説明

抗炎症剤、保湿剤、皮膚化粧料及び洗浄剤

【課題】
安全性の高い天然物の中から、抗炎症作用或いは保湿作用を有するものを見出し、それを化粧品及び洗浄剤分野に欠かせない成分であるグリセリンと組み合わせた組成物を活性成分として含有する抗炎症剤及び保湿剤として利用することは、社会の為にも非常に有意義であると考え、これを提供することを目的とする。
【解決手段】
抗炎症剤、保湿剤、皮膚化粧料及び洗浄剤にイノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年化粧品分野に欠かせない基本の原料であるグリセリンと安全性の高いイノシトールを組み合わせた組成物を活性成分として含有する抗炎症剤、保湿剤及び当該組成物を配合した皮膚化粧料及び洗浄剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮、真皮、皮下脂肪組織の3層からなる。表皮及び真皮は、表皮細胞、繊維芽細胞及びこれらの細胞の外にあり、皮膚構造を支持するコラーゲンやエラスチン等の細胞外マトリックスにより構成される。さらに、表皮は、外側から、角質層、顆粒層、有棘層、基底層という4つの細胞層に分かれる。角質層は皮膚の最表面に存在しており、みずみずしい肌を守るための強力なバリアーとしての役割を果たしている。角質層に存在する大部分の細胞は、基底層から分化した角化細胞である。通常、角化細胞は基底層で生産された細胞が有棘層、顆粒層をへて角質層の細胞に分化しながら移動して角質細胞となり、最終的に垢となって脱落していく。脱落するまでのサイクル(角化)は、4週間の周期で繰り返している。
【0003】
外気の乾燥や低温、室内の暖房による乾燥、過度の皮膚洗浄剤使用等の外的因子の影響があったり、さらに年齢的な加齢が進んだりすると、皮膚の乾燥を引き起こす。皮膚が乾燥すると、真皮の線維芽細胞が破壊され、保水能力が落ち、角質から水分が蒸発する。理想的な角質の水分量は10〜20%であるが、乾燥すると10%以下になる。その結果、角質の異常は、皮膚の老化の原因となる、くすみ、色素沈着、たるみ、シワや肌荒れ等の皮膚トラブルを起こしやすくする。乾燥回避として、皮膚への水分補給は、外側から補うだけなので根本的な解決にはならない。よって、保湿成分を配合した皮膚化粧料により、角化細胞の増殖を促進し、皮膚の角化を回復させることで、角質層をうるおし、補った水分が逃げないようにする。その結果、皮膚の乾燥及びシワ、くすみや色素沈着等の皮膚の老化を改善できるものと考えられる。このような考えに基づき、角質層改善剤として、3−メチルシクロペンタデカノン及びローズ精油(特許文献1参照)や表皮角化細胞増殖促進剤としハス胚芽抽出物(特許文献2参照)等が知られている。しかし、動物由来であることや皮膚化粧料の基本原料との相乗効果を得ることはできないため、より安全で顕著な保湿成分が望まれていた。
【特許文献1】特開2006−045105号広報
【特許文献2】特開2002−068993号広報
【0004】
現在市販されている洗浄剤(歯磨き粉、シャンプー、髭剃りクリーム、洗車用洗剤、食器用洗剤等)には、合成化学物質であるラウリル硫酸ナトリウム(SLS)が、値段が安く、少量でよく泡立つのでたいていの製品に使用されている。それは極めて小さい分子量の物質であり、肌に浸透して血液で運ばれ、内蔵に蓄積されて体に悪影響(毛髪の発育障害、白内障、癌等)をおよぼす。さらに、皮脂を取り除くため、皮膚に炎症を起こす事等をほとんどの消費者は認識していない。よって、SLSに対する抗炎症剤も開発されていない。
【0005】
長年にわたり、イノシトールは、医薬品目的、さらに化粧品目的で使用されている。近年、新規または異なる作用スペクトルを見出す研究が進められており、イノシトールの化粧作用が調べられている。元々、化粧品分野では、あまり重要でないと考えられ、価値があまり知られていなかったイノシトールが、現在では、広く使用されてきている。
一方、グリセリンは、今日では医薬品や食品、化粧品分野に欠かせない成分となっている。
【0006】
現在、化粧品原料は、その特長により様々な種類があり、種々の組合せにより効能・効果の優れた製品が生まれている。近年では,それらに関する情報がメーカーから消費者にアピールされることにより,消費者は、さらなる性能スペクトルを示す製品への要求が増えてきている。その中でも、年々、乾燥肌の割合が多くなってきていることや製品の皮膚刺激に対する消費者の関心の高まりとともに、これらの問題に対して、より刺激が少なくかつ活性の高い成分が特に望まれている。さらに、消費者は、天然物の使用も要求している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて、消費者の要求を満たした安全性の高いイノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物を活性成分として含有する抗炎症剤、保湿剤及び当該組成物を配合した皮膚化粧料、洗浄剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる皮膚化粧料及び洗浄剤は、このような目的を達成するために、イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物を活性成分として含有する抗炎症剤、保湿剤を配合する構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物を活性成分として含有する抗炎症剤、保湿剤及び当該組成物を配合した皮膚化粧料及び洗浄剤を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について説明する。本発明の抗炎症剤、保湿剤及び当該組成物を配合した皮膚化粧料、洗浄剤は、イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物を活性成分として含有する。
【0011】
化粧品原料として、イノシトールは、保湿剤、肌荒れ防止剤として、グリセリンは、保湿剤として使用されている。
【0012】
本出願人は、イノシトールの抗炎症性及び保湿性が、グリセリンと組み合わさることにより、さらに効果が上がることを発見した。さらに、本出願人は、イノシトールとグリセリンの組合せが、これら物質が単独の場合に示す抗炎症性及び保湿性の単純な合計よりも大いなる抗炎症作用及び保湿作用を示すことを実証することができた。
【0013】
上記イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物は、皮膚に適用した場合の抗炎症性及び保湿性の効果、使用感と安全性に優れているため、皮膚化粧料及び洗浄剤に配合するための組成物である。上記イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物を皮膚化粧料及び洗浄剤に配合することによって、皮膚化粧料及び洗浄剤に抗炎症作用及び保湿作用を付与することが出来る。
【0014】
上記イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物を配合し得る皮膚化粧料及び洗浄剤の剤形は、特に限定されず、例えば、スプレー、分散液、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、リップ、入浴剤、シャンプー、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディーシャンプー、台所洗剤、ファンデーション、洗顔料、ゲル、ムース等種々の剤形とすることができる。
【0015】
本発明において上記イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物を皮膚化粧料及び洗浄剤に配合する場合、その配合量は、当然であるが、求めている効果に依存し、当該組合せが求める効果、皮膚化粧料及び洗浄剤の種類等によって適宜調整することができるが、抗炎症作用及び保湿作用を示すことを確実にするために有効な量であるべきである。本発明の組成物の好適な配合率の目安は、約0.0001〜10重量%で、イノシトールとグリセリンの配合比は、約10:1〜0.1:1である。すなわち、グリセリンに対しておよそ1/10〜10倍量のイノシトールの添加が、抗炎症作用及び保湿作用の効果を相乗的に発揮させる。
【0016】
本発明の皮膚化粧料及び洗浄剤は、イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物が有する抗炎症作用及び保湿作用を妨げない限り、通常の皮膚化粧料及び洗浄剤を問わず皮膚及び洗浄に適用される製剤の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、pH調整剤、防腐剤、色素、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を必要に応じて適宜併用することにより調整される。このように併用することにより、より一般性のある商品となり、また、それにより、併用された他の活性成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすこともある。
【0017】
なお、本発明の抗炎症剤、保湿剤又は皮膚化粧料、洗浄剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が発揮される限り、ヒト以外の動物に対して適用することも出来る。
【0018】
イノシトールとグリセリンは、その種類、起原は問われない。
実施例
【0019】
次の試験例は、本発明の範囲を詳細に説明するが、本発明は以下に記載された各例に何ら制限されないのは言うまでもない。
【0020】
[試験例1]保湿作用試験
イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物について、以下のようにして保湿作用を試験した。
【0021】
絶乾状態(105℃×30分)後の試料をそれぞれ1gずつビーカーに採り、温度23℃、湿度65%のデシケーター中に1週間放置し、毎日秤量し、下記の式により、吸水量を算出した。
【0022】
吸水量(%)=測定値(g)−試験開始前ビーカー重量(g)/試料採取量(g)×100
*試験開始前ビーカー重量:試料の重量を含む
【0023】
[図1]
【0024】
図1に示すように、折れ線グラフで上に凸な様子、つまりイノシトールとグリセリンを組み合わせることで、相乗効果により優れた保湿作用を有することが確認された。
【0025】
[試験例2]抗炎症作用試験
イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物について、以下のようにして抗炎症作用を試験した。
【0026】
正常ケラチノサイト(NHEK(F))を、正常表皮角化細胞用培地(HuMedia−KG2)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1×10cells/mLの細胞密度になるようにHuMedia−KG2で希釈した後、24ウエルプレートに1ウエルあたり1mLずつ播種し、3日培養した。
【0027】
培養終了後、培地を抜き、終濃度0.005%の皮膚刺激性物質(SLS)を添加した後、HuMedia−KG2で試料を溶解した試料溶液(試料濃度:4%イノシトール+1%グリセリン、5%イノシトール、5%グリセリン)を各ウエルに1mLずつ添加し、24時間培養した。培養終了後、反応混合液を各ウエル500μLずつ添加した。30分間室温で培養した後に、各ウエルの培養上清中の乳酸脱水酵素(LDH)活性を細胞内に生成した赤色ホルマザンを波長500nmにおける吸光度を測定することで、測定した。同時に濁度として波長630nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもって赤色ホルマザン生成量とした。同様に、試料溶液を添加せずに培養した培養上清中のLDH活性(低コントロール)とTriton−Xを添加して培養した培養上清中のLDH活性(高コントロール)についても測定した。測定された各吸光度から、下記の式により、試料溶液添加時の細胞障害率を算出した。
【0028】
細胞障害率(%)=実測値―低コントロール/高コントロールー低コントロール×100
上記試験の結果を、図2に示す。
【0029】
[図2]
【0030】
図2に示すように、イノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物は、優れた抗炎症作用を有することが確認された。
【実施例1】
【0031】
次に、本発明を例証する皮膚化粧料の処方例を示すが、本発明はこれに限定されるものでないのは言うまでもない。
化粧水 (重量%)
a)イノシトール 0.7
b)グリセリン 1.0
c)POEソルビタンモノステアリン酸エステル 1.5
d)エタノール 0.1
e)ヒアルロン酸 0.01
f)香料 0.1
g)防腐剤・酸化防止剤 適量
h)精製水 全体を100%にする量
製法 成分a)、b)、c)、e)、h)を混合溶解する。d)、f)、g)を混合溶解し、前記の混合物と混合して均一にし、化粧水を得た。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明を例証する洗浄剤の処方例を示すが、本発明はこれに限定されるものでないのは言うまでもない。
洗顔剤
a)グリチルレチン酸ステアリル 0.2
b)イノシトール 4.5
c)グリセリン 0.5
d)セルロース 0.15
e)ミリスチン酸 1.0
f)ラウリル硫酸ナトリウム 0.12
g)タルク 5.0
h)香料 0.25
i)防腐剤 0.4
製法 すべての成分を混合溶解し、分散させ均一にし、洗顔剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のイノシトールとグリセリンを組み合わせた組成物は、抗炎症剤及び保湿剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】イノシトールとグリセリン混合による吸水量の結果を示すグラフである。
【図2】イノシトールとグリセリン混合による抗炎症試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノシトールとデキストリンを組み合わせた組成物を活性成分として含有することを特徴とする抗炎症剤である。
【請求項2】
イノシトールとデキストリンを組み合わせた組成物を活性成分として含有することを特徴とする保湿剤である。
【請求項3】
イノシトールとデキストリンを組み合わせた組成物を活性成分として含有することを特徴とする皮膚化粧料である。
【請求項4】
イノシトールとデキストリンを組み合わせた組成物を活性成分として含有することを特徴とする洗浄剤である。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−239533(P2008−239533A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80919(P2007−80919)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(591066362)築野食品工業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】