説明

成膜装置

【課題】光量を高めた特殊な光源や感度の高い特殊な検出器を用いることなく、成膜される光学薄膜の膜厚を、高い精度で計測する光学式膜厚モニターを備えた成膜装置を得ることである。
【解決手段】モニター基板と、真空チャンバーの外に設置され、透明窓を介してモニター基板にモニター光を投射する発光手段と、モニター基板から反射され、真空チャンバーの外に導出されるモニター光を受光する受光手段と、受光手段で計測したモニター光の強度変化から、被成膜部材に形成される薄膜の膜厚を算出する手段とを有する光学式膜厚モニターを備えた成膜装置であって、モニター基板が、平面に半導体でなる膜厚が100nm未満の第1の薄膜を備えているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の成膜装置に関し、特に光学式膜厚モニターを有する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやミラー等の光学部品には、その透過率や反射率を向上させたり、時には偏光を制御したりするため、表面に光学薄膜が設けられる。このような光学薄膜の例として、眼鏡レンズのARコートが挙げられる。
光学薄膜が設けられた光学部品の特性は、光学薄膜の膜厚が大きく影響するので、光学薄膜形成時に、その膜厚を所望の厚さに制御することが重要であり、膜厚制御には、成膜時の膜厚の計測が不可欠である。
【0003】
光学薄膜の成膜手段の1つとして真空蒸着があり、真空蒸着装置による成膜における膜厚計測手段には、様々なものが提案されている。
例えば、真空蒸着装置内に膜厚監視用基板(モニターガラス)を設置し、成膜時に膜厚監視用基板に形成される蒸着膜の膜厚増加に伴う、膜厚監視用基板の反射率もしくは透過率の変化から膜厚を計測する手段がある。
【0004】
この膜厚計測手段は、膜厚監視用基板に形成される薄膜の光学厚みの増加に対応して、膜厚監視用基板の反射率もしくは透過率が、計測に用いられる光(計測光と記す)の波長λの1/4、すなわちλ/4の整数倍の光学厚みの位置において極限値を持った周期性の曲線を画くことを利用したものであり、反射率もしくは透過率の極限値Aと、所定の膜厚の反射率もしくは透過率と極限値Aとの差B、との比B/Aから求めるものである(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の膜厚計測手段では、計測光の波長に対して、膜厚監視用基板の屈折率と形成する光学薄膜との屈折率が近い場合、反射率もしくは透過率の周期変化に対応して、検出される反射光もしくは透過光の強弱変化の振幅が小さくなり、膜厚の計測が困難になるとの問題があった。
このような問題を解決する膜厚計測手段として、あらかじめ金属膜が設けられ複素屈折率を、光学薄膜の屈折率より、相当大きくしたガラス基板を膜厚監視用基板に用いた光学式膜厚モニターがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭57−024485号公報(第2頁、第3図)
【特許文献2】特開平01−178807号公報(第2頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
膜厚監視用基板を用いて形成される光学薄膜の厚みを計測するには、計測光が光学薄膜を透過または反射する必要がある。
特許文献2に記載の光学式膜厚モニターの膜厚監視用基板では、計測光は、ガラス基板に設けられた金属膜を通過した後、成膜対象である光学薄膜を透過または反射する。
一般に、金属に電磁波である光が入ると、金属中に振動電界が生じ、自由電子の移動を生じる。そうすると、金属中に電気分極が発生し、金属中に進入しようとする光は光自身の持つ電界とは逆向きの電界により遮蔽されることになる。
【0008】
そのため、特許文献2に記載の金属膜が設けられたガラス基板でなる膜厚監視用基板では、金属膜により計測光が遮蔽され、光学薄膜を透過または反射した計測光の強度が低下する。特に、必要な複素屈折率を得る厚みの金属膜を設けた膜厚監視用基板では、膜厚計測手段である光学式膜厚モニターに一般的に使用されているハロゲンランプの光を、ほぼ100%(>99.9%)吸収し、透過性が失われる。
すなわち、特許文献2に記載の膜厚監視用基板を用いた光学式膜厚モニターでは、光量を高めた特殊な光源や感度の高い特殊な検出器を用いる必要があるとの問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、光量を高めた特殊な光源や感度の高い特殊な検出器を用いることなく、成膜される光学薄膜の膜厚を、高い精度で計測する光学式膜厚モニターを備えた成膜装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係わる第1の成膜装置は、真空チャンバー内における被成膜部材の設置部の近傍に配設したモニター基板と、真空チャンバーの外に設置され、真空チャンバーに設けられた透明窓を介してモニター基板にモニター光を投射する発光手段と、モニター基板から反射され、且つ透明窓を介して真空チャンバーの外に導出されるモニター光を受光する受光手段と、受光手段で計測したモニター光の強度変化から、被成膜部材に形成される薄膜の膜厚を算出する手段とを有する光学式膜厚モニターを備えた成膜装置であって、モニター基板が、少なくとも一方の平面に、半導体でなる膜厚が100nm未満の第1の薄膜を備えているものである。
【0011】
本発明に係わる第2の成膜装置は、真空チャンバー内における被成膜部材の設置部の近傍に配設したモニター基板と、真空チャンバーの外に設置され、真空チャンバーに設けられた一方の透明窓を介してモニター基板にモニター光を投射する発光手段と、モニター基板を透過し、且つ真空チャンバーに設けられた他方の透明窓を介して真空チャンバーの外に導出されるモニター光を受光する受光手段と、受光手段で計測したモニター光の強度変化から、被成膜部材に形成される薄膜の膜厚を算出する手段とを有する光学式膜厚モニターを備えた成膜装置であって、モニター基板が、少なくとも一方の平面に、半導体でなる膜厚が100nm未満の第1の薄膜を備えているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係わる第1の成膜装置は、真空チャンバー内における被成膜部材の設置部の近傍に配設したモニター基板と、真空チャンバーの外に設置され、真空チャンバーに設けられた透明窓を介してモニター基板にモニター光を投射する発光手段と、モニター基板から反射され、且つ透明窓を介して真空チャンバーの外に導出されるモニター光を受光する受光手段と、受光手段で計測したモニター光の強度変化から、被成膜部材に形成される薄膜の膜厚を算出する手段とを有する光学式膜厚モニターを備えた成膜装置であって、モニター基板が、少なくとも一方の平面に、半導体でなる膜厚が100nm未満の第1の薄膜を備えているものであり、モニター基板の、反射率の変化が大きく、モニター光の減衰も小さいので、光量を高めた特殊な光源や感度の高い特殊な検出器を用いることなく、成膜される光学薄膜の膜厚を、高い精度で計測でき制御できる。
【0013】
本発明に係わる第2の成膜装置は、真空チャンバー内における被成膜部材の設置部の近傍に配設したモニター基板と、真空チャンバーの外に設置され、真空チャンバーに設けられた一方の透明窓を介してモニター基板にモニター光を投射する発光手段と、モニター基板を透過し、且つ真空チャンバーに設けられた他方の透明窓を介して真空チャンバーの外に導出されるモニター光を受光する受光手段と、受光手段で計測したモニター光の強度変化から、被成膜部材に形成される薄膜の膜厚を算出する手段とを有する光学式膜厚モニターを備えた成膜装置であって、モニター基板が、少なくとも一方の平面に、半導体でなる膜厚が100nm未満の第1の薄膜を備えているものであり、モニター基板の、透過率の変化が大きく、モニター光の減衰も小さいので、光量を高めた特殊な光源や感度の高い特殊な検出器を用いることなく、成膜される光学薄膜の膜厚を、高い精度で計測でき制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係わる成膜装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係わる成膜装置に用いられるモニター基板の側面断面模式図である。
【図3】透明基板に形成される光学薄膜の膜厚と、光学薄膜が形成された透明基板の反射率との関係を示す模式図である。
【図4】YF膜を基板加熱なしで成膜した場合の、比較例1のモニター基板を用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
【図5】YF膜を基板温度125℃で成膜した場合の、比較例1のモニター基板を用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
【図6】YbF膜を基板加熱なしで成膜した場合の、比較例1のモニター基板を用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
【図7】YbF膜を基板温度125℃で成膜した場合の、比較例1のモニター基板を用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
【図8】第1の薄膜として膜厚が200nmの金属膜を形成したガラス基板の反射率と透過率との特性を示す図である。
【図9】第1の薄膜としてGe膜を形成した白板ガラス基板の透過率特性を示す図である。
【図10】第1の薄膜としてSi膜を形成した白板ガラス基板の透過率特性を示す図である。
【図11】第1の薄膜として膜厚が200nmの化合物半導体膜を形成したガラス基板における、反射率特性と透過率特性とを示す図である。
【図12】実施例1の、第1の薄膜として膜厚が50nmのGe膜を形成したモニターガラスをモニター基板に用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係わる成膜装置の構成を示す模式図である。
図1に示す本実施の形態の成膜装置100は、光学薄膜作成に最も一般的に用いられる真空蒸着装置をベースとした構成例である。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態の成膜装置100は、真空槽(真空チャンバーと記す)1を備えており、真空チャンバー1内の下方には、蒸着材料を入れるハースライナー(坩堝と記す)3が設置され、坩堝3の近傍には、電子ビーム16を放出する電子銃(EB銃と記す)2が配設され、坩堝3の一方の横には、EB銃2から放出される電子ビーム16を遮蔽するシャッターが配設されている。シャッターは、電子ビーム16を遮蔽するシャッター本体5と、シャッター本体5を保持し、且つ真空チャンバー1の底部に回転可能に設置されたシャッター軸4とで形成されている。
【0017】
また、真空チャンバー1内の上方には、基板等の光学薄膜が成膜される部材(被成膜部材と記す)7を保持する基板ドーム6が、坩堝3に対向して設置され、基板ドーム6の略中心の位置には、形成される薄膜の膜厚を求めるのに用いられるモニター基板10が配設されている。
また、モニター基板10は、モニター基板保持具9で保持され、モニター基板保持具9のモニター基板10を保持する端部の反対側の端部が、モニター基板保持具回転機構8と結合している。
また、真空チャンバー1におけるモニター基板10の直上の天井部には、透明窓11が設けられている。
【0018】
また、真空チャンバー1外における透明窓11の上部に、反射ミラー15が設置されており、モニター光18を一方の反射ミラー15aに投射できる位置に発光手段12が設置され、他方の反射ミラー15bで反射されたモニター光18を受光できる位置に受光手段13が配置されている。
すなわち、モニター基板10と発光手段12と反射ミラー15と透明窓11と受光手段13とで、反射型光学式膜厚モニターが形成されている。
また、受光手段13で検出した膜厚信号を入力し、シャッターを制御する膜厚制御手段14も、設けられている。
【0019】
図2は、本発明の実施の形態1に係わる成膜装置に用いられるモニター基板の側面断面模式図である。
図2に示すように、本実施の形態のモニター基板10は、モニター基板本体21とモニター基板本体21の平面に形成された膜厚100nm未満の膜(第1の薄膜と記す)22とで形成されている。
本実施の形態では、第1の薄膜は半導体で形成されており、半導体には、例えば、Ge、Si等の単独元素の半導体、ZnSe、ZnS等の化合物半導体、あるいは、これらの半導体の内の少なくとも2種類からなる複合物が用いられる。
【0020】
本実施の形態の成膜装置100で光学薄膜を形成する工程について説明する。
まず、真空チャンバー1の内部にセットした坩堝3に、所定の蒸着材料を供給するとともに、基板ドーム6の坩堝3と対向する面に、被成膜部材7(例えば成膜前のレンズやミラー)をセットする。
次に、真空チャンバー1を、真空ポンプ(図示せず)によって真空排気し、所定の真空度に到達した後、EB銃2の電源(図示せず)をONにして電子ビーム16を放出する。
【0021】
次に、電子ビーム16を、偏向コイル(図示せず)によって180度もしくは270度偏向させ、坩堝3へと導き、坩堝3にセットされた蒸着材料を電子ビーム16により加熱することにより溶融状態にして、蒸発させる。
このような工程で、蒸発する蒸着物質17は坩堝上方へと飛び出し、基板ドーム6にセットされた被成膜部材7の表面に蒸着され、光学薄膜となる。
【0022】
次に、本実施の形態の成膜装置100における、蒸着された光学薄膜の膜厚を計測する機構と、計測された膜厚データに基づき光学薄膜の膜厚を制御する機構について説明する。
本実施の形態の成膜装置100では、蒸着工程において、蒸着物質17は、被成膜部材7の表面に蒸着され光学薄膜を形成するだけでなく、基板ドーム6の略中心の位置に設置されたモニター基板10の表面にも蒸着され、薄膜(第2の薄膜と記す)が形成される。
【0023】
また、モニター基板10には、真空チャンバー1の外部に設けられた発光手段12から放射されたモニター光18が、第1の反射ミラー15aと透明窓11とを介して、照射され、モニター基板10から反射された光が、透明窓11と第2の反射ミラー15bを介して受光手段13に入射される。
受光手段13に入射されるモニター光18の強度は、蒸着によりモニター基板10に第2の膜が形成され、その膜厚が増加すると、モニター基板10の反射率が変化するので、変化する。
【0024】
モニター光18が入射された受光手段13は、モニター光18の強度変化を計測するとともに、内装された、モニター光の強度変化信号から膜厚を求める手段で膜厚を求め、膜厚データ信号を膜厚制御手段14に入力する。膜厚制御手段14は、受光手段からの膜厚データ信号により、シャッター4を制御して、被成膜部材7に形成される光学薄膜の膜厚を制御する。
また、受光手段13が、モニター光18の強度変化を計測するとともに、強度変化信号を膜厚制御手段14に入力し、膜厚制御手段14が、受光手段からの強度変化信号により、蒸着された光学薄膜の膜厚を求めるとともに、膜厚データからシャッター4を制御して、被成膜部材7に形成される光学薄膜の膜厚を制御しても良い。
【0025】
次に、第2の膜の膜厚増加によるモニター基板10の反射率の変化に対応した、受光手段13で計測されたモニター光18の強度変化信号から、第2の膜の膜厚を求める手段について、説明する。
図3は、透明基板に形成される光学薄膜の膜厚と、光学薄膜が形成された透明基板の反射率との関係を示す模式図である。
図3において、横軸は光学薄膜の物理的厚さdと屈折率nとの積である光学膜厚ndであり、縦軸は光学薄膜が形成された透明基板の反射率Rである。
【0026】
図3に示すように、光学薄膜が形成された透明基板の反射率Rは、光学膜厚ndが、投射される光の波長λの1/4、すなわち、λ/4の周期で、極小となる谷(極小反射率Rminと記す)と極大となる山(極大反射率Rmaxと記す)とが交互に繰り返され、この透明基板からの反射光の強度が同様な周期で変化する。
【0027】
本実施の形態の光学式膜厚モニターの膜厚を算出する手段は、上記原理から、まず、受光手段13で、モニター光強度の繰返し数Cを求める。また。受光手段13で、モニター基板10の、極大反射率Rmaxと極小反射率Rminとの反射率の差Aに対応したモニター光強度の差信号(第1の差信号と記す)Saと、所定の膜厚Xの光学薄膜が形成されたモニター基板10の反射率Rxと極小反射率Rminとの反射率の差Bに対応したモニター光強度の差信号(第2の差信号と記す)Sbを求める。
そして、モニター光の波長λと、モニター光強度の繰返し数Cと、第2の差信号Saと第1の差信号Saとの比Sb/Saとから、光学膜厚ndを算出するものである。
【0028】
本実施の形態の反射型光学式膜厚モニターでは、モニター基板10から反射されたモニター光18を計測して、光学薄膜の膜厚を求めている。
しかし、モニター光の光路に蒸着物質が存在するので検出感度が多少低下するが、真空チャンバー1における、モニター基板10の直下の床部に、透明窓を設け、透明窓の外に受光手段を配置してモニター基板10を透過したモニター光を計測する、透過型光学式膜厚モニターであっても良い。
この場合は、図3に示す反射率と同様な変化をする、モニター基板10の透過率の変化から、光学薄膜の膜厚を求める。
【0029】
形成される蒸着物質膜の厚さ増加にともなう、モニター基板の反射率または透過率の変化によるモニター光の強度変化を計測して、形成される光学薄膜の厚さを求める光学式膜厚モニターを備えた成膜装置では、蒸着物質膜の形成によるモニター基板の、反射率または透過率の変化が小さいと、モニター基板による膜厚計測が困難となる。
しかし、本実施の形態の成膜装置の光学式膜厚モニターは、モニター基板に、第1の薄膜として膜厚100nm未満の半導体膜が前もって形成された基板が用いられており、モニター基板の複素屈折率と形成される光学薄膜の屈折率との差が大きく、蒸着物質膜の形成によるモニター基板の、反射率または透過率の変化が大きく、モニター光の減衰も小さいので、光量を高めた特殊な光源や感度の高い特殊な検出器を用いることなく、成膜される光学薄膜の膜厚を、高い精度で計測でき制御できる。
【0030】
すなわち、本実施の形態の成膜装置は、高精度で高感度な光学式膜厚モニターを備え、高度な膜厚制御を可能にする成膜装置である。
次に、本実施の形態の成膜装置の効果を、実施例と比較例とで説明する。
【0031】
比較例1.
比較例1は、モニター基板にガラス基板を用いた場合である。
表1に、ガラス基板と主な物質との屈折率およびガラス基板と主な物質との屈折率差を示す。
【0032】
【表1】

【0033】
各物質の屈折率は、波長に対して異なる、いわゆる波長分散特性を有しており、ガラス基板と成膜物質との屈折率差も波長により異なる。
表2に示すように、BaF、HfF、YF、YbF等のフッ化物は、ガラス基板との屈折率差が、特に小さく、これらの物質の成膜では、モニター基板の反射率または透過率の変化が小さく、正確な膜厚の計測ができない。
さらに、YbFでは、モニター光の波長が600nmの場合と1000nmの場合で、屈折率差の正負が逆転しており、波長600nm〜1000nmの間おいて、ガラス基板との屈折率差がゼロになる部分があることを示している。このような場合では。モニター基板からの反射光もしくは透過光の強度変化がゼロになるため、膜厚の計測ができなくなる。
【0034】
表1に示した各種物質の屈折率は一例であり、薄膜の場合、成膜条件や成膜装置に依存して屈折率が変動することが知られている。その理由は充填率と呼ばれる膜密度が成膜条件や成膜装置に依存して変動するためである。通常、薄膜はバルクの素材に比して、何らかの空隙を有し、充填率は100%以下であるが、この空隙には大気もしくは水分が入り込むため、その分、屈折率が変わることになる。
【0035】
真空蒸着を始めとする物理成膜においては膜密着性や結晶性の向上を目的として基板加熱が行われるが、物質によっては比較的低い温度で膜特性が大きく変わるものが存在する。例えば、基板加熱温度100℃〜200℃において、屈折率の波長分散特性等が大きく変化する物質がある。
【0036】
図4は、YF膜を基板加熱なしで成膜した場合の、比較例1のモニター基板を用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
図5は、YF膜を基板温度125℃で成膜した場合の、比較例1のモニター基板を用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
図4と図5とに示した測定例で用いられたモニター光の波長は1000nmである。
図4には、基板加熱なしで成膜した場合のモニター光の反射光量変化曲線31を示し、図5には、基板温度125℃で成膜した場合のモニター光の反射光量変化曲線32を示している。
図4と図5に示した反射光量の変化は、モニター基板の反射率の変化に対応している。
【0037】
図4に示す反射光量変化曲線31では、山ピークと谷ピークで20%程度の差異が認められた。
しかし、図5に示す反射光量変化曲線32では、山ピークと谷ピークで最大5%程度の差異は認められるが、成膜初期では反射光量の差異が2%程度しか得られておらず、モニター基板の反射率特性が非常に不安定であることを示している。
【0038】
図6は、YbF膜を基板加熱なしで成膜した場合の、比較例1のモニター基板を用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
図7は、YbF膜を基板温度125℃で成膜した場合の、比較例1のモニター基板を用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
図6と図7とに示した測定例で用いられたモニター光の波長は1800nmである。
図6には、基板加熱なしで成膜した場合のモニター光の反射光量変化曲線33を示し、図7には、基板温度125℃で成膜した場合のモニター光の反射光量変化曲線34を示している。
図6と図7に示した反射光量の変化は、モニター基板の反射率の変化に対応している。
【0039】
図6に示す反射光量変化曲線33では、山ピークと谷ピークで20%程度の差異が認められている。
しかし、図7に示す反射光量変化曲線34では、山ピークと谷ピークで最大1%程度の差異しか認められず、成膜初期では反射光量の増加が認められるなど、モニター基板の反射率特性が、非常に不安定であることを示している。
また、YbF膜の成膜において、基板加熱なしの場合は、反射光量変化曲線33から明らかなように、表1に示したガラス基板よりも屈折率が小さい状態が維持されているが、YbF膜の成膜において、基板温度が125℃の場合は、反射光量変化曲線34から明らかなように、成膜の初期においてはガラス基板よりも屈折率が大きくなっている。
【0040】
すなわち、本比較例のように、ガラス基板単体をモニター基板に用いた光学式膜厚モニターの場合は、ガラス基板と屈折率差が小さい物質の成膜では、モニター基板の反射率変化が小さく、且つ不安定であり、正確な膜厚を計測できず、安定した成膜制御を行うことは困難である。
【0041】
比較例2.
比較例2は、モニター基板に、第1の薄膜として金属膜を形成した、ガラス基板を用いる場合である。
図8は、第1の薄膜として膜厚が200nmの金属膜を形成したガラス基板の反射率と透過率との特性を示す図である。
図8において、左側の縦軸は反射率Rであり、右側の縦軸は透過率Tであり、横軸は波長λである。
本比較例の、膜厚が200nmの金属膜を形成したガラス基板の透過率は、反射型光学式膜厚モニターのモニターガラスに膜厚が100nmの金属膜を形成した場合の透過率に相当する。
図8には、ガラス基板にAg膜を形成した場合の、反射率の変化曲線41と透過率の変化曲線43、および、ガラス基板にAl膜を形成した場合の、反射率の変化曲線42と透過率の変化曲線44、を示している。
【0042】
図8から明らかなように、反射型光学式膜厚モニターにおけるモニターガラス上に100nm以上の膜厚を有する金属膜を設けると、通常、光学薄膜のモニター光として用いられる400nm〜2000nmの範囲の全ての波長において透過率は0.1%以下になる。
すなわち、比較例2のモニター基板において、100nm以上の膜厚を有する金属膜を設けると、通常の光源では光が遮断されるので、特殊な高輝度ランプを用いたり、感度の高い特殊な検出器を用いる必要があり、装置が高価になる。
また、通常、高輝度ランプを用いても、波長700nm以上では透過光量はほぼゼロであり、モニター光量の変化は検知不可能である。
【0043】
また、モニター基板の裏面ガラス面から、波長400〜2000nmの全範囲に渡って、ほぼ4%の反射光が生じており、モニター光の受光手段には常時4%の反射されたモニター光が入射する事になる。従って、モニター光のS/N比は<1/40であり、高輝度な光源を用いても反射光量の変化を正確にモニターすることは困難である。
【0044】
実施例1.
実施例1は、モニター基板に、第1の薄膜として単独元素の半導体膜を形成した、ガラス基板を用いる場合である。
図9は、第1の薄膜としてGe膜を形成した白板ガラス基板の透過率特性を示す図である。
図9において、縦軸は透過率Tであり、横軸は波長λである。
図9では、白板ガラス基板に、膜厚が1nm、3nm、5nm、10nm、20nm、40nm、100nm、200nmの、各Ge膜を設けた場合の透過率の変化曲線51,52,53,54,55,56,57,58を示している。
【0045】
図9から明らかなように、Ge膜を形成した白板ガラス基板をモニター基板に用いる場合、吸収を考慮して、100nm未満の膜厚のGe薄膜が設けられたものが使用可能であり、40nm未満の膜厚Ge薄膜が設けられたものは、モニター光の光量として、400nm以上の全波長でほぼ5%以上の透過率が確保されるので、好適である。
また、モニター光の波長1000nmと2000nmとにおけるGeの屈折率は、各々2.720、3.565であり、同波長のガラスの屈折率は、1.508、1.494であり、Geとガラスとの屈折率の差が大きいので、成膜時における、モニター基板としての反射率あるいは透過率の変化幅が大きく、正確に膜厚の計測ができ、蒸着膜の安定した制御を行うことができる。
【0046】
図10は、第1の薄膜としてSi膜を形成した白板ガラス基板の透過率特性を示す図である。
図10において、縦軸は透過率Tであり、横軸は波長λである。
図10では、白板ガラス基板に、膜厚が1nm、3nm、5nm、10nm、20nm、40nm、100nm、200nmの、各Si膜を設けた場合の透過率の変化曲線61,62,63,64,65,66,67,68を示している。
【0047】
図10から明らかなように、Si膜を形成した白板ガラス基板をモニター基板に用いる場合、吸収を考慮して、200nm未満の膜厚のSi薄膜が設けられたものが使用可能であり、100nm未満の膜厚Si薄膜が設けられたものは、モニター光の光量として400nm以上全波長でほぼ5%以上の透過率が確保されるので、好適である。
また、モニター光の波長1000nmと2000nmとにおけるSieの屈折率は、各々3.887、4.139であり、同波長のガラスの屈折率は、1.508、1.494であり、Siとガラスとの屈折率の差が大きいので、成膜時における、モニター基板としての反射率あるいは透過率の変化幅が大きく、正確に膜厚の計測ができ、蒸着膜の安定した制御を行うことができる。
【0048】
実施例2.
実施例2は、モニター基板に、第1の薄膜として化合物半導体膜が形成された、ガラス基板を用いる場合である。
図11は、第1の薄膜として膜厚が200nmの化合物半導体膜を形成したガラス基板における、反射率特性と透過率特性とを示す図である。
図11において、左側の縦軸は反射率Rであり、右側の縦軸は透過率Tであり、横軸は波長λである。
本実施例の、膜厚が200nmの化合物半導体膜を形成したガラス基板の透過率は、反射型光学式膜厚モニターのモニターガラスに膜厚が100nmの化合物半導体膜を形成した場合の透過率に相当する。
【0049】
図11には、ガラス基板にZnSe膜を形成した場合の、反射率の変化曲線71と透過率の変化曲線73、および、ガラス基板にZnS膜を形成した場合の、反射率の変化曲線72と透過率の変化曲線74、を示している。
【0050】
図11から明らかなように、反射型光学式膜厚モニターにおけるモニターガラス上に設けられた、ZnSe膜もしくはZnS膜の膜厚が100nm未満であると、光学薄膜のモニター光に用いられる400nm〜2000nmの範囲の全ての波長において概ね5%以上の透過率が得られる。
すなわち、反射型光学式膜厚モニターのモニターガラスに膜厚100nm未満の膜厚を有する化合物半導体であるZnSeもしくはZnSを形成した基板では、特殊な高輝度ランプや感度の高い特殊な検出器を用いることなく、安定的にモニター光量を得ることができ、精度の高い光学式膜厚モニターが安価に実現できる。
【0051】
実施例3.
図12は、実施例1の、第1の薄膜として膜厚が50nmのGe膜を形成したモニターガラスをモニター基板に用いた反射型光学式膜厚モニターでの測定例を示す図である。
図12には、第2の薄膜であるYbF膜を基板温度125℃で成膜した場合のモニター光の反射光量変化曲線81を示している。
図12に示した測定例で用いられたモニター光の波長は1000nmである。
図12に示した反射光量の変化は、モニター基板の反射率の変化に対応している。
図12から明らかなように、本実施例に用いたモニター基板は、ピークtoピークにて50%以上の反射率の差が得られ、本実施例のモニター基板を用いた光学式膜厚モニターは、光学薄膜の膜厚を正確に計測でき、蒸着される光学薄膜の安定した膜厚制御が可能となる。
【0052】
実施例4.
次に、ガラス基板との屈折率差が小さい物質の光学薄膜形成において、実施例1と実施例2と比較例2とにあるモニター基板、すなわち、異なる材料の第1の薄膜が形成された各ガラス基板が、光学式膜厚モニターで使用できるかどうかを検証した。
用いられるモニター基板は、第1の薄膜として、金属であるAg、Al、Cu、単独元素の半導体であるGe、Si、化合物半導体であるZnSe、ZnSの、いずれかの薄膜がガラス基板に形成されたものである。
検証に用いた、モニター光の波長は、波長400nm〜600nmの中間にある500nmと、波長600nm〜800nmの中間にある700nmと、波長800nm〜1000nmの中間にある900nmと、波長1000nm〜1200nmの中間にある1100nmと、波長1200nm〜2500nmの中間にある1800nmとの各波長である。
【0053】
表2に、膜厚300nmの第1の薄膜を形成した場合を示し、表3に、膜厚200nmの第1の薄膜を形成した場合を示し、表4に、膜厚150nmの第1の薄膜を形成した場合を示し、表5に、膜厚100nmの第1の薄膜を形成した場合を示し、表6に、膜厚50nmの第1の薄膜を形成した場合を示した。
各表において、○は安定に膜厚モニター可能であることを、△は膜厚モニター可能であるがやや不安定ではあることを、×は反射光がないか少ないために膜厚モニターが不可能であることを示している。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
表2〜表6に示すように、ガラス基板上に第1の薄膜として、100nm以上の金属膜を形成したモニター基板の場合は、膜による光吸収により、モニター基板からの反射光量にほとんど変化がなく、膜厚のモニターは不可能であった。
また、金属膜を形成したモニター基板の場合は、金属膜が50nm以下であっても、一部の波長域で何とか使用可能なレベルでしかない。
【0060】
また、表2〜表6に示すように、ガラス基板上に第1の薄膜として、単独元素の半導体であるGe、Siあるいは、化合物半導体であるZnSe、ZnSの、いずれかの薄膜を形成したモニター基板の場合は、第1の薄膜の膜厚が、200nmであると、GeやSiを第1の薄膜に用いたモニター基板は、一部波長域において適用不可となり、150nmであると、Geを第1の薄膜に用いたモニター基板は、一部波長域において適用不可となるが、かなりの波長域ではモニター可能である。
特に、単独元素の半導体あるいは化合物半導体でなる第1の薄膜の膜厚が100nm以下であるモニター基板は、検証に用いたモニター光の全ての波長域においてモニターが可能である。
【0061】
本発明にかかる光学式膜厚モニターを有する成膜装置は、光学式膜厚モニターに用いられたモニター基板が、ガラス基板に、膜厚100nm未満の、単独元素の半導体あるいは化合物半導体の薄膜が、第1の薄膜として形成されたものであり、ガラス基板と屈折率差の小さい物質の成膜においても、従来のモニター光源および検出器を用いることができ、成膜装置のコストを低減できる。なお、物理成膜装置である真空蒸着装置で制御可能な最小膜厚は電子銃上方のシャッター開閉動作にて決まり、発明者らの装置ではほぼ5nmであり、これが上記単独元素の半導体あるいは化合物半導体の薄膜の膜厚の下限と言える。
また、ガラス基板の有する屈折率に制限されることなく、様々な材料に対し、高精度な膜厚計測が可能であり、安定した膜厚制御を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係わる成膜装置は、光学式膜厚モニターが、ガラス基板と屈折率差の小さい物質の成膜においても、膜厚を高精度に検出できるので、光学薄膜を高精度で低コストに製造する場合に用いられる。
【符号の説明】
【0063】
1 真空チャンバー、2 EB銃、3 坩堝、4 シャッター軸、
5 シャッター本体、6 基板ドーム、7 被成膜部材、
8 モニター基板保持具回転機構、9 モニター基板保持具、10 モニター基板、
11 透明窓、12 発光手段、13 受光手段、14 膜厚制御手段、
15 反射ミラー、15a 一方の反射ミラー、15b 他方の反射ミラー、
16 電子ビーム、17 蒸着物質、18 モニター光、21 モニター基板本体、
22 第1の薄膜、100 成膜装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内における被成膜部材の設置部の近傍に配設したモニター基板と、上記真空チャンバーの外に設置され、上記真空チャンバーに設けられた透明窓を介して上記モニター基板にモニター光を投射する発光手段と、上記モニター基板から反射され、且つ上記透明窓を介して上記真空チャンバーの外に導出されるモニター光を受光する受光手段と、上記受光手段で計測した上記モニター光の強度変化から、上記被成膜部材に形成される薄膜の膜厚を算出する手段とを有する光学式膜厚モニターを備えた成膜装置であって、
上記モニター基板が、少なくとも一方の平面に、半導体でなる膜厚が100nm未満の第1の薄膜を備えている成膜装置。
【請求項2】
真空チャンバー内における被成膜部材の設置部の近傍に配設したモニター基板と、上記真空チャンバーの外に設置され、上記真空チャンバーに設けられた一方の透明窓を介して上記モニター基板にモニター光を投射する発光手段と、上記モニター基板を透過し、且つ上記真空チャンバーに設けられた他方の透明窓を介して上記真空チャンバーの外に導出されるモニター光を受光する受光手段と、上記受光手段で計測した上記モニター光の強度変化から、上記被成膜部材に形成される薄膜の膜厚を算出する手段とを有する光学式膜厚モニターを備えた成膜装置であって、
上記モニター基板が、少なくとも一方の平面に、半導体でなる膜厚が100nm未満の第1の薄膜を備えている成膜装置。
【請求項3】
上記第1の薄膜を形成する半導体が、Ge、Si、ZnSe、ZnS、または、これらの半導体の内の少なくとも2種類からなる複合物のいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
上記第1の薄膜の膜厚が50nm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−219281(P2012−219281A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82827(P2011−82827)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】