説明

投写光学系及び画像投写装置

【課題】小さなスローレシオを備え、簡単且つコンパクトな構成を備える投射光学系及びこの投射光学系を備えた画像投写装置を提供する。
【解決手段】スクリーン90側から、非球面ミラー80、スクリーン側に凸で非球面の凹メニスカスレンズである凹メニスカスレンズ60、光軸を90度屈曲する反射鏡70、スクリーン側に凸で非球面の凹メニスカスレンズである凹メニスカスレンズ50、画像形成素子側に凸の凸メニスカスレンズである凸メニスカスレンズ40、中間投写投写レンズ系30を備える。前記凸メニスカスレンズ40と、凹メニスカスレンズ50とは各レンズの相対位置を不変として全体として光軸に沿って移動可能であり光画像のスクリーンへの合焦を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は投写光学系及び画像投写装置に係り、特にスクリーンに短焦点距離で光画像を投写する投写光学系及び画像投写装置及び画像投写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、短焦点距離の画像投写装置に用いられる投写光学系には種々のものが提案されてきた。例えば、特許文献1には、非球面ミラーに斜め方向から拡大投写する画像投写装置が開示され(同文献中図1参照)、この画像投射装置では非球面ミラーから順に第1レンズに、スクリーン側に凸で非球面の凹メニスカスレンズが用いられているものが記載されている(同文献図17、同図24参照)。
【0003】
また、特許文献2には、非球面ミラー近傍に、2枚の非球面レンズを配置して、DMDなどから導光された画像を反射ミラーで折り返し、前記2枚の非球面レンズを介して、ミラーで反射し、更に非球面ミラーで反射して、スクリーンに画像を投影する超短焦点距離画像投写装置が記載されている(同文献Fig.5a参照)。
【0004】
また、例えば特許文献3には、スクリーンから非球面ミラーまでの光軸上の距離をDとし、スクリーン上の光軸から測って最大の有効領域までの光軸からの距離をYとすると、Y/Dが2.5以上であることが好ましく、この構成によれば、筐体の奥行きを薄くできる超短焦点距離画像投写装置が記載されている(同文献段落番号0012参照)。
【0005】
ここで、一般に短焦点距離の画像投射装置とは、投射光学系の投写距離(L)を投写するスクリーンの横幅の値(W)で割ったおよその値L/W(スローレシオ:throw ratio)が小さい、例えば2未満のものをいい、スローレシオが小さいほど、近距離から大画面の投写ができるようになる。一般の画像投写装置は、標準的にはスローレシオが概ね2以上であり、スローレシオが2未満である場合において、短焦点、超短焦点の境界は明確ではない。短焦点距離の画像投射装置としては、現在例えば80型の画像を約100cm、約46cm各距離(本体からスクリーン面まで)から投写できるものがある。なお、特許文献3段落番号0054には、Y/D(Y:、スクリーン上の光軸から測って最大の有効領域までの光軸からの距離、D:スクリーンから非球面ミラーまでを光軸上の距離)の値を指標とし、この値が2.5以上とすると、プロジェクションテレビの筐体の奥行きを薄くできると記載されている。この指標は前記スローレシオの定義とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2005−106560号公報
【特許文献2】アメリカ特許公開第2008−239251号公報
【特許文献3】特開2007−17707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の非球面ミラーを用いた短焦点距離画像投写装置における投写光学系では、非球面ミラーと、その非球面ミラーに最も近い非球面レンズとの間の距離を充分小さくすることができず、非球面ミラーからスクリーンまでの距離をある程度設ける必要があり、結果的に光学系が後方に飛び出してしまうことになり、光学系を収納する筐体を薄くすることができなかった。また、短焦点距離画像投写装置として小さなスローレシオを有するものもあるが、複数枚のミラーを用いる等光学系が複雑となってしまうという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は小さなスローレシオを備え、簡単且つコンパクトな構成を備える投射光学系及びこの投射光学系を備えた画像投写装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、非球面ミラーを備え、画像形成素子からの光画像をスクリーンに投写する投写光学系において、前記非球面ミラーを最もスクリーン側に配置すると共に、該非球面ミラー近接した側から、スクリーン側に凸で非球面の凹メニスカスレンズである第1レンズ、スクリーン側に凸で非球面の凹メニスカスレンズである第2レンズ、画像形成素子側に凸の凸メニスカスレンズである第3レンズ、を配置したことを特徴とする投写光学系である。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1記載の投射光学系において、前記第2レンズと、前記第3レンズとは各レンズの相対位置を不変として全体として光軸に沿って移動可能に構成され、光画像のスクリーンへの合焦を行うことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2記載の投射光学系において、光路に光束を折曲する反射鏡を備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項3記載の投射光学系において、前記反射鏡は、前記第1レンズと第2レンズとの間に配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか記載の投写光学系において、前記非球面ミラーと第1レンズまでの距離を35mm以下とし、かつ前記非球面ミラーから前記スクリーンまでの距離を300mm以下としたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれか記載の投写光学系を備え、光画像を短焦点距離でスクリーンに投写することを特徴とする画像投写装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単且つコンパクトな構成で非球面ミラーと非球面ミラーに最も近いレンズまでの距離、及び非球面ミラーからスクリーンまでの距離を短くでき、また、レンズ系を全体として非球面ミラー側に詰めるように配置できるので、投写光学系を収納する筐体も極めて薄くすることができる。さらに、反射鏡を備えたものにあっては、縮小側の投写光学系が装置筐体の後方に飛び出さないので、光学系を配置する筐体を薄型でスマートなものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例に係る投写光学系の構成及び光路を示す図である。
【図2】実施例に係る投写光学系の構成及び光路を示す図である。
【図3】実施例に係る投写光学系のMTF特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る投写光学系は、画像形成素子からの光画像をスクリーンに投写するものであり、スクリーン側から、非球面ミラー、スクリーン側に凸で非球面の凹メニスカスレンズである第1レンズ、スクリーン側に凸で非球面の凹メニスカスレンズである第2レンズ、画像形成素子側に凸の凸メニスカスレンズである第3レンズを備える。また、前記第3レンズと画像形成素子との間には、複数枚のレンズを配置した中間投写レンズ系を備える。更に、前記第2レンズと、前記第3レンズとは各レンズの相対位置を不変として全体として光軸に沿って移動可能に構成され、光画像のスクリーンへの合焦を行う。また、第1レンズと第2レンズとの間の光路に光束を折曲する反射鏡を備えている。そして、前記非球面ミラーと第1レンズまでの距離を35mm以下とし、かつ前記非球面ミラーから前記スクリーンまでの距離を300mm以下としている。また、本発明に係る画像投写装置は、前記投写光学系を備え、画像形成素子に表示された画像を短焦点でスクリーンに投写する。
【実施例】
【0018】
以下実施例に係る投写光学系について説明する。図1及び図2は実施例に係る投写光学系の構成及び光路を示す図である。本発明に係る投写光学系100は、図示外の画像形成素子の光画像を非球面ミラー80を介してスクリーン90に結像する。投写光学系100は、カバーグラス10と、プリズム20と、中間投写投写レンズ系30と、画像形成素子側に凸の凸メニスカスレンズ40(第3レンズ)と、凹メニスカスレンズ50(第2レンズ)と、凹メニスカスレンズ60(第1レンズ)と、反射鏡70と、非球面ミラー80とを備える。反射鏡70は、凹メニスカスレンズ50と、凹メニスカスレンズ60との間に配置され光軸を90度折曲している。なお、図2では反射鏡70は表示されていない。
【0019】
以下投写光学系100の具体的構成について説明する。画像形成素子としては、例えばDMD(Digital Micromirror Device)、あるいは、1板(R(赤色)G(緑色)B(青色)又は白色のいずれかの一色)のLCOS、あるいは、3板(R(赤色)G(緑色)B(青色)の三原色)のLCOS、ライトバルブ、LED、LD(レーザ光))を用いることができる。これらはプリズム20で合成されカラー画像となる。
【0020】
カバーグラス10はガラス製の平板である。プリズム20は各色画像の合成等に使用されるものである。中間投写投写レンズ系30は、それぞれ所定のパワーを持つ7枚のレンズ31〜37からなり、各レンズ31〜37はガラスで構成される。
【0021】
凸メニスカスレンズ40は、ガラス製であり、両面とも画像形成素子側に凸であり、全体として正のパワーを持つ。凹メニスカスレンズ50は、両面ともスクリーン側に凸であり、全体として負のパワーを持つ非球面レンズである。凹メニスカスレンズ60は、両面ともスクリーン側に凸であり、全体として負のパワーを持つ非球面レンズである。凹メニスカスレンズ60は、スクリーン側に、大きく湾曲した面形状を有する。材質はプラスチックである。拡大側(スクリーン側)に尖った凸形状にした特徴的な形状を有している。なお、凹メニスカスレンズ50及び凹メニスカスレンズ60のアッベ数及び屈折率は同じ値としている。
【0022】
また、本実施例では、凸メニスカスレンズ40と、凹メニスカスレンズ50とはその相対位置を固定すると共に、両レンズ40,50を光軸に沿って移動できるようになっている(図1及び図2中矢印A)。この構成により、本例では、両レンズを、スクリーンでの画像の合焦ができるようにしている。これは、投写光学系100を備えた画像投写装置でスクリーンに画像を表示する際、設置したスクリーンの投写像の合焦のため使用される。
【0023】
非球面ミラー80は、プラスチックなどの樹脂に、金、銀、アルミニウムなどの金属を成膜し形成したものである。なお、成膜方法は、真空蒸着、スパッタリング法、浸漬法、スピン法などの方法が用いられる。
【0024】
本例に係る投写光学系100のレンズデータを以下に示す。
面番号 曲率半径 面間隔 屈折率(nd) アッベ数(νd)
s1 0.2
s2 ∞ 3 1.487 70.41
s3 2.3
s4 ∞ 24 1.516 64.14
s5 4
s6 206.4629 7.53 1.516 64.14
s7 -39.5988 0.2
s8 51.9972 7.51 1.487 70.24
s9 -69.6916 2.85
s10 34.605 6.53 1.497 81.55
s11 -85.4752 1.8 1.847 23.78
s12 2563.715 1.15
s13 -76.284 1.8 1.801 34.97
s14 423.9876 14.18
s15 1.00E+18 20.4
s16 -16.6996 5.56 1.762 26.52
s17 -22.9031 9.94
s18 430.0663 11.05 1.516 64.14
s19 -50.4892 19.25
s20 43.9263 9.7 1.487 70.24
s21 41.2985 36.2
s22* -17.7562 6 1.531 56.044
s23* -19.2709 177
s24* -8.59744 6 1.531 56.044
s25* -16.1746 23
s26* 52.34972 0*非球面ミラー
s27 260
*第22面〜第25面は、非球面である。
*第26面、第27面は、非球面ミラーである。
【0025】
ここで、第22面〜第25面は、非球面であり、第26面、第27面は、非球面ミラーである。
【0026】
第22面ないし第26面の非球面データを以下に示す。
第22面非球面データ
コーニック係数 4次係数 6次係数 8次係数 10次係数 12次係数
-1.991549 -4.95E-07 4.27E-09 -1.04E-11 7.82E-15 -1.93E-18

第23面非球面データ
コーニック係数 4次係数 6次係数 8次係数 10次係数 12次係数
-0.981786 1.44E-05 -4.46E-09 -3.54E-12 4.05E-15 -9.99E-19

第24面非球面データ
コーニック係数 4次係数 6次係数 8次係数 10次係数 12次係数
-1.7
-3.90E-06
2.56E-09 -8.12E-13 1.25E-16 -7.27E-21

第25面非球面データ
コーニック係数 4次係数 6次係数 8次係数 10次係数 12次係数
-2.483559
-4.39E-06
2.07E-09 -4.73E-13 5.34E-17 -2.34E-21

第26面非球面データ
コーニック係数 4次係数 6次係数 8次係数 10次係数 12次係数
-2.653232
-1.16E-07 9.70E-12 -4.64E-16 1.21E-20 -1.32E-25
【0027】
次に実施例に係る投写光学系100の性能について説明する。図3は実施例に係る投写光学系のMTF曲線を示すグラフである。MTF曲線(Modulation Transfer Function曲線)は、レンズ性能を評価する指標のひとつであり、レンズの結像性能を知るために、画像形成素子の持つコントラストをどの程度忠実に再現できるかを空間周波数特性として表現したものである。図3中の各曲線は、理論限界値、画像形成素子の光軸を含む対角線上での距離0%(光軸)、50%、70%、90%、100%の位置における白色光の値を示している。この例では、スクリーン位置(0.000)及びその前後において略0.6以上の値となり、良好な画像を得ることができることがわかる。
【0028】
本発明に係る投写光学系では、非球面ミラーと非球面ミラーに最も近いレンズである凹メニスカスレンズ(第1レンズ)までの距離を35mm以下、20〜30mm程度とでき、かつ非球面ミラーからスクリーンまでの距離を300mm以下、250〜280mm程度とすることができる。そして、本実施例に係る投写光学系100では、非球面ミラー80と非球面ミラー80に最も近い凹メニスカスレンズ60までの距離は、レンズデータのS25の面間隔に示すように、23mmとし、かつ非球面ミラー80からスクリーン90までの距離を同S27の面間隔に示すように260mmとした。これにより、実施例に係る画像投写装置では、0.6インチの画像形成素子の画像を非球面ミラーから250mmないし280mmの焦点距離で投写し、スクリーンに80インチないし120インチの光画像を投写することができる。また、画像形成素子の大きさは1/2インチから1インチ程度のものを使用することができ、これによりスクリーンでの投写像は40インチから200インチとすることができる。
【0029】
以上説明したように、本発明に係る画像投写装置によれば、非球面ミラーとその非球面ミラーに最も近いレンズまでの距離、及び非球面ミラーからスクリーンまでの距離を最短にすることができ、装置全体をコンパクトかつ小形にすることができ、また、レンズ系を全体として非球面ミラー側に詰めるように配置できるので、投写光学系を収納する筐体も極めて薄くすることができる。さらに、反射鏡を備えたものにあっては、縮小側の投写光学系が装置筐体の後方に飛び出さないので、光学系を配置する筐体を薄型でスマートなものとできる。
【0030】
なお、本発明に係る投写光学系は、短焦点距離画像投写装置に用いられているが、用途は、これに限定されず、背面投写型(リアプロジェクション)テレビ、モバイルパソコン、車載用プロジェクタ、会議用プロジェクタ、家庭用プロジェクタなどに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 カバーグラス
20 プリズム
30 中間投写投写レンズ系
31〜37 レンズ
40 凸メニスカスレンズ(第3レンズ)
50 凹メニスカスレンズ(第2レンズ)
60 凹メニスカスレンズ(第1レンズ)
70 反射鏡
80 非球面ミラー
90 スクリーン
100 投写光学系


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非球面ミラーを備え、画像形成素子からの光画像をスクリーンに投写する投写光学系において、
前記非球面ミラーを最もスクリーン側に配置すると共に、該非球面ミラー近接した側から、スクリーン側に凸で非球面の凹メニスカスレンズである第1レンズ、スクリーン側に凸で非球面の凹メニスカスレンズである第2レンズ、画像形成素子側に凸の凸メニスカスレンズである第3レンズ、を配置したことを特徴とする投写光学系。
【請求項2】
前記第2レンズと、前記第3レンズとは各レンズの相対位置を不変として全体として光軸に沿って移動可能に構成され、光画像のスクリーンへの合焦を行うことを特徴とする請求項1記載の投射光学系。
【請求項3】
光路に光束を折曲する反射鏡を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の投射光学系。
【請求項4】
前記反射鏡は、前記第1レンズと第2レンズとの間に配置されていることを特徴とする請求項3記載の投射光学系。
【請求項5】
前記非球面ミラーと第1レンズまでの距離を35mm以下とし、かつ前記非球面ミラーから前記スクリーンまでの距離を300mm以下としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の投写光学系。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の投写光学系を備え、光画像を短焦点距離でスクリーンに投写することを特徴とする画像投写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−204328(P2010−204328A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48845(P2009−48845)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】