着板の概念構成図である。
【図4】基板が磁気記録媒体である場合の成膜状態を示す概念的断面図である。
【図5】本発明の実施例1における30時間連続稼働後の保護膜表面のパーティクル分布図である。
【図6】従来例における10時間連続稼働後の保護膜表面のパーティクル分布図である。
【図7】従来例における30時間連続稼働後の保護膜表面のパーティクル分布図である。
【図8】本発明の実施例2における防着板の概念的構成図である。
【図9】本発明の実施例3における防着板の概念的構成図である。
【図10】本発明の実施例4における防着板の概念的構成図である。
【符号の説明】
【0065】
1 ターゲット
2 基板
3 防着板
4 防着羽板
5 パーティクル付着面
6 パーティクル
7 パーティクル
10 真空チャンバー
11 パーティクル
12 マクロパーティクル
20 アーク放電部
21 ターゲット
22 絶縁導入端子
23 陰極プロテクタ
24 トリガー電極
25 陽極
26 アーク電源
27 制限用抵抗
28 磁界発生器
29 磁界発生器
30 パーティクル通過部
31 磁界発生器
32 磁界発生器
40 湾曲部
41 湾曲磁界発生器
50 パーティクル通過部
51 絞り磁界発生器
52 磁界発生器
53 磁界発生器
54 磁界発生器
60 成膜部
61 基板ホルダ
62 基板
63 薄膜
64 アルミ合金基板
65 Ni−Pメッキ層
66 Cr下地層
67 磁気記録層
68 フッ素系潤滑剤
70 T型フィルター部
71 防着板
72 回転軸
73 防着羽板
74 ブラスト処理面
81 防着板
82 回転軸
83 防着羽板
84 ブラスト処理面
85 防着板
86 回転軸
87 防着羽板
88 ブラスト処理面
89 端面
91 防着板
92 回転軸
93 防着羽板
94 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク放電により、ターゲットからターゲット材料を蒸発させ、基板上に堆積させる成膜装置において、前記ターゲットからのパーティクルを捕獲する防着板のパーティクル付着面を大気解放することなく取り替える付着面取替機構を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
上記防着板における上記パーティクル付着面が複数存在することを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
上記防着板の表面にブラスト処理を施したブラスト処理面を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
上記防着板の表面にリブを設置することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
アーク放電により、ターゲットからターゲット材料を蒸発させ、基板上に堆積させる成膜方法において、予め実験的に定めた所定稼働時間毎に前記ターゲットからのパーティクルを捕獲する防着板のパーティクル付着面を大気解放することなく取り替えることを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−202072(P2008−202072A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37339(P2007−37339)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】