説明

扉パネルとその製造方法

【課題】 裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部が端部に形成された透明な基材の裏面に沿わせて加飾シートを確実に貼着させ、複雑な化粧を前面外観に現出させるようにした扉パネルと、その製造方法を提供する。
【解決手段】 ラミネート処理空間6に基材2と加飾シート3とを配置したときに、対向される基材2の屈曲部4の裏面と加飾シート3のシート面の周縁3a近傍の表面との間に熱溶着シート25を介在し、その上で、真空ラミネート装置5に設けた加熱手段26によって熱溶着シート25を加熱して基材2の屈曲部4の凹状の裏面に沿わせて充填するように軟化させ、ラミネート処理空間6で真空ラミネート処理を行って、加飾シート3を上記熱溶着シート25を介して基材2の裏面に沿わせて貼着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉パネルと、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シンク21や加熱調理器22を設けたキッチンキャビネット20の前面部には、たとえば特許文献1にあるように、使用者が膝を適度に曲げた自然な立ち姿勢で快適な台所作業を行えるよう、前面部の上部を残して後方に凹没させたような逃げスペース23を設けることが提案されている(図3参照)。キッチンキャビネット20の前面部には、キッチンキャビネット内部の収納空間24を開閉する扉パネル1が備えられているが、上記のように逃げスペース23を設ける場合、扉パネル1の前面部にはその上部域を残して逃げスペース23を形成するべく後方へ引き込む引き込み部11が設けられることになる。つまり、扉パネル1の上部域には引き込み部11が形成された部位と比べて前方に突出する前方突出部が形成されるのである。
【0003】
ところで、台所作業は鍋などの調理具や水や油を扱うことから、キッチンキャビネット20の前面に露出する扉パネル1の表面には、水や油分の付着や調理具を誤ってぶつけてしまったりすることへの耐久性も必要となるため、扉パネル1の表面(基材2の表面)に化粧層9を形成するのではなくて、透明樹脂で構成した基材2の裏面に化粧層9を設けて基材2を通して化粧層9を外観に現出させることが好ましい。この透明樹脂で構成する基材2は射出成形などにより成形されるのであるが、射出後のひけなどの製造不良を回避するべく基材2の厚み寸法は略均一に形成される。しかして、扉パネル1に上記のように引き込み部11や前方突出部を設ける場合には、その基材2には端部2a(上端域)に前方突出部として、裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部4が形成されることとなる(図4参照)。
【0004】
ここで、扉パネル1には通常、外観を高めるために着色したり等の化粧付けが行なわれるのであって、扉パネル1への化粧付けは基材2に塗料を塗布して化粧層9を形成することで行われるのが一般的であるが、特に模様や図柄などの複雑な化粧付けをする場合には、模様を印刷して成るような加飾シート3を基材2に貼着して化粧層9を形成することが行われる(たとえば特許文献2参照)。基材2への加飾シート3の貼着は、真空ラミネート装置5のラミネート処理空間6に基材2と加飾シート3とを対向してセットし、ラミネート処理空間6で真空ラミネート処理を行って基材2に沿わせて加飾シート3を貼着するといった真空ラミネート製法を用いて行われる。
【0005】
この真空ラミネート製法にあって、平板状の基材2に対して加飾シート3を貼着させることは、特許文献2にあるように仕上がり良く行わせることが可能である。しかしながら、上述したように裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部4が端部2aに形成された透明な基材2の裏面に対して加飾シート3の貼着を行う場合には、屈曲部4の凹状の裏面に沿って局所的に延伸するように変形した加飾シート3が貼着されることとなるが、屈曲部4の凹状の裏面に沿うことができるほどに加飾シート3の変形量が得られなくて、加飾シート3を屈曲部4の凹状の裏面に沿って貼着できなかったり、一旦貼着されても変形した加飾シート3が元の形状に戻ろうとする力(以下、復元力という)によって加飾シート3が屈曲部4の凹状の裏面から剥がれてしまったりと、製品不良を生じる恐れがある。
【0006】
殊に、図6のように、真空ラミネート装置5に保持されて変形余地の少ない加飾シート3のシート面の周縁3aに対応して屈曲部4が位置するように基材2がラミネート処理空間6に配置された場合には、変形余地の少ない加飾シート3のシート面の周縁3aが基材2の端部2aの屈曲部4の凹状の裏面に沿って貼着されることが極めて困難であると共に、屈曲部4の凹状の裏面に加飾シート3が貼着されても加飾シート3は無理に延伸された状態となっているため、加飾シート3に生ずる復元力が大きく、これによって加飾シート3が屈曲部4の凹状の裏面から剥がれてしまう恐れも高く、つまり製造不良発生の恐れが高いものであった。
【0007】
すなわち、現状では、この裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部4が一方の端部2aに形成された透明な基材2にあって、その裏面に化粧層9を形成させるには、塗料を塗布することが行なわれているに過ぎない。つまり、上記基材2の裏面に貼着させた加飾シート3にて化粧層9を確実に形成させて、加飾シート3の模様や図柄などの複雑な化粧を前面外観に現出させることは実現されていないのが、現状であった。
【特許文献1】特開2006−122565号公報
【特許文献2】特開平11−207877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部が端部に形成された透明な基材の裏面に沿わせて加飾シートを確実に貼着させ、複雑な化粧を前面外観に現出させるようにした扉パネルと、その製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に係る扉パネルにあっては、裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部4を端部2aに形成した透明な基材2を有し、この基材2の屈曲部4の凹状の裏面に熱溶着シート25を沿わせて充填し、模様を施した加飾シート3を上記熱溶着シート25を介して基材2の裏面に沿わせて貼着して成ることを特徴とする。
【0010】
これによると、基材2の屈曲部4の凹状の裏面に沿わせて充填した熱溶着シート25によって、加飾シート3の貼着面となる基材2の屈曲部4を含めた裏面の全体形状を平らな状態に近づけるようにできるのであり、つまり、上記熱溶着シート25を介することで基材2の屈曲部4の裏面に真空ラミネート製法で貼着させる際の加飾シート3の延伸変形を小さくすることができるのであって、加飾シート3を基材2の屈曲部4を含む裏面に沿わせて貼着し易くできると共に、基材貼着後の加飾シート3に生ずる復元力も抑制することができて基材2の裏面に沿わせて加飾シート3を確実に貼着させ続けることができたものであり、加飾シート3に施された複雑な化粧を透明な基材2を通して扉パネル1の前面外観に現出させるようにできる。
【0011】
また請求項2に係る扉パネルの製造方法にあっては、模様を施した加飾シート3をそのシート面の周縁3bを真空ラミネート装置5に保持させて真空ラミネート装置5のラミネート処理空間6に配置すると共に、裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部4が端部2aに形成されて成る扉パネル1の透明な基材2をその裏面が上記加飾シート3の表面に対向するようにラミネート処理空間6に配置し、このとき対向される基材2の屈曲部4の裏面と加飾シート3のシート面の周縁3a近傍の表面との間に熱溶着シート25を介在し、その上で、真空ラミネート装置5に設けた加熱手段26によって熱溶着シート25を加熱して基材2の屈曲部4の凹状の裏面に沿わせて充填するように軟化させ、ラミネート処理空間6で真空ラミネート処置を行って、加飾シート3を上記熱溶着シート25を介して基材2の裏面に沿わせて貼着することを特徴とする。
【0012】
これによると、真空ラミネート装置5に設けた加熱手段26によって熱溶着シート25を加熱して軟化させることで、熱溶着シート25を基材2の屈曲部4の凹状の裏面に沿わせて充填できるのであり、つまり、この基材2の屈曲部4の凹状の裏面に沿わせて充填した熱溶着シート25によって加飾シート3の貼着面となる基材2の屈曲部4を含めた裏面の全体形状を平らな状態に近づけるようにできるのであるから、ラミネート処理空間6で真空ラミネート処置を行うことによって加飾シート3を熱溶着シート25を介して基材2の裏面に沿って貼着させる際には、加飾シート3の延伸変形量を抑制することができるのであり、これによって加飾シート3を基材2の屈曲部4を含む裏面に沿わせて貼着し易くできると共に、基材貼着後の加飾シート3に生ずる復元力も抑制することができて基材2の裏面に沿わせて加飾シート3を確実に貼着させ続けることができるのである。つまり、請求項1の扉パネル1を真空ラミネート製法で製造性良く製造することができたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明にあっては、裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部が端部に形成された透明な基材の裏面に沿わせて加飾シートを確実に貼着させ、複雑な化粧を扉パネルの前面外観に現出させるようにできる、という利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。本例の扉パネル1は、図3のようにキッチンキャビネット20の前面に開閉自在に配置されるキッチンキャビネット用の扉パネル1である。このキッチンキャビネット20の前面部には、使用者が膝を適度に曲げた自然な立ち姿勢で快適な台所作業を行えるよう、前面部の上部を残して後方に凹没させたような逃げスペース23が設けられており、本例の扉パネル1の前面部にはその上部域を残して逃げスペース23を形成するべく後方へ引き込む引き込み部11が設けられている。
【0015】
具体的に、本例の扉パネル1は、図3(c)のように、基材2の裏側に隙間を介して裏板7を取り付け、上記隙間に芯材8を充填させて形成される。たとえば裏板7にはABS樹脂が用いられ、芯材8には発泡ウレタン樹脂が用いられる。また、基材2はアクリル樹脂などの透明樹脂で構成された射出成形品であり、詳しくは図2のように扉の前面部となる縦壁部12の周縁から後方へ向けてフランジ壁部13を突出させたような容器形状に形成されている。なお、上面のフランジ壁部13の幅方向の中央部分には切欠14が形成されている。
【0016】
叙述のように本例の扉パネル1の前面部にはその上部域を残して逃げスペース23を形成するべく後方へ引き込む引き込み部11が設けられている。扉パネル1の基材2にあっては、図2のように、引き込み部11を構成しない基材2の上部域に対応するように、裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部4が形成されており、また、引き込み部11を構成する部位は、上記屈曲部4に比べて裏方に位置するような平面状に形成されている。つまり、基材2は屈曲部4が一方の端部2a(上部域)にのみ形成された形状に形成されている。詳しくは、本例の屈曲部4は、基材2の縦壁部12がその引き込み部11からなだらかに前方に突出していくように屈曲すると共に、縦壁部12の最前方位置から基材2の上面のフランジ壁部13が後方に突出するようにして形成されており、縦壁部12とフランジ壁部13との裏面側の為す角が鋭角状に形成されている。つまり、裏面側から見て凹状の屈曲部4は基材2の上端にその最深部を有する形状に形成されている。
【0017】
また、扉パネル1の前面部を構成する基材2にはその幅方向の中央部分に扉パネル1を把持する把持部19が形成されている。具体的に、この把持部19は、縦壁部12における屈曲部4の一部を平板状の引き込み部11が上方に連続するように掘り込ませて成る掘込凹所15にて構成されている。換言すると、この掘込凹所15は基材2を裏面側から見た場合には屈曲部4の凹状の裏面から裏方に突出する部位として形成されている。そして詳しくは、掘込凹所15の上面部分には開口16が穿設されている。この開口16は扉パネル1の製品出荷時には図示はしないが指引っ掛け用の金具が取り付けられて閉塞される。
【0018】
本例の扉パネル1は、図1(a)のように、透明な基材2の裏面に化粧層9が形成されており、化粧層9の化粧が透明な基材2を通して扉パネル1の前面(すなわちキッチンキャビネット20の前面)に現出するようにされている。台所作業は鍋などの調理具や水や油を扱うことから、キッチンキャビネット20の前面に露出する扉パネル1の前面には水や油分の付着や調理具を誤ってぶつけてしまったりする恐れもあるが、上述のように化粧層9は扉パネル1の前面に露出するものではなく扉パネル1の前面は基材2の表面が構成するのであるから、化粧層9の保護が図られている。
【0019】
ここで、本例の化粧層9は、従来製造上の困難さから採用が見送られていた、任意の模様や図柄等が印刷されて成る加飾シート3によって、形成されている。つまり、従来、基材2が上述のように一方の端部2a(上部域)に屈曲部4を形成したものである場合、屈曲部4を含む基材2の裏面に沿って加飾シート3を確実に貼着することは製造上困難であったが、本例では上記製造上の困難さを克服することができたため、一方の端部2a(上部域)にのみ屈曲部4を形成した基材2の裏面に加飾シート3による化粧層9を形成することができたものである。以下、図2に基づきその製造方法を詳述する。
【0020】
本例の扉パネル1の製造方法(基材2への加飾シート3の貼着方法)は、従来のように真空ラミネート製法を採用されているが、基材2の屈曲部4の凹状の裏面に沿わせて充填した熱溶着シート25を介して、基材2の屈曲部4を含む裏面に沿わせて加飾シート3を貼着することに大きな特徴を有する。
【0021】
ここで、真空ラミネート装置5は接離自在にされた一対の合わせ筐体10,10(上筐体10aと下筐体10b)を有し、上筐体10a及び下筐体10bの各合わせ面には周縁部の加飾シート押え部17を残して開口18が形成されており、上筐体10aと下筐体10bとが各合わせ面同士で合致されたときに上筐体10aの内部空間と下筐体10bの内部空間とで構成される閉空間状のラミネート処理空間6が形成されるようになっている。このラミネート処理空間6は、従来例と同様、基材2が1つのみ配置できる大きさの空間に形成されている。また、本例で用いる加飾シート3は、図1(b)のように、PET(ポリエチレンテレフタレート)製の保護層30の表面側にアクリルウレタン系印刷インクで印刷した加飾層31を積層すると共に、この加飾層31の表面側にアクリル系粘着材で構成された粘着層32を積層することで、構成されている。
【0022】
また、それぞれの合わせ筐体10には図示はしないが吸引装置に接続された吸気孔が形成されており、一方の内部空間(本例では下筐体10bの内部空間)に基材2がセット(配置)される。また、加飾シート3のラミネート処理空間6への配置は、一対の合わせ筐体10を合致させた際に接合される各加飾シート押え部17にて加飾シート3の周縁3aが挟持されることで行われる。上述のようにラミネート処理空間6に基材2、加飾シート3を配置した状態では、従来同様、基材2はその裏面が加飾シート3の表面(粘着層32)に対向すると共に、真空ラミネート装置5に保持されて変形余地の少ない加飾シート3のシート面の周縁3aに対応して基材2の屈曲部4が位置している。
【0023】
ここで、上記のように基材2や加飾シート3をラミネート処理空間6内に配置した状態では、ラミネート処理空間6内が加飾シート3で分離されることとなり、加飾シート3で分離された一方のラミネート処理空間6内に一対の基材2が配置されることとなる。説明の便宜上、加飾シート3で分離されたラミネート処理空間6のうち、基材2が配置されることとなる空間(本例では下筐体10bの内部空間)を基材配置側空間6aと称し、他方の空間(本例では上筐体10aの内部空間)を非基材配置側空間6bと称する。なお、内部空間が非基材配置側空間6bとなる一方の合わせ筐体10(本例では上筐体10a)における開口18の上方位置の上面部分にはヒータで成る加熱手段26が設けられている。
【0024】
本例の扉パネル1の製造方法としては、上述のようにラミネート処理空間6に基材2や加飾シート3を配置すると共に、図2(a)や図4のように、基材2における屈曲部4の裏面側の凹状部分に熱溶着シート25を配置する。そして、作動させた加熱手段26によって熱溶着シート25を加熱、軟化させる。ここで、熱溶着シート25は、加飾シート3よりも融点の低い透明な不織布状のシートであり、加熱手段26により加熱された場合には加飾シート3よりも低い温度で軟化、溶融する。次いで、図2(b)のように、ラミネート処理空間6で真空ラミネート処理を行って、上記熱溶着シート25を介して加飾シート3を一対の基材2の裏面に沿わせて貼着させるのである。具体的に、上記真空ラミネート処理は、吸引装置を作動させてそれぞれ吸気口から吸気をすることでラミネート処理空間6(基材配置側空間6a及び非基材配置側空間6b)を真空引きし、次いで非基材配置側空間6bの吸気口に接続された吸引装置を開放状態にしたり、吸気口から非基材配置側空間6bに給気を行う等して、非基材配置側空間6bを加圧し、非基材配置側空間6bと基材配置側空間6aとの間に圧力差を生じさせる、という要領で行われる。
【0025】
上記真空ラミネート処理によると、加飾シート3が基材2の裏面に圧着するようになるが、このとき上記軟化して溶融した熱溶着シート25は、基材2の裏面に圧着する加飾シート3に挟まれることも相俟って、基材2の屈曲部4の凹状の裏面に沿って充填されるようになる。なお、加飾シート3は、加熱手段26により加熱されて多少軟化するのであって、詳しくは、上記真空ラミネート処理の際には、基材2の裏面形状にその形状を合わせるように弾性的に延伸変形をし、基材2の裏面に沿わせて貼着される。
【0026】
ここで、従来技術の項でも説明したが、加飾シート3が貼着される基材2の裏面形状に屈曲部4のような凹状部位が存在すると、加飾シート3は上記凹状部位の対応部位において延伸変形の度合いを大きくしないと上記凹状部位に沿って貼着できない不具合もあり、また、延伸変形の度合いを大きくして上記凹状部位に沿って加飾シート3が貼着されたとしても、延伸変形した加飾シート3が元の形状に戻ろうとする力(以下、復元力という)によって一旦貼着された上記凹状部位から加飾シート3が剥がれるという不具合の発生の恐れもある。このように屈曲部4を有した基材2の裏面に沿わせて加飾シート3を確実に貼着するのは容易なことではない。しかも、本例のように基材2の端部2aに屈曲部4が形成され、ラミネート処理空間6に基材2を配置した際に、真空ラミネート装置5に保持されて変形余地の少ない加飾シート3のシート面の周縁3aに上記屈曲部4が対応して位置する場合には、変形余地の少ない加飾シート3のシート面の周縁3aを屈曲部4の凹状の裏面に沿わせるように無理に延伸変形させる必要があって、上記不具合発生の恐れが高い。
【0027】
しかしながら、本例の扉パネル1の製造方法にあっては、上述のように基材2の屈曲部4の凹状の裏面に沿わせて充填した熱溶着シート25を介して、基材2の屈曲部4を含む裏面に沿わせて加飾シート3を貼着させていることで、これら不具合の発生を回避している。つまり、基材2の屈曲部4の凹状の裏面に沿わせて充填した熱溶着シート25によると、加飾シート3の貼着面となる基材2の屈曲部4を含めた裏面の全体形状を平らな状態に近づけるようにできるのであるから、ラミネート処理空間6で真空ラミネート処理を行うことによって加飾シート3を熱溶着シート25を介して基材2の裏面に沿って貼着させる際には、加飾シート3の延伸変形量を抑制することができるのである。これによって、たとえ変形余地の少ない加飾シート3のシート面の周縁3aを基材2の屈曲部4の裏面に沿わせる必要がある場合も、加飾シート3を基材2の屈曲部4を含む裏面に沿わせて貼着し易くできるのであり、また、基材貼着後の加飾シート3に生じる復元力も抑制することができるから、基材2の裏面に沿わせて加飾シート3を確実に貼着させ続けることも可能にされているのである。
【0028】
また詳しくは、屈曲部4の凹状の裏面に沿わせるべく延伸した加飾シート3は延伸した分だけその粘着層32も薄くなって粘着層32自身の基材2への接着強度も弱くなるが、屈曲部4の凹状の裏面に充填した熱溶着シート25は基材2と加飾シート3とを貼着させるので、この熱溶着シート25は加飾シート3の延伸部分の接着強度を補うようにも機能するのであり、加飾シート3の基材2への良好な接着強度も確保できるという利点も有している。
【0029】
このような製造方法が採用されたことで、図1(a)のように裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部4が端部2aに形成された透明な基材2の裏面に沿わせて加飾シート3を確実に貼着させることができたものであり、加飾シート3に施された模様や図柄などの複雑な化粧を前面外観に現出させ得る扉パネル1を得ることができたのである。
【0030】
なお、基材2は下筐体10bに備えた配置台(図示せず)上に載せることで下筐体10b内に配置されるのであるが、この配置台にその上下位置を移動可能にする移動手段を備えることも好ましい。移動手段によって基材2を載せた配置台が上下位置を変化させると、基材2の屈曲部4の裏面の凹状部分に配置された熱溶着シート25と加熱手段26との距離を変化させることができるのであり、加熱手段26による熱溶着シート25への加熱の強弱を調整することができる。たとえば、熱溶着シート25や加飾シート3は、基材2に形成した屈曲部4の裏面の凹形状状の深さに応じて、その厚み寸法や材質を異ならせたりと、適宜変更がなされる。これに伴って、加熱手段26による熱溶着シート25への加熱の強弱に変更が必要になるのであるが、上記のように配置台の移動手段によって熱溶着シート25と加熱手段26との距離が変化可能にされていれば、上記加熱手段26による熱溶着シート25への加熱の強弱変更に容易に対応することができる。
【0031】
また、扉パネル1の製造過程において、図5のように、ラミネート処理空間6に配置した加飾シート3における基材2の屈曲部4に沿わせる部分の表面部位にあらかじめ熱溶着シート25を貼着させておくことで、熱溶着シート25を基材2の屈曲部4の凹状の裏面と加飾シート3の表面との間に介装させるようにしても好ましい。これによると、熱溶着シート25と加熱手段26との距離を小さくできて、加熱手段26による熱溶着シート25への加熱効率を向上できる。また、化粧を施した熱溶着シート25を用いることも好ましく、これによると、熱溶着シート25の化粧を加飾シート3の化粧に重ねて前面外観に現出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態の他例における扉パネルを示し、(a)は扉パネルの側断面図であり、(b)は要部の拡大断面図である。
【図2】(a)(b)は同上の扉パネルの製造方法を順に説明する側断面図である。
【図3】同上の扉パネルを使用したキッチンキャビネットの例であり、(a)はキッチンキャビネットの斜視図であり、(b)はキッチンキャビネットの側面図であり、(c)は扉パネルの概略断面図である。
【図4】同上の加飾シートの貼着前の扉パネルにおける分解斜視図である。
【図5】(a)(b)は本発明の実施の形態の他例における扉パネルの製造方法を順に説明する側断面図である。
【図6】従来技術の例の扉パネルの製造過程の側断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 扉パネル
2 基材
2a 端部
3 加飾シート
3a 周縁
4 屈曲部
5 真空ラミネート装置
6 ラミネート処理空間
9 化粧層
25 熱溶着シート
26 加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部を端部に形成した透明な基材を有し、この基材の屈曲部の凹状の裏面に熱溶着シートを沿わせて充填し、模様を施した加飾シートを上記熱溶着シートを介して基材の裏面に沿わせて貼着して成ることを特徴とする扉パネル。
【請求項2】
模様を施した加飾シートをそのシート面の周縁を真空ラミネート装置に保持させて真空ラミネート装置のラミネート処理空間に配置すると共に、裏面側から凹没して表面側に突出する屈曲部が端部に形成されて成る扉パネルの透明な基材をその裏面が上記加飾シートの表面に対向するようにラミネート処理空間に配置し、このとき対向される基材の屈曲部の裏面と加飾シートのシート面の周縁近傍の表面との間に熱溶着シートを介在し、その上で、真空ラミネート装置に設けた加熱手段によって熱溶着シートを加熱して基材の屈曲部の凹状の裏面に沿わせて充填するように軟化させ、ラミネート処理空間で真空ラミネート処置を行って、加飾シートを上記熱溶着シートを介して基材の裏面に沿わせて貼着することを特徴とする扉パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−80581(P2008−80581A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261495(P2006−261495)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】